説明

導電性複合繊維

【課題】良好な導電性を有すると共に、耐洗濯性・耐アイロン性に優れクリーンルーム用衣料用途に好適に用いることができる導電性複合繊維を提供する。
【解決手段】導電性微粒子を含有するステレオコンプレックス型ポリ乳酸を芯成分、非導電性熱可塑性ポリマーを鞘成分とし、芯成分が鞘成分によって完全に被覆されている導電性複合繊維であって、下記要件を満足する導電性複合繊維。
a)ステレオコンプレックス型ポリ乳酸が特定の燐酸エステル金属塩を特定量含有すること。
b)導電性微粒子をステレオコンプレックスポリ乳酸全重量に対して10〜40wt%含有すること。
c)芯成分が2以上の鋭利な突起を有しているともに、芯成分外周部と鞘成分外周部とにより形成される非導電性熱可塑性ポリマー成分の最小厚さViが0.5〜5μmであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性ポリ乳酸繊維に関する。さらに詳しくは高導電性、洗濯耐久性、耐熱性に優れるポリ乳酸繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性繊維の構成成分として、PETやPBTを採用した導電性繊維に関する技術が提案されている(例えば、特開昭63−85114号公報など)。該技術においては、PETやPBTに導電性微粒子を含有せしめ、高固有粘度を有するPETを芯成分とする芯鞘複合繊維として高速紡糸を行うことで確かに強伸度特性に優れた繊維が得られるものの、従来から知られているように、PETやPBTは高濃度で導電性微粒子を含有せしめて溶融紡糸を行うのが非常に困難であって、たとえ高固有粘度のPETを非導電側成分に用いて複合紡糸を行ったとしても、溶融粘度差が大きく安定してポリエステル導電性繊維を得ることはできなかった。
【0003】
そのため導電性カーボンを含有するポリ乳酸とポリエステル樹脂とで構成される導電性複合繊維が提案されている(例えば、特開2008−196073号公報など)。本方法により溶融紡糸性は向上するものの、該複合繊維においては、導電性成分の一部を繊維表面に露出させているために、製糸・製織工程における毛羽、糸導ガイド類の摩耗、使用中に導電性物質が脱落して機能が低下するなどのトラブルが生じている。また、ポリ乳酸の融点が低いために、布帛とした場合アイロン掛けをすると布帛に穴が開いたり単糸の融着が生じるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−85114号公報
【特許文献2】特開2008−196073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、良好な導電性を有すると共に、耐洗濯性・耐アイロン性に優れクリーンルーム用衣料用途に好適に用いることができる導電性ポリ乳酸複合繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記目的を達成するため鋭意検討した結果、導電性物質の粉末をステレオコンプレックス型ポリ乳酸(以後sc−PLAと略称する場合がある)中に分散させて導電性成分とし、繊維形成性の熱可塑性樹脂を非導電側成分とした芯鞘型複合繊維とすることで、複合されるポリマーの溶融粘度差を小さくすることができるため、製糸工程での工程通過性が良化し、またステレオコンプレックス型ポリ乳酸を用いると、溶融時はポリ乳酸同様であるが、熱セットすることで融点がupし、耐アイロン性が良好となるため、所望の導電性複合繊維が得られることを究明し、本発明に到達した。
【0007】
即ち本発明によれば、
導電性微粒子を含有するステレオコンプレックス型ポリ乳酸を芯成分、非導電性熱可塑性ポリマーを鞘成分とし、芯成分が鞘成分によって完全に被覆されている導電性複合繊維であって、下記要件を満足する導電性複合繊維、
a)ステレオコンプレックス型ポリ乳酸が(1)ポリL−乳酸(A成分)、(2)ポリD−乳酸(B成分)、(3)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物であること。
b)導電性微粒子がステレオコンプレックス型ポリ乳酸全重量に対してを10〜40wt%含有されていること。
c)芯成分が2以上の鋭利な突起を有しているともに、芯成分外周部と鞘成分外周部とにより形成される非導電性熱可塑性ポリマー成分の最小厚さViが0.5〜5μmであること。
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qは、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
【化2】

(式中、R、RおよびRは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qは、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
好ましくは導電性微粒子がカーボンブラックである導電性複合繊維であり、さらには 熱可塑性ポリマーが主としてポリエステルまたはポリアミドからなる導電性複合繊維、
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、芯鞘型導電繊維の導電性微粒子含有側ポリマーを特定の組成物からなるsc−PLAとすることで、複合される熱可塑性ポリマーとの溶融粘度差を小さくすることができ、製糸工程での工程通過性が優れるとともに、高い導電性を有し耐アイロン性の良好な導電性複合繊維とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の導電性複合繊維の、繊維断面形状の例を説明するための断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の導電性複合繊維は、芯成分を導電性粒子含有sc−PLAとし、鞘成分を繊維形成能を有する結晶性熱可塑性ポリマーとすることで、芯鞘ポリマーのη差を小さくできるため製糸工程での工程通過性が良好となるとともに、熱セットすることで融点upし、耐アイロン性も向上することを見出すことによりなされたものである。
