説明

導電性組成物

【課題】導電性高分子の含有量が少ないにも拘らず高い導電性を示す導電体が得られる導電性組成物を提供する。
【解決手段】スルホン酸基および/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマー(A)と、前記水溶性導電性ポリマー(A)以外の水溶性高分子化合物および/または水分散性高分子化合物(B)と、体積固有抵抗が10Ω・cm以上のナノファイバー(C)と、水性媒体(D)を含有する導電性組成物。ナノファイバー(C)はセルロースナノファイバー又はキチンナノファイバーであることが好ましい。セルロースナノファイバー又はキチンナノファイバーは、30〜245MPaの高圧噴射処理により製造されたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の包装材料、帯電防止フィルム、ICキャリアテープ等には、電子部品等に影響を及ぼす静電気を蓄えない帯電防止性能が求められており、帯電防止性を付与した基材が一般的に用いられている。基材に帯電防止性を付与する方法としては、従来、基材樹脂にカーボンや金属等の各種導電性のフィラーを練りこむ方法や、界面活性剤を基材表面に塗布する方法等が知られている。
しかし、導電性のフィラーを練り込む方法においては、帯電防止性能を発現させるために、フィラーを基材100質量部に対して10〜30質量部程度練り込む必要がある。そのため、着色により美装性が悪化する問題や、クリーンルーム等で使用される場合にはフィラーの滑落等によりクリーン環境を汚染してしまう等の問題がある。また、界面活性剤を基材表面に塗布する方法においては、美装性の悪化、滑落などの問題は生じにくいが、使用環境により導電性が変化し、特に低湿度の環境では導電性が大きく低下し帯電防止性能が低下するという問題がある。
【0003】
そこで、湿度等の環境による導電性能の変化が生じにくい導電性ポリマーからなる導電性膜を基材表面に形成する方法(例えば特許文献1〜3等)が提案されている。しかしながら、導電性ポリマーからなる導電性膜を基材表面に形成する方法においては、導電性ポリマー自身の着色の為、基材の色調に影響を与えてしまうという問題がある。
このような問題に対し、特許文献4には、少ない導電性ポリマーの添加量でも高い導電性を発現して高い透明性と充分な帯電防止性能が得られる導電性組成物として、スルホン酸基および/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーと、水溶性バインダー樹脂と、樹脂粒子および/または無機粒子からなる水分散性粒子と、水性媒体とを含有する導電性組成物が開示されている。また、導電性膜の形成方法として、導電性材料であるカーボンナノチューブを用いる方法も提案されている。特許文献5には、カーボンナノチューブの特性を損なうことなく溶媒への分散性または溶解性を高めるために、導電性ポリマーを共存させることが開示されている。
【0004】
一方、樹脂中に繊維状強化材を配合することでその強度及び剛性を向上させた繊維強化複合材料は、各種産業分野で幅広く用いられている。繊維状強化材としては、従来、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維や、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維が用いられている。一方、近年、バイオマス材料への期待の高まりから、セルロース繊維、特に直径がナノメートルオーダーであるセルロースナノファイバーに関する研究が盛んにされており、繊維状強化材としてセルロースナノファイバーを用いることも提案されている(例えば特許文献6等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−196791号公報
【特許文献2】特開平7−324132号公報
【特許文献3】特開平8−41320号公報
【特許文献4】特開2010−18673号公報
【特許文献5】特開2011−6598号公報
【特許文献6】特開2005−336341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4に記載の導電性組成物においては、水分散性粒子が、水溶性導電性ポリマーを有する導電体の導電性を効率的に高める導電補助剤として働き、少ない導電性ポリマーの添加量によって高い導電性が発現するとされている。しかしその導電性には未だ改善の余地がある。また、特許文献5に記載の導電性組成物においては、導電性材料であるカーボンナノチューブが滑落した場合、特に電子部品の包装材料等へ適用した場合、電子部品のショートによるトラブルの原因となるおそれがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、少ない含有量で高い導電性を示す導電体が得られる導電性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々の検討の結果、意外にも、絶縁性のナノファイバーが、スルホン酸基および/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーを有する導電体の導電性を効率的に高める導電補助剤として機能することを見出した。なお、絶縁性のナノファイバーについてこのような検討結果はこれまで報告されていない。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、以下の[1]〜[3]の態様を有する。
