説明

導電性繊維材料、導電性塗料、導電性繊維材料の製造方法及び面状発熱体

【課題】 適度な電気抵抗値と導電性とを有し、温度上昇よる導電性繊維材料の電気抵抗値の変化率が低く、しかも繊維材料と導電性組成物との接着性に優れた導電性繊維材料とそれを有してなる面状発熱体を提供すること。
【解決手段】 ポリウレタン100重量部、カーボンブラック30〜60重量部、及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルク30〜60重量部からなる導電性組成物を、繊維材料に被覆してなることを特徴とする導電性繊維材料。この導電性繊維材料を有することを特徴とする面状発熱体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性繊維材料、導電性塗料、導電性繊維材料の製造方法及び面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性繊維材料は、合成繊維や天然繊維などの繊維材料を基材として導電性塗料を塗布し、この繊維材料に導電性を付与することにより一般に製造されている。
【0003】
繊維材料に塗布する導電性塗料としては、例えばウレタン樹脂、セルロース樹脂、アミノアルキド系樹脂、アミノアクリル系樹脂等の樹脂(バインダー樹脂成分)と、例えばステンレス、スズ、銅、アルミニウム等の金属粉末;酸化亜鉛等の金属酸化物;二酸化チタンコーティングマイカ、シリコン、硫化コバルト等の導電性フィラー;などの導電性材料とを混合分散したものが知られている。
【0004】
しかしながら、前記金属粉末を導電性繊維材料等の導電性発熱素子等に使用すると、電気抵抗値が過度に低くなり過ぎるという問題がある。また、該金属粉末は比重が大きいので導電性塗料の貯蔵中にバインダー樹脂成分と分離して、貯蔵用容器等の底に沈降し易く、凝集もし易い。更にまた、長期間にわたって導電性塗料を貯蔵すると金属粉末が固化し、攪拌等を行っても元の状態に再分散させることが困難となる。その結果として、導電性塗料を塗布して得られる塗膜の導電性が一様になりにくいという欠点を有する。
【0005】
また、導電性材料として金属酸化物を用いると、形成される塗膜の電気抵抗値が過度に高くなり過ぎ、導電性発熱素子等に使用すると導電性が不足するという問題がある。
【0006】
一方、導電性カーボンブラックや鱗片状グラファイトカーボン等の炭素質導電性材料も導電性を付与できることが知られている。例えば、特定割合の導電性カーボンブラックと鱗片状グラファイトカーボンとを配合してなる導電性塗料は貯蔵安定性に優れ、導電性に優れた塗膜を形成できることが提案されている(特許文献1)。しかし、そこに報告されているような導電性塗料を、導電性繊維材料の導電性発熱素子等に適用するにあたっては、発熱素子への付加電圧が制限される(電気抵抗値が上がらない)という問題がある。
【0007】
そこで、本出願人は、グラファイトカーボンと、ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g未満のカーボンブラックと、を導電性物質として用いてポリウレタンとともに有機溶剤に分散(ポリウレタンは溶解)させることにより、適度な電気抵抗値と導電性とを有する導電性塗料が得られることを見いだした(特許文献2)。しかし、前記導電性塗料を使用した導電性繊維材料を面状発熱体などに用いる場合に、電源を入れた後に、温度がある程度まで上昇(加熱)すると、前記導電性繊維材料の電気抵抗値が、電源を入れる前の電気抵抗値から大きく変化してしまうという問題があり、更なる改良が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−064565
【特許文献2】WO2005/012428
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、適度な電気抵抗値と導電性とを有し、温度上昇による電気抵抗値の変化率が低く、しかも繊維材料と導電性組成物との接着性に優れた導電性繊維材料とその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、例えば200ボルトの電圧を付加する場合でも、過不足のない適度な発熱性を有する面状発熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するためにバインダー樹脂の種類、炭素質導電性材料及び各充填剤等の特性や配合組成比等について鋭意検討を重ねた結果、ポリウレタン、ある一定量のカーボンブラック及びある一定量の特定のタルクからなる導電性組成物を、繊維材料に被覆してなる導電性繊維材料が、適度な電気抵抗値と導電性及び温度上昇による電気抵抗値の変化率が低いことを見出した。また、このような導電性繊維材料においては、基材である繊維材料と導電性組成物との接着性が優れることも見出して、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、
1.ポリウレタン100重量部、カーボンブラック30〜60重量部、及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルク30〜60重量部からなる導電性組成物を、繊維材料に被覆してなることを特徴とする導電性繊維材料;
