説明

導電性熱可塑性エラストマ組成物および導電性ローラ

【課題】初期の抵抗値が小さく導電性に優れる上、前記連続通電時の抵抗値の上昇率が小さい導電性ローラ1のローラ本体2を形成しうる導電性熱可塑性エラストマ組成物と、前記導電性熱可塑性エラストマ組成物を用いて形成されたローラ本体2を備える導電性ローラ1とを提供する。
【解決手段】導電性熱可塑性エラストマ組成物は、イオン導電性を付与するためのイオン導電性成分として、エピクロルヒドリンゴムを単独で用いる。導電性ローラ1は、前記導電性熱可塑性エラストマ組成物によってローラ本体2を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性熱可塑性エラストマ組成物と、前記導電性熱可塑性エラストマ組成物を用いて形成されたローラ本体を備える導電性ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンタ、静電式複写機、普通紙ファクシミリ装置、およびこれらの複合機等の、いわゆる電子写真法を利用した画像形成装置においては、概略下記の工程を経て、紙(プラスチックフィルム等を含む、以下同様)の表面に画像が形成される。
光導電性を有する感光体の表面を一様に帯電させた状態で露光して、前記表面に、形成画像に対応する静電潜像を形成する(帯電工程→露光工程)。
【0003】
前記静電潜像に、あらかじめ帯電させたトナーを選択的に付着させて、前記静電潜像をトナー像に顕像化する(現像工程)。
前記トナー像を紙の表面に転写し(転写工程)、さらに定着させる(定着工程)。
前記転写工程においては、例えば感光体の表面に形成したトナー像を、転写ベルトの外周面に保持して搬送途上の紙の表面に転写したり、前記トナー像を一旦、中間転写ベルトの外周面に転写したのち紙の表面に転写したりする場合がある。
【0004】
かかる転写ベルトまたは中間転写ベルトを用いた転写工程は、例えばシアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックの各色のトナーからなるトナー像を重ねてフルカラー画像を形成する、いわゆるフルカラー対応の画像形成装置等において広く普及している。
また前記転写工程は、例えばA4サイズの紙の表面に毎分50枚以上といった高速で画像形成する高速対応の画像形成装置や、あるいは液体を媒体としたトナーを用いる画像形成装置等においても採用されている。
【0005】
前記各工程のうち帯電工程、現像工程(そのうちトナーの帯電過程、および帯電させたトナーの静電潜像への付着過程)、転写工程等において、導電性ないし半導電性を有するローラ(以下「導電性ローラ」と総称する場合がある)が広く用いられる。
また前記導電性ローラは、トナー像を紙の表面に転写後に感光体、転写ベルト、もしくは中間転写ベルトの表面に残留したトナーを除去するクリーニング工程にも用いられる。
【0006】
例えば転写工程では、前記導電性ローラが、トナー像を紙あるいは中間転写ベルトに転写させるための転写ローラとして用いられる。前記転写ローラは、感光体の表面に直接に、または転写ベルトや中間転写ベルトを間に挟んだ状態で、所定の圧接力によって前記感光体に圧接させた状態で配設される。
そして感光体と転写ローラとの間に所定の電位差を生じさせた状態で、両者の間に紙、紙と転写ベルト、もしくは中間転写ベルトを挟んだ状態で回転させることで、前記感光体の表面に形成されたトナー像が、前記電位差に基づいて紙または中間転写ベルトの表面に転写される。
【0007】
前記導電性ローラとして、従来は、架橋(加硫)性を有するゴム中に導電剤を含有させる等して導電性を付与したゴム組成物を調製し、前記ゴム組成物を押出成形等によって成形したのちゴムを架橋させて形成されたローラ本体を備えるものが用いられてきた。
しかし架橋されたゴムからなるローラ本体は、リサイクルできる用途が限られている。例えば粉砕して、樹脂やゴム等の充填剤、増量剤等として使用する以外に適当な用途が見出せない。そのため近時、前記導電性ローラのローラ本体を、熱可塑性エラストマ組成物を用いて形成することが検討されている。前記熱可塑性エラストマ組成物は、加熱により再溶融させて任意の形状に成形することが可能であるため、リサイクルできる用途が限られないという利点がある。
【0008】
例えば特許文献1〜4等には、熱可塑性マトリクス樹脂として、スチレン系熱可塑性エラストマとオレフィン系樹脂とを含む導電性熱可塑性エラストマ組成物を用いて、前記ローラ本体を形成することが記載されている。
前記導電性熱可塑性エラストマ組成物としては、前記熱可塑性マトリクス樹脂中に、イオン導電性成分として、イオン導電性エラストマの架橋物、およびイオン導電性塩を分散させたものが用いられる。また導電性熱可塑性エラスト組成物には、ジエン系ゴム等の架橋性ゴムの架橋物が分散される場合もある。
【0009】
前記導電性熱可塑性エラストマ組成物は、熱可塑性マトリクス樹脂中で、架橋性ゴムとイオン導電性エラストマとを、いわゆる動的架橋によってそれぞれ別個に架橋させるとともに架橋物を分散させて調製される。
イオン導電性塩は、動的架橋前のイオン導電性エラストマ中にあらかじめ分散させておくことにより、前記イオン導電性エラストマの動的架橋と架橋物の分散に伴って導電性熱可塑性エラストマ組成物中に分散される。
【0010】
イオン導電性成分のうちイオン導電性エラストマとしては、例えばエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド二元共重合体(ECO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)等のエピクロルヒドリンゴムや、あるいはエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド二元共重合体、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体等が知られている。
【0011】
またイオン導電性塩としては、例えばフルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンと、陽イオンとの塩等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4347870号公報
【特許文献2】特許第4475472号公報
【特許文献3】特許第3989000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記従来の導電性熱可塑性エラストマ組成物からなるローラ本体を備えた導電性ローラは、連続的に通電し続けると、その抵抗値が初期値に比べて大きく上昇するという問題がある。
本発明は、初期の抵抗値が小さく導電性に優れる上、前記連続通電時の抵抗値の上昇率が小さい導電性ローラのローラ本体を形成しうる導電性熱可塑性エラストマ組成物と、前記導電性熱可塑性エラストマ組成物を用いて形成されたローラ本体を備える導電性ローラとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者の検討によると、前記従来の導電性熱可塑性エラストマ組成物からなるローラ本体を備えた導電性ローラの抵抗値が連続通電時に大きく上昇する主な原因は、前記導電性熱可塑性エラストマ組成物中に含まれるイオン導電性成分のうち、特にイオン導電性塩が、前記連続通電時に外部電界の影響を受けてローラ本体中で移動しやすいことにある。
すなわちイオン導電性塩は、導電性熱可塑性エラストマ組成物を構成する熱可塑性エラストマ組成物やイオン導電性エラストマの架橋物、あるいは架橋性ゴムの架橋物等の他の成分に比べて分子量が小さい上、その構造ゆえに、外部電界の影響を受けてローラ本体中で移動しやすい。
【0015】
そのため、例えばローラ本体中で均一に分布していたイオン導電性塩が、連続通電によって前記ローラ本体の外周面の近傍に移動したり、移動したイオン導電性塩が前記外周面にブルーム(析出)したりして、ローラ本体の内部におけるイオン導電性塩の存在比率が低下したり、その分布にばらつきを生じたりする結果、導電性ローラの抵抗値が大きく上昇すると考えられる。
