説明

導電性高分子溶液およびその製造方法、帯電防止性シート

【課題】耐溶剤性に優れた導電性塗膜が得られる導電性高分子溶液およびその製造方法を提供することを目的とする
【解決手段】本発明の導電性高分子溶液は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとバインダと溶媒とを含有し、前記バインダは、アルコキシシランの縮合物と、該アルコキシシランの縮合物と反応可能な反応性樹脂との反応物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性塗膜を形成するための導電性高分子溶液およびその製造方法、保護シート等に用いられる帯電防止性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品用トレー等を保護するための保護シートには帯電防止性シートが使用されている。帯電防止性シートとしては、例えば、樹脂フィルムの表面に、π共役系導電性高分子およびバインダを含有する水溶液を塗布して導電性塗膜を形成して得たものが知られている(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1における導電性塗膜は耐溶剤性が低いという問題を有していた。
そこで、π共役系導電性高分子を結着させるバインダにアルコキシシラン(シランカップリング剤)を併用し、アルコキシシランの加水分解によって生成したシラノールをバインダと化学的に結合させて、耐溶剤性を向上させることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−254764号公報
【特許文献2】特開2006−273942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、バインダにアルコキシシランを併用しても、導電性塗膜の耐溶剤性は充分に向上しなかった。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、耐溶剤性に優れた導電性塗膜が得られる導電性高分子溶液およびその製造方法を提供することを目的とする。耐溶剤性に優れた導電性塗膜を有する帯電防止性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の構成を有する。
[1] π共役系導電性高分子とポリアニオンとバインダと溶媒とを含有し、前記バインダは、アルコキシシランの縮合物と、該アルコキシシランの縮合物と反応可能な反応性樹脂との反応物であることを特徴とする導電性高分子溶液。
[2] アルコキシシランの縮合物がエポキシ基を有することを特徴とする[1]に記載の導電性高分子溶液。
[3] π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含有する複合体水溶液中で、アルコキシシランの縮合物と、該アルコキシシランの縮合物と反応可能な反応性樹脂とを反応させることを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
[4] アルコキシシランの縮合物と、該アルコキシシランの縮合物と反応可能な反応性樹脂とを反応させてバインダを得た後、該バインダを、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含有する複合体水溶液に添加することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
[5] アルコキシシランの縮合物の量が、反応性樹脂100質量部に対して0.1〜17.5質量部であることを特徴とする[3]または[4]に記載の導電性高分子溶液。
[6] 基材と、該基材の少なくとも片面に形成された導電性塗膜とを有し、導電性塗膜が、[1]または[2]に記載の導電性高分子溶液が塗布されて形成された塗膜であることを特徴とする帯電防止性シート。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性高分子溶液によれば、耐溶剤性に優れた導電性塗膜が得られる。
本発明の導電性高分子溶液の製造方法によれば、上記の導電性高分子溶液を容易に製造できる。
本発明の帯電防止性シートは、耐溶剤性に優れた導電性塗膜を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<導電性高分子溶液>
本発明の導電性高分子溶液は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとバインダと溶媒とを含有する。
【0008】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば使用できる。例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、およびこれらの共重合体等が挙げられる。重合の容易さ、空気中での安定性の点からは、ポリピロール類、ポリチオフェン類およびポリアニリン類が好ましい。
π共役系導電性高分子は無置換のままでも、充分な導電性、バインダへの相溶性を得ることができるが、導電性およびバインダへの分散性または溶解性をより高めるためには、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基等の官能基をπ共役系導電性高分子に導入することが好ましい。
【0009】
このようなπ共役系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0010】
中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)から選ばれる1種または2種からなる(共)重合体が抵抗値、反応性の点から好適に用いられる。さらには、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、導電性がより高い上に、耐熱性が向上する点から、より好ましい。
【0011】
(ポリアニオン)
