説明

導電性部材、プロセスカートリッジおよび電子写真装置

【課題】長時間の通電耐久性に優れた導電性部材を提供する。
【解決手段】導電性の軸芯体と導電層とを有し、該導電層は、バインダー樹脂と該バインダー樹脂中に分散されている導電性の金属酸化物粒子とを含み、該金属酸化物粒子は下記構造式(1)で示される基を表面に有し、該構造式(1)で示される基は、金属酸化物粒子由来の表面官能基である水酸基の水素原子を、下記構造式(1)で示される基で置換することによって導入されてなるものである導電性部材。構造式(1)中、Rは、炭素数1〜4の2価の飽和炭化水素基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真装置に用いられる導電性部材およびこれを用いたプロセスカートリッジ等に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置に用いられる導電性ローラに代表される導電性部材は、一般に導電性の軸芯体と、その外周に設けられた導電層とを有している。そして、該導電層は通常、バインダー樹脂と該バインダー樹脂に分散されている導電剤とを含有している。ここで、導電層の電気抵抗を比較的容易に下げることができる導電剤として、導電性の金属酸化物粒子等の電子導電剤が知られている。しかしながら、電子導電剤で導電化した導電層は、当該導電層中における電子導電剤の分散状態によって電気抵抗が大きく変動することがある。導電層の電気抵抗のバラツキを抑え、品質の安定した導電性部材を得るためには、導電層を構成するバインダー樹脂に対して良好な分散性を有する電子導電剤が求められていた。
特許文献1には、低抵抗で、樹脂への均一分散性に優れた無機粉末として、無機粉末の表面に、イオン導電性を有するスルホン酸基をシランカップリング処理にて導入した導電性の無機粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−7932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特許文献1に係る導電性の無機粉末を用いて導電化した導電層を備えた導電性部材について検討した。その結果、当該無機粉末は、バインダー樹脂への分散性に優れており、また、導電層の電気抵抗を安定化させる効果が認められた。しかしながら、当該導電性部材を帯電部材に用いて、長時間にわたって直流電圧を印加したところ、導電層の電気抵抗が経時的に上昇する場合があることを知見した。
【0005】
そこで本発明の目的は、長期に亘る直流電圧の印加によっても電気抵抗が変動しにくい導電性部材を提供することにある。また、本発明の他の目的は安定して高品位な電子写真画像を提供可能な電子写真装置およびプロセスカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、導電性の軸芯体と導電層とを有し、該導電層は、バインダー樹脂と該バインダー樹脂中に分散されている導電性の金属酸化物粒子とを含み、該金属酸化物粒子は下記構造式(1)で示される基を表面に有し、該構造式(1)で示される基は、金属酸化物粒子由来の表面官能基である水酸基の水素原子を下記構造式(1)で示される基で置換することによって導入されてなるものである導電性部材が提供される。
【0007】
【化1】

【0008】
(上記構造式(1)中、Rは、炭素数1〜4の2価の飽和炭化水素基を示す)。
【0009】
また、本発明によれば、上記の導電性部材を帯電部材および現像部材の少なくとも一方として備え、かつ、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジが提供される。更に、本発明によれば、上記の導電性部材を帯電部材および現像部材の少なくとも一方として備えている電子写真装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長時間に亘る直流電圧の印加によっても電気抵抗が変化し難い、耐久性に優れた導電性部材を得ることができる。また、本発明によれば、安定して高品位な電子写真画像を提供するプロセスカートリッジ及び電子写真装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】シランカップリング反応の作用機構の概略図である。
【図2】本発明に係る導電性部材の概略図である。
【図3】本発明に係る金属酸化物粒子を示す模式図である。
【図4】スルトンを用いたスルホン化反応機構の概略図である。
【図5】従来の方法でスルホン酸基を導入した金属酸化物粒子の説明図である。