【0016】
また表面にブルームしたイオン導電性塩は感光体等を汚染して、形成画像の画質を低下させる原因にもなる。
そこで発明者は、イオン導電性成分について再検討した。その結果、イオン導電性に優れる上、前記イオン導電性塩よりも分子量が大きいため、連続的に通電し続けても外部電界の影響を受けてローラ本体中で大きく移動したり、ローラ本体の外周面にブルームしたりブリードしたりしにくいエピクロルヒドリンゴムを、前記イオン導電性成分として、イオン導電性塩や他のイオン導電性エラストマと併用せずに単独で用いればよいことを見出した。
【0017】
すなわち本発明は、熱可塑性マトリクス樹脂を含む導電性熱可塑性エラストマ組成物であって、前記導電性熱可塑性エラストマ組成物にイオン導電性を付与するためのイオン導電性成分として、エピクロルヒドリンゴムを単独で用いたことを特徴とするものである。
本発明によれば、前記のようにイオン導電性成分としてエピクロルヒドリンゴムを単独で用いることにより、従来のものと同等程度の低い抵抗値、すなわち高い導電性を初期において達成しつつ、前記抵抗値が連続通電によって大きく上昇しない導電性ローラのローラ本体を形成しうる導電性熱可塑性エラストマ組成物を提供することができる。
【0018】
エピクロルヒドリンゴムとしては、イオン導電性成分としての機能に優れたエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド二元共重合体、およびエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
またエピクロルヒドリンゴムは、熱可塑性マトリクス樹脂中で動的架橋されているのが好ましい。これにより、前記熱可塑性マトリクス樹脂中で、エピクロルヒドリンゴムをできるだけ均一に分散させて、導電性ローラの初期の抵抗値を低下させ、導電性を向上することができる。また、エピクロルヒドリンゴムをローラ本体中でできるだけ移動しにくくして、連続通電による抵抗値の上昇をより一層抑制することもできる。
【0019】
本発明の導電性熱可塑性エラストマ組成物は、さらに架橋性ゴムを含み、前記架橋性ゴムは、熱可塑性マトリクス樹脂中で、前記エピクロルヒドリンゴムとは別個に動的架橋されているのが好ましい。これにより、前記のように初期の導電性に優れる上、連続通電によって抵抗値が上昇しにくいだけでなく、柔軟性や機械的特性等にも優れた導電性ローラのローラ本体を形成することができる。
【0020】
導電性熱可塑性エラストマ組成物は、相溶化剤としてのエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体をも含んでいるのが好ましい。これにより、エピクロルヒドリンゴムを熱可塑性マトリクス樹脂中にできるだけ微細に分散させて、導電性ローラの初期の抵抗値を低下させ、導電性を向上することができる。また、エピクロルヒドリンゴムをローラ本体中でできるだけ移動しにくくして、連続通電による抵抗値の上昇をより一層抑制することもできる。
【0021】
熱可塑性マトリクス樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマ、およびポリプロピレンであるのが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマは、導電性熱可塑性エラストマ組成物の熱可塑性を維持しながら、導電性ローラのローラ本体に良好な柔軟性を付与する働きをする。またポリプロピレンは、導電性熱可塑性エラストマ組成物の成形時の加工性を向上する働きをする。
【0022】
本発明は、前記本発明の導電性熱可塑性エラストマ組成物からなるローラ本体を備えることを特徴とする導電性ローラである。
本発明によれば、前記のようにイオン導電性成分としてエピクロルヒドリンゴムを単独で用いた導電性熱可塑性エラストマ組成物によってローラ本体を形成することの効果により、初期の抵抗値が小さく導電性に優れる上、前記連続通電時の抵抗値の上昇率が小さい導電性ローラを得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、初期の抵抗値が小さく導電性に優れる上、前記連続通電時の抵抗値の上昇率が小さい導電性ローラのローラ本体を形成しうる導電性熱可塑性エラストマ組成物と、前記導電性熱可塑性エラストマ組成物を用いて形成されたローラ本体を備える導電性ローラとを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の導電性ローラの、実施の形態の一例の外観を示す斜視図である。
【図2】前記導電性ローラのローラ抵抗値を測定する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
《導電性熱可塑性エラストマ組成物》
本発明の導電性熱可塑性エラストマ組成物は、熱可塑性マトリクス樹脂、およびイオン導電性成分を含み、かつ前記イオン導電性成分として、エピクロルヒドリンゴムを単独で用いることを特徴とするものである。
前記エピクロルヒドリンゴムは、熱可塑性マトリクス樹脂中で動的架橋されているのが好ましい。また導電性熱可塑性エラストマ組成物は、さらに架橋性ゴムを含み、前記架橋性ゴムは、熱可塑性マトリクス樹脂中で、前記エピクロルヒドリンゴムとは別個に動的架橋されているのが好ましい。
【0026】
これらの構成を採用することにより、導電性に優れるとともに、連続通電時の抵抗値の上昇率が小さい上、柔軟性や機械的特性等にも優れた導電性ローラのローラ本体を形成することができる。
〈熱可塑性マトリクス樹脂〉
熱可塑性マトリクス樹脂としては、種々の熱可塑性エラストマ、および熱可塑性樹脂の1種または2種以上が使用可能である。特に、熱可塑性エラストマとしてのスチレン系熱可塑性エラストマと、熱可塑性樹脂としてのポリプロピレンの2種を、熱可塑性マトリクス樹脂として併用するのが好ましい。
【0027】
このうちスチレン系熱可塑性エラストマは、導電性熱可塑性エラストマ組成物の熱可塑性を維持しながら、導電性ローラのローラ本体に良好な柔軟性を付与する働きをする。またポリプロピレンは、導電性熱可塑性エラストマ組成物の成形時の加工性を向上する働きをする。
(スチレン系熱可塑性エラストマ)
スチレン系熱可塑性エラストマとしては、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマが好ましい。
【0028】
前記水素添加スチレン系熱可塑性エラストマは、水素添加によって二重結合が飽和されているため低硬度で柔軟性に優れる上、耐久性にも優れている。そのため導電性ローラの耐久性を向上できる。
また、前記水素添加スチレン系熱可塑性エラストマは二重結合を含まないため、架橋性ゴムを動的架橋させる際に前記架橋を阻害するおそれがない上、自身は架橋されないため、動的架橋後の熱可塑性エラストマ組成物に所望の可塑性と柔軟性とを付与できる。
【0029】
前記水素添加スチレン系熱可塑性エラストマとしては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−エチレン/プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、およびスチレン−エチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)からなる群より選ばれた少なくとも1種のスチレン系熱可塑性エラストマの水素添加物が好ましい。特にSEEPSの水素添加物が好ましい。
【0030】
(ポリプロピレン)
ポリプロピレンとしては、少なくともプロピレンを繰り返し単位として含む任意のポリマ、すなわちプロピレンのホモポリマや、前記プロピレンとエチレン、ブテン−1等とのコポリマなどがいずれも使用可能である。
前記ポリプロピレンは、特に水素添加スチレン系熱可塑性エラストマとの併用系において、熱可塑性エラストマ組成物の成形時等の加工性を向上する働きをする。
