説明

導電性転がり軸受

【課題】転がり軸受内に導電性グリースを封入しなくても充分な導電性が経時的な安定性をもって得られる導電性転がり軸受にすることである。
【解決手段】内輪1と外輪2の間に複数の鋼球製の転動体3を回転自在に保持する保持器4を有する転がり軸受であり、その保持器4、転動体3、内輪1および外輪2の表面に膨張化黒鉛を含有する導電性樹脂皮膜1a、2a、3a、4aを形成した導電性転がり軸受である。膨張化黒鉛は、樹脂バインダーに混合し、適量の溶剤を配合して軸受部品の表面に導電性樹脂皮膜を形成する。膨張化黒鉛による優れた導電性と固体潤滑作用が、効率よく発揮され、充分な導電性の効果が経時的な安定性をもって奏される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、静電転写複写機などの回転部品の支持に用いられ、静電気を放電可能な導電性を有する導電性転がり軸受、静電転写複写機用導電性転がり軸受、静電転写複写機の定着ローラ用導電性転がり軸受および導電性転がり軸受の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、デジタルPPCやカラーPPCなどの静電転写複写機や、レーザービームプリンタやカラーLED方式のプリンタといった電子写真プロセス機器においては、回転部品の支持に放電機構が設けられている。
【0003】
例えば静電転写複写機の場合の機構としては、感光ドラム上に静電潜像を形成してトナーを付着させ、感光ドラム上に形成された可視像を印字紙に転写電極の帯電によって転写し、感光ドラムから離脱させた印字紙は、次いで定着部ロールに送られ、加熱および加圧によってトナーが紙面に定着する。そのような印字過程中に、印字紙が接触通過した例えば定着部ロールなどの部品には静電気が発生する。
【0004】
この静電気を外部に逃がす手段として一般的にはロール軸端をアースして放電する機構が設けられている。
但し、ロール軸端に静電気の放電機構を設けると部品点数が増えるので、ロール軸受自体に導電性を持たせた導電性軸受(通電軸受とも別称される。)を用いることで、部品点数の削減を図っている。
【0005】
従来の導電性軸受には、軸受内部に導電性グリースを封入したもの(特許文献1)、または軸受に通電シールや通電部材を装着したものが周知である。
【0006】
また、内輪の内径面または外輪外径面に、導電性と低摩擦摺動性を有する黒鉛(グラファイト)皮膜を形成することにより、回転部材の軸部と内輪を導通させた転がり軸受が知られている(特許文献2)。内輪内径面または外輪外径面への被膜の形成方法としては、蒸着や樹脂分散液を用いたディッピング等によるコーティング等が採用される。
【0007】
【特許文献1】特開2002−053890号公報
【特許文献2】特開2008−008452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記した従来の導電性グリースを封入した導電性転がり軸受では、導電性を示す軸受抵抗値の経時変化が不安定であり、経時的に安定して低い導電性が得られないという問題点がある。
【0009】
例えば導電性カーボンを配合した導電性グリースを封入した転がり軸受(小径玉軸受)を常温下で軸受荷重12.3N、130回転/分で使用すると、1時間程度の使用後には抵抗値が不安定になる(図7参照)。
【0010】
また、上記した従来の黒鉛(グラファイト)皮膜を形成した転がり軸受は、締まり嵌めされる外輪または内輪について黒鉛皮膜が導電性を発揮するが、転動体と内・外輪の導通性については導電性グリースを用いなければ、充分な導電性が得られず、そのために従来の導電性グリースによる電導性の欠点が現れ、すなわち低い軸受抵抗の経時的な安定性が得られなかった。
【0011】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、転がり軸受内に導電性グリースを封入しなくても低回転トルクであると共に充分な導電性が経時的な安定性をもって得られる導電性転がり軸受にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明においては、内輪と外輪の間に複数の転動体を回転自在に保持器で保持した転がり軸受において、前記保持器若しくは転動体または両部品の表面に、膨張化黒鉛を含有する導電性樹脂皮膜を設けたことを特徴とする導電性転がり軸受としたのである。
