説明

導電性組成物及びその製造法

【課題】 機械的特性を保持しながら、適当な静電気消散及び電磁遮蔽をもたらす導電性ポリマー組成物の提供。
【解決手段】 組成物の製造方法は、ポリマー樹脂、カーボンナノチューブ及び可塑剤を、流れ方向に平行な方向での抵抗率と流れ方向に垂直な方向での抵抗率との比を約0.15以上に維持するのに有効な粘度でブレンド操作ことを含んでいる。組成物の製造方法は、ポリフェニレンエーテル樹脂をポリアミド樹脂とブレンドしてメルトブレンドを形成し、カーボンナノチューブを含むナイロンマスターバッチを上記メルトブレンドとブレンドし、水を上記メルトブレンド中にブレンドし、上記メルトブレンドから水を除去することを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー樹脂から製造される物品は、静電気消散又は電磁遮蔽(シールド)が重要な要件である包装用フィルム、チップキャリア、コンピューター、プリンター及びコピー機部品のような資材取扱及び電子機器に広く利用されている。静電気消散(以後、ESDとする)は、直接接触又は誘導された静電場による電位の異なる物体間での静電荷の移動と定義される。電磁遮蔽(以後、EM遮蔽とする)の有効性は、シールドに入射する電磁場のうちシールドを通って伝送される割合の比(単位デシベル)と定義される。電子機器が小型化・高速化されるにつれて、その静電荷に対する感受性が高まり、従って改良された静電気消散特性が得られるように改質されたポリマー樹脂を利用するのが一般に望ましい。同様に、ポリマー樹脂の有益な機械的特性の幾つか又は全てを保持しながら、電磁遮蔽性を向上させることができるようにポリマー樹脂を改質するのが望ましい。
【特許文献1】米国特許第3852113号明細書
【特許文献2】米国特許第4005053号明細書
【特許文献3】米国特許第4565684号明細書
【特許文献4】米国特許第4572813号明細書
【特許文献5】米国特許第4663230号明細書
【特許文献6】米国特許第4749451号明細書
【特許文献7】米国特許第4816289号明細書
【特許文献8】米国特許第4876078号明細書
【特許文献9】米国特許第5024818号明細書
【特許文献10】米国特許第5036580号明細書
【特許文献11】米国特許第5165909号明細書
【特許文献12】米国特許第5256335号明細書
【特許文献13】米国特許第5300553号明細書
【特許文献14】米国特許第5354607号明細書
【特許文献15】米国特許第5445327号明細書
【特許文献16】米国特許第5484837号明細書
【特許文献17】米国特許第5556892号明細書
【特許文献18】米国特許第5589152号明細書
【特許文献19】米国特許第5591312号明細書
【特許文献20】米国特許第5591382号明細書
【特許文献21】米国特許第5591832号明細書
【特許文献22】米国特許第5641455号明細書
【特許文献23】米国特許第5643502号明細書
【特許文献24】米国特許第5643990号明細書
【特許文献25】米国特許第5654357号明細書
【特許文献26】米国特許第5718995号明細書
【特許文献27】米国特許第5744235号明細書
【特許文献28】米国特許第5830326号明細書
【特許文献29】米国特許第5872177号明細書
【特許文献30】米国特許第5919429号明細書
【特許文献31】米国特許第6183714号明細書
【特許文献32】米国特許第6344513号明細書
【特許文献33】米国特許第5651922号明細書
【特許文献34】欧州特許出願公開第0198558号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電気的特性を改良し、ESD及びEM遮蔽を達成するために、2マイクロメートルより大きい直径を有するピッチ及びポリアクリロニトリルから得られたグラファイト繊維のような導電性充填材をポリマー樹脂に配合することが多い。しかし、これらのグラファイト繊維は大きさが大きいため、かかる繊維を配合すると一般に衝撃のような機械的特性が低下する。加えて、これら炭素繊維の不完全な分散により、この組成物から得られる物品内の不均一性が助長される。従って、当技術分野では、適切なESD及びEM遮蔽を提供しつつ、機械的特性を保持することができる導電性ポリマー組成物に対するニーズが残されている。また、組成物から得られる物品における不均一性を最小にするようにして導電性充填材を分散させることができる方法に対するニーズも残されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
組成物の製造方法は、ポリマー樹脂、カーボンナノチューブ及び可塑剤を、流れ方向に平行な方向での抵抗率と流れ方向に垂直な方向での抵抗率との比を約0.15以上に維持するのに有効な粘度でブレンドすることを含んでいる。
【0005】
組成物の製造方法は、ポリフェニレンエーテル樹脂をポリアミド樹脂とブレンドしてメルトブレンドを形成し、このメルトブレンドを、カーボンナノチューブを含むナイロンマスターバッチとブレンドし、このメルトブレンド中に水をブレンドし、このメルトブレンドから水を除去することを含んでいる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本明細書には、ポリマー樹脂、カーボンナノチューブ及び任意成分としての可塑剤を含んでなる組成物を、この組成物が約10eΩ−cm以下のバルク体積抵抗率(bulk volume resistivity)を有しつつ、約5キロジュール/平方メートル以上の衝撃特性とクラスAの表面仕上げとを示すように製造する方法が開示されている。一つの実施形態において、この方法は、約10Ω/平方(Ω/sq)以上の表面抵抗率を有し、かつ約10eΩ−cm以下のバルク体積抵抗率を有しつつ、約5キロジュール/平方メートル以上の衝撃特性とクラスAの表面仕上げとを示す組成物の製造に利用することができる。別の実施形態において、本方法は、相互に垂直な方向において均一な電気伝導率を有し、従って組成物のバルクのいたるところで電気伝導率の不均一性を最小にする組成物の製造に使用することができる。
【0007】
かかる組成物は、静電気の消散から保護する必要があるコンピューター、電子機器物品、半導体部品、回路基板などに有利に利用することができる。また、所望であれば静電塗装することができる自動車の内装及び外装部品用の自動車用ボディーパネルにも有利に使用できる。
【0008】
