説明

導電性部材、プロセスカートリッジ及び電子写真装置

【課題】長期間の使用によって生じる電気抵抗値の変化を極力低減した導電性部材の提供。
【解決手段】導電性支持体および導電層を有する導電性部材であって、該導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムと、アニオンとを含むことを特徴とする導電性部材。式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に水素または炭素数1〜18の飽和炭化水素基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材、プロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真装置はさらなる高寿命化が求められてきている。そのため、これまで問題とされてこなかったような、わずかな物性の変化が、長期間の使用によって画像弊害を引き起こす場合がある。特に電気抵抗値の変化は導電性部材の高耐久性には重要な因子となっている。
【0003】
電気抵抗値のムラを改善した導電性部材として、ヒドリンゴムなどの極性ポリマーにイオン導電剤を添加して電気抵抗値を調整してなる導電層を備えた導電性部材が提案されている。しかしながら、イオン導電剤を用いた場合、長期間の使用により導電層中においてイオン導電剤が偏在する場合がある。これは使用時の導電性部材への直流電圧の印加が長期に亘ること、および、導電層が繰り返しの応力を受けることにより、イオン導電剤のイオン交換基がイオン解離し、アニオンとカチオンとが導電層中を移動して偏在することが原因である考えられる。特に、イオン交換基の導電層中における偏在は導電性部材の電気抵抗値を上昇させる。
【0004】
また、導電性部材に対する直流電位の長期に亘る印加、および、導電層に対する繰り返しの応力の印加は、導電性部材内の低分子量成分の導電層の表面へのブリードアウトを促す。導電層の表面への低分子量成分のブリードアウトは、感光体の表面の汚染を招来することとなる。
【0005】
このような課題に対して、特許文献1においては、低添加量で電気抵抗値を低下させることが可能な特定の4級アンモニウム塩をイオン導電剤として用いる、また、特許文献2においては、OH基を有する4級アンモニウム塩を用いる事で、イオン導電剤のブリードとブルームの抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−189894号公報
【特許文献2】特開2001−273815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、特許文献1および特許文献2に係る発明を検討した結果、依然として導電層中における4級アンモニウムイオンおよびアニオンの移動や偏在を避けられず、上記の課題の解決には未だ十分ではないとの認識を得た。そこで、本発明の目的は、長期間の使用によっても電気抵抗値が変化し難い導電性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、導電性支持体および導電層を有する導電性部材であって、該導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムと、アニオンとを含む導電性部材が提供される。
【0009】
【化1】

【0010】
式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に水素または炭素数1〜18の飽和炭化水素基を示す。
【0011】
また、本発明によれば、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジであって、上記の導電性部材を帯電部材および現像部材から選択される何れか一方または両方の部材として具備しているプロセスカートリッジが提供される。
【0012】
更に、本発明によれば、上記の導電性部材を帯電部材および現像部材から選ばれる何れか一方または両方の部材として具備している電子写真装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、長期間の使用によって生じる電気抵抗値の変化を極力低減した導電性部材が提供される。また本発明によれば、長期間に亘って画像弊害のないプロセスカートリッジ及び電子写真装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る導電性部材の断面図である。
【図2】クロスヘッド押出し機の概略図である。
【図3】導電性部材の電気抵抗の測定装置の概略図である。
【図4】本発明に係る電子写真装置の説明図である。
【図5】本発明に係るプロセスカートリッジの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明に係る導電性部材の概略構成図である。導電性支持体11の外周に導電層12が設けられている。導電層は2層以上の複層構造であってもよい。
【0016】
本発明に係る導電性部材は、電子写真方式の画像形成装置における帯電部材(帯電ローラ)、現像部材(現像ローラ)、転写部材(転写ローラ)、除電部材や、給紙ローラ等の搬送部材として使用可能である。また、帯電ブレードや転写パッド等の定常的に通電を行う導電性部材に好適である。以下、導電性部材の代表例である帯電ローラ、現像ローラ等によって本発明を説明する。
【0017】
<導電性支持体>
導電性支持体は、支持体を介して帯電ローラの表面に給電するために導電性を有する。導電性支持体は、例えば、炭素鋼合金表面に5μm程度の厚さのニッケルメッキを施した円柱である。導電性支持体を構成する他の材料として、以下のものが挙げられる。鉄、アルミニウム、チタン、銅及びニッケルの如き金属;これらの金属を含むステンレス鋼、ジュラルミン、真鍮及び青銅の如き合金;カーボンブラックや炭素繊維をプラスチックで固めた複合材料。剛直で導電性を示す公知の材料を使用することもできる。また、形状としては円柱形状の他に、中心部分を空洞とした円筒形状とすることもできる。
【0018】
<導電層>
導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムと、アニオンとを含んでいる。
【0019】
【化2】

