説明

導電性膜の製造方法及び導電性膜

【課題】PETフィルム等の汎用高分子基板を用いた場合でも、基板上に優れた導電性と光透過性とを有する導電性膜を、簡易かつ安価に、そして生産性良く製造することができる、導電性膜の製造方法、及び、導電性膜を提供する。
【解決手段】導電性微粒子を含む有機溶媒分散体を用いて基板上に導電性膜を製造する方法であって、該製造方法は、有機溶媒分散体を基板に塗工し、パターンを有する導電性膜を形成する工程と、赤外線を照射する工程とをこの順に行うことによって基板上にパターンを有する導電性膜を形成することを特徴とする導電性膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性膜の製造方法、及び、導電性膜に関する。より詳しくは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、電子ペーパー(デジタルペーパー)等の薄型ディスプレイ、タッチパネルに好適に用いることができる導電性膜の製造方法、及び、導電性膜に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性膜は、種々の電気機器へ適用されており、特に近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、電子ペーパー(デジタルペーパー)等の薄型ディスプレイの需要が拡大しており、このような用途に適用される導電性膜としては、特に光透過性、導電性に優れるものが求められており活発に研究開発が行われている。
光透過性を有する導電性膜としては、現在では、酸化インジウム錫(ITO)が用いられることが一般的である。酸化インジウム錫により作成された導電性膜は、光透過性、導電性のバランスに優れており、通常の液晶ディスプレイ等だけではなく、例えば、タッチパネル用途等にも使用されている。しかしながら、インジウムのような希金属は高価であり、また、資源枯渇のおそれがあるため、より安価で、資源枯渇のおそれが少ない材料を用いた光透過性を有する導電性膜が求められているところであった。また、ITOの成膜には通常、スパッタリング法等が用いられているため、生産性が低い点でも改善の余地があった。
【0003】
導電性膜の形態としては、基板上に金属膜を形成させた導電性膜の形態や、酸化インジウム錫のように、光透過性と導電性を有する材料を用いた導電性膜の形態、パターンを有する導電性膜の形態等が挙げられる。基板上に金属膜を形成させた導電性膜、及び、その製造方法としては、例えば、金属粒子を含有する塗布液を基体上に成膜後、加熱処理と紫外光照射とを行うことによって、金属膜を形成する方法(例えば、特許文献1参照。)や、金属粒子と特定の構造を有する保護剤とにより構成される金属コロイド粒子を所定の割合で分散媒に混合して分散させ、その分散液を基材表面に塗布し、金属コロイド粒子を塗布した基材を室温保持して分散媒を自然乾燥により除去した後、基材を赤外線照射して加熱し、それを特定時間保持することによって、基材表面に金属膜を形成する方法(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。また、パターンを有する導電性膜として、可撓性を有するフィルム基板上に、導電性微粒子が粘着物質に分散して充填されたものを加熱しながら加圧して形成したパターンを設けた導電パターン形成フィルム(例えば、特許文献3参照。)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−207143号公報(第1、2頁)
【特許文献2】特開2008−194682号公報(第1、2頁)
【特許文献3】特開2008−124446号公報(第1、2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、安価に導電性膜を製造する方法について様々な方法が検討されている。特許文献1及び2に記載の金属膜の製造方法は、200℃以下の加熱処理温度で金属膜を形成することができるとしているが、加熱処理時間が10分〜2時間にもなっていることから、生産性良く導電性膜を製造する方法としては、工夫の余地があった。また、特許文献1及び2に記載の金属膜は、パターンが形成されていないため、光透過性に劣るものであった。特許文献3に記載の導電パターン形成フィルムは、加熱処理時に同時に加圧してパターンを形成しながら製膜することにより製造されており、加圧することによって低温での加熱で導電性を発現させることが可能であるとしている。しかしながら、この方法では、圧力を制御しながら加圧するための装置が必要であり、また、加圧する際には、形成されるフィルムへの影響を考えて急激に加圧することは無く、加熱加圧処理に時間がかかってしまうと考えられるため、生産スピードの観点から、工夫の余地があった。更には、パターンを形成したフィルムを作成しているが、より微細なパターンを形成できる方法とする改良の余地があった。
これらのことから、より簡易かつ安価に、そして高い生産スピードで光透過性を有する導電性膜を形成することができる方法が求められていた。このような課題を解決することができれば、基板の材質を選ばず、PETフィルム等の汎用性の高い高分子フィルム基板上にも低コストで簡易に、そして生産性良く光透過性を有する導電性膜を形成することが可能となるため、その技術的意義は大きいものである。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、PETフィルム等の汎用高分子基板を用いた場合でも、基板上に優れた導電性と光透過性とを有する導電性膜を、簡易かつ安価に、そして生産性良く製造することができる、導電性膜の製造方法、及び、導電性膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、汎用高分子基板を用いることができ、優れた導電性と光透過性とを有する導電性膜を製造する方法について種々検討したところ、有機溶媒分散体を基板に塗工した後に、パターンを有する導電性膜を形成する工程を行い、その後に赤外線を照射する工程を行うと、優れた導電性と光透過性とを有する導電性膜を形成することができることを見出した。この方法によると、高温での焼成を行うことなく、また、極めて短時間の焼成で導電性膜を形成することができることから、PETフィルム等の耐熱性の高くない汎用高分子基板上にも導電性膜を簡易かつ安価に、そして生産性良く形成することができることを見出し、上記課題を見事に解決できることに想到して、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、導電性微粒子を含む有機溶媒分散体を用いて基板上に導電性膜を製造する方法であって、上記製造方法は、有機溶媒分散体を基板に塗工し、パターンを有する導電性膜を形成する工程と、赤外線を照射する工程とをこの順に行うことによって基板上にパターンを有する導電性膜を形成する導電性膜の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の導電性膜の製造方法は、導電性微粒子を含む有機溶媒分散体を用いて基板上に導電性膜を製造する方法であって、有機溶媒分散体を基板に塗工するものである。このような方法では、例えば、スパッタリング法や、メッキを行う方法等と比較して、簡易、かつ低コストで製膜を行うことができ、製造コストの削減、生産性の向上等を図ることができる。以下、基板上に塗工された有機溶媒分散体の膜を「塗膜」ともいう。
【0010】
本発明の導電性膜の製造方法は、パターンを有する導電性膜を形成する工程を含むものである。このような工程を含むことにより、製造される導電性膜を導電性だけでなく、光透過性にも優れたものとすることが可能となる。そして更には、基板の収縮を抑制することも可能となる。
上記パターンを有する導電性膜の形成方法としては、パターンを有する膜を製造する際に通常用いられる方法であれば特に制限されるものではないが、例えば、導電性物質を含有する導電性ペーストをスクリーン印刷する方法、導電性物質の有機溶媒分散体に水を添加してW/O型乳濁液を調製し、その乳濁液をスプレッディング、スピンコーティング、ディッピング等により基板に塗布し、有機溶媒を蒸発させる方法、特許文献3のように、金属又は半導体の粉体又は微粒子が分散して充填された導電性ペーストを加熱しながら加圧してパターンを形成する方法、塗工された有機溶媒分散体を塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させる工程を含む自己組織化法等が挙げられる。これらの中でも、線幅、網目の細かい網目状のパターンを有する導電性膜を形成することができることから、自己組織化法が最も好ましい。このように、パターンを有する導電性膜を形成する工程が、基板に塗工された有機溶媒分散体を、塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させる工程を含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。なお、自己組織化法の詳細については、後述する。
【0011】
上記自己組織化法が本発明のパターンを有する導電性膜を形成する工程として最も好ましいのは、上述した理由の他、次のような事も挙げられる。本発明の導電性膜の製造方法においては、後述する通りパターンを有する導電性膜を形成する工程の後に赤外線を照射する工程(赤外線焼成工程)を行うことになるが、該赤外線焼成工程においては、焼成に必要なエネルギーが赤外線によって導電性微粒子のパターン部に与えられ加熱されることとなる。その際、自己組織化法によって形成されたパターンは線幅、網目が細かいために、熱が逃げ易く、短時間に強い赤外線を照射しても基板への熱の伝導が充分に抑えられることとなる。これによって、基板としてPETフィルム等の耐熱性の高くない汎用高分子を用いたとしても、焼成工程における基板へのダメージを少なくすることができ、基板の収縮が生じることなく充分な導電性を発現する導電性膜を形成することが可能となる。これに対して、特許文献3の製造方法は、基板に金型が押し付けられた状態でパターン形成、及び、加熱が行われるものであるため、焼成を赤外線焼成により行ったとしても、基板への熱の伝導を充分に抑えることは困難であり、焼成工程における基板へのダメージを少なくすることは難しいといえるものである。
また、基板としてPETフィルム等の耐熱性の高くない高分子基板を用いた場合に、ぬれ性の良い有機溶媒を含む有機溶媒分散体を塗工すると、基板と導電性微粒子とがより接触することとなる、更には、導電性微粒子が赤外線により加熱され、その熱が基板に伝わることで基板が局部的にわずかに溶融し導電性微粒子と基板とが若干混合する部分が現れるようになる。これらによって、基板との密着性に優れた導電性膜とすることが可能となる。
【0012】
