説明

導電性複合体、導電性高分子溶液およびその製造方法

【課題】液状有機化合物に任意の濃度で溶解できる導電性複合体を提供する。また、π共役系導電性高分子を液状有機化合物中に高い濃度で安定的に含有できる導電性高分子溶液を提供する。
【解決手段】本発明の導電性複合体は、π共役系導電性高分子と、3価ホスフィン化合物が配位したアニオン基または電子吸引基を有する可溶化高分子のホスホニウム塩とを含有する。本発明の導電性高分子溶液は、上述した導電性複合体が液状有機化合物に溶解しているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含む導電性複合体、導電性高分子溶液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、主鎖がπ電子を含む共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、電解重合法及び化学酸化重合法により合成される。
電解重合法では、ドーパントとなる電解質とπ共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーとの混合溶液中に、予め形成した電極材料などの支持体を浸漬し、支持体上にπ共役系導電性高分子をフィルム状に形成する。そのため、π共役系導電性高分子を大量に製造することが困難である。
一方、化学酸化重合法では、電極材料が不要であり、π共役系導電性高分子の前駆体モノマーに酸化剤及び酸化重合触媒を添加し、溶液中で大量のπ共役系導電性高分子を製造できる。
しかし、化学酸化重合法では、π共役系導電性高分子主鎖の共役系の成長に伴い、溶媒に対する溶解性が乏しくなるため、不溶の固形粉体で得られるようになる。不溶性のものでは、塗布によって支持体表面上にπ共役系導電性高分子膜を均一に形成することが困難である。
【0003】
そのため、π共役系導電性高分子自体に官能基を導入して可溶化する方法、π共役系導電性高分子をバインダ樹脂に分散して可溶化する方法、π共役系導電性高分子にポリアニオンを添加して可溶化する方法が試みられている。
例えば、水への分散性を向上させるために、分子量が2,000〜500,000の範囲の可溶化高分子であるポリスチレンスルホン酸の存在下で、酸化剤を用いて、3,4−ジアルコキシチオフェンを化学酸化重合してポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)水溶液を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、可溶化高分子であるポリアクリル酸の存在下で化学酸化重合してπ共役系導電性高分子コロイド水溶液を製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第2636968号公報
【特許文献2】特開平7−165892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、これまでに提案されていたπ共役系導電性高分子を含む導電性高分子溶液は水溶液であるが、水溶液を塗布して塗膜を形成する場合には乾燥時間が長くなるため、導電性塗膜の生産性が低かった。また、π共役系導電性高分子が水溶性であると、バインダなどの疎水性樹脂との相溶性が低く、用途展開が制限されていた。これらのことから、有機溶剤中にπ共役系導電性高分子が溶解した導電性高分子溶液が求められていた。
有機溶剤中にπ共役系導電性高分子が溶解した導電性高分子溶液を得る方法としては、π共役系導電性高分子の水溶液にアルコールを添加する方法が考えられる。しかし、アルコールを添加すると、π共役系導電性高分子の濃度が低くなるため、該導電性高分子溶液により形成した導電性塗膜は導電性が低かった。そこで、π共役系導電性高分子の濃度を高くするために、エバポレータ等により水および有機溶剤を除去することが考えられるが、この導電性高分子溶液においてπ共役系導電性高分子濃度を高くすると、π共役系導電性高分子が分離して沈殿したり、ゲル化したりする傾向にあった。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、液状有機化合物に任意の濃度で溶解できる導電性複合体を提供することを目的とする。また、π共役系導電性高分子を液状有機化合物中に高い濃度で安定的に含有できる導電性高分子溶液およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] π共役系導電性高分子と、3価ホスフィン化合物が配位したアニオン基または電子吸引基を有する可溶化高分子のホスホニウム塩とを含有することを特徴とする導電性複合体。
[2] [1]に記載の導電性複合体が液状有機化合物に溶解していることを特徴とする導電性高分子溶液。
[3] 液状有機化合物が液状アクリルモノマーであることを特徴とする[2]に記載の導電性高分子溶液。
[4] バインダをさらに含有することを特徴とする[2]または[3]に記載の導電性高分子溶液。
[5] π共役系導電性高分子および可溶化高分子を水に溶解した導電性高分子水溶液に、3価ホスフィン化合物を添加した後、水を除去して導電性複合体を調製し、該導電性複合体に液状有機化合物を添加することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
[6] π共役系導電性高分子および可溶化高分子を水に溶解した導電性高分子水溶液に、3価ホスフィン化合物および液状有機化合物を添加し、水層と液状有機化合物層とに分離させ、該液状有機化合物層のみを回収することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
[7] π共役系導電性高分子および可溶化高分子を水に溶解した導電性高分子水溶液に、3価ホスフィン化合物を添加した後、限外ろ過によって導電性高分子水溶液中の水を液状有機化合物に置換することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
[8] π共役系導電性高分子および可溶化高分子を水に溶解した導電性高分子水溶液に、水溶性の液状有機化合物を添加した後、3価ホスフィン化合物を添加することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
[9] [5]〜[8]のいずれかに記載の導電性高分子溶液の製造方法にて、液状有機化合物として有機溶媒を用いて導電性高分子予備溶液を得た後、導電性高分子予備溶液中の有機溶媒を液状アクリルモノマーに置換することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性複合体は、液状有機化合物に任意の濃度で溶解できる。
本発明の導電性高分子溶液は、π共役系導電性高分子を液状有機化合物中に高い濃度で安定的に含有できる。また、本発明の導電性高分子溶液は、溶媒揮発に要する時間が短くて済むため、塗膜形成時間を短縮できる。さらに、π共役系導電性高分子が油溶性になっているため、疎水性樹脂と相溶しやすい。
本発明の導電性高分子溶液の製造方法によれば、π共役系導電性高分子を高い濃度で安定的に含有した導電性高分子溶液を容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<導電性複合体>
本発明の導電性複合体は、π共役系導電性高分子と、可溶化高分子のホスホニウム塩とを含有するものである。
以下、各構成要素について説明する。
【0008】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば使用できる。例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。重合の容易さ、空気中での安定性の点からは、ポリピロール類、ポリチオフェン類及びポリアニリン類が好ましい。
π共役系導電性高分子は無置換のままでも、充分な導電性、バインダへの相溶性を得ることができるが、導電性及びバインダへの分散性又は溶解性をより高めるためには、アルキル基、カルボキシル基、スルホ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基等の官能基をπ共役系導電性高分子に導入することが好ましい。
【0009】
このようなπ共役系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(チオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0010】
中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)から選ばれる1種又は2種からなる(共)重合体が抵抗値、反応性の点から好適に用いられる。さらには、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、導電性がより高い上に、耐熱性が向上する点から、より好ましい。
また、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)のようなアルキル置換化合物は溶媒溶解性や、バインダとの相溶性及び分散性を向上させるためより好ましい。アルキル基の中では導電性に悪影響を与えることがないため、メチル基が好ましい。
