説明

導電性高分子溶液及び導電性塗膜

【課題】 導電性高分子とハードコート樹脂との相溶性を高くでき、導電性、透明性、基材との密着性に優れ、しかも安価な導電性高分子溶液及び導電性塗膜を提供する。
【解決手段】 本発明の導電性高分子溶液は、分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合を有する可溶化高分子成分及び導電性高分子成分を含む可溶性導電性高分子成分と、光硬化性モノマー及び/又は有機溶媒とを含有する。その際、可溶化高分子成分が、主鎖と不飽和二重結合との間にスルホン酸エステル及び/又はカルボン酸エステルを有してもよい。本発明の導電性高分子溶液は、ハードコート成分を含有してもよい。また、本発明の導電性塗膜は、上述した導電性高分子溶液が塗布されて形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子が溶媒に溶解した導電性高分子溶液に関する。さらには、液晶画面やプラズマディスプレイ画面の反射防止フィルム、赤外吸収フィルム、電磁波吸収フィルム等の機能性光学フィルタや、CD、DVDなどの光情報記録媒体の表面に形成される導電性塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、光学フィルタや光情報記録媒体の表面には傷つきを防止するためにハードコート層が形成されている。これらの用途では、ハードコート層は硬度が高いだけでなく、光学用途に用いられるために優れた透明性が要求され、さらに静電気による塵埃の付着を防止するために帯電防止性が要求される。特に、帯電防止性については、表面抵抗が10〜1010Ω程度の領域で抵抗値が安定していること(すなわち、安定した帯電防止性)が求められる。そのため、光学フィルタや光情報記録媒体用のハードコート材料としては、帯電防止性を有する樹脂組成物が使用されている。
従来、帯電防止性樹脂組成物としては、ITO(酸化錫ドープ酸化インジウム)やATO(酸化錫ドーブ酸化アンチモン)などの透明性無機導電性酸化物の微粒子を、UV硬化型アクリル樹脂などのハードコート樹脂に分散させたものが使用されていた。
【0003】
例えば、ITO粉体を樹脂あるいは無機バインダーや有機溶剤に分散させたものを表面に塗布乾燥してITO透明導電膜を形成させた反射防止フィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような、ITOなどの無機導電性酸化物を分散した塗膜では、抵抗値が無機導電性酸化物の分散性に影響されやすく、その結果、帯電防止性が不安定になりやすかった。また、無機導電性酸化物は、固有の屈折率が有機質の樹脂と大きく異なるために多量に配合するとヘイズが増大して透明性が損なわれる上に、塗膜が脆くなりやすくなり、基材との密着性が低くなるといった欠点があった。
【0004】
また、帯電防止性樹脂組成物として、有機質である導電性高分子を溶媒に溶解して、それをハードコート樹脂に混合したものが考えられる。しかし、通常、導電性高分子は不溶不融の粒子として生成するため、この樹脂組成物は導電性高分子が溶媒に均一に溶解したものではなかった。また、粒子として生成した導電性高分子は有色であるため、その導電性高分子を分散した塗膜では、無機導電性酸化物を分散したものと同様に、透明性が損なわれ、脆くなる傾向にあった。
そこで、ピロールのβ位に長鎖のアルキル基が導入されて溶媒に溶解可能にされた導電性高分子が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、特許文献3では、ポリアニオン類を含むポリチオフェン類にシラン類を添加することで、導電性高分子の導電性を低下することなく、フィルム形成樹脂との密着性を確保することが提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平4−26768号公報
【特許文献2】特許第3024867号公報
【特許文献3】特許第3205640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の導電性高分子は嵩高いアルキル鎖を有しているために、溶媒に可溶でハードコート樹脂への混合が可能にはなるものの、導電性が低く、その混合量を多くしなければ所望の帯電防止性が得られなかった。その結果、塗膜が着色して透明性が損なわれるという問題があった。さらに、特許文献2に記載の導電性高分子であっても、極性の異なる種々のハードコート樹脂への混合は容易ではないため、実用化には至っていない。しかも、βアルキルピロールなどの特殊なモノマーは非常に高価であり、コスト的にも実用が困難であった。
また、特許文献3では、コーティング膜が基材密着性及び帯電防止性を有するものであり、樹脂と混合するものではない。つまり、導電性高分子とハードコート樹脂との相溶性を高めるものではないから、ハードコート樹脂を混合した場合には、導電性高分子との相溶性を確保できない。
本発明は、導電性高分子とハードコート樹脂との相溶性を高くでき、導電性、透明性、基材との密着性に優れ、しかも安価な導電性高分子溶液及び導電性塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の導電性高分子溶液は、分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合を有する可溶化高分子成分及び導電性高分子成分を含む可溶性導電性高分子成分と、光硬化性モノマー及び/又は有機溶媒とを含有することを特徴とする。
