説明

導電性高分子の製造方法、導電性高分子有機溶剤溶液の製造方法

【課題】有機溶剤に容易に溶解可能で不純物の少ない導電性高分子を容易に且つ高生産性で製造できる導電性高分子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の導電性高分子の製造方法は、π共役系導電性高分子の前駆体モノマーを、ポリアニオンを含むポリアニオン水溶液中で酸化剤を用いて重合して、ポリアニオンがπ共役系導電性高分子にドープした導電性高分子を含む導電性高分子水溶液を得る重合工程、前記導電性高分子水溶液に、有機溶剤と、炭素数19以上の3級アミンまたは炭素数13以上の2級アミンからなるアミン化合物とを添加して、導電性高分子を析出させる析出工程、析出させた導電性高分子を回収する回収工程を有する。析出工程では、有機溶剤とアミン化合物とを添加した後に、水を添加することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子の製造方法および導電性高分子有機溶剤溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等のπ共役系導電性高分子は、導電材料として工業的にも使用されるようになってきた。
π共役系導電性高分子の製造方法としては、ポリスチレンスルホン酸等のポリアニオンの存在下、π共役系導電性高分子の前駆体モノマーを、酸化剤を用いて重合する方法が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法で得られるものは、π共役系導電性高分子にポリアニオンがドープされた導電性高分子の水溶液である。
しかしながら、水溶液を塗布して塗膜を形成する場合には乾燥時間が長くなる傾向にあった。また、多くの樹脂は親油性であるから、樹脂フィルムに導電性高分子水溶液を塗布した場合には、形成される導電性塗膜の樹脂フィルムに対する密着性が低かった。そのため、有機溶剤中にπ共役系導電性高分子を溶解させた導電性高分子の有機溶剤溶液が求められていた。
特許文献2には、導電性高分子の有機溶剤溶液の製造方法として、導電性高分子水溶液に、有機溶剤および沈殿剤を添加してゲル状膨潤物を得た後、該ゲル状膨潤物に有機溶剤および分散剤を添加する方法が開示されている。
特許文献3には、導電性高分子の有機溶剤溶液の製造方法として、導電性高分子水溶液に、アミンを添加して溶剤を減圧除去し、導電性高分子の固形物を製造した後、有機溶剤を加える方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2636968号公報
【特許文献2】特開2008−45116号公報
【特許文献3】特開2008−45061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、ゲル状膨潤物の有機溶剤溶解性が低いため、導電性高分子有機溶剤溶液を得ることは困難であった。導電性高分子有機溶剤溶液が得られた場合でも、重合の際に用いた酸化剤に由来する金属イオン等の不純物が多くなる傾向にあった。
また、特許文献3に記載の方法では、導電性高分子水溶液を製造する際に用いる酸化剤を除去するために、限外ろ過等の精製工程が必要となり、多量の水と時間を必要とし、生産性が低かった。
そこで、本発明は、有機溶剤に容易に溶解可能で不純物の少ない導電性高分子を容易に且つ高生産性で製造できる導電性高分子の製造方法を提供することを目的とする。また、不純物の少ない導電性高分子の有機溶剤溶液を容易に且つ高生産性で製造できる導電性高分子有機溶剤溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、特許文献2に記載の方法により得られる導電性高分子のゲル状膨潤物は有機溶剤に溶解しにくいことを見出した。そして、有機溶剤に溶解しやすい導電性高分子を製造する方法について検討した結果、以下の導電性高分子の製造方法および導電性高分子有機溶剤溶液の製造方法を発明した。
【0006】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]π共役系導電性高分子の前駆体モノマーを、ポリアニオンを含むポリアニオン水溶液中で酸化剤を用いて重合して、ポリアニオンがπ共役系導電性高分子にドープした導電性高分子を含む導電性高分子水溶液を得る重合工程、前記導電性高分子水溶液に、有機溶剤と、炭素数19以上の3級アミンまたは炭素数13以上の2級アミンからなるアミン化合物とを添加して、導電性高分子を析出させる析出工程、析出させた導電性高分子を回収する回収工程を有することを特徴とする導電性高分子の製造方法。
[2]析出工程では、有機溶剤とアミン化合物とを添加した後に、水を添加することを特徴とする[1]に記載の導電性高分子の製造方法。
[3]有機溶剤がアセトンであることを特徴とする[1]または[2]に記載の導電性高分子の製造方法。
[4]アミン化合物がトリオクチルアミンであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の導電性高分子の製造方法。
[5][1]〜[4]のいずれか1項に記載の導電性高分子の製造方法により製造した導電性高分子に有機溶剤を添加することを特徴とする導電性高分子有機溶剤溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性高分子の製造方法によれば、有機溶剤に容易に溶解可能で不純物の少ない導電性高分子を容易に且つ高生産性で製造できる。
また、本発明の導電性高分子有機溶剤溶液の製造方法によれば、不純物の少ない導電性高分子の有機溶剤溶液を容易に且つ高生産性で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<導電性高分子>
