説明

導電性酸化物とその製造方法

【課題】ターゲットの導電性酸化物の熱伝導率を向上させることによって、そのターゲットの厚さの増大を可能にして寿命を増大させ、またそのターゲットを用いることによって、スパッタリング堆積された酸化物半導体膜のエッチング速度の向上を可能にする。
【解決手段】導電性酸化物は、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−p(0≦m<1、0≦q<1、0≦p≦3m+q)と結晶質GaZnOとを含み、粉末X線回折法を適用したときに、最大の回折強度を有するaピークの回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内にあり、かつ第2位の回折強度を有するbピークの回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内にあり、そしてaピークに対するbピークの回折強度比Ib/Iaが0.1以上1.0以下であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性酸化物に関し、特に酸化物半導体膜をスパッタリングで形成するためのターゲットとして好ましい導電性酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、薄膜EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置、有機EL表示装置などにおいて、薄膜トランジスタ(TFT)のチャネル層用や透明電極用の透明導電性薄膜として、従来では主として非晶質シリコン膜が使用されてきた。
【0003】
しかし、近年では、そのような半導体膜として、In−Ga−Zn系複合酸化物(IGZO)を主成分とする非晶質酸化物半導体膜が、非晶質シリコン膜に比べてキャリヤの移動度が大きいという利点から注目されている(例えば、特許文献1の特開2008−199005号公報参照)。この特許文献1においては、非晶質酸化物半導体膜が、ターゲットを使用するスパッタリング法によって形成されることが開示されている。そして、そのターゲットは、導電性を示す酸化物粉末の焼結体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−199005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に開示のターゲットを使用するスパッタリング法で酸化物半導体膜を形成する場合には、酸化物焼結体のターゲットに電圧を印加して、ターゲット表面の近傍にプラズマを発生させる。このとき、ターゲットの温度が上昇するので、ターゲットの裏面に低融点金属で貼り付けた銅製のバッキングプレートを介して、循環水でターゲットの冷却が行われる。ここで、ターゲットの熱伝導率が低ければ、ターゲットが過熱されて、安定に成膜を進行させることができない。したがって、ターゲットの熱伝導率が低い場合には、ターゲットの厚さをなるべく小さくしかつバッキングプレートの厚さを大きくすることによって、冷却効率を向上させることが一般に行われる。
【0006】
一方、真空槽内において、スパッタリングによってターゲットの表面原子が飛び出し、これによってターゲットが消耗する。このターゲットの消耗量が過大になればバッキングプレートとの貼り合わせに使用している低融点金属が露出するので、安全率を考慮してターゲットの使用深さが決められている。したがって、決められた使用深さに到達した時点がターゲットの寿命となるので、ターゲットは厚ければ厚いほどその寿命が長くなり、成膜の生産性の観点から好ましい。
【0007】
しかし、ターゲット厚みを大きくするためには、ターゲットの熱伝導率を上げることが必要である。また、非晶質酸化物半導体膜を利用する例えばフラットパネルディスプレイの製造過程などにおいては、酸化物半導体膜を部分的にエッチング除去してパターニングする後工程が含まれることが多く、この工程においてはエッチング速度を高めることも生産性の観点から望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、導電性酸化物の熱伝導率を向上させることによって、ターゲットの厚さの増大を可能にして寿命を増大させることを目的としている。本発明はまた、そのターゲットを用いることによって、スパッタリングによって堆積された酸化物半導体膜のエッチング速度の向上を可能にすることをも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による導電性酸化物は、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−p(0≦m<1、0≦q<1、0≦p≦3m+q)と結晶質GaZnOとを含み、粉末X線回折法を適用したときに、最大の回折強度を有するaピークの回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内にあり、かつ第2位の回折強度を有するbピークの回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内にあり、そしてaピークに対するbピークの回折強度比Ib/Iaが0.1以上1.0以下であることを特徴としている。なお、回折角2θが35.0°以上37.0°以下の範囲内においてbピークとは異なるcピークを生じることが好ましい。
