説明

導電性複合モノフィラメント

【課題】従来の導電性モノフィラメントよりも優れた耐摩耗性を有し、鞘部導電層が使用によって擦過を受けた場合であっても、導電性能が著しく低下することなく、極めて安定した導電性能を長期に亘って維持することを可能とした芯鞘構造の導電性モノフィラメントの提供。
【解決手段】芯部非導電層と鞘部導電層からなる芯鞘複合モノフィラメントであって、前記芯部非導電層がポリエステル系樹脂からなり、前記鞘部導電層がポリエステル系樹脂55〜95重量%と導電性カーボンブラック5〜45重量%の混合物100重量部に対し、平均粒径0.05〜5μmの範囲の球状架橋高分子粒子を0.1〜5重量部含有する樹脂組成物からなることを特徴とする導電性複合モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞘部導電層が使用によって擦過を受けた場合であっても、導電性能が著しく低下することなく、極めて安定した導電性能を長期に亘って維持することを可能とした芯鞘構造の導電性モノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂モノフィラメントは、導電性が極めて低いために静電気が帯電しやすく、その用途によっては、粉塵の付着や放電火花による引火・爆発などの障害が発生するという問題を抱えていた。
【0003】
これら問題の解決手段として、カーボンブラックや金属粒子などを混合したポリマーからなる導電層と繊維形成性ポリマーからなる非導電層が接合された複合フィラメントが一般に良く知られていた。
【0004】
例えば、芯が芳香族ポリエステル/脂肪族ポリエステル(混合重量比率80/20〜98/2)の混合ポリマーと導電性カーボンブラックとの混合物から成り、鞘が芳香族ポリエステルから成る導電性複合繊維(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【0005】
しかし、この導電性複合繊維は、芯成分に導電性カーボンブラックを含有し、この導電性カーボンブラックが繊維表面に露出していないため、良好な導電性能を得ることが出来なかった。
【0006】
また、導電性カーボンブラックを含有する樹脂層を繊維断面の外周近辺に配し、溶融紡糸する際に、延伸工程後、熱可塑性樹脂の融点の±35℃の温度範囲で0〜10%弛緩させながら、1〜60秒間弛緩熱処理してなる導電性モノフィラメント(例えば、特許文献2参照)が提案されている。この導電性モノフィラメントは、鞘成分に導電性カーボンブラックを含有しているため、優れた導電性能を持つという利点を有する反面、製織時にガイド類との擦過によって導電性成分を含む鞘部分が摩耗・剥離しやすいため、導電性能が長期間維持できないという問題があった。
【0007】
さらに、芳香族ポリエステルを芯成分とし、芳香族ポリエステル96〜85重量%と高導電性カーボンブラックを4〜15重量%との混合物100重量部に対し、アイオノマー樹脂0.05〜5重量部を含有させた組成物を鞘成分とする導電性複合ポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献3参照)が提案されている。この導電性複合モノフィラメントは、含有するカーボンブラックの鎖状構造が破壊されず、含有するカーボンブラック量が従来よりも少なくても良好な導電性能を示すため、耐剥離性および耐摩耗性がある程度は向上したものといえるが、その改善効果は未だに十分満足出来るものではなかった。
【0008】
一方、ポリエステルフィルムの摩擦係数を下げる目的で各種不活性有機高分子粒子を混合したポリエステルフィルム(例えば、特許文献4参照)が知られているが、これはフィルムの改良技術であり、これをモノフィラメントに適用したとしても、十分満足出来る耐摩耗性を期待することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭56−85423号公報
【特許文献2】特開昭61−201008号公報
【特許文献3】特開2005−163230号公報
【特許文献4】特開平2−11640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、鞘部導電層が使用によって擦過を受けた場合であっても、導電性能が著しく低下することなく、極めて安定した導電性能を長期に亘って維持することを可能とした芯鞘構造の導電性モノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、芯部非導電層と鞘部導電層からなる芯鞘複合モノフィラメントであって、前記芯部非導電層がポリエステル系樹脂からなり、前記鞘部導電層がポリエステル系樹脂55〜95重量%と導電性カーボンブラック5〜45重量%の混合物100重量部に対し、平均粒径0.05〜5μmの範囲の球状架橋高分子粒子を0.1〜5重量部含有する樹脂組成物からなることを特徴とする導電性複合モノフィラメントが提供される。
【0013】
なお、本発明の導電性複合モノフィラメントにおいては、
球状架橋高分子粒子が球状架橋ポリスチレン樹脂からなること
鞘部導電層が、ポリエステル系樹脂と導電性カーボンブラックとの混合物100重量部に対して、さらにポリスチレン樹脂を0.5〜20重量部含有すること
