説明

導電性高分子複合体

【課題】センサやアクチュエータ等に利用できる導電性高分子複合体として、耐久性に優れるとともに、大気中で、10V程度の低電圧で動作し、しかも周波数応答性にも優れた導電性高分子複合体を提供する。
【解決手段】導電性ポリマーと極性基を有するマトリックスポリマーとを必須成分とした導電性高分子複合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種のセンサやアクチュエータ等に利用できる導電性高分子複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、センサやアクチュエータ等に利用できる導電性高分子成形体が提案されている(特許文献1参照)。この高分子成形体を、例えば、センサに利用する場合は、その高分子成形体として、導電性の有機高分子からなる第1層(相)とイオン伝導性の有機高分子からなる第2層(相)とを積層したものが用いられる。また、上記高分子成形体をアクチュエータに利用する場合は、その高分子成形体として、電気化学的な反応によって分子容が変化する有機高分子からなる第1層と固体電解質からなる第2層とを積層したものが用いられる。そして、いずれの用途の場合も、上記高分子成形体は、その両面に電極が形成され、その各層(相)に電圧が印加されるようにして利用される。
【0003】
また、高分子アクチュエータとして、イオン性物質を含有する非導電性高分子に電極を形成したものが提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−93827号公報
【特許文献2】特開2001−258275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1における高分子成形体は、第1層と第2層とを備えるため、それらの間に界面が存在する。このため、第1層と第2層とが剥離し易く、耐久性に問題がある。特に、アクチュエータに利用する場合は、高分子成形体を頻繁に変形させるため、耐久性に問題がある。しかも、導電性高分子系アクチュエータは、電解質溶液中での動作が必要であり(特許文献1の〔0048〕段落参照)、動作環境の制約が大きく、導電性高分子単独では大気中での動作は困難である。
【0005】
また、特許文献2において用いられる高分子は1層からなるため、その高分子には上記界面が存在しない。このため、耐久性に殆ど問題はない。しかも、大気中での動作も可能となっている。しかしながら、上記高分子は非導電性であるため、それを用いた高分子アクチュエータを変形させるためには、高い電圧を印加する必要があり、また、応答速度も緩慢である。すなわち、電圧応答性および周波数応答性が悪く、これが実用化の障害となるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、センサやアクチュエータ等に利用できる導電性高分子複合体として、耐久性に優れるとともに、大気中で、10V程度の低電圧で動作し、しかも周波数応答性にも優れた導電性高分子複合体の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の導電性高分子複合体は、下記の(A)および(B)を必須成分とするという構成をとる。
(A)導電性ポリマー。
(B)極性基を有するマトリックスポリマー。
【0008】
本発明者らは、センサやアクチュエータ等に利用することに適した高分子材料として、耐久性にも電気的応答性(電圧応答性および周波数応答性)にも優れたものを得るべく、鋭意研究を重ねた結果、導電性ポリマーと極性基を有するマトリックスポリマーとを混合したものが適していることを見出した。すなわち、これら導電性ポリマーおよびマトリックスポリマーを混合したものからなる導電性高分子複合体は、それ自体でセンサやアクチュエータ等に利用することができ、耐久性にも電気的応答性にも優れていることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性高分子複合体は、上記(A)および(B)を必須成分としてなるため、耐久性に優れている。さらに、この複合体は、導電性であるため、電気的応答性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0011】
本発明の導電性高分子複合体は、導電性ポリマーおよび極性基を有するマトリックスポリマーを必須成分とするものである。ここで、必須成分とは、任意成分に対するものであって、構成上必ず含有される成分のことをいい、量的な制約は受けない。
【0012】
上記導電性ポリマーとしては、分子構造として導電性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、導電性高分子複合体を耐久性にも電気的応答性にも優れたものにできる観点から、好ましくは、ポリピロール,ポリアニリンおよびポリチオフェンならびにそれぞれの誘導体があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。この導電性ポリマーは、通常、トルエン等の溶媒を用い、溶液状にして使用に供される。
