説明

導電性組成物及びその製造方法

本明細書では、溶融マスターバッチの粘度を減少させて低粘度溶融マスターバッチを形成し、低粘度溶融マスターバッチをポリマーと混合して導電性組成物を形成することを含む導電性組成物の製造方法について開示する。本明細書では、第1の押出機で溶融マスターバッチを、該溶融マスターバッチの溶融粘度よりも溶融粘度の低い第1のポリマーと混合し、溶融マスターバッチの溶融粘度を低下させて低粘度溶融マスターバッチを形成し、第2の押出機で低粘度溶融マスターバッチを第2のポリマーと混合して導電性組成物を形成することを含む導電性組成物の製造方法についても開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー製の物品は、静電荷散逸又は電磁遮蔽が重要な条件とされる包装用フィルム、チップキャリア、コンピューター、プリンター及びコピー機のような材料取扱い装置及び電子機器に広く使用されている。静電荷散逸(以下、ESDという。)は、電位の異なる物体間での直接接触又は誘導静電界による静電荷の移動として定義される。電磁遮蔽(以下、EM遮蔽という。)の有効性は、シールドに入射する電磁場のうちシールドを透過する部分の比率(単位デシベル)として定義される。電子機器の小型化・高速化に伴って、それらの静電荷に対する感受性が増すので、向上した静電荷散逸性を示す改質ポリマー樹脂を使用するのが一般に望まれる。同様に、ポリマー樹脂の有益な機械的性質の一部又は全部を保持しなつつ、向上した静電遮蔽性が得られるようにポリマー樹脂を改質することも望ましい。
【0003】
電気的性質を向上させるとともにESD及びEM遮蔽を達成するため、ピッチ及びポリアクリロニトリルから導かれる直径2μm超のグラファイト繊維のような導電性充填材がポリマー樹脂に配合されることが多々ある。しかし、グラファイト繊維のサイズが大きいため、かかる繊維を配合すると、耐衝撃性のような機械的性質が概して低下してしまう。さらに、炭素繊維の分散が不十分なため、かかる組成物から得られる物品での不均質性が高まる。そこで、当技術分野では、十分なESD及びEM遮蔽を与えつつ、その機械的性質を保持し得る導電性ポリマー組成物に対するニーズが依然として存在している。また、組成物から得られる物品の不均質性を最小限に抑制して導電性充填材を分散させることのできる方法に対するニーズも存在している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書では、導電性組成物の製造方法であって、溶融マスターバッチの粘度を低下させて低粘度溶融マスターバッチを形成し、低粘度溶融マスターバッチをポリマーと混合して導電性組成物を形成することを含んでなる方法を開示する。
【0005】
本明細書では、 導電性組成物の製造方法であって、第1の押出機で溶融マスターバッチを、該溶融マスターバッチの溶融粘度よりも溶融粘度の低い第1のポリマーと混合し、溶融マスターバッチの溶融粘度を低下させて低粘度溶融マスターバッチを形成し、第2の押出機で低粘度溶融マスターバッチを第2のポリマーと混合して導電性組成物を形成することを含んでなる方法も開示する。
【0006】
本明細書では、導電性組成物の製造方法であって、第1の押出機で溶融マスターバッチを、該溶融マスターバッチの溶融粘度よりも溶融粘度の低いポリアミドと混合し、溶融マスターバッチの溶融粘度を低下させて低粘度溶融マスターバッチを形成し、第2の押出機で低粘度溶融マスターバッチをポリアリーレンエーテルと混合して導電性組成物を形成することを含んでなる方法も開示する。
【0007】
本明細書では、組成物の製造方法であって、第1の押出機でマスターバッチを溶融させて溶融マスターバッチを形成し、第2の押出機で溶融マスターバッチをポリマーと混合して組成物を形成することを含んでなる方法も開示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本明細書では、10eohm−cm以下のバルク体積抵抗率を有するとともに、約10kJ/m以上の衝撃強さ及びクラスA表面仕上げを示すポリマーと導電性充填材とを含む導電性組成物の製造方法を開示する。この方法では、好適には、溶融マスターバッチを溶融ポリマーと溶融ブレンディングして導電性組成物中での導電性充填材の分散性を向上させる。一実施形態では、この方法では、好適には、溶融マスターバッチを溶融ポリマーと混合して導電性組成物を形成する前に、溶融マスターバッチの粘度を低下させる。マスターバッチは導電性充填材を含む。溶融マスターバッチの粘度の低下は、第2の押出機のサイドコンパウンダーとして働く第1の押出機で行う。粘度の低下は、希釈剤、可塑剤又はマスターバッチの溶融粘度よりも溶融粘度の低いポリマーをマスターバッチに添加することによって達成できる。
【0009】
この方法は、組成物中での導電性充填材以外の添加剤及び充填材の分散性を高めるのにも好適に使用できる。一実施形態では、添加剤及び/又は非導電性充填材を含む溶融マスターバッチを溶融ポリマーと溶融ブレンディングして組成物を得る。別の実施形態では、この方法では、好適には、溶融ポリマーと混合して非導電性充填材及び/又は添加剤を含む組成物を形成する前に溶融マスターバッチの粘度を低下させる。さらに別の実施形態では、組成物は導電性充填材と共に非導電性の添加剤及び充填材の混合物を含んでいてもよい。
【0010】
一実施形態では、最初に第1の押出機でマスターバッチを溶融ブレンディングする。溶融マスターバッチは次いで第2の押出機で第2のポリマーと混合して導電性組成物を形成する。導電性組成物は第2の押出機から押出される。上述の通り、組成物が導電性となるのは、充填材が導電性である場合に限られる。
【0011】
一実施形態では、第1のポリマーと溶融マスターバッチを第1の押出機で混合して、低粘度溶融マスターバッチを形成する。低粘度溶融マスターバッチを次いで第2の押出機で第2のポリマーと混合して導電性組成物を形成する。導電性組成物は第2の押出機から押出される。
【0012】
