説明

導電性粉体

本発明は、特に樹脂組成物の種々の用途におけるポリマーマトリックスに導電性を与える導電性粒子に関する。ここで、タングステンおよびリンがドープされた酸化スズ(TPTO)により被覆されている無機基礎材料、特にTiO粒子が、全ての使用にとって、特に自動車用プラスチック部品上における静電塗装の導電性プライマーにとって十分に高い導電性を有することが見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に樹脂組成物の種々の用途におけるポリマーマトリックスに導電性を与える導電性粒子に関する。導電性粉体は、樹脂組成物、塗料およびプライマーの用途においてポリマーマトリックスに導電性を与えるために、ポリマーマトリックス中に混合するのに適している。
【背景技術】
【0002】
導電性粒子は種々の用途分野、例えば、プラスチック材料(塗膜、フィルム、シート、成形品など)の帯電防止処理、または、プラスチック材料の静電塗装のための導電性ラッカーにおいて使用される。
【0003】
プラスチック材料の塗装方法としては、環境にラッカーをほとんど放出しない静電スプレー塗装が広く適用されつつある。静電塗装の場合、プラスチック基礎材料の電気抵抗値が高く、プラスチック基礎材料の表面上に導電層(プライマー)を被覆することで、より高い導電性が与えられ、着色塗装用に静電スプレー塗装を行うことができる。特に、黒色のプラスチック基礎材料上に白く明るい色を生成するためには、白色系の隠蔽力がある導電性粉体を開発する必要がある。
【0004】
導電性および低コストは別として、カーボンブラックは、黒色またはモノクロ階調しか達成できず、よって透明および明着色塗装においては使用できないという不都合を有する。
【0005】
着色の観点から、現在、アンチモンがドープされた酸化スズ(ATO)が、帯電防止塗装の種々の用途において使用されている。しかしながら、最近、ATO中に含有されるアンチモンの毒性が懸念されており、アンチモンを含有しない導電性粉体が求められている。
【0006】
従って、アンチモンを含有せず透明および明着色塗装において使用できる安定な導電性顔料に対する要求がある。
【0007】
アンチモンを含有しない導電性材料は国際特許出願公開第95/11512号パンフレット(特許文献1)より既知であり、タングステンおよび/またはリンがドープされた酸化スズを対象としている。一方、無機粒子上に被覆されたタングステンがドープされている酸化スズ(TTO)およびリンがドープされている酸化スズ(PTO)が報告されている。日本国特許出願公開第2002−179948号公報(特許文献2)およびドイツ国特許第10148055号明細書(特許文献3)には、無機粒子上に被覆されたTTOが記載されている。しかしながら、TTOで被覆された無機粒子の導電性は、種々の帯電防止塗装の用途にとって不十分である。理由の1つはタングステンのドープ含有量がスズ元素に対して3原子%未満に限られていることで、ATOおよびPTOと比較して、導電性を生じるキャリア密度がより低いことを意味する。
【0008】
日本国特許第3357107号明細書(特許文献4)、日本国特許出願公開第1995−250997号公報(特許文献5)および日本国特許出願公開第2004−349167号公報(特許文献6)には、無機粒子上に被覆されたPTOが記載されている。しかしながら、PTOで被覆された無機粒子では、空気中に置いた場合、経時に伴い粉体の導電性が低下する問題が生じる。よって、PTOの導電性は、酸素および湿度に容易に影響される。
【0009】
薄片状の酸化アルミニウム上に被覆されたタングステンおよびリンでドープされている酸化スズ(TPTO)が、国際特許出願公開第2009/018984号パンフレット(特許文献7)において報告されている。しかしながら、この発明の目的は、十分な透明性を有する導電性粉体を提供することである。
【0010】
従って、黒色基礎材料上において白く明るい色を示し、導電性を別としても白色系の隠蔽力を付与する安定な導電性粒子に対する要求がある。これらの特徴は、黒色基礎材料上における静電塗装用の導電性プライマーの重要な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際特許出願公開第95/11512号パンフレット