導電性組成物中に使用するポリマー樹脂は、広範囲の熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂のブレンド、又は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のブレンドから選択することができる。また、ポリマー樹脂はポリマーのブレンド、コポリマー、ターポリマー、又はこれらのポリマー樹脂を1種以上含む組合せでもよい。熱可塑性樹脂の具体的な非限定例としては、ポリアセタール、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及びこれらのポリマー樹脂を1種以上含む組合せがある。
【0009】
熱可塑性樹脂のブレンドの具体的な非限定例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン/ナイロン、ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリアミド、ポリカーボネート/ポリエステル、ポリフェニレンエーテル/ポリオレフィン、及びこれらの熱可塑性樹脂のブレンドを1種以上含む組合せがある。
【0010】
ポリマー樹脂は一般に約5〜約99.999重量%(wt%)の量で使用する。この範囲内で、一般に、組成物の総重量の約10wt%以上、好ましくは約30wt%以上、さらに好ましくは約50wt%以上の量でポリマー樹脂又は樹脂ブレンドを使用するのが望ましい。また、ポリマー樹脂又は樹脂ブレンドは一般に、組成物の総重量の約99.99wt%以下、好ましくは約99.5wt%以下、さらに好ましくは約99.3wt%以下の量で使用する。
【0011】
組成物中に利用するカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)、嵩高球又はカーボンナノファイバーでよい。組成物中に使用する単層カーボンナノチューブは、グラファイトのレーザー蒸着又はカーボンアーク合成によって製造することができる。これらのSWNTは一般に外径が約0.7〜約2.4ナノメートル(nm)の単一の壁をもっている。アスペクト比が約5以上、好ましくは約100以上、さらに好ましくは約1000以上のSWNTを一般に組成物中に利用する。このSWNTは一般にそれぞれのチューブの各末端に半球形のキャップを有する閉鎖構造であるが、単一の開放末端又は両方の開放末端を有するSWNTも使用できると考えられる。このSWNTは一般に中空の中央部分をもっているが、無定形炭素で充填されていてもよい。
【0012】
一つの実施形態において、SWNTはロープ様集合体の形態で存在し得る。これらの集合体は一般に「ロープ」といわれ、個々のカーボンナノチューブ間のVan der Waal力の結果として形成される。ロープ内の個々のナノチューブは互いに対して滑るように動きロープ内部で自身で再配列して自由エネルギーを最小にすることができる。一般に10〜10個のナノチューブを有するロープを組成物中に使用することができる。この範囲内で、一般に、約100個以上、好ましくは約500個以上のナノチューブを有するロープが望ましい。また、約10個以下のナノチューブ、好ましくは約5000個以下のナノチューブを有するロープが望ましい。一般に、組成物中のロープはアスペクト比が約5以上、好ましくは約10以上、好ましくは約100以上、さらに好ましくは約1000以上、最も好ましくは約2000以上であるのが望ましい。一般に、SWNTは固有熱伝導率が2000W/m−K以上で、固有電気伝導率が10ジーメンス/センチメートル(S/cm)であるのが望ましい。また、一般に、SWNTは引張強さが80ギガパスカル(GPa)以上で、剛性が約0.5テラパスカル(TPa)であるのが望ましい。
【0013】
別の実施形態において、SWNTは金属ナノチューブと半導体ナノチューブの混合物からなっていてもよい。金属ナノチューブは金属に似た電気的特性を示すものであり、半導体ナノチューブは電気的に半導体であるものである。一般に、グラフェンシートを巻き取る様式により各種螺旋構造のナノチューブが生成する。ジグザグ及びアームチェアナノチューブは2つの可能なアキラルな立体構造を構成し、その他全ての立体構造はキラルナノチューブを生成する。組成物中に利用するSWNTの量を最小にするためには、一般に、金属ナノチューブが組成物中に使用するSWNTの合計量のできるだけ大きい割合を構成するのが望ましい。一般に、組成物中に使用するSWNTが、SWNTの総重量の約1wt%以上、好ましくは約20wt%以上、さらに好ましくは約30wt%以上、さらにさらに好ましくは約50wt%以上、最も好ましくは約99.9wt%以上の量で金属ナノチューブを含むのが望ましい。特定の状況によっては、一般に、組成物中に使用するSWNTが、SWNTの総重量の約1wt%以上、好ましくは約20wt%以上、さらに好ましくは約30wt%以上、さらにさらに好ましくは約50wt%以上、最も好ましくは約99.9wt%以上の量で半導体ナノチューブを含むのが望ましいことがある。
【0014】
さらに別の実施形態において、本組成物中に使用するSWNTは不純物を含んでいてもよい。不純物は一般に、SWNTの合成に使用した触媒の結果として、また合成の他の非SWNT炭素質副生物から得られる。触媒不純物は一般に、コバルト、鉄、イットリウム、カドミウム、銅、ニッケルのような金属、酸化第二鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などの金属の酸化物、又はこれらの不純物を1種以上含む組合せである。この反応の炭素質副生物は一般に、すす、無定形炭素、コーク、多層ナノチューブ、非晶質ナノチューブ、非晶質ナノファイバーなど、又はこれらの炭素質副生物を1種以上含む組合せである。
【0015】
一般に、本組成物中に使用するSWNTは約1〜約80wt%の量の不純物を含み得る。この範囲内で、SWNTは、このSWNTの総重量の約5wt%以上、好ましくは約7wt%以上、さらに好ましくは約8wt%以上の不純物含量を有し得る。また、この範囲内で、SWNTの総重量の約50wt%以下、好ましくは約45wt%以下、さらに好ましくは約40wt%以下の不純物含量が望ましい。
【0016】
組成物中に利用するカーボンナノチューブはまた、ポリマー樹脂との相溶性を改良し混合を容易にするために官能基で誘導体化してもよい。SWNTは側壁、半球形末端キャップ、又は側壁と半球形末端キャップの両方で官能化することができる。次式(I)を有する官能化SWNTを本組成物中に使用することができる。
【0017】
【化1】

