説明

導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント、導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液、導電性高分子および固体電解コンデンサ

【課題】 ESRを低く、静電容量を大きく保ちながら、漏れ電流不良の発生が少ない固体電解コンデンサを提供できる導電性高分子を製造するのに適した酸化剤兼ドーパントやその溶液を提供する。
【解決手段】 有機スルホン酸第二鉄にアクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルを添加して酸化剤兼ドーパントを構成し、上記酸化剤兼ドーパントを水または炭素数1〜4のアルコールに溶解するか、有機スルホン酸第二鉄の水溶液または炭素数1〜4のアルコール溶液に上記α−不飽和カルボン酸エステルを添加して、上記酸化剤兼ドーパント溶液を調製し、それらを用いて、チオフェンまたはその誘導体を酸化重合して導電性高分子を製造し、それを固体電解質として固体電解コンデンサを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント、導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液、それらを用いてチオフェンまたはその誘導体を酸化重合して製造した導電性高分子、その導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、その高い導電性により、例えば、アルミニウム固体電解コンデンサ、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサなどの固体電解コンデンサの固体電解質として用いられている。
【0003】
この用途における導電性高分子としては、チオフェンまたはその誘導体を酸化重合(化学酸化重合)することによって得られたものが、導電性および耐熱性のバランスがとれていて有用性が高いという理由から、多用されている(特許文献1〜2)。
【0004】
上記チオフェンまたはその誘導体などの化学酸化重合を行う際のドーパントとしては、有機スルホン酸が用いられ、酸化剤としては、遷移金属が用いられ、その中でも第二鉄が適しているといわれていて、通常、有機スルホン酸の第二鉄塩がチオフェンまたはその誘導体の化学酸化重合にあたっての酸化剤兼ドーパントとして用いられている。
【0005】
そして、この導電性高分子を固体電解質として用いる固体電解コンデンサの製造にあたっては、例えば、コンデンサ素子をモノマー溶液に浸漬し、引き上げた後、該コンデンサ素子を酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げて重合を行うか、コンデンサ素子を酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げた後、該コンデンサ素子をモノマー溶液に浸漬し、引き上げて重合を行うか、あるいは酸化剤兼ドーパント溶液とモノマー溶液とを混合して調製した混合溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げて重合することが行われている。
【0006】
上記のような固体電解コンデンサの製造にあたって、酸化剤兼ドーパントとして、これまで同様に、パラトルエンスルホン酸第二鉄などの有機スルホン酸第二鉄を用い、チオフェンまたはその誘導体を酸化重合した場合、ESR(等価直列抵抗)が低く、静電容量が大きい固体電解コンデンサが得られると報告されている(特許文献3)。
【0007】
しかしながら、上記のようにして得られた固体電解コンデンサは、電流漏れを生じるものが多く、その点でまだ改良の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−160647号公報
【特許文献2】特開2004−265927号公報
【特許文献3】特開2008−172277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑み、固体電解質として用いたときに、ESRを低く、かつ静電容量を大きく保ちながら、漏れ電流不良の発生が少ない固体電解コンデンサを提供できる導電性高分子を製造するのに適した導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントや導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液を提供し、また、それらを用いて、上記特性を有する導電性高分子および固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、有機スルホン酸第二鉄にアクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルを添加することによって、上記目的を達成し、それに基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、有機スルホン酸第二鉄にアクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルを添加してなることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントに関する。
【0012】
また、本発明は、上記導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントを水または炭素数1〜4のアルコールに溶解してなることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液に関する。
【0013】
また、本発明は、上記と同様の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液であって、有機スルホン酸第二鉄の水溶液または炭素数1〜4のアルコール溶液にアクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルを添加して調製した導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液、さらには、有機スルホン酸第二鉄とアクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルとを水または炭素数1〜4のアルコールに溶解して調製した導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液に関する。
【0014】
また、本発明は、上記導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントまたは上記導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液を用いてチオフェンまたはその誘導体を酸化重合して製造したことを特徴とする導電性高分子に関する。
【0015】
さらに、本発明は、上記導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントまたは上記導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液を用いてチオフェンまたはその誘導体を酸化重合して製造した導電性高分子を固体電解質として用いたことを特徴とする固体電解コンデンサに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント(以下、簡略化して、「酸化剤兼ドーパント」という場合がある)は、それ自身で酸化剤兼ドーパントとしての作用を有する有機スルホン酸第二鉄に、アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルを添加して酸化剤兼ドーパントを構成することにより、該酸化剤兼ドーパントを用いてチオフェンまたはその誘導体を酸化重合して導電性高分子を製造し、得られた導電性高分子を固体電解質として用いて固体電解コンデンサを製造したときは、ESRを低く(小さく)、かつ静電容量を大きく保ちながら、漏れ電流不良の発生が少ない固体電解コンデンサを提供することができる。
【0017】
さらに、本発明では、アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルの添加量を多くすることによって、漏れ電流不良の発生を少なくすることに加えて、破壊電圧が高い(つまり、耐電圧性が優れた)固体電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の酸化剤兼ドーパントにおいて、基材となる有機スルホン酸第二鉄の有機スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体、ナフタレンスルホン酸またはその誘導体、アントラキノンスルホン酸またはその誘導体などの芳香族系スルホン酸や、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂などの高分子スルホン酸が好適に用いられる。
【0019】
上記ベンゼンスルホン酸またはその誘導体におけるベンゼンスルホン酸誘導体としては、例えば、トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、プロポキシベンゼンスルホン酸、ブトキシベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸などが挙げられ、ナフタレンスルホン酸またはその誘導体におけるナフタレンスルホン酸誘導体としては、例えば、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などが挙げられ、アントラキノンスルホン酸またはその誘導体におけるアントラキノンスルホン酸誘導体としては、例えば、アントラキノンジスルホン酸、アントラキノントリスルホン酸などが挙げられる。これらの芳香族系スルホン酸の中でも、トルエンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸などが好ましく、特に、パラトルエンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸が好ましく、とりわけ、パラトルエンスルホン酸が好ましい。
【0020】
また、上記有機スルホン酸第二鉄は、その鉄に対する有機スルホン酸のモル比が1:3より有機スルホン酸が少ないものが好ましい。これは鉄に対する有機スルホン酸のモル比を、その化学量論的モル比である1:3より有機スルホン酸を少なくすることによって、その有機スルホン酸第二鉄の反応速度を若干低減できるからであり、鉄に対する有機スルホン酸のモル比を、1:2程度にまで少なくしたものが好ましく、特に1:2.4〜1:2.9程度にまで少なくしたものがより好ましい。
【0021】
上記有機スルホン酸第二鉄は、水または炭素数1〜4のアルコールで溶液状にすることができるが、その炭素数1〜4のアルコールとしては、メタノール(メチルアルコール)、エタノール(エチルアルコール)、プロパノール(プロピルアルコール)、ブタノール(ブチルアルコール)などが挙げられ、プロパノールやブタノールは、直鎖状のものでもよく、また、分岐鎖状のものでもよい。
【0022】
上記アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルにおけるアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ジフェニルブチル、アクリル酸スルホヘキシルナトリウムなども用い得るが、ヒドロキシル基を有するものが好ましく、例えば、アクリル酸ヒドロキシメチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、アクリル酸ヒドロキシポリオキシエチレン、アクリル酸ヒドロキシポリオキシプロピレンなどが特に好ましい。
【0023】
また、上記アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルにおけるジアクリル酸エステルとしては、例えば、ジアクリル酸エチル、ジアクリル酸プロピル、ジアクリル酸ブチルなども用い得るが、ヒドロキシル基を有するものが好ましく、例えば、ジアクリル酸ヒドロキシプロピルなどが特に好ましい。
【0024】
また、上記アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルにおけるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルブチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸スルホヘキシルナトリウムなども用い得るが、ヒドロキシル基を有するものが好ましく、例えば、メタクリル酸ヒドロキシメチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシステアリル、メタクリル酸ヒドロキシポリオキシエチレン、メタクリル酸ヒドロキシポリオキシプロピレン、メタクリル酸メトキシヒドロキシプロピル、メタクリル酸エトキシヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジヒドロキシブチルなどが特に好ましい。
【0025】
また、上記アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルにおけるジメタクリル酸エステルとしては、例えば、ジメタクリル酸エチル、ジメタクリル酸ブチル、ジメタクリル酸ヘキシルなども用い得るが、ヒドロキシル基を有するものが好ましく、例えば、ジメタクリル酸ヒドロキシプロピル、ジメタクリル酸ジヒドロキシブチルなどが特に好ましい。
【0026】
そして、上記アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ジメタクリル酸エステルは、それぞれ単独で用いることができるし、また、2種以上を併用することもできる。
【0027】
上記アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルは、それを添加した酸化剤兼ドーパントや導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液(以下、簡略化して、「酸化剤兼ドーパント溶液」という場合がある)を固体電解コンデンサの作製にあたって用いたときは、加熱により、ポリマー化して存在し、導電性高分子中に残る可能性があるが、たとえ残存したとしても、後記の実施例に示すように、ESRの増加や静電容量の低下、漏れ電流の増大などを引き起こすことがない。
【0028】
上記アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルの有機スルホン酸第二鉄に対する添加量は、質量基準で、2〜40%(すなわち、有機スルホン酸第二鉄100質量部に対して上記のα−不飽和カルボン酸エステルを2〜40質量部)にするのが好ましく、上記α−不飽和カルボン酸エステルの添加量が上記より少ない場合は、漏れ電流を減少させる作用やESRを低くさせる作用が充分に発揮されなくなるおそれがあり、また、上記α−不飽和カルボン酸エステルの添加量が上記より多い場合は、添加量の増加に伴う効果の増加が少なくなる。
【0029】
上記α-不飽和カルボン酸エステルの有機スルホン酸第二鉄に対する添加量は、上記範囲内で、質量基準で、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。つまり、固体電解コンデンサの漏れ電流を少なくさせる作用をより確実に発揮させるためには、上記α-不飽和カルボン酸エステルの有機スルホン酸第二鉄に対する添加量を、質量基準で、10〜40%(すなわち、有機スルホン酸第二鉄100質量部に対して上記α-不飽和カルボン酸エステルを10〜40質量部)にするのが好ましく、14%以上にするのがより好ましい。さらに、上記α−不飽和カルボン酸エステルの有機スルホン酸第二鉄に対する添加量を、質量基準で、20%以上にすると、固体電解コンデンサの漏れ電流を少なくさせる作用に加えて、固体電解コンデンサの破壊電圧を高くさせる作用も生じるようになり、この観点からは、上記α−不飽和カルボン酸エステルの有機スルホン酸第二鉄に対する添加量を、質量基準で、20〜40%(すなわち、有機スルホン酸第二鉄100質量部に対して上記α−不飽和カルボン酸エステルを20〜40質量部)にするのが好ましい。
【0030】
上記有機スルホン酸第二鉄にα−不飽和カルボン酸エステルを添加した酸化剤兼ドーパントは、固体(粉末)のままでも使用することができるが、溶液状にしておく方が取り扱いが容易であることから、多くの場合、溶液状にされる。
【0031】
そのような酸化剤兼ドーパント溶液にするにあたっては、上記有機スルホン酸第二鉄にアクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルを添加した酸化剤兼ドーパントを水または炭素数1〜4のアルコールに溶解してもよいし、また、有機スルホン酸第二鉄の水溶液または炭素数1〜4のアルコール溶液にアクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルを添加してもよいし、さらには、水または炭素数1〜4のアルコールに有機スルホン酸第二鉄とアクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルとを溶解させることによってもよい。上記水と炭素数1〜4のアルコールは混ざり合うことから、両者の混合物を用いてもよく、本発明において、「水または炭素数1〜4のアルコール」というときは、「水と炭素数1〜4のアルコールとの混合物」も含む概念であり、また、「有機スルホン酸第二鉄の水溶液または炭素数1〜4のアルコール溶液」という場合も、「有機スルホン酸第二鉄の水と炭素数1〜4との混合物の溶液」も含む概念である。
【0032】
本発明において、上記酸化剤兼ドーパントの構成にあたって、有機スルホン酸第二鉄にアクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルを添加したと表現しているのは、酸化剤兼ドーパントの基材となるものは有機スルホン酸第二鉄であって、上記α−不飽和カルボン酸エステルは有機スルホン酸第二鉄の作用を向上させる添加剤的な働きをするからである。そして、上記有機スルホン酸第二鉄、α−不飽和カルボン酸エステルとも粉末化できるので、有機スルホン酸第二鉄の粉末と上記α−不飽和カルボン酸エステル粉末とを一つの容器内でかきまぜて混合するなど、それぞれ固体状で混合することにより、酸化剤兼ドーパントとすることができるし、また、溶液状にしたものを乾燥することによって製したものを酸化剤兼ドーパントとしてもよい。
【0033】
導電性高分子製造用の酸化剤兼ドーパント溶液における有機スルホン酸第二鉄の濃度は、溶液にする際に水を用いるか、アルコールを用いるかによって異なり、また、アルコールの種類によっても異なるが、一般に高い方が好ましく、25〜65質量%の範囲とすることが好ましく、30〜65質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0034】
本発明において、導電性高分子を製造するにあたってのモノマーとしては、チオフェンまたはその誘導体が用いられる。これは、前記したように、チオフェンまたはその誘導体を重合して得られる導電性高分子が導電性および耐熱性のバランスがとれていて、他のモノマーに比べて、コンデンサ特性の優れた固体電解コンデンサが得られやすいという理由に基づいている。
【0035】
そして、そのチオフェンまたはその誘導体におけるチオフェンの誘導体としては、例えば、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−アルキルチオフェン、3−アルコキシチオフェン、3−アルキル−4−アルコキシチオフェン、3,4−アルキルチオフェン、3,4−アルコキシチオフェンや、上記の3,4−エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾したアルキル化エチレンジオキシチオフェンなどが挙げられ、そのアルキル基やアルコキシ基の炭素数としては1〜16が好ましく、特に1〜4が好ましい。
【0036】
上記の3,4−エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾したアルキル化エチレンジオキシチオフェンについて詳しく説明すると、上記3,4−エチレンジオキシチオフェンやアルキル化エチレンジオキシチオフェンは、下記の一般式(1)で表される化合物に該当する。
【0037】
一般式(1):
【化1】