【0011】
本発明の導電性複合繊維を構成するポリマーは、鞘成分が繊維形成能を有する結晶性熱可塑性ポリマーであり、芯成分がステレオコンプレックス型ポリ乳酸である。
鞘成分の繊維形成能を有する結晶性熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドなどを挙げることができ、なかでも汎用的に用いられ、コスト面や性能のバランスのとれたポリエチレンテレフタレートを使用することが好ましい。
【0012】
芯成分を構成するステレオコンプレックス型ポリ乳酸は、ポリL−乳酸(A成分)、ポリD−乳酸(B成分)および燐酸エステル金属塩(C成分)を含有する組成物からなるものである。以下に説明する。
【0013】
(ポリL−乳酸:A成分)
ポリL−乳酸は、主としてL−乳酸単位からなる。L−乳酸単位はL−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリL−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてD−乳酸単位、乳酸以外の単位がある。D−乳酸単位および乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0014】
ポリL−乳酸は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックス結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることが出来る。
ポリL−乳酸は、重量平均分子量が、好ましくは5万〜30万、より好ましくは10万〜25万である。
【0015】
(ポリD−乳酸:B成分)
ポリD−乳酸は、主としてD−乳酸単位からなる。D−乳酸単位はD−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリD−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてL−乳酸単位、乳酸以外の単位がある。L−乳酸単位および乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0016】
ポリD−乳酸は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックス結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることが出来る。
ポリD−乳酸は、重量平均分子量が、好ましくは10万〜20万、より好ましくは11万〜17万である。
【0017】
(燐酸エステル金属塩:C成分)
燐酸エステル金属塩(C成分)として、好ましくは下記式(1)または(2)で表される化合物が挙げられる。燐酸エステル金属塩は1種類を用いても複数種類を併用してもよい。
【0018】
【化3】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qは、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
【0019】
【化4】

(式中、R、RおよびRは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qは、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
【0020】
燐酸エステル金属塩として、(株)ADEKA製の商品名、NA−11が挙げられる。燐酸エステル金属塩は公知の方法により合成することができる。
上記のsc−PLA組成物を混合することで、融点が200〜230℃となり、高温雰囲気下での強度も高くなり、十分な強度、耐久性を発揮することができる。
【0021】
ポリD−乳酸/ポリL−乳酸の混合比が40/60〜60/40であることが好ましく、中でも、45/55〜55/45、さらには、50/50であることが好ましい。40/60〜60/40の範囲を外れる場合はステレオコンプレックスの形成が難しく高融点、耐熱性が得られない。
【0022】
本発明の複合繊維は、その断面形状が、図1の(イ)〜(ニ)に例示するように、芯成分が2以上の鋭利な突起を有する断面形状を有することを特徴とする。
すなわち、本発明の複合繊維は、芯成分を異型断面にすることによって、導電部を表層に近づけ、繊維の断面導電性および表面導電性を向上させると共に、繰り返し使用に対して優れた耐久性を有し、またブラシに用いられた場合、その端部における繊維密度を実質的に高めることが可能となる。
【0023】
さらに、本発明においては、鋭利な突起により形成される芯成分外周部と鞘成分外周部とにより形成される非導電性成分の最小厚さViが0.5〜5μmである必要がある。
非導電性成分の最小厚さViが0.5μm未満の場合には、芯と鞘が剥離したり、鞘成分が芯成分を被覆していない部分が生じて導電性物質が脱落し、導電性能が低下したり汚染の原因となるなどの問題が生じる。一方、非導電性成分の最小厚さViが5μmを超える場合には、導電性が低下し十分な機能を発揮しない。
【0024】
上記複合繊維断面において、芯成分の占める面積は5〜30%が好ましい。該面積が5%より小さいときは、制電性が劣る場合があり、一方、該面積が30%を超える場合と繊維の力学的特性、耐発塵性、耐久性が低下する場合がある。
【0025】
本発明に使用する導電性微粒子としては、導電性カーボンブラック、導電性金属化合物などの公知のものを使用することができる。導電性カーボンブラックの種類としては、例えばオイルファーネス系の“ケッチェンブラックEC”(日本EC社製)、“コンダクテックス975”、“コンダクテックスSC”(コロンビアン社製)やアセチレン系の“デンカブラック”(デンカ社製)等公知の導電性カーボンブラックの他、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラックなどが使用できる。
【0026】
