説明

導電性高分子膜、導電性高分子膜の製造方法、および電子デバイス

【課題】導電性高分子膜、導電性高分子膜の製造方法、および電子デバイスに関し、膜厚が均等で導電性の高い導電性高分子膜を得ることを目的とする。
【解決手段】本発明は、酸化剤110と、界面活性物質120と、ドーパントアニオンと塩基性物質由来のカチオンとからなる塩である添加剤130とを含有する混合酸化剤液100を基板200に塗布し、これを導電性高分子の前駆体モノマー300の蒸気に曝露することによって、基板200上で導電性高分子モノマー300を化学重合させるものである。したがって、膜厚が均等で導電性に優れた導電性高分子膜を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子膜、及びその製造方法、および電子デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、金属的な電子伝導性または半導体性を有しながらも、柔軟性、軽量性などの特徴を有している。この特徴を生かして、帯電防止材、固体電解コンデンサの陰極材料、電磁波遮蔽材料、透明電極材料などの分野において、導電性高分子が用いられている。また、有機エレクトロルミネッセント素子(有機EL素子)、キャパシタ、トランジスタ、太陽電池、センサ、防錆材料などの用途に対しても、導電性高分子の応用研究がなされている。
【0003】
特に、固体電解コンデンサの陰極材料や、表示機能とスイッチ機能を複合させたタッチパネルの透明電極材料などの電子デバイスへの導電性高分子の応用に当っては、斯かる導電性高分子からなる膜(導電性高分子膜)に高い導電率が求められるため、この膜に、種々のドーパトや添加剤を導入することについて検討されている。
【0004】
また、特に電子デバイスの透明電極として、導電性高分子膜を用いる場合には、この膜の膜厚が均等で、表面が平滑であることが求められている。
このような背景の下、現在、導電性高分子の導電性の向上を目指して、添加剤として、(1)有機溶媒の添加、(2)塩基性化合物の添加、(3)酸性物質の添加する3つの技術が提案されている。
この第1の技術として、特許文献1においては、ポリチオフェンとポリアニオンから成る導電性高分子にNーメチルピロリドンやエチレングリコールなどの有機溶媒を添加する技術が提案されている。
また、第2の技術として、特許文献2においては、導電性高分子とポリアニオンから成る導電性高分子に塩基性の導電向上剤を添加することが提案されており、特許文献3、および非特許文献1においては、導電性高分子の前駆体モノマーに塩基性の導電向上剤を添加して酸化重合をすることが提案されている。
さらに、第3の技術として、特許文献4および特許文献5においては、導電性高分子の前駆体モノマーに酸性の添加剤、例えばパラ-トルエンスルホン酸や芳香族ジカルボン酸を添加して酸化重合をすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2916098号公報
【特許文献2】特開2007−95506号公報
【特許文献3】特開2008−171761号公報
【特許文献4】特開2004−107552号公報
【特許文献5】特開2008−34440号公報
【非特許文献1】Advanced Functional Materials 2004, 14, No.6, June, p615〜622
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、導電性高分子からなる膜の導電率σは、電荷をe、キャリア密度をn、移動度をμで表すと、σ=enμの式で表されるので、キャリア密度nと移動度μの値を大きくすることで、導電率σを高めることができることが分かる。
【0007】
本願発明者等の検討によれば、高い導電率σを得るには、キャリア輸送性の高いドーパントを添加してキャリア密度nの値を大きくすることが重要であり、さらに、これにまして、導電高分子膜の配向性を改善することによって、移動度μの値を高めることが重要であることを見出した。
【0008】
従って、特許文献1と2においては、導電性高分子を形成後に添加剤による処理を行うため導電性高分子の配向性を改善することができない不都合がある。 また、特許文献4と5においては、一般に酸化重合溶液の水素イオン指数(pH)を小さくする(即ち、酸性にする)と反応速度が速くなることから、導電性高分子の前駆体モノマーに酸性の添加剤を添加した場合、得られる導電性高分子膜の配向性が低くなる。この点からすると、上述の先行技術では、導電性高分子膜の配向性の改善がないので、キャリアが分子鎖内または分子鎖間を効率よく移動できないため、導電率の改善は期待できない。特許文献3と非特許文献1においては、塩基性の添加剤を添加することで重合速度を抑制し、配向性の高い導電性高分子膜が得られる。しかしながら、塩基性物質の添加により、反応速度が遅くなるので、得ようとする導電性高分子膜の膜厚を十分厚いものとすることに困難があった。
【0009】
一方、導電性高分子の薄膜形成法としては、化学重合、電解重合、また、既成の導電性高分子を媒体内に分散させてこれを膜化する方法など多くの方法があるが、製造設備の負担や製膜に相当の時間を要することになるなどの製造面の短所を考慮すると、基板上で化学重合を行うことによって導電性高分子膜を形成する方法が最も工業的に有利である。このため、基板上において、化学重合による導電性高分子膜を形成するには、基板に酸化剤と前駆体モノマーからなる重合液を塗布して重合を行う方法や、酸化剤液を基板に塗布し、それをモノマー蒸気に曝して重合を行う方法などがあるが、いずれの方法においても、平滑な薄膜を形成するには重合液あるいは酸化剤液を基板上に均一に塗布する必要がある。
【0010】
しかしながら、スピンコート法やディップ法などでガラスなどの基板上に、これらの重合液あるいは酸化剤液を塗布する際、これらの液が水溶液の場合では表面張力が大きいために基板に対するぬれ特性が悪く、基板にはじかれてしまい均一にこれらの液を広げることができないと云う不都合があった。このため、膜厚が均等で導電率が高い導電性高分子膜、およびそれを用いた電子デバイスを得ることには、限界があった。
【0011】
