説明

導電性組成物、それを備えた電子機器、電子機器の検査装置及び建材

【課題】体積固有抵抗率の制御をさらに容易にし、かつ、植物焼成物単体の炭素系材料で製造可能な導電性組成物を提供する。
【解決手段】まず、大豆皮、菜種粕、米糠、籾殻などの穀物残渣を含む植物を、900℃で3時間程度焼成して植物焼成物を得る。つぎに、その植物焼成物を、エチレン・プロピレンジエンゴムなどの母材に対して100phr以上配合する工程を経て、導電性組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物に関し、特に、電子部品、電子機器に用いられる導電材料を組成するために有用な導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、制電材料として有用な体積固有抵抗が10〜1010[Ω・cm]の合成樹脂成形物を安定的に製造可能な合成樹脂組成物及び体積抵抗が10〜1010[Ω・cm]の合成樹脂成形物を提供するため、合成樹脂と炭素含有量が85%〜97%の炭素前駆体粒子とからなる合成樹脂組成物を製造することが開示されている。この炭素前駆体粒子は、有機物質を不活性雰囲気中で400[℃]〜900[℃]で焼成して得るとされている。
【0003】
特許文献2には、植物炭及び金属酸化物誘電体を構成成分として含有する電磁波吸収体が開示されている。特許文献2によれば、植物炭と共に、高周波電磁波吸収能を有する金属酸化物誘電体を含有させたものは、その相乗効果により[GHz]帯の電磁波を効率的に吸収することができ、この電磁波吸収体は、建物の天井、壁、床の下地ボードとして十分な強度を有すると記載されている。
【0004】
特許文献3には、遮音・衝撃・防振の各特性に優れ、且つ大型化した対象物に対して容易・低コストに製作できる電磁波遮蔽体を提供するために、プラスチック素材に35〜65重量部(phr:per hundred resin(rubber))の割合で導電性カーボン及びカーボン繊維を添加して安定且つ均一な電磁波遮蔽体とすることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平09−87418号公報
【特許文献2】特開2002−368477号公報
【特許文献3】特開平11−317116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている合成樹脂成形物(導電性組成物)は、合成樹脂と炭素前駆体粒子との混合割合を変更することによって、体積固有抵抗率を制御するものである。ただ、これらの混合割合がわずかに変わっただけでも、体積固有抵抗率は相対的に大きく変化している。具体的には、特許文献1の表1に体積固有抵抗率が開示されているが、最もわかりやすいものとして実施例7,8の体積固有抵抗率の相違が挙げられる。
【0007】
すなわち、実施例7,8の構成上の差異は、合成樹脂と炭素前駆体粒子との混合割合が、重量部にして、53.8と66.7という点、つまり、重量部約7という差異でしかない。これにも拘わらず、これらの体積固有抵抗率の差は45倍にもなる。
【0008】
また、特許文献1に開示されている合成樹脂成形物(導電性組成物)は、一応、必須ではないとされているもの、実際には、合成樹脂と炭素前駆体粒子との他に、炭素繊維を混合させることを要している。これでは、合成樹脂成形物の製造に際し、炭素前駆体粒子と炭素繊維という2種類の炭素系材料を混合させなければならないという点で問題がある。
【0009】
さらに、特許文献2に開示されている電磁波吸収体は、以下の点で問題がある。すなわち、第1に、特許文献2に開示されている電磁波吸収体は、[GHz]帯の電磁波を効率的に吸収することができるとされているものの、[GHz]帯の電磁波の吸収レベルも限定的であるし、例えば[MHz]帯の電磁波の効率的な吸収には不向きである。
【0010】
第2に、特許文献2に開示されている電磁波吸収体は、植物炭を含有させているため、比重が軽くなった旨が発明の効果であるとして明記されている。しかし、この電磁波吸収体は、金属酸化物誘電体が少なくとも重量比で全体の20%以上、最も好ましい場合で50%以上含まれているので、たとえ、植物炭が含有されていたとしても、電磁波吸収体の比重は、相対的に、軽いものであると評価することはできず、その自重から建物の天井、壁の下地ボードには使用しにくいという問題がある。
【0011】
さらに、特許文献3に開示されている電磁波遮蔽体は、電磁波遮蔽体をケーブルに利用した場合に、ケーブルの可撓性を損なわないようにするため、35[phr]〜65[phr]の分量しか、導電性カーボン等を母材であるところのプラスチック素材に配合することができない。
【0012】
導電性カーボン等の配合とケーブルの可撓性とは、トレードオフの関係にあるので、ケーブルの可撓性を考慮すると、所要量の導電性カーボンを含めることができないことになる。これでは、十分な導電性が得られない。
【0013】
そこで、本発明は、体積固有抵抗率の制御をさらに容易にし、かつ、植物焼成物単体の炭素系材料で製造可能な導電性組成物を提供することを課題とする。
【0014】
また、本発明は、高度かつ広範囲に電磁波を遮蔽し、かつ、比重が非常に軽量な電磁波遮蔽体を提供することを課題とする。
【0015】
さらに、本発明は、相対的に多量の導電性カーボンを母材に混合できるようにし、かつ、その場合でも母材の可撓性が損なわれることがないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の植物焼成物は、炭素含有率と焼成温度とメディアン径とのいずれかを調整してなる。植物の炭化焼成後の粉砕物のうちメディアン径が約80μm以下となるように篩分されている。具体的には、前記焼成物は、700[℃]以上の温度で焼成するとよい。なお、焼成物は、大豆皮、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハル、籾殻、米糠、大豆殻、稲藁、穀物殻など、さらにはこれらを相互に混合した焼成物も含む。
【0017】
また、本発明の電磁波遮蔽体は、上記植物焼成物が、遮蔽すべき電磁波の周波数帯域に応じて決定される。具体的には、母材に対する含有率を、150[phr]以上、好ましくは200[phr]、より好ましくは300[phr]以上とするとよい。植物焼成物が1000[MHz]以下の周波数帯域で20[dB]以上の電磁波遮蔽量となる条件で含有され、又は、4200[MHz]〜8500[MHz]の周波数帯域で20[dB]以上の電磁波吸収量となる条件で含有され、6800[MHz]以上の周波数帯域で20[dB]以上の電磁波吸収量となる条件で含有されている。
【0018】
さらに、本発明の電子機器、電子機器の検査装置、建材、被覆材、静電気帯電防止体は、上記植物焼成物を含む電磁波遮蔽体を有する。
また、本発明は、植物焼成物と母材との混合物を加圧成形してなる導電性組成物であって、
前記植物焼成物は、炭素含有率と焼成温度とメディアン径とのいずれかを調整した植物焼成物であり、前記母材に対して100[phr]以上配合され、
前記焼成温度は700[℃]以上であって、前記メディアン径は1μm以上である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の導電性組成物の電磁波遮蔽特性の測定結果を示すグラフである。
【図2】本実施形態の導電性組成物の模式的な製造工程図である。
【図3】大豆皮等の焼成前後のZAF定量分析法による成分分析結果を示すグラフである。
【図4】「生大豆皮」の組織観察結果を示すSEM写真である。
【図5】「大豆皮の焼成物」の組織観察結果を示すSEM写真である。
【図6】「大豆皮の焼成物」についての導電性試験の試験結果を示すグラフである。
【図7】大豆皮の焼成温度と体積固有抵抗率との関係を示すグラフである。
【図8】大豆皮の焼成物の含有率と体積固有抵抗率との関係を示すグラフである。
【図9】試験対象の導電性組成物の「表面抵抗率」の測定結果を示すグラフである。
【図10】「導電性組成物」の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【図11】「導電性組成物」の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【図12】「導電性組成物」の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【図13】「導電性組成物」の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【図14】「導電性組成物」の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【図15】図13に対応する周波数と電磁波吸収特性との関係を示すグラフである。
【図16】図14に対応する周波数と電磁波吸収特性との関係を示すグラフである。
【図17】大豆皮の焼成物を配合する母材を低密度ポリエチレンとした場合の周波数と電磁波吸収量との関係を示すグラフである。
【図18】大豆皮の焼成物を配合する母材を低密度ポリエチレンとした場合の周波数と電磁波吸収量との関係を示すグラフである。
【図19】籾殻の焼成物を用いた電磁波遮蔽体の周波数と電磁波吸収特性との関係を示すグラフである。
【図20】籾殻の焼成物を用いた電磁波遮蔽体の周波数と電磁波吸収特性との関係を示すグラフである。
【図21】図19,図20に示した電磁波遮蔽体の周波数条件を変更したグラフである。
【図22】図19,図20に示した電磁波遮蔽体の周波数条件を変更したグラフである。
【図23】籾殻の焼成物を用いた静電気帯電防止体とカーボンブラックを用いた静電気帯電防止体との配合率と体積固有抵抗率との関係を示すグラフである。
【図24】図1に示す電磁波シールド特性の測定範囲を拡大した測定結果を示すグラフである。
【図25】菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルの焼成物についての電磁波シールド特性の測定結果を示すグラフである。
【図26】大豆皮の焼成物の製造条件等を変更した場合の電磁波シールド特性の測定結果を示すグラフである。
【図27】900[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物のガス吸着過程の細孔径分布曲線図である。
【図28】図3に対応する有機元素分析法による成分分析結果を示すグラフである。
【図29】「大豆皮の焼成物」のSEM写真である。
【図30】図29の「大豆皮の焼成物」を、それぞれ、2万倍、5万倍という倍率で撮影したSEM写真である。
【図31】コットンハル、胡麻粕、菜種粕、綿実粕の焼成物に係る導電性試験の試験結果を示すグラフである。
【図32】焼成炉と焼成温度とを変更させたときの大豆皮の焼成物に係る導電性試験の試験結果を示すグラフである。
【図33】焼成温度等を変更させたときの大豆皮の焼成物に係る導電性試験の試験結果を示すグラフである。
【図34】コットンハル、胡麻粕、菜種粕、綿実粕の焼成物の含有率と体積固有抵抗率との関係を示すグラフである。
【図35】菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルの焼成物の導電性組成物の体積固有抵抗率及び表面抵抗率の測定結果を示すグラフである。
【図36】大豆皮の焼成物の導電性組成物の体積固有抵抗率及び表面抵抗率の測定結果を示すグラフである。
【図37】菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルの焼成物からなる導電性組成物の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【図38】焼成温度等を変更させたときの大豆皮の焼成物に係る電磁波吸収特性を示すグラフである。
【図39】菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルの焼成物からなる導電性組成物の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【図40】焼成温度等を変更させたときの大豆皮の焼成物に係る電磁波吸収特性を示すグラフである。
【図41】1500[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物のガス吸着過程の細孔径分布曲線図である。
【図42】3000[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物のガス脱着過程の細孔径分布曲線図である。
【図43】3000[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物のガス吸着過程の細孔径分布曲線図である。
【図44】焼成温度等を変更させたときの大豆皮の焼成物に係る体積固有抵抗率を示すグラフである。
【図45】本実施形態の導電性組成物の電磁波シールド特性の測定結果を示すグラフである。
【図46】3000[℃]の温度で焼成した籾殻の焼成物のSEM写真である。
【図47】それぞれ3000[℃]の温度で焼成した籾殻の焼成物及び米糠の焼成物についての導電性試験の試験結果を示すグラフである。
【図48】RHCのガス脱着過程の細孔径分布曲線図である。
【図49】RHCのガス吸着過程の細孔径分布曲線図である。
【図50】RHSCのガス脱着過程の細孔径分布曲線図である。
【図51】RHSCのガス吸着過程の細孔径分布曲線図である。
【図52】RBCのガス脱着過程の細孔径分布曲線図である。
【図53】RBCのガス吸着過程の細孔径分布曲線図である。
【図54】NRBCのガス脱着過程の細孔径分布曲線図である。
【図55】NRBCのガス吸着過程の細孔径分布曲線図である。
【発明の実施の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
(実施形態1)
まず、本実施形態の導電性組成物及び電磁波遮蔽体の概要について説明する。なお、本実施形態の導電性組成物は、電磁波遮蔽体としても機能することがわかった。この点に鑑み、本願明細書では、導電性組成物と称する場合に電磁波遮蔽体のことを意味することがあり、また、電磁波遮蔽体と称する場合に導電性組成物のことを意味することがある点に留意されたい。
【0022】
本実施形態では、まず、大豆皮、菜種粕、コットンハル、胡麻粕、綿実粕のいずれかを炭化焼成することによって植物焼成物を製造する。ここで、大豆等を原材料として食用油等を製造することによって、大量の大豆皮等が発生している。これらの大半は牧畜用の飼料や農業用の肥料に再利用されているが、更なる用途も模索されている。エコロジーの観点から日夜研究した結果、大豆皮等の更なる再利用として、大豆皮等を焼成して得られる植物焼成物が、導電性組成物に有益に用いられることを見出した。
【0023】
植物焼成物は、例えば約900[℃]の温度で、静置炉、ロータリーキルンなどの炭化装置を用いて、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下或いは真空中で大豆皮等を焼成することによって得る。そして、大豆皮等の焼成物を粉砕し、例えば106μm四方のメッシュを用いて篩分けする。こうすると、大豆皮等の焼成物全体のうち、その80%程度が85μm以下となるものが得られる。この場合のメディアン径は、例えば約30μm〜約60μmとなる。
【0024】
なお、メディアン径は、SHIMADZU社のレーザ回折式粒度分布測定装置SALD−7000などを用いて測定した。本実施形態では、メディアン径が例えば30μm〜約60μmの大豆皮等の焼成物、及び、それを更に微粉砕して、最小のメディアン径で約1μmとしたものを、母材であるところのエチレン・プロピレンジエンゴムなどに対して例えば約100[phr]〜約400[phr](per hundred resin(rubber))の量で配合する。
