説明

導電性組成物及びその製造方法

【課題】 十分な静電消散及び電磁遮蔽をもたらしながらその機械的性質を保持し得る導電性ポリマー組成物の提供。
【解決手段】 ポリマー樹脂、ナノサイズ分散剤及びカーボンナノチューブを含んでなる導電性組成物であって、約10Ω−cm以下の体積抵抗率及び約5キロジュール/平方メートル以上のノッチ付きアイゾット衝撃強さを有する導電性組成物が開示される。別の実施形態では、約10Ω−cm以下の体積抵抗率及び約5キロジュール/平方メートル以上のノッチ付きアイゾット衝撃強さを有する導電性組成物の製造方法であって、ポリマー樹脂、ナノサイズ分散剤及び単層カーボンナノチューブをブレンディングすることを含んでなる方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電消散又は電磁遮蔽が重要な要件となる包装用フィルム、チップキャリヤー、コンピューター、プリンター及び写真複写機部材のような材料取扱い装置及び電子装置で、ポリマー樹脂からなる物品が常用されている。静電消散(以後はESD)は、直接接触又は誘導静電界による、電位の異なる物体間での静電荷の移動として定義される。電磁遮蔽(以後はEM遮蔽)の効率は、遮蔽に入射した電磁界のうち、それを透過する部分の比率(単位デシベル)として定義される。電子装置の小型化及び高速化に伴い、静電界に対するその感受性は増大し、したがって向上した静電消散性を示すように改質したポリマー樹脂を使用することが一般に望ましい。同様に、ポリマー樹脂の有利な機械的性質の一部又は全部を保持しながら向上した静電遮蔽を示し得るようにポリマー樹脂を改質することも一般に望ましい。
【0003】
電気的性質を向上させると共にESD及びEM遮蔽を達成するため、ピッチ及びポリアクリロニトリルから導かれる直径2マイクロメートル超の黒鉛繊維のような導電性充填材がポリマー樹脂中にしばしば配合される。しかし、黒鉛繊維のサイズは大きいので、かかる繊維の配合は一般に耐衝撃性のような機械的性質の低下を引き起こす。したがって、当技術分野では、十分なESD及びEM遮蔽をもたらしながらその機械的性質を保持し得る導電性ポリマー組成物に対するニーズが今なお存在している。
【特許文献1】米国特許第6384128号明細書
【特許文献2】米国特許第6673864号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0099128号明細書
【特許文献4】国際公開第2004/001107号パンフレット
【特許文献5】特開2002−365427号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
ポリマー樹脂、ナノサイズ分散剤及びカーボンナノチューブを含んでなる導電性組成物であって、約10Ω−cm以下の体積抵抗率及び約5キロジュール/平方メートル以上のノッチ付きアイゾット衝撃強さを有する導電性組成物が開示される。
【0005】
別の実施形態では、約10Ω−cm以下の体積抵抗率及び約5キロジュール/平方メートル以上のノッチ付きアイゾット衝撃強さを有する導電性組成物の製造方法であって、ポリマー樹脂、ナノサイズ分散剤及び単層カーボンナノチューブをブレンディングすることを含んでなる方法が開示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本明細書では、ポリマー樹脂、ナノサイズ分散剤及びカーボンナノチューブを含んでなると共に、約5キロジュール/平方メートル以上の耐衝撃性及びクラスA表面仕上を示しながら約10Ω−cm以下のバルク体積抵抗率を有する組成物について開示する。ナノサイズ分散剤は、カーボンナノチューブのアスペクト比の低下を最小限に抑えながらポリマー樹脂中へのカーボンナノチューブの分散を促進する。これは、組成物中に少量のカーボンナノチューブを使用しながら、小さいアスペクト比を有するカーボンナノチューブを多量に使用した場合と同等なレベルの導電性を得ることを可能にする。少量のカーボンナノチューブの使用は、延性、たわみ性、衝撃強さなどの、ポリマー樹脂の固有特性の保持を可能にする。
【0007】
一実施形態では、本組成物は約5キロジュール/平方メートル以上の耐衝撃性及びクラスA表面仕上を示しながら、約10オーム/平方(Ω/sq)以上の表面抵抗率を有すると共に、約10Ω−cm以下のバルク体積抵抗率を有する。かかる組成物は、静電消散から保護する必要のあるコンピューター、電子製品、半導体部品、回路板などで有利に使用できる。これらは、所望ならば静電塗装し得る自動車の内部部品及び外部部品用の車体パネルでも有利に使用できる。
【0008】
導電性組成物中に使用するポリマー樹脂は、広範囲の様々な熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂のブレンド、又は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のブレンドから選択できる。ポリマー樹脂は、ポリマーのブレンド、コポリマー、ターポリマー、又は上述のポリマー樹脂の1種以上を含む組合せでもあり得る。熱可塑性樹脂の非限定的な具体例には、ポリアセタール、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及び上述のポリマー樹脂の1種以上を含む組合せがある。
【0009】
熱可塑性樹脂のブレンドの非限定的な具体例には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン/ナイロン、ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリアミド、ポリカーボネート/ポリエステル、ポリフェニレンエーテル/ポリオレフィン、及び上述のポリマー樹脂ブレンドの1種以上を含む組合せがある。
【0010】
ポリマー樹脂は、一般には約5〜約99.999重量%(wt%)の量で使用される。この範囲内では、組成物の全重量の約10wt%以上、好ましくは約30wt%以上、さらに好ましくは約50wt%以上の量でポリマー樹脂又は樹脂ブレンドを使用することが一般に望ましい。ポリマー樹脂又は樹脂ブレンドは、さらに一般には、組成物の全重量の約99.99wt%以下、好ましくは約99.5wt%以上、さらに好ましくは約99.3wt%以上の量で使用される。
【0011】