【特許文献2】日本国特許出願公開第2002−179948号公報
【特許文献3】ドイツ国特許第10148055号明細書
【特許文献4】日本国特許第3357107号明細書
【特許文献5】日本国特許出願公開第1995−250997号公報
【特許文献6】日本国特許出願公開第2004−349167号公報
【特許文献7】国際特許出願公開第2009/018984号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、十分な隠蔽力を有し、優れた長期安定性を示す導電性粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここで、驚くべきことに、無機基材を表面上において導電層で被覆し、その導電層をタングステンおよびリンがドープされた酸化スズ(以下、TPTOと言う。)層とすることで、上述の不都合を有していない導電性粉体が導かれることを見出した。TPTOで被覆された無機基材は、全ての使用にとって、特に自動車用プラスチック部品上における静電塗装の導電性プライマーにとって、高い導電性および優れた長期安定性を示し、要求される白く明るい色を示し、優れた白色系の隠蔽力を有する。
【0014】
更に、本発明の目的は、上述の特性を有する導電性粒子の製造方法を提供することである。
【0015】
本発明によれば、特に溶媒またはポリマーマトリックス中において優れた分散性を有し、同時に十分な導電性をも有する導電性粒子が提供される。従って、特に導電性粒子は、塗膜、プラスチックシート、成形部品、または導電性ラッカーなどのプラスチック材料において、特にプラスチック材料の静電塗装用に有利に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
無機材料として使用可能な本発明による導電性粒子用の基礎基材は、TiO、ZnO、BaSO、Al、SiO、ZrO、ガラス、チタン酸アルカリ、天然または合成マイカ、フィロケイ酸塩類(タルク、カオリン、ワラストナイトまたはセリサイトなど)およびそれらの混合物より選択できる。高い屈折率による白色系の隠蔽力の観点より、好ましい基材はTiOである。TiOの結晶系は、ルチル、アナターゼ、ブルッカイトより選択でき、またはアモルファスでもよい。特に、ルチルTiOを使用することで導電性の達成が容易となるため、好ましい結晶系は、酸化スズと同一の結晶系であるルチルである。
【0017】
基礎基材の形状は、粒状、球状、板状、針状、繊維状、柱状、棒状、およびこれらの混合物より選択できる。特に、プラスチックフィルムの良好な平滑表面を得るために、粒または球形状の基材が好ましい。
【0018】
基礎基材の大きさに関しては、平均直径は0.01〜100μm、特には0.01〜10μm、特に好ましくは10〜500μmの範囲内である。
【0019】
粒または球形状の基材は、好ましくは、0.01〜10μm、特には0.01〜1μm、特に好ましくは10〜500nmの平均半径を有する。白色系の隠蔽力を黒色の基礎基材上で得ることができるため、基材のこれらの平均直径は可視光の半波長が望ましい。
【0020】
板、針、繊維、柱、棒形状の基材の場合、その長軸および短軸の比(即ち、長軸/短軸)は、2〜200、好ましくは10〜50の範囲である。球(楕円球を含む)の場合、その長軸および短軸の比(即ち、長軸/短軸)は、1〜10、好ましくは1〜5の範囲である。
【0021】
好ましい球形基礎基材は、TiO、ZnO、BaSO、ガラス、チタン酸アルカリ、Al、SiO、ZrOまたはそれらの混合物より選択される。特に好ましい基礎基材は、高い屈折率による白色系の隠蔽力を有するTiO、チタン酸アルカリおよびZnOである。
【0022】
好ましい板、針、繊維、柱および棒形状の基礎基材は、天然または合成マイカ、タルク、カオリン、セリサイト、ガラス、TiO、ZnO、BaSO、Al、SiO、ZrO、チタン酸アルカリ、ワラストナイトまたはそれらの混合物より選択される。特に好ましい基礎基材は、高い屈折率による白色系の隠蔽力を有するTiO、チタン酸アルカリおよびZnOである。
【0023】