(式中、Rは水素またはアルキル基である)
【0038】
そして、上記一般式(1)中のRが水素の化合物が3,4−エチレンジオキシチオフェンであり、これをIUPAC名称で表示すると、「2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2,3−Dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、この化合物は、IUPAC名称で表示されるよりも、一般名称の「3,4−エチレンジオキシチオフェン」で表示されることが多いので、本書では、この「2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン」を「3,4−エチレンジオキシチオフェン」と表示している。そして、上記一般式(1)中のRがアルキル基の場合、該アルキル基としては、炭素数が1〜4のもの、つまり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましく、それらを具体的に例示すると、一般式(1)中のRがメチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Methyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本書では、これを簡略化して「メチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。一般式(1)の中のRがエチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Ethyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本書では、これを簡略化して「エチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。
【0039】
一般式(1)中のRがプロピル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Propyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本書では、これを簡略化して「プロピル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。そして、一般式(1)の中のRがブチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Butyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本書では、これを簡略化して「ブチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。また、「2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン」を、本書では、簡略化して「アルキル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。そして、それらのアルキル化エチレンジオキシチオフェンの中でも、メチル化エチレンジオキシチオフェン、エチル化エチレンジオキシチオフェン、プロピル化エチレンジオキシチオフェン、ブチル化エチレンジオキシチオフェンが好ましく、特にエチル化エチレンジオキシチオフェン、プロピル化エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0040】
そして、3,4−エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)とアルキル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)とを混合して用いると、後記の実施例で示すように、3,4−エチレンジオキシチオフェンを単独で用いた場合に比べて、ESRが低くなり、また、破壊電圧が高くなるので好ましい。そして、この3,4−エチレンジオキシチオフェンとアルキル化エチレンジオキシチオフェンとを混合して用いる場合、その混合比としては、体積比で、0.1:1〜1:0.1、特に0:2:1〜1:0.2、とりわけ0.3:1〜1:0.3が好ましい。
【0041】
本発明の酸化剤兼ドーパントまたは酸化剤兼ドーパント溶液を用いての導電性高分子の製造は、通常に導電性高分子を製造する場合と、固体電解コンデンサの製造時に導電性高分子を製造する、いわゆる「その場重合」による導電性高分子の製造との両方に適用できる。なお、導電性高分子の製造にあたっては、固体状(粉末状)の酸化剤兼ドーパントよりも、溶液状の酸化剤兼ドーパント溶液の方が取り扱いやすいので、以下、酸化剤兼ドーパント溶液を用いた場合を例にあげて説明する。
【0042】
モノマーとなるチオフェンやその誘導体は、常温で液状なので、重合にあたって、そのまま用いることができるし、また、重合反応をよりスムーズに進行させるために、モノマーを例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、アセトニトリルなどの有機溶剤で希釈(溶解)して有機溶剤溶液として用いてもよい。
【0043】
通常に導電性高分子を製造する場合(この通常に導電性高分子を製造する場合とは、固体電解コンデンサの作製時に「その場重合」により導電性高分子を製造するのではないという意味である)、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーのチオフェンまたはその誘導体とを混合した混合物を用い(その混合割合は、質量基準で、酸化剤兼ドーパント:モノマーが5:1〜15:1が好ましい)、例えば、5〜95℃で、1〜72時間酸化重合することによって行われる。
【0044】
本発明の酸化剤兼ドーパント溶液は、特に固体電解コンデンサの作製時にモノマーのチオフェンまたはその誘導体をいわゆる「その場重合」して導電性高分子を製造するのに適するように開発したものであることから、これについて以下に詳しく説明する。
【0045】
また、固体電解コンデンサも、アルミニウム固体電解コンデンサ、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサなどがあり、そのアルミニウム固体電解コンデンサの中にも、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサと積層型アルミニウム固体電解コンデンサがあるが、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液は特に巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの作製にあたって適するように開発したものであるから、これについて特に詳しく説明する。
【0046】
まず、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサのコンデンサ素子としては、例えば、アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理して誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して作製したものを使用する。
【0047】
そして、上記コンデンサ素子を用いての巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの作製は、例えば、次のように行われる。
すなわち、上記コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマー(チオフェンまたはその誘導体)との混合物に浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させてチオフェンまたはその誘導体の重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成した後、その固体電解質層を有するコンデンサ素子を外装材で外装して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する。
【0048】
また、上記のように、コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーとの混合物に浸漬するのに代えて、モノマー(チオフェンまたはその誘導体)を前記したメタノールなどの有機溶剤で希釈しておき、そのモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げて乾燥した後、該コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させるか、または、コンデンサ素子を先に本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げた後、該コンデンサ素子をモノマーに浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させ、以後、前記と同様にして、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製することもできる。
【0049】
上記巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ以外の固体電解コンデンサ、例えば、積層型アルミニウム固体電解コンデンサ、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサなどの作製にあたっては、例えば、コンデンサ素子としてアルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、それらの弁金属の酸化皮膜からなる誘電体層を有するものを用い、そのコンデンサ素子を、前記巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの作製時と同様に、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーとの混合物に浸漬し、引き上げて、室温または加熱下でモノマー(チオフェンまたはその誘導体)を重合させるか、あるいは、コンデンサ素子をモノマー溶液に浸漬し、引き上げて乾燥した後、該コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げて、室温または加熱下でモノマーを重合させるか、もしくは、コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げた後、該コンデンサ素子をモノマー中に浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させ、該コンデンサ素子を洗浄した後、乾燥する。そして、これらの工程を繰り返して、導電性高分子からなる固体電解質の層を形成した後、カーボンペースト、銀ペーストを付け、乾燥した後、外装することによって、積層型アルミニウム固体電解コンデンサ、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサなどを作製することができる。
【0050】
上記のような導電性高分子の製造や固体電解コンデンサの作製時の「その場重合」による導電性高分子の製造にあたって、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマー(チオフェンまたはその誘導体)あるいはモノマー溶液との使用比率は、酸化剤兼ドーパントとなる有機スルホン酸第二鉄とモノマーとが質量比で2:1〜8:1であることが好ましく、「その場重合」は、例えば、10〜300℃、1〜180分で行われる。
【0051】
また、固体電解コンデンサの作製にあたって、コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーとの混合物に浸漬する場合、通常は本発明の酸化剤兼ドーパント溶液をあらかじめ調製しておいて、それをモノマーと混合するが、そのようなあらかじめの調製をせずに、有機スルホン酸第二鉄の水溶液またはアルコール溶液(炭素数1〜4のアルコール溶液)と、上記α−不飽和カルボン酸エステルと、モノマーとを混合して、そのような混合状態において、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に相当する有機スルホン酸第二鉄の水溶液またはアルコール溶液と、アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルと、モノマーとが存在するようにしてもよい。
【実施例】
【0052】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に例示のもののみに限定されることはない。なお、以下の実施例などにおいて濃度や添加量などを示す際の%は特にその基準を付記しないかぎり、質量基準による%である。
【0053】
〔酸化剤兼ドーパント溶液の調製〕
実施例1〜7および比較例1
この実施例1〜7および比較例1では、有機スルホン酸第二鉄としてパラトルエンスルホン酸第二鉄を用い、アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステル(以下、簡略化して、「α−不飽和カルボン酸エステル」という)として、実施例1〜3ではアクリル酸ヒドロキシエチルを用い、実施例4ではアクリル酸ヒドロキシポリオキシエチレンを用い、実施例5ではメタクリル酸ヒドロキシエチルを用い、実施例6ではメタクリル酸ジヒドロキシプロピルを用い、実施例7ではジメタクリル酸ヒドロキシプロピルを用い、次に示すようにして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。ただし、α−不飽和カルボン酸エステルの種類、その添加量、そのパラトルエンスルホン酸第二鉄に対する添加比率を表1に示す関係で、下記に示す酸化剤兼ドーパント溶液の調製方法(1)では、α−不飽和カルボン酸エステルの種類をX、そのα−不飽和カルボン酸エステルの添加量をA(g)、そのパラトルエンスルホン酸第二鉄に対する添加比率をB(%)、ブタノールの添加量をC(g)で示す。
【0054】
〔酸化剤兼ドーパント溶液の調製方法(1)〕
テイカ社製の濃度40%のパラトルエンスルホン酸第二鉄ブタノール溶液(鉄とパラトルエンスルホン酸とのモル比1:2.75)を蒸留により濃縮した。乾燥固形分は67.2%であった。上記溶液100gに対し、α−不飽和カルボン酸エステルXをAg、ブタノールをCg添加し、60℃で1時間加熱した後、アドバンテック東洋社製ガラスフィルターGF75(GF75は品番であり、以下、社名を省略して表示する)で濾過し、その濾液をそれぞれ実施例1〜7および比較例1の酸化剤兼ドーパント溶液とした。この溶液の計算上の固形分濃度は40.5%であった。なお、表1には、これらの酸化剤兼ドーパント溶液におけるパラトルエンスルホン酸第二鉄に対するα−不飽和カルボン酸エステルXの添加比率B%も、それぞれの実施例および比較例に応じて示している。ただし、表1では、スペース上の関係で、用いたα−不飽和カルボン酸エステルを次のように簡略化して示す。なお、これらの実施例1〜7および比較例1の酸化剤兼ドーパント溶液ならびに後記の実施例8〜17および比較例2〜3の酸化剤兼ドーパント溶液の評価は、後記の〔固体電解コンデンサでの評価(1)〕から〔固体電解コンデンサでの評価(11)〕までにおける固体電解コンデンサでの評価によって行なう。
【0055】
α−不飽和カルボン酸エステル
AC−HE:アクリル酸ヒドロキシエチル
AC−HPOE:アクリル酸ヒドロキシポリオキシエチレン
MC−HE:メタクリル酸ヒドロキシエチル
MC−DHP:メタクリル酸ジヒドロキシプロピル
DMC−HP:ジメタクリル酸ヒドロキシプロピル
【0056】
【表1】

