説明

導電性高分子繊維およびその製造方法

【課題】結晶性が良好で高強度であり、かつ導電性が良好な導電性高分子繊維およびその製造方法を提供する。
【解決手段】X線回折により得られる(020)面の回折ピークの半値幅が6〜10°である導電性高分子繊維、および粘度が50〜400mPa・sである導電性高分子溶液または導電性高分子分散液を準備する工程と、凝固浴中に前記導電性高分子溶液または前記導電性高分子分散液を押し出し湿式紡糸する工程と、を含む、導電性高分子繊維の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性高分子繊維およびその製造方法に関し、さらに詳細には、結晶性が良好で高強度であり、かつ導電性が良好な導電性高分子繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の分野では、小型でかつ軽量でアクチュエータ動作を可能にする材料、およびそれを用いたクッションやシート等の装置の必要性が高まっている。このアクチュエータの軽量化および省スペース化といった観点から、導電性を有する高分子繊維を用いたアクチュエータの開発が進められている。
【0003】
従来、導電性を有する高分子繊維は、カーボンブラック粒子などを導電フィラーとして高分子繊維に混ぜ込んだ、いわゆる練り込み型のタイプがある。しかし、これはもともと絶縁性である樹脂に導電性を持たせる工夫を施したものであるため、繊維の導電性としては、含まれる導電フィラー以上の導電性は見込めない。
【0004】
非特許文献1では、チオフェン系の導電性高分子であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)にポリスチレンスルホン酸(PSS)をドープしたPEDOT/PSS水分散液を用いて繊維化したものが開示されている。
【非特許文献1】H.Okazaki et al.,Macromol.Rapid commun.,24,p.261(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の導電性高分子は、高々繊維径が10μmのものしか作製できておらず、この繊維径では、繊維の取り扱いが困難な上、強度が弱いなど実使用上の問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、結晶性が良好で高強度であり、かつ導電性が良好な導電性高分子繊維およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた。その結果、粘度が特定の範囲にある導電性高分子溶液または導電性高分子分散液を用いて湿式紡糸を行うことにより、従来と比べて結晶性が良好な導電性高分子繊維が得られることを見出した。さらに、得られた導電性高分子繊維は高強度であり、かつ導電性が良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、X線回折により得られる(020)面の回折ピークの半値幅が6〜10°である、導電性高分子繊維である。
【0009】
また、本発明は、粘度が50〜400mPa・sである導電性高分子溶液または導電性高分子分散液を準備する工程と、凝固浴中に前記導電性高分子溶液または前記導電性高分子分散液を押し出し、湿式紡糸する工程と、を含む、導電性高分子繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、従来と比べて、結晶性が良好であり、より太い繊維径を有する導電性高分子繊維を得ることができる。結晶性が良好であり太い繊維径を有する本発明の導電性高分子繊維は、高強度でありかつ良好な導電性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の第1は、X線回折により得られる(020)面の回折ピークの半値幅が6〜10°である、導電性高分子繊維である。
【0013】
本発明の導電性高分子繊維は、良好な結晶性を有する。本発明の導電性高分子繊維の結晶性は、導電性高分子繊維のX線回折分析を行うことにより確認することができる。X線回折における2θ=25〜26°の(020)面の回折ピークは、導電性高分子全般に見られるものであり、導電性高分子鎖同士のスタッキング構造を反映している。スタッキング構造を有すると、導電性高分子の結晶性が良いこととなり、この際、(020)面の回折ピークはシャープになる、すなわち(020)面の回折ピークの半値幅がより小さくなる。具体的には、本発明の導電性高分子繊維のX線回折により得られる(020)面の回折ピークの半値幅は6〜10°である。前記半値幅が6°未満のものは、実質的に製造できない。前記半値幅が10°を超える場合、導電性高分子の結晶性が悪いため、導電性高分子繊維の強度が弱くなる。なお、本発明において、前記半値幅は、後述の実施例に記載の方法により算出された値を採用するものとする。
【0014】
良好な結晶性を有する導電性高分子繊維を得るためには、本発明の導電性高分子繊維の製造方法に含まれる湿式紡糸を行う工程において、凝固浴の温度を、導電性高分子溶液または導電性高分子分散液に用いられている溶媒の凝固点以下とすることが好ましい。かような特徴を有しうる本発明の導電性高分子繊維の製造方法については、詳細に後述する。
【0015】
本発明の導電性高分子繊維の繊維径は、好ましくは15〜1000μmである。繊維径がこの範囲内であれば、高強度でありかつ導電性が良好な導電性高分子繊維が得られる。前記繊維径が15μm未満である場合、導電性高分子繊維の強度が不十分となる場合がある。前記繊維径が1000μmを超える場合、繊維径が太すぎるため、布帛とする際に困難となる場合がある。前記繊維径は、より好ましくは50〜500μm、さらに好ましくは100〜300μmである。なお、本発明において、前記繊維径は、後述の実施例に記載の方法により測定した値を採用するものとする。
【0016】
太い繊維径を有する導電性高分子繊維を得るためには、本発明の導電性高分子繊維の製造方法において、用いられる導電性高分子溶液または導電性高分子分散液の粘度を所定の範囲とすることが重要である。かような特徴を有する本発明の導電性高分子繊維の製造方法については、詳細に後述する。
