説明

導電性組成物及び導電性フィルム

【課題】押出成形等によって安定的にフィルム成形することができ、かつ、高い靭性と高い導電性とを兼ね備えた導電性フィルムを与えうる導電性組成物を提供する。
【解決手段】(イ)ポリオレフィン系樹脂を1〜99質量部、(ロ)水添系熱可塑性エラストマーを99〜1質量部(但し、(イ)+(ロ)=100質量部)、及び、(ハ)導電性フィラーを1〜100質量部含み、かつ、体積固有抵抗値が10Ω・cm以下である導電性組成物。(ロ)水添系熱可塑性エラストマーの好適な例は、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を主体とする、少なくとも2つの重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物に由来する構成単位を主体とする、少なくとも1つの重合体ブロック(B)を含むブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物、及び該導電性組成物からなる導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等の様々な分野において、導電性フィルムが使用されている。
この導電性フィルムは、一般的には、ポリマー等にカーボン粒子や金属粒子などの導電性粒子を分散させてなるものであり、例えば、(i)熱可塑性エラストマーと、該熱可塑性エラストマー100重量部に対して(ii)導電性フィラー5〜100重量部とを含有してなり、フィルム面に垂直な方向における体積抵抗値が0.1〜5Ω・cmである導電性エラストマーフィルムが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】WO98/40435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の技術によると、導電性に優れたフィルムを得ることができる。しかし、特許文献1に記載の技術は、液状の材料を用いて成形するものであるため、キャスト法等によるフィルム成形に適したものであり、Tダイ成形機等の押出成形機による成形には適さないという問題がある。押出成形によっても安定的にフィルム成形することができれば、高い生産性でフィルムを製造することができ、好都合である。
一方、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂と導電性フィラーとからなる材料は、押出成形が可能であるものの、靭性が低いため、電子部品等における用途が狭く限定されるという問題がある。特に、高い導電性を得るために導電性フィラーの配合割合を高めた場合、靭性が低下する。
そこで、本発明は、押出成形等によって安定的にフィルム成形することができ、かつ、高い靭性と高い導電性とを兼ね備えた導電性フィルムを与えうる導電性組成物、及び導電性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリオレフィン系樹脂、水添系熱可塑性エラストマー、及び導電性フィラーを特定の割合で含む組成物によれば、本発明の上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1] (イ)ポリオレフィン系樹脂を1〜99質量部、(ロ)水添系熱可塑性エラストマーを99〜1質量部(但し、(イ)+(ロ)=100質量部)、及び、(ハ)導電性フィラーを1〜100質量部含み、かつ、体積固有抵抗値が10Ω・cm以下であることを特徴とする導電性組成物。
[2] 上記(ロ)成分が、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を主体とする、少なくとも2つの重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物に由来する構成単位を主体とする、少なくとも1つの重合体ブロック(B)を含むブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体であり、
(1)上記少なくとも2つの重合体ブロック(A)と、上記少なくとも1つの重合体ブロック(B)との質量比((A)/(B))が、5/95〜45/55であり、
(2)上記少なくとも1つの重合体ブロック(B)の各々において、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の含有率が0〜45質量%、共役ジエン化合物に由来する構成単位の含有率が55〜100質量%であり、
(3)上記少なくとも1つの重合体ブロック(B)の全体におけるビニル結合含量が60%以上であり、
(4)上記(ロ)成分のポリスチレン換算の重量平均分子量が5〜50万であり、
(5)上記(ロ)成分の水添率が80%以上であり、
(6)上記(ロ)成分の、230℃、21.2N荷重の条件下で測定したメルトフローレートが1〜100g/10分である、
の条件をすべて満たす上記[1]に記載の導電性組成物。
[3] 上記(ハ)成分が、導電性カーボンブラック又は炭素繊維である上記[1]又は[2]に記載の導電性組成物。