【0013】
上記したように構成されるこの発明の導電性転がり軸受は、保持器若しくは転動体または両部品の表面に、膨張化黒鉛を含有する導電性樹脂皮膜を設けたので、保持器と転動体との摺接によって微粉状の膨張化黒鉛が充分な量で転がり軸受の部品間に速やかに供給される。
【0014】
膨張化黒鉛は、炭素網平面間に硫酸や硝酸などの揮発性異分子を挿入した後にこれらを加熱等によりガス化させ、その際に発生するガスの圧力で黒鉛の層間を広げてC軸方向に膨張させたものであり、膨張後、水洗等により硫酸イオンや硝酸イオンなどの残差イオン成分の洗浄除去および乾燥工程を経て製造される。このような膨張化黒鉛は、膨張化黒鉛同士の密着性に優れることからバインダーを伴わなくても圧縮力により賦形でき、膨張化黒鉛粒子間の抵抗ロスが少なく、優れた導電性を発揮すると共に固体潤滑作用も発揮できるものである。樹脂中に分散させた場合にも固体潤滑作用と、膨張化黒鉛同士の連結性による優れた導電性とを良好に発揮する。
【0015】
そのため、膨張化黒鉛を含有する導電性樹脂皮膜を保持器若しくは転動体または両部品の表面に形成したこの発明の導電性転がり軸受は、導電性グリースを封入しなくても低回転トルクであると共に充分な導電性が経時的な安定性をもって得られる導電性転がり軸受になる。
【0016】
このような膨張化黒鉛による固体潤滑および導電作用が、確実に得られるように、複数の転動体のうち、少なくとも1以上の転動体の表面に導電性樹脂皮膜を設けた導電性転がり軸受とすることが好ましい。転動体の表面は、転がり軸受の回転に伴って保持器と摺接し、内・外輪とは転がり摩擦接触する頻度の高い部分であり、始動時から充分な量の膨張化黒鉛粉末が供給されて導電性と固体潤滑性が発揮できるものになる。
【0017】
このような転動体は、鋼球で形成されたものであれば、転動体の表面の導電性樹脂皮膜が摩耗して、たとえ基材が露出しても導電性を維持することができるため、耐久性の良い導電性転がり軸受になる。
【0018】
また、上記したように保持器若しくは転動体または両部品の表面に、膨張化黒鉛を含有する導電性樹脂皮膜を形成すると共に、内輪もしくは外輪または両部品の表面に膨張化黒鉛を含有する導電性樹脂皮膜を形成した導電性転がり軸受とすることも好ましい。
なぜなら、膨張化黒鉛は、転動体と保持器が接触した際に、摺動摩擦により保持器若しくは転動体または両部品の表面から削粉状となって軸受内の要所に速やかに供給されるが、転動体と内・外輪との転がり摩擦による接触によっても安定して所定量の膨張化黒鉛が供給されるので、長時間の安定した導電性と固体潤滑性を維持できるようになるからである。
【0019】
また、内輪もしくは外輪または両部品の基材が、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂である導電性転がり軸受であれば、鋼製の内・外輪に比べて軽量であり、かつカーボンブラックなどの導電剤を効率よく分散して保持できるものであるから、転動体の表面や保持器表面の導電性樹脂皮膜が摩耗して基材が露出しても、転動体と内・外輪との接触により膨張化黒鉛粉末が生成して導電性を維持することができ、また内・外輪自体の導電性によって、耐久性の良い導電性転がり軸受になる。内輪もしくは外輪または両部品の基材としての導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂の代表例としては、導電性ポリフェニレンスルフィド樹脂を挙げることができる。
【0020】
また、上記したいずれかの導電性転がり軸受は、適性用途に使用されることによって、特に有利な効果を発揮できるものであり、静電転写複写機の回転部品の軸を支持する静電転写複写機用導電性転がり軸受は、充分な導電性が経時的な安定性をもって発揮されることにより、確実に静電気を回転部品外に放電して帯電による静電転写の不適正を防止することができる。特に静電転写複写機の回転部材として定着ローラを支持する上記した構成の静電転写複写機用導電性転がり軸受は、印字画像の安定化に有効である。
