説明

導電性繊維布帛及びその製造方法

【課題】この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、優れた導電性を発揮し、しかも優れた導電性を長く維持することができる導電性繊維布帛及び該導電性繊維布帛の比較的簡単な製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この発明に係る導電性繊維布帛は、繊維表面に金属を被覆加工した捲縮のない導電性繊維を含む樹脂を、コーティング法により布帛に塗布したことを特徴とする導電性繊維布帛である。前記金属としては、銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属を用い、前記繊維としては、ポリエステル繊維またはナイロン繊維のいずれか1種または複数の繊維を用いた導電性繊維布帛である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば電磁波シールド、熱伝導体等として用いられる導電性繊維布帛及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電磁波の人体に対する影響について関心が高まっており、電子レンジなど家庭用電化製品、携帯電話、パソコン、そしてオフィスで使われている複写機など電磁波を発生すると言われている。そこで、これらの電磁波をシールドする方法として、様々な方法が提案されている。そのなかで導電性を付与したシートが電磁波シールドとして用いられていることが知られている。
【0003】
引用文献1には、基材の少なくとも片面に、極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触した電磁波シールド体が開示されている。引用文献2には、基材と、細い導電繊維から構成されて基材の少なくとも片面に形成された透明な導電層とからなり、繊維がお互いにに電気的に接触し、繊維が凝集することなく分散している導電性成形体が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1、2とも良好な導電性を得ることができるものの、極細導電繊維としてカーボンナノチューブを用いるため、コスト高になりやすいとう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−253796号公報
【特許文献2】特表2006−517485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、優れた導電性を発揮し、しかも優れた導電性を長く維持することができる導電性繊維布帛及び該導電性繊維布帛の比較的簡単な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0008】
[1]繊維表面に金属を被覆加工した捲縮のない導電性繊維を含む樹脂を、コーティング法により布帛に塗布したことを特徴とする導電性繊維布帛。
【0009】
[2]前記金属が、銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属であり、かつ前記繊維が、ポリエステル繊維またはナイロン繊維のいずれか1種または複数の繊維である前項1に記載の導電性繊維布帛。
【0010】
[3]前記導電性繊維は、繊維長が0.5mm〜10mm、太さが繊維長の1/100〜1/1000である前項1または2に記載の導電性繊維布帛。
【0011】
[4]前記樹脂は、導電性繊維を10質量%〜30質量%含む樹脂である前項1〜3のいずれか1項に記載の導電性繊維布帛。
【0012】
[5]銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属をポリエステル繊維またはナイロン繊維の表面に被覆加工した捲縮のない導電性繊維の繊維長が0.5mm〜10mm、かつ太さが繊維長の1/100〜1/1000の導電性繊維を10質量%〜30質量%含む樹脂を、コーティング法により布帛に塗布することを特徴とする導電性繊維布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
[1]の発明では、繊維表面に金属を被覆加工した捲縮のない導電性繊維を含む樹脂を、コーティング法により布帛に塗布するので、比較的簡単な生産設備を用いて導電性繊維布帛を提供することができる。
【0014】
[2]の発明では、前記金属が、銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属であり、かつ前記繊維が、ポリエステル繊維またはナイロン繊維のいずれか1種または複数の繊維であるので優れた導電性を発揮できるとともに、ポリエステル繊維とナイロン繊維は耐久性に優れるので導電性を長く維持することができる。
【0015】
[3]の発明では、前記導電性繊維は繊維長が0.5mm〜10mm、太さが繊維長の1/100〜1/1000であるので、導電性繊維同士の絡まりが抑制され、樹脂に対し均一分散することができる。しかも、コーティング法により布帛に塗布する場合、導電性繊維同士が再び絡まることを抑制するので、均一に塗布することができる。
【0016】
[4]の発明では、前記樹脂は導電性繊維を10質量%〜30質量%含むので、優れた導電性を発揮し、しかもこの優れた導電性を長く維持することができる導電性繊維布帛を提供することができる。
【0017】
