説明

導電性高分子材料

【目的】高分子材料の導電性を所望の状態に調整しやすくする。
【構成】導電性高分子材料は、高分子材料と、当該高分子材料に添加された導電性調整材とを含んでいる。導電性調整材は、第1炭素短繊維による第1繊維群と、第1炭素短繊維よりも平均繊維径が小さな第2炭素短繊維による第2繊維群とを含み、第1繊維群は、第2繊維群に比べて繊維群電気抵抗値が大きい。ここで、第1繊維群の繊維群電気抵抗値は、例えば1Ωcm以上100kΩcm以下であり、第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、例えば0.001Ωcm以上1Ωcm未満である。また、導電性調整材の含有量は、例えば5〜40重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性調整材および高分子材料、特に、高分子材料の導電性を調整するための導電性調整材および導電性を有する高分子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂等の高分子材料は、一般に優れた電気絶縁性を示すことから、電気・電子部品分野において広く用いられている。ところが、高分子材料そのものからなる電気・電子部品材料は、一般に電気絶縁性を有するために帯電し易く、塵埃の付着或いは放電によりICなどの電子部品へダメージを与える等の不具合がある。このため、半導体製造分野において用いられる高分子材料は、通常、導電材を加えて微弱な導電性が付与されている。
【0003】
ところで、高分子材料に導電性を付与するための導電材として、カーボンブラックが広く知られている。ところが、カーボンブラック、特にアセチレンブラックやケッチェンブラックは、それ自体が高い導電性を示す粉体であることから、高分子材料の導電性を段階的に緩やかに調整するのが困難である。すなわち、カーボンブラックは、添加量を僅かに変化させるだけで、高分子材料の導電性を急激に変化(例えば、109程度の範囲で変化)させてしまい、高分子材料の導電性を微妙に変化させるためには不適当である。このため、カーボンブラックを導電材として用いた場合、電子部品分野で用いられる高分子材料に対して一般に要求されることが多い導電性、すなわち105〜1013Ωcm程度の微弱な導電性を安定的に付与するのは極めて困難である。しかも、カーボンブラックは、上述のように粉体であることから、取り扱いが容易ではなく、また、高分子材料に対する添加時に分散不良が生じ易く、成形体からの脱落によるコンタミネーションを惹起するおそれもある。
【0004】
また、カーボンブラックに代わる導電材として、コンタミネーションを起こし難い炭素繊維が利用されつつある。例えば、特許文献1には、超極細炭素繊維により導電性が付与された高分子材料が記載されている。しかし、これらの炭素繊維も、導電性が非常に高い材料であるため、カーボンブラックの場合と同じく高分子材料の導電性を微妙に調整して上述の範囲に設定するのは極めて困難である。
【0005】
【特許文献1】特開平2−300263号公報
【0006】
本発明の目的は、高分子材料の導電性を所望の状態に調整しやすくすることにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の高分子材料用導電性調整材は、高分子材料の導電性を調整するためのものであり、第1炭素短繊維による第1繊維群と、第1炭素短繊維よりも平均繊維径が小さな第2炭素短繊維による第2繊維群とを含んでいる。第1繊維群は、第2繊維群に比べて繊維群電気抵抗値が小さい。
【0008】
ここで、第1炭素短繊維および第2炭素短繊維は、それぞれ平均アスペクト比が例えば5〜2,000である。また、第1炭素短繊維の平均繊維径(A)と第2炭素短繊維の平均繊維径(B)との比(A/B)が例えば少なくとも1.5である。
【0009】
また、第1繊維群および第2繊維群は、いずれも繊維群電気抵抗値が例えば少なくとも1Ωcmである。または、第1繊維群および第2繊維群は、いずれも繊維群電気抵抗値が例えば0.001Ωcm以上1Ωcm未満である。または、第1繊維群の繊維群電気抵抗値が例えば0.001Ωcm以上1Ωcm未満であり、かつ第2繊維群の繊維群電気抵抗値が例えば1Ωcm以上100kΩcm以下である。
【0010】