また、導電層で被覆される基礎基材は、異なる基材の混合物から成っていてもよい。基礎基材は、全ての割合で混合できる。好ましい混合物は、2種類以下の異なる基材を含有する。この場合、好ましい混合比は、1:1〜10:1である。
【0024】
基礎(キャリア)基材の好ましい混合物は、粒または球形状のTiO、および、天然または合成マイカ、タルク、カオリン、セリサイト、ガラス、チタン酸アルカリ、ZnO、BaSO、Al、SiOおよびこれらからの混合物から選択される薄片状の基材である。特に好ましい薄片状の基材は、高い屈折率による白色系の隠蔽力を有するTiO、チタン酸アルカリおよびZnOである。
【0025】
好ましい基材混合物は、
−球形TiO、および、TiO、チタン酸アルカリまたはZnO粒子より選択される1種類以上の薄片状の基材と、
−薄片状のTiO、および、チタン酸アルカリおよびZnO粒子より選択される1種類以上の球形基材と
を含有する。
【0026】
基材上のTPTOの量は、最終粒子の重量に基づいて、20〜80重量%、特には30〜60重量%の範囲内、最も好ましくは35〜50重量%の範囲内である。基材上のTPTO層の層厚は、10〜200nm、好ましくは30〜100nmの範囲内である。
【0027】
基礎基材上のTPTOを多量とすることは、それ自体可能であるが、更に導電性が増加することは一切なく、粒子が次第に暗くなる。一方、TPTOの量がより少ないと、粒子の高い導電性を達成できない不都合がある。
【0028】
導電層において、酸化スズ層中でのタングステンおよびリンの原子比は、0.01〜30原子%(at.%)、好ましくは0.1〜20at.%、特には3〜10at.%である。タングステンおよびリンのドープ含有量が0.01at.%未満であるか、または30at.%を超える場合、高い導電率を達成できない。
【0029】
酸化スズ層中におけるタングステンおよびリンの比率は、好ましくは0.1:3〜5:20、特に好ましくは0.5:15〜3:10である。
【0030】
TPTO被覆層で使用されるスズおよびタングステンおよびリンの比率は、原子比を単位として、98.9:0.1:1〜70:10:20である。好ましくは、それは96:1:3〜85:5:10である。
【0031】
特に好ましくは、150〜500nmの平均半径を有し、最終粒子の重量を基礎として、30〜50重量%のTPTOで被覆されているTiO粒子(球形、粒形状)である。この場合、TPTO層の層厚は、好ましくは、30〜100nmの範囲内である。
【0032】
また、本発明は、例えば40〜90℃に好ましくは昇温して、無機基礎基材を水中に懸濁することを特徴とする新規な導電性粒子の調製方法も提供する。スズ塩およびタングステン塩およびリン酸塩を適切なpHにおいて懸濁液に添加し、塩基または酸を同時に添加して基材懸濁液のpHをスズ、リンおよびタングステン塩の加水分解が起こる範囲内に維持し、この方法でTPTOにより被覆された基材を分離、洗浄、好ましくは100〜150℃の温度において1〜12時間乾燥し、そして600〜1000℃、好ましくは700〜900℃の温度において酸素/窒素雰囲気または不活性ガス雰囲気、好ましくはN雰囲気中で焼成する。
【0033】
例えば、NaOH、KOHまたはアンモニアなどの工業的に容易に入手できる塩基類、および希薄鉱酸の酸類、例えばHClを熟考して使用できる。塩基および酸はpHを変化させるためだけに作用するので、それらの性質は決定的ではなく、他の酸および塩基も利用できる。
【0034】
1つの溶液中において共に、または2つまたは3つの別々の溶液中のいずれか、において、スズ化合物およびタングステン塩およびリン化合物を水中に量り取り、引き続き、既定の混合比で、基材懸濁液中において、1〜5の適切なpHおよび50〜90℃の適切な温度において、それぞれの場合で直ちに基材上において加水分解および析出が起こるようにすることで、酸化スズ層中におけるタングステンおよびリンの所望の均一な分布を好ましくは容易に達成できる。
【0035】
適切な水溶性スズ塩は、好ましくは、硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、塩化物、スズ酸塩(スズ酸ナトリウム、スズ酸カリウム、スズ酸リチウムなど)が挙げられる。特に好ましくは、塩化物である。