さらに、ポリスチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOT−PSSと略す。)は、比較的熱安定性が高く、重合度が低いことから塗膜成形後の透明性が有利となる点で好ましい。
【0011】
(可溶化高分子のホスホニウム塩)
可溶化高分子のホスホニウム塩は、ホスフィン化合物が配位したアニオン基または電子吸引基を有する可溶化高分子である。ここで、配位とは、可溶化高分子と3価ホスフィン化合物とが電子を互いに供与/受容することにより、それらの分子間距離が短くなる結合形態のことである。
可溶化高分子は、アニオン基または電子吸引基を有してπ共役系導電性高分子を水に可溶化する高分子である。よって、可溶化高分子としては、アニオン基を有する高分子、電子吸引基を有する可溶化高分子が挙げられる。
【0012】
[アニオン基を有する高分子]
アニオン基を有する高分子(以下、ポリアニオンという。)は、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステル及びこれらの共重合体であって、少なくともアニオン基を有する構成単位を有するものである。
このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性と耐熱性を向上させる。
【0013】
ポリアルキレンとは、主鎖がメチレンの繰り返しで構成されているポリマーである。ポリアルキレンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリ(3,3,3−トリフルオロプロピレン)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン等が挙げられる。
【0014】
ポリアルケニレンとは、主鎖に不飽和結合(ビニル基)が1個以上含まれる構成単位からなるポリマーである。ポリアルケニレンの具体例としては、プロペニレン、1−メチルプロペニレン、1−ブチルプロペニレン、1−デシルプロペニレン、1−シアノプロペニレン、1−フェニルプロペニレン、1−ヒドロキシプロペニレン、1−ブテニレン、1−メチル−1−ブテニレン、1−エチル−1−ブテニレン、1−オクチル−1−ブテニレン、1−ペンタデシル−1−ブテニレン、2−メチル−1−ブテニレン、2−エチル−1−ブテニレン、2−ブチル−1−ブテニレン、2−ヘキシル−1−ブテニレン、2−オクチル−1−ブテニレン、2−デシル−1−ブテニレン、2−ドデシル−1−ブテニレン、2−フェニル−1−ブテニレン、2−ブテニレン、1−メチル−2−ブテニレン、1−エチル−2−ブテニレン、1−オクチル−2−ブテニレン、1−ペンタデシル−2−ブテニレン、2−メチル−2−ブテニレン、2−エチル−2−ブテニレン、2−ブチル−2−ブテニレン、2−ヘキシル−2−ブテニレン、2−オクチル−2−ブテニレン、2−デシル−2−ブテニレン、2−ドデシル−2−ブテニレン、2−フェニル−2−ブテニレン、2−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、3−メチル−2−ブテニレン、3−エチル−2−ブテニレン、3−ブチル−2−ブテニレン、3−ヘキシル−2−ブテニレン、3−オクチル−2−ブテニレン、3−デシル−2−ブテニレン、3−ドデシル−2−ブテニレン、3−フェニル−2−ブテニレン、3−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、2−ペンテニレン、4−プロピル−2−ペンテニレン、4−ブチル−2−ペンテニレン、4−ヘキシル−2−ペンテニレン、4−シアノ−2−ペンテニレン、3−メチル−2−ペンテニレン、4−エチル−2−ペンテニレン、3−フェニル−2−ペンテニレン、4−ヒドロキシ−2−ペンテニレン、ヘキセニレン等から選ばれる1種以上の構成単位を含む重合体が挙げられる。
これらの中でも、不飽和結合とπ共役系導電性高分子との相互作用があること、置換若しくは未置換のブタジエンを出発物質として合成しやすいことから、置換若しくは未置換のブテニレンが好ましい。
【0015】
ポリイミドとしては、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、2,2’−[4,4’−ジ(ジカルボキシフェニルオキシ)フェニル]プロパン二無水物等の無水物とオキシジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン等のジアミンとからのポリイミドが挙げられる。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10等が挙げられる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0016】
ポリアニオンが置換基を有する場合、その置換基としては、アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、フェニル基、フェノール基、エステル基、アルコキシル基等が挙げられる。溶媒への溶解性、耐熱性及び樹脂への相溶性等を考慮すると、アルキル基、ヒドロキシル基、フェノール基、エステル基が好ましい。
アルキル基は、極性溶媒又は非極性溶媒への溶解性及び分散性、樹脂への相溶性及び分散性等を高くすることができ、ヒドロキシル基は、他の水素原子等との水素結合を形成しやすくでき、有機溶媒への溶解性、樹脂への相溶性、分散性、接着性を高くすることができる。また、シアノ基及びヒドロキシフェニル基は、極性樹脂への相溶性、溶解性を高くすることができ、しかも、耐熱性も高くすることができる。
上記置換基の中では、アルキル基、ヒドロキシル基、エステル基、シアノ基が好ましい。
【0017】
ポリアニオンのアニオン基としては、共役系導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であればよいが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシル基、スルホ基等が好ましい。さらに、官能基のπ共役系導電性高分子へのドープ効果の観点より、スルホ基、一置換硫酸エステル基、カルボキシル基がより好ましい。
【0018】
ポリアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらのうち、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸が好ましい。ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸は、熱エネルギーを吸収して自ら分解することにより、π共役系導電性高分子成分の熱分解が緩和されるため、耐熱性、耐環境性に優れる。さらに、エステル基を有するため、バインダとの相溶性、分散性に優れる。
【0019】
ポリアニオンの重合度は、モノマー単位が10〜100,000個の範囲であることが好ましく、溶媒溶解性及び導電性の点からは、50〜10,000個の範囲がより好ましい。
【0020】
[電子吸引基を有する高分子]
電子吸引基を有する高分子は、電子吸引基として、例えば、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、カルボニル基、アセチル基から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を構成単位とした高分子が挙げられる。これらの中でも、シアノ基は極性が高く、π共役系導電性高分子をより可溶化できることから好ましい。また、バインダとの相溶性、分散性をより高くできることから好ましい。
電子吸引性基を有する高分子の具体例としては、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂や、ヒドロキシル基あるいはアミノ基含有樹脂をシアノエチル化した樹脂(例えば、シアノエチルセルロース)、ポリビニルピロリドン、アルキル化ポリビニルピロリドン、ニトロセルロースなどが挙げられる。
【0021】
可溶化高分子には、耐衝撃性を改良するための合成ゴムや、耐環境特性を向上させるための老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤があらかじめ添加されていてもよい。ただし、アミン化合物系の酸化防止剤は上記導電性高分子を重合させる際に用いる酸化剤の働きを阻害することがあるので、酸化防止剤にはフェノール系のものを用いたり、重合後に混合したりするなどの対策が必要である。
【0022】
[3価ホスフィン化合物]
3価ホスフィン化合物としては、可溶化高分子のアニオン基または電子吸引基に配位するものであれば特に制限されない。
3価ホスフィン化合物としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリヘプチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリノニルホスフィン、トリデシルホスフィン、トリウンデシルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリトリドデシルホスフィン、メチルエチルプロピルホスフィン、ジメチルエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンなどが挙げられる。