【0031】
〈エピクロルヒドリンゴム〉
エピクロルヒドリンゴムとしては、繰り返し単位としてエピクロルヒドリンを含む種々の重合体が挙げられる。
前記エピクロルヒドリンゴムとしては、例えばエピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド二元共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド二元共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル二元共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体、およびエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル四元共重合体等の1種または2種以上が挙げられる。
【0032】
特にエピクロルヒドリンゴムとしては、エチレンオキサイドを含む共重合体が好ましく、かかる共重合体におけるエチレンオキサイド含量は30〜95モル%、中でも55〜95モル%、特に60〜80モル%であるのが好ましい。
エチレンオキサイドは電気抵抗値を下げる働きがあるが、エチレンオキサイド含量が前記範囲未満であると、かかる電気抵抗値の低減効果が小さい。一方、エチレンオキサイド含量が前記範囲を超える場合には、エチレンオキサイドの結晶化が起こり分子鎖のセグメント運動が妨げられるため、逆に電気抵抗値が上昇する傾向がある。またローラ本体の硬度が上昇したり、導電性熱可塑性エラストマ組成物の、加熱溶融時の粘度が上昇したりするおそれもある。
【0033】
前記エピクロルヒドリンゴムとしては、特にエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド二元共重合体(ECO)が好ましい。
前記ECOにおけるエチレンオキサイド含量は30〜80モル%、特に50〜80モル%であるのが好ましい。またエピクロルヒドリン含量は20〜70モル%、特に20〜50モル%であるのが好ましい。
【0034】
またエピクロルヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)を用いることもできる。
前記GECOにおけるエチレンオキサイド含量は30〜95モル%、特に60〜80モル%であるのが好ましい。またエピクロルヒドリン含量は4.5〜65モル%、特に15〜40モル%以上であるのが好ましい。さらにアリルグリシジルエーテル含量は0.5〜10モル%、特に2〜6モル%であるのが好ましい。
【0035】
なおGECOとしては、前記3種の単量体を共重合させた狭義の意味での共重合体のほかに、ECOをアリルグリシジルエーテルで変性した変性物も知られており、本発明ではいずれの共重合体も使用可能である。
本発明においては、前記エピクロルヒドリンゴムを、イオン導電性成分として単独で用い、その他のイオン導電性成分、例えばイオン導電性塩や、あるいはエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド二元共重合体、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体等の他のイオン導電性エラストマを含まないことにより、先に説明したように連続通電による抵抗値の上昇を大幅に抑制することができる。
【0036】
〈エピクロルヒドリンゴムの架橋剤、架橋助剤〉
エピクロルヒドリンゴムは、先に説明したように熱可塑性マトリクス樹脂中で動的架橋されているのが好ましい。動的架橋させるためには、エピクロルヒドリンゴムを架橋反応させることができる種々の架橋剤が使用可能である。特にチオウレア系架橋剤が好ましい。
【0037】
前記チオウレア系架橋剤としては、例えばテトラメチルチオウレア、トリメチルチオウレア、エチレンチオウレア、(C2n+1NH)C=S〔式中、nは1〜10の整数を示す。〕で表されるチオウレア等の1種または2種以上が挙げられる。
また、チオウレア系架橋剤による架橋反応を補助する種々の架橋助剤を併用してもよい。特にグアニジン系架橋助剤が好ましい。
【0038】
前記グアニジン系架橋助剤としては、例えば1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジン、1−o−トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ−o−トリルグアニジン塩等の1種または2種以上が挙げられる。
〈エピクロルヒドリンゴム〉
エピクロルヒドリンゴムとしては、繰り返し単位としてエピクロルヒドリンを含む種々の重合体が挙げられる。
【0039】
前記エピクロルヒドリンゴムとしては、例えばエピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド二元共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド二元共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル二元共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体、およびエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル四元共重合体等の1種または2種以上が挙げられる。
【0040】
特にエピクロルヒドリンゴムとしては、エチレンオキサイドを含む共重合体が好ましく、かかる共重合体におけるエチレンオキサイド含量は30〜95モル%、中でも55〜95モル%、特に60〜80モル%であるのが好ましい。
エチレンオキサイドは電気抵抗値を下げる働きがあるが、エチレンオキサイド含量が前記範囲未満であると、かかる電気抵抗値の低減効果が小さい。一方、エチレンオキサイド含量が前記範囲を超える場合には、エチレンオキサイドの結晶化が起こり分子鎖のセグメント運動が妨げられるため、逆に電気抵抗値が上昇する傾向がある。またローラ本体の硬度が上昇したり、導電性熱可塑性エラストマ組成物の、加熱溶融時の粘度が上昇したりするおそれもある。
【0041】
前記エピクロルヒドリンゴムとしては、特にエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド二元共重合体(ECO)が好ましい。
前記ECOにおけるエチレンオキサイド含量は30〜80モル%、特に50〜80モル%であるのが好ましい。またエピクロルヒドリン含量は20〜70モル%、特に20〜50モル%であるのが好ましい。
【0042】
またエピクロルヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)を用いることもできる。
前記GECOにおけるエチレンオキサイド含量は30〜95モル%、特に60〜80モル%であるのが好ましい。またエピクロルヒドリン含量は4.5〜65モル%、特に15〜40モル%以上であるのが好ましい。さらにアリルグリシジルエーテル含量は0.5〜10モル%、特に2〜6モル%であるのが好ましい。
【0043】
なおGECOとしては、前記3種の単量体を共重合させた狭義の意味での共重合体のほかに、ECOをアリルグリシジルエーテルで変性した変性物も知られており、本発明ではいずれの共重合体も使用可能である。
本発明においては、前記エピクロルヒドリンゴムを、イオン導電性成分として単独で用い、その他のイオン導電性成分、例えばイオン導電性塩や、あるいはエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド二元共重合体、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体等の他のイオン導電性エラストマを含まないことにより、先に説明したように連続通電による抵抗値の上昇を大幅に抑制することができる。
【0044】
〈エピクロルヒドリンゴムの架橋剤、架橋助剤〉