【0021】
そして、このような構成の導電性転がり軸受の製造方法について一例として挙げれば、上記の導電性転がり軸受の保持器若しくは1以上の転動体または両部品を、膨張化黒鉛、樹脂バインダーおよび溶剤の混合液に浸漬し、次いで前記混合液から取り出し、これら部品表面に形成された塗膜を乾燥することにより、固定された導電性樹脂皮膜を形成し、得られた部品を組み付ければ、導電性グリースを封入しなくても充分な導電性が経時的な安定性をもって得られる優れた導電性転がり軸受を製造することができる。
【0022】
また、上記の導電性転がり軸受製造方法において一例として挙げれば、保持器若しくは1以上の転動体または両部品に加えて、内輪もしくは外輪または両部品を膨張化黒鉛、樹脂バインダーおよび溶剤の混合液に浸漬し、次いで前記混合液から取り出したこれら部品表面の塗膜を乾燥して導電性樹脂皮膜を形成し、得られた導電性部品を組み付ければ、さらに導電性について優れた耐久性があり、導電性グリースを封入しなくても充分な導電性が経時的な安定性をもって得られる優れた導電性転がり軸受を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、保持器若しくは転動体または両部品の表面に、膨張化黒鉛を含有する導電性樹脂皮膜を形成した導電性転がり軸受としたので、膨張化黒鉛による優れた導電性と固体潤滑作用が、効率よく発揮され、転がり軸受内に導電性グリースを封入しなくても充分な導電性が経時的な安定性をもって得られる導電性転がり軸受になる。
【0024】
また、静電転写複写機の回転部品の軸を支持する静電転写複写機用導電性転がり軸受は、確実に静電気を回転部品外に放電して帯電による静電転写の不適正を防止することができる。特に静電転写複写機の回転部材として定着ローラを支持する上記した構成の静電転写複写機用導電性転がり軸受は、印字画像の安定化に有効である。
【0025】
また、製造法の一例として挙げれば、導電性転がり軸受の保持器若しくは1以上の転動体または両部品を、膨張化黒鉛、樹脂バインダーおよび溶剤の混合液に浸漬し、乾燥して固定された導電性樹脂皮膜を形成し、得られた部品を組み付ければ、導電性グリースを封入しなくても充分な導電性が経時的な安定性をもって得られる優れた導電性転がり軸受を製造することができる。
【0026】
また、製造法の一例として挙げれば、保持器若しくは1以上の転動体または両部品に加えて、内輪もしくは外輪または両部品を膨張化黒鉛、樹脂バインダーおよび溶剤の混合液に浸漬し、これら部品表面の塗膜を乾燥して導電性樹脂皮膜を形成し、導電性部品を組み付ければ、さらに導電性について優れた耐久性があり、導電性グリースを封入しなくても充分な導電性が経時的な安定性をもって得られる優れた導電性転がり軸受を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1および図2に示すように、実施形態は、内輪1と外輪2の間に複数の鋼球製の転動体3を回転自在に保持する保持器4を有する転がり軸受であり、その保持器4、転動体3、内輪1および外輪2の表面に膨張化黒鉛を含有する導電性樹脂皮膜1a、2a、3a、4aを形成した導電性転がり軸受である。
【0028】
図1に示した導電性樹脂皮膜1a、2a、3a、4aに配合される膨張化黒鉛は、黒鉛の結晶層間にインターカレートした硫酸などの化合物を熱分解し、層間を広げてC軸方向に膨張させたものである。
【0029】
膨張化黒鉛は、単に膨張黒鉛とも称され、通常の黒鉛の結晶層構造を形成する六角網平面の間隔(0.3354nm=3.354Å)を、熱膨張によって積極的に広げた黒鉛(グラファイト)であるが、層間が広げられた分だけ層間を結合しているπ電子層によるファンデルワールス(van der Waals)力が弱められ、層間はせん断されやすく、層間の滑りで低摩擦特性を組成物に付与し、かつ良好な導電性を発揮する。
【0030】
