説明

導電性硬化性樹脂組成物、その硬化体、及びその成形体

【課題】導電性フィラーの充填量が比較的少なくても、その硬化体が導電性に優れ、耐熱性、放熱性にも優れ、さらに成形加工性にも優れた特に燃料電池用のセパレーター等の高導電性材料に好適な導電性硬化性樹脂組成物、その硬化体、及びその成形体を提供すること。
【解決手段】(A)黒鉛結晶中にホウ素を含む黒鉛粉末、(B)硬化性樹脂及び/または硬化性樹脂組成物、並びに(C)繊維径が0.05〜10μmであり、繊維長が1〜500μmの気相法炭素繊維及び/または繊維径が0.5〜100nmであり、繊維長が0.01〜10μmのカーボンナノチューブを含むことを特徴とする導電性硬化性樹脂組成物、その硬化体、及びその成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関するものであり、さらに詳しくは、導電性に加えて放熱性に優れた導電性硬化性樹脂組成物及びその硬化体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス産業を先頭として近年の技術革新はめざましいものがあり、これを支えている材料技術も、同様に、急速な進歩を遂げている。材料の一翼を担う高分子材料の開発についても例外ではなく、新規あるいは高性能の高分子材料が新たに多数開発され、それぞれ着実に使用範囲が広まってきている。
【0003】
エレクトロニクス分野において高分子材料に求められる主要な特性は、製品や用途によって様々であるが、成形性、耐熱性、耐久性、電気特性(高絶縁性や高導電性)、耐食性、放熱性等であり、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等に代表される熱硬化性樹脂や、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、液晶ポリマー等に代表される各種エンジニアリングプラスチック等が多く用いられている。
【0004】
ところで、上記に列挙した様な各種性能を総合的に具備した材料に対する要請はむろん強いものであるが、技術的に極めて困難な側面もあり、また、価格面でも不利となることが多い。そのような技術課題の1つに導電性(特に体積固有抵抗が1Ωcm以下の高導電性)であり、かつ、放熱性、耐熱性とを兼ね備えた高分子材料の開発が挙げられ、本発明の目的とする材料開発もこの点にある。すなわち、例えば、水素、アルコール等を燃料とする燃料電池用のセパレーター等電池分野の各種部材に使用される高導電性組成物が挙げられる。
【0005】
炭素系材料と熱硬化性樹脂の組成物とからなる高導電性組成物は、過去に多くの検討が成されている。例えば、特許文献1および2には、黒鉛とフェノール樹脂との組み合わせが開示されている。一方、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂をベース樹脂として用いた場合の技術に関しても、複数開示されている。
【0006】
さらに、これらの硬化性組成物は、より高い導電性が要求される用途では、成形した後に焼成し、炭化及び黒鉛化する方法が知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特公昭50−11355号公報
【特許文献2】特開昭59−213610号公報
【特許文献3】特開平8−222241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常の黒鉛粉末を含む硬化性樹脂組成物を用いた場合、本発明の硬化体と同様な導電性を得るためには、黒鉛粉末添加量を大幅に増やす必要があり、従って、比重が重くなるばかりでなく、圧縮成形、トランスファー成形や射出成形等の成形時の成形性が悪化してしまう欠点を有する。また、樹脂と通常の黒鉛粉末の組み合わせによる複合材では、接触抵抗が2×10-2Ωcm2以下の硬化体を得ることができなかった。
【0008】
さらに、高い導電性を得るために、成形体を1000〜3000℃の高温で長時間加熱を行う焼成の工程を含むと、製造に要する時間が長くなると共に、製造工程が煩雑となってコストが上昇してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、導電性フィラーの充填量が比較的少なくても、その硬化体が導電性に優れ、耐熱性、放熱性にも優れ、さらに加えて、成形加工性にも優れた導電性硬化性樹脂組成物、その硬化体、及びその成形体を提供することを主要な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはこのような状況に鑑み、黒鉛粉末と硬化性樹脂あるいはその単量体組成物(必要により開始剤等を含む。)を主原料として、その硬化体が優れた導電性を有し、かつ、耐熱性及び放熱性を示す導電性硬化性樹脂組成物の開発に鋭意取り組み、ホウ素を含有する特定の黒鉛と硬化性樹脂との組合せにより、本発明の目的に合致した導電性硬化性樹脂組成物及び硬化体の発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(19)に示される導電性硬化性樹脂組成物、その硬化体、及びその成形体に関する。
【0012】
(1)(A)黒鉛結晶中にホウ素を含む黒鉛粉末、(B)硬化性樹脂及び/または硬化性樹脂組成物、並びに(C)繊維径が0.05〜10μmであり、繊維長が1〜500μmの気相法炭素繊維及び/または繊維径が0.5〜100nmであり、繊維長が0.01〜10μmのカーボンナノチューブを含むことを特徴とする導電性硬化性樹脂組成物。
(2)(A)成分及び(C)成分の和と(B)成分の質量比(A+C:B)が20〜99.9:80〜0.1(和を100とする)であることを特徴とする(1)に記載の導電性硬化性樹脂組成物。
(3)(A)成分と(C)成分との質量比(和を100とする)が60〜99.9:40〜0.1であることを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
(4)(A)成分の黒鉛粉末の嵩密度が1.5g/cm3となるように加圧した状態において、加圧方向に対して直角方向の(A)成分の粉末電気比抵抗が0.06Ωcm以下であることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
(5)(A)成分の平均粒径が5μm〜80μmであることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
(6)(A)成分が、比表面積が3m2/g以下、アスペクト比が6以下、タッピング嵩密度が0.8g/cm3以上、格子間隔(Co値)が6.745Å以下の黒鉛粉末であることを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