さらに、第1繊維群の重量割合は、例えば、第2繊維群の重量割合よりも大きく設定されている。または、第1繊維群の重量割合が例えば50重量%以上99.9重量%未満であり、かつ第2繊維群の重量割合が例えば50重量%以下0.1重量%以上である。
【0011】
本発明の他の見地に係る高分子材料用導電性調整材は、高分子材料の導電性を調整するためのものであり、第1炭素短繊維による第1繊維群と、第1炭素短繊維よりも平均繊維径が小さな第2炭素短繊維による第2繊維群とを含んでいる。第1繊維群は、第2繊維群に比べて繊維群電気抵抗値が大きい。
【0012】
ここで、第1炭素短繊維および第2炭素短繊維は、それぞれ平均アスペクト比が例えば5〜2,000である。また、第1炭素短繊維の平均繊維径(A)と第2炭素短繊維の平均繊維径(B)との比(A/B)が例えば少なくとも1.5である。
【0013】
また、第1繊維群および第2繊維群は、いずれも繊維群電気抵抗値が例えば少なくとも1Ωcmである。または、第1繊維群および第2繊維群は、いずれも繊維群電気抵抗値が例えば0.001Ωcm以上1Ωcm未満である。または、第1繊維群の繊維群電気抵抗値が例えば1Ωcm以上100kΩcm以下であり、かつ第2繊維群の繊維群電気抵抗値が例えば0.001Ωcm以上1Ωcm未満である。
【0014】
さらに、第1繊維群の重量割合は、例えば、第2繊維群の重量割合よりも大きく設定されている。または、第1繊維群の重量割合が例えば50重量%以上99.9重量%未満であり、かつ第2繊維群の重量割合が例えば50重量%以下0.1重量%以上である。
【0015】
本発明のさらに他の見地に係る高分子材料用導電性調整材は、高分子材料の導電性を調整するためのものであり、第1炭素短繊維による第1繊維群と、第1炭素短繊維よりも平均繊維径が小さな第2炭素短繊維による第2繊維群とを含んでいる。
【0016】
ここで、第1繊維群および第2繊維群は、いずれも繊維群電気抵抗値が例えば少なくとも1Ωcmである。または、第1繊維群および第2繊維群は、いずれも繊維群電気抵抗値が例えば0.001Ωcm以上1Ωcm未満である。
【0017】
本発明に係る導電性高分子材料は、高分子材料と、高分子材料に添加された導電性調整材とを含んでいる。導電性調整材は、第1炭素短繊維による第1繊維群と、第1炭素短繊維よりも平均繊維径が小さな第2炭素短繊維による第2繊維群とを含み、第1繊維群は、第2繊維群に比べて繊維群電気抵抗値が小さい。ここで、導電性調整材の含有量は、例えば5〜40重量%である。
【0018】
本発明の他の見地に係る導電性高分子材料は、高分子材料と、高分子材料に添加された導電性調整材とを含んでいる。導電性調整材は、第1炭素短繊維による第1繊維群と、第1炭素短繊維よりも平均繊維径が小さな第2炭素短繊維による第2繊維群とを含み、第1繊維群は、第2繊維群に比べて繊維群電気抵抗値が大きい。ここで、導電性調整材の含有量は、例えば5〜40重量%である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高分子材料用導電性調整材は、上述のような第1繊維群と第2繊維群とを含むため、高分子材料に対する添加量を変化させると高分子材料の導電性を段階的に徐々に変化させることができ、従来の導電性調整材に比べて高分子材料の導電性を調整しやすい。また、本発明の導電性調整材は、高分子材料に対する添加量を必要最小限の量に設定しつつ、第1繊維群と第2繊維群との割合を変化させて高分子材料の導電性を段階的に徐々に変化させることもできる。
【0020】
一方、本発明の導電性高分子材料は、本発明に係る導電性調整材を含んでいるので、導電性が所望の範囲に設定されやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
高分子材料用導電性調整材
本発明に係る高分子材料用導電性調整材は、第1繊維群および第2繊維群の2つの繊維群を含んでいる。ここで、第1繊維群は、多数の第1炭素短繊維からなり、また、第2繊維群は、多数の第2炭素短繊維からなる。
【0022】