【0057】
〔酸化剤兼ドーパント溶液の調製(2)〕
実施例8〜14および比較例2
この実施例8〜14および比較例2では、有機スルホン酸第二鉄としてパラトルエンスルホン酸第二鉄を用い、α−不飽和カルボン酸エステルとして、実施例8〜10ではアクリル酸ヒドロキシプロピルを用い、実施例11ではアクリル酸ヒドロキシポリオキシプロピレンを用い、実施例12ではメタクリル酸ヒドロキシプロピルを用い、実施例13ではメタクリル酸ジヒドロキシプロピルを用い、実施例14ではジメタクリル酸ヒドロキシプロピルを用い、次に示すようにして酸化剤兼ドーパント溶液の調製を行なった。ただし、この酸化剤兼ドーパント溶液の調製でも、α−不飽和カルボン酸エステルの種類、その添加量、そのパラトルエンスルホン酸第二鉄に対する添加比率を表2に示す関係で、下記に示す〔酸化剤兼ドーパント溶液の調製方法(2)〕でも、α−不飽和カルボン酸エステルの種類をX、α−不飽和カルボン酸エステルの添加量をA(g)、そのパラトルエンスルホン酸第二鉄に対する添加比率をB(%)、エタノールの添加量をC(g)として示す。
【0058】
〔酸化剤兼ドーパント溶液の調製方法(2)〕
テイカ社製の濃度40%のパラトルエンスルホン酸第二鉄エタノール溶液(鉄とパラトルエンスルホン酸とのモル比1:2.75)を蒸留により濃縮した。乾燥固形分は69.5%であった。上記溶液100gに対し、α−不飽和カルボン酸エステルXをAg、エタノールをCg添加し、60℃で1時間加熱した後、ガラスフィルターGF75で濾過し、その濾液をそれぞれ実施例8〜14および比較例2の酸化剤兼ドーパント溶液とした。この溶液の計算上の固形分濃度は60.5%であり、パラトルエンスルホン酸第二鉄に対するα−不飽和カルボン酸エステルXの添加比率はB%であった。上記X、A、B、Cについては、表2に具体的に示す。なお、この表2においても、スペース上の関係で、用いたα−不飽和カルボン酸エステルを次のように簡略化して示す。
【0059】
α−不飽和カルボン酸エステル
AC−HP:アクリル酸ヒドロキシプロピル
AC−HPOP:アクリル酸ヒドロキシポリオキシプロピレン
MC−HP:メタクリル酸ヒドロキシプロピル
MC−DHP:メタクリル酸ジヒドロキシプロピル
DMC−HP:ジメタクリル酸ヒドロキシプロピル
【0060】
【表2】