[1]スルホン酸基および/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマー(A)と、前記水溶性導電性ポリマー(A)以外の水溶性高分子化合物および/または水分散性高分子化合物(B)と、体積固有抵抗が10Ω・cm以上のナノファイバー(C)と、水性媒体(D)を含有する導電性組成物。
[2]前記ナノファイバー(C)が、セルロースナノファイバー又はキチンナノファイバーである、前記[1]に記載の導電性組成物。
[3]前記セルロースナノファイバー又はキチンナノファイバーが、30〜245MPaの高圧噴射処理により製造されたものである、前記[2]に記載の導電性組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、少ない含有量で高い導電性を示す導電体が得られる導電性組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】セルロースナノファイバーの製造に用いられる高圧噴射処理方法の一実施形態の概略説明図である。
【図2】実施例1〜6(比較例1)について、X軸に成分(C)の導電膜中の配合量(質量%)、Y軸に得られた導電体の表面抵抗値(Ω)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の導電性組成物は、以下の成分(A)〜(D)を必須成分として含有する。この導電性組成物を所定の形状とし、成分(D)を除去することによって導電体を製造することができる。またこの導電性組成物を基材上に塗工して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥することによって導電膜を製造することができる。
【0011】
<成分(A)>
成分(A)は、スルホン酸基および/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーである。成分(A)における「水溶性」とは、25℃の水100gに水溶性導電性ポリマーが0.1g以上均一に溶解することを意味する。「導電性ポリマー」とは、体積固有抵抗が10Ω・cm以下であるπ共役系の電子伝導性のポリマーを意味する。
成分(A)は、スルホン酸基(−SOH)および/またはカルボキシル基(−COOH)を有する。成分(A)において、スルホン酸基、カルボキシル基は、それぞれ、酸の状態(−SOH、−COOH)で含まれていてもよく、イオンの状態(−SO、−COO)で含まれていてもよい。成分(A)としては、水溶性導電性ポリマーとして公知のものの中からスルホン酸基および/またはカルボキシル基を有するものを適宜選択して用いることができる。
本発明においては、特に、成分(A)が、下記式(1)〜(3)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位(以下、繰り返し単位(a1)という。)を有するものであることが好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
式(1)中、R〜Rは、各々独立に、−H、−SO、−SOH、−R11SO、−R11SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R12、−NHCOR12、−OH、−O、−SR12、−OR12、−OCOR12、−NO、−COOH、−R11COOH、−COOR12、−COR12、−CHOまたは−CNである。R11は、炭素数1〜24のアルキレン基、炭素数1〜24のアリーレン基または炭素数1〜24のアラルキレン基であり、R12は、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数1〜24のアリール基または炭素数1〜24のアラルキル基である。RおよびRのうちの少なくとも一つは、−SO、−SOH、−R11SO、−R11SOH、−COOHまたは−R11COOHである。
【0014】
【化2】

【0015】
式(2)中、R〜Rは、各々独立に、−H、−SO、−SOH、−R11SO、−R11SOH、−OCH、−CH、−C、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R12、−NHCOR12、−OH、−O、−SR12、−OR12、−OCOR12、−NO、−COOH、−R11COOH、−COOR12、−COR12、−CHOまたは−CNである。R11は、炭素数1〜24のアルキレン基、炭素数1〜24のアリーレン基または炭素数1〜24のアラルキレン基であり、R12は、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数1〜24のアリール基または炭素数1〜24のアラルキル基である。R〜Rのうちの少なくとも一つは、−SO、−SOH、−R11SO、−R11SOH、−COOHまたは−R11COOHである。
【0016】
【化3】

【0017】
式(3)中、R〜R10は、各々独立に、−H、炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルコキシル基、−SOまたは−SOHであり、R〜R10のうちの少なくとも一つは、−SOまたは−SOHである。