他方導電性金属化合物としては、金属粒子または金属酸化物もしくは金属化合物の粒子、あるいは、これらの皮膜を有する粒子を用いることができる。金属粒子としては、銀、ニッケル、銅、鉄、アルミニウムあるいはこれらの合金があげられる。金属酸化物や金属酸化物皮膜を有する粒子としては、アンチモン酸化物を第2成分として混合焼成した酸化錫、アルミニウム酸化物を第2成分とした酸化亜鉛、前記酸化錫や酸化亜鉛等の導電性酸化物の皮膜を有する酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機粒子が使用できる。金属酸化物としては、ヨウ化銅、硫化銅、硫化亜鉛、硫化カドミニウムなどを用いることができる。中でも、白色性に優れた酸化第二錫や酸化亜鉛が好ましく例示される。なおここでいう酸化第二錫には、少量のアンチモン化合物を含む酸化第二錫、酸化チタン粒子の表面に酸化第二錫をコーティングした導電性金属複合体も含まれる。また、酸化亜鉛には、少量の酸化アルミニウム、酸化リチウム、酸化インジウムなどを含む酸化亜鉛も含まれる。これらの導電性物質は、通常微粉末としてマトリックスポリマーに分散して用いられる。
【0027】
これら導電性物質の配合率は、粒子の種類、粒子径、導電性およびマトリックスポリマーの性質や結晶性などによって変わるが、通常はステレオコンプレックスポリ乳酸全重量に対して10〜40wt%であることが必要である。該配合量が10%未満の場合は導電性が低下しがちであり、40%を超える場合はポリマー中への均一分散が困難となり強度が低下し、製糸性も低下する。
【0028】
本発明の導電性複合繊維は公知の方法により製糸することができる。例えば、芯鞘型複合繊維として溶融状態で公知の複合紡糸装置を用いて繊維状に押出し、それを500〜3500m/分の速度で溶融紡糸後、一旦巻き取らず直接延伸、熱処理する方法などが挙げられる。その他1000〜5000m/分の速度で溶融紡糸し巻き取った後延伸する方法、5000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法などが好ましく挙げられ、細繊度の繊維の生産性、安定性に優れたものとできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例、比較例における各特性値は以下の方法で測定した。
【0030】
(1)重量平均分子量(Mw):
ポリマーの重量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
【0031】
(2)融点、ステレオ化度:
TAインストルメンツ製 TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。
測定は、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温した。第一スキャンで、ホモ結晶融解温度、ステレオコンプレックス結晶融解温度を求めた。ステレオ化度は、数1により算出した。
[数1]
S(%)=[(ΔHms/ΔHms)/(ΔHmh/ΔHmh+ΔHms/ΔHms)]
(ただし、ΔHms=203.4J/g、ΔHmh=142J/g、ΔHms=ステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmh=ホモ結晶の融解エンタルピー)
【0032】
(3)融点
Du Pont社製 熱示差分析計990型を使用し、昇温20℃/分で融解ピークを測定し融点を求めた。
【0033】
(4)破断紡速
ポリマーを口金から紡出する際、捲取ローラーの速度を上げていき、捲取不能となる上限速度を破断紡速とした。
【0034】
(5)表面電気抵抗値
繊維軸方向の長さ約10cmにカットされた繊維の両端付近の表面(繊維側面)に前記のAgドウタイトを付着させたものを試料として、該試料を電気絶縁性ポリエチレンテレフタレートフィルム上で、湿度25℃、相対湿度40%の条件下で1.7kVの直流電圧を該Agドウタイト間に印加してAgドウタイト間に流れる電流値を求め、かつ、Agドウタイト間の距離を測定して、オームの法則により電気抵抗値Ω/cmを算出した。
【0035】
(6) 耐アイロン性
テストする繊維にて10cm角の布巾を作成し表面温度170℃に調整したアイロンで30秒アイロン掛けを行い、風合いの変化より耐熱性を判定した。判定は以下の基準で行った。
合格: ○ 単糸の融着がなく、風合いを良好に保つ。
不合格:× 単糸の融着により、ごわごわした風合いへの変化がみられる。
【0036】
(7)洗濯耐久性
経糸として84dtex/36フィラメントのポリエチレンテレフタレート延伸糸、緯糸として110dtex/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を使用し、3/2の逆ツイル組織に5mm間隔で導電性複合繊維を配した織物を得た。
次いで、該織物を60℃で36分間洗濯した後、30分間のすすぎを行い、タンブラーを用いて60℃で30分間乾燥し、これを1回の洗濯とした。これを150回繰り返した。
合格: ○ 繊維表面に割れの発生無し
不合格:× 繊維表面に割れの発生有り
【0037】
[実施例1]
(製造例1:ポリL−乳酸)
Lラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリL−乳酸を得た。
得られたL−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0038】
(製造例2:ポリD−乳酸)
Dラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリD−乳酸を得た 得られたポリD−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0039】
(ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂の製造)