エピクロルヒドリンゴムは、先に説明したように熱可塑性マトリクス樹脂中で動的架橋されているのが好ましい。動的架橋させるためには、エピクロルヒドリンゴムを架橋反応させることができる種々の架橋剤が使用可能である。特にチオウレア系架橋剤が好ましい。
【0045】
前記チオウレア系架橋剤としては、例えばテトラメチルチオウレア、トリメチルチオウレア、エチレンチオウレア、(C2n+1NH)C=S〔式中、nは1〜10の整数を示す。〕で表されるチオウレア等の1種または2種以上が挙げられる。
また、チオウレア系架橋剤による架橋反応を補助する種々の架橋助剤を併用してもよい。特にグアニジン系架橋助剤が好ましい。
【0046】
前記グアニジン系架橋助剤としては、例えば1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジン、1−o−トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ−o−トリルグアニジン塩等の1種または2種以上が挙げられる。
〈架橋性ゴム〉
導電性熱可塑性エラストマ組成物には、先に説明したように架橋性ゴムを配合してもよい。
【0047】
架橋性ゴムとしては、ジエン系ゴムやエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。
このうちジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、およびアクロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0048】
またEPDMとしては、繰り返し単位としてエチレン、プロピレン、およびジエンを少なくとも含む三元以上の共重合ゴムがいずれも使用可能である。
特にEPDMが好ましい。前記EPDMは、主鎖が飽和炭化水素からなり二重結合を含まないため、高濃度オゾン雰囲気、紫外線を含む光照射等の環境下に長時間曝されても主鎖の切断が起こりにくい。そのため導電性ローラの耐オゾン性、耐紫外線性、耐熱性等を向上できる。
【0049】
〈架橋性ゴムの架橋剤〉
架橋性ゴムは、先に説明したように熱可塑性マトリクス樹脂中で、エピクロルヒドリンゴムとは別個に動的架橋されているのが好ましい。動的架橋させるためには、架橋性ゴムを架橋反応させることができる種々の架橋剤が使用可能である。特に樹脂架橋剤が好ましい。
【0050】
樹脂架橋剤は、加熱によって架橋性ゴムに架橋反応を起こさせることができる合成樹脂であり、通常の硫黄架橋系(硫黄と加硫促進剤等との併用系)のようにブルームを生じない上、架橋性ゴムの架橋後の圧縮永久ひずみや機械的特性の低下を小さくでき、耐久性を向上できるといった利点を有している。
また樹脂架橋剤によれば、硫黄架橋系に比べて架橋時間を短くできる。そのため、例えば熱可塑性エラストマ組成物のもとになる各成分を押出機内で加熱しながら混練して架橋性ゴムを動的架橋させる際に、前記押出機内に滞留している短い時間内で架橋反応を十分に進行させることができる。
【0051】
樹脂架橋剤としては、フェノール樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、トリアジン・ホルムアルデヒド縮合物、ヘキサメトキシメチル・メラミン樹脂等の1種または2種以上が挙げられ、特にフェノール樹脂が好ましい。
またフェノール樹脂としては、フェノール、アルキルフェノール、クレゾール、キシレノールもしくはレゾルシン等のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドもしくはフルフラール等のアルデヒド類との反応により合成される各種フェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂のアルデヒドユニットに少なくとも一個のハロゲン原子が結合したハロゲン化フェノール樹脂を用いることもできる。
【0052】
特にベンゼンのオルト位またはパラ位にアルキル基が結合したアルキルフェノールとホルムアルデヒドとの反応によって得られるアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂が、架橋性ゴムとの相溶性に優れるとともに反応性に富み、架橋反応の開始時間を比較的早くできるため好ましい。
アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂のアルキル基としては炭素数が1〜10のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基が好ましい。またアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂のハロゲン化物も好適に用いられる。
【0053】
さらに硫化−p−tert−ブチルフェノールとアルデヒド類とを付加縮合させた変性アルキルフェノール樹脂や、アルキルフェノール・スルフィド樹脂も樹脂架橋剤として使用可能である。
〈軟化剤〉
導電性熱可塑性エラストマ組成物には、軟化剤を配合してもよい。軟化剤を配合することにより、導電性ローラのローラ本体の柔軟性を向上することができる。
【0054】
また、前記各成分を混練したり、前記混練によりエピクロルヒドリンゴムや架橋性ゴムを動的架橋させたりして導電性エラストマ組成物を調製する際の加工性や、あるいは調製した導電性熱可塑性エラストマ組成物をローラ本体の形状に成形する際の加工性等を向上することもできる。
軟化剤としては、前記機能を有する種々の軟化剤が使用可能である。特にパラフィン系オイルとポリブテンとを併用するのが好ましい。
【0055】
パラフィン系オイルとしては、鉱物油(原油)から精製され、基油がパラフィン系である種々のパラフィン系オイルが使用可能である。
前記パラフィン系オイルの具体例としては、例えば出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380(数平均分子量:750)等が挙げられる。
ポリブテンとしては、イソブテン、ノルマルブテン等を原料とする、任意の分子量を有するポリマやその誘導体等がいずれも使用可能である。
【0056】
前記ポリブテンは、スチレン系熱可塑性エラストマとの相溶性を有するため、たとえオイルと同等程度の分子量を有するものであっても、オイルに比べてブリードを防止する効果に優れており、軟化剤として使用可能である。
しかしブリードを確実に防止することを考慮すると、ポリブテンとしては、軟化剤として通常に用いられるオイルよりも分子量の大きいものを用いるのが好ましい。
【0057】
中でも前記ダイアナプロセスオイルPW−380(数平均分子量:750)よりも数平均分子量が大きいポリブテン、特に数平均分子量が980以上であるポリブテンを使用するのが好ましい。
なおポリブテンの数平均分子量は、2650以下であるのが好ましい。数平均分子量が前記範囲を超える高分子量のポリブテンは粘度が高すぎるため、熱可塑性マトリクス樹脂その他の成分と混練して導電性熱可塑性エラストマ組成物を調製するために特殊な機器を要する上、成形時等の加工性が低下するといった問題を生じるおそれがある。
【0058】
またポリブテンとしては、特に水素添加ポリイソブテンが好ましい。前記水素添加ポリイソブテンは、分子中に二重結合を含まない、化学的に不活性で安定した構造を有するため、ブリードをより一層生じにくいという利点がある。
前記水素添加していない通常のポリブテンの具体例としては、例えば日油(株)製の日油ポリブテン30N(数平均分子量:1350)、200N(数平均分子量:2650)、JX日鉱日石エネルギー(株)製の日石ポリブテンHV−100(数平均分子量:980)、HV−300(数平均分子量:1400)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0059】
また水素添加ポリイソブテンとしては、例えば日油(株)製のパールリーム(登録商標)18(数平均分子量:1000)、パールリーム24(数平均分子量:1350)等の少なくとも1種が挙げられる。