【0010】
また、導電性酸化物においてZnの原子濃度比を1として規格化した場合に、Inの原子濃度比が1.5以上4以下であり、またはGaの原子濃度比が0.5以上3以下であることが好ましい。導電性酸化物の断面積に占める結晶質GaZnOの割合は、20%以上60%以下であることが好ましい。導電性酸化物は、N、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Sn、およびBiから選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含み得る。本発明による導電性酸化物は、スパッタリング法のターゲットにおいて好ましく用いられ得る。
【0011】
本発明による導電性酸化物を製造するための方法においては、酸化亜鉛粉末と酸化ガリウム粉末を含む第1の混合物を調製し、この第1の混合物を800℃以上1200℃未満の温度で仮焼してGaZnO粒子を作製し、その後にこのGaZnO粒子を酸化インジュウム粒子と混合または粉砕して混合することによって第2の混合物を調製し、この第2の混合物の成形体を作製し、その成形体を1350℃以上1375℃以下の温度で焼成する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上のような本発明によれば、導電性酸化物のターゲットの熱伝導率を向上させることによって、そのターゲットの厚さを増大させることが可能となって寿命を増大させることができる。また、本発明による導電性酸化物のターゲットを用いることによって、スパッタリングで堆積された酸化物半導体膜のエッチング速度の向上が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。上述のように、本発明による導電性酸化物は、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−p(0≦m<1、0≦q<1、0≦p≦3m+q)と結晶質GaZnOとを含み、粉末X線回折法を適用したときに、最大の回折強度を有するaピークの回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内にあり、かつ第2位の回折強度を有するbピークの回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内にあり、そしてaピークに対するbピークの回折強度比Ib/Iaが0.1以上1.0以下であることを特徴としている。このような導電性酸化物において、従来の非晶質In−Ga−Zn系複合酸化物に比べて、熱伝導率が向上することが分かった。また、本発明による導電性酸化物をターゲットとしてスパッタリングで酸化物半導体膜を堆積し、その膜のエッチング速度を測定した場合に、従来の酸化物半導体膜に比べてエッチング速度が速いことが分かった。
【0014】
ところで、結晶質InGaZnOと結晶質GaZnOは、すでに知られている結晶体である。しかし、本発明による導電性酸化物は、これらの結晶粉末が所定の条件で混合されて改質された焼結体である。
【0015】
より具体的には、本発明による焼結体は、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−p(0≦m<1、0≦q<1、0≦p≦3m+q)と結晶質GaZnOを含み、好ましくは0<mおよび0<qである場合により熱伝導率が高くなる。また、そのような導電性酸化物をターゲットとしてスパッタリングで堆積した酸化物半導体膜のエッチング速度が大きくなる。なお、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−pは、知られているInGaZnO結晶体に比較して、GaおよびZnが欠損した状態であることを意味している。この欠損によって、化学量論比で考えた場合に、酸素原子比が変化して「7」よりも小さい値(すなわち0<p)をとる場合もある。
【0016】