【0061】
〔酸化剤兼ドーパント溶液の調製(3)〕
実施例15〜17および比較例3
この実施例15〜17および比較例3では、有機スルホン酸第二鉄としてメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄を用い、α−不飽和カルボン酸エステルとして、実施例15ではアクリル酸ヒドロキシエチル、実施例16ではメタクリル酸ヒドロキシエチル、実施例17ではメタクリル酸ジヒドロキシプロピルを用い、次に示すようにして酸化剤兼ドーパント溶液の調製を行なった。ただし、このメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄を用いた酸化剤兼ドーパント溶液の調製でも、α−不飽和カルボン酸エステルの種類、その添加量、そのメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄に対する添加比率を表3に示す関係で、下記に示す〔酸化剤兼ドーパント溶液の調製方法(3)〕でも、α−不飽和カルボン酸エステルの種類をX、α−不飽和カルボン酸エステルの添加量をA(g)、そのメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄に対する添加比率をB(%)、エタノールの添加量をC(g)として示す。
【0062】
〔酸化剤兼ドーパント溶液の調製方法(3)〕
テイカ社製の濃度40%のメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄エタノール溶液(鉄とメトキシベンゼンスルホン酸とのモル比1:2.75)を蒸留により濃縮した。乾燥固形分は61.5%であった。上記溶液100gに対し、α−不飽和カルボン酸エステルXをAg、エタノールをCg添加し、60℃で1時間加熱した後、ガラスフィルターGF75で濾過し、その濾液をそれぞれ実施例15〜17および比較例3の酸化剤兼ドーパント溶液とした。この溶液の計算上の固形分濃度は43.0%であり、メトキシベンゼンスルホン酸第二鉄に対するα−不飽和カルボン酸エステルXの添加比率はB%であった。上記X、A、B、Cについては、表3に具体的に示す。なお、この表3においても、スペース上の関係で、用いたα−不飽和カルボン酸エステルを次のように簡略化して示す。
【0063】
α−不飽和カルボン酸エステル
AC−HE:アクリル酸ヒドロキシエチル
MC−HE:メタクリル酸ヒドロキシエチル
MC−DHP:メタクリル酸ジヒドロキシプロピル
【0064】
【表3】

【0065】
〔固体電解コンデンサでの評価(1)〕
この〔固体電解コンデンサでの評価(1)〕では、モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、前記のように調製した実施例1〜7の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、設定静電容量が20μF以上の実施例18〜24の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、それらと前記のように調製した比較例1の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて作製した比較例4の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサのコンデンサ特性を比較するとともに、それによって、それらの巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ作製にあたって用いた実施例1〜7および比較例1の酸化剤兼ドーパント溶液の特性を評価する。
【0066】
実施例18〜24および比較例1
まず、実施例1の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例18の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合を示す。
【0067】
アルミニウム箔の表面をエッチング処理し、そのエッチング処理後のアルミニウム箔を12%アンモニウム水溶液中に浸漬し、そのアンモニウム水溶液中のアルミニウム箔に80Vの電圧を印加してアルミニウム箔の表面に誘電体層を形成して陽極とし、その陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して、設定静電容量が20μF以上の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ作製用のコンデンサ素子を作製した。
【0068】
上記コンデンサ素子を3,4−エチレンジオキシチオフェン(テイカ社製)25mlに対してメタノールを75ml添加して調製したモノマー溶液に浸漬し、引き上げた後、50℃で20分間乾燥した。その後、上記コンデンサ素子を実施例1の酸化剤兼ドーパント溶液100ml中に浸漬し、引き上げた後、85℃で2時間、180℃で1時間加熱することによって、モノマーの3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合させて、3,4−エチレンジオキシチオフェンの重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成した。これを外装材で外装して、実施例18の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0069】
そして、上記実施例1の酸化剤兼ドーパント溶液に代えて、実施例2〜7および比較例1の酸化剤兼ドーパント溶液をそれぞれ別々に用い、それ以外は実施例1の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた場合と同様に、それぞれの酸化剤兼ドーパント溶液を用いた巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、それらを実施例19〜24および比較例4の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとした。
【0070】
上記のようにして作製した実施例18〜24および比較例4の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、ESRと静電容量を測定し、漏れ電流を測定して漏れ電流不良の発生を調べ、かつ、破壊電圧を測定した。その結果を表4に示す。上記特性の測定方法や評価方法は次の通りである。
【0071】
ESR:
HEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃の条件下で、100kHzで測定する。
【0072】
静電容量:
HEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃の条件下で、120Hzで測定する。
【0073】
漏れ電流:
巻回型アルミニウム固体電解コンデンサに、25℃で2.5Vの定格電圧を60秒間印加した後、デジタルオシロスコープにて漏れ電流を測定する。
【0074】
漏れ電流不良の発生:
上記漏れ電流の測定で、漏れ電流が100μA以上のものは、漏れ電流不良が発生していると判断する。
【0075】
破壊電圧:
松定プレシジョン社製PRk650−2.5を用い、50℃の条件下で、電圧を1V/分の速度で上昇させて測定する。
【0076】
上記の測定は、各試料とも、25個ずつについて行い、表4に示すESR値、静電容量値、破壊電圧値は、それら25個の平均値を求め、ESR値と静電容量値は、小数点第2位を四捨五入して示したものであり、破壊電圧値は小数点以下を四捨五入して示したものである。そして、漏れ電流不良発生個数は、試験に供した全コンデンサ個数を分母に示し、漏れ電流不良の発生が生じたコンデンサ個数を分子に示す態様で示している。そして、用いた酸化剤兼ドーパント溶液については、実施例番号や比較例番号で示す。これは後記の表5以後の表においても同様である。
【0077】
【表4】