[5]の発明では、銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属をポリエステル繊維またはナイロン繊維の表面に被覆加工した捲縮のない導電性繊維の繊維長が0.5mm〜10mm、かつ太さが繊維長の1/100〜1/1000の導電性繊維を10質量%〜30質量%含む樹脂を、コーティング法により布帛に塗布するため比較的簡単な方法で優れた導電性繊維布帛を製造することができる。銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属をポリエステル繊維またはナイロン繊維の表面に被覆加工した捲縮のない導電性繊維であるので、優れた導電性を発揮できるとともに、耐久性に優れ、長く導電性を維持できる導電性繊維布帛を製造することができる。捲縮のない導電性繊維の繊維長が0.5mm〜10mm、かつ太さが繊維長の1/100〜1/1000の導電性繊維であるので、導電性繊維同士の絡まりが抑制され、樹脂に対し均一分散することができ、布帛に塗布しても導電性繊維同士が再び絡まることが抑制され、均一に塗布された導電性の安定した導電性繊維布帛を製造することができる。樹脂に導電性繊維を10質量%〜30質量%含むので、優れた導電性を発揮し、しかもこの優れた導電性を長く維持することができる導電性繊維布帛を製造することができる。繊維表面に金属を被覆加工した捲縮のない導電性繊維を含む樹脂を、コーティング法により布帛に塗布するので、導電性繊維が同一方向に並ぶため比較的簡単な方法で優れた導電性繊維布帛を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の導電性繊維布帛及びその製造方法について、さらに詳しく説明する。
【0019】
本発明に使用する繊維としては、素材および形態は特に限定されない。例えば、木綿、麻、絹等の天然繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維等のような合成繊維、レ−ヨン繊維等の再生繊維からなるもの等を使用できる。なかでも、本発明においては、ポリエステル繊維及びナイロン繊維が未捲縮糸作製の点で好ましい。
【0020】
金属としては、特に限定はされないが、例えば銀、銅、ニッケル、アルミニウム、白金、スズ、及びこれらの混合物や合金などを用いることができる。なかでも、本発明においては、銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属で、銀、銅が電気伝導度が高く導電性の点で好ましい。また、被覆方法も特に限定されず、真空蒸着、電解メッキ、化学メッキなど公知の方法を挙げることができる。
【0021】
樹脂としては、導電性繊維を分散し、コーティング法によって布帛に塗布出来れば特に限定されないが、例えばウレタン樹脂、自己架橋型アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、シリコン樹脂、グリオキザール樹脂、ポリエステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ブタジエン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル−シリコン共重合体樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂(SBR)、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、イソブチレン無水マレイン酸共重合体樹脂、エチレン−スチレン−アクリレート−メタアクリレート共重合体樹脂等を挙げることができる。 該樹脂は、水に分散した水分散液として使用することができる。水との間でエマルジョン状態を形成させるのがより好ましい。なお、分散媒としては、水以外にアルコール等も使用し得るが、水が好適である。また、この水分散液に、分散剤、増粘剤などの各種添加剤を配合してもよい。本発明においては、布帛にコーティング法により固着することのできるポリエステル樹脂やウレタン樹脂が望ましい。分散させる導電性繊維の量は、10質量%〜30質量%の範囲が好ましい。10質量%を下回ると導電繊維の絡みがなくなり好ましくなく、30質量%を超えると導電繊維が分散不良となり、均一な導電性が得られなくなるので好ましくない。
【0022】
本発明に使用する導電性繊維は、捲縮のない導電性繊維が好ましい。捲縮があると樹脂を分散した場合、繊維同士が互いに絡まり易くなり、樹脂中に均一させるのが難しくなり好ましくない。さらに、繊維長は、0.5mm〜10mmの範囲が好ましい。0.5mmを下回ると導電繊維の絡みがなくなり好ましくなく、10mmを超えると導電繊維が分散不良となり、均一な導電性が得られなくなるので好ましくない。さらに、繊度は2デシテックス〜80デシテックスの範囲が好ましい。2デシテックスを下回ると導電繊維の絡みがなくなり好ましくなく、80デシテックスを超えると導電繊維が分散不良となり、均一な導電性が得られなくなるので好ましくない。
【0023】
繊維表面に金属を被覆加工した捲縮のない導電性繊維を含む樹脂を、布帛に塗布するコーティング法は、樹脂に導電性繊維を均一に分散させた溶液を作成し、公知の方法で良く、例えばナイフコーター、グラビアロールコーター、キスロールコーター、スプレー、ディップ等を挙げることができる。これらの方法で布帛に塗布し、加熱乾燥して固着する。この時の加熱処理温度は、布帛の素材にもよるが、100〜170℃の範囲とするのが好ましい。この温度での加熱処理により布帛への固着性がより高まり、導電性性能の持続的耐久性能が一段と向上する。さらに好ましくは、110〜150℃の範囲である。また、溶液に架橋剤を均一に分散させるのが好ましい。架橋剤によって樹脂の加熱乾燥後の皮膜の耐水性を向上させることができるので、洗濯などを行なったとしても持続的にその効果を一層継続することができる。
【0024】
本発明に係る導電性繊維布帛の製造方法は、銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属をポリエステル繊維またはナイロン繊維の表面に被覆加工した捲縮のない導電性繊維の繊維長が0.5mm〜10mm、かつ太さが繊維長の1/100〜1/1000の導電性繊維を10質量%〜30質量%含む樹脂を、コーティング法により布帛に塗布することを特徴とする。
【0025】