ポリスチレン樹脂がシンジオタクチック構造を有するポリスチレン樹脂であること
複合モノフィラメントの長さ方向に直交する断面において、前記芯部非導電層の面積と前記鞘部導電層の面積の比が50:50〜95:5の範囲であること
モノフィラメントの両端に電極を繋いで印加し、測定されるモノフィラメントの抵抗値(Ω)÷抵抗値測定値時の電極間距離(cm)で表した体積固有抵抗値が1×10Ω/cm以下であること、および
JIS−1095−9.10.2B法に準じて行った強制摩耗試験において、強制摩耗試験前後の導電性モノフィラメントの体積固有抵抗値をそれぞれA(Ω/cm)およびB(Ω/cm)とした場合のA÷Bx100で示される導電性保持率が50%以上であること、
が、いずれもより好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、導電性を有する鞘部導電層に球状架橋高分子粒子が含有されていることにより、モノフィラメント表面に微細で均一な凹凸が形成されるため、耐摩耗性を改善することができ、鞘部導電層が使用によって擦過を受けた場合であっても、導電性能が著しく低下することなく、極めて安定した導電性能を長期に亘って維持することを可能とした導電性複合モノフィラメントが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の導電性複合モノフィラメントは、芯部非導電層と鞘部導電層からなる芯鞘複合モノフィラメントであって、前記芯部非導電層がポリエステル系樹脂からなり、前記鞘部導電層がポリエステル系樹脂55〜95重量%と導電性カーボンブラック5〜45重量%の混合物100重量部に対し、平均粒径0.05〜5μmの範囲の球状架橋高分子粒子を0.1〜5重量部含有する樹脂組成物からなることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の導電性複合モノフィラメントにおいて、芯部非導電層を構成する芳香族ポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸あるいはそのジアルキルエステルなどの二官能性成分とグリコール成分とからなるものを主体とするが、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)を主体とするものが好ましい。ここでいうPETは、ホモポリエステルであってもコポリエステルであってもよく、共重合成分として、例えばアジピン酸、セバシン酸、フタル酸、ナフタレン―2、6―ジカルボン酸、5―ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸成分、р―オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸成分、およびテトラメチレングルコール、ヘキサメチレングルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチレルグリコール、ポリオキシアルキシレングリコール、р―キシレングリコール、1,4―シクロヘキサンジメタノール、5―ナトリウムスルホレゾルシンなどのジオール成分を含んでいてもよい。
【0018】
一方、本発明の導電性複合モノフィラメントにおいて、鞘部導電層鞘成分を構成する芳香族ポリエステルとしては、前記芯成分と同じPETであることが好ましいが、PETに代えてポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート等の他のポリエステルを使用することも可能である。そして、鞘成分を構成する芳香族ポリエステルの極限粘度は、前記芯成分ポリエステルの極限粘度とほぼ同レベルであることが望ましい。
【0019】
本発明の導電性複合モノフィラメントに使用する導電性カーボンブラックとしては、導電性を有するものであれば特に制限はないが、なかでもDBP給油量(9g法)が340ml/100g以上のカーボンブラックを使用することが望ましい。このようなカーボンブラックとしては、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製“ケッチェンブラック”(登録商標)ECや、“ケッチェンブラック”(登録商標)EC600JDが知られており、その他アセチレンブラックも知られている。
【0020】
本発明の導電性複合モノフィラメントにおいて、鞘部導電層中の上記導電性カーボンブラックの含有量は、ポリエステル系樹脂に対し5〜45重量%の範囲であることが必要である。導電性カーボンブラックの含有量が上記範囲を下回ると、得られるモノフィラメントの導電性が不十分になりやすくなるため好ましくない。また、導電性カーボンブラックの含有量が上記範囲を上回ると、溶融紡糸の際には樹脂の流動性が低下しやすくなるため、得られるモノフィラメントの線径バラツキが大きくなるばかりか、原料の紡糸機への押しこみが不安定になり溶融紡糸が困難になりやすいため好ましくない。
【0021】