【0025】
なお、本明細書でいう微粉砕とは、微粉砕前のもののメディアン径を約1桁オーダー程度下げるように粉砕することをいう。したがって、例えば、粉砕前のメディアン径が30μmであれば、3μとなるように粉砕することをいう。もっとも、微粉砕は、微粉砕前のもののメディアン径を厳密に約1桁オーダー下げるという意味ではなく、微粉砕前のもののメディアン径が、例えば、1/5〜1/20となるように粉砕することも含む。なお、本実施形態では、微粉砕後のメディアン径が最小の場合で1μmとなるような態様で粉砕を行った。
【0026】
上記の配合後、当該ゴムを加硫及び成形することによって、導電性組成物を得る。なお、母材としては、エチレン・プロピレンジエンゴムなどの種々ゴムのほか、ウレタン、ガラスウール、木などとすることもできる。
【0027】
ここで、特許文献1に開示されている電磁波遮蔽体に比して、導電性カーボンを母材に対し最大で4倍以上配合することができるという点は注目に値する。
【0028】
この点を客観的に評価すると、あたかも、導電性カーボンに対して少量のエチレン・プロピレンジエンゴムなどをバインダーとして加えることで、電磁波遮蔽体を製造しているともいえる。
【0029】
図1は、本実施形態の導電性組成物の電磁波シールド特性の測定結果を示すグラフである。ここでは、母材としてエチレン・プロピレンジエンゴムを用いた。図1(a)には、大豆皮の焼成物の測定結果を示す。図1(b)には、生大豆皮(=焼成前の大豆皮)に対して液体状のレゾール型フェノール樹脂を、75[wt.%]対25[wt.%]の割合で混合した焼成物の測定結果を示す。
【0030】
なお、生大豆皮に対してレゾール型フェノール樹脂を混合すると、大豆皮の焼成物の強度、炭素量の向上を図ることができる。もっとも、当該混合自体は、本実施形態の導電性組成物の製造上、必ずしも必要ではない点に留意されたい。
【0031】
図1(a),図1(b)の横軸は周波数[MHz]を示し、縦軸は電磁波遮蔽量[dB]を示している。また、図1(a),図1(b)に示す測定結果の測定対象は、いずれも、大豆皮の焼成物のメディアン径を約60μm、大豆皮の焼成温度を約900[℃]、導電性組成物の厚さ(板厚)を約2.5[mm]としている。
【0032】
なお、この電磁波シールド特性は、2007年7月5日に山形県工業技術センター置賜試験場にて、シールド効果評価器(アドバンテスト社製:TR17301A)とスペクトラムアナライザー(アドバンテスト社製:TR4172)とを用いて行った。
【0033】
図1を見ると、導電性組成物における大豆皮の焼成物の含有率が高まるにつれて、電磁波遮蔽量が向上しているとことがわかる。ここで、注目すべき点がいくつかあるが、第1に、本実施形態によれば、母材に対する大豆皮の焼成物の含有率を自由に調整できるという点である。さらに、特出すべきは、大豆皮を含む植物焼成物全般の場合、母材に対する含有率を高められるという点である。図1に示すように、本実施形態の導電性組成物は、大豆皮の焼成物の含有率を多くすることで、電磁波遮蔽量が向上するといった特性がある。
【0034】
ここで、エチレン・プロピレンジエンゴムへの含有対象を、大豆皮の焼成物に代えてカーボンブラックとしてみたところ、エチレン・プロピレンジエンゴムに対して100[phr]もの量のカーボンブラックを含有させたのでは、導電性組成物の可撓性が低下することがわかった。
【0035】
そして、そもそも、ゴムに対して400[phr]もの量のカーボンブラックを含有させることは不可能とは言わないまでも、その実現は非常に困難である。これに対して、本実施形態の導電性組成物の場合には、ゴムに対して約400[phr]もの量の大豆皮の焼成物を含有させることができる。
【0036】
第2に、本実施形態の導電性組成物は、母材に対する大豆皮の焼成物の含有率を高められる結果、電磁波遮蔽量を著しく向上させられるといった利点を有する。また、見方を変えれば、本実施形態の導電性組成物は、母材に対する大豆皮の焼成物の含有率を調整することによって、電磁波遮蔽量を制御しやすいという利点も有する。
【0037】
図1に示すように、特に、50[MHz]付近の周波数帯域において、優れた電磁波遮蔽量が確認できる。具体的には、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率が約400[phr]であれば、500[MHz]までの周波数帯域における、電磁波遮蔽量が20[dB]以上を保持していて、その最高値は40[dB]を超えている。
【0038】
この数値は、一般的に市販されている電磁波シールド材の電磁波遮蔽量が5[dB]〜25[dB]の納まるものが大半であることからすると驚異的な数値である。同様に、大豆皮の焼成物の含有率が約300[phr]の場合であっても、300[MHz]以下という周波数帯域で、電磁波遮蔽量が20[dB]以上を保持していることもわかる。
【0039】
図24は、図1に示す電磁波シールド特性の測定範囲を拡大した測定結果を示すグラフである。図24の横軸は周波数[MHz]を示し、縦軸は電磁波遮蔽量[dB]を示している。なお、図1では500[MHz]までの周波数帯域を測定範囲としていたが、図24では1000[MHz]までの周波数帯域を測定範囲としている。また、ここでは、生大豆にレゾール型フェノール樹脂を含有させずに、焼成させたものを測定対象としている。
【0040】
まず、500[MHz]までの周波数帯域に着目すると、電磁波遮蔽量は、図1のグラフと同様の測定結果が得られたことがわかる。一方、500[MHz]〜1000[MHz]までの周波数帯域に着目すると、600[MHz]までは、いずれの測定対象も、電磁波遮蔽量が減少することがわかる。
【0041】
しかし、その後、ほとんどの測定対象は、800[MHz]くらいの周波数帯域まで電磁波遮蔽量が向上する。そして、約900[MHz]〜約1000[MHz]にかけて、再び、電磁波遮蔽量が減少することがわかる。
【0042】
図25(a)〜図25(d)は、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルの焼成物についての電磁波シールド特性の測定結果を示すグラフである。図25(a)〜図25(d)の横軸は周波数[MHz]を示し、縦軸は電磁波遮蔽量[dB]を示している。また、図25(a)には菜種粕、図25(b)には胡麻粕、図25(c)には綿実粕、図25(d)にはコットンハルのそれぞれの電磁波シールド特性の測定結果を示している。
【0043】
なお、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルを、900[℃]の焼成温度で焼成して得られる焼成物を粉砕し、例えば106μm四方のメッシュを用いて篩分けしたところ、それらのメディアン径は、それぞれ、約48μm、約61μm、約36μm、約34μmであった。したがって、以下、単に、菜種粕等の焼成温度が900[℃]であると明示する場合には、その菜種粕等の焼成物は、メディアン径が約48μm等であることを意味する。
【0044】
まず、図25(a)〜図25(d)と図24とを相互に比較すると、これらの間の電磁波シールド特性には、同様の傾向がみられることがわかる。具体的には、いずれのグラフでも、約500[MHz]まではゴムに対する焼成物の含有量が多くなるにつれて、電磁波遮蔽量が向上する傾向にある。
【0045】
また、いずれのグラフでも、植物の焼成物の含有量が400[phr]の場合には、最高値としては、30[dB]を超える電磁波遮蔽量が確認できる。さらに、700[MHz]〜1000[MHz]の周波数帯域において小さな電磁波遮蔽量のピークが形成されることも確認できる。
【0046】
図26(a)〜図26(c)は、大豆皮の焼成物の製造条件等を変更した場合の電磁波シールド特性の測定結果を示すグラフである。図26(a)〜図26(c)の横軸は周波数[MHz]を示し、縦軸は電磁波遮蔽量[dB]を示している。
【0047】
また、図26(a)には焼成温度を900[℃]のままとして大豆皮の焼成物を微粉砕したもの、図26(b)には大豆皮の焼成温度を1500[℃](厳密には、一旦、900[℃]での焼成物を1500[℃]で二次焼成した。以下同じ。)とし微粉砕していないもの、図26(c)には大豆皮の焼成温度を3000[℃](厳密には、一旦、900[℃]での焼成物を3000[℃]で二次焼成した。以下同じ。)とし微粉砕していないもののグラフを、それぞれ示している。
【0048】
図26(a)に示すように、大豆皮の焼成物を微粉砕した場合には、微粉砕しないものに比して、ゴムに対する焼成物の含有量に拘わらず、総じて、電磁波遮蔽量が減少する傾向がある。具体的にみてみると、ゴムに対する植物の焼成物の含有量が400[phr]の場合には、最高値でも約25[dB]程度までしか電磁波遮蔽量が確認できなかった。これに対して、図1に示した900℃で焼成し微粉砕しないものでは、40[dB]を超える。このことから、焼成物の粒径が大きいほど、電磁波遮蔽量が向上しているといえよう。
【0049】
図26(b)に示すように、大豆皮の焼成温度を1500[℃]とした場合には、図24に示した大豆皮の焼成温度を900[℃]とした場合と同様の電磁波遮蔽量が確認できた。換言すると、大豆皮の焼成温度を1500[℃]としても、電磁波遮蔽量に著しい向上は見られなかった。
【0050】
図26(c)に示すように、大豆皮の焼成温度を3000[℃]とした場合には、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有量を400[phr]とすると、安定した電磁波遮蔽量が得られることが確認できた。すなわち、図24のグラフでは、約150[MHz]〜約600[MHz]に進むにつれて電磁波遮蔽量が大きく低下していたが、図26のグラフでは、ほぼ横ばいともいえるような緩やかな低下しか確認されなかった。また、図26(b)のグラフと対比するとわかりやすいが、ゴムに対する焼成物の含有量を150[phr]とすると、電磁波遮蔽量の向上が確認できた。
【0051】
さらに、図26(c)によれば、1000[MHz]までという広範囲な周波数帯域に亘って、約25[dB]を超える電磁波遮蔽量が得られる点は、注目に値するものである。既述のように、一般的な従来品の電磁波遮蔽量は、5[dB]〜25[dB]の納まるものが大半である。ただ、従来品は、25[dB]という電磁波遮蔽量を、限定的な周波数帯域でのみ実現できるものであり、1000[MHz]までという広範囲な周波数帯域に亘って実現できるものはない。したがって、本実施形態の導電性組成物は、顕著な効果を奏するものであるといえる。
【0052】
以下、本実施形態の導電性組成物について更に詳細に説明する。
【0053】
図2は、本実施形態の導電性組成物の模式的な製造工程図である。まず、食用油等の製造時に発生する生大豆皮を炭化装置にセットして、窒素ガス雰囲気下で1分当たり約2[℃]ずつ温度を上昇させ、700[℃]〜1500[℃](たとえば900[℃])といった所定の温度まで到達させる。それから、到達温度で3時間程度、炭化焼成処理を施す。
【0054】
つぎに、焼成した大豆皮を粉砕してから篩分処理を経て、メディアン径が例えば約4μm〜約80μm(たとえば60μm)の大豆皮の焼成物を得る。その後、大豆皮の焼成物とエチレン・プロピレンジエンゴムとを、各種添加剤とともに、混練機にセットして混練処理する。それから、混練物に対して成形処理を施してから、加硫処理を行う。こうして、導電性組成物の製造が完了する。
【0055】
ここで、本実施形態の電磁波遮蔽体は、所要の形状の金型等を用いて成形することができる。このため、仮に、電子機器などに搭載されている、電磁波遮蔽体が必要な電子基板の形状が平面的でないものであったとしても、電子基板の形状に応じた電磁波遮蔽体の製造が可能となる。
【0056】
もっとも、本実施形態の電磁波遮蔽体は、切断する、曲げる等の加工の自由度もある。この点も、電磁波遮蔽体を製造する上での利点となる。
【0057】
ここで、近年の電子機器の小型化に伴う、電子機器の筐体内の省スペース化によって、板状の電磁波遮蔽体を用いることが困難であったり、板状の電磁波遮蔽体の配置スペースを考慮した電子機器のレイアウトが必要であったりという課題がある。本実施形態の電磁波遮蔽体は、電子機器内のスペースの形状に対応する形状とすることができるので、板状の電磁波遮蔽体の配置スペースを考慮した製品レイアウトを行うなどの必要がなくなるといった副次的な効果を奏することにもなる。
【0058】
本実施形態の導電性組成物は、電子機器、電子機器の検査装置、建材などに好適に用いることができる。すなわち、例えば、本実施形態の導電性組成物は、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant)などの通信端末本体に備えたり、通信端末本体に搭載されている電子基板に取り付けたり、いわゆるシールドボックスに備えたり、屋根材、床材又は壁材などに備えたり、導電性もあることから静電気帯電防止体として作業靴、作業服の一部に用いたりすることもできる。
【0059】
この結果、例えば、携帯電話機等或いは家屋周辺の高圧線等から発せられる電磁波の人体への悪影響の懸念材料をなくしたり、軽量なシールドボックスを提供したり、静電防止機能を有する作業靴等を提供することが可能となるといった利点がある。
【0060】
より詳しくは、図13に示すように、本実施形態の導電性組成物は、製造条件を適宜調整することによって、例えば50[MHz]〜300[MHz]周辺の周波数帯域で、優れた電磁吸収特性を得ることができる。
【0061】
また、図1に示したように、本実施形態の導電性組成物は、製造条件を適宜調整することによって、500[MHz]以下の周波数帯域で20[dB]を超える電磁波遮蔽量を実現できる。したがって、500[MHz]以下の周波数帯域に有用なシールドボックスを提供できるといった利点がある。
【0062】
つぎに、「生大豆皮」、「大豆皮の焼成物」及び「導電性組成物」に対して、以下の計測等を行った。
【0063】
(1)「生大豆皮」及び「大豆皮の焼成物」の成分分析、
(2)「生大豆皮」及び「大豆皮の焼成物」の組織観察、
(3)「大豆皮の焼成物」の導電性試験、
(4)「導電性組成物」について、試験対象の導電性組成物に係る焼成温度又はメディアン径の違いによる表面抵抗率の測定。
【0064】
図3(a)は、大豆皮、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルの焼成前のZAF定量分析法による成分分析結果を示すグラフである。図3(b)は、図3(a)に示した大豆皮等の焼成後のZAF定量分析法による成分分析結果を示すグラフである。なお、大豆皮等の焼成物の製造条件は、図2を用いて説明したとおりであるが、「所定の温度」は900[℃]とし、「メディアン径」は約30μm〜約60μmとした。また、ZAF定量分析法は、有機元素分析法に比して、C,H,N元素についての定量信頼性が低いといわれているので、C,H,N元素について高信頼の分析を行うべく、別に有機元素分析法による分析も行った。この点は、後述する。
【0065】
図3(a)に示す焼成前の大豆皮は、炭素(C)成分が51.68%、酸素(O)成分が45.98%と、これらが約半数ずつを占めている。無機成分等は、残り2.35%であった。
【0066】
焼成前の菜種粕等も、焼成前の大豆皮と同様に、炭素(C)成分、酸素(O)成分が全体の約半数ずつを占めている。具体的に見てみると、図3(a)の「C」は、すべての植物について50%〜60%が含まれていることが分かる。また、これら5つのすべての植物について、「C」に次いで「O」が多く含まれていることも分かる。
