説明

導電性高分子微粒子分散体及びそれを用いる導電性塗料

【課題】導電性高分子微粒子分散体及びそれを用いた導電性塗料の提供
【解決手段】水中において、導電性高分子を形成するモノマーを反応性乳化剤の存在下で化学酸化重合することにより得られる、導電性高分子微粒子分散体であって、導電性高分子を形成するモノマーが重合したポリマー粒子の表面が、反応性乳化剤のポリマーで被覆されているか又は反応性乳化剤と反応性乳化剤と共重合可能なラジカル重合性モノマーとで共重合したポリマーで被覆されている導電性高分子微粒子分散体及び前記導電性高分子微粒子分散体を含有する導電性塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性塗料の原料等として使用できる導電性高分子微粒子分散体及び該導電性高分子微粒子分散体を用いる、基材に塗布する事ができる導電性塗料に関するものである。更に詳しくは、
1)長期貯蔵安定に優れ、
2)基材に塗布し乾燥させることにより、容易に基材との密着性に優れた導電層を形成でき、
3)形成された導電層は、薄膜で高い透明性を保持することができ、
4)該導電層は、高い耐摩耗性を有し、
5)更に、塗布した状態で湿度に依存せず低い抵抗値を保持できる
等の優れた特徴を有する導電性塗料及び該導電性塗料に使用する導電性高分子微粒子分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリピロールは、高い導電性能を有し、かつ空気中で安定であるので、導電性塗料、防錆塗料、半導体材料、コンデンサ用電解質、有機EL素子の正孔輸送材、二次電池用電極材などへの活用が期待されている。例えば、ピロールモノマーを水中に分散させて塩化第二鉄を触媒として重合させると、塩素アニオンをドーパントとして取り込んだポリピロールが容易に得られることが知られている。しかしながら、このような方法で得られるポリピロールは、黒色の粉末状の凝集体となり、あらゆる溶媒、水にも不溶であり、取り扱いは困難を極めている。また、該ポリピロールは加熱によって融解させることも不可能である事から、加熱による射出成形等の加工ができないなど、その利用分野は極めて限られていた。
【0003】
これらの成形加工性を改良する目的として、ポリピロール類を水中に微分散させ、見かけ上均一な水分散液を作る方法が提案されており、この方法としては、水溶性高分子であるPVAや界面活性剤を一種の分散安定剤として用いるポリピロール類水分散液の製造方法(例えば、特許文献1参照。)などがある。また、親水性溶媒に分散したポリピロール類の微粒子に親水性バインダー樹脂を混合し、得られた樹脂組成物を基材上に塗布することで導電性シートを作る方法も提案されており、この方法としては、導電性シートおよびその製造方法(例えば、特許文献2参照。)などがある。
【特許文献1】特公平7−78116号公報
【特許文献2】特開2001−334598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これら従来技術には、未だ解決できない幾つかの課題が残されている。例えば、特許文献1には、ポリピロール類を水に分散させ、ピロール類をPVAまたはPVAとノニオン界面活性剤若しくはアニオン界面活性剤から選ばれる1種または2種以上の界面活性剤の存在下に重合することを特徴とするポリピロール類水分散液の製造方法が開示されているが、この方法は、水、溶媒に不溶なポリピロール類をPVAのような水溶性高分子の分散作用、または界面活性剤等による界面張力の低下により、重合されたピロール類を単純に微粒子化するといった考えに基づいている。
【0005】
ここで用いられる水溶性高分子としては、PVAが主に使われているが、PVAの量としては、ピロールに対して2〜500質量%、好ましくは10〜200質量%とされており、実施例では、50ないし200質量部のピロールに対して多くのPVAが用いられて
いる為に、ここで得られた導電性分散液は、PET等のフィルム上に薄膜で塗布した場合、ここで用いられるPVAが導通を妨げる事から、低い抵抗値を得る事ができない。
従って、ここでは、得られたポリピロール均一水分散液を、基板に塗布した後に乾燥してフィルム化してその抵抗値を測定しているが、ポリピロールーPVA複合の膜をフィルム化するには数10μm以上の厚さが必要であり、この厚みでの透明性は全くなく、単な
る黒色の複合フィルムの抵抗値を評価しているにすぎないのである。
さらには、水溶性高分子であるPVAや界面活性剤を大量に含むことで、空気中の水分の影響によるイオン導電性が発現するため、抵抗値が湿度に依存して変化するという欠点があった。