実際の結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−pにおいて、mおよびqの値を直接的に求めることは困難である。本実施形態では、焼結体全体の組成をICP(誘導結合プラズマ)発光分光により求め、同時にX線回折によって結晶相を同定し、それによって結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−pの存在が確認される。
【0017】
より具体的には、ICP分析によって求めたIn:Ga:Znの原子濃度比が2:2:1であるにも拘らず、X線回折によってInGaZnOとGaZnOの存在が確認された場合、InGaZnO中のGaとZnが欠損したInGa2(1−m)Zn1−q7−p(0<m<1、0<q<1、0≦p≦3m+q)とGaZnOとが存在していると判断される。
【0018】
粉末X線回折において、結晶質InGaZnOと結晶質GaZnOは、回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内において、同じ回折角2θで回折ピークを生じる。他方、結晶質InGaZnOは、回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内においても回折ピークを生じる。したがって、結晶質InGaZnOと結晶質GaZnOが共存している場合、結晶質GaZnOの含有量が多くなるにしたがって、回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内に生じる回折ピークの強度が小さくなる。
【0019】
本発明者達は、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−pと結晶質GaZnOとを含む導電性酸化物において、回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内に生じるaピークが最大の回折強度を有し、回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内で生じるbピークが第2位の回折強度を有する場合に、導電性酸化物の熱伝導率が高くなることを見出した。
【0020】
また、本発明による導電性酸化物では、回折角2θが35.0°以上37.0°以下の範囲内において、bピークとは異なるcピークが生じる。このcピークは結晶質GaZnOに起因しており、この結晶質GaZnOの存在が熱伝導率に影響を与えていることが分かった。そして、本発明による導電性酸化物の断面積に占める結晶質GaZnOの割合が20%以上60%以下であることが、熱伝導率を高くする上で好ましいことが分かった。なお、この結晶質GaZnOの断面積割合は、熱伝導率を高める観点からは30%以上50%以下であることがより好ましい。
【0021】
すなわち、導電性酸化物の断面積に占める結晶質GaZnOの割合が20%未満の場合、その導電性酸化物の熱伝導率が高くならなかった。導電性酸化物中に結晶質GaZnOがある体積分率以上存在している場合に熱伝導率が上昇することから、結晶質GaZnOは結晶質InGaZnOに比べて高い熱伝導率を有していると考えられる。または、0<m、0<qを満たすInGa2(1−m)Zn1−q7−pが、高い熱伝導率を有している可能性がある。他方、導電性酸化物の断面積に占める結晶質GaZnOの割合が60%を超えるの場合、その導電性酸化物をターゲットとするスパッタリングで堆積された酸化物半導体膜の表面粗さが大きくなり過ぎて実用的に問題を生じた。
【0022】
なお、結晶質GaZnOの断面積割合は、分析型走査電子顕微鏡を用いて求めることができる。より具体的には、導電性酸化物の試料断面に照射された入射電子ビームに起因してその断面から反射された電子(反射電子像)を観察する。そして、コントラストの異なる領域の蛍光X線分析を行なってGaZnO領域を特定することによって、断面に占めるGaZnO領域の面積割合を測定することができる。
【0023】
本発明の導電性酸化物に含まれるIn、GaおよびZnの原子濃度比において、Znの原子濃度比を1.0として規格化した場合に、Inの原子濃度比が1.5以上4以下の範囲内またはGaの原子濃度比が0.5以上3以下の範囲内であることが望ましい。Inの原子濃度比が1.5未満またはGaの原子比が3.0より大きい場合、導電性酸化物の電気抵抗が高くなりすぎて、スパッタリングのターゲットとしての実用に適さなかった。他方、導電性酸化物におけるInの原子濃度比が4より大きくまたはGaの原子濃度比が0.5未満の場合には、その導電性酸化物をターゲットとして用いてスパッタリングで堆積された酸化物半導体膜の電気特性が経時変化し、その酸化膜は表示装置中の酸化物半導体膜としての実用に適さなかった。ここで、上述のIn、GaおよびZnの原子濃度比は、ICP発光分析により測定される濃度値(単位:atom%)を基にZnの濃度値で規格化したものである。