【0067】
また、図3(b)に示すように、焼成後の大豆皮は、炭素(C)成分は、焼成前のものから1.5倍近くまで増加した。具体的には、焼成後の大豆皮は、61.73%となった。
【0068】
また、焼成後の大豆皮は、焼成によって、酸素(O)成分は半分近くまで減少した。さらに、その他は、半減したものから5倍まで増加したものまで様々であるが、いずれにしても、全体の数%以内であった。焼成後の菜種粕等も、程度の差こそあれ、焼成後の大豆皮と同様に、炭素(C)成分が増加し、酸素(O)成分が減少する傾向が読み取れる。また、計測対象の元素については、すべての植物について大豆皮の場合と同様に、「C」及び「O」を除き、量的に特徴のあるものは見受けられなかった。
【0069】
なお、大豆皮に関し、焼成温度を1500[℃]とした場合、「C」は75.25%に増加し、「H」は0.51%に減少し、「N」は0.96%に減少した。さらに、大豆皮に関し、焼成温度を3000[℃]とした場合、「C」は99.92%に増加し、「H」は0.00%に減少し、「N」は0.03%に減少した。
【0070】
もっとも、図3に示す成分分析結果は、図2に示す手順・条件で製造したものであるから、炭素含有率等は、上記例示のように、大豆皮等の焼成温度によっても異なる点には留意されたい。この点は、後述する。
【0071】
図28(a)は、図3(a)に対応する有機元素分析法による成分分析結果を示すグラフである。図28(b)は、図3(b)に対応する有機元素分析法による成分分析結果を示すグラフである。
【0072】
図28(a),図28(b)を見てみると、総じて言えば、5つの各植物の焼成物に含まれている有機元素の割合は、同様であると評価することができる。これは、大豆皮も菜種粕等も植物であることには変わりがないことに起因するものと思われる。それでも、菜種粕、胡麻粕、綿実粕については、油粕という共通点があるためか、グラフがより似通っているといえる。具体的にいえば、「N」が相対的には多く、焼成前後の「C」の増加率は相対的には低いといえる。
【0073】
一方、大豆皮、コットンハルについても、外皮という共通点があるためか、グラフが似通っているといえる。具体的にいえば、「N」が相対的には少なく、焼成前後の「C」の増加率は相対的には高いといえる。また、「C」について見ると、コットンハルが最も高く(約83%)、胡麻粕が最も低い(約63%)。
【0074】
個別にみてみると、有機微量元素分析法による成分分析では、焼成前の大豆皮は、炭素(C)成分、水素(H)成分、窒素(N)成分は、各々、39.98%、6.11%、1.50%であった。したがって、焼成前の大豆皮は、元々、炭素成分が多いことが分かる。また、菜種粕等の他の植物においても、焼成前には、元々、炭素成分が多いことが図28(a)から読み取れる。
【0075】
一方、有機微量元素分析法による成分分析では、焼成後の大豆皮は、炭素(C)成分、水素(H)成分、窒素(N)成分は、各々、73.57%、0.70%、1.55%であった。したがって、炭素成分が焼成によって増加していることがわかる。また、菜種粕等の他の植物においても、焼成によって、炭素成分が増加していることが図28(b)から読み取れる。
【0076】
なお、主として、後述する実施形態2で説明する米糠、籾殻の焼成前後のものについても成分分析を行った。大豆皮との比較でいうと、米糠は無機成分にK,Ca,Pを含み、籾殻は無機成分にSiが含まれていた。
【0077】
図4は、「生大豆皮」の組織観察結果を示す走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)写真である。図4(a)〜図4(c)は、それぞれ「生大豆皮」の1000倍の倍率で撮影した外皮写真、1000倍の倍率で撮影した内皮写真、500倍の倍率で撮影した断面写真である。なお、ここでいう断面とは、外皮と内皮との界面付近の略直交断面を指す。
【0078】
図4(a)に示す生大豆皮の外皮は、外界と内皮との間の水分を幾分遮断する機能がある。この外皮写真を見る限りでは、全体的な形状としては、凹凸の点在が表面に確認できる。
【0079】
図4(b)に示す生大豆皮の内皮は、網目状の構造をしている。この内皮写真を見る限りでは、全体的な形状としては、緩やかで高低差が少ない起伏が表面に確認できる。
【0080】
図4(c)に示す生大豆皮の断面は、この断面写真を見る限りでは、一端が外皮に接続され、他端が内皮に接続される複数の柱状構造が確認できる。
【0081】
図5は、「大豆皮の焼成物」の組織観察結果を示すSEM写真である。図5(a)〜図5(c)は、それぞれ「大豆皮の焼成物」の1000倍の倍率で撮影した外皮写真、1000倍の倍率で撮影した内皮写真、500倍の倍率で撮影した断面写真である。なお、この大豆皮は、900[℃]の焼成温度で焼成したものである。
【0082】
図5(a)に示す大豆皮の焼成物の外皮は、全体的な形状として、「生大豆皮」の場合に確認できていた凹凸が無くなったことが確認できる。ただし、「大豆皮の焼成物」の外皮は、ざらついていた。
【0083】
図5(b)に示す大豆皮の焼成物の内皮は、依然として、網目状の構造が確認できるが、水分がなくなったため、網目が細かくなった。また、「大豆皮の焼成物」の内皮は、網目状の構造がつぶれたようにも評価できる。
【0084】
図5(c)に示す大豆皮の焼成物の断面も、依然として、柱状構造が確認できるが、個々の柱状部分が細くなり、その丈も縮み、隙間が著しく減少している。柱状部分がつぶれて繊維質のように変化したようにも見える。
【0085】
図29は、「大豆皮の焼成物」のSEM写真である。図29(a)〜図29(c)には、それぞれ「大豆皮の焼成物」を900[℃]、1500[℃]、3000[℃]の焼成温度で焼成したもののSEM写真、図29(d)には、900[℃]の焼成温度で焼成した大豆皮の焼成物を微粉砕したもののSEM写真を示している。なお、いずれのSEM写真も、1500倍の倍率で撮影している。
【0086】
図29(a)〜図29(c)に示すように、これらのいずれの写真からも、「大豆皮の焼成物」は、柱状構造、つまり、多孔質構造が確認できる。ただ、焼成温度が高くなるにつれて、個々の柱状部分が一層細くなって、縮んだような印象を受ける。これは、焼成温度が高くなるにつれて、炭化が一層進行することに起因するものと思われる。
【0087】
図29(d)に示すように、微粉砕した大豆皮の焼成物は、大半が約10μm以下の大きさの粒子となっている。なお、これは、大豆皮の焼成物を微粉砕したときのメディアン径が、微粉砕前のものの約1/10のメディアン径であるとの条件に符合する。具体的には、図29(d)に示す焼成物は、メディアン径が約6.9μmであった。
【0088】
図27は、900[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物のガス吸着過程の細孔径分布曲線図である。図27の横軸は細孔半径(Å)、縦軸は微分容積((mL/g)/Å)を示している。なお、ここでの大豆皮の焼成物のメディアン径は、約34μmであった。
【0089】
ここで注目すべきは、少なくとも大豆皮の焼成物には、以下説明する1500[℃],3000[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物についての検証結果も加味すれば、他の植物の焼成物では稀な特定の細孔半径値において、唯一の微分容積のシャープなピークが現れることである。
【0090】
通常、他の植物の焼成物では、特定の細孔半径値に微分容積の単一のシャープなピークが現れることがほとんどなく、細孔径分布曲線図はブロードとなるか、或いは、細孔径分布曲線図には複数のピークが現れることとなる。
【0091】
図27に示す900[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物の細孔径は、細孔半径が約4.42Åの場合に、微分容積のシャープなピークが確認できる。その他の細孔半径と微分容積との詳細な計測結果は、図27内のものを参照されたい。また、大豆皮の焼成物は、黒鉛化処理後でも、比表面積が大きく、ポーラスな構造が残ったままである。
【0092】
図41は、1500[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物のガス吸着過程の細孔径分布曲線図である。図41の横軸は細孔半径(Å)、縦軸は微分容積((mL/g)/Å)を示している。なお、ここでの大豆皮の焼成物のメディアン径は、約27μmであった。
【0093】
ここでも、特定の細孔半径値に微分容積のピークが現れることがわかる。1500[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物の細孔径は、細孔半径が約8.29Åの場合に、ピークのシャープさがやや劣るものの、それでも微分容積のややシャープなピークが確認された。ただし、30Å程度のレンジで細孔分布が広がっている。なお、詳細な計測結果は、図41内のものを参照されたい。
【0094】
図42は、3000[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物のガス脱着過程の細孔径分布曲線図である。図42の横軸には細孔半径(Å)、縦軸には微分容積((mL/g)/Å)を示している。なお、ここでの大豆皮の焼成物のメディアン径は、約24μmであった。ここでも、特定の細孔半径値に微分容積のシャープなピークが現れることがわかる。3000[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物の細孔径は、ガス吸着過程の場合に、細孔半径が約4.41Åの場合に、微分容積のシャープなピークが確認された。ただし、ガス吸着過程の場合には、細孔半径が14.3Åとなるあたりに、ブロードな小さなピークが確認された。なお、詳細な計測結果は、図42内のものを参照されたい。
【0095】
図43は、3000[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物のガス吸着過程の細孔径分布曲線図である。ここでも、特定の細孔半径値に微分容積のシャープなピークが現れることがわかる。3000[℃]の温度で焼成した大豆皮の焼成物の細孔径は、ガス脱着過程の場合には、細孔半径が約21.1Åの場合に、微分容積のシャープなピークが確認された。なお、詳細な計測結果は、図43内のものを参照されたい。
【0096】
以上説明したように、大豆皮の焼成物は、焼成温度にかかわらず、特定の細孔半径値に微分容積のピークが現れるという、非常に珍しい特性を有していることがわかる。
【0097】
図30(a),図30(b)は、図29(a)に係る「大豆皮の焼成物」を、それぞれ、2万倍、5万倍という倍率で撮影したSEM写真である。図30(c),図30(d)は、図29(b)に係る「大豆皮の焼成物」を、それぞれ、2万倍、5万倍という倍率で撮影したSEM写真である。図30(e),図30(f)は、図29(c)に係る「大豆皮の焼成物」を、それぞれ、2万倍、5万倍という倍率で撮影したSEM写真である。
【0098】
興味深いことに、大豆皮の焼成物は、その表面に粒状の物体が位置していることがわかった。しかも、これらの物体は、大豆皮の焼成物の焼成温度が高くなるにつれて、数が増加し、かつ、そのサイズも大きくなっていることがわかった。これらの物体は、結晶が成長したものであるのか、カーボンナノチューブのようなものであるのか、或いは、これらのいずれでもないのかを特定するには至らなかったが、他の植物ではこの種の現象は確認できていない。
【0099】
また、図30(a)〜図30(f)を見れば、大豆皮の焼成物は、多孔質構造であることが確認できるは明らかである。また、X線回折によって、大豆皮の焼成物における結晶子サイズを測定したところ、図29(a)のものは約1nm〜約3nm、図29(b),図29(c)のものは約20nmであることがわかった。
【0100】
図6は、「大豆皮の焼成物」についての導電性試験の試験結果を示すグラフである。図6の横軸には大豆皮の焼成物に印加した圧力[MPa]を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。比較例として生大豆皮に対するフェノール樹脂の含浸率を0[wt.%]、25[wt.%]、30[wt.%]、40[wt.%]とした場合の各大豆皮の焼成物を試験対象とした。図6(b)には、他の実施例として、籾殻焼成物の試験結果を、大豆皮の焼成物の導電性試験とともに示している。導電性試験は、JIS−K7194に準拠して行った。なお、図6(a),図6(b)のいずれの「大豆皮の焼成物」も籾殻焼成物も、各々、焼成温度を900[℃]、メディアン径を60μmという製造条件とした。
【0101】
測定対象の「大豆皮の焼成物」の粉末1gを内径が約25φの円筒状の容器に入れてから、直径が約25φの円柱状の真鍮を上記容器の開口部分に位置合わせして、プレス機(東洋精機社製:MP−SC)を用いて、0[MPa]から0.5[MPa]刻みで4[MPa]又は5[MPa]まで、真鍮を介してプレスすることによって、大豆皮の焼成物を加圧しながら、その体積固有抵抗率を低抵抗測定器(ダイヤインスツルメント社製:loresta−GP MCP−T600)のプローブを真鍮の側部と底部とに接触させて測定するという手法を採用した。
【0102】
なお、約25φの円筒状の容器に代えて約10φの円筒状の容器を用い、直径が約25φの円柱状の真鍮に代えて直径が約10φの円柱状の真鍮を用いて、他の条件は上記のとおりとした場合にも、導電性試験の試験結果については同等のものが得られた。
【0103】
図6(a)に示す試験結果によれば、生大豆皮に対するフェノール樹脂の含浸率の高低に拘わらず、大豆皮の焼成物は、加圧が増加するにつれて、体積固有抵抗率が低下している、つまり、導電率が向上していることがわかる。
【0104】
さらに、図6(a)に示す試験結果によれば、大豆皮の焼成物の導電率は、フェノール樹脂の含浸率によっては余り影響がない。さらには、大豆皮の焼成物は、無加圧時(0[MPa])には体積固有抵抗率が約101.0[Ω・cm]であるものの、0.5[MPa]の加圧時には体積固有抵抗率が約10−0.4[Ω・cm]であり、その後、4.0[MPa]まで加圧時しても体積固有抵抗率が約10−1.0[Ω・cm]に留まる。このことから、大豆皮の焼成物は、ある程度の加圧さえすれば、体積固有抵抗率が低下するが、その後は、加圧の増加によって顕著な体積固有抵抗率の低下があるとまでは言えないと評価できる。
【0105】
図6(b)によれば、大豆皮の焼成物の体積固有抵抗率は、籾殻の焼成物に比して、無加圧時・加圧時の双方において低く、大豆皮の焼成物の導電率が低いことがわかる。ちなみに、図6(b)に示す大豆皮の焼成物の導電率は、カーボンブラックのそれと同程度である。
【0106】
なお、例えば、体積固有抵抗率が1.0×10−1[Ω・cm]と体積固有抵抗率が3.0×10−1[Ω・cm]とでは厳密にいえば3倍の差があるが、当業者にとって明らかなように、体積固有抵抗率の測定結果には、そこまで厳密性が要求されていない。したがって、体積固有抵抗率が1.0×10−1[Ω・cm]と体積固有抵抗率が3.0×10−1[Ω・cm]とでは、双方ともに「10−1」という桁数であることには変わりがないことから、これらは相互に同等であると評価しうる。
【0107】
また、図6の評価から、大豆皮にフェノール樹脂が効果的に含浸されていない可能性もあるので、大豆皮を仮焼成する、或いは、更に細かく粉砕してから生大豆皮に対するフェノール樹脂を含浸するなど、大豆皮にフェノール樹脂を染みこみ易くするといった前処理を行うと、大豆皮の焼成物の導電率が向上する余地が残されているといえよう。
【0108】