式中、nは整数であり、Lは0.1n未満の数であり、mは0.5n未満の数であり、各Rは同じであり、SOH、COOH、NH、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’、Si−(OR’)−R’(3−y)、R”、AlR’、ハロゲン化物、エチレン性不飽和官能性、エポキシド官能性などから選択され、yは3以下の整数であり、R’は水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、又はアラルキル、シクロアリール、ポリ(アルキルエーテル)などであり、R”はフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル、シクロアリールであり、Xはハロゲン化物であり、Zはカルボキシレート、トリフルオロアセテートなどである。これらの組成物は、各Rが同じであるという点で均一である。
【0018】
不均一に置換されたカーボンナノチューブも組成物中に使用することができる。これらには上記式(I)の組成物が含まれ、式中のn、L、m、R及びSWNT自体は上で定義した通りであり、ただし各Rは酸素を含有しないか、又は、各Rが酸素含有基であるにしても、COOHは存在しない。
【0019】
また、本発明には、次式(II)を有する官能化ナノチューブも包含される。
【0020】
【化2】

式中、n、L、m、R’及びRは上記と同じ意味を有する。炭素原子Cはカーボンナノチューブの表面炭素である。均一又は不均一に置換されたカーボンナノチューブの両方で、表面原子Cが反応する。カーボンナノチューブの表面層の殆どの炭素原子は基底面(basal plane)炭素である。基底面炭素は化学攻撃に対して比較的不活性である。例えばグラファイト面がSWNTの周りに充分に広がっていない欠陥部位には、グラファイト面の縁部炭素原子と類似の炭素原子がある。この縁部炭素は反応性であり、炭素原子価を満たすために幾らかのヘテロ原子又は基を含有しなければならない。
【0021】
上記の置換されたカーボンナノチューブは有利なことにさらに官能化することができる。かかる組成物には次式(III)の組成物が含まれる。
【0022】
【化3】

式中、炭素はカーボンナノチューブの表面炭素であり、n、L及びmは上記の通りであり、AはOY、NHY、−CR’−OY、N’Y、C’Y、及び次式の基から選択される。
【0023】
【化4】

式中、Yはタンパク質、ペプチド、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原、又は酵素 基質、酵素阻害剤若しくは酵素基質の遷移状態アナログの適当な官能基であるか、或いはR’OH、R’NH、R’SH、R’CHO、R’CN、R’X、R’SiR’、RSi−(OR’)−R’(3−y)、R’Si−(O−SiR’)−OR’、R’−R”、R’−N−CO、(CO)−Y、−(CO)−H、−(CO)−R’、−(CO)−R’及びR’から選択され、wは1より大きく200未満の整数である。
【0024】
構造(II)の官能性カーボンナノチューブはまた官能化して次式(IV)を有する組成物を製造することができる。
【0025】
【化5】

式中、n、L、m、R’及びAは上記定義の通りである。炭素原子CはSWNTの表面炭素である。
【0026】
本発明の組成物はまた、ある種の環状化合物が吸着したカーボンナノチューブも包含する。これらには、次式(V)の物質が包含される。
【0027】
【化6】

式中、nは整数であり、Lは0.1n未満の数であり、mは0.5n未満の数であり、aはゼロ又は10未満の数であり、Xは多核芳香族、多異核芳香族又は金属多異核芳香族部分であり、Rは上記定義の通りである。好ましい環状化合物は、Cotton及びWilkinson、Advanced Organic Chemistryの76頁に記載されているような平面状の大環状化合物である。吸着に関してさらに好ましい環状化合物はポルフィリン及びフタロシアニン類である。
【0028】
吸着される環状化合物は官能化されていてもよい。かかる組成物には、次式(VI)の化合物が包含される。
【0029】
【化7】

式中、m、n、L、a、X及びAは上記定義の通りであり、炭素はカーボンナノチューブの表面にある。
【0030】
特定の理論に縛られることはないが、改質された表面特性によりカーボンナノチューブのポリマー樹脂との相溶性が高くなり、又は、修飾官能基(特にヒドロキシル又はアミン基)が末端基として直接ポリマー樹脂に結合するので、官能化されたカーボンナノチューブはより良好にポリマー樹脂に分散する。こうして、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルイミドなどのポリマー樹脂が直接カーボンナノチューブに結合し、その結果カーボンナノチューブが改良された粘着性をもってより容易に分散する。
【0031】
官能基は一般に、カーボンナノチューブの表面を酸化するのに充分な時間そのカーボンナノチューブを強い酸化剤と接触させ、さらにその酸化された表面に官能基を付加するのに適した反応体とカーボンナノチューブを接触させることによってカーボンナノチューブの外面上に導入することができる。好ましい酸化剤はアルカリ金属塩素酸塩の強酸溶液からなる。好ましいアルカリ金属塩素酸塩は塩素酸ナトリウム又は塩素酸カリウムである。使用する好ましい強酸は硫酸である。酸化に充分な時間は約0.5〜約24時間である。
【0032】
約3.5〜約2000ナノメートル(nm)の直径と約5以上のアスペクト比を有する気相成長炭素繊維又は小さいグラファイト系若しくは一部グラファイト系炭素繊維(同様に気相成長炭素繊維(VGCF)ともいわれる)も使用できる。VGCFを使用する場合、約3.5〜約500nmの直径が好ましく、約3.5〜約100nmの直径がさらに好ましく、約3.5〜約50nmの直径が最も好ましい。また、平均アスペクト比が約100以上、さらに好ましくは約1000以上であるのが好ましい。
【0033】
カーボンナノチューブは一般に、望ましい場合組成物の総重量の約0.0001〜約50wt%の量で使用する。この範囲内で、カーボンナノチューブは一般に、組成物の総重量の約0.25wt%以上、好ましくは約0.5wt%以上、さらに好ましくは約1wt%以上の量で使用する。また、カーボンナノチューブは一般に、組成物の総重量の約30wt%以下、好ましくは約10wt%以下、さらに好ましくは約5wt%以下の量で使用する。
【0034】