【0017】
本発明の導電性高分子繊維の引張強度は、好ましくは60〜100MPa、より好ましくは70〜100MPa、さらに好ましくは80〜100MPaである。なお、本発明において、前記引張強度は、後述の実施例に記載の方法により測定した値を採用するものとする。
【0018】
また、本発明の導電性高分子繊維の導電率は、好ましくは3〜15S/cm、より好ましくは5〜15S/cm、さらに好ましくは10〜15S/cmである。なお、本発明において、前記導電率は、後述の実施例に記載の方法により測定した値を採用するものとする。
【0019】
次に、本発明の導電性高分子繊維を構成する材料について説明する。
【0020】
本発明で用いられる導電性高分子は、導電性を示す高分子であれば特に制限されない。具体的な例としては、ポリアセチレン、ポリメチルアセチレン、ポリフェニルアセチレン、ポリフルオロアセチレン、ポリブチルアセチレン、ポリメチルフェニルアセチレンなどのポリアセチレン系高分子;ポリオルソフェニレン、ポリメタフェニレン、ポリパラフェニレンなどのポリフェニレン系高分子;ポリピロール、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−ドデシルピロール)、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(N−ドデシルピロール)、ポリ(N−メチル−3−メチルピロール)、ポリ(N−エチル−3−ドデシルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)などのポリピロール系高分子;ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジエチルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などのポリチオフェン系高分子;ポリフラン;ポリセレノフェン;ポリイソチアナフテン;ポリフェニレンスルフィド;ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(2−エチルアニリン)、ポリ(2,6−ジメチルアニリン)などのポリアニリン系高分子;ポリフェニレンビニレン;ポリチオフェンビニレン;ポリペリナフタレン;ポリアントラセン;ポリナフタレン;ポリピレン;ポリアズレン;またはこれらの誘導体が好ましく挙げられる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
これらの中でも、安定性、信頼性、または入手の容易さなどの観点から、ポリピロール系高分子、ポリチオフェン系高分子、およびポリアニリン系高分子からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0022】
本発明において、前記導電性高分子の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。製造方法の具体的な例としては、例えば、化学重合法、電解重合法、可溶性前駆体法、マトリックス(鋳型)重合法、またはCVDなどの蒸着法が挙げられる。また、前記導電性高分子は、市販品を用いてもよい。
【0023】
本発明で用いられる導電性高分子は、さらにドーパントを含んでいてもよい。ドーパントを前記導電性高分子に添加することにより、より高い導電性を発現させることができる。
【0024】
前記ドーパントの具体的な例としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン;過塩素酸イオン;テトラフルオロ硼酸イオン;六フッ化ヒ酸イオン;硫酸イオン;硝酸イオン;チオシアン酸イオン;六フッ化ケイ酸イオン;燐酸イオン、フェニル燐酸イオン、六フッ化燐酸イオンなどの燐酸系イオン;トリフルオロ酢酸イオン;トシレートイオン、エチルベンゼンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオンなどのアルキルベンゼンスルホン酸イオン;メチルスルホン酸イオン、エチルスルホン酸イオンなどのアルキルスルホン酸イオン;または、ポリアクリル酸イオン、ポリビニルスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸イオン、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)イオンなどの高分子イオンなどが好ましく挙げられ、これらは単独でもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、より高い導電性の発現が容易にできるという観点から、ポリスチレンスルホン酸イオンがより好ましい。
【0025】
前記ドーパントの添加量は、前記導電性高分子100質量部に対して、好ましくは3〜50質量部、より好ましくは10〜30質量部である。
【0026】
このようなドーパントを含む導電性高分子の例としては、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)に、ポリ(4−スチレンスルホン酸)(PSS)をドープしたPEDOT/PSSが挙げられる。
【0027】
本発明に用いられる導電性高分子の形態は、特に制限されず、固状、液状、粉末状、粒状、溶液状、または分散液状など、いずれの形態であってもよい。
【0028】
本発明の導電性高分子繊維は、その特性を損なわない範囲内で、カーボンナノチューブなどの炭素材料、顔料、着色剤などの無機粒子などの添加成分を含むことができる。
【0029】
本発明の第2は、導電性高分子繊維の製造方法である。
【0030】
本発明による導電性高分子繊維の製造方法は、粘度が50〜400mPa・sである導電性高分子溶液または導電性高分子分散液を準備する工程と、凝固浴中に前記導電性高分子溶液または導電性高分子分散液を押し出し、湿式紡糸する工程と、を含む。
【0031】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明の導電性高分子繊維の製造方法を説明する。しかしながら、本発明の技術的範囲は、下記に限定されるものではない。
