説明

導電性熱伝導材

【課題】 基材が液状タイプの熱硬化性ゲル材からなり、しかも、良好な熱伝導性及び導電性を呈する導電性熱伝導材の提供。
【解決手段】 アクリルゲル1にニッケルコートグラファイト5とニッケル7のみを含有させた場合は、シートの成形時にそれらのフィラーが沈殿するが、水酸化マグネシウム3を合わせて含有させることにより、フィラー(ニッケルコートグラファイト5,ニッケル7)の沈殿が抑制できることが分かった。このように本実施例のシートでは、フィラーが基材中に良好に分散するため、導電性熱伝導材の上下間で導電性や熱伝導性の差異が小さく、シートに加工した場合の引き裂き強度を維持したまま多量のフィラーを充填することができ、延いては、良好な熱伝導性及び導電性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に熱伝導性及び導電性を有するフィラーを含有させた導電性熱伝導材に関し、詳しくは、基材が液状タイプの熱硬化性ゲル材からなる導電性熱伝導材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ミラブルタイプのシリコーンゴムからなる基材に熱伝導フィラーを充填し、混練・成形してなる熱伝導材が考えられている。この種の熱伝導材は、電気・電子装置の内部において、例えば、発熱源となる電子部品と、放熱板や筐体パネル等といったヒートシンクとなる部品(以下、単にヒートシンクという)との間に介在させるように配置して使用される。このように熱伝導材を配置した場合、電子部品等が発生する熱をヒートシンク側へ良好に逃がすことができる。このため、この種の熱伝導材は、例えばCPUの高速化等のために不可欠な素材として注目を集めている。
【0003】
また、上記熱伝導フィラーとして導電性を有するものを使用して、熱伝導材に導電性を付与することも考えられている。この場合、上記電子部品等の一部を接地して、ノイズの除去を図ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3686649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ミラブルタイプのシリコーンゴムを基材として使用した場合、一般的に柔軟性が劣り、また、粘着性が必要な場合は後から粘着剤を塗布するなどして粘着性を付与する必要がある。一方、アクリルゲルなどの液状タイプの熱硬化性ゲル材からなる基材を使用すれば、比較的良好な柔軟性と粘着性が得られるが、成形時にフィラーの沈殿が生じる。フィラーが沈殿すると、得られたシートの上下間で導電性や熱伝導性の差異が生じる他、フィラーの充填性が低下し、多量のフィラーを充填しようとするとシートの引き裂き強度が低下する。
【0005】
フィラーとして、ガラスビーズ等の表面に金属をコートした軽量フィラーを使用すれば、フィラーの沈殿を抑制することができるが、この場合、フィラーが中空のためその熱伝導性が低下してしまう。そこで、本発明は、基材が液状タイプの熱硬化性ゲル材からなり、しかも、良好な熱伝導性及び導電性を呈する導電性熱伝導材の提供を目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達するためになされた本発明は、液状タイプの熱硬化性ゲル材からなる基材に、熱伝導性及び導電性を有するフィラーと、水酸化マグネシウムと、を含有させたことを特徴とする導電性熱伝導材を要旨としている。
【0007】
本願出願人は、液状タイプの熱硬化性ゲル材に各種フィラーを含有させて導電性熱伝導材を製造する実験を繰り返した結果、熱伝導性及び導電性を有するフィラーと共に水酸化マグネシウムを含有させると、フィラーの沈殿を抑制できることを発見した。この理由は不明であるが、良好な再現性が得られた。
【0008】
本発明の導電性熱伝導材は、液状タイプの熱硬化性ゲル材からなる基材に、熱伝導性及び導電性を有するフィラーと、水酸化マグネシウムと、を含有させているので、熱伝導性及び導電性を有するフィラーが基材中に良好に分散する。このため、本発明の導電性熱伝導材は、上下間で熱伝導性や導電性の差異が小さく、シートに加工した場合などの引き裂き強度を維持したまま多量のフィラーを充填することができ、延いては、良好な熱伝導性及び導電性が得られる。
【0009】
なお、上記基材としては、液状タイプの熱硬化性ゲル材であれば種々のものが使用可能であるが、例えば、上記基材は、アクリルゲルを架橋してなるものであってもよい。