カーボンブラック、導電性金属充填材、固体の非金属導電性充填材など、又はこれらのものを1種以上含む組合せのような他の導電性充填材も場合によっては本組成物中に使用できる。好ましいカーボンブラックは、約200nm未満、好ましくは約100nm未満、さらに好ましくは約50nm未満の平均粒径を有するものである。また、好ましい導電性カーボンブラックは、約200平方メートル/グラム(m/g)より大きく、好ましくは約400m/gより大きく、さらにさらに好ましくは約1000m/gより大きい表面積を有し得る。好ましい導電性カーボンブラックは、約40立方センチメートル/100グラム(cm/100g)より大きく、好ましくは約100cm/100gより大きく、さらに好ましくは約150cm/100gより大きい細孔容積(フタル酸ジブチル吸収)を有し得る。代表的なカーボンブラックとして、Columbian Chemicalsから商標名CONDUCTEX(登録商標)で市販されているカーボンブラック、Chevron Chemicalから商標名S.C.F.(Super Conductive Furnace)及びE.C.F.(Electric Conductive Furnace)で入手可能なアセチレンブラック、Cabot Corp.から商標名VULCAN XC72及びBLACK PEARLSで入手可能なカーボンブラック、並びにAkzo Co.Ltdから商標名KETJEN BLACK EC 300及びEC 600で市販されているカーボンブラックがある。好ましい導電性カーボンブラックは組成物の総重量を基準にして約2〜約25wt%の量で使用できる。
【0035】
また場合により、固体の導電性金属充填材を本導電性組成物中に使用してもよい。これらは、これらをポリマー樹脂中に配合する際及びそれから完成品を製造する際に使用する条件下で融解しない導電性金属又は合金でよい。アルミニウム、銅、マグネシウム、クロム、スズ、ニッケル、銀、鉄、チタン、及びこれらの金属のいずれか1種を含む混合物のような金属を導電性充填材としてポリマー樹脂中に配合することができる。物理的混合物及びステンレススチール、青銅などの真の合金も導電性充填材粒子として機能し得る。加えて、これらの金属のホウ化物、炭化物などの二、三の金属間化学化合物(例えば、二ホウ化チタン)も導電性充填材粒子として機能し得る。また場合により、スズ酸化物、酸化インジウムスズなどの固体の非金属導電性充填材粒子を添加してポリマー樹脂を導電性にすることもできる。これらの固体金属及び非金属導電性充填材は当技術分野で広く知られている粉末、引き伸ばしたワイヤ(drawn wire)、ストランド、繊維、チューブ、ナノチューブ、フレーク、積層体、小板、楕円体、ディスク、及びその他の市販幾何学形状の形態で存在し得る。
【0036】
場合により、その表面のかなりの部分が固体導電性金属のコヒーレントな層で被覆されている非導電性非金属充填材も本導電性組成物中に使用できる。これらの非導電性非金属充填材は一般に基質といわれ、固体導電性金属の層で被覆された基質を「金属被覆された充填材」という。アルミニウム、銅、マグネシウム、クロム、スズ、ニッケル、銀、鉄、チタン、及びこれらの金属のいずれか1種を含む混合物のような典型的な導電性金属を用いて基質を被覆することができる。基質の例は当技術分野で周知であり、例えば「Plastic Additives Handbook、5th Edition」、Hans Zweifel編、Carl Hanser Verlag Publishers刊、Munich、2001年に記載されているものがある。かかる基質の非限定例としては、溶融シリカ及び結晶質シリカのようなシリカ粉末、窒化ホウ素粉末、ケイ酸ホウ素粉末、アルミナ、酸化マグネシウム(即ちマグネシア)、ウォラストナイト、例えば表面処理したウォラストナイト、硫酸カルシウム(その無水物、二水和物又は三水和物)、炭酸カルシウム、例えばチョーク、石灰石、大理石及び合成沈降炭酸カルシウム(一般に、粉砕微粒子の形態)、タルク、例えば繊維状、モジュール状、針状、及びラメラ状タルク、ガラス球(中空及び固体の両方)、カオリン、例えばハード、ソフト、カ焼カオリン、及びポリマーマトリックス樹脂との相溶性を促進することが当技術分野で公知の各種コーティングを含むカオリン、雲母、長石、ケイ酸塩球、煙塵、セノスフェア、フィライト、アルミノケイ酸塩(アルモスフェア)、天然珪砂、石英、石英岩、パーライト、トリポリ石、ケイ藻土、合成シリカ、並びにこれらのいずれかを含む混合物がある。以上の基質は全て、導電性組成物中に使用するために金属材料の層で被覆することができる。
【0037】
固体金属及び非金属導電性充填材粒子は、その正確な大きさ、形状及び組成に関わりなく、所望の場合組成物の総重量の約0.0001〜約50wt%の充填量でポリマー樹脂中に分散させることができる。この範囲内で、固体金属及び非金属導電性充填材粒子は、一般に組成物の総重量の約1wt%以上、好ましくは約1.5wt%以上、さらに好ましくは約2wt%以上の量が望ましい。この固体金属及び非金属導電性充填材粒子の充填量は、組成物の総重量の40wt%以下、好ましくは約30wt%以下、さらに好ましくは約25wt%以下でよい。
【0038】
組成物中に使用する可塑剤は一般に、ポリマー樹脂をカーボンナノチューブとブレンドする際に組成物の粘度を低下するために利用される。本明細書中で定義される可塑剤は、ポリマー樹脂をカーボンナノチューブとブレンドする際に溶融粘度の低下を促進することができる低分子量の有機又は無機化学種である。一つの実施形態において、可塑剤は実際にポリマー樹脂を溶解し得る。かかる可塑剤の適切な例は、溶媒、例えばアルコール、アセトン、トルエン、メチルエチルケトン、液体二酸化炭素、液体 窒素、水、モノマー、例えばスチレン、アクリレートなどである。別の実施形態において、可塑剤はポリマー樹脂を部分的にのみ溶媒和し得る。かかる可塑剤の適切な例はフタル酸ジブチル、レゾルシノールジホスフェート、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンなどである。さらに別の実施形態において、可塑剤は、ブレンド工程中ポリマー樹脂を部分的にも全体的にも溶媒和することなくポリマー樹脂の懸濁を促進し得る。
【0039】
ポリマー樹脂をカーボンナノチューブ及び可塑剤とブレンドする処理は任意所望の温度で実施することができる。一般に、ブレンド操作は、半結晶性のポリマー樹脂の融解温度又は非晶質ポリマー樹脂のガラス転移温度付近以上の温度で実施するのが好ましい。一つの代表的な実施形態において、可塑剤はブレンド工程中組成物に一時的に加えることができる。その後この可塑剤はブレンド工程中又はブレンド工程後組成物から除去することができる。別の実施形態において、可塑剤は組成物に永久的に添加してもよい。