〈相溶化剤〉
導電性熱可塑性エラストマ組成物には、先に説明したように相溶化剤を配合してもよい。
【0060】
前記相溶化剤は、エピクロルヒドリンゴムや架橋性ゴムを熱可塑性マトリクス樹脂中に微細に分散させる働きをする。
特にエピクロルヒドリンゴムの分散性を高めて、導電性ローラの初期の抵抗値を低下させ、導電性を向上することができる。また、エピクロルヒドリンゴムをローラ本体中でできるだけ移動しにくくして、連続通電による抵抗値の上昇をより一層抑制することもできる。
【0061】
前記相溶化剤としては、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、およびエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
前記エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、および/またはエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体は、アクリル酸エステル単位の含有率が0.1質量%以上、30質量%以下、中でも1質量%以上、20質量%以下、特に3質量%以上、15質量%以下であるのが好ましい。無水マレイン酸単位の含有率は0.05質量%以上、20質量%以下、中でも0.1質量%以上、15質量%以下、特に1質量%以上、10質量%以下であるのが好ましい。またグリシジルメタクリレート単位の含有率は0.05質量%以上、20質量%以下、中でも0.1質量%以上、15質量%以下、特に1質量%以上、10質量%以下であるのが好ましい。
【0062】
アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等の1種または2種以上が挙げられる。
特に、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体が好ましい。
【0063】
〈ポリエステル系熱可塑性エラストマ〉
導電性熱可塑性エラストマ組成物には、ポリエステル系熱可塑性エラストマを配合してもよい。
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマは、ローラ本体の電気抵抗値を調整しやすくする働きをする。しかもポリエステル系熱可塑性エラストマは、架橋性ゴムを動的架橋させる際に前記架橋を阻害するおそれがない。
【0064】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマとしては、硬度、弾性率、加工性などによって分類される適当なグレードのものを使用することができる。例えば、ポリエステルポリエーテル系熱可塑性エラストマまたはポリエステルポリエステル系熱可塑性エラストマ等が挙げられ、複数種を混合しても良い。
中でもポリエステル系熱可塑性エラストマとしては、高融点ポリエステル構成成分と低融点ソフトセグメント構成成分とからなる熱可塑性エラストマが好ましい。より具体的には、高融点ポリエステル構成成分だけで重合体を形成した場合の融点が150℃以上であり、低融点ソフトセグメント構成成分のみで測定した場合の融点ないし軟化点が80℃以下であるポリエステル系熱可塑性エラストマが好ましい。
【0065】
特にポリエステル系熱可塑性エラストマとしては、芳香環を有するポリエステルからなるハードセグメントとポリエーテルおよび/またはポリエステルからなるソフトセグメントとから構成される共重合体が好ましい。
芳香環を有するポリエステルからなるハードセグメントの構成成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸またはそのエステル等の賛成成分と、炭素数が1〜25のグリコールまたはそのエステル形成性誘導体とが挙げられる。
【0066】
前記酸性成分としてはテレフタル酸が好ましい。特にテレフタル酸を単独で用いるのがより好ましいが、その他の酸成分と必要に応じて組み合わせることもできる。テレフタル酸とその他の酸成分を組み合わせて用いる場合、テレフタル酸が全酸成分の70モル%以上、好ましくは75モル%以上を占めることが好適である。
炭素数が1〜25のグリコールとしてはエチレングリコール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。
【0067】
中でも、芳香環を有するポリエステルからなるハードセグメントの構成成分としてはポリブチレンテレフタレートが好ましい。
またポリエーテルからなるソフトセグメントとしては、例えばポリ(エチレンオキサイド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコール等のポリアルキレンエーテルグリコールが挙げられる。アルキレン部分の炭素数は、前記例示化合物における2および4に限らず2〜20、特に2〜10であるのが好ましい。
【0068】
ポリエステルポリエーテル系熱可塑性エラストマにおいて、ポリエーテルからなるソフトセグメントは全質量の15質量%以上、75質量%以下であるのが好ましい。
ポリエステルポリエーテル系熱可塑性エラストマは、ソフトセグメントである分子鎖の弾性率が低温低湿状態と高温高湿状態との間で変化しにくく安定しているため、導電性熱可塑性エラストマ組成物における抵抗値の環境依存性をより小さくできる。
【0069】
ポリエステルからなるソフトセグメントとしてはラクトン類を用いることが好ましい。ラクトン類のなかでもカプロラクトンが最も好ましいが、その他としてエナンラクトンまたはカプリロテクトン等も使用することができ、これらラクトン類の2種以上を併用することもできる。
ポリエステルポリエステル系熱可塑性エラストマにおいて、芳香族ポリエステルとラクトン類との共重合割合は用途に応じて選定され得るが、標準的な比率としては質量比で芳香族ポリエステル/ラクトン類が97/3〜5/95、より一般的には95/5〜30/70の範囲であるのが好ましい。
【0070】
〈受酸剤〉
導電性熱可塑性エラストマ組成物には、受酸剤を配合してもよい。
受酸剤は、ゴム分の架橋時にエピクロルヒドリンゴムから発生する塩素系ガスの、ローラ本体内への残留と、それによる架橋阻害や感光体の汚染等を防止するために機能する。
前記受酸剤としては、酸受容体として作用する種々の物質を用いることができるが、分散性に優れていることからハイドロタルサイト類またはマグサラットが好ましく、特にハイドロタルサイト類が好ましい。
【0071】
また、前記ハイドロタルサイト類等を酸化マグネシウムや酸化カリウムと併用するとより高い受酸効果を得ることができ、感光体の汚染をより一層確実に防止できる。
〈その他の成分〉
導電性熱可塑性エラストマ組成物には、充填剤を配合してもよい。
充填剤は、ローラ本体の機械的強度を高めるために機能する。
【0072】
前記充填剤としては、シリカ、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、二塩基性亜リン酸塩(DLP)、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナ等の1種または2種以上が挙げられる。
また導電性熱可塑性エラストマ組成物には、さらに発泡剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤、中和剤、造核剤、および気泡防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種の添加剤を配合してもよい。
【0073】
〈各成分の配合割合〉
前記各成分の配合割合は任意に設定できる。
ただし熱可塑性マトリクス樹脂のうちスチレン系熱可塑性エラストマの配合割合は、架橋性ゴム100質量部あたり50質量部以上、特に80質量部以上であるのが好ましく、150質量部以下、特に120質量部以下であるのが好ましい。
【0074】