【0013】
上記マトリックスポリマーとしては、極性基を有するものであれば、特に限定されるものではないが、導電性高分子複合体を耐久性にも電気的応答性にも優れたものにできる観点から、好ましくは、ポリアミド,ポリウレタン,ポリエステル,ポリイミドおよびポリアクリル酸エステル、ならびに、ポリエチレン,ポリイソプレン,ポリブタジエン,ポリスチレン,フッ素樹脂および熱可塑性エラストマー等に極性官能基(極性基)を導入したポリマー等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。このマトリックスポリマーも、通常、トルエン,メチルエチルケトン(MEK),両者の混合液等の溶媒を用い、溶液状にして使用に供される。そして、このマトリックスポリマーが成膜性を有し、全体を1層のフィルム状に形成できるようになる。
【0014】
これら各成分の含有割合は、本発明の導電性高分子複合体が形成できれば、特に限定されないが、上記導電性高分子複合体がセンサにもアクチュエータにも適したものとして、耐久性にも電気的応答性にも優れたものとすることができる観点から、つぎのような範囲とすることが好ましい。すなわち、上記導電性高分子複合体中の上記導電性ポリマーの含有割合は、1重量%以上70重量%未満、上記マトリックスポリマーの含有割合は、30重量%以上99重量%未満である。
【0015】
このような導電性高分子複合体は、例えば、つぎのようにして作製される。すなわち、まず、上記各成分を適宜の配合割合で混合し、例えば、導電性ポリマー/マトリックスポリマーが固形分基準(重量比)で3/5になるように、導電性ポリマーの有機溶媒溶液と、マトリックスポリマーの有機溶媒溶液とを混合し、攪拌することにより、導電性高分子複合体形成用の液体材料を調製する。そして、乾燥により上記溶媒を揮発させて、目的とする導電性高分子複合体を得ることができる。例えば、その導電性高分子複合体として、フィルム状のものを得る場合には、まず、PETフィルム等のフィルム材の表面に離型剤を塗布して離型処理を施す。つぎに、その離型処理面に上記導電性高分子複合体形成用の液体材料を塗布し、塗布層を形成する。そして、その塗布層を乾燥させ、フィルム状の導電性高分子複合体とし、上記フィルム材から剥がす。このようにして、フィルム状の導電性高分子複合体を作製することができる。
【0016】
このようにして得られた導電性高分子複合体は、その1層のフィルム自体で、センサやアクチュエータに利用することができる。この場合は、導電性高分子複合体に電極を形成する。例えば、図1に示すように、上記フィルム状の導電性高分子複合体1であれば、その表裏両面に電極2を形成する。電極2の形成は、例えば、イオンスパッタによる白金蒸着等により行うことができる。
【0017】
そして、上記電極2が形成された導電性高分子複合体1をセンサに利用する場合は、両電極2に電圧を印加し、両電極2間の電位差,電流値,抵抗値等のいずれかを計測するための計測計を接続する。そして、上記導電性高分子複合体1に荷重等が加わり伸縮変形すると、その導電性高分子(導電性ポリマーおよび極性基を有するマトリックスポリマー)および電極2を介して、応答性よく、上記計測計の値(上記両電極2間の電位差,電流値,抵抗値等)に表れる。すなわち、上記導電性高分子複合体1に加わる荷重等に対応して、上記計測計の値が応答する。しかも、その応答性が良好であるため、小さな荷重等に対しても、上記計測計の値が大きく応答する。したがって、上記荷重等と計測計の値との関係を予め調べて知っておくことにより、上記電極2が形成された導電性高分子複合体1をセンサに利用することができる。
【0018】
そのセンサとしては、例えば、触覚(感圧)センサ,流体圧を感知することによる流速センサ,熱膨張歪みを感知することによる温度センサや温度計,吸湿膨張歪みを感知することによる湿度センサ,重量の慣性力を感知することによる加速度センサ等があげられる。
【0019】
また、上記電極2が形成された導電性高分子複合体1をアクチュエータに利用する場合は、両電極2に直流電圧を印加したり、その印加を止めたりすることが行われる。すなわち、両電極2に直流電圧を印加すると、小さな印加電圧でも、導電性高分子を通じて電流が流れることによって導電性高分子複合体1全体が伸縮するとともに、極性基を有するマトリックスポリマーの双極子モーメントの電場配向に起因する極性高分子鎖のセグメント運動の活性化と電圧印加方向への極性官能基(極性基)の濃度勾配の発現とによって導電性高分子複合体1全体が変形する。そして、印加を止めると、導電性高分子複合体1も元の形状に戻る。したがって、上記直流電圧の印加と導電性高分子複合体1の変形量(応答変位振幅)との関係を予め調べて知っておくことにより、上記電極2が形成された導電性高分子複合体1をアクチュエータに利用することができる。
【0020】
なお、上記の説明では、導電性高分子複合体1を1層のフィルムに構成しているが、形状はこれに限定されるものではなく、円柱状,角柱状,球状,厚板状等の立体形状にしてもよい。
【0021】