式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に水素または炭素数1〜18の飽和炭化水素基を示す。
【0020】
〔エピクロルヒドリンゴム〕
本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムの原料たるエピクロルヒドリンゴムとは、下記式(2)で示されるエピクロルヒドリンに由来するユニットを有するゴムの総称である。
【0021】
【化3】

【0022】
具体的には、上記式(2)で示されるユニットのみからなる単独重合体、上記式(2)で示されるユニットと下記式(3)で示されるアルキレンオキサイドのユニットとからなるエピクロルヒドリン−アルキレンオキサイド共重合体、更には、上記式(2)、式(3)で示されるユニットに加えて、下記式(4)で示されるアリルグリシジルエーテル由来のユニットを有するエピクロルヒドリン−アルキレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル3元共重合体が挙げられる。
【0023】
【化4】

【0024】
式(3)中、nは1〜3の整数を示す。
【0025】
【化5】

【0026】
特に、上記式(2)、式(3)および式(4)で示されるユニットを有する3元共重合体は、アリルグリシジルエーテル由来のユニット中の二重結合部の存在によって、加硫速度や加硫密度の調整を行うことが容易であるため、本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムとして好適に用いられる。
【0027】
また、式(2)〜式(4)で示されるユニットを有するエピクロルヒドリンゴムは、各ユニットのモル比率によって、電気抵抗値及び温湿度環境による電気抵抗値の変動の程度を制御可能である。
【0028】
変性エピクロルヒドリンゴムを電子写真用導電性部材の導電層に含有させる場合、エピクロルヒドリン由来のユニットを19モル%以上75モル%以下、エチレンオキサイド由来のユニットを24モル%以上80モル%以下、アリルグリシジルエーテル由来のユニットを1モル%以上15モル%以下としたものが挙げられる。より好ましいモル比率は、エピクロルヒドリン由来のユニットを19モル%以上45モル%以下、エチレンオキサイド由来のユニットを50モル%以上80モル%以下、アリルグリシジルエーテル由来のユニットを1モル%以上10モル%以下としたものである。このようなモル比率とすることで、電気抵抗値を低くし、かつ温湿度環境による電気抵抗値の変動を抑制することができる。
【0029】
〔変性エピクロルヒドリンゴム〕
本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムは、前記したエピクロルヒドリンゴム中のエピクロルヒドリン由来のユニットの少なくとも1つのユニットが前記式(1)で示されるユニットであるものである。すなわち、本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムは、第四級アンモニウムイオンが分子内に化学的に結合している。
【0030】
導電層は、導電層中に存在するキャリア分子としてのアニオンが導電層中を移動することによりイオン導電性を発現するが、本発明に係る導電層においては、カチオンとしての第四級アンモニウムイオンが、導電層のバインダーである変性エピクロルヒドリンゴムに化学的に結合されているため、キャリアイオンであるアニオンの導電層中における過度な移動が抑制される。その結果、本発明にかかる導電性部材においては、イオン導電性成分が導電層内部から表面への浸みだすこと(ブリード)が抑制される。また、本発明に係る導電性部材を帯電部材として用い、これを感光体と当接して配置させた状態において、帯電部材と感光体との間に高い直流電圧を印加した場合においても、導電層の電気抵抗の上昇が起こりにくい。
【0031】
式(1)で示されるユニットにおいて、R1、R2およびR3は各々独立に水素または炭素数1以上18以下の飽和炭化水素基であり、特には、炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基が好ましい。飽和炭化水素基の炭素数が多すぎると、炭素数の増加に伴う分子量の増加により、単位質量あたりのアミン化合物のイオン交換能が低下し、その結果、導電層として求められる導電性が得にくくなる。
【0032】
式(1)で示されるユニットを有する変性エピクロルヒドリンゴムは、未変性のエピクロルヒドリンゴムのユニット中のアルキレンクロライド部位における塩素原子を、アミン化合物の求核置換反応により脱塩素することによって得ることができる。
【0033】
すなわち、帯電部材の弾性層中に、バインダーポリマーとして含有されてなる、優れた電気特性と力学特性を有するエピクロルヒドリンゴムに対して、高分子反応を利用し、イオン導電性を有する第四級アンモニウム基を導入する。尚、イオン交換基を有するイオン導電性モノマーと、ジエン系、或いは、架橋性の官能基を有し、かつ、ガラス転移温度が0℃以下のモノマーからなる共重合体を重合し、得られた共重合体を架橋することによってもゴム弾性を有するイオン導電性部材を得ることは可能である。しかしながら、一般に、イオン交換基を有するイオン導電性モノマーは重合性が低いため、高分子量体を得ることが容易ではなく、その結果、帯電ローラとして必要とされる力学特性が十分に得られない。
【0034】
アミン化合物による置換方法としては、エピクロルヒドリンゴムが有するアルキレンクロライド部分の塩素原子とアミン化合物の求核置換反応が進行する限りにおいて特に制限はされない。例えば、溶液反応を利用し、エピクロルヒドリンゴムをジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒に溶解させ、その後、アミン化合物を添加する手法や、エピクロルヒドリンゴムのゴム練り段階でアミン化合物を添加する手法を用いてもよい。
【0035】
さらに、デレピン反応やガブリエル反応等を利用してエピクロルヒドリン由来のユニットのアルキレンクロライド部分の塩素原子を一級アミンで置換しても構わない。ゴム練り時にアミン化合物を添加する場合、アミン化合物と同時に加硫促進剤を添加すると、アミン化合物と加硫促進剤が反応し、エピクロルヒドリン由来のユニットのアルキレンクロライド部分の塩素原子との求核置換反応を阻害する恐れがあるので、アミン化合物の置換は、加硫前に行うことが好ましい。
【0036】
アミン化合物として、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれのアミン化合物も用いることができる。中でも、良好な導電性が得られるので3級アミンからなるアミン化合物を用いることが好ましい。
【0037】
導電層中に、エピクロルヒドリンゴムのアルキレンクロライド部分の塩素原子と反応しなかった未反応のアミン化合物が残留している場合、経時的に導電層の表面にブリードしてくる可能性がある。そのため、置換反応後、変性エピクロルヒドリンゴムから未反応のアミン化合物を加熱により気化させて除去することが好ましい。よって、アミン化合物の沸点は、加熱による除去が容易となる200℃以下が好ましく、より好ましくは160℃以下である。以上のような理由からアミン化合物中のR1、R2およびR3は、炭素数1以上18以下、より好ましくは炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基であることが望ましい。
【0038】
なお、本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムの第四級アンモニウムイオンの存在や第四級アンモニウムのアルキル基の炭素数は、プロトンNMR、カーボンNMR等により確認することが可能である。
【0039】
〔アニオン〕
導電層中に含まれるアニオンは、導電層中を移動することで導電層にイオン導電性を発現させるキャリア分子として機能する。アニオンの種類としては特に限定されず、例えば、塩素イオン、過塩素酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン等が挙げられる。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオンの構造を下記式(5)に示す。
【0040】
【化6】