組成物中に使用するカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)又は気相法炭素繊維(VGCF)であり得る。組成物中に使用する単層カーボンナノチューブは、黒鉛のレーザー蒸発又は炭素アーク合成で製造できる。これらのSWNTは、一般にグラフェンシートからなる単一の壁を有すると共に、約0.7〜約2.4ナノメートル(nm)の外径を有している。組成物中には、約5以上、好ましくは約100以上、さらに好ましくは約1000以上のアスペクト比を有するSWNTが一般に使用される。SWNTは一般にそれぞれのチューブの各端に半球状のキャップを有する閉鎖構造物であるが、片側の開放端又は両側の開放端を有するSWNTも使用できることが想定されている。SWNTは一般に中空の中心部分を有するが、これは無定形炭素で満たされていてもよい。
【0012】
一実施形態では、SWNTはロープ状凝集体として存在し得る。これらの凝集体は通常は「ロープ」と呼ばれ、個々のカーボンナノチューブ間のファンデルワールス力の結果として形成される。ロープ中の個々のナノチューブは、自由エネルギーを最小にするため、互いに滑動し得ると共に、ロープ中で再配列し得る。組成物中には、一般に10〜10のナノチューブを有するロープが使用できる。この範囲内では、約100以上、好ましくは約500以上のナノチューブを有するロープを使用することが一般に望ましい。また、約10以下、好ましくは約5000以下のナノチューブを有するロープが望ましい。SWNTは、2000ワット/メートル・ケルビン(W/m−K)以上の固有熱伝導率及び10ジーメンス/センチメートル(S/cm)の固有導電率を有することが一般に望ましい。また、SWNTは80ギガパスカル(GPa)以上の引張強さ及び約0.5テラパスカル(TPa)以上のこわさを有することも一般に望ましい。
【0013】
別の実施形態では、SWNTは金属ナノチューブと半導体ナノチューブとの混合物からなり得る。金属ナノチューブは金属と同様な電気的特性を示すものである一方、半導体ナノチューブは電気的に半導性のものである。一般に、グラフェンシートが巻き上がる様式に応じて様々ならせん構造のナノチューブが生じる。これらの構造及び格子ベクトルを図1に示す。図1からわかる通り、整数格子ベクトルm及びnを加算し、得られたベクトルの頭部及び尾部を最終のナノチューブ構造中で互いに重ね合わせる。ジグザグ形ナノチューブは(n,0)格子ベクトル値を有するのに対し、アームチェア形ナノチューブは(n,n)格子ベクトル値を有する。ジグザグ形及びアームチェア形ナノチューブは2つの可能なアキラル配置を構成し、他の(m,n)格子ベクトル値のすべてはキラルナノチューブを生じる。組成物中に使用するSWNTの量を最小にするためには、金属ナノチューブが組成物中に使用するSWNTの総量に対してできるだけ大きい分率を占めることが一般に望ましい。組成物中に使用するSWNTは、SWNTの全重量の約1wt%以上、好ましくは約20wt%以上、さらに好ましくは約30wt%以上、さらに一段と好ましくは約50wt%以上、最も好ましくは約99.9wt%以上の量で金属ナノチューブを含むことが一般に望ましい。ある種の状況下では、組成物中に使用するSWNTは、SWNTの全重量の約1wt%以上、好ましくは約20wt%以上、さらに好ましくは約30wt%以上、さらに一段と好ましくは約50wt%以上、最も好ましくは約99.9wt%以上の量で半導体ナノチューブを含むのが一般に望ましいことがある。
【0014】
SWNTは、一般に、望ましい場合には組成物の全重量の約0.001〜約50wt%の量で使用される。この範囲内では、SWNTは一般に組成物の全重量の約0.25wt%以上、好ましくは約0.5wt%以上、さらに好ましくは約1wt%以上の量で使用される。さらに、SWNTは一般に組成物の全重量の約30wt%以下、好ましくは約10wt%以下、さらに好ましくは約5wt%以下の量で使用される。
【0015】
レーザーアブレーションや炭素アーク合成のような方法で得られるMWNTも、組成物中に使用できる。MWNTは、内部中空コアの周囲に巻かれた2以上のグラフェン層を有している。MWNTの両端は一般に半球状キャップで閉鎖されているが、ただ1つの半球状キャップを有するMWNT又は両方のキャップをもたないMWNTを使用するのが望ましいこともある。MWNTは、一般に約2〜約50nmの直径を有している。この範囲内では、約40nm以下、好ましくは約30nm以下、さらに好ましくは約20nm以下の直径を有するMWNTを使用することが一般に望ましい。MWNTを使用する場合には、約5以上、好ましくは約100以上、さらに好ましくは約1000以上の平均アスペクト比を有することが好ましい。
【0016】
MWNTは、一般に、望ましい場合には組成物の全重量の約0.001〜約50wt%の量で使用される。この範囲内では、MWNTは一般に組成物の全重量の約0.25wt%以上、好ましくは約0.5wt%以上、さらに好ましくは約1wt%以上の量で使用される。さらに、MWNTは一般に組成物の全重量の約30wt%以下、好ましくは約10wt%以下、さらに好ましくは約5wt%以下の量で使用される。
【0017】
気相法炭素繊維、カーボンブラック、導電性金属充填材、固体非金属の導電性充填材など、又は上述のものの1種以上を含む組合せのような他の導電性充填材も、組成物中に任意に使用できる。約3.5〜約2000ナノメートル(nm)の直径及び約5以上のアスペクト比を有する気相法炭素繊維又は小黒鉛性若しくは部分黒鉛性炭素繊維(気相法炭素繊維(VGCF)ともいう)も使用できる。VGCFを使用する場合には、約3.5〜約500nmの直径が好ましく、約3.5〜約100nmの直径がさらに好ましく、約3.5〜約50nmの直径が最も好ましい。また、約100以上、さらに好ましくは約1000以上の平均アスペクト比を有することが好ましい。代表的なVGCFは、例えば、米国特許第4565684号及び同第5024818号(Tibbettsら)、同第4572813号(Arakawa)、同第4663230号及び同第5165909号(Tennent)、同第4816289号(Komatsuら)、同第4876078号(Arakawaら)、同第5589152号(Tennentら)並びに同第5591382号(Nahassら)に記載されている。
【0018】
VGCFは、一般に、望ましい場合には組成物の全重量の約0.001〜約50wt%の量で使用される。この範囲内では、VGCFは一般に組成物の全重量の約0.25wt%以上、好ましくは約0.5wt%以上、さらに好ましくは約1wt%以上の量で使用される。さらに、VGCFは一般に組成物の全重量の約30wt%以下、好ましくは約10wt%以下、さらに好ましくは約5wt%以下の量で使用される。
【0019】