ポリアニオンとしては、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。
【0012】
ポリアルキレンとは、主鎖がメチレンの繰り返しで構成されているポリマーである。
ポリアルケニレンとは、主鎖に不飽和二重結合(ビニル基)が1個含まれる構成単位からなる高分子である。
ポリイミドとしては、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−[4,4’−ジ(ジカルボキシフェニルオキシ)フェニル]プロパン二無水物等の酸無水物と、オキシジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン等のジアミンとからのポリイミドを例示できる。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10等を例示できる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を例示できる。
【0013】
上記ポリアニオンが置換基を有する場合、その置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、シアノ基、フェニル基、フェノール基、エステル基、アルコキシ基等が挙げられる。有機溶媒への溶解性、耐熱性および樹脂への相溶性等を考慮すると、アルキル基、ヒドロキシ基、フェノール基、エステル基が好ましい。
【0014】
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、へキシル、オクチル、デシル、ドデシル等のアルキル基と、シクロプロピル、シクロペンチルおよびシクロヘキシル等のシクロアルキル基が挙げられる。
ヒドロキシ基としては、ポリアニオンの主鎖に直接または他の官能基を介在して結合したヒドロキシ基が挙げられ、他の官能基としては、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、アミド基、イミド基などが挙げられる。ヒドロキシ基は、これらの官能基の末端または中に置換されている。
アミノ基としては、ポリアニオンの主鎖に直接または他の官能基を介在して結合したアミノ基が挙げられ、他の官能基としては、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、アミド基、イミド基などが挙げられる。アミノ基は、これらの官能基の末端または中に置換されている。
フェノール基としては、ポリアニオンの主鎖に直接または他の官能基を介在して結合したフェノール基が挙げられ、他の官能基としては、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、アミド基、イミド基などが挙げられる。フェノール基は、これらの官能基の末端または中に置換されている。
【0015】
置換基を有するポリアルキレンの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリ(3,3,3−トリフルオロプロピレン)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン等を例示できる。
ポリアルケニレンの具体例としては、プロペニレン、1−メチルプロペニレン、1−ブチルプロペニレン、1−デシルプロペニレン、1−シアノプロペニレン、1−フェニルプロペニレン、1−ヒドロキシプロペニレン、1−ブテニレン、1−メチル−1−ブテニレン、1−エチル−1−ブテニレン、1−オクチル−1−ブテニレン、1−ペンタデシル−1−ブテニレン、2−メチル−1−ブテニレン、2−エチル−1−ブテニレン、2−ブチル−1−ブテニレン、2−ヘキシル−1−ブテニレン、2−オクチル−1−ブテニレン、2−デシル−1−ブテニレン、2−ドデシル−1−ブテニレン、2−フェニル−1−ブテニレン、2−ブテニレン、1−メチル−2−ブテニレン、1−エチル−2−ブテニレン、1−オクチル−2−ブテニレン、1−ペンタデシル−2−ブテニレン、2−メチル−2−ブテニレン、2−エチル−2−ブテニレン、2−ブチル−2−ブテニレン、2−ヘキシル−2−ブテニレン、2−オクチル−2−ブテニレン、2−デシル−2−ブテニレン、2−ドデシル−2−ブテニレン、2−フェニル−2−ブテニレン、2−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、3−メチル−2−ブテニレン、3−エチル−2−ブテニレン、3−ブチル−2−ブテニレン、3−ヘキシル−2−ブテニレン、3−オクチル−2−ブテニレン、3−デシル−2−ブテニレン、3−ドデシル−2−ブテニレン、3−フェニル−2−ブテニレン、3−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、2−ペンテニレン、4−プロピル−2−ペンテニレン、4−プロピル−2−ペンテニレン、4−ブチル−2−ペンテニレン、4−ヘキシル−2−ペンテニレン、4−シアノ−2−ペンテニレン、3−メチル−2−ペンテニレン、4−エチル−2−ペンテニレン、3−フェニル−2−ペンテニレン、4−ヒドロキシ−2−ペンテニレン、ヘキセニレン等から選ばれる一種以上の構成単位を含む重合体を例示できる。
【0016】
ポリアニオンのアニオン基としては、−O−SO、−SO、−COO(各式においてXは水素イオン、アルカリ金属イオンを表す。)が挙げられる。
すなわち、ポリアニオンは、スルホ基および/またはカルボキシ基を含有する高分子酸である。これらの中でも、π共役系導電性高分子へのドーピング効果の点から、−SO、−COOが好ましい。
また、このアニオン基は、隣接してまたは一定間隔をあけてポリアニオンの主鎖に配置されていることが好ましい。
【0017】
上記ポリアニオンの中でも、溶媒溶解性および導電性の点から、ポリイソプレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸を含む共重合体、ポリスルホメタクリル酸エチル、ポリスルホメタクリル酸エチルを含む共重合体、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)を含む共重合体、ポリメタリルオキシベンゼンスルホン酸、ポリメタリルオキシベンゼンスルホン酸を含む共重合体、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸を含む共重合体等が好ましい。
