説明

導電性部材及び帯電ローラ及びこの帯電ローラを有するプロセスカートリッジ及び画像形成装置

【課題】 長期にわたって使用されても像担持体と電気抵抗調整層との間の空隙を精度良く一定に保ち続けることができ、信頼性、とりわけ、トナーの固着を防止することが可能な導電性部材を提供する。
【解決手段】 本発明の導電性部材20は、軸部材をなす長尺状の導電性支持体21と、導電性支持体21の外周面に設けられた電気抵抗調整層22と、電気抵抗調整層22と異なる材質からなりかつ導電性支持体21の両端部に設けられて電気抵抗調整層22の端面に当接される一対の空隙保持部材23とを備え、空隙保持部材23の外周面は、像担持体4と当接したときに像担持体4の外周面と電気抵抗調整層22の外周面との間に一定間隔の空隙Gが形成されるように電気抵抗調整層22の外周面に対して高低差が設けられている導電性部材において、導電性支持体21が軸方向途中で少なくとも軸方向に離反接近可能に二分割されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリなどの電子写真方式の技術分野に適用でき、像担持体の表面に対して所定の空隙を保持するようにして対向される対向軸部を構成するためにその軸方向に長く延びかつ所定電位が印加される導電性支持体と、この導電性支持体の周面を包囲するようにして形成されて電気抵抗を調整する抵抗調整層と、この抵抗調整層の両端部に臨ませて導電性支持体に設けられかつ抵抗調整層とは別体で異なる材料から構成されしかも像担持体と当接したときに対向軸部を像担持体の表面に対して所定の空隙を開けて対向させる空隙保持部材とを備えた導電性部材及び帯電ローラ及びこの帯電ローラを有するプロセスカートリッジ及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の電子写真方式の画像形成装置には、感光体ドラム(像担持体)に対して帯電処理を行う帯電部材や、感光体ドラム上のトナーに対して転写処理を行う転写部材として導電性部材が用いられている。
【0003】
図1は、導電性部材を帯電部材として用いた一例を示したものであり、画像形成装置1における帯電ローラ2が帯電部材として用いられている。この画像形成装置1は、静電潜像が形成される感光体ドラム4と、感光体ドラム4に対して帯電処理を行う帯電ローラ2と、帯電ローラ2に電圧を印可するためのパワーパック(電圧印加電源)3と、感光体ドラム4の表面電位を測定する表面電位計5と、感光体ドラム4の静電潜像にトナーを固着させる現像ローラ6と、感光体ドラム4上のトナー像を記録紙Sに転写処理する転写ローラ7と、転写処理後の感光体ドラム4をクリーニングするためのクリーニング装置8とを備えている。なお、図2に示すように、感光体ドラム4、帯電ローラ2、現像ローラ6、クリーニング装置8を一括して有するプロセスカートリッジ9が画像形成装置1内に設置される場合もある。
【0004】
帯電ローラ2はパワーパック3より電源供給を受け、感光体ドラム4を所望の電位に帯電させる。この感光体ドラム4は図示を略す駆動機構により矢印A方向に回転する。表面電位計5はその回転方向に沿って帯電ローラ2の直後に設けられ、感光体ドラム4の表面4aの電位を測定する。
【0005】
現像ローラ6は帯電した感光体ドラム4にトナーを付着させ、転写ローラ7は感光体ドラム4に付着したトナーを記録紙Sに転写する。クリーニング装置8は感光体ドラム4に残留したトナーを除去し、感光体ドラム4をクリーニングする。
【0006】
この画像形成装置1による画像形成過程では、まず、帯電ローラ2により感光体ドラム4の表面4aが負の高電位に帯電する。続いて、その帯電した表面4aに原稿からの反射光やレーザー光からなる露光Lが照射される。この露光Lは、形成しようとする画像の黒/白に応じた光量分布を有し、表面4aの各部の電位(負の電位)が受光量に合わせて低下することによって表面4aには光量分布に対応する電位分布、すなわち、静電潜像が形成される。
【0007】
感光体ドラム4が回転してその表面4aの静電潜像が形成された部分が現像ローラ6を通過すると、表面4aには電位分布に応じたトナーが付着して静電潜像がトナー像として可視化される。このトナー像は所定のタイミングで給送される記録紙Sに転写ローラ7により転写され、記録紙Sは図示を略す定着ユニットに向かって矢印B方向に搬送される。
【0008】
