説明

導電性薄膜の前駆薄膜及び該薄膜から得られる透明導電性薄膜

【課題】本発明はパターニング等の加工を施し易く、かつ低比抵抗性、耐熱性を示す薄膜を提供することを課題とした。
【解決手段】基材上に蒸着プロセスを経て形成される導電性薄膜の前駆薄膜であり、該前駆薄膜は酸化インジウムを主とするものであり、該前駆薄膜はスズを含むものであり、該前駆薄膜はCuKα線を用いたX線回折測定により測定される酸化インジウムの回折線の2θ位置が(222)面は30.3°以下に、及び(400)面は35.3°以下にそれぞれ帰属される回折線が検出され、該(222)面による回折線の強度(I222)と該(400)面による回折線の強度(I400)との比(I222/I400)が5以下であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターニング等の加工が容易で、低比抵抗性、耐熱性を有することを可能とした導電性薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性薄膜は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ、ELディスプレイなどの表示デバイスや太陽電池、有機EL照明用素子などの電極部材として幅広く利用されている。
一般的に、導電性薄膜として、酸化インジウムにスズを適量ドープした導電性薄膜(以下ITO薄膜と呼ぶこともある)が知られている。ITO薄膜は、スパッタリング法などの物理的気相成長法によって、デバイスに応じてガラスやプラスチックなどの基材上に形成される膜であり、比抵抗が低く可視光の透過率に優れた導電性薄膜として広く利用されている。
【0003】
導電性薄膜としてのITO薄膜は、各種デバイスを正常に作動させるために、低い比抵抗を示すことが求められている。低い比抵抗を有するITO薄膜やその製法については既に開示されており、例えば基材を200〜400℃程度に加熱しながら成膜すると、得られる薄膜の結晶性が高くなり、容易に低い比抵抗を有するITO薄膜が得られるとされている(非特許文献1)。
【0004】
一方で、表示デバイスや太陽電池等の電極部材として用いる場合、特定の位置に通電させるため、ウェットまたはドライエッチングによる基材へのラインパターン(配線)の形成(以下、パターニングと呼ぶことがある)が必要となることがある。一般的に、結晶性が高い薄膜はパターニングを施し難いとされている。例えば、薄膜のエッチングは結晶粒界から選択的に行われるため、薄膜の結晶性が高くなるほど加工精度が良くならない。故に、エッチング等のパターニングを施すには結晶性が低いものが適しているとされている(非特許文献2)。
【0005】
パターニングを施し易い薄膜については既に開示されており、例えば、非晶質のインジウムと亜鉛の複合酸化物(以下、IZOと呼ぶことがある)を主成分とする、ウェットまたはドライエッチングによるパターニングを施しやすい導電性薄膜が提案されている(非特許文献1)。
【0006】
さらに、上記のような表示デバイスの製造工程には、輝度等の機能性向上の為にそれぞれ200℃以上、500℃以上、800℃以上で成膜後の基材を加熱する加熱工程が含まれることがある。この加熱工程を経ると、加熱前に低い比抵抗を示していたとしても、加熱後に導電性薄膜の比抵抗が急増してしまうことがある。
【0007】
加熱後に低い比抵抗を示す導電性薄膜を得る方法として、ITO薄膜を基板上に成膜後、ITO薄膜付き基板を、酸素を含むガスより生成したプラズマ中に曝露するプラズマ処理を施す方法が開示されている(特許文献1)。
【0008】
また、加熱後に比抵抗の急増がなく、かつ低い比抵抗を示す導電性薄膜として、ITO薄膜の上にアンチモンを含む酸化スズ膜を積層したものが開示されている(特許文献2)。
【0009】
さらに、800℃以上の高温でも加熱後に比抵抗の急増がなく、かつ低い比抵抗を示す導電性薄膜として、酸化インジウムにアンチモンをドープしたInSbO膜が提案されている(特許文献3)。
【0010】
なお、一般的にITO薄膜をスパッタリング法により形成する際、酸素を含む雰囲気下で成膜する方法が行われている。成膜時の酸素分圧を変化させることで、ITO薄膜中に含まれる酸素の量を調節することが可能であるとされている(非特許文献3)。
【0011】