また、3価ホスフィン化合物の分子量は、有機溶媒への溶解性の点から、50以上であることが好ましい。
【0023】
3価ホスフィン化合物は、π共役系導電性高分子のドープに寄与していない可溶化高分子のアニオン基および電子吸引基に対して0.1〜10モル当量の割合で配位していることが好ましく、0.5〜2.0モル当量の割合で配位していることがより好ましく、0.85〜1.25モル当量の割合で配位していることが特に好ましい。
3価ホスフィン化合物の量が前記下限値以上であれば、3価ホスフィン化合物が可溶化高分子のアニオン基および電子吸引基の殆どに配位するため、有機溶媒への溶解性がより高くなる。また、前記上限値以下であれば、余剰な3価ホスフィン化合物が導電性高分子溶液中に含まれないから、導電性等の性能低下を防止できる。
【0024】
導電性複合体における可溶化高分子のホスホニウム塩の含有量は、π共役系導電性高分子1モルに対して0.1〜10モルの範囲であることが好ましく、1〜7モルの範囲であることがより好ましい。可溶化高分子のホスホニウム塩の含有量が0.1モルより少なくなると、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがある。その上、溶媒への分散性及び溶解性が低くなり、均一な導電性高分子溶液を得ることが困難になる。また、可溶化高分子のホスホニウム塩の含有量が10モルより多くなると、π共役系導電性高分子の含有割合が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0025】
上述した導電性複合体に含まれる可溶化高分子のホスホニウム塩は油溶性であるため、液状有機化合物に可溶になっている。可溶化高分子のホスホニウム塩はπ共役系導電性高分子に配位しているため、π共役系導電性高分子と可溶化高分子のホスホニウム塩とを含有する導電性複合体も油溶性になっており、液状有機化合物に任意の濃度で溶解できる。
また、この導電性複合体は固形状であるため、保存安定性に優れ、溶媒を含まないから輸送コストを下げることができる。
【0026】
<導電性高分子溶液>
本発明の導電性高分子溶液は、上述した導電性複合体が液状有機化合物に溶解しているものである。
液状有機化合物としては、有機溶媒、液状アクリルモノマーなどが挙げられる。無溶剤型にでき、揮発分を少なくできる点では、液状アクリルモノマーが好ましい。
【0027】
(有機溶媒)
有機溶媒としては、水以外の溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。有機溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(液状アクリルモノマー)
液状アクリルモノマーとしては、例えば、ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(ペンタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等のアクリレート類、テトラエチレングリコールジメタクリレート、アルキルメタクリレート、アリルメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のメタクリレート類、ダイアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−ビニルホルムアミド、N,N−メチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、アクリロイルピペリジン、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド等のアクリル(メタクリル)アミド類の単官能モノマー並びに多官能モノマーが挙げられる。
【0029】
導電性高分子溶液の固形分濃度は0.01〜5質量%であることが好ましく、0.05〜2質量%であることがより好ましい。導電性高分子溶液の固形分濃度が0.05質量%未満であると、充分な導電性が得られないことがあり、5質量%を超えると、導電性高分子溶液の保存安定性が損なわれることがある。
【0030】
(バインダ)
導電性高分子溶液は、得られる導電性塗膜の耐傷性や表面硬度が高くなり、基材との密着性が向上することから、バインダを含むことが好ましい。
バインダとしては、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂;エポキシ樹脂;キシレン樹脂;アラミド樹脂;ポリイミドシリコーン;ポリウレタン;ポリウレア;メラミン樹脂;フェノール樹脂;ポリエーテル;アクリル樹脂及びこれらの共重合体等が挙げられる。
これらバインダは、有機溶剤に溶解されていてもよいし、スルホン酸基やカルボン酸基などの官能基が付与されて水溶液化されていてもよいし、乳化など水に分散されていてもよい。
【0031】
バインダの中でも、容易に混合できることから、ポリウレタン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリイミドシリコーンのいずれか1種以上が好ましい。また、アクリル樹脂は、硬度が硬いとともに透明性に優れるため、光学フィルタのような用途に適している。
【0032】
アクリル樹脂としては熱エネルギー及び/又は光エネルギーによって硬化する液状重合体を含むことが好ましい。
ここで、熱エネルギーにより硬化する液状重合体としては、反応型重合体及び自己架橋型重合体が挙げられる。
反応型重合体は、置換基を有する単量体が重合した重合体であり、置換基としては、カルボキシル基、酸無水物、オキセタン系、グリシジル基、アミノ基などが挙げられる。具体的な単量体としては、マロン酸、コハク酸、グルタミン酸、ピメリン酸、アスコルビン酸、フタル酸、アセチルサルチル酸、アジピン酸、イソフタル酸、安息香酸、m−トルイル酸等のカルボン酸化合物、無水マレイン酸、無水フタル酸、ドデシル無水コハク酸、ジクロル無水マレイン酸、テトラクロル無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ピメリット酸等の酸無水物、3,3−ジメチルオキセタン、3,3−ジクロロメチルオキセタン、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、アジドメチルメチルオキセタン等のオキセタン化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジル−p−アミノフェノールグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル(すなわち、2,2−ビス(4−グリシジルオキシシクロヘキシル)プロパン)等のグリシジルエーテル化合物、N,N−ジグリシジルアニリン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,N,N−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジルイソシアヌレート、N,N−ジグリシジル−5,5−ジアルキルヒダントイン等のグリシジルアミン化合物、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジメチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ベンジルジメチルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、DHP30−トリ(2−エチルヘクソエート)、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、三フッ化ホウ素、モノエチルアミン、メンタンジアミン、キシレンジアミン、エチルメチルイミダゾール等のアミン化合物、1分子中に2個以上のオキシラン環を含む化合物のうち、ビスフェノールAのエピクロロヒドリンによるグリシジル化合物、あるいはその類似物が挙げられる。
【0033】
反応型重合体においては、少なくとも2官能以上の架橋剤を使用する。その架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、金属酸化物などが挙げられる。金属酸化物としては、塩基性金属化合物のAl(OH)、Al(OOC・CH(OOCH)、Al(OOC・CH、ZrO(OCH)、Mg(OOC・CH)、Ca(OH)、Ba(OH)等を適宜使用できる。
【0034】
自己架橋型重合体は、加熱により官能基同士で自己架橋するものであり、例えば、グリシジル基とカルボキシル基を含むもの、あるいは、N−メチロールとカルボキシル基の両方を含むものなどが挙げられる。
【0035】
光エネルギーによって硬化する液状重合体としては、例えば、ポリエステル、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドシリコーン等のオリゴマー又はプレポリマーが挙げられる。