第1炭素短繊維および第2炭素短繊維は、いずれも公知の各種の炭素繊維の短繊維であり、例えば、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維、異方性ピッチ系炭素繊維、カイノール樹脂系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、リグニン系炭素繊維等である。これらの炭素繊維は、第1繊維群および第2繊維群において2種以上が併用されてもよい。なお、これらの炭素繊維の焼成温度は、特に限定されるものではないが、後述する繊維群電気抵抗値との関係で適宜設定される。すなわち、相対的に高い繊維群電気抵抗値が求められる場合は、焼成温度が相対的に低めに設定され、相対的に低い繊維群電気抵抗値が求められる場合は、焼成温度が相対的に高めに設定される。
【0023】
第1炭素短繊維および第2炭素短繊維の平均繊維長は、一般に短繊維として認められる長さであれば特に限定されるものではないが、通常は0.1〜30mm、好ましくは0.5〜10mm、より好ましくは0.7〜6mm程度である。平均繊維長が0.1mm未満の場合は、導電性を発現しにくくなるおそれがある。逆に、30mmを超える場合は、高分子材料と混合(複合)するときに、供給が困難になるおそれがある。なお、ここでいう平均繊維長は、光学顕微鏡(SEM)により求めることができる値である。
【0024】
第1炭素短繊維および第2炭素短繊維の平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、通常、5〜2,000に設定されているのが好ましく、10〜1,800に設定されているのがより好ましく、20〜1,500に設定されているのがさらに好ましい。平均アスペクト比が5未満の場合は、高分子材料に対する電気抵抗の低減効果が低下するおそれがある。逆に、2,000を超える場合は、高分子材料に対する定量供給が困難になるおそれがある。なお、平均アスペクト比は、定量供給が可能な限り、大きい方が高分子材料との複合後の残存アスペクト比を大きくできるため好ましい。因みに、この平均アスペクト比の基準になる平均繊維径は、光学顕微鏡(SEM)により求めることができる値である。
【0025】
但し、本発明で用いられる第2繊維群を構成する第2炭素短繊維は、第1繊維群を構成する第1炭素短繊維に比べて平均繊維径が小さく設定されている必要がある。換言すると、第1炭素短繊維の平均繊維径は、第2炭素短繊維の平均繊維径に比べて大きく設定されている必要がある。例えば、第1炭素短繊維の平均繊維径(A)と第2炭素短繊維の平均繊維径(B)との比(A/B)は、少なくとも1.5であるのが好ましく、少なくとも2.0であるのがより好ましい。この比が1.5未満の場合は、本発明の導電性調整材を高分子材料に対して複合するときに、添加量の僅かな変化で高分子材料の導電性が大幅に変化してしまうおそれがあり、結果的に高分子材料の導電性を所望の状態に調整しにくくなるおそれがある。
【0026】
本発明で用いられる第1繊維群と第2繊維群とは、いずれも後述する繊維群電気抵抗値が少なくとも1Ωcm(好ましくは少なくとも1.1Ωcm)であるか、或いはいずれも繊維群電気抵抗値が0.001Ωcm以上1Ωcm未満(好ましくは0.01Ωcm以上0.5Ωcm未満)であることが望ましい。前者の場合は、高分子材料の導電性を小さい範囲(すなわち、電気抵抗が大きい範囲、例えば1010〜1013Ωcmの範囲)で所望の状態に容易に調整することができる。一方、後者の場合は、高分子材料の導電性を大きい範囲(すなわち、電気抵抗が小さい範囲、例えば105〜1010Ωcmの範囲)で所望の状態に容易に調整することができる。
【0027】
ここで、繊維群電気抵抗値とは、繊維群を構成する個々の炭素短繊維の電気抵抗値ではなく、多数の炭素短繊維からなる繊維群全体としての電気抵抗値であり、次のようにして求められる。先ず、中心部に直径0.8cmの貫通孔を有する電気絶縁体を用意し、その貫通孔の一端を電極で封止する。そして、貫通孔内に0.5gの繊維群を充填し、貫通孔の他端から導電性の押し棒を挿入して40kgf/cm2の圧力を加えて繊維群を高さxcmの円柱状に成形する。この状態で電極と押し棒との間にテスターを接続し、貫通孔内で圧縮された繊維群の電気抵抗値を測定する。繊維群電気抵抗値は、測定された電気抵抗値に繊維群の成形体の端面の面積(すなわち、0.42πcm2)を掛け、その値を高さxcmで割ると体積抵抗値(Ωcm)として求めることができる。なお、繊維群の電気抵抗値を測定する際に用いられるテスターは、通常、デジタルマルチメーターなどの直接抵抗を測定することができるものである。
【0028】