また、ITO膜は表面を平滑にすることが求められている。一般的に、膜表面の平滑性が低く、表面が粗いと、その突起がリークやショートの原因となることが知られており、例えば有機EL素子の場合、上記に該当する部分は発光しなくなることがあるとされている。なお、特許文献4には、ITO膜がアモルファス状になると膜表面の平滑性は高くなり、膜の結晶性が高くなると、表面粗さは劣化すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−328934号公報
【特許文献2】特開2005−19205号公報
【特許文献3】特開2003−132739号公報
【特許文献4】特開2008−19478号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】日本学術振興会 透明酸化物光・電子材料第166委員会編、透明導電膜の技術 改訂2版(2006) 頁136〜138、184〜188
【非特許文献2】シーエムシー出版 南内嗣監修、透明導電膜の新展開III(2008) 頁50
【非特許文献3】シーエムシー出版 南内嗣監修、透明導電膜の新展開III(2008) 頁120〜122
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
導電性薄膜は、低い比抵抗を示す低比抵抗性、熱を加えても比抵抗が増大しない耐熱性、及びパターニングを施し易い低い結晶性を有することが求められており、それぞれの課題に対しては多くの研究がなされている。しかし、上記課題を同時に実現せしめることが可能な導電性薄膜を得ることは難しかった。
【0015】
基材を加熱しながらITO薄膜を形成する方法では、低い比抵抗を示す薄膜が得られるが、同時に結晶性が高くなる。結晶性が高い薄膜は化学的耐久性が高く、必然的にウェットおよびドライエッチング速度は低いものとなり、パターニング性が低下する。また、基材を加熱しながら薄膜を形成する方法では、基材のサイズが大きくなるに従って、温度分布を一定に保つことが難しくなり、膜特性の均一性を確保しにくい。
【0016】
ウェットまたはドライエッチングによるパターニングを施しやすい非晶質の導電性薄膜としてIZO膜が提案されているが、該膜は大気中での加熱を経ると比抵抗が増大してしまい、デバイスにおける電力消費量の増加、表示能力の低下をもたらす可能性がある。
加熱後に低い比抵抗を示す導電性薄膜を得る方法として、ITO薄膜を形成後にプラズマ処理を施す方法が提案されている。得られる薄膜の比抵抗は低い値を示すものの、該薄膜はエッチングされ難いものであった。
【0017】
また、加熱後に比抵抗の急増がなく、かつ低い比抵抗を示す導電性薄膜としては、ITO薄膜の上に酸化スズ膜を積層する方法が提案されている。しかし、従来の工程に酸化スズ膜を積層する工程が増えるために生産性が低下するうえ、化学的・熱的に安定な酸化スズ膜を最上層に用いることで、必然的にパターニング等を施し難くなる。さらに、酸化スズ膜はITO薄膜に比べて高い比抵抗を示すため、該膜を最上層に用いると膜の表面抵抗が高くなり、ITO薄膜が有する低い比抵抗を活かすことが出来なくなる。
【0018】
さらに、800℃以上の高温でも加熱後に比抵抗の急増がなく、かつ低い比抵抗を示す導電性薄膜として、酸化インジウムにアンチモンをドープしたInSbO膜が提案されているが、InSbO膜が本質的に備えている比抵抗は、ITO薄膜よりも高い上、アンチモン化合物の使用は地球環境への影響を考慮すると好ましくない。
【0019】
かくして、本発明はパターニング等の加工を施し易く、かつ低比抵抗性、耐熱性を示す薄膜を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本出願人は、鋭意検討した結果、アルゴン雰囲気下において基材上に形成された結晶性の低い導電性薄膜の前駆薄膜が、加熱し導電性薄膜とした際に低い比抵抗を示すことを見出した。すなわち、アルゴン雰囲気下で成膜することによって、薄膜内の酸素空孔が過剰となり、結晶性が低くパターニング等の加工に優れた前駆薄膜が形成され、該前駆薄膜は比抵抗が高いものであるが、該前駆薄膜が加熱されると、上記の過剰な酸素空孔が消失し、比抵抗が低い導電性薄膜が得られるとする。
【0021】
