説明

導電性複合モノフィラメント

【課題】擦過や摩耗を受けた場合において、接触する金属部品の摩耗を軽減し、優れた導電性能を有する白色の導電性芯鞘構造モノフィラメントおよびこの導電性複合モノフィラメントを構成素材に使用した工業用織物の提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる複合モノフィラメント1であって、前記複合モノフィラメントは熱可塑性樹脂からなる鞘部非導電層3と導電性無機粒子を40〜85重量%含有する熱可塑性樹脂組成物からなる芯部導電層2とを有すると共に、この複合モノフィラメントの側面長手方向に沿って少なくとも1条の凹溝4が形成されており、且つ前記芯部導電層の少なくとも一部が、前記凹溝4の内部においてのみ前記鞘部非導電層から露出している導電性複合モノフィラメント1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電層が糸表面に完全に現れていなくても導電性の低下を招くことがなく、また繰り返し擦過や摩耗を受けても導電層が剥離せず、さらには製織機の金属部品の摩耗を防止することができる導電性複合モノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂モノフィラメントは、導電性が極めて低いために静電気が帯電しやすく、その用途によっては、粉塵の付着や放電火花による引火・爆発などの障害が発生する問題を抱えていた。
【0003】
これら問題の解決手段として、カーボンブラックや金属粒子などを混合したポリマーからなる導電層と繊維形成性ポリマーとからなる非導電層とが接合された複合フィラメントが一般に良く知られていた。
【0004】
例えば、導電性カーボンブラックを含有する樹脂層を繊維断面の外周近辺に配し、溶融紡糸する際に、延伸工程後、熱可塑性樹脂の融点の±35℃の温度範囲で0〜10%弛緩させながら、1〜60秒間弛緩熱処理してなる導電性モノフィラメント(例えば、特許文献1参照)が提案されている。しかしながら、この導電性モノフィラメントは、優れた導電性能を持つものの、カーボンブラックを用いた導電性繊維は黒色を呈しているため、少量添加でも繊維製品の美観を著しく損ねるばかりか、繰り返し擦過や摩耗を受けると導電性樹脂層が剥離して導電性能が低下するなどの欠点があった。
【0005】
また、カーボンブラックが繊維表面に露出した導電性複合繊維の色調を改善するために、芯部がカーボンブラックを含有する熱可塑性樹脂から成り、鞘部が芯部の黒色を隠蔽すべく酸化チタンを含有する繊維形成性熱可塑性樹脂から成る芯鞘型の制電制複合繊維(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、この制電性複合繊維は、多少黒色が薄くなるもののその程度は未だに十分であるとは言えず、隠蔽性を高めるため鞘部に含有する酸化チタン量を増加させると、製織加工の際に制電性複合繊維と接する金属部品が著しく摩耗するばかりか、鞘部に導電性カーボンブラックが存在しないため導電性が十分ではなかった。
【0006】
また、ポリエステル系ポリマーからなる非導電層成分を鞘部、導電性金属酸化物粒子と熱可塑性エラストマーとの混合物とからなる導電層成分を芯部としてなる白色系導電性複合繊維(例えば、特許文献3参照)が既に提案されている。この導電性複合繊維は、白色の金属酸化物粒子を導電成分として用いているため色相に関しては改善されているが、導電層が繊維表面に露出していないため導電性が十分ではなかった。
【0007】
さらに、導電性無機粒子を35〜85%およびリチウム塩を0.05〜1%含有する導電層と繊維形成性からなる保護層とが接合され、少なくとも導電層の一部が表面に露出しているように複合されてなる導電性複合繊維(例えば、特許文献4参照)が提案されている。しかしながら、この導電性複合繊維は、導電性能に関しては改善されているものの、繊維表面に導電性無機粒子が直接露出しているため、製織加工の際に導電性複合繊維と接する金属部品が摩耗するといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−201008号公報
【特許文献2】特開昭49−50216号公報
【特許文献3】特許第3917524号公報