【図6】本発明の方法でスルホン酸基を導入した金属酸化物粒子の説明図である。
【図7】電気抵抗の測定装置の概略図である。
【図8】本発明に係る電子写真装置の説明図である。
【図9】本発明に係るプロセスカートリッジの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者等は、上記特許文献1に係る導電性の無機粉末により導電化した導電層を備えた導電性部材が、長期に亘る直流電圧の印加によって電気抵抗が変動する機構について検討を重ねた。その結果、スルホン酸基等のイオン交換基をシランカップリング処理にて導入していることが一つの原因であることを見出した。
図1は、シランカップリング反応の作用機構の説明図である。シランカップリング剤のアルコキシル基は水中にて加水分解し、続いて、シラノール基間で脱水縮合が生じオリゴマー状シロキサンが生成する。生成したオリゴマー状シロキサンの水酸基の一部は、金属酸化物粒子の表面の水酸基と脱水縮合して共有結合を形成する。その結果、金属酸化物の表面にスルホン酸基が導入される。
しかしながら、シランカップリング剤のアルコキシル基が加水分解して生成したヒドロキシル基同士が縮合してオリゴマー状シロキサンを生成する反応と、当該ヒドロキシル基と金属酸化物表面の水酸基との反応は当初は競争的に進行すると考えられる。そして、シランカップリング剤のオリゴマー化が進行すると、当該オリゴマー化したシロキサンの分子運動性の相対的な低さゆえ、当該オリゴマー化したシロキサン中のヒドロキシル基と金属酸化物粒子表面の水酸基との反応が生じにくくなるものと考えられる。その結果、オリゴマー化したシロキサンは、金属酸化物粒子の表面には少ない数の共有結合で保持されることとなる。
具体的にいえば、図5に模式的に示したように、オリゴマー化したシロキサン51が、金属酸化物粒子52の表面に1本の共有結合によって結合されているような状態となる。すなわち、巨大分子が少ない数の共有結合によって金属酸化物粒子の表面にかろうじて止まっているといった状態が生じているものと想定される。そのため、長期に亘る直流電圧の印加により、オリゴマー化シロキサンと金属酸化物粒子との間の共有結合が切断され、スルホン酸基を有するオリゴマー化シロキサンが遊離することで、電気抵抗が変動するものと考えられる。
【0013】
これに対し、図3および図4に示したように、本発明に係る金属酸化物粒子31は、比較的サイズの小さい、下記構造式(1)で示される基を含む有機基32を表面に有している。そして、当該構造式(1)で示される基は、金属酸化物粒子が本来有している表面官能基としての水酸基の水素原子を置換することによって金属酸化物粒子に導入されたものである。
【0014】
【化2】

【0015】
(構造式(1)中、Rは、炭素数1〜4の2価の飽和炭化水素基を示す)。
そのため、長期に亘る直流電圧の印加によっても金属酸化物粒子からスルホン酸基が遊離しにくく、その結果として、かかる金属酸化物粒子で導電化された導電層は、電気抵抗の経時的な変化が少なくなるものと推定される。
【0016】
図2は、本発明に係る導電性ローラの軸に直交する方向の断面図である。導電性の軸芯体としての芯金21と、その外周に設けられた導電層22からなる。そして、導電層22は、スルホン酸基(−SO3H)が導入された導電性の金属酸化物粒子と、該金属酸化物粒子を分散しているバインダ−樹脂とを含有している。
【0017】
<金属酸化物粒子>
本発明に係る金属酸化物粒子は、表面に下記構造式(1)で示される基を有しており、この基は、金属酸化物粒子が本来表面官能基として有する水酸基の水素原子を下記構造式(1)で示される基で置換することによって導入されてなるものである。
【0018】
【化3】

【0019】
(構造式(1)中、Rは、炭素数1〜4の2価の飽和炭化水素基を示す)。
【0020】
図3は、スルホン酸基を導入した金属酸化物粒子を示す模式図である。金属酸化物粒子31の表面の金属酸化物粒子由来の水酸基の水素原子がスルホン酸基で置換された状態が表されている。
【0021】
金属酸化物粒子は、本来的に表面に水酸基を有する金属酸化物粒子である。このような金属酸化物粒子の具体例としては、Si、Mg、Al、Ti、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sn及びZnの酸化物を含む粒子が挙げられる。より具体的には以下の金属酸化物の粒子が挙げられる。シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、アルミナゾル、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化クロム等の球状、あるいは針状の粒子、ケイ酸塩鉱物、リン酸塩鉱物、チタン酸塩鉱物、マンガン酸塩鉱物、ニオブ酸塩鉱等の層状粘土鉱物、多孔質酸化チタン、ゼオライト、メソポーラスシリカ、多孔質アルミナ、多孔質シリカアルミナ、珪藻土等。