また、本発明で用いられる第1繊維群と第2繊維群とは、上述の繊維群電気抵抗値が互いに異なっていてもよい。すなわち、第1繊維群の繊維群電気抵抗値と第2繊維群の繊維群電気抵抗値とが異なっていてもよい。この場合、本発明の高分子材料用導電性調整材は、次の2つの態様で説明することができる。
【0029】
(態様1)
この態様では、第1繊維群の繊維群電気抵抗値が第2繊維群の繊維群電気抵抗値よりも小さく設定されている。
この態様の場合、第1繊維群および第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、例えば次のように設定される。
(1)第1繊維群および第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、いずれも少なくとも1Ωcm、好ましくは少なくとも1.1Ωcmになるように設定されている。換言すると、第1繊維群および第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、少なくとも1Ωcm(すなわち、1Ωcm以上)の範囲において、第1繊維群の繊維群電気抵抗値が第2繊維群の繊維群電気抵抗値よりも小さく設定されている。この場合、本発明の導電性調整材は、高分子材料の導電性を小さい範囲(すなわち、電気抵抗が大きい範囲、例えば1010〜1013Ωcmの範囲)で所望の状態に容易に設定することができる。
【0030】
(2)第1繊維群および第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、いずれも0.001Ωcm以上1Ωcm未満、好ましくは0.01Ωcm以上1Ωcm未満になるように設定されている。換言すると、第1繊維群および第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、0.001Ωcm以上1Ωcm未満、好ましくは0.01Ωcm以上1Ωcm未満の範囲において、第1繊維群の繊維群電気抵抗値が第2繊維群の繊維群電気抵抗値よりも小さく設定されている。この場合、本発明の導電性調整材は、高分子材料の導電性を大きい範囲(すなわち、電気抵抗が小さい範囲、例えば105〜1010Ωcmの範囲)で所望の状態に容易に設定することができる。
【0031】
(3)第1繊維群の繊維群電気抵抗値が0.001Ω以上1Ω未満(好ましくは0.01Ω以上1Ω未満)に設定されており、第2繊維群の繊維群電気抵抗値が1Ω以上100kΩ以下(好ましくは1Ω以上100Ω以下)に設定されている。第1繊維群の繊維群電気抵抗値が0.001Ω未満の場合または第2繊維群の繊維群電気抵抗値が100kΩを超える場合は、高分子材料に対する本発明の導電性調整材の添加量を大幅に変えても高分子材料の電気抵抗値が殆ど変化しないおそれがあり、高分子材料の導電性を段階的に微妙に調整するためには本発明の導電性調整材が大量に必要になる場合がある。
【0032】
(態様2)
この態様では、第1繊維群の繊維群電気抵抗値が第2繊維群の繊維群電気抵抗値よりも大きく設定されている。
この態様の場合、第1繊維群および第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、例えば次のように設定される。
(1)第1繊維群および第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、いずれも少なくとも1Ωcm、好ましくは少なくとも1.1Ωcmになるように設定されている。換言すると、第1繊維群および第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、少なくとも1Ωcm(すなわち、1Ωcm以上)の範囲において、第1繊維群の繊維群電気抵抗値が第2繊維群の繊維群電気抵抗値よりも大きく設定されている。この場合、本発明の導電性調整材は、高分子材料の導電性を小さい範囲(すなわち、電気抵抗が大きい範囲、例えば1010〜1013Ωcmの範囲)で所望の状態に容易に設定することができる。
【0033】
(2)第1繊維群および第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、いずれも0.001Ωcm以上1Ωcm未満、好ましくは0.01Ωcm以上1Ωcm未満になるように設定されている。換言すると、第1繊維群および第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、0.001Ωcm以上1Ωcm未満、好ましくは0.01Ωcm以上1Ωcm未満の範囲において、第1繊維群の繊維群電気抵抗値が第2繊維群の繊維群電気抵抗値よりも大きく設定されている。この場合、本発明の導電性調整材は、高分子材料の導電性を大きい範囲(すなわち、電気抵抗が小さい範囲、例えば105〜1010Ωcmの範囲)で所望の状態に容易に設定することができる。