[4] 上記[1]〜[3]のいずれかに記載の導電性組成物からなる導電性フィルム。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性組成物からなる導電性フィルムは、押出成形等によって安定的にフィルム成形することができ、かつ、高い靭性と高い導電性とを兼ね備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の導電性組成物は、(イ)〜(ハ)成分を必須成分として含み、必要に応じて他の任意成分を含む。
以下、各成分ごとに説明する。
[(イ)成分]
本発明の導電性組成物に用いる(イ)成分は、ポリオレフィン系樹脂である。
ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1等のα−オレフィン単独重合体やこれらの共重合体が挙げられ、例えば、高密度、中密度、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体等のポリエチレン類、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体あるいはランダム重合体、プロピレン−エチレン−ジエン化合物共重合体等のポリプロピレン類、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1等が挙げられる。中でも、結晶性のポリエチレン及び結晶性ポリプロピレンが好ましく、特に結晶性ポリプロピレンが好ましい。
これらのポリオレフィン系樹脂は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0008】
(イ)ポリオレフィン系樹脂は、そのメルトフローレート(MFR)が0.01〜300g/10分であることが好ましく、0.1〜100g/10分であることがより好ましい。MFRが0.01g/10分未満であると、導電性組成物の流動性が低く、押出成形等が不十分となる傾向にあり、好ましくない。一方、MFRが300g/10分を超えると、導電性組成物の強度が低下する傾向にあり、好ましくない。なお、ここでの「メルトフローレート」は、ASTM−D1238に記載の方法に準拠して、190℃、21.2N荷重下で測定されたメルトフローレートを意味する。
また、(イ)ポリオレフィン系樹脂は、下記の官能基群Xから選択される少なくとも1種の官能基が導入された重合体であってもよい。官能基が導入されることで、本発明の導電性フィルムと、本発明の導電性フィルムの上下に配設される、ガラスや金属等からなる保護材との接着性が向上する傾向にある。
ここで、官能基群Xとは、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、アルコキシシリル基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、及びオキサゾリン基である。
【0009】
[(ロ)成分]
本発明の導電性組成物に用いる(ロ)成分は、水添系熱可塑性エラストマーである。
(ロ)水添系熱可塑性エラストマーの好適な例としては、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を主体とする、少なくとも2つの重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物に由来する構成単位を主体とする、少なくとも1つの重合体ブロック(B)を含むブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体であって、
(1)上記少なくとも2つの重合体ブロック(A)と、上記少なくとも1つの重合体ブロック(B)との質量比((A)/(B))が、5/95〜45/55であり、
(2)上記少なくとも1つの重合体ブロック(B)の各々において、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の含有率が0〜45質量%、共役ジエン化合物に由来する構成単位の含有率が55〜100質量%であり、
(3)上記少なくとも1つの重合体ブロック(B)の全体におけるビニル結合含量が60%以上であり、
(4)上記(ロ)成分のポリスチレン換算の重量平均分子量が5〜50万であり、
(5)上記(ロ)成分の水添率が80%以上であり、
(6)上記(ロ)成分の、230℃、21.2N荷重の条件下で測定されるメルトフローレートが1〜100g/10分である、
の条件をすべて満たす水添ブロック共重合体が挙げられる。
なお、前記の(1)〜(3)の条件は、水添前の条件である。前記の(4)〜(6)の条件は、水添後の条件である。
重合体ブロック(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を主体とする重合体ブロックである。
重合体ブロック(A)を形成するための単量体として用いられる芳香族ビニル化合物としては、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
重合体ブロック(A)は、好ましくは、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位のみからなる重合体ブロックである。
【0010】
重合体ブロック(B)は、共役ジエン化合物に由来する構成単位を主体とする重合体ブロックである。
重合体ブロック(B)中の共役ジエン化合物に由来する構成単位の割合は、55〜100質量%、好ましくは65〜100質量%、より好ましくは75〜100質量%、特に好ましくは85〜100質量%である。該割合が55質量%未満では導電性フィルムの靭性が低下する。
