説明

導電性複合体の製造方法およびプリント配線板

【課題】導電性材料等と表面の粗面化の程度が小さな表面改質フッ素樹脂フィルムとが十分な強度で固着された導電性複合体の製造方法およびプリント配線板を提供する。
【解決手段】導電性複合体の製造方法は、基材であるフッ素樹脂フィルムRFの表面にアノードレイヤーイオンソース2からのイオンビームを照射電圧1.5kV以上3.5kV以下で照射してその表面を改質して粗面化する。祖面化された表面改質フッ素樹脂フィルムの表面に導電性材料の粒子を含む流体を塗布して加熱することにより導電性粒子をフッ素樹脂フィルムに固着させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質フッ素樹脂フィルムと導電性材料とが固着された導電性複合体の製造方法、およびプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、電気的には、誘電率、力率共に温度、周波数に関係なく一定で低いという優れたな特徴があり、絶縁抵抗および絶縁破壊も樹脂の中では非常に優れた部類に入る。またフッ素樹脂は、化学的な安定性が高く、耐熱性にも優れる。例えばもっともフッ素樹脂らしいフッ素樹脂と呼ばれる4フッ化エチレン樹脂(PTFE)の場合、融点は327℃と他の汎用樹脂等に比べて高い温度である。
【0003】
また薄く加工したフィルムは適度な柔軟性を有するので、フレキシブル基板(プリント配線板)への使用も可能である。
しかしながら、フッ素樹脂はその表面が不活性であるため導電性材料との接着が困難であり、これがフレキシブル基板への製品化の普及に大きな障害となっている。
フッ素樹脂の持つ優れた電気的特性を利用したプリント配線板用基板として、フッ素樹脂含浸ガラスクロスおよびフッ素樹脂シートを基材とし、これを銅箔に熱融着したフッ素樹脂銅張積層板が実用化されている(非特許文献1)。
【0004】
フッ素樹脂シート等に熱融着される銅箔は、ハンドリングの利便性から一般に30μm以上の厚みのものが使用される。そのため回路の微細なエッチング工程が容易ではなく、また熱融着処理において、各素材の熱膨張率の違いから融着物の変形が発生するという問題がある。
この問題を解決するために、フッ素樹脂の表面に銅を直接メッキすることにより薄膜化および微細配線化を目指す動きがある。フッ素樹脂表面への銅薄膜の定着には、疎水性であるフッ素樹脂の表面を改質し、銅による薄膜との接着強度を向上させる必要がある。
【0005】
フッ素樹脂の表面の改質方法として、フッ素樹脂表面のフッ素原子を金属ナトリウムにより引き抜き、フッ素樹脂の表面を化学的に改質するナトリウム−アンモニア処理が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−201571号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】インターネット、URL:http://www.chukoh.co.jp/japan/laminate/page_title.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ナトリウム−アンモニア処理による表面の改質は、親水化の程度が大きく導電性材料との強固な接着が可能となる。しかし、ナトリウム−アンモニア処理は、化学的な処理であるため改質層が厚くなり、かつ改質層がフッ素樹脂の特徴である耐熱性および耐化学薬品性などを損なうという問題を有する。また、ナトリウム−アンモニア処理されたフッ素樹脂は、表面の粗面化の程度が大きく、プリント配線板の基材としては好ましくない。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、導電性材料等と表面の粗面化の程度が小さな表面改質フッ素樹脂フィルムとが十分な強度で固着された導電性複合体の製造方法およびプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る導電性複合体の製造方法は、フッ素樹脂フィルムの表面にアノードレイヤーイオンソースからのイオンビームを照射電圧1.5kV以上3.5kV以下で照射して前記表面を粗面化し、前記フッ素樹脂フィルムの前記表面に導電性粒子を含む流体を塗布して加熱または乾燥することにより前記導電性粒子の層を形成する。