【特許文献4】特開2006−316373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のような状況を鑑み、本発明は、従来技術における問題を解決すべく検討した結果達成されたものである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、導電層が糸表面に完全に現れていなくても導電性の低下を招くことがなく、また繰り返し擦過や摩耗を受けても導電層が剥離せず、さらには製織機の金属部品の摩耗を防止することができる導電性複合モノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、熱可塑性樹脂からなる複合モノフィラメントであって、前記複合モノフィラメントは熱可塑性樹脂からなる鞘部非導電層と導電性無機粒子を40〜85重量%含有する熱可塑性樹脂組成物からなる芯部導電層とを有すると共に、この複合モノフィラメントの側面長手方向に沿って少なくとも1条の凹溝が形成されており、且つ前記芯部導電層の少なくとも一部が、前記凹溝の内部においてのみ前記鞘部非導電層から露出していることを特徴とする導電性複合モノフィラメントが提供される。
【0012】
なお、本発明の導電性複合モノフィラメントにおいては、
前記複合モノフィラメントの長さ方向に直交する断面において、複合モノフィラメントの実断面積S1と、この複合モノフィラメントの断面外周に接する外接円の面積S2との比S1/S2が0.8以上であること
前記露出した芯部導電層が、複合モノフィラメントの全側面に対して5〜30%を占めていること
前記導電性無機粒子が金属酸化物粒子からなり、その平均粒子径が0.01〜7μmの範囲であること
前記複合モノフィラメントの長さ方向に直交する断面において、前記非導電層の断面積と前記導電層の断面積の比が50:50〜95:5の範囲であること、および
前記複合モノフィラメントの両端に電極を繋いで印加し、測定される複合モノフィラメントの抵抗値(Ω)を電極間距離(cm)で割って計算した体積固有抵抗値が1×10Ω/cm以下であること、
がいずれもより好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、導電層が糸表面に完全に現れていなくても導電性の低下を招くことがなく、また繰り返し擦過や摩耗を受けても導電層が剥離せず、さらには製織機の金属部品の摩耗を防止することができる導電性複合モノフィラメントが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)〜(c)は本発明の導電性複合モノフィラメントの数例を示す断面図である。
【図2】(d)および(e)は従来の導電性複合モノフィラメントの数例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
図1(a)〜(c)は本発明の導電性複合モノフィラメントの数例を長さ方向に対して垂直に切断した断面図であり、1は導電性複合モノフィラメント、2は芯部導電層、3は鞘部非導電層、4は凹溝、5は外接円を示す。
【0017】
図1に示すとおり、本発明の導電性モノフィラメントは、熱可塑性樹脂からなる複合モノフィラメント1であって、前記複合モノフィラメント1は熱可塑性樹脂からなる鞘部非導電層3と導電性無機粒子を40〜85重量%含有する熱可塑性樹脂組成物からなる芯部導電層2とを有すると共に、この複合モノフィラメン1の側面長手方向に沿って少なくとも1条の凹溝4が形成されており、且つ前記芯部導電層2の少なくとも一部が、前記凹溝4の内部においてのみ前記鞘部非導電層3から露出していることを特徴とする。
【0018】
ここで、図1(a)の複合モノフィラメントは、一般的な芯鞘型複合モノフィラメントであり、その丸型断面芯部導電層2の一部が、凹溝4の内部においてのみ鞘部非導電層3から露出している。
【0019】
また、図1(b)の複合モノフィラメントは、十字型の芯部導電層2を有しており、この十字型の芯部導電層2の四つのコーナー部が、複合モノフィラメン1の側面長手方向に沿って形成された4条の凹溝4の内部においてのみ鞘部非導電層3から露出している。
【0020】
さらに、図1(c)の複合モノフィラメントは、鞘部非導電層3の断面外周近辺に6つの芯部導電層2をほぼ等間隔で配置してなり、各芯部導電層2の一部が、複合モノフィラメン1の側面長手方向に沿って形成された6条の凹溝4の内部においてのみ鞘部非導電層3から露出している。
【0021】
なお、本発明においては、芯部導電層の数は1つに限らず複数でも良く、偏心芯鞘構造とすることも可能である。
【0022】
このように、本発明の導電性複合モノフィラメント1においては、芯部導電層2が凹溝4の内部においてのみ鞘部非導電層3から間接的に露出しているため、導電性能の低下が抑制され、また製織工程で製織機の金属部品と芯部導電層2とが直接接触することがないために、製織機の金属部品を摩耗することがなくなるのである。
【0023】