すなわち本発明は、基材上に蒸着プロセスを経て形成される導電性薄膜の前駆薄膜であり、該前駆薄膜は酸化インジウムを主とするものであり、該前駆薄膜はスズを含むものであり、該前駆薄膜はCuKα線を用いたX線回折測定により測定される酸化インジウムの回折線の2θ位置が(222)面は30.3°以下に、及び(400)面は35.3°以下にそれぞれ帰属される回折線が検出され、該(222)面による回折線の強度(I222)と該(400)面による回折線の強度(I400)との比(I222/I400)が5以下であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明における導電性薄膜の前駆薄膜は、N=(Nb/Na)×100で表される、酸化インジウムの理論密度Naと該前駆薄膜の実測密度Nbとの比Nが、Nが92%以上であることを特徴とする。
【0023】
酸化インジウムの理論密度は、ICDD(International Centre for Diffraction Data)発行のPDF(Powder Diffraction File)#44−1087において、7.120g/cmと記載されている。薄膜の実測密度は、X線回折測定装置(Rigaku社製RINT−UltimaIII)を用いて、X線反射率を測定し、該装置に付随した汎用プログラムによって求めることができる。本発明によって得られた前駆薄膜の密度は、いずれも理論密度よりも小さくなることがわかった。また、該前駆薄膜を加熱した後、得られた透明導電性薄膜の密度は理論値に近い値を示した。
【0024】
本発明では、密度の比Nを92%以上としている。92%未満だと、加熱処理後の比抵抗が高いものとなるだけでなく、該前駆薄膜の密度が低いことが起因して、機械的強度が乏しくなる可能性がある。また、上限は特に限定しないが、105%以下が好ましい。上限を105%としたのは、ITO膜において酸化インジウムに添加される酸化スズの濃度によっては実測された膜密度が理論密度を越えることがあるためである。さらに、膜密度が理論密度に近くなりNが100%に近づくことは、膜中の酸素空孔(欠損)が減少し、酸化インジウムの化学両論組成(In)に近づいていることを意味することがあり、それ故、酸素空孔起因のキャリア電子が減少し、導電性が損なわれる可能性がある。
また、本発明における導電性薄膜の前駆薄膜は、膜表面の算術平均粗さ(Ra)が1.5nm以下であることを特徴とする。
【0025】
薄膜表面の算術平均粗さ(Ra)は、走査型プローブ顕微鏡(島津製作所製SPM−9600)を用いて、1μ四方の表面形状を分析し、該装置に付随した汎用プログラムによって求めることができる。
【0026】
本発明では、薄膜表面の算術平均粗さ(Ra)を1.5nm以下としている。1.5nmを超える場合、加熱後のRaが増大し、比抵抗も高いものとなるだけでなく、空気と接している薄膜の表面積が大きくなることに起因して、物性の経時変化を起こしやすくなることがある。さらに、表面が粗いITO膜を前述したようなデバイスに使用した場合、正常に作動しなくなる可能性がある。
【0027】
本発明における導電性薄膜の前駆薄膜は、比抵抗が10×10−4Ωcmを越える値を示し、結晶性が低く、パターニングを施し易い前駆薄膜である。さらに該前駆薄膜を加熱することで、低比抵抗性及び耐熱性を有する透明導電性薄膜とすることが可能となる。
【0028】
該前駆薄膜は、酸化インジウムに酸化スズを適量ドープしたITO薄膜である。一般的に、酸化スズを含むITO薄膜は可視光透過率が高く、低い比抵抗を示すため、好適に用いられる。また、「基材上」は、薄膜が基材に接するものでも、基材と該膜との間に他の膜が介在しても良い。
【0029】
CuKα線を用いたX線回折測定により測定される酸化インジウムの2θの回折線の位置及び回折強度は、XRD測定装置(Rigaku社製RINT−UltimaIII)に付随した汎用プログラムによって求めることができる。
【0030】
本発明では、(222)面の回折線の位置を30.3°以下、(400)面の回折線の位置は35.3°以下としている。市販されているITO薄膜の酸化インジウムの(222)面及び(400)面の回折線の位置はそれぞれ、市販品Aの場合30.38°、35.28°、メーカーの異なる市販品Bの場合は30.38°、35.26°であり、本発明の回折パターンとは異なっている。また、(222)面及び(400)面の回折線の位置は、(222)面は30.1°以上、(400)面は35.1°以上とするのが好ましい。
【0031】