(7)(A)成分が、コークスを原料とする黒鉛結晶であることを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかに記載の成形用導電性硬化性樹脂組成物。
(8)(B)成分が、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂及びアリルエステル樹脂から選ばれた少なくとも1種と、硬化剤とを含むことを特徴とする(1)ないし(7)のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
(9)(B)成分が、エポキシ樹脂とフェノール樹脂とを含有することを特徴とする(8)に記載の導電性硬化性樹脂組成物。
(10)エポキシ樹脂がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を含み、フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂を含むことを特徴とする(9)に記載の導電性硬化性樹脂組成物。
(11)(B)成分が、ビニルエステル樹脂及び/またはアリルエステル樹脂ならびにアリルエステルモノマー、アクリル酸エステルモノマー、メタクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーから選ばれた少なくとも1種のモノマーと、ラジカル重合開始剤とからなることを特徴とする(8)に記載の導電性硬化性樹脂組成物。
(12)ビニルエステル樹脂がノボラック型ビニルエステル樹脂であることを特徴とする(11)に記載の導電性硬化性樹脂組成物。
(13)(A)成分が、0.05質量%〜5.0質量%のホウ素を含有している黒鉛粉末であることを特徴とする(1)ないし(12)のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
(14)(1)ないし(13)のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物を硬化して得られる体積固有抵抗が2×10-2Ωcm以下、接触抵抗が2×10-2Ωcm2以下、及び熱伝導率が1.0W/m・K以上であることを特徴とする導電性硬化体。
(15)圧縮成形、トランスファー成形、射出成形または射出圧縮成形のいずれかで成形することを特徴とする(14)に記載の導電性硬化体の製造方法。
(16)(1)ないし(13)のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物であって、(C)成分を含まないときは(A)成分、(C)成分を含むときは(A)成分と(C)成分との和が50質量%〜95質量%である導電性硬化性樹脂組成物を硬化して得られる体積固有抵抗が2×10-2Ωcm以下、接触抵抗が2×10-2Ωcm2以下、熱伝導率が1.0W/m・K以上、及び通気率が1×10-6cm2/sec以下であることを特徴とする燃料電池用セパレーター。
(17)(1)ないし(13)のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物であって、(A)成分または(A)成分と(C)成分の和が50質量%〜95質量%である導電性硬化性樹脂組成物を硬化して得られる体積固有抵抗が2×10-2Ωcm以下、接触抵抗が2×10-2Ωcm2以下、熱伝導率が1.0W/m・K以上、及び通気率が1×10-6cm2/sec以下であることを特徴とする燃料電池用セパレーターを、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形または射出圧縮成形のいずれかで成形することを特徴とする燃料電池用セパレーターの製造方法。
(18)(1)ないし(13)のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物を硬化して得られる導電性硬化体。
(19)(1)ないし(13)のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物であって、(C)成分を含まないときは(A)成分、(C)成分を含むときは(A)成分と(C)成分との和が50質量%〜95質量%である導電性硬化性樹脂組成物を硬化して得られる燃料電池用セパレーター。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導電性硬化性樹脂組成物は、その硬化体が導電性に優れ、耐熱性、放熱性、及び耐腐食性に優れるので、従来実現が困難であった領域の材料、例えば、エレクトロニクス分野、電気製品、機械部品、車輌部品などの各種用途・部品に広く適用可能であり、特に固体高分子型燃料電池等の燃料電池のセパレーター用素材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明における(A)黒鉛粉末としては、黒鉛結晶中にホウ素を含有することを特徴とする。ホウ素を添加しない場合、黒鉛化すると黒鉛化度(結晶化度)が下がり、格子間隔(以下「Co値」という。)が大きくなり、高導電性の黒鉛粉末が得られない。また、ホウ素の含有の形態は黒鉛中にホウ素及び/またはホウ素化合物が混合されていれば、構わないが、黒鉛結晶の層間に存在するもの、黒鉛結晶を形成する炭素原子の一部がホウ素原子に置換されたものも、より好適なものとして挙げられる。また、炭素原子の一部がホウ素原子に置換された場合のホウ素原子と炭素原子の結合は、共有結合、イオン結合等どのような結合様式であっても構わない。
【0015】
本発明における(A)黒鉛粉末の比表面積は3m2/g(BET法)以下であることが好ましい。比表面積が3m2/gを超えると、導電性や成形性が悪くなることがある。この比表面積を小さくするには、粒径、粒子形状、粒度分布、表面性状等は重要な因子であり、これらの因子のうち粒子形状については、できるだけ球状に近い形状にすることが好ましい。
【0016】
さらに導電性を上げるためには、黒鉛粒子の充填密度を上げることが重要である。そのためにも黒鉛粉末粒子は鱗片状でなく、できるだけ球状に近いものが好ましい。この粒子の形状をアスペクト比で表わすと、本発明の黒鉛粉末のアスペクト比は6以下、好ましくは5以下である。導電性硬化性樹脂組成物を用いた成形には、圧縮成形、射出成形、トランスファー成形、または射出圧縮成形等が適用されるが、その際(A)成分である黒鉛粉末のアスペクト比が6を超えると、流動性が悪くなり、成形不良を起こすことがある。
【0017】
