説明

導電性複合繊維

【課題】人工皮革に使用したときに風合いを損なわずにかつ制電特性も充分付与できる導
電性複合繊維を提供する。
【解決手段】ポリエステル系海島繊維であって、島成分は、その直径が9.0μm以下で
、芯鞘構造をしており、該芯部は導電性カーボンブラックを含有した、イソフタル酸5〜
30mol%または平均分子量300〜4000のポリアルキレングリコール2〜10質
量%を共重合したコポリエステルであり、該鞘部は導電性カーボンブラックを含まないポ
リエステルであり、該複数の島成分を海成分にて取り囲んでおり、海成分は1〜5mol
%の金属スルホネート基含有イソフタル酸と、平均分子量が1000〜10000のポリ
アルキレングリコール7〜13質量%とを共重合したコポリエステルよりなることを特徴
とする導電性複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンスタンド等で使用する作業服は、静電気の発生を抑えるために制電加工が施さ
れたり、制電耐久性を持たせるために導電糸が使用されたりすることは公知である。例え
ば、特許文献1には、28デシテックス/2フィラメントの導電性ポリエステル繊維と8
4デシテックス/36フィラメントのポリエステルセミダル繊維とを引き揃えて撚りをか
けた糸を、織物の経糸に2.54cm間隔で配列して制電性能を持たせた制電性作業服が
提案されている。
【0003】
また、極細繊維使いの人工皮革等はその繊維の細さにより、静電気を帯び易く、一般に
制電加工が施されている。制電耐久性を持たせる為には、特許文献1記載の導電繊維を使
用すればよいが、極細繊維の中に、太い繊維を混用することになり、その風合いに影響し
て、人工皮革の特性も失わせてしまう。この場合は人工皮革の表使いではなく裏使いとす
ればよいが、裏使いであれば制電性能不足が生じる。また商品によっては、表裏の区別が
無いものもあり、太い導電性繊維が表に出てしまうこととなる。このことより極細の導電
性繊維が望まれるが、極細の導電性繊維は製造がかなり困難である。
【0004】
一方、特許文献2には、極細導電性繊維の製造方法が記載されており、芯鞘の島成分を
海成分が取り囲み、糸とした後に海成分を溶解除去して極細繊維としている。この場合、
島成分の芯層と鞘層、及び海成分と3種の樹脂を使用することとなる。特許文献2に具体
的に記載されている導電性繊維は、島成分の芯層が導電性カーボンブラック(以下、CB
と記す。)含有のポリアミド、鞘層がポリアミドで、海成分が2−エチルへキシルアクリ
レート共重合のポリスチレンであり、海成分の溶解には第一種有機溶剤であるトリクロー
ルエチレンが用いられている。第一種有機溶剤の使用は体に害をあたえるので有機溶剤の
廃棄設備が必要となる。
【0005】
また、特許文献2では溶解後の極細繊維は、芯層がCB含有のポリアミドで、鞘層がポ
リアミドの極細導電性繊維となる。この極細導電性繊維を人工皮革、例えばコート等に使
用する場合、ナイロンの耐光性の悪さより、屋外等で長時間使用すると、極細導電性繊維
の強度劣化が起こり、その性能を低下させる。
【0006】
さらに、導電性能を出す為に樹脂の中にCBを含有せしめるが、同等の導電性を出す為
のCBの含有量は樹脂によって異なる。ポリアミドとポリエステルを比較すると、ポリア
ミドはポリエステルの4割程度多くCBを入れなければならず、その為特許文献2の如き
CB含有ポリアミドは紡糸時の流動性が劣り、製造が更に困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−176896号公報
【特許文献2】特開昭57−143525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の問題を解決し、人工皮革に使用したときに風合いを損なわずに
かつ制電特性も充分付与できる導電性複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、本発明にたどり着いた。すなわち、本発明の目的は、ポ
リエステル系海島繊維であり、島成分は、その直径が9.0μ以下で、芯鞘構造をしてお
り、該芯部は導電性カーボンブラック(CB)を含有した、イソフタル酸5〜30mol
%または平均分子量300〜4000のポリアルキレングリコール2〜10質量%を共重
合したコポリエステルであり、該鞘部は導電性カーボンブラック(CB)を含まないポリ
