説明

導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法

【課題】電解酸化重合法により、高い異方的導電性を有する高分子膜を得ることのできる、導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法を提供する。
【解決手段】導電性を有する基材1を水相2に浸漬し、水相2の界面上に、電解重合性モノマー、有機溶媒及び支持電解質からなる電解液相3を配し、電解液相3に電極4を設けるとともに、基材1を引き上げて電解液相3を通過させながら基材1と電極4の間に電圧を印加して電解重合を行う導電性高分子膜5の製造工程において、基材1を引き上げる速度を制御することにより、基材1上に形成される導電性高分子膜5の異方性導電性を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー素子、表示素子、光電変換素子等の電子デバイスを含むエレクトロニクス産業に用いられる導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
センサー素子、表示素子、光電変換素子等の電子デバイスを含むエレクトロニクス産業に用いられる異方性材料、量子機能材料、分子機能材料、分子素子等の新機能材料を構築するために、電解酸化重合法を用いて高配向性の導電性高分子膜を作製することが試みられている。
【0003】
電解酸化重合法とは、重合性分子を含む溶液中に基板を浸漬して通電し、高分子膜を形成させる方法であり、膜は基板全面に同時に形成される。しかし、溶液中に基板を浸漬して通電しただけでは、高分子膜が粒塊状に析出し、分子の配向性を膜全体で制御することは困難である。
【0004】
そこで、この問題を解決する方法として、膜形成の際に、基板上で帯状に電解重合を行い、さらに、この帯状の重合サイトを移動させることにより、基板全面を高配向性の膜で被覆する方法が開示されている(特許文献1)。すなわち、この方法は、モノマーを含有する有機層を水相の上に薄く形成し、水相中に予め浸漬しておいた電極基板を引上げて基板が有機層を通過する際に、電極基板に電圧を印加して重合反応を進行させるものであり、これにより、高分子膜の粒塊状析出が防止され、一定の異方的導電性を示す高分子膜の作製を可能とするものである。
【特許文献1】特開2008−1836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の方法によれば、一定の異方的導電性を示す高分子膜の作製が可能となったものの、得られる高分子膜の異方的導電性には限界があった。
【0006】
そこで、本発明は、電解酸化重合法により、高い異方的導電性を有する高分子膜を得ることのできる、導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、上記の方法において、有機物層を通過する電極基板の速度が、導電性高分子膜の異方的導電性の制御因子の一つであることを見出し、本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明の導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法は、導電性を有する基材を水相に浸漬し、この水相の界面上に、電解重合性モノマー、有機溶媒及び支持電解質からなる電解液相を配し、前記電解液相に電極を設けるとともに、前記基材を一定の速度で引き上げて前記電解液相を通過させながら前記基材と前記電極の間に電圧を印加して電解重合を行う導電性高分子膜の製造工程において、前記基材を引き上げる速度を増減させることにより、前記基材上に形成される導電性高分子膜の異方性導電性を増減させるように制御することを特徴とする。
【0009】
また、前記基材を引き上げる速度を0.05mm/秒以上とすることを特徴とする。
【0010】
さらに、前記電解重合性モノマーは、ピロール、アニリン、フェノール、フタロシアニン、チオフェン、フラン又はこれらの誘導体から選ばれた少なくとも1つからなることを特徴とする。
【0011】
本発明の導電性高分子膜の製造方法は、本発明の導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法により異方性導電性が制御された導電性高分子膜を製造することを特徴とする。
【0012】