製造が容易な点では、R〜R10のうち、いずれか一つが炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルコキシル基であり、他のいずれか一つが−SOまたは−SOHであり、残りが−Hであるものが好ましい。
【0018】
成分(A)中、繰り返し単位(a1)の割合は、当該成分(A)を構成する全繰り返し単位(100モル%)のうち、20〜100モル%が好ましく、50〜100モル%がより好ましく、100モル%が特に好ましい。成分(A)は、1分子中に、繰り返し単位(a1)を10以上有することが好ましい。
成分(A)の質量平均分子量は、5000〜1000000が好ましく、5000〜20000がより好ましい。成分(A)の質量平均分子量が5000以上であれば、成分(A)は導電性及び成膜性に優れ、本発明の導電性組成物から製造される導電体は導電性及び膜強度に優れる。成分(A)の質量平均分子量が1000000以下であれば、成分(A)は水性媒体(D)への溶解性に優れる。尚、成分(A)の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される質量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)である。
本発明の導電性組成物に含まれる成分(A)は1種単独でも2種以上でもよい。
【0019】
<成分(B)>
成分(B)は、前記水溶性導電性ポリマー(A)以外の水溶性高分子化合物および/または水分散性高分子化合物である。成分(B)は、バインダーとして機能する成分であって、例えば、塗膜に形態保持性を付与する役割を有する。ここで「水溶性高分子化合物」とは、25℃の水100gに0.1g以上均一に溶解する高分子化合物を意味する。「水分散性高分子化合物」とは、25℃の水中で、エマルジョンまたはコロイド状等の粒子性を保った状態で分散する高分子化合物を意味する。
成分(B)としては、特に限定されず、公知のものが利用できる。たとえば水溶性導電性ポリマー(A)以外の水溶性高分子化合物の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール等のポリビニルアルコール類;ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸等のポリアクリルアミド類;トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム等のトリポリリン酸類;ポリビニルピロリドン類;水溶性アルキッド樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性尿素樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ポリブタジエン樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ウレタン樹脂、水溶性アクリル/スチレン共重合樹脂、水溶性酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性スチレン/マレイン酸共重合樹脂、水溶性フッ素樹脂等が挙げられる。
水分散性高分子化合物の具体例としては、水分散性アルキッド樹脂、水分散性メラミン樹脂、水分散性尿素樹脂、水分散性フェノール樹脂、水分散性エポキシ樹脂、水分散性ポリブタジエン樹脂、水分散性アクリル樹脂、水分散性ウレタン樹脂、水分散性アクリル/スチレン共重合樹脂、水分散性酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、水分散性ポリエステル樹脂、水分散性スチレン/マレイン酸共重合樹脂、水分散性フッ素樹脂、水分散性塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
本発明の導電性組成物に含まれる成分(B)は1種単独でも2種以上でもよい。
【0020】
<成分(C)>
成分(C)は、体積固有抵抗が10Ω・cm以上の絶縁性のナノファイバーである。成分(C)は、成分(A)の導電補助剤として機能する。
本発明において、ナノファイバーとは、直径(幅)が1〜100nmであり、長さが直径の20倍以上であるファイバー状物質と定義される。成分(C)の平均直径は、10〜100nmが好ましく、10〜50nmがより好ましく、10〜40nmがさらに好ましく、15〜25nmが特に好ましく、20nm程度が最も好ましい。成分(C)の平均直径が小さいほど、塗膜の透明性が優れることから好ましく、解繊処理の回数や時間等の観点からは平均直径が大きいものが好ましい。成分(C)の平均長さは、直径の20〜100000倍が好ましく、50〜10000倍がより好ましい。ナノファイバーの直径および長さは、FE−SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)画像の観察により求められる。
成分(C)の体積固有抵抗は、10Ω・cm以上が好ましく、1010Ω・cm以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、導電性発現の点では1018Ω・cm以下が好ましい。成分(C)の体積固有抵抗は、10Ω・cm未満である場合は四探針法(三菱化学(株)製Loresta HP MCP−T610)により測定することができ、10Ω・cm以上である場合は絶縁抵抗計(アドバンテスト社製 高抵抗計R8340)等により測定することができる。