【0022】
本発明において、金属酸化物粒子表面の水酸基の量は、イオン導電性に影響を及ぼす。スルホン基は、金属酸化物粒子表面に存在する水酸基との置換によって導入されるため、表面の水酸基の数が多い金属酸化物粒子ほどよい。表面の水酸基の数が相対的に多い金属酸化物の例としては、シリカ、酸化チタン等が挙げられる。
【0023】
シリカの具体例としては、フュームドシリカ、コロイダルシリカ、沈降シリカ、結晶シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ等が挙げられる。酸化チタンの具体例としては、チタニアゾル等が挙げられる。
【0024】
層状粘土鉱物としては、ケイ酸塩鉱物等が挙げられ、具体例としては、以下のものが挙げられる。雲母族(白雲母、黒雲母、鉄雲母、金雲母、白水雲母、ソーダ雲母、シデロフィライト、イーストナイト、ポリリシオ雲母、トリリシオ雲母、リチア雲母、チンワルド雲母、マーガライト、イライト、海縁石)、スメクタイト族(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティブンサイト、タルク)、カオリン族(カオリナイト、ハロイサイト)、バーミキュライト、マガディアイト、カネマイト、ケニヤアイト等。中でも、モンモリロナイト、マガディアイト、カネマイト、ケニヤアイトが特に好ましい。
【0025】
またいずれの金属酸化物粒子も、必要に応じて、UV処理、水熱処理等を行い、表面の水酸基量を増加させることもできる。金属酸化物粒子の形状としては、球状、棒状、針状、板状等、何れの形状のものでも用いることができる。更に、多孔質、無孔質を問わない。
【0026】
本発明において、金属酸化物粒子のレーザー回折/散乱法による粒度分布測定によって求まる平均粒径の目安としては、50nm以上、500nm以下である。このような範囲内とすることにより、スルホン酸基を導入した金属酸化物粒子をバインダー樹脂である合成ゴム等に配合する際の金属酸化物粒子同士の凝集をより確実に抑制することができる。また、金属酸化物粒子の単位質量あたりのスルホン酸基の導入量の減少による高抵抗値化を有効に抑制できる。
【0027】
<金属酸化物粒子の製造方法>
本発明に係る金属酸化物粒子の製造方法について述べる。
【0028】
金属酸化物粒子表面へのスルホン酸基の導入法としては、スルトンを用いたスルホン化、スルホン酸基を有するアルキルハロゲンと金属酸化物粒子表面の水酸基との求核置換反応等が挙げられる。
【0029】
図4は、スルトンを用いたスルホン化反応機構の概略である。金属酸化物粒子表面42の水酸基中の酸素原子は、スルトン41の酸素原子44に隣接する炭素原子に対して求核置換反応を起こし、その結果、表面にスルホン酸基を有する金属酸化物粒子が得られる。つまり、スルトンによるスルホン化反応では、金属酸化物粒子表面のひとつの水酸基に対して、ひとつのスルホン酸基が導入され、安定な共有結合が形成される。
【0030】
また、この反応ではオリゴマーは生成せず、一段階の反応で金属酸化物粒子表面にスルホン酸基を導入することができる。さらに、未反応のスルトンは、反応溶液中に溶解しており、スルホン酸基導入後、金属酸化物粒子の精製の際に、減圧濾過により取り除くことができる。つまり、合成した金属酸酸化物粒子をバインダー樹脂中に配合した場合でも、オリゴマー等の不純物が混合することがない。
【0031】
スルトンとしては、下記構造式(2)で表示されるスルトン化合物を使用できる。
【0032】
【化4】

【0033】
前記構造式(2)中、Rは、置換または非置換の炭素数1〜2のアルキレン基、または非置換の炭素数1〜2のアルケニレン基であり、Aは、−C(R’)(R”)−であり、R’とR”は、それぞれ独立に水素、または炭素数1〜2のアルキル基である。前記構造式(2)で表示されるスルトン化合物の例としては、下記構造式で表示される1,3−プロパンスルトン(A)、1,3−プロペンスルトン(B)、1,4−ブタンスルトン(C)、2,4−ブタンスルトン(D)等が挙げられる。
【0034】
【化5】

【0035】
上記スルトン化合物を付加してスルホン化反応を実施する。有機溶媒中で、分散させた金属酸化物粒子とスルトンを6〜24時間反応させることで、表面にスルホン酸基を導入した金属酸化物粒子を得ることができる。