一方、転写後の感光体ドラム4は、表面4aに残留するトナーがクリーニング装置8により除去されてクリーニングされるとともに、図示を略すクエンチングランプにより残留電荷が除去されて次回の作像処理に移行する。
【0009】
上記の画像形成装置1における一般的な帯電方式として帯電ローラ2を感光体ドラム4に接触させる接触帯電方式が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開昭63―149668号公報
【特許文献2】特開平1−2111779号公報
【特許文献3】特開平1−267667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、接触帯電方式からなる帯電ローラ2を用いた場合には、以下に掲げるような問題があった。
【0011】
(1)帯電ローラの構成物質が帯電ローラから染み出して感光体ドラムの表面に固着し、この固着が進行すると感光体ドラム表面に帯電ローラの跡が残る。
【0012】
(2)帯電ローラに交流電圧を印加した際に、感光体ドラムに接触している帯電ローラが振動して帯電音が起こる。
【0013】
(3)感光体ドラム表面のトナーが帯電ローラに固着して帯電性能が低下する。
特に帯電ローラにおいて(1)の染出しが生じると、トナーが一層固着しやすくなる。
【0014】
(4)帯電ローラを構成している物質が感光体に固着しやすい。
【0015】
(5)感光体ドラムを長期間駆動しないと帯電ローラに永久変形が生じる。
【0016】
このような問題に対処するために、帯電ローラ2を感光体ドラム4に接触するのではなく近接させる近接帯電方式が考案されている(特開平3−240076号公報等)。この近接帯電方式は、帯電ローラ2と感光体ドラム4との最近接距離(以下、空隙という)が0.005〜0.3mmとなるように両者を対向させ、帯電ローラ2に電圧を印加して感光体ドラム4の帯電を行うものである。近接帯電方式では帯電ローラ2と感光体ドラム4とが接触していないので、接触帯電方式で問題となる「帯電ローラの構成物質の感光体ドラムへの固着」及び「長期間の不使用により生じる帯電ローラの永久変形」は問題とならない。また、「トナーの固着による帯電ローラの帯電性能の低下」に関しても、帯電ローラに固着するトナーが少なくなるため近接帯電方式は優れている。
【0017】
近接帯電方式を実現するものとして、所定の厚みを持ったテープ状の空隙保持手段を帯電ローラの両端部に巻き付けることによって帯電ローラと感光体ドラムとの間に一定間隔の空隙を設ける方法が、例えば、特開平5−107871号公報において考案されている。しかしながら、テープ状部材の摩耗、帯電ローラとテープ状部材との間へのトナーの侵入・固着等により長期間使用した場合に感光体ドラムと帯電ローラとの空隙を一定間隔に保ち続けることとが困難であるという問題があった。
【0018】
また、テープ状部材の摩耗等を防止するためにテープ部材に変えて金属製リングを使用する方法も考えられるが、この場合には感光体ドラムの摩耗が著しいので感光体の基層金属と金属製リングとの間でショート電流が発生して、パワーパック(電圧印加電源)の破壊等の不具合を生じるおそれがあるという問題があった。
【0019】
さらに、帯電ローラと感光体ドラムとの空隙を保持するために、帯電ローラの両端部にスペーサーリング層を設ける方法が、例えば、特開平3−240076号公報、特開平4−358175号公報等において考案されている。しかしながら、これらの公報には、空隙を精度良く一定に保つための具体的な方法が開示されておらず、帯電ローラ及びスペーサーリング層の寸法精度がばらつくことによって空隙が変動し、結果として感光体ドラムの帯電電位が一定にならないという問題があった。
【0020】
そこで、軸部材をなす長尺状の導電性支持体の周面に電気抵抗調整層を設け、この電気抵抗調整層の両端部にこの電気抵抗調整とは異なる材質からなる一対の空隙保持部材を設け、この空隙保持部材の外周面に像担持体と当接したときに像担持体の外周面と電気抵抗調整層の外周面との間に一定間隔の空隙が形成されるように電気抵抗調整層に対して高低差を設けた導電性部材が提案されている(特願2003−0306626号)。
【0021】
このものでは、電気抵抗調整層と空隙保持部材とを連続的に同時に加工して空隙を精密に維持する構成となっている。
【0022】