以上をまとめると、本実施形態の植物焼成物は、例えば0.5[MPa]以上の圧力を印加することによって、導電率が向上するという特性を有していることがわかる。
【0109】
図31は、コットンハル、胡麻粕、菜種粕、綿実粕の焼成物に係る導電性試験の試験結果を示すグラフである。図31の横軸にはコットンハル等を900℃の焼成温度で焼成した焼成物に印加した圧力[MPa]を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。なお、この導電性試験は、図6の説明の場合と同様の手法によって行った。
【0110】
図6(b)と対比すると明らかなように、コットンハル、胡麻粕、菜種粕、綿実粕に係る導電性は、大豆皮の焼成物に比して、体積固有抵抗率は略同等であることがわかる。
【0111】
具体的には、コットンハルの体積固有抵抗率は3.74×10−2[Ω・cm]、胡麻粕の体積固有抵抗率は4.17×10−2[Ω・cm]、菜種粕の体積固有抵抗率は4.49×10−2[Ω・cm]、綿実粕の体積固有抵抗率は3.35×10−2[Ω・cm]であった。
【0112】
図32は、焼成炉と焼成温度とを変更させたときの大豆皮の焼成物に係る導電性試験の試験結果を示すグラフである。図32の横軸には大豆皮の焼成物に印加した圧力[MPa]を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。なお、図6に示したものに対応する条件のものは、□でプロットしたグラフで示している。
【0113】
まず、焼成炉として静置炉を選択して焼成温度を900[℃]のままとした場合(▽でプロットしたもの)と、焼成炉としてロータリーキルンを選択して焼成温度を900[℃]のままとした場合(□でプロットしたもの)とを比較すると、体積固有抵抗率に大差はないといえる。具体的には、▽でプロットしたグラフの体積固有抵抗率は、4.68×10−2[Ω・cm]であり、□でプロットしたグラフの体積固有抵抗率は、9.60×10−2[Ω・cm]であり、双方ともに、「10−2」という桁数の共通が見られるためである。したがって、大豆皮の焼成炉の選別が、体積固有抵抗率に与える影響はほぼないといえる。
【0114】
一方、焼成炉としてロータリーキルンを選択して、焼成温度を700[℃]に低下させた場合(△でプロットしたもの)には、静置炉で焼成温度を900[℃]にした場合(▽でプロットしたもの)に比して、体積固有抵抗率が増加した。したがって、大豆皮の焼成温度は、体積固有抵抗率に影響を与えるといえる。
【0115】
そこで、大豆皮の焼成温度を更に変更して、体積固有抵抗率の測定を行ってみた。また、大豆皮の焼成物を微粉砕した場合の体積固有抵抗率の測定も行ってみた。
【0116】
図33は、焼成温度等を変更させたときの大豆皮の焼成物に係る導電性試験の試験結果を示すグラフである。図33の横軸には大豆皮の焼成物に印加した圧力[MPa]を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。
【0117】
図33には、焼成温度を1100[℃]とした場合(△でプロット)、焼成温度を1500[℃]とした場合(▽でプロット)、焼成温度を3000[℃]とした場合(実線・□でプロット)、焼成温度を1500[℃]として焼成物を微粉砕した場合(○でプロット)、焼成温度を3000[℃]として焼成物を微粉砕した場合(◇でプロット)、焼成温度を900[℃]のままとして焼成物を微粉砕した場合(破線・□でプロット)のグラフをそれぞれ示している。
【0118】
図33から明らかなように、焼成温度を900[℃]のままとして焼成物を微粉砕したもの(破線・□でプロット)が、これらの中では最も体積固有抵抗率が高い。なお、この体積固有抵抗率のグラフと図6のものと対比すると、若干ではあるが、焼成物を微粉砕すると体積固有抵抗率が高いことがわかる。
【0119】
次いで体積固有抵抗率が高いグラフは、焼成温度を1500[℃]として焼成物を微粉砕したものである(○でプロット)。体積固有抵抗率が高くなった理由は、焼成温度が相対的に低温であることに起因すると評価できる。また、焼成温度を1500[℃]として焼成物を微粉砕したもの(○でプロット)を、焼成物を微粉砕していないで焼成温度を1500[℃]としたもの(▽でプロット)と対比すると、焼成物を微粉砕した方が、体積固有抵抗率が高い。
【0120】
同様の傾向は、上記のように、焼成温度が900[℃]の焼成物でも見られるし、以下説明するように、焼成温度が3000[℃]の焼成物でも見られる。このことから、大豆皮の焼成物は、微粉砕すると体積固有抵抗率が高くなるといえる。
【0121】
また、焼成温度に着目すると、焼成温度を1100[℃]とした場合(△でプロット)よりも、焼成温度を1500[℃]とした場合(▽でプロット)、さらには、焼成温度を3000[℃]とした場合(実線・□でプロット)の方が、大豆皮の焼成物は、体積固有抵抗率が低いことから、焼成温度を高くするにつれて体積固有抵抗率が低くなるということがいえる。なお、この焼成温度と体積固有抵抗率との関係は、焼成物を微粉砕した場合にもあてはまる。
【0122】
つぎに、大豆皮の焼成物の体積固有抵抗率の測定に際し、いくつかのパラメータを変更してみた。なお、加圧条件は0.5[MPa]で統一した。
【0123】
(2)大豆皮の焼成物のメディアン径の変更
大豆皮の焼成物のメディアン径を、既述の篩分け後に粉砕等することによって、約15μm,約30μmと変更してみた。しかし、これらの数値の場合には、体積固有抵抗率は、いずれも約10−1.0[Ω・cm]付近であり、大差はなかった。
【0124】
一方、大豆皮の焼成物のメディアン径を、既述の篩分け後に粉砕等することによって、約4μm,約8μmとした場合には、体積固有抵抗率が約10−0.7〜0.8[Ω・cm]付近となり、若干の上昇がみられた。これは、これらの数値の場合には、大豆皮の焼成物のメディアン径を変更しても、大豆皮特有の細胞層の柱状および網目状の構造のほとんどが存在していないからであろうと推測される。
【0125】
(3)大豆皮の焼成温度の変更
大豆皮の焼成温度を変化させたところ、興味深い測定結果が得られた。すなわち、大豆皮の焼成温度を、約500[℃],約700[℃],約1100[℃],約1300[℃],約1500[℃]と変更してみた。なお、測定対象は、生大豆皮に対するフェノール樹脂の含浸率を25[wt.%]、大豆皮の焼成物に対する加圧条件は5[MPa]とした。
【0126】
図7は、大豆皮の焼成温度と体積固有抵抗率との関係を示すグラフである。図7の横軸には大豆皮の焼成温度[℃]を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。図7によれば、大豆皮の焼成温度が上昇するにつれて、体積固有抵抗率が激減している。これは、大豆皮の焼成物中の炭素含有率が向上していることに起因している可能性が高い。
【0127】
一方で、大豆皮の焼成温度が約1100[℃]以上になると、体積固有抵抗率に、あまり変化はみられないことがわかる。これは、大豆皮の焼成物中の炭素含有率及び他の成分含有率に、ほとんど変化が生じていないためであると考えられる。
【0128】
また、特に、大豆皮の焼成温度が約500[℃]〜約700[℃]の間で、大きく変動していることも読み取れる。これは、大豆皮の焼成物中の炭素含有率の変化が大きいためであると考えられる。なお、大豆皮の焼成温度が約1500[℃]の場合には、体積固有抵抗率は、約10−1.5[Ω・cm]と極めて小さな値となった。
【0129】
以上をまとめると、本実施形態の導電性組成物は、大豆皮の焼成温度が例えば700[℃]以上の場合には、導電率が向上するという特性を有していることがわかる。
【0130】
(4)その他の変更
大豆皮の焼成物のメディアン径と大豆皮の焼成温度とのいずれかを変更させるとともに、加えてエチレン・プロピレンジエンゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率を変化させてみた。
【0131】
図8は、大豆皮の焼成物の含有率と体積固有抵抗率との関係を示すグラフである。図8(a)では、大豆皮の焼成温度が、600[℃],900[℃],1500[℃]のそれぞれの場合で測定してある。図8(a)の横軸には大豆皮の焼成物の含有率[phr]を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。なお、いずれも、大豆皮の焼成物のメディアン径を60μm、導電性組成物の厚さを2.5[mm]とした。また、図8内のプロットの数値は、導電性組成物の中から任意に選択した9点で測定の平均値である。
【0132】
図8(a)に示すように、体積固有抵抗率は、大豆皮の焼成温度に拘わらず、大豆皮の焼成物の含有率が向上するにつれて低下することがわかる。大豆皮の焼成温度が900[℃],1500[℃]のように、焼成温度が相対的に高温の場合には、大豆皮の焼成物の含有率の高低に拘わらず大差が見られなかった。そして、当該体積固有抵抗率は、大豆皮の焼成物の含有率が高くなるにつれて低下していて、特に、大豆皮の焼成物の含有率が約100[phr]〜約200[phr]にかけて、急激な低下が見受けられる。
【0133】
一方、大豆皮の焼成温度が600[℃]のように、焼成温度が相対的に低温の場合には、体積固有抵抗率は、大豆皮の焼成物の含有率が高くなるに伴って低下しているものの、大豆皮の焼成温度が相対的に高温の場合に比して、当該低下は線形的であった。したがって、大豆皮の焼成温度が900[℃]等の場合のように、急激な低下は見られなかった。
【0134】
このように、大豆皮の焼成温度が相対的に高温の場合と低温の場合とで測定結果が異なる理由は、次のように考えられる。すなわち、大豆皮の焼成温度が相対的に低温の場合には、大豆皮内に元々絶縁性を有する有機成分が存在しているところ、大豆皮の焼成温度が相対的に高温の場合に比して、これらの多くが炭化、若しくは熱分解せずに残留しているからであろうと考えられる。
【0135】
また、大豆皮の焼成温度が900[℃]の場合と1500[℃]の場合とで、体積固有抵抗率がほぼ同一の測定結果となった理由は、焼成温度が900[℃]以上になれば、大豆皮の成分構成、すなわち炭素含有率に大きな変化がないためであると考えられる。
【0136】
図44は、焼成温度等を変更させたときの大豆皮の焼成物に係る体積固有抵抗率を示すグラフである。図44には、900[℃]で焼成して微粉砕した大豆皮の焼成物と、3000[℃]で焼成して微粉砕していない大豆皮の焼成物についてのそれぞれの測定結果を示している。なお、参考のため、図8(a)に示した1500[℃]で焼成して微粉砕していない大豆皮の焼成物の測定結果を付記している。
【0137】
まず、3000[℃]で焼成した大豆皮の焼成物の場合には、大豆皮の焼成物の含有率が0[phr]のときには、900[℃]で焼成して微粉砕した大豆皮の焼成物の場合とほぼ同一の測定結果である。
【0138】
しかし、3000[℃]で焼成した大豆皮の焼成物の場合には、大豆皮の焼成物の含有率が150[phr]のときには、3.0×10[Ω・cm]程度、400[phr]のときには80×10−1[Ω・cm]程度という体積固有抵抗率が確認できた。
【0139】
図44に示す3000[℃]で焼成した大豆皮の焼成物についての測定結果と図8(a)に示す測定結果とによれば、1500[℃]以上の所定の焼成温度を超えると、大豆皮の焼成物の炭素含有率に大きな変化が生じ、体積固有抵抗率に変化が見られることがわかる。
【0140】
また、図44に示す測定結果によれば、一般的には、焼成温度が高いほど導電性が高く、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率が高いほど導電性が向上するといえる。
【0141】
さらに、図44に示す測定結果によれば、大豆皮の焼成物を微粉砕すると、導電性がやや低下する。したがって、大豆皮の焼成物の粒径が、導電性の良否に影響を与えていることが分かる。ただ、大豆皮の焼成物を微粉砕すると、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率の変化に対する体積固有抵抗率の変化が緩やかになっていることが分かる。これは、大豆皮の焼成物の含有率が150[phr]〜300[phr]にかけて変化させている場合に顕著にみられる。したがって、大豆皮の焼成物を微粉砕した場合には、体積固有抵抗率を制御しやすくなるという利点があるといえる。
【0142】
図8(b)では、大豆皮の焼成物のメディアン径が、2μm,10μm,60μmのそれぞれの場合での体積固有抵抗率を測定してある。図8(b)の横軸には大豆皮の焼成物の含有率[phr]を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。なお、いずれも、大豆皮の焼成温度を900[℃]、導電性組成物の厚さを2.5[mm]とした。
【0143】
図8(b)に示すように、体積固有抵抗率は、大豆皮の焼成物のメディアン径の大小にかかわらず、大豆皮の焼成物の含有率の向上につれて低下することがわかる。また、体積固有抵抗率は、大豆皮の焼成物のメディアン径が大きいほど低下することがわかる。メディアン径が小さい焼成物では,ゴム内において大豆皮の焼成物のクラスターが形成しにくくなるからだと考えられる。
【0144】
ここで、クラスターとは、大豆皮の焼成物が相互に繋がることによって形成されるものであって、電流経路となるものである。そのため、クラスターが形成されにくい場合には電流が流れにくい。そして、大豆皮の焼成物の含有率の向上に伴い、体積固有抵抗率は、緩やかに低下し、電流が流れやすくなる。一方、クラスターが極端に多量に形成されていると、体積固有抵抗率は、大豆皮の焼成物の含有率が低くても急激に低下する。
【0145】
以上をまとめると、本実施形態の導電性組成物は、大豆皮の焼成物のメディアン径を例えば10μm以上とすると、導電率が向上するという特性を有していることがわかる。
【0146】
図34は、コットンハル、胡麻粕、菜種粕、綿実粕の焼成物の含有率と体積固有抵抗率との関係を示すグラフである。図34の横軸にはコットンハル等の焼成物の含有率[phr]を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。なお、いずれの植物の焼成物も、焼成温度を900[℃]とし、導電性組成物の厚さを2.5[mm]とした。また、図34内のプロットの数値は、導電性組成物の中から任意に選択した9点で測定の平均値である。
【0147】
図34に示すように、コットンハル、胡麻粕、菜種粕、綿実粕の各体積固有抵抗率は、相互に同様の測定結果が得られた。これらの体積固有抵抗率は、図8(b)に示す、大豆皮の体積固有抵抗率とも同様であるといえる。
【0148】
図9は、試験対象の導電性組成物の「表面抵抗率」の測定結果を示すグラフである。表面抵抗率の測定に際し、大豆皮の焼成温度、大豆皮のメディアン径、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率を変更してみた。
【0149】
図9(a)は、試験対象の導電性組成物を得るための焼成温度の違いによる「表面抵抗率」の測定結果を示す図である。図9(a)の横軸には導電性組成物の測定箇所を示し、縦軸には表面抵抗率[Ω/sq]を示している。ここでは、大豆皮の焼成温度が600[℃],900[℃],1500[℃]のそれぞれの場合に、導電性組成物の中から任意に選択した9点で測定した。なお、いずれも、大豆皮の焼成物のメディアン径を60μmとし、母材に対する大豆皮の焼成物の含有率を200[phr]、導電性組成物の厚さを2.5[mm]とした。
【0150】