【0041】
導電層への所望のアニオンの導入方法としては、例えば、本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムが有する第四級アンモニウムイオンに対して、所望のアニオンをカウンターアニオンとして反応させておく方法がある。すなわち、導電層に含有させるべき所望のカウンターアニオンと第四級アンモニウムイオンとからなる第四級アンモニウム塩基をエピクロルヒドリンゴムに導入した変性エピクロルヒドリンゴムを導電層中に含有させる。これにより、該第四級アンモニウム塩が導電層中でイオン解離し、カウンターアニオンが遊離し、導電層中に、所望のアニオンを存在させることができる。
【0042】
一例として、本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムの合成を、エピクロルヒドリンゴムのアルキレンクロライド部分の塩素原子にアミン化合物を求核置換させて行う場合、エピクロルヒドリンゴムには、カウンターイオンとして塩素イオンを有する第四級アンモニウム塩基が導入される。かかる変性エピクロルヒドリンゴムを導電層中に含有させた場合、第四級アンモニウムン塩基がイオン解離することで、カウンターイオンとしての塩素イオンが遊離し、導電層中にアニオンとしての塩素イオンを存在させることができる。
【0043】
一方、導電層中に過塩素酸イオンまたは上記式(5)で示されるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオンを存在させる方法としては、導電層中にバインダーとして、所望のアニオンがカウンターイオンとして導入された第四級アンモニウム塩基で変性された変性エピクロルヒドリンゴムを用いる方法が挙げられる。
【0044】
所望のアニオンがカウンターイオンとして導入された第四級アンモニウム塩基で変性された変性エピクロルヒドリンゴムは、以下の方法によって調製し得る。すなわち、塩素イオンをカウンターイオンとして有する第四級アンモニウム塩基を導入した変性エピクロルヒドリンゴムを用意する。次いで、この変性エピクロルヒドリンゴムの第四級アンモニウム塩基の塩素イオンをイオン交換反応を利用して所望のアニオンに変換する。こうして、所望のアニオンがカウンターイオンとして導入された第四級アンモニウム塩基で変性された変性エピクロルヒドリンゴムを得ることができる。
【0045】
導電層中における、キャリア分子であるアニオンの存在および定量は、イオン交換反応を利用したアニオンの抽出により検証できる。変性エピクロルヒドリンゴムを塩酸、或いは水酸化ナトリウムの希薄水溶液中で攪拌し、変性エピクロルヒドリンゴム中のアニオンを水溶液中に抽出する。抽出後の水溶液を乾燥し、抽出物を回収後、飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)にて質量分析を行うことでアニオンの同定および定量が可能である。なお、アニオンの分子量が高い場合においても、TOF−MS測定においてアニオンを分解させることなく分析できる。さらに、抽出物の誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により元素分析を行い、質量分析の結果と組み合わせることでキャリア分子としてのアニオンの同定および定量はより容易となる。
【0046】
〔導電層の形成〕
導電層の形成方法としては、上記の導電層の原料となるゴム組成物を、例えば、押出し成形、射出成形、圧縮成形の如き公知の方法により成型する方法が挙げられる。また、導電層は、導電性支持体の上に直接形成してもよいし、予めチューブ形状に成形した導電層を導電性支持体上に被覆させることによって形成してもよい。なお、導電層の形成後に導電層の表面を研磨して形状を整えることも好ましい。
【0047】
図2は、クロスヘッドを用いた押出し成形による導電性支持体の周囲への導電層の形成工程の説明図である。不図示の導電性支持体保持容器から順次取り出された導電性支持体11は、複数対の導電性支持体を送る送りローラ23によって、垂直下方向へ間隙なく搬送され、クロスヘッド22へ導入される。一方、未加硫ゴム組成物1は押出機21により導電性支持体の搬送方向に対し垂直方向からクロスヘッド22へ供給され、ここで導電性支持体の周囲を被覆した被覆層としてクロスヘッド22から押し出される。その後、切断除去機25により被覆層を切断して、導電性支持体毎に分断し未加硫ゴムローラ26を得る。
【0048】