膨張化黒鉛は、例えば、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、熱分解黒鉛等の高度に結晶化した黒鉛を、硫酸、硝酸、硫酸と硝酸との混液等に過酸化水素を添加した処理液で処理した後、急速加熱して、黒鉛結晶のC軸方向を膨張処理して得られる。具体的な製法は、通常、天然黒鉛粉末を濃硫酸や濃硝酸などの強酸で湿式酸化し、これを800℃以上、好ましくは1000℃程度の高温に急加熱することにより、結晶層間隔を膨張させることにより製造できる。このようにして製造された膨張化黒鉛には、通常、腐食性の高い硫酸イオンや硝酸イオン等の残差イオン分が存在するため、水洗等により洗浄・除去される。膨張化黒鉛の市販品としては、日本黒鉛社製EP、日本黒鉛社製KEX等が挙げられる。
【0031】
このような膨張化黒鉛は、粉末化された状態のものを用いるが、その平均粒径は、1〜10μmのものが、樹脂への均一分散性および導電性および潤滑性の充分な発揮の観点から好ましく、より好ましくは3〜7μmである。
【0032】
粉状の膨張化黒鉛に適量の樹脂バインダーを結着材として配合して混合した後、軸受部品の表面に導電性黒鉛皮膜として形成する。皮膜形成法としては、ディッピング(浸漬)、塗布、スプレー噴霧等によるコーティング、その他周知の被膜形成方法を採用でき、皮膜形成方法に合わせて、水や溶剤などの溶媒を用いて、上記皮膜組成を配合した分散溶液とすることができる。
なお必要に応じて、更に溶剤に可溶なイオン性液体などの液状添加剤を添加することで、導電性の向上、導電性の安定性向上、静粛性向上等を行うこともできる。
【0033】
使用する樹脂バインダーとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電磁波や放射線による硬化性樹脂などのいずれでもよく、例えば、ポリウレタン、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、エチレン/酢酸ビニル共重合体、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂や、ポリビニリデンジフルオロライド樹脂等のフッ素樹脂、ケトン系、エステル系などの溶剤に可溶なフッ素樹脂であるポリビニリデンフルオロライド樹脂やテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオロライド共重合体等があげられる。膨張化黒鉛粒子の比重は、通常の有機溶剤や水と比べると大きく、これらの液中では沈降し易いため、特に溶剤に可溶な樹脂を用いることが、上記分散液中での膨張化黒鉛/樹脂の均質な分散性および樹脂分による結着性を確保する面で好ましい。
【0034】
皮膜組成として、膨張化黒鉛と樹脂バインダーの体積比は、膨張化黒鉛:樹脂バインダーとした場合、10:1〜25:1である。溶剤量にて塗膜形成方法に適した粘度に調整できる。例えば浸漬塗布(ディッピング)の場合、上記皮膜成分に対して4〜10倍程度に希釈する。膨張化黒鉛と樹脂バインダーの体積比が所定範囲未満では、潤滑性および導電性が不充分になり、所定量を越える多量では、被膜の結着材としての役割を担うバインダー樹脂が相対的に少なくなるため、被母材への密着強度が低下して好ましくないからである。
【0035】
これらの樹脂の溶剤としては、樹脂に応じてアルコールやケトン系、エステル系溶剤などを選択して使用することができる。
【0036】
導電性樹脂皮膜の塗布量は、1〜4mg/cmの範囲が好ましい。前記範囲を超える塗布量では、転がり軸受としての剛性、強度、精度などに問題を生じる恐れがあり、1〜4mg/cm未満の塗布量では、潤滑性や導電性の耐久性が充分ではないからである。
【0037】
この発明の転がり軸受の内・外輪、保持器、転動体の基材としては、周知の軸受用金属材料を用いることができる他、内輪もしくは外輪または両部品の基材が、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂を採用することもできる。金属材料の具体例としては、軸受鋼(高炭素クロム軸受鋼JISG4805)、肌焼鋼(JISG4104等)、高速度鋼(AMS6490)、ステンレス鋼(JISG4303)、高周波焼入鋼(JISG4051等)が挙げられる。