エステルであり、該複数の島成分を海成分にて取り囲んでおり、海成分は1〜5mol%
の金属スルホネート基含有イソフタル酸と、平均分子量が1000〜10000のポリア
ルキレングリコール7〜13質量%とを共重合したコポリエステルよりなることを特徴と
する導電性複合繊維によって達成される。
【0010】
また、本発明の導電性複合繊維において、電気抵抗値が1.0×1010Ω/cm未満
であることが好適である。
また、本発明の導電性複合繊維において、芯部に含有される導電性カーボンブラック(
CB)が10〜50質量%であることが好適である。
また、本発明の導電性複合繊維において、島成分の芯鞘の体積比率が1:20〜3:1
であることが好適である。
また、本発明の導電性複合繊維において、海成分と島成分との体積比率が1:9〜5:
5であることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の導電性複合繊維は、アルカリ減量を行い、極細の芯鞘型導電性繊維とすること
により、ポリエステル系人工皮革に混用したとき、人工皮革の風合いを損なわずに、かつ
制電性能を発揮することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の導電性複合繊維の一実施態様を示す説明図である。
【0013】
【図2】図1記載の導電性複合繊維の海成分を減量除去した後の芯鞘型極細導電性繊維を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明は、アルカリ減量することにより極細導電性繊維となるポリエステル系導電性複
合繊維である。
【0016】
極細導電性繊維となる、島成分は極細繊維人工皮革に用いる為に、9.0μm以下、望
ましくは8.0μm以下の直径とする。島成分の直径が9.0μmより大きいと、人工皮
革用の極細ポリエステル繊維にブレンドし、人工皮革とした場合、その繊維の太さの為に
、手触り、風合いを悪くしてしまう。
【0017】
島成分の芯部はCBを含有したイソフタル酸5〜30mol%または平均分子量300
〜4000のポリアルキレングリコール2〜10質量%を共重合したコポリエステルであ
る。
【0018】
CBとしては、一般的にファーネスブラック、アセチレンブラック等が知られている。
CBの含有量は10〜50質量%が好ましく、20〜30質量%がより好ましい。
CBを樹脂に含有せしめる方法は特に限定されないが、一般的に2軸混練機で混練する
方法等が知られている。
【0019】
一方、芯部の樹脂において、イソフタル酸を共重合する場合、イソフタル酸共重合比率
が30mol%を超えると、マトリックス樹脂が非晶性となり、CBの混練が困難となる
。また、イソフタル酸共重合比率が5mol%より少ないと、結晶性が高くなり、混練時
の溶融温度を上げなければならず、樹脂劣化を促進すると共にその樹脂の流動性が非常に
悪いものとなり、紡糸操業性を極端に悪くする。
【0020】
また、ポリアルキレングリコールを共重合する場合、ポリアルキレングリコールの共重
合比率が10質量%を超えると、非晶性となり、CBの混練が極端に困難となる。ポリア
ルキレングリコールの共重合比率が2質量%より少ないと結晶性が高くなり、混練時の溶
融温度を上げなければならず、樹脂劣化を促進すると共にその樹脂の流動性が非常に悪い
ものとなり、紡糸操業性を極端に悪くする。
また、ポリアルキレングリコールは一般式 HO(C2nO)mH(但し、n、mは
正の整数)で表されるもので、n=2のポリエチレングリコール(以下、PEGと記す)
が汎用的で最も好ましい。
【0021】
次に、島成分の鞘部は、CBを含まないポリエステルである。ポリエステルとしては、
ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタ
レート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートまたはこれら樹脂に第3
成分を共重合したポリエステル系樹脂等が挙げられる。
上記ポリエステルには、酸化チタン等の艶消し剤を含有させてもよい。
【0022】
島成分の芯鞘の体積比率は、1:20〜3:1が好ましく、2:1〜1:10が更に好
ましい。
【0023】
島成分を取り囲む形で形成される海成分のポリエステルは、1〜5mol%の金属スル