アスペクト比は一般に粒子の長軸の長さと短軸の長さの比(長軸の長さ/短軸の長さ)で表わされ、その値は粒子の顕微鏡写真等から求めることができるが、本発明ではアスペクト比を次のようにして算出した。
【0018】
まず、レーザー回折散乱法で算出した平均粒径Aと、電気的検知法(コール・カウンタ法)により算出した平均粒径Bを求める。ここで各測定原理から、Aは粒子の最大長さとした球の直径、Bは粒子と体積を同じにした球の直径と見なせる。そして粒子を円板と仮定し、この円板の底面直径をA、体積をC〔C=(4/3)×(B/2)3π〕とした場合、円板の厚みは、T=C/(A/2)2πで算出できる。したがってアスペクト比はA/Tで得られる。
【0019】
本発明の黒鉛粉末はタッピング嵩密度が0.8g/cm3以上、好ましくは0.9g/cm3以上である。0.8g/cm3未満では、充填性が悪くなり導電性または気密性が低下する。
【0020】
タッピング嵩密度は、一定量の黒鉛粉末(6.0g)を秤量したものを、15mmφの測定用セルに入れ、タッピング装置にセットし、落下高さを45mm、タッピング速度を2sec/回とし、400回自由落下させた後、測定した体積と質量の関係から算出する。
【0021】
黒鉛粉末のタッピング嵩密度は、粉末の粒径、形状、更には表面性状等に関係し、粒子の平均粒径が同一でも粒度分布によって異なる。従って、鱗片状の粒子が多かったり、微粉が多いとタッピング嵩密度は上がらない。例えば、単に黒鉛材料を平均粒径10μm〜30μm程度に粉砕したのでは、微粉が多く含まれ、タッピング嵩密度を0.8g/cm3以上にすることはかなり困難である。本発明の黒鉛粉末は、微粉はできるだけ少なく、粒度分布は広く、タッピング嵩密度は高いがアスペクト比が上記したように黒鉛粉末としては小さく、即ち鱗片状でないか、あるいは鱗片の程度が低いので、充填密度が高い高導電性の硬化体が得られる。
【0022】
本発明の(A)成分の黒鉛粉末は、できるだけ結晶性がよいものが望ましく、六角網面層が積み重なった黒鉛構造のCo値は6.745Å以下が望ましく、より好ましくは6.730Å以下、さらに好ましくは6.720Å以下である。このように黒鉛粉末の結晶化を高めることにより硬化体の電気比抵抗を下げることができる。
【0023】
黒鉛粉末にはホウ素、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素、その他の黒鉛化触媒を含有させることが考えられるが、特にホウ素は効果的で炭素粉末にホウ素を添加し、黒鉛化すると黒鉛化度(結晶化度)が上がり、Co値が小さくなる。また、同じ結晶化度の黒鉛にするのにホウ素を添加した場合は、添加しない場合に比べて処理温度を低くできる。
【0024】
本発明の黒鉛粉末は、嵩密度を1.5g/cm3としたときの加圧方向に対して、直角方向の粉末電気比抵抗ができるだけ低いことが望ましく、0.06Ωcm以下であることが好ましく、さらに0.01Ωcm以下であることがより好ましい。黒鉛粉末の電気比抵抗が0.06Ωcmを超えると、硬化性樹脂との組成物を硬化して得られる硬化体の導電性が低くなり、所望の硬化体が得られない。
【0025】
この黒鉛粉末の電気比抵抗の測定法は図1に示す。図1において1、1’は銅板からなる電極、2は樹脂からなる圧縮ロッド、3は受け台、4は側枠で、いずれも樹脂からなる。5は試料の黒鉛粉末である。6は試料の下端で、紙面に垂直方向の中央部に設けられている電圧測定端子である。
【0026】
この図1に示す四端子法を用いて、以下のようにして試料の電気比抵抗を測定する。試料を圧縮ロッド2により圧縮する。電極1より電極1’へ電流(I)を流す。端子6により端子間の電圧(V)を測定する。このとき電圧は試料を圧縮ロッドにより嵩密度1.5g/cm3としたときの値を用いる。試料の電気抵抗(端子間)をR(Ω)とするとR=V/Iとなる。これからρ=R・S/Lにより電気比抵抗を求めることができる〔ρ:電気比抵抗、S=試料の通電方向、即ち加圧方向に対し、直角方向の断面積(cm2)、Lは端子6間の距離(cm)である。〕。実際の測定では試料は直角方向の断面は横が約1cm、縦(高さ)が0.5cm〜1cm、通電方向の長さ4cm、端子間の距離(L)は1cmである。
【0027】
本発明の硬化体の導電性を高めるためには、黒鉛粉末の導電性を高めることが必要である。そのため、黒鉛自体の導電性を高めることが必要であり、そのためには黒鉛の結晶性の向上が求められる。例えば、易黒鉛化性の原料から製造された黒鉛を用いたり、あるいは黒鉛化の温度を高める。さらにホウ素等の黒鉛化触媒を用いて、黒鉛の結晶性を高めることも効果がある。また黒鉛の粒子同士の接点数を少なくすること、即ち微粉の含有量を少なくすることも有効である。導電性の点からは、黒鉛粒子は大きい方がよいが、成形品の表面が粗くなるため、あまり大きな黒鉛粒子を用いることはできない。したがって、組成物の成形及び硬化体としたときに支障のない範囲で、黒鉛粉末の平均粒径をできるだけ大きくすることが好ましい。
【0028】
本発明における黒鉛粉末の粒度は、平均粒径で5μm〜80μmが好ましく、さらに好ましくは20μm〜50μmである。粒径は、レーザー回折散乱法で測定した。具体的には、サンプル50mgを秤量し、50mlの蒸留水に添加し、更に2%Triton(界面活性剤)水溶液0.2mlを加えて3分間超音波分散させた後、日機装(株)製のマイクロトラックHRA装置で測定したものである。
【0029】
本発明の(A)黒鉛粉末は以下のようにして製造することができる。
【0030】
黒鉛粉末を得るには、通常は先ずコークスを製造する。コークスの原料は石油系ピッチ、石炭系のピッチなどが用いられる。これらの原料を炭化してコークスとする。コークスから黒鉛化粉末にするには一般的にコークスを粉砕後黒鉛化処理する方法、コークス自体を黒鉛化した後粉砕する方法、あるいはコークスにバインダーを加え成形、焼成した焼成品(コークス及びこの焼成品を合わせてコークス等という)を黒鉛化処理後粉砕して粉末とする方法等がある。
【0031】
ところがコークス等を黒鉛化後に粉砕すると、結晶が発達しているので、粉砕した際に鱗片状の粉末になり易い。したがって本発明においてアスペクト比の小さい、より球状に近い粉末粒子とするためには、黒鉛化していないコークス等を粉砕し、これを分級等して所定の粒度と比表面積に調整した後、これを黒鉛化処理するのが望ましい。原料のコークス等はできるだけ、結晶の発達していない方が良いので、2000℃以下、好ましくは1200℃以下で加熱処理したものが適する。
【0032】