本発明の導電性高分子溶液においては、可溶化高分子成分が、主鎖と不飽和二重結合との間にスルホン酸エステル及び/又はカルボン酸エステルを有してもよい。
本発明の導電性高分子溶液は、ハードコート成分を含有してもよい。
本発明の導電性塗膜は、上述した導電性高分子溶液が塗布されて形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性高分子溶液及び導電性塗膜は、導電性高分子とハードコート樹脂との相溶性を高くでき、導電性、透明性、基材との密着性に優れ、しかも安価である。そして、本発明の導電性塗膜を、液晶画面やプラズマディスプレイ画面の反射防止フィルム、赤外吸収フィルム、電磁波吸収フィルム等の機能性光学フィルタや、CD、DVDなどの光情報記録媒体の表面に形成することにより、静電気による塵埃の付着を抑えることができる。
さらに、本発明の導電性高分子溶液がハードコート成分を含有すれば、得られる塗膜に耐傷付き性も発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(導電性高分子溶液)
本発明の導電性高分子溶液は、可溶化高分子成分及び導電性高分子成分を含む可溶性導電性高分子成分と、光硬化性モノマー及び/又は有機溶媒とを含有するものである。
【0009】
<可溶性導電性高分子成分>
[導電性高分子成分]
本発明における導電性高分子成分としては、抵抗値、コスト、反応性の点が有利であることから、置換あるいは無置換のポリアニリン、置換あるいは無置換のポリピロール、置換あるいは無置換のポリチオフェン、及びこれらから選ばれる1種又は2種からなる(共)重合体が挙げられ。特にポリピロール、ポリチオフェン、ポリN−メチルピロール、ポリ3−メチルチオフェン、ポリ3−メトキシチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、これらから選ばれる1種又は2種からなる(共)重合体が好ましい。
特に、ポリN−メチルピロール、ポリ3−メチルチオフェンのようなアルキル置換化合物は溶媒溶解性や、ハードコート樹脂との相溶性及び分散性を向上させるためより好ましい。アルキル基の中では導電性に悪影響を与えることがないため、メチル基が好ましい。
また、ポリスチレンスルホン酸をドープしたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT-PSSと略す)溶液は、比較的熱安定性が高く、重合度が低いことから塗膜成形後の透明性が有利となる点で好ましい。
【0010】
[可溶化高分子成分]
可溶化高分子成分は、分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合を有し、また、側鎖に導電性高分子成分を溶媒に可溶にするアニオン基及び/又は電子吸引基を有するものである。
アニオン基としては、例えば、リン酸基、スルホ基、カルボキシ基、硫酸基、ホスホン酸基等が挙げられる。中でも、化学酸化ドープの観点から、スルホ基、カルボキシ基が好ましい。
【0011】
可溶化高分子成分が、側鎖にアニオン基としてスルホ基あるいはカルボキシ基を有するポリマーである場合、そのスルホ基あるいはカルボキシ基に、ヒドロキシ基又はグリシジル基を1つ有する単官能モノマーが反応されて、分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合が導入されていてもよい。この場合、主鎖と不飽和二重結合との間には、スルホン酸エステル及び/又はカルボン酸エステルが形成されている。
なお、可溶性導電性高分子成分では、導電性高分子成分を構成する単量体単位3モルに対して可溶化高分子成分を構成する単量体単位1モルがドープされているため、可溶化高分子成分には、導電性高分子成分にドープされない残存スルホ基及び/又は残存カルボキシ基が存在することになる。よって、この残存スルホ基及び/又は残存カルボキシ基に、ヒドロキシ基又はグリシジル基を1つ有する単官能モノマーが反応してエステルを形成する。
そのエステル化におけるスルホ基あるいはカルボキシ基とヒドロキシ基を1つ有する単官能モノマーとの反応は脱水縮合反応であり、スルホ基あるいはカルボキシ基とグリシジル基を1つ有する単官能モノマーとの反応は付加反応である。
【0012】
側鎖にスルホ基を有するポリマーとしては、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、等が挙げられる。また、これらを2種以上含む共重合体であってもよい。
【0013】
側鎖にカルボキシ基を有するポリマーとしては、例えば、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。また、これらを2種以上含む共重合体であってもよい。
【0014】