本発明の目的は、上述の特許文献などに示されている従来技術の課題に鑑み、膜厚が均等で導電率が高い導電性高分子膜、およびそれを用いた電子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の導電性高分子膜は、界面活性物質と、ドーパントアニオンと塩基性物質から成る塩を含有する酸化剤液あるいは重合液を用いて、導電性高分子モノマーを化学重合することによって得られるものである。
【0013】
斯かる本発明において、ドーパントアニオンとは、酸性を示すアニオンであって、スルホン基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基を有したアニオンなどが挙げられる。そして、これらのアニオンの官能基が、ベンゼン、ナフタレンに結合している化合物であることが好ましい。さらに、本発明において、塩基性物質由来のカチオンとは、塩基としての特性、即ち、酸と対になった働く特性を持つカチオンであって、窒素含有芳香族複素環式化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物がイオン化したときのカチオン、即ち、これらの化合物由来のカチオンが好ましい。
【0014】
このようにして得られる本発明の導電性高分子膜は、酸化剤液または重合液が水溶液であっても、含有する界面活性物質によって表面張力が低下するために基板上に酸化剤液を均一に塗布することができ、膜厚の均等な導電性高分子膜を得ることができるものである。さらに、本発明の導電性高分子膜は、酸化剤液または重合液に添加剤を含有させることにより、導電性高分子の反応速度が抑制され、導電性高分子のドープ率や配向性を改善することができ、導電性高分子膜の導電率を高めることができる。また、塩を用いることから酸化剤の酸化能力を低下させないため、十分な膜厚の導電性高分子膜を得ることができるものである。
【0015】
本発明の導電性高分子膜の製造方法は、酸化剤と、界面活性物質と、添加剤とを含有する酸化剤液を基板に塗布し、これを導電性高分子の前駆体モノマー蒸気に曝露して基板上で導電性高分子モノマーを化学重合させるものであり、この添加剤として、以下に説明する塩、即ち、ドーパントアニオンと塩基性物質由来のカチオンとからなる塩が用いられる。
【0016】
また、本発明の導電性高分子膜の製造方法は、導電性高分子の前駆体モノマーと、酸化剤と、界面活性物質と、添加剤とを含有する重合液を基板に塗布し、基板上で導電性高分子モノマーを化学重合させるものであり、この添加剤としては、以下に説明する塩、即ち、ドーパントアニオンと塩基性物質由来のカチオンとからなる塩が用いられる。
【0017】
本発明における添加剤は、以下の一般式で示される塩である。
【0018】
【化1】

【0019】
式中、Aはドーパントアニオン、Bは塩基性物質由来のカチオンである。
【0020】
本発明の電子デバイスは、上記本発明の導電性高分子膜が用いられていることを特徴としている。本発明の電子デバイスとしては、例えば、固体電解コンデンサ、有機EL素子、有機太陽電池、有機トランジスタ、タッチパネル、電池などが挙げられる。これらの電子デバイスにおいては、その電子デバイスにおいて導電性を必要とする有機膜として本発明の導電性高分子膜を用いることにより、電子デバイスの高性能化が図れる。また、これらの電子デバイスの電極として、本発明の導電性高分子膜を用いることも有用である。
【0021】
本発明の電子デバイスである固体電解コンデンサは、陽極と、陽極の表面上に形成される誘電体層と、誘電体層の上に形成される導電性高分子層と、導電性高分子層の上に形成される陰極層とを備え、導電性高分子層の少なくとも一部に、上記の本発明の導電性高分子膜が用いられている。このような本発明における固体電解コンデンサにおいては、誘電体層の上に形成される導電性高分子層の少なくとも一部に、本発明の導電性に優れた導電性高分子膜を用いることができるので、静電容量、あるいはESRといったコンデンサの特性の向上が図れる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の導電性高分子膜は、膜厚が均等で導電性に優れている。また、本発明の導電性高分子膜の製造方法は、膜厚が均等で導電性に優れた導電性高分子膜を製造することができる。本発明の電子デバイスは、上記本発明の導電性高分子膜を用いているので、導電性に優れた導電性高分子膜を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の導電性高分子膜の製造方法を示す工程図。
【図2】本発明の導電性高分子膜の他の製造方法を示す工程図。
【図3】本発明の電子デバイスの一例である固体電解コンデンサを示す模式的断面図。
【図4】本発明の電子デバイスの一例である有機太陽電池を示す模式的断面図。
【図5】本発明の電子デバイスの一例である結晶太陽電池を示す模式的断面図。
【図6】電子デバイスの一例であるタッチパネルを示す模式的断面図。
【図7】酸化剤に対する添加剤の配合モル比と導電率との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の導電性高分子膜は、界面活性物質と、添加剤(即ち、ドーパントアニオンと塩基性物質由来のカチオンからなる塩である添加剤)とを含有する酸化剤液あるいは重合液を用いて、導電性高分子モノマーを化学重合して得られるものである。
【0025】
図1(a)〜(d)に、本発明の導電性高分子膜の製造方法を工程順に示す。
【0026】
なお、図1では、導電性高分子膜の化学重合は、基体(この場合、基板)上で行われる例について示している。
【0027】
まず、図1(a)に示すごとく、酸化剤110と、界面活性物質120と、ドーパントアニオンと塩基性物質由来のカチオンからなる塩である添加剤130とを含有する混合酸化剤液100を作成する。この場合、酸化剤110としては、過酸化水素20重量%、硫酸1重量%の混合水溶液であり、約0.5g使用する。また、界面活性物質120としては、ドデシル硫酸ナトリウムを575mg使用する。さらに、添加剤130としては、パラ-トルエンスルホン酸ピリジニウム(以下、p−トルエンスルホン酸ピリジニウムと称する)を447mg使用する。この添加剤130は、ドーパントアニオンとしてのp-トルエンスルホン酸アニオンと、塩基性物質であるピリジン由来のカチオン(所謂、ピリジニウムカチオン)とからなる塩である。