本発明の導電性膜の製造方法は、赤外線を照射する工程を含むものである。本発明の導電性膜の製造方法においては、導電性膜の製膜を赤外線照射により行うために、高温で焼成する工程を行うことなく、また、照射時間も高温で焼成する際に通常必要とされる焼成時間に比べて極めて短時間であることから、導電性膜の製造全体の時間短縮に大きく寄与し、導電性膜の生産スピードを向上させることができるだけでなく、基板への熱による影響を抑えることができるため、ガラスと比較して耐熱性の低いPETフィルム等の汎用の高分子フィルムを基板として用いることができるようになる。
【0013】
上述したように、本発明の導電性膜の製造方法は、パターンを有する導電性膜を形成する工程、及び、赤外線を照射する工程を含むものであるが、パターンを有する導電性膜を形成する工程を行った後に、赤外線を照射する工程を行うことによって、基板上にパターンを有する導電性膜を形成するものである。
なお、本発明の導電性膜の製造方法は、有機溶媒分散体を基板に塗工した後に、パターンを有する導電性膜を形成する工程と、赤外線を照射する工程(赤外線焼成工程)とをこの順に行うものである限り、その他の工程を含んでいてもよいが、導電性膜を焼成する工程としては、赤外線焼成工程のみを含むことが好ましい。
【0014】
本発明の導電性膜の製造方法の赤外線照射工程において照射する赤外線としては、近赤外線、遠赤外線等も含み、通常赤外線に分類される光であれば特に制限されず、上記赤外線照射工程における照射条件は、導電性膜を形成することができるよう適宜設定すればよいが、ピーク波長としては、1〜2μmの赤外線を照射することが好ましい。1〜2μmの赤外線を用いることで効率的に塗膜が加熱され、より短時間で導電性膜を形成することができる。また、照射時間としては、0.1〜30秒であることが好ましい。照射時間が0.1〜30秒の範囲であっても、本発明における赤外線焼成においては、充分に導電性に優れた導電性膜を製造することができ、通常の高温での焼成工程をこのような短時間に行うことはできないことから、照射時間がこのような範囲である時に本発明の効果がより顕著に発揮されることとなる。より好ましくは、0.1〜10秒である。
【0015】
上記赤外線の照射方向としては、本発明の効果を奏することができれば特に制限されないが、塗膜の基板と反対側から照射することが好ましい。基板とは反対側から照射されることによって、基板よりも塗膜の方が加熱され易くなり、かつ、基板への熱は、塗膜の熱が伝導してきたものとなるため、基板の加熱を極力抑えることが可能である。
【0016】
本発明において用いられる導電性微粒子は、一般的に平均粒子径が100μm以下の導電性粒子を意味するものであり、導電性微粒子の粒子径は特に限定されるものではないが、平均粒子径が1μm以下であることが好ましい。1μm以下の平均粒子径とすることで、導電性を有する網目状線部の線幅を細くすることができ、透明導電性膜の透過部を広くすることができ、開口率が向上することとなる。これにより、透明導電性膜の透過率が向上する。導電性微粒子の平均粒子径としてより好ましくは、500nm以下であり、更に好ましくは、100nm以下であり、特に好ましくは、50nm以下であり、最も好ましくは、10nm以下である。特に、10nm以下の平均粒子径とすることにより、形成された導電性を有する網目状線部の導電率を高めることができる。また、粒子径分布としては、変動係数が30%以内であることが好ましく、より好ましくは、20%以内であり、更に好ましくは、15%以内である。
【0017】
上記導電性微粒子の平均粒子径は、TEM像(透過型電子顕微鏡観察像)、又は、SEM像(走査型電子顕微鏡観察像)により得られる数平均粒子径;粉末X線回折測定法により得られる結晶子径;X線小角散乱法等により得られる慣性半径とその散乱強度から求められる平均粒子径等を用いることができる。中でも、SEM像(走査型電子顕微鏡観察像)により得られる数平均粒子径であることが好ましい。
上記導電性微粒子の形状は、球状に限られず、例えば、楕円球状、立方体状、直方体状、ピラミッド状、針状、柱状、棒状、筒状、りん片状、板状(例えば、六角板状)等の薄片状、紐状等の形状でも好適に用いることができる。
【0018】
上記導電性微粒子は、導電性を有する物質を含有する微粒子であれば特に限定されないが、例えば、金属、導電性を有する無機酸化物、炭素系材料、炭化物系材料等の微粒子が挙げられる。金属としては、種々の金属を用いることができ、単体金属、合金、固溶体等のいずれの形態であってもよい。金属元素としては特に限定されず、例えば、白金、金、銀、銅、アルミ、クロム、コバルト、タングステン等の種々の金属元素を用いることができるが、導電性が高い金属であることが好ましい。導電性が高い金属としては、白金、金、銀及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有するものであることが好ましい。また、金属としては、化学的安定性が高い金属であることが好ましい。例えば、上述した導電性膜の製造方法を用いる場合、有機溶媒に導電性微粒子を分散させて有機溶媒を乾燥させる等の工程を経ることとなる。このような工程に対して、酸化、腐食等が生じないことが好ましい。化学的安定性が高い観点からは、上記金属は、白金、金及び銀からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有してなることが好ましい。この中でも、低コスト化の観点からは、銀を含有することが好ましい形態である。導電性を有する無機酸化物としては、酸化インジウム錫等のインジウム系酸化物、酸化亜鉛系酸化物等の透明導電性物質、導電性を有する非透明性の無機酸化物等が挙げられる。炭素系材料としては、カーボンブラック等が挙げられる。炭化物系材料としては、シリコンカーバイド、クロムカーバイド、チタンカーバイド等が挙げられる。また、用いることが可能な導電性微粒子としては、非導電性微粒子を上記導電性微粒子を形成する導電性物質(金属、導電性を有する無機酸化物、炭素系材料、炭化物系材料等)で取り囲んだ微粒子(例えば、コア「非導電性物質」、シェル「導電性物質」のコア−シェル構造を持つ微粒子)も好ましい。非導電性微粒子としては、特に限定されるものではなく、種々の物質で形成された非導電性微粒子を用いることができる。上記導電性微粒子としては、これらを単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
更に、用いることができる導電性微粒子としては、酸化銀、酸化銅等の酸化物微粒子を有機溶媒に分散させて塗工した後、塗膜を還元雰囲気に置くことで、銀、銅等の金属に還元して用いることも可能である。すなわち、上記導電性膜の製造方法は、酸化物微粒子を有機溶媒に分散させて塗工した後、還元雰囲気に置くことで、酸化物微粒子を還元する工程を含むことも好ましい形態の一つである。
【0019】
上記導電性微粒子の含有量は、有機溶媒分散体100質量%に対して、0.05〜10質量%であることが好ましい。このような範囲とすることによって、充分な導電性を有する導電性膜を得ることができる。導電性微粒子の含有量としてより好ましくは、0.1〜10質量%であり、更に好ましくは、0.2〜10質量%である。
【0020】
本発明において用いられる有機溶媒分散体は、有機溶媒に導電性微粒子が分散された分散体であり、有機溶媒、及び、導電性微粒子以外の物質を含んでいてもよい。有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、種々の有機溶媒を用いることができる。
上記有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、混合キシレン、エチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ドデシルベンゼン、フェニルキシリルエタン等のベンゼン系炭化水素等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−デカン等のパラフィン系炭化水素、アイソパー(Isopar、エクソン化学社製)等のイソパラフィン系炭化水素、1−オクテン、1−デセン等のオレフィン系炭化水素、シクロヘキサン、デカリン等のナフテン系炭化水素等の脂肪族炭化水素類;ケロシン、石油エーテル、石油ベンジン、リグロイン、工業ガソリン、コールタールナフサ、石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油や石炭由来の炭化水素混合物;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、トリクロロフルオロエタン、テトラブロモエタン、ジブロモテトラフルオロエタン、テトラフルオロジヨードエタン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、トリクロロフルオロエチレン、クロロブタン、クロロシクロヘキサン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードメタン、ジヨードメタン、ヨードホルム等のハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、オクタノール、メチルセロソルブ等のアルコール類;ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類;ハイドロフルオロエーテル等のフッ素系溶剤;二硫化炭素等が好ましい。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
このような有機溶媒は、水等と比較してぬれ性が良いため、溶媒として有機溶媒を用いることによって、基板としてPETフィルム等の耐熱性の高くない高分子基板を用いた場合に、有機溶媒分散体に含まれる導電性微粒子と基板とがより接触することとなり、基板との密着性に特に優れた導電性膜を製造することが可能となる。
【0021】
上記有機溶媒としては、疎水性の有機溶媒が好ましい。疎水性の有機溶媒を用いることによって、後述する自己組織化法において加湿雰囲気下に置いた場合に、より安定した形態で有機溶媒分散体中に水滴を取り込むことができる。また、有機溶媒としては、非極性の有機溶媒であることが好ましい。非極性であることにより、極性分子である水に溶けにくいものとなるため、塗膜に取り込まれた水滴の形態をより好適に保持することができる。非極性の有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭素数6〜10程度の芳香族炭化水素系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;脂肪族炭化水素系溶媒等を好ましく用いることができる。有機溶媒の蒸発速度、水の溶解度の点から、すなわち、比較的蒸発速度が速く、水滴が結露しやすく、かつ水と混じりにくい点からは、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等がより好ましい。上記有機溶媒としては、極性溶媒と非極性溶媒との混合溶媒であってもよい。例えば、芳香族炭化水素溶媒とケトン系溶媒との混合溶媒、芳香族炭化水素とアミド系溶媒との混合溶媒等であってもよい。
