説明

導電性組成物およびその製造方法、ならびに導電性皮膜およびその製造方法

【課題】コーティング性能が良好であり、電気導電性〜帯電防止性の調節も容易である導電性皮膜を形成可能な導電性組成物を提供する。
【解決手段】分子内に特定構造のアジリジニル基を少なくとも3つ有する多官能アジリジン誘導体(A)、アジリジニル基開環触媒(B)、ヘテロ原子含有π共役系導電性ポリマー(C)、および溶媒(D)を含有する導電性組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多官能アジリジン誘導体を主な成膜成分とする導電性組成物、およびその製造方法、ならびに当該導電性組成物から得られる導電性皮膜、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック等の樹脂基材やガラス等の無機基材、あるいは鉄や銅等の金属基材の上に、電気導電性〜帯電防止性の導電性皮膜を形成させるための組成物としては、例えば、成膜成分としての合成樹脂系ビヒクルに金属フィラー(銅粉等)を分散させてなる導電性組成物が知られている。しかし、導電性のある皮膜を得るためには一般に多量の金属フィラーが必要になるため、導電性皮膜の透明性が低下したり、基材に対する密着性が十分でなかったりする。
【0003】
金属系導電性フィラーの代わりにポリ(アニリン)等のヘテロ原子含有π共役系導電性ポリマーを、アクリルエマルジョン樹脂等の合成樹脂系ビヒクルに分散させてなる導電性組成物が知られている(特許文献1および2を参照)。しかし、相溶性の点より該導電性ポリマーの使用量が制限されやすく、導電性の高い皮膜を得ることが困難である。また、合成樹脂系ビヒクルは通常、それ単独では耐溶剤性等のコーティング性能に長けた導電性皮膜となり難いため、通常は、多官能イソシアネート等の硬化剤が別途必要とされる。
【0004】
合成樹脂系ビヒクルを用いない導電性組成物としては、例えば、低分子量の紫外線硬化型多官能化合物(トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等)にπ共役系導電性ポリマーを分散させたものが知られている(特許文献3および4を参照)。しかし、該導電性組成物をプラスチックフィルム用コーティング剤として用いた場合には、導電性皮膜の硬化収縮により、得られたフィルムに反りやカールが生じる懸念がある。その他、紫外線や電子線の照射装置等の余剰設備が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−55541号公報
【特許文献2】特開2003−321604号公報
【特許文献3】特開平6−162818号公報
【特許文献4】特開2007−190716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、合成樹脂系ビヒクルやその硬化剤、紫外線硬化型多官能化合物を使用することなく、平滑性、耐溶剤性、耐水性、各種基材との密着性、透明性等の皮膜性能に優れた導電性皮膜を形成可能な導電性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、下記構成からなる導電性組成物によれば、前記諸性能を具備する導電性皮膜が得られることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、分子内に下記構造のアジリジニル基を少なくとも3つ有する多官能アジリジン誘導体(A)、アジリジニル基開環触媒(B)、ヘテロ原子含有π共役系導電性ポリマー(C)、および溶媒(D)を含有する導電性組成物;該導電性組成物が硬化してなる硬化導電性皮膜;該導電性組成物を基材の上に塗布し、硬化させることを特徴とする導電性皮膜の製造方法、に関する。
【0009】
【化1】

【発明の効果】
【0010】
本発明に係る導電性組成物は貯蔵安定性が良好である。また、当該組成物によれば、幅広い範囲の導電性を有し、かつ、平滑性、耐溶剤性、耐水性、各種基材(金属、ガラス、特にプラスチックフィルム)との密着性、透明性等の皮膜性能が良好であり、かつ、硬化収縮しない導電性皮膜を形成できる。よって、本発明に係る導電性組成物および導電性皮膜は、製版用フィルムや包装用フィルム、光学部品用フィルム、ディスプレイ用プロテクトフィルム、半導体加工テープ用フィルム、ホットスタンピングフィルム、プラスチック成型加飾フィルム、透明電極、電磁波シールド、回路形成材料などの幅広い用途に供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の導電性組成物は、分子内に下記構造のアジリジニル基を少なくとも3つ有する多官能アジリジン誘導体(A)(以下、(A)成分という)、アジリジニル基開環触媒(B)(以下、(B)成分という)、ヘテロ原子含有π共役系導電性ポリマー(C)(以下、(C)成分という)、および溶媒(D)(以下、(D)成分という)を含有する。当該組成物は、(C)成分および(D)成分の存在下、(B)成分の作用により(A)成分が自己重合(ポリマー化)し、導電性皮膜を形成する。
【0012】
【化2】