導電層は、帯電ローラと電子写真感光体の密着性を確保するために中央部を一番太く、両端部に行くほど細くなるクラウン形状に形成することが好ましい。一般に使用されている帯電ローラは、支持体の両端部に所定の押圧力を与えて電子写真感光体と当接されている。すなわち、中央部の押圧力が小さく、両端部ほど大きくなる。そのために、帯電ローラの真直度が十分であれば問題ないが、十分でない場合には中央部と両端部に対応する画像に濃度ムラが生じてしまう場合がある。クラウン形状は、これを防止するために形成するものである。
【0049】
また、ローラ回転時の当接ニップ幅が均一となるためには、帯電ローラの外径振れは小さい方が好ましい。
【0050】
<電子写真装置>
図4は、本発明に係る導電性部材を帯電ローラとして用いた電子写真装置の概略図である。この電子写真装置は、電子写真感光体301を帯電する帯電ローラ302、露光を行う潜像形成装置308、トナー像に現像する現像装置303、転写材304に転写する転写装置305、電子写真感光体上の転写トナーを回収するクリーニング装置307、トナー像を定着する定着装置306などから構成される。電子写真感光体301は、導電性基体上に感光層を有する回転ドラム型である。
【0051】
電子写真感光体301は矢印の方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動される。帯電ローラ302は、電子写真感光体301に所定の力で押圧されることにより接触配置される。帯電ローラ302は、電子写真感光体301の回転に従い従動回転し、帯電用電源313から所定の直流電圧を印加することにより、電子写真感光体301を所定の電位に帯電する。一様に帯電された電子写真感光体301には、画像情報に対応した光308を照射することにより、静電潜像が形成される。
【0052】
電子写真感光体301に接触して配置されている現像ローラ303の表面には、現像剤供給ローラ311によって現像容器309内の現像剤315が供給される。その後、現像剤量規制部材310によって現像ローラ303の表面には、電子写真感光体の帯電電位と同極性に帯電された現像剤の層が形成される。この現像剤を用いて、反転現像により電子写真感光体に形成された静電潜像を現像する。転写装置305は、接触式の転写ローラを有する。電子写真感光体301からトナー像を普通紙などの転写材304に転写する。尚、転写材304は、搬送部材を有する給紙システムにより搬送される。クリーニング装置307は、ブレード型のクリーニング部材、回収容器を有し、転写した後、電子写真感光体301上に残留する転写残トナーを機械的に掻き落として回収する。ここで、現像装置303にて転写残トナーを回収する現像同時クリーニング方式を採用することにより、クリーニング装置307を取り除くことも可能である。定着装置306は、加熱されたロール等で構成され、転写されたトナー像を転写材304に定着し、機外に排出する。312および314は直流電源を示す。
【0053】
<プロセスカートリッジ>
また、図5は本発明に係る導電性部材を帯電ローラ302に適用したプロセスカートリッジの概略断面図である。図5に示すように、本発明に係るプロセスカートリッジは、電子写真感光体301、帯電ローラ302、現像装置303、及び、クリーニング装置307などが一体化され、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されている。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、各実施例において、変性エピクロルヒドリンゴム中のヒドリンユニットのアルキレンクロライド部分の塩素原子がアミン化合物によって置換されていることは、プロトンNMRおよびカーボンNMRにより確認した。
【0055】
〔実施例1〕
エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル(EP/EO/AGE)三元共重合体(商品名:エピオン301、ダイソー(株)製)の100gを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)1000mlに溶解させた。この溶液に、40質量%のメチルアミン水溶液を8g(メチルアミンとして3.2g)加え、窒素雰囲気下、温度50℃で12時間加熱還流した。次いで、反応液を濃縮乾固して、第四級アンモニウムイオンがエピクロルヒドリンユニット部分に導入された、EP/EO/AGE三元共重合体を得た。これを変性エピクロルヒドリンゴムNo.1とする。
【0056】
次に、変性エピクロルヒドリンゴムNo.1の100質量部に対して、表1に示す材料を添加し、オープンロールにて混合し、未加硫ゴム組成物No.1を得た。
【0057】
【表1】