【0036】
スルトンを用いたスルホン化反応で導入した金属酸化物粒子の場合、図6に示したように、金属(M)−O−C−という結合が存在する。一方、シランカップリング反応によりスルホン酸基が導入されてなる金属酸化物粒子の場合、図5に示すように、M−O−Si−C−という結合が存在する。このことから、スルホン酸基をシランカップリング反応により導入した金属酸化物粒子と、スルトンによるスルホン化反応により導入した本発明に係る金属酸化物粒子とは区別が可能である。つまり、金属酸化物表面の金属Mに化学結合した酸素原子(−M−O−C−)の有無を確認すればよい。手法としては、例えば、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)法と13C核磁気共鳴(13C−NMR)法を組み合わせることによって、前述の酸素原子の有無を確認できる。
【0037】
<導電層>
本発明において導電層は、バインダー樹脂を含み、このバインダー樹脂に前記導電性の金属酸化物粒子が分散されている。バインダー樹脂としては、公知のゴムまたは樹脂を使用することができ、特に限定されない。イオン導電性の観点から極性を有するゴムを使用することが好ましく、例えば、以下のものが挙げられる。エピクロルヒドリンホモポリマー、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル3元共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体の水素添加物、アクリルゴム及びウレタンゴム等。なお、これらの1種を用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
更に、本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じて、ゴムの配合剤として一般に用いられている充填剤、軟化剤、加工助剤、架橋助剤、架橋促進剤、架橋促進助剤、架橋遅延剤、粘着付与剤、分散剤、発泡剤等を添加することができる。
【0039】
導電剤として用いるスルホン酸基を導入した金属酸化物粒子の含有量としては、導電層の体積固有抵抗率が、電圧印加により電子写真感光体を帯電処理することができるように、1×10〜1×10Ω・cmの範囲に調整できる限りにおいて、特に限定されない。しかし、配合量の目安としては、バインダー樹脂100質量部に対して、0.5〜30質量部、特には、1〜10質量部である。
【0040】
バインダー樹脂と導電性の金属酸化物粒子との混合方法としては、バンバリーミキサーや加圧式ニーダーといった密閉型混合機を使用した混合方法や、オープンロールのような開放型の混合機を使用した混合方法を例示することができる。
【0041】
導電性部材が電子写真方式の画像形成装置に用いられる帯電部材(帯電ローラ)や現像部材(現像ローラ)である場合、導電性部材は、その最外部の感光体と接する部分が、トナーや外添剤の付着を防止する目的で、非粘着処理されていることが好ましい。導電性部材の構成は図2に示すように、芯金21とその外周に設けられた導電層22とからなる単層構成であっても、導電層22上に更に積層した2層構成であってもよい。更に中間層や接着層を何層か配置した多層構成であってもよい。最外部の非粘着処理としては、導電性部材の表面に電子線、紫外線、X線及びマイクロウェーブ等のエネルギー線を照射して表面を硬化し非粘着性とする方法がある。また、導電性部材の表面に、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン及びシリコーン樹脂等の非粘着性樹脂の表面層を形成することもできる。
【0042】
表面層を形成する場合には、その電気抵抗値として、体積固有抵抗率を1×10〜1×10Ω・cmとすることが好ましい。この場合、先述した非粘着性樹脂に対して、必要に応じて、下記のものを適当量分散させることにより、所望の電気抵抗値とすることができる。カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン及び酸化錫等の金属酸化物;銅、銀等の金属;酸化物や金属を粒子表面に被覆して導電性を付与した導電性粒子;LiClO4、KSCN、NaSCN及びLiCF3SO3等の無機イオン性電解質;第四級アンモニウム塩等。
【0043】
(電子写真装置)