【0024】
また、本発明による導電性酸化物は、N、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Sn、およびBiから選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含めば、その導電性酸化物をスパッタリングすることによって堆積された酸化物半導体膜のエッチング速度が速くなることから好ましかった。
【0025】
そして、本発明による導電性酸化物は、スパッタリングで酸化物半導体膜を堆積する場合のターゲットとして好ましく用いることができる。
【0026】
本発明による導電性酸化物は、酸化亜鉛粉末と酸化ガリウム粉末とを含む第1の混合物を調製し、この第1の混合物を800℃以上1200℃未満で仮焼してGaZnO粒子を作製し、その後にこのGaZnO粒子と酸化インジュウム粒子とを混合または粉砕して混合することによって第2の混合物を調製し、この第2の混合物の成形体を作製し、そしてその成形体を1350℃以上1375℃以下の温度で焼成した焼結体として製造することができる。ここで、GaZnO粒子とIn2O3粒子を混合した成形体を焼結する場合、得られる焼結体に含まれるGaZnOの割合が焼結温度によって変化し、焼結温度が低ければGaZnOの割合が高くなる。以上のように製造された導電性酸化物をターゲットとしてスパッタリングで堆積された酸化物半導体膜は、高速でエッチングすることができる。
【0027】
なお、本発明による導電性酸化物において付加的に含まれるN、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Sn、またはBiの原子濃度は、堆積された膜についてのSIMS(2次イオン質量分析)で測定され得る。
【0028】
前述のように、本発明による導電性酸化物層は結晶質であり、その酸化物はスパッタリングのターゲットとして好ましく用いることができる。そして、本発明の導電性酸化物をターゲットとしてスパッタリングで酸化物半導体膜を堆積する場合、熱伝導率向上によってターゲット厚さを増大させることができ、ひいてはターゲット寿命を長くすることができるとともに、堆積された酸化物半導体膜のエッチング速度の増大が可能となる。
【0029】
ここで、「スパッタリングのターゲット」とは、スパッタリングで成膜するための材料をプレート状に加工したものや、当該プレート状の材料をバッキングプレート(ターゲット材を貼り付けるための裏板)に貼り付けたものなどの総称である。バッキングプレートは、無酸素銅、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、モリブデン、チタンなどの素材を基に作製することができる。
【0030】
上述のようなターゲットは、径が1cmのサイズから大型LCD(液晶表示装置)用のスパッタリングターゲットのように径が2mを超えるサイズに至るまで作製可能であり、その形状としては丸型、角型などが例示され得る。
【0031】
以下においては、本発明の導電性酸化物の製造方法についてより詳細に説明する。まず、導電性酸化物の原料粉末として、酸化インジウム(In)粉末、酸化ガリウム(Ga)粉末、酸化亜鉛(ZnO)粉末などを用いることができる。原料粉末の純度としては、99.9%以上の高純度であることが好ましい。
【0032】
準備された酸化ガリウム(Ga)と酸化亜鉛(ZnO)の原料粉末は、互いに混合され、第1の混合物が作製される。これら原料粉末の混合には、乾式と湿式の何れの混合方式を用いてもよい。具体的には、通常のボールミル、遊星ボールミル、ビーズミルなどを用いて混合され得る。また、湿式の混合方式を用いた場合の混合物の乾燥には、自然乾燥やスプレードライヤなどの乾燥方怯が好ましく用いられ得る。
【0033】
得られた第1の混合物は、仮焼される。このときの仮焼温度は、800℃以上1200℃未満であることが好ましい。その後、仮焼された第1の混合物に、In原料粉末がさらに混合され、第2の混合物が作製される。この際の混合方法としても、上記第1の混合物の場合と同じ方法を採用することができる。
【0034】
その後、第2の混合物の成形体を作製し、その成形体が焼成されて焼結体にされる。この際の焼結温度は、1350℃以上1375℃以下であることが好ましい。
【0035】
なお、焼成の雰囲気については、大気雰囲気、酸素雰囲気、窒素−酸素混合雰囲気などが好ましく用いられ得る。また、焼成時のZnOの蒸発を抑制するために、CIP(冷間静水圧処理)、加圧ガス中の焼成、ホットプレス焼成、HIP(熱間静水圧処理)焼結などを利用してもよい。
【0036】
以上のような工程を実施することにより、本発明による導電性酸化物を製造することができる。