【0022】
上記有機溶媒の比重は、水の比重以下であることが好ましい。有機溶媒の比重が水の比重よりも大きい場合、後述する自己組織化法を用いた時に、塗膜表面で結露した水滴が有機溶媒分散体中に取り込まれないおそれがある。有機溶媒の比重として具体的には、室温(20℃)での比重が1.00以下であることが好ましく、0.95以下であることがより好ましく、0.90以下であることが更に好ましい。
【0023】
上記有機溶媒の粘度としては、室温(20℃)において2mPa・s以下であることが好ましい。塗工された有機溶媒分散体中に水を取り込む場合、有機溶媒の粘度が高すぎると、充分に水滴を取り込むことができないおそれがある。
【0024】
上記有機溶媒分散体は、赤外線吸収体を含むことが好ましい。上記赤外線吸収体としては、赤外線を吸収することができるものであれば特に制限されないが、例えば、酸化インジウム錫等のインジウム系酸化物、酸化亜鉛系酸化物等の無機酸化物;アゾ系、アミニウム系、アンスラキノン系、シアニン系、ジイモニウム系、ジチオール金属錯体系、スクアリリウム系、ナフタロシアニン系、フタロシアニン系等の有機色素が挙げられる。赤外線吸収体は、有機溶媒分散体を基板に塗工した際に、導電性微粒子とできるだけ均一に分散していると、赤外線照射工程を行った際に、塗膜がより均一に加熱されることとなり、導電性膜の製造方法としてより適したものとなる。一方、あまりサイズの大きすぎるナノ粒子等である場合には、導電性微粒子間で分散できない恐れがある。したがって、導電性微粒子間での分散性の観点から、上述した赤外線吸収体の中でも、有機色素が好ましい。
上記赤外線吸収体としてはこれらを単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0025】
上記有機色素としては、例えば、アゾ系、アミニウム系、アンスラキノン系、シアニン系、ジイモニウム系、ジチオール金属錯体系、スクアリリウム系、ナフタロシアニン系、フタロシアニン系等が挙げられる。これらの中でも、有機溶媒への分散性、吸収波長、吸光係数の観点からフタロシアニン系が好ましい。特開2000−26748号公報に記載されたフタロシアニン化合物は、特に分散性、吸収特性に優れ、より好ましい。
【0026】
上記赤外線吸収体の含有量は、有機溶媒分散体100質量%に対して、0.0001〜10質量%であることが好ましい。このような範囲で赤外線吸収体を含むものとすることによって、赤外線を照射した際に、短時間での照射でより充分に導電性を有する導電性膜を得ることができる。赤外線吸収体の含有量としてより好ましくは、0.0005〜5質量%である。
【0027】
上記有機溶媒分散体は、微粒子が有機溶媒中に分散するのを促進する微粒子分散剤を含有することが好ましい。微粒子分散剤を含有することによって、導電性微粒子が有機溶媒中で凝集してしまうことを防止することができ、有機溶媒分散体をより均一なものとすることが可能となる。
上記微粒子分散剤としては、導電性微粒子を有機溶媒中に分散させることができれば、特に制限されるものではないが、例えば、オクチルアミン、ヘキシルアミン、オレイルアミン等のアミン化合物;ドデカンチオール等の硫黄化合物;オレイン酸等のカルボン酸化合物;後述する水及び有機溶媒に対する両親媒性化合物;後述するバインダー等が挙げられる。これらの中でも、両親媒性化合物、バインダーであると、後述するような効果をも期待することができるために好ましい。
上記微粒子分散剤としては、これらを単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0028】
上記微粒子分散剤の含有量は、有機溶媒分散体100質量%に対して、0.001〜5質量%であることが好ましい。このような範囲よりも少ないと、有機溶媒分散体中の微粒子の凝集を充分に防止することができないおそれがある一方、多いと、形成される導電性膜の導電性が発現しなくなるおそれがある。微粒子分散剤の含有量としてより好ましくは、0.01〜3質量%である。
【0029】
上記有機溶媒分散体は、水及び有機溶媒に対する両親媒性化合物を含有することが好ましい。両親媒性化合物を含有することによって、後述する自己組織化法を用いる場合に、その界面活性機能によって、塗膜中に取り込む水滴の形状を好適な形態で保持することが容易となるため、例えば、水滴同士の凝集を制御することができ、導電性膜の網目を形成することが容易となる。両親媒性化合物としては、両親媒性低分子化合物でもよいし、両親媒性高分子化合物でもよく、特に限定されるものではない。界面活性機能をより発揮できる形態としては、両親媒性高分子化合物であることが好ましい。また、有機溶媒分散体中で塗膜中に取り込んだ水滴の形態を好適に保持するには、界面活性機能を有する化合物を用いることが好ましい。すなわち、上記有機溶媒分散体が、界面活性機能を有する化合物を含有することも本発明の好ましい形態の一つである。
【0030】
上記両親媒性化合物の含有量としては、有機溶媒分散体100質量%に対して、両親媒性化合物の含有量が0.001〜25質量%であることが好ましい。このような範囲の含有量とすることによって、パターンを有する導電性膜を形成する際に自己組織化法を用いる場合において、塗工された有機溶媒分散体中に取り込まれる水滴の形態をより安定して保持することが可能となる。0.001質量%未満である場合には、塗膜表面における水滴の成長や輸送が困難になり、開口率が低くなるおそれがある。25質量%を超えると、塗膜表面で水滴が凝集し、空孔部が充分に形成されないおそれがある。また、導電性が発現しにくくなるおそれがある。両親媒性化合物の含有量としてより好ましくは、0.001〜15質量%であり、更に好ましくは、0.001〜5質量%であり、特に好ましくは、0.003〜1質量%である。
【0031】
上記両親媒性化合物としては、親水性基と疎水性基との両方を有する化合物であることが好ましい。両親媒性化合物には、後述する自己組織化法において、基板上に塗工された有機溶媒分散体に付着した水滴が互いに融合することを防止する効果が期待される。両親媒性化合物としては、水及び有機溶媒の両方に対して親和する部分を有する化合物であれば特に限定されるものではないが、疎水性基としては、例えば、炭素数5〜20の炭化水素基、フェニル基、フェニレン基等の非極性基が挙げられる。また、親水性基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、スルホ基、エステル基、アミド基、エーテル基、ピリジン基等が挙げられる。
【0032】
上記両親媒性化合物としては、アルキル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、アルキルアンモニウムクロライド等のカチオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤、オクチルアミン、ドデシルアミン等のアルキルアミン、両親媒性高分子等が挙げられる。有機溶媒及び水への溶解性の観点からノニオン系界面活性剤、両親媒性高分子が好ましい。これらの両親媒性化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記ノニオン系界面活性剤としては、多価アルコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;アルキルグルコシド;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。これらの中でも、少ない添加量でパターンを均一に形成できることから、多価アルコール脂肪酸エステルが好ましい。
【0034】
上記多価アルコール脂肪酸エステルは、通常行われる一般的な方法により、多価アルコールと脂肪酸とをエステル結合により結合させることによって生成されるものであるが、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルが特に好ましい。
上記多価アルコール脂肪酸エステルにおいては、多価アルコール1分子に対してエステル結合する脂肪酸は、1種であっても、2種以上であってもよい。
【0035】
上記多価アルコール脂肪酸エステルとしては、具体的には、ジカプリン酸プロピレングリコール、DKエステルF−10(第一工業製薬社製)、DKエステルF−20W(第一工業製薬社製)、DKエステルF−50(第−工業製薬社製)、DKエステルF−70(第−工業製薬社製)、DKエステルF−90(第一工業製薬社製)、ソルビタントリオレート、ソルビタンセスキオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノココエート、ステアリン酸グリセリル、イソステアリン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、ステアリン酸ポリグリセリル−2、オレイン酸ポリグリセリル−2、イソステアリン酸ポリグリセリル−2、トリイソステアリン酸ポリグリセリル−2、ジイソステアリン酸ポリグリセリル−3、ステアリン酸ポリグリセリル−4、オレイン酸ポリグリセリル−4、ペンタステアリン酸ポリグリセリル−4、オレイン酸ポリグリセリル−6、トリステアリン酸ポリグリセリル−6、ジステアリン酸ポリグリセリル−10、ジイソステアリン酸ポリグリセリル−10、トリステアリン酸ポリグリセリル−10、ペンタステアリン酸ポリグリセリル−10、ペンタイソステアリン酸ポリグリセリル−10、ペンタオレイン酸ポリグリセリル−10、ヘプタステアリン酸ポリグリセリル−10、ヘプタオレイン酸ポリグリセリル−10、デカステアリン酸ポリグリセリル−10、デカイソステアリン酸ポリグリセリル−10、デカオレイン酸ポリグリセリル−10、イソステアリン酸PEG−3グリセリル、オレイン酸ポリオキシエチレン(4)グリセリル等が好適に用いられる。より好ましくは、ジイソステアリン酸ポリグリセリル−3、イソステアリン酸ポリグリセリル−2、ペンタイソステアリン酸ポリグリセリル−10、ペンタオレイン酸ポリグリセリル−10、ヘプタオレイン酸ポリグリセリル−10、オレイン酸グリセリル、オレイン酸ポリグリセリル−2、ソルビタンモノオレート、イソステアリン酸PEG−3グリセリルが用いられる。
【0036】
上記両親媒性高分子としては、ポリアクリルアミドを主鎖骨格として、側鎖に親水性基と疎水性基とを持つ高分子、疎水性(メタ)アクリレートと親水性(メタ)アクリレートとの共重合体、スチレンと親水性(メタ)アクリレートとの共重合体、スチレンと2−ビニルピリジンとの共重合体、オクタデシルイソシアネート変性ポリエチレンイミン(エポミンRP−20、日本触媒社製)のように主鎖に親水性基を持ち、側鎖に疎水性基を持つ高分子、疎水性基と親水性基とを有するポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのブロック共重合体、又は、ジクロルジフェニルスルホンとビスフェノールAのナトリウム塩との重縮合により得られ、主鎖骨格中に疎水性基であるジフェニレンジメチルメチレン基と親水性基であるジフェニレンスルホン基とを有するポリスルホン等が挙げられる。