【0058】
一方、直径6mm、長さ258mmのステンレス鋼製の芯金を用意し、その表面に5μm程度のニッケルメッキを施し、導電性支持体を得た。
【0059】
ついで、図2に示す装置を用いて、導電性支持体の外周部を未加硫ゴム組成物No.1で被覆した。その後、熱風炉中において、温度160℃で1時間加熱し、導電性支持体の外周部の未加硫ゴム組成物を硬化させてゴム層となした。その後、ゴム層の両端部を切断し、幅が232mmのゴム層を備えた導電性ローラNo.1を得た。導電性ローラNo.1の導電層を幅広研磨機を用いて、中心外径が8.5mmとなるように研削して、帯電ローラNo.1を得た。この帯電ローラNo.1を下記の評価1〜4に供した。
【0060】
〔評価1:導電層中にアニオンの同定〕
帯電ローラNo.1の導電層を削り、塩酸に溶解し、導電層中のアニオンを抽出した。抽出後の塩酸から水を蒸発させて抽出物を回収し、これを飛行時間型質量分析装置(商品名:PHI TRIFT IV、アルバック・ファイ社製)を用いて質量分析し、導電層中の主たるアニオン種を同定した。
【0061】
〔評価2:電気抵抗値の測定〕
図3は本評価で用いた電気抵抗測定装置の概略図を示す。帯電ローラNo.1は、その両端に取り付けられた軸受け31によって回転可能に保持され、前記軸受け31に取り付けられたバネ32によって片側450gfの押し付け圧で外径30mmのアルミニウム製の円柱状ドラム33に圧接されている。
【0062】
次いで、円柱状ドラム33を回転数33rpmで回転駆動させ、帯電ローラNo.1を従動回転させた。外部直流電源34(商品名:Model 610E;TReK社製)により、ドラム33を介して帯電ローラNo.1に、50μAの直流電流が流れるように定電流制御モードで305秒間電圧を印加した。このとき、初期(印加2秒後から5秒間)と300秒後(300秒後から5秒間)の出力電圧をサンプリング周波数100Hzで測定した。
【0063】
初期の出力電圧の平均値をVa(V)、300秒後の出力電圧の平均値をVb(V)とし、初期電圧Vaと電圧変化率Vb/Vaを測定した。測定結果を表3に示す。ここで、Vaは25.2(V)であり良好な導電性を示した。また、Vb/Vaは1.14であり電気抵抗値の変化がほとんどないことがわかる。
【0064】
〔評価3:画像評価〕
帯電ローラNo.1に対して、評価1の電気抵抗測定装置を用いて300μAの直流電流を100分間流した。次いで、帯電ローラNo.1を、レーザープリンタ(商品名:LBP5400、キヤノン(株)製)に帯電ローラとして組み込み、ハーフトーン画像を1枚出力し、当該ハーフトーン画像を目視にて観察し、下記表2に記載の基準で評価した。
【0065】
【表2】