ホネート基含有イソフタル酸と平均含有量が1000〜10000のポリアルキレングリ
コール7〜13質量%とを共重合したコポリエステルである。
【0024】
金属スルホネート基含有イソフタル酸の共重合比率が1mol%未満であると、充分な
アルカリ溶解速度を得られない。共重合比率が5mol%より多いと、増粘、ゲル化が発
生し、紡糸操業性を著しく悪くする。
共重合の際使用する金属スルホネート基含有イソフタル酸成分は、例えば、5−金属ス
ルホイソフタル酸ジメチル(以下SIPMと記す)またはジメチル基をエチレングリコー
ルでエステル化させた化合物(以下SIPEと記す)等が挙げられる。SIPMを多量に
スラリー槽へ投入するとスラリー物性を悪化させることがあるのでSIPEを採用するの
が好ましい。
また、金属スルホネート基含有イソフタル酸中の金属はナトリウム、カリウム、リチウ
ム等が挙げられるが、最も好ましいのはナトリウムである。
【0025】
海成分に用いる樹脂中のポリアルキレングリコールの分子量が1000未満であると、
溶融紡糸時に加水分解が起こり易く、紡糸操業性を悪くする。また分子量が10000を
超えると、該ポリエステルの分子鎖中にポリアルキレングリコールが共重合され難く溶解
速度が劣る。
【0026】
また、海成分に用いる樹脂中のポリアルキレングリコール共重合比率が7質量%より少
ないと、該ポリエステルの分子鎖中、ポリアルキレングリコールの共重合割合が減り、溶
解速度が劣る。ポリアルキレングリコール共重合比率が13質量%より多いと、粘度低下
につながり、紡糸操業性を悪くする。
また、ポリアルキレングリコールは一般式 HO(C2nO)mH(但し、n、m
は正の整数)で表されるもので、n=2のポリエチレングリコール(以下、PEGと記す
)が汎用的で最も好ましい。
【0027】
海成分と島成分の体積比率は、1:9〜5:5が好ましく、2:8〜3:5が更に好ま
しい。
1本の海島繊維当たりの島部の数は、複数以上任意に設定できるが、3〜70が好まし
く、5〜50が特に好ましい。
【0028】
本発明の導電性複合繊維は、例えば、次のようにして製造する。すなわち、上記の3種
のポリエステル系樹脂を各々250〜300℃の押出機で溶解し、海島繊維の島成分が芯
鞘で、芯部が導電層セクションとなる口金のφ0.2〜0.5の孔より吐出しフィラメン
トとする。
吐出したフィラメントをエアーにて冷却し、油剤を付与し、600m〜1000mの速
度で巻き取り未延伸糸を得る。
【0029】
得られた未延伸糸を、Tg以上の熱をかけ2〜4倍延伸し、100〜180℃のプレー
トヒーターで熱セットし延伸糸を得る。
【0030】
得られた延伸糸を引き揃えて、例えば5mmにカットし、1〜7質量%のアルカリ溶液
にて海成分を溶解することにより、極細導電性繊維が得られる。
【0031】
得られた極細導電性短繊維を、例えば、直径3μm、繊維長5mmのポリエステル系極
細短繊維綿に、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは3〜20質量%混ぜ込み、不
織布とし、人工スエード調の加工を行う。
得られる人工スエード調の不織布は、風合いも良く、静電気も起こらず、埃も付きにく
いものとなる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0033】
電気抵抗:導電性複合繊維10cmでの抵抗値を測定し、1cm当たりの抵抗値にて表
す。
【0034】
制電性能:84デシテックス/24フィラメントの筒編みの7mmピッチに導電性複合
繊維を編み込み、海成分を完全にアルカリ溶液により溶解除去したものをJIS L−1
094摩擦帯電減衰測定法で評価し、その直後の帯電圧を示す。
【0035】
風合い:極細導電性繊維10質量%を、人工皮革用綿(ポリエチレンテレフタレートフ
ィラメント、繊維径3μm)に混ぜ込み、人工皮革にまで加工し、手触りを評価した。評
価結果は以下の通りとする。
○:導電性繊維の混在が分からない。×:導電繊維の混在がはっきり分かる。
【0036】
(実施例1)
イソフタル酸10mol%共重合ポリエチレンテレフタレートを用い、2軸混練機を使
用してCBを26質量%含有せしめ、島成分の芯部に使用する導電性樹脂とした(以下、
樹脂Aと記載)。ポリエチレンテレフタレート(以下、樹脂Bと記載)を島成分の鞘部に
使用した。海成分として金属スルホネート基含有イソフタル酸(金属:ナトリウム)2.