前記布帛としては、織物、編物、不織布等に限定されない。さらに素材についても特に限定されない。例えば、木綿、麻、絹等の天然繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維等のような合成繊維、レ−ヨン繊維等の再生繊維からなるもの等を好適に使用できる。あるいは、このような繊維を用いた複合化繊維、混綿等の繊維を使用した布帛が挙げられる。
【0026】
本発明に係る導電性繊維布帛の製造方法によれば、銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属をポリエステル繊維またはナイロン繊維の表面に被覆加工した捲縮のない導電性繊維の繊維長が0.5mm〜10mm、かつ太さが繊維長の1/100〜1/1000の導電性繊維を10質量%〜30質量%含む樹脂を、コーティング法により布帛に塗布するため比較的簡単な方法で優れた導電性繊維布帛を製造することができる。銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属をポリエステル繊維またはナイロン繊維の表面に被覆加工した捲縮のない導電性繊維であるので、優れた導電性を発揮できるとともに、耐久性に優れ、長く導電性を維持できる導電性繊維布帛を製造することができる。捲縮のない導電性繊維の繊維長が0.5mm〜10mm、かつ太さが繊維長の1/100〜1/1000の導電性繊維であるので、導電性繊維同士の絡まりが抑制され、樹脂に対し均一分散することができ、布帛に塗布しても導電性繊維同士が再び絡まることが抑制され、均一に塗布された導電性の安定した導電性繊維布帛を製造することができる。樹脂に導電性繊維を10質量%〜30質量%含むので、優れた導電性を発揮し、しかもこの優れた導電性を長く維持することができる導電性繊維布帛を製造することができる。繊維表面に金属を被覆加工した捲縮のない導電性繊維を含む樹脂を、コーティング法により布帛に塗布するので、導電性繊維が同一方向に並ぶため比較的簡単な方法で優れた導電性繊維布帛を製造することができる。
【実施例】
【0027】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例のものに特に限定されるものではない。なお、試験方法及び評価は次の通りである。また、実施例、比較例の一覧と結果を表1に示す。表面抵抗の評価は、10Ω/□以下を「○」とし、10Ω/□を超えるものを「×」とした。
【0028】
(分散性)
繊維を含む樹脂を、黒色の布帛(ポリエステル繊維)にコーティング法により塗布し、目視により評価した。繊維のかたまりが認められないものを「○」とし、認められるものを「×」とした。
【0029】
<実施例1>
ポリエステル製生地(目付285g/m)を用意した。次に、アクリルシリコン系バインダー樹脂(固形分25%)を1000g用意し、銅をめっきした太さ5μmで捲縮のないエステル繊維を繊維長2mmの長さにカットした導電性繊維25gを加え、良く攪拌してから、前記ポリエステル製生地に、ナイフコーターを用いてコーティングした後、150℃、15分間乾燥させ、導電性繊維布帛を得た。分散性、表面抵抗とも良好で「○」であった。
【0030】
<実施例2>
実施例1において、銀をめっきした太さ10μmで捲縮のないエステル繊維を繊維長3mmの長さにカットした導電性繊維20gを用いた以外は実施例1と同様にして導電性繊維布帛を得た。分散性、表面抵抗とも良好で「○」であった。
【0031】
<実施例3>
実施例1において、銀をめっきした太さ10μmで捲縮のないナイロン繊維を繊維長3mmの長さにカットした導電性繊維60gを用いた以外は実施例1と同様にして導電性繊維布帛を得た。分散性、表面抵抗とも良好で「○」であった。
【0032】
<実施例4>
実施例1において、銀をめっきした太さ35μmで捲縮のないエステル繊維を繊維長7mmの長さにカットした導電性繊維25gを用いた以外は実施例1と同様にして導電性繊維布帛を得た。分散性、表面抵抗とも良好で「○」であった。
【0033】
<比較例1>
実施例1において、金属を被覆していない太さ5μmで捲縮のないエステル繊維を用いた以外は実施例1と同様にして繊維布帛を得た。分散性は良好なものの、表面抵抗は「×」であった。
【0034】
<比較例2>
実施例1において、銅をめっきした太さ5μmで捲縮のあるエステル繊維を繊維長2mmの長さにカットした導電性繊維25gを用いた以外は実施例1と同様にして導電性繊維布帛を得た。分散性、表面抵抗とも「×」であった。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面に金属を被覆加工した捲縮のない導電性繊維を含む樹脂を、コーティング法により布帛に塗布したことを特徴とする導電性繊維布帛。
【請求項2】
前記金属が、銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属であり、かつ前記繊維が、ポリエステル繊維またはナイロン繊維のいずれか1種または複数の繊維である請求項1に記載の導電性繊維布帛。
【請求項3】
前記導電性繊維は、繊維長が0.5mm〜10mm、太さが繊維長の1/100〜1/1000である請求項1または2に記載の導電性繊維布帛。
【請求項4】
前記樹脂は、導電性繊維を10質量%〜30質量%含む樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性繊維布帛。
【請求項5】
銀、銅、ニッケル、アルミニウムから選ばれる1種または複数の金属をポリエステル繊維またはナイロン繊維の表面に被覆加工した捲縮のない導電性繊維の繊維長が0.5mm〜10mm、かつ太さが繊維長の1/100〜1/1000の導電性繊維を10質量%〜30質量%含む樹脂を、コーティング法により布帛に塗布することを特徴とする導電性繊維布帛の製造方法。

【公開番号】特開2012−251258(P2012−251258A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124024(P2011−124024)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】