【0037】
上記両親媒性高分子としては、重量平均分子量5000以上500,000以下のものが好ましい。重量平均分子量5000以上500,000以下の両親媒性高分子であると、後述する自己組織化法を用いて網目状パターンを有する導電性膜を形成する場合に、溶媒蒸発時にパターン構造が崩れにくくなる。より好ましくは、重量平均分子量10,000以上300,000以下のものであり、更に好ましくは、50,000以上200,000以下であり、特に好ましくは、90,000以上100,000以下である。
また、上記両親媒性高分子の数平均分子量は3000以上500,000以下であることが好ましい。数平均分子量が3000以上500,000以下の両親媒性高分子であると、後述する自己組織化法を用いて網目状パターンを有する導電性膜を形成する場合に、溶媒蒸発時にパターン構造が崩れにくくなる。両親媒性高分子の数平均分子量としては、5000以上300,000以下であることがより好ましく、10,000以上200,000以下であることが更に好ましく、20,000以上100,000以下であることが特に好ましい。
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、例えば、測定装置として、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)HLC−8120(東ソー社製)を使用し、カラムにTSK−GEL GMHXL−L(東ソー社製)を用いて、ポリスチレン換算の分子量として測定することができる。
【0038】
上記ポリアクリルアミドを主鎖骨格として、側鎖に親水性基と疎水性基とを持つ高分子としては、例えば、下記式:
【0039】
【化1】

【0040】
(式中、n及びmは、同一又は異なって、構成単位の繰り返し数を表す。)で表される(ドデシルアクリルアミド)−(ω−カルボキシヘキシルアクリルアミド)−ランダム共重合体(以下、「CAP」ともいう。)が好ましい。
式中、mに対するnの比率(n/m)としては、1〜15が好ましく、より好ましくは、2〜12であり、更に好ましくは、3〜10である。
【0041】
上記疎水性(メタ)アクリレートとしては、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
上記親水性(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル2−ヒドロキシプロピルフタレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0043】
また、上記疎水性(メタ)アクリレートの代わりに、疎水性(メタ)アクリルアミド、スチレン等の疎水性ラジカル重合性モノマーを、上記親水性(メタ)アクリレートの代わりに、親水性(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン等の親水性ラジカル重合性モノマーを用いてもよい。
疎水性(メタ)アクリレート及び親水性(メタ)アクリレートはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、異なる成分を含んでいてもよい。
【0044】
上記有機溶媒分散体は、バインダーを含むものであることが好ましい。バインダーを含むものであると、基板との密着性が向上することになる。バインダーとしては、有機溶媒に溶解する高分子であれば特に制限されないが、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアルキレングリコール系ポリマー、ポリスチレン等が挙げられる。
これらのバインダーは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
上記バインダーとしては、重量平均分子量5000以上500,000以下のものが好ましい。バインダーの重量平均分子量がこのような範囲であると、塗工された有機溶媒分散体と基板との密着性を充分なものとすることができる。より好ましくは、重量平均分子量10,000以上300,000以下のものであり、更に好ましくは、50,000以上200,000以下であり、特に好ましくは、90,000以上100,000以下である。
なお、バインダーの重量平均分子量は、例えば、上述した両親媒性高分子の重量平均分子量と同様にして測定することができる。
【0046】
上記バインダーの含有量としては、有機溶媒分散体100質量%に対して、0.001〜50質量%であることが好ましい。このような範囲の含有量とすることによって、塗工された有機溶媒分散体と基板との密着性を充分なものとすることができる。また、上述したように、バインダーとして両親媒性高分子を用いる場合には、このような範囲の含有量とすることによって、自己組織化法を用いた場合に、塗工された有機溶媒分散体中に取り込まれる水滴の形態をより安定して保持することができる。0.001質量%未満である場合には、後述する自己組織化法を用いた場合に、塗膜表面における水滴の成長や輸送が困難になり、開口率が低くなるおそれがある。50質量%を超えると、塗工性が悪くなったり、水滴の成長が充分生じずに開口率が低くなったりするおそれがある。
バインダーの含有量としてより好ましくは、0.001〜25質量%であり、更に好ましくは、0.005〜25質量%である。
【0047】
上述したように、上記有機溶媒分散体が導電性微粒子に加えて、赤外線吸収体及び両親媒性化合物を含む場合には、導電性微粒子と、赤外線吸収体と、両親媒性化合物とを60:10:30〜90:5:5の体積比で含むことが好ましい。このような範囲で有機溶媒分散体中に含有させることによって、良好なパターン形成を維持しながら、形成される導電性膜の導電性をより充分なものとすることができる。導電性微粒子と、赤外線吸収体と、両親媒性化合物との体積比としてより好ましくは、70:10:20〜90:5:5であり、更に好ましくは、75:10:15〜85:5:10である。
【0048】
上記有機溶媒分散体は、塗布前の水分含有量が10質量%以下であることが好ましい。塗布前の有機溶媒分散体中に水分が多く含有されている場合、有機溶媒分散体中の水分が表面張力により大きな水滴となり、後述する自己組織化法を用いて網目状パターンを有する導電性膜を形成する場合に、網目を細かくすることができないおそれがある。塗布前の水分含有量としてより好ましくは、5質量%以下である。
【0049】
上記有機溶媒分散体は、基板に塗工されるものである。上記基板は、特に限定されるものではなく、有機溶媒分散体を表面に塗工することができるものであればよい。上記基板としては、例えば、ガラス基板、プラスチック基板、単結晶基板、半導体基板、金属基板等の種々の基板を用いることができる。電子ペーパー(デジタルペーパー)等のディスプレイに用いる場合には、ガラス基板、透明性を有するプラスチック基板等の透明基板を基板として用いることが好適である。透明基板とは、可視光の透過率が高い基板のことであり、例えば、波長400〜700nmの可視光の透過率が50%以上であることが好ましい。より好ましくは、上記透過率が70%以上であり、更に好ましくは、80%以上である。また、ガラス基板、プラスチック基板を用いることは、低コスト化の観点からも好適である。また、電子ペーパー等の表示装置として用いる場合には、可撓性を有する基板を用いることも好ましい形態である。プラスチック基板としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のエステル系;アクリル系;シクロオレフィン系;オレフィン系;ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート等の樹脂系のフィルムが挙げられる。
【0050】
上記有機溶媒分散体を塗工する基板は、表面が親水性である基板を用いることが好ましい。上記基板の表面が親水性であることによって、水滴と基板とを接触しやすくし、空孔の貫通率を高め、空孔底面に余分な高分子・粒子膜の形成を防ぐことができるため、後述する自己組織化法を用いて網目状パターンを有する導電性膜を形成する場合に、空孔部の形状を開口率が高い導電性膜の形態とすることができる。表面が親水性である基板としては、水に対する接触角が90°以下であることが好ましい。90°以下であることによって、有機溶媒分散体中に取り込まれた水滴の形状を調整し、空孔部の形状を開口率が高い形態にすることができる。水に対する接触角の上限としてより好ましくは、60°以下であり、更に好ましくは、30°以下である。
【0051】
上記有機溶媒分散体を塗工する基板は、基板表面に親水化処理を行われたものであることが好ましい。これによれば、有機溶媒分散体中に取り込まれた水滴を好適な形状で保持することができる。また、基板表面の親水性を制御することによって、導電性膜の形状を更に制御することができる。親水化処理の方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルカリ性溶液に浸漬させる方法が好ましい。アルカリ性溶液としては、特に限定されるものではないが、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液等を好ましく用いることができる。具体的には、飽和水酸化カリウムエタノール溶液等を好ましく用いることができる。また、親水化処理の方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、UV−オゾン処理を行う方法等が挙げられる。このような方法は、基板の種類、有機溶媒分散体の種類等によって適宜好ましい方法を選択することが好ましい。また、親水化による基板の接触角は、上述した好ましい接触角の値を用いることができる。
【0052】
本発明の好適な実施形態の1つである、塗工された有機溶媒分散体を塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させる工程を含む自己組織化法について説明する。
上記自己組織化法によれば、有機溶媒を蒸発させながら、結露により生じた水滴を塗膜中に取り込むことができる。そして、有機溶媒が蒸発し、更に取り込まれた水滴を乾燥させることにより、取り込まれた水滴に対応する空孔部を形成することができる。これにより、導電性微粒子から形成された網目状線部と、空孔部とが形成される。このように、自己組織化法により網目状のパターンを有する導電性膜を製造することにより、簡易かつ低コストに、導電性と光透過性とに更に優れた網目状の導電性膜を製造することが可能となる。すなわち、本発明の導電性膜の製造方法により形成された導電性膜は、網目状線部と空孔部とによって形成された網目状の導電性膜であることが好ましい。
【0053】