一実施形態では、組成物中に使用するカーボンナノチューブは不純物を含み得る。不純物は、一般にカーボンナノチューブの合成時に使用する触媒及び合成で得られるカーボンナノチューブ以外の炭素質副生物に由来する。触媒不純物は、一般に、コバルト、鉄、イットリウム、カドミウム、銅、ニッケルなどの金属、酸化第二鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などの金属酸化物、又は上述の不純物の1種以上を含む組合せである。反応の炭素質副生物は、一般に、すす、無定形炭素、コークス、多層ナノチューブなど、又は上述の炭素質副生物の1種以上を含む組合せである。一般に、単層カーボンナノチューブは、コバルト、鉄、イットリウム、カドミウム、銅、ニッケルなどの金属、酸化第二鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などの金属酸化物、すす、無定形炭素、コークス、多層ナノチューブなどの炭素質反応副生物を不純物として含み得る。
【0020】
一般に、組成物中に使用するカーボンナノチューブは約1〜約80wt%の量の不純物を含み得る。この範囲内では、カーボンナノチューブはカーボンナノチューブの全重量の約5wt%以上、好ましくは約7wt%以上、さらに好ましくは約8wt%以上の不純物含有量を有し得る。また、この範囲内では、カーボンナノチューブの全重量の約50wt%以下、好ましくは約45wt%以下、さらに好ましくは約40wt%以下の不純物含有量が望ましい。
【0021】
組成物中に使用するカーボンナノチューブは、相容性を向上させてポリマー樹脂との混合を容易にするため、官能基で誘導体化することができる。カーボンナノチューブは、側壁、半球状キャップ、又は側壁及び半球状キャップの両方を構成するグラフェンシートについて官能化できる。下記の式(I)を有する官能化カーボンナノチューブが本発明の範囲内に含まれる。
【0022】
【化1】

式中、nは整数であり、Lは0.1n未満の数であり、mは0.5n未満の数であり、各Rは同一であって、−SOH、−NH、−OH、−C(OH)R′、−CHO、−CN、−C(O)Cl、−C(O)SH、−C(O)OR′、−SR′、−SiR'、−Si(OR')R'(3−y)、−R″、−AlR'、ハライド、エチレン性不飽和官能基、エポキシ官能基などから選択される。上記式中、yは3以下の整数であり、R′は水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、アラルキル、シクロアリール、ポリ(アルキルエーテル)などであり、R″はフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル、シクロアリールなどである。炭素原子Cは、カーボンナノチューブの表面炭素である。均一置換及び不均一置換カーボンナノチューブのいずれでも、表面原子Cは反応する。
【0023】
不均一置換カーボンナノチューブも組成物中に使用できる。これらの中には、上記に示した式(I)の組成物において、各Rが酸素を含まないか、又は各Rが酸素含有基であればCOOHが存在しないことを条件にして、n、L、m、R及びSWNT自体が上記に定義した通りであるような組成物が含まれる。
【0024】
また、下記の式(II)を有する官能基ナノチューブも本発明の範囲内に含まれる。
【0025】
【化2】

式中、n、L、m、R″及びRは上記と同じ意味を有する。カーボンナノチューブの表面層中にある大抵の炭素原子は、底面炭素である。底面炭素は、化学的攻撃に対して比較的不活性である。例えば黒鉛面がカーボンナノチューブの周囲に完全に広がらなかったような欠陥部位には、黒鉛面の縁端炭素原子に類似した炭素原子が存在する。縁端炭素は反応性を有しており、炭素の原子価を満たすために何らかのヘテロ原子又は基を含まなければならない。
【0026】
上述の置換カーボンナノチューブは、有利にはさらに官能化することができる。かかる組成物には、下記の式(III)の組成物がある。
【0027】
【化3】

式中、n、L及びmは上述の通りであり、Aは−OY、−NHY、−CR'−OY、−C(O)OY、−C(O)NR'Y、−C(O)SY及び−C(O)Yから選択される。上記式中、Yはタンパク質、ペプチド、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原、酵素基質、酵素阻害剤、又は酵素基質の遷移状態類似体の適当な官能基であるか、或いは−R'OH、−R'NH、−R'SH、−R'CHO、−R'CN、−R'X、−R'SiR'、−RSi−(OR')−R'(3−y)、−R'Si−(O−SiR')−OR'、−R'−R″、−R'−NCO、(CO)Y、−(CO)H、−(CO)R′、−(CO)R′及びR″(式中、wは1を超えて200未満の整数である。)から選択される。
【0028】
構造(II)の官能性カーボンナノチューブを官能化して、下記の式(IV)を有する組成物を生成することもできる。
【0029】
【化4】

式中、n、L、m、R′及びAは上記に定義した通りである。
【0030】
本発明の組成物には、特定の環式化合物を吸着させたカーボンナノチューブも包含される。これらの中には、下記の式(V)の物質組成物も含まれる。
【0031】
【化5】

式中、nは整数であり、Lは0.1n未満の数であり、mは0.5n未満であり、aはゼロ又は10未満の数であり、Xは多環式芳香族部分、複素多環式芳香族部分又は金属複素多環式芳香族部分であり、Rは上述の通りである。好ましい環式化合物は、ポルフィリン類やフタロシアニン類のような平面状の大環状分子である。
【0032】
吸着した環式化合物を官能化することもできる。かかる組成物には、下記の式(VI)の化合物が含まれる。
【0033】
【化6】

式中、m、n、L、a、X及びAは上記に定義した通りであり、炭素はSWNT上にある。
【0034】
特定の理論に拘束されることはないが、官能化されたカーボンナノチューブはポリマー樹脂中に一層よく分散する。これは、修正された表面特性がカーボンナノチューブとポリマー樹脂との相容性を向上させ得るためであるか、或いは修正された官能基(特にヒドロキシル基又はアミン基)がポリマー樹脂に末端基として直接結合するためである。このようにして、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルイミドなどのポリマー樹脂がカーボンナノチューブに直接結合するので、カーボンナノチューブはポリマー樹脂に対する向上した付着性をもって容易に分散し得る。
【0035】
官能基は、一般に、カーボンナノチューブの表面を酸化するのに十分な時間にわたってカーボンナノチューブを強酸化剤に接触させ、さらに酸化された表面に官能基を付加するのに適した反応体にカーボンナノチューブを接触させることで、カーボンナノチューブの外面上に導入できる。好ましい酸化剤は、アルカリ金属塩素酸塩を強酸に溶解した溶液からなる。好ましいアルカリ金属塩素酸塩は、塩素酸ナトリウム又は塩素酸カリウムである。使用される好ましい強酸は硫酸である。酸化のために十分な時間は約0.5〜約24時間である。