図1を参照すると、例示的な押出系10は第1の押出機12と第2の押出機16とを備える。サイドコンパウンダーとも呼ばれる第1の押出機12から、マスターバッチと第1のポリマーの溶融混合物を、主押出機として機能する第2の押出機16に供給する。第1のポリマーはマスターバッチの溶融粘度よりも溶融粘度が低い。第1のポリマーをマスターバッチと混合するとマスターバッチの溶融粘度が低下する。マスターバッチと第1のポリマーとの溶融混合物を低粘度溶融マスターバッチと呼ぶ。第1の押出機で溶融マスターバッチの粘度を低下させておいてから第2の押出機で第2のポリマーと混合することによって、混合性が高まる。
【0013】
第2の押出機16は溶融状態の第2のポリマーも収容する。第2の押出機16で低粘度溶融マスターバッチを第2のポリマーと混合して導電性組成物を形成する。一実施形態では、溶融マスターバッチのメルトが第2のポリマーのメルトと接する際に、溶融マスターバッチの粘度が第2の溶融ポリマーの粘度と等しいのが望ましい。理論に束縛されるものではないが、低粘度溶融マスターバッチの溶融粘度が第2のポリマーの溶融粘度と等しいときにポリマー間の最適な混合が達成できると考えられる。この最適な混合によって導電性充填材の分散性を向上させることができる。
【0014】
この方法は、約10eohm−cmの以下のバルク体積抵抗率と約10ohm/m(ohm/sq)以上の表面抵抗率を有するとともに、約10kJ/m以上の衝撃性及びクラスA表面仕上げを呈する導電性組成物の製造に使用できる。別の実施形態では、この方法は、互いに垂直な方向に同一の導電率を有する導電性組成物の製造に使用でき、導電性組成物の大部分で導電率の不均一性が最小限に抑制される。
【0015】
かかる導電性組成物は、静電放電から保護する必要のあるコンピューター、電子機器、半導体部品、回路基板などに好適に利用できる。これらの導電性組成物は自動車の内外装部品用のボディパネルにも好適に使用でき、所望に応じて静電塗装することができる。
【0016】
導電性組成物に用いられる第1のポリマー及び第2のポリマーは広範な熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂ブレンド又は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とのブレンドから選択し得る。第1及び第2のポリマーはポリマー、コポリマー、ターポリマー又はこれらのポリマーの1種以上を含む組合せのブレンドであってもよい。熱可塑性ポリマーの非限定的な具体例としては、ポリアセタール、ポリアクリル樹脂、ポリアリーレンエーテル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなど、或いはこれらの熱可塑性ポリマーの1種以上を含む組合せが挙げられる。
【0017】
熱可塑性ポリマーのブレンドの非限定的な具体例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン/ナイロン、ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリアミド、ポリカーボネート/ポリエステル、ポリフェニレンエーテル/ポリオレフィン及びこれらの熱可塑性ポリマーブレンドの1種以上を含む組合せが挙げられる。
【0018】
一実施形態では、第1のポリマーと第2のポリマーは異なる。別の実施形態では、第1のポリマーは第2のポリマーと同一組成である。第1のポリマーが第2のポリマーと同一組成のときは、第1のポリマーの分子量及び溶融粘度を第2のポリマーの分子量及び溶融粘度よりも大きくすることができる。例示的は実施形態では、第1のポリマーはポリアリーレンエーテルであり、第2のポリマーはポリアミドである。ポリアリーレンエーテルは必要に応じてポリアミドと相溶化し得る。
【0019】
ポリアリーレンエーテル自体は次の式(I)の構造単位を複数含んでなる公知のポリマーである。
【0020】
【化1】

式中、各構造単位において、各Qは独立にハロゲン、第一もしくは第二低級アルキル(例えば炭素原子数7以下のアルキル)、フェニル、ハロアルキル、アミノアルキル、ヒドロカルビルオキシ、又はハロゲン原子と酸素原子の間に2以上の炭素原子が介在するハロヒドロカルビルオキシであり、各Qは独立に水素、ハロゲン、第一もしくは第二低級アルキル、フェニル、ハロアルキル、ヒドロカルビルオキシ、又はQで定義したハロヒドロカルビルオキシである。ある例示的実施形態では、好ましくは、各Qはアルキル又はフェニル、特にC1−4アルキル基であり、各Qは水素である。
【0021】
ホモポリマー及びコポリマーのポリアリーレンエーテルが共に包含される。適当なホモポリマーは2,6−ジメチルフェニレンエーテル単位を含むものである。適当なコポリマーには、かかる単位を例えば2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル単位と共に含むランダムコポリマー或いは2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合で得られるコポリマーがある。また、ビニルモノマー又はポリスチレンのようなポリマーをグラフトして得られる部分を含むポリアリーレンエーテル、並びに低分子量ポリカーボネートやキノンや複素環式化合物やホルマールのようなカップリング剤を公知の方法で2本のポリアリーレンエーテル鎖のヒドロキシ基と反応させてさらに高分子量のポリマーとしたカップリング化ポリアリーレンエーテルも挙げられる。
【0022】
ポリアリーレンエーテルは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定して、一般に約3000〜約40000の数平均分子量及び約20000〜約80000の重量平均分子量を有する。ポリアリーレンエーテルは、25℃のクロロホルム中で測定して、一般に約0.10〜約0.60dl/gの固有粘度を有する。別の実施形態では、ポリアリーレンエーテルは、25℃のクロロホルム中で測定して、約0.29〜約0.48dl/gの固有粘度を有する。得られる組合せが約0.10〜約0.60dl/gの固有粘度を有する限り、固有粘度の高いポリアリーレンエーテルと固有粘度の低いポリアリーレンエーテルを組合せて使用することも可能である。
【0023】