ヒドロキシ基を1つ有する単官能モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、エチル−α(ヒドロキシメチル)アクリレート等のアクリレート類、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート等のメタクリレート類、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、2−ヒドロキシメチルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、2−ヒドロキシメチルメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル等のビニルエーテル類の単官能モノマーが挙げられる。
【0015】
グリシジル基を1つ有する単官能モノマーとしては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、α−グリシジルエチルアクリレート、クロトニルグリシジルエーテル、クロトン酸グリシジルエーテル、イソクロトン酸グリシジルエーテル等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいが、ヒドロキシ基を1つ有する単官能モノマーと混合しても構わない。
【0016】
分子内の側鎖に電子吸引基を有する可溶化高分子成分における電子吸引基としては、例えば、シアノ基、ホルミル基、カルボニル基、アセチル基が挙げられる。
これらの中でも、シアノ基は極性が高く、ハードコート成分との相溶性、分散性をより高くできることから好ましい。シアノ基を有する化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリルが挙げられる。
【0017】
可溶化高分子成分が分子内の側鎖にアニオン基を有さない場合でも、側鎖の末端に不飽和二重結合を導入できる。例えば、分子内の側鎖にヒドロキシ基を有するポリマーとアクリル酸クロライド又はメタクリル酸クロライドとを脱塩酸反応させてエステル化し、末端にアクリロイル基又はメタクロイル基を形成することで、側鎖の末端に不飽和二重結合を導入することができる。また、分子内の側鎖にヒドロキシ基を有するポリマーとビニルハロゲン化合物を脱塩酸反応させてエーテル化して、側鎖の末端に不飽和二重結合を導入することができる。
【0018】
分子内の側鎖にヒドロキシ基を有するポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ヒドロキシアルキルを含むポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリルエーテル等が挙げられる。
また、ビニルハロゲン化合物としては、ビニルクロライド、ビニルブロマイド等が挙げられる。
【0019】
可溶化高分子成分は、分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合を有していれば共重合体であってもよい。具体的には、アニオン基及びそのアニオン基と単官能モノマーとの反応により導入された不飽和二重結合を有する単位と電子吸引基を有する単位との共重合体、アニオン基及びそのアニオン基と単官能モノマーとの反応により導入された不飽和二重結合を有する単位とポリマー側鎖のヒドロキシ基及びビニルハロゲン化合物が反応して形成された不飽和二重結合を有する単位との共重合体、アニオン基及びそのアニオン基と単官能モノマーとの反応により導入された不飽和二重結合を有する単位と電子吸引基を有する単位とポリマー側鎖のヒドロキシ基及びビニルハロゲン化合物が反応して形成された不飽和二重結合を有する単位との共重合体等が挙げられる。また、アニオン基及びそのアニオン基と単官能モノマーとの反応により導入された不飽和二重結合を有する単位、電子吸引基を有する単位、ポリマー側鎖のヒドロキシ基及びビニルハロゲン化合物が反応して形成された不飽和二重結合を有する単位は各1種であってもよいが、2種以上であってもよい。
【0020】
可溶化高分子成分に対する導電性高分子成分の割合としては、質量比として可溶化高分子成分:導電性高分子成分が5:95〜99:1の範囲が好ましい。導電性高分子成分の比率が1未満であると十分な導電性が得られなくなることがあり、95より多いとハードコート樹脂との相溶性及び分散性を向上させることが困難になる傾向にある。
また、この可溶性導電性成分においては、導電性高分子成分を構成する単量体単位3モルに対して可溶化高分子成分を構成する単量体単位1モルがドープされている。
【0021】
[ドーパント]
可溶性導電性高分子成分は、その導電性と耐熱性を向上させるために、ドーパントを含有することが好ましい。通常、ドーパントとしてはハロゲン化合物、ルイス酸、プロトン酸などが用いられ、具体的には、有機カルボン酸、有機スルホン酸等の有機酸、有機シアノ化合物、フラーレン、水素化フラーレン、カルボン酸化フラーレン、スルホン酸化フラーレンなどが挙げられる。
【0022】
ここで、有機酸としては、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン重縮合物、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、ジナフチルメタンジスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸、アントラセンスルホン酸、ピレンスルホン酸などが挙げられる。また、これらの金属塩も使用できる。