【0032】
[導電性高分子溶液または導電性高分子分散液を準備する工程]
本工程は、粘度が50〜400mPa・sである導電性高分子溶液または導電性高分子分散液を準備する工程である。
【0033】
導電性高分子の具体的な例は、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0034】
前記導電性高分子が固状、液状、粉末状、または粒状である場合は、本工程において、前記導電性高分子と溶媒とを混合し、粘度が50〜400mPa・sである導電性高分子溶液または導電性高分子分散液を調製すればよい。前記導電性高分子が溶液状または分散液状であり、かつその溶液または分散液の粘度が前記の範囲から外れる場合は、本工程において、前記導電性高分子溶液または前記導電性高分子分散液を濃縮または希釈して、粘度が上記の範囲内となるようにすればよい。
【0035】
前記導電性高分子溶液もしくは前記導電性高分子分散液の調製または希釈に用いられる溶媒は、前記導電性高分子を溶解または分散するものであれば特に制限はない。このような溶媒の例としては、水;n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、iso−ヘキサン、n−ヘプタン、iso−ヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−オクタン、iso−オクタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n−プロピルベンセン、iso−プロピルベンセン、ジエチルベンゼン、iso−ブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジ−iso−プロピルベンセン、n−アミルナフタレン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、iso−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、tert−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、ヘプタノール−3、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、2,6−ジメチルヘプタノール−4、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フェニルメチルカルビノール、ジアセトンアルコール、クレゾールなどのモノアルコール系溶媒;エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ペンタンジオール−2,4、2−メチルペンタンジオール−2,4、ヘキサンジオール−2,5、ヘプタンジオール−2,4、2−エチルヘキサンジオール−1,3、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル−iso−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジ−iso−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、ジアセトンアルコール、アセトフェノン、フェンチョンなどのケトン系溶媒;エチルエーテル、iso−プロピルエーテル、n−ブチルエーテル、n−ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル、エチレンオキシド、1,2−プロピレンオキシド、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、テトラエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;ジエチルカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸iso−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n−ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノプロピルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸iso−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチルなどのエステル系溶媒;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドンなどの含窒素系溶媒;硫化ジメチル、硫化ジエチル、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−プロパンスルトンなどの含硫黄系溶媒などを挙げることができる。これらは単独でもまたは2種以上を混合しても用いることができる。
【0036】
これら溶媒の中でも、保存安定性、取り扱い容易性、入手の容易さなどの観点から、水、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノールが好ましい。
【0037】
前記導電性高分子溶液または前記導電性高分子分散液を濃縮する場合、その濃縮方法は、特に制限されない。例えば、ガラス製やテフロン製のシャーレ、ガラス製のフラスコなどの容器に導電性高分子溶液または導電性高分子分散液を入れ、オーブン、ホットプレート、ホットスターラー、ドライヤー、減圧乾燥器、またはエバポレータなどを用いて溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。この際、濃縮の条件は、溶媒の種類、導電性高分子溶液または導電性高分子分散液の所望の粘度などに応じて適宜選択されうる。
【0038】