【0066】
〔評価4:ブリード物の付着の有無〕
帯電ローラNo.1を温度40℃、湿度95%RH環境下にて、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート上に置き、帯電ローラNo.1の両端の芯金の露出部分に対して各々550gfの荷重を加えて、帯電ローラNo.1の導電層の表面をPETシートに押し付けた。この状態を1週間維持したのち、帯電ローラNo.1をPETシート上から除去し、PETシートの表面の帯電ローラNo.1が押し付けられていた部分を光学顕微鏡で観察し、帯電ローラNo.1の導電層からのブリード物の付着状況を観察し、下記表3に記載の基準に基づき評価した。
【0067】
【表3】

【0068】
〔実施例2〜12〕
原料としてのエピクロルヒドリンゴム、変性に用いたアミン種およびアミンの添加量を表4に記載したように変更した以外は、実施例1に係る変性エピクロルヒドリンゴムNo.1と同様にして変性エピクロルヒドリンゴムNo.2〜12を合成した。なお、表4中、原料としてのエピクロヒドリンゴム種のアルファベットは、表5に記載の材料を示す。
【0069】
次いで、得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.2〜12を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.2〜12を調製し、これを用いて帯電ローラNo.2〜12を作成した。これらの帯電ローラを実施例1の評価1〜3に供した。
【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
〔実施例13〕
原料としてのエピクロルヒドリンゴムJを100gと、トリエチルアミン8.1gとをオープンロールにて混合して、変性エピクロルヒドリンゴムNo.13を得た。得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.13を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.13を調製し、これを用いて帯電ローラNo.13を作成した。この帯電ローラを実施例1の評価1〜3に供した。
【0073】
〔実施例14〜44〕
原料としてのエピクロルヒドリンゴム、変性に用いたアミン種およびアミンの添加量を表6に記載したように変更した以外は、実施例1に係る変性エピクロルヒドリンゴムNo.1と同様にして変性エピクロルヒドリンゴムNo.14〜44を合成した。
【0074】
次いで、得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.14〜44を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.14〜44を調製し、これを用いて帯電ローラNo.14〜44を作成した。これらの帯電ローラを実施例1の評価1〜3に供した。
【0075】
【表6】