有機シアノ化合物としては、ジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノアザナフタレンなどが挙げられる。
【0023】
<光硬化性モノマー>
光硬化性モノマーとしては、例えば、上述したヒドロキシ基を1つ有する単官能モノマーや、ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート、ジペンタエリストリトールヘキサ(ペンタ)アクリレート、ジペンタエリストリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリメチロールピロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等のアクリレート類、テトラエチレングリコールジメタクリレート、アルキルメタクリレート、アリルメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロへキシルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、1,6−メキサンジオールジメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のメタクリレート類、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、高級アルコールグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、ダイアセトンアクリルアミド、N,N―ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルイルモルホリン、N−ビニルホルムアミド、N−メチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、アクリロイルピぺリジン、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、2−クロロエチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルエーテル等のビニルエーテル類等が挙げられる。これらのうち1種類を使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0024】
<有機溶媒>
また、有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピレンカーボネート、イソプロピルアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジン、ジメチルイミダゾリン、酢酸エチル、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジフェニルスルホン等が挙げられる。これらのうち1種類を使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0025】
このような光硬化性モノマー及び/又は有機溶媒は、導電性高分子成分の自己凝集を抑制することができる。一方、水は導電性高分子成分の自己凝集を抑制できないため、導電性高分子溶液中に水を含む場合には、それらを光硬化性モノマー及び有機溶媒に置換することが好ましい。
【0026】
<溶媒>
導電性高分子溶液に含まれる溶媒としては、上記可溶化高分子成分を溶解するものであれば特に制限されず、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0027】
<ハードコート成分>
導電性高分子溶液には、ハードコート成分が含まれてもよい。ハードコート成分は、硬化した際の塗膜の鉛筆硬度(JIS K 5400)がHより硬い硬度になる成分を含むものであり、硬化した際に、例えば、ポリエステル、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドシリコーン等のうちの1種又は2種以上になるものである。
また、ハードコート成分には、必要に応じて、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶媒、粘度調整剤等を加えて使用することができる。
【0028】
ハードコート成分は、熱エネルギー及び/又は光エネルギーによって硬化する液状重合体を含むことが好ましい。
ここで、熱エネルギーにより硬化する液状重合体としては、反応型重合体及び自己架橋型重合体が挙げられる。