2.前記カーボンブラックが、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラックであることを特徴とする、1に記載の導電性繊維材料;
3.ポリウレタン100重量部に、カーボンブラック30〜60重量部、及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルク30〜60重量部及び溶媒500〜1500重量部を配合してなる導電性塗料;
4.前記カーボンブラックが、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラックであることを特徴とする、3に記載の導電性塗料;
5.ポリウレタン100重量部に、カーボンブラック30〜60重量部、及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルク30〜60重量部及び溶媒500〜1500重量部を配合してなる導電性塗料を、繊維材料に塗布することを特徴とする、導電性繊維材料の製造方法;
6.前記カーボンブラックが、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラックであることを特徴とする、5に記載の導電性繊維材料の製造方法;
7.1又は2に記載の導電性繊維材料を有してなることを特徴とする面状発熱体;
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
繊維材料に、それぞれ特定割合のポリウレタン、カーボンブラック及びタルクからなる導電性組成物を被覆してなる本発明の導電性繊維材料は、適度な電気抵抗値と導電性とを有し、また温度上昇による電気抵抗値の変化率が低いため、面状発熱体に適用すると過不足のない適度な発熱性と安定性を示す。また、本発明の導電性繊維材料は、繊維材料と導電性組成物との接着性に優れるため寿命が長く、面状発熱体等の発熱体の発熱素子として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の導電性繊維材料、導電性塗料、導電性繊維材料の製造方法及び面状発熱体について詳細に説明する。
【0014】
本発明の導電性繊維材料は、ポリウレタン100重量部、カーボンブラック30〜60重量部、及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルク30〜60重量部からなる導電性組成物を、繊維材料に被覆してなることを特徴とする。ここで「被覆」とは、単に繊維材料の外表面を覆うことのみならず、単繊維を撚ってなる糸などの場合は、その糸の中に導電性組成物が含浸し、糸を構成する単繊維を1本毎に被覆することをも意味する。
【0015】
本発明の導電性繊維材料の基材となる繊維材料の形状、材質、形態などは特に限定されない。例えば、短繊維、長繊維、単繊維糸、短繊維又は長繊維の集合体である糸、糸の集合体である布帛、などを用いることができる。また、繊維材料の材質は、合成繊維であっても、天然繊維であってもよい。これらの中でも、ポリエステル、ナイロン又は綿からなる糸を用いることが好ましい。ポリエステルとしてはアルキル系ポリエステル、アリール系ポリエステルなど任意のものを選択して使用することができる。ナイロンとしては、ナイロン−6、ナイロン−6,6など任意のものを使用することができる。繊維材料としての糸の形態は特に限定されないが、複数本撚り合わせて500〜1500デシテックスの範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明の導電性繊維材料を構成する導電性組成物は、ポリウレタン100重量部、カーボンブラック30〜60重量部、及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルク30〜60重量部からなる。
【0017】
前記ポリウレタンは特に限定されないが、熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーには、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系などがあり、市販又は公知の方法で調製したものを1種又は2種以上併用して用いることができる。
【0018】
前記カーボンブラックは、特に限定されず、種々のカーボンブラックが使用可能である。
前記カーボンブラックの具体例としては、アセチレンブラック;ケッチェッンブラック;チャンネルブラック;ファーネスブラック;酸化カーボン等の変性カーボン;などが挙げられるが、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gであるカーボンブラックが好ましく、ジブチルフタレート吸油量が150〜200ml/100gであるカーボンブラックがより好ましい。
カーボンブラックの使用量は、前記ポリウレタン100重量部に対して、通常、30〜60重量部、好ましくは35〜55重量部である。
【0019】
ジブチルフタレート吸油量が前記の好ましい範囲のカーボンブラックでは、温度上昇による導電性繊維材料の電気抵抗値の変化率が低く、一定電圧下において通電時に過電流が流れたり、導電性繊維材料等の導電性発熱素子等が過度に発熱したりすることを防ぐことができる。