すなわち、図2の(d)に示すような従来の導電性複合モノフィラメント1は、芯部導電層2が鞘部非導電層3に完全に覆われているために、十分な導電性能を発揮することができず、また図2の(e)に示すような従来の導電性複合モノフィラメント1は、芯部導電層2の一部が鞘部非導電層3から露出しているため、導電性能の低下を抑制することができるが、製織工程で製織機の金属部品と芯部導電層2とが直接接触しやすい構造になっているため、製織機の金属部品を摩耗しやすい。
【0024】
また、本発明の導電性複合モノフィラメント1の芯部導電層2には、導電性無機粒子を40〜85重量%含有する必要があり、さらには50〜80重量%の範囲であることが好ましい。
【0025】
これは、導電性無機粒子の含有量が上記範囲を下まわると、得られる導電性複合モノフィラメントの導電性能が低下しやすい傾向にあり、逆に、導電性無機粒子の含有量が上記範囲を上まわると、得られる導電性複合モノフィラメントの強度が低下しやすくなるばかりか、導電性複合モノフィラメントを溶融紡糸する際には、原料を紡糸機内に押し込みにくくなり、溶融紡糸が困難となりやすいからである。
【0026】
また、本発明の導電性複合モノフィラメント1は、その長さ方向に対して垂直切断した断面において、複合モノフィラメントの実断面積S1と、この複合モノフィラメントの断面外周に接する外接円の面積S2との比S1/S2が0.8以上であることが好ましい。
【0027】
これは、S1/S2の値が上記の範囲を下まわると、断面形状が複雑になるために、導電性複合モノフィラメント1の強度が低下しやすいからである。
【0028】
また、本発明の導電性モノフィラメント1は、その側面に露出した芯部導電層2が複合モノフィラメント1の全側面に対して5〜30%を占めていることが好ましい。
【0029】
これは、芯部導電層2が表面に露出する割合が上記の範囲を下まわると、十分な導電性能が得られにくくなり、逆に、芯部導電層2が表面に露出する割合が上記範囲を上まわると、芯部導電層2は凹溝4の内部でのみ鞘部非導電層3から露出しているため、断面形状が複雑となり、導電性複合モノフィラメント1の強度が低下しやすくなるからである。
【0030】
また、本発明の導電性複合モノフィラメント1に含有される導電性無機粒子は、繊維製品の美観を損ねないことから、金属酸化物粒子が導電性および白度の面から好ましい。
【0031】
なお、金属酸化物粒子としては、例えば酸化錫、酸化亜鉛、及び酸化錫、酸化亜鉛で表面を被覆した酸化チタンなどの粒子が挙げられるが、さらに導電性能を高める添加剤として酸化錫に対しては酸化アンチモンが、酸化亜鉛に対してはアルミニウム、カリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫などの金属酸化物を併用することも可能である。
【0032】
そして、本発明の導電性複合モノフィラメント1に使用する金属酸化物粒子の平均粒子径は0.01〜7μmの範囲が好ましく、さらには0.1〜1μmの範囲がより好ましい。
【0033】
これは、金属酸化物粒子の平均粒子径が上記範囲を下まわると、粒子同士が凝集しやすくなるために粒子の連続構造が形成されなくなり、十分な導電性能が得られにくくなるばかりか、0.01μm以下の超微粒子は非常に高価なため、製造コストに影響しやすいからである。また、金属酸化物粒子の平均粒子径が上記範囲を上まわると、逆に粒子が凝集性しにくくなって粒子の連続構造が形成されなくなり、十分な導電性能が得られにくくなるからである。
【0034】
さらにまた、本発明の導電性複合モノフィラメント1は、その長さ方向に対して垂直に切断した断面において、鞘部非導電層3の断面積と芯部導電層2の断面積の比が50:50〜95:5の範囲にあることが好ましい。
【0035】
これは、芯部導電層2の比率が上記の範囲を下まわると、十分な導電性能が得られにくくなり、逆に、芯部導電層2の比率が上記範囲を上まわると、導電性能は向上するものの、導電性複合モノフィラメント1の強度が低下しやすくなるからである。
【0036】
本発明の導電性複合モノフィラメント1の導電性能は、芯部導電層2に使用する導電成分やその使用濃度、芯鞘比率、さらには表面に露出している芯部導電層2の割合によって異なるが、抵抗値(Ω)÷抵抗値測定値時の電極間距離(cm)で表した体積固有抵抗値が1x10Ω/cm以下であることが好ましい。
【0037】
すなわち、導電性複合モノフィラメント1の体積固有抵抗値が1x10Ω/cm以下であれば、帯電防止材としての機能を十分に発揮することができる。
【0038】