重合体ブロック(B)中の芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の割合は、0〜45質量%、好ましくは0〜35質量%、より好ましくは0〜25質量%、特に好ましくは0〜15質量%である。
重合体ブロック(B)を形成するための単量体として用いられる共役ジエン化合物としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4.5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレンなどが挙げられる。中でも、水添系熱可塑性エラストマーの物性等の観点から、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
芳香族ビニル化合物の例は、上述の重合体ブロック(A)の場合と同様である。
【0011】
少なくとも1つの重合体ブロック(B)の全体における共役ジエン部分(例えば、2つの重合体ブロック(B)の合計の共役ジエン部分)のビニル結合含量(質量割合)は、60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上である。該含量が60%未満では、導電性フィルムの靭性が低下する。なお、「ビニル結合」とは、共役ジエン化合物が1,2−結合もしくは3,4−結合位の二重結合で重合したモノマーユニットを示す。
少なくとも1つの重合体ブロック(B)の各々における共役ジエン部分のビニル結合含量も、前記の重合体ブロック(B)の全体における共役ジエン部分のビニル結合含量の数値範囲と同様であることが好ましい。
【0012】
上述の重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とを含む水添前ブロック共重合体を、水素添加することにより、(ロ)水添ブロック共重合体を得ることができる。
水添前ブロック共重合体は、例えば、A−B−A、A−[B−A]、[A−B](ここで、Aは、重合体ブロック(A)、Bは重合体ブロック(B)、nは1以上の整数を表す。)等で表される構造を有する。なお、前記の式中のnの上限は特に限定されないが、通常、5である。
水添前ブロック共重合体における、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)との質量比(重合体ブロック(A)/重合体ブロック(B))は、5/95〜45/55、好ましくは5/95〜40/60、より好ましくは5/95〜35/65、特に好ましくは10/90〜25/75である。該質量比が上記範囲外であると、押出成形等に適した粘度が得られず、生産性が低下したり、導電性フィルムの靭性が低下したりするなどの問題が生じうる。
【0013】
(ロ)水添ブロック共重合体における共役ジエン部分の二重結合の水素添加率は、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。水素添加率が80%未満では、導電性組成物の靭性、耐熱性、耐候性、耐オゾン性などが低下する。
(ロ)水添ブロック共重合体のポリスチレン換算の重量平均分子量は、5万〜50万、好ましくは5万〜45万、より好ましくは5万〜40万である。上記重量平均分子量が5万未満であると、靭性に優れた導電性フィルムを得ることができず、一方、50万を超えると、導電性組成物の流動性が低下し、導電性フィルムを製造する際の成形性が低下する。
また、(ロ)水添ブロック共重合体の、230℃、21.2Nの荷重の条件下で測定したメルトフローレート(MFR)は、1〜100g/10分、好ましくは1〜80g/10分、より好ましくは1〜60g/10分、特に好ましくは1〜45g/10分である。メルトフローレートが1g/10分未満であると、導電性組成物の流動性が低く、押出成形等が不十分となる傾向にあり、好ましくない。メルトフローレートが100g/10分を超えると、導電性組成物の強度が低下する傾向にあり、好ましくない。
また、(ロ)水添ブロック共重合体は、下記の官能基群Xから選択される少なくとも1種の官能基が導入された重合体であってもよい。官能基が導入されることで、本発明の導電性フィルムと、本発明の導電性フィルムの上下に配設される、ガラスや金属等からなる保護材との接着性が向上する傾向にある。
ここで、官能基群Xとは、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、アルコキシシリル基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、及びオキサゾリン基である。
【0014】
(ロ)水添ブロック共重合体の具体的な製造方法としては、重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)とを、有機溶媒中で有機アルカリ金属化合物を開始剤としてリビングアニオン重合し、ブロック共重合体(水添前ブロック共重合体)を得たのち、さらにこのブロック共重合体に水素添加を行う方法が挙げられる。
上記有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、キシレンなどの炭化水素溶媒が用いられる。