【0028】
次に、図1(b)に示すごとく、基板200に対して、前記の酸化剤液100をスピンコートによって塗布する。この場合の塗布条件は以下のとおりである。基板200として、ガラス基板(約30mm角)を用い、スピン回転数は、1000rpmであり、スピン時間は、30秒である。塗布後の乾燥条件は、室温(25℃)で、乾燥時間は5〜10秒である。
【0029】
次に、図1(c)に示すごとく、導電性高分子の前駆体モノマー300の蒸気が充填された密閉室400内に、混合酸化剤液100が塗布された基板200を配置する。これによって、基板200上に塗布された混合酸化剤液100が電性高分子の前駆体モノマー300の蒸気に曝露されるので、この基板200の上で、化学重合が進行する。この反応(化学重合)によって導電性高分子モノマーの膜、すなわち、導電性高分子膜600が得られる。この場合の前駆体モノマー300の蒸気としては、ピロールの蒸気を用い、この場合の暴露条件は、室温(25度)で、20分間で、加圧なしである。
【0030】
以上の結果、図1(d)に示すごとく、基板200上に形成された本発明の導電性高分子膜600が得られる。このようにして得られたピロールからなる導電性高分子膜600の特性は、膜厚が0.12μmで、導電率が0.734S/cmである。
【0031】
次に、図2(a)〜(c)に、本発明の導電性高分子膜の他の製造方法を工程順に示す。図1では、図2と同様に、導電性高分子膜の化学重合は、基体(この場合、基板)上で行われる例について示している。
【0032】
図2(a)に示すごとく、導電性高分子の前駆体モノマー300と、酸化剤110と、界面活性物質120と、ドーパントアニオンと塩基性物質から成る塩である添加剤130とを含有する重合液500を作成する。この場合、導電性高分子の前駆体モノマー300としては、ピロールを147mg使用する。酸化剤110としては、過酸化水素20重量%、硫酸1重量%の混合水溶液であり、約0.5g使用する。また、界面活性物質120としては、ドデシル硫酸ナトリウムを57.5mg使用する。さらに、添加剤130としては、p-トルエンスルホン酸ピリジニウムを447mg使用する。
【0033】
次に、同図(b)に示すごとく、基板200に対して、前記の重合液500をスピンコートによって塗布する。この場合、前記の同図(a)のように作成(調合)した重合液500を直ちに、塗布する必要がある。このときの塗布条件は以下のとおりである。基板200として、ガラス基板(約30 mm角)を用い、スピン回転数は、1000rpmであり、スピン時間は、30秒である。塗布後の重合環境は、室温(25℃)で、30分を要する。その後、純水浸漬(10〜20秒)により洗浄した上で、温度50℃で5分間の乾燥させる。
【0034】
以上の結果、同図(c)に示すごとく、基板200上に形成された本発明の導電性高分子膜600が得られる。このようにして得られたピロールからなる導電性高分子膜600の特性は、膜厚が0.21 μmで、導電率が0.65S/cmである。
【0035】
以下、本発明の各要件について、さらに詳述する。
【0036】
<添加剤>
本発明における塩としては上記一般式で示され、添加剤としてはp-トルエンスルホン酸ピリジニウムを挙げることができる。導電性高分子の重合溶液に添加剤を含有させることにより、導電性高分子の反応速度が抑制され、導電性高分子のドープ率や配向性を改善することができ、導電性高分子膜の導電率を高めることができる。
【0037】
また、本発明の添加剤は、重合溶液中のpHを安定化させる機能があると考えられるので、導電性高分子の反応速度を抑制した状態に一定に保つことができる。すなわち、導電性高分子のドープ率や配向性を改善することができ、導電性高分子膜の導電率を高めることが出来る。さらに、添加剤が塩であるため、酸化剤の酸化能力を低下させないので、デバイスに用いるのに実用的な膜厚の導電性高分子膜を得ることが容易にできる。
従って、本発明における添加剤は、反応速度を抑制する作用と共にその反応速度を安定化させる作用を有する。導電性の向上は、添加剤により導電性高分子膜の配向性、結晶性及び膜の緻密性が改善されたためと考えられる。
【0038】
ポリピロールやポリエチレンジオキシチオフェン(略称:PEDOT)等の重合性モノマーを化学重合により重合して導電性高分子とするには、重合溶液のpHが小さいほど重合速度が速くなることが知られている。重合速度が速くなると、導電性高分子の膜質や配向性が低下して導電率が低下する。
そこで従来技術では、導電性を向上させるための添加剤の場合、ピリジンやイミダゾール等の塩基性物質を添加し、重合溶液のpHを大きくすることで酸化剤自体の酸化作用を低下させ反応速度を抑制していた。この場合、添加量を増やしていくと酸化剤の酸化能力が低下して重合反応が起こりにくくなり、十分な膜厚の導電性高分子膜を得ることができなくなる。
【0039】
本発明の添加剤の効果は、化学重合の反応に対する抑制効果(以下、反応抑制効果と称する)と考えられる。この反応抑制効果の詳細は不明であるが、添加剤の添加によるモノマー濃度の減少量に対して、得られる導電性高分子の膜厚はそれ以上に減少していることから、重合反応の抑制効果があることが確認できる。反応速度を抑制することで、導電性高分子膜の配向性、結晶性及び膜の緻密性が改善される。また、塩を用いることから酸化剤の酸化能力を低下させないため、十分な膜厚の導電性高分子膜を得ることができる。
【0040】
本発明において、導電性高分子の酸化剤液における添加剤の含有量は酸化剤や添加剤の種類にも依るが、酸化剤1モルに対して0.05モル〜2.0モルの範囲であることが好ましい。添加剤の含有量が少なすぎると、導電性に優れるという本発明の効果が十分に得られない場合がある。また、添加剤の含有量が多すぎると、重合抑制効果が強くなることで導電性高分子膜は薄くなり、十分な膜厚が得られ難くなる傾向にある。さらに例えばガラス基板上への導電性高分子膜を形成する場合には、界面活性が低減し基板への付着が不均一となる場合がある。添加剤の含有量のさらに好ましい範囲は、例えば過酸化水素を酸化剤、p-トルエンスルホン酸ピリジニウムを添加剤に用いてガラス基板200上へ製膜する場合においては0.1モル〜0.6モルであり、さらに好ましくは0.2モル〜0.5モルである。