ここで、本発明の導電性複合モノフィラメント1を構成する素材については、特に制限はなく、鞘部非導電層3を構成する熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、6/66共重合などのポリアミド樹脂またはその共重合体、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTという)、ポリエチレンナフタレート(以下、PENという)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリエステル類またはその重合体、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・フッ化ビニリデン共重合体などのフッ素樹脂類、ポリカーボネート類、ポリフェニレンスルファイド(以下、PPSという)、ポリスルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアリルエーテルニトリル、液晶ポリエステルなどが挙げられる。
【0039】
さらに、上記PET及びPBTは、そのジカルボン酸成分であるテレフタル酸の一部を、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸およびスルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよく、またグリコール成分であるエチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールの一部を、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。また、これらを単独成分として使っても良いし、複数成分のブレンド物として使っても良い。
【0040】
一方、芯部導電層2を形成する導電性を有する熱可塑性樹脂組成物としては、導電性無機粒子を高濃度にブレンドしたものが使用されるが、その主成分となる熱可塑性樹脂については、鞘部非導電層3を形成する熱可塑性樹脂として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0041】
ここで、複合モノフィラメントの側面長手方向に沿って少なくとも1条の凹溝が形成する手段としては、紡糸後に研削をして凹溝を形成する方法などが挙げられるが、なかでも凹溝が形成されるよう設計された口金を通して溶融押出する方法が好ましく採用される。
【0042】
かくして得られる本発明の導電性複合モノフィラメント1は、工業用資材としての十分な物理的強度を兼ね備えるとともに、帯電防止材として必要とされる導電性能を十分に有し、さらには製織工程において、芯部導電層2が製織機の金属部品と接触することが無いため、製織機の金属部品を摩耗させることがなく、導電層の脱落による導電性能の低下を招くことがないため、導電性能を安定かつ持続的に発揮することができる。
【0043】
そして、本発明の導電性複合モノフィラメント1は、上記の特性を生かして、小麦粉などの粉体篩分けフィルター、布帛の乾燥、紙おむつや生理製品などサニタリー製品製造時に水分や有機溶剤を乾燥させるドライヤーベルト、および抄紙機のドライヤーカンバスなどの工業用織物の経糸および/または緯糸の少なくとも一部、あるいはヘアブラシや工業用ブラシなどの各用途に使用された場合には、特に優れた帯電防止効果を発現する。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を基に本発明の導電性複合モノフィラメントをさらに詳しく説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
なお、導電性複合モノフィラメントの各種特性値は以下の方法に従って測定したものである。
【0046】
[S1/S2比]
導電性複合モノフィラメントを長さ方向に対して垂直に切断し、その断面をKEYENCE製デジタルマイクロスコープVHX−100Fにて観察し、デジタルマイクロスコープの面積測定ツールを用いて、導電性複合モノフィラメントの断面積S1と外接円の面積S2を測定した。そして、測定したそれぞれの面積からS1/S2の値を求めた。
【0047】
[鞘部導電層の表面露出比率]
導電性複合モノフィラメントを長さ方向に対して垂直に切断し、その断面をKEYENCE製デジタルマイクロスコープVHX−100Fにて観察し、導電性複合モノフィラメントの全周長および芯部導電層の表面露出長を計測し、芯部導電層の表面露出比率を百分率で求めた。
【0048】
[鞘部導電層と芯部非導電層の面積比]
導電性複合モノフィラメントを長さ方向に対して垂直に切断し、その断面をKEYENCE製デジタルマイクロスコープVHX−100Fにて観察し、デジタルマイクロスコープの面積測定ツールを用いて、芯部導電層の断面積および鞘部非導電層の断面積を計測し、その面積比を百分率で求めた。
【0049】
[体積固有抵抗値]