【0036】
適切なスズ塩は、好ましくは、2−および4−価のハロゲン化スズ、硫酸スズまたは硝酸スズ、好ましくは、ハロゲン化スズ、特には、塩化スズである。特には、SnClを含有するスズ塩溶液が好ましい。また、スズ塩は、固体形状で水溶性の基材懸濁液に添加できる。
【0037】
タングステン化合物溶液に使用されるタングステン化合物としては、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸ナトリウム、メタタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸カリウム、メタタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸カリウム、パラタングステン酸ナトリウム、オキシ塩化タングステンなどが例示される。
【0038】
リン化合物溶液に使用されるリン化合物としては、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸などが例示される。
【0039】
任意の酸または塩基を使用して、金属塩を沈殿できる。最適な濃度およびpH値は、通例の実験によって決定できる。通常、沈殿に対して一旦定めれば、均一な粒子を得るために、pHは維持される。
【0040】
被覆工程の最後において、粒子を懸濁液より分離し、洗浄し、乾燥して、好ましくは600〜1000℃の高温において、酸素および窒素を含有する雰囲気中、好ましくは酸素が存在していない雰囲気中で、例えば5分〜60分間焼成する。
【0041】
出発材料の選択およびドープされた酸化スズ層の層厚に依存して、本発明による粒子は、クリーム色、黄色系、白色系および薄灰色である。
【0042】
タングステンおよびリンがドープされた酸化スズ層によって新規な粒子に安定および高い導電性が与えられ、湿気のある雰囲気中に粉体を保った場合においても粉体体積抵抗率(Rv)は一般に100Ω・cm未満である。
【0043】
樹脂マトリックス中において導電性粉体成分を含む本発明の組成物の典型的な実施形態においては、塗膜の重量を基礎とし粉体重量濃度(以降、PWCと言う)として50重量%の粉体を含有するラッカーを使用して形成された塗膜(10〜15μm厚み)において、表面抵抗率(Rs)は100MΩ/sq以下、好ましくは1MΩ/sq以下である。
【0044】
高い導電性に加え、先行技術より既知の導電性粒子と比較して、新規な粒子は白色系の隠蔽力により特徴付けられる。白色系の隠蔽力は、JIS Z 8729で定義される通り、L表色系において明度(L値)により測定される。本発明の導電性粉体は、高い白色を有する塗膜を形成でき、PWCとして50重量%の粉体を含有するラッカーを使用して形成された塗膜(10〜15μm厚み)において80以上の明度(L値)である。従って、結果として生じる導電性粉体によって黒色の基礎基材上に白色系のプラスチックフィルムを形成できる。
【0045】
特定の実施形態に依存して、プラスチック材料の静電塗装用、帯電防止プラスチック、床塗装の帯電防止塗装用の導電性ラッカーなどの異なる用途の全範囲にわたって本発明による粒子を使用できる。加えて、それらは、塗料、ワニス、印刷インクおよびプラスチックにおいて有用である。
【0046】
従って同様に、本発明は、本発明によるTPTO被覆粒子を含む組成物を提供する。
【0047】
更に、本発明の導電性粒子を使用する用途例を以降に説明する。本発明の導電性粒子は広範囲の用途分野で使用できる。用途の例としては、樹脂組成物、プライマー、調合物(調製混合物)、塗料、ラッカー、印刷インク、プラスチックおよびフィルムが挙げられ、具体的には、プラスチック材料(塗膜、フィルム、シート、成形品など)の帯電防止処理、または、静電塗装用に使用される導電性プライマーである。
【0048】