しかしながら、この導電性部材では、電気抵抗調整層と導電性支持体との線膨張係数が大きく異なるため、成形品を製造する工程で歪みを除去するためのエージング処理を切削前の図3に示す成形品10に行うと、導電性支持体11の線膨張係数よりも電気抵抗調整層12の線膨張係数が大きいために、図4に示すように、空隙保持部材13が電気抵抗調整層12の熱膨張により導電性支持体11の端部に向かって押しやられ、所定時間後に放冷すると電気抵抗調整層12が元の状態に戻るので、図5に示すように、空隙保持部材13と電気抵抗調整層12との間に隙間Hが発生する。
【0023】
そのため、電気抵抗調整層12と空隙保持部材13との連続的同時加工の際に切粉が隙間Hに入り込む不都合があり、また、この隙間Hにトナー粒子などが進入して固着すると、感光体ドラム4と帯電ローラ間の空隙を維持できなくなる不都合がある。
【0024】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、長期にわたって使用されても像担持体と電気抵抗調整層との間の空隙を精度良く一定に保ち続けることができ、信頼性、とりわけ、トナーの固着を防止することが可能な導電性部材及び帯電ローラ及びこの帯電ローラを備えたプロセスカートリッジ並びに画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
請求項1に記載の発明は、軸部材をなす長尺状の導電性支持体と、該導電性支持体の外周面に設けられた電気抵抗調整層と、該電気抵抗調整層と異なる材質からなりかつ前記導電性支持体の両端部に設けられて前記電気抵抗調整層の端面に当接される一対の空隙保持部材とを備え、該空隙保持部材の外周面は、像担持体と当接したときに該像担持体の外周面と前記電気抵抗調整層の外周面との間に一定間隔の空隙が形成されるように前記電気抵抗調整層の外周面に対して高低差が設けられている導電性部材において、
前記導電性支持体が軸方向途中で少なくとも軸方向に離反接近可能に二分割されていることを特徴とする。
【0026】
請求項2に記載の発明は、前記軸方向途中で分割された分割体が一体回転可能に連結されていることを特徴とする。
【0027】
請求項3に記載の発明は、前記空隙保持部材が前記電気抵抗調整層の端面に接着固定されていることを特徴とする。
【0028】
請求項4に記載の発明は、前記電気抵抗調整層の外周面と前記空隙保持部材の外周面とが前記空隙を形成するために仕上げ加工されていることを特徴とする。
【0029】
請求項5に記載の発明は、前記電気抵抗調整層と前記空隙保持部材とが前記導電性支持体を中心軸にして円柱形状とされていることを特徴とする。
【0030】
請求項6に記載の発明は、軸部材をなす長尺状の導電性支持体と、該導電性支持体の外周面に設けられた電気抵抗調整層と、該電気抵抗調整層と異なる材質からなりかつ前記導電性支持体の両端部に設けられて前記電気抵抗調整層の端面に当接される一対の空隙保持部材とを備え、該空隙保持部材の外周面は、像担持体と当接したときに該像担持体の外周面と前記電気抵抗調整層の外周面との間に一定間隔の空隙が形成されるように前記電気抵抗調整層の外周面に対して高低差が設けられていることを特徴とする帯電ローラにおいて、
前記導電性支持体が軸方向途中で少なくとも軸方向に離反接近可能に二分割されていることを特徴とする。
【0031】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の帯電ローラを有するプロセスカートリッジである。
【0032】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のプロセスカートリッジを有する画像形成装置である。
【発明の効果】
【0033】
請求項1に記載の発明によれば、導電性支持体を軸方向途中で少なくとも軸方向に離反接近可能に二分割して、導電性支持体と電気抵抗調整層との熱膨張率の差を吸収することにしたので、成形品にエージング処理を行ったとしても、空隙保持部材と電気抵抗調整層との間にエージング処理に起因する隙間が発生するのを防止できる。
【0034】
また、環境変動により電気抵抗調整層が膨張・収縮したとしても、空隙保持部材と電気抵抗調整層との間に隙間が発生するのを防止できる。
【0035】
請求項2に記載の発明によれば、導電性支持体を分割した場合でも、互いに一体に回転する構成としたので、隙間の発生を防止しつつ、空隙保持部材の外周面と電気抵抗調整層の外周面との同時切削加工を回転させながら行うことができる。