【0041】
<導電性高分子モノマー>
本発明で用いる導電性高分子モノマー300としては、ピロール、チオフェン、またはアニリン及びこれらの誘導体を挙げることができる。モノマーの重合により、モノマーの繰り返し単位を有するπ共役系導電性高分子を得ることができる。従って、上記モノマーを用いることにより、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類、及びこれらの共重合体等からなる導電性高分子を得ることができる。π共役系導電性高分子は、無置換のままでも十分な導電性を得ることができるが、導電性をより高めるためには、アルキル基、カルボン酸基、スルホン酸基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基等の官能基をπ共役系導電性高分子に導入することが好ましい。
【0042】
このようなπ共役系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3,4−エチレンジオキシピロール)、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブデンジオキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)から選ばれる1種又は2種からなる(共)重合体が導電率の点から好適に用いられる。さらには、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、導電性がより高くなる上に耐熱性が向上する点から、より好ましい。
【0043】
<酸化剤>
本発明における酸化剤110は、導電性高分子モノマーの重合開始剤として用いられるものが好ましい。このような酸化剤としては、一般に知られている任意の酸化剤を用いることができるが、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過ホウ酸ナトリウム等のペルオキソ酸またはその塩、また、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄等の遷移金属化合物、p-トルエンスルホン酸鉄などの有機スルホン酸の遷移金属塩等などが挙げられる。本発明においては、酸化剤液が水溶液であっても、含有する界面活性物質によって表面張力が低下するために基板上に酸化剤液を均一に塗布することができるため、有機溶媒を用いる必要がなく、不燃性で比較的安全な水を溶媒として用いることができる。また、水にしか溶解しない酸化剤であっても使用できる点で酸化剤の選択範囲が広い。
【0044】
<添加剤>
本発明における添加剤としては、以下の一般式で示す塩を使用することができる。
【0045】
【化2】

【0046】
式中、Aは、ドーパントアニオン、Bは、塩基性物質由来のカチオンである。
【0047】
Aとしては、酸性を示すアニオンであることが好ましい。このような観点からは、スルホン基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基を有することが好ましく、さらに好ましくは、これらの官能基が、ベンゼン、ナフタレンに結合している化合物のアニオンである。
【0048】
他方、Bとしては、塩基性物質由来のカチオンとは、塩基としての特性、即ち、酸と対になった働く特性を持つカチオンであって、窒素含有芳香族複素環式化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物がイオン化したときのカチオン、即ち、これらの化合物由来のカチオンが好ましい。
【0049】
特に、このカチオンBとして窒素含有芳香族複素環式化合物を用いる場合には、例えば、1つの窒素原子を含有するピリジン類及びその誘導体、2つの窒素原子を含有するイミダゾール類及びその誘導体、ピリミジン類及びその誘導体、ピラジン類及びその誘導体、3つの窒素原子を含有するトリアジン類及びその誘導体等が挙げられる。溶媒溶解性の観点からは、ピリジン類及びその誘導体、イミダゾール類及びその誘導体、ピリミジン類及びその誘導体が好ましい。
【0050】
以下に、このカチオンBとして用いることのできる具体的物質を列挙数する。
ピリジン類及びその誘導体の具体的な例としては、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、4−エチルピリジン、3−ブチルピリジン、4−tert―ブチルピリジン、2−ブトキシピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2−フルオロピリジン、2,6−ジフルオロピリジン、2,3,5,6−テトラフルオロピリジン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−6−ビニルピリジン、5−メチル−2−ビニルピリジン、4−ブテニルピリジン、4−ペンテニルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、3−シアノ−5−メチルピリジン、2−ピリジンカルボン酸、6−メチル−2−ピリジンカルボン酸、2,6−ピリジン−ジカルボン酸、4−ピリジンカルボキシアルデヒド、4−アミノピリジン、2,3−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノ−4−メチルピリジン、4−ヒドロキシピリジン、2,6−ジヒドロキシピリジン、6−ヒドロキシニコチン酸メチル、2−ヒドロキシ−5−ピリジンメタノール、6−ヒドロキシニコチン酸エチル、4−ピリジンメタノール、4−ピリジンエタノール、2−フェニルピリジン、3−メチルキノリン、3−エチルキノリン、キノリノール、2,3−シクロペンテノピリジン、2,3−シクロヘキサノピリジン、1,2−ジ(4−ピリジル)エタン、1,2−ジ(4−ピリジル)プロパン、2−ピリジンカルボキシアルデヒド、2−ピリジンカルボン酸、2−ピリジンカルボニトリル、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3−ピリジンスルホン酸等が挙げられる。