ポリアリーレンエーテルは通例2,6−キシレノールや2,3,6−トリメチルフェノールのような1種類以上のモノヒドロキシ芳香族化合物の酸化カップリングによって製造される。かかる酸化カップリングには概して触媒系が用いられるが、触媒系は通例、銅、マンガン又はコバルト化合物のような1種類以上の重金属化合物を通常はその他様々な物質と共に含んでいる。
【0024】
多くの目的に特に有用なポリアリーレンエーテルは、1以上の含アミノアルキル末端基を有する分子からなるものである。アミノアルキル基は通例ヒドロキシ基に対してオルト位に位置する。かかる末端基を有する生成物は、ジ−n−ブチルアミンやジメチルアミンのような適当な第一又は第二モノアミンを酸化カップリング反応混合物の一成分として導入することで得られる。また、4−ヒドロキシビフェニル末端基が存在していることも多々あり、これらは、通例、副生物のジフェノキノンが特に銅−ハライド−第二又は第三アミン系に存在しているような反応混合物から得られる。かなりの割合のポリマー分子(通例ポリマーの約90重量%にも達する)が上記の含アミノアルキル末端基及び4−ヒドロキシビフェニル末端基の少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0025】
有用なポリアミドは、アミド基(−C(O)NH−)の存在を特徴とする一般にナイロンとして知られる一群の樹脂である。ナイロン−6及びナイロン−6,6がポリアミドの例であり、様々な販売元から入手可能である。ただし、ナイロン−4,6、ナイロン−12、ナイロン−6,10、ナイロン−6,9、ナイロン−6/6T及びナイロン−6,6/6T(トリアミン含有率約0.5重量%以下)のような他のポリアミド、並びに非晶質ナイロンのようなものも、特定のポリアリーレンエーテル−ポリアミド用途で有用である。様々なポリアミドの混合物、並びに様々なポリアミドコポリマーも有用である。本発明のブレンドに最も好ましいポリアミドはポリアミド−6,6である。ポリアミドは、ISO 307に準拠して96重量%硫酸中0.5重量%溶液で測定して、約400ml/g以下の粘度を有する。
【0026】
第1のポリマーは、導電性組成物の総重量を基準にして概して約5〜約95重量%の量で用いられる。一実施形態では、第1のポリマーは導電性組成物の総重量を基準にして概して約15〜約90重量%の量で用いられる。別の実施形態では、第1のポリマーは導電性組成物の総重量を基準にして概して約30〜約80重量%の量で用いられる。さらに別の実施形態では、第1のポリマーは導電性組成物の総重量を基準にして概して約35〜約75重量%の量で用いられる。
【0027】
第2のポリマーは導電性組成物の総重量を基準にして概して約5〜約95重量%の量で用いられる。一実施形態では、第2のポリマーは導電性組成物の総重量を基準にして概して約15〜約90重量%の量で用いられる。別の実施形態では、第2のポリマーは導電性組成物の総重量を基準にして概して約30〜約80重量%の量で用いられる。さらに別の実施形態では、第2のポリマーは導電性組成物の総重量を基準にして概して約35〜約75重量%の量で用いられる。
【0028】
第1及び第2のポリマーは導電性組成物の重量を基準にして概して90〜99.99重量%の量で用いられる。一実施形態では、第1及び第2のポリマーは導電性組成物の重量を基準にして概して92〜98重量%の量で用いられる。別の実施形態では、第1及び第2のポリマーは導電性組成物の重量を基準にして概して93〜97重量%の量で用いられる。別の実施形態では、第1及び第2のポリマーは導電性組成物の重量を基準にして概して94〜96重量%の量で用いられる。
【0029】
様々な添加剤を導電性組成物に添加し得る。例示的な添加剤としては、相溶化剤、耐衝撃性改良剤、離型剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、熱安定化剤など、或いはこれらの添加剤の1種以上を含む組合せが挙げられる。
【0030】
導電性組成物に添加できる導電性充填材としては、カーボンナノチューブ、炭素繊維、カーボンブラック、金属充填材、金属で被覆された非導電性充填材、導電性非金属充填材など、或いはこれらの導電性充填材の1種以上を含む組合せが挙げられる。
【0031】
導電性組成物に使用し得るカーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)又は気相成長炭素繊維(VGCF)が挙げられる。組成物に用いられる単層カーボンナノチューブ(SWNT)はグラファイトのレーザー蒸発、炭素アーク合成又は高圧一酸化炭素変換法(HPCO)で製造できる。これらのSWNTは一般に外径約0.7〜約2.4nmのグラフェンシートからなる単一の壁を有する。SWNTは金属SWNTと半導体SWNTの混合物を含んでいてもよい。金属SWNTは金属と同様の電気的特徴を示し、半導体SWNTは半導電性を示す。組成物におけるSWNTの使用量を最小限にするため、組成物に含まれる金属SWNTの分率をできるだけ高めるのが概して望ましい。通常アスペクト比約5以上のSWNTが組成物に用いられる。一般にSWNTは各チューブの両端に半球状キャップを有する閉構造をとるが、1つの端が開放又は両方の端が開放されたSWNTを用いてもよいと考察される。閉鎖構造であるが、一端又は両端が開放されたSWNTも使用できると考えられる。SWNTは一般に中空の中央部を有しているが、無定形炭素で充填されていてもよい。
【0032】
レーザーアブレーション及び炭素アーク合成などの方法で得られるMWNTも導電性組成物に使用できる。MWNTは内側中空コアの周囲に2以上のグラフェン層を有する。MWNTは一般に両端が半球状キャップで閉鎖されているが、半球状キャップを1つしか有さないMWNT、又はいずれのキャップもないMWNTを使用するのが望ましいこともある。MWNTは一般に約2〜約50nmの直径を有する。MWNTを使用する場合、約5以上の平均アスペクト比を有するのが望ましい。一実施形態では、MWNTのアスペクト比は約100以上であり、さらに別の実施形態ではMWNTのアスペクト比は約1000以上である。
【0033】