上記自己組織化法は、塗工された有機溶媒分散体を、塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させる工程を含むものである。塗膜表面で結露させることは、塗膜表面付近の湿度や、塗膜表面付近の雰囲気と塗膜表面との温度差を調整することによって行うことができる。すなわち、塗膜表面で結露する条件とすればよい。本発明において、自己組織化法により網目状のパターンを有する導電性膜を形成した場合には、塗膜表面に網目状の導電性部と空孔部とが形成されることになることから、これは、図1−1に示したような機構によって、塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させることによって生じたものであることが技術的に見て明らかである。
上記のことから、上記自己組織化法は、塗工された有機溶媒を、塗膜表面で結露が生じる条件で蒸発させる工程を含むものということもできる。塗膜表面で結露が生じる条件とは、例えば、有機溶媒を蒸発させる雰囲気の露点を、塗膜表面の温度よりも高いものとする条件である。結露を生じさせる方法としては特に限定されるものではないが、例えば、塗膜表面の温度を、有機溶媒を蒸発させる雰囲気の露点以下に冷却する方法、上記有機溶媒を蒸発させる雰囲気を加湿雰囲気として、該雰囲気の露点を塗膜表面の温度より高くする方法等が好適である。これらの方法は、一つの方法で用いてもよいし、複数の方法を組み合わせて用いてもよい。複数の方法を組み合わせて行うことによって、有機溶媒を蒸発させる条件をより精密に制御することができ、導電性膜の網目状パターンの形態を調整することができる。
【0054】
上記塗膜表面の温度を、有機溶媒を蒸発させる雰囲気の露点以下に冷却する方法としては特に限定されるものではないが、冷却素子等を用いて塗膜を強制的に冷却する方法、有機溶媒の蒸発潜熱により塗膜表面温度を低くする方法等が挙げられる。また、冷却素子等を用いて塗膜を強制的に冷却する方法としては、有機溶媒分散体を塗工した基板を冷却することで、塗膜表面の温度を冷却することも好ましい。このような方法で冷却することにより、塗膜表面の温度と、有機溶媒を蒸発させる雰囲気の温度との差が大きくなるため、より簡易に結露を生じさせることができる。すなわち、塗膜表面の温度を有機溶媒を蒸発させる雰囲気の温度よりも低くすることが好ましい。例えば、ペルチェ素子等の冷却機器を用いることによって、有機溶媒分散体を塗工した基板を冷却する方法が好ましい方法の一つとして挙げられる。この方法であると、塗膜表面の温度制御と、有機溶媒を蒸発させる塗膜周囲の雰囲気の制御とを独立して行うことができるため、より精密な条件設定を行うことができる。条件をより調整することにより、製造される導電性膜の形状、透過率、導電率等を制御することができるため、種々の用途に応じて好適な形態の導電性膜を形成することが可能となる。
【0055】
上記有機溶媒を蒸発させるときに塗膜表面で結露が生じるようにするためには、加湿雰囲気とすることが好ましい。すなわち、上記有機溶媒の蒸発を行う工程は、加湿雰囲気下で有機溶媒を蒸発させる工程であることが好ましい。加湿雰囲気とすることによって、有機溶媒分散体の表面で結露が生じやすくなる。上記有機溶媒を蒸発させる際の雰囲気を加湿雰囲気として、該露点を塗膜表面の温度より高くする方法としては、有機溶媒の蒸発を行う周囲全体を加湿する方法、加湿気体を塗膜表面に吹きつける方法等が好適である。加湿雰囲気とすることによって、塗膜表面で結露が生じやすくなる。加湿気体を塗膜表面に吹きつける際には、吹きつける速度等によって、塗膜の中に取り込まれる水滴の形状、量等が変化するため、吹きつける速度を調整することによって、有機溶媒を蒸発させる条件を調整することができる。これにより、導電性膜の形状を制御することができ、その特性(光透過率、導電性等)を向上させることができる。なお、上記加湿雰囲気は、加湿されるのと同様な条件、すなわち有機溶媒分散体の塗膜表面で結露が生じるのに充分な湿度となる雰囲気であればよく、加湿されていてもよいし、湿度の高い環境下で、有機溶媒を蒸発させる工程を行ってもよい。
【0056】
上記加湿雰囲気は、相対湿度が50%以上であることが好ましい。相対湿度が50%以上と高いことによって、上記塗膜表面で結露が生じやすくなり、効率的に導電性膜の製造を行うことができる。相対湿度としては、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。
【0057】
上記加湿気体を吹きつける風速の上限としては、流速として5m/s(300m/min)以下であることが好ましい。5m/sを超える流速で加湿気体を吹きつける場合、塗工された有機溶媒分散体の形状が、加湿気体を吹きつけることにより変化し、有機溶媒を乾燥させた後の膜形状を目的の形状に保持することができないおそれがある。加湿気体を吹きつける風速の上限としてより好ましい流速としては、3m/s(180m/min)以下であり、更に好ましくは、1m/s(60m/min)以下である。また、上記風速の下限としては、0.02m/min以上であることが好ましい。風速が0.02m/min以下である場合には、塗工された有機溶媒分散体中に、水滴が充分に取り込まれないおそれがある。風速の下限としてより好ましい流速としては、0.1m/minであり、更に好ましくは、0.2m/min以上であり、特に好ましくは、0.4m/min以上である。加湿気体を吹きつける時間の上限としては、生産性の観点からは、1時間以内であることが好ましい。より好ましくは、40分以内であり、更に好ましくは、30分以内である。加湿気体を吹きつける時間の下限としては、1分以上であることが好ましい。1分未満であると、有機溶媒の蒸発が充分に行うことができないおそれがあり、また、有機溶媒分散体中へ水滴が充分に取り込まれないおそれがある。より好ましくは、5分以上であり、更に好ましくは、10分以上である。例えば、20分程度(15〜25分)が好適な時間である。吹きつける加湿気体の相対湿度についても、上述と同様に、相対湿度が50%以上であることが好ましく、更に好ましくは、55%以上であり、特に好ましくは、60%以上である。
【0058】
ここで、上記自己組織化法により網目状のパターンを有する導電性膜を製造する方法について図1−2を用いて説明する。図1−2は、塗工された有機溶媒分散体を、塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させる工程を示すフロー図である。図1−2(a)で示すように、基板11に塗工された有機溶媒分散体(以下、「塗膜」ともいう。)は、塗膜12を形成した基板11を冷却する方法や加湿気体を吹きつける方法により塗膜表面で結露が生じる条件とすることで、図1−2(b)に示すように、塗膜の表面で結露が生じることとなる。結露により生じた水滴13は、図1−2(c)及び図1−2(d)に示すように塗膜12中に取り込まれる。また、塗工された有機溶媒分散体は、時間が経過するとともに、有機溶媒が蒸発し、薄くなっていく。そして、有機溶媒と、加湿雰囲気によって取り込まれた水滴とが蒸発することによって、図1−2(e)に示すように、有機溶媒が蒸発した膜は空孔部14及び網目状線部15が形成されたものとなる。このようにして、網目状のパターンが形成されることとなる。また、図2は、有機溶媒が蒸発した後の膜の形態を示す平面模式図であるが、形成された空孔部14の周りに金属を含んでなる網目状線部15が形成されたものとなり、網目状パターンを有する導電性膜が形成される。
また、図3に示すように、ペルチェ素子20を用いて、基板21及び塗膜22の冷却を行い、更に加湿気体を塗工された有機溶媒分散体に吹きつけることにより有機溶媒を蒸発させる方法は、本発明の導電性膜の製造方法の好適な形態の一つである。すなわち、上記製造方法は、基板及び塗膜の冷却を行い、かつ加湿気体を塗膜に吹きつけ、該塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させる工程を含む製造方法であることが好ましい。
【0059】
上記導電性膜の製造方法は、塗工された有機溶媒分散体を、塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させる工程の後、赤外線を照射する工程の前に、更に、無電解めっきを行う工程を含むことが好ましい。このように、無電解めっきを行うことによって、得られる導電性膜の導電性を更に向上させることができる。
【0060】
本発明はまた、上記製造方法により製造される導電性膜でもある。上記製造方法により製造されたものであることにより、上記導電性膜は、導電性と光透過性とに優れた透明導電性膜とすることができる。更に、基板に塗工された有機溶媒分散体を、塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させる工程を含む自己組織化法により網目状のパターンを有する導電性膜を形成した場合には、上記導電性膜は、導電性物質の網目状線部と空孔部とによって形成された網目状の導電性膜となり、より優れた光透過性及び導電性を有する透明導電性膜とすることができる。
なお、網目状のパターンを有する導電性膜における網目状線部と空孔部との配置形態としては、ランダム状であってもよいし、規則的に並んでいる状態であってもよい。また、大きめの網目や小さめの網目が混在し、いくつか網目が切れているところがあってもよいが、全体的に見れば、ミクロな技術分野において網目状の構造が認められると評価されるものであることが望ましい。すなわち、マイクロスコープで観察して、網目状の構造が確認できればよい。網目状の構造は、導電性膜全面に形成されていることが好ましいが、導電性膜が用いられる用途に応じて適宜設定されればよく、導電性膜としての機能が発揮され得る限り部分的であってもよい。その他の網目状の好ましい形態については後述する。ここで、ランダム状とは、網目状線部と空孔部とが一定の規則に基づいて配置されていない状態であることをいう。
以降においては、本発明の導電性膜の中でも、特に優れた導電性と光透過性とを有することになる、網目状のパターンを有する導電性膜の形態について説明する。なお、上記製造方法により製造される導電性膜のより好ましい形態としては、以下に説明する網目状の導電性膜の好ましい形態と同様である。
【0061】
上記網目状の導電性膜の形態としては、空孔部の平均面積が400μm以下であり、網目状線部の線幅が5μm以下であることが好ましい。空孔部の平均面積が小さく、網目状線部の線幅が細いことによって、光の透過性が高く、均一性の高い網目状の導電性膜を形成することができる。空孔部の平均面積としてより好ましくは、300μm以下であり、更に好ましくは、200μm以下であり、特に好ましくは、100μm以下である。また、上記空孔部は、平均最大フェレ径が20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。空孔部による開口率としては、60%以上であることが好ましく、これにより光透過率を高めた導電性膜とすることができる。空孔部による開口率は65%以上であることがより好ましく、更に好ましくは、70%以上であり、特に好ましくは、80%以上であり、最も好ましくは、90%以上である。上記網目状線部の線幅としてより好ましくは、2μm以下であり、更に好ましくは、1μm以下である。なお、最大フェレ径とは、各空孔部の輪郭に接するように引いた2本の平行線間の最大のものを最大フェレ径といい、平均最大フェレ径とは、計測した各空孔部の最大フェレ径の平均をとったものを平均最大フェレ径という。