これら用途を、下に更に詳しく説明する。樹脂組成物における使用例として、本発明の導電性粒子を樹脂中に組み込む場合、粉体を直接樹脂と混合してもよく、または予めペレットを形成し、次いで樹脂と混合し、押出成形、カレンダー成形、ブロー成形などにより種々のの成形体を与える。使用される樹脂成分としては、ポリオレフィン系樹脂などの任意の熱可塑性樹脂、およびエポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリアミド(ナイロン)系樹脂などの任意の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0049】
更に、本発明の導電性粒子は、特に、導電性フィルムおよびプラスチックの製造のために使用でき、例えば、当業者に既知の導電性を必要とする任意の用途(例えば、帯電防止用途を含む)のための導電性フィルムおよびシート、プラスチック容器および成形品である。本発明の導電性粒子の組み込みに適するプラスチックとしては、任意の一般的に使用されるプラスチック、例えば、熱硬化性材料または熱可塑性材料である。
【0050】
本発明の導電性粒子を帯電防止塗装用の塗料に使用する場合、有機溶媒系塗料、NAD系、水系塗料、エマルション塗料、コロイド塗料および粉体塗料を例示できる。これらの塗料は、木材、プラスチック、金属鋼板、ガラス、セラミック、紙、フィルム、シート、LCディスプレイの反射板用の半透明膜などの塗装用に使用できる。塗料の用途としては、自動車用、建築用、船舶用、電気製品用、缶用、産業機器用、路面表示用、プラスチック用および家庭使用などの使用が例示される。塗装方法としては、限定されることなく、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装などが挙げられる。
【0051】
塗膜の構造に関しては、例として、限定されることなく、下地層、中塗り層、本発明の導電性粉体を含有する層およびクリア層の順序を有する構造、または、下地層、本発明の導電性粒子を含有する中塗り層およびクリア層の順序を有す構造が挙げられる。更に、本発明の塗料用には、下に列記する顔料を本発明の導電性粒子と共に併用できる。
【0052】
プライマーを使用する例としては、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の変性樹脂と混合された樹脂、架橋剤を含有する水系塗料または有機溶媒系塗料に用いることができる。
【0053】
水系プライマーは、典型的には、バインダー成分を含有する。バインダー成分は、それらが水中における溶解性または分散にとって十分な親水性基を有しているのであれば特に限定されない。加えて、プライマーは他の添加剤を含有していてもよく、消泡剤、増粘剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0054】
上記プライマーにより塗装される物品は限定されず、例えば、自動車内外装品、住居用内外装および家庭電化製品の外板部などを挙げることができる。更に、上記塗装物品の基材としては特に限定されず、金属板、樹脂板、ガラス板、セラミックス板などが挙げられ、樹脂板の具体例としては、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン、ポリフェニレンオキサイド樹脂などからのものが挙げられる。上記基材は、必要に応じて、脱脂処理、水洗処理されていてもよい。
【0055】
インク、プラスチック、ゴムおよび他の調製混合物へ使用する用途として、本発明の導電性粒子は導電性を意図する調製混合物に特に適しており、通常使用される任意のタイプの材料および助剤と組み合わせることができる。具体的には、それらを、印刷インク(グラビア、オフセット、スクリーンおよびフレキソ印刷用の印刷インク)、複写機用トナー、レーザーマーキング、化粧料などへ使用することができる。
【0056】