前述したように、前記導電性高分子溶液または前記導電性高分子分散液の粘度は50〜400mPa・sである。50mPa・sよりも低い粘度であると、口金口径に見合った導電性高分子溶液または導電性高分子分散液の吐出量が確保できず、本発明の導電性高分子繊維が得られない場合がある。一方、400mPa・sより高い粘度であると、前記導電性高分子溶液または前記導電性高分子分散液がゲル状態となってしまい、シリンジポンプで押し出しすることができず、繊維化が困難となる場合がある。繊維の太径化の観点から、前記粘度は、好ましくは100〜400mPa・s、さらに好ましくは150〜350mPa・sである。
【0039】
[湿式紡糸する工程]
本工程は、凝固浴中に前記導電性高分子溶液または前記導電性高分子分散液を押し出し、湿式紡糸する工程である。
【0040】
図1は、本工程で用いられる湿式紡糸装置10の構成の一例を示す模式図である。図1に示す湿式紡糸装置10は、口金11を備えたシリンジ12、およびシリンジポンプ13を備える。導電性高分子溶液または分散液は、シリンジ12内に入れられ、シリンジポンプ13を用いて口金11を通して、凝固液が入った凝固浴14中に押し出される。凝固浴14は、チラー15および金属パイプ16によって所定の温度に保たれている。凝固浴14に押し出された導電性高分子溶液中または導電性高分子分散液中の導電性高分子は、繊維状に凝固する。凝固した導電性高分子繊維17は、凝固浴から引き出され、繊維送り機18を経て、繊維巻取り機19で巻き取られ、所望の結晶性を有する導電性高分子繊維を得ることができる。本工程で用いられる湿式紡糸装置は、上記のような構成に限られるものではなく、例えば、市販の湿式紡糸装置を使用することができる。
【0041】
口金11の口径は、特に限定されるものではないが、通常、0.05〜2mmのものを用いることが出来る。口径を適宜選択することによって、最終的に得られる導電性高分子繊維の繊維径を調節することができる。口金11の形状は特に制限されず、その例としては、例えば、円形状、三角形状、正方形状、矩形状、五角形状、六角形状、楕円形状、星形状、中空形状などが挙げられる。図2は、一例として、三角形状の口金から形成された、断面形状が三角形である導電性高分子繊維20を示す模式図である。図3は、他の例として、星形状の口金から形成された、断面形状が星形である導電性高分子繊維30を示す模式図である。図4は、さらに他の例として、中空形状の口金から形成された、断面形状が中空形である導電性高分子繊維40を示す模式図である。中空形の導電性高分子繊維40は、繊維成分40aと、中空部40bとからなる。
【0042】
導電性高分子溶液または導電性高分子分散液を、口金11を通じて凝固浴14中に押し出す際の押し出し速度は、好ましくは0.1〜100ml/hの範囲である。押出速度を適宜選択することによって、繊維表面の均一性を制御することができる。繊維の表面をより均一にするという観点から、前記押し出し速度は、より好ましくは0.1〜10ml/h、さらに好ましくは0.1〜2ml/hである。
【0043】
凝固浴14の温度は、導電性高分子溶液または導電性高分子分散液に用いられている溶媒の凝固点以下であることが好ましい。凝固浴中の凝固液は、導電性高分子溶液または導電性高分子分散液から脱溶媒を引き起こし、導電性高分子を繊維化させていく、すなわち導電性高分子を結晶化させていく役割を果たす。そのため、凝固浴の温度を、好ましくは導電性高分子溶液または導電性高分子分散液に用いられている溶媒の凝固点以下の温度とすることで、導電性高分子内部からゆっくりと脱溶媒され、導電性高分子の結晶化がゆっくりと進行する。これにより、得られる導電性高分子繊維の結晶性が高くなりうる。結晶性を高めることによって、導電性高分子繊維の強度をより向上させることができ、また、得られる繊維の表面もより均一になりうる。
【0044】
さらに具体的には、例えば、導電性高分子溶液または導電性高分子分散液に用いられている溶媒が水である場合、凝固浴の温度は、好ましくは−20〜0℃、より好ましくは−5〜0℃である。
【0045】
なお、導電性高分子溶液または導電性高分子分散液に用いられている溶媒が、2種以上の溶媒を混合した混合溶媒である場合、その混合溶媒の凝固点は、凝固点が最も低い溶媒の凝固点を採用するものとする。
【0046】
上述のような凝固浴の温度設定を行うことにより、本発明の導電性高分子繊維は良好な結晶性を有することとなる。
【0047】
凝固浴に用いられる凝固液は、導電性高分子溶液または導電性高分子分散液に用いられている溶媒と混和性があり、かつ導電性高分子溶液または導電性高分子分散液に用いられている溶媒の凝固点以下の凝固点を有する凝固液であることが好ましい。前記のような凝固液を選択することによって、導電性高分子の繊維化が可能となり、かつ凝固浴の温度を導電性高分子溶液または導電性高分子分散液に用いられている溶媒の凝固点以下の温度に設定することができる。
【0048】
前記凝固液の具体的な例としては、例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられる。これら凝固液は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。例えば、導電性高分子溶液または導電性高分子分散液に用いられている溶媒が水である場合、水を容易に取り除くという観点から、凝固液としてアセトンが特に好ましく用いられる。また、導電性高分子の繊維化が可能であれば、凝固液として、導電性高分子溶液または導電性高分子分散液に用いられている溶媒と、上記のような凝固液とを混合した混合溶媒を用いてもよい。
【0049】
凝固浴から導電性高分子繊維を引き上げる際の引き上げ速度は、特に制限されず、凝固浴への導電性高分子溶液または導電性高分子分散液の押し出し速度に応じて、適宜選択されうる。
【0050】
また、本発明の製造方法において、口金形状に工夫を加え、導電性高分子と、導電性高分子と異なる樹脂材料とを、凝固浴中に同時に押し出して湿式紡糸を行い、導電性高分子と導電性高分子と異なる樹脂材料とからなる導電性線材を得ることができる。
【0051】
図5は、一例として、芯鞘型の導電性線材50を示す模式図である。この際、導電性高分子は、鞘成分50aの形成材料として用いられてもよいし、芯成分50bの形成材料として用いられてもよい。図6は、他の例として、サイドバイサイド型の導電性線材60を示す模式図である。この際、導電性高分子は、第1成分60aの形成材料として用いられてもよいし、第2成分60bの形成材料として用いられてもよい。図7は、さらに他の例として、海島型の導電性線材70を示す模式図である。この際、導電性高分子は、海成分70aの形成材料として用いられてもよいし、島成分70bの形成材料として用いられてもよい。