【0013】
(RおよびRは水素または炭素数1〜6のアルキル基を表し、両者は同一であっても異なっていてもよい。)
【0014】
(A)成分としては、各種公知のもの(例えば米国特許4382135号、日本国特開2003−104970号等)を用い得る。
【0015】
(A)成分としては、導電性皮膜の耐溶剤性等を考慮して、特に3官能アジリジン誘導体および/または4官能アジリジン誘導体が好ましい。
【0016】
3官能アジリジン誘導体としては、入手が容易であることから、下記一般式(1)で表されるものが好適である。
【0017】
【化3】

【0018】
(式(1)中、Xは水素、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数1〜3のアルキロール基を表す。RおよびRはそれぞれ水素または炭素数1〜6のアルキル基を表し、両者は同一であっても異なっていてもよい。Rは水素またはメチル基を表す。)
【0019】
Xが水素のものとしては、例えば、グリセロール−トリス(1−アジリジニルプロピオネ−ト)、グリセロール−トリス[2−メチル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、グリセロール−トリス[2−プロピル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、グリセロール−トリス[2−ヘキシル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、グリセロール−トリス[2,3−ジメチル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、グリセロール−トリス[2,3−ジヘキシル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−トなどが挙げられる。
【0020】
Xが炭素数1〜6程度(好ましくは2〜3)のアルキル基のものとしては、トリメチロールプロパン−トリス(1−アジリジニルプロピオネ−ト)、トリメチロールプロパン−トリス[2−メチル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、トリメチロールプロパン−トリス[2−プロピル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、トリメチロールプロパン−トリス[2−ヘキシル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、トリメチロールプロパン−トリス[2,3−ジメチル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、トリメチロールプロパン−トリス[2,3−ジヘキシル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−トなどが挙げられる。
【0021】
Xが炭素数1〜3のアルキロール基のものとしては、テトラメチロールメタン−トリス(1−アジリジニルプロピオネ−ト)、テトラメチロールメタン−トリス[2−メチル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、テトラメチロールメタン−トリス[2−プロピル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、テトラメチロールメタン−トリス[2−ヘキシル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、テトラメチロールメタン−トリス[2,3−ジメチル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、テトラメチロールメタン−トリス[2,3−ジヘキシル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−トなどが挙げられる。
【0022】
4官能アジリジン誘導体としては、例えば、下記一般式(2)で表されるものが好適である。
【0023】
【化4】