また、前記ポリウレタン100重量部に対するカーボンブラックの使用量が30重量部未満では、導電性繊維材料、すなわち、導電性組成物の電気抵抗値が高くなり過ぎ、一定電圧下においては導電性に劣ると共に、導電性繊維材料等の導電性発熱素子として使用する際に発熱量が小さくなる傾向がある。他方、その使用量が60重量部を超えると、導電性繊維材料、すなわち、導電性組成物の電気抵抗値が低くなり過ぎ、所定の抵抗値の導電性繊維材料が得られない。
【0020】
かかるカーボンブラックの粒子径については特に制限はないが、10〜80nmの範囲のものを用いるのが好ましい。この範囲とすることにより、導電性塗料の取り扱い性に優れる。
【0021】
前記カーボンブラックの好ましい具体例(商品例)としては、例えば#3050B、#3350B(以上、三菱化学(株)社製)、シースト116HM、シーストFM、シーストFY(以上、東海カーボン(株)社製)、デンカブラック(電気化学工業(株)社製)等を挙げることができる。
【0022】
前記タルクは粉末状のタルクであり、その1次平均粒子径が1〜20μmのものからなる。1次平均粒子径が1μmより小さいと、導電性塗料の経時変化による導電性組成物の抵抗値変化率(以下、「塗料抵抗値変化率」と呼ぶことがある。)が高くなってしまう。他方、1次平均粒子径が20μmより大きい場合は、導電性塗料の経時変化による導電性組成物の抵抗値変化率(塗料抵抗値変化率)が高くなってしまい、更に繊維材料と導電性組成物との接着性に劣るものとなってしまう。タルクの1次平均粒子径は、好ましくは3〜15μmであり、より好ましくは3〜10μmである。
【0023】
1次平均粒子径が1〜20μmのタルクの好ましい具体例(商品名)としては、例えば、ミクロエース、SG−シリーズ(以上、日本タルク(株)製)、ハイトロン、ミクロライト、ハイラック(以上、竹原化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0024】
1次平均粒子径が1〜20μmのタルクの使用量は、前記ポリウレタン100重量部に対して、通常、30〜60重量部、好ましくは45〜55重量部である。1次平均粒子径が1〜20μmのタルクの使用量が30重量部未満では、温度上昇による導電性繊維材料の電気抵抗値の変化率が高くなり、また、導電性組成物の表面の平滑性に劣り(動摩擦係数が高くなり)、面状発熱体製造時に導電性繊維材料が切れてしまうなどの不具合が懸念される。他方、60重量部を超えると、導電性塗料の経時変化による導電性組成物の抵抗値変化率(塗料抵抗値変化率)が高くなってしまい、更に繊維材料と導電性組成物との接着性に劣るものとなってしまう。
【0025】
前述したような導電性組成物及び該導電性組成物が繊維材料に被覆されてなる導電性繊維材料においては、その単位長さあたりの電気抵抗値は3000〜9000Ω/cmの範囲にあることが好ましい。そのためには、繊維材料(基材)を被覆する導電性組成物の電気抵抗値は、1.0〜3.0Ω・cmの範囲にあることが好ましい。
導電性繊維材料の単位長さあたりの電気抵抗値が前記の範囲にあることにより、適正な電圧での通電が可能であり、過電流による過度な発熱を生じることがなく、また導電性に劣ることもないので発熱量も適正範囲となる。
【0026】
本発明の導電性塗料は、ポリウレタン100重量部に、カーボンブラック30〜60重量部、及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルク30〜60重量部及び溶媒500〜1500重量部を配合してなる。
【0027】
本発明の導電性塗料に用いるポリウレタン、カーボンブラック及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルクについては、前記導電性組成物の説明で述べた通りである。各構成要素の好ましい範囲、より好ましい範囲に関しても、前記導電性組成物の説明で述べた通りである。
【0028】
本発明の導電性塗料に用いる溶媒としては、ポリウレタンを溶解又は分散できるものであれば特に制限はないが、好ましい例としては以下の極性有機溶媒が挙げられる。すなわち、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記することがある)、フラン、テトラヒドロピラン、ピラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、トリオキサンなどの環状エーテル系化合物;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのジアルキルケトアミド系化合物;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのジアルキルスルホキシド系化合物;アセトン、メチルエチルケトン(以下、MEKと略記することがある)、ジエチルケトンなどのケトン系化合物;エタノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどのアルコール系化合物;ジクロロエチレン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素系化合物;などを挙げることができる。中でも環状エーテル系化合物、ケトン系化合物がより好ましく、更に好ましくはテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、メチルエチルケトンが挙げられる。これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0029】