【0051】
イミダゾール類及びその誘導体の具体的な例としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、2−ウンデジルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ビニルイミダゾール、N−アリルイミダゾール、2−メチル−4−ビニルイミダゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、4,5−イミダゾールジカルボン酸、4,5−イミダゾールジカルボン酸ジメチル、ベンズイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール−2−スルホン酸、2−アミノ−1−メチルベンズイミダゾール、2−ヒドロキシベンズイミダゾール、2−(2−ピリジル)ベンズイミダゾール、2−ノニルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0052】
ピリミジン類及びその誘導体の具体的な例としては、2−アミノ−4−クロロ−6−メチルピリミジン、2−アミノ−6−クロロ−4−メトキシピリミジン、2−アミノ−4,6−ジクロロピリミジン、2−アミノ−4,6−ジヒドロキシピリミジン、2−アミノ−4,6−ジメチルピリミジン、2−アミノ−4,6−ジメトキシピリミジン、2−アミノピリミジン、2−アミノ−4−メチルピリミジン、4,6−ジヒドロキシピリミジン、2,4−ジヒドロキシピリミジン−5−カルボン酸、2,4,6−トリアミノピリミジン、2,4−ジメトキシピリミジン、2,4,5−トリヒドロキシピリミジン、2,4−ピリミジンジオール等が挙げられる。
【0053】
ピラジン類及びその誘導体の具体的な例としては、ピラジン、2−メチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、ピラジンカルボン酸、2,3−ピラジンカルボン酸、5−メチルピラジンカルボン酸、ピラジンアミド、5−メチルピラジンアミド、2−シアノピラジン、アミノピラジン、3−アミノピラジン−2−カルボン酸、2−エチル−3−メチルピラジン、2−エチル−3−メチルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、2,3−ジエチルピラジン等が挙げられる。
【0054】
トリアジン類及びその誘導体の具体的な例としては、1,3,5−トリアジン、2−アミノ−1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリ−2−ピリジン−1,3,5−トリアジン、3−(2−ピリジン)−5,6−ビス(4−フェニルスルホン酸)−1,2,4−トリアジンニナトリウム、3−(2−ピリジン)−5,6−ジフェニル−1,2,4−トリアジン、2−ヒドロキシ−4,6−
ジクロロ−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0055】
その他の窒素含有芳香族複素環式化合物の具体的な例としては、インドール、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1H-ベンゾトリアゾール−1−メタノールなどが挙げられる。
【0056】
また、ここで、前述の添加剤として用いる塩の具体例を以下に示す。
【0057】
p-トルエンスルホン酸ピリジニウム、2−アミノエタンチオール−p-トルエンスルホン酸塩、アミノマロノニトリル−p-トルエンスルホン酸塩、フェニルアラニンベンジル−p-トルエンスルホン酸塩、2,6−ジメチルピリジニウム−p-トルエンスルホナート、2,4,6−トリメチルピリジニウム−p-トルエンスルホナ−ト、2−クロロ−1−メチルピリジン−p-トルエンスルホナート、2−フルオロ−1−メチルピリジン−p-トルエンスルホナート、ピリジニウム−3−ニトロベンセンスルホナート、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミドメト−p-トルエンスルホナート、グリシンベンジル−p-トルエンスルホナート、6−アミノヘキサン酸ヘキシル−p-トルエンスルホナート、β−アラニンベンジル−p-トルエンスルホナート、D-アラニンベンジル−p-トルエンスルホナート、D-ロイシンベンジル−p-トルエンスルホナート、D-バリンベンジル−p-トルエンスルホナート、L−アラニンベンジル−p-トルエンスルホナート、L−ロイシンベンジル−p-トルエンスルホナート、L−チロシンベンジル−p-トルエンスルホナート、プロピオニル−p-トルエンスルホナート、テトラメチルアンモニウム−p-トルエンスルホナート、テトラエチルアンモニウム−p-トルエンスルホナート、トスフロキサンシン−p-トルエンスルホナート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムp-トルエンスルホン酸塩、イミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩などが挙げられる。
【0058】
また、これら上述した塩は硫酸・硝酸・塩酸などのプロトン酸など、他のドーパント剤と共に用いても良い。
【0059】
本発明において、導電性高分子の酸化剤液における添加剤の含有量は酸化剤や添加剤の種類にも依るが、酸化剤1モルに対して0.05モル〜2.0モルの範囲であることが好ましい。添加剤の含有量が少なすぎると、導電性に優れるという本発明の効果が十分に得られない場合がある。また、添加剤の含有量が多すぎると、重合抑制効果が強くなることで導電性高分子膜は薄くなり、十分な膜厚が得られ難くなる傾向にある。さらに例えばガラス基板上への導電性高分子膜を形成する場合には、界面活性が低減し基板への付着が不均一となる場合がある。添加剤の含有量のさらに好ましい範囲は、例えば過酸化水素を酸化剤、p-トルエンスルホン酸ピリジニウムを添加剤に用いてガラス基板上へ製膜する場合においては0.1モル〜0.6モルであり、さらに好ましくは0.2モル〜0.5モルである。