一方、本発明の導電性複合モノフィラメントに使用する球状架橋高分子粒子の平均粒径は、0.05〜5μmの範囲である必要がある。この平均粒径が上記の範囲を下回ると、耐摩耗性の改良効果が不十分であり、上記の範囲を上回ると、球状架橋高分子粒子が脱落しやすくなるばかりか、モノフィラメントの線径が悪化しやすくなるため好ましくない。
【0022】
また、前記球状架橋高分子粒子の含有量は、鞘部導電層100重量部に対し0.1〜5重量部である必要がある。粒子の含有量が上記の範囲を下回ると、耐摩耗性の改良効果が不十分であり、上記の範囲を上回ると、溶融紡糸の際には樹脂の流動性が低下しやすくなるため、得られるモノフィラメントの線径バラツキが大きくなるばかりか、原料の紡糸機への押しこみが不安定になり溶融紡糸が困難になりやすいため好ましくない。
【0023】
本発明で用いられる球状架橋高分子粒子としては、球状シリコーン樹脂、球状架橋ポリスチレン樹脂、球状架橋ビニル系重合体などを挙げることができるが、これら球状架橋高分子粒子の中でも、ポリエステル系樹脂との親和性が良好な球状架橋ポリスチレン樹脂を用いることが好ましい。
【0024】
さらにまた、本発明の導電性複合モノフィラメントの鞘部導電層には、ポリスチレン樹脂を含有することが好ましく、これにより球状架橋高分子粒子とポリエステル系樹脂の親和性が向上する。
【0025】
ポリスチレン樹脂の含有量は、ポリエステル系樹脂と導電性カーボンブラックとの混合物100重量部に対し、0.5〜20重量部であることが好ましい。0.5重量部未満であるとポリスチレン樹脂含有による親和性向上の効果が小さくなってしまい、また20重量部を超えると得られるモノフィラメントの引張強度が低下してしまう傾向が招かれる。
【0026】
本発明で用いられるポリスチレン樹脂としては、アタクチック構造ポリスチレン、アイソタクチック構造ポリスチレン、シンジオタクチック構造ポリスチレン(以下、SPSという)、ポリ−p−メチルスチレン、スチレンとp−メチルスチレンとの共重合体などを挙げることができる。また、好ましくは、これらポリスチレン樹脂の中でも、樹脂の50重量%以上がシンジオタクチック構造を有するポリスチレン樹脂を用いることが、製造時の工程通過性が良好になるため好ましく、樹脂の90重量%以上がシンジオタクチック構造を有するSPSである場合には、よりすぐれた効果を期待することができる。
【0027】
また、本発明の導電性複合モノフィラメントは、その長さ方向に対して直交する断面において、芯部非導電層の断面積と鞘部導電層の断面積の比が50:50〜95:5の範囲にあることが好ましい。
【0028】
これは、芯部非導電層の比率が上記の範囲を下まわると、導電性能は向上するものの、導電性複合モノフィラメントの強度が低下しやすくなり、逆に、芯部非導電層の比率が上記範囲を上まわると十分な導電性能が得られにくくなるからである。
【0029】
なお、本発明の導電性複合モノフィラメントの断面直径は、用途によって適宜選択できるが、0.01〜3mmの範囲が最もよく使用される。
【0030】
また、本発明の導電性複合モノフィラメントの必要強度は、用途により異なるが、1.5cN/dtex以上であることが好ましい。
【0031】
本発明の導電性複合モノフィラメントの導電性能は、鞘部導電層に使用する導電成分やその使用濃度、芯鞘比率によって異なるが、抵抗値(Ω)÷抵抗値測定値時の電極間距離(cm)で表した体積固有抵抗値が1x10Ω/cm以下であることが好ましい。
【0032】
すなわち、導電性複合モノフィラメントの体積固有抵抗値が1x10Ω/cm以下であれば、帯電防止材としての機能を十分に発揮することができる。
【0033】
また、JIS−1095−9.10.2B法に準じて行った強制摩耗試験において、強制摩耗試験前後の導電性複合モノフィラメントの体積固有抵抗値をそれぞれA(Ω/cm)およびB(Ω/cm)とした場合のA÷Bx100で示される導電性保持率が50%以上であることが好ましい。すなわち、強制摩耗試験を行った際には、本発明の導電性複合モノフィラメントは球状架橋高分子粒子を含有していることによって耐摩耗性が向上しており、十分な導電性を維持することが可能であり、導電性保持率が50%以上であれば、帯電防止材として必要な導電性能を持ち、かつ長期間の導電性能の維持が期待できる。
【0034】
本発明の導電性複合モノフィラメントの製造方法には、なんら特殊な方法を必要とせず、例えばエクストルーダー型等の複合溶融紡糸機と所望の複合紡糸口金を用いて溶融押出する製造方法など、公知の芯鞘複合紡糸方法により製造することができる。
【0035】
そして、本発明の導電性複合モノフィラメントは、上記の特性を生かして、小麦粉などの粉体篩分けフィルター、布帛の乾燥、紙おむつや生理製品などサニタリー製品製造時に水分や有機溶剤を乾燥させるドライヤーベルト、および抄紙機のドライヤーカンバスなどの工業用織物の経糸および/または緯糸の少なくとも一部、あるいはヘアブラシや工業用ブラシなどの各用途に使用された場合には、特に優れた帯電防止効果を発現する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を基に本発明の導電性複合モノフィラメントをさらに詳しく説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