【0018】
ポリアニオンの重合度は、モノマー単位が10〜100,000個の範囲であることが好ましく、溶媒溶解性および導電性の点からは、50〜10,000個の範囲がより好ましい。
【0019】
ポリアニオンの含有量は、π共役系導電性高分子1モルに対して0.1〜10モルの範囲であることが好ましく、1〜7モルの範囲であることがより好ましい。ポリアニオンの含有量が0.1モルより少なくなると、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがある。その上、溶媒への分散性および溶解性が低くなり、均一な分散液を得ることが困難になる。また、ポリアニオンの含有量が10モルより多くなると、π共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0020】
ポリアニオンは、π共役系導電性高分子に配位している。そのため、π共役系導電性高分子とポリアニオンとは複合体を形成している。
π共役系導電性高分子とポリアニオンの合計の含有量は、全固形分を100質量%とした際の0.05〜5.0質量%であることが好ましく、0.5〜4.0質量%であることがより好ましい。π共役系導電性高分子とポリアニオンの合計の含有量が0.05質量%未満であると、充分な導電性が得られないことがあり、5.0質量%を超えると、均一な導電性塗膜が得られないことがある。
【0021】
(バインダ)
バインダは、アルコキシシランの縮合物と、該アルコキシシランの縮合物と反応可能な反応性樹脂との反応物であり、π共役系導電性高分子同士を結着させるものである。
【0022】
アルコキシシランの縮合物は、アルコキシシランを加熱、脱水させて得たものである。
アルコキシシランとしては、有機官能基(例えばエポキシ基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基等)を有しているものが好ましい。有機官能基はケイ素原子に直接結合していてもよいし、炭素数1〜10の2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合していてもよい。
有機官能基を有するアルコキシシランの具体例としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、5−ヘキセニルトリメトキシシラン、9−デセニルトリメトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−ブロモプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリブトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリブトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
また、上記化合物のうち、耐溶剤性がより高くなる点では、β−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシメチルジメトキシシランがより好ましい。
また、上記有機官能基を有するアルコキシシランは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
アルコキシシランは、有機官能基を有さないものであってもよい。有機官能基を有さないテトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられる。これらの中でも、アルコキシシラン基が容易に加水分解することから、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランが好ましい。
有機官能基を有さないアルコキシシラン1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
アルコキシシランの縮合物の市販品としては、KC−89S(信越化学工業(株)製)、KR−500(信越化学工業(株)製)、X−40−9225(信越化学工業(株)製)、X−40−9246(信越化学工業(株)製)、X−40−9250(信越化学工業(株)製)等のメチル基を有する化合物、KR−401N(信越化学工業(株)製)、X−40−9227(信越化学工業(株)製)、KR−510(信越化学工業(株)製)、KR−9218(信越化学工業(株)製)、KR−213等のメチルフェニル基を有する化合物、KR−217(信越化学工業(株)製)等のフェニル基を有する化合物、X−41−1053(信越化学工業(株)製)、X−41−1059A(信越化学工業(株)製)、X−40−1056(信越化学工業(株)製)等のエポキシ基を有する化合物、X−41−1805(信越化学工業(株)製)、X−41−1818(信越化学工業(株)製)、X−41−1810(信越化学工業(株)製)等のメルカプト基を有する化合物、X−40−2651(信越化学工業(株)製)等のアミノ基を有する化合物、X−40−2665A(信越化学工業(株)製)等のメタクリル基を有する化合物、X−40−9271(信越化学工業(株)製)等のアクリル基を有する化合物、X−40−2308(信越化学工業(株)製)、X−40−9238(信越化学工業(株)製)等の置換基を有さない化合物等が挙げられる。
アルコキシシランの縮合物の中でも、耐溶剤性がより高くなることから、エポキシ基を有するものが好ましい。
【0025】
反応性樹脂は、アルコキシシランの縮合物と反応可能な官能基を有するものである。
アルコキシシランの縮合物と反応可能な官能基は、具体的には、アルコキシシランの縮合物の加水分解により生成するシラノールと反応可能な官能基、または、アルコキシシランの縮合物が有する有機官能基と反応する官能基である。このような官能基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、ニトリル基、ヒドロキシ基、ニトリル基、アミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基などが挙げられる。これら官能基の中でも、耐溶剤性の面からエポキシ基が好ましい。