【0076】
〔実施例45〕
原料としてのエピクロルヒドリンゴムAを100gと、ジメチルヘキシルアミンを10.3gとをオープンロールにて混合して、変性エピクロルヒドリンゴムNo.45を得た。次いで、下記表7に記載の材料をオープンロールを用いて混合し、未加硫ゴム組成物No.45を得た。
【0077】
【表7】

【0078】
一方、外径6mm、長さ258mmのステンレス鋼製の芯金を用意し、その表面に5μm程度のニッケルメッキを施した。この芯金を、内径8.5mmの筒状金型の中心にセットし、導電性支持体と金型の間に未加硫ゴム組成物No.45を配置した。蒸気加硫缶を使用して、温度160℃の水蒸気中で40分間加熱して、該未加硫ゴム組成物No.45を一次加硫した。次いで、温度150℃の電気オーブンの中で1時間加熱して、ゴム層となした。その後、ゴム層の両端部を切断し、幅が232mmのゴム層を備えた導電性ローラNo.45を得た。この導電性ローラNo.45のゴム層表面を実施例1と同様に研削して帯電ローラNo.45を得た。これを評価1〜3に供した。
【0079】
〔実施例46〜47〕
実施例45における、原料としてのエピクロルヒドリンゴムAを、エピクロルヒドリンゴムB、または、エピクロルヒドリンゴムCに変更した以外は、実施例45と同様にして変性エピクロルヒドリンゴムNo.46〜47を合成した。
【0080】
次いで、得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.46〜47を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.46〜47を調製し、これを用いて帯電ローラNo.46〜47を作成した。これらの帯電ローラを実施例1の評価1〜3に供した。
【0081】
〔実施例48〕
原料としてのエピクロルヒドリンゴムJの100gを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)1000mlに溶解させた。この溶液に、カリウムフタルイミドを31.7g加え、窒素雰囲気下、温度70℃で12時間加熱還流した。
【0082】
反応液に、メタノールを加えて反応物を沈殿させて、未反応のカリウムフタルイミドを除去した。フタルイミドを付加させたエピクロルヒドリンゴムを、再び、N,N−ジメチルホルムアミド1000mlに溶解し、ヒドラジン一水和物11mlを添加して、温度70℃で12時間加熱還流した。反応終了後、反応液にメタノールを加えて反応物を沈殿させ、変性エピクロルヒドリンゴムNo.48を得た。
【0083】
次いで、得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.48を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.48を調製し、これを用いて帯電ローラNo.48を作成した。この帯電ローラを実施例1の評価1〜3に供した。
【0084】
〔実施例49〕
実施例3における変性エピクロルヒドリンゴムNo.3を100g、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)1000mlに溶解させた。次に、過塩素酸リチウム11gをDMF10mlに溶解した。上記で得られた2種類のDMF溶液を混合し、2時間攪拌した。混合攪拌後、上記DMF溶液を室温で攪拌されている水中に注ぎ、再沈殿させた。再沈殿と水による洗浄を2回繰り返し、乾燥後、過塩素酸イオン(ClO)を含む未加硫ゴム組成物No.49を得た。次に、得られた未加硫ゴムNo.49を用いて帯電ローラNo.49を作製した。この帯電ローラを実施例1の評価1〜3に供した。
【0085】
〔実施例50〕
実施例49の過塩素酸リチウムの代わりにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム29gを用いた以外は実施例49と同様にして、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(TFSI)を含む未加硫ゴム組成物No.50を調製し、これを用いて帯電ローラNo.50を作製した。この帯電ローラを実施例1の評価1〜3に供した。
【0086】
〔比較例1〕
下記表8の材料をオープンロールを用いて混合し、未加硫ゴム組成物No.C−1を得た。未加硫ゴム組成物No.C−1を用いた以外は、実施例1と同様にして帯電ローラNo.C−1を作成した。この帯電ローラを実施例1の評価1〜3に供した。
【0087】
【表8】