【0060】
<界面活性剤>
酸化剤液に含有させる界面活性剤120としては、アニオン系、カチオン系、両性イオン性、非イオン系いずれのタイプの界面活性剤も使用できるが、特に高級脂肪酸アルカリ塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩など、アニオンが導電性高分子のドーパントとして寄与しうるものが導電性高分子膜への導電性付与の観点から好ましい。
【0061】
界面活性剤120の含有量について、酸化剤液が基板にはじかれることなく、かつ均一な厚さに広がることができる条件を満たす含有量は界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)にもよるが、例えば、ドデシル硫酸ナトリウムの場合、0.01mol/L以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.1mol/L〜0.5mol/Lである。
【0062】
<基体>
本発明において、導電性高分子膜が形成される基板は、板状である必要はなく、その形状は、特に限定されるものではない。従って、例えば、導電性高分子膜を有する電子デバイスにおいて、導電性高分子膜が形成される下地となる基体であればよい。以下、基体と称する場合には、基板の意味を含むもの解釈される。
【0063】
導電性高分子膜を基体上に形成する方法としては、基体上に、導電性高分子の前駆体モノマーと、酸化剤と、添加剤とを含有する重合液を塗布し、重合液中の導電性高分子モノマーを重合する方法が挙げられる。基体上に重合液を塗布する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、スピンコート法、ディップ法、ドロップキャスト法、インクジェット法、スプレー法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。
【0064】
本発明の導電性高分子膜は、導電性高分子のモノマーを基体上で重合することができるので、導電性高分子のモノマーを重合後に基板上に塗布する場合に比べて、基体と導電性高分子膜との密着性が向上とすると云う効果がある。
【0065】
<固体電解コンデンサ>
本発明の導電性高分子膜が用いられるデバイスとして、固体電解コンデンサが挙げられる。図3は、固体電解コンデンサの一例を示す模式的断面図である。図3に示すように、陽極1には、陽極リード7の一端が埋設されている。陽極1は、弁金属又は弁金属を主成分とする合金からなる粉末を成形し、この成形体を焼結することにより作製されている。従って、陽極1は、多孔質体から形成されている。図3においては示されていないが、この多孔質体には、その内部から外部に連通する微細な孔が多数形成されている。このように作製された陽極1は、外形が略直方体となるように作製されている。このコンデンサの陽極として用いる弁金属としては、例えば、タンタル、ニオブ、チタン、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム等が挙げられる。これらの中でも、誘電体である酸化物が高温でも比較的安定であるタンタル、ニオブ、アルミニウム、チタンが特に好ましく用いられる。弁金属を主成分とする合金としては、タンタルとニオブ等の2種類以上からなる弁金属同士の合金が挙げられる。
【0066】
このような陽極1の表面には、酸化物からなる誘電体層2が形成されている。誘電体層2は、陽極1の孔の表面上にも形成されている。図3においては、陽極1の外周側に形成された誘電体層2を模式的に示しており、上述の多孔質体の孔の表面に形成された誘電体層は図示していない。誘電体層2は、陽極1の表面を、陽極酸化することにより形成することができる。
【0067】
誘電体層2の表面には、本発明が特徴とする導電性高分子膜(図1と図2の600に相当)からなる導電性高分子層3が形成されている。斯かる導電性高分子層3は、陽極1の孔の表面上の誘電体層2の上にも形成されている。
【0068】
陽極1の外周面上の導電性高分子層3の上にはカーボン層4が形成され、カーボン層4の上には、銀ペースト層5が形成されている。カーボン層4と銀ペースト層5から陰極層6が構成されている。カーボン層4は、カーボンペーストを塗布した後、これを乾燥することにより形成することができる。銀ペースト層5は、銀ペーストを塗布した後、これを乾燥することにより形成することができる。以上のようにして、固体電解コンデンサ8が構成されている。
【0069】
一般に、図3のような固体電解コンデンサ8では、その周りをモールド外装樹脂で覆われ、陽極リード7には陽極端子が接続され、陰極層6には陰極端子(図示を省略している)が接続され、それぞれの端子はモールド外装樹脂(図示を省略している)の外部に引き出されるように設けられている。
この固体電解コンデンサ8において、この導電性高分子層3の少なくとも一部を、本発明の導電性高分子膜3によって形成することができる。本発明の導電性高分子膜3を用いることにより、導電性に優れた導電性高分子層3を形成することができる。
【0070】
このように本発明の導電性高分子膜は、導電性高分子のモノマーを陽極1を基体として、基体である陽極1上で、化学重合したものであり、導電性高分子のモノマーを重合後に基板上に塗布する場合に比べて、基板との密着性が向上するので、接触抵抗が低減して、ESRが向上することになる。
【0071】
特に、本発明の成膜法を用いて誘電体層に第一層導電性高分子層を形成する際、多孔質の誘電体ペレットが基体(図1の200に相当)として使用される。すなわち、この基体を界面活性剤および添加剤を含有した混合酸化剤液(図1の100)内に浸漬させることで誘電体層の細孔内にまで均一に酸化剤液を浸透させることができ、これを図1(c)に示すように、ピロール蒸気に曝露することで誘電体層の細孔内にまで導電性に優れた導電性高分子層を充填させることができる。なお、この場合の混合酸化剤液のpHを4〜9に調整することができる。
【0072】
このようにして形成した導電性高分子層3は、固体電解コンデンサ8の静電容量を高めることができ、かつESRを低減することができる。
【0073】