前記溶媒の使用量は、ポリウレタン100重量部に対して、通常、500〜1500重量部、好ましくは700〜1300重量部、より好ましくは800〜1200重量部である。溶媒量が500重量部未満では、導電性塗料の粘度が高くなり過ぎて取り扱いが困難になり、他方、1500重量部を超えると、導電性塗料の粘度が低くなり過ぎて基材である繊維材料に導電性組成物が被覆されにくくなる。
【0030】
導電性塗料には前述したカーボンブラック以外のその他の導電性フィラーを、本発明の効果を損なわない程度に配合することができる(前述したタルクは導電性フィラーではない)。その他の導電性フィラーとしては、通常このような用途に使用されているものであれば特に制限されないが、無機導電性フィラーと有機導電性フィラーに大別され、下記のものが挙げられる。
【0031】
無機導電性フィラーとしては、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムなどの金属紛;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステンなどの金属酸化物;炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブなどの、前記鱗片状グラファイトカーボン及び前記カーボンブラック以外の炭素質フィラー;などが挙げられる。また、有機導電性フィラーとしては、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子;鉄フタロシアニン、フェロセンなどに代表される有機金属錯体;などが挙げられる。
【0032】
本発明の導電性塗料には、所望により可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動調整剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、架橋反応促進剤、架橋反応抑制剤など公知の各種添加剤を、本発明の効果を損なわない程度に配合することができる。
【0033】
繊維材料に導電性組成物を被覆する方法は特に限定されず、導電性組成物を溶媒に溶解させてなる導電性塗料を繊維材料に塗布する方法;導電性組成物を熱により融解し繊維材料に塗布する方法;導電性組成物を先ずシート状に成形し、それを繊維材料に巻きつけた後に熱処理する方法;などが挙げられる。これらの被覆方法の中でも、次に説明する本発明の導電性繊維材料の製造方法によるものが好ましい。
【0034】
すなわち、本発明の導電性繊維材料の製造方法は、ポリウレタン100重量部に、カーボンブラック30〜60重量部、及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルク30〜60重量部及び溶媒500〜1500重量部を配合してなる導電性塗料を、繊維材料に塗布することを特徴とする。繊維材料に導電性塗料を塗布する方法は特に限定されず、従来行われている塗装方法によって塗布することができる。より具体的には、導電性塗料を浸漬塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、各種の静電塗装、ロール塗装、刷毛塗り等の手段により繊維材料に塗布し、含浸させることができる。
【0035】
本発明の製造方法において用いられる導電性塗料に含まれるポリウレタン、カーボンブラック及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルクは、それぞれ前述と同様のものである。
【0036】
本発明の面状発熱体は、前述した本発明の導電性繊維材料を有してなることを特徴とする。かかる面状発熱体は、例えば、導電性繊維材料のうち糸状のものを、2つの電極間に延びる導電性緯糸とし、電極と略平行に延びる非導電性経糸と織布を形成させてこれを発熱層とし、発熱層及び電極の表裏面に絶縁シートからなる絶縁層を積層させることにより製造することができる。
【0037】
以下、本発明の面状発熱体を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態に係る面状発熱体の概略斜視図、図2は図1に示すII−II線に沿う要部断面図である。
【0038】
図1及び図2に示すように、本発明に係る面状発熱体2は、面状の発熱層4と、この発熱層4の両面に積層された絶縁層6とを有する。発熱層4の両側には、長手方向に沿って細長い電極8,8が形成してある。
【0039】
発熱層4としては、本実施形態では、電極8,8間に延びる導電性緯糸と、電極8,8と略平行に延びる非導電性経糸との織布が用いられる。非導電性経糸としては、例えばポリエステル繊維を樹脂溶液に浸漬し、乾燥して得られる糸などが用いられる。
【0040】
発熱層4の両側に配置される電極8,8は、特に限定されないが、本実施形態では、発熱層4を構成する導電性緯糸に接続するように編み込まれる可撓性金属線で構成される。電極8の厚みは、発熱層4と同程度であり、0.8〜1.4mm程度である。
【0041】
絶縁層6,6は、発熱層4及び電極8,8を全て被覆するように表裏面に積層される。絶縁シートの両側端10,10は、相互に熱融着される。絶縁層6の厚みは、本実施形態では、0.2〜0.5mmであり、カレンダー法などで成形される。