図9(a)に示す測定結果によると、焼成温度の高低に拘わらず、表面抵抗率は、電磁波遮蔽体の位置によって大きな差が出なかった。ただし、焼成温度が高い方が表面抵抗率のバラつきは若干減少しているように見受けられる。これは、焼成温度が高いほど大豆皮の炭化が進行するので、大豆皮の成分構成の不均一性が是正されためであると考えられる。
【0151】
図9(b)は、試験対象の導電性組成物に係る大豆皮の焼成物のメディアン径の違いによる「表面抵抗率」の測定結果を示す図である。図9(b)の横軸には導電性組成物の測定箇所を示し、縦軸には表面抵抗率[Ω/sq]を示している。ここでは、大豆皮の焼成物のメディアン径が2μm,10μm,60μmのそれぞれの場合に、導電性組成物の中から任意に選択した9点で測定した。なお、いずれも、大豆皮の焼成温度を900[℃]とし、母材に対する大豆皮の焼成物の含有率を200[phr]とし、導電性組成物の厚さを2.5[mm]とした。
【0152】
図9(b)に示す測定結果によると、大豆皮の焼成物のメディアン径の大小に拘わらず、表面抵抗率は、導電性組成物の位置によって大きな差が出なかった。ただし、大豆皮の焼成物のメディアン径が大きい方が表面抵抗率のバラつきは若干減少し、かつ、表面抵抗率も低下するように見受けられる。
【0153】
図9(c)は、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率の違いによる「表面抵抗率」の測定結果を示す図である。図9(c)の横軸には導電性組成物の測定箇所を示し、縦軸には表面抵抗率[Ω/sq]を示している。ここでは、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率が0[phr],100[phr],200[phr],300[phr],400[phr]のそれぞれの場合に、導電性組成物の中から任意に選択した9点で測定した。なお、いずれも、大豆皮の焼成物のメディアン径を60μmとし、大豆皮の焼成温度を900[℃]とし、導電性組成物の厚さを2.5[mm]とした。
【0154】
図9(c)に示す測定結果によると、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率の高低に拘わらず、表面抵抗率は、導電性組成物の位置によって大きな差が出なかった。ただし、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率が高い方が表面抵抗率のバラつきは若干減少し、かつ、表面抵抗率も低下するように見受けられる。
【0155】
以上をまとめると、本実施形態の導電性組成物は、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率を200[phr]以上とし、焼成温度を上げ、粒子径を大きくすることによって、導電率が向上するという特性を有していることがわかる。
【0156】
図35(a)〜図35(h)は、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルの焼成物の導電性組成物の体積固有抵抗率及び表面抵抗率の測定結果を示すグラフであり、それぞれ図9(c)に対応するものである。なお、菜種粕等の焼成温度は900[℃]とした。
【0157】
図35(a),図35(c),図35(e),図35(g)の横軸には導電性組成物の測定箇所を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。図35(b),図35(d),図35(f),図35(h)の横軸には導電性組成物の測定箇所を示し、縦軸には表面抵抗率[Ω/sq]を示している。
【0158】
図35(a),図35(b)には、菜種粕の焼成物の導電性組成物の体積固有抵抗率及び表面抵抗率の各グラフを示している。図35(a),図35(b)によれば、ゴムに対する菜種粕の焼成物の含有率を200[phr]以上とすると、導電率が向上するという特性を有していることがわかる。なお、ゴムに対する菜種粕の焼成物の含有率を400[phr]とした場合には、体積固有抵抗率は11.5[Ω・cm]、表面抵抗率は46.3[Ω/sq]となった。
【0159】
図35(c),図35(d)には、綿実粕の焼成物の導電性組成物の体積固有抵抗率及び表面抵抗率の各グラフを示している。図35(c),図35(d)によれば、ゴムに対する綿実粕の焼成物の含有率を200[phr]以上とした場合にも、導電率が向上するという特性を有していることがわかる。なお、ゴムに対する綿実粕の焼成物の含有率を400[phr]とした場合には、体積固有抵抗率は4.93[Ω・cm]、表面抵抗率は19.7[Ω/sq]となり、図35に示したものの中では、それぞれ最も良い結果となった。
【0160】
図35(e),図35(f)には、胡麻粕の焼成物の導電性組成物の体積固有抵抗率及び表面抵抗率の各グラフを示している。図35(e),図35(f)によれば、ゴムに対する胡麻粕の焼成物の含有率を200[phr]以上とした場合にも、導電率が向上するという特性を有していることがわかる。なお、ゴムに対する綿実粕の焼成物の含有率を400[phr]とした場合には、体積固有抵抗率は13.7[Ω・cm]、表面抵抗率は54.7[Ω/sq]となった。
【0161】
図35(g),図35(h)には、コットンハルの焼成物の導電性組成物の体積固有抵抗率及び表面抵抗率の各グラフを示している。図35(g),図35(h)によれば、ゴムに対するコットンハルの焼成物の含有率を200[phr]以上とした場合にも、導電率が向上するという特性を有していることがわかる。なお、ゴムに対するコットンハルの焼成物の含有率を400[phr]とした場合には、体積固有抵抗率は5.69[Ω・cm]、表面抵抗率は22.8[Ω/sq]となった。
【0162】
以上の考察から、大豆皮の焼成物の場合と同様に、ゴムに対する植物の焼成物の含有率を200[phr]以上とすると、導電率が向上するという特性を有しているといえよう。
【0163】
また、大豆皮、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルの各焼成物に限って言えば、ゴムに対する植物の焼成物の含有率を200[phr]以上とすると、いずれの場合であっても、当該含有率が150[phr]までの場合に比して、表面抵抗率が非常に低下していることがわかる。また、各体積固有抵抗率を見ても、当該含有率が200[phr]以上となると、当該含有率が150[phr]までの場合に比して非常に低下していることがわかる。
【0164】
図36(a)〜図36(f)は、大豆皮の焼成物の導電性組成物の体積固有抵抗率及び表面抵抗率の測定結果を示すグラフであり、それぞれ図9(c)に対応するものである。大豆皮の焼成物のメディアン径は60μmとした。
【0165】
図36(a),図36(c),図36(e)の横軸には導電性組成物の測定箇所を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。図36(b),図36(d),図36(f)の横軸には導電性組成物の測定箇所を示し、縦軸には表面抵抗率[Ω/sq]を示している。
【0166】
図36(a),図36(b)には大豆皮の焼成温度を900[℃]とした焼成物を微粉砕した導電性組成物の体積固有抵抗率及び表面抵抗率、図36(c),図36(d)には大豆皮の焼成温度を1500[℃]とした場合の導電性組成物の体積固有抵抗率及び表面抵抗率、図36(e),図36(f)には大豆皮の焼成温度を3000[℃]とした場合の導電性組成物の体積固有抵抗率及び表面抵抗率の各グラフを示している。
【0167】
まず、各グラフを対比すると、既述のように、焼成温度を上げるにつれて、体積固有抵抗率及び表面抵抗率がともに低下することがわかる。つぎに、各グラフ内の測定結果を対比すると、焼成温度を上げるにつれて、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率が多くなるにつれて、体積固有抵抗率及び表面抵抗率がともに低下することもわかる。
【0168】
図10〜図12は、「導電性組成物」の電磁波吸収特性を示すグラフである。図10等の横軸には周波数[Hz]を示し、縦軸には電磁波吸収量[dB]を示している。図10等に示す電磁波吸収特性は、300[mm]×300[mm]の大きさのメタリックプレート上に、同サイズの導電性組成物を載置した状態で、図10等内でプロットしている周波数の入射波を導電性組成物に対して照射し、導電性組成物からの反射波のエネルギーを計測して、入射波と反射波とのエネルギー差、つまり、電磁波吸収量(エネルギー損失)を算出したものである。なお、当該測定は、アーチ型電磁波吸収測定器を使用して、アーチテスト法に基づいて行った。
【0169】
ここでは、下記条件の試料1〜4を用意した。すなわち、
試料1:導電性組成物の厚み2.5[mm]、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率300[phr]
試料2:導電性組成物の厚み2.5[mm]、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率400[phr]
試料3:導電性組成物の厚み5.0[mm]、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率300[phr]
試料4:導電性組成物の厚み5.0[mm]、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率400[phr]
を用意した。
【0170】
なお、試料1〜4のいずれも、
導電性組成物を得るための大豆皮の焼成温度:900[℃]
大豆皮の焼成物のメディアン径:60μm
とした。
【0171】
図10によれば、導電性組成物の厚みがない試料1,2(図内○、×でプロットしたもの)は、周波数帯域4000[MHz]〜6000[MHz]での電磁波吸収量が相対的に多く、周波数帯域6000[MHz]〜8000[MHz]での電磁波吸収量が相対的に少ないことがわかる。一方、導電性組成物の厚みがある試料3,4(図内△、□でプロットしたもの)は、周波数帯域4000[MHz]〜8000[MHz]で、電磁波吸収量のバラつきが少なく、電磁波吸収量が相対的に少ないことがわかる。
【0172】
また、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率が高い試料2,4(図内×、□でプロットしたもの)が、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率が低い試料1,3(図内○、△でプロットしたもの)よりも、電磁波吸収量が少ないことがわかる。
【0173】
図11に関し、下記試料5〜7を用意した。すなわち、
試料5:導電性組成物を得るための大豆皮の焼成温度:600[℃]
試料6:導電性組成物を得るための大豆皮の焼成温度:900[℃](試料1)
試料7:導電性組成物を得るための大豆皮の焼成温度:1500[℃]
を用意した。
【0174】
なお、試料5〜7のいずれも、
大豆皮の焼成物のメディアン径:60μm
導電性組成物の厚み:2.5[mm]
ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率:300[phr]
とした。
【0175】
図11によれば、試料7(図内□でプロットしたもの)に関する電磁波吸収量は、周波数帯域に拘わらずほぼ一定量を示すが、それでも、低い周波数の方が高い周波数の場合よりも電磁波吸収量が多いといえる。
【0176】
一方、試料5(図内△でプロットしたもの)は、周波数が高くなるにつれて電磁波吸収量が多くなっていることがわかる。他方、試料6(図内○でプロットしたもの)は、周波数が高くなるにつれて電磁波吸収量が少なくなっていることがわかる。
【0177】
図12に関し、下記試料8〜12を用意した。すなわち、
試料8:導電性組成物の厚み:0.5[mm]
試料9:導電性組成物の厚み:1.0[mm]
試料10:導電性組成物の厚み:1.5[mm]
試料11:導電性組成物の厚み:2.0[mm](試料4)
試料12:導電性組成物の厚み:5.0[mm](試料3)
を用意した。
【0178】
なお、試料8〜12のいずれも、
導電性組成物を得るための大豆皮の焼成温度:900[℃]
大豆皮の焼成物のメディアン径:60μm
ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率:300[phr]
とした。
【0179】
図12によれば、試料8,9,12(図内□、▽、×でプロットしたもの)に関する電磁波吸収量は、総じてみれば周波数帯域に拘わらずほぼ一定量を示す。ただし、試料12(図内×でプロットしたもの)は、試料8,9(図内□、▽でプロットしたもの)に比して電磁波吸収量が多い。一方、試料10,11(図内△、○でプロットしたもの)は、周波数の高低により電磁波吸収量に変化がみられる。
【0180】
図13,図14は、「導電性組成物」の電磁波吸収特性を示すグラフである。図13等の横軸には周波数[Hz]を示し、縦軸に電磁波吸収量[dB]を示している。さらに、図13には、500[MHz]までの周波数帯域の拡大図を付記している。
【0181】
図13,図14に示す電磁波吸収特性は、いわゆるS−パラメータ法によって計測した。具体的には、内径が約20φの円筒状のテスト用容器の底面に外径が約20φで内径が8.7φのトロイダル形状の導電性組成物を載置した状態で、図13,図14内でプロットしている周波数の入射波をテスト用容器の開口端から導電性組成物に対して照射し、導電性組成物からの反射波のエネルギーを計測して、電磁波吸収量を算出したものである。導電性組成物は、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率を0[phr]〜400[phr]まで50[phr]刻みで変更している。なお、いずれも、大豆皮の焼成温度を900[℃]とし、大豆皮の焼成物のメディアン径を60μmとした。
【0182】
図13によれば、大豆皮の焼成物の含有率の高低に拘わらず、500[MHz]〜2300[MHz]付近では、電磁波吸収量はバラつきが少なく略0[dB]である。なお、2300[MHz]〜2400[MHz]のものは、測定時のノイズである。一方、2400[MHz]以上では、大豆皮の焼成物の含有率が150[phr]以下の場合には、電磁波吸収量はバラつきが少なく約0[dB]であるが、大豆皮の焼成物の含有率が200[phr]以上の場合には、程度の差こそあれ電磁波吸収量が多くなっている。
【0183】
図13の拡大図によれば、50[MHz]付近では、大豆皮の焼成物の含有率が150[phr],400[phr]の場合には、それぞれ、−3[dB],−6[dB]の電磁波吸収量が確認できるが、その他の含有率の場合には電磁波吸収量にバラつきが大きくなるものの−1.0[dB]内に納まっている。
【0184】
ここで、大豆皮の焼成物の含有率が400[phr]のものに着目すれば、本実施形態の電磁波吸収体は、50[MHz]付近周波数帯域においては、図2に示したように電磁波シールド効果が40[dB]であるところ、図13に示すように電磁波吸収量が−6[dB]であることから,34[dB]の反射が生じていると考えられる。また、図13に示すグラフから、50[MHz]〜100[MHz]の周波数帯域では,電磁波反射体として用いることが好ましい。
【0185】
図14には、導電性組成物の厚さを0.5[mm]〜5.0[mm]まで、0.5[mm]刻みで変更した場合の周波数と電磁波吸収量との関係を示している。ここでは、大豆皮の焼成物の含有率を300[phr]としている。
【0186】