光エネルギーによって硬化する液状重合体を構成する単量体単位としては、例えば、ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(ペンタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等のアクリレート類、テトラエチレングリコールジメタクリレート、アルキルメタクリレート、アリルメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のメタクリレート類、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、高級アルコールグリシジルエーデル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、ダイアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−ビニルホルムアミド、N−メチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、アクリロイルピペリジン、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド等のアクリル(メタクリル)アミド類、2−クロロエチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルエーテル等のビニルエーテル類、酪酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類の単官能モノマー並びに多官能モノマーが挙げられる。
【0036】
光エネルギーによって硬化する液状重合体は、光重合開始剤によって硬化する。その光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン類などが挙げられる。さらに、光増感剤として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等を混合できる。
【0037】
(ドーパント)
導電性高分子溶液には、導電性をより向上させるために、ポリアニオン以外に他のドーパントを添加してもよい。他のドーパントとしては、π共役系導電性高分子を酸化還元させることができればドナー性のものであってもよく、アクセプタ性のものであってもよい。
【0038】
[ドナー性ドーパント]
ドナー性ドーパントとしては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等の4級アミン化合物等が挙げられる。
【0039】
[アクセプタ性ドーパント]
アクセプタ性ドーパントとしては、例えば、ハロゲン化合物、ルイス酸、プロトン酸、有機シアノ化合物、有機金属化合物、フラーレン、水素化フラーレン、水酸化フラーレン、カルボン酸化フラーレン、スルホン酸化フラーレン等を使用できる。
さらに、ハロゲン化合物としては、例えば、塩素(Cl)、臭素(Br2)、ヨウ素(I)、塩化ヨウ素(ICl)、臭化ヨウ素(IBr)、フッ化ヨウ素(IF)等が挙げられる。
ルイス酸としては、例えば、PF、AsF、SbF、BF、BCl、BBr、SO等が挙げられる。
有機シアノ化合物としては、共役結合に二つ以上のシアノ基を含む化合物が使用できる。例えば、テトラシアノエチレン、テトラシアノエチレンオキサイド、テトラシアノベンゼン、ジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノアザナフタレン等が挙げられる。
【0040】
プロトン酸としては、無機酸、有機酸が挙げられる。さらに、無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウフッ化水素酸、フッ化水素酸、過塩素酸等が挙げられる。また、有機酸としては、有機カルボン酸、フェノール類、有機スルホン酸等が挙げられる。
【0041】
有機カルボン酸としては、脂肪族、芳香族、環状脂肪族等にカルボキシル基を一つ又は二つ以上を含むものを使用できる。例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ニトロ酢酸、トリフェニル酢酸等が挙げられる。
【0042】
有機スルホン酸としては、脂肪族、芳香族、環状脂肪族等にスルホ基を一つ又は二つ以上含むもの、又は、スルホ基を含む高分子を使用できる。
スルホ基を一つ含むものとして、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、1−ヘプタンスルホン酸、1−オクタンスルホン酸、1−ノナンスルホン酸、1−デカンスルホン酸、1−ドデカンスルホン酸、1−テトラデカンスルホン酸、1−ペンタデカンスルホン酸、2−ブロモエタンスルホン酸、3−クロロ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロエタンスルホン酸、コリスチンメタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アミノメタンスルホン酸、1−アミノ−2−ナフトール−4−スルホン酸、2−アミノ−5−ナフトール−7−スルホン酸、3−アミノプロパンスルホン酸、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ペンチルベンゼンスルホン酸、ヘキチルベンゼンスルホン酸、ヘプチルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸、2,4−ジメチルベンゼンスルホン酸、ジプロピルベンゼンスルホン酸、4−アミノベンゼンスルホン酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、m−アミノベンゼンスルホン酸、4−アミノ−2−クロロトルエン−5−スルホン酸、4−アミノ−3−メチルベンゼン−1−スルホン酸、4−アミノ−5−メトキシ−2−メチルベンゼンスルホン酸、2−アミノ−5−メチルベンゼン−1−スルホン酸、4−アミノ−2−メチルベンゼン−1−スルホン酸、5−アミノ−2−メチルベンゼン−1−スルホン酸、4−アミノ−3−メチルベンゼン−1−スルホン酸、4−アセトアミド−3−クロロベンゼンスルホン酸、4−クロロ−3−ニトロベンゼンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、ペンチルナフタレンスルホン酸、4−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸、8−クロロナフタレン−1−スルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン重縮合物、アントラキノンスルホン酸、ピレンスルホン酸等が挙げられる。また、これらの金属塩も使用できる。
【0043】
スルホ基を二つ以上含むものとしては、例えば、エタンジスルホン酸、ブタンジスルホン酸、ペンタンジスルホン酸、デカンジスルホン酸、o−ベンゼンジスルホン酸、m−ベンゼンジスルホン酸、p−ベンゼンジスルホン酸、トルエンジスルホン酸、キシレンジスルホン酸、クロロベンゼンジスルホン酸、フルオロベンゼンジスルホン酸、ジメチルベンゼンジスルホン酸、ジエチルベンゼンジスルホン酸、アニリン−2,4−ジスルホン酸、アニリン−2,5−ジスルホン酸、3,4−ジヒドロキシ−1,3−ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、メチルナフタレンジスルホン酸、エチルナフタレンジスルホン酸、ペンタデシルナフタレンジスルホン酸、3−アミノ−5−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジスルホン酸、1−アセトアミド−8−ヒドロキシ−3,6−ナフタレンジスルホン酸、2−アミノ−1,4−ベンゼンジスルホン酸、1−アミノ−3,8−ナフタレンジスルホン酸、3−アミノ−1,5−ナフタレンジスルホン酸、8−アミノ−1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸、4−アミノ−5−ナフトール−2,7−ジスルホン酸、4−アセトアミド−4’−イソチオ−シアノトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸、4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸、4−アセトアミド−4’−マレイミジルスチルベン−2,2’−ジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、ジナフチルメタンジスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸、アントラセンスルホン酸等が挙げられる。また、これらの金属塩も使用できる。
【0044】
上述した導電性高分子溶液における導電性複合体は、上述したように、油溶性になっているため、液状有機化合物に任意の濃度で溶解することができる。したがって、この導電性高分子溶液は、π共役系導電性高分子を高い濃度で安定的に含有できる。