【0042】
なお、本発明の面状発熱体は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の形態をとることができる。
【0043】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。実施例、比較例中の「部」及び「%」は重量基準である。
【0044】
〔測定法1〕ジブチルフタレート(以下、DBPと略記することがある。)吸油量
カーボンブラックのDBP吸油量は下記の試験方法で測定した値である。
カーボンブラックの乾燥試料1.00±0.01gを平滑なガラス板上に置く。粒状の場合は、へらで適度の圧力をかけ粒を砕く。ビュレットから必要なDBP量の約1/2をガラス板上に静かに注ぎ加え、DBPを円状に均等に広げてから前記試料を少しずつDBPの上に移して分散させ、へらで小円形を描く操作で練る。へらに付着した試料は、他のへらで取り除き、更にDBP約1/3〜1/4を加え、同一操作を繰り返して混合物が均一になるようにする。終点に近くなったら1滴ずつ加えて、更に終点近くなったら1/2滴ずつ加え、全体が一つの締まった塊状となった点を終点とする。この操作は、10〜15分で終わるようにする。操作終了後3分経過してからビュレット中のDBP滴下量を読み、次式によって吸油量を算出する。
OA=(V/W)×100
(OA:吸油量(ml/100g)、V:終点までに用いたDBPの使用量(ml)、W:乾燥試料の重さ(g))
【0045】
〔測定法2〕導電性組成物の電気抵抗値
導電性組成物の電気抵抗値は下記の試験方法で測定した値である。
(1) 試験用フィルム作成
50μm厚のポリエチレンテレフタレート製フィルム上に導電性塗料を塗布し、ベーカー式アプリケーター(理学工業(株)社製)で均一な厚みのフィルムとする。それを40℃のホットプレート上で5分間乾燥させ、その後、80℃のホットプレート上で5分間乾燥させる。
(2) 電気抵抗値測定
(1)で作製した試験用フィルムを、(5cm±0.5mm)×(6cm±0.5mm)に切り取り、短辺側両端5mmをそれぞれ幅5cmのステンレス製クリップで留める。両端にあるクリップにテスターを接続し、フィルム(5cm±0.5mm)×(5cm±0.5mm)の表面電気抵抗値r(Ω)を測定する。フィルムの厚みを、厚み計で測定し、以下の式により導電性組成物の電気抵抗値ρ(Ω・cm)を算出する。
ρ=r×(T×5)/5=r×T
(ρ:導電性組成物の電気抵抗値(Ω・cm)、T:フィルムの厚み(cm)、r:表面電気抵抗値(Ω))
【0046】
〔測定法3〕導電性繊維材料の単位長さあたりの電気抵抗値
導電性繊維材料の単位長さあたりの電気抵抗値は下記の試験方法で測定した値である。
(5cm±0.5mm)間隔の電極間に導電性繊維材料をたるみのないように張り、この電極間に一定電圧を印加する。
同電極間に張り渡した導電性繊維材料の電気抵抗値R1(Ω)をテスターにて読み取り、以下の式により、導電性繊維材料の単位長さあたりの電気抵抗値R(Ω/cm)を算出する。
R=R1/L
(R:導電性繊維材料の単位長さあたりの電気抵抗値(Ω/cm)、L:導電性繊維材料の長さ(cm))
【0047】
〔測定法4〕塗料抵抗値変化率
塗料の貯蔵安定性の指標となる塗料抵抗変化率x(%)は、作成直後の塗料から作成する導電性組成物の抵抗値(R0)と室温(23℃)保管2週間後の塗料から作成する導電性組成物の抵抗値(R2)を測定法1と同様にそれぞれ求め、以下の式により算出する。
x=100×(R2−R0)/R0 (%)
【0048】
〔測定法5〕温度上昇による導電性繊維材料の電気抵抗値の変化率
温度上昇による導電性繊維材料の電気抵抗値の変化率は下記の試験方法で測定した結果である。
(5cm±0.5mm)間隔の電極間に導電性繊維材料をたるみのないように張り、同電極間に張り渡した導電性繊維材料の電気抵抗値をテスターにて読み取る(R3とする)。
次にこの電極間に一定電圧を印加して80℃にて30分間加熱し、そのときの導電性繊維材料の電気抵抗値をテスターにて読み取る(R4とする)。
以下の式により、温度上昇による導電性繊維材料の電気抵抗値の変化率y(%)を算出する。
y=100×(R4−R3)/R3 (%)
【0049】
〔測定法6〕導電性組成物の表面の平滑性(動摩擦係数)
導電性組成物の表面の平滑性を示す指標としてフィルムの動摩擦係数を用いる。測定法1にて作成した試験用フィルムを用い、JIS K 7125に準じて動摩擦係数を算出し、導電性組成物の表面の平滑性とする。
【0050】
〔測定法7〕繊維材料と導電性組成物との接着性
接着性は下記の試験方法にて判定した。
ポリエステル製の基糸に導電性組成物が被覆されている導電性繊維材料を台上に置き、その上からJIS Z 1522規格に適合した幅8mmのセロハンテープを貼り付け、その上で750gのローラーを繊維材料の長さ方向に1往復させる。その後セロハンテープをゆっくり剥がす。導電性組成物が基糸から剥がれ、セロハンテープに移った導電性組成物の量から、接着性の優劣を判断する。
○:導電性組成物がセロハンテープに移る量が全体の半分以下である。
△:導電性組成物がセロハンテープに移る量が全体の半分以上であるが、基材そのものは露出しない。