成分(C)の材質としては、体積固有抵抗が10Ω・cm以上となるような絶縁性材料であれば特に限定されず、例えば天然繊維由来のもの、化学繊維由来のもの等を用いることができる。天然繊維または化学繊維として具体的には、木綿、石綿、絹、セルロース、キチン、キトサン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ尿素、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ガラス等の材料からなる各種の繊維類が挙げられる。
【0021】
成分(C)としては、製造上の適性から、セルロースナノファイバー又はキチンナノファイバーが好ましい。セルロースナノファイバーは、セルロース繊維を解繊したものであり、セルロース繊維としては、植物由来のパルプ、木材、コットン、麻、竹、綿、ケナフ、ヘンプ、ジュート、バナナ、ココナツ、海草、お茶葉等の植物繊維から分離した繊維;海産動物であるホヤが産生する動物繊維から分離した繊維;酢酸菌より産生させたバクテリアセルロース;等が挙げられる。これらの中でも、植物繊維から分離した天然セルロース繊維が好ましく、パルプまたはコットンから分離した天然セルロース繊維がより好ましい。天然セルロース繊維は、幅4〜20nmの結晶性ミクロフィブリルが複数集合して成る。これを化学的又は物理的に精製し、解繊することでセルロースナノファイバーを得ることができる。
キチンナノファイバーは、キチン繊維を解繊したものであり、キチン繊維としては、カニ、エビ等の甲殻類や昆虫等の殻、イカ筋(中骨)等の動物繊維から分離した繊維;きのこやカビ等の真菌類の細胞壁から分離した繊維;等が挙げられる。この中でも、動物繊維から分離した天然キチン繊維が好ましく、カニまたはエビから分離した天然キチンがより好ましい。天然キチン繊維は、幅4〜20nmの結晶性ミクロフィブリルが複数集合して成る。これを化学的または物理的に精製し、解繊することでキチンナノファイバーを得ることができる。
【0022】
成分(C)は、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。たとえばセルロースナノファイバーの製造方法としては、特に限定されないが、物理的製造方法と、化学的製造方法とが挙げられる。物理的製造方法は、セルロース繊維を含むセルロース原料に物理的処理を施してセルロース繊維を解繊する方法である。化学的製造方法は、セルロース原料に対し、解繊しやすくするための化学的処理(酸化等)を施した後、物理的処理を施してセルロース繊維を解繊する方法である。
従来一般的に用いられている物理的製造方法としては、セルロース原料を水等の分散媒に分散させた分散液(セルロース分散液)に、直径1mm程度のセラミック製ビーズを入れ、ペイントシェーカーやビーズミル等により振動を与えて解繊する方法、ブレンダータイプの分散機や高速回転するスリットの間にセルロース分散液を通して剪断力を働かせて解繊する方法(高速回転ホモジナイザー法)、セルロース分散液に圧力をかけて高圧とし、その状態から急に減圧することにより、セルロース繊維間に剪断力を発生させて解繊する方法(高圧ホモジナイザー法)、対向衝突型の分散機を用いる方法、後述する高圧噴射処理する方法などが挙げられる。
これらの処理で解繊する場合、セルロース分散液としては、セルロース原料を水性媒体に分散させたものが用いられる。セルロース原料としては、通常の方法により精製することによってヘミセルロース及びリグニン等を除去した結晶セルロースが一般的に用いられる。水性媒体としては、水、水溶性有機溶媒、それらの混合溶媒等が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、後述する成分(D)で挙げる水溶性有機溶媒と同様のものが挙げられる。水性媒体には、必要に応じて、酸又はアルカリ、イオン性又は非イオン性の分散剤や界面活性剤、無機塩等が添加されてもよい。セルロース分散液の固形分濃度(セルロース原料濃度)は、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.2質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以上6質量%以下とされる。この解繊処理に供するセルロース分散液の固形分濃度が低過ぎると、処理するセルロース量に対して液量が多くなり過ぎ、効率が悪くなる。固形分濃度が高過ぎると流動性が悪くなる。
【0023】
本発明において好適に用いられる物理的製造方法として、高圧噴射処理により製造する方法が挙げられる。高圧噴射処理は、セルロース分散液に圧力をかけてノズルから噴射し、硬質体に衝突させる方法である。セルロース分散液が衝突用硬質体に衝突することで、セルロース繊維の絡まりがほどけ、繊維径が微細化していく。
図1に、セルロースナノファイバーの製造に用いられる高圧噴射処理方法の一実施形態の概略説明図を示す。本実施形態において、高圧噴射処理は、セルロース分散液加圧部1と、セルロース分散液加圧部1の下流側に設けられたオリフィスノズル2と、オリフィスノズル2の下流側に設けられた衝撃増強領域4と、衝撃増強領域4の下流側に設けられた衝突用硬質体5と、回収用流路6と、を備える高圧噴射装置を用いて行われる。