【0037】
本発明による以下の種々の実施例においては、スパッタリングのターゲットとしての種々の導電性酸化物を作製し、それらの熱伝導率が測定された。また、それらの導電性酸化物をターゲットとして用いてスパッタリングで酸化物半導体膜を堆積し、リン酸−酢酸の混酸溶液を用いたウエットエッチングとガスを用いたドライエッチングを実施して酸化物半導体膜のエッチング速度が求められた。
【0038】
(実施例1〜4)
ステップ1:原料粉末の粉砕混合
Ga粉末(純度99.99%、BET比表面積11m/g)およびZnO粉末(純度99.99%、BET比表面積4m/g)が、ボールミル装置を用いて3時間粉砕混合され、第1の混合物としてのGa−ZnO混合物が作製された。この際のmol混合比率は、Ga:ZnO=1:1である。なお、粉砕混合の際の分散媒としては、水が用いられた。粉砕混合後の第1の混合物は、スプレードライヤで乾燥された。
【0039】
ステップ2:仮焼
得られた第1の混合物はアルミナ製ルツボに入れられ、大気雰囲気中で900℃の温度にて5時間の仮焼が行なわれ、こうして結晶質GaZnOからなる仮焼粉体が得られた。
【0040】
ステップ3:In粉末との粉砕混合
得られたGaZnO仮焼粉体とIn粉末(純度99.99%、BET比表面積5m/g)とが、ボールミル装置を用いて6時間粉砕混合され、これによって第2の混合物としてのGaZnO−In混合物が作製された。この際のmol混合比率は、GaZnO:In=1:1である。なお、この際の粉砕混合の分散媒としても、水が用いられた。粉砕混合後の第2の混合物も、スプレードライヤで乾燥された。
【0041】
ステップ4:成形および焼結
得られた第2混合物であるGaZnO−In混合粉体をプレスにより成形し、さらにCIPにより加圧成形し、直径100mmで厚さ約9mmの円板状の成形体を得た。得られた成形体を酸素中雰囲気にて所定温度で5時間焼成し、これによって焼結体が得られた。なお、このときの実施例1〜4に関するそれぞれの焼結温度は、表1にまとめて示されている。
【0042】
【表1】

【0043】
ステップ5:熱伝導率の測定
得られた焼結体から8mm径で厚さ2mmのサンプルが採取され、レーザフラッシュ法にて熱伝導率が測定された。この測定は大気中で常温にて行なわれ、サンプル表面からレーザを照射して、裏面の温度履歴から熱伝導率が算出された。実施例1〜4に関して得られた熱伝導率は、後述の比較例1の熱伝導率を1として規格化されて、表1においてまとめて示されている。
【0044】
表1においては、焼結された導電性酸化物に含まれるIn、GaおよびZnの原子濃度比は、ICP発光分析で測定される濃度値(単位:atom%)を基に、Znの原子濃度比を1.0として規格化されて示されている。
【0045】
ステップ6:X線回折測定
また、得られた焼結体の一部からサンプルを採取して、粉末X線回折法によって結晶解析が行なわれた。X線としてはCuのKα線が用いられ、回折角2θと回折強度Iが測定された。
【0046】
ステップ7:ターゲットの作製
得られた焼結体は、直径3インチ(76.2mm)で厚さ5.0mmのターゲットに加工された。
【0047】
ステップ8:スパッタリング法による成膜
得られたターゲットを用いたスパッタリング法にて、酸化物半導体膜が堆積された。スパッタリング法としては、DC(直流)マグネトロンスパッタ法が用いられた。このとき、ターゲットの直径3インチの平面がスパッタ面であった。
【0048】
まず、スパッタリング装置の成膜室内において、水冷している基板ホルダ上に、成膜用基板として25mm×25mm×0.6mmの合成石英ガラス基板が配置された。このとき、ガラス基板上の一部領域が金属マスクによって覆われた。ターゲットは基板に対向して配置され、基板とターゲットとの距離は40mmであった。その後、成膜室内が、1×10−4Pa程度まで真空引きされ、ターゲットのプレスパッタが行なわれた。具体的には、基板とターゲットとの間にシャッターを入れた状態で、成膜室内へArガスを1Paの圧力まで導入し、30Wの直流電力を印加してスパッタリング放電を起こし、これによってターゲット表面のクリーニング(プレスパッタ)が10分間行なわれた。
【0049】
その後、流量比で0.5%の酸素ガスを含むArがスを成膜室内へ所定の圧力まで導入し、50Wのスパッタ電力で1時間の成膜が行なわれた。なお、基板ホルダに対しては、特にバイアス電圧は印加されておらず、水冷がされているのみであった。成膜後に基板を成膜室から取り出したところ、基板上において金属マスクで覆われていなかった領域のみにIn−Ga−Zn−O膜が形成されていた。そして、基板上において金属マスクに覆われて膜が形成されなかった領域とそれ以外で膜が形成された領域との間の段差を触針式表面粗さ計で測定することによって、堆積された膜の厚さが求められた。