本発明の導電性高分子膜は、本発明の導電性高分子膜の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法によれば、基材を引き上げる速度を増減させることにより、前記基材上に形成される導電性高分子膜の異方性導電性を増減させるように制御するものであり、基材を引き上げる速度を増すことによって、高い異方的導電性を有する導電性高分子膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法は、導電性を有する基材を水相に浸漬し、この水相の界面上に、電解重合性モノマー、有機溶媒及び支持電解質からなる電解液相を配し、前記電解液相に電極を設けるとともに、前記基材を一定の速度で引き上げて前記電解液相を通過させながら前記基材と前記電極の間に電圧を印加して電解重合を行う導電性高分子膜の製造工程において、前記基材を引き上げる速度を増減させることにより、前記基材上に形成される導電性高分子膜の異方性導電性を増減させるように制御するものである。基材を引き上げる速度を増加させることにより、得られる導電性高分子膜の引上げ方向での導電率が、これに直行する水平方向における導電率に比して顕著に増大する。したがって、基材を引き上げる速度を増減させることにより、基材上に形成される導電性高分子膜の異方性導電性を増減させることができる。基材を引き上げる速度を0.05mm/秒以上とした場合には、引上げ方向での導電率が、これに直行する水平方向における導電率に比して50倍以上となる。
【0015】
また、本発明に用いられる電解重合性モノマーは、特定のものに限定されず、例えば、ピロール、アニリン、フェノール、フタロシアニン、チオフェン、フラン又はこれらの誘導体を用いることができる。
【0016】
また、本発明に用いられる支持電解質は、特定のものに限定されず、例えば、アニオンとして、F、BF、AsF、SbF、PF、PF、I、PF、ClO、I、Br、(CFSO、CFSO、芳香族スルホン酸アニオン、フッ素含有有機アニオン、芳香族カルボン酸アニオン又はこれらの誘導体、カチオンとして、イミダゾリウム塩、ホスホニウム塩、ピリジニウム塩、アルキルアンモニウム塩などを有するものを用いることができる。
【0017】
なお、水相の界面上に、電解重合性モノマー、有機溶媒及び支持電解質からなる電解液相を配する必要があることから、電解液は水相と相溶性が無く、水相より比重が小さくなくてはならない。このため、有機溶媒はできるだけ比重が小さく、電解重合性モノマーと支持電解質を溶解できるものが望ましい。
【0018】
さらに、本発明に用いられる基材は、導電性を有すればよく特定のものに限定されない。
【0019】
本発明の導電性高分子膜の製造方法は、本発明の導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法により異方性導電性が制御された導電性高分子膜を製造するものであり、極めて高い異方性導電性を有する導電性高分子膜を製造することができる。
【0020】
本発明の導電性高分子膜は、本発明の導電性高分子膜の製造方法により製造されたものであり、高い異方性導電性が付与されることにより、薄膜トランジスタ、電子回路、表示素子、光電変換素子、電極材料などに用いられている無機系半導体や金属材料の代替としてだけでなく、これらに更なる機能を付与することが可能となる。
【0021】
以下の実施例において、本発明の導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法について、より具体例に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【実施例1】
【0022】
有機溶媒として酢酸エチルを用い、これに電解重合性モノマーとしてピロール、支持電解質としてブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェイトを溶解して電解液を調製した。電解液中のピロールの濃度は0.5mol/dm、ブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェイトの濃度は0.1mol/dmとした。
【0023】
図1に示すように、基材1を水相1中に浸漬し、水相1の上に前述の電解液を配置して厚さ3mmの電解液相3を形成した。ここで、基材1として、インジウム−スズ酸化物電極(ITO電極)を用いた。そして、電解液相3に白金からなる電極4を配置した。
【0024】
電極4を対極として、基材1に正の電圧を印加して50mA/dmの電流を通電しながら、基材1を図示しない定速引上げ装置(株式会社アインテスラ製、ディップコーターND−0407)を用いて一定の速度で引き上げた。以上の操作で電解重合性モノマーの電解酸化重合を行い、基材1上に導電性高分子膜5を形成した。
【0025】