図8は、本発明に係る導電性部材を帯電ローラとして用いた電子写真装置の概略図である。電子写真感光体301を帯電する帯電ローラ302、露光を行う潜像形成装置308、トナー像に現像する現像装置、転写材304に転写する転写装置305、電子写真感光体上の転写トナーを回収するクリーニング装置307、トナー像を定着する定着装置306などから構成される。電子写真感光体は、導電性基体上に感光層を有する回転ドラム型である。電子写真感光体は矢印の方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動される。
帯電ローラは、電子写真感光体に所定の力で押圧されることにより接触配置される。帯電ローラは、電子写真感光体の回転に従い従動回転し、帯電用電源313から所定の直流電圧を印加することにより、電子写真感光体を所定の電位に帯電する。一様に帯電された電子写真感光体には、画像情報に対応した光308を照射することにより、静電潜像が形成される。電子写真感光体に接触して配置されている現像ローラ303の表面には、現像剤供給ローラ311によって現像容器309内の現像剤315が供給される。その後、現像剤量規制部材310によって現像ローラの表面には、電子写真感光体の帯電電位と同極性に帯電された現像剤の層が形成される。この現像剤を用いて、反転現像により、電子写真感光体に形成された静電潜像を現像する。転写装置305は、接触式の転写ローラを有する。電子写真感光体からトナー像を普通紙などの転写材304に転写する。尚、転写材は、搬送部材を有する給紙システムにより搬送される。クリーニング装置307は、ブレード型のクリーニング部材、回収容器を有し、転写した後、電子写真感光体の上に残留する転写残トナーを機械的に掻き落として回収する。ここで、現像装置にて転写残トナーを回収する現像同時クリーニング方式を採用することにより、クリーニング装置を取り除くことも可能である。定着装置306は、加熱されたロール等で構成され、転写されたトナー像を転写材に定着し、機外に排出する。312および314は直流電源を示す。
(プロセスカートリッジ)
また、図9は本発明に係る導電性部材を帯電ローラ302に適用したプロセスカートリッジの概略断面図である。当該プロセスカートリッジは、図9に示すように、電子写真感光体301、帯電ローラ302、現像ローラ303、及び、クリーニング装置307などが一体化され、電子写真装置の本体に着脱可能なように構成されている。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0045】
〔導電剤の合成〕
本発明に係る導電剤である、スルホン酸基が導入された金属酸化物粒子の合成例1〜16および比較例2に用いる導電剤の合成例17を以下に示す。
【0046】
(合成例1)
原料の金属酸化物粒子として粒径100nmのシリカ(商品名:AEROSIL・150、AEROSIL社製)10.0gを用意した。1,3−プロパンスルトン3.0gを添加したトルエン溶液中に上記シリカを浸漬し、120℃で24時間還流した。反応後、10000rpmで15分間遠心分離を行い、上澄み液を除去後、メタノール中に分散させた。遠心分離による再沈殿とメタノールによる洗浄を行った。こうして、スルホン酸基が導入されたシリカを合成した。得られたシリカのスルホン酸基の含有量を、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR)を用いて算出した。その結果、スルホン酸基の含有量は、0.78mmol/gであった。
【0047】
(合成例2〜10)
表1に示す金属酸化物粒子及びスルトンを用いた以外は合成例1と同様にして、スルホン酸基が導入された金属酸化物粒子を作成した。得られた金属酸化物粒子の各々のスルホン酸基の含有量を表1に示す。
【0048】
(合成例11)
粒径100nmのシリカに対し、オートクレーブを用いて170℃で24時間の水熱処理を行い表面に水酸基を付加した。これにより得られたシリカを用いた以外は、合成例1と同様にしてスルホン酸基が導入されたシリカを作製した。シリカ粒子に導入されたスルホン酸基の量は、1.22mmol/gであった。
【0049】
(合成例12)
金属酸化物粒子として、BET比表面積が500m2/gのメソポーラスシリカを用いた以外は、合成例1と同様にして、スルホン酸基を導入した。合成したメソポーラスシリカのスルホン酸基の含有量は、0.84mmol/gであった。なお、メソポーラスシリカは、テトラエトキシシラン10.4g、塩酸(0.01M)5.4g、エタノール20g、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド3元共重合体[HO(CHCHO)20(CH(CH(CH)O)70(CHCHO)20H](商品名:Pluronic P−123、Aldrich社製)1.4gを1時間混合攪拌し、得られた粉末を回収後、400℃、4時間焼成することで合成した。