【0024】
(式(2)中、RおよびRはそれぞれ水素または炭素数1〜6のアルキル基を表し、両者は同一であっても異なっていてもよい。Rは水素またはメチル基を表す。)
【0025】
式(2)で表される化合物としては、例えば、ペンタエリスリトール−テトラ(1−アジリジニルプロピオネ−ト)、ペンタエリスリトール−テトラ[2−メチル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、ペンタエリスリトール−テトラ[2−ヘキシル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、ペンタエリスリトール−テトラ[2,3−ジエチル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−ト、ペンタエリスリトール−テトラ[2,3−ジヘキシル−(1−アジリジニル)]プロピオネ−トなどが挙げられる。
【0026】
他の(A)成分としては、前記日本国特開2003−104970号に記載された6官能アジリジン誘導体などが挙げられる。
【0027】
なお、(A)成分とともに、アジリジン、2−メチルアジリジン、2−エチルアジリジン、2,2−ジメチルアジリジン、2,3−ジメチルアジリジン、2−フェニルアジリジン等の単官能アジリジン類や、テトラアジリジニルメタキシレンジアミン、テトラアジリジニルメチルパラキシレンジアミン、ネオペンチルグリコールジ(β−アジリジニルプロピオネ−ト)等の2官能アジリジン誘導体を併用できる。
【0028】
(B)成分は、(A)成分のアジリジニル基の開環反応(自己重合反応)を促進させる化合物であり、例えば、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、ジアリールホスホニウム塩等の酸発生剤;パラトルエンスルホン酸、塩酸、臭素酸、ヨウ素酸、硫酸、リン酸、およびこれらの中和塩等の非フッ素系酸触媒;フルオロスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、およびこれらの中和塩等のフッ素系酸触媒などが挙げられる。なお、該フッ素系酸触媒は、アジリジニル基を開環させる機能のみならず、導電性皮膜の導電性を向上させる機能をも併せもつ。
【0029】
前記各中和塩を形成するための塩基性化合物としては、アンモニア;モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の第1級アミン類;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の第2級アミン類;トリメチルアミン、トリエチルアミン等の第3級アミン類;アニリン、アリールアミン、アルカノールアミン等の他のアミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ(土類)金属水酸化物などが挙げられる。
【0030】
(B)成分としては、導電性組成物の貯蔵安定性(ポットライフ)や取り扱い易さの点よりパラトルエンスルホン酸中和塩および/またはトリフルオロメタンスルホン酸中和塩が好ましい。導電性皮膜の導電性の向上効果を考慮すれば、後者を単独で使用するか、両者を併用するのが好ましい。また、各中和塩をなす化合物としては、貯蔵安定性(ポットライフ)や、導電性皮膜の耐溶剤性の点より、アンモニアおよび/または第3級アミン類(特にトリメチルアミン、トリエチルアミン)が好ましい。
【0031】
(C)成分としては、分子内にヘテロ原子を有するπ共役系導電性ポリマーであれば各種公知のものを使用できる。ここに「ヘテロ原子」とは水素及び炭素以外の原子(例えば窒素原子や硫黄原子等)をいい、よって「ヘテロ原子含有π共役系導電性ポリマー」とは、分子内にへテロ原子を有し、かつ、分子主鎖がπ共役構造をなしている有機高分子化合物をいう。また、(C)成分は通常、各種ドーパントでドープされた状態で使用する。また、(C)成分は通常、不揮発分が通常0.1〜10重量%程度の水溶液として用いるのが好ましい。
【0032】
(C)成分の具体例としては、π共役系導電性ポリマーとして、ポリ(チオフェン)類、ポリ(チオフェンビニレン)類、ポリ(ピロール)類、ポリ(フラン)類等の複素環型π共役系導電性ポリマー;ポリ(アニリン)類等の芳香環型π共役系導電性ポリマーなどが挙げられる。
【0033】
なお、前記複素環や芳香環には、アルキル基、アルコキシ基、アルキレンジオキシ基が枝状、あるいは環状に結合していてもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、オクタデシルオキシ基などが挙げられる。アルキレンオキシ基としては、エチレンジオキシ基、プロピレジオキシ基、ブテンジオキシ基などが挙げられる。
【0034】
ポリ(チオフェン)類としては、ポリ(チオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)などが挙げられる。
【0035】
ポリ(チオフェンビニレン)類としては、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(3−メチルチオフェンビニレン)、ポリ(3−ブチルチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェンビニレン)、ポリ(3−メトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−ブトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−プロピレジオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェンビニレン)などが挙げられる。
【0036】
ポリ(ピロール)類としては、ポリ(ピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3,4−ジメトキシピロール)、ポリ(3,4−ジエトキシピロール)、ポリ(3,4−エチレンジオキシピロール)、ポリ(3,4−プロピレジオキシピロール)、ポリ(3,4−ブテンジオキシピロール)などが挙げられる。