【0036】
カーボンブラックも任意に使用でき、好ましいカーボンブラックは約200nm未満、好ましくは約100nm未満、さらに好ましくは約50nm未満の平均粒度を有するものである。好ましい導電性カーボンブラックはまた、約200平方メートル/グラム(m/g)を超え、好ましくは約400m/gを超え、さらに好ましくは約1000m/gを超える表面積を有し得る。好ましい導電性カーボンブラックは、約40立方センチメートル/100グラム(cm/100g)を超え、好ましくは約100cm/100gを超え、さらに好ましくは約150cm/100gを超える細孔容積(ジブチルフタレート吸着法)を有し得る。例示的なカーボンブラックには、Columbian Chemicals社からConductex(登録商標)の商品名で商業的に入手できるカーボンブラック、Chevron Chemical社からS.C.F.(Super Conductive furnace)及びE.C.F.(Electric Conductive furnace)の商品名で入手できるアセチレンブラック、Cabot Corp.からVulcan XC72及びBlack Pearlsの商品名で入手できるカーボンブラック、並びにAkzo Co.LtdからKetjen Black EC300及びEC600の商品名で商業的に入手できるカーボンブラックがある。好ましい導電性カーボンブラックは、組成物の全重量を基準にして約2〜約25wt%の量で使用できる。
【0037】
導電性組成物中には、固体導電性金属充填材も任意に使用できる。これらは、これらをポリマー樹脂中に配合する際、及びそれから完成物品を作製する際に使用する条件下で融解しない導電性金属又は合金であり得る。アルミニウム、銅、マグネシウム、クロム、スズ、ニッケル、銀、鉄、チタン、及び上述の金属のいずれか1種を含む混合物のような金属が、導電性充填材としてポリマー樹脂中に配合できる。ステンレス鋼、青銅などの物理的混合物及び真の合金も、導電性充填材粒子として役立ち得る。加えて、これらの金属の(ホウ化物、炭化物などの)若干の金属間化合物(例えば、二ホウ化チタン)も、導電性充填材粒子として役立ち得る。酸化スズ、酸化インジウムスズなどの固体非金属導電性充填材粒子も、ポリマー樹脂を導電性にするため任意に添加できる。固体金属及び非金属導電性充填材は、粉末、引抜線、ストランド、繊維、チューブ、ナノチューブ、フレーク、積層板、小板、楕円体、円板、及び当技術分野で公知で商業的に入手できる他の幾何学的形態として存在し得る。
【0038】
導電性組成物中には、表面の実質的な部分を固体導電性金属の密着層で被覆した非導電性非金属充填材も任意に使用できる。非導電性非金属充填材は一般に基体といわれ、固体導電性金属の層で被覆した基体は「金属被覆充填材」といわれることがある。基体を被覆するためには、アルミニウム、銅、マグネシウム、クロム、スズ、ニッケル、銀、鉄、チタン、及び上述の金属のいずれか1種を含む混合物のような典型的な導電性金属が使用できる。基体の例は当技術分野で公知であり、「Plastic Additives Handbook,5th Edition」、Hans Zweifel編、Hanser Verlag Publishers、ミュンヘン、2001年に記載されたものがある。かかる基体の非限定的な例には、溶融シリカや結晶性シリカのようなシリカ粉末、窒化ホウ素粉末、ケイ酸ホウ素粉末、アルミナ、酸化マグネシウム(又はマグネシア)、ウォラストナイト(表面処理ウォラストナイトを含む)、(無水塩、二水塩又は三水塩としての)硫酸カルシウム、炭酸カルシウム(一般に粉砕粒状物としてのチョーク、石灰石、大理石及び合成沈降炭酸カルシウムを含む)、タルク(繊維状タルク、モジュラータルク、針状タルク及び層状タルクを含む)、ガラス球(中空及び中実)、カオリン(硬質カオリン、軟質カオリン、か焼カオリン、及びポリマー母材樹脂との相容性を高めるため当技術分野で公知の各種被膜を有するカオリンを含む)、雲母、長石、ケイ酸塩球、煙じん、セノスフィア、フィライト、アルミノケイ酸塩(アルモスフィア)、天然ケイ砂、石英、ケイ石、パーライト、トリポリ、けいそう土、合成シリカ、及び上述のもののいずれか1種を含む混合物がある。上述の基体はいずれも、導電性組成物中に使用するために金属材料の層で被覆できる。
【0039】
固体金属及び非金属導電性充填材粒子の正確な粒度、形状及び組成にかかわらず、これらは所望ならば組成物の全重量の約0.001〜約50wt%の添加量でポリマー樹脂中に分散させることができる。この範囲内では、組成物の全重量の約1wt%以上、好ましくは約1.5wt%以上、さらに好ましくは約2wt%以上の量で固体金属及び非金属導電性充填材粒子を使用することが一般に望ましい。前記固体金属及び非金属導電性充填材粒子の添加量は、組成物の全重量の約40wt%以下、好ましくは約30wt%以下、さらに好ましくは約25wt%以下であり得る。
【0040】
ポリマー樹脂中へのカーボンナノチューブの分散を容易にするため、組成物中にはナノサイズ分散剤が一般に使用される。ナノサイズ分散剤は非導電性である。ナノサイズ分散剤は、一般に、金属酸化物、高度架橋シリコーン、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)マクロマー、金属炭化物、ナノクレーなどのセラミック粒子であり、約1200nm未満の最大粒度を有する。一般に、ナノサイズ分散剤の90wt%以上が500nm以下の粒度を有し、好ましくは80wt%以上が約200nm以下の粒度を有し、さらに好ましくは50wt%以上が約100nm以下の粒度を有することが望ましい。
【0041】
ナノサイズ分散剤粒子は平滑面又は粗面を有し得る。一実施形態では、ナノサイズ粒子は分子玉軸受として作用するように平滑面を有することが一般に望ましい。理論で限定されることはないが、分子玉軸受はカーボンナノチューブの間に入り込んでナノチューブ同士の分離を可能にすることでナノチューブの分散を容易にすると考えられる。
【0042】