重合開始剤である有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物が好ましい。この有機リチウム化合物としては、有機モノリチウム化合物、有機ジリチウム化合物、有機ポリリチウム化合物が用いられる。これらの具体例としては、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、ブタジエニルリチウム、イソプレニルジリチウムなどが挙げられ、単量体100質量部当たり0.02〜0.2質量部の量で用いられる。
また、この際、ミクロ構造、すなわち共役ジエン部分のビニル結合含量の調節剤として、エーテル、アミンなどのルイス塩基、具体的には、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル、ブチルエーテル、高級エーテル、またはエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのポリエチレングリコールのエーテル誘導体、アミンとしてはテトラメチルエチレンジアミン、ピリジン、トリブチルアミンなどの第3級アミンなどが挙げられ、上記有機溶媒とともに用いられる。
さらに、重合反応は、通常、−30℃〜150℃で実施される。
また、重合は、一定温度にコントロールして実施しても、また熱除去をしないで上昇温度下にて実施してもよい。
【0015】
このようにして得られる水添前ブロック共重合体は、カップリング剤を添加することにより、重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体であってもよい。
この際のカップリング剤としては、例えば、アジピン酸ジエチル、ジビニルベンゼン、テトラクロロケイ素、ブチルトリクロロケイ素、テトラクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、ジメチルクロロケイ素、テトラクロロゲルマニウム、1,2−ジブロムエタン、1,4−クロルメチルベンゼン、ビス(トリクロルシリル)エタン、エポキシ化アマニ油、トリレンジイソシアネート、1,2,4−ベンゼントリイソシアネートなどが挙げられる。
このブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物の結合含量は、各段階における重合時のモノマーの供給量で調節され、共役ジエン化合物のビニル結合含量は、前記ミクロ調整剤の成分を変量することにより調節される。さらに、重量平均分子量、メルトフローレートは、重合開始剤、例えばn−ブチルリチウムの添加量で調節される。
【0016】
水添ブロック共重合体は、水添前ブロック共重合体を不活性溶媒中に溶解し、20〜150℃、1〜100kg/cmの加圧水素下で水素化触媒の存在下で水素添加することによって得られる。
水素化に使用される不活性溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンなどの炭化水素溶媒、またはメチルエチルケトン、酢酸エチル、エチルエーテル、テトラヒドロフランなどの極性溶媒が挙げられる。
また、水素化触媒としては、ジシクロペンタジエニルチタンハライド、有機カルボン酸ニッケル、有機カルボン酸ニッケルと周期律表第I〜III族の有機金属化合物からなる水素化触媒、カーボン、シリカ、ケイソウ土などで担持されたニッケル、白金、パラジウム、ルテニウム、レニウム、ロジウム金属触媒やコバルト、ニッケル、ロジウム、ルテニウム錯体、あるいはリチウムアルミニウムハイドライド、p−トルエンスルホニルヒドラジド、さらにはZr−Ti−Fe−V−Cr合金、Zr−Ti−Nb−Fe−V−Cr合金、LaNi合金などの水素貯蔵合金などが挙げられる。
水添ブロック共重合体の重合体ブロック(B)の共役ジエン部分の二重結合の水添率は、水素化触媒、水素化化合物の添加量、または水素添加反応時における水素圧力、反応時間を変えることにより調節される。
水素化されたブロック共重合体溶液からは、触媒の残渣を除去し、フェノール系またはアミノ系の老化防止剤を添加し、重合体溶液から水添ブロック共重合体を容易に単離することができる。
水添ブロック共重合体の単離は、例えば共重合体溶液に、アセトンまたはアルコールなどを加えて沈澱させる方法、重合体溶液を熱湯中に攪拌し、投入し溶媒を蒸留除去する方法などで行うことができる。
【0017】
[(ハ)成分]
本発明の導電性組成物に用いられる(ハ)成分は、導電性フィラーである。
導電性フィラーとしては、導電性カーボンブラック、炭素繊維、金属粉末、金属酸化物粉末等が挙げられるが、好ましくは導電性カーボンブラック又は炭素繊維である。
[他の任意成分]
本発明の導電性組成物に用いられる他の任意成分としては、パラフィン系オイルや液状の低分子量ポリオレフィン等の液状添加剤を挙げることができる。該液状添加剤を添加することによって、加工性を向上させることができる。
また、導電性や靭性、柔軟性を阻害しない範囲内の量であれば、各種の他の添加剤を添加することもできる。このような添加剤としては、酸化防止剤、耐候剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ブリード・ブルーム防止剤、シール性改良材、結晶核剤性、難燃化剤、防菌・防かび剤、分散剤、軟化剤、着色防止剤、有機繊維、複合繊維、無機ウィスカー、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、ケイソウ土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、ポリマービーズ等の充填剤、若しくはこれらの混合物、又は他のゴム質重合体を挙げることができる。他のゴム質重合体の具体例としては、SBR、NBR、BR、NR、IR、1,2−ポリブタジエン、AR、CR、IIR等を挙げることができる。