導電性複合モノフィラメント試料を5cmにカットし、両端の表面にドータイトを塗り1時間乾燥させる。その後、試料の両端をクリンプ(電極)で把持し、印加して糸の抵抗値を測定し、下記の計算式(I)により抵抗値を求めた。なお、測定は温度20℃、湿度65%の条件下で行い、抵抗値は東亜電波工業(株)製の極超絶縁計SM−10型を使用して測定した。
体積固有抵抗値(Ω/cm)=測定抵抗値(Ω)÷電極間距離(cm)・・・(I)
【0050】
[金属摩耗性評価]
下記条件の下で導電性複合モノフィラメントを走行させながら5φのステンレス棒に擦過させた。
走行速度:80m/分
張力:2N
導電性複合モノフィラメントとステンレス棒の接触角度:50°
擦過時間:8時間
【0051】
そして、ステンレス棒の表面をKEYENCE製デジタルマイクロスコープVHX−100Fにて観察し、削り取られた溝部の深さと幅を計測した。
【0052】
なお、実施例で使用した原料は、特に記されない限り次のものを使用した。
【0053】
[ポリエステルペレット]
公知の溶融重縮合と固相重縮合とによって製造した極限粘度0.94、末端カルボキシル基濃度15当量/10gの乾燥したポリエチレンテレフタレートペレット(以下、PETペレットと略称する)。
【0054】
[導電性無機粒子含有PETマスターバッチペレット]
導電性無機粒子として表面に酸化第2錫の皮膜15wt%を有する酸化チタン粒子に対して、1.5wt%の酸化アンチモンを混合焼成して得られた平均粒子径0.2μの導電粒子(三菱マテリアル株式会社製W−1)を極限粘度0.67のPETチップに75重量%含有したPETペレット。
【0055】
[実施例1]
芯部導電層に導電性無機粒子含有PETマスターバッチペレット、鞘部非導電層にPETペレットを、表1に記載の複合面積比になるように、エクストルーダー型複合溶融紡糸機に連続供給した。
【0056】
エクストルーダー型複合溶融紡糸機内で各ペレットを約290℃で溶融混練した後、ギヤポンプを介して複合紡糸パック内に押出し、さらに各ペレットの溶融物を濾過層に通過させた後、口金吐出孔直前で合流させ、断面形状が図1(a)となる複合紡糸口金より紡出した。その後紡出された溶融物は70℃の湯浴中で冷却固化されて未延伸糸となり、この未延伸糸を引き続きトータル5.5倍に延伸し、さらに熱セットを施して、直径0.2mm、S1/S2=0.88、芯部導電層の表面露出比率が10%、芯部導電層と鞘部非導電層の断面積比が40:60の導電性複合モノフィラメントを得た。
【0057】
なお、凹溝の形成は口金形状により行い、凹溝の深さは15μm、幅は120μmとした。
【0058】
[実施例2]
芯部導電層と鞘部非導電層の断面積比を20:80としたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.2mm、S1/S2=0.90、表面露出比率が7%の導電性複合モノフィラメントを得た。
【0059】
なお、凹溝の形成は口金形状により行い、凹溝の深さは35μm、幅は120μmとした。
【0060】
[実施例3]
芯部導電層の導電性無機粒子含有量を50%としたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.2mm、S1/S2=0.88、導電層の表面露出比率が10%、芯部導電層と鞘部非導電層の断面積比が40:60の導電性複合モノフィラメントを得た。
【0061】
なお、凹溝の形成は口金形状により行い、凹溝の深さは20μm、幅は120μmとした。
【0062】
[実施例4]
断面形状が図1(b)となる複合紡糸口金を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.2mm、S1/S2=0.96、導電層の表面露出比率が15%、芯部導電層と鞘部非導電層の断面積比が30:70の導電性複合モノフィラメントを得た。
【0063】
なお、凹溝の形成は口金形状により行い、凹溝の深さは5μm、幅は60μmとした。
【0064】
[実施例5]
断面形状が図1(c)となる複合紡糸口金を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.2mm、S1/S2=0.95、導電層の表面露出比率が18%、芯部導電層と鞘部非導電層の断面積比が25:75の導電性複合モノフィラメントを得た。
【0065】
なお、凹溝の形成は口金形状により行い、凹溝の深さは8μm、幅は50μmとした。
【0066】
[比較例1]
断面形状が図2(d)となる複合紡糸口金を使用したこと以外は、実施例1と同じ製造方法で直径0.2mm、S1/S2=1.00、芯部導電層と鞘部非導電層の断面積比が40:60の導電性複合モノフィラメントを得た。
【0067】
[比較例2]