前記フッ素樹脂フィルムは、PTFE、変性PTFE、PFA、ETFEのいずれかで
ある。
【0011】
本発明に係るプリント配線板は、フッ素樹脂フィルムと導電性材料とからなり、前記フッ素樹脂フィルムは、その表面がアノードレイヤーイオンソースからのイオンビームの照射を受けて粗面化されており、前記フッ素樹脂フィルムにおける粗面化された表面において前記導電性材料の粒子を含む流体が焼成または乾燥されたことにより前記導電性材料の粒子が前記フッ素樹脂フィルムの粗面化された表面に入り込んでアンカー効果によって前記フッ素樹脂フィルムに固着されて形成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、導電性材料等と表面の粗面化の程度が小さな表面改質フッ素樹脂フィルムとが十分な強度で固着された導電性複合体の製造方法およびプリント配線板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は表面改質装置の概略図である。
【図2】図2はイオン照射装置の外観図である。
【図3】図3はイオン照射装置の長手方向に直交する断面図である。
【図4】図4はイオン照射装置によるイオンビーム照射の様子を示す図である。
【図5】図5は剥離強度に与える照射電圧の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は表面改質装置1の概略図、図2はイオン照射装置2の外観図、図3はイオン照射装置2の長手方向に直交する断面図である。
表面改質装置1は、導電性複合体を構成するフッ素樹脂フィルムRFの表面を改質させる装置である。
表面改質装置1は、処理室3、イオン照射装置2、イオン照射移動装置、保持装置4、前室5および真空装置6からなる。
【0015】
処理室3は、イオン照射装置2、イオン照射移動装置および保持装置4を収容する、密閉可能な部屋である。
イオン照射装置2は、形状が全体として細長い直方体であり、スリット11、空間12、アノード13およびガス流路14を備える。イオン照射装置2は、アノードレイヤー型のホールスラスターを改良したアノードレイヤーイオンソースである。
【0016】
スリット11は、イオン照射装置2における細長い1つの面15(以下「照射側面15」という)に、短い両端縁側がそれぞれ円弧状に湾曲し、長い両縁側が直線のループとなった隙間である。照射側面15を形成する部分におけるスリット11の内側の部分を内極16といい、スリット11の外側の部分を外極17という。
イオン照射装置2は、少なくとも照射側面15を有する材料が強磁性体で製作され、イオン照射装置2に組み入れられた永久磁石により、内極16がS極に磁極化され、外極17がN極に磁極化されている。
【0017】
空間12は、イオン照射装置2の内部に設けられ、スリット11によって外部に連通してその幅がスリット11よりも大きな、スリット11の形状に対応したループ状の空洞である。
アノード13は、ループ状の空間12に収容されたループ状の電極である。アノード13は、銅または銅合金で製作される。
【0018】
ガス流路14は、イオン照射装置2の外部からイオン源となるガスを空間12内に導入するための流路である。
イオン照射装置2において、外極17は接地(アース)され、アノード13は直流電源に接続されている。
イオン照射装置2は、照射側面15を形成する部分(「照射側面15」と略す場合がある)が接地され、アノード13との間に電圧が印加される。また、イオン照射装置2は、内極16がS極に磁極化され、外極17がN極に磁極化されていることにより、スリット11の開口部分で、軸方向の電場に対して磁場が略直交するように形成される。
【0019】
イオン照射装置2のループ状の空間12におけるスリット11近傍では、照射側面15
とアノード13との間を移動する電子により、ガス流路14から供給されたガスがプラズマ化されイオン化が生成される。生成した電子は照射側面15に向かい、イオンは、アノード13とスリット11との間の薄い層(アノードレイヤー)で加速されて、スリット11から外部に放出される。
【0020】