組成物中に使用できるナノサイズ金属酸化物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、及び他の常用金属の金属酸化物である。金属酸化物の好適な例には、酸化カルシウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化銅、酸化アルミニウムなど、及び上述の金属酸化物の1種以上を含む組合せがある。炭化ケイ素、炭化チタン、炭化タングステン、炭化鉄など、及び上述の金属炭化物の1種以上を含む組合せのようなナノサイズ金属炭化物も、組成物中に使用できる。金属酸化物及び炭化物は、一般に、約1〜約1000m/gmの表面積を有する粒子である。この範囲内では、金属酸化物及び炭化物は、約5平方メートル/グラム(m/gm)以上、好ましくは約10m/gm以上、さらに好ましくは約15m/gm以上の表面積を有することが一般に望ましい。やはりこの範囲内では、約950m/gm以下、好ましくは約900m/gm以下、さらに好ましくは約875m/gm以下の表面積が望ましい。
【0043】
ナノサイズ金属酸化物及び炭化物粒子は、約0.2〜約2.5グラム/立方センチメートルのかさ密度、約3〜約7グラム/立方センチメートルの真密度、及び約10〜約250オングストロームの平均細孔径を有することが一般に望ましい。
【0044】
ナノサイズ金属酸化物の商業的に入手できる例は、いずれもNanoScale Materials Incorporatedから商業的に入手できるNANOACTIVE(商標)酸化カルシウム、NANOACTIVE(商標)酸化カルシウムプラス、NANOACTIVE(商標)酸化セリウム、NANOACTIVE(商標)酸化マグネシウム、NANOACTIVE(商標)酸化マグネシウムプラス、NANOACTIVE(商標)酸化チタン、NANOACTIVE(商標)酸化亜鉛、NANOACTIVE(商標)酸化ケイ素、NANOACTIVE(商標)酸化銅、NANOACTIVE(商標)酸化アルミニウム及びNANOACTIVE(商標)酸化アルミニウムプラスである。ナノサイズ金属炭化物の商業的に入手できる例は、いずれもPred Materials International Incorporatedから商業的に入手できる炭窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ケイ素−窒化ケイ素及び炭化タングステンである。
【0045】
カーボンナノチューブの分散を容易にするため、ナノクレー(ナノサイズ粘土)も組成物中に使用できる。ナノクレーは一般に板状物質であり、粘土鉱物は一般にスメクタイト、バーミキュライト及びハロイサイト粘土から選択される。スメクタイト粘土自体は、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライトなど、及び上述の粘土の1種以上を含む組合せから選択できる。好ましい粘土鉱物は、層状アルミノケイ酸塩であるモンモリロナイト粘土である。ナノクレー小板は、一般に、約3〜約3000オングストロームの厚さ及び平面方向で約0.01ミクロンないし約100マイクロメートルのサイズを有している。ナノクレーのアスペクト比は、一般に約10〜約10000程度である。それぞれの粘土小板は、ギャラリー(即ち、小板同士を結合する様々なイオンを含む粘土小板の平行層間の空間)で隔離されている。かかる物質の1つは、Southern Clay Products社から商業的に入手できるCLOISITE(登録商標)10Aであり、その小板は約0.001マイクロメートル(10オングストローム)の厚さ及び平面方向で約0.15〜約0.20マイクロメートルのサイズを有している。
【0046】
カーボンナノチューブを分散させるため、膨潤性ナノクレーも組成物中に使用できる。有用な膨潤性層状物質にはフィロケイ酸塩がある。かかる物質の例は、モンモリロナイト、ノントロナイト、バイデライト、ボルコンスコアイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、マガディアイト、ケニアアイト、バーミキュライトなど、又は上述の膨潤性ナノクレーの1種以上を含む組合せのようなスメクタイト粘土鉱物である。他の有用な層状物質には、レディカイトのようなイライト鉱物、及びイライトと上述の粘土鉱物との混合物がある。
【0047】
一般式(RSiO1.5)(式中、Rは炭化水素であり、nは6、8、10、12又はそれ以上である。)のPOSSも、組成物中に使用できる。これらの分子は、1.5の酸素/ケイ素比をもった剛性で熱安定性のケイ素−酸素骨組と、例えばフェニル、イソオクチル、シクロヘキシル、イソブチル又はその他の基を含む有機外層を与える共有結合炭化水素基とを有している。かかるシルセスキオキサンには、例えば、ドデカフェニルPOSS、オクタイソオクチルPOSS、オクタシクロヘキシルPOSS、オクタシクロペンチルPOSS、オクタイソブチルPOSSなどがある。POSSは、通例400平方メートル/グラム(m/gm)を超える表面積を有している。
【0048】
平滑面を有する高度架橋シリコーンナノサイズ薬剤も、分子玉軸受として作用し、それによってカーボンナノチューブの分散を容易にすることができる。これらのナノサイズ薬剤は、一般に粒度の点で単分散性を有し、アルキルアルコキシシランの加水分解及び縮合で得られる。これらのシリコーンナノサイズ薬剤は、一般に無機粒子と有機粒子との中間にあり、三次元網目構造を有している。理論で限定されることはないが、カーボンナノチューブ凝集体又はクラスターの隙間に入り込んだ場合、分子玉軸受はカーボンナノチューブ間の摩擦を減少を容易にし、かくしてナノチューブの解体及び分散に際して使用される応力を低下させ得ると考えられる。高度架橋シリコーンナノサイズ薬剤の好適な例は、GE Silicones社製のTOSPEARL(登録商標)粒子である。TOSPEARL(登録商標)粒子は、良好な高温スリップ性及び良好な不粘着性を示すと共に、光学的性質に対する影響が少ない。これらのTOSPEARL(登録商標)ナノサイズ粒子は、一般に約300〜約1500nmの平均粒度を有する。この範囲内では、約400nm以上、好ましくは約500nm以上の平均粒度を有することが一般に望ましい。やはりこの範囲内では、約1100nm以下、さらに好ましくは約800nm以下の平均粒度が望ましい。
【0049】
組成物の全重量を基準にして約0.01〜約20wt%の量でナノサイズ分散剤を添加することが一般に望ましい。この範囲内では、組成物の全重量を基準にして約0.5wt%以上、好ましくは約0.7wt%以上、さらに好ましくは約1.0wt%以上の量でナノサイズ分散剤を使用することが一般に望ましい。やはりこの範囲内では、組成物の全重量を基準にして約15wt%以下、好ましくは約10wt%以下、さらに好ましくは約5wt%以下の量が望ましい。
【0050】