【0078】
表4に示すように、実施例18〜24の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、静電容量が21.1〜21.4μFと、設定静電容量の20μF以上を満たし、ESRが37.9〜40.8mΩであって、比較例4の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの47.3mΩより低く、また、比較例4の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサでは漏れ電流発生個数が試験に供した25個中5個もあったのに対し、実施例18〜24の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサではそのような漏れ電流不良の発生がなく、しかも、破壊電圧が35〜46Vであって、比較例4の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの22Vに比べて高く、耐電圧性が優れていた。
【0079】
この実施例18〜24の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの作製にあたって用いた実施例1〜7の酸化剤兼ドーパント溶液では、有機スルホン酸第二鉄に対するα−不飽和カルボン酸エステルの添加量を20%以上と高くしていることにより、当初の目的である漏れ電流不良の発生防止はもとより、破壊電圧を高くさせ、耐電圧性の向上にも寄与していた。
【0080】
〔固体電解コンデンサでの評価(2)〕
この〔固体電解コンデンサでの評価(2)〕では、モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、それを実施例8〜14の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて酸化重合し、設定静電容量が200μF以上の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、それらと前記のように調製した比較例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて作製した比較例5の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサのコンデンサ特性を比較するとともに、それによって、それらの巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの作製にあたって用いた実施例8〜10および比較例2の酸化剤兼ドーパント溶液の特性評価をする。
【0081】
実施例25〜31および比較例5
まず、実施例8の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例25の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合を下記に示す。
【0082】
前記実施例18などで用いたものと同様のコンデンサ素子を、3,4−エチレンジオキシチオフェン(テイカ社製)25mlに対してメタノールを75ml添加して調製したモノマー溶液に浸漬し、引き上げた後、50℃で20分間乾燥した。その後、上記コンデンサ素子を実施例8の酸化剤兼ドーパント溶液100ml中に浸漬し、引き上げた後、85℃で2時間、180℃で1時間加熱することによって、モノマーの3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合させて、3,4−エチレンジオキシチオフェンの重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成した。これを外装材で外装して、実施例25の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0083】
そして、上記実施例8の酸化剤兼ドーパント溶液に代えて、実施例9〜14および比較例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用い、それ以外は上記実施例8の酸化剤兼ドーパントを用いた場合と同様に、それぞれの酸化剤兼ドーパント溶液を用いた巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製して、それらを実施例26〜31および比較例5の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとした。
【0084】
上記のようにして作製した実施例25〜31および比較例5の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、前記実施例18の場合と同様に、特性を測定した。その結果を表5に示す。なお、この〔固体電解コンデンサでの評価(2)〕では、上記特性の測定は、各試料とも、30個ずつについて行い、表5に示すESR値、静電容量値は、それら30個の平均値を求め、ESRについては小数点第2位を四捨五入し、静電容量については小数点以下を四捨五入して示している。そして、漏れ電流不良発生個数は、試験に供した全コンデンサ個数を分母に示し、漏れ電流不良の発生が生じたコンデンサ個数を分子に示す態様で示している。
【0085】
【表5】

【0086】
表5に示すように、実施例25〜31の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ、比較例5の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとも、静電容量が200μFを超えていて、設定静電容量の200μF以上を満たしていたが、実施例25〜31の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、比較例2の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサに比べて、ESRが低く、しかも、実施例25〜31の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサには、漏れ電流不良の発生がなかったのに対し、比較例5の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサでは、試験に供した30個のコンデンサ中9個のコンデンサに漏れ電流不良の発生が認められた。
【0087】
〔固体電解コンデンサでの評価(3)〕
この〔固体電解コンデンサでの評価(3)〕では、モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、それを実施例15〜17および比較例3の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて酸化重合して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、そのコンデンサ特性を評価する。
【0088】
実施例32〜34および比較例6
まず、実施例15の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例32の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合を下記に示す。なお、これらの実施例32〜34および比較例6で用いるコンデンサ素子も実施例18などで用いたものと同様のものであり、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの設定静電容量は20μF以上である。
【0089】
すなわち、3,4−エチレンジオキシチオフェン(テイカ社製)25mlに対してメタノールを75ml添加して調製したモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で20分間乾燥した。その後、上記コンデンサ素子を実施例15の酸化剤兼ドーパント溶液100ml中に浸漬し、引き上げた後、85℃で2時間、180℃で1時間加熱することによって、モノマーを重合させて、3,4−エチレンジオキシチオフェンの重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成し、外装材で外装して、実施例32の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0090】
そして、上記実施例15の酸化剤兼ドーパント溶液に代えて、実施例16〜17および比較例3の酸化剤兼ドーパント溶液を用い、それ以外は上記実施例15の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた場合と同様に、それぞれの酸化剤兼ドーパント溶液を用いた巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製して、それらを実施例33〜34および比較例6の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとした。
【0091】
上記のようにして作製した実施例32〜34および比較例6の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、前記実施例18の場合と同様に、ESR、静電容量および破壊電圧を測定し、かつ漏れ電流不良の発生を調べた。その結果を表6に前記表4の場合と同様の態様で示す。
【0092】
【表6】