本発明の導電性高分子の製造方法により製造される導電性高分子は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含有し、π共役系導電性高分子にポリアニオンが配位してドープしたものである。
【0009】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば使用できる。例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、およびこれらの共重合体等が挙げられる。重合の容易さ、空気中での安定性の点からは、ポリピロール類、ポリチオフェン類およびポリアニリン類が好ましい。
π共役系導電性高分子は無置換のままでも、充分な導電性を得ることができるが、導電性をより高めるためには、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基等の官能基をπ共役系導電性高分子に導入することが好ましい。
【0010】
このようなπ共役系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0011】
中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)から選ばれる1種または2種からなる(共)重合体が抵抗値、反応性の点から好適に用いられる。さらには、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、導電性がより高い上に、耐熱性が向上する点から、より好ましい。
【0012】
(ポリアニオン)
ポリアニオンとしては、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。
【0013】
ポリアニオンのアニオン基としては、−O−SO、−SO、−COO(各式においてXは水素イオン、アルカリ金属イオンを表す。)が挙げられる。すなわち、ポリアニオンは、スルホ基および/またはカルボキシ基を含有する高分子酸である。これらの中でも、π共役系導電性高分子へのドーピング効果の点から、−SO、−COOが好ましい。
また、このアニオン基は、隣接してまたは一定間隔をあけてポリアニオンの主鎖に配置されていることが好ましい。
【0014】
上記ポリアニオンの中でも、溶媒溶解性および導電性の点から、ポリイソプレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸を含む共重合体、ポリスルホメタクリル酸エチル、ポリスルホメタクリル酸エチルを含む共重合体、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)を含む共重合体、ポリメタリルオキシベンゼンスルホン酸、ポリメタリルオキシベンゼンスルホン酸を含む共重合体、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸を含む共重合体等が好ましい。
【0015】
ポリアニオンの重合度は、モノマー単位が10〜100,000個の範囲であることが好ましく、溶媒溶解性および導電性の点からは、50〜10,000個の範囲がより好ましい。
【0016】
ポリアニオンの含有量は、π共役系導電性高分子1モルに対して0.1〜10モルの範囲であることが好ましく、1〜7モルの範囲であることがより好ましい。ポリアニオンの含有量が0.1モルより少なくなると、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがある。また、ポリアニオンの含有量が10モルより多くなると、π共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0017】
<導電性高分子の製造方法>
本発明の導電性高分子の製造方法は、導電性高分子水溶液を得る重合工程と、導電性高分子を析出させる析出工程と、析出させた導電性高分子を回収する回収工程とを有する。
【0018】
(重合工程)
重合工程は、π共役系導電性高分子の前駆体モノマーをポリアニオン水溶液中で酸化剤を用いて重合して、導電性高分子水溶液を得る工程である。
【0019】
π共役系導電性高分子の前駆体モノマーとしては、例えば、ピロール類及びその誘導体、チオフェン類及びその誘導体、アニリン類及びその誘導体等が挙げられる。
前駆体モノマーの具体例としては、ピロール、N−メチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−プロピルピロール、3−ブチルピロール、3−オクチルピロール、3−デシルピロール、3−ドデシルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジブチルピロール、3−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシエチルピロール、3−メチル−4−カルボキシブチルピロール、3−ヒドロキシピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−ブトキシピロール、3−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−オクタデシルチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ヨードチオフェン、3−シアノチオフェン、3−フェニルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジブチルチオフェン、3−ヒドロキシチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−ブトキシチオフェン、3−ヘキシルオキシチオフェン