また、粉砕後のアスペクト比は、原料コークスの種類によっても異なる。コークスには易黒鉛化性のいわゆる針状コークスと、これよりも黒鉛化性の悪い非針状コークスがあることが知られている。本発明者の知見によればコークスを粉砕し、粉末とする場合、非針状コークスが、アスペクト比の小さい粉末粒子を得るのに適していることがわかった。したがって原料コークスとしては2000℃以下、好ましくは1200℃以下で加熱処理した非針状コークスが好ましい。
【0033】
コークス等の粉末を黒鉛化処理すると結晶化が進むだけでなく、同時に粒子の表面積が小さくなり、この点に置いても都合がよいことを見出した。例えばコークスを粉砕して得た平均粒径約10μmのコークス粉末の比表面積は約14m2/gであるが、これを2800℃以上で黒鉛化すると、比表面積は2m2/g〜3m2/gとなる。しかし、黒鉛化してから粉砕した場合には、粒径によっても異なるが、少なくとも5m2/g以上、場合によっては10m2/g以上になる。これに比較して、粉砕後に黒鉛化する方法では、黒鉛化するときに炭素原子が再配列され、また高温で表面の一部が蒸発することによって、表面が清浄あるいは平滑化されたため、比表面積が低下すると考えられる。
【0034】
コークス等の粉砕には、高速回転粉砕機(ハンマーミル、ピンミル、ケージミル)や各種ボールミル(転動ミル、振動ミル、遊星ミル)、撹拌ミル(ビーズミル、アトライター、流通管型ミル、アニュラーミル)等が使用できる。また、微粉砕機のスクリーンミル、ターボミル、スーパーミクロンミル、ジェットミルでも条件を選定することによって使用可能である。これらの粉砕機を用いてコークス等を粉砕し、その際の粉砕条件の選定、及び必要により粉末を分級し、平均粒径が好ましくは5μm〜80μmの範囲に入るようにする。さらに好ましくは粒径が3μm以下及び/または80μmを超える粒子を実質的に除去し、これらの粒子が各々5質量%以下、好ましくは1質量%以下になるようにする。
【0035】
コークス粉末等を分級する方法としては、分離が可能であれば何れでも良いが、例えば、箭分方や強制渦流型遠心分級機(ミクロンセパレーター、ターボプレックス、ターボクラシファイアー、スーパーセパレーター)、慣性分級機(改良型バーチュウアルインパクター、エルボジェット)等の気流分級機が使用できる。また湿式の沈降分離法や遠心分級法等も使用できる。
【0036】
更に、本発明の黒鉛粉末を得るために、黒鉛化処理前のコークス等の粉末にホウ素源としてB単体、H3BO3、B23、B4C、BN等を添加し、良く混合して黒鉛化する。ホウ素化合物の混合が不均一だと、黒鉛粉末が不均一になるだけでなく、黒鉛化時に焼結する可能性が高くなる。均一に混合させるために、これらのホウ素源は50μm以下、好ましくは20μm以下程度の粒径を有する粉末にしてコークス等の粉末に混合することが好ましい。また、本発明の(A)成分に含まれるホウ素は、黒鉛粉末量に対して0.05質量%〜5.0質量%であることが好ましい。ホウ素量が0.05質量%未満では、目的とする高導電性の黒鉛粉末が得られないことがあり、好ましくない。ホウ素量が5.0質量%を超えて含まれていても、黒鉛粉末の導電性の向上の改善効果は小さく、好ましくない。
【0037】
ホウ素源を含むコークス等の粉末の黒鉛化温度は高い方が好ましいが、装置等の制約があるので、2500〜3200℃の範囲が好ましい。黒鉛化方法は、粉末を黒鉛ルツボに入れ直接通電するアチソン炉を用いる方法、黒鉛発熱体により粉末を加熱する方法等を用いることができる。
【0038】
本発明で用いる(C)成分の気相法炭素繊維は、例えばベンゼン、トルエン、天然ガス等の有機化合物を原料に、フェロセン等の遷移金属触媒の存在下で、水素ガスとともに800〜1300℃で熱分解反応させることによって得られる。さらに、その後約2500〜3200℃で黒鉛化処理することが好ましい。より好ましくは、ホウ素、炭化ホウ素、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素等の黒鉛化触媒とともに約2500〜3200℃で黒鉛化処理する。
【0039】
本発明においては、繊維径が0.05〜10μm、繊維長が1〜500μmの気相法炭素繊維を用いることが好ましく、より好ましくは繊維径が0.1〜5μm、繊維長が5〜50μmであり、さらに好ましくは繊維径が0.1〜0.5μm、繊維長が10〜20μmである。
【0040】
また、本発明の(C)成分のカーボンナノチューブは、近年その機械的強度のみでなく、電界放出機能や、水素吸蔵機能が産業上注目され、さらに磁気機能にも目が向けられ始めている。この種のカーボンナノチューブは、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ、カーボンナノファイバーなどとも呼ばれている。カーボンナノチューブにはチューブを形成するグラファイト膜が一層である単層カーボンナノチューブと、多層である多層カーボンナノチューブがある。本発明では、どちらも使用可能であるが、好ましくは単層カーボンナノチューブを用いた方が、より高い導電性や機械的強度の硬化体が得られる。
【0041】
カーボンナノチューブは、例えば、コロナ社出版「カーボンナノチューブの基礎」に記載(P23〜P57、1998年発行)のアーク放電法、レーザ蒸発法及び熱分解法などにより作製し、さらに純度を高めるために水熱法、遠心分離法、限外ろ過法、及び酸化法等により精製することによって得られる。より好ましくは、不純物を取り除くために約2500〜3200℃の不活性ガス雰囲気中で高温処理する。さらに好ましくは、ホウ素、炭化ホウ素、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素等の黒鉛化触媒とともに、不活性ガス雰囲気中、約2500〜3200℃で高温処理する。
【0042】
本発明においては、繊維径が0.5〜100nm、繊維長が0.01〜10μmのカーボンナノチューブを用いることが好ましく、より好ましくは繊維径が1〜10nm、繊維長が0.05〜5μmであり、さらに好ましくは繊維径が1〜5nm、繊維長が0.1〜3μmである。
【0043】
本発明における気相法炭素繊維とカーボンナノチューブの繊維径、及び繊維長は電子顕微鏡により測定することができる。
【0044】
本発明では(A)成分(黒鉛結晶中にホウ素を含む黒鉛粉末)と(C)成分(繊維径が0.05〜10μmであり、繊維長が1〜500μmの気相法炭素繊維及び/または繊維径が0.5〜100nmであり、繊維長が0.01〜10μmのカーボンナノチューブ)との質量比は60〜99.9:40〜0.1であることが好ましく、70〜99:30〜1であることがより好ましく、80〜95:20〜5であることが更に好ましい。C成分の比率が40を越えると、成形性が悪くなることがある。
【0045】