【0093】
表6に示すように、実施例32〜34の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ、比較例6の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとも、静電容量が20μFを超えていて、20μF以上という設定静電容量を満たしていたが、実施例32〜34の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、比較例6の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサに比べて、ESRが低く、また、比較例6の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサに見られたような漏れ電流不良の発生がなく、しかも、破壊電圧が38〜41Vと、比較例6の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの20Vに比べて高く、耐電圧性が優れていた。
【0094】
以下に示す〔固体電解コンデンサでの評価(4)〕から〔固体電解コンデンサでの評価(11)〕までは、導電性高分子を製造するためのモノマーとしてアルキル化エチレンジオキシチオフェンも用いるので、それらの〔固体電解コンデンサでの評価(4)〕から〔固体電解コンデンサでの評価(11)〕までの説明に先立って、アルキル化エチレンジオキシチオフェンの合成例を示す。
【0095】
〔アルキル化エチレンジオキシチオフェンの合成〕
合成例1 メチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)の合成
次の1−(1)〜1−(3)の工程を経てメチル化エチレンジオキシチオフェンを合成した。
【0096】
1−(1) プロパン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)の合成
氷冷下、反応容器にトシルクロリド7.86kg(40モル)と1,2−ジクロロエタン7kgとを入れ、容器内の内容物の温度が10℃になるまで攪拌し、その中にトリエチルアミン5.11kg(50モル)を滴下した。
【0097】
上記の混合物を攪拌しながら、その混合物に容器内の混合物の温度が40℃を超えないようにしつつ1,2−プロパンジオール1.55kg(20モル)を60分かけて注意深く滴下し、容器内の混合物の温度を40℃に保ちながら混合物を6時間攪拌した。
【0098】
反応終了後の混合物を室温まで冷却し、水4kgを加えて攪拌し、その後、静置して、水相と有機相の2層に分け、有機相を濃縮して、黒赤色オイル状物を得た。
【0099】
氷冷下、反応容器内にメタノール500gを入れて攪拌し、そこに上記のようにして得た黒赤色オイル状物を滴下しながら攪拌し、沈殿する白色固体を濾取した。その白色固体を少量のメタノールで洗浄した後、乾燥して、生成物としてプロパン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)を3.87kg得た。
【0100】
1−(2) 2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッドの合成
反応容器にジソジウム−2,5−ビス(アルコキシカルボニル)チオフェン−3,4−ジオレート508g(1.67モル)と、上記1−(1)のようにして得たプロパン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)960g(2.5モル)と、炭酸カリウム46g(0.33モル)と、ジメチルホルムアミド2.5kgとを入れ、容器内の内容物の温度を120℃に保ちながら混合物を4時間攪拌した。
【0101】
反応終了後の混合物を濃縮し、残留した茶色固体に5%炭酸水素ナトリウム水溶液3.7kgを入れ、室温で15分間攪拌して茶色固体を濾取した。反応容器内に濾取した茶色固体と7%水酸化ナトリウム水溶液2.47kgとを入れて、容器内の内容物の温度を80℃に保ちながら2時間攪拌した。
【0102】
容器内の混合物が室温になるまで冷却し、容器内の混合物の温度が30℃を超えないようにしつつ反応終了後の混合物に98%硫酸759gを注意深く滴下し、容器内の混合物の温度を80℃に保ちながら2時間攪拌した。
【0103】
容器内の混合物が室温になるまで攪拌しながら冷却し、沈殿する灰色固体を濾取した。さらに、反応終了後の混合物を冷却して灰色固体を濾取した。それらの灰色固体を少量の水で洗浄した後、乾燥して、生成物として2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッドを310g得た。
【0104】
1−(3) メチル化エチレンジオキシチオフェン(2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)の合成
上記1−(2)のようにして得た2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッド880g(3.6モル)を反応容器内で3kgのポリエチレングリコール300(林純薬工業社製)に溶解し、酸化銅176gを加え、混合物を内圧20hpaで、徐々に温度を上げながら蒸留し、水と初留を留出させ、ポリエチレングリコール300を含有する本留に水400gを加えて攪拌し、静置した。
【0105】
2層に分れた溶液を分液し、そのうちの下層の黄色透明液体を生成物のメチル化エチレンジオキシチオフェンとして343g得た。
【0106】
合成例2 エチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)の合成
1,2−プロパンジオールに代えて、1,2−ブタンジオールを用いた以外は、合成例1と同様の操作を行なって、黄色透明液体のエチル化エチレンジオキシチオフェンを130g得た。
【0107】
合成例3 プロピル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)の合成
1,2−プロパンジオールに代えて、1,2−ペンタンジオールを用いた以外は、合成例1と同様の操作を行なって、黄色透明液体のプロピル化エチレンジオキシチオフェンを120g得た。
【0108】
合成例4 ブチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)の合成
1,2−プロパンジオールに代えて、1,2−ヘキサンジオールを用いた以外は、合成例1と同様の操作を行なって、黄色透明液体のブチル化エチレンジオキシチオフェンを100g得た。
【0109】
〔固体電解コンデンサでの評価(4)〕
この〔固体電解コンデンサでの評価(4)〕では、モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェンとメチル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物を用い、それを実施例2、5、6の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて酸化重合して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、そのコンデンサ特性を評価する。
【0110】
実施例35〜37
まず、実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例35の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合を下記に示す。なお、これらの実施例35〜37で用いるコンデンサ素子も実施例18などで用いたものと同様のものであり、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの設定静電容量は20μF以上である。
【0111】
すなわち、3,4−エチレンジオキシチオフェン(テイカ社製)5mlと合成例1で合成したメチル化エチレンジオキシチオフェン20mlとを混合した混合液にメタノールを75ml添加して調製したモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で20分間乾燥した。その後、上記コンデンサ素子を実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液100ml中に浸漬し、引き上げた後、85℃で2時間、180℃で1時間加熱することによって、モノマーを重合させて、3,4−エチレンジオキシチオフェンとメチル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物の重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成し、外装材で外装して、実施例35の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0112】
そして、上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液に代えて、実施例5〜6の酸化剤兼ドーパント溶液を用い、それ以外は上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた場合と同様に、それぞれの酸化剤兼ドーパント溶液を用いた巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製して、それらを実施例36〜37の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとした。
【0113】
上記のようにして作製した実施例35〜37の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、前記実施例18の場合と同様に、ESR、静電容量および破壊電圧を測定し、かつ漏れ電流不良の発生を調べた。その結果を表7に前記表4の場合と同様の態様で示す。
【0114】
【表7】

【0115】
表7に示すように、実施例35〜36の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、静電容量が20μFを超えていて、20μF以上という設定静電容量を満たし、ESRが35.3〜36.3mΩと低く、漏れ電流不良の発生がなく、しかも、破壊電圧が43〜45Vという高い値を示し、耐電圧性が優れていた。
【0116】
〔固体電解コンデンサでの評価(5)〕
この〔固体電解コンデンサでの評価(5)〕では、モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェンとエチル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物を用い、それを実施例2、5、6の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて酸化重合して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、そのコンデンサ特性を評価する。
【0117】
実施例38〜40
まず、実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例38の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合を下記に示す。なお、これらの実施例38〜40で用いるコンデンサ素子も実施例18などで用いたものと同様のものであり、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの設定静電容量は20μF以上である。
【0118】
すなわち、3,4−エチレンジオキシチオフェン(テイカ社製)10mlと合成例2で合成したエチル化エチレンジオキシチオフェン15mlとを混合した混合液にメタノールを75ml添加して調製したモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で20分間乾燥した。その後、上記コンデンサ素子を実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液100ml中に浸漬し、引き上げた後、85℃で2時間、180℃で1時間加熱することによって、モノマーを重合させて、3,4−エチレンジオキシチオフェンとエチル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物の重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成し、外装材で外装して、実施例38の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0119】
そして、上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液に代えて、実施例5〜6の酸化剤兼ドーパント溶液を用い、それ以外は上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた場合と同様に、それぞれの酸化剤兼ドーパント溶液を用いた巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製して、それらを実施例39〜40の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとした。
【0120】
上記のようにして作製した実施例38〜40の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、前記実施例18の場合と同様に、ESR、静電容量および破壊電圧を測定し、かつ漏れ電流不良の発生を調べた。その結果を表8に前記表4の場合と同様の態様で示す。
【0121】
【表8】

【0122】
表8に示すように、実施例38〜40の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、静電容量が20μFを超えていて、20μF以上という設定静電容量を満たし、ESRが36.4〜37.2mΩと低く、漏れ電流不良の発生がなく、しかも、破壊電圧が43〜45Vという高い値を示し、耐電圧性が優れていた。
【0123】
〔固体電解コンデンサでの評価(6)〕
この〔固体電解コンデンサでの評価(6)〕では、モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェンとプロピル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物を用い、それを実施例2、5、6の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて酸化重合して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、そのコンデンサ特性を評価する。
【0124】
実施例41〜43
まず、実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例41の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合を下記に示す。なお、これらの実施例41〜43で用いるコンデンサ素子も実施例18などで用いたものと同様のものであり、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの設定静電容量は20μF以上である。
【0125】
すなわち、3,4−エチレンジオキシチオフェン(テイカ社製)15mlと合成例3で合成したプロピル化エチレンジオキシチオフェン10mlとを混合した混合液にメタノールを75ml添加して調製したモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で20分間乾燥した。その後、上記コンデンサ素子を実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液100ml中に浸漬し、引き上げた後、85℃で2時間、180℃で1時間加熱することによって、モノマーを重合させて、3,4−エチレンジオキシチオフェンとプロピル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物の重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成し、外装材で外装して、実施例41の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0126】
そして、上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液に代えて、実施例5〜6の酸化剤兼ドーパント溶液を用い、それ以外は上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた場合と同様に、それぞれの酸化剤兼ドーパント溶液を用いた巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製して、それらを実施例42〜43の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとした。
【0127】
上記のようにして作製した実施例41〜43の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、前記実施例18の場合と同様に、ESR、静電容量および破壊電圧を測定し、かつ漏れ電流不良の発生を調べた。その結果を表9に前記表4の場合と同様の態様で示す。
【0128】
【表9】