反応型重合体は、置換基を有する単量体が重合した重合体であり、置換基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、酸無水物、オキセタン系、グリシジル基、アミノ基などが挙げられる。具体的な単量体としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多官能アルコール、マロン酸、コハク酸、グルタミン酸、ピメリン酸、アスコルビン酸、フタル酸、アセチルサルチル酸、アジピン酸、イソフタル酸、安息香酸、m−トルイル酸等のカルボン酸化合物、無水マレイン酸、無水フタル酸、ドデシル無水コハク酸、ジクロル無水マレイン酸、テトラクロル無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ピメリット酸等の酸無水物、3,3−ジメチルオキセタン、3,3−ジクロロメチルオキセタン、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、アジドメチルメチルオキセタン等のオキセタン化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジル−p−アミノフェノールグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル(すなわち、2,2−ビス(4−グリシジルオキシシクロヘキシル)プロパン)等のグリシジルエーテル化合物、N,N−ジグリシジルアニリン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,N,N−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジルイソシアヌレート、N,N−ジグリシジル−5,5−ジアルキルヒダントイン等のグリシジルアミン化合物、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジメチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ベンジルジメチルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、DHP30−トリ(2−エチルヘクソエート)、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、三フッ化ホウ素、モノエチルアミン、メタンジアミン、キシレンジアミン、エチルメチルイミダゾール等のアミン化合物、1分子中に2個以上のオキシラン環を含む化合物のうち、ビスフェノールAのエピクロロヒドリンによるグリシジル化合物、あるいはその類似物が挙げられる。
【0029】
反応型重合体においては、少なくとも2官能以上の架橋剤を使用する。その架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、金属酸化物などが挙げられる。金属酸化物としては、塩基性金属化合物のAl(OH)、Al(OOC・CH(OOCH)、Al(OOC・CH、ZrO(OCH)、Mg(OOC・CH)、Ca(OH)、Ba(OH)等を適宜使用できる。
【0030】
自己架橋型重合体は、加熱により官能基同士で自己架橋するものであり、例えば、グリシジル基とカルボキシ基を含むもの、あるいは、N−メチロールとカルボキシ基の両方を含むものなどが挙げられる。
【0031】
光エネルギーによって硬化する液状重合体としては、例えば、ポリエステル、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドシリコーン等のオリゴマー又はプレポリマーが挙げられる。
光エネルギーによって硬化する液状重合体を構成する単量体単位としては、例えば、ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(ペンタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等のアクリレート類、テトラエチレングリコールジメタクリレート、アルキルメタクリレート、アリルメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のメタクリレート類、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、高級アルコールグリシジルエーデル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、ダイアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−ビニルホルムアミド、N−メチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、アクリロイルピペリジン、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド等のアクリル(メタクリル)アミド類、2−クロロエチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルエーテル等のビニルエーテル類、酪酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類の単官能モノマー並びに多官能モノマーが挙げられる。
【0032】
光エネルギーによって硬化する液状重合体は、光重合開始剤によって硬化する。その光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン類などが挙げられる。さらに、光増感剤として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等を混合できる。