【0062】
本発明は更に、導電性物質の網目状線部と空孔部とによって形成された網目状の導電性膜であって、該導電性膜は、空孔部の平均面積が400μm以下であり、網目状線部の線幅が5μm以下である導電性膜でもある。空孔部の平均面積が小さく、網目状線部の線幅が細いことによって、光の透過性が高く、かつ均一性の高い網目状の透明導電性膜を形成することができる。例えば、電子ペーパー等に用いる場合には、表示を行うマイクロカプセルに対して均一に電圧を印加することができる。網目が広い(空孔部の面積が大きい)場合、導電性膜により電圧を印加してマイクロカプセルの色を変化させるような電子ペーパー等のディスプレイに用いる場合、網目が細かいものでないとその空孔部の中にマイクロカプセルの全体が納まることとなり、そのようなカプセルには電圧が印加されないこととなる。また、網目が細かいことによって、導電性がより均一となる。これによれば、例えば、タッチパネルに用いられた場合、位置の認識の精度が高くなる。このような網目状の導電性膜は、上記導電性膜の製造方法を用いて形成することが可能である。上記導電性膜における網目状線部と空孔部との配置形態としては、ランダム状であってもよいし、規則的に並んでいる状態であってもよい。例えば、網目状の導電性膜を形成する際に、より網目の細かいものとするためには、ランダム状であった方が製造がより容易になるため、ランダム状であることも好ましい形態の一つである。
【0063】
上記導電性膜は、空孔部の平均面積が400μm以下であり、網目状線部の線幅が5μm以下であることによって、導電性膜の網目が細かいということができる。網目が細かいことによって、導電性膜の面内で均一な導電性を有するものとすることができる。空孔部の平均面積が400μmを超える場合、導電性膜の面内の均一性が充分とならず、例えば、光の透過性、導電性にばらつきが生じるおそれがある。また、上述したように、電子ペーパー等のディスプレイに対して用いる場合、電圧が印加されない部分が生じることにより、導電性膜としての機能が充分でなくなるおそれがある。空孔部の平均面積として、より好ましくは、300μm以下であり、更に好ましくは、200μm以下であり、特に好ましくは、100μm以下である。また、上記空孔部は、平均最大フェレ径が20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。上記網目状線部の線幅は、5μm以下であり、線幅が細いことによって、例えば、ディスプレイ等において生じるおそれのあるモアレを抑制することができる。網目状線部の線幅が5μmを越える場合、開口率が小さくなり、光透過性が充分でなくなるおそれがある。網目状線部の線幅として、より好ましくは、2μm以下であり、更に好ましくは、1μm以下である。上記のように、空孔部の平均面積、網目状線部の線幅を制御することによって、導電性膜の導電性と光透過性とをより好ましい値へと制御することができる。
【0064】
上記導電性膜は、空孔部による開口率が60%以上であることが好ましい。開口率を高めることによって、光の透過性を向上させることができるため、電子ペーパー等のディスプレイに用いる場合に好適に用いることができる。60%未満であると、充分な光透過率を得ることができず、透過性を有する導電性膜として充分な特性を発揮することができないおそれがある。空孔部による開口率は、65%以上であることがより好ましく、更に好ましくは、70%以上であり、特に好ましくは、80%以上であり、最も好ましくは、90%以上である。
開口率、線幅、空孔部の平均面積及び平均最大フェレ径については、以下の方法により求めることができる。
【0065】
<開口率、線幅、空孔部の平均面積、平均最大フェレ径の求め方>
導電性膜の表面を超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S−4800)にて倍率1000倍で観察し、観察した画像を画像処理ソフト(Image−Pro Plus ver.4.0、米国Media Cybernetics社製)を用いて、以下の方法で処理し、導電膜の開口率、線幅、空孔部の平均面積、フェレ径を求める。
【0066】
顕微鏡観察した画像(これを「原画像」とする。)を、上述の画像処理ソフトを用いて導電部が黒、その他の部分(網目の開口部)が白となるように白黒に二値化する。この時、二値化の閾値は、色調のヒストグラムより白と黒のピーク値を求め、その中間値とする。次に、二値化画像の白黒反転処理を行う(この画像を「二値化画像」とする。)。この時の、全体の面積に対する黒部の面積比を求め、開口率とする。
【0067】
また、二値化画像の白部の面積を求め、これを導電部の面積(S)とする。次に、二値化画像の細線化処理を行う(この画像を「細線化処理画像」とする。)。細線化処理画像の白部の面積を求め、これを導電部の長さ(L)とする。上記で求めたSとLの値を用い、下記式(1)により導電部の線幅を求める。
導電部の線幅=S/L (1)
【0068】
続いて、二値化画像の黒部を抽出する(この画像を「抽出画像」とする。)。抽出の際、境界上の空孔部については除外する。また、1μm以下の面積の空孔部についても除外する。このときの、各要素の面積、及び、最大フェレ径を計測し、平均化したものを、それぞれ、空孔部の平均面積、空孔部の平均最大フェレ径とする。
【0069】
上記網目状線部の厚みは、200nm以上であることが好ましい。200nm以上であることによって、線幅が小さくなったとしても充分な導電率を得ることができる。導電性膜の膜厚が200nm未満である場合には、導電性が低くなり、導電性膜としての特性を充分に発揮することができないおそれがある。網目状線部の厚みとしてより好ましくは、1μm以上である。なお、網目状線部の厚みは、最大膜厚を測定することによって求められ、例えば、レーザー顕微鏡を用いることによって測定することができる。測定方法としては、レーザー顕微鏡(VK−9700、キーエンス社製)を用いて倍率50倍で塗膜を観測し、観察した画像から塗膜の最大の段差を10箇所で計測し、平均した値を導電性膜の最大膜厚とする。
【0070】
本発明の導電性膜は、可視光(波長が400〜700nm)の光透過率が20%以上であることが好ましい。光透過率を高くすることで、例えば、電子ペーパー等の表示装置に対して好適に用いることができる。光透過率としてより好ましくは、40%以上であり、更に好ましくは、60%以上であり、特に好ましくは、80%以上である。上記光透過率は、例えば、分光光度計(商品名「V−530」、日本分光社製)を用いて、300〜800nmの波長の光について測定することができる。
【0071】
本発明の導電性膜はまた、全光線透過率が20%以上であることが好ましい。全光線透過率が20%以上である場合、例えば、電子ペーパー等の表示装置に対して好適に用いることができる。全光線透過率としてより好ましくは、40%以上であり、更に好ましくは、50%以上であり、特に好ましくは、60%以上である。最も好ましくは、75%以上である。
なお、上記全光線透過率は、例えば、ヘイズメーター NDH5000(日本電色工業社製)を用いて、JIS K7361−1に準拠して測定することができる。
【0072】
本発明の導電性膜は、表面抵抗率が1012Ω/□以下であることが好ましい。このような表面抵抗率であると、充分な導電性を有しているため、例えば、電子ペーパー等の表示装置に対して好適に用いることができる。より好ましくは、10Ω/□以下であり、更に好ましくは、10Ω/□以下であり、特に好ましくは、10Ω/□以下である。最も好ましくは、10Ω/□以下である。
また、上記網目状のパターンを有する導電性膜においては、特に、空孔部による開口率が高い場合、網目状線部の面積が小さくなると、開口率が低い同じ膜厚の導電性膜と比較すると、導電性膜の抵抗率が増加することとなる。そのため、網目状線部の面積は、充分な導電性を確保することができる面積であることが好ましい。好ましい網目状線部の面積は、導電性膜の膜厚、面積、導電性膜を構成する金属材料等によって異なるが、例えば、導電性膜の面内の表面抵抗率が1012Ω/□以下であるように網目状線部の面積を設定することが好ましい。これによれば、導電性膜の表面抵抗率としてより好ましくは、10Ω/□以下であり、更に好ましくは、10Ω/□以下であり、特に好ましくは、10Ω/□以下である。最も好ましくは、10Ω/□以下である。
なお、上記表面抵抗率は、例えば、抵抗率計 ロレスター−GP(三菱化学アナリテック社製、プローブ:ASPプローブ)を用いて、四端子四探針法により測定したり、デジタル絶縁計 DSM−8104(日置電機社製)を用いて、JIS K6911に準拠して測定したりすることができる。
【0073】
上記導電性膜の用途としては、特に限定されるものではなく、導電性を必要とする用途であればどのような用途にも用いることができる。例えば、プラズマディスプレイ等に用いられる電磁波遮蔽フィルム(EMIシールドフィルム)等として用いることができるし、電子ペーパー(デジタルペーパー)、液晶表示装置の表示装置に用いられる電極として用いることもできる。また、タッチパネル等にも用いることができる。
このように、本発明はまた、デジタルペーパーに用いられる導電性膜でもある。
【発明の効果】
【0074】
本発明の導電性膜の製造方法によって、優れた導電性と光透過性とを有する導電性膜を、簡易かつ安価に製造することができる。また、製造工程において焼成するような高温での処理工程を必要とせず、その焼成時間も短時間で導電性膜の形成が可能であることから、基板としてPETフィルム等の耐熱性の高くない汎用高分子基板を用いることができ、生産性の良い方法である。そして、このようにして得られる導電性膜は、優れた導電性と光透過性とを有しているため、電子ペーパー等のディスプレイ等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1−1】図1−1は、塗布された有機溶媒分散体を、塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させる工程の一例を示す、時間の経過による塗膜断面の概念図である。
【図1−2】図1−2(a)〜(e)は、塗布された有機溶媒分散体を、塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させる工程を示す概念図である。
【図2】図2は、空孔部と網目状線部が形成された網目状の導電性膜の平面模式図である。
【図3】図3は、ペルチェ素子を用いて、基板及び塗膜を冷却し、更に加湿気体を塗膜に吹きつけながら蒸発させる方法を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0077】
下記実施例及び比較例においては、次のようにして導電性膜の物性を測定した。