気相成長炭素繊維(VGCF)も導電性組成物に使用できる。これらは通常化学気相成長法で製造される。適度な温度(約800〜約1500℃)の粒状金属触媒の存在下で、気相炭化水素から「年輪」又は「フィッシュボーン」構造を有するVGCFを成長させることができる。「年輪」構造では、コアの周囲に複数の実質的にグラファイトからなるシートが同軸で配置される。「フィッシュボーン」構造では、繊維は中空コアの軸から延在する複数のグラファイト層で特徴付けられる。
【0034】
直径約3.5〜約2000nm及びアスペクト比約5以上のVGCFを使用し得る。VGCFを使用する場合、約3.5〜約100nmの直径が望ましく、約3.5〜約500nmの直径がさらに望ましく、約3.5〜約50nmの直径が最も望ましい。VGCFの平均アスペクト比が約100以上であることも望ましい。一実施形態では、VGCFは約1000以上のアスペクト比を有する。
【0035】
カーボンナノチューブは一般に導電性組成物の総重量の約0.001〜約80重量%の量で用いられる。一実施形態では、カーボンナノチューブは導電性組成物の重量を基準にして概して約0.25〜約30重量%の量で用いられる。別の実施形態では、カーボンナノチューブは導電性組成物の重量を基準にして概して約0.5〜約10重量%の量で用いられる。さらに別の実施形態では、カーボンナノチューブは導電性組成物の重量を基準にして概して約1〜約5重量%の量で用いられる。
【0036】
様々な種類の導電性炭素繊維も導電性組成物に使用できる。炭素繊維は一般に直径、形態及び黒鉛化の程度(形態と黒鉛化の程度は互いに関連する)に従って分類される。現在、これらの特徴は炭素繊維の合成法によって決まる。例えば直径約5μm程度で、繊維軸と平行なグラフェンリボン(ラジアル、平面又は周方向配置)を有する炭素繊維の工業生産は、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)又はピッチを始めとする繊維状の有機前駆体の熱分解によって行われている。
【0037】
炭素繊維は一般に約1000nm(1μm)〜約30μmの直径を有する。一実施形態では、繊維の直径は約2〜約10μmである。別の実施形態では、繊維の直径は約3〜約8μmである。
【0038】
炭素繊維は導電性組成物の総重量の約0.001〜約50重量%の量で用いられる。一実施形態では、炭素繊維は導電性組成物の重量を基準にして約0.25〜約30重量%の量で用いられる。別の実施形態では、炭素繊維は導電性組成物の重量を基準にして約0.5〜約20重量%の量で用いられる。さらに別の実施形態では、炭素繊維は導電性組成物の重量を基準にして約1〜約10重量%の量で用いられる。
【0039】
カーボンブラックも導電性組成物に使用できる。例示的なカーボンブラックは約200nm未満の平均粒経を有する。実施形態では、粒径約100nm未満のカーボンブラックを使用できる。別の実施形態では、粒径約50nm未満のカーボンブラックを使用できる。例示的なカーボンブラックは約200m/g超の表面積を有する。実施形態では、カーボンブラックは約400m/g超の表面積を有する。別の実施形態では、カーボンブラックは約1000m/g超の表面積を有する。例示的なカーボンブラックは約40cm/100g超の細孔体積(フタル酸ジブチル吸収)を有す。一実施形態では、カーボンブラックは約100cm/100g超の表面積を有する。別の実施形態では、カーボンブラックは約150cm/100g超の表面積を有する。一実施形態では、カーボンブラックが約4ppm/g以下の低いイオン含有量(塩素、硫酸、リン酸、フッ素及び硝酸)を有するのが望ましい。カーボンパウダーの具体例としては、Columbian Chemicals社からCONDUCTEX(商標)という商品名で市販されているカーボンブラック、Chevron Chemical社からS.C.F.(商標)(Super Conductive Furnace)及びE.C.F.(商標)(Electric Conductive Furnace)という商品名で市販されているアセチレンブラック、Cabot社からVULCAN XC72(商標)及びBLACK PEARLS(商標)という商品名で市販されているカーボンブラック、並びにAkzo社からKETJEN BLACK EC300(商標)及びEC600(登録商標)という商品名で市販されているカーボンブラックが挙げられる。
【0040】
カーボンブラックは導電性組成物の総重量の約0.01〜約50重量%の量で用いられる。一実施形態では、カーボンブラックは導電性組成物の重量を基準にして約0.25〜約30重量%の量で用いられる。別の実施形態では、カーボンブラックは導電性組成物の重量を基準にして約0.5〜約20重量%の量で用いられる。さらに別の実施形態では、カーボンブラックは導電性組成物の重量を基準にして約1〜約10重量%の量で用いられる。
【0041】
導電性固形金属充填材も導電性組成物に使用できる。これらは熱可塑性ポリマーに配合してから完成品へと加工する際の条件下で溶融しない導電性金属又は合金であってもよい。アルミニウム、銅、マグネシウム、クロミウム、スズ、ニッケル、銀、鉄、チタンなどの金属、又はこれらの金属の1種以上を含む組合せなどを添加できる。物理的混合物並びにステンレス鋼、青銅のような合金も導電性充填材として機能し得る。さらに、これらの金属のホウ化物、炭化物のような少数の金属間化合物(二ホウ化チタン)も導電性充填材粒子として機能し得る。酸化スズ、酸化インジウム、酸化スズ、酸化アンチモンなど、或いはこれらの充填材の1種以上を含む組合せのような非金属固形導電性充填材粒子を添加して、熱可塑性樹脂を導電性にすることもできる。固形金属及び非金属導電性充填材は、粉末、伸線、ストランド、繊維、チューブ、ナノチューブ、フレーク、ラミネート、板状、楕円状、円板状その他の市販の形態のものでよい。
【0042】
固形金属及び非金属導電性充填材粒子は、それらの正確な粒度、形状及び組成とは無関係に、導電性組成物の重量を基準にして0.01〜約50重量%の配合量で導電性組成物に分散させることができる。一実施形態では、固形金属及び非金属導電性充填材粒子は導電性組成物の重量を基準にして約0.25〜約30重量%の量で使用できる。別の実施形態では、固形金属及び非金属導電性充填材粒子は導電性組成物の重量を基準にして約0.5〜約20重量%の量で使用できる。さらに別の実施形態では、固形金属及び非金属導電性充填材粒子は導電性組成物の重量を基準にして約1〜約10重量%の量で使用できる。