、3−ヘプチルオキシチオフェン、3−オクチルオキシチオフェン、3−デシルオキシチオフェン、3−ドデシルオキシチオフェン、3−オクタデシルオキシチオフェン、3,4−ジヒドロキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェン、3,4−ジブトキシチオフェン、3,4−ジヘキシルオキシチオフェン、3,4−ジヘプチルオキシチオフェン、3,4−ジオクチルオキシチオフェン、3,4−ジデシルオキシチオフェン、3,4−ジドデシルオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン、3,4−ブテンジオキシチオフェン、3−メチル−4−メトキシチオフェン、3−メチル−4−エトキシチオフェン、3−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン、3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン、アニリン、2−メチルアニリン、3−イソブチルアニリン、2−アニリンスルホン酸、3−アニリンスルホン酸等が挙げられる。
【0020】
酸化剤としては、例えば、ぺルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム)、ぺルオキソ二硫酸ナトリウム(過硫酸ナトリウム)、ぺルオキソ二硫酸カリウム(過硫酸カリウム)等のぺルオキソ二硫酸塩、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物、三フッ化ホウ素などの金属ハロゲン化合物、酸化銀、酸化セシウム等の金属酸化物、過酸化水素、オゾン等の過酸化物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、酸素等が挙げられる。
【0021】
得られる導電性高分子水溶液における導電性高分子の含有率は、0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.1〜2.0質量%であることがより好ましい。導電性高分子の含有率が前記下限値以上であれば、析出工程にて導電性高分子を容易に析出させることができ、前記上限値以下であれば、導電性高分子水溶液の安定性を確保できる。
【0022】
(析出工程)
析出工程は、重合工程にて得た導電性高分子水溶液に、有機溶剤とアミン化合物とを添加して導電性高分子を析出させる工程である。
有機溶剤およびアミン化合物の添加方法は、有機溶剤を先に添加し、アミン化合物を後から添加する方法であってもよいし、アミン化合物を先に添加し、有機溶剤を後から添加する方法であってもよいし、有機溶剤とアミン化合物とを同時に添加する方法であってもよい。
有機溶剤とアミン化合物とを添加した後には、導電性高分子を容易に析出できることから、水を添加することが好ましい。
【0023】
[有機溶剤]
析出工程にて、導電性高分子水溶液に添加する有機溶剤としては、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール)、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。上記有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記有機溶剤の中でも、導電性高分子を容易に析出できることから、ケトン類が好ましく、アセトンがより好ましい。
【0024】
導電性高分子への有機溶剤の添加量は、導電性高分子水溶液を100質量%とした際の10〜300質量%とすることが好ましく、20〜100質量%とすることがより好ましい。有機溶剤の添加量が前記下限値以上であれば、導電性高分子の析出性が高くなり、固形物を確実に得ることができる。しかし、前記上限値を超えても、析出性の向上効果は頭打ちとなるから、無益である。
【0025】
[アミン化合物]
本発明におけるアミン化合物は炭素数19以上の3級アミンまたは炭素数13以上の2級アミンからなる。炭素数19未満の3級アミンまたは炭素数13未満の2級アミンを用いた場合には、導電性高分子を析出させて固形物を得ることが困難になる。
炭素数19以上の3級アミンとしては、例えば、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、トリウンデシルアミン、トリドデシルアミン、ジデシルメチルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジドデシルメチルアミン、N,N-ジベンジルアニリンが挙げられる。
炭素数13以上の2級アミンとしては、例えば、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジヘプチルアミン等が挙げられる。
上記アミン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記アミン化合物の中でも、導電性高分子を容易に析出できることから、炭素数19以上のトリアルキルアミンが好ましく、トリオクチルアミンがより好ましい。
【0026】
導電性高分子水溶液へのアミン化合物の添加量は、導電性高分子水溶液を100質量%とした際の0.1〜50質量%とすることが好ましく、1〜20質量%とすることがより好ましい。アミン化合物の添加量が前記下限値以上であれば、導電性高分子の析出性が高くなり、固形物を確実に得ることができる。しかし、前記上限値を超えても、析出性の向上効果は頭打ちとなるから、無益である。
【0027】
(回収工程)
回収工程は、析出工程にて析出させた導電性高分子を回収する工程である。
回収方法としては、析出させた導電性高分子を含む混合液から、濾紙やフィルタ等を用いた濾過、デカンテーションなどにより導電性高分子を分取する方法が挙げられる。