<最大膜厚>
レーザー顕微鏡(VK−9700、キーエンス社製)を用いて倍率50倍で塗膜を観測し、観察した画像から塗膜の最大の段差を10箇所で計測し、平均した値を導電性膜の最大膜厚とした。
【0078】
開口率、線幅、空孔部の平均面積、平均最大フェレ径については、導電性膜の表面を超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(S−4800、日立ハイテクノロジーズ社製)にて倍率1000倍で観察し、観察した画像を画像処理ソフト(Image−Pro Plus ver.4.0、米国Media Cybernetics社製)を用いて、以下の方法で処理して求めた。
<開口率>
顕微鏡観察した画像(これを「原画像」とする。)を、上述の画像処理ソフトを用いて導電部が黒、その他の部分(網目の開口部)が白となるように白黒に二値化した。この時、二値化の閾値は、色調のヒストグラムより白と黒のピーク値を求め、その中間値とする。次に、二値化画像の白黒反転処理を行った(この画像を「二値化画像」とする。)。この時の、全体の面積に対する黒部の面積比を求め、開口率とした。
<線幅>
上記二値化画像の白部の面積を求め、これを導電部の面積(S)とした。次に、二値化画像の細線化処理を行った(この画像を「細線化処理画像」とする。)。細線化処理画像の白部の面積を求め、これを導電部の長さ(L)とした。上記で求めたSとLの値を用い、下記式(1)により導電部の線幅を求めた。
導電部の線幅=S/L (1)
<空孔部の平均面積、空孔部の平均最大フェレ径>
上記二値化画像の黒部を抽出した(この画像を「抽出画像」とする。)。抽出の際、境界上の空孔部については除外した。また、1μm2以下の面積の空孔部についても除外した。このときの、各要素の面積、及び、各空孔部の最大フェレ径を計測し、平均化したものを、それぞれ、空孔部の平均面積、空孔部の平均最大フェレ径とした。
【0079】
<表面抵抗率>
導電性膜の表面抵抗率は、表面抵抗率が10Ω/□未満の場合には、抵抗率計 ロレスター−GP(三菱化学アナリテック社製、プローブ:ASPプローブ)を用いて、四端子四探針法により測定し、表面抵抗率が10Ω/□以上の場合には、デジタル絶縁計 DSM−8104(日置電機社製)を用いて、JIS K6911に準拠して測定した。
<全光線透過率>
導電性膜の全光線透過率は、ヘイズメーター NDH5000(日本電色工業社製)を用いて、JIS K7361−1に準拠して測定した。
【0080】
<密着性>
導電性膜の表面をキムワイプでこすって、塗膜の剥がれ具合から下記の基準で評価した。
評価基準
〇:剥がれない
△:剥がれる
×:容易に剥がれる
<フィルムの収縮度合い>
焼成または赤外線照射後の導電性フィルムの収縮度合いを目視により下記の基準で評価した。
評価基準
〇:収縮していない
△:収縮している
×:著しく収縮している
【0081】
<導電性微粒子分散溶液の調整>
オクチルアミン(和光純薬工業株式会社製)148.1gをいれた1Lビーカーを40℃の恒温槽に入れた。次に酢酸銀(和光純薬工業株式会社製)18.6gを添加し20分間充分に攪拌混合し、均一な混合溶液を調整した。続いて、20wt%水素化ホウ素ナトリウム水溶液20gを徐々に添加することにより還元処理を実施した。
還元処理後、アセトンを200g添加し、しばらく放置後、ろ過により銀及び有機物からなる沈殿物を分離回収した。回収物にシクロヘキサンを添加し、再溶解後、10℃以下まで冷却させた後、再度ろ過し、不純物を低減させたシクロヘキサン分散溶液を調整した。次に、エバポレーターによりシクロヘキサンを留去し、銀微粒子を20wt%含有する導電性微粒子分散溶液を調整した。この溶液は、銀微粒子の他にオクチルアミン9wt%、シクロヘキサン71wt%を含有する溶液であった。この溶液をFE−SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)で観察したところ、平均粒子径4nm、変動係数が14%の粒子径分布をもつナノ粒子分散体であることが確認された。
【0082】
<近赤外線吸収色素の合成>
100mlの4ツ口フラスコに、3,6−ジフルオロ−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)フタロニトリル12.73g(26.2ミリモル)、三酸化二バナジウム0.6g(4ミリモル)、p−トルエンスルホン酸0.76g(4ミリモル)、及び、ベンゾニトリル50mlを仕込み、還流温度で約5時間撹拌した。冷却後、反応液をトルエン500ml中に投入し、得られた固形物をろ過した。そして更に、トルエン200mlで洗浄して、VOPc(2,5−ClPhO)を得た。
50mlの4ツ口フラスコに、得られたVOPc(2,5−ClPhO)2g(0.99ミリモル)、ベンジルアミン12mlを仕込み、65℃で約12時間撹拌した。その後無機分をろ過し、ろ液を濃縮して8mlとし、イソプロパノール(IPA)80ml中に滴下晶析させた。固形分を吸引ろ過し、IPA50ml中で1時間撹拌洗浄を行った。固形分を吸引ろ過し、1晩60℃で真空乾燥することにより、近赤外線吸収色素(VOPc(2,5−ClPhO)(PhCHNH))を得た。なお、近赤外線吸収色素としては、トルエンで2wt%に希釈したものを使用した。
【0083】
(配合例1)
導電性微粒子分散溶液を用いて、銀の重量濃度として0.936mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.120質量%に相当。)、NIKKOL Decaglyn 7−OV(ヘプタオレイン酸ポリグリセリル−10、日光ケミカルズ社製)が重量濃度として、0.0279mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.0036質量%に相当。)のシクロヘキサン溶液(a)を調製した。その配合についてまとめたものを表1に示す。
【0084】
(配合例2)
導電性微粒子分散溶液を用いて、銀の重量濃度として0.936mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.120質量%に相当。)、NIKKOL Decaglyn 7−OV(ヘプタオレイン酸ポリグリセリル−10、日光ケミカルズ社製)が重量濃度として、0.0210mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.0027質量%に相当。)、近赤外線吸収色素が重量濃度として、0.00699mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.000894質量%に相当。)のシクロヘキサン溶液(b)を調製した。その配合についてまとめたものを表1に示す。
【0085】
(配合例3)
導電性微粒子分散溶液を用いて、銀の重量濃度として0.937mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.120質量%に相当。)、NIKKOL Decaglyn 7−OV(ヘプタオレイン酸ポリグリセリル−10、日光ケミカルズ社製)が重量濃度として、0.0140mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.0018質量%に相当。)、近赤外線吸収色素が重量濃度として、0.0140mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.00179質量%に相当。)のシクロヘキサン溶液(c)を調製した。その配合についてまとめたものを表1に示す。
なお、表1中において用いられる略号は以下の通りである。
色素:近赤外線吸収色素
界面活性剤:NIKKOL Decaglyn 7−OV
溶液中の質量濃度:シクロヘキサン溶液中の質量濃度(例えば、シクロヘキサン溶液(a)では、シクロヘキサン溶液100部に対して0.120部の銀が含まれていることを表している。)
体積比:銀と色素と界面活性剤との体積割合
溶液中の濃度:シクロヘキサン溶液中の濃度(例えば、シクロヘキサン溶液(a)では、シクロヘキサン溶液1mlに対して0.936mgの銀が含まれていることを表している。)
【0086】
【表1】

【0087】
(実施例1)
<製膜条件>
23℃、相対湿度70%の雰囲気下で、シクロヘキサン溶液(a)1.6mlを5cm角のPETフィルム(商品名「ルミラーU34」、両面易接着処理PET、東レ社製)基板上に塗布し、加湿空気(相対湿度70%)を1.6m/minの流速で、10分間吹きつけて有機溶媒を蒸発させて、乾燥製膜した。
<乾燥条件>
室温、常圧下で乾燥(風乾)した。
<赤外線照射条件>
乾燥を行った後の膜に、ピーク波長1.22μmの赤外線ヒーターZKC2000(ヘレウス社製)を4cm間隔で5本並べ赤外線を照射した。塗膜とヒーターとの距離は5cmとし、ワット密度を160kW/mに調整して2秒間照射を行った。
こうして得られた導電性膜の最大膜厚、開口率、線幅、空孔部の平均面積、空孔部の平均最大フェレ径、表面抵抗率、全光線透過率を求めた結果、表2の通りであった。また、得られた導電性膜の密着性、フィルムの収縮度合いを評価した結果、表2の通りであった。
【0088】
(実施例2)
シクロヘキサン溶液(b)を用いた以外は、実施例1と同様にして導電性膜を得、実施例1と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表2の通りであった。
【0089】
(実施例3)
シクロヘキサン溶液(c)を用いた以外は、実施例1と同様にして導電性膜を得、実施例1と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表2の通りであった。
【0090】
(比較例1)
<製膜条件>
23℃、相対湿度70%の雰囲気下で、シクロヘキサン溶液(a)1.6mlを5cm角のPETフィルム(商品名「ルミラーU34」、両面易接着処理PET、東レ社製)基板上に塗布し、加湿空気(相対湿度70%)を1.6m/minの流速で、10分間吹きつけて有機溶媒を蒸発させて、乾燥製膜した。
<乾燥条件>
室温、常圧下で乾燥(風乾)した。
<焼成条件>
乾燥を行った後の膜を、電気炉で常圧、空気雰囲気下で10℃/分で昇温し、150℃で3分焼成した。焼成後、自然放冷し、室温まで冷却した。
こうして得られた導電性膜の最大膜厚、開口率、線幅、空孔部の平均面積、空孔部の平均最大フェレ径、表面抵抗率、全光線透過率を求めた結果、表2の通りであった。また、得られた導電性膜の密着性、フィルムの収縮度合いを評価した結果、表2の通りであった。
【0091】
(比較例2)
シクロヘキサン溶液(b)を用いた以外は、比較例1と同様にして導電性膜を得、比較例1と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表2の通りであった。
【0092】
(比較例3)
シクロヘキサン溶液(c)を用いた以外は、比較例1と同様にして導電性膜を得、比較例1と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表2の通りであった。