また、本発明は、水酸化マグネシウムの含有量を限定するものではないが、上記水酸化マグネシウムが1〜5wt%含有された場合、次のような更なる効果が生じる。すなわち、水酸化マグネシウムが1wt%未満であると、フィラーの沈殿抑制効果が充分に発揮されない可能性があり、水酸化マグネシウムが5wt%を超えて含有されると、その水酸化マグネシウム自体の絶縁性により導電性熱伝導材の導電性が低下する可能性がある。これに対して、水酸化マグネシウムが1〜5wt%含有された場合、フィラーの沈殿を良好に抑制すると共に水酸化マグネシウムの添加による導電性の低下も抑制され、一層良好な熱伝導性及び導電性が得られる。
【0010】
更に、熱伝導性及び導電性を有するフィラーとしては種々のものが使用可能であるが、上記フィラーは、大粒径のニッケルコートグラファイトと小粒径のニッケルとの混合物であってもよい。ニッケルコートグラファイトやニッケルは、極めて良好な熱伝導性及び導電性を有している。また、大粒径のニッケルコートグラファイトと小粒径のニッケルとを混合して使用することにより、その充填性が一層向上する。このため、上記フィラーが大粒径のニッケルコートグラファイトと小粒径のニッケルとの混合物である場合、一層良好な熱伝導性及び導電性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態を、図面と共に説明する。本願出願人は、アクリルゲルに、大粒径(例えば比重7:粒径55μm)のニッケルコートグラファイトと、小粒径(例えば比重9:粒径3〜7μm)のニッケルと、水酸化マグネシウム(例えば比重2.42:平均粒径0.9μm)とを含有させ、シート状に成形した。
【0012】
そして、この場合、ニッケルコートグラファイトを40〜80wt%、ニッケルを10〜50wt%、水酸化マグネシウムを1〜5wt%含有させると、極めて良好な熱伝導性及び導電性を有するシートが得られることが分かった。また、得られたシートでは、ニッケルコートグラファイトやニッケルが均一に分散し、層が分離することもなく、シートの引き裂き強度も良好で、シートの上下間で導電性や熱伝導性の差異も小さいことが分かった。すなわち、アクリルゲルにニッケルコートグラファイトとニッケルのみを含有させた場合は、シートの成形時にそれらのフィラーが沈殿するが、水酸化マグネシウムを合わせて含有させることにより、フィラーの沈殿が抑制できることが分かった。
【0013】
この理由は不明であるが、図1に模式的に示すように、アクリルゲル1に含有された水酸化マグネシウム3がニッケルコートグラファイト5やニッケル7に何らかの作用を及ぼしてその沈殿を抑制しているためと推測される。また、この現象には良好な再現性が得られた。
【0014】
なお、本実施の形態において、上記アクリルゲルとしては、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合してなるポリマーであれば種々のものを使用することができ、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n―ブチル(メタ)アクリレート、i―ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、i−ミリスチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、i―ノニル(メタ)アクリレート、i―デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i―ステアリル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマーを重合または共重合したものを使用することができる。なお、上記(共)重合する際に使用するアクリル酸エステルは、単独で用いる他、2種類以上併用してもよい。
【0015】
また、アクリルゲル以外の液状タイプの熱硬化性ゲル材を使用しても同様の結果が得られるものと推測され、ニッケルコートグラファイトやニッケル以外の熱伝導性及び導電性を有するフィラーを使用しても同様の結果が得られるものと推測される。更に、水酸化マグネシウムとしては、六角板状のものの他、球状等の各種形状のものを使用することができる。なお、ニッケルコートグラファイト,ニッケル以外のフィラーとしては、例えば、グラファイト、カーボン、銀、金、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、亜鉛などが使用でき、形状も、ファイバー状、板状、球状等、各種形状のものを使用することができる。
【実施例】
【0016】