【0045】
また、この導電性高分子溶液を用いることによって、導電性塗膜を形成することができる。すなわち、導電性高分子溶液を基材に塗布し、硬化処理することによって、導電性塗膜を形成することができる。
導電性高分子溶液の塗布方法としては、例えば、浸漬、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、グラビア印刷などが挙げられる。
硬化処理としては、加熱処理や紫外線照射処理が挙げられる。加熱処理としては、例えば、熱風加熱や赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。紫外線照射処理としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源から紫外線を照射する方法を採用できる。
【0046】
<導電性高分子溶液の製造方法>
(第1の製造方法)
本発明の導電性高分子溶液の第1の製造方法について説明する。第1の製造方法は、π共役系導電性高分子および可溶化高分子を水に溶解した導電性高分子水溶液に、3価ホスフィン化合物を添加した後、水を除去して導電性複合体を調製し、該導電性複合体に液状有機化合物を添加する方法である。
【0047】
導電性高分子水溶液は、可溶化高分子の水溶液中でπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーを化学酸化重合することによって調製される。
π共役系導電性高分子の前駆体モノマーとしては、例えば、ピロール類及びその誘導体、チオフェン類及びその誘導体、アニリン類及びその誘導体等が挙げられる。
前駆体モノマーの具体例としては、ピロール、N−メチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−プロピルピロール、3−ブチルピロール、3−オクチルピロール、3−デシルピロール、3−ドデシルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジブチルピロール、3−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシエチルピロール、3−メチル−4−カルボキシブチルピロール、3−ヒドロキシピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−ブトキシピロール、3−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−オクタデシルチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ヨードチオフェン、3−シアノチオフェン、3−フェニルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジブチルチオフェン、3−ヒドロキシチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−ブトキシチオフェン、3−ヘキシルオキシチオフェン、3−ヘプチルオキシチオフェン、3−オクチルオキシチオフェン、3−デシルオキシチオフェン、3−ドデシルオキシチオフェン、3−オクタデシルオキシチオフェン、3,4−ジヒドロキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェン、3,4−ジブトキシチオフェン、3,4−ジヘキシルオキシチオフェン、3,4−ジヘプチルオキシチオフェン、3,4−ジオクチルオキシチオフェン、3,4−ジデシルオキシチオフェン、3,4−ジドデシルオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン、3,4−ブテンジオキシチオフェン、3−メチル−4−メトキシチオフェン、3−メチル−4−エトキシチオフェン、3−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン、3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン、アニリン、2−メチルアニリン、3−イソブチルアニリン、2−アニリンスルホン酸、3−アニリンスルホン酸等が挙げられる。
【0048】
上記前駆体モノマーの化学酸化重合に際しては、酸化剤が使用される。酸化剤としては、例えば、ぺルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム)、ぺルオキソ二硫酸ナトリウム(過硫酸ナトリウム)、ぺルオキソ二硫酸カリウム(過硫酸カリウム)等のぺルオキソ二硫酸塩、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物、三フッ化ホウ素などの金属ハロゲン化合物、酸化銀、酸化セシウム等の金属酸化物、過酸化水素、オゾン等の過酸化物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、酸素等が挙げられる。
酸化剤の添加量は、前駆体モノマー1モルに対して、0.5〜10モルであることが好ましく、1〜5モルであることがより好ましい。酸化剤の添加量が0.5モル以上であれば、充分な重合速度を確保できる。ただし、酸化剤の添加量が10モルを超えると、添加量に応じた効果が得られないため、実益がない。
【0049】
3価ホスフィン化合物の添加量は、π共役系導電性高分子のドープに寄与していない可溶化高分子のアニオン基および電子吸引基に対して0.1〜10モル当量であることが好ましく、0.5〜2.0モル当量であることがより好ましく、0.85〜1.25モル当量であることが特に好ましい。
3価ホスフィン化合物の添加量が前記下限値以上であれば、3価ホスフィン化合物が可溶化高分子のアニオン基および電子吸引基の殆どに配位するため、有機溶媒への溶解性がより高くなる。また、前記上限値以下であれば、余剰な3価ホスフィン化合物が導電性高分子溶液中に含まれないから、導電性等の性能低下を防止できる。
【0050】
水を除去する方法としては、例えば、ろ過機を用いたろ過、エバポレータを用いた脱揮などが挙げられる。
【0051】
本製造方法では、導電性高分子水溶液に3価ホスフィン化合物を添加することによって、導電性高分子水溶液中の可溶化高分子をホスホニウム塩の形態にでき、油溶性にすることができる。そのため、3価ホスフィン化合物添加後に水を除去することによって、油溶性の導電性複合体を調製できる。この導電性複合体を液状有機化合物に溶解させることによって、π共役系導電性高分子が液状有機化合物に溶解した導電性高分子溶液を得ることができる。
【0052】
(第2の製造方法)
本発明の導電性高分子溶液の第2の製造方法について説明する。第2の製造方法は、π共役系導電性高分子および可溶化高分子を水に溶解した導電性高分子水溶液に、3価ホスフィン化合物と液状有機化合物とを添加し、水層と液状有機化合物層とに分離させ、液状有機化合物層のみを回収する方法である。
第2の製造方法における導電性高分子水溶液の調製方法、3価ホスフィン化合物の添加量は第1の製造方法と同様である。
【0053】
水層と液状有機化合物層とに分離させ、液状有機化合物層のみを回収する方法としては、例えば、分液ロート内で静置して水層と液状有機化合物層とを分離させ、分離した水層を取り除く方法などが挙げられる。
【0054】
本製造方法では、導電性高分子水溶液に3価ホスフィン化合物を添加することによって、導電性高分子水溶液中の可溶化高分子をホスホニウム塩の形態にでき、油溶性にすることができる。その結果、可溶化高分子によって可溶化されたπ共役系導電性高分子を油溶性にすることができ、液状有機化合物中に移行させることができる。したがって、液状有機化合物の層を回収することにより、π共役系導電性高分子が液状有機化合物に溶解した導電性高分子溶液を得ることができる。
【0055】
(第3の製造方法)
本発明の導電性高分子溶液の第3の製造方法について説明する。第3の製造方法は、導電性高分子水溶液に3価ホスフィン化合物を添加した後、限外ろ過によって導電性高分子水溶液中の水を液状有機化合物に置換する方法である。
第3の製造方法における導電性高分子水溶液の調製方法、3価ホスフィン化合物の添加量は第1の製造方法と同様である。
【0056】
第3の製造方法の具体例としては、導電性高分子水溶液に3価ホスフィン化合物及び液状有機化合物を添加した後、限外ろ過によって導電性高分子水溶液中の水及び液状有機化合物を除去する方法、導電性高分子水溶液に3価ホスフィン化合物を添加した後、限外ろ過によって導電性高分子水溶液中の水を除去してから、液状有機化合物を添加する方法が挙げられる。
【0057】
本製造方法では、得られる導電性高分子溶液に一部の水が残存する。導電性高分子溶液中の水の量をできるだけ少なくするためには、限外ろ過後にさらに液状有機化合物を添加し、再度、限外ろ過により残存する水を除去することが好ましく、液状有機化合物の添加及び限外ろ過による水の除去を複数回繰り返すことがより好ましい。
また、液状有機化合物の添加量を多くすれば、得られる導電性高分子溶液中の水分濃度を少なくすることができる。
【0058】