本発明における導電性薄膜の前駆薄膜は、酸化インジウムの(222)面による回折線の強度(I222)と(400)面による回折線の強度(I400)との比(I222/I400)が5以下であるとしている。また、下限を好ましくは0.2以上とするのがよい。(I222/I400)の値が5を超えると(222)面が、0.2未満では(400)面が強く配向した結晶性の高い薄膜、あるいは非晶質の薄膜となる。(222)面または(400)面が強く配向した結晶性の高い薄膜は、加熱工程を経ると比抵抗が増加してしまう。更に、高い結晶性に起因して、薄膜の化学的・熱的耐久性は高くなり、パターニングなどを施し難いものとする。一方、非晶質の薄膜は、パターニングなどの加工性は高いものの、薄膜の化学結合力が弱く、環境耐久性、長期間安定性に乏しくなり、デバイス製造工程までの間、例えば成膜加工メーカーからデバイスメーカーに輸送するまでの間や、倉庫に保管されている間に変質する可能性がある。
【0032】
また、本発明は前駆薄膜の比抵抗をρ、該前駆薄膜が100℃〜600℃で加熱された後の比抵抗をρとした時、ρが7×10−4Ωcm以下となり、および[(ρ−ρ)/ρ]×100(%)で表される比抵抗減少率が70%以上となることを特徴とする。
【0033】
比抵抗ρ及びρは、一般的に比抵抗は電子密度と電子移動度との積に反比例するものであり、電子は酸素空孔からの放出、及びSnがInサイトへ置換されることで放出されるものであるとされている。
【0034】
該前駆薄膜の比抵抗ρは高い値を示す。本発明ではアルゴン雰囲気下で成膜しており、酸素空孔が過剰になることでイオン化散乱中心が増加し、電子移動度が低下するため、ρは高い値を示すと推察される。上記の過剰な酸素空孔が、加熱工程を経て消失することで電子移動度が増加し、また同時に酸化インジウム結晶格子においてSnのInサイトへの置換が促進されることで電子密度が増加するため、加熱工程を経て低い比抵抗を示すと考察される。
【0035】
また、[(ρ−ρ)/ρ]×100(%)で表される比抵抗減少率が70%未満であるとき、過剰な酸素空孔の消失が不十分となるため、該前駆薄膜の比抵抗は加熱工程を経ても高いままとなる。そのため、本発明では比抵抗減少率を70%以上とするものとする。なお、比抵抗減少率の上限は特に限定するものではないが、99%以下とするのが好ましい。
【0036】
また、本発明は該前駆薄膜を100℃〜600℃で加熱したときの比抵抗ρを7×10−4Ωcm以下とするものである。ρの値が7×10−4Ωcmを超えると、該薄膜を用いた各種デバイスが正常に作動しないことがある。
【0037】
また、本発明は該前駆薄膜の膜厚が50〜500nmであることを特徴としている。膜厚が50nm未満だと比抵抗が高くなり、また、500nmを超えると透過率が低くなってしまうため適さない。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、平滑で結晶性が低く、パターニング等を施し易い導電性薄膜の前駆薄膜が提供された。該前駆薄膜を100〜600℃で加熱することで、低比抵抗性、耐熱性を有する透明導電性薄膜が提供される。さらに、該前駆薄膜は加熱を経た後も、高い平滑性を維持するものであり、該前駆薄膜を形成することで、安定的に平滑性が高い透明導電性薄膜を得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】マグネトロンスパッタリング装置の概略図である。
【図2】導電性薄膜の構成を示す断面図である。
【図3】実施例1および比較例1〜3の前駆薄膜のX線回折図
【図4】実施例2および比較例4〜6の前駆薄膜のX線回折図
【発明を実施するための形態】
【0040】
基材には、ガラスが好適に用いられる。ガラスの例としては、石英ガラスや、建築用や車両用、ディスプレイ用に使用されているソーダ石灰ケイ酸塩ガラスからなるフロート板ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸塩ガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス、低膨張結晶化ガラス、ゼロ膨張結晶化ガラス、TFT用ガラス、PDP用ガラス、光学フィルム用基板ガラス等が挙げられる。また、ガラス基材以外の例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂、ポリエチレン樹脂等の非晶質の樹脂基材が挙げられる。
【0041】