【0043】
非導電性非金属充填材の表面のかなりの部分を固体導電性金属の密着層で被覆したものも導電性組成物に使用できる。非導電性非金属充填材は一般に基材と呼ばれ、固体導電性金属層で被覆された基材は「金属コート充填材」と呼ぶことができる。アルミニウム、銅、マグネシウム、クロミウム、スズ、ニッケル、銀、鉄、チタンのような典型的な導電性金属並びにこれらの金属のいずれか1種以上を含む混合物を基材の被覆に使用できる。かかる基材の例としては、溶融シリカ及び結晶性シリカのようなシリカ粉体、窒化ホウ素粉体、ホウ素−ケイ酸塩粉体、アルミナ、酸化マグネシウム(マグネシアともいう。)、表面処理ウォラストナイトを始めとするウォラストナイト、硫酸カルシウム(無水物、二水塩又は三水塩)、チョーク、石灰石、大理石及び合成沈降炭酸カルシウムのような炭酸カルシウムで概して粉砕粒子の形態のもの、繊維、節状、針状及びフレーク状タルクを始めとするタルク、中空及び中実ガラス球、軟質、硬質、焼成カオリン及びポリマーマトリックス樹脂との相溶性を高めるための各種皮膜を有するカオリンを始めとするカオリン、雲母、長石、シリカ球体、煙塵、セノスフェア、フィライト、アルミノケイ酸塩(アルモスフェア)、天然ケイ砂、石英、ケイ石、パーライト、トリポリ、ケイ藻土、合成シリカ、並びにこれらのいずれか1種以上を含む混合物が挙げられる。上述の基材はいずれも金属材料相で被覆すれば、導電性組成物に使用できる。
【0044】
その他、炭化ケイ素、硫化モリブデン、硫化亜鉛、ケイ酸アルミニウム(ムライト)、合成ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、バリウムフェライト、硫酸バリウムのような慣用の非導電性無機充填材、並びにガラスフレーク、炭化ケイ素フレーク、二ホウ化アルミニウムのようなフレーク状充填材も、導電性金属皮膜用の基材として使用できる。ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム及び硫酸カルシウム半水塩のような繊維状充填材も導電性金属で被覆すれば、導電性組成物に使用できる。導電性金属皮膜の基材として使用し得るその他の繊維状充填材としては、木を粉砕して得られる木粉のような天然充填材及び補強材、並びにセルロース、綿、サイザル、ジュートのような繊維、澱粉、コルク粉、リグニン、粉砕したナッツ殻、コーン、籾殻などがある。導電性金属皮膜の基材として使用できる繊維状充填材としては、炭化ケイ素、アルミナ、炭化ホウ素を始めとする単結晶繊維又は「ウィスカー」、並びにこれらのいずれか1種を含む混合物を含むも挙げられる。E、A、C、ECR、R、S、D及びNEガラス及び石英などのガラス繊維織物を始めとするガラス繊維或いはこれらのガラス繊維の1種以上を含む組合せを導電性金属で被覆して導電性組成物に使用してもよい。
【0045】
導電性金属皮膜の基材として使用し得る有機補強繊維充填材としては、ポリ(エーテルケトン)、ポリエーテルイミド、ポリベンゾキサゾール、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリエステル、ポリエチレン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルイミド又はポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリ(ビニルアルコール)などの有機ポリマーから得られる繊維が挙げられる。かかる補強用充填材は、モノフィラメント繊維の形態でもマルチフィラメント繊維の形態でも供給でき、単独で使用してもよいし、或いは交織構造又はコア/シース、サイドバイサイド、オレンジタイプもしくはマトリックスアンドフィブリル構造その他繊維製造業者に公知の方法で他の種類の繊維と組合せて使用してもよい。基材として使用できる典型的な交織構造としてはガラス繊維−炭素繊維、炭素繊維−芳香族ポリエーテルイミド(アラミド)繊維及び芳香族ポリエーテルイミド−ガラス繊維が挙げられる。導電性金属皮膜の基材として用いられる繊維状充填材は、例えばロービング、0−90°織物のような製織繊維補強材、連続ストランドマット、チョップドストランドマット、ティッシュ、紙、フェルトのような不織繊維補強材、及び三次元製織補強材、プレホーム及びブレード(編組)の形態で供給できる。
【0046】
基材は、それらの正確な粒度、形状及び組成とは無関係に、表面積の約5〜100%を覆う導電性金属の固体層で被覆される。表面積は通例、BET窒素吸着法や水銀圧入法のような慣用法で求められる。一実施形態では、金属コート充填材は導電性組成物の重量を基準にして約0.25〜約50重量%の量で使用できる。別の実施形態では、金属コート充填材は導電性組成物の重量を基準にして約0.5〜約30重量%の量で使用できる。さらに別の実施形態では、金属コート充填材は導電性組成物の重量を基準にして約1〜約20重量%の量で使用できる。
【0047】
一実施形態では、上述の炭素繊維、VGCF、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、導電性金属充填材、導電性非金属充填材、金属コート充填材或いはこれらの組合せを導電性組成物に使用して、導電性組成物を静電荷散逸させる。例示的な導電性充填材はカーボンナノチューブである。ASTM D257に準拠して測定して、約10ohm/m以下の表面抵抗率を生じさせるのに有効な量の導電性充填材を用いるのが概して望ましい。別の実施形態では、導電性組成物が約10ohm/m以下の表面抵抗率を有するのが望ましい。さらに別の実施形態では、導電性組成物が約10ohm/m以下の表面抵抗率を有するのが望ましい。
【0048】
導電性組成物が約1012ohm−cm以下の体積抵抗率(SVR)を有することも望ましい。一実施形態では、約10ohm−cm以下の体積抵抗率を有するのが望ましい。別の実施形態では、約10ohm−cm以下の体積抵抗率を有するのが望ましい。さらに別の実施形態では、約100ohm−cm以下の体積抵抗率を有するのが望ましい。1012ohm−cm以下の体積抵抗率に加えて、導電性組成物は約10kJ/m以上のノッチ付アイゾット衝撃強さ及びクラスA表面仕上げを有する。一実施形態では、約15kJ/m以上のノッチ付アイゾット衝撃強さを有するのが望ましい。別の実施形態では、約20kJ/m以上のノッチ付アイゾット衝撃強さを有するのが望ましい。