【0040】
一般に、ポリマー樹脂は、可塑剤、カーボンナノチューブ並びにその他場合により所望とされる導電性充填材、例えばカーボンブラック、固体金属及び非金属導電性充填材粒子と共に、幾つかの異なる手段、例えば限定されることはないが溶融ブレンディング、溶液ブレンディングなど、又はこれらのブレンド操作法の1種以上を含む組合せで加工処理することができる。組成物の溶融混合は、剪断力、延伸力、圧縮力、超音波エネルギー、電磁エネルギー、熱エネルギー又はこれらの力若しくはエネルギーの形態を1種以上含む組合せを利用し、単一のスクリュー、複数のスクリュー、噛合型同方向回転若しくは異方向回転スクリュー、非噛合型同方向回転若しくは異方向回転スクリュー、往復運動スクリュー、ピン付きスクリュー、ピン付きバレル、ロール、ラム、螺旋ローター又はこれらの1種以上を含む組合せにより上述の力を作用させる加工処理装置で実施される。
【0041】
上述の力を利用する溶融混合は、限定されることはないが、単軸式若しくは多軸式押出機、Buss混練機、Henschel、ヘリコーン、Rossミキサー、Banbury、ロールミル、射出成形機、真空成形機、ブロー成形機などの成形機、又はこれらの機械を1以上含む組合せのような機械で実施できる。一般に、組成物の溶融又は溶液混合中、組成物1キログラム当たり約0.01〜約10キロワット−時(kwhr/kg)の特定のエネルギーを付与するのが望ましい。この範囲内で、約0.05kwhr/kg以上、好ましくは約0.08kwhr/kg以上、さらに好ましくは約0.09kwhr/kg以上の特定のエネルギーが一般に組成物のブレンド操作に望ましい。また、組成物のブレンド操作にとって、約9kwhr/kg以下、好ましくは約8kwhr/kg以下、さらに好ましくは約7kwhr/kg以下の特定のエネルギーの量が望ましい。
【0042】
一つの実施形態において、粉末形態、ペレット形態、シート形態などのポリマー樹脂は、最初にHenschel又はWaringブレンダーでカーボンナノチューブ及び所望により他の任意の充填材とドライブレンドした後に、押出機又はBuss混練機のような溶融混合装置に供給することができる。その後溶融混合装置に可塑剤を添加する。別の実施形態においては、粉末形態、ペレット形態、シート形態などのポリマー樹脂を、最初にHenschel又はWaringブレンダーでカーボンナノチューブ及び可塑剤とブレンドした後、押出機又はBuss混練機のような溶融混合装置に供給してもよい。溶融混合に好ましい装置は二軸式押出機又はBuss混練機である。
【0043】
上述したように、ブレンド操作中に可塑剤を使用するとブレンドの粘度が低下し、そのため可塑剤を利用しない組成物と比較して剪断力の低減が促進される。剪断力が低減するとカーボンナノチューブのアスペクト比の保存が促進される。また、組成物の電気的特性における異方性の低下も促進される。異方性の低下に際し、流れ方向に平行な方向での抵抗率と流れ方向に垂直な方向での抵抗率との比が、約0.25以上、好ましくは約0.4以上、好ましくは約0.5以上、さらに好ましくはほぼ1に等しいのが好ましい。本明細書中で定義される流れ方向とは、加工処理工程中の組成物の流れの方向である。
【0044】
また、この比が、組成物の表面上で所与の点から約12平方インチ、好ましくは約10平方インチ以下、さらに好ましくは約5平方インチ以下の領域内で約0.25以上であるのが好ましい。さらに、組成物が約3wt%以下のカーボンナノチューブ、好ましくは約2wt%以下のカーボンナノチューブ、さらには約1wt%以下のカーボンナノチューブを含有するときに約0.25以上の比を有するのが望ましい。ここで、重量%は組成物の総重量を基準にしている。
【0045】
組成物の溶融粘度は、ポリマー樹脂とカーボンナノチューブからなる組成物の溶融粘度の約5%以上、好ましくは約15%以上、さらに好ましくは約25%以上低下させるのが一般に望ましい。一般に、溶融混合操作中の溶融粘度は約60パスカル−秒(Pa−s)以下、好ましくは約55Pa−s以下、好ましくは約50Pa−s以下、さらに好ましくは約40Pa−s以下であるのが望ましい。
【0046】
一般に溶融混合装置の剪断力はカーボンナノチューブのポリマー樹脂中への全体的な分散を起こすのが望ましいが、溶融混合工程中カーボンナノチューブのアスペクト比を保存することも望ましい。そのために、カーボンナノチューブをマスターバッチの形態で溶融混合装置中に導入するのが望ましいことがある。かかる工程において、マスターバッチはポリマー樹脂の下流で溶融混合装置に導入するとよい。本明細書中で定義されるメルトブレンドとは、ブレンド工程中に、ポリマー樹脂が半結晶性ポリマー樹脂である場合はその樹脂の少なくとも一部分がほぼ融解温度以上の温度、又は樹脂が非晶質樹脂である場合は流動点(例えば、ガラス転移温度)に達しているものである。ドライブレンドとは、ポリマー樹脂の全体が、樹脂が半結晶性ポリマー樹脂である場合はほぼ融解温度以下の温度、又はポリマー樹脂が非晶質樹脂である場合は流動点以下の温度にあるものであって、ポリマー樹脂はブレンド工程中液体様流体を実質的に含まない。本明細書中で定義される溶液ブレンドとは、ポリマー樹脂がブレンド工程中例えば溶媒又は非溶媒のような液体様流体中に懸濁しているものである。
【0047】
マスターバッチを使用する場合、カーボンナノチューブはマスターバッチ中に約1〜約50wt%の量で存在し得る。この範囲内で、一般にカーボンナノチューブを、マスターバッチの総重量の約1.5wt%以上、好ましくは約2wt%以上、さらに好ましくは約2.5wt%以上の量で使用するのが望ましい。また、カーボンナノチューブは、マスターバッチの総重量の約30wt%以下、好ましくは約10wt%以下、さらに好ましくは約5wt%以下の量であるのが望ましい。
【0048】
ポリマーブレンドにマスターバッチを使用する一つの実施形態において、組成物の連続相を形成するポリマー樹脂と同じポリマー樹脂を含むマスターバッチが望ましいことがある。この特徴により、組成物に必要な体積及び表面抵抗率を付与するカーボンナノチューブを連続相のみが保持することになるので、カーボンナノチューブの使用量を実質的に低減することができる。ポリマーブレンドにマスターバッチを使用するさらに別の実施形態においては、組成物中に使用するポリマー樹脂とは化学的に異なるポリマー樹脂を含むマスターバッチが望ましいことがある。この場合、マスターバッチのポリマー樹脂はブレンド中の連続相を形成する。