反応性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、アルコキシシランとの反応性、基材との密着性の面から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。
【0026】
導電性高分子溶液中のバインダの含有量は、π共役系導電性高分子とポリアニオンの合計を100質量%とした際の200〜9000質量%であることが好ましく、500〜6000質量%であることがより好ましい。バインダの含有量が200質量%以上であれば、得られる導電性塗膜の耐溶剤性をより高くでき、9000質量%以下であれば、充分な帯電防止性を確保できる。
【0027】
(溶媒)
溶媒としては、水または水と有機溶媒との混合溶媒が用いられる。
有機溶媒としては、導電性高分子溶液を均一にできることから、水溶性溶媒が好ましい。水溶性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等の極性溶媒、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、D−グルコース、D−グルシトール、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価脂肪族アルコール類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物、ジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよい。
上記有機溶媒の中でも、作業環境をより損ないにくく、しかも沸点が水より低く、容易に塗膜を形成できることから、エタノール、イソプロパノールが好ましい。
【0028】
(作用効果)
上記導電性高分子溶液に含まれるバインダは、アルコキシシラン縮合物の有機官能基、または、アルコキシシラン縮合物から形成されるシラノール基と、反応性樹脂との反応によって得られたものである。得られたバインダは、溶液中で架橋構造が形成され、また、アルコキシシランの縮合物自体の表面自由エネルギーが小さいため、耐溶剤性に優れる。
また、アルコキシシランの縮合物は極性の高い溶媒(水、アルコール等)に対する分散性が低いが、反応性樹脂と反応させることによって、分散性を高めることができる。特に、酸などの触媒が存在すると、高度に反応させることができる。
【0029】
<導電性高分子溶液の製造方法>
[第1の実施形態例]
本発明の導電性高分子溶液の製造方法の第1の実施形態例について説明する。
第1の実施形態例の導電性高分子溶液の製造方法は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含有する複合体水溶液中で、アルコキシシランの縮合物と反応性樹脂とを反応させてバインダを形成する方法である。
【0030】
π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含有する複合体水溶液は、ポリアニオンの水溶液中でπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーを化学酸化重合することで調製できる。
アルコキシシランの縮合物と反応性樹脂との反応では、20〜130℃で加熱することが好ましい。加熱温度が20℃以上であれば、速やかに反応が進行し、130℃以下であれば、簡便な手段で加熱できる。
反応時間は0.5〜48時間であることが好ましい。反応時間が0.5時間以上であれば、未反応物の残存量が少なくなり、耐溶剤性がより高くなり、48時間以下であれば、生産性の低下を防止できる。
反応時には、均一に反応を進行させるために、攪拌することが好ましい。
【0031】
アルコキシシランの縮合物と反応性樹脂との反応において、アルコキシシランの縮合物の量は、反応性樹脂100質量部に対して0.1〜17.5質量部であることが好ましく、0.5〜15.0質量部であることがより好ましく、2.5〜10質量部であることが特に好ましい。アルコキシシランの縮合物の量が前記下限値以上かつ上限値以下であれば、耐溶剤性に優れたバインダを充分に形成でき、耐溶剤性をより向上させることができる。
【0032】
導電性高分子溶液に有機溶媒を含ませる場合には、アルコキシシランの縮合物と反応性樹脂とを反応させた後、有機溶媒を添加することが好ましい。反応前に、有機溶媒を添加すると、沈殿を生じるおそれがある。
【0033】
[第2の実施形態例]
本発明の導電性高分子溶液の製造方法の第2の実施形態例について説明する。
第2の実施形態例の導電性高分子溶液の製造方法は、アルコキシシランの縮合物と反応性樹脂とを反応させてバインダを得た後、該バインダを、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含有する複合体水溶液に添加する方法である。
アルコキシシランの縮合物と反応性樹脂との反応条件、複合体水溶液の調製方法は、第1の実施形態例と同様である。ただし、アルコキシシランの縮合物と反応性樹脂との反応は溶媒中で行われる。
【0034】
(作用効果)
第1および第2の実施形態例の製造方法によれば、π共役系導電性高分子と、ポリアニオンと、アルコキシシランの縮合物および反応性樹脂を反応させて得たバインダとを含む導電性高分子溶液を容易に製造できる。
また、第1の実施形態例の方法では、複合体水溶液にアルコキシシランの縮合物と反応性樹脂を添加するから、溶媒使用量を少なくでき、簡便である。
第2の実施形態例の方法では、複合体水溶液に含まれる成分によるアルコキシシランの縮合物と反応性樹脂との反応への影響を少なくできる。
【0035】
<帯電防止性シート>
本発明の帯電防止性シートは、基材と、該基材の少なくとも片面に形成された導電性塗膜とを有する。