【0049】
体積抵抗率は、破断前の射出成形長が30cmの破断ドッグボーン形サンプルで測定され。サンプルは液体窒素中で破断する。破断前に、サンプルの表面に10cm間隔の応力破断線を生じさせる。サンプルを次いで液体窒素中で破断する。サンプルを破断した後、破断面から凝縮水分を除去するため乾燥させる。次いで破断面に導電性銀塗料を塗工する。銀塗料を乾燥させてから測定を行う。ボルタメーターを用いて抵抗測定又は電圧測定を行う。ボルタメータの電極を破断面に当ててサンプルの抵抗を求め、抵抗率を算出する。
【0050】
上述の通り、マスターバッチは非導電性充填材及び添加剤を含んでいてもよい。適当な非導電性導電性充填材の例としては、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、染料、着色剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、補強用充填材、相溶化剤、可塑剤、繊維など、或いはこれらの非導電性充填材の1種以上を含む組合せが挙げられる。
【0051】
導電性組成物の例示的な製造法は概して溶融ブレンディングを含む。導電性組成物の溶融ブレンディングは、剪断力、延伸力、圧縮力、超音波エネルギー、電磁エネルギー、熱エネルギー又はこれらの力若しくはエネルギー形態の1以上含む組合せを利用し、単一のスクリュー、複数のスクリュー、噛合型同方向回転若しくは異方向回転スクリュー、非噛合型同方向回転若しくは異方向回転スクリュー、往復運動スクリュー、ピン付きスクリュー、ピン付きバレル、ロール、ラム、螺旋ローター又はこれらの1種以上を含む組合せによって上述の力を作用させる加工処理装置で実施される。
【0052】
上述の力を利用する溶融ブレンディングは、単軸式若しくは多軸押出機、Bussニーダー、Eirichミキサー、Henschelミキサー、ヘリコーンミキサー、Rossミキサー、Banburyミキサー、ロールミル、射出成形機、真空成形機、ブロー成形機のような成形機、又はこれらの機械の1以上を含む組合せのような機械で実施できる。組成物の溶融又は溶液ブレンディングの際に、組成物に約0.01〜約10kw時/kgの比エネルギーを与えるのが概して望ましい。
【0053】
導電性組成物の製造方法の一実施形態では、第1の押出機で約50重量%以下の導電性充填材を含むマスターバッチを溶融させるのが望ましい。第1の押出機において溶融マスターバッチを第一のポリマーで希釈して、第2の溶融ポリマーを含む第2の押出機に供給する。2つのメルトの混合は第2の押出機で行われる。導電性充填材を含む導電性組成物を第2の押出機から押出され、ペレット化される。
【0054】
この構成においては、第1の押出機は、主押出機である第2の押出機のサイドコンパウンダーとして機能する。一実施形態では、第1の押出機及び第2の押出機は共に二軸押出機である。別の実施形態では、第1の押出機を単軸押出機とし、第2の押出機を二軸押出機としてもよい。ペレット化した押出物を射出成形する前に適宜乾燥してもよい。
【0055】
例示的な実施形態では、マスターバッチはナイロン−6,6とマスターバッチの総重量を基準にして約20重量%の多層カーボンナノチューブを含む。このマスターバッチを第1の押出機で溶融し、追加量のナイロン−6,6でマスターバッチを希釈することによってその溶融粘度を低下させる。低粘度溶融マスターバッチを次いで第1の押出機から第2の押出機に供給する。第2の押出機は概してポリフェニレンエーテルとナイロン−6,6とを含む相溶化組成物を含む。この相溶化組成物が第2のポリマーである。第2の押出機で2つのメルトが接する際の希釈マスターバッチの溶融粘度が第2のポリマーの溶融粘度と略等しいのが望ましい。一実施形態では、2つのメルトが接する際の低粘度溶融マスターバッチの溶融粘度は第2のポリマーの溶融粘度の約10%以内にある。別の実施形態では、2つのメルトが接する際の低粘度溶融マスターバッチの溶融粘度は第2のポリマーの溶融粘度の約20%以内にある。
【0056】
マスターバッチはマスターバッチの重量を基準にして約10〜約1000重量%の第1のポリマーで希釈できる。一実施形態では、マスターバッチはマスターバッチの重量を基準にして約100〜800重量%の第1のポリマーで希釈できる。別の実施形態では、マスターバッチはマスターバッチの重量を基準にして約200〜約600重量%の第1のポリマーで希釈できる。さらに別の実施形態では、マスターバッチはマスターバッチの重量を基準にして約300〜約500重量%の第1のポリマーで希釈できる。
【0057】
本発明の導電性組成物の製造方法は、当該方法で得られる組成物が、他の方法で製造した試料に比べ、互いに垂直な二方向で均一な体積抵抗率を示すという点で優れている。換言すれば、本導電性組成物では、他の方法で製造される組成物に比べ、電気的特性の異方性が低減している。異方性の低下に際し、流れ方向に平行な方向での体積抵抗率と流れ方向に垂直な方向での体積抵抗率との比(抵抗率比)が約0.25以上であるのが望ましい。一実施形態では、抵抗率比が約0.4以上であるのが望ましい。別の実施形態では、約0.5以上の抵抗率比が望ましい。さらに別の実施態様では、抵抗率比が1に等しいのが望ましい。抵抗率比が1の試料は異方性を有しないと考えられる。ここで定義される流れ方向とは加工プロセスにおける組成物の流れの方向である。
【0058】
導電性組成物は好適には自動車に、特に外装ボディパネルとして使用できる。他の有用な用途としては、チップトレイ、コンピューター、電子機器、半導体部品、回路基板などの静電放電からの保護が必要とされるものが挙げられる。
【0059】
以下の実施例で、本明細書に開示した導電性組成物及びその製造方法の様々な実施形態の一部を例示するが、これらの実施例は例示にすぎず、限定的なものではない。
【実施例】
【0060】