【0050】
ステップ9:エッチング
その後、リン酸:酢酸:水=4:1:100のエッチング水溶液を調製し、In−Ga−Zn−O膜が形成された石英ガラス基板をそのエッチング液内に浸漬させた。このとき、エッチング液は、ホットバス内で50℃に昇温されていた。浸漬時間を2分に設定し、その間にエッチングされずに残った膜の厚さを触針式の表面粗さ計にて測定した。成膜直後の膜厚とエッチング後に残った膜の厚さとの差をエッチング時間で割ったものが、エッチング速度と判断された。実施例1〜4におけるエッチング速度は、比較例1のエッチング速度を1として規格化されて表1に示されている。
【0051】
(実施例5)
実施例5においても、前述のステップ1と2は実施例1〜4の場合と同様である。しかし、実施例5においては、ステップ3と4が部分的に変更されたことにおいて、実施例1〜4と異なっている。すなわち、実施例5においては、前述のステップ3と4が下記のステップ3aと4aのように部分的に変更された。
【0052】
ステップ3a:In粉末およびGaN粉末との粉砕混合
ステプ2の仮焼によって得られたGaZnO粉体とIn(純度99.99%、BET比表面積5m/g)粉末およびGaN(純度99.99%、BET比表面積2m/g)とが、ボールミル装置を用いて6時間粉砕混合された。このときのmol混合比率は、GaZnO:In:GaN=1:1:0.05であった。なお、分散媒には水が用いられ、粉砕混合後の混合物はスプレードライヤで乾燥された。
【0053】
ステップ4a:成形および焼結
次に、得られたGaZnO−In−GaN混合粉体をプレスにより成形し、さらにCIPにより加圧成形し、直径100mmで厚さ約9mmの円板状の成形体を得た。得られた成形体は、1気圧のN雰囲気中において1375℃で5時間焼成することによって焼結体にされた。得られた焼結体は、直径が80mmに収縮し、厚さは約7mmに収縮していた。
【0054】
その後の実施例5におけるステップ5から9に関する条件は実施例1〜4の場合と同様であり、実施例5に関する結果も表1に示されている。
【0055】
(実施例6〜18)
実施例6〜18におけるターゲットは、基本的には実施例1〜4におけるターゲットと同様に製造されたが、ステップ3におけるGaZnO粉体とIn粉末との粉砕混合において、添加元素を含む酸化物粉体(Al、SiO、TiO、V、Cr、ZrO、Nb、MoO、HfO、Ta、WO、SnO、Bi)が付加されて粉砕混合された点が異なっていた。添加元素の酸化物が、Al、Cr、Nb、Ta、またはBiである場合、mol混合比率はGaZnO:In:添加元素の酸化物=1:1:(0.1以下0.01以上)である。また、添加元素の酸化物が、SiO、TiO、ZrO、MoO、HfO、WO、またはSnOである場合、mol混合比率はGaZnO:In:添加元素の酸化物=1:1:(0.2以下0.02以上)である。以上のような実施例6〜18に関する結果も、表1にまとめて示されている。
【0056】
(実施例19)
実施例19におけるのターゲットも、基本的には実施例1〜4におけるターゲットと同様に製造されたが、ステップ3におけるIn粉末との粉砕混合において、仮焼で得られたGaZnO粉体がIn紛体およびInGaO紛体と粉砕混合されたことのみにおいて異なっていた。このときのmol混合比率は、GaZnO:In:InGaO=1:1:1であった。このような実施例19に関する結果も、表1に示されている。なお、添加元素の原子濃度は、スパッタリングで堆積された膜をSIMSで分析することによって、1cm当りの原子数(atom/cc)として求められた。
【0057】
(実施例20)
実施例20におけるターゲットも、基本的には実施例1〜4におけるターゲットと同様に製造されたが、ステップ3におけるIn粉末との粉砕混合において、仮焼で得られたGaZnO粉体がIn紛体およびInZn紛体と粉砕混合されたことのみにおいて異なっていた。このときのmol混合比率は、GaZnO:In:InZn=1:4:1であった。このような実施例20に関する結果も、表1に示されている。
【0058】
(比較例1)
従来の導電性酸化物に相当する比較例1においては、その作製方法が少し変更されていた。具体的には、以下のステップ1b〜3bを経て作製された。
【0059】
ステップ1b:原料粉末の粉砕混合
このステップ1bは、前述のステップ1に比べて、In粉末(純度99.99%、BET比表面積5m/g)が最初からGa粉末およびZnO粉末に付加されて粉砕混合されることのみにおいて異なっていた。
【0060】
ステップ2b:仮焼
ステップ1bで得られた混合粉末は、前述のステップ2の場合と同様の条件で仮焼され、それによって仮焼粉体が得られた。
【0061】
ステップ3b:成形および焼結