オリフィスノズル2は、セルロース分散液加圧部1と衝撃増強領域4とを連絡する貫通孔(ノズル)3を1つ有しており、セルロース分散液加圧部1で30〜245MPaに加圧されたセルロース分散液が貫通孔3を通って衝撃増強領域4側に噴射されるようになっている。貫通孔3の直径としては、0.1〜0.8mmが好ましい。貫通孔3、衝撃増強領域4および衝突用硬質体5は、略同一直線上に配置されており、貫通孔3から噴射されたセルロース分散液が、衝撃増強領域4を通って衝突用硬質体5に衝突するようになっている。
オリフィスノズルの下流に衝撃増強領域4を設けることで、吐出流は240〜700m/sの高速噴流となり、高いせん断力が発生する。ここで使用するオリフィスノズルの厚みは例えば0.4mmと極端に薄い為、圧力エネルギーのほぼ100%を噴射の速度エネルギーに変換できる。すなわち、オリフィス内部では、0.1〜0.8mmという隙間と、240〜700m/sの超高速の状態となり、高いせん断力を得るための構成要素が満たされる。また、このような高速噴流ではキャビテーション気泡が発生し、この気泡が消滅することによって強い衝撃力が発生する。オリフィスノズルの下流に衝撃増強領域4を設けることで、効率的にキャビテーションを発生させることが出来る。衝撃増強領域4の長さは、好ましくは0.01〜200mm、より好ましくは2〜60mmである。
衝突用硬質体5の材質としては、セルロース分散液衝突時の衝撃に耐え得るものであれば特に限定されず、たとえばセラミック等が挙げられる。
上記のような高圧噴射処理装置としては、例えば(株)スギノマシン製の「スターバースト」が挙げられる。
【0024】
該高圧噴射装置を用いたセルロースナノファイバーの製造は、具体的には、セルロース分散液を30〜245MPaに加圧し、オリフィスノズル2から噴射して衝突用硬質体5に衝突させる高圧噴射処理を1回〜複数回実施することにより行われる。1回目の高圧噴射処理で衝突用硬質体5に衝突させたセルロース分散液は、回収用流路6から回収する。高圧噴射処理を2回以上行う場合、回収したセルロース分散液を再度加圧し、オリフィスノズル2より衝突用硬質体5に向けて高圧噴射する操作を必要な回数繰り返す。
高圧噴射処理されるセルロース分散液に含まれるセルロース原料は、繊維状、粒状などの任意の形態であってよい。セルロース原料は、リグニンやヘミセルロースを除去した結晶セルロースが好ましいが、その他市販の材料(たとえばパルプ、コットン等)を用いても良い。該セルロース分散液の固形分濃度(セルロース原料濃度)は、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは5〜20質量%、さらに好ましくは10〜20質量%、特に好ましくは11〜20質量%である。一般に、セルロース分散液の濃度は、高濃度ほど処理効率が高まる為好ましいが、特にナノレベルに微細化した場合、粘度が高くなり過ぎてペースト状態になり、高圧噴射が困難になる傾向がある。一方、図1に示す構成の高圧噴射処理装置を用いた場合、従来は高圧噴射が困難な高濃度であっても高圧噴射をすることが可能である。
セルロース分散液にかける圧力は、30〜245MPaであり、150〜200MPaが好ましい。セルロース分散液の噴射速度は、550〜650m/sであることが好ましい。該噴射速度は、セルロース分散液にかける圧力、オリフィスノズル2の貫通孔3の孔径等により調節できる。なお、噴射速度は貫通孔3の出口部における速度で、セルロース分散液加圧部1の圧力と貫通孔3の直径などから理論的に算出できる。高圧噴射処理回数は、所望の直径のセルロースナノファイバーが得られるように適宜設定できる。通常、1〜50回、好ましくは1〜40回、より好ましくは1〜10回である。
尚、図1において衝突用硬質体5としてボール状のものを示したが、これに限定されるものではなく、平板状など、他の形状であってよい。
【0025】
上記のような高圧噴射処理により得られるセルロースナノファイバーは、以下の利点を有することから本発明において好ましく用いられる。高圧噴射処理したセルロース分散液に含まれるセルロースナノファイバーは繊維径が非常に細い。また、解繊が不十分なセルロースは実質的に存在しない。そのため、このセルロースナノファイバーを水に分散させた場合には、水の中にナノファイバーが分散していることは肉眼的には認められず、透明に近い外観を有する。また、高圧噴射装置でセルロース分散液の高圧噴射処理を行うと、セルロース繊維は、繊維の長さを保ったまま繊維同士の絡まりがほどけて細くなるため、繊維長さ/繊維直径(アスペクト比)が大きくて分散状態が良好なセルロースナノファイバーが得られる。なお、噴射圧力や処理回数などの処理条件を変えることで、繊維を切断することまたは分子量を低下させることも可能である。
【0026】
セルロースナノファイバーの化学的製造方法において、セルロース原料に対して施す、解繊しやすくするための化学的処理としては、酸化処理が挙げられる。特に、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルラジカル(TEMPO)等のN−オキシル化合物および酸化剤を用いて行う酸化処理が好ましい。この酸化処理によれば、セルロースミクロフィブリル表面のC6位の水酸基を選択的に酸化して−CHOHをカルボキシル基(ナトリウム塩)に変換することが可能である。このようにして得られた酸化セルロースは、水中でミキサーなどを用いた簡単な機械処理を行うことにより効率よくセルロースナノファイバーとすることができる。また、得られたセルロースナノファイバーは分散性が良好であるだけでなく、本発明においては、成分(A)の官能基との相互作用やドーパントとしての作用も期待出来る。