×:導電性組成物の殆どが剥がれてセロハンテープに移り、基材そのものが露出する。
【実施例1】
【0051】
ポリプロピレン製容器中でポリエステル系ポリウレタン P22SRNAT(日本ポリウレタン(株)製)100重量部をテトラヒドロフラン(以下、「THF」と略記することがある。)860重量部に溶解させた。その後、その溶液中にカーボンブラック デンカブラック(電気化学工業(株)社製:DBP吸油量180ml/100g)40重量部、タルク L−1(1次平均粒子径4.9μm:日本タルク(株)社製)50重量部を加え、更に顔料分散及び混合用としてジルコニアビーズ1000重量部を入れ、顔料分散機((株)東洋精機製作所製)で2時間振とうさせた。その後デカンテーションでジルコニアビーズを取り除き、導電性塗料を得た。
繊維材料としてポリエステル製のマルチフィラメントの糸(1100デシテックスのもの)を基糸として用い、その糸に、前記の方法で得た導電性塗料を塗布した後、乾燥し、基糸1mあたり0.04gの導電性組成物で被覆された糸、すなわち、導電性繊維材料を作製した。
作製した導電性組成物の電気抵抗値を前記〔測定法2〕で測定したところ、1.1Ω・cmであった。また作製した導電性繊維材料の単位長さあたりの電気抵抗値を前記〔測定法3〕で測定したところ、3770Ω/cmであった。また、塗料抵抗変化率を前記〔測定法4〕で測定したところ、+2.8%であった。また、温度上昇による導電性繊維材料の電気抵抗値の変化率を前記〔測定法5〕にて測定したところ、5.2%であった。また、導電性組成物の表面の平滑性(動摩擦係数)を〔測定法6〕で測定したところ、0.9であった。また、導電性組成物で被覆された糸における、ポリエステル製の基糸と導電性組成物との接着性を前記〔測定法7〕にて測定したところ、判定は○であり接着性に優れていることが分かった。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0052】
カーボンブラックとしてデンカブラックを40重量部用いる代わりに35重量部用い、タルク L−1を50重量部用いる代わりに55重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料及び導電性繊維材料を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【実施例3】
【0053】
タルク L−1を50重量部用いる代わりにSG−200(1次平均粒子径3.2μm:日本タルク(株)社製)を50重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料及び導電性繊維材料を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0054】
〔比較例1〕
カーボンブラックとしてデンカブラックを40重量部用いる代わりに90重量部用い、タルクを用いなかった他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料及び導電性繊維材料を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0055】
〔比較例2〕
タルクを用いず、THFを860重量部用いる代わりに640重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料及び導電性繊維材料を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0056】
〔比較例3〕
タルク L−1を50重量部用いる代わりに80重量部用い、THFを860重量部用いる代わりに1000重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料及び導電性繊維材料を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
〔比較例4〕
タルク L−1を50重量部用いる代わりに15重量部用い、THFを860重量部用いる代わりに700重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料及び導電性繊維材料を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0058】
〔比較例5〕
タルク L−1を50重量部用いる代わりに、タルク MSKY(1次平均粒子径25μm:日本タルク(株)社製)を50重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料及び導電性繊維材料を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0059】
〔比較例6〕
タルク L−1を50重量部用いる代わりに、分級タルク〔SG−2000(1次平均粒子径1.0μm:日本タルク(株)社製)を分級処理したもの;1次平均粒子径0.7μm〕を50重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料及び導電性繊維材料を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0060】
〔比較例7〕