配合割合が前記範囲未満では、導電性熱可塑性エラストマ組成物に良好な熱可塑性を付与できないおそれがある。また架橋性ゴムやエピクロルヒドリンゴム等の各成分を、熱可塑性マトリクス樹脂中に良好に分散できないおそれもある。
一方、配合割合が前記範囲を超える場合には、相対的に架橋性ゴムの量が少なくなるため、前記架橋性ゴムの架橋物によってローラ本体に良好な機械的特性や耐久性を付与できないおそれがある。また、相対的にエピクロルヒドリンゴムの量が少なくなるため、ローラ本体に良好な導電性を付与できないおそれもある。
【0075】
ポリプロピレンの配合割合は、スチレン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり1質量部以上、特に5質量部以上であるのが好ましく、30質量部以下、特に20質量部以下であるのが好ましい。
配合割合が前記範囲未満では、先に説明した、導電性熱可塑性エラストマ組成物の成形時等の加工性を向上する効果が不十分になるおそれがある。
【0076】
一方、配合割合が前記範囲を超える場合には、ローラ本体の柔軟性が低下するおそれがある。
エピクロルヒドリンゴムの配合割合は、スチレン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり50質量部以上、特に80質量部以上であるのが好ましく、150質量部以下、特に120質量部以下であるのが好ましい。
【0077】
配合割合が前記範囲未満では、ローラ本体に良好なイオン導電性を付与できないおそれがある。
一方、配合割合が前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、過剰のエピクロルヒドリンゴムがローラ本体の外周面にブルームしたりブリードしたりするおそれがある。また、相対的に熱可塑性マトリクス樹脂の量が少なくなって、導電性熱可塑性エラストマ組成物に良好な熱可塑性を付与できないおそれもある。
【0078】
軟化剤としての、パラフィン系オイルとポリブテンの合計の配合割合は、スチレン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり100質量部以上、特に150質量部以上であるのが好ましく、300質量部以下、特に250質量部以下であるのが好ましい。
配合割合が前記範囲未満では、パラフィン系オイルとポリブテンを軟化剤として機能させて、ローラ本体に柔軟性を付与する効果が十分に得られないおそれがある。また、押出成形によって形成される、ローラ本体のもとになる円筒体の外周面に凹凸を生じたりするおそれもある。
【0079】
一方、配合割合が前記範囲を超える場合には、過剰のパラフィン系オイルがローラ本体の表面にブリードしたり、過剰のポリブテンによってローラ本体に粘着性を生じて、感光体等への貼りつきを生じたりするおそれがある。
相溶化剤の配合割合は、スチレン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり1質量部以上、特に3質量部以上であるのが好ましく、20質量部以下、特に10質量部以下であるのが好ましい。
【0080】
配合割合が前記範囲未満では、相溶化剤の機能が不足して、イオン導電性エラストマをマトリクス樹脂中に微細に分散できないため、前記イオン導電性エラストマが、押出成形時に、ローラ本体のもとになる円筒体の外周面において押出方向に沿って筋状に分離したりするおそれがある。
一方、配合割合が前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、逆にローラ本体の強度が低下したり硬度が上昇したりするおそれがある。
【0081】
ポリエステル系熱可塑性エラストマの配合割合は、スチレン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり5質量部以上、特に10質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下、特に30質量部以下であるのが好ましい。
配合割合が前記範囲未満では、ポリエステル系熱可塑性エラストマを配合することによる先に説明した効果が十分に得られないおそれがある。
【0082】
一方、配合割合が前記範囲を超える場合には、ローラ本体の強度が低下したり硬度が上昇したりするおそれがある。
樹脂架橋剤等の、架橋性ゴムの架橋剤の配合割合は、前記架橋性ゴム100質量部あたり2質量部以上、特に5質量部以上であるのが好ましく、20質量部以下、特に15質量部以下であるのが好ましい。
【0083】
配合割合が前記範囲未満では、架橋性ゴムの架橋が不十分となって、ローラ本体に良好な機械的特性や耐久性を付与できないおそれがある。
一方、配合割合が前記範囲を超える場合には架橋性ゴムの架橋物が硬くなりすぎて、ローラ本体の柔軟性が低下するおそれがある。
チオウレア系架橋剤等の、エピクロルヒドリンゴムの架橋剤の配合割合は、前記エピクロルヒドリンゴム100質量部あたり1質量部以上、特に5質量部以上であるのが好ましく、15質量部以下、特に12質量部以下であるのが好ましい。
【0084】
配合割合が前記範囲未満では、先に説明した架橋させる効果が十分に得られないおそれがある。
一方、配合割合が前記範囲を超える場合には分子切断による機械的特性の低下が起こったり、分散不良等を生じて、成形時等の加工性が低下したりするおそれがある。
架橋助剤の配合割合は、エピクロルヒドリンゴム100質量部あたり1質量部以上、特に5質量部以上であるのが好ましく、15質量部以下、特に12質量部以下であるのが好ましい。
【0085】
配合割合が前記範囲未満では、架橋助剤を配合することによる先に説明した効果が十分に得られないおそれがある。
一方、配合割合が前記範囲を超える場合には、成形時等の加工性が低下したり、ローラ本体の導電性が低下(抵抗値が上昇)したりするおそれがある。
充填剤の配合割合は、架橋性ゴム100質量部あたり1質量部以上、特に5質量部以上であるのが好ましく、30質量部以下、特に20質量部以下であるのが好ましい。
【0086】
配合割合が前記範囲未満では、前記充填剤を配合することによる先に説明した効果が十分に得られないおそれがある。
一方、配合割合が前記範囲を超える場合には、ローラ本体の柔軟性が低下するおそれがある。
その他の成分の配合割合は、任意に設定することができる。
【0087】
(導電性熱可塑性エラストマ組成物の調製)
エピクロルヒドリンゴムと架橋性ゴムとを別個に動的架橋させて、前記各成分を含む導電性熱可塑性エラストマ組成物を調製するには、下記(1)〜(3)等の任意の方法を採用することができる。
(1) 先の熱可塑性エラストマ組成物中で架橋性ゴムを架橋させた後、イオン導電性エラストマ、その架橋剤、およびイオン導電性塩を所定の割合で配合してさらに加熱下で混練してイオン導電性エラストマを動的架橋させる。
【0088】
(2) 逆に、先の熱可塑性エラストマ組成物から架橋性ゴムを除いた各成分に、イオン導電性エラストマ、その架橋剤、およびイオン導電性塩を所定の割合で配合し、加熱下で混練してイオン導電性エラストマを動的架橋させた後、架橋性ゴムとその架橋剤とを所定の割合で配合してさらに加熱下で混練して架橋性ゴムを動的架橋させる。
(3) 先の熱可塑性エラストマ組成物を加熱下で混練して架橋性ゴムを動的架橋させたものと、前記熱可塑性エラストマ組成物から架橋性ゴムを除いた各成分に、イオン導電性エラストマ、その架橋剤、およびイオン導電性塩を所定の割合で配合し、加熱下で混練してイオン導電性エラストマを動的架橋させたものとを所定の割合で配合する。
【0089】
混練には押出機、バンバリミキサ、ニーダ等を用いることができ、特に押出機が好ましい。押出機を用いる場合、前記押出機のスクリュー部内で、混合物を連続的に加熱しながら混練して架橋性ゴムやイオン導電性エラストマを動的架橋させて混練物を調製でき、前記混練物をノズル先端から順次押し出して連続的に次工程(例えばペレット化の工程等)に送ることができるため、導電性熱可塑性エラストマ組成物の生産性を向上できる。
【0090】