本製造方法では、得られる導電性高分子溶液の均一性の点から、液状有機化合物が水溶性の液状有機化合物であることが好ましい。ここで、水溶性の液状有機化合物は100gに対して水を1g以上溶解させることができる液状有機化合物である。
水溶性の液状有機化合物としては、例えば、水溶性有機溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。水溶性有機溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記水溶性有機溶媒の中でも、作業環境を損ないにくく、しかも沸点が水より低く、容易に塗膜を形成できることから、エタノール、イソプロパノールが好ましい。
【0059】
本製造方法における限外ろ過とは、限外ろ過膜を使用するろ過のことである。限外ろ過膜は、物理的に明瞭な多数の微細な孔を有する分離膜である。
限外ろ過膜の分画分子量は、不純物除去の点から、5,000〜3,000,000であることが好ましく、5,000〜1,000,000であることがより好ましい。
限外ろ過膜の材質としては、例えば、ポリイミド、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、ポリエーテルサルホン等の高分子材料、セラミック等の無機材料が挙げられる。
限外ろ過膜のモジュールは、例えば、管型、スパイラル型、中空子型、モノリス型のいずれであってもよい。
限外ろ過の際には、未ろ過の導電性高分子溶液を加圧状態にすることが好ましい。
なお、限外ろ過では、導電性高分子水溶液の水と共に不純物を取り除くこともできる。
【0060】
本製造方法では、導電性高分子水溶液に3価ホスフィン化合物を添加することによって、導電性高分子水溶液中の可溶化高分子をホスホニウム塩の形態にでき、油溶性にすることができる。その結果、可溶化高分子によって可溶化されたπ共役系導電性高分子を油溶性にすることができ、液状有機化合物に溶解させることができる。したがって、限外ろ過により水を液状有機化合物に置換することにより、π共役系導電性高分子が液状有機化合物に溶解した導電性高分子溶液を得ることができる。
【0061】
(第4の製造方法)
本発明の導電性高分子溶液の第4の製造方法について説明する。第4の製造方法は、π共役系導電性高分子および可溶化高分子を水に溶解した導電性高分子水溶液に、水溶性の液状有機化合物を添加した後、3価ホスフィン化合物を添加する方法である。
第4の製造方法における導電性高分子水溶液の調製方法、3価ホスフィン化合物の添加量は第1の製造方法と同様である。また、水溶性の液状有機化合物は第3の製造方法と同様である。
【0062】
第4の製造方法で得られる導電性高分子溶液の溶媒は、水と液状有機化合物であり、水が混在しているが、後述する実施例18のPEDOT−PSSの水/メチルエチルケトン混合溶液のように、溶媒の大部分が液状有機化合物に置き換わったことで、π共役系導電性高分子を高い濃度で安定的に含有できるため、差し支えない。
【0063】
本製造方法では、導電性高分子水溶液に水溶性の液状有機化合物を添加し、3価ホスフィン化合物を添加することによって、可溶化高分子をホスホニウム塩の形態にでき、油溶性にすることができる。その結果、可溶化高分子によって可溶化されたπ共役系導電性高分子を油溶性にすることができ、液状有機化合物に溶解させることができる。したがって、この製造方法によれば、π共役系導電性高分子が、水と水溶性液状有機化合物との混合溶媒に溶解した導電性高分子溶液を得ることができる。
【0064】
(第5の製造方法)
本発明の導電性高分子溶液の第5の製造方法は、上述した導電性高分子溶液の製造方法にて、液状有機化合物として有機溶媒を用いて導電性高分子予備溶液を得た後、導電性高分子予備溶液中の有機溶媒を液状アクリルモノマーに置換する方法である。
第5の製造方法の具体例として、上述した第1〜4の製造方法にて、液状有機化合物として有機溶媒を用いて導電性高分子予備溶液を得た後、該導電性高分子予備溶液に液状アクリルモノマーを添加し、エバポレータ等を用いて有機溶媒を揮発させて、導電性高分子溶液中の有機溶媒を液状アクリルモノマーに置換する方法が挙げられる。
このように導電性高分子予備溶液中の有機溶媒を液状アクリルモノマーに置換することにより、π共役系導電性高分子が液状アクリルモノマーに溶解した導電性高分子溶液を容易に得ることができる。
【実施例】
【0065】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の例における「%」は「質量%」のことである。
【0066】
(製造例1)可溶化高分子の合成
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000ml溶液を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約20000ml溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。
さらに、得られたろ液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液中の水を減圧除去して、無色固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0067】
(製造例2)導電性高分子水溶液の調製
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得た混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液をゆっくり加え、3時間攪拌して反応させた。
これにより得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に10%に希釈した200mlの硫酸と2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を5回繰り返して、約1.5%の青色のPEDOT−PSSの水溶液を得た。
【0068】
(実施例1)トリオクチルホスフィンを用いた導電性固形物の製造
製造例2のPEDOT−PSS水溶液100mLに、トリオクチルホスフィン1.1gを溶解させたメチルエチルケトン100mLを添加し、PEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩溶液を得た。エバポレータを用いてこの溶液から溶媒を除いて、PEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩を粉体として得た。
【0069】
(実施例2)
実施例1で得たPEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩にイソプロパノール200mLを加え、スターラーを用いて1時間撹拌した後、ナノマイザーにより処理して、PEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.6%イソプロパノール溶液を得た。
この溶液を#8のバーコーターを用いて表面処理ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ポリエステル社製T680E)上に塗布し、100℃で1分間乾燥させて塗膜を形成した。この塗膜の表面抵抗を、ハイレスタ(三菱化学社製)を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
(実施例3)
イソプロパノール200mLをメチルエチルケトン200mLに代えたこと以外は実施例2と同様にして、PEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.6%メチルエチルケトン溶液を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0072】
(実施例4)
イソプロパノール200mLを酢酸エチル200mLに代えたこと以外は実施例2と同様にして、PEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.6%酢酸エチル溶液を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0073】
(実施例5)
実施例2で得たPEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.6%イソプロパノール溶液2gにイソプロパノール2gを加え、PEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.3%イソプロパノール溶液を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0074】
(実施例6)
実施例2で得たPEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.6%イソプロパノール溶液2gにメチルエチルケトン2gを加え、PEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.3%イソプロパノール/メチルエチルケトン混合溶液を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0075】
