導電性網体及びその製造方法
【課題】極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物を押出成形又は延伸成形しても良好な表面抵抗率を示す導電性網体とその製造方法を提供する。
【解決手段】極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を押出成形したネット状合成樹脂網体Nを、加熱された加熱室7に導き、前記網体Nを前記組成物のガラス転移温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲に、又は/及び、粘度が5.0×103Pa・s以上、1.0×107Pa・s未満の粘度範囲に加熱する。この加熱により、極細導電繊維が表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有したりして表面抵抗率を低下させ、それを101〜1013Ω/□未満にされた導電性網体Aを製造することができる。
【解決手段】極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を押出成形したネット状合成樹脂網体Nを、加熱された加熱室7に導き、前記網体Nを前記組成物のガラス転移温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲に、又は/及び、粘度が5.0×103Pa・s以上、1.0×107Pa・s未満の粘度範囲に加熱する。この加熱により、極細導電繊維が表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有したりして表面抵抗率を低下させ、それを101〜1013Ω/□未満にされた導電性網体Aを製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブなどの極細導電繊維を含有する導電性網体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂に導電性フィラーを含有させた制電性樹脂組成物を押出成形して制電性樹脂板、樹脂シート、樹脂フィルムなどが作製されたり、酸化錫などの導電性フィラーを含有する制電性塗料を合成樹脂成形体の表面に塗布して制電層を形成した制電性樹脂成形体が作製されている。また、帯電防止性能を有するネットなどの網体も知られていて、例えば、ラクトン樹脂に帯電防止剤を含有させた生分解性ネット(特許文献1)、導電性樹脂を使用した滑りネット(特許文献2)、ポリエチレンオキシド系の高分子電解質を成分とする親水性ポリマーをアロイ化させて成る帯電防止性樹脂で成形された樹脂ネット(特許文献3)などが知られている。
一方、カーボンナノチューブを使用した制電性合成樹脂板も知られていて、該樹脂板はカーボンナノチューブが1本又は1束ずつに分散して制電層内に含有された透明性に優れたものである。そして、この樹脂板はカーボンナノチューブ含有塗液を塗布したフィルムを樹脂基板に重ねてプレス一体化することで製造されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開平11−275987号公報
【特許文献2】特開2003−103648号公報
【特許文献3】特開2003−211023号公報
【特許文献4】特開2004−230690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1の帯電防止剤を含有させた生分解性ネットは、該帯電防止剤が使用中に摩擦などにより脱落する恐れがあるし、帯電防止剤を多量に含有させないと必要な帯電防止性能を発揮できないが、多量に含有させると機械的強度が低下するという問題があった。また、特許文献2の導電性樹脂を使用した滑りネットは、導電性能が発揮され難く、機械的強度も十分に満足できるものではなかった。また、特許文献3の帯電防止性樹脂を使用した樹脂ネットも、導電性能が発揮され難く、機械的強度も十分に満足するものではなかった。一方、特許文献4は、制電フィルムを樹脂基板にプレスすることにより制電性合成樹脂板を得る方法であり、ネットに関する記載はないし、プレス方式ではネットを製造することはできなかった。
【0004】
本発明は上記の問題に対処するためになされたもので、その目的とするところは、カーボンナノチューブなどの極細導電繊維を含有させて、良好な制電性能乃至導電性能を発揮させる導電性網体、及びその網体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る導電性網体は、熱可塑性合成樹脂網体の縦糸及び横糸に、極細導電繊維が含有されていることを特徴とするものである。
【0006】
本発明の導電性網体において、極細導電繊維が縦糸及び/又は横糸の表面に露出するか、又は表面から突出するか、又は表面から100nm未満の内部に含有されていることも好ましい。更に、極細導電繊維を含有する縦糸及び/又は横糸の表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満であって、該表面抵抗率が網体成形後の加熱によって低下させられたものであることも好ましい。
【0007】
本発明の導電性網体の製造方法は、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物を合成樹脂網体に成形した後に、該合成樹脂網体を加熱して、表面抵抗率を低下させることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の製造方法において、合成樹脂網体の加熱により極細導電繊維を前記合成樹脂網体の縦糸及び/又は横糸の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて表面抵抗率を低下させることが好ましい。また、合成樹脂網体の加熱が、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲で行なわれることも好ましい。更に、合成樹脂網体の加熱が、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上、1.0×107Pa・s未満の範囲となる温度範囲で行われることも好ましい。また、合成樹脂網体が、二軸延伸されて成形されることも好ましい。
【0009】
本発明において、「表面抵抗率を低下させる」とは、加熱される前の合成樹脂網体の表面抵抗率が1013Ω/□以上であれば、これを1013Ω/□未満に低下させることを意味し、表面抵抗率が1013Ω/□未満であれば、これをさらに低下させることを意味する。
【0010】
また、上記極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物のガラス転移温度と融点は、該組成物の示差走査熱量を測定することにより求めることができ、ガラス転移温度は、転移前の基線の直線部分と転移領域の変曲点の接線を外挿して得られる交点の温度を示し、融点は、融解ピークの両側の最大傾斜の点で引いた接線の交点の温度を示す。
また、上記粘度は、動的粘弾性測定装置にて剪断速度1sec−1の剪断速度で得られた値を示す。
なお、上記融点は、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂合成組成物に使用される熱可塑性合成樹脂が結晶性であれば上記示差走査熱量を測定することで求めることができるが、非晶性であれば示差走査熱量で測定することができないので、合成樹脂網体の加熱は上記粘度範囲となる温度範囲でなされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の導電性網体であると、該網体の縦糸及び横糸に極細導電繊維が含有されているので、該繊維が分散してお互いが電気的に接触して制電性能乃至導電性能を発揮させることができる。この極細導電繊維は細くて長いのでお互いの電気的接触が良好に行われ制電性能乃至導電性能が十分に発揮され、更に補強効果も発揮されて、比較的細い縦糸及び横糸であっても機械的強度を高めることができて、破断され難い網体とすることができる。そして、該極細導電繊維が縦糸及び/又は横糸の表面に突出又は表面に露出しても、該繊維の他部が内部に埋め込まれているので、網体から脱落する恐れが少なく、脱落による制電性能乃至導電性能が悪くなることがないし、また、繊維の脱落による弊害をなくすこともできる。
【0012】
上記導電性網体に含有されている極細導電繊維が、縦糸及び/又は横糸の表面に露出するか、又は表面から突出すると、表面に露出又は表面から突出する極細導電繊維により直接導電路が形成されるし、また、極細導電繊維が表面から100nm未満の内部に含有されると、トンネル効果により静電気が該極細導電繊維にまで達して導電路が形成されて、表面抵抗率を101Ω/□以上、1013Ω/□未満にすることが容易になされる。この範囲の表面抵抗率であると、静電気が発生しても該網体を通して放電させることができて静電気による弊害をなくすことができるし、導電材料として電気を流すこともできる。
【0013】
さらに、極細導電繊維を含有する導電性網体の縦糸及び/又は横糸の表面抵抗率が、加熱されて低下したものであると、制電性能乃至導電性能を確実に且つ均一に発揮された網体とすることができる。
【0014】
本発明の導電性網体の製造方法であると、押出成形などにより得られた合成樹脂網体を加熱することで、その縦糸及び横糸に含有され且つ網体成形時の歪みを有している極細導電繊維が、これを固定していた合成樹脂組成物の軟化に伴い動くことが可能となり、成形時の歪みを解消しようとしてランダムに動いて無配向状態に変化し、近接して分散していた極細導電繊維同士の電気的な接触を助長して導電路をより多くし、制電性能乃至導電性能を一層発揮させた導電性網体を製造することができる。特に、上記加熱により、極細導電繊維を表面に露出させたり、表面から突出させたり、表面から100nm未満の内部に含有させたりすると、直接表面に導電路が形成することができたり、トンネル効果で導電路を確保できるので、合成樹脂網体の表面抵抗率が低下した導電性網体とすることがきわめて容易となる。このように、合成樹脂網体を加熱することで、極細導電繊維を上記状態になさしめる理由は、現時点では定かではないが、出願人は次のように推測している。
【0015】
成形された合成樹脂網体には、極細導電繊維が分散されて含有されているが、成形時、例えば押出成形の場合においては、網体成形金型の押出流路の内面からの剪断力を受けて、極細導電繊維は押出方向に強制的に配列・配向させられて歪を有した状態で含有されているし、また、延伸成形の場合においては、延伸方向に引き延ばされて剪断力を受け、極細導電繊維は延伸方向に強制的に配列・配向させられて歪を有した状態で含有されている。そのため、極細導電繊維の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと極細導電繊維同士の電気的な接触が余り得られずに、1013Ω/□以上の表面抵抗率を示すこととなる。一方、極細導電繊維の含有量が多いか又は/及び分散がよいと、極細導電繊維が例え押出方向又は延伸方向に強制的に配列・配向させられても繊維同士の電気的な接触がある程度得られて、1013Ω/□未満の表面抵抗率を示す合成樹脂網体となる。
【0016】
しかし、極細導電繊維の含有量を多くすると、該繊維の一部が内部に埋め込まれていても脱落する恐れが発生するし、コストが高くなるし、製造も困難となるし、高延伸時には破断する恐れも発生したり、脆くなって品質の低下をきたす。そのため、合成樹脂網体中の極細導電繊維の含有量をできるだけ少なくして上記問題をなくしつつ、その分散状態を良好にして表面抵抗率を低下させることが、制電制性能乃至導電性能を有する導電性網体を得るうえで好ましい。
【0017】
成形された合成樹脂網体を、成形後に加熱することにより、極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物のガラス転移温度から融点温度より30℃高い温度の温度範囲(以下、加熱温度範囲とも記す)になすか、又は/及び、該組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上、1.0×107Pa・s未満の範囲(以下、加熱粘度範囲とも記す)となる温度範囲にする。その結果、極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物が軟化して低粘度となり、含有され且つ歪を有していた極細導電繊維が、この歪を解消しようとして、該組成物の内部でランダムに3次元方向に動いて無配向状態となり、近接して含有されていた極細導電繊維同士がお互いに電気的に接触する機会が増加して導電路を多くすると共に、軟化樹脂組成物量が少なくて動きを抑制することが少ない表面方向に動いて、表面に露出するか、更に動いて表面から突出するか、又は露出乃至突出するまでは動かずに表面から100nm未満の内部にまで動いて固定された状態となるためである、と推測している。
なお、極細導電繊維は、上記各状態が混在して含有される場合があることは当然である。
【0018】
そして、極細導電繊維が表面に露出又は表面から突出すると、該極細導電繊維により直接導電路が表面に良好に形成されるし、極細導電繊維が表面から100nm未満の内部に含有されると、トンネル効果により静電気が該極細導電繊維にまで達して導電路が形成され、いずれの場合でも表面抵抗率を低下させることができる。そのため、加熱される前に1013Ω/□以上の高い表面抵抗率を示した合成樹脂網体は、加熱された後には表面抵抗率が低下して1013Ω/□未満となされた導電性網体となすことができる。また、加熱される前に1013Ω/□未満の表面抵抗率を示した合成樹脂網体は、加熱された後には該表面抵抗率がさらに低下した導電性網体となすことができる。
このように、合成樹脂網体成形後に該網体を加熱すると、極細導電繊維同士が十分に電気的に接触して表面抵抗率を低下させることができて、制電性能乃至導電性能を有する導電性網体を製造することができる。
【0019】