【0050】
(合成例13)
原料の金属酸化物粒子として、山形県の月布鉱山から産出されたモンモリロナイト10.0g、セチルトリメチルアンモニウム10.4gを500mlの水中で24時間攪拌した。反応後、10000rpmで15分間遠心分離を行い、上澄み液を除去後、メタノール中に分散させた。遠心分離による再沈殿とメタノールによる洗浄を行うことで、層間のナトリウムイオンをセチルトリメチルアンモニウムで置換した疎水性モンモリロナイトを作製した。
【0051】
得られた疎水性モンモリロナイト10.0gをトルエン中に分散させ、1,3−プロパンスルトン3.0gを添加後、120℃で24時間還流した。反応後、10000rpmで15分間遠心分離を行い、上澄み液を除去後、メタノール中に分散させた。遠心分離による再沈殿とメタノールによる洗浄を行うことで、端面にスルホン酸基が導入されたモンモリロナイトを作製した。合成したモンモリロナイトのスルホン酸基の含有量は、0.28mmol/gであった。
【0052】
(合成例14)
原料の金属酸化物粒子として、マカディアイトを用いた以外は、合成例13と同様にしてマカディアイトにスルホン酸基を導入した。なお、マカディアイトは、シリカゲル(ワコーゲルQ63,和光純薬工業製)10g、水酸化ナトリウム1.54gと純水55.5gをPTFE製の密閉容器に封入し、150℃で48時間、水熱条件下で反応させ合成した。
【0053】
(合成例15)
原料の金属酸化物粒子として、針状酸化チタン(商品名:MT−100T、テイカ社製)(繊維径0.05〜0.15μm、繊維長3〜12μm)を用いた以外は、合成例1と同様にして、針状酸化チタンにスルホン酸基を導入した。
【0054】
(合成例16)
原料の金属酸化物粒子として、粒径100nmのシリカ10.0gを用意した。2−クロロエタンスルホン酸3.0gを添加したジメチルホルムアミド溶液中に、上記シリカを浸漬し、110℃で24時間還流した。反応後、10000rpmで15分間遠心分離を行い、上澄み液を除去後、メタノール中に分散させた。遠心分離による再沈殿とメタノールによる洗浄を2回繰り返すことで、スルホン酸基が導入されたシリカを作製した。
【0055】
(合成例17)
水1.8ml、35%塩酸100μl、エタノール10mlの混合溶液中にメルカプトプロピルトリメトキシシラン2mlを徐々に滴下し、50℃で1時間攪拌した。次に、原料の金属酸化物粒子としての粒径100nmのシリカ10.0gをエタノール中に分散させた溶液と混合し、70℃で13時間攪拌した。合成したメルカプト基を有するシリカ10.0gをエタノール40mlと過酸化水素水10mlの混合溶液中、70℃で2時間攪拌することにより、メルカプト基をスルホン酸基に置換し、スルホン酸基が導入されたシリカを作製した。
【0056】
【表1】

【0057】
〔実施例1〕
以下の手順で帯電ローラを作製し、評価した。
【0058】
(1.導電性組成物の調製)
バインダー樹脂として、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル3元共重合体(以下「GECO」と略す。)(商品名:エピクロマーCG−102;ダイソー社製)を用いて、表2に示す種類と量の各材料を用意した。
【0059】
【表2】

【0060】
これらの材料をオープンロールにて混合し、未加硫ゴム組成物を得た。なお、バインダー樹脂の種類、導電剤の種類、並びにこれらの配合割合を表4に示す。
【0061】
(2.導電層の形成)
次に、芯金の供給機構、ローラの排出機構を有するクロスヘッド押出機を用意し、クロスヘッドには内径がφ9.0mmのダイスを取り付け、押出機とクロスヘッドを80℃に、芯金の搬送速度を60mm/secに調整した。芯金は、ステンレス製(SUS304)で外径6mm、全長258mmであった。この条件で、押出機より未加硫ゴム組成物を供給して、未加硫ゴム組成物によって表面が被覆された芯金を得た。次に、170℃の熱風加硫炉中に未加硫ゴム組成物が被覆された芯金を投入し、60分間加熱した。その後、導電層の長さが228mmになるように導電層の端部を切断・除去した。最後に、導電層の表面を回転砥石で研磨した。これによって、中央部直径8.5mm、中央部から±90mm位置の直径8.45mmの、導電性の軸芯体の外周に導電層が形成された導電性弾性ローラを作製した。
【0062】
(3.表面層の形成)
カプロラクトン変性アクリルポリオール溶液にメチルイソブチルケトンを加え、固形分が18質量%となるように調製した。前述のアクリルポリオール溶液の固形分100質量部に対して下記表3に示す材料を加えて混合溶液を調製した。