ここで、基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム(結晶性または非晶性)、ポリカーボネートフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリスチレンフィルムなどが挙げられる。
導電性塗膜は、上記導電性高分子溶液が塗布されて形成された塗膜である。導電性高分子溶液の塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷法、フローコート法、グラビアコート法、コンマコート法、スピンコート法などが挙げられる。
塗布後、80〜150℃で加熱することによって、硬化させることが好ましい。
【0036】
上記帯電防止性シートの導電性塗膜は、上記導電性高分子溶液を用いて形成したものであるため、耐溶剤性に優れる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を具体的に示すが、本発明は実施例により限定されるものではない。
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の調製
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を2時間攪拌した。
これにより得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000mlと10000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の約10000ml溶液を除去し、残液に10000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約10000ml溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。
さらに、得られたろ液に約10000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約10000ml溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
限外ろ過条件は下記の通りとした(他の例でも同様)。
限外ろ過膜の分画分子量:30K
クロスフロー式
供給液流量:3000ml/分
膜分圧:0.12Pa
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0038】
(製造例2)ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)水溶液の調製
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、36.7gの製造例1で得たポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、上記ろ過処理が行われた処理液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの処理液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた処理液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの処理液を除去した。この操作を5回繰り返し、約1.2質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT−PSS)水溶液を得た。
【0039】
(実施例1)
製造例2で得たPEDOT−PSS水溶液50.0gに、脱イオン水10gと、脱イオン水で30質量%に希釈したエポキシ樹脂溶液(品名W2811R70、ジャパンエポキシレジン(株)製)40gと、エポキシ基を含有するアルコキシシランの縮合物(品名、X−41−1059A、信越化学工業(株)製)0.6g(エポキシ樹脂固形分100質量部に対して5質量部)とを、マグネチックスターラを用いて、50℃、12時間撹拌し、反応させて、導電性高分子溶液を得た。
次いで、その導電性高分子溶液にメタノールを40g添加し、#8のバーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、ルミラーT−60)に塗布し、100℃、1分間乾燥して、導電性塗膜を形成した。
【0040】
(実施例2)
アルコキシシランの縮合物を、メチル基を含有するアルコキシシランの縮合物(品名KR−500、信越化学工業(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0041】
(実施例3)
アルコキシシランの縮合物を、フェニル基を含有するアルコキシシランの縮合物(品名KR−510、信越化学工業(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0042】
(実施例4)
アルコキシシランの縮合物の量を0.012g(エポキシ樹脂固形分100質量部に対して0.1質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例5)
アルコキシシランの縮合物の量を0.06g(エポキシ樹脂固形分100質量部に対して0.5質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0044】
(実施例6)
アルコキシシランの縮合物の量を0.3g(エポキシ樹脂固形分100質量部に対して2.5質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0045】
(実施例7)
アルコキシシランの縮合物の量を1.2g(エポキシ樹脂固形分100質量部に対して10質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0046】
(実施例8)
アルコキシシランの縮合物の量を1.8g(エポキシ樹脂固形分100質量部に対して15質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0047】
(実施例9)