そして、合成樹脂網体が二軸延伸されて成形されると、縦糸及び横糸の強度が向上するので、高強度の導電性網体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は本発明の一実施形態の導電性網体の平面図、図2はこの導電性網体に含有される極細導電繊維の分散状態を示す説明図である。
【0021】
図1に示す導電性網体Aは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂からなる複数の縦糸1と横糸2とが、各交点3で融着・一体化された四角形状の角目の網目4を有するネット状の角目ネット導電性網体であり、その表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされた制電性能乃至導電性能(以下、導電性能などとも記載する)を有する網体である。このような四角網目4を有する角目ネット導電性網体Aは、四方方向(上下左右方向)からの引っ張り外力が縦糸1及び/又は横糸2に掛かるために、網目4が崩れることがない強靱な導電性網体Aとなされている。
【0022】
そして、極細導電繊維は、縦糸1と横糸2のそれぞれに均一に分散した状態で含有されている。この縦糸1と横糸2とは、その径が0.5〜10.0mmであることが好ましく、お互いの径が同じでも異なっていてもよいし、その形状も丸、楕円、四角、平板などのいろいろな形状であってもよい。また、網目4の開口寸法は、0.5〜150×0.5〜150mmであることが好ましい。
また、縦糸1及び/又は横糸2は、延伸されていてもよいし、又は、延伸されていなくてもよい。延伸されていると、延伸方向への引張り強度が良くなり、導電性網体Aの強度が向上する利点がある。この延伸倍率は限定されるものではないが、1.1〜3.0倍程度とすると該角目導電性網体Aを製造する上で好ましい。
【0023】
上記角目ネット導電性網体Aを形成する熱可塑性合成樹脂としては、例えばポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセテート、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチルビニルアセテート等のビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート結晶性または非晶質ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、芳香族ポリエステル等のエステル系樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリアセテート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ボリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、液晶ポリマー、ポリ乳酸などの生分解樹脂、オレフィン系エラストマー、これらの樹脂の共重合体樹脂、これらの樹脂の混合樹脂などが用いられる。そして、これらの樹脂には、抗酸化剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、抗菌剤、難燃剤、顔料、染料などの、各樹脂に一般に添加される添加剤が必要に応じて混合される。
これらの樹脂のなかでも、オレフィン系樹脂は軽量であるので好ましく、特にポリプロピレンは軽量で軟化温度が高くて、高温で使用される用途には極めて好適に使用される。
【0024】
また、角目ネット導電性網体Aに含有される極細導電繊維としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノワイヤー、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリル、カーボンナノコイルなどの極細長炭素繊維、白金、金、銀、ニッケル、シリコンなどの金属ナノチューブや金属ナノワイヤーなどの極細長金属繊維、酸化亜鉛などの金属酸化物ナノチューブや金属酸化物ナノワイヤーなどの金属酸化物などの極細長金属酸化物繊維などの、直径が0.3〜100nmで、長さが0.1〜20μm、好ましくは長さが0.1〜10μmの各繊維が用いられる。これらの極細導電繊維は凝集することなく均一に分散されて、お互いに電気的に接触して縦糸1及び横糸2に含有されていると、少ない含有量で導電性能などを良好に発揮させることができる。また、これらの繊維は細くて長いので、該繊維の一部が表面に露出乃至突出しても他部は各糸1、2の内部に埋設されていて、その脱落が抑制されるし、該繊維による補強効果も奏されることとなる。
なお、「凝集することなく」とは、表面を光学顕微鏡で観察して、200μm以上の凝集塊がないことを意味する。
【0025】
これらの極細導電繊維のなかで、極細長炭素繊維が好ましく、特にカーボンナノチューブが最も好ましく用いられる。該カーボンナノチューブは、繊維直径が0.3〜80nmと細く、凝集することなく分散させて、お互いに電気的に接触させることにより導電性などを良好に発揮させることができる。このカーボンナノチューブには、中心軸線の周りに直径が異なり円筒状に閉じた複数のカーボン壁を同心的に備えた多層カーボンナノチューブと、中心軸線の周りに円筒状に閉じた一層のカーボン壁を備えた単層カーボンナノチューブとがあるが、いずれのカーボンナノチューブも好ましく用いられる。そして、多層カーボンナノチューブは1本ずつ分離して分散させることができるが、単層カーボンナノチューブは現時点では1本ずつ分離して分散させることが困難で複数本が集まって束になったものを1束ずつ分離して分散させることができる。なお、単層カーボンナノチューブが1本ずつ分離して分散したものを除外するものではない。
【0026】
これらの極細導電繊維は、導電性網体Aに0.01〜20.0質量%、好ましくは0.01〜10.0質量%、更に好ましくは0.1〜7.00質量%含有され、凝集することなく均一に分散されて繊維同士が電気的に接触している。極細導電繊維の含有量が多くなり過ぎると、成形性や機械的強度が悪くなり、また繊維の一部が内部に埋め込まれていても脱落する恐れが発生するし、コストも高くなるし、網体製造もし難いし、高延伸する場合においては延伸時に破断する恐れもでてくるし、脆くなって品質の低下をきたす。そのため、出来るだけ分散を良くして、少ない含有量で表面抵抗率を良好に発揮させることが好ましい。このため、極細導電繊維の含有量は上記範囲にすることが好ましく、繊維がカーボンナノチューブであれば、これを0.01〜10.0質量%含有させ1本ずつ又は1束ずつに分離して分散させることが望ましいのである。特に、上記単層カーボンナノチューブであれば0.01〜8.0質量%、多層カーボンナノチューブであれば0.01〜10.0質量%含有させることが望ましい。
【0027】
上記極細導電繊維は、図2の縦糸1における極細導電繊維5の分散状態を示す説明図で明らかなように、導電性網体Aの縦糸1及び/又は横糸2の内部においては、凝集することなく均一に分散し且つランダムに三次元方向に向いてお互いが電気的に接触して表面抵抗率を低下させている場合(図2の(1)(2)(3)を参照)と、押出方向又は延伸方向に配列・配向して1013Ω/□以上の高い表面抵抗率を示している場合(図2の(4)(5)(6)を参照)と、押出方向又は延伸方向に緩く配列・配向してある程度接触し1013Ω/□未満の表面抵抗率を示している場合(図2(7)(8)(9)を参照)がある。
【0028】
しかし、導電性網体Aの縦糸1及び/又は横糸2の表面においては、内部とは異なり、いずれの場合であっても、図2の(1)(4)(7)に示すように、極細導電繊維5が表面にランダムに露出しているか、又は/及び、図2の(2)(5)(8)に示すように、その表面からランダムに突出しているか、又は/及び、図2の(3)(6)(9)に示すように、その表面に露出も突出もしていないが表面から100nm未満の深さtの内部に含有され、換言すれば表面から深さt(最大で100nm)までの間には極細導電繊維5が含有されずにいるか、の何れかの状態で分散していて、表面抵抗率を低下させている。即ち、表面の極細導電繊維5は配列・配向することなくランダムに三次元的に分散して、表面に露出又は/及び表面から突出又は/及び100nm未満の内部に含有され、他の繊維部分が縦糸1又は/及び横糸2の内部に埋没して固定されている。
【0029】
そして、図2の(1)(2)(3)の状態であると、表面の極細導電繊維5は内部の極細導電繊維5とも電気的に接触して導電性網体Aの全体に導電路が形成されて、縦糸1及び/又は横糸2の全体の表面抵抗率が低下して101Ω/□以上、1013Ω/□未満とされ、表面抵抗率も体積抵抗率も良好にすることができる。一方、図2の(4)(5)(6)の状態であると、表面は表面抵抗率が低下して101Ω/□以上、1013Ω/□未満とすることができるが、内部は配列・配向しお互いに接触し難いので体積抵抗率は高いものとなる。さらに、図2の(7)(8)(9)の状態であると、表面は表面抵抗率が低下して101Ω/□以上、1013Ω/□未満とすることはできるが、内部は表面抵抗率が低下せずに合成樹脂網体の値を示して1013Ω/□以上の場合と1013Ω/□未満の場合とがある。なお、これらの各状態が混在した状態で縦糸1及び/又は横糸2に含有されていてもよいことは言うまでもない。
【0030】
このように極細導電繊維5を分散させて良好な導電路を形成させるためには、凝集させずに分散度を高め、電気的な接触頻度を高める必要がある。そのために、各極細導電繊維5が絡み合うことなく1本ずつ分離した状態で、又は/及び、複数本集まって束になったものが1束ずつ分離した状態で、分散した繊維が単純に交差させて電気的に接触させることが好ましい。このように分散させると、少ない含有量であっても、広い範囲に極細導電繊維5が分散して存在し、お互いが電気的に接触して導電路を形成し、導電性能などを良好にすることができる。また、このような分散であると、極細導電繊維5の含有量を0.1〜10.0質量%と少なくしても101Ω/□以上、1013Ω/□未満の表面抵抗率とすることができる。
【0031】
この導電性網体Aのように、極細導電繊維5が縦糸1及び/又は横糸2の表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されていると、その表面抵抗率を101Ω/□以上、1013Ω/□未満に低下させることが極めて容易となる。そして、表面抵抗率が105Ω/□以上、1013Ω/□未満であると制電性能を発揮し、表面に帯電した静電気は露出又は突出している極細導電繊維5に接触し、表面及び/又は内部の極細導電繊維5、5同士が電気的に接触して形成された導電路を流れて端部にまで達し、該端部で放電して除電する。また、表面抵抗率が101Ω/□以上、105Ω/□未満であると導電性能を発揮して導電体としての作用をなし、電気を流すことができるようになる。また、極細導電繊維5が表面から100nm未満の内部に含有されていると、トンネル効果により表面に帯電した静電気が該極細導電繊維5にまで達して制電性能を発揮するし、電気が通電されるとトンネル効果で同様に内部の該極細導電繊維5にまで達して通電して導電性能を発揮し、導電体として作用する。
【0032】
このような角目ネット形状の導電性網体Aは、例えば図3に示す押出製造方法により製造することができる。
図3の(1)は全体の工程を示す説明図、(2),(3)は押出成形された合成樹脂網体の加熱前の極細導電繊維の分散状態を示す説明図である。
【0033】
まず、予め、熱可塑性合成樹脂と極細導電繊維と、必要なら押出成形に必要な上記各添加剤を、均一に混合した極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物を作製する。
【0034】
そして、該極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を、例えば特公昭43−24556号公報などに記載された公知の製造方法に供して合成樹脂網体を押出成形する。
該方法は公知であるので簡単に説明すると、図3の(1)に示すように、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を押出機(不図示)にて可塑化・溶融して、網体成形装置6により、一定の直径を有する断面丸形状の筒状合成樹脂網体Pを押出成形する。
この網体Pを押出成形するための網体成形金型61は、円形状の内側金型611と外側金型612とよりなり、外側金型612の押出口内周面に一定間隔で凹設された凹溝である縦糸押出流路11を通して縦糸1を連続的に押出しつつ、内側金型611を間欠的に上下に動かして、内側金型611を外側金型612に接触させたり離間させたりし、内側金型611が外側金型612から離間したときに生じる隙間である横糸押出流路21から横糸2を間欠的に押出して、筒状合成樹脂網体Pを押出すことができるようになされている。
【0035】
なお、62は網体成形金型61より押出された断面を保持するための保形サイジングであり、少なくとも押出された筒状合成樹脂網体Pの直径を有していて、図3においては、網体Pより大きな直径を有している。この保形サイジング62の直径が筒状合成樹脂網体Pの直径よりも大きいと、筒状合成樹脂網体Pは直径方向に延伸されることとなり、更に、押出し速度よりも引取り速度を早くすれば、押出し方向に延伸されることとなって、二軸延伸された網体とすることができる。この二軸延伸の倍率は引取り速度と保形サイジング62の直径を変更することで可変可能であるが、好ましい倍率は、製造のし易さなどを考慮すれば、共に1.1〜3.0の範囲内であることが好ましい。なお、直径方向と押出し方向との延伸倍率が異なってもよいことはいうまでもない。
【0036】