【0006】
また、特許文献2には、樹脂シートを基材とし、該基材の少なくとも一方の面にポリピロール類微粒子を高分子分散剤および/またはドーパントを用いて親水性溶媒に分散し、更に親水性バインダー樹脂と混合した樹脂組成物を前記基材上に塗布後、溶媒を乾燥除去して導電性シートを形成する方法が開示されている。この方法は、ポリピロールおよび/またはポリピロール誘導体の微粒子を高分子分散剤および/またはドーパントを用いて親水性溶媒に分散させる工程、更に親水性バインダー樹脂を混合させる工程を経た後に、基材上に塗布し溶媒を乾燥除去させるため、塗工までの工程が多く、生産性に欠けるものである。
【0007】
この様に、従来の導電性高分子微粒子分散体を得る技術では、導電性塗料とした場合において、長期分散安定性、透明性、薄膜コーティング時の低抵抗値化に関して、未だ満足すべきものがなかったのである。また、これらの分散液をコーティングする際の工程も多く、生産性に欠けるものであった。
【0008】
従って、本発明の目的としては、上記課題を解決しうる、基材に塗布する事ができる導電性塗料及び該導電性塗料に使用する導電性高分子微粒子分散体を提供する事にあり、特に、
1)長期貯蔵安定に優れ、
2)基材に塗布し乾燥させることにより、容易に基材との密着性に優れた導電層を形成でき、
3)形成された導電層は、薄膜で高い透明性を保持することができ、
4)該導電層は、高い耐摩耗性を有し、
5)更に、塗布した状態で湿度に依存せず低い抵抗値を保持できる
等の優れた特徴を有する導電性塗料及び該導電性塗料に使用する導電性高分子微粒子分散体を極めて経済的に提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、水系中において、反応性乳化剤の存在下で、導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合する事で、さらには、該系内に反応性乳化剤と共重合可能な水溶性モノマー及び/又は親水性モノマーを加えて重合(化学酸化重合及びラジカル重合)を行う事で、上記課題を解決し得る導電性塗料に使用できる導電性高分子微粒子分散体が得られる事を見出し、本発明に至ったのである。
即ち、本発明は、水中において、導電性高分子を形成するモノマーを反応性乳化剤の存在下で化学酸化重合することにより得られる、導電性高分子微粒子分散体に関する。
また、本発明は、前記導電性高分子微粒子分散体を含有する導電性塗料に関する。
【0010】
本発明の好ましい態様は、
前記化学酸化重合と同時にラジカル重合を行う前記導電性高分子微粒子分散体、
前記導電性高分子を形成するモノマーが、ピロール、アニリン、チオフェン及びそれらの
誘導体よりなる群から選択される1種もしくは2種以上を含む前記導電性高分子微粒子分散体、
反応性乳化剤と共重合可能な水溶性モノマーを更に添加して重合する前記導電性高分子微粒子分散体、
前記導電性高分子微粒子分散体であって、導電性高分子を形成するモノマーが重合したポリマー粒子の表面が、反応性乳化剤のポリマーで被覆されているか又は反応性乳化剤と反応性乳化剤と共重合可能な水溶性モノマー及び/又は親水性モノマーとで共重合したポリマーで被覆されている導電性高分子微粒子分散体、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により得られる導電性高分子微粒子分散体は、粒径微小化、均一性、さらには水系中での長期安定性に大きな特徴が見られる。従来技術で得られた導電性複合粒子は、時間と共に重力による粒子の沈降などが生じ、分散安定性が極めて短時間で低下していた。また、見かけ微分散していると思われる粒子の場合、数時間の放置では安定であるものの、これ以上の時間放置しておくと、粒子同士が徐々に合一を始め、ある段階で急激に沈降してしまう現象が見られた。また、薄膜にコーティングする際に、新たにバインダー樹脂を添加する必要があり、透明性の低下、導電率の低下につながっていた。
【0012】
しかしながら、本発明の導電性高分子微粒子は、反応性乳化剤の導電性高分子を形成するモノマーが重合したポリマー粒子表面への強固な吸着により、粒子径が小さく、かつ均一な微粒子を形成することができ、また、反応性乳化剤が導電性高分子微粒子の表面を保護する形で被覆(付着)するため、少ない添加量にも関わらず、有効な立体安定化作用や静電安定化作用を示し、長期間分散安定性に優れた水分散体を得ることができるのである。また、前記のように反応性乳化剤がポリマー粒子表面に強固に吸着し、また、有効な立体安定化作用や静電安定化作用を示すことにより、得られた導電性高分子微粒子は、導電層として形成された際、高い耐摩耗性を示すことになる。