タルクを用いず、カーボンブラックとしてデンカブラックを40重量部用いる代わりに、ジブチルフタレート吸油量が45ml/100gのカーボンブラックである三菱カ−ボンブラック#45Lを10重量部用い、更に、グラファイトカーボン J−CPB(日本黒鉛工業(株)社製)を90重量部用い、THFを860重量部用いる代わりに900重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料及び導電性繊維材料を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果から、カーボンブラック量が多く且つ1次平均粒子径が1〜20μmのタルクを用いなかった比較例1では、導電性組成物の電気抵抗値及び導電性繊維材料の単位長さあたりの電気抵抗値が低くなってしまった。また、1次平均粒子径が1〜20μmのタルクを用いなかった比較例2では、導電性組成物の表面の平滑性(動摩擦係数)が高くなり、更に温度上昇による導電性繊維材料の電気抵抗値の変化率が高くなってしまった。また、1次平均粒子径が1〜20μmのタルクの量が多い比較例3では、塗料抵抗値変化率が高くなり、更に繊維材料と導電性組成物との接着性に劣ってしまった。また、1次平均粒子径が1〜20μmのタルクの量が少ない比較例4では、導電性組成物の表面の平滑性に劣り(動摩擦係数が高くなり)、更に温度上昇による導電性繊維材料の電気抵抗値の変化率が高くなってしまった。また、1次平均粒子径の大きいタルクを用いた比較例5では、塗料抵抗値変化率が高くなり、更に繊維材料と導電性組成物との接着性に劣ってしまった。また、1次平均粒子径の小さい分級タルクを用いた比較例6では、塗料抵抗値変化率が高くなってしまった。また、1次平均粒子径が1〜20μmのタルクを用いず、ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g未満のカーボンブラック及び鱗片状グラファイトカーボンを用いた比較例7では、温度上昇による導電性繊維材料の電気抵抗値の変化率が高くなってしまった。
【0063】
これに対して、本発明(実施例1〜3)では、導電性組成物の電気抵抗値、導電性繊維材料の単位長さあたりの電気抵抗値が適度であり、且つ塗料抵抗値変化率や導電性組成物の表面の平滑性(動摩擦係数)が低く収まり、且つポリエステル製の基糸(繊維材料)と導電性組成物との接着性に優れ、且つ温度上昇による導電性繊維材料の電気抵抗値の変化率が低く収まっている。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の導電性繊維材料は、導電性繊維材料等の導電性発熱素子等に使用するのに好適であり、本発明の面状発熱体は、電気温布団、育苗用土壌加熱体、融雪・融氷用道路加熱体等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る面状発熱体の概略斜視図である。
【図2】図2は図1に示すII−II線に沿う要部断面図である。
【符号の説明】
【0066】
2… 面状発熱体
4… 発熱層
6… 絶縁層
8… 電極
10… 側端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン100重量部、カーボンブラック30〜60重量部、及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルク30〜60重量部からなる導電性組成物を、繊維材料に被覆してなることを特徴とする導電性繊維材料。
【請求項2】
前記カーボンブラックが、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラックであることを特徴とする、請求項1に記載の導電性繊維材料。
【請求項3】
ポリウレタン100重量部に、カーボンブラック30〜60重量部、及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルク30〜60重量部及び溶媒500〜1500重量部を配合してなる導電性塗料。
【請求項4】
前記カーボンブラックが、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラックであることを特徴とする、請求項3に記載の導電性塗料。
【請求項5】
ポリウレタン100重量部に、カーボンブラック30〜60重量部、及び1次平均粒子径が1〜20μmのタルク30〜60重量部及び溶媒500〜1500重量部を配合してなる導電性塗料を、繊維材料に塗布することを特徴とする、導電性繊維材料の製造方法。
【請求項6】
前記カーボンブラックが、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラックであることを特徴とする、請求項5に記載の導電性繊維材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の導電性繊維材料を有してなることを特徴とする面状発熱体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−84949(P2007−84949A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274034(P2005−274034)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】