本発明の電子デバイスとしての固体電解コンデンサの場合、導電性高分子層の導電率を向上させることができるので、静電容量が高く、かつESRの低い固体電解コンデンサを得ることができる。
【0074】
<有機太陽電池>
本発明の導電性高分子膜が用いられる電子デバイスとして、有機太陽電池がある。図4は、有機太陽電池の一例を示す模式的断面図である。図2に示すように、基板10の上には、透明電極11が形成されている。基板10としては、ガラス基板を用いることができる。透明電極11としては、インジウム錫酸化物(ITO)などからなる薄膜が形成されている。透明電極11の上には、ホール輸送層12が形成されている。このホール輸送層12として、本発明の導電性高分子膜を形成することができる。ホール輸送層12の上には、活性層13が形成されている。活性層13としては、例えば、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)膜を形成することができる。活性層13の上には、電子輸送層14が形成されている。電子輸送層14としては、例えば、C60フラーレン膜などを形成することができる。電子輸送層14の上には、上部電極15が形成されている。上部電極15としては、例えば、アルミニウムなどの金属膜を形成することができる。以上のようにして、本発明の実施形態である有機太陽電池16が構成されている。
【0075】
このような本発明の有機太陽電池16において、ホール輸送層12として、本発明の導電性高分子膜を用いる。即ち、透明電極11を基体として、この基体上に、導電性高分子膜からなるホール輸送層12を形成すれば、透明電極11の上に、導電性に優れたホール輸送層12を形成することができる。
【0076】
このホール輸送層12は、前述のとおり、導電性を向上させることができるので、界面抵抗及びバルク抵抗に起因するIRドロップを低減することができ、太陽電池の開放電圧を上昇させることができる。
【0077】
<シリコン系太陽電池>
図5は、本発明に従うデバイスの他の実施形態であるシリコン系太陽電池30を示す模式的断面図である。図3に示すように、表面にテクスチャ構造を有するn型単結晶シリコン基板20の裏面側に順にi型非晶質シリコン層21とn型非晶質シリコン層22とが形成され、受光面側に順にi型非晶質シリコン層23とp型非晶質シリコン層24とが形成されている。
【0078】
この受光面側のp型非晶質シリコン層24の上に、透明電極として、本発明の導電性高分子膜25が形成されており、導電性高分子膜25の上に、バッファー層26が形成されている。バッファー層26としては、インジウム錫酸化物(ITO)を用いることができる。また、裏面側のn型非晶質シリコン層22の上に、裏面電極層27が形成されている。裏面電極層27としては、インジウム錫酸化物(ITO)を用いることができる。受光面側のバッファー層26上に受光面側集電電極28が形成され、裏面電極層27の上に裏面側集電電極29が形成される。以上のようにして、本発明の実施形態であるシリコン系太陽電池30が構成されている。
【0079】
本実施形態のシリコン系太陽電池30においては、受光面側の透明電極として、本発明が特徴とする導電性高分子膜25が形成されているので、光を十分に透過させることができる程度に、膜厚を薄くすることができ、結果として、導電性と共に光透過性に優れた電極を備えることができる。
【0080】
本発明の電子デバイスであるシリコン系太陽電池においては、このように受光面側の透明電極の導電性を向上させることができるので、シリコン系太陽電池において、透明電極の抵抗に起因するロスを低減することができ、太陽電池の変換効率を上昇させることができる。
【0081】
<電子デバイスの他の実施例>
電子デバイスの他の実施例として、本発明の導電性高分子を透明な基板や膜などの基体上に形成することによって、透明電極として用いることができる。
【0082】
本発明の電子デバイスの他の実施例として、表示機能とスイッチ機能を複合させたタッチパネルについて、以下に説明する。
【0083】
図6に本発明のタッチパネルを示す。ただし、図示されているのは、スイッチ機能部分であり、表示機能部は図示を省略しているが、スイッチ機能部のスイッチ位置と表示機能部の表示位置が対応するように、図示のスイッチ機能部分の下面側に重ねて配置されるものである。なお、同図のタッチパネルは、抵抗膜方式によってタッチ位置検出を行う例を示している。
【0084】
図6のタッチパネルは、本発明が特徴とする導電性高分子膜41を用いていている。具体的には、2枚のフィルム基板40に導電性高分子膜41が形成された透明導電性基板をその導電性高分子膜41が一定の距離を空けた状態で対峙するように配置させて、貼り合わせ剤(図示せず)により貼り合わせる。この場合には、フィルム基板40を基体として、この基体上で、導電性高分子膜41が図1および図2に示すような製造工程を経て形成されている。
【0085】
図6のタッチパネルにおいて、対峙する導電性高分子膜41間には、絶縁性の部材からなるドットスペーサー43が配置されており、多数のドットスペーサが平面的に分散配置されることによって、対峙する2枚の配置導電性高分子膜41の間隔を保持している。即ち、このスペーサ43によって、このタッチパネルに対する無圧力時には、フィルム基板40のたわみによる導電性高分子膜41同士の接触を防止している。
【0086】
このタッチパネルにおいて、ペンや指などで上側のフィルム基板40の表面から押し付けられると、その押圧力によりその位置で導電性高分子膜41同士が接触することで、上下の導電性高分子膜41が接触し、導通する。このとき、接触した導電性高分子41の位置から導電性高分子膜41の所定の複数の端部の位置までの抵抗値を検出することで、接触点の平面位置が導出できるのである。
【0087】
また、本発明の導電性高分子膜は、固体電解コンデンサなどの電子デバイスへの用途の他、上述のタッチパネル、ディスプレイ、発光素子のなどの光学デバイスの透明電極としての用途がある。従って、本発明の電子デバイスとしては、光学デバイスであってよい。
【実施例】
【0088】
以下、本発明に従う具体的な実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<ガラス基板上への導電性高分子膜の形成>