また、カチオン重合開始剤としては、アリールジアゾニウム塩類、ジアリールハロニウム塩類、トリフェニルスルホニウム塩類、シラノール/アルミニウムキレート、α−スルホニルオキシケトン類等が挙げられる。
【0033】
<製造方法>
可溶化高分子成分が、主鎖と不飽和二重結合とのスルホン酸エステル及び/又はカルボン酸エステルを有する場合の導電性高分子溶液の製造方法について説明する。
導電性高分子溶液を製造するには、まず、側鎖にスルホ基及び/又はカルボキシ基を有するポリマー(可溶化高分子成分の前駆体ポリマー)を溶媒に溶解し、導電性高分子の前躯体モノマーと必要に応じてドーパントを加えて十分攪拌混合し、その混合物に酸化剤を滴下して重合を進行させる。これにより得られた可溶化高分子成分と導電性高分子との複合体から、酸化剤、残留モノマー、副生成物を除去、精製して可溶性導電性高分子成分を得る。
ここで、導電性高分子の前駆体モノマーを重合する酸化剤としては、公知のものが使用でき、例えば、塩化第二鉄、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウムなどの金属ハロゲン化合物、過酸化水素、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、オゾン、酸素、硫酸セリウムなどが挙げられる。
また、精製法としては特に制限されず、例えば、再沈殿法、限外濾過法などを採用できるが、限外濾過法が簡便で好ましい。
【0034】
次いで、ヒドロキシ基又はグリシジル基を1つ有する単官能モノマーを添加し、攪拌して、可溶化高分子成分の前駆体ポリマーのスルホ基及び/又はカルボキシ基とヒドロキシ基又はグリシジル基とを反応させ、脱水縮合してエステル化する。このエステル化により、分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合を形成して相溶性導電性高分子成分を得る。
また、エバポレーターにより、溶媒を除去し、あるいは、溶媒と光硬化性モノマー及び/又は有機溶媒とを置換して導電性高分子溶液を得る。
【0035】
以上説明した導電性高分子溶液では、可溶性導電性高分子成分は、導電性高分子成分に対して可溶化高分子成分がドープされていると共に、光硬化性モノマー及び/又は有機溶媒を含有することで導電性高分子成分の分子内あるいは分子間の相互作用による自己凝集を抑制しているため、溶媒に可溶になっている。このように導電性高分子成分を溶液化することにより、導電性高分子成分のハードコート樹脂への混合性を向上させることができる。
また、この導電性高分子溶液では、可溶化高分子成分における分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合が導入され、ハードコート樹脂に結合可能であるから、可溶化高分子成分がドープされた導電性高分子成分とハードコート樹脂との相溶性、分散性を高くできる。つまり、導電性高分子成分を化学修飾しないで導電性高分子成分とハードコート樹脂との相溶性を高くしている。その結果、導電性の変化も抑えられ、信頼性が高くなる。
また、この導電性高分子溶液は、ITOなどの無機導電性酸化物の微粒子を含まないし、導電性高分子成分が溶媒に溶解しており、不溶不融の粒子を含まないため、透明性、導電性、基材との密着性に優れる。さらに、導電性高分子成分の製造に特殊なモノマーを用いなくてもよいから安価である。
【0036】
次に、本発明の導電性塗膜について説明する。
本発明の導電性塗膜は、ハードコート成分を含む導電性高分子溶液が塗布されて形成されたものである。
塗膜形成方法としては、上述した導電性高分子溶液を、浸漬、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、グラビア印刷などの手法により、ポリエステルフィルムやトリアセチルセルロース(TAC)フィルムなどの基材上に塗布した後、加熱により溶媒を除去し、又は熱や光によって硬化する方法が挙げられる。
加熱により塗膜を形成する場合の加熱方法としては、例えば、熱風加熱や赤外線加熱などの通常の方法を採用でき、光硬化により塗膜を形成する場合の光照射方法としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源から紫外線を照射する方法を採用できる。
【0037】
この塗膜においては、膜厚1μmの際の可視光透過率(JIS Z 8701)が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、96%以上であることが特に好ましい。
また、ヘイズ(JIS K 6714)が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
さらに、表面抵抗値が1×10〜1×1013Ωであることが好ましい。
塗膜の光透過率、ヘイズ、表面抵抗値は、塗膜厚さにより調節できる。
また、鉛筆硬度(JIS S 6006)がH以上であることが好ましい。鉛筆硬度は塗膜の厚さにより調整できる。
【0038】
以上説明した導電性塗膜は、上記導電性高分子溶液が塗布されて形成されたものであり、分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合を有する可溶化高分子成分が含まれ、その不飽和二重結合により、ハードコート成分から形成されたハードコート樹脂との相溶性を高めることができる。