【0034】
(3)第1繊維群の繊維群電気抵抗値が1Ω以上100kΩ以下(好ましくは1Ω以上100Ω以下)に設定されており、第2繊維群の繊維群電気抵抗値が0.001Ω以上1Ω未満(好ましくは0.01Ω以上1Ω未満)に設定されている。第1繊維群の繊維群電気抵抗値が100kΩを超える場合または第2繊維群の繊維群電気抵抗値が0.001Ω未満の場合は、高分子材料に対する本発明の導電性調整材の添加量を大幅に変えても高分子材料の電気抵抗値が殆ど変化しないおそれがあり、高分子材料の導電性を段階的に微妙に調整するためには本発明の導電性調整材が大量に必要になる場合がある。
【0035】
なお、第1繊維群および第2繊維群の繊維群電気抵抗値は、通常、各繊維群を構成する炭素短繊維を製造するときの焼成温度を適宜調整することにより、上述のような所要の範囲に設定することができる。
【0036】
本発明の導電性調整材では、第1繊維群の重量割合が第2繊維群の重量割合に比べて大きく設定されているのが好ましい。例えば、上述の態様1に係る導電性調整材について第2繊維群の重量割合が第1繊維群の重量割合よりも大きい場合は、当該導電性調整材を含む高分子材料の電気抵抗が小さく成り過ぎる傾向(すなわち、導電性が高まり過ぎる傾向)があり、例えば高分子材料の電気抵抗値(体積固有抵抗値:以下同じ)を105〜1013Ωcm程度、特に1010〜1013Ωcm程度に設定するのが困難になる。一方、上述の態様2に係る導電性調整材について第2繊維群の重量割合が第1繊維群の重量割合よりも大きい場合は、当該導電性調整材を含む高分子材料の電気抵抗値が大きく成り過ぎる傾向(すなわち、導電性が低くなり過ぎる傾向)があり、例えば高分子材料の電気抵抗値を105〜1013Ωcm程度、特に105〜1010Ωcm程度に設定するのが困難になる。
【0037】
因みに、本発明の導電性調整材を用いて高分子材料の電気抵抗値を105〜1013Ωcm程度の範囲を目標に調整する場合、第1繊維群の割合は50重量%以上99.9重量%未満に、また、第2繊維群の割合は50重量%以下0.1重量%以上に設定するのが好ましい。
【0038】
本発明の高分子材料用導電性調整材は、各種の高分子材料の導電性を調整するため、すなわち、後述するような導電性高分子材料を製造するために用いられる。この場合、本発明の導電性調製材は、通常、第1繊維群と第2繊維群とが別々に調製され、両繊維群の割合が上述のようになるよう、高分子材料に対して供給される。この際、第1繊維群と第2繊維群とは、高分子材料に対して別個に供給されて混合されてもよいし、予め混合された後に高分子材料に対して供給されてもよい。
【0039】
導電性高分子材料
本発明の導電性高分子材料は、高分子材料と、上述の本発明に係る導電性調整材、例えば、上述の態様1または態様2に係る導電性調整材とを含んでおり、導電性を有している。
【0040】
この導電性高分子材料を構成する高分子材料は、特に限定されるものではなく、公知の各種の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂およびゴムなどである。
ここで、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂,ポリスチレン樹脂およびポリアクリルスチレン樹脂などの汎用プラスチック、アクリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS),ポリフェニルエーテル樹脂,ポリアセタール樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリブチレンテレフタレート樹脂,ポリエチレンテレフタレート樹脂,ナイロン6およびナイロン6,6などのエンジニアリングプラスチック、並びにポリエーテルエーテルケトン樹脂,ポリアミド樹脂,ポリイミド樹脂,ポリスルホン樹脂,4−フッ化エチレン−エチレン共重合体樹脂,ポリフッ化ビニリデン樹脂,4−フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂,ポリエーテルイミド樹脂,ポリエーテルサルフォン樹脂,ポリフェニレンサルファイド樹脂,変性ポリフェニレンオキサイド樹脂,ポリフェニレンエーテル樹脂および液晶ポリマーなどの超エンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂および不飽和ポリエステル樹脂などを挙げことができる。