このように、本発明の導電性高分子複合体1は、導電性ポリマーおよび極性基を有するマトリックスポリマーを必須成分とすることにより、それ自体でセンサやアクチュエータ等に利用することができる。しかも、それ自体で対応できるため、耐久性に優れているとともに、軽量小型なものとすることができる。さらに、本発明の導電性高分子複合体1は、導電性であるため、電気的応答性にも優れている。すなわち、小さな変形に対しても、それ自体の電気的特性の変化を測定することができ、また、小さな電圧を印加しても、それ自体を変形させることができる。しかも、本発明の導電性高分子複合体1は、大気中(乾燥状態)で動作可能である。
【0022】
つぎに、実施例について説明する。
【実施例】
【0023】
本発明の導電性高分子複合体1を作製するために、その液体材料となる下記の原材料を準備した。
【0024】
〔導電性ポリマー:ポリアニリンエメラルディン塩(固形分率=1.1重量%)〕
まず、アニリン(モノマー)/ペンタドデシルベンゼンスルホン酸(ドーパント)/過流酸アンモニウム(重合開始剤)を1/1/1(重量比)で混合し、水中でポリアニリンエメラルディン塩を合成する。ついで、その合成溶液にクレゾールを添加した後、遠心分離処理し、沈降物をトルエンに溶解させてポリアニリンエメラルディン塩(導電性ポリマー)のトルエン溶液(濃度1.1重量%)を得た。
【0025】
〔マトリックスポリマー:スルホン酸変性ポリウレタン(固形分率=30重量%)〕
バイロンUR5537〔東洋紡社製、スルホン酸変性エステル系ポリウレタンを重量濃度30%で含むトルエン/MEK(=1/1)溶液〕を準備した。
【0026】
〔導電性高分子複合体形成用の液体材料の調製〕
上記原材料を固形分基準(重量比)で3/5(=導電性ポリマー/マトリックスポリマー)となるように混合し、攪拌による均一化を行いながら、冷風(約20℃)を吹き付けて、混合物中の固形分率が10%になるまで、過剰の溶媒を揮発させた。
【0027】
〔導電性高分子複合体の作製〕
離型処理されたPETフィルムの離型処理面に、上記液体材料を塗布した。その塗布層の厚みは300μmとした。そして、1晩常温(25℃)で乾燥した後、さらに1晩、50℃で真空乾燥し、フィルム状の導電性高分子複合体1とした。そして、それをPETフィルムから剥がし、厚み10μmのフィルム状の導電性高分子複合体1を得た。
【0028】
〔試験体の作製〕
上記フィルム状の導電性高分子複合体1から短冊状(1cm×3cm)に切り取り、その両面にイオンスパッタ型真空蒸着器を用いて、厚み30nmの白金層(電極2)を蒸着した。そして、各白金層の一端部に銅線(直径100μm,長さ3cm)3(図2参照)を接続し、試験体を得た。
【0029】
〔試験体の評価〕
図2に示すように、上記試験体のうち、銅線3が接続された一端部をPETフィルム(絶縁フィルム)(図示せず)を介してクランプ(図示せず)で挟持し、長手方向を鉛直方向に合わせて設置した。そして、上記銅線3を任意波形発生装置(電源)4に接続し、試験体にパルス状の電圧を印加した。その結果、試験体は、パルス状の電圧(0〜10V)を印加すると変形し、その印加電圧の周波数に応じて、下記の(1)〜(5)ように、振幅が変化した。なお、振幅は、レーザ変位計5を用いて測定した。
【0030】
(1)周波数:0.1Hzの場合、応答変位振幅:3.3mm。
(2)周波数:0.5Hzの場合、応答変位振幅:2.8mm。
(3)周波数:1Hz の場合、応答変位振幅:2.1mm。
(4)周波数:5Hz の場合、応答変位振幅:0.5mm。
(5)周波数:10Hz の場合、応答変位振幅:0.3mm。
【0031】
この結果から、上記導電性高分子複合体1は、低電圧(10V程度)で作動するアクチュエータに利用できることがわかる。
【0032】
また、上記実施例1では、パルス状の電圧として0〜10Vとしたが、−10〜0Vとしても、同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の導電性高分子複合体は、それ自体に電極を形成することにより、耐久性および電気的応答性に優れたセンサやアクチュエータに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の導電性高分子複合体の使用例を示す説明図である。
【図2】上記導電性高分子複合体を用いた試験体の評価方法を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)および(B)を必須成分とすることを特徴とする導電性高分子複合体。
(A)導電性ポリマー。
(B)極性基を有するマトリックスポリマー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−45473(P2006−45473A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232438(P2004−232438)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】