【0063】
【表3】

【0064】
450mLのガラス瓶に上記混合溶液210gと、メディアとして平均粒径0.8mmのガラスビーズ200gを混合し、ペイントシェーカー分散機を用いて24時間分散した。分散後、樹脂粒子として架橋タイプアクリル粒子「MR50G」(綜研化学製)を5.44質量部(アクリルポリオール100質量部に対して20質量部相当量)を添加した後、更に30分間分散して表面層形成用塗料を得た。この塗料を、導電性弾性ローラに1回ディッピング塗布し、常温で30分間以上風乾した。次いで90℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥し、更に160℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥して、導電性弾性ローラ上に表面層を形成した。ディッピング塗布浸漬時間は9秒、ディッピング塗布引き上げ速度は、初期速度が20mm/sec、最終速度が2mm/secになるように調節し、20mm/secから2mm/secの間は、時間に対して直線的に速度を変化させた。このようにして導電層の外周に表面層を有する帯電ローラを作製した。こうして得た帯電ローラを以下の試験に供して評価した。
【0065】
(電気抵抗(初期値)、および耐久試験後の電気抵抗の測定、および電気抵抗(初期値)に対する耐久試験後の電気抵抗の上昇率の算出)
図7に、帯電ローラの電気抵抗を測定する装置の概略構成を示した。帯電ローラ71は、芯金72の両端部を不図示の押圧手段で直径30mmの円柱状のアルミドラム73に圧接されており、アルミドラム73の回転駆動に伴って従動回転する。この状態で、帯電ローラ71の芯金部分72に、外部電源74を用いて直流電圧を印加し、アルミドラム73に直列に接続した基準抵抗75にかかる電圧を測定する。帯電ローラ71の電気抵抗は、測定された基準抵抗75の電圧から、回路に流れる電流値を求めることによって算出することができる。
【0066】
本実施例においては、帯電ローラの電気抵抗は、温度23℃/湿度50%RH(NNとも記載する)環境下で、図7の装置を使用して、芯金とアルミドラムの間に直流200Vの電圧を2秒印加することで測定した。このときのアルミドラムの回転数は30rpm、基準抵抗の抵抗値は100Ωであった。データのサンプリングは、電圧印加後1秒後から1秒間に周波数20Hzで行い、得られた電気抵抗の平均値を、帯電ローラの抵抗値とした。
【0067】
具体的には、帯電ローラの初期の電気抵抗の値および直流電流を流した後の電気抵抗の値を以下のように測定した。すなわち、図7の装置を使用して、前述した電気抵抗の測定と同様に、芯金とアルミドラムの間に直流200Vの電圧を2秒印加して電気抵抗を測定した。このときのアルミドラムの回転数は30rpm、基準抵抗の抵抗値は100Ωである。
次に、アルミドラムを30rpmで回転させながら、芯金とアルミドラムの間に直流200Vの電圧を10分間印加して、帯電ローラに通電させた。その後、再度、上記と同様にして帯電ローラの電気抵抗を測定した。そして、直流200Vの電圧の印加前の帯電ローラの電気抵抗(初期値)を、200Vの直流電圧を10分間印加した後の帯電ローラの電気抵抗で除して100倍した値を、抵抗上昇率(%)とした。
【0068】
[実施例2〜23]
バインダー樹脂および導電剤の種類およびその量を表4に示すように変更した以外は実施例1と同様に帯電ローラを作製し、評価した。なお、実施例8においては、バインダー樹脂としてアクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)(商品名:Nipol DN219;日本ゼオン社製)を用いた。
【0069】
〔比較例1及び2〕
合成例1の導電剤の代わりに未処理のシリカ粒子または合成例17の導電剤を用いた以外は、実施例1と同様にして、帯電ローラを作製した。
【0070】
上記実施例1〜23および比較例1〜2の評価結果を表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
〔実施例24〕
以下の手順で現像ローラを作製し、評価した。
【0073】
(1.導電性組成物の調製)
表2に示す各材料をオープンロールにて混合し、未加硫ゴム組成物を得た。なお、バインダー樹脂の種類、導電剤の種類、並びにこれらの配合割合を表6に示す。
【0074】
(2.導電層の形成)
次に、クロスヘッド押出機を用いて、実施例1と同様にして、直径12mmの導電性の軸芯体の外周に導電層が形成された現像ローラを作製した。