【0038】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂は、芳香族基がチオエーテル結合で連結された構造を有する周知の樹脂であり、たとえばポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と略称する)等が代表例として挙げられる。因みに、PPS樹脂は、芳香族基がチオエーテル結合で連結された繰り返し単位構造を有する。
【0039】
図1、2に示すように、上述のようにして製造される導電性転がり軸受は、静電画像形成装置の定着装置に適用される。定着ローラ5は、線状ないし棒状のヒータ6を軸心部に内蔵した軟質の金属製であり、両端に小径軸部5aが突出した円筒状に形成されている。
【0040】
定着ローラ5は、アルミニウム、またはアルミニウム合金(A5056、A6063等)等の熱伝導性に優れた金属材料からなり、旋削や研磨等で表面が仕上げられ、表面にはフッ素樹脂等の非粘着性の高い樹脂がコーティングしてある。定着ローラ5は、両端の小径軸部5aで深溝玉軸受からなる導電性転がり軸受7を介してハウジング8に回転自在に支持され、別途端部には回転動力を受けるギヤ(図示せず。)が設けられている。
【0041】
また、定着ローラ5に接して平行に加圧ローラ(図示せず。)が設けられており、その両端にも導電性転がり軸受を介してハウジング8に回転自在に支持することが好ましい。
加圧ローラは、鉄やアルミニウム等の芯金上にシリコンゴム等の被覆を設けたものが代表的であるが、定着ローラと同じように加圧ローラの軸心部に線状または棒状ヒータを内蔵し、両端の軸受に導電性転がり軸受で支持するものもある。
【0042】
コピー紙は、回転駆動される定着ローラ5と従動する加圧ローラとの間で送られながら、定着ローラ5による加熱融着でトナー像が定着処理される。
そのため、導電性転がり軸受をローラ支持用に装着した静電画像形成装置は、帯電せず静電画像の画像を乱さないようになり、そのような静電画像形成装置を備えた定着装置が、画像定着機能を経時的に安定して良好な状態で発揮できるようになる。
【実施例】
【0043】
[実施例1]
小径玉軸受(内径30mm×外径42mm×幅7mm)の保持器に、膨張化黒鉛を含有する導電性樹脂皮膜(皮膜組成として膨張化黒鉛:樹脂バインダー=10:1〜25:1)を塗布量として2mg/cm設けた。
膨張化黒鉛は、日本黒鉛工業社製のものを使用し、得られた導電性転がり軸受について、内輪の内径面と外輪の外径面の間の電気抵抗値を経時的に測定し、その結果を図3および表1中に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
[実施例2]
実施例1において、転動体として通常の黒鉛粉末をコーティングした鋼球を1つ用いたこと以外は、全く同様にして導電性転がり軸受を製造し、実施例1と同様に電気抵抗値を測定し、その結果を図4および表1中に併記した。
【0046】
[実施例3]
実施例1において、内輪として導電性PPS樹脂(PPS樹脂に導電性カーボンブラック30重量%を含有する樹脂素材、抵抗値2.2×10Ω・cm)で旋削加工されたものを使用したこと以外は、全く同様にして導電性転がり軸受を製造し、実施例1と同様に電気抵抗値を測定し、その結果を図5および表1中に併記した。
【0047】
[実施例4]
実施例3において、転動体として通常の黒鉛粉末をコーティングした鋼球を1つ用いたこと以外は、全く同様にして導電性転がり軸受を製造し、上記実施例と同様に電気抵抗値を測定し、その結果を図6および表1中に併記した。
【0048】
[比較例1]
ポリαオレフィン油を基油とする潤滑グリース70重量%に導電性カーボン30重量%を配合したものを導電性グリースとし、実施例1と同型に軸受鋼で形成された小径玉軸受に封入し、内輪の内径面と外輪の外径面の間の電気抵抗値を測定し、常温下で軸受荷重12.3N、130回転/分で回転させた結果を図7に示した。
【0049】