【0018】
本発明の導電性組成物は、上記(イ)〜(ハ)成分を、溶融混練りすることにより得ることができる。溶融混練には、加圧ニーダー混練り機、バンバリーミキサー等を用いることができる。さらに、溶融混練後にフィーダールーダー等を用いてペレット化することができる。ペレット化することにより、フィルムを得る際の作業性等を向上させることができる。
または、上記(イ)〜(ハ)成分を材料として用い、かつ、溶融混練等の手段として一軸押出し機、二軸押出し機等を用いて、溶融混練とペレット化を一括して行うこともできる。
得られる導電性組成物は、(イ)ポリオレフィン系樹脂を1〜99質量部、(ロ)水添系熱可塑性エラストマーを99〜1質量部(ただし、(イ)+(ロ)は100質量部である。)、(ハ)導電性フィラーを1〜100質量部、の各配合量で含むものである。
(イ)ポリオレフィン系樹脂の配合量は、(イ)成分と(ロ)成分との合計100質量部中、1〜99質量部、好ましくは5〜95質量部、より好ましくは15〜90質量部、特に好ましくは30〜85質量部である。
(イ)成分の配合量が1質量部未満では、押出成形等に適した組成物が得られ難い。
(イ)成分の配合量が99質量部を超えると、靭性に優れた組成物が得られ難い。
(ハ)導電性フィラーの配合量は、(イ)成分と(ロ)成分との合計100質量部に対して、1〜100質量部、好ましくは3〜80質量部、より好ましくは5〜70質量部である。該配合量が1質量部未満であると、所望の導電性を得ることができず、一方、100質量部を超えると、押出成形性が悪化し、導電性フィルムの靭性が低下する。
【0019】
[導電性フィルム]
本発明の導電性フィルムは、上記導電性組成物からなるフィルムである。
導電性フィルムは、例えば、上記導電性組成物からなるペレットを、押出機等にて溶融した後、フィルム引取り装置等を用いてフィルムとすることにより得られる。上記押出機としては、例えば、Tダイフィルム成形用押出機、インフレーション成形用押出機等を用いることができる。または、上記導電性組成物からなるペレットを、高温ロール等にて溶融、圧延した後、フィルム引取り装置等を用いてフィルムとすることにより得られる。上記高温ロールとしては、例えば、カレンダーロール、ロールプレス機等を用いることができる。
導電性フィルムの厚さは、特に限定されないが、例えば、10〜200μmである。
導電性フィルムの体積固有抵抗値(電気抵抗率)は、1×10Ω・cm以下、好ましくは1×10Ω・cm以下、より好ましくは1×10Ω・cm以下である。該値が1×10Ω・cm以下であると、高い導電性を得ることができる。
なお、「a×10Ω・cm」を以下、「aE+0b」と表記することがある。
【実施例】
【0020】
以下に本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。
【0021】
[水添ブロック共重合体の製造]
下記に示す方法で、導電性組成物に用いる水添ブロック共重合体((ロ)成分)を製造した。
(製造例1)
内容積50リットルのオートクレーブに、脱気・脱水したシクロヘキサン25kg、スチレン450gを仕込んだ後、テトラヒドロフラン300g、及びn−ブチルリチウム4.0gを加え、50℃からの断熱重合を20分行った。反応液を20℃とした後、1,3−ブタジエン4250gを加え断熱重合を行った。転化率がほぼ100%になった後、更にスチレン300gを加え重合を行い、A−B−A(ここで、Aはスチレンの単独重合体ブロック、Bはブタジエンの単独重合体ブロックを示す。)の構造を有するブロック共重合体得た。
次いで、水素ガスを0.4MPa−Gの圧力で供給し、20分間撹拌し、リビングアニオンとして生きているポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。反応溶液を90℃にし、テトラクロロシラン(1.6g)を添加し、約20分間撹拌した後、チタノセン化合物を使用して水添反応を行って、水添ブロック共重合体(ロー1)を得た。
(製造例2)
単量体等の配合量を適宜変更したこと以外、製造例1と同様にして、A−B−A(ここで、Aはスチレンの単独重合体ブロック、Bはブタジエンとスチレンの共重合体ブロックを示す。)の構造を有するブロック共重合体を得た。次いで、製造例1と同様にして、水素添加を行い、水添ブロック共重合体(ロ−2)を得た。
(製造例3)
単量体等の配合量を適宜変更したこと以外、製造例1と同様にして、A−B−A(ここで、Aはスチレンの単独重合体ブロック、Bはブタジエンの単独重合体ブロックを示す。)の構造を有するブロック共重合体を得た。次いで、製造例1と同様にして、水素添加を行い、水添ブロック共重合体(ロ−3)を得た。
【0022】
なお、得られた水添ブロック共重合体(ロ−1)〜(ロ−3)、又はその水添前ブロック共重合体の物性を表1にまとめて示す。共重合体の物性の評価は下記の方法によるものである。
(1)重合体ブロックAと重合体ブロックBの質量比(表1中の「A/B比」)
共重合体を製造するときの原料の仕込み量から、以下の式を用いて算出した。
[A/B比]=(重合体ブロック(A)の仕込合計量)/(重合体ブロック(B)の仕込合計量)