本発明の導電性硬化性樹脂組成物が(C)成分を含む場合、その硬化体の導電性および機械的強度はさらに高まる。
【0046】
本発明における(B)成分の硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アリルエステル樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂及びアリルエステル樹脂から選ばれた少なくとも1種の硬化性樹脂であることが好ましい。
【0048】
本発明におけるフェノール樹脂としては、具体的には、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0049】
本発明における不飽和ポリエステル樹脂としては、具体的には、原料の2塩基酸により、オルソフタル酸系、イソフタル酸系、テレフタル酸系、アジピン酸系、ヘット酸系(HET酸;ヘキサクロル−3,6−エンドメチレン−テトラヒドロ無水フタル酸)、3,6−エンドメチレン−テトラヒドロ無水フタル酸系、マレイン酸系、フマル酸系、イタコン酸系等が挙げられる。
【0050】
本発明におけるエポキシ樹脂としては、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0051】
本発明におけるビニルエステル樹脂としては、具体的には、ノボラック型ビニルエステル樹脂、ビスフェノール型ビニルエステル樹脂等が挙げられる。
【0052】
本発明におけるアリルエステル樹脂としては、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸のエステル、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグルコール等の多価アルコール、及びアリルアルコールから製造されるもの等が挙げられる。
【0053】
上記の硬化性樹脂は、1種単独でまたは2種以上混合して用いることができる。また、その添加量は(A)成分及び(C)成分の和と硬化性樹脂及び/または硬化性樹脂組成物(B)の質量比、すなわちA+C:Bで、20〜99.9:80〜0.1の割合である。但し、質量比の和を100とし、(C)成分を含まないときはA:Bの質量比とする。(B)成分の添加量が80質量%を超え、黒鉛粉末が20質量%未満になると、硬化体の導電性が低くなる。
【0054】
中でも気密性が要求される分野では、エポキシ樹脂とフェノール樹脂の組み合わせ、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アリルエステル樹脂など、硬化反応においてガスが発生しない樹脂を選択することが好ましい。これらの樹脂を用いることによって硬化体中に空隙がない、気密性の高い成形体を得ることができる。
【0055】
さらに、耐熱性、耐酸性などが要求される分野では、ビスフェノールA型、ノボラック型、クレゾールノボラック型などの分子骨格をもつ樹脂が好ましい。例えば、エポキシ樹脂とフェノール樹脂の組み合わせの場合、エポキシ樹脂がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を含み、フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂を含むものが耐熱性、耐薬品性、気密性を向上できるため、好ましいものとして挙げられる。さらには、ビニルエステル樹脂がノボラック型ビニルエステル樹脂を含むものであるものは、耐熱性、耐薬品性、気密性、成形加工性を向上することができるという点で好ましい。
【0056】
本発明においては、(B)成分の硬化性樹脂組成物の成分として、上記の硬化性樹脂に、アリルエステルモノマー、アクリル酸エステルモノマー、メタクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマー等のモノマーを添加することができる。
【0057】
本発明におけるアリルエステルモノマーの具体例としては、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジメタリル、テレフタル酸ジアリル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアリル、1,5−ナフタレンジカルボン酸ジアリル、1,4−キシレンジカルボン酸アリル、4,4’−ジフェニルジカルボン酸ジアリル等の芳香族カルボン酸ジアリル類、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル等が例示される。
【0058】
また、アクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーの具体例としては、フェノキシエチルメタクリレート、イソノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート等を挙げることができる。さらに、難燃性を付与する目的で、これらのハロゲン置換化合物を利用することもできる。
【0059】
またスチレンモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸、4−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等を挙げることができる。これのうち好ましくはスチレンである。
【0060】
本発明における硬化剤としては、ラジカル重合開始剤が望ましく、ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、光重合開始剤等が挙げられる。本発明においては有機過酸化物がより好ましい。有機過酸化物としては、ジアルキルパーオキサイド、アシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシエステル等の公知のものを用いることができる。具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、2,5−ジメチル2,5−ジ(2−エチルヘキサノイリル)パーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジブチルパーオキシヘキサン等が挙げられる。
【0061】
また、光重合開始剤としては、例えば2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モンフォリノプロパン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は1種でもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