さらに、ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴム、ポリオレフィン系エラストマーおよびシリコーンゴムなどを挙げることができる。
【0041】
このような導電性高分子を製造する場合は、通常、高分子材料に対し、公知の各種のフィーダー等を用いて上述の本発明に係る導電性調整材を供給して混合する。この際、導電性調整材は、第1繊維群と第2繊維群とが別個に高分子材料に対して供給されてもよいし、予め混合された後に高分子材料に対して供給されてもよい。
【0042】
高分子材料に対する導電性調整材の添加量は、目標とする高分子材料の導電性(電気抵抗値)に応じて適宜設定することができる。この際、導電性調整材は、上述のような第1繊維群と第2繊維群とを含むため、添加量を徐々に増加させるに従って、高分子材料の導電性を段階的に徐々に高めて行くことができる。換言すると、本発明の導電性調整材は、高分子材料に対する添加量を僅かに変化させた程度では、高分子材料の導電性を大幅に変化させ難い。このため、この導電性調整材を用いた場合は、カーボンブラック等の従来の導電性調整材では達成するのが困難であった、105〜1013Ωcm程度の微弱な導電性を高分子材料に対して容易に付与することができる。
【0043】
また、本発明の導電性調整材は、高分子材料に対して付与することができる導電性を第1繊維群と第2繊維群との割合を変化させて変化させることもできる。例えば、導電性調整材が上述の態様1の場合は、第2繊維群の割合を高めて行くと、高分子材料に対する導電性調整材の添加量が略同じであっても、高分子材料の導電性を大きく(すなわち、電気抵抗値を小さく)設定することができる。一方、導電性調整材が上述の態様2の場合は、第2繊維群の割合を高めて行くと、高分子材料に対する導電性調整材の添加量が略同じであっても、高分子材料の導電性を小さく(すなわち、電気抵抗値を大きく)設定することができる。すなわち、本発明の導電性調整材は、第1繊維群と第2繊維群との割合を変化させることにより、高分子材料に対する添加量を必要最小限の量に設定しながら高分子材料の導電性を105〜1013Ωcmの範囲で任意に調整することもできる。
【0044】
なお、このような導電性高分子において、導電性(電気抵抗値)を105〜1013Ωcm程度に設定する場合は、一般に高分子材料における上述の導電性調整材の含有量が5〜40重量%になるよう設定するのが好ましく、6〜15重量%になるよう設定するのがより好ましい。
【0045】
本発明の導電性高分子材料は、上述のような導電性調整材を含み、導電性が付与されているため、帯電防止や埃の付着防止が求められる分野、例えば半導体製造用治具、ICトレー、キャリヤーなどの各種の用途に利用することができる。
【実施例】
【0046】
実施例1〜3
平均繊維径が12μmでありかつ平均アスペクト比が250の等方性ピッチ系炭素短繊維(大阪瓦斯株式会社の商品名”Xylus GCR−1”)からなる、繊維群電気抵抗値が6.36Ωcmの第1繊維群と、平均繊維径が2μmでありかつ平均アスペクト比が250の異方性ピッチ系炭素短繊維(大阪瓦斯株式会社の商品名”UFM−1”)からなる、繊維群電気抵抗値が3,300Ωcmの第2繊維群とを用意した。
【0047】
高分子材料であるポリフェニレンオキサイド樹脂(日本ゼネラルエレクトリック株式会社の商品名”ノリルPPO534”)に対して第1繊維群と第2繊維群とを表1に示す割合でそれぞれ別々のフィーダーを用いて供給し、第1繊維群および第2繊維群を含む高分子材料からなるペレットを調製した。このペレットを、樹脂温度300℃、射出圧力2,000kg/cm2および金型温度160℃の条件で住友重機械工業株式会社製のPROMAT射出成形機を用いて成形し、直径50mm、厚さ3mmの円板を得た。得られた円板の表面に銀ペーストを用いて電極を形成し、当該電極間の電気抵抗を測定することにより円板の表面抵抗(Ω/□)を求めた。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例4〜6