本例では、マスターバッチの溶融粘度を低下したときの、導電性組成物の体積抵抗率及びノッチ付アイゾット衝撃強さに対する効果を例証する。本例では、比較試料を、導電性組成物の改良製造方法を例証する試料と対比して試験した。導電性組成物はポリフェニレンエーテルとナイロン−6,6の相溶化ブレンドを含んでいた。ポリフェニレンエーテルはGeneral Electric Advanced Materials社から入手した。マスターバッチはナイロン−6,6と多層カーボンナノチューブを含んでいた。マスターバッチ中での多層カーボンナノチューブの存在量は、マスターバッチの重量を基準にして20重量%であった。マスターバッチはHyperion Catalyts社から購入した。クエン酸を用いて、ポリフェニレンエーテルとポリアミドを相溶化した。ヨウ化銅とヨウ化カリウムの混合物をIRGANOX 1076(登録商標)と共に酸化防止剤として使用した。使用した耐衝撃性改良剤は、KRATON G1701X(登録商標)(スチレン−エチレン−プロピレン共重合体)及びKRATON G1651(登録商標)(スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体)であった。いずれの耐衝撃性改良剤もKraton Polymers社から市販されている。組成は表1に示す。
【0061】
【表1】

図2に実験用の押出機の構成を示す。主押出機(第2押出機)は28mm Werner & Pfleiderer二軸押出機であった。押出機は、温度50℃、280℃、300℃、300℃、300℃、300℃、290℃、300℃、300℃、300℃、300℃及び300℃にそれぞれ設定した11個のバレルを有していた。ダイは温度310℃に設定した。スクリュー速度は300rpmであった。押出機はバレル6に位置するサイドフィーダー及びバレル9に位置するサイドコンパウンダー(第1押出機)を備えていた。表2に示す通り、比較試料は、ナイロン−6,6とマスターバッチをサイドフィーダー(SF)から第2押出機に供給しながら、ポリフェニレンエーテルを相溶化剤その他の添加剤と共に第2押出機のスロートに供給することによって製造した。サイドフィーダーでは、ナイロン−6,6及びマスターバッチを第2押出機に室温で供給した。
【0062】
【表2】

表2から分かるように、本発明に従って製造した試料が、第1押出機(サイドコンパウンダー(SC))でマスターバッチとナイロン−6,6の一部を溶融ブレンディングしてから、第2押出機に供給した。ナイロン−6,6の残部は第2押出機のサイドフィーダーから室温で供給した。
【0063】
第一の押出機でマスターバッチは、マスターバッチ/ナイロン−6,6重量比1:2、1:4、1:5及び1:6のナイロン−6,6で希釈された。表3に、0.6重量%の多層カーボンナノチューブを含む比較試料及び本発明に従って製造した導電性組成物の試料を示す。
【0064】
【表3】

表3から、比較試料1の体積抵抗率(SVR)が114286kohm−cmであることが分かる。これに対して、第1押出機(サイドコンパウンダー)においてナイロン−6,6で希釈してから第2押出機(主押出機)に溶融状態で供給した試料では、マスターバッチをサイドフィーダーに室温で導入した試料に比べ、体積抵抗率が減少している。
【0065】
以下の表4、表5及び表6は、それぞれMWNT配合量0.8重量%、1重量%及び1.2重量%において、マスターバッチ希釈が体積抵抗率に与える同様の有益な効果を示す。
【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
【表6】

表3、表4、表5及び表6から、第一の押出機での希釈度の増加に伴って試料の体積抵抗率が低下し、マスターバッチの希釈による粘度低下によって分散性が向上することが分かる。理論に束縛されるものではないが、粘度の低下が分散性の最適化に重要な役割を果たし、組成物の抵抗率を下げることができると考えられる。或いは、組成物の抵抗率の低下、導電性充填材の使用量の減少によって材料費が削減されるとともに、必要な加工処理工程も低減し、それに伴ってエネルギー消費量も削減される。
【0069】
上述の方法で製造される物品は、自動車の外装ボディパネル、フェンダー、ダッシュボードのような自動車部品に好適に使用できる。
【0070】
好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の技術的範囲内で様々な変更をなすことができ、構成要素を均等物で置換できることは当業者には明らかあろう。さらに、本発明の技術的範囲内で、特定の状況又は材料を本発明の教示内容に適合させるため多くの修正をなすことができる。したがって、本発明は、その最良の実施の形態として開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に属するあらゆる実施形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1の押出機12と第2の押出機16を示す押出系10の例示的な実施形態の概略図である。第1の押出機12からの押出物が第2の押出機16に供給される。
【図2】試料1〜20の製造に使用したサイドフィーダー及びサイドコンパウンダーを備える押出機の概略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性組成物の製造方法であって、
溶融マスターバッチの粘度を低下させて低粘度溶融マスターバッチを形成し、
低粘度溶融マスターバッチをポリマーと混合して導電性組成物を形成する
ことを含んでなる方法。
【請求項2】
前記溶融マスターバッチを希釈剤、可塑剤、溶融マスターバッチの粘度よりも溶融粘度の低いポリマー又はこれらの組合せと混合することによって溶融マスターバッチの粘度を低下させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
導電性組成物の製造方法であって、
第1の押出機で溶融マスターバッチを、該溶融マスターバッチの溶融粘度よりも溶融粘度の低い第1のポリマーと混合し、
溶融マスターバッチの溶融粘度を低下させて低粘度溶融マスターバッチを形成し、
第2の押出機で低粘度溶融マスターバッチを第2のポリマーと混合して導電性組成物を形成する
ことを含んでなる方法。
【請求項4】