上記の樹脂組成物、塗料、ラッカー、プライマーおよび調製混合物において、本発明の導電性粒子と併用してもよい顔料の例を下に例示する。例としては、二酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、硫酸バリウム、ホワイトカーボン、酸化クロム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、亜鉛粉末、金属粉体顔料、鉄黒、黄色酸化鉄、ベンガラ、クロムイエロー、カーボンブラック、モリブデートオレンジ、紺青、群青、カドミウム系顔料、蛍光顔料、可溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合型アゾ顔料、フタロシアニン顔料、縮合多環式顔料、複合酸化物顔料、グラファイト、マイカ(例えば、白雲母、金雲母、合成マイカ、フッ素四ケイ素マイカなど)、金属酸化物被覆マイカ(例えば、酸化チタン被覆マイカ、二酸化チタン被覆マイカ、(水和)酸化鉄被覆マイカ、酸化鉄および酸化チタン被覆マイカ、低酸化数酸化チタン被覆マイカなど)、金属酸化物被覆グラファイト(例えば、二酸化チタン被覆グラファイトなど)、薄片状アルミナ、金属酸化物被覆アルミナ(例えば、二酸化チタン被覆アルミナ、酸化鉄被覆薄片状アルミナ、三酸化第二鉄薄片状アルミナ、四酸化第三鉄薄片状アルミナ、干渉色性金属酸化物被覆薄片状アルミナなど)、MIO、金属酸化物被覆MIO、金属酸化物被覆シリカフレーク、および金属酸化物被覆ガラスフレークが挙げられる。
【0057】
これらの顔料混合物も、本発明の一部である。
【0058】
更に、本発明の導電性粒子は、ITO代替のディスプレイ用、ソーラーセル用、印刷電子部品用、帯電防止用および偽造防止用の導電性材料として使用することができる。
【0059】
更に精緻化することなく、先の記述を使用して当業者は本発明を最大限に利用できると確信する。従って、以下の好ましい具体的な実施形態は単に例示として構築されるものであり、任意のいかなる様態においても、残りの部分および開示を制限するものではない。
【0060】
以下および以下の例において、他に示されない限り、全ての温度は未補正で摂氏度によるものであり、全ての部およびパーセンテージは重量による。
【実施例】
【0061】
制限することなく本発明を例証するために、下に本発明の例を説明する。
【0062】
全体の記載を通し、また、これらの例において、
−「TTO」は、タングステンがドープされた酸化スズの層を表し、
−「PTO」は、リンがドープされた酸化スズの層を表し、および
−「TPTO」は、タングステンおよびリンがドープされた酸化スズの層を表す。
【0063】
<例1>TPTOで被覆されたTiO粉体
150gの球形TiO粒子(チタン工業社製KR−310、0.3〜0.5μmの平均半径を有するTiO粒子)を、2lの脱イオン水中に懸濁する。懸濁液を撹拌下で75℃に加熱し、希HClによりpHを調整する。次の工程において、32重量%のNaOH溶液を添加してpHを1〜3の一定に保ちながら、7gの85重量%のHPOが添加された21重量%のSnCl溶液(722ml)、および1重量%のNaWO溶液(242ml)を懸濁液に同時に滴下する。2つの原料溶液の滴下を完了した後、TPTOで被覆された球形TiO粒子を濾過し、脱イオン水で洗浄し、105℃で12時間乾燥する。乾燥した粉体を、900℃で10分間、N雰囲気(1.2%のO含有)中で焼成する。
【0064】
<比較例1>TTOで被覆されたTiO粒子
150gの球形TiO粒子(チタン工業社製KR−310、0.3〜0.5μmの平均半径を有するTiO粒子)を、2lの脱イオン水中に懸濁する。懸濁液を撹拌下で75℃に加熱し、希HClによりpHを調整する。次の工程において、32重量%のNaOH溶液を添加してpHを1〜3の一定に保ちながら、21重量%のSnCl溶液(766ml)および3重量%のNaWO溶液(255ml)を懸濁液に同時に滴下する。2つの原料溶液の滴下を完了した後、TTOで被覆された球形TiO粒子を濾過し、脱イオン水で洗浄し、105℃で12時間乾燥する。乾燥した粉体を、900℃で10分間、N雰囲気(1.2%のO含有)中で焼成する。
【0065】
<比較例2>PTOで被覆されたTiO粒子
150gの球形TiO粒子(チタン工業社製KR−310、0.3〜0.5μmの平均半径を有するTiO粒子)を、2lの脱イオン水中に懸濁する。懸濁液を撹拌下で75℃に加熱し、希HClによりpHを調整する。次の工程において、32重量%のNaOH溶液を添加してpHを1〜3の一定に保ちながら、7gの85重量%のHPOが添加された21重量%のSnCl溶液(730ml)を懸濁液に滴下する。原料溶液の滴下を完了後、PTOで被覆された球形TiO粒子を濾過し、脱イオン水で洗浄し、105℃で12時間乾燥する。乾燥した粉体を、900℃で10分間、N雰囲気(1.2%のO含有)中で焼成する。