【0088】
〔比較例2〕
比較例1において、テトラエチルアンモニウムクロライドを配合しなかった以外は、比較例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.C−2を得た。未加硫ゴム組成物No.C−2を用いた以外は、実施例1と同様にして帯電ローラNo.C−2を作成した。この帯電ローラを実施例1の評価1〜3に供した。
【0089】
〔比較例3〕
比較例2において、オープンロールで混合する際に、トリエチルアミンを18g添加した以外は比較例2と同様にして未加硫ゴム組成物No.C−3を得た。未加硫ゴム組成物No.C−3を用いた以外は、実施例1と同様にして帯電ローラNo.C−3を作成した。この帯電ローラを実施例1の評価1〜3に供した。
【0090】
上記実施例1〜50に係る帯電ローラNo.1〜50の評価結果を表9−1〜9−2に示す。また、比較例1〜3に係る帯電ローラNo.C−1〜C−3の評価結果を表9−3に示す。
【0091】
【表9】

【0092】
【表10】

【0093】
【表11】

【0094】
表9−1〜9−3からも分かるように、比較例1に係る帯電ローラNo.C−1は、Vaは35.2(V)となり良好な導電性は示すものの、Vb/Vaは3.52となり、通電により抵抗が上昇していた。また、そのため、評価2においては帯電ローラの電気抵抗値の変化が起因と見られる画像不良が発生した。また、評価3の結果、染み出し物が全面において確認された。
【0095】
〔実施例51〕
プライマーを焼き付けた直径6mm、長さ279mmのステンレス鋼製の芯金の周面にプライマー層を焼き付けた。これを導電性支持体に用いると共に、未加硫ゴム組成物No.13を用いて、実施例1に係る導電性ローラNo.1と同様にして導電性ローラNo.51を作成した。但し、ゴム層の厚みを3mm、ゴム層の幅を235mmとした。
【0096】
導電性ローラNo.51を、評価1、2および下記の評価5に供した。
【0097】
〔評価5:画像評価〕
導電性ローラNo.51をレーザープリンタ(商品名:LBP5400、キヤノン(株)製)の現像ローラとして組み込み、シアンのベタ画像、および、ハーフトーン画像を各々1枚出力した。これらを評価画像群aとする。
【0098】
次いで、当該レーザープリンタから、導電性ローラNo.51を取り出し、評価1で用いた電気抵抗測定装置を用いて、導電性ローラNo.51に、400μAの直流電流を120分間流した。再び、導電性ローラNo.51をレーザープリンタ(商品名:LBP5400、キヤノン(株)製)の現像ローラとして組み込み、シアンのベタ画像、および、ハーフトーン画像を各々1枚出力した。これらを評価画像群bとする。評価画像群aと評価画像群bとを目視で観察し、下記の基準で評価した。
A:評価画像群aおよび評価画像群bの間で、濃度に変化が見られなかった。
B:評価画像群aおよび評価画像群bの間で濃度に変化が若干見られた。
C:評価画像群aおよび評価画像群bの間で顕著な濃度変化が見られた。
【0099】
〔実施例52〜54〕および〔比較例4〕
未加硫ゴム組成物に用いるポリマー、およびアミンを表10に示すものに変更して、実施例51と同様にして導電性ローラNo.52〜54、及びC−4を作成し、評価1、2及び評価5に供した。結果を表11に示す。
【0100】
【表12】

【0101】
【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体および導電層を有する導電性部材であって、該導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムと、アニオンとを含むことを特徴とする導電性部材:
【化1】

[式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に水素または炭素数1〜18の飽和炭化水素基を示す。]。
【請求項2】
電子写真装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジであって、請求項1に記載の導電性部材を帯電部材および現像部材から選択される何れか一方または両方の部材として具備していることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項3】
請求項1に記載の導電性部材を帯電部材および現像部材から選ばれる何れか一方または両方の部材として具備していることを特徴とする電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−215848(P2012−215848A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−54495(P2012−54495)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】