ナノサイズ分散剤は、所望ならば、マスターバッチとして組成物中に使用することもできる。本明細書中に定義されている通り、マスターバッチは一般にナノサイズ分散剤及び結合剤を含む組成物である。結合剤は、ペレット、ストランド、ブリケット、シート、ブロック、ブリックなどの所望の使用可能な形状に成形し得るようにナノサイズ分散剤を適宜に結合できるポリマー、ホモポリマー、モノマー又はその他任意の物質であり得る。ナノサイズ分散剤をマスターバッチとして使用する場合、ナノサイズ分散剤は約1〜約50wt%の量でマスターバッチ中に存在し得る。この範囲内では、マスターバッチの全重量の約1.5wt%以上、好ましくは約2wt%以上、さらに好ましくは約2.5wt%以上の量でナノサイズ分散剤を使用することが一般に望ましい。やはりこの範囲内では、マスターバッチの全重量の約30wt%以下、好ましくは約10wt%以下、さらに好ましくは約5wt%以下の量のナノサイズ分散剤が望ましい。また、カーボンナノチューブ及びナノサイズ分散剤の両方を含むマスターバッチを使用することが望ましい場合もある。
【0051】
ポリマー樹脂並びにナノサイズ分散剤、カーボンナノチューブ、及びカーボンブラックや固体金属導電性充填材粒子や非金属導電性充填材粒子のような他の任意所望の導電性充填材は、一般に、特に限定されないが、メルトブレンディング、溶液ブレンディングなど、又は上述のブレンディング方法の1以上を含む組合せのような数種の方法で加工できる。組成物のメルトブレンディングは、剪断力、伸長力、圧縮力、超音波エネルギー、電磁エネルギー、熱エネルギー、及び上述の力又はエネルギー形態の1種以上を含む組合せの使用を伴い、単一のスクリュー、複数のスクリュー、噛合型同方向回転又は異方向回転スクリュー、非噛合型同方向回転又は異方向回転スクリュー、往復スクリュー、ピン付きスクリュー、スクリーン付きスクリュー、ピン付きバレル、ロール、ラム、らせん状ローター、或いは上述のものの1以上を含む組合せで上述の力を及ぼす加工装置で実施される。
【0052】
上述の力を伴うメルトブレンディングは、特に限定されないが、一軸又は多軸押出機、バス(Buss)ニーダー、ヘンシェル(Henschel)、ヘリコーン、ロス(Ross)ミキサー、バンバリー(Banbury)、ロールミル、成形機(例えば、射出成形機、真空成形機、ブロー成形機など)、又は上述の機械の1以上を含む組合せのような機械で実施できる。
【0053】
一実施形態では、押出機又はバスニーダーのようなメルトブレンディング装置への供給に先立ち、粉末状、ペレット状、シート状などのポリマー樹脂をまずヘンシェル又はロールミル内でナノサイズ分散剤、カーボンナノチューブ及び(所望ならば)他の任意充填材とドライブレンディングすることができる。メルトブレンディング装置での剪断力がポリマー樹脂中へのカーボンナノチューブ及び/又はナノサイズ分散剤の分散を全体的に引き起こすことが一般に望ましいが、メルトブレンディング操作中にカーボンナノチューブのアスペクト比を保存することも望まれる。そうするためには、カーボンナノチューブをマスターバッチの形態でメルトブレンディング装置内に導入することが望ましい場合がある。かかる方法では、マスターバッチはポリマー樹脂の下流側でメルトブレンディング装置内に導入すればよい。上述のように、ナノサイズ分散剤も所望ならばマスターバッチの形態で組成物に添加でき、或いは別法として、所望ならばカーボンナノチューブ及びナノサイズ分散剤の両方を含むマスターバッチも使用できる。
【0054】
メルトブレンドは、ブレンディング操作中に、ポリマー樹脂の少なくとも一部が(樹脂が半結晶質ポリマー樹脂であるならば)ほぼ融解温度以上の温度又は(樹脂が非晶質樹脂であるならば)流動点(例えば、ガラス転移温度)以上の温度に達したものである。ドライブレンドは、ブレンディング操作中に、ポリマー樹脂の全体が(樹脂が半結晶質ポリマー樹脂であるならば)ほぼ融解温度以下の温度又は(ポリマー樹脂が非晶質樹脂であるならば)流動点以下の温度にあると共に、ポリマー樹脂が液体状流体を実質的に含まないものである。本明細書中に定義したような溶液ブレンドは、ブレンディング操作中に、ポリマー樹脂が液体状流体(例えば、溶媒又は非溶媒)中に懸濁されるものである。
【0055】
マスターバッチを使用する場合、カーボンナノチューブはマスターバッチ中に約1〜約50wt%の量で存在し得る。この範囲内では、マスターバッチの全重量の約1.5wt%以上、好ましくは約2wt%以上、さらに好ましくは約2.5wt%以上の量でカーボンナノチューブを使用することが一般に望ましい。また、マスターバッチの全重量の約30wt%以下、好ましくは約10wt%以下、さらに好ましくは約5wt%以下の量のカーボンナノチューブが望ましい。マスターバッチの使用に関する一実施形態では、カーボンナノチューブを含むマスターバッチは、ストランド状に押し出すか又はドッグボーン状に成形した場合に測定可能なバルク抵抗率又は表面抵抗率を有しないこともあるが、マスターバッチを配合して得られる組成物は、組成物中でのカーボンナノチューブの重量分率がマスターバッチ中より低くても測定可能なバルク抵抗率又は表面抵抗率を有する。かかるマスターバッチ中のポリマー樹脂は半結晶質であることが好ましい。これらの特性を示すと共に、マスターバッチ中で使用できる半結晶質ポリマー樹脂の例は、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエーテルなど、又は上述の半結晶質ポリマー樹脂の1種以上を含む組合せである。
【0056】
組成物の製造時におけるマスターバッチの使用に関する別の実施形態では、組成物の連続相をなすポリマー樹脂と同じポリマー樹脂を含むマスターバッチを使用することが時には望ましい。このような構成は、組成物に所要の体積抵抗率及び表面抵抗率を付与するSWNTを連続相のみが担持するので、実質的に少ない割合のSWNTの使用を可能にする。ポリマーブレンド中でのマスターバッチの使用に関するさらに別の実施形態では、組成物中に使用するポリマー樹脂と化学的に異なるポリマー樹脂を含むマスターバッチを使用することが望ましい場合がある。この場合、マスターバッチのポリマー樹脂はブレンド中で連続相をなす。
【0057】
ポリマー樹脂、ナノサイズ分散剤及びカーボンナノチューブを含む組成物には、所望ならば、複数のブレンディング段階及び成形段階を施すことができる。例えば、まず組成物を押し出してペレットに成形できる。次いで、ペレットを成形機に供給し、そこで他の望ましい形状(例えば、コンピューター用ハウジング、静電塗装可能な自動車用パネル、など)に成形できる。別法として、単一のメルトブレンダーから得られる組成物をシート又はストランドに成形し、次いでアニール、一軸延伸又は二軸延伸のような押出後操作を施すこともできる。
【0058】