N−オキシル化合物および酸化剤を用いて行う酸化処理は、公知の方法により実施できる。たとえばSaito,T.,etal.,Cellulose Commun.,14(2),62(2007)には、セルロース原料を触媒量のTEMPOと酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムとの共存下で処理する方法が開示されている。また、特開2008−308802号公報には、ニトロキシラジカル誘導体、臭化アルカリ及び酸化剤を含む水系触媒中でリグノセルロースを処理することにより、リグノセルロースからリグニンとヘミセルロースを除去しながらセルロースを単離すると共に、得られたセルロースを酸化することが出来る方法が開示されている。特開2010−275659号公報には、N−オキシル化合物、臭化物、及びヨウ化物もしくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用い水中にてセルロース系原料を酸化して酸化されたセルロース系原料を調製し、この酸化されたセルロース系原料を解繊・分散処理する前に、酸を添加して加水分解処理をするセルロースナノファイバーの製造方法が開示されている。
【0027】
<成分(D)>
成分(D)としては、成分(A)が溶解し、成分(B)が溶解又は分散可能で、成分(C)が分散可能なものであれば特に限定されない。成分(D)として、具体的には、水;水に可溶な有機溶媒と水との混合溶媒;が挙げられる。
水に可溶な有機溶媒としては、水と混合した際に均一な溶液となるものであればよく、たとえばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、エチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のピロリドン類等が挙げられる。成分(D)としては、水、または、アルコール類と水との混合溶媒が好ましい。
【0028】
導電性組成物中、成分(A)の含有量は、成分(D)100質量部に対して固形分換算で0.01〜20質量部が好ましく、0.05〜15質量部がより好ましく、0.05〜10質量部がさらに好ましい。該含有量が0.01質量部以上であると、帯電防止に必要な導電性が充分に得られ、20質量部以下であると、導電性組成物の粘度が高くなりすぎるのを防止でき、取り扱いが容易である。
導電性組成物中、成分(B)の含有量は、成分(D)100質量部に対して固形分換算で1〜50質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましい。該含有量が1質量部以上であると、得られる導電性膜の強度が向上し、50質量部以下であると、導電性組成物の粘度が高くなりすぎるのを防止でき、取り扱いが容易である。
導電性組成物中、成分(C)の含有量は、成分(D)100質量部に対して固形分換算で0.001〜10質量部が好ましく、0.001〜5質量部がより好ましい。該含有量が0.001質量部以上であると導電性の向上効果が充分に得られ、10質量部以下の場合は、当該導電性組成物を用いて得られる導電体は、強度及び透明性に優れる。
導電性組成物中の成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計量は、成分(D)100質量部に対し、固形分換算で1〜50質量部が好ましく、1〜40質量部がより好ましい。
導電性組成物中の成分(A)と成分(B)との含有量の比(固形分の質量比)は、導電性の観点から、成分(A)100質量部に対し、成分(B)が100〜20000質量部であることが好ましく、1000〜20000質量部であることがより好ましく、2000〜20000質量部がさらに好ましい。
導電性組成物中の成分(A)と成分(C)との含有量の比(固形分の質量比)は、導電性の観点から、成分(A)100質量部に対し、成分(C)が1〜1000質量部であることが好ましく、1〜500質量部であることがより好ましく、20〜200質量部であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の導電性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)〜(D)以外の他の成分を含有することができる。他の成分としては、たとえば、塗料等に用いられる添加剤として公知の添加剤が利用でき、たとえば、界面活性剤、増粘剤、染料、硬化触媒、レオロジーコントロール剤、樹脂微粒子、消泡剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防カビ剤、可塑剤等が挙げられる。
【0030】
本発明の導電性組成物は、成分(A)、成分(B)および成分(C)を任意の順序で成分(D)と混合することにより製造できる。成分(C)の製造に際して水性媒体中で解繊維処理を行い、水性分散液として成分(C)を得た場合には、この水性分散液の水性媒体を成分(D)として利用できる。各成分の混合は、スターラー、ディスパー、ホモジナイザー等の公知の攪拌機を用いて実施できる。また、前述の高圧噴射装置を用いて混合することも出来る。