この筒状合成樹脂網体Pは、押出成形時に、網体成形金型61の押出流路11、21の内面からの、特に縦糸押出流路11からの強い剪断力を受けて、極細導電繊維5の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと、図3(2)に示すように、極細導電繊維5も押出方向Eに強制的に配列・配向させられて、歪を有して含有され、極細導電繊維5、5同士の電気的な接触が得られずに、1013Ω/□以上の表面抵抗率を示して導電性などは有さない。しかし、極細導電繊維5の含有量が多いか又は/及び分散がよいと、図3の(3)に示すように、極細導電繊維5が例え押出方向Eに強制的に配列・配向させられても、該繊維5同士の電気的な接触がある程度得られて、1013Ω/□未満の表面抵抗率を示し導電性などを有する。この配列・配向は、網体成形金型6の押出流路11、21の内面に接して押出される縦糸1及び横糸2の表面側ほど大きく配向させられて、大きな歪を有している。
【0037】
続いて、この筒状合成樹脂網体Pは、扁平ロール63で扁平になされ、引取ロール64で引き取りつつ、カッターなどの切開き冶具65にて筒状合成樹脂網体Pを切り開いてネット状の合成樹脂網体Nとした後に、加熱室7に導く。
【0038】
上記加熱室7は、ヒーターなどの加熱器71等により、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲(加熱温度範囲)に、好ましくは融点よりも30℃低い温度から融点よりも30℃高い温度の温度範囲に加熱して保温するか、又は/及び、前記組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上、1.0×107Pa・s未満の範囲となる粘度範囲(加熱粘度範囲)に、好ましくは1.0×104Pa・s以上から5.0×106Pa・s未満の粘度範囲となるように加熱して保温されていて、該加熱室7を通過する合成樹脂網体Nを加熱できるようになされている。
【0039】
この加熱により、前記したように、合成樹脂網体Nの縦糸1及び横糸2に含有され上記配向・配列状態の極細導電繊維5が、歪をなくそうとして軟化した縦糸1内及び横糸2内で動いて、上記配列・配向状態からランダムな三次元方向に向いた無配向状態となって、縦糸1及び横糸2の表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されて、表面抵抗率が低下して導電性能などが良くなる。その後、冷却されて極細導電繊維が無配向状態のままで固定され、101Ω/□以上1013Ω/□未満の範囲に表面抵抗率が低下した本発明の角目ネット状導電性網体Aを製造することができる。
【0040】
なお、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性樹脂が非晶質樹脂であれば、該組成物の融点温度が測定できないので、予め前記組成物の粘度が上記加熱粘度範囲となる温度範囲を事前の予備試験で調べ、この温度範囲になるように設定すればよい。また、結晶性樹脂であっても、この加熱粘度範囲となる温度範囲に設定してもよい。
また、加熱室7は全長に亘り一様に加熱させる必要はなく、後半部においては加熱器71を設けなかったり、又は積極的に冷却風などの冷媒により、加熱された合成樹脂網体Nを冷却してもよい。
【0041】
このように、合成樹脂網体Nを加熱室7にて加熱し、上記加熱温度範囲又は/及び上記加熱粘度範囲にすることで極細導電繊維5を上記無配向状態になさしめる理由は、前記したように、押出成形された合成樹脂網体Nに含まれている極細導電繊維5が、押出時に網体成形金型61の押出流路11、21の内面からの強い剪断力を受けて押出方向Eに強制的に配列・配向されて、歪を有した状態で含有される。そして、合成樹脂網体Nが加熱により軟化して低粘度化し、極細導電繊維5が動くことが可能な状態になると、極細導電繊維5が歪をなくそうとしてランダムに3次元的方向に動いて無配向状態となり、近接して含有されていた極細導電繊維5同士がお互いに電気的に接触する機会が著しく増加すると共に、動きを抑制する軟化樹脂組成物量の少ない表面方向に動いて上記無配向状態で分散し、その後、冷却されて固定されるためである。
【0042】
そのため、加熱前に1013Ω/□以上の表面抵抗率を示した合成樹脂網体Nは、加熱により1013Ω/□未満の表面抵抗率を有する網体となって、本発明の導電性網体Aを製造することができる。一方、加熱前に1013Ω/□未満の表面抵抗率を示した合成樹脂網体Nは、加熱により、これより表面抵抗率が低下した網体となって、本発明の導電性網体Aを製造することができる。
【0043】
この加熱による表面抵抗率の低下は、1桁〜10桁の範囲でなされる。そのため、例えば、加熱前に1013Ω/□の表面抵抗率を示した合成樹脂網体Nは、加熱により104Ω/□から1012Ω/□の範囲の表面抵抗率を有する導電性網体Aとなる。望ましい表面抵抗率の低下は、縦糸1及び横糸2が加熱による切断などの不都合を生じない加熱温度範囲と加熱時間にする必要があることから、3桁〜9桁の範囲である。
【0044】
そして、合成樹脂網体Nの加熱により上記加熱温度範囲又は/及び上記加熱粘度範囲になる部分が表面又は/及び表面近傍のみであれば、極細導電繊維5は図2の(4)(5)(6)(7)(8)(9)に示すような分散状態となり、表面は表面抵抗率が低下するが、内部は押出状態の配列・配向を維持した合成樹脂網体Nとなる。しかし、内部まで加熱されると、表面も内部も一様に軟化・低粘度化し極細導電繊維5全体が動いて、図2の(1)(2)(3)に示すように、表面も内部も表面抵抗率が低下し、表面抵抗率も体積抵抗率も低下した導電性網体Aとすることができる。
【0045】
なお、上記製造方法の実施形態では、ネット状網体を加熱して表面抵抗率を低下させているが、合成樹脂網体Nを加熱することなく巻き取って保管し、必要に応じて該網体巻物を上記加熱温度範囲又は上記加熱粘度範囲となるように加熱された加熱室に搬入して、網体巻物全体を加熱することにより、表面抵抗率を低下させてもよい。その他、加熱方法はいかなる方法を用いても良い。
【0046】
図4は本発明の他の導電性網体の斜視図を示す。
【0047】
この図4に示す導電性網体Bは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物から成形されていて、その表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされた導電性能などを有する、角目パイプ状導電性網体である。
この角目パイプ状導電性網体Bは、形状がパイプ状であることを除いて前記角目ネット状導電性網体Aと同じであるので、同一符号を付して詳細な説明は省略する。なお、横糸2は加熱されてもパイプ形状を維持させる必要から、縦糸1の1〜8mmより太い1.5〜10.0mmにすることが好ましい。
【0048】
この角目パイプ状導電性網体Bは、導電性能などを有するパイプ状網体であるので、制電性能や導電性能を必要とするあらゆる用途に使用でき、極細導電繊維の脱落がなく長期に亘り導電性能などを有することができるものである。
【0049】
このパイプ状導電性網体Bは、前記角目ネット状導電性網体Aの製造方法おいて、筒状合成樹脂網体Pを保形サイジング62で固化して筒状合成樹脂網体Pを作製し、これを切開き冶具64で切り開くことなく、筒状のまま加熱室7にて同様に加熱することにより表面抵抗率を低下させたパイプ状導電性網体Bとする製法により容易に製造することができる。
この製法における押出成形方法、加熱温度範囲、加熱粘度範囲、加熱時間などは前記導電性網体Aの製法と同じであるので説明を省略する。
【0050】
図5は本発明の他の導電性網体の平面図、図6はその製造方法示す説明図、図7はその網体成形金型の作動状態を示す説明図である。
【0051】
図5に示す導電性網体Cは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物から形成されていて、その縦糸と横糸とが斜め方向と逆斜め方向とに斜向されて斜縦糸1aと斜横糸2aとなされ、それらの各交点3aが融着一体化された菱形の網目4aを有していて、その表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされた導電性能などを有する、菱目形状の網目を有するネット状の導電性網体である。このような菱形の網目4aを有する導電性網体Cは、四方(上下左右)からの外力に対して、菱形状網目4aが変形して外力を分散するので、外力に対してしなやかで柔軟性のある網体となっている。
【0052】
上記斜縦糸1aと斜横糸2aとは、その径が0.5〜10mmであることが好ましく、お互いの径が同じでも異なっていてもよく、その形状も丸、楕円、四角、平板などのいろいろな形状であってもよい。また、菱形の網目4aの開口寸法は、その対角線が3〜50×3〜50mmであることが好ましい。
なお、斜縦糸1aと斜横糸2aとは、延伸されていてもよいし、又は、延伸されていなくてもよい。延伸されていると、導電性網体Cの強度が向上する利点がある。この延伸倍率は限定されるものではないが、1.1〜3.0倍程度があることが好ましい。
【0053】
そして、菱目ネット状導電性網体Cの斜縦糸1aと斜横糸2aには、極細導電繊維が均一に含有されていて、該極細導電繊維は、前記導電性網体Aと同様に、その斜縦糸1aと斜横糸2aの表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有したりして、その表面抵抗率が低下させられて101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされている。
【0054】
このような菱目ネット状導電性網体Cは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物を用いた押出成形により、多数の糸状体を押出し、これを1本毎に斜めと逆斜めに変位させて斜縦糸1aと斜横糸2aになすと共に、これらの交わる箇所を融着して交点3aとなして、菱形の網目を有する菱目合成樹脂網体を成形し、その後、これを加熱することで、表面抵抗率を低下させて導電性能などを有するようになされた網体が好ましい。
【0055】
この菱目ネット状導電性網体Cに含有されている極細導電繊維の種類、分散状態、加熱により表面抵抗率が低下する理由などは前記導電性網体Aと同じであるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0056】
このような菱目ネット状導電性網体Cは、例えば図6に示す押出製造方法により製造することができる。
【0057】
まず、予め、前記した極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物を作製する。
そして、図6に示すように、該極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を、例えば特公昭34−4185号公報などに記載された公知の製造方法に供して、菱目の網目4aを有する筒状の筒状菱目合成樹脂網体Paを押出成形する。
【0058】
該方法は公知であるので簡単に説明すると、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を押出機(不図示)にて可塑化・溶融して、菱目網体成形装置6aにより、菱目形状の網目4aを有する一定直径の断面丸形状の筒状合成樹脂網体Paを押出成形する。
【0059】
この網体Paを押出成形するための菱目網体成形金型61aは、図7の説明図(底面図)にも示すように、円形状の内側金型611aと外側金型612aとよりなり、その各々の押出口の外周面及び内周面に一定間隔で凹設された縦糸押出流路11a及び横糸押出流路21aを通して糸状体を連続的に押出しつつ、内側金型611aと外側金型612aとを相互に逆方向に回転させることにより、内側金型611aより押出された糸状体を斜め方向に変位させると共に外側金型612aより押出された糸状体を逆斜め方向に変移させて斜縦糸1aと斜横糸2aとなし、さらに、縦糸押出流路11a及び横糸押出流路21aが一致した場合には各糸状体が合流して押出されて融着・一体化した交点3aとなされ、網目4aが菱形となった筒状菱目合成樹脂網体Paを押出成形することができる。
【0060】
なお、62aは網体成形金型61aより押出された丸断面形状を保持するための保形サイジングであり、少なくとも押出された筒状菱目合成樹脂網体Paの直径を有していて、図6においては同一直径となされている。この保形サイジング62aは、前記保形サイジング62と同様に、その直径が筒状菱目合成樹脂網体Paの直径よりも大きいと、筒状菱目合成樹脂網体Paは直径方向に延伸され、押出し方向への引取りによる延伸と相俟って、二軸延伸されることとなる。この二軸延伸の倍率は、直径方向と押出し方向とが共に1.1〜3.0の範囲内であることが好ましい。
【0061】
そして、この押出成形された筒状菱目合成樹脂網体Paは、扁平ロール63aで扁平になされ、引取りロール64aで引き取られつつ、切り開き冶具65aにより切り開いて、菱目形状の網目4aを有するネット状の合成樹脂網体Naとなした後に、前記と同様の、加熱室7aに導いて加熱することにより、表面抵抗率を低下させた菱目ネット状導電性網体Cを製造することができる。
【0062】
この製造方法において、筒状菱目合成樹脂網体Paを切り開いて形成された菱目合成樹脂網体Naが押出成形時に押出流路11a、21aの内面からの剪断力を受け、極細導電繊維は押出方向に強制的に配向・配列させられて歪を有した状態で含有されていて、極細導電繊維の含有量と分散性により、1013Ω/□以上の表面抵抗率を示す場合と、それ未満の表面抵抗率を示す場合とがあることは、前記合成樹脂網体Nと同様である。
【0063】
そして、この菱目合成樹脂網体Naを、前記と同様に、加熱温度範囲又は/及び加熱粘度範囲に加熱器71aで加熱された加熱室7aにて加熱することにより、極細導電繊維は歪をなくそうとして動いて、配列・配向状態からランダムな三次元方向に分散して無配向状態となり、斜縦糸1a及び斜横糸2aの表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されて、表面抵抗率が低下する。その後、冷却されて極細導電繊維が無配向状態で固定され、101Ω/□以上、1013Ω/□未満の範囲になされた本発明の菱目ネット状導電性網体Cを製造することができる。
【0064】