【0052】
導電性高分子と異なる樹脂材料は、特に制限されないが、繊維を形成する樹脂材料が好ましく、熱可塑性樹脂材料であることがより好ましい。これは、導電成分として主に導電性高分子を用いるため、樹脂材料と組み合わせることで、導電性高分子の機能をほとんど阻害すること無く、繊維を形成することが可能となるからである。さらに、熱可塑性樹脂材料が好ましい理由は、製品化して用いる際に、容易に所望の形状に成形して用いることができるからである。前記熱可塑性樹脂材料の具体例としては、例えば、ナイロン(登録商標)6、ナイロン(登録商標)66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、アクリルエマルジョン、ポリエステルエマルジョンなどが挙げられる。これらは単独でも、または2種以上組み合わせても用いることができる。
【0053】
本工程終了後、必要に応じて洗浄、乾燥、延伸などの工程を経て、本発明の導電性高分子繊維を得ることができる。なお、前記の洗浄、乾燥、延伸などの工程は、行わなくてもよい。
【0054】
本発明の導電性高分子繊維は、導電性高分子繊維を縦横に織り込むかまたは編み込むことにより布帛とすることができる。この導電性高分子繊維を含む布帛は、例えば、車両の座席に用いられる織物や編物中に設置することができる。導電性高分子繊維を含む布帛は、乗員の姿勢や体重などを検知する手段となり得、アクチュエータにフィードバックをかけることで乗り心地を改善したり、エアバックなどの作動位置を設定したりすることができる。
【0055】
また、導電性高分子繊維を含む布帛を車室外に設置する用途としては、バンパー等の車両外周部に設置される接触センサ等が挙げられる。
【0056】
これら車両への適用の他にも、導電性高分子繊維を含む布帛は、病院や介護施設などで用いられているベッドのシーツ中に設置することができる。これにより、応力の掛かっている位置の検知手段や寝返り補助などに使用することができる。さらに、導電性高分子繊維を衣類状として、着用した際に応力がかかっているところを検出し、通気量を変化させるための信号を発生させる手段としても用いることができる。
【実施例】
【0057】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、導電性高分子分散液の粘度測定は、振動式粘度計(CBC株式会社製、型番:VM−10A)を用い、室温(25℃)で行った。
【0058】
また、導電性高分子繊維の繊維径は、走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製、型番:VE−8800)により得られる像から求めた(図8参照)。
【0059】
(実施例1)
<導電性高分子水分散液の粘度調整>
粘度10mPa・sのPEDOT/PSS水分散液(エイチ・シー・スタルク株式会社製、Baytron(登録商標)P AG、固形分1.3質量%、下記化学式(1)参照)50gを、テフロンシャーレにとった。次いで、ホットスターラー(stuart社製、型番:CB162)上で、100℃、30分間加熱し、水を蒸発させた。これにより、粘度が50mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を得た。
【0060】
<湿式紡糸>
得られた粘度50mPa・sのPEDOT/PSS水分散液を、口金口径が0.41mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−22G−LF)を取り付けたシリンジに入れた。その後、シリンジポンプ(アズワン株式会社製、型番:IC3210)を用いて、粘度が50mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を、チラー(東京理化器械株式会社製、型番:CA−1310)により−5℃に設定した凝固浴中に押し出した。凝固浴中の凝固液はアセトン(和光純薬工業株式会社製、製品番号:019−00353)を用い、押し出し速度は0.5mL/hであった。その結果、繊維径が15μmである導電性高分子繊維を得た。
【0061】
【化1】

【0062】
(実施例2)
口金口径が0.90mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−18G−LF)を用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整および湿式紡糸を行い、繊維径が20μmである導電性高分子繊維を得た。
【0063】
(実施例3)
口金口径が1.69mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−14G−LF)を用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整および湿式紡糸を行い、繊維径が25μmである導電性高分子繊維を得た。
【0064】
(実施例4)
加熱時間を60分としたこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整を行い、粘度が100mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を得た。
【0065】
その後、粘度が100mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を、口金口径が0.41mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−22G−LF)を取り付けたシリンジに入れた。次いで、シリンジポンプ(アズワン株式会社製、型番:IC3210)を用いて、粘度が100mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を、チラー(東京理化器械株式会社製、型番:CA−1310)により−5℃に設定した凝固浴中に押し出した。凝固浴中の凝固液はアセトン(和光純薬工業株式会社製、製品番号:019−00353)を用い、押し出し速度は0.5mL/hであった。その結果、繊維径が20μmである導電性高分子繊維を得た。