後加工の使用を伴う一実施形態では、メルトブレンディングした組成物には、さらに約2〜約1000000の延伸比を用いた一軸方向の超延伸が施される。高い超延伸比は、一般に、非晶質領域中にカーボンナノチューブを含むことができるシシカバブ状半結晶質組織の形成を容易にする。別の実施形態では、組成物にさらに一軸応力又は二軸応力を加えることで、約0.01〜約5000マイクロメートルの厚さを有するフィルムが製造される。フィルムが半結晶質ポリマー樹脂を含む場合には、延伸フィルムはθ=約0度ないしθ=約80度の方位角方向に配向した結晶を有することが一般に望ましい。メルトブレンディング後の後加工に関するさらに別の実施形態では、ブレンディング後に、組成物が融点より約1〜約100℃低い温度に約2分間ないし約2時間にわたり過冷却される。過冷却した組成物は、一般に、カーボンナノチューブを含む巨視的な半結晶質組織(例えば、球晶)を有し得る。
【0059】
半結晶質ポリマー中では、カーボンナノチューブは核生成剤として作用することがある。組成物の強度を向上させるためには、微結晶をカーボンナノチューブ上に核生成させることが望ましい場合がある。一般に、微結晶の1wt%以上、好ましくは10wt%以上、さらに好ましくは15wt%以上をカーボンナノチューブ上に核生成させることが望ましい。
【0060】
溶液ブレンディングを用いて組成物を製造することもできる。溶液ブレンディングでは、剪断、圧縮、超音波振動などの追加エネルギーを用いて、カーボンナノチューブ及びナノサイズ分散剤とポリマー樹脂との均質化を促進することができる。一実施形態では、流体中に懸濁したポリマー樹脂をカーボンナノチューブ及び/又はナノサイズ分散剤と共に超音波処理装置内に導入できる。混合物は、カーボンナノチューブ及び/又はナノサイズ分散剤をポリマー樹脂粒子上に分散させるのに有効な時間にわたる超音波処理で溶液ブレンディングすることができる。次いで、所望ならば、ポリマー樹脂をカーボンナノチューブと共に乾燥し、押し出し、成形できる。流体は超音波処理操作中にポリマー樹脂を膨潤させることが一般に望ましい。ポリマー樹脂を膨潤させることは、一般に、溶液ブレンディング中にカーボンナノチューブがポリマー樹脂に浸透する能力を高め、結果として分散を向上させる。
【0061】
溶液ブレンディングに関する別の実施形態では、カーボンナノチューブ及び/又はナノサイズ分散剤がポリマー樹脂前駆体と共に超音波処理される。ポリマー樹脂前駆体は、一般に、反応してポリマー樹脂を生成し得るモノマー、ダイマー、トライマーなどである。カーボンナノチューブ及び/又はナノサイズ分散剤並びにポリマー樹脂前駆体と共に、溶媒のような流体を超音波処理装置内に任意に導入できる。超音波処理の時間は、一般に、ポリマー樹脂前駆体によるカーボンナノチューブ及び/又はナノサイズ分散剤の封入を促進するのに有効な長さである。封入後、ポリマー樹脂前駆体を重合させることで、内部にカーボンナノチューブ及び/又はナノサイズ分散剤が分散したポリマー樹脂を生成させる。このようにしてポリマー樹脂中にカーボンナノチューブ及び/又はナノサイズ分散剤を分散させる方法は、カーボンナノチューブ及び/又はナノサイズ分散剤のアスペクト比の保存を助け、したがって組成物はカーボンナノチューブ及び/又はナノサイズ分散剤の低い添加量で導電性を発現できる。
【0062】
このような封入及び分散方法を容易にするために使用できるモノマーの好適な例は、特に限定されないが、ポリアセタール、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂の合成で使用するものである。一般に、ポリマー樹脂、ポリマー樹脂前駆体、流体及び/又はカーボンナノチューブ及び/又はナノサイズ分散剤の混合物を約1分間ないし約24時間超音波処理することが望ましい。この範囲内では、約5分以上、好ましくは約10分以上、さらに好ましくは約15分以上の時間にわたって混合物を超音波処理することが望ましい。やはりこの範囲内では、約15時間以下、好ましくは約10時間以下、さらに好ましくは約5時間以下の時間が望ましい。
【0063】
上述の組成物は、広範囲の様々な商業的用途で使用できる。これらは、静電消散から保護する必要のあるコンピューター、電子製品、半導体部品、回路板などの電子機材を包装するためのフィルムとして有利に使用できる。これらは、コンピューターの外部の従業員及び他の電子製品に対する電磁遮蔽をもたらすため、並びに内部のコンピューター部品を外部の電磁干渉から保護するため、コンピューター及び他の電子製品の内部で使用することもできる。これらは、所望ならば静電塗装できる自動車の内部部品及び外部部品用の車体パネルでも有利に使用できる。
【実施例】
【0064】
例示的なものであって限定的なものではない以下の実施例は、本明細書中に記載した導電性組成物の様々な実施形態の若干例に係る組成物及び製造方法を例示している。
【0065】
実施例1
この実験は、ポリカーボネート樹脂中へのカーボンナノチューブの分散を容易にする点でのナノサイズ分散剤の有効性を実証するために行った。この実施例では、表1に示した各種のナノサイズ分散剤をポリカーボネート粉末及びCarbon Nanotechnologies Incorporatedから入手した単層カーボンナノチューブ1wt%と混合した。ポリカーボネート粉末、カーボンナノチューブ及びナノサイズ分散剤をガラス製秤量皿中でドライブレンドし、DACA小型押出機で押し出してストランドを形成した。DACA小型二軸押出機は、5立方センチメートルの最大混合容積を有すると共に、1rpm刻みでディジタル制御可能な約10〜約360rpmのスクリュー速度を有している。押出機から得られたストランドを用いて導電率測定を行った。清浄な破面を確保するため、ストランドを液体窒素下で破断し、両端に導電性銀ペイントを塗布し、Flukeマルチメーターで抵抗を測定した。
【0066】
【表1】


各組成物に関し、5以上の試料について体積抵抗率を測定した。酸化アルミニウム、酸化銅、酸化亜鉛、酸化カルシウム及びナノクレーのナノサイズ粒子は測定された体積抵抗率の変化を生じなかったが、図2には、様々な時間間隔で混合を施した場合における酸化マグネシウム及び酸化チタン含有試料についての体積抵抗率の低下が示されている。この図は、1wt%のカーボンナノチューブのみを含むポリカーボネート試料に関する体積抵抗率を混合時間に対して詳しく示している。この図はまた、1wt%のカーボンナノチューブと共に、1wt%のナノサイズ酸化マグネシウム(MgO)又は2wt%のナノサイズ二酸化チタン(TiO)を含むポリカーボネート含有試料に関する体積抵抗率も詳しく示している。すべての重量パーセントは組成物全体を基準にしている。図からわかる通り、単層カーボンナノチューブのみを含み、ナノサイズ分散剤を全く含まない試料に関しては、体積抵抗率は混合時間と共に増加する。理論によって拘束されることはないが、抵抗率の増加は押出機内の剪断力の結果としてカーボンナノチューブのアスペクト比が減少することに原因すると考えられる。他方、分散剤を含む試料は混合時間の増加に対しかなり一貫して一定の体積抵抗率を示す。