本実施形態の菱目ネット状導電性網体C及びその製造方法において、該網体Cを形成する熱可塑性樹脂、極細導電繊維、その分散状態、その含有量、加熱により表面抵抗率が低下する理由、加熱温度範囲、加熱粘度範囲、加熱時間などは前記導電性網体A及びその製造方法と同じであるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
なお、上記製造方法の実施形態では、ネット状網体を加熱室7aにて加熱して表面抵抗率を低下させているが、菱目合成樹脂網体Naを加熱することなく巻き取って保管し、必要に応じて該網体巻物を上記加熱温度範囲又は上記加熱粘度範囲となるように加熱された加熱室に搬入して、網体巻物全体を加熱することにより、表面抵抗率を低下させてもよい。その他、加熱方法はいかなる方法を用いても良い。
【0066】
図8は本発明の他の導電性網体の斜視図を示す。
【0067】
この図8に示す導電性網体Dは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物から成形されていて、その表面抵抗率が101Ω/□以上1013Ω/□未満となされた導電性能などを有する、菱目パイプ状導電性網体である。
この菱目パイプ状導電性網体Dは、縦糸が斜めになった斜縦糸1aであり、横糸が逆斜めになった斜横糸2aであり、これらが交差して菱目の網目4aとなったことを除いて、前記角目パイプ状導電性網体Bと同じであるので、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0068】
この菱目パイプ状導電性網体Dは、導電性能などを有するパイプ状網体であるので、制電性能や導電性能を必要とするあらゆる用途に使用でき、極細導電繊維の脱落がなく長期に亘り導電性能などを有することができるものである。
【0069】
この菱目パイプ状導電性網体Dは、前記菱目ネット状合成樹脂網体Cの製造方法おいて、筒状菱目合成樹脂網体Paを保形サイジングで固化して筒状菱目合成樹脂網体Paを作製し、これを切開き冶具で切り開くことなく、そのまま加熱室7aにて同様に加熱することにより表面抵抗率を低下させる製法により、菱目パイプ状導電性網体Dを容易に製造することができる。
この製法における、押出成形方法、加熱温度範囲、加熱粘度範囲、加熱時間などは前記導電性網体Aの製法と同じであるので説明を省略する。
【0070】
図9は本発明の他の導電性網体の平面図、図10はその製造方法示す説明図、図11は延伸される状態を示す説明図である。
【0071】
図9に示す導電性網体Eは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物から成形されて、その縦糸と横糸とが共に延伸された延伸縦糸1bと延伸横糸2bとなされていて、それらの各交点3bが連結された角目形状の網目4bを有する延伸網体であり、その表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされた、導電性能などを有するネット状の延伸された導電性網体である。そして、延伸縦糸1bと延伸横糸2bとは、その最小部分の径が0.5〜10mmであることが好ましく、お互いの径が同じでも異なっていてもよい。また、角目網目4bの開口寸法は、0.5〜150×0.5〜150mmであることが好ましい。
【0072】
このような延伸導電性網体Eは、延伸縦糸1bと延伸横糸2bとが長軸方向に延伸されているので、四方への引っ張り強度が著しく向上していて、該延伸導電性網体Eに外力が加わっても延伸縦糸1bと延伸横糸2bとが破断することがなくて、高強度の網体となされている。また、外力は各糸1b、2bにて保持されるために網目4bが崩れることがない網体となっている。
【0073】
上記極細導電繊維は、延伸縦糸1bと延伸横糸2bのそれぞれに均一に分散した状態で含有されていて、該極細導電繊維は、その延伸縦糸1bと延伸横糸2bの表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有させられていて、その表面抵抗率が低下させられて101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされていることが好ましい。
【0074】
このような延伸導電性網体Eは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物よりなる樹脂シートに開孔を形成するか、又は樹脂シートに切り目を入れて、これを二軸方向に延伸することにより形成された延伸合成樹脂網体を加熱して、表面抵抗率を低下させた導電性能などを有するようになされた網体であることが好ましい。上記延伸倍率は限定されるものではないが、好ましい延伸倍率は二軸共に1.1〜5.0である。
【0075】
この延伸導電性網体Eに使用される熱可塑性樹脂、これに含有されている極細導電繊維、その分散状態、その含有量、加熱により表面抵抗率が低下する理由などは、前記導電性網体Aと同じであるので説明を省略する。
【0076】
このような延伸導電性網体Eは、例えば図10に示す製造方法により製造することができる。
【0077】
まず、予め、前記した極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物を作製する。
そして、図10に示すように、上記極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物を、例えば特開平6−182897号公報などに記載された公知の製造方法に供して延伸合成樹脂網体Nbを製造する。
【0078】
該方法は公知であるので簡単に説明すると、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を押出機(不図示)にて可塑化・溶融して、シート押出金型71により一定厚さを有する樹脂シート72に押出成形する。そして、該樹脂シート72に、パンチング装置73を用いて、これに円形孔75を均一に間隔を空けて形成したパンチングシート74(図11の(1)参照)となした後、公知の二軸延伸装置などを用いて、押出方向と幅方向に延伸することにより、パンチングシート74を二軸延伸する。この二軸延伸により、図11の(1)(2)に示すように、円形孔75の開口間のシートが二軸方向に延伸されて延伸縦糸1b及び延伸横糸2bが形成され、4つの円形孔75の対角線の中心部分は残存して交点3bとなり、さらに円形孔75が延伸により大きく開口して角目状の網目4bとなった、延伸合成樹脂網体Nbが作製される。上記の樹脂シートの延伸倍率は、限定されるものではないが、押出方向と幅方向が共に1.1〜5.0倍であることが好ましい。
【0079】
そして、この延伸合成樹脂網体Nbを、前記合成樹脂網体Aの製造と同様に、加熱器71bで加熱された加熱室7bに導いて加熱することにより、表面抵抗率を低下させた延伸導電性網体Eとすることができる。
【0080】
この製造方法において、樹脂シート72を二軸延伸成形して作製された延伸合成樹脂網体Nbは延伸方向に剪断力を受け、これに含有されていた極細導電繊維も延伸方向に剪断力を受けて配向・配列し、歪を有した状態で分散含有され、極細導電繊維の含有量と分散性により、1013Ω/□以上の表面抵抗率を示す場合と、それ未満の表面抵抗率を示す場合とがあることは、前記合成樹脂網体Nなどと同様である。
【0081】
そして、この延伸合成樹脂網体Nbを、前記と同様に、前記加熱温度範囲又は/及び加熱粘度範囲に加熱された加熱室7bにて加熱することにより、極細導電繊維は延伸により受けた歪をなくそうとして動いて、配列・配向状態からランダムな三次元方向に分散した無配向状態となって、極細導電繊維が延伸縦糸1b及び延伸横糸2bの表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されて、表面抵抗率が低下する。その後、冷却されて極細導電繊維が上記無配向状態で固定され、101Ω/□以上、1013Ω/□未満の範囲の表面抵抗率となされた本発明の延伸導電性網体Eを製造することができる。
【0082】
本実施形態の延伸導電性網体Eの製造方法において、該網体を形成する熱可塑性樹脂、極細導電繊維、その分散状態、その含有量、加熱により表面抵抗率が低下する理由、加熱温度範囲、加熱粘度範囲、加熱時間などは前記導電性網体Aの製法と同じであるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0083】
なお、上記製造方法の実施形態では、加熱室7bにて加熱して表面抵抗率を低下させているが、延伸合成樹脂網体Nbを加熱することなく巻き取って保管し、必要に応じて該網体巻物を上記加熱温度範囲又は上記加熱粘度範囲となるように加熱された加熱室に搬入して、網体巻物全体を加熱することにより、表面抵抗率を低下させてもよい。その他、加熱方法はいかなる方法を用いても良い。
【0084】
次に、本発明の更に具体的な実施例を説明する。
【0085】
(実施例1、2、3)
市販のポリプロピレン樹脂と、直径が10〜20nmである多層カーボンナノチューブ(CNT社製)とを均一に混合して、多層カーボンナノチューブが5質量%含有された多層カーボンナノチューブ含有ポリプロピレン樹脂組成物を作製した。このポリプロピレン樹脂組成物の融点温度は172℃であった。
【0086】
この組成物を、図3に示した角目ネット状合成樹脂網体製造装置に供して、直径が345mmの円筒状の筒状角目合成樹脂網体に押出成形し、これを切り開くことにより、3×3mmの正方形の角目の網目を有し、縦糸の直径が1.0mmで横糸の直径が1.0mmである角目ネット合成樹脂網体を製造した。
【0087】
この角目ネット合成樹脂網体を縦50×横50mmに切断し、これを室内が190℃に保温されたギヤオーブン中に、1分間、3分間、5分間の間、それぞれ静置した後に、これを取り出して冷却し、実施例1、実施例2、実施例3の各導電性網体を得た。
【0088】
この多層カーボンナノチューブ含有ポリプロピレン樹脂組成物の200℃における粘度を、動的粘弾性測定装置(Pear社製Modular Compact Rheameter MCR300)にて測定したところ、剪断速度1sec−1のとき5.5×103Pa・sであった。
【0089】
(比較例1)
上記角目ネット状合成樹脂網体製造装置に供して作製した角目ネット合成樹脂網体を比較例1の網体とした。
【0090】
(比較例2)
上記角目ネット合成樹脂網体を、室内が190℃に保温されたギヤオーブン中に、30秒間静置した後に、これを取り出して冷却した網体を比較例2とした。
【0091】
これらの実施例1、2、3と比較例1、2との各網体について、三菱化学(株)製の高抵抗測定器ハイレスタUPを用いて、それぞれの表面抵抗率を測定した。その結果、実施例1は3.4×1011Ω/□、実施例2は6.2×108Ω/□、実施例3は1.5×107Ω/□の表面抵抗率をそれぞれ示し、制電性能を発揮したが、加熱されていない比較例1は1.0×1015Ω/□以上の表面抵抗率しか示さずに、制電性能も導電性能も示さなかった。このことより、合成樹脂網体成形後に加熱することにより、7桁以上も表面抵抗率が低下することがわかる。
そして、加熱時間が30秒と短時間である比較例2の網体は1.0×1015Ω/□以上の表面抵抗率を示し、その低下が十分ではなかった。これは、加熱時間を倍の1分にして表面抵抗率が低下した実施例1と比べると、網体表面が十分に加熱されていないために表面抵抗率が低下しなかったものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に係る導電性網体の平面図である。
【図2】その導電性網体の縦糸内における極細導電繊維の分散状態を示す説明図である。
【図3】本発明に係る図1に示す導電性網体の製造方法を示し、(1)は全体の工程を示す説明図、(2)(3)は押出成形された縦糸内における極細導電繊維の分散状態を示す説明図である。
【図4】本発明に係る他の導電性網体の斜視図である。
【図5】本発明に係る他の導電性網体の平面図である。
【図6】本発明に係る図5に示す導電性網体の製造方法を示す説明図である。
【図7】その製造法における網体成形金型の作動状態を示す説明図である
【図8】本発明に係るさらに他の導電性網体の斜視図である。
【図9】本発明に係るさらに他の導電性網体の平明図である。
【図10】本発明に係る図9に示す導電性網体の製造方法を示す説明図である。
【図11】網体が延伸される状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0093】
A、B、C、D、E 導電性網体
P、Pa、Pb 筒状合成樹脂網体
N、Na、Nb ネット状合成樹脂網体
1、1a、2b 縦糸
2、1a、2b 横糸
3、3a、3b 交点
4、4a、4b 網目
5 極細導電繊維
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブなどの極細導電繊維を含有する導電性網体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂に導電性フィラーを含有させた制電性樹脂組成物を押出成形して制電性樹脂板、樹脂シート、樹脂フィルムなどが作製されたり、酸化錫などの導電性フィラーを含有する制電性塗料を合成樹脂成形体の表面に塗布して制電層を形成した制電性樹脂成形体が作製されている。また、帯電防止性能を有するネットなどの網体も知られていて、例えば、ラクトン樹脂に帯電防止剤を含有させた生分解性ネット(特許文献1)、導電性樹脂を使用した滑りネット(特許文献2)、ポリエチレンオキシド系の高分子電解質を成分とする親水性ポリマーをアロイ化させて成る帯電防止性樹脂で成形された樹脂ネット(特許文献3)などが知られている。
一方、カーボンナノチューブを使用した制電性合成樹脂板も知られていて、該樹脂板はカーボンナノチューブが1本又は1束ずつに分散して制電層内に含有された透明性に優れたものである。そして、この樹脂板はカーボンナノチューブ含有塗液を塗布したフィルムを樹脂基板に重ねてプレス一体化することで製造されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開平11−275987号公報
【特許文献2】特開2003−103648号公報
【特許文献3】特開2003−211023号公報