さらに本発明の導電性硬化性樹脂組成物には、硬度、強度、導電性、成形性、耐久性、耐候性、耐水性等を改良する目的で、ガラスファイバー、カーボンファイバー、紫外線安定剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤、離型剤、滑剤、撥水剤、増粘剤、低収縮剤、親水性付与剤等の添加剤を添加できる。
【0063】
本発明の導電性硬化性樹脂組成物を得るには、上記各成分をロール、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等の樹脂分野で一般的に用いられている混合機、混練機を使用し、硬化が開始しない温度で一定に保ちながら、なるべく均一に混合させるのが好ましい。また、ラジカル重合開始剤を添加する場合は、その他の全ての成分を均一に混合してから、最後にラジカル重合開始剤を加えて混合するのが良い。
【0064】
得られた導電性硬化性樹脂組成物は、粉末、顆粒、ペレット、タブレット、シート等の形状にして、最終的な成形工程に供することができる。
【0065】
本発明の導電性硬化性樹脂組成物の成形方法としては、特に限定されないが、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形または射出圧縮成形など一般的に知られている成形法を用いて所望の形状に賦形するとともに、加熱して硬化させることができる。また、不飽和結合を有する樹脂については高エネルギー線を照射してラジカルを発生させ、硬化させることができる。加熱硬化の条件としては、組成物の種類に応じて最適温度を選定、探索することが重要である。例えば、120〜200℃の温度範囲で、30秒間〜1200秒間という加熱範囲で適宜決定することができる。また、加熱成形後、150〜200℃の温度範囲で10分間〜600分間アフターキュアーを施すことによって完全な硬化を実施し得る。
【0066】
また、本発明の導電性硬化性樹脂組成物は、有機溶剤を含有せずに良好な加工性、作業性を有している。この点は、近年、作業者への安全性及び地球環境の保全が重要視される傾向にある中で非常に価値がある。無論、本発明の導電性硬化性樹脂組成物の成形加工性を一層高めるために、溶剤の添加による流動性の一段の向上を図ることも可能である。
【0067】
本発明の導電性硬化体としては、以下に述べる特性を有するものが好ましい。すなわち、体積固有抵抗は2×10-2Ωcm以下が好ましく、より好ましくは8×10-3Ωcm以下であり、特に燃料電池用セパレーター用途には5×10-3Ωcm以下が好適に用いられる。接触抵抗は2×10-2Ωcm2以下が好ましく、より好ましくは1×10-2Ωcm2以下であり、とりわけ7×10-3Ωcm2以下が好適である。熱伝導率は1.0W/m・K以上が好ましく、より好ましくは4.0W/m・K以上であり、とりわけ10W/m・K以上が好適である。また、燃料電池用セパレーターとして重要な特性値である通気率は1×10-6cm2/sec以下が好ましく、より好ましくは1×10-8cm2/sec以下であり、とりわけ1×10-9cm2/sec以下が好適である。
【0068】
また、本発明の導電性硬化性樹脂組成物の硬化体は、黒鉛の導電性や熱伝導性を限りなく再現でき、耐熱性、耐食性、成形精度等に優れる点で極めて高性能な複合材料である。従って、エレクトロニクス分野、電機、機械、車輌などの各種部品等の各用途に有用であり、特に、燃料電池用セパレーター材料は好適な一例として挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。
【0070】
用いた材料を以下に示す。
(A)成分(黒鉛粉末)A−1〜A−4:非針状コークス(か焼品)である新日鉄化学(株)製LPC−Sコークス(以下「コークスA」という。)をパルベライザー〔ホソカワミクロン(株)製〕で2mm〜3mm以下の大きさに粗粉砕した。この粗粉砕品をジェットミル(IDS2UR、日本ニューマチック(株)製)で微粉砕した。その後、分級により所望の粒径に調整した。5μm以下の粒子除去は、ターボクラシファイアー(TC15N、日清エンジニアリング(株)製)を用い、気流分級を行った。この調整した微粉砕品の一部14.4kgに炭化ホウ素(B4C)0.6kgを加え、ヘンシェルミキサーにて800rpmで5分間混合した。これを内径40cm、容積40リットルの蓋付き黒鉛ルツボに封入し、黒鉛ヒーターを用いた黒鉛化炉に入れて2900℃の温度で黒鉛化した。これを放冷後、粉末を取り出し、14kgの粉末を得た。
【0071】
A−5:コークスAをパルベライザーで2mm〜3mm以下の大きさに粗粉砕した。この粗粉砕品をジェットミルで微粉砕した。その後、分級により所望の粒径に調整した。5μm以下の粒子除去は、ターボクラシファイアーを用い、気流分級を行った。これを内径40cm、容積40リットルの蓋付き黒鉛ルツボに封入し、黒鉛ヒーターを用いた黒鉛化炉に入れて2900℃の温度で黒鉛化した。これを放冷後、粉末を取り出し、14kgの粉末を得た。
【0072】
A−6,A−8,A−9:コークスAをそのまま同様の黒鉛化炉に入れて、2800℃の温度で黒鉛化した。これを放冷後、粉末を取り出し、その一部15kgの粉末を、パルベライザーで2mm〜3mm以下の大きさに粗粉砕した。この粗粉砕品をジェットミルで微粉砕した。その後、分級により所望の粒径に調整した。
【0073】
A−7:針状コークス(か焼品)である新日鉄化学(株)製LPC−ULをそのまま同様の黒鉛化炉に入れて、2800℃の温度で黒鉛化した。これを放冷後、粉末を取り出し、その一部15kgの粉末を、パルベライザーで2mm〜3mm以下の大きさに粗粉砕した。この粗粉砕品をジェットミルで微粉砕した。その後、分級により所望の粒径に調整した。この調整した5μm以下の粒子除去は、ターボクラシファイアーを用い、気流分級を行った。
【0074】
(A)成分、A−1〜A−9の物性を表1に示した。
【0075】
(B)成分(硬化性樹脂及び/または硬化性樹脂組成物)表2記載の材料を用いて表3記載の組成に混合した硬化性樹脂組成物、または表2記載の硬化性樹脂を、(B)成分、B−1〜B−8とした。
【0076】
(C)成分
C−1:VGCF−G:昭和電工社製気相法炭素繊維(繊維径0.1〜0.3μm、繊維長10〜50μm)
【0077】