【0028】
(作用効果)
上述した導電性高分子の製造方法では、導電性高分子水溶液に有機溶剤とアミン化合物とを添加することにより、導電性高分子の固形物を容易に且つ高生産性で析出させることができる。また、回収された導電性高分子の固形物は、導電性高分子水溶液由来の水分が少なく、有機溶剤に容易に溶解可能で不純物が少ない。具体的には、鉄及び硫酸イオンが5000ppm以下の導電性高分子の固形物を製造できる。
【0029】
<導電性高分子有機溶剤溶液の製造方法>
本発明の導電性高分子有機溶剤溶液の製造方法は、上記導電性高分子の製造方法により製造した導電性高分子に有機溶剤を添加する方法である。
【0030】
導電性高分子に添加する有機溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリル等の極性溶媒、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類、ギ酸、酢酸等のカルボン酸、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等を使用する。これらの有機溶剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよいし、他の有機溶剤との混合物としてもよい。
【0031】
本発明においては、導電性高分子有機溶剤溶液の導電性高分子含有率を0.01〜10質量%にすることが好ましく、0.1〜2.0質量%にすることがより好ましい。導電性高分子の含有率が前記下限値以上であれば、導電性高分子有機溶剤溶液から、導電性の高い導電性塗膜を容易に形成でき、前記上限値以下であれば、導電性高分子を有機溶剤に充分に溶解させることができる。
【0032】
導電性高分子有機溶剤溶液は、得られる導電性塗膜の耐傷性や表面硬度が高くなり、基材との密着性が向上することから、バインダ樹脂を含むことが好ましい。
バインダ樹脂としては、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂;エポキシ樹脂;キシレン樹脂;アラミド樹脂;ポリイミドシリコーン;ポリウレタン;ポリウレア;メラミン樹脂;フェノール樹脂;ポリエーテル;アクリル樹脂及びこれらの共重合体等が挙げられる。
バインダ樹脂の中でも、容易に混合できることから、ポリウレタン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリイミドシリコーンのいずれか1種以上が好ましい。
【0033】
有機溶剤を添加した後には、導電性高分子の分散性を向上させるために、分散処理を施すことが好ましい。分散処理では、高い剪断力を付与できる混合分散機を用いることが好ましい。混合分散機としては、例えば、ホモジナイザ、高圧ホモジナイザ、ビーズミル等が挙げられ、中でも、高圧ホモジナイザが好ましい。
高圧ホモジナイザの具体例としては、吉田機械興業製の商品名ナノマイザー、マイクロフルイディスク製の商品名マイクロフルイダイザー、スギノマシン製のアルティマイザーなどが挙げられる。
高圧ホモジナイザを用いた分散処理としては、例えば、分散処理を施す前の複合体溶液を高圧で対向衝突させる処理、オリフィスやスリットに高圧で通す処理等が挙げられる。
【0034】
導電性高分子有機溶剤溶液を基材等に塗布することにより導電性塗膜を形成できる。導電性高分子有機溶剤溶液の塗布方法としては、例えば、浸漬、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、グラビア印刷などが挙げられる。塗布後、加熱処理や紫外線照射処理により塗膜を硬化することが好ましい。
【0035】
上述した導電性高分子有機溶剤溶液の製造方法では、上記導電性高分子の製造方法により得た導電性高分子を有機溶剤に溶解させる方法であるため、不純物の少ない導電性高分子の有機溶剤溶液を容易に製造できる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
ポリスチレンスルホン酸水溶液(ポリスチレンスルホン酸の質量平均分子量:20万、固形分濃度:8.4質量%)9.9gに、3,4−エチレンジオキシチオフェン0.3g、水30.4gを添加し、攪拌した。さらに、過硫酸アンモニウム0.6gと硫酸第二鉄0.09gと水8.3gの混合物を添加し、2時間攪拌し、重合を行って、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸とを含む導電性高分子水溶液を得た。
導電性高分子水溶液にアセトン26.4gとトリオクチルアミン2.1gの混合液を添加し、30分間攪拌し、さらに水25gを添加し、攪拌して、導電性高分子の固形物を析出させ、沈殿させた。得られた沈殿物を濾過により回収し、残留する溶剤を、真空ポンプを用いて減圧除去して導電性高分子の固形物2.0gを得た。
得られた導電性高分子における鉄イオンと硫酸イオンの含有量を以下の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0037】
[鉄イオン量の測定方法]
1.導電性高分子の固形物の試料をポリ袋に入れ、ハンマーで叩いて砕いた。
2.砕いた試料0.1gに1:1塩酸を20ml加え、沸騰するまで加熱した後、冷却し、超純水で50mlに定容した。
3.得られた液をフィルタ(0.45μm)でろ過し、ICP−OES(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、ICP発光分光分析装置 iCAP 6500 Duo View)を用いて鉄イオン量を測定した。
[硫酸イオン量の測定方法]
1.上記1.で砕いた試料0.1gに超純水30mlを加え、30分間超音波振とうして抽出した。