【特許文献4】特開2004−230690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1の帯電防止剤を含有させた生分解性ネットは、該帯電防止剤が使用中に摩擦などにより脱落する恐れがあるし、帯電防止剤を多量に含有させないと必要な帯電防止性能を発揮できないが、多量に含有させると機械的強度が低下するという問題があった。また、特許文献2の導電性樹脂を使用した滑りネットは、導電性能が発揮され難く、機械的強度も十分に満足できるものではなかった。また、特許文献3の帯電防止性樹脂を使用した樹脂ネットも、導電性能が発揮され難く、機械的強度も十分に満足するものではなかった。一方、特許文献4は、制電フィルムを樹脂基板にプレスすることにより制電性合成樹脂板を得る方法であり、ネットに関する記載はないし、プレス方式ではネットを製造することはできなかった。
【0004】
本発明は上記の問題に対処するためになされたもので、その目的とするところは、カーボンナノチューブなどの極細導電繊維を含有させて、良好な制電性能乃至導電性能を発揮させる導電性網体、及びその網体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る導電性網体は、熱可塑性合成樹脂網体の縦糸及び横糸に、極細導電繊維が含有されていることを特徴とするものである。
【0006】
本発明の導電性網体において、極細導電繊維が縦糸及び/又は横糸の表面に露出するか、又は表面から突出するか、又は表面から100nm未満の内部に含有されていることも好ましい。更に、極細導電繊維を含有する縦糸及び/又は横糸の表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満であって、該表面抵抗率が網体成形後の加熱によって低下させられたものであることも好ましい。
【0007】
本発明の導電性網体の製造方法は、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物を合成樹脂網体に成形した後に、該合成樹脂網体を加熱して、表面抵抗率を低下させることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の製造方法において、合成樹脂網体の加熱により極細導電繊維を前記合成樹脂網体の縦糸及び/又は横糸の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて表面抵抗率を低下させることが好ましい。また、合成樹脂網体の加熱が、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲で行なわれることも好ましい。更に、合成樹脂網体の加熱が、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上、1.0×107Pa・s未満の範囲となる温度範囲で行われることも好ましい。また、合成樹脂網体が、二軸延伸されて成形されることも好ましい。
【0009】
本発明において、「表面抵抗率を低下させる」とは、加熱される前の合成樹脂網体の表面抵抗率が1013Ω/□以上であれば、これを1013Ω/□未満に低下させることを意味し、表面抵抗率が1013Ω/□未満であれば、これをさらに低下させることを意味する。
【0010】
また、上記極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物のガラス転移温度と融点は、該組成物の示差走査熱量を測定することにより求めることができ、ガラス転移温度は、転移前の基線の直線部分と転移領域の変曲点の接線を外挿して得られる交点の温度を示し、融点は、融解ピークの両側の最大傾斜の点で引いた接線の交点の温度を示す。
また、上記粘度は、動的粘弾性測定装置にて剪断速度1sec−1の剪断速度で得られた値を示す。
なお、上記融点は、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂合成組成物に使用される熱可塑性合成樹脂が結晶性であれば上記示差走査熱量を測定することで求めることができるが、非晶性であれば示差走査熱量で測定することができないので、合成樹脂網体の加熱は上記粘度範囲となる温度範囲でなされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の導電性網体であると、該網体の縦糸及び横糸に極細導電繊維が含有されているので、該繊維が分散してお互いが電気的に接触して制電性能乃至導電性能を発揮させることができる。この極細導電繊維は細くて長いのでお互いの電気的接触が良好に行われ制電性能乃至導電性能が十分に発揮され、更に補強効果も発揮されて、比較的細い縦糸及び横糸であっても機械的強度を高めることができて、破断され難い網体とすることができる。そして、該極細導電繊維が縦糸及び/又は横糸の表面に突出又は表面に露出しても、該繊維の他部が内部に埋め込まれているので、網体から脱落する恐れが少なく、脱落による制電性能乃至導電性能が悪くなることがないし、また、繊維の脱落による弊害をなくすこともできる。
【0012】
上記導電性網体に含有されている極細導電繊維が、縦糸及び/又は横糸の表面に露出するか、又は表面から突出すると、表面に露出又は表面から突出する極細導電繊維により直接導電路が形成されるし、また、極細導電繊維が表面から100nm未満の内部に含有されると、トンネル効果により静電気が該極細導電繊維にまで達して導電路が形成されて、表面抵抗率を101Ω/□以上、1013Ω/□未満にすることが容易になされる。この範囲の表面抵抗率であると、静電気が発生しても該網体を通して放電させることができて静電気による弊害をなくすことができるし、導電材料として電気を流すこともできる。
【0013】
さらに、極細導電繊維を含有する導電性網体の縦糸及び/又は横糸の表面抵抗率が、加熱されて低下したものであると、制電性能乃至導電性能を確実に且つ均一に発揮された網体とすることができる。
【0014】
本発明の導電性網体の製造方法であると、押出成形などにより得られた合成樹脂網体を加熱することで、その縦糸及び横糸に含有され且つ網体成形時の歪みを有している極細導電繊維が、これを固定していた合成樹脂組成物の軟化に伴い動くことが可能となり、成形時の歪みを解消しようとしてランダムに動いて無配向状態に変化し、近接して分散していた極細導電繊維同士の電気的な接触を助長して導電路をより多くし、制電性能乃至導電性能を一層発揮させた導電性網体を製造することができる。特に、上記加熱により、極細導電繊維を表面に露出させたり、表面から突出させたり、表面から100nm未満の内部に含有させたりすると、直接表面に導電路が形成することができたり、トンネル効果で導電路を確保できるので、合成樹脂網体の表面抵抗率が低下した導電性網体とすることがきわめて容易となる。このように、合成樹脂網体を加熱することで、極細導電繊維を上記状態になさしめる理由は、現時点では定かではないが、出願人は次のように推測している。
【0015】
成形された合成樹脂網体には、極細導電繊維が分散されて含有されているが、成形時、例えば押出成形の場合においては、網体成形金型の押出流路の内面からの剪断力を受けて、極細導電繊維は押出方向に強制的に配列・配向させられて歪を有した状態で含有されているし、また、延伸成形の場合においては、延伸方向に引き延ばされて剪断力を受け、極細導電繊維は延伸方向に強制的に配列・配向させられて歪を有した状態で含有されている。そのため、極細導電繊維の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと極細導電繊維同士の電気的な接触が余り得られずに、1013Ω/□以上の表面抵抗率を示すこととなる。一方、極細導電繊維の含有量が多いか又は/及び分散がよいと、極細導電繊維が例え押出方向又は延伸方向に強制的に配列・配向させられても繊維同士の電気的な接触がある程度得られて、1013Ω/□未満の表面抵抗率を示す合成樹脂網体となる。
【0016】
しかし、極細導電繊維の含有量を多くすると、該繊維の一部が内部に埋め込まれていても脱落する恐れが発生するし、コストが高くなるし、製造も困難となるし、高延伸時には破断する恐れも発生したり、脆くなって品質の低下をきたす。そのため、合成樹脂網体中の極細導電繊維の含有量をできるだけ少なくして上記問題をなくしつつ、その分散状態を良好にして表面抵抗率を低下させることが、制電制性能乃至導電性能を有する導電性網体を得るうえで好ましい。
【0017】
成形された合成樹脂網体を、成形後に加熱することにより、極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物のガラス転移温度から融点温度より30℃高い温度の温度範囲(以下、加熱温度範囲とも記す)になすか、又は/及び、該組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上、1.0×107Pa・s未満の範囲(以下、加熱粘度範囲とも記す)となる温度範囲にする。その結果、極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物が軟化して低粘度となり、含有され且つ歪を有していた極細導電繊維が、この歪を解消しようとして、該組成物の内部でランダムに3次元方向に動いて無配向状態となり、近接して含有されていた極細導電繊維同士がお互いに電気的に接触する機会が増加して導電路を多くすると共に、軟化樹脂組成物量が少なくて動きを抑制することが少ない表面方向に動いて、表面に露出するか、更に動いて表面から突出するか、又は露出乃至突出するまでは動かずに表面から100nm未満の内部にまで動いて固定された状態となるためである、と推測している。
なお、極細導電繊維は、上記各状態が混在して含有される場合があることは当然である。
【0018】
そして、極細導電繊維が表面に露出又は表面から突出すると、該極細導電繊維により直接導電路が表面に良好に形成されるし、極細導電繊維が表面から100nm未満の内部に含有されると、トンネル効果により静電気が該極細導電繊維にまで達して導電路が形成され、いずれの場合でも表面抵抗率を低下させることができる。そのため、加熱される前に1013Ω/□以上の高い表面抵抗率を示した合成樹脂網体は、加熱された後には表面抵抗率が低下して1013Ω/□未満となされた導電性網体となすことができる。また、加熱される前に1013Ω/□未満の表面抵抗率を示した合成樹脂網体は、加熱された後には該表面抵抗率がさらに低下した導電性網体となすことができる。
このように、合成樹脂網体成形後に該網体を加熱すると、極細導電繊維同士が十分に電気的に接触して表面抵抗率を低下させることができて、制電性能乃至導電性能を有する導電性網体を製造することができる。
【0019】
そして、合成樹脂網体が二軸延伸されて成形されると、縦糸及び横糸の強度が向上するので、高強度の導電性網体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は本発明の一実施形態の導電性網体の平面図、図2はこの導電性網体に含有される極細導電繊維の分散状態を示す説明図である。
【0021】
図1に示す導電性網体Aは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂からなる複数の縦糸1と横糸2とが、各交点3で融着・一体化された四角形状の角目の網目4を有するネット状の角目ネット導電性網体であり、その表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされた制電性能乃至導電性能(以下、導電性能などとも記載する)を有する網体である。このような四角網目4を有する角目ネット導電性網体Aは、四方方向(上下左右方向)からの引っ張り外力が縦糸1及び/又は横糸2に掛かるために、網目4が崩れることがない強靱な導電性網体Aとなされている。
【0022】
そして、極細導電繊維は、縦糸1と横糸2のそれぞれに均一に分散した状態で含有されている。この縦糸1と横糸2とは、その径が0.5〜10.0mmであることが好ましく、お互いの径が同じでも異なっていてもよいし、その形状も丸、楕円、四角、平板などのいろいろな形状であってもよい。また、網目4の開口寸法は、0.5〜150×0.5〜150mmであることが好ましい。
また、縦糸1及び/又は横糸2は、延伸されていてもよいし、又は、延伸されていなくてもよい。延伸されていると、延伸方向への引張り強度が良くなり、導電性網体Aの強度が向上する利点がある。この延伸倍率は限定されるものではないが、1.1〜3.0倍程度とすると該角目導電性網体Aを製造する上で好ましい。
【0023】
上記角目ネット導電性網体Aを形成する熱可塑性合成樹脂としては、例えばポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセテート、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチルビニルアセテート等のビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート結晶性または非晶質ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、芳香族ポリエステル等のエステル系樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリアセテート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ボリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、液晶ポリマー、ポリ乳酸などの生分解樹脂、オレフィン系エラストマー、これらの樹脂の共重合体樹脂、これらの樹脂の混合樹脂などが用いられる。そして、これらの樹脂には、抗酸化剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、抗菌剤、難燃剤、顔料、染料などの、各樹脂に一般に添加される添加剤が必要に応じて混合される。