【0037】
ポリ(フラン)類としては、ポリ(フラン)、ポリ(3−メチルフラン)、ポリ(3−ブチルフラン)、ポリ(3−デシルフラン)、ポリ(3,4−ジメチルフラン)、ポリ(3,4−ジブチルフラン)、ポリ(3−メトキシフラン)、ポリ(3−ブトキシフラン)、ポリ(3−ヘキシルオキシフラン)、ポリ(3,4−ジメトキシフラン)、ポリ(3,4−ジエトキシフラン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシフラン)、ポリ(3,4−プロピレジオキシフラン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシフラン)などが挙げられる。
【0038】
ポリ(アニリン)類としては、ポリ(アニリン)、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)などが挙げられる。
【0039】
(C)成分としては、導電性組成物の貯蔵安定性や、導電性皮膜の導電性、入手容易性等を考慮して、ポリ(チオフェン)類および/またはポリ(アニリン)類が好ましく、特にポリ(チオフェン)類が好ましい。
【0040】
ドーパントとしては、PF、AsF、SbF等のルイス酸;HF、HCl、HSO等のプロトン酸;Cl、Br、スルホアニオン等の電解質アニオン;ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、およびこれらの中和塩等のアニオン性ポリマーなどが挙げられる。また、中和塩をなす塩基性化合物としては、前記したものが使用でき、特にアンモニアおよび/または第3級アミン類が好ましい。
【0041】
(C)成分としては、皮膜の導電性の観点より、ポリ(チオフェン)類および/またはポリ(アニリン)類が、特に皮膜の透明性の点よりポリ(チオフェン)類が好ましい。また、ポリ(チオフェン)類としては、入手の容易性等を考慮して、PSSでドープされたアルキレンジオキシポリ(チオフェン)、特にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOT/PSSと略すことがある)が好ましい。
【0042】
なお、PEDOT/PSSは、例えば、モノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を、水相中、ドーパントとしてのPSSの存在下、各種酸化剤を用いて重合することにより、PEDOT/PSS錯体の水溶液ないし水分散液として得ることができる。また、PEDOT/PSSは、市販品(商品名「CLEVIOS P」、Starck社製)が利用可能である。
【0043】
(D)成分としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等の低級ケトン類;トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン;水などが挙げられる。これらの中でも、導電性組成物の貯蔵安定性の点より、アルコール類(特に、炭素数1〜4のもの)および/または水が好ましい。なお、(D)成分は、前記(A)成分〜(C)成分に由来したものであってよい。
【0044】
本発明の導電性組成物における各成分の含有量は特に限定されないが、通常は以下の通りである。
(A)成分:0.1〜20重量%程度、好ましくは0.5〜7.5重量%
(B)成分:0.01〜3重量%程度、好ましくは0.05〜0.5重量%
(C)成分:0.05〜5重量%程度、好ましくは0.1〜2重量%
(D)成分:72〜99.84重量%程度、好ましくは90〜99.35重量%
【0045】
本発明の導電性組成物は、前記(A)成分〜(D)成分を各種公知の方法で混合することにより製造できる。配合順は特に限定されないが、(A)成分が自己重合性であることを考慮すると、(A)成分および(D)成分を含む組成物と、(B)成分、(C)成分および(D)成分を含む組成物とを混合する方法が望ましい。
【0046】
本発明の導電性組成物の粘度は、通常、不揮発分2%において1〜50mPa・s/sec(25℃)程度である。
【0047】
本発明の導電性組成物には、消泡剤、防滑剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、酸化防止剤、顔料、染料、滑剤等の添加剤を配合できる。また、(C)成分以外の導電性ポリマー、例えば、ポリ(アセチレン)類、ポリ(フェニレン)類、ポリ(フェニレンビニレン)類、ポリ(アセン)類等の、分子内にヘテロ原子を有しない導電性ポリマーを併用できる。なお、本発明の導電性組成物には、成膜成分としての高分子量ポリマー(アクリル樹脂エマルジョン、カルボキシラートアニオン基含有アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等のホモポリマーないしコポリマー。)が含まれない。
【0048】
本発明の導電性皮膜は、導電性組成物が硬化してなるものであり、本発明に係る導電性組成物を各種基材の上に塗布し、硬化させることにより得ることができる。
【0049】
基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ナイロン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロ−ス樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等の樹脂基材(コロナ放電等の表面処理がされていてもよい);ガラス等の無機基材;鉄、銅、アルミニウム、ステンレス、白金、金等の金属基材などが挙げられる。また、これらは板状、棒状、プラスチックフィルム状、構造体であってよい。基材として例えばプラスチックフィルムを選択した場合には、表面層または中間層に本発明の導電性皮膜を有する導電性プラスチックフィルムを得ることができる。
【0050】
塗布方法としては、例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、スピンコーターなどが挙げられる。また、インクジェット等のパターン印刷方式であってもよい。他にも、スプレー塗工や本発明の導電性組成物に基材を直接浸漬する方法であってもよい。