イオン照射移動装置は、イオン照射装置2を水平方向に往復移動させるための装置である。イオン照射移動装置は、イオン照射装置2の長手方向を水平方向に直交させて(長手方向を垂直方向にして)イオン照射装置を保持する。イオン照射移動装置は、イオン照射装置2の照射側面15と移動方向との角度αが0度から90度の範囲で任意に変更可能に設計される。イオン照射移動装置は、往復の移動速度および往動端、復動端での静止時間、移動回数(往動および復動をそれぞれ1回とする)等、移動条件を種々変更して動作させることができる。イオン照射移動装置は、イオン照射装置2が垂直方向に移動するように、または水平および垂直のいずれでもない方向に移動するようにしてもよい。
【0021】
保持装置4は、改質対象であるフッ素樹脂フィルムRFを保持するための装置である。保持装置4は、厚みのある強固な長方形のガラス基板21を備える。ガラス基板21は、その表面が垂直となるように保持装置4に組み入れられる。
保持装置4は、往復移動するイオン照射装置2のいずれの位置においても、ガラス基板21の表面とイオン照射装置2との往復移動方向に直交する方向の距離が一定となる位置に、静止可能に配される。ここで「静止可能」としたのは、後述するように、保持装置4が処理室3と前室5との間を移動可能なことによる。
【0022】
前室5は、保持装置4を収容することができる密閉可能な部屋である。前室5は、処理室3に連続し、遠隔操作で開閉可能な扉によって処理室3と隔てられている。前室5は、処理室3との間で保持装置4が移動可能となっており、保持装置4の前室5と処理室3との間の移動は、これらを隔てる扉の開閉とともに外部からの遠隔操作により行われる。
真空装置6は、前段真空ポンプ25、後段真空ポンプ26および複数の自動弁27,28,29,30,31からなる。
【0023】
前段真空ポンプ25は、真空度が低い段階で作動させるあらびきポンプであり、油回転ポンプが使用される。前段真空ポンプ25は、自動弁27,28を介して処理室3および前室5に接続されている。
後段真空ポンプ26は、高い真空度を得るために作動させる真空ポンプであり、クライオポンプが使用される。後段真空ポンプ26は、自動弁29を介して処理室3に接続されている。
【0024】
自動弁30,31は、それぞれ前室5の真空状態を解除するリーク弁、および処理室3の真空状態を解除するリーク弁である。
次に、表面改質装置1によるフッ素樹脂フィルムRFの表面改質処理について説明する。
図4はイオン照射装置2によるイオンビーム照射の様子を示す図である。
【0025】
初めに、改質対象であるフッ素樹脂フィルムRFが、保持装置4のガラス基板21に固定される。フィルム化されたフッ素樹脂として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、変性PTFE(4Fモノマーと微量のパーフルオロアルコキシドとの共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)が使用される。また、フィルムの厚さは、10μm〜150μmが好ましい。
【0026】
フッ素樹脂フィルムRFは矩形に切断され、四隅または対向する2辺がガラス基板21に直接または間接に固定される。フッ素樹脂フィルムRFには、しわが生じない程度の弱い張力が加えられる。
図1を参照して、フッ素樹脂フィルムRFが固定されたガラス基板21が、前室5内において保持装置4に一体化される。
【0027】
前室5および処理室3が密閉され外部と遮断される。前室5と処理室3とを隔てる扉は開かれている。
自動弁27,28が開かれ、自動弁29,30,31が閉じられた状態で、真空装置6
の前段真空ポンプ25が起動され、前室5および処理室3が減圧される。
前室5および処理室3が所定の真空度、例えば102Paに達したら、保持装置4が前室5から処理室3に移動され、前室5と処理室3との間の扉が閉じられる。
【0028】
処理室3内に移動されたフッ素樹脂フィルムRFは、イオン照射装置2との距離およびイオン照射角度αに応じた適切な位置に配される。ここで、イオン照射角度αとは、改質対象(フッ素樹脂フィルムRF)に照射されるイオンビームの照射方向と、改質面に直交する方向とがなす角度であり、表面改質装置1においては、イオン照射角度αは、照射側面15とイオン照射移動装置の移動方向との角度αと同じ値である。
【0029】
また、フッ素樹脂フィルムRFは、いずれかの対向する2辺がイオン照射装置2の長手方向に一致するように、ガラス基板21に固定されている。