図14によれば、導電性組成物の厚さが2.5[mm],5.0[mm]の場合を除くと、相互に近似した電磁波吸収量を示していることがわかる。すなわち、導電性組成物の厚さが0.5[mm]〜1.5[mm]の場合には、500[MHz]〜2300[MHz]付近では、電磁波吸収量はバラつきが少なく略0[dB]である。2400[MHz]以上では、導電性組成物の厚さの相違に基づく程度の差こそあれ、電磁波吸収量が多くなっていて、500[MHz]以下では、電磁波吸収量にバラつきが大きくなるものの−1.0[dB]内に納まっている。なお、2300[MHz]〜2400[MHz]に表れているものはノイズである。
【0187】
これに対して、導電性組成物の厚さが5.0[mm]の場合には、3000[MHz]までの周波数帯域のいずれの個所でも電磁波吸収量が相対的に多い。また、導電性組成物の厚さが2.5[mm]の場合にも、1200[MHz]を超える付近から、電磁波吸収量が多くなる。
【0188】
ただし、この実験結果によると、2400[MHz]以上の周波数帯域では、導電性組成物の厚さが2.5[mm]の場合と導電性組成物の厚さが5.0[mm]の場合とでは電磁波吸収量の多少の相違が見受けられる。
【0189】
もっとも、導電性組成物の厚さが5.0[mm]の場合には、周波数50[MHz]において、−4[dB]程度の吸収特性が得られている点と、周波数帯域2000[MHz]〜2500[MHz]において最大−5[dB]程度の吸収特性が得られている点とには注目すべきである。
【0190】
図37(a)〜図37(h)は、それぞれ、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルの焼成物からなる導電性組成物の電磁波吸収特性を示すグラフである。図37(a)〜図37(h)の横軸には周波数[MHz]を示し、縦軸に電磁波吸収量[dB]を示している。ここでは、導電性組成物の厚さを2.5[mm]、5.0[mm]とし、ゴムに対する菜種粕等の焼成物の含有率を変化させている。
【0191】
図37(a)には菜種粕の焼成物を900[℃]の焼成温度で焼成した厚さを2.5[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示し、図37(b)には菜種粕の焼成物を900[℃]の焼成温度で焼成した厚さを5.0[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示している。
【0192】
図37(c)には綿実粕の焼成物を900[℃]の焼成温度で焼成した厚さを2.5[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示し、図37(d)には綿実粕の焼成物を900[℃]の焼成温度で焼成した厚さを5.0[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示している。
【0193】
図37(e)には胡麻粕の焼成物を900[℃]の焼成温度で焼成した厚さを2.5[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示し、図37(f)には胡麻粕の焼成物を900[℃]の焼成温度で焼成した厚さを5.0[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示している。
【0194】
図37(g)にはコットンハルの焼成物を900[℃]の焼成温度で焼成した厚さを2.5[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示し、図37(h)にはコットンハルの焼成物を900[℃]の焼成温度で焼成した厚さを5.0[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示している。
【0195】
菜種粕等のいずれの植物の焼成物を用いたときも、3000[MHz]以下の周波数帯域では、導電性組成物の厚さが2.5[mm]の場合には最大で−5[dB]程度の吸収特性が得られ、5.0[mm]の場合には最大で−8[dB]程度の吸収特性が得られた。
【0196】
なお、胡麻粕については、ゴムに対して300[phr]の焼成物を含有させた場合の測定を行うことができなかったため、確定的なことは言えないが、2000[MHz]〜3000[MHz]という周波数帯域では、菜種粕等のいずれの植物の焼成物の場合にも、ゴムに対して300[phr]を含有させた場合に、効果的な周波数吸収特性があるといえる。
【0197】
図38は、焼成温度等を変更させたときの大豆皮の焼成物に係る電磁波吸収特性を示すグラフであり、図13に相当するものである。図38(a)〜図38(f)の横軸には周波数[MHz]を示し、縦軸に電磁波吸収量[dB]を示している。ここでも、導電性組成物の厚さを2.5[mm]、5.0[mm]の双方の場合の測定を行った。
【0198】
図38(a)には「大豆皮の焼成物」を900[℃]の焼成温度で焼成して微粉砕した厚さを2.5[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示し、図38(b)には「大豆皮の焼成物」を900[℃]の焼成温度で焼成して微粉砕した厚さを5.0[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示している。
【0199】
図38(c)には「大豆皮の焼成物」を1500[℃]の焼成温度で焼成した厚さを2.5[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示し、図38(d)には「大豆皮の焼成物」を1500[℃]の焼成温度で焼成した厚さを5.0[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示している。
【0200】
図38(e)には「大豆皮の焼成物」を3000[℃]の焼成温度で焼成した厚さを2.5[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示し、図38(f)には「大豆皮の焼成物」を3000[℃]の焼成温度で焼成した厚さを5.0[mm]の導電性組成物の電磁波吸収特性を示している。
【0201】
まず、図38(a)〜図38(f)のすべての測定結果から、2000[MHz]〜3000[MHz]の周波数帯域において、導電性組成物の厚さが5.0[mm]の場合には最大で10[dB]程度の電磁波吸収量が確認された一方で、導電性組成物の厚さが2.5[mm]の場合にはこのような電磁波吸収量は確認されなかった。
【0202】
また、図38(a)〜図38(f)を相互に比較すると、導電性組成物を得るための大豆皮の焼成物の焼成温度、導電性組成物の厚さ、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有量、大豆皮の焼成物の微粉砕の有無に依存して、最大電磁波吸収量が得られる周波数帯域が変動することが確認できた。
【0203】
このことから、例えば2500[MHz]周辺に好適に用いられる導電性組成物を得ようとする場合には、
(1)大豆皮の焼成物の焼成温度を1500[℃]、導電性組成物の厚さを5[mm]、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有量を200[phr]、大豆皮の焼成物を微粉砕せず、としてもよいし、
(2)大豆皮の焼成物の焼成温度を900[℃]、導電性組成物の厚さを5[mm]、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有量を300[phr]〜400[phr]、大豆皮の焼成物を微粉砕する、としてもよい
ということがわかる。
【0204】
図15,図16は、図13,図14に対応する周波数と電磁波吸収特性との関係を示すグラフである。ここでは、2000[MHz]〜8000[MHz]の周波数帯域での電磁波吸収特性を示している。
【0205】
図15に示すように、各グラフの極小値に着目すれば、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率と周波数帯域との間に関連性が見受けられる。すなわち、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率が多いほど、電磁波の吸収領域が低周波数帯域にシフトしている。
【0206】
また、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率と吸収量自体との間にも関連性がみられる。すなわち、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率が50[phr],100[phr]の場合を除き、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率が増加するほど、電磁波吸収量が多くなる。
【0207】
しかし,大豆皮の焼成物の含有率が50[phr]及び100[phr]の試料では吸収特性が得られない。なお、図15において注目すべきは、大豆皮の焼成物の含有率が150[phr]の場合には、7[GHz]〜8[GHz]の周波数帯域において−20[dB]もの吸収特性が得られた点である。
【0208】
図16に示すように、導電性組成物の厚さと周波数帯域との間に関連性が見受けられる。すなわち、導電性組成物の厚さが増加するにつれて、電磁波の吸収領域が低周波数帯域にシフトしている。
【0209】
図39(a)〜図39(d)は、それぞれ、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルの焼成物からなる導電性組成物の電磁波吸収特性を示すグラフであり、図15に相当するものである。図39(a)〜図39(d)の横軸には周波数[Hz]を示し、縦軸に電磁波吸収量[dB]を示している。ここでは、菜種粕等の焼成温度を900℃とし、導電性組成物の厚さを2.5[mm]とし、ゴムに対する菜種粕等の焼成物の含有率を変化させている。
【0210】
図39(a)には、菜種粕の焼成物からなる導電性組成物の電磁波吸収特性を示している。図39(b)には、胡麻粕の焼成物からなる導電性組成物の電磁波吸収特性を示している。図39(c)には、綿実粕の焼成物からなる導電性組成物の電磁波吸収特性を示している。図39(d)にはコットンハルの焼成物からなる導電性組成物の電磁波吸収特性を示している。
【0211】
まず、図39(a)〜図39(d)を見てみると、2000[MHz]〜6000[MHz]の周波数帯域では、菜種粕等の各焼成物における電磁波吸収量の最大値は、−15[dB]程度であることがわかる。
【0212】
なお、図39(c)に示す綿実粕については、ゴムに対して300[phr]の焼成物を含有させた場合の測定を行うことができなかったため、確定的なことは言えないが、2000[MHz]〜8000[MHz]という周波数帯域では、菜種粕等のいずれの植物の焼成物の場合にも、ゴムに対して300[phr]を含有させた場合に効果的な周波数吸収特性があるといえる。そして、電磁波吸収量が最大となる周波数は、4000[MHz]〜6000[MHz]付近であるという結果が得られた。
【0213】
図40は、焼成温度等を変更させたときの大豆皮の焼成物に係る電磁波吸収特性を示すグラフであり、図15に相当するものである。図40(a)〜図40(c)の横軸には周波数[MHz]を示し、縦軸に電磁波吸収量[dB]を示している。なお、導電性組成物の厚さは、2.5[mm]としている。
【0214】
図40(a)には、大豆皮の焼成物を900[℃]の焼成温度で焼成して微粉砕したものの電磁波吸収特性を示している。図40(b)には、大豆皮の焼成物を1500[℃]の焼成温度で焼成して微粉砕しないものの電磁波吸収特性を示している。図40(c)には、大豆皮の焼成物を3000[℃]の焼成温度で焼成して微粉砕しないものの電磁波吸収特性を示している。
【0215】
大豆皮の焼成物の場合には、図39に示した菜種粕等の場合に比して、焼成温度に拘わらず、20[dB]以上の強い電磁波吸収特性が確認できる。また、これらの測定結果によれば、電磁波吸収量の最大値と、大豆皮の焼成温度と、ゴムに対する大豆皮の焼成物の含有量との間の相関関係は乏しいといえる。
【0216】
例えば、図40(a)に示すように焼成温度が900[℃]の場合には含有量が300[phr]、図40(b)に示すように焼成温度が1500[℃]の場合には含有量が200[phr]、図40(c)に示すように焼成温度が3000[℃]の場合には含有量が150[phr]のときに、電磁波吸収量が多かった。
【0217】
また、図40(a)から、約4200[MHz]〜約4400[MHz]の周波数帯域で20[dB]以上の電磁波遮蔽量が確認できる。さらに、図40(b)及び図40(c)から、約6000[MHz]付近の周波数帯域で20[dB]以上の電磁波遮蔽量が確認できる。特に、図40(c)では、最大で、40[dB]近い電磁波遮蔽量が確認できる。
【0218】
図17,図18は、大豆皮の焼成物を配合する母材をエチレン・プロピレンジエンゴムに代えて低密度ポリエチレンとした場合の周波数と電磁波吸収量との関係を示すグラフである。図17には、大豆皮の焼成温度を900℃、メディアン径を約60μm、導電性組成物の厚さを2.5[mm]として、低密度ポリエチレンに対する大豆皮の焼成物の含有率を0〜50[wt.%]まで10[wt.%]刻みで変更した場合のグラフを示している。
【0219】
図17によれば、大豆皮の焼成物の含有率に拘わらず、500[MHz]〜2300[MHz]付近では、電磁波吸収量はバラつきが少なく略0[dB]である。なお、大豆皮の焼成物の含有率に拘わらず、2300[MHz]以上、500[MHz]以下の周波数帯域では、程度の差こそあれ図13に示した場合と同様の電磁波吸収量を示していると評価できる。
【0220】
図18には、低密度ポリエチレンに対する大豆皮の焼成物の含有率を40[wt.%],50[wt.%]から選択し、導電性組成物の厚さを1,2,3[mm]と変更した場合のグラフを示している。図18の場合にも、総じてみれば、電磁波吸収量については、図17に示した場合と同様の評価ができる。
【0221】
ただし、導電性組成物の厚さを増して、低密度ポリエチレンに対する大豆皮の焼成物の含有率を高めた場合には、電磁波吸収量は多くなる。このことから、低密度ポリエチレンを母材とする場合には、大豆皮の焼成物の含有率自体を向上させるようにすることが、電磁波吸収の点では好ましい。
【0222】
図17,図18に示すグラフからいえることは、低密度ポリエチレンに対する大豆皮の焼成物の含有率が、低密度ポリエチレンの構造上、特性上の理由から、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する大豆皮の焼成物の含有率より多くできないため、電磁波吸収特性が相対的には得られないことがわかる。ちなみに、低密度ポリエチレンに対する大豆皮の焼成物の含有率は、せいぜい、含有率50[wt.%](=大豆皮の焼成物の含有率:100[phr])程度である。
【0223】
以上説明したように、本実施形態の導電性組成物は、その帯電防止機能、静電防止機能のみならず、遮蔽機能が認められる。また、これらの機能は、大豆皮等の植物焼成物の製造条件を変更することで、種々の用途に適したものとすることができる。
【0224】
換言すると、本実施形態の導電性組成物は、大豆皮の焼成物の含有率、大豆皮の焼成物のメディアン径、大豆皮の焼成物を得るための焼成温度、導電性組成物に対する大豆皮の焼成物の含有率を調整することによって、種々の用途に適したものとすることができる。したがって、例えば、本実施形態の導電性組成物は、電子機器で用いられるプラスチック、ゴムへの導電性フィラーとして利用することができる。
【0225】