【0066】
<比較例3>TPTOで被覆された薄片状Alおよび粒形状SiO粒子
国際特許出願公開第2009/018984号パンフレット(特許文献7)に従って調製された90gの薄片状Al(平均粒径:10〜20μm、平均厚み:100〜300nm、アスペクト比:50〜200)および60gの粒形状SiO粒子(電気化学工業社製FS−3DC、2.2〜3.8μmの平均半径を有するSiO粒子)を、2lの脱イオン水中に懸濁する。懸濁液を撹拌下で75℃に加熱し、希HClによりpHを調整する。次の工程において、32重量%のNaOH溶液を添加してpHを1〜3の一定に保ちながら、7gの85重量%のHPOが添加された21重量%のSnCl溶液(722ml)、および1重量%のNaWO溶液(242ml)を懸濁液に同時に滴下する。2つの原料溶液の滴下を完了した後、TPTOで被覆された薄片状Alおよび粒形状SiO粒子を濾過し、脱イオン水で洗浄し、105℃で12時間乾燥する。乾燥した粉体を、900℃で10分間、N雰囲気(1.2%のO含有)中において焼成する。
【0067】
<「粉体体積抵抗率:Rv(Ω・cm)」の測定方法>
本特許出願において、および与えられる例において、「導電性粉体」は以下の通り定義される。
【0068】
導電性粉体は、その粉体体積抵抗率(Rv)により特徴付けられる。本特許出願において、導電性粉体は300Ω・cm未満、好ましくは100Ω・cm未満のRvを有する。これらの要求は、フローリングなどの導電性、帯電防止または静電気散逸塗装における導電性粉体の用途より生じる。例えば、静電塗装の導電性プライマーに許容される表面抵抗率(Rs)は、好ましくは、10Ω/sq未満である。これらの制限を1種類以上のバインダーおよび導電性粉体を含有する組成物において達成するためには、適用される導電性粒子のRvが、組成物の要求される表面抵抗率の値のよりも少なくとも4桁低くなければならない。
【0069】
Rv(Ω・cm)は、抵抗(Ω)、面積(cm)および5kNの荷重により加圧された粉体の高さ(cm)を測定することにより計算できる。Rvは、抵抗率測定システム(ダイアインスツルメンツ社製MCP−PD51)において、直流4探針法により測定する。
【0070】
加えて、空気および湿度に対する導電性の安定性を、40℃および90%湿度において10日間(湿度試験)保たれた粉体のRvにより検討した。
【0071】
表1に、TPTO、TTOおよびPTOで被覆されたTiO粒子のRv値を示す。
【0072】
【表1】

【0073】
これらの結果は、TTOおよびPTOで被覆された球形TiO粒子の導電性と比較して、実施例1によるTPTOで被覆された球形TiO粒子の導電性の方が、より良好であることを示す。
【0074】
実施例1、比較例1および比較例2の粉体を40℃および90%湿度において10日間放置した場合、球形TiO粒子上に被覆されたTTOおよびPTOと比較して、実施例1によるTPTOで被覆された球形TiO粒子の導電性の方が、より安定である。
【0075】
<「塗膜の表面抵抗率:Rs(Ω/sq)」の測定方法>
本発明の導電性粉体によって高い導電性を有する被覆層を形成することができ、即ち、JIS K 7194で定義される通りのRs測定方法において10Ω/sq以下の表面抵抗率(Rs)である。Rsは、以下の通り測定できる。PWCが50重量%の濃度として粉体をラッカー(大日精化工業社製セイカプレン100)と混合し、次いでバーコーター(20番)を使用して隠蔽力テストチャート上に塗工し、105℃で5分間乾燥する。乾燥した塗膜の厚みは、10〜15μmである。塗膜のRsを、抵抗率計(ダイアインスツルメンツ社製MCP−T610)を使用して測定する。
【0076】
加えて、空気および湿度に対する導電性の安定性を、40℃および90%湿度において10日間(湿度試験)保たれた粉体を混合した塗膜のRsにより検討した。
【0077】
表2に、TPTOおよびPTOで被覆されたTiO粒子を混合した塗膜のRs値を示す。
【0078】
【表2】

【0079】