続いて自動弁27,28が閉じられ、自動弁29が開かれ、前段真空ポンプ25が停止されると、後段真空ポンプ26が起動される。処理室3は、後段真空ポンプ26により、一層高い真空度、例えば10-2Paにまで減圧される。
【0030】
イオン照射装置2は、照射側面15とイオン照射移動装置の移動方向との角度αが設定された角度になるようにイオン照射移動装置に取り付けられている。イオン照射装置2に、ガス流路14からイオン化するガスが所定の流量で供給される。イオン化するガスには、例えばアルゴンガス、酸素ガスまたは窒素ガスが好ましく、これらは単独または複数で用いられる。これらのうち、化学的に活性な官能基を生成しにくいアルゴンガスが特に好ましい。
【0031】
処理室3内の真空度が設定した値で安定したら、イオン照射装置2が起動され、イオンビームがフッ素樹脂フィルムRFに照射され、表面改質が開始される。また、イオン照射装置2は、イオン照射移動装置により、所定の移動速度で一方の移動端から他方の移動端に向けて水平方向に移動される。
イオン照射装置2がいずれか一方の移動端からいずれか他方の移動端まで設定された回数移動したのち、イオン照射装置2の移動およびその動作が停止され、表面改質が終了する。ここで行われる表面改質は、照射されるイオンビームによりフッ素樹脂フィルムRFの表面および表面近傍の内部の分子構造を破壊し、表面の粗面化を行うものである。
【0032】
このようにして表面が改質されたフッ素樹脂フィルムRFには、導電性粒子を含む流体による所定の回路パターンが、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法等の公知の塗布技術を用いて印刷される。導電性粒子を含む流体には、市販される導電性ペースト、例えば、銀を含む藤倉化成株式会社製、品名ドータイト(登録商標)FA−333,FA−353N,XA−602N、同じく銀を含む東洋紡績株式会社製、品名VYLON(登録商標)、DW−250H−5,23、DW−260H−1、大研化学工業株式会社製、品名CA−6178等のほか、銅または導電性カーボンを含む導電性ペースト等が使用される。
【0033】
塗布される導電性粒子の材料は特に限定されないが、電気抵抗が小さく、形成された回路の安定性が良いことが好ましい。導電性材料として、上述した銀の他、銅が、焼成温度が低いこと、および電気的性質の点で好ましい。導電性粒子の大きさは、配線の微細化のためにナノオーダーであることが好ましい。
導電性粒子を含む流体による回路パターンが形成されたフッ素樹脂フィルムRFには、導電性粒子を固着させるための処理が施される。固着処理では、導電性粒子の分散媒を熱硬化または乾燥するために、熱硬化の適正処理温度にまで加熱され、または分散媒の蒸発のための加熱、減圧が行われる。固着処理の後、フッ素樹脂フィルムRFの表面に導電性材料による回路パターンが形成されたフレキシブル電子回路基板が得られる。
【0034】
【表1】

【0035】
表1は、表面改質装置1を使用して行ったフッ素樹脂フィルムRFの表面改質条件、および表面改質したフッ素樹脂フィルムRFを評価した結果である。表1の「剥離強度」は、フッ素樹脂フィルムRFとその表面に固着された導電性金属との剥離強度である。表1における剥離強度の欄における「0.1>」は、ほとんど固着されていなかったために、剥離強度が正確に測定できなかったものである。
【0036】
表面改質、加硫接着の共通条件を以下に示す。
(1) イオン照射装置:IZOVAC社製 IZOVA BEAM CLEANING
SYSTEM(アノードレイヤーイオンソース)/イオン照射装置は、ランテクニカルサービス株式会社の駆動装置により駆動
(2) 設定真空度:10-2Pa
(3) フッ素樹脂フィルム:PTFE〜日本バルカー工業製、バルフロン(登録商標)、厚さ100μm
(4) イオン照射装置とフッ素樹脂フィルムとの距離:イオン照射装置2の移動方向に直交する方向について照射側面15の幅方向中央(図3,4の符合C)からフッ素樹脂フィルムまでの距離(図4のD)が100mm
(5) 導電性粒子を含む流体:大研化学工業株式会社製、銀粒子を含む熱硬化タイプの導電性ペーストCA−6178