3mol%、平均分子量6000のポリアルキレングリコール(PEG)10質量%を共
重合したポリエチレンテレフタレート(以下、樹脂Cと記載)を用いた。
【0037】
樹脂A、樹脂B、樹脂Cを各々個別の押出機で280℃の熱をかけて溶融した。溶融し
た樹脂を芯部に樹脂A、鞘部に樹脂B、海成分に樹脂Cとなる37島の口金を通して、口
金の丸孔より吐出して糸条とした。吐出された糸を室温でのエアーにて冷却し、油剤をつ
けて800mにて巻き取り330デシテックス/24フィラメントの未延伸糸を得た。
巻き取られた未延伸糸を84℃の熱をかけ、3.0倍に延伸して、140℃の熱でセット
し、110デシテックス/24フィラメントの延伸糸を得た。
得られた糸の芯鞘比率は1:1、海島の比率は3:7であった。
得られた延伸糸を引き揃えて、5mmにカットし、2質量%のアルカリ溶液にて海成分
を溶解することにより、極細導電性繊維を得た。
得られた延伸糸の電気抵抗値、並びに筒編み減量品の摩擦帯電圧及び減量後の芯鞘糸の
直径を表1に記載する。
【0038】
(実施例2)
海島繊維の島成分の芯部に使用する導電性樹脂のマトリックス樹脂を、平均分子量60
0のポリアルキレングリコール(PEG)を4.8質量%共重合したポリエチレンテレフ
タレートとする以外は実施例1と同様にて延伸糸を得た。
結果を表1に記載する。
【0039】
(実施例3)
海島繊維の島成分の直径が9μmとなるように8島の口金を使用し、延伸糸307デシ
テックス/24フィラメントとした以外は実施例1と同様にて延伸糸を得た。
結果を表1に記載する。
【0040】
(比較例1)
海島繊維の島成分の芯部に使用する導電性樹脂のマトリックス樹脂を、ホモポリエチレ
ンテレフタレートとした以外は実施例1と同様に紡糸したが、芯部の流動性が不足してお
り、糸を形成することが出来なかった。
【0041】
(比較例2)
海島繊維の島成分の芯部に使用する導電性樹脂のマトリックス樹脂のイソフタル酸共重
合比率を35mol%とした結果、マトリックス樹脂が非晶性である為、CBを含有させ
ることが出来なかった。
【0042】
(比較例3)
海島繊維の島成分の芯部に使用する導電性樹脂のマトリックス樹脂を、平均分子量60
0のポリアルキレングリコールを1mol%共重合したポリエチレンテレフタレートとし
た以外は実施例1と同様に紡糸したが、芯成分の流動性が不足しており、糸を形成するこ
とが出来なかった。
【0043】
(比較例4)
芯部にCBを含有せしめないポリエチレンテレフタレートとした以外は実施例1と同様
に紡糸したが、摩擦帯電圧は高いものとなった。
結果を表1に記載する。
【0044】
(比較例5)
海成分にホモポリエチレンテレフタレートを使用した以外は実施例1と同様に紡糸した
が、海成分が減量する条件にて減量すると鞘成分まで減量されてしまい、マイクロファイ
バー化出来なかった。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の導電性複合繊維は、スエード調人工皮革に利用でき、その静電気を抑えること
が出来る。
【符号の説明】
【0047】
A CB含有の樹脂からなる芯部
B 鞘部
C 海成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系海島繊維であって、島成分は、その直径が9.0μm以下で、芯鞘構造を
しており、該芯部は導電性カーボンブラックを含有した、イソフタル酸5〜30mol%
または平均分子量300〜4000のポリアルキレングリコール2〜10質量%を共重合
したコポリエステルであり、該鞘部は導電性カーボンブラックを含まないポリエステルで
あり、該複数の島成分を海成分にて取り囲んでおり、海成分は1〜5mol%の金属スル
ホネート基含有イソフタル酸と、平均分子量が1000〜10000のポリアルキレング
リコール7〜13質量%とを共重合したコポリエステルよりなることを特徴とする導電性
複合繊維。
【請求項2】
電気抵抗値が1.0×1010Ω/cm未満である請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項3】
芯部に含有される導電性カーボンブラックが10〜50質量%である請求項1記載の導電
性複合繊維。
【請求項4】
島成分の芯鞘の体積比率が1:20〜3:1である請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項5】
海成分と島成分との体積比率が1:9〜5:5である請求項1記載の導電性複合繊維。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−208320(P2011−208320A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77543(P2010−77543)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】