製造例1で得られたポリL−乳酸ならびに製造例2のポリD−乳酸を各50重量部と、リン酸エステル金属塩(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−11)0.1重量部を230℃で溶融混練し、ポリL−乳酸ならびにポリD‐乳酸の合計100重量部あたりカルボジイミドとして日清紡(株)製カルボジライトLA−1を0.7重量部、第一供給口より供給しシリンダー温度230℃で混練押出して、水槽中にストランドを取り、チップカッターにてチップ化してステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を得た。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のMwは13.5万、融点(Tm)は217℃、ステレオ化度は100%であった。
【0040】
(導電性ステレオコンプレックスポリ乳酸複合繊維)
前記、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂80重量部と導電性カーボンブラック20重量部を常法により混練して導電性樹脂組成物を得た。
この導電性樹脂組成物10重量部を芯成分とし、ポリエチレンテレフタレート90重量部を鞘成分として、図1の(ロ)に示す断面形状を有する芯鞘型複合繊維を紡糸温度285℃にて溶融紡糸により紡速2500m/分にて紡出した後、1.8倍に延伸して31dtex/5フィラメントのマルチフィラメントヤーンを得た。
次いで、該繊維を高電圧電極に接触させて50kVの高電圧を印加し、糸速度300m/分にて高電圧放電処理を行なった。
得られた導電性複合繊維の表面電気抵抗値は3.0×10Ω/cmであった。また、得られた繊維を筒編みにして170℃でのアイロン掛け試験を行ったところ、形状、寸法、風合いの変化見られず良好であった。また、該導電性複合繊維を150回の洗濯耐久性試験に供したところ、導電性複合繊維の割れは発生せず、表面電気抵抗値は3.1×10Ω/cmと劣化もなく十分満足できるものであった。結果を表1に示す。
【0041】
[実施例2]
導電性樹脂組成物における導電性カーボンブラックの比率を変化させる以外は実施例1と同じ操作を行った。該導電繊維の表面電気抵抗、洗濯耐久性、耐アイロン性の結果を表1にまとめた。
【0042】
[比較例1]
導電性樹脂組成物におけるポリマーをscPLAの代わりにイソフタル酸(IA)を15%共重合させたポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。この場合、口金吐出面で吐出ポリマーの折れ曲りが生じてしまい、1000m以上で巻取ることができなかった。得られた導電繊維の表面電気抵抗値は3.0×10Ω/cmであった。
得られた繊維を筒編みにして170℃でのアイロン掛け試験を行ったところ、布帛の穴あきや融着が見られ判定は×であった。また、該導電性複合繊維を150回の洗濯耐久性試験に供したところ、導電複合繊維の割れが一部に発生し、カーボンの脱落が見られた。結果を表1にまとめた。
【0043】
[比較例2〜3]
導電性樹脂組成物におけるポリマーをL−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが98.7/1.3からなるポリ−L−乳酸(PLLA)とし、導電性カーボンブラックの比率を変化させる以外は実施例1と同様の操作を行った。破断紡速、表面電気抵抗の結果を表1にまとめた。
得られた繊維を筒編みにして170℃でのアイロン掛け試験を行ったところ、布帛の穴あき、融着が見られ判定は×であった。また、該導電性繊維を150回の洗濯耐久性試験に供したところ、導電複合繊維の割れが一部に発生し、カーボンの脱落が見られた。結果を表1にまとめた。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の導電性ポリ乳酸複合繊維は高い導電性を有し且つ耐アイロン性の高いものとすることができるため、衣料用途、特にクリーンルーム用衣料等に有用である。
【符号の説明】
【0046】
Vi:非導電性成分の最小厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子を含有するステレオコンプレックス型ポリ乳酸を芯成分、非導電性熱可塑性ポリマーを鞘成分とし、芯成分が鞘成分によって完全に被覆されている導電性複合繊維であって、下記要件を満足することを特徴とする導電性複合繊維。
a)ステレオコンプレックス型ポリ乳酸が(1)ポリL−乳酸(A成分)、(2)ポリD−乳酸(B成分)、(3)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物であって、ポリL乳酸とポリD乳酸の重量比率が60/40〜40/60であること。
b)導電性微粒子をステレオコンプレックスポリ乳酸全重量に対して10〜40wt%含有すること。
c)芯成分が2以上の鋭利な突起を有しているともに、芯成分外周部と鞘成分外周部とにより形成される非導電性熱可塑性ポリマー成分の最小厚さViが0.5〜5μmであること。
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qは、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
【化2】

(式中、R、RおよびRは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qは、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
【請求項2】
導電性微粒子がカーボンブラックである、請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項3】
熱可塑性ポリマーが主としてポリエステルまたはポリアミドからなる請求項1〜2いずれかに記載の導電性複合繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2011−144468(P2011−144468A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4946(P2010−4946)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】