これらの結果は、PTOで被覆された球形TiO粒子の導電性と比較して、実施例1によるTPTOで被覆された球形TiO粒子を混合した塗膜の導電性の方が、より安定であることを示す。
【0080】
<「粉体の白色系隠蔽力」の測定方法>
本発明の導電性粉体によって高い白色性を有する被覆層を形成することができ、即ち、JIS Z 8729で定義される通りのL表色系において80以上の明度(L値)である。
【0081】
明度は、以下の通り測定できる。PWCが50重量%の濃度として粉体をラッカー(大日精化工業社製セイカプレン100)と混合し、次いでバーコーター(20番)を使用して隠蔽力テストチャート上に塗工し、105℃で5分間乾燥する。乾燥した塗膜の厚みは、10〜15μmである。塗工されたシートのL値を、CHROMAメータ(ミノルタ社製CR−400)を使用して測定する。
【0082】
表3に、TPTOで被覆されたTiO粒子およびTPTOで被覆された薄片状Alおよび粒形状SiO粒子のL値を示す。
【0083】
【表3】

【0084】
これらの結果は、TPTOで被覆された薄片状Alおよび粒形状SiO粒子の白色系隠蔽力と比較して、実施例1によるTPTOで被覆された球形TiO粒子の白色系隠蔽力の方が、より良好であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機基材を基礎とする導電性粒子であって、該基材の表面がタングステンおよびリンがドープされた酸化スズ(以下、TPTOと言う。)層により被覆されていることを特徴とする導電性粒子。
【請求項2】
該基材が、TiO、チタン酸アルカリ、ZnO、BaSO、Al、SiO、ZrO、ガラス、天然マイカ、合成マイカ、タルク、カオリン、セリサイトまたはそれらの混合物より選択されることを特徴とする請求項1に記載の導電性粒子。
【請求項3】
該基材がTiOであることを特徴とする請求項1に記載の導電性粒子。
【請求項4】
該基材が0.01〜10μmの平均粒子径を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性粒子。
【請求項5】
TiO粒子が、タングステン−およびリン−ドープ酸化スズの層により被覆されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性粒子。
【請求項6】
前記TPTO層の量は、最終粒子の重量を基礎として20〜60重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性粒子。
【請求項7】
無機基礎基材を水中に懸濁し、水性スズ塩溶液、水性タングステン塩溶液およびリン化合物を同時に適切なpHにおいて懸濁液に添加し、塩基または酸を同時に添加して基材懸濁液のpHをスズ、リンおよびタングステン塩の加水分解が起こる範囲内に維持し、この方法によりTPTOで被覆された基材を分離、洗浄、乾燥、および酸素/窒素雰囲気または不活性ガス雰囲気中で焼成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電性粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電性粒子を含有する塗料、インク、プラスチック、印刷インク、ゴム、ワニス、ラッカー、樹脂組成物、導電性プライマー。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電性粒子を含有する塗料を塗装して形成される塗膜。
【請求項10】
1種類の粒子が請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電性粒子であることを特徴とする2種類以上の粒子の粒子混合物。

【公表番号】特表2013−501320(P2013−501320A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523214(P2012−523214)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004180
【国際公開番号】WO2011/015268
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】