【0036】
請求項3に記載の発明によれば、環境変動により導電性支持体に寸法変化が生じたとしても、空隙保持部材と電気抵抗調整層とが接着剤により接着されているので、空隙保持部材と電気抵抗調整層とが一体になって変位し、従って、電気抵抗調整層と空隙保持部材との間に隙間が発生するのを防止でき、経時変化に対する空隙維持精度の向上を図ることができる。従って、経時変化に対する空隙保持の安定性の向上を図ることができる。
【0037】
請求項4に記載の発明によれば、電気抵抗調整層と空隙保持部材との仕上げ加工を行ったので、空隙保持部材と電気抵抗調整層との段差(高低差)を高精度に維持できる。
【0038】
請求項5に記載の発明によれば、電気抵抗調整層と空隙保持部材とを導電性支持体を中心軸とする円柱形状としたので、段差部の精度、空隙保持部材の精度が多少劣化しても、回転駆動させることによりその劣化部分を回転方向に移動させることができ、長期にわたり像担持体に対する空隙量の変化を防止できる。
【0039】
請求項6に記載の発明によれば、感光体ドラムに対して均一帯電を行うことができる帯電ローラを提供できる。
【0040】
請求項7に記載の発明によれば、請求項6に記載の帯電ローラをプロセスカートリッジに組み込んだので、空隙保持精度の良好な交換可能なプロセスカートリッジを提供できる。
【0041】
請求項8に記載の発明によれば、請求項7に記載の発明を画像形成装置に搭載しているので、高画質の画像を得ることができると共に、長期に渡って安定した画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下に、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
【実施例】
【0043】
図6は本発明に係わる導電性部材(帯電ローラ)20の実施例を説明するための模式図である。この図6において、21は軸部材をなす長尺状の導電性支持体、22は導電性支持体21の外周面に設けられた電気抵抗調整層、23は電気抵抗調整層22と異なる材質からなりかつ導電性支持体21の両端部21aに設けられて電気抵抗調整層22の端面22aに当接される一対の空隙保持部材である。
【0044】
この空隙保持部材23の外周面は、感光体ドラム4と当接したときに感光体ドラム4の外周面4aと電気抵抗調整層22の外周面22bとの間に一定間隔の空隙Gが形成されるように電気抵抗調整層22の外周面22bに対して高低差が設けられている。
【0045】
その導電性支持体21はその軸方向途中で少なくとも軸方向に離反接近可能に二分割された分割支持体24、25から構成されている。
【0046】
この導電性部材20は所定の圧力で感光体ドラム4に当接配置される。この導電性部材20は、その対向軸部20’の外径が空隙保持部材23の外径に対して僅かに小径を呈する。空隙保持部材23の外周面は感光体ドラム4の表面4aに当接するが、空隙保持部材23と対向軸部20’との間には高低差があるので、電気抵抗調整層22の外周面22bと表面4aとの間には空隙Gが形成される。
【0047】
対向軸部20’と感光体ドラム4の表面4aとの空隙Gの量は、100μm以下であるのが望ましい。というのは、空隙Gの量を大きくすると、導電性支持体21への印加電圧を高くしなければならず、導電性支持体21への印加電圧を高くすると、感光体4が電気的に劣化したり、異常放電が発生し易くなるからである。
【0048】
導電性部材20は、その空隙保持部材23が感光体ドラム4の画像形成領域X1以外の感光層塗布領域(非画像形成領域X2)に当接するようにして設置される。この状態で、導電性部材20に電圧を印加することにより、感光体ドラム4はその画像形成領域X1が帯電される。など、導電性部材20を転写部材として使用する場合にも、同様に感光体ベルトの帯電を行うことができる。
【0049】
空隙保持部材23は予め任意の形状に形成された空隙保持部材材料品を電気抵抗調整層22の両端面22aに当接するようにして導電性支持体21の両端部に挿入する。この際空隙保持部材23と電気抵抗調整層22あるいは導電性支持体(中心軸(芯軸))21の端部との間に接着剤を塗布することにより、長期間に渡って使用した際に空隙保持部材23が導電性支持体21から脱離することを避けることが可能である。
【0050】