平均繊維径が12μmでありかつ平均アスペクト比が250の等方性ピッチ系炭素短繊維(大阪瓦斯株式会社の商品名”Xylus GC03J401”)からなる、繊維群電気抵抗値が0.14Ωcmの第1繊維群と、平均繊維径が7μmでありかつ平均アスペクト比が857のポリアクリロニトリル系炭素短繊維(三菱レーヨン株式会社の商品名”パイロフィル”)からなる、繊維群電気抵抗値が0.29Ωcmの第2繊維群とを用意した。
この第1繊維群および第2繊維群を用いて実施例1〜3の場合と同様にして円板を得、その表面抵抗(Ω/□)を同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0050】
実施例7、8
平均繊維径が2μmでありかつ平均アスペクト比が250の異方性ピッチ系炭素短繊維(大阪瓦斯株式会社の商品名”UFM−2”)からなる、繊維群電気抵抗値が0.19Ωcmの繊維群を第2繊維群として用いた点を除き、実施例4〜6と同様にして円板を得た。そして、得られた円板の表面抵抗(Ω/□)を同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
実施例9〜11
平均繊維径が7μmでありかつ平均アスペクト比が857のポリアクリロニトリル系炭素短繊維(三菱レーヨン株式会社の商品名”パイロフィル”)からなる、繊維群電気抵抗値が0.29Ωcmの第1繊維群と、平均繊維径が2μmでありかつ平均アスペクト比が250の異方性ピッチ系炭素短繊維(大阪瓦斯株式会社の商品名”UFM−1”)からなる、繊維群電気抵抗値が3,300Ωcmの第2繊維群とを用意した。
この第1繊維群および第2繊維群を用いて実施例1〜3の場合と同様にして円板を得、その表面抵抗(Ω/□)を同様にして測定した。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例12〜14
平均繊維径が7μmでありかつ平均アスペクト比が857のポリアクリロニトリル系炭素短繊維(三菱レーヨン株式会社の商品名”パイロフィル”)からなる、繊維群電気抵抗値が0.29Ωcmの第1繊維群と、平均繊維径が2μmでありかつ平均アスペクト比が250の異方性ピッチ系炭素短繊維(大阪瓦斯株式会社の商品名”UFM−2”)からなる、繊維群電気抵抗値が0.19Ωcmの第2繊維群とを用意した。
この第1繊維群および第2繊維群を用いて実施例1〜3の場合と同様にして円板を得、その表面抵抗(Ω/□)を同様にして測定した。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
実施例15
平均繊維径が13μmでありかつ平均アスペクト比が54のピッチ系炭素短繊維(株式会社ドナックの商品名”ドナカーボS244”)からなる、繊維群電気抵抗値が1.2Ωcmの第1繊維群と、平均繊維径が7μmでありかつ平均アスペクト比が857のポリアクリロニトリル系炭素短繊維(三菱レーヨン株式会社の商品名”パイロフィル”)からなる、繊維群電気抵抗値が0.29Ωcmの第2繊維群とを用意した。
この第1繊維群および第2繊維群を用いて実施例1〜3の場合と同様にして円板を得、その表面抵抗(Ω/□)を同様にして測定した。但し、高分子材料としてアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(東レ株式会社の商品名”トヨラック100”)を用い、樹脂温度、射出圧力および金型温度をそれぞれ240℃、1,200kg/cm2および60℃に変更した。結果を表5に示す。
【0057】
実施例16〜18
平均繊維径が12μmでありかつ平均アスペクト比が250のピッチ系炭素短繊維(大阪瓦斯株式会社の商品名”Xylus GCA03J431”)からなる、繊維群電気抵抗値が7,790Ωcmの第1繊維群と、平均繊維径が7μmでありかつ平均アスペクト比が857のポリアクリロニトリル系炭素短繊維(三菱レーヨン株式会社の商品名”パイロフィル”)からなる、繊維群電気抵抗値が0.29Ωcmの第2繊維群とを用意した。
この第1繊維群および第2繊維群を用いて実施例1〜3の場合と同様にして円板を得、その表面抵抗(Ω/□)を同様にして測定した。結果を表5に示す。
【0058】
実施例19〜21