アルコキシシランの縮合物の量を2.1g(エポキシ樹脂固形分100質量部に対して17.5質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして測定した。
【0048】
(実施例10)
攪拌時間(反応時間)を3時間に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0049】
(実施例11)
攪拌時間(反応時間)を48時間に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0050】
(実施例12)
エポキシ樹脂を、ポリエステル樹脂溶液(品名バイロナールMD1245、東洋紡績(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0051】
(実施例13)
エポキシ樹脂を、ポリウレタン樹脂溶液(品名W−6061、三井武田ケミカル(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
アルコキシシランの縮合物を、エポキシ基を含有するアルコキシシラン(品名KBM403、信越化学工業(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0053】
(比較例2)
アルコキシシランの縮合物を、イソシアネート基を含有するアルコキシシラン(品名KBE9007、信越化学工業(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0054】
(比較例3)
アルコキシシランの縮合物を、アミノ基を含有するアルコキシシラン(品名KBM603、信越化学工業(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0055】
(比較例4)
アルコキシシランの縮合物およびアルコキシシランを添加しなかった以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0056】
[表面抵抗値]
得られた帯電防止性シートの導電性塗膜の表面抵抗値を、三菱化学社製ハイレスタIP、HRプローブを用い、JIS K6911に従って測定した。
【0057】
[耐溶剤性]
得られた帯電防止性シートの導電性塗膜に、20gf/cmの荷重をかけながら、酢酸エチルまたはエタノールを含むコットンを被せた摩擦子を50往復擦った。そして、擦った表面を目視により観察し、以下の基準により評価した。
◎:外観が全く変化していない(合格)。
○:僅かに擦った後が見える(合格)
△:擦った痕を確認できるが、表面等は削れていない(合格)
×:擦った痕を明瞭に確認でき、部分的に表面が削られている(不合格)
【0058】
【表1】

【0059】
アルコキシシラン縮合物と反応性樹脂との反応によって得たバインダを含む実施例1〜13の導電性高分子溶液によれば、耐溶剤性(耐酢酸エチル性、耐エタノール性)に優れた導電性塗膜を形成できた。
これに対し、アルコキシシラン縮合物の代わりに、エポキシ基を有するアルコキシシランを用いた比較例1の導電性高分子溶液では、得られた導電性塗膜の耐溶剤性が低かった。
アルコキシシラン縮合物の代わりに、イソシアネート基を有するアルコキシシランを用いた比較例2の導電性高分子溶液では、得られた導電性塗膜の耐溶剤性が低かった。
アルコキシシラン縮合物の代わりに、アミノ基を有するアルコキシシランを用いた比較例3の導電性高分子溶液では、得られた導電性塗膜の耐溶剤性が低かった。
なお、比較例1〜3におけるアルコキシシランは、酸性条件下では縮合しない。すなわち、比較例1〜3では、ポリスチレンスルホン酸が存在するため、アルコキシシランが縮合し、その縮合物が反応性樹脂と反応することはない。したがって、アルコキシシランの縮合物と反応性樹脂との反応物は得られず、耐溶剤性は向上しなかった。
アルコキシシランの縮合物およびアルコキシシランを添加しなかった比較例4の導電性高分子溶液では、得られた導電性塗膜の耐溶剤性が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子とポリアニオンとバインダと溶媒とを含有し、前記バインダは、アルコキシシランの縮合物と、該アルコキシシランの縮合物と反応可能な反応性樹脂との反応物であることを特徴とする導電性高分子溶液。
【請求項2】
アルコキシシランの縮合物がエポキシ基を有することを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子溶液。
【請求項3】
π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含有する複合体水溶液中で、アルコキシシランの縮合物と、該アルコキシシランの縮合物と反応可能な反応性樹脂とを反応させることを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
【請求項4】
アルコキシシランの縮合物と、該アルコキシシランの縮合物と反応可能な反応性樹脂とを反応させてバインダを得た後、該バインダを、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含有する複合体水溶液に添加することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
【請求項5】
アルコキシシランの縮合物の量が、反応性樹脂100質量部に対して0.1〜17.5質量部であることを特徴とする請求項3または4に記載の導電性高分子溶液。
【請求項6】
基材と、該基材の少なくとも片面に形成された導電性塗膜とを有し、導電性塗膜が、請求項1または2に記載の導電性高分子溶液が塗布されて形成された塗膜であることを特徴とする帯電防止性シート。

【公開番号】特開2011−1396(P2011−1396A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143151(P2009−143151)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】