導電性薄膜の前駆薄膜は、蒸着プロセスを用いて形成されることが好ましい。蒸着プロセスには、スパッタリング、電子ビーム蒸着、イオンビームデポジション、イオンプレーティングなどを用いても良いが、均一性を確保しやすいスパッタリングは好適に用いられる。
【0042】
スパッタリングで該前駆薄膜を形成する場合、薄膜原料として金属酸化物ターゲットを用いて酸化物薄膜を得る方法が連続生産性に優れるため最も好ましい。プラズマ発生源には直流電源、交流電源、または交流と直流を重畳した電源、いずれの電源も好適に用いられるが、交流と直流を重畳した電源は連続生産性に優れており、好適に用いられる。
【0043】
酸化物ターゲットは、Inに対してSnOを2〜20質量%添加したITOターゲットを用いるのが好ましく、最も好ましくは5〜10質量%である。SnOの添加量が2質量%未満であると、Sn起因の電子が減少し、比抵抗が高いものとなるだけでなく、特に、加熱工程を経た後、酸素空孔起因の電子が減少してしまい、比抵抗が高いものとなる。一方、SnOの添加量が20質量%を超えると、過剰なSnの存在により結晶性が低下してしまうため、電子移動度が減少し比抵抗が高いものとなる。
【0044】
成膜装置としては、図1に示すようなマグネトロンスパッタ装置が好適に用いられる。ガラス1を基板ホルダー2に保持させた後、真空チャンバー3内を真空ポンプ4によって排気し、成膜中、真空ポンプ4は連続して稼働させ、真空チャンバー内の雰囲気ガスは、ガス導入管5より導入し、ガスの流量をマスフローコントローラー(図示せず)により制御して調整する。なお、基板ホルダー2はターゲット8に対して正面に設置されないものとする。成膜中の真空チャンバ−内の圧力は、真空チャンバーと真空ポンプの間に設置されたバルブ6の開度を制御することで調節する。裏側にマグネット7が配置されたターゲット8を用い、ターゲットへ電源ケーブル9を通じで電源10より投入する。ここで、真空ポンプの種類、ターゲットの個数や種類、直流電源と交流電源の選択は適宜なされれば良く、特に限定しない。
【実施例】
【0045】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0046】
実施例1
図2に示すように、ガラス1の上に前駆薄膜11を形成した。ガラスとしては、ディッピング法によりシリカをコートした、厚さ1.1mmのソーダライムガラスを用いた。前駆薄膜の形成は、図1に示すマグネトロンスパッタリング装置を用いて行った。
【0047】
前駆薄膜の形成は、ガラス1を基板ホルダー2に保持させた後、真空チャンバー3内を真空ポンプ4によって排気して行った。成膜中、真空ポンプ4は連続して稼働させ、真空チャンバー内の雰囲気ガスは、ガス導入管5より、アルゴンガスを導入し、アルゴンガスの流量をマスフローコントローラー(図示せず)により制御して調整した。真空ポンプ4にはターボ分子ポンプを用いた。成膜中の真空チャンバ−内の圧力は、真空チャンバーと真空ポンプの間に設置された排気バルブ6の開度を制御することで0.5Paに調節した。裏側にマグネット7が配置されたターゲット8には、Inに対してSnOが5質量%添加されたITOターゲットを用い、ITOターゲットへ電源ケーブル9を通じで電源10より投入される電力は100Wとし、電源10には直流電源に2kHzの周波数で印加される交流電源を重畳した電源を用いた。前駆薄膜の厚さが150nmになるように、成膜時間を制御した。なお、以降いずれの膜についても、成膜時間を制御することで所望の膜厚を得た。
【0048】
形成した前駆薄膜の、CuKα線を用いたX線回折測定により見積もられた、酸化インジウム(222)面に帰属される回折線の回折角、酸化インジウム(400)面に帰属される回折線の回折角、(222)面による回折線の強度I222、および(400)面による回折線の強度I400、およびその強度比(=I222/I400)を表1に示す。また、実施例1および比較例1〜3で形成した前駆薄膜のX線回折図を図3、実施例2および比較例4〜6で形成した前駆薄膜のX線回折図を図4に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
また、形成した前駆薄膜の密度の比と表面粗さを測定した。前駆薄膜の密度NbはCuKα線を用いたX線反射率測定により見積もり、Naは酸化インジウムの理論密度7.120g/cmを用いて密度の比N{=Na/Nb×100}を算出した。さらに、走査型プローブ顕微鏡により観察した表面形状から、算術平均粗さRaを見積もった。上記のNb、N、Raの値をそれぞれ表2に記載した。なお、500℃で大気中にて30分間加熱し、加熱後の算術平均粗さRaを算出したところ、0.9nmとなり、加熱を経ても膜の高い平滑性が維持されることが明らかとなった。