これらの樹脂のなかでも、オレフィン系樹脂は軽量であるので好ましく、特にポリプロピレンは軽量で軟化温度が高くて、高温で使用される用途には極めて好適に使用される。
【0024】
また、角目ネット導電性網体Aに含有される極細導電繊維としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノワイヤー、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリル、カーボンナノコイルなどの極細長炭素繊維、白金、金、銀、ニッケル、シリコンなどの金属ナノチューブや金属ナノワイヤーなどの極細長金属繊維、酸化亜鉛などの金属酸化物ナノチューブや金属酸化物ナノワイヤーなどの金属酸化物などの極細長金属酸化物繊維などの、直径が0.3〜100nmで、長さが0.1〜20μm、好ましくは長さが0.1〜10μmの各繊維が用いられる。これらの極細導電繊維は凝集することなく均一に分散されて、お互いに電気的に接触して縦糸1及び横糸2に含有されていると、少ない含有量で導電性能などを良好に発揮させることができる。また、これらの繊維は細くて長いので、該繊維の一部が表面に露出乃至突出しても他部は各糸1、2の内部に埋設されていて、その脱落が抑制されるし、該繊維による補強効果も奏されることとなる。
なお、「凝集することなく」とは、表面を光学顕微鏡で観察して、200μm以上の凝集塊がないことを意味する。
【0025】
これらの極細導電繊維のなかで、極細長炭素繊維が好ましく、特にカーボンナノチューブが最も好ましく用いられる。該カーボンナノチューブは、繊維直径が0.3〜80nmと細く、凝集することなく分散させて、お互いに電気的に接触させることにより導電性などを良好に発揮させることができる。このカーボンナノチューブには、中心軸線の周りに直径が異なり円筒状に閉じた複数のカーボン壁を同心的に備えた多層カーボンナノチューブと、中心軸線の周りに円筒状に閉じた一層のカーボン壁を備えた単層カーボンナノチューブとがあるが、いずれのカーボンナノチューブも好ましく用いられる。そして、多層カーボンナノチューブは1本ずつ分離して分散させることができるが、単層カーボンナノチューブは現時点では1本ずつ分離して分散させることが困難で複数本が集まって束になったものを1束ずつ分離して分散させることができる。なお、単層カーボンナノチューブが1本ずつ分離して分散したものを除外するものではない。
【0026】
これらの極細導電繊維は、導電性網体Aに0.01〜20.0質量%、好ましくは0.01〜10.0質量%、更に好ましくは0.1〜7.00質量%含有され、凝集することなく均一に分散されて繊維同士が電気的に接触している。極細導電繊維の含有量が多くなり過ぎると、成形性や機械的強度が悪くなり、また繊維の一部が内部に埋め込まれていても脱落する恐れが発生するし、コストも高くなるし、網体製造もし難いし、高延伸する場合においては延伸時に破断する恐れもでてくるし、脆くなって品質の低下をきたす。そのため、出来るだけ分散を良くして、少ない含有量で表面抵抗率を良好に発揮させることが好ましい。このため、極細導電繊維の含有量は上記範囲にすることが好ましく、繊維がカーボンナノチューブであれば、これを0.01〜10.0質量%含有させ1本ずつ又は1束ずつに分離して分散させることが望ましいのである。特に、上記単層カーボンナノチューブであれば0.01〜8.0質量%、多層カーボンナノチューブであれば0.01〜10.0質量%含有させることが望ましい。
【0027】
上記極細導電繊維は、図2の縦糸1における極細導電繊維5の分散状態を示す説明図で明らかなように、導電性網体Aの縦糸1及び/又は横糸2の内部においては、凝集することなく均一に分散し且つランダムに三次元方向に向いてお互いが電気的に接触して表面抵抗率を低下させている場合(図2の(1)(2)(3)を参照)と、押出方向又は延伸方向に配列・配向して1013Ω/□以上の高い表面抵抗率を示している場合(図2の(4)(5)(6)を参照)と、押出方向又は延伸方向に緩く配列・配向してある程度接触し1013Ω/□未満の表面抵抗率を示している場合(図2(7)(8)(9)を参照)がある。
【0028】
しかし、導電性網体Aの縦糸1及び/又は横糸2の表面においては、内部とは異なり、いずれの場合であっても、図2の(1)(4)(7)に示すように、極細導電繊維5が表面にランダムに露出しているか、又は/及び、図2の(2)(5)(8)に示すように、その表面からランダムに突出しているか、又は/及び、図2の(3)(6)(9)に示すように、その表面に露出も突出もしていないが表面から100nm未満の深さtの内部に含有され、換言すれば表面から深さt(最大で100nm)までの間には極細導電繊維5が含有されずにいるか、の何れかの状態で分散していて、表面抵抗率を低下させている。即ち、表面の極細導電繊維5は配列・配向することなくランダムに三次元的に分散して、表面に露出又は/及び表面から突出又は/及び100nm未満の内部に含有され、他の繊維部分が縦糸1又は/及び横糸2の内部に埋没して固定されている。
【0029】
そして、図2の(1)(2)(3)の状態であると、表面の極細導電繊維5は内部の極細導電繊維5とも電気的に接触して導電性網体Aの全体に導電路が形成されて、縦糸1及び/又は横糸2の全体の表面抵抗率が低下して101Ω/□以上、1013Ω/□未満とされ、表面抵抗率も体積抵抗率も良好にすることができる。一方、図2の(4)(5)(6)の状態であると、表面は表面抵抗率が低下して101Ω/□以上、1013Ω/□未満とすることができるが、内部は配列・配向しお互いに接触し難いので体積抵抗率は高いものとなる。さらに、図2の(7)(8)(9)の状態であると、表面は表面抵抗率が低下して101Ω/□以上、1013Ω/□未満とすることはできるが、内部は表面抵抗率が低下せずに合成樹脂網体の値を示して1013Ω/□以上の場合と1013Ω/□未満の場合とがある。なお、これらの各状態が混在した状態で縦糸1及び/又は横糸2に含有されていてもよいことは言うまでもない。
【0030】
このように極細導電繊維5を分散させて良好な導電路を形成させるためには、凝集させずに分散度を高め、電気的な接触頻度を高める必要がある。そのために、各極細導電繊維5が絡み合うことなく1本ずつ分離した状態で、又は/及び、複数本集まって束になったものが1束ずつ分離した状態で、分散した繊維が単純に交差させて電気的に接触させることが好ましい。このように分散させると、少ない含有量であっても、広い範囲に極細導電繊維5が分散して存在し、お互いが電気的に接触して導電路を形成し、導電性能などを良好にすることができる。また、このような分散であると、極細導電繊維5の含有量を0.1〜10.0質量%と少なくしても101Ω/□以上、1013Ω/□未満の表面抵抗率とすることができる。
【0031】
この導電性網体Aのように、極細導電繊維5が縦糸1及び/又は横糸2の表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されていると、その表面抵抗率を101Ω/□以上、1013Ω/□未満に低下させることが極めて容易となる。そして、表面抵抗率が105Ω/□以上、1013Ω/□未満であると制電性能を発揮し、表面に帯電した静電気は露出又は突出している極細導電繊維5に接触し、表面及び/又は内部の極細導電繊維5、5同士が電気的に接触して形成された導電路を流れて端部にまで達し、該端部で放電して除電する。また、表面抵抗率が101Ω/□以上、105Ω/□未満であると導電性能を発揮して導電体としての作用をなし、電気を流すことができるようになる。また、極細導電繊維5が表面から100nm未満の内部に含有されていると、トンネル効果により表面に帯電した静電気が該極細導電繊維5にまで達して制電性能を発揮するし、電気が通電されるとトンネル効果で同様に内部の該極細導電繊維5にまで達して通電して導電性能を発揮し、導電体として作用する。
【0032】
このような角目ネット形状の導電性網体Aは、例えば図3に示す押出製造方法により製造することができる。
図3の(1)は全体の工程を示す説明図、(2),(3)は押出成形された合成樹脂網体の加熱前の極細導電繊維の分散状態を示す説明図である。
【0033】
まず、予め、熱可塑性合成樹脂と極細導電繊維と、必要なら押出成形に必要な上記各添加剤を、均一に混合した極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物を作製する。
【0034】
そして、該極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を、例えば特公昭43−24556号公報などに記載された公知の製造方法に供して合成樹脂網体を押出成形する。
該方法は公知であるので簡単に説明すると、図3の(1)に示すように、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を押出機(不図示)にて可塑化・溶融して、網体成形装置6により、一定の直径を有する断面丸形状の筒状合成樹脂網体Pを押出成形する。
この網体Pを押出成形するための網体成形金型61は、円形状の内側金型611と外側金型612とよりなり、外側金型612の押出口内周面に一定間隔で凹設された凹溝である縦糸押出流路11を通して縦糸1を連続的に押出しつつ、内側金型611を間欠的に上下に動かして、内側金型611を外側金型612に接触させたり離間させたりし、内側金型611が外側金型612から離間したときに生じる隙間である横糸押出流路21から横糸2を間欠的に押出して、筒状合成樹脂網体Pを押出すことができるようになされている。
【0035】
なお、62は網体成形金型61より押出された断面を保持するための保形サイジングであり、少なくとも押出された筒状合成樹脂網体Pの直径を有していて、図3においては、網体Pより大きな直径を有している。この保形サイジング62の直径が筒状合成樹脂網体Pの直径よりも大きいと、筒状合成樹脂網体Pは直径方向に延伸されることとなり、更に、押出し速度よりも引取り速度を早くすれば、押出し方向に延伸されることとなって、二軸延伸された網体とすることができる。この二軸延伸の倍率は引取り速度と保形サイジング62の直径を変更することで可変可能であるが、好ましい倍率は、製造のし易さなどを考慮すれば、共に1.1〜3.0の範囲内であることが好ましい。なお、直径方向と押出し方向との延伸倍率が異なってもよいことはいうまでもない。
【0036】
この筒状合成樹脂網体Pは、押出成形時に、網体成形金型61の押出流路11、21の内面からの、特に縦糸押出流路11からの強い剪断力を受けて、極細導電繊維5の含有量が少ないか又は/及び分散が悪いと、図3(2)に示すように、極細導電繊維5も押出方向Eに強制的に配列・配向させられて、歪を有して含有され、極細導電繊維5、5同士の電気的な接触が得られずに、1013Ω/□以上の表面抵抗率を示して導電性などは有さない。しかし、極細導電繊維5の含有量が多いか又は/及び分散がよいと、図3の(3)に示すように、極細導電繊維5が例え押出方向Eに強制的に配列・配向させられても、該繊維5同士の電気的な接触がある程度得られて、1013Ω/□未満の表面抵抗率を示し導電性などを有する。この配列・配向は、網体成形金型6の押出流路11、21の内面に接して押出される縦糸1及び横糸2の表面側ほど大きく配向させられて、大きな歪を有している。
【0037】
続いて、この筒状合成樹脂網体Pは、扁平ロール63で扁平になされ、引取ロール64で引き取りつつ、カッターなどの切開き冶具65にて筒状合成樹脂網体Pを切り開いてネット状の合成樹脂網体Nとした後に、加熱室7に導く。
【0038】
上記加熱室7は、ヒーターなどの加熱器71等により、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲(加熱温度範囲)に、好ましくは融点よりも30℃低い温度から融点よりも30℃高い温度の温度範囲に加熱して保温するか、又は/及び、前記組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上、1.0×107Pa・s未満の範囲となる粘度範囲(加熱粘度範囲)に、好ましくは1.0×104Pa・s以上から5.0×106Pa・s未満の粘度範囲となるように加熱して保温されていて、該加熱室7を通過する合成樹脂網体Nを加熱できるようになされている。
【0039】
この加熱により、前記したように、合成樹脂網体Nの縦糸1及び横糸2に含有され上記配向・配列状態の極細導電繊維5が、歪をなくそうとして軟化した縦糸1内及び横糸2内で動いて、上記配列・配向状態からランダムな三次元方向に向いた無配向状態となって、縦糸1及び横糸2の表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されて、表面抵抗率が低下して導電性能などが良くなる。その後、冷却されて極細導電繊維が無配向状態のままで固定され、101Ω/□以上1013Ω/□未満の範囲に表面抵抗率が低下した本発明の角目ネット状導電性網体Aを製造することができる。
【0040】
なお、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性樹脂が非晶質樹脂であれば、該組成物の融点温度が測定できないので、予め前記組成物の粘度が上記加熱粘度範囲となる温度範囲を事前の予備試験で調べ、この温度範囲になるように設定すればよい。また、結晶性樹脂であっても、この加熱粘度範囲となる温度範囲に設定してもよい。
また、加熱室7は全長に亘り一様に加熱させる必要はなく、後半部においては加熱器71を設けなかったり、又は積極的に冷却風などの冷媒により、加熱された合成樹脂網体Nを冷却してもよい。
【0041】
このように、合成樹脂網体Nを加熱室7にて加熱し、上記加熱温度範囲又は/及び上記加熱粘度範囲にすることで極細導電繊維5を上記無配向状態になさしめる理由は、前記したように、押出成形された合成樹脂網体Nに含まれている極細導電繊維5が、押出時に網体成形金型61の押出流路11、21の内面からの強い剪断力を受けて押出方向Eに強制的に配列・配向されて、歪を有した状態で含有される。そして、合成樹脂網体Nが加熱により軟化して低粘度化し、極細導電繊維5が動くことが可能な状態になると、極細導電繊維5が歪をなくそうとしてランダムに3次元的方向に動いて無配向状態となり、近接して含有されていた極細導電繊維5同士がお互いに電気的に接触する機会が著しく増加すると共に、動きを抑制する軟化樹脂組成物量の少ない表面方向に動いて上記無配向状態で分散し、その後、冷却されて固定されるためである。