また、実施例中の%および部は、特に断らない限り重量%および重量部を意味するものである。
【0038】
なお、導電性複合モノフィラメントの各種特性値は以下の方法に従って測定したものである。
【0039】
[鞘部導電層と芯部非導電層の面積比]
導電性複合モノフィラメントを長さ方向に対して垂直に切断する。次に、その切断断面をKEYENCE製デジタルマイクロスコープVHX−100Fにて観察し、デジタルマイクロスコープの面積測定ツールを用いて、鞘部導電層の断面積および芯部非導電層の断面積を計測し、その面積比を百分率で求めた。
【0040】
[体積固有抵抗値]
導電性複合モノフィラメント試料を5cmにカットし、両端の表面にドータイトを塗り1時間乾燥させる。その後、試料の両端をクリンプ(電極)で把持し、印加して糸の抵抗値を測定し、下記の計算式(I)により抵抗値を求めた。なお、測定は温度20℃、湿度65%の条件下で行い、抵抗値は東亜電波工業(株)製の極超絶縁計SM−10型を使用して測定した。
体積固有抵抗値(Ω/cm)=測定抵抗値(Ω)÷電極間距離(cm)
【0041】
[強制摩耗試験]
JIS L−1095−9.10.2B法に準じて、固定されたφ1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−A))の上に接触させた導電性複合モノフィラメントを前記摩擦子の左右各55度角度で斜め下に設けたフリーローラー2個(ローラー間距離100mm)の下に掛け、別の1個のフリーローラーの上を介して、導電性複合モノフィラメントの一端に0.22cN/dtexの荷重をかけてセットし、その後、速度120往復/分、往復ストローク長25mmの条件で導電性複合モノフィラメントを摩擦子に300回接触させて摩耗させた。
【0042】
[導電性保持率]
強制摩耗試験前の導電性複合モノフィラメントの体積固有抵抗値をA、強制摩耗試験後の導電性複合モノフィラメントの体積固有抵抗値をBとし、下記の計算式により導電性保持率を求めた。
導電性保持率(%)=A÷Bx100
【0043】
[操業性]
実施例における操業性の評価は、連続押出し紡糸を行う際の状況を観察し、糸切れおよび原料の紡糸機への押し込み安定性から次の規準で評価した。
○…糸切れはなく、原料の押し込みも安定であり、操業可能であった。
△…糸切れが多少発生したが、原料の押し込みは安定であり、操業可能であった。
×…糸切れが多発し、原料の押し込みも不安定であり、操業不可能であった。
【0044】
[実施例1]
IVが1.18のPETチップ(東レ(株)製T701T)を芯成分とし、IVが0.707のPETチップ(東レ(株)製T301T)、導電性カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックEC)、平均粒子径が1.3μmの球状架橋ポリスチレン樹脂(綜研化学(株)製ケミスノー−SX−130H)および樹脂の99重量%以上がシンジオタクチック構造を有するSPSチップ(出光石油化学(株)製ザレック(登録商標))を、それぞれ表1に示した割合で配合した組成物を鞘成分として、それぞれ2基のエクストルーダーを有する複合紡糸機に供給し、溶融混練をした後に、280℃の温度で表1に示した複合比で溶融複合紡糸し、紡出複合糸条を70℃の冷却浴で冷却固化した後に、引き続き93℃の温水で3.6倍に延伸し、引き続き180℃の熱風の雰囲気中で再延伸することにより、トータル5.5倍の延伸を行った。次いで、0.85倍で弛緩熱セットをし、直径0.5mmの導電性複合モノフィラメントを得た。
【0045】
[実施例2]
鞘部導電層を構成するPETと導電性カーボンブラックの混合比率を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で導電性複合モノフィラメントを得た。
【0046】
[実施例3]
鞘部導電層の球状架橋ポリスチレン樹脂含有量を3%としたこと以外は、実施例1と同じ条件で導電性複合モノフィラメントを得た。
【0047】
[実施例4]
芯部と鞘部の断面比率を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で導電性複合モノフィラメントを得た。
[実施例5]
鞘部導電層にSPSチップを含有させなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で導電性複合モノフィラメントを得た。
【0048】
[実施例6]
鞘部導電層に含有する球状架橋高分子粒子を、平均粒子径が2.0μmの球状シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング(株)製トレフィルE−600)に変更し、SPSチップを含有させなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で導電性複合モノフィラメントを得た。
【0049】
[比較例1]
鞘部導電層に球状架橋ポリスチレン樹脂およびSPSチップを含有させなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で導電性複合モノフィラメントを得た。
【0050】