【0066】
(実施例5)
口金口径が0.90mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−18G−LF)を用いたこと以外は実施例4と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整および湿式紡糸を行い、繊維径が30μmである導電性高分子繊維を得た。
【0067】
(実施例6)
口金口径が1.69mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−14G−LF)を用いたこと以外は実施例4と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整および湿式紡糸を行い、繊維径が45μmである導電性高分子繊維を得た。
【0068】
(実施例7)
加熱時間を90分としたこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整を行い、粘度が200mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を得た。
【0069】
その後、粘度が200mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を、口金口径が0.41mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−22G−LF)を取り付けたシリンジに入れた。次いで、シリンジポンプ(アズワン株式会社製、型番:IC3210)を用いて、粘度が200mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を、チラー(東京理化器械株式会社製、型番:CA−1310)により−5℃に設定した凝固浴中に押し出した。凝固浴中の凝固液はアセトン(和光純薬工業株式会社製、製品番号:019−00353)を用い、押し出し速度は0.5mL/hであった。その結果、繊維径が90μmである導電性高分子繊維を得た。
【0070】
(実施例8)
口金口径が0.90mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−18G−LF)を用いたこと以外は実施例7と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整および湿式紡糸を行い、繊維径が140μmである導電性高分子繊維を得た。
【0071】
(実施例9)
口金口径が1.69mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−14G−LF)を用いたこと以外は実施例7と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整および湿式紡糸を行い、繊維径が350μmである導電性高分子繊維を得た。
【0072】
(実施例10)
加熱時間を120分としたこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整を行い、粘度が300mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を得た。
【0073】
その後、粘度が300mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を、口金口径が0.41mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−22G−LF)を取り付けたシリンジに入れた。次いで、シリンジポンプ(アズワン株式会社製、型番:IC3210)を用いて、粘度が300mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を、チラー(東京理化器械株式会社製、型番:CA−1310)により−5℃に設定した凝固浴中に押し出した。凝固浴中の凝固液はアセトン(和光純薬工業株式会社製、製品番号:019−00353)を用い、押し出し速度は0.5mL/hであった。その結果、繊維径が120μmである導電性高分子繊維を得た。
【0074】
(実施例11)
口金口径が0.90mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−18G−LF)を用いたこと以外は実施例10と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整および湿式紡糸を行い、繊維径が200μmである導電性高分子繊維を得た。
【0075】
(実施例12)
口金口径が1.69mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−14G−LF)を用いたこと以外は実施例10と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整および湿式紡糸を行い、繊維径が450μmである導電性高分子繊維を得た。
【0076】
(実施例13)
加熱時間を150分としたこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整を行い、粘度が400mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を得た。
【0077】
その後、粘度が400mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を、口金口径が0.41mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−22G−LF)を取り付けたシリンジに入れた。次いで、シリンジポンプ(アズワン株式会社製、型番:IC3210)を用いて、粘度が400mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を、チラー(東京理化器械株式会社製、型番:CA−1310)により−5℃に設定した凝固浴中に押し出した。凝固浴中の凝固液はアセトン(和光純薬工業株式会社製、製品番号:019−00353)を用い、押し出し速度は0.5mL/hであった。その結果、繊維径が140μmである導電性高分子繊維を得た。