(6) 導電性粒子を含む流体のフッ素樹脂フィルムへの塗布処理:アプリケータにより厚さ50μmとなるように塗布
(7) 固着条件:温度130℃、処理時間30分
表1において、「照射電圧」はイオン照射装置2のアノード13と照射側面15との間に印加される直流電圧、および「移動速度」は図1におけるイオン照射装置2の移動時の速度、移動回数はイオン照射装置2の片道の移動を1回とした移動回数である。
【0037】
表1におる変色の有無は表面改質後のフッ素樹脂フィルムを対象として目視により行った。
剥離強度は、以下のようにして測定した。
先ず、未改質な面を残しながら表面改質された2つのフッ素樹脂フィルムRFを、その改質面同士を対面させて導電性粒子を含む流体により固着させる。これを、(未改質なため)固着されず分かれた状態の部分(フッ素樹脂フィルムRF)を長手方向の一方側となるように、幅20mmの短冊状に切り分けて測定用試料とする。表面改質が行われなかったフッ素樹脂フィルムRFについても同様に測定用試料(比較例1)を作成した。
【0038】
測定用試料の長手方向の一方側における固着されずに分離したフッ素樹脂フィルムRFを剥離強度試験機の上下別々のチャックに挟み、上方のチャックを50mm/minの速度で上昇させたときの抵抗力を計測して、フッ素樹脂フィルムRFと導電性粒子層との剥離強度(固着強度)を求めた。このとき、上下のチャックに保持されたフッ素樹脂フィルムRFに対して、フッ素樹脂フィルムRFの固着された部分が水平になるように、いわゆる90度剥離の条件で剥離試験を行った。
【0039】
図5は表1の結果から剥離強度に与える照射電圧の影響を調べた図である。
表1および図5から、照射電圧を1.5kV以上とすることにより、フッ素樹脂フィルムRFと導電性粒子層との剥離強度を実用上十分な強度である1.3N/mm以上とすることができる。
また、図5から、照射電圧を1.5kV以上3.5kV以下とすることにより、フッ素樹脂フィルムRFを着色させることなく導電性粒子層との間に十分な剥離強度を得ることができる。
【0040】
【表2】

【0041】
表2は、実施例2、実施例1におけるフッ素樹脂フィルムRFおよびナトリウム−アンモニア処理により表面改質されたフッ素樹脂フィルムRFの中心線平均粗さ(Ra)および十点平均粗さ(Rz)を測定した結果である。
中心線平均粗さおよび十点平均粗さの測定は、JIS B0601:2001に準拠して行った。使用した機器は、東京精密株式会社製サーフコム130Aであり、カットオフ値は0.25mm、測定長は1.25mmである。
【0042】
表2から、イオンビーム照射により表面改質されたフッ素樹脂フィルムRFは、ナトリウム−アンモニア処理により表面改質されたフッ素樹脂フィルムRFに比べて表面の粗面化の程度が小さく、表面改質前のフッ素樹脂フィルムRF(比較例1)と同等であることがわかる。
【0043】
【表3】

【0044】
表3は、フッ素樹脂フィルムRFの表面の組成をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)により調べた結果である。
イオンビーム照射により表面改質された実施例2のフッ素樹脂フィルムRFは、未処理のフッ素樹脂フィルムRF(比較例1)に対してフッ素(F)が減少し、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)等の元素の増加が見られる。このことから、最表面のフッ素原子が引き抜かれ、空気由来と思われるO,Nが若干量取り込まれていると推定される。
【0045】
なお、実施例2における表面改質後のフッ素樹脂フィルムは、SPM(走査型プローブ顕微鏡)による表面形状の観察を行った結果、表面改質前の投影面積比1.6%に対して、表面改質処理後には投影面積比が15.9%に増加していた。
また、SPMの画像観察および走査型電子顕微鏡(SEM)の観察によっても、表面改質後では表面に細かい凹凸が見られ、表面積が増加していた。この表面積の増加、表面の凹凸が、導電性粒子層の固着強度の増加に寄与している。
【0046】
導電性粒子層のフッ素樹脂フィルムRFに対する固着は、改質され粗面化されたフッ素樹脂フィルムRFの表面に導電性の微粒子が入り込むアンカー効果により、その強度が得られる。