【0051】
【表2】

【0052】
(比抵抗測定)
触針式段差計(Veeco社製DEKTAK)を用いて薄膜の膜厚t(nm)を、またホール効果測定装置(Bio−Rad社製HL5500PC)を用いて薄膜の表面抵抗Rs(Ω/□)を測定し、これらの積(t×Rs×10−7)から薄膜の比抵抗(Ωcm)を算出した。
【0053】
(耐熱性試験)
成膜後の前駆薄膜付基材をそれぞれ200℃、400℃、500℃で大気中にて30分間加熱し、加熱後の比抵抗(ρ)を測定後、比抵抗減少率を[(ρ−ρ)/ρ]×100(%)より算出した。測定結果を表3に示した。得られた透明導電性薄膜は、各種性能に優れたものであった。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例2
前駆薄膜を形成する際、ターゲットに、Inに対してSnOが10質量%添加されたITOターゲットを用いた以外は実施例1と同様にして、前駆薄膜を形成した。得られた前駆薄膜は、実施例1よりも結晶性が高くなり、該前駆薄膜から得られた透明導電性薄膜は、実施例1よりも低比抵抗性、及び耐熱性が向上した。
【0056】
比較例1
前駆薄膜を形成する際、ガス導入管5より、アルゴンガスと酸素ガスを導入し、アルゴンガスと酸素ガスの流量をマスフローコントローラー(図示せず)により制御して、全流量ガスに対する酸素ガスの流量比{[O/(Ar+O)]×100}が2.0%になるように調整した以外は実施例1と同様にして、前駆薄膜を形成した。得られた前駆薄膜は実施例1と比較して(222)面に強く配向し、結晶性が高く、さらに薄膜の密度が低く、表面形状も粗かった。なお、実施例1と同様に該前駆薄膜を500℃で加熱し、加熱後の算術平均粗さRaを算出したところ、5.6nmとなり、加熱後に表面粗さが増大することが明らかとなった。また、該前駆薄膜から得られた透明導電性薄膜は、比抵抗が高い値を示した。
【0057】
比較例2
全流量ガスに対する酸素ガスの流量比が3.5%になるように調整した以外は実施例1と同様にして、前駆薄膜を形成した。得られた前駆薄膜は実施例1と比較して(222)面に強く配向し、結晶性が高く、さらに薄膜の密度が低く、表面形状も粗かった。なお、実施例1と同様に該前駆薄膜を500℃で加熱し、加熱後の算術平均粗さRaを算出したところ、5.0nmとなり、加熱後に表面粗さが増大することが明らかとなった。また、該前駆薄膜から得られた透明導電性薄膜は、比抵抗が高い値を示し、さらに前駆薄膜よりも比抵抗が増大した。
【0058】
比較例3
全流量ガスに対する酸素ガスの流量比が5.0%になるように調整した以外は実施例1と同様にして、前駆薄膜を形成した。得られた前駆薄膜は、実施例1と比較して(222)面に強く配向し、結晶性が高く、さらに薄膜の密度が低く、表面形状も粗かった。なお、実施例1と同様に該前駆薄膜を500℃で加熱し、加熱後の算術平均粗さRaを算出したところ、3.3nmとなり、加熱後に表面粗さが増大することが明らかとなった。また、該前駆薄膜から得られた透明導電性薄膜は、比抵抗が高い値を示し、さらに前駆薄膜よりも比抵抗が増大した。
【0059】
比較例4
前駆薄膜を形成する際、全流量ガスに対する酸素ガスの流量比が2.0%になるように調整した以外は実施例2と同様にして、前駆薄膜を形成した。得られた前駆薄膜は、実施例2と比較して(222)面に強く配向し、結晶性が高くなった。
【0060】
比較例5
前駆薄膜を形成する際、全流量ガスに対する酸素ガスの流量比が3.5%になるように調整した以外は実施例2と同様にして、前駆薄膜を形成した。得られた前駆薄膜は実施例2と比較して(222)面に強く配向し、結晶性が高くなった。また、該前駆薄膜から得られた透明導電性薄膜の比抵抗は高い値を示した。
【0061】
比較例6
前駆薄膜を形成する際、全流量ガスに対する酸素ガスの流量比が5.0%になるように調整した以外は実施例2と同様にして、前駆薄膜を形成した。得られた前駆薄膜は実施例2と比較して(222)面に強く配向し、結晶性が高くなった。また、該前駆薄膜から得られた透明導電性薄膜の比抵抗は高い値を示した。比較例1〜比較例6より、酸素ガスの流量比を増加させていくに従って前駆薄膜の結晶性は高くなり、また、透明導電性薄膜の低比抵抗性、耐熱性が低下することが示された。