架橋性ゴムはハロゲンの存在下で動的架橋させるのが好ましい。そのためには、ハロゲン化された樹脂架橋剤を用いればよい。また塩化第二スズ、塩化第二鉄、塩化第二銅等のハロゲン供与性物質を添加してもよい。
本発明の導電性熱可塑性エラストマ組成物は、導電性を有し、通電して使用される任意の物品の形成材料として使用可能である。そのいずれにおいても、連続通電によって抵抗値が大きく上昇しないという優れた特性を発揮することができるが、特に、先に説明した画像形成装置において転写ローラ等として用いられる導電性ローラの、ローラ本体の形成材料として好適に使用可能である。
【0091】
〈導電性ローラ〉
図1は、本発明の導電性ローラの、実施の形態の一例を示す斜視図である。
図1を参照して、この例の導電性ローラ1は、前記導電性熱可塑性エラストマ組成物からなる円筒状のローラ本体2と、前記ローラ本体2の中心の通孔3に挿通されたシャフト4とを備えている。
【0092】
前記ローラ本体2は、前記導電性熱可塑性エラストマ組成物を、押出成形機を用いて加熱しながら混練して溶融させた状態で、前記ローラ本体2の断面形状、すなわち円環状に対応するダイを通して長尺の円筒状に押出成形し、冷却して固化させたのち所定の長さにカットして製造される。押出成形の条件は任意に設定できる。
ローラ本体2またはその前駆体である筒状体の外周面5は、研磨処理等をして所定の表面粗さ、および外径に調整してもよい。
【0093】
シャフト4は、導電性ローラ1を構成するために導電性とされる。前記導電性のシャフト4としては、例えばアルミニウムやその合金、ステンレス鋼等の金属によって一体に形成されたものが好ましい。またセラミックや硬質樹脂等によって形成し、その外周面に、ローラ本体2と電気的に接続される導電膜等を設けた複合構造のシャフト4も好ましい。
ローラ本体2の外周面5は、コーティング層で被覆してもよい。前記コーティング層は、例えばウレタン樹脂、アクリル樹脂等のエマルションや溶液、あるいはゴムラテックス等にフッ素樹脂の粉末等を分散させたコーティング剤を塗布し、乾燥し、さらに必要に応じて焼きつけて形成できる。前記コーティング層で被覆することにより、外周面5の表面エネルギーをコントロールして、前記外周面5に紙粉が付着したりトナーが固着したりするのを抑制したり、摩擦係数や表面抵抗を調整したりすることができる。
【0094】
ローラ本体2は、基本的に非多孔質構造に形成するのが、性経時の加工性を向上したり、ローラ本体2の耐久性を向上したりする上で好ましい。ただしローラ本体2は、これらの問題を極力生じない範囲で多孔質構造を有していてもよい。
〈ローラ抵抗値〉
本発明の導電性ローラ1を、例えば画像形成装置において転写ローラとして使用する場合、前記導電性ローラ1は、温度23℃、相対湿度55%の常温常湿環境下、下記の方法で測定される、印加電圧2000Vでのローラ抵抗値が1010Ω以下、特に10Ω以下であるのが好ましい。
【0095】
(測定方法)
図2は、導電性ローラ1のローラ抵抗値を測定する方法を説明する図である。
図1、図2を参照して、本発明では前記ローラ抵抗値を、下記の方法で測定した値でもって表すこととする。
すなわち一定の回転速度で回転させることができるアルミニウムドラム6を用意し、前記アルミニウムドラム6の外周面7に、その上方から、ローラ抵抗値を測定する導電性ローラ1の、ローラ本体2の外周面5を当接させる。
【0096】
また前記導電性ローラ1のシャフト4とアルミニウムドラム6との間に直流電源8、および抵抗9を直列に接続して計測回路10を構成する。直流電源8は、(−)側をシャフト4、(+)側を抵抗9と接続する。抵抗9の抵抗値rは、ローラ抵抗値のレベルに合わせて、前記ローラ抵抗値の測定値の有効数字が極力大きくなるように、100Ω〜10kΩの範囲で調整する。
【0097】
次いでシャフト4の両端部にそれぞれ300gの荷重Fをかけてローラ本体2をアルミニウムドラム6に圧接させた状態で、前記アルミニウムドラム6を回転(回転数:75rpm)させながら、前記両者間に、直流電源8から直流2000Vの印加電圧Eを印加した際に、抵抗9にかかる検出電圧Vを計測する。
前記検出電圧Vと印加電圧E(=2000V)とから、導電性ローラ1のローラ抵抗Rは、基本的に式(i′):
R=r×E/(V−r) (i′)
によって求められる。ただし式(i′)中の分母中の(−r)の項は微小とみなすことができるため、本発明では式(i):
R=r×E/V (i)
によって求めた値でもって導電性ローラ1のローラ抵抗値とすることとする。
【0098】
〈連続通電後のローラ抵抗値〉
本発明の導電性ローラ1は、温度23℃、相対湿度55%の常温常湿環境下、下記の方法で測定される連続通電後のローラ抵抗値(連続通電後ローラ抵抗値)と、先の方法で測定された製造直後のローラ抵抗値(初期ローラ抵抗値)とから、式(ii):
ローラ抵抗値の上昇率=連続通電後ローラ抵抗値/初期ローラ抵抗値 (ii)
によって求められるローラ抵抗値の上昇率が2以下であるのが好ましい。
【0099】
(測定方法)
再び図1、図2を参照して、シャフト4の両端部にそれぞれ500gの荷重Fをかけてローラ本体2をアルミニウムドラム6に圧接させた状態で、前記両者間に、直流電源8から直流2000Vの印加電圧Eを連続して印加しつづける。
この連続通電の間、アルミニウムドラム6は回転を停止させて、ローラ本体2の同じ箇所が常にアルミニウムドラム6に接触している状態とする。
【0100】
抵抗9の抵抗値rは、ローラ抵抗値のレベルに合わせて、前記ローラ抵抗値の測定値の有効数字が極力大きくなるように、100Ω〜10kΩの範囲で調整する。
そして、通電開始直後から抵抗9にかかる検出電圧Vの推移を計測し、前記計測結果から式(i)によって求められるローラ抵抗値の推移を記録して、通電開始から3時間経過した時点でのローラ抵抗値を、導電性ローラ1の連続通電後ローラ抵抗値とする。
【実施例】
【0101】
〈実施例1〉
(導電性熱可塑性エラストマ組成物の調製)
架橋性ゴムとしてのEPDM〔住友化学(株)製のエスプレン(登録商標)EPDM670F〕のペレットに、
* 水素添加スチレン系熱可塑性エラストマ〔SEEPSの水素添加物、(株)クラレ製のセプトン(登録商標)4077〕、
* ポリプロピレン〔日本ポリプロ(株)製のノバテック(登録商標)PP〕、
* 軟化剤としてのパラフィン系オイル〔出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380、数平均分子量:750〕、およびポリブテン〔JX日鉱日石エネルギー(株)製の日石ポリブテンHV−100、数平均分子量:980〕
* 樹脂架橋剤〔臭素化アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業(株)製のタッキロール(登録商標)250−III〕、
を加えて、タンブラーを用いてドライブレンドした。
【0102】
次いで前記ブレンド物を、2軸押出機〔(株)アイペック製のHTM38〕のスクリュー部内で、回転数200rpm、設定温度200℃で加熱しながら混練して架橋性ゴムを動的架橋させながらノズル先端から押し出し、連続的に所定の長さにカットしてペレット化した。
次いでこのペレットに、
* エピクロルヒドリンゴムとしてのECO〔ダイソー(株)製のエピクロマー(登録商標)D〕、
* 相溶化剤としてのエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体〔アルケマ社製のボンダイン(登録商標)LX4110〕、
* チオウレア系架橋剤としてのエチレンチオウレア〔川口化学(株)製のアクセル(登録商標)22-S〕、
* グアニジン系架橋助剤としての1,3-ジ-o-トリルグアニジン〔大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)DT〕、
* ポリエステル系熱可塑性エラストマ〔東レ・デュポン(株)製のハイトレル(登録商標)3078〕、
* 受酸剤としてのハイドロタルサイト〔協和化学工業(株)製のDHT−4A−2〕、
* 充填剤としてのカーボンブラック〔東海カーボン(株)製の商品名シースト3〕、および