C−2:CNT:カーボンナノチューブ直径6mm、長さ50mmのグラファイト棒に、先端から中心軸に沿って直径3mm、深さ30mmの穴をあけ、この穴にロジウム(Rh):白金(Pt):グラファイト(C)を重量比率1:1:1の混合粉末として詰め込み、陽極を作製した。一方、99.98%純度のグラファイトからなる、直径13mm、長さ30mmの陰極を作製した。これらの電極を反応容器に対向配置し、直流電源に接続した。そして、反応容器内を純度99.9%のヘリウムガスで置換し、直流アーク放電を行った。その後、反応容器内壁に付着した煤(チャンバー煤)と陰極に堆積した煤(陰極煤)を回収した。反応容器中の圧力と電流は、600Torrと70Aで行った。反応中は、陽極と陰極間のギャップが常に1〜2mmになるように操作した。
【0078】
回収した煤は、水とエタノールが1:1の混合溶媒中に入れ超音波分散させ、その分散液を回収して、ロータリエバポレーターで溶媒を除去した。そして、その試料を陽イオン界面活性剤である塩化ベンザルコニウムの0.1%水溶液中に超音波分散させた後、5000rpmで30分間遠心分離して、その分散液を回収した。さらに、その分散液を350℃の空気中で5時間熱処理することによって精製し、繊維径が1〜10nm、繊維長が0.05〜5μmのカーボンナノチューブを得た。
【0079】
硬化体の物性の測定方法を以下に示す。
【0080】
通気率は、JIS K7126 A法に準拠し、23℃で窒素ガスを用いて測定した。
【0081】
体積固有抵抗は、JIS K7194に準拠し、四探針法により測定した。
【0082】
圧縮強度は、JIS K7181に準拠し、試験片(20mm×20mm×2mm)を圧縮速度1mm/minの条件で測定した。
【0083】
曲げ強度及び曲げ弾性率は、JIS K6911に準拠し、試験片(80mm×10mm×4mm)をスパン間隔64mm、曲げ速度2mm/minの条件で3点式曲げ強度測定法により測定した。
【0084】
比重は、JIS K7112のA法(水中置換法)に準じて測定した。
【0085】
熱伝導率は、レーザーフラッシュ法(t1/2法、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置 LF/TCM FA8510B 理学電気社製)により、試験片(φ10mm、厚さ 1.7mm)を温度80℃、真空中、照射光ルビーレーザー光(励起電圧2.5kV)の条件で測定した。
【0086】
接触抵抗値は、図2に示した装置により試験片11(20mm×20mm×2mm)と炭素板12(1.5×10-3Ωcm、20mm×20mm×1mm)を接触させ、それを銅板13ではさみ、98Nの荷重を加える。そして、1Aの定電流を貫通方向に流して、試験片11と炭素板12の界面に端子14を接触させて電圧を測定することによって抵抗値を計算した。その値に、接触している断面積を積算して接触抵抗値とした。
【0087】
耐熱性は、パーフェクトオーブン中で温度140℃、空気雰囲気で2000時間、曲げ試験片を放置し、その後の曲げ強度の変化率が20%以下、20〜50%、50%以上の3段階の評価で比較した。
【0088】
耐酸性は、5%硫酸水溶液中を温度90℃に保ち、100時間浸漬させ、その後の曲げ強度の変化率が20%以下、20〜50%、50%以上の3段階の評価で比較した。
【0089】
スパイラルフローは、トランスファー成形機50tを使用し、圧力10MPaで成形し、そのスパイラルフロー長を測定した。
【0090】
実施例1〜8、10〜13、17、19〜20及び比較例1〜7、9〜12、16〜18は撹拌翼が自転、公転する機構の万能混合攪拌機を用いて、温度40℃で30分間混練しながら配合して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物は、23℃で3ヶ月間保存した後でもその性状に変化が見られず保存安定性に優れていた。なお、樹脂組成物の総量に対し、重合禁止剤としてハイドロキノンを0.05質量部添加した。
【0091】
得られた樹脂組成物は圧縮成形機を用いて、140℃で5分間加圧加熱し、硬化させ、厚さ100mm×100mm×2mmの硬化体を成形した。なお、重合開始剤としてジクミルパーオキサイドを用いた実施例14については180℃で5分間加圧加熱し、硬化させて硬化体を得た。
【0092】
実施例9、14〜16、17及び比較例8、13〜15はニーダーを用いて、温度80℃で15分間混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物は圧縮成形機を用いて、180℃で5分間加圧加熱し、硬化させて硬化体を得た。
【0093】
上記の実施例及び比較例の組成割合(質量比)を表4、6、8に示し、それぞれの物性測定結果に付いては表5、7、9に示した。また、実施例2、17〜20、及び比較例16〜18で行ったスパイラルフローの結果を表10に示した。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
【表6】

【0100】
【表7】

【0101】
【表8】

【0102】
【表9】

【0103】
【表10】

【0104】
表1に、ホウ素を入れて黒鉛化したことにより、格子間隔が狭くなり結晶性が高い黒鉛が得られたことを示した。これらの黒鉛を用いた導電性硬化性樹脂組成物の硬化体は、ホウ素のない黒鉛を用いた例に比べ高い導電性の硬化体が得られていた。その中でも、タッピング嵩密度が大きい黒鉛や、粒度分布が広く、粒径の大きい黒鉛を用いることで、さらに高い導電性の硬化体が得られた。
【0105】
従って、樹脂量を増やしても充分な導電性が発現するため、目的の高導電性を維持した状態で成形加工性を改良できた。
【0106】
成形加工性は、アスペクト比が小さい黒鉛粉末を用いることで、さらに流動性が良くなった。しかし、粒径が80μm以上の黒鉛粉末がある場合は、流動性が低下し成形不良を招いた。
【0107】
硬化性樹脂としてノボラック型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、やフェノール樹脂を用いた組成物は耐酸性、耐熱性が向上した。しかし、フェノール樹脂だけの反応では水が発生して、硬化体に気孔が多数でき、その影響で通気率は悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】黒鉛粉末の電気比抵抗の測定方法を表す図である。
【図2】黒鉛粉末の電気比抵抗の計算方法を説明する図である。
【図3】硬化体の接触抵抗の測定方法を表す図である。
【符号の説明】
【0109】
1 電極(+)
1’ 電極(−)
2 圧縮ロッド
3 受け台
4 側枠
5 試料
6 電圧測定端子
11 試験片
12 炭素板
13 銅板