比較例1の結果からも明らかなように、導電性グリースを使用した比較例の導電性転がり軸受は、1時間程度の使用後には抵抗値が不安定になり、最大30Ωの軸受抵抗値を示した。
【0050】
一方、表1および図3〜6の結果からも明らかなように、実施例1〜4の導電性転がり軸受は、導電性グリースを封入しなくても軸受抵抗値が4.8〜11.8kΩという充分に低い値であり、良好な導電性が経時的な安定性をもって得られていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施形態の導電性転がり軸受および定着ローラの要部断面図
【図2】実施形態の定着ローラの断面図
【図3】実施例1の導電性転がり軸受の抵抗値と時間の関係を示す図表
【図4】実施例2の導電性転がり軸受の抵抗値と時間の関係を示す図表
【図5】実施例3の導電性転がり軸受の抵抗値と時間の関係を示す図表
【図6】実施例4の導電性転がり軸受の抵抗値と時間の関係を示す図表
【図7】比較例1の導電性転がり軸受の抵抗値と時間の関係を示す図表
【符号の説明】
【0052】
1 内輪
1a、2a、3a、4a 導電性樹脂皮膜
2 外輪
3 転動体
4 保持器
5 定着ローラ
5a 小径軸部
6 ヒータ
7 導電性転がり軸受
8 ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪の間に複数の転動体を回転自在に保持器で保持した転がり軸受において、
前記保持器若しくは転動体または両部品の表面に、膨張化黒鉛を含有する導電性樹脂皮膜を設けたことを特徴とする導電性転がり軸受。
【請求項2】
複数の転動体のうち、1以上の転動体の表面に導電性樹脂皮膜を設けた請求項1に記載の導電性転がり軸受。
【請求項3】
転動体が、鋼球である請求項1または2に記載の導電性転がり軸受。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の導電性転がり軸受において、
内輪もしくは外輪または両部品の表面に膨張化黒鉛を含有する導電性樹脂皮膜を形成したことを特徴とする導電性転がり軸受。
【請求項5】
内輪もしくは外輪または両部品の基材が、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載の導電性転がり軸受。
【請求項6】
導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂が、導電性ポリフェニレンスルフィド樹脂である請求項5に記載の導電性転がり軸受。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の導電性転がり軸受からなり、静電転写複写機の回転部品の軸を支持する静電転写複写機用導電性転がり軸受。
【請求項8】
静電転写複写機の回転部品が定着ローラである請求項7に記載の静電転写複写機用導電性転がり軸受。
【請求項9】
内輪と外輪の間に複数の転動体を回転自在に保持器で保持した転がり軸受の保持器若しくは1以上の転動体または両部品を、膨張化黒鉛、樹脂バインダーおよび溶剤の混合液に浸漬し、次いで前記混合液から取り出し、これら部品表面に形成された塗膜を乾燥して導電性樹脂皮膜を形成し、得られた部品を組み付ける導電性転がり軸受の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の導電性転がり軸受製造方法において、保持器若しくは1以上の転動体または両部品と共に、内輪もしくは外輪または両部品を膨張化黒鉛、樹脂バインダーおよび溶剤の混合液に浸漬し、次いで前記混合液から取り出したこれら部品表面の塗膜を乾燥して導電性樹脂皮膜を形成し、得られた導電性部品を組み付ける導電性転がり軸受の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−151214(P2010−151214A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329395(P2008−329395)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】