* 顔料としての酸化チタン〔チタン工業(株)製のクロノスKR−380N〕
を加えて、タンブラーを用いてドライブレンドした。
【0103】
次いで前記ブレンド物を、2軸押出機〔(株)アイペック製のHTM38〕のスクリュー部内で、回転数200rpm、設定温度200℃で加熱しながら混練してエピクロルヒドリンゴムを動的架橋させながらノズル先端から押し出し、連続的に所定の長さにカットして導電性熱可塑性エラストマ組成物のペレットを作製した。
前記導電性熱可塑性エラストマ組成物を構成する各成分の配合量は、表1に示すとおりとした。
【0104】
【表1】

【0105】
(導電性ローラの製造)
前記ペレットを、単軸押出成形機〔(株)サンエヌティー製、φ50〕のスクリュー部内で、回転数20rpm、ノズル先端部の設定温度200℃で加熱しながら混練して溶融させた状態で、前記スクリュー部の先端に接続した代の口金を通して筒状に押出成形して、ローラ本体のもとになる筒状体を作製した。筒状体の外径は12.5mm、内径は4.6mmであった。
【0106】
得られた筒状体の通孔にステンレス鋼製のシャフトを圧入し、次いで前記筒状体を長さ216mmにカットして導電性ローラを製造した。
〈実施例2〉
エピクロルヒドリンゴムとして、ECOに代えてGECO〔ダイソー(株)製のエピオン(登録商標)301〕を用いるとともに、前記GECO、チオウレア系架橋剤、グアニジン系架橋助剤、および受酸剤の配合量をそれぞれ表2に示す値としたこと以外は実施例1と同様にして導電性熱可塑性エラストマ組成物のペレットを作製し、導電性ローラを製造した。
【0107】
〈比較例1〉
エピクロルヒドリンゴムとしてのECOに代えて、
* オキサイド系エラストマとしてのEO−PO−AGE三元共重合体〔日本ゼオン(株)製のゼオスパン(登録商標)8030〕、および
* 前記EO−PO−AGE三元共重合体中にイオン導電性塩としてのトリフルオロメタンスルホン酸リチウム〔三光化学工業(株)製〕を練りこんで分散させた導電剤〔イオン導電性エラストマ:イオン導電性塩(質量比)=10:1〕
を用い、かつチオウレア系架橋剤、およびグアニジン系架橋助剤に代えて、それぞれ
* 過酸化物架橋剤としてのジ(tert−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン〔日油(株)製のパーブチル(登録商標)P〕、および
* ビスマレイミド系架橋助剤としてのN,N′−m−フェニレンビスマレイミド〔川口化学工業(株)製のアクター(登録商標)PBM−R〕、
を用いるとともに、前記各成分の配合量をそれぞれ表2に示す値とし、さらに受酸剤を省略したこと以外は実施例1と同様にして導電性熱可塑性エラストマ組成物のペレットを作製し、導電性ローラを製造した。
【0108】
〈比較例2〉
導電剤を省略し、かつEO−PO−AGE三元共重合体の配合量を表3に示す値としたこと以外は比較例1と同様にして導電性熱可塑性エラストマ組成物のペレットを作製し、導電性ローラを製造した。
〈比較例3〉
比較例1で使用したのと同じ導電剤を配合し、かつ前記導電剤、ECO、チオウレア系架橋剤、グアニジン系架橋助剤、および受酸剤の配合量をそれぞれ表3に示す値としたこと以外は実施例1と同様にして導電性熱可塑性エラストマ組成物のペレットを作製し、導電性ローラを製造した。
【0109】
〈比較例4〉
エピクロルヒドリンゴムとして、ECOに代えて、実施例2で使用したのと同じGECOを用いるとともに、前記GECO、導電剤、チオウレア系架橋剤、グアニジン系架橋助剤、および受酸剤の配合量をそれぞれ表3に示す値としたこと以外は比較例3と同様にして導電性熱可塑性エラストマ組成物のペレットを作製し、導電性ローラを製造した。
【0110】
〈ローラ抵抗値の上昇率測定〉
温度23℃、相対湿度55%の常温常湿環境下、先に説明した測定方法により、実施例、比較例で製造した導電性ローラ1の初期ローラ抵抗値と、連続通電後ローラ抵抗値とを測定した。
そして前記初期ローラ抵抗値、および連続通電後ローラ抵抗値から、式(ii):
ローラ抵抗値の上昇率=連続通電後ローラ抵抗値/初期ローラ抵抗値 (ii)
によって、ローラ抵抗値の上昇率を求めた。
【0111】
以上の結果を表2、表3に示す。
【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【0114】
表2、表3の比較例1、3、4の結果より、従来の、イオン導電性成分としてイオン導電性エラストマとイオン導電性塩とを併用した系では、連続通電後のローラ抵抗値の上昇率が2.0を超える、すなわちローラ抵抗値が2倍を超えて大幅に上昇することが判った。また比較例2の結果より、イオン導電性成分として、オキサイド系エラストマとしてのEO−PO−AGE三元共重合体を単独で使用した場合でも、連続通電後のローラ抵抗値の上昇率が2.0を超える、すなわちローラ抵抗値が2倍を超えて大幅に上昇することが判った。
【0115】
これに対し実施例1、2の結果より、イオン導電性成分としてエピクロルヒドリンゴムを単独で使用した場合には、連続通電後のローラ抵抗値の上昇率を2.0以下、すなわちローラ抵抗値の2倍以下に抑制できることが判った。
【符号の説明】
【0116】
1 導電性ローラ
2 ローラ本体
3 通孔
4 シャフト
5 外周面
6 アルミニウムドラム
7 外周面
8 直流電源
9 抵抗
10 計測回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性マトリクス樹脂を含む導電性熱可塑性エラストマ組成物であって、前記導電性熱可塑性エラストマ組成物にイオン導電性を付与するためのイオン導電性成分として、エピクロルヒドリンゴムを単独で用いたことを特徴とする導電性熱可塑性エラストマ組成物。
【請求項2】
前記エピクロルヒドリンゴムは、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド二元共重合体、およびエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の導電性熱可塑性エラストマ組成物。
【請求項3】
前記エピクロルヒドリンゴムは、前記熱可塑性マトリクス樹脂中で動的架橋されている請求項1または2に記載の導電性熱可塑性エラストマ組成物。
【請求項4】
架橋性ゴムをも含み、前記架橋性ゴムとエピクロルヒドリンゴムとは、それぞれ別個に、熱可塑性マトリクス樹脂中で動的架橋されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の導電性熱可塑性エラストマ組成物。
【請求項5】
相溶化剤としてのエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体をも含んでいる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の導電性熱可塑性エラストマ組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性マトリクス樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマ、およびポリプロピレンである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の導電性熱可塑性エラストマ組成物。
【請求項7】
前記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の導電性熱可塑性エラストマ組成物からなるローラ本体を備えることを特徴とする導電性ローラ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197397(P2012−197397A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64074(P2011−64074)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】