従って、本発明の導電性塗料は、上記の導電性高分子微粒子分散体を含有するので、所要の導電性及び基材との密着性の他、高い耐摩耗性を有する塗膜を形成することができる。
また、反応性乳化剤と共重合可能な水溶性モノマー及び/又は親水性モノマーを添加して重合(化学酸化重合及びラジカル重合)を行うと、導電性高分子の微粒子化と同時にポリマー粒子表面に被覆(付着)して形成された共重合体が、基材との密着性を向上させるバインダーとして作用するため、導電性を阻害し、また、透明性を低下させる成分となるバインダー樹脂を新たに添加する必要がなく、そのため、密着性、透明性に優れ、抵抗値の低い導電層が得られるのである。
また、上記導電層は、導電性微粒子の抵抗値の湿度依存性を引き起こす、過剰な水溶性高分子や界面活性剤を使用せず製造されるため、その抵抗値は湿度に依存しないものとなる。
更に、導電性微粒子の分散を損なわないバインダーの選定を新たに行う必要もなく、バインダーを加える工程もない事から、簡略化がはかれ生産性も向上するため、極めて経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明に使用する反応性乳化剤は、重合可能な置換基を有する乳化剤であり、重合可能な置換基としては、二重結合を有する置換基等が挙げられる。
本発明に使用する反応性乳化剤の具体例としては、以下に示す式(A)ないし式(F)で表される構造を有する化合物を含有するものが挙げられる。
【化1】

【化2】

好ましい化合物としては、nが10、MがSO3NH4である式(B)で表される化合物、m≒12である式(C)で表される化合物及び(E)で表される化合物が挙げられる。
【0014】
反応性乳化剤の使用量は、導電性高分子を形成するモノマーの使用量に対して、1〜500質量%の範囲であり、好ましくは5〜300質量%の範囲である。
【0015】
反応性乳化剤は、これを単独で用いる事もできるが、より好ましくは、反応系に反応性乳化剤と共重合可能な水溶性モノマー及び/又は親水性モノマーを共存させ、かつラジカル開始剤を共存させると、反応性乳化剤と前記水溶性モノマー及び/又は親水性モノマーとで共重合することも知られており、この共重合体が導電性高分子微粒子の分散性を安定に保つと同時に、バインダーとして作用し、これにより基材との密着性を向上させる事が可能となる。
尚、反応性乳化剤と共重合可能なモノマーとしては、水溶性、親水性のラジカル重合性モノマーであれば特に制限はなく、アクリル系モノマーやビニル系モノマーなどが挙げられ、特に好ましくはアクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、N−ビニルピロリドン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等が挙げられる。
【0016】
本発明で使用可能な導電性高分子を形成するモノマーとしては、ピロール、アニリン、
チオフェンおよびそれらの誘導体よりなる群から選択される1種もしくは2種以上である。
【0017】
例えば、ピロール誘導体としては、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フ
ェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール、3−フェニルナフチルアミノピロール等が挙げられる。また、アニリン誘導体としては、o−メチルアニリン、m−メチルアニリン、o−エチルアニリン、m−エチルアニリン、o−エトキシアニリン、m−ブチルアニリン、m−ヘキシルアニリン、m−オクチルアニリン、2,3−ジメチルアニリン、2,5−ジメチルアニリン、2,5−ジメトキシアニリン、o−シアノアニリン、2,5−ジクロロアニリン、2−ブロモアニリン、5−クロロ−2−メトキシアニリン、3−フェノキシアニリン等が上げられる。また、チオフェン誘導体としては、3−メチルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ステアリルチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−メトキシジエトキシメチルチオフェン、3−フェニルチオフェン、3−ベンジルチオフェン、3−メチル−4−フェニルチオフェン等が挙げられる。好ましくは、ピロール、チオフェン及びアニリンが挙げられ、特に好ましくは、ピロールが挙げられる。
【0018】