[比較例2]
鞘部導電層に含有する粒子を平均粒子径が0.53μmの二酸化ケイ素に変更し、SPSチップを含有させなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で導電性複合モノフィラメントを得た。
【0051】
[比較例3]
鞘部導電層の球状架橋ポリスチレン樹脂含有量を10%としたこと以外は、実施例1と同じ製造方法で紡糸を実施したが、導電層の流動性が低く糸切れが多発し、紡糸することが出来なかった。
【0052】
[比較例4]
鞘部導電層を構成するPETと導電性カーボンブラックの混合比率を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ製造方法で紡糸を実施したが、導電層の流動性が低く糸切れが多発し、紡糸することが出来なかった。
【0053】
[比較例5]
鞘部導電層を構成するPETと導電性カーボンブラックの混合比率を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で導電性複合モノフィラメントを得た。
【0054】
以上、得られた導電性複合モノフィラメントの体積固有抵抗値、強制摩耗後の体積固有抵抗値、導電性保持率の評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の結果から明らかなように、本発明の導電性複合モノフィラメント(実施例1〜6)は、体積固有抵抗値は良好な値を示し、強制摩耗後の導電性保持率も良好であった。
【0057】
これに対して、本発明の条件を満たさない導電性複合モノフィラメント(比較例1〜5)は、導電性能および導電性保持率のいずれかが実施例の導電性複合モノフィラメントに比べて低く、また、実際の溶融紡糸工程においても、糸切れが多発するばかりか、原料の押し込みも不安定で操業不可能であり(比較例3、4)、さらに工業用織物用途として十分な強度を持たないものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の導電性複合モノフィラメントは、従来の導電性モノフィラメントに比べ長期の使用においても優れた導電性能を維持し続けるため、例えば、小麦粉などの粉体篩分けフィルター、搬送用ベルト、紙おむつや生理製品などのサニタリー製品製造時に使用される乾燥および搬送用ベルト、および抄紙機のドライヤーキャンバスなどの帯電しやすい工程に使用される各種工業用織物などとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部非導電層と鞘部導電層からなる芯鞘複合モノフィラメントであって、前記芯部非導電層がポリエステル系樹脂からなり、前記鞘部導電層がポリエステル系樹脂55〜95重量%と導電性カーボンブラック5〜45重量%の混合物100重量部に対し、平均粒径0.05〜5μmの範囲の球状架橋高分子粒子を0.1〜5重量部含有する樹脂組成物からなることを特徴とする導電性複合モノフィラメント。
【請求項2】
前記球状架橋高分子粒子が球状架橋ポリスチレン樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の導電性複合モノフィラメント。
【請求項3】
前記鞘部導電層が、ポリエステル系樹脂と導電性カーボンブラックとの混合物100重量部に対して、さらにポリスチレン樹脂を0.5〜20重量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載の導電性複合モノフィラメント。
【請求項4】
前記ポリスチレン樹脂が、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の導電性複合モノフィラメント。
【請求項5】
モノフィラメントの長さ方向に直交する断面において、前記芯部非導電層の面積と前記鞘部導電層の面積の比が50:50〜95:5の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性複合モノフィラメント。
【請求項6】
前記モノフィラメントの両端に電極を繋いで印加し、測定されるモノフィラメントの抵抗値(Ω)÷抵抗値測定値時の電極間距離(cm)で表した体積固有抵抗値が1×10Ω/cm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性複合モノフィラメント。
【請求項7】
JIS−1095−9.10.2B法に準じて行った強制摩耗試験において、強制摩耗試験前後の導電性モノフィラメントの体積固有抵抗値をそれぞれA(Ω/cm)およびB(Ω/cm)とした場合のA÷Bx100で示される導電性保持率が50%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性複合モノフィラメント。

【公開番号】特開2012−180625(P2012−180625A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46039(P2011−46039)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】