2.抽出液をフィルタ(0.45μm)でろ過し、イオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス株式会社、イオンクロマトグラフ DX−120)を用いて、硫酸イオン量を測定した。
【0038】
(実施例2)
実施例1で得た導電性高分子の固形物0.3gにイソプロパノール100gを添加し、攪拌した後、高圧ホモジナイザを用いて分散処理を施して、導電性高分子のイソプロパノール溶液を得た。
得られた導電性高分子のイソプロパノール溶液を、#8のバーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性塗膜を形成した。導電性塗膜の表面抵抗値を、三菱化学社製ハイレスタを用いて測定した。測定結果を表2に示す。
【0039】
(実施例3)
イソプロパノールの代わりにメチルエチルケトンを導電性高分子の固形物に添加したこと以外は実施例2と同様にして、導電性高分子のメチルエチルケトン溶液を得た。また、実施例2と同様にして、導電性塗膜を形成し、表面抵抗値を測定した。測定結果を表2に示す。
【0040】
(実施例4)
トリオクチルアミンの添加量を5.25gとしたこと以外は実施例1と同様にして、導電性高分子を得た。導電性高分子における鉄イオンと硫酸イオンの含有量の測定結果を表1に示す。
【0041】
(実施例5)
実施例4で得た導電性高分子の固形物0.3gにイソプロパノール100gを添加し、攪拌した後、高圧ホモジナイザを用いて分散処理を施して、導電性高分子のイソプロパノール溶液を得た。また、実施例1と同様にして、導電性塗膜を形成し、表面抵抗値を測定した。測定結果を表2に示す。
【0042】
(実施例6)
イソプロパノールの代わりにメチルエチルケトンを導電性高分子の固形物に添加したこと以外は実施例5と同様にして、導電性高分子のメチルエチルケトン溶液を得た。また、実施例2と同様にして、導電性塗膜を形成し、表面抵抗値を測定した。測定結果を表2に示す。
【0043】
(実施例7)
トリオクチルアミンの添加量を7.9gとしたこと以外は実施例1と同様にして、導電性高分子を得た。導電性高分子における鉄イオンと硫酸イオンの含有量の測定結果を表1に示す。
【0044】
(実施例8)
実施例7で得た導電性高分子の固形物0.3gにイソプロパノール100gを添加し、攪拌した後、高圧ホモジナイザを用いて分散処理を施して、導電性高分子のイソプロパノール溶液を得た。また、実施例1と同様にして、導電性塗膜を形成し、表面抵抗値を測定した。測定結果を表2に示す。
【0045】
(実施例9)
イソプロパノールの代わりにメチルエチルケトンを導電性高分子の固形物に添加したこと以外は実施例8と同様にして、導電性高分子のメチルエチルケトン溶液を得た。また、実施例2と同様にして、導電性塗膜を形成し、表面抵抗値を測定した。測定結果を表2に示す。
【0046】
(比較例1)
アセトンおよびトリオクチルアミンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子を得ようとしたが、導電性高分子は析出しなかった。
【0047】
(比較例2)
トリオクチルアミンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子を得ようとしたが、アセトン添加後に生成したものはゲル状膨潤物であり、濾過による回収は困難であった。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
実施例1,4,7の方法では、導電性高分子の固形物が容易に得られ、しかも鉄イオンの含有量が少なかった。なお、導電性高分子には有機溶剤が添加されて希釈され、通常、その希釈倍率は100倍以上である(実施例2,3,5,6,8,9では333倍)。したがって、実施例1,4,7における鉄イオン含有量でも充分に少ない値である。
実施例2,3,5,6,8,9の導電性高分子有機溶剤溶液から形成された導電性塗膜は、充分な導電性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子の前駆体モノマーを、ポリアニオンを含むポリアニオン水溶液中で酸化剤を用いて重合して、ポリアニオンがπ共役系導電性高分子にドープした導電性高分子を含む導電性高分子水溶液を得る重合工程、
前記導電性高分子水溶液に、有機溶剤と、炭素数19以上の3級アミンまたは炭素数13以上の2級アミンからなるアミン化合物とを添加して、導電性高分子を析出させる析出工程、
析出させた導電性高分子を回収する回収工程を有することを特徴とする導電性高分子の製造方法。
【請求項2】
析出工程では、有機溶剤とアミン化合物とを添加した後に、水を添加することを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子の製造方法。
【請求項3】
有機溶剤がアセトンであることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性高分子の製造方法。
【請求項4】
アミン化合物がトリオクチルアミンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性高分子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性高分子の製造方法により製造した導電性高分子に有機溶剤を添加することを特徴とする導電性高分子有機溶剤溶液の製造方法。

【公開番号】特開2012−144640(P2012−144640A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3986(P2011−3986)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】