また、導電性高分子を形成するモノマーの化学酸化重合時に用いられる水溶液中の導電性高分子を形成するモノマーの濃度は、0.01から5質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.1から2質量%の範囲が挙げられる。
【0019】
本発明で用いられる、化学酸化重合の触媒となる酸化剤としては、ピロール、アニリン、チオフェンおよびそれらの誘導体を化学酸化重合し得るものであれば特に制限はなく、例えば、硫酸、塩酸、硝酸およびクロロスルホン酸のような無機酸、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルナフタレンスルホン酸のような有機酸、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムおよび過酸化水素のような過酸化物、塩化第二鉄、塩化アルミニウムなどの金属ハロゲン化物、沃素酸、過塩素酸カリウムなどのハロゲン酸及びその塩、過マンガン酸カリウムなどの遷移金属化合物などが使用できる。これらは、単独または混合して用いてもよい。
【0020】
好ましい酸化剤としては、ラジカル開始剤としての活性を併せ持ち、そのため、導電性高分子を形成するモノマーを酸化重合すると同時に、反応性乳化剤と該反応性乳化剤と共重合可能な水溶性モノマー及び/又は親水性モノマーを共重合(ラジカル重合)することができる、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩が挙げられる。
【0021】
また、上記で挙げられた酸化剤に加えてラジカル開始剤を添加することもでき、該ラジカル開始剤としては、例えば、2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4´−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ベンゾイルパーオキシド(BPO)等が挙げられる。
【0022】
使用する酸化剤の量は、導電性高分子を形成するモノマー1モルに対して0.01から7モル程度、好ましくは0.1から4モル程度である。
ラジカル開始剤を使用する際の使用量としては、上記酸化剤の使用量と同様の使用量が挙げられる。
【0023】
上記の他に、重合に際して、ドーピング剤(ドーパント)を共存させることによってドーピングされた重合体を得る事ができる。本発明では、酸化剤の一部が導電性高分子微粒子に取り込まれて、該導電性高分子微粒子をより低抵抗とするドーパントとしての役割を果たす場合もあるが、積極的にドーパントを入れる事も可能である。用いられるドーパントとしては、一般に使用されるアクセプター性のドーパントなら全て使用できる。アクセプタ−性のドーパントとしては、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン類、五フッ化リン等のルイス酸、塩化水素、硫酸等のプロトン酸、塩化第二鉄等の遷移金属塩化物、過塩素酸銀、フッ化ホウ素銀等の遷移金属化合物等が挙げられる。
【0024】
導電性高分子微粒子分散体の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)水(例えばイオン交換水)に導電性高分子を形成するモノマー、反応性乳化剤及び所望により反応性乳化剤と共重合可能な水溶性モノマー及び/又は親水性モノマー、また、所望によりドーパントを添加して混合攪拌する工程、
(b)上記で調製した水溶液に、酸化剤及び所望によりラジカル開始剤を添加し、所望により加熱することにより化学酸化重合(場合により、化学酸化重合及びラジカル重合)し、導電性高分子微粒子分散体を製造する工程。
【0025】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができ、また、化学酸化重合は超音波照射下で行うこともできる。
【0026】
上記の製造法により得られる導電性高分子微粒子は、主として導電性高分子を形成するモノマーが重合したポリマー粒子の表面上が、反応性乳化剤のポリマーにより被覆されるか又は反応性乳化剤と反応性乳化剤と共重合可能な水溶性モノマー及び/又は親水性モノマーとで共重合したポリマーにより被覆された微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径(平均粒子径が0.5μm未満)と、水中で長期間安定に分散可能であり、導電層として形成された際に、優れた密着性及び高い耐摩耗性を示すことである。
【0027】