ステップ2bで得られた仮焼粉体は一軸加圧成形によって成形され、直径100mmで厚さ約9mmの円板状の成形体が得られた。この成形体は酸素雰囲気中において1500℃で5時間焼成され、これよってInGaZnO焼結体が得られた。
【0062】
その後、この比較例1で得られた焼結体においても、前述のステップ5と同様にして熱伝導率の測定され、ステップ6と同様にしてX線測定され、ステップ7と同様にしてターゲットが作製され、ステップ8と同様にしてスパッタリング成膜し、そしてステップ9と同様にしてエッチング速度が測定された。比較例1におけるこれらの結果も、表1にまとめて示されている。なお、表1から分かるように、比較例1による導電性酸化物は非晶質であって、X線測定において明瞭な回折ピークは現れなかった。
【0063】
(比較例2)
比較例2の導電性酸化物ターゲットは、基本的には実施例1〜4のターゲットと同様に製造されたが、導電性酸化物の焼結時の温度が1390℃に高く設定されたことのみにおいて異なっていた。この比較例2に関する結果も、表1において示されている。
【0064】
以上のように表1にまとめて示された結果から明らかなように、本発明の条件を満たす実施例1〜20による導電性酸化物のターゲットは、比較例1および2に比べて高い熱伝導率を有し、かつ堆積された膜のエッチング速度を向上させ得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明による導電性酸化物は、スパッタリング成膜のターゲットとして好ましく用いることができ、そのターゲットの熱伝導率の向上によって長寿命化が可能であり、またそのターゲットを用いてスパッタリング堆積された酸化物半導体膜のエッチング速度の向上をも可能にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−p(0≦m<1、0≦q<1、0≦p≦3m+q)と結晶質GaZnOとを含み、
粉末X線回折法を適用したときに、最大の回折強度を有するaピークの回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内にあり、かつ第2位の回折強度を有するbピークの回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内にあり、そして前記aピークに対する前記bピークの回折強度比Ib/Iaが0.1以上1.0以下であることを特徴とする導電性酸化物。
【請求項2】
回折角2θが35.0°以上37.0°以下の範囲内において前記bピークとは異なるcピークを生じることを特徴とする請求項1に記載の導電性酸化物。
【請求項3】
前記導電性酸化物においてZnの原子濃度比を1として規格化した場合に、Inの原子濃度比が1.5以上4以下であり、またはGaの原子濃度比が0.5以上3以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性酸化物。
【請求項4】
前記導電性酸化物の断面積に占める前記結晶質GaZnOの割合が、20%以上60%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の導電性酸化物。
【請求項5】
N、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Sn、およびBiから選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の導電性酸化物。
【請求項6】
スパッタリング法のターゲットに用いられることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の導電性酸化物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の導電性酸化物を製造するための方法であって、酸化亜鉛粉末と酸化ガリウム粉末を含む第1の混合物を調製し、前記第1の混合物を800℃以上1200℃未満の温度で仮焼してGaZnO粒子を作製し、その後に酸化インジュウム粒子と前記GaZnO粒子とを混合または粉砕して混合することによって第2の混合物を調製し、前記第2の混合物の成形体を作製し、前記成形体を1350℃以上1375℃以下の温度で焼結する工程を含むことを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2011−195405(P2011−195405A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65883(P2010−65883)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】