【0031】
本発明の導電性組成物を所定の形状とし、乾燥等により成分(D)を除去することで導電体を製造することができる。また本発明の導電性組成物を基材上に塗工して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥することで導電膜を製造することができる。
導電性組成物を塗工する基材の材質は、特に限定されず、高分子化合物、エラストマー、木材、紙材、セラミックス、ガラス等が挙げられる。基材の形状は特に限定されず、フィルム状、板状、その他各種不定形状等であってよい。また、基材は内部に気泡を含む発泡体であってよい。
例えば基材となる高分子化合物としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタンなどが挙げられる。
基材は、その少なくとも一部の表面上に形成される導電膜との密着性を向上させる目的で、その表面に対し、コロナ表面処理、プラズマ処理等の表面処理が施されてもよい。
導電性組成物の塗工方法としては、一般の塗工に用いられる方法が利用できる。たとえばグラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗布方法、スプレーコーティング等の噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等が用いられる。
乾燥は、室温や室温未満で放置することによって行ってもよく、加熱処理を行うことによって行ってもよい。加熱処理を行う場合の温度は、40〜250℃の範囲が好ましく用いられる。加熱温度が40℃未満の場合は、導電性組成物の成分(D)が多く残存して導電性が充分に発揮できないおそれがある。また、250℃を超える場合は、成分(A)の劣化が生じて導電性が低下するおそれがある。
【0032】
以上説明した本発明の導電性組成物によれば、従来技術の導電性組成物に比べ、高い帯電防止性(導電性)を発現する導電性組成物および導電体を提供できる。
また、本発明の導電性組成物においては特に、従来技術の組成物に比べ、少量の導電性ポリマー(成分(A))の添加により充分な帯電防止性の付与が可能であり、高価な導電性ポリマーの添加量を大幅に削減することによるコストの抑制、得られる導電性組成物および導電体の着色低減、透明性の向上等、多数の利点があり有用である。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。後述する各例で用いた原料(成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D))の特性及び測定方法、をそれぞれ以下に示す。
1.[成分(A)]
導電性ポリマー(A−1):後述の製造例1にて製造したポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1,4−イミノフェニレン)。(A−1)は、前記式(3)中のRおよびR10が−Hであり、Rが−SOまたは−SOHであり、Rがメトキシル基である繰り返し単位からなるポリマーで、スルホン酸基の導入割合は100%、数平均分子量は3,100、質量平均分子量は18,000、分子量分布は6であった。
2.[成分(B)]
水分散性高分子(B−1):東洋紡績(株)製水分散性ポリエステル樹脂「バイロナールMD1200」(固形分34質量%)。
3.[成分(C)]
セルロースナノファイバー(C−1):後述の製造例2にて製造した。(C−1)の平均直径は20nm、平均長さは6μm、体積固有抵抗値は5×1011Ω・cmであった。
キチンナノファイバー(C−2):後述の製造例3にて製造した。(C−2)の平均直径は20nm、平均長さは6μm、体積固有抵抗値は5×1011Ω・cmであった。
4.[成分(D)]
水性媒体(D−1):イオン交換水。
【0034】
5.[成分(A)のスルホン酸基の導入割合]
スルホン酸基の導入割合は、成分(A)を構成する全繰り返し単位のうち、スルホン酸基を有する繰り返し単位の割合(モル%)であり、イオンクロマトグラフィー法にて測定した。
6.[成分(A)の数平均分子量、質量平均分子量、分子量分布]
数平均分子量、質量平均分子量、分子量分布は、N,N−ジメチルホルムアミド用のカラムを用いたGPC測定(ポリスチレン換算)により行った。カラムは、N,N−ジメチルホルムアミド用のものを3種類連結して用いた。溶離液には0.01モル/リットルのトリエチルアミンと0.1モル/リットルの臭化リチウムのN,N−ジメチルホルムアミド溶液を用いた。
7.[成分(C)の平均直径、平均長さ]
成分(C)の平均直径、平均長さは、FE−SEM画像の観察により求めた。
8.[成分(C)の体積固有抵抗値]
成分(C)の体積固有抵抗値は、10Ω・cm未満の場合は四探針法(三菱化学(株)製Loresta HP MCP−T610)により測定し、10Ω・cm以上の場合は絶縁抵抗計(アドバンテスト社製 高抵抗計R8340)により測定した。
9.[導電膜の表面抵抗値]
表面抵抗値(Ω)は、ダイアインスツルメンツ社製ハイレスタIP−ICPHT260を用い、2探針法にて測定した。
【0035】
<製造例1:導電性ポリマー(A−1)の製造>