(実施例1〜7)
酸化剤およびドーパントとしての過酸化水素20重量%、硫酸1重量%の混合水溶液に、界面活性剤を10.3重量%(0.25 mol/L)となるように加え、さらに添加剤を表1に示す所定のモル比で混合し、酸化剤液を調製した。
【0089】
このように得られた酸化剤液をガラス基板上にスピンコート法で塗布して成膜した。この基板を導電性高分子の前駆体モノマーとしてのピロールを充填させた密閉容器の中に入れ、ピロール蒸気に20分曝露させた。その後、容器から取り出し室温で約5分放置後、純水で膜を洗浄して副生成物を除去し、ガラス基板上に導電性高分子膜を形成した。
このようにして得られた導電性高分子膜の厚み方向の断面積と導電性高分子膜の長さを測定した。膜厚は、触針式表面形状測定機Dektakで測定し、導電性高分子膜の導電率を、抵抗率計ロレスタMCP−T610(株式会社ダイヤインスツルメンツ社製)で測定した。評価結果を以下の表1および図7に示す。
【0090】
表1および図7に示す配合モル比とは、酸化剤である酸化剤過酸化水素を1としたときの添加剤の割合をモル比で示したものである。
【0091】
【表1】

【0092】
(比較例1)
実施例において、過酸化水素20重量%、硫酸1重量%の混合水溶液のみを酸化剤液として用い、ガラス基板上に実施例と同様の条件でスピンコート成膜を試みた。しかし、基板が酸化剤液をはじいてしまい、均一に広げることができなかったため、膜厚の均一な導電性高分子膜は形成されなかった。
【0093】
(比較例2、3)
実施例において、過酸化水素20重量%、硫酸1重量%の混合水溶液に、界面活性剤を10.3重量%(0.25 mol/L)となるように加え、酸化剤液を調製した他は実施例と同様にして酸化剤液として用いた他は実施例と同様にして導電性高分子膜を形成し、導電率を評価して評価結果を表1および図7に示した。
【0094】
表1に示すように、本発明に従い、界面活性剤を加えた酸化液を用いると、ガラス基板上に均一な導電性高分子膜を形成することが可能となった。さらに、添加剤としてp-トルエンスルホン酸ピリジニウムを酸化液に添加して形成した実施例1〜6の導電性高分子膜は、添加剤を添加していない対応の比較例2,3に比べ、高い導電率を示している。添加剤の量を変えて検討した結果では、添加剤と酸化剤である過酸化水素のモル比が1:0.4の場合、最も高い導電性を示し、添加剤を添加していない比較例2に比べて約40倍導電率が向上した。ただし、モル比1:0.6では、膜の導電率が著しく低減した。このことから、酸化剤が過酸化水素の場合、添加剤と酸化剤のモル比が導電性向上効果の大きさに影響しており、特に図7から、モル比1:0.2〜1:0.55が好ましい配合比であり、モル比1:0.3〜1:0.5がさらに好ましい範囲であることが分かる。
【0095】
なお、p-トルエンスルホン酸ピリジニウムに替えて、同じアニオン種を有する金属塩であるp-トルエンスルホン酸ナトリウムを酸化液に添加した比較例7、8は、添加剤を添加していない比較例2、3に比べて導電率は向上しているがその効果はp-トルエンスルホン酸ピリジニウムの場合よりも小さい。
【0096】
このことから、同じアニオン種の添加剤の中でもアルカリ金属イオンよりも塩基性物質からなるカチオンを有する添加剤の方が導電性向上効果が大きく、適していることがわかる。
【0097】
以上のように、本発明によれば、通常水溶液を用いる過酸化水素酸化剤の場合でも膜厚の均等でかつ導電性に優れた導電性高分子膜を形成することができる。
【符号の説明】
【0098】
1…陽極
2…誘電体層
3…導電性高分子層
4…カーボン層
5…銀ペースト層
6…陰極層
7…陽極リード
8…固体電解コンデンサ
10…基板
11…透明電極
12…ホール輸送層
13…活性層
14…電子輸送層
15…上部電極
16…有機太陽電池
20…ポリチオフェン
21…基板
100…混合酸化剤
110…酸化剤
120…界面活性剤
130…添加剤
200…基板
300…モノマー
600…導電性高分子膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤液あるいは重合液を用いて、導電性高分子モノマーを化学重合して得られる導電性高分子膜であって、
前記酸化剤液あるいは重合液には、界面活性物質と共に、ドーパントアニオンと塩基性物質由来のカチオンとからなる塩を含有することを特徴とした導電性高分子膜。
【請求項2】
酸化剤と、界面活性物質と、ドーパントアニオンと塩基性物質由来のカチオンとからなる塩である添加剤とを含有する酸化剤液を基板に塗布し、これを導電性高分子の前駆体モノマーの蒸気に曝露することによって、基板上で導電性高分子モノマーを化学重合させることを特徴とした導電性高分子膜の製造方法。
【請求項3】
導電性高分子の前駆体モノマーと、酸化剤と、界面活性物質と、ドーパントアニオンと塩基性物質由来のカチオンとからなる塩である添加剤とを含有する重合液を基板に塗布し、前記基板上で前記重合液中の導電性高分子モノマーを化学重合させることを特徴とした導電性高分子膜の製造方法。
【請求項4】
前記添加剤が、以下の一般式で示されることを特徴とする請求項1〜3に記載の導電性高分子膜およびその製造方法。
【化1】


(式中、Aは導電性高分子に用いられるドーパントアニオン、Bは塩基性物質由来のカチオンである。)
【請求項5】
前記請求項1に記載の導電性高分子膜を用いた電子デバイス。
【請求項6】
陽極と、前記陽極の表面上に形成される誘電体層と、前記誘電体層の上に形成される導電性高分子層と、前記導電性高分子層の上に形成される陰極層とを備え、前記導電性高分子層の少なくとも一部に前記導電性高分子膜が用いられた固体電解コンデンサであることを特徴とする請求項5に記載の電子デバイス。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−52069(P2011−52069A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200701(P2009−200701)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】