上述の実施形態において、イオンビームに印加する電圧としては、1.5kV以上3.5kV以下が好ましい。これよりも低い電圧での処理では得られる効果が弱く好ましくない。これよりも高い電圧での処理では、フッ素樹脂の分解が激しくなり、樹脂からの分解ガスによる真空度の低下が見られるため、および高エネルギーのイオンとの衝突によると思われるフィルムの変色が見られるため、好ましくない。
【0047】
一般にアノードレイヤーイオンソースにおいて、イオン源にかける電圧の数値の約半分の平均エネルギーをイオンに与えることが知られており、上記1.5kVから3.5kVの印加電圧の場合、イオンの持つ平均エネルギーは、約0.8〜1.8keVとなる。
フッ素樹脂フィルムRFに照射するイオンの単位面積当たりの個数としては、求める接着強度に必要な量を選べばよいが、1013 〜1018個/cm2程度が好ましい。1013個以下では、必要な表面改質が得られず接着強度が低下する。1018個以上では改質された表面層が更に分解を受ける為、非効率的である。イオンの照射を行う場合、一度に必要な個数のイオンの照射を行っても良いし、一度の少ないイオンの照射を繰返し行うことで目的とするイオンの個数を照射しても良い。フッ素樹脂への熱的なダメージを避ける目的で、一回当たりの照射を少なくし、複数回処理を繰り返す方式が好ましい。
【0048】
イオン照射装置2により表面改質を行う方法では、フッ素樹脂フィルムRFを保持するガラス基板21を、その(ガラス基板21の)表面内の直交する2方向に任意に移動させながらイオンビームを照射することにより、フッ素樹脂フィルムRFの特定の部分のみ表面改質を行うことができる。
ガラス基板21の直交する2方向の任意の移動は、コンピュータにより保持装置4の動作を制御して行うことができ、このようにガラス基板21の直交する2方向における移動を制御することにより、フッ素樹脂フィルムRFにおける導電性材料を固着させる予定の部分に限定した表面改質を行うことができる。
【0049】
イオンビームを照射してフッ素樹脂フィルムRFの表面を粗面化する方法は、導電性粒子層が形成される表面を除く表面のフッ素樹脂が有する優れた電気的特性等を維持することができる。
その他、表面改質装置1、および表面改質装置1の各構成または全体の構造、形状、寸法、個数、材質などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、表面改質フッ素樹脂フィルムと導電性材料とが固着された導電性複合体の製造方法、およびプリント配線板に利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
2 イオン照射装置(アノードレイヤーイオンソース)
RF フッ素樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂フィルムの表面にアノードレイヤーイオンソースからのイオンビームを照射電圧1.5kV以上3.5kV以下で照射して前記表面を粗面化し、
前記フッ素樹脂フィルムの前記表面に導電性粒子を含む流体を塗布して加熱または乾燥することにより前記導電性粒子の層を形成する
ことを特徴とする導電性複合体の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂フィルムが、PTFE、変性PTFE、PFA、ETFEのいずれかである
請求項1に記載の導電性複合体の製造方法。
【請求項3】
フッ素樹脂フィルムと導電性材料とからなり、
前記フッ素樹脂フィルムは、その表面がアノードレイヤーイオンソースからのイオンビームの照射を受けて粗面化されており、
前記フッ素樹脂フィルムにおける粗面化された表面において前記導電性材料の粒子を含む流体が焼成または乾燥されたことにより前記導電性材料の粒子が前記フッ素樹脂フィルムの粗面化された表面に入り込んでアンカー効果によって前記フッ素樹脂フィルムに固着されて形成されてなる
ことを特徴とするプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−89812(P2013−89812A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229912(P2011−229912)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】