【0078】
(実施例14)
口金口径が0.90mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−18G−LF)を用いたこと以外は実施例13と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整および湿式紡糸を行い、繊維径が220μmである導電性高分子繊維を得た。
【0079】
(実施例15)
口金口径が1.69mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−14G−LF)を用いたこと以外は実施例13と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整および湿式紡糸を行い、繊維径が550μmである導電性高分子繊維を得た。
【0080】
(実施例16)
粘度10mPa・sのポリアニリン水分散液(Panipol社製、Panipol(登録商標) W、ポリアニリンの構造は下記化学式(2)参照)50gを、テフロンシャーレにとった。次いで、ホットスターラー(stuart社製、型番:CB162)上で、100℃、90分間加熱し、水を蒸発させた。これにより、粘度が200mPa・sであるポリアニリン水分散液を得た。
【0081】
その後、粘度が200mPa・sであるポリアニリン水分散液を、口金口径が0.41mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−22G−LF)を取り付けたシリンジに入れた。その後、シリンジポンプ(アズワン株式会社製、型番:IC3210)を用いて、ポリアニリン水分散液をチラー(東京理化器械株式会社製、型番:CA−1310)により−5℃に設定した凝固浴中に押し出した。凝固浴中の凝固液はアセトン(和光純薬工業株式会社製、製品番号:019−00353)を用い、押し出し速度は0.5mL/hであった。その結果、繊維径が120μmである導電性高分子繊維を得た。
【0082】
【化2】

【0083】
(実施例17)
導電性高分子分散液として、粘度が200mPa・sであるポリピロール水分散液(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、製品番号:48255−2、ポリピロールの構造は下記化学式(3)参照)を用いた。このポリピロール水分散液を、口金口径が0.41mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−22G−LF)を取り付けたシリンジに入れた。その後、シリンジポンプ(アズワン株式会社製、型番:IC3210)を用いて、ポリアニリン水分散液をチラー(東京理化器械株式会社製、型番:CA−1310)により−5℃に設定した凝固浴中に押し出した。凝固浴中の凝固液はアセトン(和光純薬工業株式会社製、製品番号:019−00353)を用い、押し出し速度は0.5mL/hであった。その結果、繊維径が100μmである導電性高分子繊維を得た。
【0084】
【化3】

【0085】
(実施例18)
凝固浴中の凝固液を、アセトン(和光純薬工業株式会社製、製品番号:019−00353)と水との混合溶媒(アセトン:水=5:1 質量比)としたこと以外は、実施例7と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整および湿式紡糸を行った。その結果、繊維径が140μmである導電性高分子繊維を得た。
【0086】
(実施例19)
導電性高分子であるポリアニリン粉末(Panipol社製、Panipol(登録商標) F)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に分散させ、粘度が200mPa・sである導電性高分子分散液を調製した。
【0087】
その後、粘度が200mPa・sであるポリアニリンDMF分散液を、口金口径が0.41mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−22G−LF)を取り付けたシリンジに入れた。次いで、シリンジポンプ(アズワン株式会社製、型番:IC3210)を用いて、粘度が200mPa・sであるポリアニリン水分散液を、チラー(東京理化器械株式会社製、型番:CA−1310)により−25℃に設定した凝固浴中に押し出した。凝固浴中の凝固液はジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、押し出し速度は0.5mL/hであった。その結果、繊維径が130μmである導電性高分子繊維を得た。
【0088】
(比較例1)
粘度10mPa・sのPEDOT/PSS水分散液(エイチ・シー・スタルク株式会社製、Baytron(登録商標)P AG、固形分1.3質量%)をそのまま用いたこと、および凝固浴の温度を20℃に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、湿式紡糸を行った。その結果、繊維径が10μmである導電性高分子繊維を得た。
【0089】
(比較例2)
口金口径が1.69mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−14G−LF)を用いたこと以外は比較例1と同様にして湿式紡糸を行い、繊維径が10μmである導電性高分子繊維を得た。
【0090】
(比較例3)
加熱時間を180分としたこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子水分散液の粘度調整を行い、粘度が500mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を得た。
【0091】