【0051】
導電性皮膜の硬化条件は特に限定されないが、厚さが0.01〜10μm程度、付着量が0.01〜10g/m程度の導電性皮膜であれば、生産性等を考慮して、通常80〜140℃程度において、数秒〜1分程度である。
【0052】
本発明の硬化導電性皮膜は、(C)成分の量に応じて電気導電性〜帯電防止性の広い範囲の導電性を示す。具体的には、表面抵抗率(Ω/□)が通常10〜1011程度、好ましくは10〜10の範囲である。
【実施例】
【0053】
以下、製造例、実施例および比較例を通じて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、実施例中「%」、「部」は重量部を基準とする。
【0054】
<導電性組成物の調製>
実施例1
PEDOT/PSS錯体の水溶液43部(不揮発分1.2%)に、イオン交換水を46.3部、パラトルエンスルホン酸(PTS)を0.1部、およびトリエチルアミン0.6部を加え、よく混合した。次いで、得られた水溶液90部(不揮発分0.07%)と、テトラメチロールメタン−トリス(1−アジリジニルプロピオネート)のイソプロピルアルコール溶液10部(不揮発分14%)とを混合することにより、導電性組成物1を調製した。
【0055】
実施例2
原料種及び重量%を表1に示すように変更した他は実施例1と同様にして、導電性組成物2〜13、比較用の導電性組成物(イ)〜(ロ)を調製した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1中、各記号は以下の意味である。
TMMTAP:テトラメチロールメタン−トリス(1−アジリジニルプロピオネート)(商品名「TAZO」、相互薬工(株)製)
TMPTAP:トリメチロールプロパン−トリス(1−アジリジニルプロピオネート)(商品名「TAZM」、相互薬工(株)製)
PTS:パラトルエンスルホン酸
TFMS:トリフルオロメタンスルホン酸
PEDOT/PSS:ポリスチレンスルホン酸でドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン(商品名「CLEVIOS P」、Starck社製)
PANI:ポリアニリン(商品名「ORMECON D1031W」、日産化学工業社製)の水溶液(不揮発分2%)
TEA:トリエチルアミン
【0058】
[試験用フィルムの作成]
バーコーターNo.10を用いて、導電性組成物1をPETフィルム(38μm)上に塗工し、室温100℃で1分間乾燥することにより、導電性皮膜(0.4μm)を有する試験用フィルムを作成した。導電性組成物2〜5、(イ)、および組成物(ロ)についても同様にして試験用フィルムを作成した。なお、各試験フィルムに反りやカールはなかった。
【0059】
[表面抵抗率の測定]
各試験用フィルムの塗工面について、以下に示す市販の抵抗率測定機を使い分けることにより、表面抵抗率(Ω/□)を測定した。結果を表2に示した。
【0060】
表面抵抗率が10未満…製品名「ロレスタ−EP」、(株)ダイアインスツルメンツ製
表面抵抗率が10以上…製品名「ULTRA MEGOHMMETER SM−8210、SME−8311」、旧東亜電波工業(株)製
【0061】
[耐溶剤性]
各試験用フィルムの塗工面を、アセトンを含ませた綿棒で擦ることにより、耐溶剤性を評価した。表2には、導電性皮膜が消失するまでの回数を示した。結果を表2に示した。
【0062】
[耐水性]
各試験用フィルムの塗工面を、水を含ませた綿棒で擦ることにより、耐溶剤性を評価した。表2には、導電性皮膜が消失するまでの回数を示した。結果を表2に示した。
【0063】
[密着性]
各試験用フィルムの塗工面に、粘着テープ(幅24mm)を圧着し、勢いよく引き剥がすことにより、導電性皮膜の密着性を以下の基準で評価した。結果を表2に示した。
○…70%以上が残った。
△…40%以上70%未満が残った。
×…40%未満が残った。
【0064】
[透明性]
市販ヘイズメーター(製品名「HM−150」、村上色彩技術研究所製)を用いて、各試験用フィルムの導電性皮膜のヘイズ及び全光線透過率を測定した。なお、ベースとなるPETフィルムのヘイズは3.0、全光線透過率は87.5であった。

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に下記構造のアジリジニル基を少なくとも3つ有する多官能アジリジン誘導体(A)、アジリジニル基開環触媒(B)、ヘテロ原子含有π共役系導電性ポリマー(C)、および溶媒(D)を含有する導電性組成物。
【化1】

(RおよびRは水素または炭素数1〜6のアルキル基を表し、両者は同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
(A)成分が3官能アジリジン誘導体および/または4官能アジリジン誘導体である、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
(B)成分がパラトルエンスルホン酸中和塩および/またはトリフルオロメタンスルホン酸中和塩である、請求項1または2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
(C)成分がポリ(チオフェン)類および/またはポリ(アニリン)類である、請求項1〜3のいずれかの導電性組成物。
【請求項5】
(D)成分がアルコール類および/または水である、請求項1〜4のいずれかの導電性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの導電性組成物が硬化してなる導電性皮膜。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの導電性組成物を基材の上に塗布し、硬化させることを特徴とする、導電性皮膜の製造方法。

【公開番号】特開2010−235927(P2010−235927A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50859(P2010−50859)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】