【0042】
そのため、加熱前に1013Ω/□以上の表面抵抗率を示した合成樹脂網体Nは、加熱により1013Ω/□未満の表面抵抗率を有する網体となって、本発明の導電性網体Aを製造することができる。一方、加熱前に1013Ω/□未満の表面抵抗率を示した合成樹脂網体Nは、加熱により、これより表面抵抗率が低下した網体となって、本発明の導電性網体Aを製造することができる。
【0043】
この加熱による表面抵抗率の低下は、1桁〜10桁の範囲でなされる。そのため、例えば、加熱前に1013Ω/□の表面抵抗率を示した合成樹脂網体Nは、加熱により104Ω/□から1012Ω/□の範囲の表面抵抗率を有する導電性網体Aとなる。望ましい表面抵抗率の低下は、縦糸1及び横糸2が加熱による切断などの不都合を生じない加熱温度範囲と加熱時間にする必要があることから、3桁〜9桁の範囲である。
【0044】
そして、合成樹脂網体Nの加熱により上記加熱温度範囲又は/及び上記加熱粘度範囲になる部分が表面又は/及び表面近傍のみであれば、極細導電繊維5は図2の(4)(5)(6)(7)(8)(9)に示すような分散状態となり、表面は表面抵抗率が低下するが、内部は押出状態の配列・配向を維持した合成樹脂網体Nとなる。しかし、内部まで加熱されると、表面も内部も一様に軟化・低粘度化し極細導電繊維5全体が動いて、図2の(1)(2)(3)に示すように、表面も内部も表面抵抗率が低下し、表面抵抗率も体積抵抗率も低下した導電性網体Aとすることができる。
【0045】
なお、上記製造方法の実施形態では、ネット状網体を加熱して表面抵抗率を低下させているが、合成樹脂網体Nを加熱することなく巻き取って保管し、必要に応じて該網体巻物を上記加熱温度範囲又は上記加熱粘度範囲となるように加熱された加熱室に搬入して、網体巻物全体を加熱することにより、表面抵抗率を低下させてもよい。その他、加熱方法はいかなる方法を用いても良い。
【0046】
図4は本発明の他の導電性網体の斜視図を示す。
【0047】
この図4に示す導電性網体Bは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物から成形されていて、その表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされた導電性能などを有する、角目パイプ状導電性網体である。
この角目パイプ状導電性網体Bは、形状がパイプ状であることを除いて前記角目ネット状導電性網体Aと同じであるので、同一符号を付して詳細な説明は省略する。なお、横糸2は加熱されてもパイプ形状を維持させる必要から、縦糸1の1〜8mmより太い1.5〜10.0mmにすることが好ましい。
【0048】
この角目パイプ状導電性網体Bは、導電性能などを有するパイプ状網体であるので、制電性能や導電性能を必要とするあらゆる用途に使用でき、極細導電繊維の脱落がなく長期に亘り導電性能などを有することができるものである。
【0049】
このパイプ状導電性網体Bは、前記角目ネット状導電性網体Aの製造方法おいて、筒状合成樹脂網体Pを保形サイジング62で固化して筒状合成樹脂網体Pを作製し、これを切開き冶具64で切り開くことなく、筒状のまま加熱室7にて同様に加熱することにより表面抵抗率を低下させたパイプ状導電性網体Bとする製法により容易に製造することができる。
この製法における押出成形方法、加熱温度範囲、加熱粘度範囲、加熱時間などは前記導電性網体Aの製法と同じであるので説明を省略する。
【0050】
図5は本発明の他の導電性網体の平面図、図6はその製造方法示す説明図、図7はその網体成形金型の作動状態を示す説明図である。
【0051】
図5に示す導電性網体Cは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物から形成されていて、その縦糸と横糸とが斜め方向と逆斜め方向とに斜向されて斜縦糸1aと斜横糸2aとなされ、それらの各交点3aが融着一体化された菱形の網目4aを有していて、その表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされた導電性能などを有する、菱目形状の網目を有するネット状の導電性網体である。このような菱形の網目4aを有する導電性網体Cは、四方(上下左右)からの外力に対して、菱形状網目4aが変形して外力を分散するので、外力に対してしなやかで柔軟性のある網体となっている。
【0052】
上記斜縦糸1aと斜横糸2aとは、その径が0.5〜10mmであることが好ましく、お互いの径が同じでも異なっていてもよく、その形状も丸、楕円、四角、平板などのいろいろな形状であってもよい。また、菱形の網目4aの開口寸法は、その対角線が3〜50×3〜50mmであることが好ましい。
なお、斜縦糸1aと斜横糸2aとは、延伸されていてもよいし、又は、延伸されていなくてもよい。延伸されていると、導電性網体Cの強度が向上する利点がある。この延伸倍率は限定されるものではないが、1.1〜3.0倍程度があることが好ましい。
【0053】
そして、菱目ネット状導電性網体Cの斜縦糸1aと斜横糸2aには、極細導電繊維が均一に含有されていて、該極細導電繊維は、前記導電性網体Aと同様に、その斜縦糸1aと斜横糸2aの表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有したりして、その表面抵抗率が低下させられて101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされている。
【0054】
このような菱目ネット状導電性網体Cは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物を用いた押出成形により、多数の糸状体を押出し、これを1本毎に斜めと逆斜めに変位させて斜縦糸1aと斜横糸2aになすと共に、これらの交わる箇所を融着して交点3aとなして、菱形の網目を有する菱目合成樹脂網体を成形し、その後、これを加熱することで、表面抵抗率を低下させて導電性能などを有するようになされた網体が好ましい。
【0055】
この菱目ネット状導電性網体Cに含有されている極細導電繊維の種類、分散状態、加熱により表面抵抗率が低下する理由などは前記導電性網体Aと同じであるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0056】
このような菱目ネット状導電性網体Cは、例えば図6に示す押出製造方法により製造することができる。
【0057】
まず、予め、前記した極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物を作製する。
そして、図6に示すように、該極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を、例えば特公昭34−4185号公報などに記載された公知の製造方法に供して、菱目の網目4aを有する筒状の筒状菱目合成樹脂網体Paを押出成形する。
【0058】
該方法は公知であるので簡単に説明すると、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を押出機(不図示)にて可塑化・溶融して、菱目網体成形装置6aにより、菱目形状の網目4aを有する一定直径の断面丸形状の筒状合成樹脂網体Paを押出成形する。
【0059】
この網体Paを押出成形するための菱目網体成形金型61aは、図7の説明図(底面図)にも示すように、円形状の内側金型611aと外側金型612aとよりなり、その各々の押出口の外周面及び内周面に一定間隔で凹設された縦糸押出流路11a及び横糸押出流路21aを通して糸状体を連続的に押出しつつ、内側金型611aと外側金型612aとを相互に逆方向に回転させることにより、内側金型611aより押出された糸状体を斜め方向に変位させると共に外側金型612aより押出された糸状体を逆斜め方向に変移させて斜縦糸1aと斜横糸2aとなし、さらに、縦糸押出流路11a及び横糸押出流路21aが一致した場合には各糸状体が合流して押出されて融着・一体化した交点3aとなされ、網目4aが菱形となった筒状菱目合成樹脂網体Paを押出成形することができる。
【0060】
なお、62aは網体成形金型61aより押出された丸断面形状を保持するための保形サイジングであり、少なくとも押出された筒状菱目合成樹脂網体Paの直径を有していて、図6においては同一直径となされている。この保形サイジング62aは、前記保形サイジング62と同様に、その直径が筒状菱目合成樹脂網体Paの直径よりも大きいと、筒状菱目合成樹脂網体Paは直径方向に延伸され、押出し方向への引取りによる延伸と相俟って、二軸延伸されることとなる。この二軸延伸の倍率は、直径方向と押出し方向とが共に1.1〜3.0の範囲内であることが好ましい。
【0061】
そして、この押出成形された筒状菱目合成樹脂網体Paは、扁平ロール63aで扁平になされ、引取りロール64aで引き取られつつ、切り開き冶具65aにより切り開いて、菱目形状の網目4aを有するネット状の合成樹脂網体Naとなした後に、前記と同様の、加熱室7aに導いて加熱することにより、表面抵抗率を低下させた菱目ネット状導電性網体Cを製造することができる。
【0062】
この製造方法において、筒状菱目合成樹脂網体Paを切り開いて形成された菱目合成樹脂網体Naが押出成形時に押出流路11a、21aの内面からの剪断力を受け、極細導電繊維は押出方向に強制的に配向・配列させられて歪を有した状態で含有されていて、極細導電繊維の含有量と分散性により、1013Ω/□以上の表面抵抗率を示す場合と、それ未満の表面抵抗率を示す場合とがあることは、前記合成樹脂網体Nと同様である。
【0063】
そして、この菱目合成樹脂網体Naを、前記と同様に、加熱温度範囲又は/及び加熱粘度範囲に加熱器71aで加熱された加熱室7aにて加熱することにより、極細導電繊維は歪をなくそうとして動いて、配列・配向状態からランダムな三次元方向に分散して無配向状態となり、斜縦糸1a及び斜横糸2aの表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されて、表面抵抗率が低下する。その後、冷却されて極細導電繊維が無配向状態で固定され、101Ω/□以上、1013Ω/□未満の範囲になされた本発明の菱目ネット状導電性網体Cを製造することができる。
【0064】
本実施形態の菱目ネット状導電性網体C及びその製造方法において、該網体Cを形成する熱可塑性樹脂、極細導電繊維、その分散状態、その含有量、加熱により表面抵抗率が低下する理由、加熱温度範囲、加熱粘度範囲、加熱時間などは前記導電性網体A及びその製造方法と同じであるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
なお、上記製造方法の実施形態では、ネット状網体を加熱室7aにて加熱して表面抵抗率を低下させているが、菱目合成樹脂網体Naを加熱することなく巻き取って保管し、必要に応じて該網体巻物を上記加熱温度範囲又は上記加熱粘度範囲となるように加熱された加熱室に搬入して、網体巻物全体を加熱することにより、表面抵抗率を低下させてもよい。その他、加熱方法はいかなる方法を用いても良い。
【0066】
図8は本発明の他の導電性網体の斜視図を示す。
【0067】
この図8に示す導電性網体Dは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物から成形されていて、その表面抵抗率が101Ω/□以上1013Ω/□未満となされた導電性能などを有する、菱目パイプ状導電性網体である。
この菱目パイプ状導電性網体Dは、縦糸が斜めになった斜縦糸1aであり、横糸が逆斜めになった斜横糸2aであり、これらが交差して菱目の網目4aとなったことを除いて、前記角目パイプ状導電性網体Bと同じであるので、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0068】
この菱目パイプ状導電性網体Dは、導電性能などを有するパイプ状網体であるので、制電性能や導電性能を必要とするあらゆる用途に使用でき、極細導電繊維の脱落がなく長期に亘り導電性能などを有することができるものである。
【0069】
この菱目パイプ状導電性網体Dは、前記菱目ネット状合成樹脂網体Cの製造方法おいて、筒状菱目合成樹脂網体Paを保形サイジングで固化して筒状菱目合成樹脂網体Paを作製し、これを切開き冶具で切り開くことなく、そのまま加熱室7aにて同様に加熱することにより表面抵抗率を低下させる製法により、菱目パイプ状導電性網体Dを容易に製造することができる。
この製法における、押出成形方法、加熱温度範囲、加熱粘度範囲、加熱時間などは前記導電性網体Aの製法と同じであるので説明を省略する。
【0070】
図9は本発明の他の導電性網体の平面図、図10はその製造方法示す説明図、図11は延伸される状態を示す説明図である。
【0071】
図9に示す導電性網体Eは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物から成形されて、その縦糸と横糸とが共に延伸された延伸縦糸1bと延伸横糸2bとなされていて、それらの各交点3bが連結された角目形状の網目4bを有する延伸網体であり、その表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされた、導電性能などを有するネット状の延伸された導電性網体である。そして、延伸縦糸1bと延伸横糸2bとは、その最小部分の径が0.5〜10mmであることが好ましく、お互いの径が同じでも異なっていてもよい。また、角目網目4bの開口寸法は、0.5〜150×0.5〜150mmであることが好ましい。
【0072】
このような延伸導電性網体Eは、延伸縦糸1bと延伸横糸2bとが長軸方向に延伸されているので、四方への引っ張り強度が著しく向上していて、該延伸導電性網体Eに外力が加わっても延伸縦糸1bと延伸横糸2bとが破断することがなくて、高強度の網体となされている。また、外力は各糸1b、2bにて保持されるために網目4bが崩れることがない網体となっている。