14 端子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)黒鉛結晶中にホウ素を含む黒鉛粉末、(B)硬化性樹脂及び/または硬化性樹脂組成物、並びに(C)繊維径が0.05〜10μmであり、繊維長が1〜500μmの気相法炭素繊維及び/または繊維径が0.5〜100nmであり、繊維長が0.01〜10μmのカーボンナノチューブを含むことを特徴とする導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分及び(C)成分の和と(B)成分の質量比(A+C:B)が20〜99.9:80〜0.1(和を100とする)であることを特徴とする請求項1に記載の導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分と(C)成分との質量比(和を100とする)が60〜99.9:40〜0.1であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分の黒鉛粉末の嵩密度が1.5g/cm3となるように加圧した状態において、加圧方向に対して直角方向の(A)成分の粉末電気比抵抗が0.06Ωcm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分の平均粒径が5μm〜80μmであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
(A)成分が、比表面積が3m2/g以下、アスペクト比が6以下、タッピング嵩密度が0.8g/cm3以上、格子間隔(Co値)が6.745Å以下の黒鉛粉末であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
(A)成分が、コークスを原料とする黒鉛結晶であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の成形用導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
(B)成分が、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂及びアリルエステル樹脂から選ばれた少なくとも1種と、硬化剤とを含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
(B)成分が、エポキシ樹脂とフェノール樹脂とを含有することを特徴とする請求項8に記載の導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
エポキシ樹脂がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を含み、フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂を含むことを特徴とする請求項9に記載の導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
(B)成分が、ビニルエステル樹脂及び/またはアリルエステル樹脂ならびにアリルエステルモノマー、アクリル酸エステルモノマー、メタクリル酸エステルモノマー及びスチレンモノマーから選ばれた少なくとも1種のモノマーと、ラジカル重合開始剤とからなることを特徴とする請求項8に記載の導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
ビニルエステル樹脂がノボラック型ビニルエステル樹脂であることを特徴とする請求項11に記載の導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
(A)成分が、0.05質量%〜5.0質量%のホウ素を含有している黒鉛粉末であることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物を硬化して得られる体積固有抵抗が2×10-2Ωcm以下、接触抵抗が2×10-2Ωcm2以下、及び熱伝導率が1.0W/m・K以上であることを特徴とする導電性硬化体。
【請求項15】
圧縮成形、トランスファー成形、射出成形または射出圧縮成形のいずれかで成形することを特徴とする請求項14に記載の導電性硬化体の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし13のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物であって、(C)成分を含まないときは(A)成分、(C)成分を含むときは(A)成分と(C)成分との和が50質量%〜95質量%である導電性硬化性樹脂組成物を硬化して得られる体積固有抵抗が2×10-2Ωcm以下、接触抵抗が2×10-2Ωcm2以下、熱伝導率が1.0W/m・K以上、及び通気率が1×10-6cm2/sec以下であることを特徴とする燃料電池用セパレーター。
【請求項17】
請求項1ないし13のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物であって、(A)成分または(A)成分と(C)成分の和が50質量%〜95質量%である導電性硬化性樹脂組成物を硬化して得られる体積固有抵抗が2×10-2Ωcm以下、接触抵抗が2×10-2Ωcm2以下、熱伝導率が1.0W/m・K以上、及び通気率が1×10-6cm2/sec以下であることを特徴とする燃料電池用セパレーターを、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形または射出圧縮成形のいずれかで成形することを特徴とする燃料電池用セパレーターの製造方法。
【請求項18】
請求項1ないし13のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物を硬化して得られる導電性硬化体。
【請求項19】
請求項1ないし13のいずれかに記載の導電性硬化性樹脂組成物であって、(C)成分を含まないときは(A)成分、(C)成分を含むときは(A)成分と(C)成分との和が50質量%〜95質量%である導電性硬化性樹脂組成物を硬化して得られる燃料電池用セパレーター。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−191718(P2007−191718A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34313(P2007−34313)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【分割の表示】特願2001−113764(P2001−113764)の分割
【原出願日】平成13年4月12日(2001.4.12)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】