次に、本願出願人は、表1の上段に示す各種配合(数字はいずれも重量部)でシートを作成し、その特性を比較した。なお、アクリルゲルとしてはアクリルポリマー(日本触媒製)を、水酸化マグネシウムとしては0.5〜1μmの高級脂肪酸処理をされた水酸化マグネシウム(商品名「マグシリーズN−4」神島化学工業製:平均粒径0.9μm,モース硬度2.5)を、ニッケルコートグラファイト(Niコートグラファイト)としてはニッケル被覆グラファイト(インコ製)を、ニッケル(Niパウダー)としては粉末冶金用ニッケルパウダー(インコ製)を、水酸化アルミニウムとしては(日本軽金属製の高白色タイプ:平均粒径8μm)を、架橋材としては有機過酸化物(化薬アクゾ製)を、それぞれ使用した。そして、上記配合の各素材を混合してコーターにより成形することにより、導電性熱伝導シートを得た。各配合によるシートの特性も表1に合わせて示す。但し、表1において、導電フィラー充填量及び水酸化物添加量は、各素材を表1の上段の重量部で混合して、その結果から得られた計算値である。
【0017】
【表1】

表1に示すように、水酸化マグネシウムを含有させた配合B,C(実施例)では、フィラーの沈殿が見られなかった。このため、フィラーの充填性も良好で上記配合でもまだ余裕があり、良好な導電性及び熱伝導性が得られた。また、シートの引き裂き強度も良好であった。但し、水酸化マグネシウムを3.70wt%含有させた配合Cでは、1.51wt%含有させた配合Bよりも導電性が劣っており、絶縁性の水酸化マグネシウムの影響が表れているものと推測される。このため、水酸化マグネシウムの含有量は1〜5wt%とするのが好ましく、より好ましくは1.5wt%〜3.7wt%とするとよい。
【0018】
また、水酸化マグネシウムの代わりに水酸化物としての水酸化アルミニウムを含有させた配合Eや、水酸化マグネシウムも水酸化アルミニウムも添加しない配合A,D,F(いずれも比較例)では、フィラーの沈殿を抑制することができなかった。
【0019】
更に、表1には表れていないが、配合BではアスカーC硬度が30と良好な柔軟性が得られ、粘着性もあった。これに対して、例えばシリコーンゴムに導電性フィラーを充填してなる一般的なミラブルゴムの導電性熱伝導材では、硬度がJISA70程度と比較的硬く、粘着性もなかった。また、ミラブルゴムには、配合BのようにNiコートグラファイト60重量部,Niパウダー50重量部を充填することは不可能であった。
【0020】
ここで、図2は配合Bで作成したシートの断面を表す光学顕微鏡写真で、図3は配合Aで作成したシートの断面を表す光学顕微鏡写真である。水酸化マグネシウムを含有しない比較例では、図3に示すように、フィラーの沈殿が生じてシートの上層部にはフィラーが殆ど存在しない領域が生じる。これに対して、水酸化マグネシウムを含有させた実施例では、図2に示すように、フィラーの沈殿が抑制されシートの上層部まで均一にフィラーが分散していることが分かる。なお、具体的には、実施例では3時間放置しても沈殿は起こらなかった。このように本実施例のシートでは、フィラーが基材中に良好に分散するため、導電性熱伝導材の上下間で導電性や熱伝導性の差異が小さく、シートに加工した場合の引き裂き強度を維持したまま多量のフィラーを充填することができ、延いては、良好な熱伝導性及び導電性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明が適用された導電性熱伝導材の構成を模式的に表す説明図である。
【図2】実施例のシートの断面を表す光学顕微鏡写真である。
【図3】比較例のシートの断面を表す光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0022】
1…アクリルゲル 3…水酸化マグネシウム
5…ニッケルコートグラファイト 7…ニッケル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状タイプの熱硬化性ゲル材からなる基材に、
熱伝導性及び導電性を有するフィラーと、
水酸化マグネシウムと、
を含有させたことを特徴とする導電性熱伝導材。
【請求項2】
上記基材が、アクリルゲルを架橋してなるものであることを特徴とする請求項1記載の導電性熱伝導材。
【請求項3】
上記水酸化マグネシウムが、1〜5wt%含有されたことを特徴とする請求項1または2記載の導電性熱伝導材。
【請求項4】
上記フィラーが、大粒径のニッケルコートグラファイトと小粒径のニッケルとの混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の導電性熱伝導材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−106146(P2008−106146A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290208(P2006−290208)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】