平均繊維径が12μmでありかつ平均アスペクト比が250の等方性ピッチ系炭素短繊維(大阪瓦斯株式会社の商品名”Xylus GCR1”)からなる、繊維群電気抵抗値が6.36Ωcmの第1繊維群と、平均繊維径が2μmでありかつ平均アスペクト比が250の異方性ピッチ系炭素短繊維(大阪瓦斯株式会社の商品名”UFM−4”)からなる、繊維群電気抵抗値が0.05Ωcmの第2繊維群とを用意した。
この第1繊維群および第2繊維群を用いて実施例1〜3の場合と同様にして円板を得、その表面抵抗(Ω/□)を同様にして測定した。結果を表5に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
比較例1
平均繊維径が13μmでありかつ平均アスペクト比が54のピッチ系炭素短繊維(株式会社ドナックの商品名”ドナカーボS244”)からなる、繊維群電気抵抗値が1.2Ωcmの繊維群のみを用いて実施例1〜3の場合と同様にしてペレットを調製し、そのペレットから実施例1〜3の場合と同様にして円板を得た。但し、高分子材料をポリエーテルスルフォン樹脂(住友化学工業株式会社の商品名”スミカエクセル4100”)に変更し、また、樹脂温度、射出圧力および金型温度をそれぞれ330℃、1,500kg/cm2および140℃に変更した。円板の表面抵抗(Ω/□)を実施例1〜3の場合と同様にして測定した結果を表6に示す。
【0061】
比較例2
平均繊維径が12μmでありかつ平均アスペクト比が250のピッチ系炭素短繊維(大阪瓦斯株式会社の商品名”Xylus GCA03J431”)からなる、繊維群電気抵抗値が7,790Ωcmの繊維群のみを用いて実施例1〜3の場合と同様にしてペレットを調製し、そのペレットから実施例1〜3の場合と同様にして円板を得た。円板の表面抵抗(Ω/□)を実施例1〜3の場合と同様にして測定した結果を表6に示す。
【0062】
比較例3
平均繊維径が2μmでありかつ平均アスペクト比が250の異方性ピッチ系炭素短繊維(大阪瓦斯株式会社の商品名”UFM−2”)からなる、繊維群電気抵抗値が0.19Ωcmの繊維群のみを用いて実施例1〜3の場合と同様にしてペレットを調製し、そのペレットから実施例1〜3の場合と同様にして円板を得た。円板の表面抵抗(Ω/□)を実施例1〜3の場合と同様にして測定した結果を表6に示す。
【0063】
【表6】

【0064】
比較例4
高分子材料である高密度ポリエチレン樹脂(三井石油化学工業株式会社の商品名”ハイゼックス1300J”)に対して導電材であるケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社の商品名”ケッチェンブラックEC”)を表3に示す割合で供給してペレットを調製し、このペレットを用いて実施例1〜3の場合と同様にして円板を成形した。この際、成形時の樹脂温度、射出圧力および金型温度をそれぞれ210℃、1,000kg/cm2および40℃に設定した。円板の体積固有抵抗(Ωcm)を測定した結果を表7に示す。
【0065】
比較例5
導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社の商品名”デンカブラック”)を用いた点を除いて比較例4の場合と同様に操作し、円板を得た。この円板の体積固有抵抗(Ωcm)を測定した結果を表7に示す。
【0066】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料と、
前記高分子材料に添加された導電性調整材とを含み、
前記導電性調整材は、第1炭素短繊維による第1繊維群と、前記第1炭素短繊維よりも平均繊維径が小さな第2炭素短繊維による第2繊維群とを含み、前記第1繊維群は、前記第2繊維群に比べて繊維群電気抵抗値が大きい、
導電性高分子材料。

【公開番号】特開2007−92074(P2007−92074A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306946(P2006−306946)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【分割の表示】特願平10−311172の分割
【原出願日】平成10年10月30日(1998.10.30)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】