【0049】
ポリマー樹脂及びカーボンナノチューブを含む本組成物は所望により複数のブレンド操作及び成形工程にかけることができる。例えば、本組成物を最初に押し出し、ペレットに成形してもよい。このペレットはその後成形機に供給することができ、そこでコンピューターのハウジング、静電塗装することができる自動車用パネルなどの他の望ましい形状に成形することができる。また、単一のメルトブレンダーから出て来た本組成物をシート又はストランドに成形し、アニーリング、一軸又は二軸配向のような押出後工程にかけてもよい。
【0050】
上記組成物は広範囲の商業用途に使用することができる。例えば、静電気消散から保護する必要があるコンピューター、電子機器物品、半導体部品、回路基板などの電子部品を包装するフィルムとして有利に利用することができる。また、コンピューターの外側に位置する個人用その他のエレクトロニクスに対して電磁遮蔽を提供し、並びに内部コンピューター部品を他の外部電磁干渉から保護するためにコンピューターその他の電子機器物品の内部で使用することもできる。また、これらは、所望により静電塗装することができる自動車の内装及び外装部品用の自動車用ボディーパネルに有利に使用することもできる。
【実施例】
【0051】
代表例であって限定する意味のない以下の実施例で、本明細書に記載した導電性組成物の様々な実施形態の幾つかの組成と製造法を例示する。
【0052】
実施例1
この実施例は、低めの溶融粘度を有するポリマー樹脂を高めの溶融粘度を有するポリマー樹脂に添加した効果を立証するために実施した。300℃で高めの溶融粘度を有するポリマー樹脂は、GE Plasticsから市販されているポリカーボネート樹脂PC135であった。低めの溶融粘度を有する樹脂は同様にGE Plasticsから市販されているポリカーボネート樹脂ML5221であった。図1に、多めの量のML5221をPC135に添加したときの300℃におけるブレンドの溶融粘度の低下を示す。溶融粘度はRheometricsレオメーターで測定した。図2には、それぞれ0wt%、10wt%及び20wt%のML5221を有するPC135ポリカーボネートの試料に対して測定した電気抵抗率を示す。Hyperion Catalysts Inc.から取得したVGCFを、マスターバッチの形態でポリマー樹脂に添加した。このマスターバッチは15wt%のVGCFを含有していた。VGCFの平均繊維径は走査電子顕微鏡によって測定して15.2ナノメートルであった。電気抵抗率は、30トンのEngel射出成形機で犬の骨(dog-bone)試料を射出成形することによって測定した。次に試料の首部に沿って鋭いナイフにより2インチの距離離して切り目を入れ、液体窒素下で破断した。破断面を周囲条件下で乾燥し、銀導電性塗料で塗装した。この銀塗料を乾燥させた後、電圧計を用いて試料の両末端に1ボルトの電位をかけることによって抵抗率の測定を行った。その結果を図2に示す。図から分かるように、低い溶融粘度のポリカーボネートを多めに添加して溶融粘度を低下させると、電気抵抗率が低下する。これは、ポリマー樹脂の低めの溶融粘度が電気伝導率を改良するのに実質的な役割を果たしていることを示している。このように、加工処理中の粘度が低下すると組成物の電気伝導率が改良される。
【0053】
また、加工処理中の電気伝導率における異方性を検討した。組成物はHyperion Catalysts Incorporatedから取得したVGCFを2.5wt%含有していた。30トンの射出成形機で6”×2.5”の大きさの長方形のプラークを射出成形した。6”の辺が流れ方向に平行であった。図3に示すように、流れ方向に平行に5つの試料をスライスし、流れ方向に垂直に5つの試料をスライスした。射出成形したスライスの両末端から0.5インチの距離で試料に切り目を入れた。上記のようにして試料を破断し、銀塗料を塗った後、上記と同様にして電気伝導率を測定した。流れ方向に平行な方向で測定した抵抗率を、流れ方向に垂直な方向で測定した抵抗率で割り、その比を図4に示すようにML5221(低溶融粘度ポリカーボネート)の重量%に対してプロットした。図で、ρ平行は流れ方向に平行に測定した抵抗率を示し、ρ垂直は流れ方向に垂直に測定した抵抗率を示す。1の値は射出成形機内の流れに起因する異方性がないことを示し、0又は無限大の値は試料内に大量の等方性があることを示す。図4で分かるように、ML5221の重量%が0から15wt%まで増大するにつれて、抵抗率の比が0.12から約0.29まで上昇しており、ブレンド操作中のメルトの低めの粘度により、試片全体にわたるカーボンナノチューブのより均一な分布が得られることを示している。この結果異方性の量が低くなる。またこれは、カーボンナノチューブのアスペクト比のより良好な保存を反映している可能性がある。
【0054】
実施例2
この実験では、溶融混合中に5wt%の量の可塑剤をポリマー樹脂に添加した。可塑剤はレゾルシノールジホスフェート(RDP)であり、ポリマー樹脂はGE Plasticsから市販されているポリブチレンテレフタレート(PBT315)であった。VGCFはマスターバッチ形態で押出機のバレル#7に添加した。PBT−VGCFマスターバッチは15wt%のVGCFを含有しており、Hyperion Catalysts Incorporatedから市販されていた。RDPは30mmのWerner and Pfleiderer二軸式押出機にバレル#3で添加した。この二軸式押出機のバレルの総数は10であり、バレル温度は約260℃に維持した。スクリュースピードは400rpmであった。押出物をペレット化し、上記のように犬の骨型試料に射出成形した。試料を上記と同様にして調製した。電気抵抗率の測定値を図5に示す。図から分かるように、5wt%のRDPを含有する組成物は、同じ重量%のカーボンナノチューブを有するが可塑剤を含まない組成物より抵抗率が低い。
【0055】
実施例3
この実施例では、異なる溶融粘度を有するナイロン6,6をカーボンナノチューブとブレンドして電気抵抗率を確かめた。これらの実験のうちの一つでは、押出中に水を組成物に添加した。この水を押出工程中に除去して、水を実質的に含まない導電性ナイロン6,6を得た。ナイロン6,6とVGCFを含有する組成物に水を一時的に添加すると、押出中の溶融粘度が低下し、従って組成物の他の物理的特性を変えることなく材料の電気伝導率の増大が促進されることが分かるであろう。
【0056】