また、本実施形態に係る大豆皮の焼成物について、以下のような実験、測定を行った。なお、ここでは、大豆皮の焼成物のメディアン径を約30μmのもの、約60μmのものを用いて何回かの実験、測定を行ったが、この範囲のメディアン径の相違による実験結果、測定結果の違いは見られなかった。
【0226】
(1)本実施形態に係る大豆皮の焼成物について、かさ比重、BET比表面積、結晶子サイズといった物性値を測定した。
【0227】
(2)本実施形態に係る大豆皮の焼成物について、エチレン・プロピレンジエンゴム以外の母材に対する配合の可否、及び、配合が可能である場合のゴムに対する当該焼成物含有率を測定した。
【0228】
まず、物性値については、以下のような測定結果が得られた。
BET比表面積:約4.7m/g〜約390m/g
結晶子サイズ:約1nm〜約20nm
【0229】
なお、900[℃]、1500[℃]、3000[℃]の各焼成温度で焼成したものを比較すると、焼成温度によりBET比表面積が変化することも分かる。
【0230】
ここで、たとえば、特開2005−336017号公報には、かさ比重が0.6〜1.2g/cmの多孔質炭素材料が開示されている。この公報のものと上記測定結果とを対比すると、本実施形態に係る大豆皮の焼成物は、そのかさ比重が低い値であるといえる。なお、本実施形態に係る大豆皮の焼成物のかさ比重は、JIS K−1474に準拠して測定した。
【0231】
特開2007−191389号公報には、非水系二次電池用電極向きの炭素質あるいは黒鉛質粒子として、メディアン径が5〜50μm、BET法比表面積が、25m2/g以下のものが開示されている。
【0232】
特開2005−222933号公報には、リチウム電池用負極材として、結晶子サイズが100nmよりも大きい炭素質粒子が開示されている。この公報のものと上記測定結果とを対比すると、本実施形態に係る大豆皮の焼成物は、その結晶子サイズが小さく、低結晶性カーボンであると評価できる。
【0233】
つぎに、エチレン・プロピレンジエンゴム以外の母材に対する配合の可否、及び、配合が可能である場合のゴムに対する当該焼成物含有率の測定結果としては、以下のようになった。
【0234】
なお、オープンロール(2軸混練機)として、安田精機製作所社製のNo.191‐TM TEST MIXING ROLLを用い、成型加工機(圧縮成型機)として、TOYOSEIKI mini TEST PRESS・10を用いた。
【0235】
また、比較のために、本実施形態に係る大豆皮の焼成物のほかに、
(1)ヤシ殻活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製の粒状白鷺WH2C8/32SS、Lot No M957)、
(2)カーボンブラック(旭カーボン社製のSUNBLACK285、Lot No 8BFS6)、
を用いた。
【0236】
エチレン・プロピレンジエンゴム以外の母材としては、
(a)イソプレン(ジェイエスアールクレイトンエラストマー社製のIR-2200)、
(b)ポリ塩化ビニル樹脂(新第一塩ビ社製のZEST1000Z、Lot NoC60211)、
を用いた。
【0237】
また、ヤシ殻活性炭及びカーボンブラックについては、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する配合の可否についても確認した。
【0238】
本実施形態に係る大豆皮の焼成物等の母材に対する配合は、既述の図2を用いた説明と同様であるが、概説すると、イソプレンを母材とした場合には約90[℃]に予熱させたオープンロールで素練りをした。また、PVCを母材とした場合には約185[℃]に予熱させたオープンロールで素練りをした。それから、本実施形態に係る大豆皮の焼成物等を、それぞれ、母材に対して配合してみた。なお、この大豆皮の焼成物は、900[℃]の温度で焼成したものであり、メディアン径は30μmとした。
【0239】
その後、成型加工機を用いて、本実施形態に係る大豆皮の焼成物等を配合した母材に対して、圧力20[MPa]、温度100[℃]、5分間といった条件で成型加工した。
【0240】
こうして、得られた結果物についての、母材に対する配合の可否、及び、配合が可能である場合のゴムに対する当該焼成物含有率の測定結果は以下のとおりである。
【0241】
1.本実施形態に係る大豆皮の焼成物について
(1)イソプレンを母材とした場合には、約600[phr]もの含有率が確認できた。
【0242】
(2)ポリ塩化ビニル樹脂を母材とした場合には、約350[phr]もの含有率が確認できた。
【0243】
2.ヤシ殻活性炭について
(1)イソプレンを母材とした場合には、約150[phr]の含有率が確認できた。しかし、200[phr]以上練り込むのは不可能であった。
【0244】
(2)エチレン・プロピレンジエンゴムを母材とした場合には、約150[phr]の含有率が確認できた。ただし、この場合、この加圧成形体を湾曲させると、クラックが発生した。また、200[phr]以上練り込むのは不可能であった。
【0245】
3.カーボンブラックについて
(1)イソプレンを母材とした場合には、約100[phr]の含有率が確認できた。ただし、この場合、この加圧成形体を湾曲させると、クラックが発生した。また、150[phr]以上練り込むのは不可能であった。
【0246】
(2)エチレン・プロピレンジエンゴムを母材とした場合には、約100[phr]の含有率が確認できた。ただし、この場合、この加圧成形体を湾曲させると、クラックが発生した。また、150[phr]以上練り込むのは不可能であった。
【0247】
以上をまとめると、本実施形態に係る大豆皮の焼成物に対して、植物由来の炭化物という点、及び、多孔質構造であるという点で共通している「ヤシ殻活性炭」を用いても、本実施形態に係る大豆皮の焼成物のような、母材に対する大量の配合は認められなかった。とすると、本実施形態に係る大豆皮の焼成物の焼成温度、それに起因する炭素含有量、反応性官能残基の多さなどのいずれかが、母材に対する含有率を高めることに寄与している可能性がある。
【0248】
また、石油系ピッチ由来のカーボンブラックの場合には、エチレン・プロピレンジエンゴムに対して100[phr]の量を含有させたのでは、その可撓性が低下するのみならず、イソプレンに対して100[phr]の量を含有させた場合であっても、その可撓性が低下することがわかった。
【0249】
なお、本実施形態に係る大豆皮の焼成物は、シリコンゴムを母材とした場合であっても、母材に対して配合することが可能であることを確認した。また、本実施形態において説明した各実験結果等については、選択的に再現性試験を行ってみたところ、いずれも再現性が確認できた。
【0250】
さらに、本実施形態に係る大豆皮の焼成物のメディアン径を約30μmとして各実験を選択的に行ってみた。図8を用いて説明したとおり、メディアン径を60μm,10μm,2μmと変更した場合には、体積固有抵抗率の差異が見受けられたが、メディアン径が60μmの場合と30μmの場合とでは、顕著な差異は見られなかった。もっとも、「表面抵抗率」についても、メディアン径が60μmの場合と30μmの場合とでは、顕著な差異は見られなかった。
【0251】
(実施形態2)
本発明の実施形態1では、主として、大豆皮の焼成物を用いた導電性組成物について説明した。本発明の実施形態2では、主として、米糠、籾殻を用いた静電気帯電防止体及び電磁波遮蔽体について説明する。
【0252】
まず、実施形態1と同様に、籾殻の焼成物を用いた「導電性組成物」の電磁波吸収特性について説明する。導電性組成物の製造方法・条件は、図2に示した場合と同様である。
【0253】
図45は、本実施形態の導電性組成物の電磁波シールド特性の測定結果を示すグラフであり、図24に対応するものである。図45の横軸は周波数[MHz]を示し、縦軸は電磁波遮蔽量[dB]を示している。ここでも、籾殻の焼成物のメディアン径を60μm、導電性組成物の厚さを2.5[mm]とした。また、籾殻にレゾール型フェノール樹脂を含有させずに籾殻を焼成している。なお、籾殻の焼成温度は3000[℃]としている。
【0254】
図45を見てみると、ゴムに対する籾殻の焼成物の含有量を400[phr]とした場合には、驚くべきことに、1000[MHz]までほぼ30[dB]を超える電磁波遮蔽量が、しかも、安定的に得られることがわかる。とりわけ、700[MHz]を超えてからは、40[dB]を安定的に超える電磁波遮蔽量が確認できる。
【0255】
また、ゴムに対する籾殻の焼成物の含有量を200[phr],300[phr]とした場合にも、約300[MHz]までほぼ25[dB]を超える電磁波遮蔽量が得られることがわかる。したがって、電磁波を遮蔽したい周波数に応じて、ゴムに対する籾殻の焼成物の含有量を適宜選択することが好ましい。
【0256】
図19,図20は、籾殻の焼成物を用いた導電性組成物の周波数と電磁波吸収特性との関係を示すグラフであり、それぞれ、図13,図14に対応する。図19の横軸には周波数[Hz]を示し、縦軸に電磁波吸収量[dB]を示している。
【0257】
図19,図20に示す電磁波吸収特性も、図13,図14に示した電磁波吸収特性と同様の条件で計測した。なお、大豆皮の焼成温度を900℃、メディアン径を約60μmとした。
【0258】
図19によれば、籾殻の含有率の高低に拘わらず、250[MHz]〜2300[MHz]付近では、電磁波吸収量はバラつきが少なく約0[dB]であるが、わずかに、籾殻の含有率が高いほど電磁波吸収量が多いといえる。なお、2300[MHz]〜2400[MHz]には、ノイズが見られる。一方、2400[MHz]以上では、籾殻の含有率が高いほど電磁波吸収量が多いといえる。ここで注目すべきは、籾殻の焼成物の配合量を100[phr]とした場合には、50[MHz]付近で−3[dB]の電磁波吸収が得られているという点である。
【0259】
図20によれば、導電性組成物の厚さが5.0[mm]の場合を除くと、電磁波吸収量にバラつきが大きくなるものの−1.0[dB]内に納まっている。これに対して、導電性組成物の厚さが5.0[mm]の場合には、50[MHz]付近で約−5[dB],2.7[GHz]付近で約−10[dB]の電磁波吸収が得られることがわかる。なお、2300[MHz]〜2400[MHz]には、ノイズが見られる。
【0260】
図21,図22は、図19,図20に示した導電性組成物の周波数条件を変更したグラフであり、それぞれ、図15,図16に対応する。
【0261】
図21に示すように、各グラフの極小値に着目すれば、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する籾殻の焼成物の含有率と周波数帯域との間に関連性が見受けられる。すなわち、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する籾殻の焼成物の含有率が多いほど、電磁波の吸収領域が低周波数帯域にシフトしている。
【0262】
また、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する籾殻の焼成物の含有率と吸収量自体との間にも関連性がみられる。すなわち、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する籾殻の焼成物の含有率が100[phr]の場合を除き、エチレン・プロピレンジエンゴムに対する籾殻の焼成物の含有率が増加するほど、電磁波吸収量が少なくなる。
【0263】
具体的には、籾殻の焼成物の含有率が200[phr],300[phr],400[phr]の場合には、それぞれ、7[GHz]付近で−35[dB],5.3[GHz]付近で−15[dB],4.5[GHz]付近で−7[dB]の電磁波吸収量が得られた。なお、籾殻の焼成物の含有率が200の場合には、6.8[GHz]〜7.2[GHz]付近で−20[dB]以上の電磁波吸収量が得られた。
【0264】
図22に示すように、導電性組成物の厚さと周波数帯域との間に関連性が見受けられる。すなわち、導電性組成物の厚さが増加するにつれて、電磁波の吸収領域が低周波数帯域にシフトしている。2[GHz]〜8[GHz]の周波数帯域では、導電性組成物の厚さが0.5[mm],1.0[mm]の場合には、特段のピークは見受けられなかったが、導電性組成物の厚さが1.5[mm],2.5[mm],5.0[mm]の場合には、それぞれ、8[GHz]付近で−25[dB],5.5[GHz]付近で−15[dB]、6[GHz]付近で−10[dB]の電磁波吸収量が得られた。
【0265】
つぎに、米糠、籾殻を用いた静電気帯電防止体及び電磁波遮蔽体について説明する。籾殻は、稲穂を脱穀し玄米を得る際に出る副産物であり、年間約260万トン排出される。このうち、約170万トンは堆肥、畜舎の敷料、薫炭として利用され、残り約80万トンは焼却等の廃棄処理が行われている。このため、排気処理の無駄防止の観点から、廃棄処理されるものを有効利用することが求められている。
【0266】
また、籾殻の構成成分は、約8割が有機成分であり、約2割が無機成分である。この有機成分の内訳は、α−セルロースが約43[wt.%]、リグニンが約22[wt.%]、D−キシロースが約17[wt.%]である。無機成分は、約95[wt.%]がシリカである。シリカは、非晶質であり、酸、アルカリに溶けにくい。また、シリカは、熱膨張係数が低く(0.5×10−6)、1200[℃]程度までの耐高温性を有している。さらに、シリカは、非晶質であることから、他の材料に配合した場合に、高強度な配合物を得ることも期待できる。
【0267】
これに対して、籾殻を3000[℃]の温度で焼成した場合には、炭素が99.57%、アルミニウムが0.21%、銅が0.15%となった。
【0268】
図46は、3000[℃]の温度で焼成した籾殻の焼成物のSEM写真である。図46(a),図46(b)には1500倍の倍率で撮影したもの、図46(c)には2000倍の倍率で撮影したもの、図46(d),図46(e)には3000倍の倍率で撮影したものを、それぞれ示している。
【0269】
図46(a),図46(e)を見ると、籾殻の焼成物は、10μm程度の長さの針状部分とその周辺に位置する2μm程度の粒状部分とが混在していることが分かる。その一方で、図46(b)を見ると、籾殻の焼成物は、数10μm以上の相対的に長く大きな部分が見受けられる。さらに、図46(c)を見ると、籾殻の焼成物は、数10μm以上の相対的に長い針状部分が相互に連結された様子が見受けられる。また、図46(d)を見ると、籾殻の焼成物は、多孔質部分も有していることがわかる。
【0270】
図47は、それぞれ3000[℃]の温度で焼成した籾殻の焼成物及び米糠の焼成物についての導電性試験の試験結果を示すグラフであり、図6に対応するものである。図47(a)の横軸には大豆皮の焼成物に印加した圧力[MPa]を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。
【0271】
図47によれば、籾殻の焼成物と米糠の焼成物との体積固有抵抗率は、等価であると評価することができる。これは、3000℃という高温で焼成したため、炭素以外の成分が殆ど無くなったためである。
【0272】
また、図47と図6(b)とを対比すると、いずれにも籾殻の焼成物の体積固有抵抗率が表示されているが、焼成温度の相違から、加圧時には1桁レベルの体積固有抵抗率に変化が確認できる。つまり、籾殻の焼成物は、相対的に高温で焼成すると、導電率が向上することがわかる。
【0273】
図48は、レゾール型フェノール樹脂を含浸させていない籾殻を3000[℃]の温度で焼成した焼成物(以下、「RHC」と称する。)のガス脱着過程の細孔径分布曲線図であり、図42に対応するものである。図49は、RHCの細孔径分布曲線図であり、図43に対応するものである。図48,図49の横軸には細孔半径(Å)、縦軸には微分容積((mL/g)/Å)を示している。