その空隙保持部材23は絶縁性材料が好ましく、体積固有抵抗で1013Ω・cm以上であることが好ましい。絶縁性が必要である理由は、感光体ドラム4の基層と空隙保持部材23との間にショート電流が発生するのを無くすためである。
【0051】
その空隙保持部材23の材料としては、絶縁性材料であることを除く他は特に限定するものではないが、感光体ドラム4を傷つけない程度に軟らかく、また、成形加工が容易であること等の理由から、高密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0052】
電気抵抗調整層22は高分子型イオン導電材料が分散された熱可塑性樹脂塑性物により形成されている。電気抵抗調整層22の体積固有抵抗は106〜109Ωcmであることが望ましい。
【0053】
109Ωcmを超えると、帯電能力や転写能力が不足し、106Ωcmよりも体積固有抵抗が低いと、感光体ドラム4の全体に渡って電圧集中によるリークが生じるからである。
【0054】
電気抵抗調整層22に用いる熱可塑性樹脂には、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)およびその共重合体(AS、ABS)等の汎用樹脂を用いる。これらの樹脂は成形加工が容易であるからである。
【0055】
その熱可塑性樹脂に分散させる高分子型イオン導電材料として、ポリエーテルエステルアミド成分を含有する高分子化合物が望ましい。
【0056】
ポリエーテルエステルアミドは、イオン導電性の高分子材料であり、マトリックスポリマー中に分子レベルで均一に分散し、固定化される。従って、導電性顔料を分散した組成物に見られるような分散不良に起因する抵抗値のバラツキを抑制できる。また、高分子材料であるので、ブリードアウトが生じ難い。更に、配合量については、抵抗値を所望の値にする必要があるので、熱可塑性樹脂が30〜70重量%、高分子型イオン導電材が70〜30重量%とするのが望ましい。
【0057】
樹脂組成物の製造方法に関しては、特に制限はなく、各材料の混合物を二軸混練機やニーダー等で溶融混練することによって、樹脂組成物を容易に製造できる。
【0058】
電気抵抗調整層22の導電性支持体21への形成は押し出し成形や射出成形等の手段を用いて、半導電性樹脂組成物を被覆することによって容易に形成できる。
【0059】
導電性支持体21の外周面に電気抵抗調整層22のみを形成することにより導電性部材20を形成することにすると、電気抵抗調整層22にトナーなどが固着して画像品質が劣化することがあるが、この不具合は電気抵抗調整層22の外周面に表面層22cを形成することにより解消できる。この表面層22cの抵抗値は電気抵抗調整層22のそれよりも大きい値とされ、これによって感光体ドラム4の欠陥部への電圧集中、異常放電(リーク)等の不具合を解消できる。ただし、表面層22cの抵抗値を高くしすぎると帯電能力や転写能力が不足するので、表面層22cと電気抵抗調整層22との抵抗値の差は103Ωcm以下にするのが望ましい。
【0060】
表面層22cを形成する材料としては、成膜性が良好であるとという点で熱可塑性樹脂組成物が好適であり、その表面層22cを形成する材料として、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等が非粘着性に優れ、トナー固着防止の観点から望ましい。
【0061】
また、樹脂材料は電気的に絶縁性を有するため、樹脂に対して各種導電材料を分散させることによって表面層22cの抵抗を調整する。
【0062】
その表面層22cの電気抵抗調整層22への形成は、表面層構成材料を有機溶媒に分散して塗料を作製し、スプレー塗装、ディッピング等によってコーティングすることによって行う。膜厚については、10〜30μm程度が望ましい。
電気抵抗調整層22、空隙保持部材23は熱可塑性樹脂であり、それぞれ射出成形、押し出し成形により形成される。その後、電気抵抗調整層22と空隙保持部材23とに段差を形成することにより、感光体ドラム4に対して一定の空隙Gを形成するため、電気抵抗調整層22、空隙保持部材23の外周を仕上げ切削するが、その後の経時変化による形状の変化を防止する必要がある。また、熱可塑性樹脂は成形後、形状成形や冷却時に生じる内部応力の開放により、形状が微小に変化する傾向がある。
【0063】