これらの実験に使用したナイロン6,6はDu Pontから取得した。図6は、3wt%以下のカーボンナノチューブを含有するナイロン6,6の溶融粘度を示すグラフである。図6から分かるように、高い分子量を有するナイロン6,6は60Pa−s(パスカル−秒)の溶融粘度を有しているが、枝分かれナイロン6,6は約52Pa−sの低めの溶融粘度を有する。ステアリン酸カルシウムを高分子量ナイロン6,6に添加して分子量、従って溶融粘度を低下させた。ステアリン酸カルシウムは0.1wt%の量で添加した。ステアリン酸カルシウムを含有するナイロン6,6の溶融粘度は23Pa−sであった。
【0057】
図7は、カーボンナノチューブの重量%に対して試料のバルク抵抗率を示すグラフである。図から分かるように、電気抵抗率は、高分子量のナイロン6,6を有する組成物で最高である。ステアリン酸カルシウムを有する組成物は一般に、低分子量のナイロン6,6を有する組成物より低い抵抗率を示すが、これは、図6から分かるように後者が低めの溶融粘度を有するからである。しかし、水を一時的に導入した組成物は、これが高分子量ナイロン6,6と同じ溶融粘度を有するにも関わらず、低めの電気伝導率を有している。従って、溶融混合中一時的に水を組成物中に導入することによって、組成物の他の有利な特性を維持しつつ電気抵抗率を低下させることができる。
【0058】
以上の実験から、ブレンド操作中の溶融粘度が低下した組成物は有利なことに低下した電気抵抗率を有することが分かる。この現象を利用して、組成物中のカーボンナノチューブの重量割合を低下させることにより、コストを下げると共に組成物の特性を改良することができる。組成物の異方性を低減することにより、特性の変動を低下させることができる。例えば、異方性がある場合、静電塗装中、塗面に斑点があるように見える。異方性を低減することにより、より滑らかな塗面を達成することができる。
【0059】
異方性を低減する際には、流れ方向に平行な方向での抵抗率と流れ方向に垂直な方向での抵抗率との比を、約0.15以上、好ましくは約0.25以上、好ましくは約0.5以上、さらに好ましくはほぼ1に等しくするのが好ましい。また、この比を、組成物の表面上の所与の点から約12平方インチ、好ましくは約10平方インチ以下、さらに好ましくは約5平方インチ以下の領域内で約0.25以上とするのが好ましい。さらに、組成物が約3wt%以下のカーボンナノチューブ、好ましくは約2wt%以下のカーボンナノチューブ、さらには約1wt%以下のカーボンナノチューブを含有するときに約0.25以上の比を有するのが望ましく、ここで重量%は組成物の総重量を基準にしている。
【0060】
本発明を代表的な実施形態に関して説明して来たが、当業者には了解されるように、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更をなすことができ、またその要素を等価物で置き換えることができる。加えて、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために本発明の本質的な範囲から逸脱することなく多くの修正をなすことができる。従って、本発明は、本発明を実施する上で考えられる最良の態様として開示した特定の実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲に入る全ての実施形態を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、低溶融粘度ポリカーボネート(PC5221)を高溶融粘度ポリカーボネート(PC135)とブレンドしたときの溶融粘度の低下のグラフ表示である。
【図2】図2は、10及び20wt%の低溶融粘度ポリカーボネート(PC5221)を含有するブレンドに対するバルク電気抵抗率の低下を示すグラフ表示である。
【図3】図3は、流れ方向に平行な抵抗率(ρ平行)及び流れ方向に垂直な抵抗率(ρ垂直)の測定法を示す概略図である。
【図4】図4は、流れ方向に平行な抵抗率と流れ方向に垂直な抵抗率との比の増加を低溶融粘度ポリカーボネート(PC5221)の重量%に対して示すグラフ表示である。
【図5】図5は、5wt%のレゾルシノールジホスフェート(RDP)を有するPBT試料に対するバルク電気抵抗率の低下のグラフ表示である。
【図6】図6は、異なるナイロン6,6試料に対する溶融粘度のグラフ表示である。
【図7】図7は、ステアリン酸カルシウム及び水で処理したナイロン6,6試料に対するバルク電気抵抗率の低下を示すグラフ表示である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー樹脂、カーボンナノチューブ及び可塑剤を、流れ方向に平行な方向での抵抗率と流れ方向に垂直な方向での抵抗率との比を約0.15以上に維持するのに有効な粘度でブレンドすることを含んでなる、組成物の製造方法。
【請求項2】
ポリマー樹脂が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のブレンドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリマー樹脂が、ポリアセタール、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、又はこれらのポリマー樹脂を1種以上含む組合せである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ポリマー樹脂が、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン/ナイロン、ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリアミド、ポリカーボネート/ポリエステル、又はポリフェニレンエーテル/ポリオレフィンである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、嵩高球(bulky ball)、又はこれらのカーボンナノチューブを1種以上含む組合せである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
組成物がさらに導電性充填材を含有しており、導電性充填材がカーボンブラック、導電性金属充填材、固体非金属導電性充填材、又はこれらの導電性充填材を1種以上含む組合せである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
可塑剤がポリマー樹脂を溶解することができる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