(2)全芳香族ビニル化合物単位含有量(表1中の「全結合スチレン含量」)
四塩化炭素溶液を用い、270MHz、H−NMRスペクトルから算出した。
(3)重合体ブロックB中のビニル結合含量(表1中の「(B)ブロック中のビニル結合含量」)
ビニル結合(1,2−結合及び3,4−結合)含量は、赤外分析法を用い、ハンプトン法により算出した。
(4)重合体ブロックB中の芳香族ビニル化合物の含有量(表1中の「(B)ブロック中のスチレン含量」)
共重合体を製造するときの原料の仕込み量から、以下の式を用いて算出した。
[Bブロック中のスチレン含量(質量%)]=(重合体ブロック(B)に含有される芳香族ビニル化合物の仕込合計量)/(重合体ブロック(B)全体の仕込合計量)×100
(5)水添ブロック共重合体の重量平均分子量(表1中の「重量平均分子量」)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(室温GPC、カラム:東ソー社製、GMH−XL)を用いて、ポリスチレン換算で求めた。
(6)水素添加率
共役ジエン化合物単位の水素添加率を、四塩化炭素溶液を用い、270MHz、H−NMRスペクトルから算出した。
(7)水添ブロック共重合体のメルトフローレート(表1中の「MFR」)
JIS K7210に準拠して、230℃、21.2N荷重の条件下で測定した。
【0023】
【表1】

【0024】
[実施例1〜5、比較例1〜5]
各成分を表2に示す割合で加圧ニーダー混練り機に配合し、溶融混練りし、さらに、フィーダールーダーにてペレットとした。次いで、得られたペレットを、Tダイフィルム成形用押出機で溶融後、フィルム引取り装置にて導電性フィルムを得た。得られたフィルムについて、靭性、体積固有抵抗値を下記の方法により評価した。結果を合わせて表2に示す。
(評価方法)
(靭性)
90°折り曲げ試験にて、下記の評価方法により判定した。
◎:靭性が良好であり、割れることがなく、また応力緩和することがない。
○:靭性に問題なく、割れることはないが、若干の応力緩和がある。
△: 殆ど靭性に問題はないが、折れ曲ることがある。
×:靭性が悪く、直ぐに割れる。
(体積固有抵抗値)
三菱化学社製ロレスターを用いて、体積固有抵抗値を測定した。
【0025】
【表2】

【0026】
表2から、本発明の組成物によると、押出成形での製造に適しており、高い導電性(低体積固有抵抗値)と高い靭性とを兼ね備えたフィルムが得られることがわかる。一方、(ロ)成分を含まない比較例1、(ロ)成分の代わりにエチレン・プロピレン系エラストマー、又はエチレン・オクテン系エラストマーを用いた比較例3〜5では、いずれも、フィルムの靭性に劣ることがわかる。また、(B)ブロック中のビニル結合含量が本発明の範囲外である水添ブロック共重合体を用いた比較例2でも、フィルムの靭性に劣ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)ポリオレフィン系樹脂を1〜99質量部、(ロ)水添系熱可塑性エラストマーを99〜1質量部(但し、(イ)+(ロ)=100質量部)、及び、(ハ)導電性フィラーを1〜100質量部含み、かつ、体積固有抵抗値が10Ω・cm以下であることを特徴とする導電性組成物。
【請求項2】
上記(ロ)成分が、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を主体とする、少なくとも2つの重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物に由来する構成単位を主体とする、少なくとも1つの重合体ブロック(B)を含むブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体であり、
(1)上記少なくとも2つの重合体ブロック(A)と、上記少なくとも1つの重合体ブロック(B)との質量比((A)/(B))が、5/95〜45/55であり、
(2)上記少なくとも1つの重合体ブロック(B)の各々において、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の含有率が0〜45質量%、共役ジエン化合物に由来する構成単位の含有率が55〜100質量%であり、
(3)上記少なくとも1つの重合体ブロック(B)の全体におけるビニル結合含量が60%以上であり、
(4)上記(ロ)成分のポリスチレン換算の重量平均分子量が5〜50万であり、
(5)上記(ロ)成分の水添率が80%以上であり、
(6)上記(ロ)成分の、230℃、21.2N荷重の条件下で測定したメルトフローレートが1〜100g/10分である、
の条件をすべて満たす請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
上記(ハ)成分が、導電性カーボンブラック又は炭素繊維である請求項1又は2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性組成物からなる導電性フィルム。

【公開番号】特開2010−150435(P2010−150435A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331631(P2008−331631)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】