【0129】
表9に示すように、実施例41〜43の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、静電容量が20μFを超えていて、20μF以上という設定静電容量を満たし、ESRが35.8〜37.2mΩと低く、漏れ電流不良の発生がなく、しかも、破壊電圧が47〜50Vという高い値を示し、耐電圧性が優れていた。
【0130】
〔固体電解コンデンサでの評価(7)〕
この〔固体電解コンデンサでの評価(7)〕では、モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェンとブチル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物を用い、それを実施例2、5、6の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて酸化重合して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、そのコンデンサ特性を評価する。
【0131】
実施例44〜46
まず、実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例44の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合を下記に示す。なお、これらの実施例44〜46で用いるコンデンサ素子も実施例18などで用いたものと同様のものであり、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの設定静電容量は20μF以上である。
【0132】
すなわち、3,4−エチレンジオキシチオフェン(テイカ社製)7.5mlと合成例4で合成したブチル化エチレンジオキシチオフェン17.5mlとを混合した混合液にメタノールを75ml添加して調製したモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で20分間乾燥した。その後、上記コンデンサ素子を実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液100ml中に浸漬し、引き上げた後、85℃で2時間、180℃で1時間加熱することによって、モノマーを重合させて、3,4−エチレンジオキシチオフェンとブチル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物の重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成し、外装材で外装して、実施例44の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0133】
そして、上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液に代えて、実施例5〜6の酸化剤兼ドーパント溶液を用い、それ以外は上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた場合と同様に、それぞれの酸化剤兼ドーパント溶液を用いた巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製して、それらを実施例45〜46の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとした。
【0134】
上記のようにして作製した実施例44〜46の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、前記実施例18の場合と同様に、ESR、静電容量および破壊電圧を測定し、かつ漏れ電流不良の発生を調べた。その結果を表10に前記表4の場合と同様の態様で示す。
【0135】
【表10】

【0136】
表10に示すように、実施例44〜46の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、静電容量が20μFを超えていて、20μF以上という設定静電容量を満たし、ESRが34.9〜36.1mΩと低く、漏れ電流不良の発生がなく、しかも、破壊電圧が47〜49Vという高い値を示し、耐電圧性が優れていた。
【0137】
〔固体電解コンデンサでの評価(8)〕
この〔固体電解コンデンサでの評価(8)〕では、モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェンとメチル化エチレンジオキシチオフェンとプロピル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物を用い、それを実施例2、5、6の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて酸化重合して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、そのコンデンサ特性を評価する。
【0138】
実施例47〜49
まず、実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例47の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合を下記に示す。なお、これらの実施例47〜49で用いるコンデンサ素子も実施例18などで用いたものと同様のものであり、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの設定静電容量は20μF以上である。
【0139】
すなわち、3,4−エチレンジオキシチオフェン(テイカ社製)12.5mlと合成例1で合成したメチル化エチレンジオキシチオフェン2.5mlと合成例3で合成したプロピル化エチレンジオキシチオフェン10mlとを混合した混合液にメタノールを75ml添加して調製したモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で20分間乾燥した。その後、上記コンデンサ素子を実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液100ml中に浸漬し、引き上げた後、85℃で2時間、180℃で1時間加熱することによって、モノマーを重合させて、3,4−エチレンジオキシチオフェンとメチル化エチレンジオキシチオフェンとプロピル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物の重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成し、外装材で外装して、実施例47の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0140】
そして、上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液に代えて、実施例5〜6の酸化剤兼ドーパント溶液を用い、それ以外は上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた場合と同様に、それぞれの酸化剤兼ドーパント溶液を用いた巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製して、それらを実施例48〜49の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとした。
【0141】
上記のようにして作製した実施例47〜49の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、前記実施例18の場合と同様に、ESR、静電容量および破壊電圧を測定し、その結果を表11に前記表4の場合と同様の態様で示す。
【0142】
【表11】

【0143】
表11に示すように、実施例47〜49の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、静電容量が20μF以上であって、20μF以上という設定静電容量を満たし、ESRが36.1〜36.3mΩと低く、漏れ電流不良の発生がなく、しかも、破壊電圧が53〜56Vという高い値を示し、耐電圧性が優れていた。
【0144】
〔固体電解コンデンサでの評価(9)〕
この〔固体電解コンデンサでの評価(9)〕では、モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェンとメチル化エチレンジオキシチオフェンとブチル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物を用い、それを実施例2、5、6の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて酸化重合して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、そのコンデンサ特性を評価する。
【0145】
実施例50〜52
まず、実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例50の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合を下記に示す。なお、これらの実施例50〜52で用いるコンデンサ素子も実施例18の場合などで用いたものと同様のものであり、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの設定静電容量は20μF以上である。
【0146】
すなわち、3,4−エチレンジオキシチオフェン(テイカ社製)15mlと合成例1で合成したメチル化エチレンジオキシチオフェン2.5mlと合成例4で合成したブチル化エチレンジオキシチオフェン7.5mlとを混合した混合液にメタノールを75ml添加して調製したモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で20分間乾燥した。その後、上記コンデンサ素子を実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液100ml中に浸漬し、引き上げた後、85℃で2時間、180℃で1時間加熱することによって、モノマーを重合させて、3,4−エチレンジオキシチオフェンとメチル化エチレンジオキシチオフェンとブチル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物の重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成し、外装材で外装して、実施例50の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0147】
そして、上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液に代えて、実施例5〜6の酸化剤兼ドーパント溶液を用い、それ以外は上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた場合と同様に、それぞれの酸化剤兼ドーパント溶液を用いた巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製して、それらを実施例51〜52の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとした。
【0148】
上記のようにして作製した実施例50〜52の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、前記実施例18の場合と同様に、ESR、静電容量および破壊電圧を測定した。その結果を表12に前記表4の場合と同様の態様で示す。
【0149】
【表12】

【0150】
表12に示すように、実施例50〜52の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、静電容量が20μFを超えていて、20μF以上という設定静電容量を満たし、ESRが35.0〜35.3mΩと低く、漏れ電流不良の発生がなく、しかも、破壊電圧が54〜56Vという高い値を示し、耐電圧性が優れていた。
【0151】
〔固体電解コンデンサでの評価(10)〕
この〔固体電解コンデンサでの評価(10)〕では、モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェンとメチル化エチレンジオキシチオフェンとエチル化エチレンジオキシチオフェンとプロピル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物を用い、それを実施例2、5、6の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、そのコンデンサ特性を評価する。
【0152】
実施例53〜55
まず、実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例53の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合を下記に示す。なお、これらの実施例53〜55で用いるコンデンサ素子も実施例18などで用いたものと同様のものであり、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの設定静電容量は20μF以上である。
【0153】
すなわち、3,4−エチレンジオキシチオフェン(テイカ社製)15mlと合成例1で合成したメチル化エチレンジオキシチオフェン2.5mlと合成例2で合成したエチル化エチレンジオキシチオフェン2.5mlと合成例3で合成したプロピル化エチレンジオキシチオフェン10mlとを混合した混合液にメタノールを75ml添加して調製したモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で20分間乾燥した。その後、上記コンデンサ素子を実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液100ml中に浸漬し、引き上げた後、85℃で2時間、180℃で1時間加熱することによって、モノマーを重合させて、3,4−エチレンジオキシチオフェンとメチル化エチレンジオキシチオフェンとエチル化エチレンジオキシチオフェンとプロピル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物の重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成し、外装材で外装して、実施例53の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0154】
そして、上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液に代えて、実施例5〜6の酸化剤兼ドーパント溶液を用い、それ以外は上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた場合と同様に、それぞれの酸化剤兼ドーパント溶液を用いた巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製して、それらを実施例54〜55の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとした。
【0155】
上記のようにして作製した実施例53〜55の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、前記実施例18の場合と同様に、ESR、静電容量および破壊電圧を測定した。その結果を表13に前記表4の場合と同様の態様で示す。
【0156】
【表13】