また、この導電性塗膜は、無機導電性酸化物の微粒子や不溶不融の粒子を含まないため、透明性、導電性、基材との密着性に優れる。さらに、導電性高分子成分は特殊なモノマーの重合体ではないから安価である。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
(可溶化高分子成分の合成)
[製造例1:可溶化高分子成分1]
イオン交換水(100ml)に、43.4gのアクリル酸エチルスルホン酸ナトリウム(商品名:アントックス、日本乳化剤社製)を加え、80℃に保ちながら掻き混ぜた。次いで、その混合物に、予め10mlのイオン交換水に溶解した0.114gの過硫酸アンモニウムと0.04g硫酸第二鉄の複合酸化剤溶液を加え、80℃に保ちながら3時間攪拌した。
反応終了後、反応溶液を室温まで冷やしてから、それに1000mlのイオン交換水を添加し、その後、50%硫酸水溶液を30g加え、溶液を300mlまで濃縮した。この操作を4回繰り返した。
さらに、2000mlのイオン交換水を加え300mlまで濃縮する操作を透過溶液が中性になるまで繰り返し、得られた濃縮溶液をオーブン中で乾燥してポリアクリル酸エチルスルホン酸を得た。
【0040】
[製造例2:可溶化高分子成分2]
イオン交換水(100ml)に、28.4gの2−ヒドロキシエチルメタクリレートと10.1gのシアノアクリレートと15.5gのアリルカルボン酸ナトリウムを加え、70℃に保ちながら掻き混ぜた。次いで、その混合物に、予め10mlのイオン交換水に溶解した0.146g過硫酸カリウムと0.04gの硫酸第二鉄の複合酸化剤溶液を加え、70℃に保ちながら5時間攪拌した。
反応終了後、反応溶液を室温まで冷やしてから、それに1000mlのイオン交換水を添加し、そして50%硫酸水溶液を30g加え、溶液を300mlまで濃縮した。この操作を4回繰り返した。
得られた濃縮溶液をオーブン中で乾燥して、ビニルアルコール−シアノアクリレート−アリルカルボン酸ナトリウム共重合体を得た。
【0041】
[製造例3:可溶化高分子成分3]
トルエン(100ml)に、20gのアクリロニトリルと20.4gのビニルフェノール50gとを溶解し、重合開始剤として過酸化ベンゾイル2.5gを加え、60℃で8時間重合した。次いで、その重合により得られたポリマーをメタノール洗浄し、析出物を濾過後、テトラヒドロフラン100mlに溶解し、アクリル酸クロライド50gとピリジン10gを添加した。そして、室温で24時間攪拌し、脱塩酸反応により生成したポリマーをメタノールで洗浄し、析出物を濾過して可溶化高分子成分3を得た。
【0042】
(導電性高分子成分の合成)
[製造例4:導電性高分子成分1]
製造例2で得た共重合体30gを、アセトニトリルとイオン交換水とからなる溶媒(3:7の混合比)90gに溶解し、3−メチルチオフェン50gを加え、室温で1時間攪拌した。
この溶液に、塩化第二鉄250gをアセトニトリル1250mlに溶解した酸化剤溶液を、室温で2時間かけて滴下し、さらに12時間攪拌を続けて3−メチルチオフェンを重合した。
反応終了後、3−メチルチオフェンの重合体を含む溶液に2000mlのメタノールを加え、限外濾過法により洗浄し、沈殿物をろ過し、得られた沈殿物にN,N−ジメチルホルムアミドを加えて超音波処理してポリ3−メチルチオフェン溶液(濃度;5質量%)を得た。
【0043】
[製造例5:導電性高分子成分2]
製造例1で得たポリアクリル酸エチルスルホン酸40gをイオン交換水90gに溶解し、ピロール50gを加え、10℃に保ちながら1時間攪拌した。
この溶液に、塩化第二鉄240gをアセトニトリル1250mlに溶解した酸化剤溶液を、10℃に保ちながら2時間かけて滴下し、さらに12時間攪拌を続けてピロールを重合した。
反応終了後、ポリピロールの重合体を含む溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外濾過法により洗浄してポリピロール溶液(濃度;5質量%)を得た。
【0044】
[製造例6:導電性高分子成分3]
製造例3で得た可溶化高分子成分360gをアセトニトリル200mlに溶解し、チオフェン50gとアントラキノンスルホン酸ナトリウム120gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液に塩化第二鉄250gを1000mlに溶解した酸化剤溶液を1時間かけながら滴下し、さらに3日間攪拌し続けてチオフェンを重合した。
反応終了後、チオフェンの重合体を含む溶液に2000mlのメタノールを加え、限外濾過法により洗浄し、沈殿物をろ過し、得られた沈殿物にN,N−ジメチルホルムアミドを加えて超音波処理してポリチオフェン溶液(濃度;5質量%)を得た。
【0045】
(導電性高分子溶液の調製及び導電性塗膜の形成)
[実施例1]
ポリ3−メチルチオフェン溶液100gとビニルクロライド5gとヒドロキシブチルビニルエーテル95gとウレタンアクリレート(根上工業製H−61)を混合し、80℃に保ちながら2時間攪拌して導電性高分子溶液を得た。