断面形状が図2(e)となる複合紡糸口金を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.2mm、S1/S2=1.00、導電層の表面露出比率が20%、芯部導電層と鞘部非導電層の断面積比が30:70の導電性複合モノフィラメントを得た。
【0068】
[比較例3]
芯部導電層の導電性無機粒子含有量を90%としたこと以外は、実施例1と同じ製造方法で紡糸を実施したが、導電層の流動性が低く糸切れが多発し、紡糸することが出来なかった。
【0069】
[比較例4]
芯部導電層の導電性無機粒子含有量を20%としたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.2mm、S1/S2=0.88、導電層の表面露出比率が15%、芯部導電層と鞘部非導電層の断面積比が30:70の導電性複合モノフィラメントを得た。
【0070】
なお、凹溝の形成は口金形状により行い、凹溝の深さは20μm、幅は120μmとした。
【0071】
実施例1〜5と比較例1〜4で得られた導電性複合モノフィラメントの体積固有抵抗値と金属摩耗性評価の評価結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1の結果から明らかなように、本発明の導電性複合モノフィラメントは、体積固有抵抗値は良好な値を示し、金属摩耗性評価も良好であった。
【0074】
これに対して、本発明の条件を満たさない導電性複合モノフィラメント(比較例1〜4)は、導電性能および金属摩耗性のいずれかが実施例の導電性複合モノフィラメントに比べて低く、また、実際の溶融紡糸工程においても、糸切れが多発するばかりか、原料の押し込みも不安定で操業不可能であり(比較例3)、さらに工業用織物用途として十分な強度を持たないものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の導電性複合モノフィラメントは、従来の導電性複合モノフィラメントに比べ、製織機の金属部品の摩耗が少なく、優れた帯電防止効果を有するため、例えば、小麦粉などの粉体篩分けフィルター、搬送用ベルト、紙おむつや生理製品などのサニタリー製品製造時に使用される乾燥および搬送用ベルト、および抄紙機のドライヤーキャンバスなどの帯電しやすい工程に使用される各種工業用織物などとして好適である。
【符号の説明】
【0076】
1 導電性複合モノフィラメント
2 芯部導電層
3 鞘部非導電層
4 凹溝
5 外接円

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる複合モノフィラメントであって、前記複合モノフィラメントは熱可塑性樹脂からなる鞘部非導電層と導電性無機粒子を40〜85重量%含有する熱可塑性樹脂組成物からなる芯部導電層とを有すると共に、この複合モノフィラメントの側面長手方向に沿って少なくとも1条の凹溝が形成されており、且つ前記芯部導電層の少なくとも一部が、前記凹溝の内部においてのみ前記鞘部非導電層から露出していることを特徴とする導電性複合モノフィラメント。
【請求項2】
前記複合モノフィラメントの長さ方向に直交する断面において、複合モノフィラメントの実断面積S1と、この複合モノフィラメントの断面外周に接する外接円の面積S2との比S1/S2が0.8以上であることを特徴とする請求項1に記載の導電性複合モノフィラメント。
【請求項3】
前記露出した芯部導電層が、複合モノフィラメントの全側面に対して5〜30%を占めていることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性複合モノフィラメント。
【請求項4】
前記導電性無機粒子が金属酸化物粒子からなり、その平均粒子径が0.01〜7μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性複合モノフィラメント。
【請求項5】
前記複合モノフィラメントの長さ方向に直交する断面において、前記非導電層の断面積と前記導電層の断面積の比が50:50〜95:5の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性複合モノフィラメント。
【請求項6】
前記複合モノフィラメントの両端に電極を繋いで印加し、測定される複合モノフィラメントの抵抗値(Ω)を電極間距離(cm)で割って計算した体積固有抵抗値が1×10Ω/cm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性複合モノフィラメント。

【図1】
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【図2】
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