【0157】
表13に示すように、実施例53〜55の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、静電容量が20μFを超えていて、20μF以上という設定静電容量を満たし、ESRが33.6〜35.7mΩと低く、漏れ電流不良の発生がなく、しかも、破壊電圧が57〜59Vという高い値を示し、耐電圧性が優れていた。
【0158】
〔固体電解コンデンサでの評価(11)〕
この〔固体電解コンデンサでの評価(11)〕では、モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェンとメチル化エチレンジオキシチオフェンとエチル化エチレンジオキシチオフェンとブチル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物を用い、それを実施例2、5、6の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて酸化重合して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、そのコンデンサ特性を評価する。
【0159】
実施例56〜58
まず、実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例56の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合を下記に示す。なお、これらの実施例56〜58で用いるコンデンサ素子も実施例18などで用いたものと同様のものであり、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの設定静電容量は20μF以上である。
【0160】
すなわち、3,4−エチレンジオキシチオフェン(テイカ社製)12.5mlと合成例1で合成したメチル化エチレンジオキシチオフェン2.5mlと合成例2で合成したエチル化エチレンジオキシチオフェン2.5mlと合成例4で合成したブチル化エチレンジオキシチオフェン7.5mlとを混合した混合液にメタノールを75ml添加して調製したモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で20分間乾燥した。その後、上記コンデンサ素子を実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液100ml中に浸漬し、引き上げた後、85℃で2時間、180℃で1時間加熱することによって、モノマーを重合させて、3,4−エチレンジオキシチオフェンとメチル化エチレンジオキシチオフェンとエチル化エチレンジオキシチオフェンとブチル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物の重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質の層を形成し、外装材で外装して、実施例56の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0161】
そして、上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液に代えて、実施例5〜6の酸化剤兼ドーパント溶液を用い、それ以外は上記実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた場合と同様に、それぞれの酸化剤兼ドーパント溶液を用いた巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製して、それらを実施例57〜58の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとした。
【0162】
上記のようにして作製した実施例56〜58の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、前記実施例18の場合と同様に、ESR、静電容量および破壊電圧を測定した。その結果を表14に前記表4の場合と同様の態様で示す。
【0163】
【表14】

【0164】
表14に示すように、実施例56〜58の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、静電容量が20μFを超えていて、20μF以上という設定静電容量を満たし、ESRが34.1〜34.6mΩと低く、漏れ電流不良の発生がなく、しかも、破壊電圧が57〜61Vという高い値を示し、耐電圧性が優れていた。
【0165】
上記のような〔固体電解コンデンサでの評価(4)〕〜〔固体電解コンデンサでの評価(11)〕の実施例35〜38の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサと、同じ酸化剤兼ドーパント溶液を用いた実施例19、22、23の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとを比較すると、モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェンとアルキル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物を用いた実施例35〜58の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの方が、モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを単独で用いた実施例19、22、23の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサより、ESRが低く、破壊電圧が高く、コンデンサ特性が優れていた。
【0166】
すなわち、実施例35、38、41、44、50、53、56の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサと実施例19の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとは、いずれも、実施例2の酸化剤兼ドーパント溶液を用いているが、モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを単独で用いた実施例19の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、表4に示すように、ESRが39.2mΩで、破壊電圧が40Vであったが、モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンとアルキル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物を用いた実施例35、38、41、44、50、53、56の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、それぞれ、表7〜14に示すように、ESRは実施例19の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの39.2mΩより低く、破壊電圧は実施例19の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの40Vより高く、コンデンサ特性が優れていた。
【0167】
また、同じ実施例5の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた実施例36、39、42、45、48、51、54、57の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサと実施例22の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとを比較しても、モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェンとアルキル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物を用いた実施例36、39、42、45、48、51、54、57の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの方が、モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを単独で用いた実施例22の巻回型アルミニウム固体電解コンデンより、表7〜14および表4に示すそれらのESR値や破壊電圧値の対比から明らかなように、ESRが低く、破壊電圧が高く、コンデンサ特性が優れていた。
【0168】
そして、同じ実施例6の酸化剤兼ドーパント溶液を用いた実施例37、40、43、46、49、52、55、58の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサと実施例23の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサとを比較しても、モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンとアルキル化エチレンジオキシチオフェンの混合物を用いた実施例37、40、43、46、49、52、55、58の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの方が、モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを単独で用いた実施例23の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサより、表7〜14および表4に示すそれらのESR値や破壊電圧値の対比から明らかなように、ESRが低く、破壊電圧が高く、コンデンサ特性が優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機スルホン酸第二鉄にアクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルを添加してなることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント。
【請求項2】
有機スルホン酸第二鉄が、パラトルエンスルホン酸第二鉄およびメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント。
【請求項3】
有機スルホン酸第二鉄における鉄に対する有機スルホン酸のモル比が、1:3より有機スルホン酸が少ない請求項1または2記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント。
【請求項4】
前記α-不飽和カルボン酸エステルが、ヒドロキシル基を少なくとも1個有する請求項1〜3のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント。
【請求項5】
前記α-不飽和カルボン酸エステルが、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシポリオキシエチレン、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジヒドロキシプロピルおよびジメタクリル酸ヒドロキシプロピルよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント。
【請求項6】
前記α-不飽和カルボン酸エステルの添加量が、有機スルホン酸第二鉄に対して質量基準で2〜40%である請求項1〜5のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント。
【請求項7】
前記α-不飽和カルボン酸エステルの添加量が、有機スルホン酸第二鉄に対して質量基準で10〜40%である請求項1〜5のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント。
【請求項8】
前記α-不飽和カルボン酸エステルの添加量が、有機スルホン酸第二鉄に対して質量基準で20〜40%である請求項1〜5のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントを水または炭素数1〜4のアルコールに溶解してなることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項10】
有機スルホン酸第二鉄の水溶液または炭素数1〜4のアルコール溶液に、アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルを添加してなることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項11】
有機スルホン酸第二鉄と、アクリル酸エステル、ジアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびジメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のα-不飽和カルボン酸エステルとを水または炭素数1〜4のアルコールに溶解してなることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項12】
有機スルホン酸第二鉄が、パラトルエンスルホン酸第二鉄およびメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項10または11記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項13】
有機スルホン酸第二鉄における鉄に対する有機スルホン酸のモル比が、1:3より有機スルホン酸が少ない請求項10または11記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項14】
前記α-不飽和カルボン酸エステルが、ヒドロキシル基を少なくとも1個有する請求項10または11記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項15】
前記α-不飽和カルボン酸エステルが、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシポリオキシエチレン、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジヒドロキシプロピルおよびジメタクリル酸ジヒドロキシプロピルよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項10または11記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項16】
前記α-不飽和カルボン酸エステルの添加量が、有機スルホン酸第二鉄に対して質量基準で2〜40%である請求項10〜15のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項17】
前記α-不飽和カルボン酸エステルの添加量が、有機スルホン酸第二鉄に対して質量基準で10〜40%である請求項10〜15のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項18】
前記α-不飽和カルボン酸エステルの添加量が、有機スルホン酸第二鉄に対して質量基準で20〜40%である請求項10〜15のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項19】
有機スルホン酸第二鉄の濃度が、25〜65質量%である請求項9〜18のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項20】
請求項1〜8のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントを用いてチオフェンまたはその誘導体を酸化重合して製造したことを特徴とする導電性高分子。
【請求項21】
請求項9〜19のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液を用いてチオフェンまたはその誘導体を酸化重合して製造したことを特徴とする導電性高分子。
【請求項22】
チオフェンの誘導体が3,4−エチレンジオキシチオフェンである請求項20または21記載の導電性高分子。
【請求項23】
チオフェンの誘導体が、3,4−エチレンジオキシチオフェンと、メチル化エチレンジオキシチオフェン、エチル化エチレンジオキシチオフェン、プロピル化エチレンジオキシチオフェンおよびブチル化エチレンジオキシチオフェンよりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルキル化エチレンジオキシチオフェンとの混合物である請求項20または21記載の導電性高分子。
【請求項24】
請求項20〜23のいずれかに記載の導電性高分子を固体電解質として用いたことを特徴とする固体電解コンデンサ。

【公開番号】特開2013−82759(P2013−82759A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221449(P2011−221449)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】