(実施例7)
実施例2で得たPEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.6%イソプロパノール溶液2gにアセトン2gを加え、PEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.3%イソプロパノール/アセトン混合溶液を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0076】
(実施例8)
実施例2で得たPEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.6%イソプロパノール溶液2gにブタノール2gを加え、PEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.3%イソプロパノール/ブタノール混合溶液を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0077】
(実施例9)トリブチルホスフィンを用いた導電性固形物の製造
トリオクチルホスフィン1.1gをトリブチルホスフィン0.61gに代えたこと以外は実施例1と同様にして、PEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩を粉体として得た。
【0078】
(実施例10)
実施例9で得たPEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の粉体にイソプロパノール200mLを加え、スターラーを用いて1時間撹拌した後、ナノマイザーにより処理してPEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の0.6%イソプロパノール溶液を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0079】
(実施例11)トリフェニルホスフィンを用いた導電性固形物の製造
トリオクチルホスフィン1.1gをトリフェニルホスフィン0.79gに代えたこと以外は実施例1と同様にして、PEDOT−PSSのトリフェニルホスホニウム塩を粉体として得た。
【0080】
(実施例12)
実施例11で得たPEDOT−PSSのトリフェニルホスホニウム塩の粉体にイソプロパノール200mLを加え、スターラーを用いて1時間撹拌した後、ナノマイザーにより処理してPEDOT−PSSのトリフェニルホスホニウム塩の0.6%イソプロパノール溶液を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0081】
(実施例13)トリシクロヘキシルホスフィンを用いた導電性固形物の製造
トリオクチルホスフィン1.1gをトリシクロヘキシルホスフィン(15%トルエン溶液)5.61gに代えたこと以外は実施例1と同様にして、PEDOT−PSSのトリヘキシルホスホニウム塩を粉体として得た。
【0082】
(実施例14)
実施例13で得たPEDOT−PSSのトリシクロヘキシルホスホニウム塩にイソプロパノール200mLを加え、スターラーを用いて1時間撹拌した後、ナノマイザーにより処理してPEDOT−PSSのトリシクロヘキシルホスホニウム塩の0.6%イソプロパノール溶液を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0083】
(比較例1)
製造例2で得たPEDOT−PSS水溶液100mLに、3価のホスフィン化合物を添加せずにメチルエチルケトン100mLを添加し、エバポレータを用いてこの溶液から溶媒を除いたところPEDOT−PSSの膜状物質となった。この膜状物質にメチルエチルケトン200mLを加え、スターラーを用いて1時間撹拌した後、ナノマイザーにより処理したが、すべてのPEDOT−PSSは分散せず、沈殿した。
【0084】
(実施例15)トルエン、メチルエチルケトンを含む導電性高分子溶液
製造例2で得たPEDOT−PSS水溶液100mLに、アセトン200mL、メタノール50mLを添加した混合液に、トリオクチルホスフィン1.1gを加えた後、スターラーを用いて3時間撹拌した。その後、水100mL、トルエン50mLを加え、1時間スターラーを用いて撹拌した後、静置して、上層の有機溶媒層と下層の水層とに分離した。その後、水層を分離除去し、メチルエチルケトン100mLを加えた後、ナノマイザーにより処理して、PEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.6%トルエン/メチルエチルケトン混合溶液を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0085】
(比較例2)
実施例15においてトリブチルホスフィン1.1gを加えなかった以外は実施例15と同様にして上層の有機溶媒層と下層の水層とに分離した。PEDOT−PSSは、上層に移動せず、すべて下層に残った。
【0086】
(実施例16)
製造例2で得たPEDOT−PSS水溶液1000mLに、トリブチルホスフィン6.1gを溶解したイソプロパノールを4000mL加えた後、限外ろ過機を用いて溶媒を3000mL除去した。これにより得たPEDOT−PSS溶液2000mLにイソプロパノール3000mLを加えた後、溶媒を3000mL除去した。さらに、これにより得たPEDOT−PSS溶液2000mLにイソプロパノール3000mLを加えた後、溶媒を3000mL除去した。これにより得た溶液をナノマイザーにより処理して、PEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の0.6%イソプロパノール溶液2000mL(水分量1.3%)を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0087】
(実施例17)
製造例2で得たPEDOT−PSS水溶液1000mLにトリブチルホスフィン6.1gを溶解したエタノールを4000mL加えた後、限外ろ過機を用いて溶媒を3000mL除去した。これにより得たPEDOT−PSS溶液2000mLにエタノール3000mLを加えた後、溶媒を3000mL除去した。さらに、これにより得たPEDOT−PSS溶液2000mLにエタノール3000mLを加えた後、溶媒を3000mL除去した。これにより得た溶液をナノマイザーにより処理して、PEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の0.6%エタノール溶液2000mL(水分量1.3%)を得た。そして、実施例2と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0088】
(実施例18)
製造例2で得たPEDOT−PSS水溶液10mLにメチルエチルケトン90mLを加えた後、トリオクチルホスフィン110mgを加え、ナノマイザーにより処理して、導電性高分子溶液であるPEDOT−PSSの水/メチルエチルケトン混合溶液を得た。そして、実施例2と同様にして表面抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0089】
(比較例3)
製造例2で得たPEDOT−PSS水溶液10mLにメチルエチルケトン90mLを加えた後、ナノマイザー処理して、導電性高分子溶液であるPEDOT−PSSの水/メチルエチルケトン溶液を得た。しかしながら、この溶液はすべてのPEDOT−PSSが分散せずに沈殿した。
【0090】
(実施例19)
実施例16で得たPEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の0.6%イソプロパノール溶液10gにヒドロキシエチルアクリレート10gを加えた後、エバポレータを用いて溶媒を除去して、PEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の0.6%ヒドロキシエチルアクリレート溶液10gを得た。
この溶液にイルガキュア754(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)100mgを加え、これにより得た溶液を#16のバーコーターを用いて表面処理ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ポリエステル社製T680E)上に塗布した後、紫外線硬化して、塗膜を形成した。この塗膜の表面抵抗をハイレスタ(三菱化学社製)により測定した。測定結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
(実施例20)
実施例16で得たPEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の0.6%イソプロパノール溶液10gにペンタエリスリトールトリアクリレート10gを加えた後、エバポレータを用いて溶媒を除去して、PEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の0.6%ペンタエリスリトールトリアクリレート溶液10gを得た。そして、実施例19と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表2に示す。