可塑剤がポリマー樹脂を部分的に溶解することができる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ブレンドすることが、ポリマー樹脂をそのガラス転移温度より高い温度、又はその融解温度より高い温度に加熱することを含んでいる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
さらに、組成物を射出成形することを含んでいる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
流れ方向に平行な方向での抵抗率と流れ方向に垂直な方向での抵抗率との比を約0.15以上に維持するのに有効な粘度が、ポリマー樹脂とカーボンナノチューブのみからなる組成物の粘度よりも約5%以上低い、請求項1記載の方法。
【請求項12】
流れ方向に平行な方向での抵抗率と流れ方向に垂直な方向での抵抗率との比を約0.15以上に維持するのに有効な粘度が、ポリマー樹脂とカーボンナノチューブのみからなる組成物の粘度よりも約10%以上低い、請求項1記載の方法。
【請求項13】
請求項1記載の方法で得られる物品。
【請求項14】
ポリフェニレンエーテル樹脂をポリアミド樹脂とブレンドしてメルトブレンドを形成し、
カーボンナノチューブを含むナイロンマスターバッチを上記メルトブレンドとブレンドし、
水を上記メルトブレンド中にブレンドし、
上記メルトブレンドから水を除去する
ことを含んでなる、組成物の製造方法。
【請求項15】
カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、嵩高球、又はこれらのカーボンナノチューブを1種以上含む組合せである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
組成物の、流れ方向に平行な方向での抵抗率と流れ方向に垂直な方向での抵抗率との比が約0.15以上である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
組成物の、流れ方向に平行な方向での抵抗率と流れ方向に垂直な方向での抵抗率との比が約0.25以上である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
さらに、組成物を射出成形することを含んでいる、請求項14記載の方法。
【請求項19】
請求項14記載の方法で得られる物品。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー樹脂、カーボンナノチューブ及び可塑剤を、流れ方向に平行な方向での抵抗率と流れ方向に垂直な方向での抵抗率との比を0.15以上に維持するのに有効な粘度でブレンドすることを含んでなる、組成物の製造方法。
【請求項2】
ポリマー樹脂が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のブレンドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリマー樹脂が、ポリアセタール、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、又はこれらのポリマー樹脂を1種以上含む組合せである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ポリマー樹脂が、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン/ナイロン、ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリアミド、ポリカーボネート/ポリエステル、又はポリフェニレンエーテル/ポリオレフィンである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、嵩高球(bulky ball)、又はこれらのカーボンナノチューブを1種以上含む組合せである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
組成物がさらに導電性充填材を含有しており、導電性充填材がカーボンブラック、導電性金属充填材、固体非金属導電性充填材、又はこれらの導電性充填材を1種以上含む組合せである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
可塑剤がポリマー樹脂を溶解することができる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
可塑剤がポリマー樹脂を部分的に溶解することができる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ブレンドすることが、ポリマー樹脂をそのガラス転移温度より高い温度、又はその融解温度より高い温度に加熱することを含んでいる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
さらに、組成物を射出成形することを含んでいる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
流れ方向に平行な方向での抵抗率と流れ方向に垂直な方向での抵抗率との比を0.15以上に維持するのに有効な粘度が、ポリマー樹脂とカーボンナノチューブのみからなる組成物の粘度よりも5%以上低い、請求項1記載の方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法で得られる物品。
【請求項13】
ポリフェニレンエーテル樹脂をポリアミド樹脂とブレンドしてメルトブレンドを形成し、
カーボンナノチューブを含むナイロンマスターバッチを上記メルトブレンドとブレンドし、
水を上記メルトブレンド中にブレンドし、
上記メルトブレンドから水を除去する
ことを含んでなる、組成物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−526685(P2006−526685A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509107(P2006−509107)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2004/020082
【国際公開番号】WO2005/048273
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】