上記で得られた導電性高分子微粒子分散体は、そのまま導電性塗料として使用することができる。
また、必要に応じてバインダー等を加えて、導電性塗料として使用することもできる。尚、使用するバインダーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フ
ェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン樹
脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
上記に記載した方法により得られた導電性塗料は、慣用の方法で基材上にコーティングし、必要に応じて加熱を行って、乾燥させることによって容易に基材上に導電層を形成させることができる。
従って、本発明の製造方法により得られた導電性高分子微粒子分散体は、導電性塗料、防錆塗料、半導体材料、コンデンサ用電解質、有機EL素子の正孔輸送材、二次電池用電極材として有用である。
【0028】
本発明で得られる導電性高分子微粒子水分散体は、長期間安定して分散状態を保持することが可能であり、経時により粒径が変化することはない。そして、導電層として形成された際に、高い耐摩耗性を示す。また、化学酸化重合(場合により、化学酸化重合及びラ
ジカル重合)に際し、ドーパントを共存させることによって、更なる導電性能の向上も可能である。更には、導電性高分子微粒子水分散体を基材上にコーティングした際、反応性乳化剤と共重合したポリマーが基材との密着性を向上させるバインダーとして作用し、それにより、別途バインダーを添加する必要がなく、そのため、密着性、透明性に優れた、抵抗値の低い導電性薄膜が得られるものである。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
尚、実施例で使用した反応性乳化剤(反応性乳化剤AないしC)の商品名及び化学構造を表1に示した。
表1
【表1】

【0030】
実施例1
イオン交換水40gにピロール65mgと反応性乳化剤A 0.15gを加えて10分撹拌し、過硫酸アンモニウム(0.19M)10mLを添加して、反応温度60℃で24時間重合反応を行った。黒色の導電性高分子微粒子の水分散体を得た。
【0031】
実施例2
イオン交換水20gにアクリロニトリル40mgを溶解させ、これに、イオン交換水10gにピロール65mgと反応性乳化剤A 0.15gをそれぞれ溶解させたものを加え、過硫酸アンモニウム(0.19M)10mLを添加して、反応温度60℃で24時間重合反応を行った。黒色の導電性高分子微粒子の水分散体を得た。
【0032】
実施例3
イオン交換水40gにピロール65mgと反応性乳化剤B 0.375g(有効成分0.15g)を加えて10分撹拌し、過硫酸アンモニウム(0.19M)10mLを添加して、反応温度60℃で24時間重合反応を行った。黒色の導電性高分子微粒子の水分散体を得た。
【0033】
実施例4
イオン交換水40gにピロール65mgと反応性乳化剤A 0.15gを加えて10分
撹拌し、過硫酸アンモニウム(0.19M)10mLを添加して、反応温度25℃で24時間重合反応を行った。黒色の導電性高分子微粒子の水分散体を得た。
【0034】
実施例5
導電性高分子を形成するモノマーとして、アニリンを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0035】
実施例6
イオン交換水20gにアクリロニトリル40mgを溶解させ、これに、イオン交換水10gにピロール65mgと反応性乳化剤C 0.167g(有効成分0.15g)をそれぞれ溶解させたものを加え、過硫酸アンモニウム(0.19M)10mLを添加して、反応温度60℃で24時間重合反応を行った。黒色の導電性微粒子水分散体を得た。
【0036】
比較例1
反応性乳化剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様に行った。ポリピロールの凝集体が得られ、水溶液中に分散せず、導電性薄膜は作成できなかった。
【0037】
比較例2
反応性乳化剤の代わりに、ドデシル硫酸ナトリウム0.15gを使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0038】
比較例3
反応性乳化剤の代わりに、ポリビニルアルコール(完全ケン化タイプ、重合度1700、5%水溶液)を0.65g(固形分32.5mg)使用した以外は、実施例1と同様に行った。ポリピロールの凝集体が得られ、水溶液中に分散せず、導電性薄膜は作成できなかった。
【0039】
試験例1