【0093】
(実施例21)
実施例17で得たPEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の0.6%エタノール溶液10gにヒドロキシエチルアクリレート10gを加えた後、エバポレータを用いて溶媒を除去して、PEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の0.6%ヒドロキシエチルアクリレート溶液10gを得た。そして、実施例19と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表2に示す。
【0094】
(実施例22)
実施例17で得たPEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の0.6%エタノール溶液10gにジペンタエリスリトールヘキサアクリレート10gを加えた後、エパポレータを用いて溶媒を除去して、PEDOT−PSSのトリブチルホスホニウム塩の0.6%ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート溶液10gを得た。そして、実施例19と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表2に示す。
【0095】
(実施例23)
実施例15で得たPEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.6%トルエン/メチルエチルケトン混合溶液10gにヒドロキシエチルアクリレート10gを加えた後、エバポレータを用いて溶媒を除去して、PEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.6%ヒドロキシエチルアクリレート溶液10gを得た。そして、実施例19と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表2に示す。
【0096】
(実施例24)
実施例18で得たPEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.12%水/メチルエチルケトン混合溶液50gにヒドロキシエチルアクリレート10gを加え、エバポレータを用いて溶媒を除去しPEDOT−PSSのトリオクチルホスホニウム塩の0.6%ヒドロキシエチルアクリレート溶液10gを得た。そして、実施例19と同様にして塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表2に示す。
【0097】
(比較例4)
製造例2で得たPEDOT−PSS水溶液400mLにイソプロパノールを400mL加え、限外ろ過機を用いて溶媒を300mL除去した。これにより得たPEDOT−PSS溶液500mLにイソプロパノール3000mLを加えた後、溶媒を3000mL除去した。さらに、これにより得たPEDOT−PSS溶液500mLにイソプロパノール3000mLを加えた後、溶媒を2700mL除去した。これにより得た溶液をナノマイザーにより処理して、PEDOT−PSSの0.6%イソプロパノール溶液800mL(水分量1.6%)を得た。この溶液50gにペンタエリスリトールトリアクリレート50gを加え、エバポレータを用いて溶媒を除去したところ、PEDOT−PSSが凝集して分散溶液を得ることができなかった。
【0098】
π共役系導電性高分子と可溶化高分子のホスホニウム塩とを含有する実施例1,9,11,13の導電性複合体は、有機溶媒に容易に溶解した。実施例1,9,11,13の導電性複合体を有機溶媒に溶解させた実施例2〜8,10,12,14の製造方法によれば、π共役系導電性高分子が有機溶媒に溶解した導電性高分子溶液を得ることができた。さらに、この導電性高分子溶液から形成した導電性塗膜は十分な導電性を有していた。
これに対し、3価ホスフィン化合物を添加しなかった比較例1では、π共役系導電性高分子が有機溶媒に溶解した導電性高分子溶液を得ることができなかった。
【0099】
導電性高分子水溶液に3価ホスフィン化合物と有機溶媒とを添加し、水層と有機溶媒層とに分離させ、有機溶媒層のみを回収した実施例15の製造方法によれば、π共役系導電性高分子が有機溶媒に溶解した導電性高分子溶液を得ることができた。さらに、この導電性高分子溶液から形成した導電性塗膜は十分な導電性を有していた。
これに対し、3価ホスフィン化合物を添加しなかったこと以外は実施例15と同様にした比較例2では、π共役系導電性高分子が有機溶媒に溶解した導電性高分子溶液を得ることができなかった。
【0100】
導電性高分子水溶液に3価ホスフィン化合物および水溶性有機溶媒を添加した後、限外ろ過によって導電性高分子水溶液中の一部の水および水溶性有機溶媒を除去した実施例16,17の製造方法によれば、π共役系導電性高分子が有機溶媒に溶解した導電性高分子溶液を得ることができた。さらに、この導電性高分子溶液から形成した導電性塗膜は十分な導電性を有していた。
【0101】
導電性高分子水溶液に水溶性の液状有機化合物を添加した後、3価ホスフィン化合物を添加した実施例18の製造方法によれば、π共役系導電性高分子が有機溶媒に溶解した導電性高分子溶液を得ることができた。さらに、この導電性高分子溶液から形成した導電性塗膜は十分な導電性を有していた。
これに対し、3価ホスフィン化合物を添加しなかったこと以外は実施例18と同様にした比較例3では、π共役系導電性高分子が有機溶媒に溶解した導電性高分子溶液を得ることができなかった。
【0102】
実施例15〜18の製造方法により得た導電性高分子溶液の有機溶媒を液状アクリルモノマーに置換した実施例19〜24の製造方法によれば、π共役系導電性高分子が液状アクリルモノマーに溶解した導電性高分子溶液を得ることができた。さらに、この導電性高分子溶液から形成した導電性塗膜は十分な導電性を有していた。また、この導電性高分子溶液は無溶剤型であるから、導電性塗膜形成時に溶媒を蒸発して除去する必要がない。
これに対し、3価ホスフィン化合物を添加せずに得たPEDOT−PSSのイソプロパノール溶液のイソプロパノールをペンタエリスリトールトリアクリレートに置換した比較例4の製造方法では、π共役系導電性高分子が有機溶媒に溶解した導電性高分子溶液を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子と、3価ホスフィン化合物が配位したアニオン基または電子吸引基を有する可溶化高分子のホスホニウム塩とを含有することを特徴とする導電性複合体。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性複合体が液状有機化合物に溶解していることを特徴とする導電性高分子溶液。
【請求項3】
液状有機化合物が液状アクリルモノマーであることを特徴とする請求項2に記載の導電性高分子溶液。
【請求項4】
バインダをさらに含有することを特徴とする請求項2または3に記載の導電性高分子溶液。
【請求項5】
π共役系導電性高分子および可溶化高分子を水に溶解した導電性高分子水溶液に、3価ホスフィン化合物を添加した後、水を除去して導電性複合体を調製し、該導電性複合体に液状有機化合物を添加することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
【請求項6】
π共役系導電性高分子および可溶化高分子を水に溶解した導電性高分子水溶液に、3価ホスフィン化合物および液状有機化合物を添加し、水層と液状有機化合物層とに分離させ、該液状有機化合物層のみを回収することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
【請求項7】
π共役系導電性高分子および可溶化高分子を水に溶解した導電性高分子水溶液に、3価ホスフィン化合物を添加した後、限外ろ過によって導電性高分子水溶液中の水を液状有機化合物に置換することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
【請求項8】
π共役系導電性高分子および可溶化高分子を水に溶解した導電性高分子水溶液に、水溶性の液状有機化合物を添加した後、3価ホスフィン化合物を添加することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の導電性高分子溶液の製造方法にて、液状有機化合物として有機溶媒を用いて導電性高分子予備溶液を得た後、導電性高分子予備溶液中の有機溶媒を液状アクリルモノマーに置換することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。

【公開番号】特開2008−222812(P2008−222812A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61465(P2007−61465)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】