【0067】
実施例2
この実施例は、ナノサイズでない化学的に同種の薬剤と比較したナノサイズ分散剤の効果を実証するために行った。ナノサイズでない薬剤は、普通薬剤という。すべての試料に関する組成物は、1wt%の単層カーボンナノチューブ及び表2に示す分散剤を含むポリカーボネートであった。表2には、1wt%の単層カーボンナノチューブと1wt%のナノサイズ酸化マグネシウム又は1wt%の普通酸化マグネシウムとを含むポリカーボネート試料に関する抵抗率の結果も示されている。また、1wt%のカーボンナノチューブと2wt%のナノサイズ二酸化チタン又は2wt%の普通二酸化チタンとを含むポリカーボネート試料に関する抵抗率の結果も示されている。普通二酸化チタンは、DuPont社から商業的に入手できるR10315であり、約5マイクロメートルの粒度を有している。個々の粒子は一般に約30〜約150マイクロメートルの粒度を有するクラスターに凝集しており、これらの凝集体は例えば押出機内で剪断作用を加えることでしか解体できない。
【0068】
【表2】


表からわかる通り、ナノサイズの粒子が体積抵抗率を劇的に低下させるのに対し、普通サイズの粒子は体積抵抗率に有害な作用を及ぼす(即ち、これらの試料に関しては測定可能な導電率が存在しない)。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】グラフェンシートが巻き上がってらせん構造のナノチューブを形成し得る様々なやり方を示す図である。らせん構造は、ジグザグ形配置又はアームチェア形配置のものであり得る。
【図2】酸化マグネシウム及び酸化チタンを含む組成物に関し、様々な時間間隔で混合を施した場合の体積抵抗率の低下を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー樹脂、
ナノサイズ分散剤、及び
カーボンナノチューブ
を含んでなる導電性組成物であって、約10Ω−cm以下の体積抵抗率及び約5キロジュール/平方メートル以上のノッチ付きアイゾット衝撃強さを有する導電性組成物。
【請求項2】
カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相法炭素繊維、又は上述の種類のカーボンナノチューブの1種以上を含む組合せである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
カーボンナノチューブが加工前には約10以上のカーボンナノチューブからなるロープとして存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
単層カーボンナノチューブが約80wt%以下の不純物を含み、不純物が鉄、酸化鉄、イットリウム、カドミウム、ニッケル、コバルト、銅、無定形炭素、多層カーボンナノチューブ、又は上述の不純物の1種以上を含む組合せである、請求項2記載の組成物。
【請求項5】
ポリマー樹脂がポリマーのブレンド、コポリマー、ターポリマー、又は上述のポリマー樹脂の1種以上を含む組合せであり、ポリマー樹脂が相分離形態を有しており、カーボンナノチューブの実質的な部分がブレンドの単一相中に存在している、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
カーボンナノチューブが官能基で誘導体化されている、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
ナノサイズ分散剤が、約1200ナノメートル以下の平均粒度を有する金属酸化物、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサンマクロマー、高度架橋シリコーンナノサイズ剤、金属炭化物又はナノクレーである、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
ナノサイズ分散剤が、アルカリ金属の金属酸化物、アルカリ土類金属の金属酸化物、遷移金属の金属酸化物、又は上述の金属酸化物の1種以上を含む組合せである、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
約10Ω−cm以下の体積抵抗率及び約5キロジュール/平方メートル以上のノッチ付きアイゾット衝撃強さを有する組成物の製造方法であって、ポリマー樹脂、ナノサイズ分散剤及びカーボンナノチューブをブレンディングすることを含んでなる方法。
【請求項10】
ブレンディングが、メルトブレンディング、溶液ブレンディング、又は上述のブレンディング方法の1以上を含む組合せからなる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ポリマー樹脂が、ブレンディング操作中に、モノマー、ダイマー、トライマー、或いは上述のモノマー、ダイマー又はトライマーの1種以上を含む組合せから合成される、請求項9記載の方法。
【請求項12】
カーボンナノチューブがポリマーの重合前にモノマーの存在下で超音波処理される、請求項9記載の方法。
【請求項13】
ブレンディングが、剪断力、伸長力、圧縮力、超音波エネルギー、電磁エネルギー、熱エネルギー、並びに上述の力及びエネルギーの1種以上を含む組合せの使用を伴い、単一のスクリュー、複数のスクリュー、噛合型同方向回転又は異方向回転スクリュー、非噛合型同方向回転又は異方向回転スクリュー、往復スクリュー、ピン付きスクリュー、ピン付きバレル、スクリーンパック、ロール、ラム、らせん状ローター、或いは上述のものの1以上を含む組合せで上述の力を及ぼす加工装置で実施される、請求項9記載の方法。
【請求項14】
請求項1記載の組成物から製造される物品。
【請求項15】
請求項9記載の方法で製造される物品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−515502(P2007−515502A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532435(P2006−532435)
【出願日】平成16年4月20日(2004.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/012146
【国際公開番号】WO2004/107360
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】