前記溶融マスターバッチがポリマーと導電性充填材を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記導電性充填材がカーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維、金属充填材、金属皮膜で被覆された非導電性充填材、導電性非金属充填材又はこれらの導電性充填材の1種以上を含む組合せである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維又はこれらのカーボンナノチューブの1種以上を含む組合せである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記マスターバッチが該マスターバッチの重量を基準にして約50重量%以下の導電性充填材を含む、請求項4記載の方法。
【請求項8】
第1の押出機が第2の押出機のサイドコンパウンダーである、請求項3記載の方法。
【請求項9】
第1のポリマーが第2のポリマーと同一である、請求項3記載の方法。
【請求項10】
第1のポリマーが第2のポリマーとは異なる、請求項3記載の方法。
【請求項11】
第1のポリマー及び第2のポリマーが導電性組成物中で相溶化されている、請求項3記載の方法。
【請求項12】
第1のポリマー及び/又は第2のポリマーが熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の組合せである、請求項3記載の方法。
【請求項13】
第1のポリマー及び/又は第2のポリマーが、ポリアセタール、ポリアクリル樹脂、ポリアリーレンエーテル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン又はこれらのポリマー樹脂の1種以上を含む組合せである、請求項3記載の方法。
【請求項14】
第1のポリマーがポリアミドであって、第2のポリマーがポリアリーレンエーテルである、請求項3記載の方法。
【請求項15】
前記導電性組成物が相溶化剤及び耐衝撃性改良剤を含む、請求項3記載の方法。
【請求項16】
前記導電性組成物が10eohm−cm以下の体積抵抗率、10kJ/m超のノッチ付アイゾット衝撃強さ及びクラスA表面仕上げを有する、請求項3記載の方法。
【請求項17】
前記導電性組成物が10eohm−cm以下の体積抵抗率及び15kJ/m超のノッチ付アイゾット衝撃強さを有する、請求項3記載の方法。
【請求項18】
請求項1記載の方法で製造される物品。
【請求項19】
前記物品が自動車部品である、請求項18記載の物品。
【請求項20】
前記自動車部品がボディパネル、フェンダー又はダッシュボードである、請求項19記載の物品。
【請求項21】
前記請求項3記載の方法で製造される物品。
【請求項22】
前記物品が自動車部品である、請求項21記載の物品。
【請求項23】
前記自動車部品がボディパネル、フェンダー又はダッシュボードである、請求項22記載の物品。
【請求項24】
導電性組成物の製造方法であって、
第1の押出機で溶融マスターバッチを、該溶融マスターバッチの溶融粘度よりも溶融粘度の低いポリアミドと混合し、
溶融マスターバッチの溶融粘度を低下させて低粘度溶融マスターバッチを形成し、
第2の押出機で低粘度溶融マスターバッチをポリアリーレンエーテルと混合して導電性組成物を形成する
ことを含んでなる方法。
【請求項25】
前記溶融マスターバッチがポリアミドとカーボンナノチューブを含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記ポリアリーレンエーテルを低粘度溶融マスターバッチと混合する前にポリアミドと相溶化する、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記導電性組成物を成形することをさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項28】
請求項24記載の方法で製造される物品。
【請求項29】
前記物品が自動車部品である、請求項28記載の物品。
【請求項30】
前記自動車部品がボディパネル、フェンダー又はダッシュボードである、請求項29記載の物品。
【請求項31】
組成物の製造方法であって、
第1の押出機でマスターバッチを溶融して溶融マスターバッチを形成し、
第2の押出機でポリマーと溶融マスターバッチを混合して組成物を形成する
ことを含む方法。
【請求項32】
前記マスターバッチが導電性充填材を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記マスターバッチが非導電性充填材及び/又は添加剤を含む、請求項31記載の方法。
【請求項34】
前記非導電性充填材が酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、染料、着色剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、補強用充填材、相溶化剤、可塑剤、繊維又はこれらの非導電性充填材の1種以上を含む組合せである、請求項33記載の方法。
【請求項35】
第1の押出機で溶融マスターバッチの粘度を低下させることをさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項36】
前記組成物が導電性である、請求項31記載の方法。
【請求項37】
請求項31記載の方法で製造される物品。
【請求項38】
前記物品が自動車部品である、請求項37記載の物品。
【請求項39】
前記自動車部品がボディパネル、フェンダー又はダッシュボードである、請求項38記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−528768(P2008−528768A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553392(P2007−553392)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/004468
【国際公開番号】WO2006/101611
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】