【0075】
(3.表面層の形成)
表面層の材料として下記表5に示した材料を混合撹拌した。
【0076】
【表5】

【0077】
その後、総固形分比が30質量%になるようにメチルエチルケトンに溶解し、混合した後、サンドミルにて均一に分散して表面層形成用塗料を得た。更に、この塗料を粘度10〜13cpsになるようメチルエチルケトンで希釈後、前記導電層上に液循環型浸漬塗工装置を用いて浸漬塗工した後、乾燥させた。その後、温度150℃にて1時間加熱処理することで導電層の外周に膜厚約20μmの表面層を設けた現像ローラを得た。こうして得た現像ローラを以下の試験に供して評価した。
【0078】
(電気抵抗、通電劣化の測定)
実施例1と同様の電気抵抗測定装置を用いた。現像ローラの電気抵抗は、温度20℃/湿度40%RH(NNとも記載する)環境下で、芯金とアルミドラムの間に直流100Vの電圧を2秒印加することで測定した。このときのアルミドラムの回転数は60rpm、基準抵抗の抵抗値は100Ωであった。データのサンプリングは、電圧印加後1秒後から1秒間に周波数20Hzで行い、得られた電気抵抗の平均値を、現像ローラの抵抗値とした。
【0079】
また、現像ローラの通電劣化の評価を実施例1と同様に行った。ここで、初期の電気抵抗の測定は、上記の条件で行なった。また、通電時の条件については、アルミドラムの回転数を60rpmとし、芯金とアルミドラムの間への印加電圧を直流100V、印加時間を60分間とした。
【0080】
[実施例25、26]
導電剤の種類を表6のように変更した以外は実施例24と同様にして現像ローラを作製し、評価した。
【0081】
〔比較例3〕
合成例1に係る導電剤に代えて、未処理の粒径100nmのシリカを用いた以外は、実施例24と同様にして現像ローラを作製し、評価した。
【0082】
実施例24〜26および比較例3の評価結果を表6に示す。
【0083】
【表6】

【符号の説明】
【0084】
21 芯金(導電性の軸芯体)
22 導電層
31 金属酸化物粒子
32 スルホン酸基を含む有機鎖
41 スルトン
42 水酸基をもつ金属酸化物粒子表面
43 スルホン酸基を導入した金属酸化物粒子表面
44 酸素原子
51 スルホン酸基を含む有機基
52 金属酸化物粒子
61 金属酸化物表面との結合部に酸素原子を含む有機基
71 帯電ローラ
72 芯金
73 アルミドラム
74 外部電源
75 基準抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の軸芯体と導電層とを有している導電性部材であって、該導電層はバインダー樹脂と該バインダー樹脂中に分散されている導電性の金属酸化物粒子とを含み、該金属酸化物粒子は下記構造式(1)で示される基を表面に有し、該構造式(1)で示される基は、金属酸化物粒子由来の表面官能基である水酸基の水素原子を、下記構造式(1)で示される基で置換することによって導入されてなるものであることを特徴とする導電性部材:
【化1】

(上記構造式(1)中、Rは、炭素数1〜4の2価の飽和炭化水素基を示す)。
【請求項2】
前記構造式(1)で示される基が、前記水酸基とスルトンとの反応によって導入されたものである請求項1に記載の導電性部材。
【請求項3】
前記スルトンが下記構造式(2)で示される請求項2に記載の導電性部材:
【化2】

(上記構造式(2)中、Rは、置換または非置換の炭素数1〜2のアルキレン基、または非置換の炭素数1〜2のアルケニレン基であり、Aは、−C(R’)(R”)−であり、R’とR”は、それぞれ独立に水素、または炭素数1〜2のアルキル基である。)。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の導電性部材を帯電部材および現像部材の少なくとも一方として備え、かつ、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されていることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の導電性部材を帯電部材および現像部材の少なくとも一方として備えていることを特徴とする電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−42935(P2012−42935A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154762(P2011−154762)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】