基材1の引き上げ速度を変えて、数種類の導電性高分子膜5を作成した。そして、図2に示すように、得られた導電性高分子膜に対して、引上げ方向Aに平行な鉛直方向Bとこれに直交するする水平方向Cでの抵抗値を4端子法にて測定した。また、原子間力顕微鏡(AFM)にて求めた膜厚から、鉛直方向Bと水平方向Cの導電率を求めた。
【0026】
図3に、基材1を引き上げる速度と、導電性高分子膜5の異方性導電性との関係を示す。なお、横軸には基材1の引き上げ速度、縦軸には異方性導電性の指標として鉛直方向の導電率に対する水平方向の導電率の比を表した。基材1の引上げ速度を増加させるにしたがって、鉛直方向の導電率に対する水平方向の導電率の比は顕著に低下した。したがって、基材1を引上げる速度を制御することにより、導電性高分子膜5の異方性導電性を制御することができることが確認された。また、基材1を引上げる速度が0.05m/秒以上では、鉛直方向の導電率に対する水平方向の導電率の比はほとんどゼロになり、極めて高い異方性導電性を有する導電性高分子膜5が得られることが確認された。
【0027】
図4(a)に、本実施例で得られた導電性高分子膜5の電子顕微鏡写真を示す。その比較例として、図4(b)には、電解液に基材を全て浸漬して作製した導電性高分子膜の電子顕微鏡写真を示す。本実施例で得られた導電性高分子膜5は、比較例の導電性高分子膜に見られるような粒塊状の析出物は形成されておらず、平滑な表面構造を有していることが確認された。
【0028】
導電性高分子膜での電気伝導には(ア)高分子主鎖中の電荷移動、(イ)高分子−高分子間の電荷移動(ホッピング現象)、(ウ)高分子粒塊間の電荷移動があり、このうち、高分子主鎖中の電荷移動が最も早いとされている。粒塊状に析出した高分子中では、高分子主鎖が乱雑な配置構造をとるため、(ア)による異方的導電性は発現せず、また、(イ)及び(ウ)には方向性は生来ありえない。一方、本実施例の導電性高分子膜では、粒塊が存在せず、導電機構は(ア)及び(イ)のみによると考えられ、より移動速度の大きい(ア)の寄与により、導電率に異方性が発現したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1における導電性高分子膜の作成方法を示す模式図である。
【図2】実施例1における基材の引上げ方向と導電性高分子膜の鉛直方向、水平方向の関係を示す模式図である。
【図3】実施例1における基材を引き上げる速度と、導電性高分子膜の異方性導電性との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1における導電性高分子膜の電子顕微鏡写真(a)と、比較例の電子顕微鏡写真(b)である。
【符号の説明】
【0030】
1 基材
2 水相
3 電解液相
4 電極
5 導電性高分子膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する基材を水相に浸漬し、この水相の界面上に、電解重合性モノマー、有機溶媒及び支持電解質からなる電解液相を配し、前記電解液相に電極を設けるとともに、前記基材を一定の速度で引き上げて前記電解液相を通過させながら前記基材と前記電極の間に電圧を印加して電解重合を行う導電性高分子膜の製造工程において、前記基材を引き上げる速度を増減させることにより、前記基材上に形成される導電性高分子膜の異方性導電性を増減させるように制御することを特徴とする導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法。
【請求項2】
前記基材を引き上げる速度を0.05mm/秒以上とすることを特徴とする請求項1記載の導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法。
【請求項3】
前記電解重合性モノマーは、ピロール、アニリン、フェノール、フタロシアニン、チオフェン、フラン又はこれらの誘導体から選ばれた少なくとも1つからなることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の導電性高分子膜の異方性導電性の制御方法により異方性導電性が制御された導電性高分子膜を製造することを特徴とする導電性高分子膜の製造方法。
【請求項5】
請求項5記載の導電性高分子膜の製造方法により製造されたことを特徴とする導電性高分子膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−92768(P2010−92768A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262993(P2008−262993)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(504182303)株式会社アインテスラ (14)
【Fターム(参考)】