【0274】
図48,図49に示すように、特定の細孔半径値において、複数の微分容積のピークが現れている。具体的には、図48に示すガス脱着過程では、中圧領域で小さなヒステリシスが認められる。また、細孔半径が約11.0Åの場合と細孔半径が約22.0Åの場合とに、シャープな微分容積のピークが現れている。
【0275】
一方、図49に示すガス吸着過程では、細孔半径が約4.0Åの場合と細孔半径が約5.3Åの場合とに、微分容積のピークが現れている。もっとも、いずれも5.0Å付近でのピークであるから、唯一の微分容積のピークが現れている場合と同様であるという評価もできよう。また、図49に示すガスの脱着過程では、低圧領域でそれなりのガス吸着が認められる。なお、詳細な計測結果は、図48,図49内のものを参照されたい。
【0276】
図50は、レゾール型フェノール樹脂を含浸させた籾殻を3000[℃]の温度で焼成した焼成物(以下、「RHSC」と称する。)のガス脱着過程の細孔径分布曲線図であり、図42に対応するものである。図51は、RHSCのガス吸着過程の細孔径分布曲線図であり、図43に対応するものである。
【0277】
図50に示すガス脱着過程では、細孔半径が約12.0Åの場合と約21.0Åの場合と細孔半径値において、微分容積のピークが現れていることが確認できる。また、図50に示すガス脱着過程では、中圧領域において小さなヒステリシスが認められる。
【0278】
一方で、図51に示すガス吸着過程では、細孔半径が約4.3Åの場合の細孔半径値において、唯一の微分容積のピークが現れていることが確認できる。また、図51に示すガスの脱着過程では、低圧領域でそれなりのガス吸着が認められる。なお、詳細な計測結果は、図50,図51内のものを参照されたい。
【0279】
図52は、レゾール型フェノール樹脂を含浸させていない米糠を3000[℃]の温度で焼成した焼成物(以下、「NRBC」と称する。)のガス脱着過程の細孔径分布曲線図であり、図42に対応するものである。図53は、NRBCのガス吸着過程の細孔径分布曲線図であり、図43に対応するものである。
【0280】
図52に示すガス脱着過程では、細孔半径が約21.0Åの場合の細孔半径値において、微分容積のピークが現れていることが確認できる。また、図52に示すガス脱着過程では、中圧領域において小さなヒステリシスが認められる。
【0281】
一方で、図53に示すガス吸着過程では、細孔半径が約4.0Åの場合と約5.1Åの場合と細孔半径値において微分容積のピークが現れていることが確認できる。もっとも、いずれも5.0Å付近でのピークであるから、唯一の微分容積のピークが現れている場合と同様であるという評価もできよう。また、図53に示すガスの脱着過程では、低圧領域でそれなりのガス吸着が認められる。なお、詳細な計測結果は、図52,図53内のものを参照されたい。
【0282】
図54は、レゾール型フェノール樹脂を含浸させていない米糠を3000[℃]の温度で焼成した焼成物(以下、「NRBC」と称する。)のガス脱着過程の細孔径分布曲線図であり、図42に対応するものである。図55は、NRBCのガス吸着過程の細孔径分布曲線図であり、図43に対応するものである。
【0283】
図54では、相対的に広い範囲の細孔半径値において複数の微分容積の小さなピークが現れていることが確認できる。換言すると、細孔径分布曲線図はブロードであるともいえる。また、図54に示すガス脱着過程では、ヒステリシスが認められない。
【0284】
一方で、図55に示すガス吸着過程では、細孔半径が約5.4Åの場合において、唯一の微分容積のピークが現れていることが確認できる。また、図55に示すガス脱着過程でも、ヒステリシスが認められない。なお、詳細な計測結果は、図54,図55内のものを参照されたい。
【0285】
ここで、図48〜図55に示す測定結果を含む、ガス脱着過程及びガス吸着過程における測定結果ついて、表1にまとめた。
【表1】

【0286】
図48〜図55及び表1に示す各測定結果について考察してみる。まず、表1に示すように、4つの測定対象ともに、ガスの脱着過程の回数はほぼ同じである。そして、脱着過程に要する時間は、2時間〜3時間程度と推察される。したがって,表1に示す測定時間の差は、吸着過程に要する時間の差であると思われる。
【0287】
ただ、吸着過程の回数と測定時間との間には、相関関係があるとはいえなさそうであるな。つまり、1回の吸着過程が完了する吸着平衡に達するまでの時間が、測定対象相互で差があるといえよう。
【0288】
また、RHSCは、表1に示すように、約1gの試料重量の測定時間が約12時間である。ここで、大豆皮の吸着過程の場合、約1gの試料重量の測定時間は約11時間であった。したがって、この点に鑑みれば、RHSCの測定結果は、大豆皮の吸着過程の測定結果に似ているといえる。
【0289】
RHSC以外の測定対象は、約1gの試料重量の測定時間が,約17.5時間以上であったので、この点に鑑みれば、各測定結果は、大豆皮の吸着過程の測定結果に似ているとはいえない。特に、吸着回数が23回と少ないNRBCは、測定開始直後の低圧領域で、1回の平衡に達する時間が相当長く、全体の測定時間も約26時間であり、つまり1日を超えたという結果になった。
【0290】
このように、比表面積が小さいにも関わらず、吸着平衡に達する時間が長いといった、窒素吸着がゆっくりと生じる挙動は,活性炭にみられるような挙動ではなく、木炭に典型的な挙動である。つまり、NRBCは、他の3種類の焼成体と比較すると、木炭と表面構造及び表面物性が似ているのではないかと推察される。
【0291】
ここで、米糠、籾殻を用いた静電気帯電防止体の背景技術等について説明しておく。籾殻等の焼成物は、カーボンブラック等の炭素材の代替品とすることができる。さらには、静電気帯電防止体の場合には、寧ろ、カーボンブラックを用いたものよりも、籾殻の焼成物を用いたものの方が体積固有抵抗率を制御しやすいという利点がある。
【0292】
図23は、籾殻の焼成物を用いた静電気帯電防止体とカーボンブラック(GPF−HS)を用いた静電気帯電防止体との配合率と体積固有抵抗率との関係を示すグラフである。図23に示すように、いずれの静電気帯電防止体も、炭素の混合率が増加するにつれて、体積固有抵抗率は低下する。しかし、籾殻の焼成物を用いた静電気帯電防止体の場合には、体積固有抵抗率の低下が、カーボンブラックを用いた静電気帯電防止体の体積固有抵抗率に比して穏やかである。
【0293】
静電気帯電防止材料は、一般的に、1×10[Ω・cm]〜1×10[Ω・cm]の体積固有抵抗値が要求される。この体積固有抵抗率を得るためには、一般的な炭素材を用いた静電気帯電防止体の場合、その炭素材の混合率を、62[phr]〜82[phr]という相対的に狭い範囲に設定する必要があるし、一般的な炭素材の場合には、パーコレーション現象が生じるため、体積固有抵抗率を得るための作業は非常に困難である。
【0294】
特に、たとえば半導体検査に用いられる治具等は、1×10[Ω・cm]〜1×10[Ω・cm]の体積固有抵抗率が要求されるので、炭素材の混合率を調整することによって、この体積固有抵抗率を実現することは不可能に近い。
【0295】
これに対応するために、一般的な炭素材を用いた静電気帯電防止体を製造する場合には、2種類以上の炭素材を用いて体積固有抵抗率の制御の困難性を軽減したり、静電気帯電防止体を製造した後にも、綿密にその体積固有抵抗率を測定したりといった、面倒な作業が強いられていた。
【0296】
特に、一般的な炭素材を用いた静電気帯電防止体の用途として、導電性の樹脂ロールがあるが、炭素材の配合率が多くなると、樹脂ロールの炭素成分が抜け、相手材を汚染したり、静電気帯電防止体の強度が低下したりといった問題もあった。
【0297】
これに対して、籾殻の焼成物を用いた静電気帯電防止体の場合には、籾殻の焼成物の混合率に応じて、体積固有抵抗率が緩やかに変化するという性質を有するので、容易に、体積固有抵抗率を制御することができ、上記のような面倒な作業を行う必要もない。具体的には、1×10[Ω・cm]〜1×10[Ω・cm]の体積固有抵抗値を得るためには、籾殻の焼成物を用いた静電気帯電防止体の場合、その炭素材の混合率を、174[phr]〜276[phr]という相対的に広い範囲に設定すればよい。
【0298】
また、籾殻等の焼成物は、焼成温度、メディアン径によっても導電率が変化するため、籾殻の焼成物を用いた静電気帯電防止体は、相対的に広範囲で、容易に表面抵抗率を制御することができる。したがって、籾殻の焼成物を用いた静電気帯電防止体は、幅広い導電性を制御可能な導電性フィラーとして利用することが可能となる。
【0299】
本出願人らは、これまで、農業廃棄物の再生と二次利用との目的で、籾殻が有する多孔質構造を利用した炭素粉体を作製し、工業材料として活用する研究を行ってきた。籾殻の焼成物は、フェノール樹脂を含浸して製造されるため、ガラス状カーボンで多孔質の強度が保持される。
【0300】
すなわち、籾殻の焼成物自体は、強度を有さないが、フェノール樹脂と混ぜると、フェノール樹脂由来の硬質炭素が、籾殻の焼成物の強度を補強することになり、静電気帯電防止体の機械的強度が損なわれない。また、用途によっては強度を要求されないため、フェノール樹脂を含浸しなくともよい。
【0301】
つぎに、籾殻の焼成物を用いた静電気帯電防止体の製造方法について説明する。まず、生の籾殻75重量部に対し、レゾール型フェノール樹脂(たとえば、大日本インキ化学工業製フェノライトST−611−LV)を25重量部混合し、乾燥硬化させる。つづいて、この混合物を900[℃]で焼成する。なお、本実施形態では、一例として、窒素雰囲気下で室温から850[℃]までの温度上昇を約4時間かけ、それから、900[℃]までに約25分かけ、900[℃]になってから約5時間保持した。
【0302】
上記焼成後には、当該焼成物を自然冷却させてもよいし、積極的に冷却処理をしてもよい。こうして、混合物を炭化させる。その後、実施形態1と同様の手順で、粉砕、篩分け処理を行う。なお、籾殻は、樹脂の浸透をよくするために、樹脂に混合する前に、3ミリ以下に粉砕しておくとよい。つぎに、実施形態1と同様に、篩分け処理後の混合物を、エチレン・プロピレンジエンゴムなどに混練して静電気帯電防止体を製造する。
【0303】
以上説明した各実施形態の植物焼成物は、様々な用途が考えられる。典型的には、カーボンブラックなどの炭素を素材としているものであれば、いかなる製品であっても適用することができる。
【0304】
たとえば、電気電子分野では、ウエハキャリア、ウエハカセット、トートビン、ウエハボート、ICチップトレー、ICチップキャリア、IC搬送チューブ、ICカード、テープ及びリールパッキング、液晶カセット、各種ケース、保存用トレー、保存用ビン、搬送装置部品、磁気カードリーダー、コネクター、コンピュータスロット、HDキャリア、MRヘッドキャリア、GMRヘッドキャリア、HSAキャリア、HDDのVCM、液晶パネルキャリアなどが挙げられる。
【0305】
また、OA機器分野では、電子写真複写機や静電記録装置などの画像形成装置における帯電ロール、帯電ベルト、除電ベルト、転写ロール、転写ベルト、現像ロールなどの帯電部材、記録装置用転写ドラム、プリント回路基板カセット、ブッシュ、紙及び紙幣搬送部品、紙送りレール、フォントカートリッジ、インクリボンキャニスター、ガイドピン、トレー、ローラー、ギア、スプロケット、コンピュータ用ハウジング、モデムハウジング、モニターハウジング、CD−ROMハウジング、プリンタハウジング、コネクター、コンピュータスロットなどが挙げられる。
【0306】
さらに、通信機器分野では、携帯電話部品、PDA部品、モバイルコンピュータ部品などが挙げられる。
【0307】
自動車分野では、内装材、アンダーフード、電子電気機器ハウジング、ガスタンクキャップ、燃料フィルタ、燃料ラインコネクタ、燃料ラインクリップ、燃料タンク、ドアハンドル、各種部品などが挙げられる。
【0308】
その他の分野では、電線及び電力ケーブル被覆材、電線支持体、電波吸収体、床材、カーペット、防虫シート、パレット、靴、靴底、テープ、ブラシ、送風ファン、面状発熱体、放熱体、遮熱体などが挙げられる。
【0309】
ここで、本発明の実施形態に係る植物焼成物を、電線及び電力ケーブル被覆材の一例として同軸ケーブルに用いる場合には、特に、以下のような利点がある。すなわち、同軸ケーブルは、テレビ受信機とアンテナとの接続、無線機とアンテナとの接続や、計測機器の接続、音声、映像信号の伝送、自動車内の各種配線などに用いられている。
【0310】
同軸ケーブルは、信号を伝送する内部導体と、内部導体を覆うシールド材としても機能する外部導体と、内部導体と外部導体とのショート防止用の絶縁体と、外部導体を覆うシースといった4層で構成されている。同軸ケーブルは、外部導体を備えているので、内部導体から外部への、或いは、外部から内部導体の電磁波の影響を抑制できる。また、フレキシブルであるから、ある程度の折り曲げが可能であるなどが特徴である。
【0311】
植物焼成物は、既述のように、遮蔽機能を有しているから、シースに練りこむことで、外部導体が不要となる。それでいて、従来のシールド電線のシールド性・フレキシブル性が実現できることになる。
【0312】
この結果、部品数低減による材料費削減、製造の容易化に伴う製造コスト削減、部品数低減によるシールド電線の小型化及び軽量化といったメリットが得られる。特に、大豆皮の焼成物の場合には、ラジオ周波数帯域における電磁波遮蔽能力が高いため、自動車内に用いられている配線の被覆材に用いれば、ラジオノイズ対策に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物焼成物と母材との混合物を加圧成形してなる導電性組成物であって、
前記植物焼成物は、炭素含有率と焼成温度とメディアン径とのいずれかを調整した植物焼成物であり、前記母材に対して100phr以上配合され、
前記焼成温度は700℃以上であって、前記メディアン径は4μm以上である導電性組成物。
【請求項2】
前記植物焼成物は、穀物の焼成物を含む請求項1記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記植物焼成物は、大豆皮、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、又は、コットンハルの焼成物を含む請求項1記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記植物焼成物は、米糠又は籾殻の焼成物を含む請求項1記載の導電性組成物。
【請求項5】
植物の炭化焼成後の粉砕物のうち前記メディアン径が約80μm以下となるように篩分された請求項1記載の植物焼成物。
【請求項6】
請求項1記載の植物焼成物を含む電磁波遮蔽体。
【請求項7】
請求項1記載の導電性組成物を備える電子機器。
【請求項8】
請求項1記載の導電性組成物を備える電子機器の検査装置。
【請求項9】
請求項1記載の導電性組成物を備える建材。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図46】
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【公開番号】特開2010−161057(P2010−161057A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222026(P2009−222026)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(396009458)三和油脂株式会社 (10)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】