【0062】
比較例7
ターゲットにInに対してSnOが添加されていないInターゲットを用いてIn膜(以下、IO膜と呼ぶことがある)を形成した。その他の成膜条件は、実施例1と同様にした。得られた前駆薄膜の結晶性は実施例1、実施例2と同程度であった。また、該前駆薄膜から得られたIO膜の比抵抗は高くなり、前駆薄膜よりも比抵抗は増大した。実施例1〜実施例2、及び比較例1〜比較例7より、SnOを含むことで、低比抵抗性、及び耐熱性が改善されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の前駆薄膜を加熱することで得られる透明導電性薄膜は、有機EL照明用素子、自動車用のサンルーフ等の電極部材として利用され得る。さらに、前駆薄膜にパターニングを施し、加熱してパターン導電性薄膜とすることで、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイやELディスプレイなどの表示デバイスや太陽電池等の電極部材として用いることが出来る可能性が示される。なお、パターン導電性薄膜については開発途中である。
【符号の説明】
【0064】
1 ガラス
2 基板ホルダー
3 真空チャンバー
4 真空ポンプ
5 ガス導入管
6 排気バルブ
7 マグネット
8 ターゲット
9 電源ケーブル
10 電源
11 導電性薄膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に蒸着プロセスを経て形成される導電性薄膜の前駆薄膜であり、該前駆薄膜は酸化インジウムを主とするものであり、該前駆薄膜はスズを含むものであり、該前駆薄膜はCuKα線を用いたX線回折測定により測定される酸化インジウムの回折線の2θ位置が(222)面は30.3°以下に、及び(400)面は35.3°以下にそれぞれ帰属される回折線が検出され、該(222)面による回折線の強度(I222)と該(400)面による回折線の強度(I400)との比(I222/I400)が5以下であることを特徴とする導電性薄膜の前駆薄膜。
【請求項2】
N=(Nb/Na)×100で表される、酸化インジウムの理論密度Naと該前駆薄膜の実測密度Nbとの比Nが、92%以上であることを特徴とする請求項1に記載の導電性薄膜の前駆薄膜。
【請求項3】
薄膜表面の算術平均粗さ(Ra)が1.5nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性薄膜の前駆薄膜。
【請求項4】
導電性薄膜の前駆薄膜の比抵抗をρ、該前駆薄膜が100℃〜600℃で加熱された後の比抵抗をρとした時、ρが7×10−4Ωcm以下となり、および[(ρ−ρ)/ρ]×100(%)で表される比抵抗減少率が70%以上となることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の導電性薄膜の前駆薄膜。
【請求項5】
膜厚が50〜500nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の導電性薄膜の前駆薄膜。
【請求項6】
スパッタリング法により、アルゴン雰囲気下で成膜することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の導電性薄膜の前駆薄膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の前駆薄膜を100〜600℃で加熱することによって得られることを特徴とする透明導電性薄膜。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の導電性薄膜の前駆薄膜を基材上に形成する工程、基材上に形成された該薄膜にパターニングする工程、及びパターニング後の該薄膜を100℃〜600℃で加熱する工程を、製造工程に含むことを特徴とするパターン導電性薄膜の形成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−168647(P2010−168647A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236575(P2009−236575)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】