そこで、電気抵抗調整層22と空隙保持部材23とを導電性支持体21に成形して構成された成形品26(図7参照)をいったん冷却した後、成形温度以下の温度でこの成形品26を再加熱し、内部応力の開放を加速させるというエージング処理を行い、内部応力が開放された成形品26を仕上げ切削して、完成品として図6に示す導電性部材20を製作している。
【0064】
また、この発明の実施の形態では、電気抵抗調整層22の外周面に表面層22cを塗布により形成する構成であり、表面層22cの定着に加熱により表面層22cの樹脂を硬化させる方法が一般的に採用されているので、電気抵抗調整層22、空隙保持部材23を導電性支持体21に形成した後に加熱を行っている。また、完成品の温度環境も氷点下レベルから30〜40度Cの間で変動することも考えられる。
【0065】
成形品26を一旦冷却後再度加熱を行う工程がある場合、図3に示す導電性部材としての帯電ローラ2の場合には、電気抵抗調整層12の膨張により空隙保持部材13が加圧されて、空隙保持部材13が導電性支持体11の軸方向にずれ、再度冷却されたときに空隙保持部材13と電気抵抗調整層12との間に隙間Hが生じ、導電性部材としての帯電ローラ2と感光体ドラム4との間の空隙精度の低下、発生した隙間Hへの異物(トナー凝集)の混入による帯電ローラ2、感光体ドラム4の磨耗劣化などの不具合が発生するが、この図6に示す導電性部材20の場合には、電気抵抗調整層22が膨張して、空隙保持部材23に加圧力が加わると、分割支持体24、25が互いに離反し、電気抵抗調整層22が冷却されて元の状態に戻るとこれに伴って分割支持体24、25が互いに接近し、空隙保持部材23の分割支持体24、25に対する位置関係は膨張・収縮の前後で変化しないので、電気抵抗調整層22と空隙保持部材23との間に隙間Hが発生するのを防止できる。
【0066】
この図6に示す導電性部材20の場合には、導電性支持体21をその軸方向途中で二分割する構成としたが、図8に示すように、一方の分割支持体24に回転非対称の嵌合孔24aを形成し、他方の分割支持体25にその嵌合孔24aに嵌合する嵌合ピン25aを形成して互いにこれらを連結することにすると、図9に示すように、切削バイト27を用いて成形品26を回転させながらその外周面を切削加工して、空隙保持部材23と電気抵抗調整層22との間に段差(高低差)を同時に精密形成するに際し、分割支持体24、25を一体回転させることができるので、導電性支持体21を二分割構成とした場合でも切削加工による段差形成の際の加工上の支障を回避できる。この他、両分割支持体24、25にアンカー等の一体回転構造を採用することもでき、分割支持体24、25の一体回転構造には各種のものが考えられるが、これについては、以下に説明する具体的実施例で説明する。
【0067】
なお、電気抵抗調整層22と空隙保持部材23との間は密着させ、空隙保持部材23を導電性支持体21の端部に圧入し、接着剤を電気抵抗調整層22と空隙保持部材23との間に入れて全面を接着することとする。
【0068】
本発明の場合、導電性支持体21はその熱膨張率が0.00001〜0.000015/Kであり、電気抵抗調整層22に使用する樹脂はその熱膨張率が0.0005〜0.003/Kであり、空隙保持部材23の高密度ポリエチレンは0.0001〜0.0002/Kである。
【0069】
電気抵抗調整層22は、射出成形により導電性支持体21の周面に形成されるので導電性支持体21との接触面積も大きく保持力も強い。さらに、空隙保持部材23間に隙間を生じさせないために空隙保持部材23は導電性支持体21の端部に圧入され、電気抵抗調整層22の端面22aと空隙保持部材23の端面との間には接着剤を介在させてこれらを全面に渡り密着させた。
【0070】
一般に、加熱加工及び使用環境条件のもとで、導電性部材20を構成する各部材に熱が加わったとき、熱膨張により隣接する部材間に抗力が発生する。その熱が取り除かれたときには各部材に復元力が働く。その際、各部材間の復元量の違いにより、歪みが生じることとなり、接着力よりもその抗力によるひずみが大きくなったとき、隙間Hが生じることになる。その抗力を除去する方法として、導電性支持体21又は電気抵抗調整層22に分割面を形成することが考えられるが、電気抵抗調整層(樹脂層)22に分割面を設けることにすると、膨張又は収縮には対処できるが、復元力が働いたときにそれに対応して復元機構を設けることが困難である。
【0071】
そこで、この発明の実施例では、電気抵抗調整層22に設けるのではなく、導電性支持体21を二分割し、かつ、切削加工時に導電性支持体21を一体回転させるために、復元機構を設けたものである。