実施例1〜6および比較例1〜3で得た導電性高分子微粒子について、平均粒子径および全均一係数を、Microtrac Nanotrac UPA−EX150(日機装株式会社製)による粒度分布測定(モノディスパースモード)から求めた。この粒度分布から、全体積を100%として累積曲線を求め、その累積曲線が50%となる点の粒子径を平均粒子径とした。また、60%の粒子径(d60%)を10%の粒子径(d10%)で除した値(d60%/d10%)と、90%の粒子径(d90%)を40%の粒子径(d40%)で除した値(d90%/d40%)を加えた値((d60%/d10%)+(d90%/d40%))を全均一係数とした。従って、(d60%/d10%)および(d90%/d40%)がそれぞれ1.0に近いほど、また((d60%/d10%)+(d90%/d40%))が2.0に近いほど、粒子径分布幅が狭くなることを示す。結果を表2に表した。
【0040】
試験例2
実施例1〜6および比較例1〜3で得た導電性高分子微粒子分散液の分散安定性の評価は、遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−500(株式会社堀場製作所製)を用いて、5000rpmの遠心下での相対吸光度の経時変化から評価した。10分間遠心後の相対吸光度を表2に表した。
表2
【表2】

【0041】
試験例3
実施例1〜6および比較例1〜3で得た導電性高分子微粒子分散液をバーコーター#8を用いて均一に塗布し、乾燥させて得られた導電性薄膜の表面抵抗値(Ω)をハイレスタ抵抗計およびローレスタ抵抗計(それぞれ三菱化学株式会社製)を用いて測定した。湿度50%における測定結果を表3に表した。
【0042】
試験例4
実施例1〜6および比較例1〜3の導電性薄膜の光線透過率(透明性、%)は、分光光度計(日本分光株式会社製)を用いて、ベースの基材をリファレンスとして550nmで測定した。結果を表3に表した。
【0043】
試験例5
実施例1〜6および比較例1〜3の導電性薄膜の密着性の評価は、JISK5600−5−6により行った。評価の基準は、0〜5に分類した。結果を表3に表した。
【0044】
試験例6
実施例1〜6および比較例1〜3の導電性薄膜の耐摩耗性の評価は、JISL0849による摩擦試験を行い、乾燥及び湿潤条件における耐摩耗性について、JISL0801に基づき、良好な順に5級から1級まで分類した。結果を表3に表した。
【0045】
試験例7
実施例1〜6および比較例1〜3の導電性薄膜の湿度依存性については、湿度10、50、90%の環境下で表面抵抗値の測定を行い、表面抵抗値の変化を調べた。湿度10%〜90%の時の抵抗値の変化が1桁未満を「なし」、1桁以上を「あり」とした。その結果を表3に表した。
表3
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中において、導電性高分子を形成するモノマーを反応性乳化剤の存在下で化学酸化重合することにより得られる、導電性高分子微粒子分散体。
【請求項2】
前記化学酸化重合と同時にラジカル重合を行う請求項1記載の導電性高分子微粒子分散体。
【請求項3】
前記導電性高分子を形成するモノマーが、ピロール、アニリン、チオフェン及びそれらの誘導体よりなる群から選択される1種もしくは2種以上を含む請求項1記載の導電性高分子微粒子分散体。
【請求項4】
反応性乳化剤と共重合可能な水溶性モノマー及び/又は親水性モノマーを更に添加して重合する請求項1ないし3の何れか1項に記載の導電性高分子微粒子分散体。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか1項に記載の導電性高分子微粒子分散体であって、導電性高分子を形成するモノマーが重合したポリマー粒子の表面が、反応性乳化剤のポリマーで被覆されているか又は反応性乳化剤と反応性乳化剤と共重合可能な水溶性モノマー及び/又は親水性モノマーとで共重合したポリマーで被覆されている導電性高分子微粒子分散体。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか1項に記載の導電性高分子微粒子分散体を含有する導電性塗料。


【公開番号】特開2007−297500(P2007−297500A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126036(P2006−126036)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【出願人】(591259160)
【Fターム(参考)】