この導電性高分子溶液にIRGACURE500(液体光重合開始剤:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を添加し、コロナ処理を施したPETフィルム上にコンマコーターにより塗布した。そして、150℃、5分間乾燥し、高圧水銀灯により紫外線を照射(積算光量:500mJ/cm)して厚さ1μmの塗膜を形成した。
【0046】
その塗膜について、表面抵抗、可視光透過率、ヘイズ、基材との密着性を以下のように評価した。結果を表1に示す。
<表面抵抗(導電性)>ダイヤインスツルメンツ製ハイレスタでプローブとしてMCP−HTP16を用いて測定した。
<可視光透過率、ヘイズ(透明性)>可視光透過率はJIS Z 8701に準拠して測定した。また、ヘイズはJIS K 6714に準拠して測定した。なお、PETフィルムの可視光透過率は91.3%、ヘイズは2.44%であった。
<基材との密着性(密着性)>碁盤目テープ法(JIS K 5400)に準じて密着性試験を行った。具体的には、PETフィルム上に導電性塗膜、反射防止層、防汚層が積層されている成膜表面にカッターで1mm間隔で縦横各11本の切込みを入れた(計100個の正方形マス目状)。これにセロファン粘着テープを貼り、剥離した後、PETフィルム上に残ったマス目の数をカウントした。
<鉛筆硬度>JIS S 6006に規定された試験用鉛筆を用いて、JIS K 5400に従い、9.8Nの荷重をかけた際に、傷が全く認められない硬度を測定した。
【0047】
【表1】

【0048】
[実施例2]
ポリピロール溶液100gとグリシジルアクリレート100gとジメチルアクルアミド100gとを混合し、100℃に保ちながら2時間攪拌し、エバポレーターで水分を除去して導電性高分子溶液を得たこと以外は実施例1と同様にして塗膜を形成し、評価した。
[実施例3]
ポリチオフェン溶液100gとペンタエリスリトールトリアクリレート100gとを混合して導電性高分子溶液を得たこと以外は実施例1と同様にして塗膜を形成し、評価した。
【0049】
[比較例1]
ポリ3−メチルチオフェン溶液100gとペンタエリスリトールトリアクリレート100gとを混合し、80℃に保ちながら2時間攪拌して導電性高分子溶液を得たこと以外は実施例1と同様にして塗膜を形成し、評価した。なお、この例では、可溶化高分子成分における分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合が形成されていない。
[比較例2]
ポリピロール溶液100gとジプロピレングリコールジアクリレート100gとジメチルスルホキシド100gとを混合し、100℃に保ちながら2時間攪拌し、エバポレーターで水分を除去して導電性高分子溶液を得たこと以外は実施例1と同様にして塗膜を形成し、評価した。この例においても、可溶化高分子成分における分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合が形成されていない。
[比較例3]
ポリピロール溶液を、コロナ処理を施したPETフィルム上にコンマコーターにより塗布し、150℃、5分間乾燥して厚さ1μmの塗膜を形成し、実施例1と同様に評価した。
【0050】
本願請求項1の範囲を満たす導電性高分子溶液から形成された実施例1〜3の塗膜は、導電性、透明性、基材との密着性に優れていた。また、可溶化高分子成分が分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合を有するため、ハードコート樹脂との相溶性に優れる。
一方、可溶化高分子成分における分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合が形成されていない比較例1,2の塗膜は透明性が低かった。また、この塗膜にハードコート樹脂が混合されても相溶性が低い。
可溶化高分子成分における分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合が形成されていない比較例3の塗膜は基材との密着性が低かった。また、この塗膜にハードコート樹脂が混合されても相溶性が低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内の側鎖の末端に不飽和二重結合を有する可溶化高分子成分及び導電性高分子成分を含む可溶性導電性高分子成分と、光硬化性モノマー及び/又は有機溶媒とを含有することを特徴とする導電性高分子溶液。
【請求項2】
可溶化高分子成分が、主鎖と不飽和二重結合との間にスルホン酸エステル及び/又はカルボン酸エステルを有することを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子溶液。
【請求項3】
ハードコート成分を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性高分子溶液。
【請求項4】
請求項3に記載の導電性高分子溶液が塗布されて形成されたことを特徴とする導電性塗膜。

【公開番号】特開2006−28439(P2006−28439A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212758(P2004−212758)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】