【0072】
これにより、導電性部材20の製造段階における成形品26の加熱工程、画像形成装置に組み込んでの使用温度環境条件のもとで、導電性支持体21と電気抵抗調整層22とが膨張収縮したとしても、熱膨張に起因する抗力を緩和でき、空隙保持部材23と電気抵抗調整層22との間に隙間Hを生じるのを避けることができるのである。
【0073】
以下、本発明の具体的な実施例を図面に基づき説明する。
<実施例1>
電気抵抗調整層としてABS樹脂ABS樹脂(デンカABS GR-3000、電気化学工業製)40重量%、ポリエーテルエステルアミド(IRGASTAT P18、チバスペシャリティケミカルズ社製)40重量%、ポリカーーボネート-グリシジルメタクリレート-スチレン-アクリロイトリル共重合体(モディパーC L440-G、日本油脂株式会社製)をポリエーテルエステルアミドとABS樹脂の合計100重量部に対して4.5重量部を混合の後、溶融混練した樹脂組成物を、2分割されたSUM(Niメッキ)からなる外径10mmの中心軸(芯軸)上に射出成形により
形成した。
【0074】
SUM(Niメッキ)からなる導電性支持体21を構成する分割支持体24、25には、図8に示す構造を用いて、アンカー形状(ピン形状)で連結して軸方向にガタを持たせた。成形後、成形時の歪み除去として、120℃、1時間オーブンにてアニールを行った。
【0075】
次に、図9に示す切削加工を行って、空隙保持部材23の外径(最大径)を12.7mm、電
気抵抗調整層22の外径を12.6mmに同時仕上げをし、図6に示す形状で表面層22cを塗
布する前の成形品を形成した。
【0076】
次いで、アクリルシリコーン樹脂(3000VH-P、川上塗料製)、イソシアネート系硬化剤(川上塗料製)からなる塗料を、空隙保持部材23の表面にのみスプレーコーティングすることにより、膜厚約10μmの絶縁層を形成した後、電気抵抗調整層22の表面に、アクリルシリコーン樹脂(3000VH-P、川上塗料製)、イソシアネート系硬化剤(川上塗料製)、及びカーボンブラック(全固形分に対して30重量%)からなる混合物をスプレーコーティングすることにより膜厚約10μmの表面層22cを形成した。その後、オーブンで80℃、1時間、塗料樹脂を加熱硬化させ、図6に示す導電性部材20を得た。
〈実施例2〉
実施例1と同様の加工方法で導電性部材20を得た。その際、図10に示すように、導電性支持体21を構成する分割支持体24の分割端部に円形嵌合孔24bを形成し、分割支持体25の分割端部にピン25aを形成し、Oリング28を介在させて連結した。なお、図11に示すように、Oリング28を分割支持体24の分割端部の内周面に当接させる構造を採用しても良い。
<実施例3〉
実施例1と同様の加工方法で導電性部材20を得た。その際、導電性支持体21の分割支持体24、25の分割端部に、図12に示すように、ピン29、嵌合孔30、弾性体(ばね)31を介在させて連結する構成とした。
〈比較例1〉
実施例1と同様の加工方法で導電性部材としての帯電ローラ2を得た。その際、導電性支持体11の分割を行わず、また、電気抵抗調整層12と空隙保持部材13間を密着させ、空隙保持部材13を導電性支持体11の端部に圧入して接着し、全面に渡り密着させた。
〈比較例2〉
実施例1と同様の加工方法で導電性部材としての帯電ローラ2を得た。その際、導電性支持体11は分割を行わず、また、電気抵抗調整層12と空隙保持部材13間には接着剤を使用せず、導電性支持体11の端部への圧入のみとした。
〈試験1〉
実施例1〜3および比較例1、2のサンプルを環境条件(100℃、1時間)のもとに放置し、その後、室温まで放冷後に電気抵抗調整層と空隙保持部材との隙間Hを測定した。
【0077】
放置試験の結果、実施例1〜3においては、電気抵抗調整層22と空隙保持部材23との隙間を確認できなかった。
【0078】
これに対して、比較例1、2では、隙間Hの発生が確認され、電気抵抗調整層12と空隙保持部材13との両端面の隙間を光学顕微鏡で測定したところそれぞれ、接着したものについては0.1mm、接着しなかったものについては0.2から0.3mmの隙間Hが確認された。これは、電気抵抗調整層12の熱膨張により空隙保持部材13がその面に受ける圧力により、空隙保持部材13が導電性支持体11の端部側に向かって押され、導電性支持体11と電気抵抗調整層12の熱膨張の率の違いにより押し出された空隙保持部材13が元の圧入位置にもどることができず、放冷後の電気抵抗調整層12の戻り分が隙間Hとなったためであると考えられる。