【0073】
上記極細導電繊維は、延伸縦糸1bと延伸横糸2bのそれぞれに均一に分散した状態で含有されていて、該極細導電繊維は、その延伸縦糸1bと延伸横糸2bの表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有させられていて、その表面抵抗率が低下させられて101Ω/□以上、1013Ω/□未満となされていることが好ましい。
【0074】
このような延伸導電性網体Eは、極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物よりなる樹脂シートに開孔を形成するか、又は樹脂シートに切り目を入れて、これを二軸方向に延伸することにより形成された延伸合成樹脂網体を加熱して、表面抵抗率を低下させた導電性能などを有するようになされた網体であることが好ましい。上記延伸倍率は限定されるものではないが、好ましい延伸倍率は二軸共に1.1〜5.0である。
【0075】
この延伸導電性網体Eに使用される熱可塑性樹脂、これに含有されている極細導電繊維、その分散状態、その含有量、加熱により表面抵抗率が低下する理由などは、前記導電性網体Aと同じであるので説明を省略する。
【0076】
このような延伸導電性網体Eは、例えば図10に示す製造方法により製造することができる。
【0077】
まず、予め、前記した極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物を作製する。
そして、図10に示すように、上記極細導電繊維含有熱可塑性合成樹脂組成物を、例えば特開平6−182897号公報などに記載された公知の製造方法に供して延伸合成樹脂網体Nbを製造する。
【0078】
該方法は公知であるので簡単に説明すると、極細導電繊維含有熱可塑性樹脂組成物を押出機(不図示)にて可塑化・溶融して、シート押出金型71により一定厚さを有する樹脂シート72に押出成形する。そして、該樹脂シート72に、パンチング装置73を用いて、これに円形孔75を均一に間隔を空けて形成したパンチングシート74(図11の(1)参照)となした後、公知の二軸延伸装置などを用いて、押出方向と幅方向に延伸することにより、パンチングシート74を二軸延伸する。この二軸延伸により、図11の(1)(2)に示すように、円形孔75の開口間のシートが二軸方向に延伸されて延伸縦糸1b及び延伸横糸2bが形成され、4つの円形孔75の対角線の中心部分は残存して交点3bとなり、さらに円形孔75が延伸により大きく開口して角目状の網目4bとなった、延伸合成樹脂網体Nbが作製される。上記の樹脂シートの延伸倍率は、限定されるものではないが、押出方向と幅方向が共に1.1〜5.0倍であることが好ましい。
【0079】
そして、この延伸合成樹脂網体Nbを、前記合成樹脂網体Aの製造と同様に、加熱器71bで加熱された加熱室7bに導いて加熱することにより、表面抵抗率を低下させた延伸導電性網体Eとすることができる。
【0080】
この製造方法において、樹脂シート72を二軸延伸成形して作製された延伸合成樹脂網体Nbは延伸方向に剪断力を受け、これに含有されていた極細導電繊維も延伸方向に剪断力を受けて配向・配列し、歪を有した状態で分散含有され、極細導電繊維の含有量と分散性により、1013Ω/□以上の表面抵抗率を示す場合と、それ未満の表面抵抗率を示す場合とがあることは、前記合成樹脂網体Nなどと同様である。
【0081】
そして、この延伸合成樹脂網体Nbを、前記と同様に、前記加熱温度範囲又は/及び加熱粘度範囲に加熱された加熱室7bにて加熱することにより、極細導電繊維は延伸により受けた歪をなくそうとして動いて、配列・配向状態からランダムな三次元方向に分散した無配向状態となって、極細導電繊維が延伸縦糸1b及び延伸横糸2bの表面に露出したり、表面から突出したり、表面から100nm未満の内部に含有されて、表面抵抗率が低下する。その後、冷却されて極細導電繊維が上記無配向状態で固定され、101Ω/□以上、1013Ω/□未満の範囲の表面抵抗率となされた本発明の延伸導電性網体Eを製造することができる。
【0082】
本実施形態の延伸導電性網体Eの製造方法において、該網体を形成する熱可塑性樹脂、極細導電繊維、その分散状態、その含有量、加熱により表面抵抗率が低下する理由、加熱温度範囲、加熱粘度範囲、加熱時間などは前記導電性網体Aの製法と同じであるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0083】
なお、上記製造方法の実施形態では、加熱室7bにて加熱して表面抵抗率を低下させているが、延伸合成樹脂網体Nbを加熱することなく巻き取って保管し、必要に応じて該網体巻物を上記加熱温度範囲又は上記加熱粘度範囲となるように加熱された加熱室に搬入して、網体巻物全体を加熱することにより、表面抵抗率を低下させてもよい。その他、加熱方法はいかなる方法を用いても良い。
【0084】
次に、本発明の更に具体的な実施例を説明する。
【0085】
(実施例1、2、3)
市販のポリプロピレン樹脂と、直径が10〜20nmである多層カーボンナノチューブ(CNT社製)とを均一に混合して、多層カーボンナノチューブが5質量%含有された多層カーボンナノチューブ含有ポリプロピレン樹脂組成物を作製した。このポリプロピレン樹脂組成物の融点温度は172℃であった。
【0086】
この組成物を、図3に示した角目ネット状合成樹脂網体製造装置に供して、直径が345mmの円筒状の筒状角目合成樹脂網体に押出成形し、これを切り開くことにより、3×3mmの正方形の角目の網目を有し、縦糸の直径が1.0mmで横糸の直径が1.0mmである角目ネット合成樹脂網体を製造した。
【0087】
この角目ネット合成樹脂網体を縦50×横50mmに切断し、これを室内が190℃に保温されたギヤオーブン中に、1分間、3分間、5分間の間、それぞれ静置した後に、これを取り出して冷却し、実施例1、実施例2、実施例3の各導電性網体を得た。
【0088】
この多層カーボンナノチューブ含有ポリプロピレン樹脂組成物の200℃における粘度を、動的粘弾性測定装置(Pear社製Modular Compact Rheameter MCR300)にて測定したところ、剪断速度1sec−1のとき5.5×103Pa・sであった。
【0089】
(比較例1)
上記角目ネット状合成樹脂網体製造装置に供して作製した角目ネット合成樹脂網体を比較例1の網体とした。
【0090】
(比較例2)
上記角目ネット合成樹脂網体を、室内が190℃に保温されたギヤオーブン中に、30秒間静置した後に、これを取り出して冷却した網体を比較例2とした。
【0091】
これらの実施例1、2、3と比較例1、2との各網体について、三菱化学(株)製の高抵抗測定器ハイレスタUPを用いて、それぞれの表面抵抗率を測定した。その結果、実施例1は3.4×1011Ω/□、実施例2は6.2×108Ω/□、実施例3は1.5×107Ω/□の表面抵抗率をそれぞれ示し、制電性能を発揮したが、加熱されていない比較例1は1.0×1015Ω/□以上の表面抵抗率しか示さずに、制電性能も導電性能も示さなかった。このことより、合成樹脂網体成形後に加熱することにより、7桁以上も表面抵抗率が低下することがわかる。
そして、加熱時間が30秒と短時間である比較例2の網体は1.0×1015Ω/□以上の表面抵抗率を示し、その低下が十分ではなかった。これは、加熱時間を倍の1分にして表面抵抗率が低下した実施例1と比べると、網体表面が十分に加熱されていないために表面抵抗率が低下しなかったものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に係る導電性網体の平面図である。
【図2】その導電性網体の縦糸内における極細導電繊維の分散状態を示す説明図である。
【図3】本発明に係る図1に示す導電性網体の製造方法を示し、(1)は全体の工程を示す説明図、(2)(3)は押出成形された縦糸内における極細導電繊維の分散状態を示す説明図である。
【図4】本発明に係る他の導電性網体の斜視図である。
【図5】本発明に係る他の導電性網体の平面図である。
【図6】本発明に係る図5に示す導電性網体の製造方法を示す説明図である。
【図7】その製造法における網体成形金型の作動状態を示す説明図である
【図8】本発明に係るさらに他の導電性網体の斜視図である。
【図9】本発明に係るさらに他の導電性網体の平明図である。
【図10】本発明に係る図9に示す導電性網体の製造方法を示す説明図である。
【図11】網体が延伸される状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0093】
A、B、C、D、E 導電性網体
P、Pa、Pb 筒状合成樹脂網体
N、Na、Nb ネット状合成樹脂網体
1、1a、2b 縦糸
2、1a、2b 横糸
3、3a、3b 交点
4、4a、4b 網目
5 極細導電繊維
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成樹脂網体の縦糸及び横糸に、極細導電繊維が含有されていることを特徴とする導電性網体。
【請求項2】
極細導電繊維が、縦糸及び/又は横糸の表面に露出するか、又は表面から突出するか、又は表面から100nm未満の内部に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の導電性網体。
【請求項3】
極細導電繊維を含有する縦糸及び/又は横糸の表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満であって、該表面抵抗率が網体成形後の加熱によって低下させられたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性網体。
【請求項4】
極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物を合成樹脂網体に成形した後に、該合成樹脂網体を加熱して、表面抵抗率を低下させることを特徴とする導電性網体の製造方法。
【請求項5】
合成樹脂網体の加熱により、極細導電繊維を前記合成樹脂網体の縦糸及び/又は横糸の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて表面抵抗率を低下させることを特徴とする請求項4に記載の導電性網体の製造方法。
【請求項6】
合成樹脂網体の加熱が、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲で行なわれることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の導電性網体の製造方法。
【請求項7】
合成樹脂網体の加熱が、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上、1.0×107Pa・s未満の範囲となる温度範囲で行われることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の導電性網体の製造方法。
【請求項8】
合成樹脂網体が、二軸延伸して成形されることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれかに記載の導電性網体の製造方法。
【請求項1】
熱可塑性合成樹脂網体の縦糸及び横糸に、極細導電繊維が含有されていることを特徴とする導電性網体。
【請求項2】
極細導電繊維が、縦糸及び/又は横糸の表面に露出するか、又は表面から突出するか、又は表面から100nm未満の内部に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の導電性網体。
【請求項3】
極細導電繊維を含有する縦糸及び/又は横糸の表面抵抗率が101Ω/□以上、1013Ω/□未満であって、該表面抵抗率が網体成形後の加熱によって低下させられたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性網体。
【請求項4】
極細導電繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物を合成樹脂網体に成形した後に、該合成樹脂網体を加熱して、表面抵抗率を低下させることを特徴とする導電性網体の製造方法。
【請求項5】
合成樹脂網体の加熱により、極細導電繊維を前記合成樹脂網体の縦糸及び/又は横糸の表面に露出させるか、又はその表面から突出させるか、又はその表面から100nm未満の内部に含有させて表面抵抗率を低下させることを特徴とする請求項4に記載の導電性網体の製造方法。
【請求項6】
合成樹脂網体の加熱が、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度から融点温度よりも30℃高い温度の温度範囲で行なわれることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の導電性網体の製造方法。
【請求項7】
合成樹脂網体の加熱が、極細導電繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物の粘度が5.0×103Pa・s以上、1.0×107Pa・s未満の範囲となる温度範囲で行われることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の導電性網体の製造方法。
【請求項8】
合成樹脂網体が、二軸延伸して成形されることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれかに記載の導電性網体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−126468(P2008−126468A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312776(P2006−312776)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]