その後、粘度が500mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を、口金口径が0.41mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−22G−LF)を取り付けたシリンジに入れた。次いで、シリンジポンプ(アズワン株式会社製、型番:IC3210)を用いて、粘度が500mPa・sであるPEDOT/PSS水分散液を凝固浴中に押し出そうとした。しかしながら、導電性高分子水分散液がゲル状となり、シリンジポンプにより押し出すことができず、繊維化できなかった。
【0092】
(比較例4)
粘度が10mPa・sであるポリアニリン水分散液(Panipol社製、Panipol(登録商標) W)を、口金口径が0.41mmである口金(武蔵エンジニアリング株式会社製、型番:SN−22G−LF)を取り付けたシリンジに入れた。その後、シリンジポンプ(アズワン株式会社製、型番:IC3210)を用いて、ポリアニリン水分散液を室温(約20℃)である凝固浴中に押し出した。凝固浴中の凝固液はアセトン(和光純薬工業株式会社製、製品番号:019−00353)を用い、押し出し速度は0.5mL/hであった。その結果、繊維径が10μmである導電性高分子繊維を得た。
【0093】
<評価1:導電性高分子繊維の導電率>
下記表1に示す条件で測定した電流−電圧曲線(I−Vカーブ)の傾きから抵抗Rを求め、下記数式1により算出した。なお、電流−電圧曲線の一例を、図9に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
【数1】

【0096】
<評価2:導電性高分子繊維の引張強度>
下記表2に記載の条件で測定した。
【0097】
【表2】

【0098】
<評価3:導電性高分子繊維の(020)面の回折ピークの半値幅>
X線回折装置(株式会社マックサイエンス製、型番:MXP18VAHF、X線:CuKα線)を用いて得られる、2θ=25〜26°に現れる(020)面の回折ピークから求めた。
【0099】
得られた結果を、下記表3に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
上記表3からわかるように、粘度が50〜400mPa・sの範囲にある導電性高分子分散液を用いることにより、従来と比べてより太い繊維径を有する導電性高分子繊維を得ることができた。また、導電性高分子分散液に用いられている溶媒の凝固点より低い温度に設定した凝固浴を用いて湿式紡糸を行うことにより、導電性高分子繊維の導電性および引張強度が向上した。これは、実施例の導電性高分子繊維は、X線回折により得られる(020)面の回折ピークの半値幅が6〜10°の範囲内にあり、比較例の導電性高分子繊維に比べ結晶性が良好であるためと考えられる。図10は、実施例8および比較例1で得られた導電性高分子繊維のX線回折チャートを示す図である。図10から明らかなように、実施例8の導電性高分子繊維のX線回折における(020)面の回折ピークは、比較例1の導電性高分子繊維の(020)面の回折ピークよりもシャープになっており、半値幅も小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明で用いられる湿式紡糸装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】断面形状が三角形である導電性高分子繊維を示す模式図である。
【図3】断面形状が星形である導電性高分子繊維を示す模式図である。
【図4】断面形状が中空形である導電性高分子繊維を示す模式図である。
【図5】芯鞘型の導電性線材を示す模式図である。
【図6】サイドバイサイド型の導電性線材を示す模式図である。
【図7】海島型の導電性線材を示す模式図である。
【図8】本発明の導電性高分子繊維の繊維径の測定方法を示す図である。
【図9】本発明の導電性高分子繊維の導電率算出の際に用いられる、電圧−電流曲線の一例を示すグラフである。
【図10】実施例8および比較例1で得られた導電性高分子繊維のX線回折チャートを示す図である。
【符号の説明】
【0103】
10 湿式紡糸装置、
11 口金、
12 シリンジ、
13 シリンジポンプ、
14 凝固浴、
15 チラー、
16 金属パイプ、
17、20、30、40 導電性高分子繊維、
18 繊維送り機、
19 繊維巻取り機、
40a 繊維成分、
40b 中空部、
50、60、70 導電性線材、
50a 鞘成分、
50b 芯成分、
60a 第1成分、
60b 第2成分、
70a 海成分、
70b 島成分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折により得られる(020)面の回折ピークの半値幅が6〜10°である、導電性高分子繊維。
【請求項2】
前記導電性高分子繊維に含まれる導電性高分子が、ポリチオフェン系高分子、ポリピロール系高分子、およびポリアニリン系高分子からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の導電性高分子繊維。
【請求項3】
引張強度が60〜100MPaである、請求項1または2に記載の導電性高分子繊維。
【請求項4】
導電率が3〜15S/cmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性高分子繊維。
【請求項5】
粘度が50〜400mPa・sである導電性高分子溶液または導電性高分子分散液を準備する工程と、
凝固浴中に前記導電性高分子溶液または前記導電性高分子分散液を押し出し、湿式紡糸する工程と、
を含む、導電性高分子繊維の製造方法。
【請求項6】
前記凝固浴の温度は、前記導電性高分子溶液または前記導電性高分子分散液に用いられている溶媒の凝固点以下である、請求項5に記載の導電性高分子繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−293155(P2009−293155A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148366(P2008−148366)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】