【0079】
【表1】

【0080】
なお、この実施例では、サンプルを2個ずつ作成して、比較を行った。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】従来及び本発明に係わる画像形成装置の説明図である。
【図2】プロセスカートリッジを有する画像形成装置の説明図である。
【図3】切削前の成形品を示す断面図である。
【図4】図3に示す成形品にエージング処理を行った場合の熱膨張を説明するための図である。
【図5】図4に示す成形品を冷却した場合に隙間ができる理由を説明するための説明図である。
【図6】本発明に係わる導電性部材と感光体ドラムとの位置関係を説明するための図である。
【図7】本発明に係わる成形品の拡大断面図である。
【図8】図7に示す導電性支持体の部分拡大断面図である。
【図9】図7に示す成形品の切削状態を説明するための説明図である。
【図10】図7に示す導電性支持体の変形例を示す説明図であって、Oリングを介して分割支持体を連結結合した状態を示す説明図である。
【図11】図7に示す導電性支持体の他の変形例を示す説明図であって、Oリングを介して分割支持体を連結結合した状態を示す説明図である。
【図12】図7に示す導電性支持体の更に他の変形例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0082】
4…感光体ドラム(像担持体)
20…導電性部材
21…導電性支持体
22…電気抵抗調整層
23…空隙保持部材
G…空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材をなす長尺状の導電性支持体と、該導電性支持体の外周面に設けられた電気抵抗調整層と、該電気抵抗調整層と異なる材質からなりかつ前記導電性支持体の両端部に設けられて前記電気抵抗調整層の端面に当接される一対の空隙保持部材とを備え、該空隙保持部材の外周面は、像担持体と当接したときに該像担持体の外周面と前記電気抵抗調整層の外周面との間に一定間隔の空隙が形成されるように前記電気抵抗調整層の外周面に対して高低差が設けられている導電性部材において、
前記導電性支持体が軸方向途中で少なくとも軸方向に離反接近可能に二分割されていることを特徴とする導電性部材。
【請求項2】
前記軸方向途中で分割された分割体が一体回転可能に連結されていることを特徴とする請求項1に記載の導電性部材。
【請求項3】
前記空隙保持部材が前記電気抵抗調整層の端面に接着固定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性部材。
【請求項4】
前記電気抵抗調整層の外周面と前記空隙保持部材の外周面とが前記空隙を形成するために仕上げ加工されていることを特徴とする請求項2に記載の導電性部材。
【請求項5】
前記電気抵抗調整層と前記空隙保持部材とが前記導電性支持体を中心軸にして円柱形状とされていることを特徴とする請求項4に記載の導電性部材。
【請求項6】
軸部材をなす長尺状の導電性支持体と、該導電性支持体の外周面に設けられた電気抵抗調整層と、該電気抵抗調整層と異なる材質からなりかつ前記導電性支持体の両端部に設けられて前記電気抵抗調整層の端面に当接される一対の空隙保持部材とを備え、該空隙保持部材の外周面は、像担持体と当接したときに該像担持体の外周面と前記電気抵抗調整層の外周面との間に一定間隔の空隙が形成されるように前記電気抵抗調整層の外周面に対して高低差が設けられていることを特徴とする帯電ローラにおいて、
前記導電性支持体が軸方向途中で少なくとも軸方向に離反接近可能に二分割されていることを特徴とする帯電ローラ。
【請求項7】
請求項6に記載の帯電ローラを有するプロセスカートリッジ。
【請求項8】
請求項7に記載のプロセスカートリッジを有する画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−126314(P2006−126314A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311874(P2004−311874)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】