2−アミノアニソール−4−スルホン酸の100mmolを25℃で4mol/Lのトリエチルアミン水溶液に溶解し、該溶液を撹拌しながら、該溶液にペルオキソ二硫酸アンモニウムの100mmolの水溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で12時間さらに撹拌した。反応生成物を濾別、洗浄した後、乾燥して導電性ポリマー(A−1)[ポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1,4−イミノフェニレン)]の粉末の15gを得た。
【0036】
<製造例2:セルロースナノファイバー(C−1)の製造>
リグニン、ヘミセルロースを除去した結晶セルロースの2質量%水分散体を、図1に示したものと同様の構成の高圧噴射装置スターバースト((株)スギノマシン製、オリフィスノズル2の厚み:0.4mm、貫通孔3の直径:0.6mm、衝撃増強領域の長さ:50mm)に供給して、200MPaの高圧噴射処理を20回繰り返すことにより、セルロースナノファイバー(C−1)の水分散体(固形分2質量%)を得た。
【0037】
<製造例3:キチンナノファイバー(C−2)の製造>
カニ殻からたんぱく質やカルシウムを除去した結晶キチン(脱アセチル化度:5質量%以下)の2質量%水分散体を、図1に示したものと同様の構成の高圧噴射装置スターバースト((株)スギノマシン製、オリフィスノズル2の厚み:0.4mm、貫通孔3の直径:0.6mm、衝撃増強領域の長さ:50mm)に供給して、200MPaの高圧噴射を10回繰り返すことにより、キチンナノファイバー(C−2)の水分散体(固形分2質量%)を得た。
【0038】
<実施例1〜6、比較例1〜4>
成分(A)、成分(B)、成分(C)が表1に示す配合比となるように成分(D)、成分(C)、成分(B)、成分(A)をそれぞれこの順番に室温(25℃)で混合し、スターラーにて5分間攪拌後にホモジナイザーにて700rpmで1分間攪拌して導電性組成物を調製した。
表1に各成分の配合をまとめた。表1中、成分(C)の配合量(質量部)は固形分であり、成分(D)における水の配合量は、水性媒体(D−1)と、セルロースナノファイバー(C−1)またはキチンナノファイバー(C−2)の水分散体の分散媒である水との合計量である。
得られた導電性組成物を、それぞれ、アプリケーターを用いて、ガラス基材上に塗布し、120℃にて5分間乾燥することにより膜厚約10μmの導電膜を形成した。
各導電膜の表面抵抗値を測定した。結果を表2に示す。また、得られた結果から、X軸に成分(C)の導電膜中の配合量(質量%)、Y軸に導電膜の表面抵抗値(Ω)をプロットしたグラフを作成した。該グラフを図2に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
上記結果に示すように、成分(C)を含まず、成分(A)、成分(B)及び成分(D)からなる比較例1〜3の導電性組成物を用いて得られる導電膜は表面抵抗値が大きく、導電膜中の水溶性導電性ポリマーの含有量〔(A−1)および(B−1)の合計に対する(A−1)の割合〕が5質量%の比較例3であっても1011のオーダーであった。
また、水溶性導電性ポリマーである成分(A)を含まず、成分(B)、成分(C)及び成分(D)からなる比較例4の組成物を用いて得られる膜の表面抵抗値は1013以上であり、成分(C)を含むだけでは表面抵抗値が大きいことが分かった。
一方、成分(A)、成分(B)及び成分(D)と共に成分(C)を使用した実施例1〜6の導電性組成物を用いて得られる導電膜は、導電膜中の成分(A)の含有量が2質量%程度と少ないにも拘らず表面抵抗値が小さく、効率的に導電性が発現していた。
これらの結果から、成分(C)が明らかに、成分(A)を含有する導電膜の導電補助剤として機能していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の導電性組成物によれば、電子部品の包装材料、帯電防止フィルム、ICキャリアテープ等を含む種々の材料や製品において使用される導電体を得ることができる。
【符号の説明】
【0043】
1…セルロース分散液加圧部
2…オリフィスノズル
3…貫通孔
4…衝撃増強領域
5…衝突用硬質体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基および/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマー(A)と、前記水溶性導電性ポリマー(A)以外の水溶性高分子化合物および/または水分散性高分子化合物(B)と、体積固有抵抗が10Ω・cm以上のナノファイバー(C)と、水性媒体(D)を含有する導電性組成物。
【請求項2】
前記ナノファイバー(C)が、セルロースナノファイバー又はキチンナノファイバーである、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバー又はキチンナノファイバーが、30〜245MPaの高圧噴射処理により製造されたものである、請求項2に記載の導電性組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−236983(P2012−236983A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97887(P2012−97887)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(000132161)株式会社スギノマシン (144)
【Fターム(参考)】