【0093】
(比較例4)
150℃で30分焼成した以外は、比較例1と同様にして導電性膜を得、比較例1と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表2の通りであった。
【0094】
(比較例5)
150℃で30分焼成した以外は、比較例2と同様にして導電性膜を得、比較例2と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表2の通りであった。
【0095】
(比較例6)
150℃で30分焼成した以外は、比較例3と同様にして導電性膜を得、比較例3と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表2の通りであった。
なお、表2中において用いられる項目の意味は以下の通りである。
湿潤下での乾燥:23℃、相対湿度70%の雰囲気下で、加湿空気(相対湿度70%)を1.6m/minの流速で、10分間吹きつけることによる乾燥
焼成:製膜し、乾燥した後に行う焼成工程、すなわち、赤外線照射工程、または、高温での焼成工程を表す。
赤外線:ピーク波長1.22μmの赤外線ヒーターZKC2000(ヘレウス社製)を4cm間隔で5本並べ赤外線を照射した。塗膜とヒーターとの距離は5cmとし、ワット密度を160kW/mに調整して2秒間照射を行った。
高温焼成:電気炉で常圧、空気雰囲気下で10℃/分で昇温し、高温(150℃)で焼成
フィルム収縮:フィルムの収縮度合い
【0096】
【表2】

【0097】
(配合例4)
導電性微粒子分散溶液を用いて、銀の重量濃度として310.632mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、29.130質量%に相当。)、NIKKOL Decaglyn 7−OV(ヘプタオレイン酸ポリグリセリル−10、日光ケミカルズ社製)が重量濃度として、9.2774mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.8700質量%に相当。)のシクロヘキサン溶液(d)を調製した。その配合についてまとめたものを表3に示す。
【0098】
(配合例5)
導電性微粒子分散溶液を用いて、銀の重量濃度として315.489mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、29.130質量%に相当。)、NIKKOL Decaglyn 7−OV(ヘプタオレイン酸ポリグリセリル−10、日光ケミカルズ社製)が重量濃度として、7.0668mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.6525質量%に相当。)、近赤外線吸収色素が重量濃度として、2.35561mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.217500質量%に相当。)のシクロヘキサン溶液(e)を調製した。その配合についてまとめたものを表3に示す。
【0099】
(配合例6)
導電性微粒子分散溶液を用いて、銀の重量濃度として320.500mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、29.130質量%に相当。)、NIKKOL Decaglyn 7−OV(ヘプタオレイン酸ポリグリセリル−10、日光ケミカルズ社製)が重量濃度として、4.7860mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.4350質量%に相当。)、近赤外線吸収色素が重量濃度として、4.7860mg/ml(シクロヘキサン溶液100質量%に対して、0.43500質量%に相当。)のシクロヘキサン溶液(f)を調製した。その配合についてまとめたものを表3に示す。
なお、表3中において用いられる略号は表1における略号と同様である。
【0100】
【表3】

【0101】
(比較例7)
<製膜条件>
シクロヘキサン溶液(d)1.6mlを5cm角のPETフィルム(商品名「ルミラーU34」、両面易接着処理PET、東レ社製)基板上に、乾燥後の膜厚が約1μmとなるように設定してバーコーター塗工し、室温、常圧下で乾燥(風乾)して、製膜した。
<乾燥条件>
室温、常圧下で乾燥(風乾)した。
<赤外線照射条件>
乾燥を行った後の膜に、ピーク波長1.22μmの赤外線ヒーターZKC2000(ヘレウス社製)を4cm間隔で5本並べ赤外線を照射した。塗膜とヒーターとの距離は5cmとし、ワット密度を160kW/mに調整して2秒間照射を行った。
こうして得られた導電性膜の最大膜厚、開口率、線幅、空孔部の平均面積、空孔部の平均最大フェレ径、表面抵抗率、全光線透過率を求めた結果、表4の通りであった。また、得られた導電性膜の密着性、フィルムの収縮度合いを評価した結果、表4の通りであった。
【0102】
(比較例8)
シクロヘキサン溶液(e)を用いた以外は、比較例7と同様にして導電性膜を得、比較例7と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表4の通りであった。
【0103】
(比較例9)
シクロヘキサン溶液(f)を用いた以外は、比較例7と同様にして導電性膜を得、比較例7と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表4の通りであった。
【0104】
(比較例10)
<製膜条件>
シクロヘキサン溶液(d)1.6mlを5cm角のPETフィルム(商品名「ルミラーU34」、両面易接着処理PET、東レ社製)基板上に塗布し、室温、常圧下で乾燥(風乾)し、製膜した。
<乾燥条件>
室温、常圧下で乾燥(風乾)した。
<焼成条件>
乾燥を行った後の膜を、電気炉で常圧、空気雰囲気下で10℃/分で昇温し、150℃で3分焼成した。焼成後、自然放冷し、室温まで冷却した。
こうして得られた導電性膜の最大膜厚、開口率、線幅、空孔部の平均面積、空孔部の平均最大フェレ径、表面抵抗率、全光線透過率を求めた結果、表4の通りであった。また、得られた導電性膜の密着性、フィルムの収縮度合いを評価した結果、表4の通りであった。
【0105】
(比較例11)
シクロヘキサン溶液(e)を用いた以外は、比較例10と同様にして導電性膜を得、比較例10と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表4の通りであった。
【0106】
(比較例12)
シクロヘキサン溶液(f)を用いた以外は、比較例10と同様にして導電性膜を得、比較例10と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表4の通りであった。
【0107】
(比較例13)
150℃で30分焼成した以外は、比較例10と同様にして導電性膜を得、比較例10と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表4の通りであった。
【0108】
(比較例14)
150℃で30分焼成した以外は、比較例11と同様にして導電性膜を得、比較例11と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表4の通りであった。
【0109】
(比較例15)
150℃で30分焼成した以外は、比較例12と同様にして導電性膜を得、比較例12と同様に導電性膜の物性を評価した。得られた導電性膜の物性を評価した結果は、表4の通りであった。
なお、表4中で用いられている項目の意味は、表2と同様である。
【0110】
【表4】

【0111】
実施例及び比較例の結果から、以下のことが分かった。
湿潤下での乾燥を行い、焼成を赤外線の照射により行った場合には、そのいずれかを行わなかった場合又はそのいずれをも行わなかった場合に比較して、表面抵抗率及び全光線透過率共に優れた導電性膜が得られた。また、湿潤下での乾燥を行い、焼成を赤外線の照射により行った場合には、基材への密着性も良好であり、フィルムの収縮も充分に抑えられたものとなっていた。これらのことから、有機溶媒分散体を基板に塗工し、パターンを有する導電性膜を形成する工程と、赤外線を照射する工程とをこの順に行うことによって、得られる導電性膜を導電性と光透過性とに優れ、その他の物性においても優れたものとすることが可能であることが分かった。
これらの実施例と比較例との差は、数値上はわずかであるものもあるが、透明導電性フィルム等としての利用分野においては、充分に有意な差といえる差であり、その効果は際だっていると評価できるものである。
なお、上記実施例においては、導電性物質として銀が、赤外線吸収体として近赤外線吸収色素が用いられているが、赤外線照射により製膜できる機構は、導電性微粒子を用い、赤外線照射工程を行った場合には、全て同様である。そしてまた更に、赤外線照射された赤外線吸収体が赤外線を吸収し熱を発する機構は、導電性微粒子、赤外線吸収体を用い、赤外線照射工程を行った場合には、全て同様である。従って、上記実施例、比較例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。
【符号の説明】
【0112】
11、21:基板
12、22:塗膜(塗工された有機溶媒分散体)
13:水滴
14:空孔部
15:網目状線部
20:ペルチェ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子を含む有機溶媒分散体を用いて基板上に導電性膜を製造する方法であって、
該製造方法は、有機溶媒分散体を基板に塗工し、パターンを有する導電性膜を形成する工程と、赤外線を照射する工程とをこの順に行うことによって基板上にパターンを有する導電性膜を形成することを特徴とする導電性膜の製造方法。
【請求項2】
前記パターンを有する導電性膜を形成する工程は、基板に塗工された有機溶媒分散体を、塗膜表面で結露させながら有機溶媒を蒸発させる工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の導電性膜の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒分散体は、赤外線吸収体を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により製造されることを特徴とする導電性膜。
【請求項5】
デジタルペーパーに用いられることを特徴とする請求項4に記載の導電性膜。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−249245(P2011−249245A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123454(P2010−123454)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】