説明

導電性高分子/ドーパント分散体、導電性組成物および導電性皮膜

【課題】導電性及び耐候性に優れる導電性高分子/ドーパント分散体等の提供。
【解決手段】導電性高分子(A)、ドーパント(B)および錯体形成剤(C)が有機溶剤中に分散してなる導電性高分子/ドーパント分散体(1);当該導電性高分子/ドーパント分散体(1)、および活性エネルギー線ラジカル重合型化合物(2)を含有する導電性組成物;当該導電性高分子/ドーパント分散体(1)、および活性エネルギー線カチオン重合型化合物(3)を含有する導電性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子/ドーパント分散体、導電性組成物および導電性皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子とは、電気伝導性を有するπ共役系高分子化合物の総称であり、従来、ポリ(チオフェン)類等の複素環系導電性高分子や、ポリ(アニリン)類等の縮合芳香環系導電性高分子が開発されてきた。これらは通常、各種ドーパント処理がなされた「導電性高分子/ドーパント」として、プラスチックフィルムコーティング剤や、電子部品キャリアテープの帯電防止剤、透明電極の皮膜形成材等の用途に供されている。
【0003】
導電性高分子/ドーパントは種々の方法、例えば、前駆体モノマーおよびドーパントを含む電解溶液中に支持電極を浸漬し、その上に導電性高分子を形成させる方法(電解重合法)や、前駆体モノマー、ドーパントおよび酸化剤を含む溶液中で導電性高分子を合成する方法(化学酸化重合法)により得られる。工業的には、大量生産が可能な化学酸化重合法が主流である。
【0004】
導電性高分子/ドーパントは、前記プラスチックフィルムコーティング剤や帯電防止剤等の用途に供する場合には、アクリル樹脂やウレタンアクリレート等の有機系バインダーとの相溶性および成膜性等を考慮する必要があるため、有機溶剤に分散させた「導電性高分子/ドーパント分散体」として利用することがある(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
ところで導電性高分子/ドーパントには、種々の外部要因によりその導電性が経時的に大きく低下するという問題がある。例えば、導電性高分子/ドーパントを含有するコーティング皮膜を大気中に曝すと、その表面抵抗値が短期間に上昇してしまい、静電気による埃の付着や、摩擦による帯電といった問題が顕在化する。導電性高分子/ドーパントの導電性が低下する理由は種々考えられるが、紫外線や赤外線により大気中で発生した酸素ラジカルによって、導電性高分子をなすπ共役性二重結合が切断されるためではないかと考えられている。
【0006】
導電性の低下を抑制する手段としては、例えば特定の高分子型紫外線吸収剤を併用する方法が知られているが(例えば、特許文献2を参照)、これを併用した導電性高分子/ドーパントを例えば活性エネルギー線ラジカル重合型化合物に配合した場合には、ラジカル重合反応が阻害されることがある。
【0007】
また、導電性高分子/ドーパントの導電性の低下幅を金属酸化物等の導電性フィラーの併用により補う手段も考えられるが、多量を要するため、これを配合した導電性高分子/ドーパントを配合した組成物は、屈折率の変化や透過率の低下等問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−45116号公報
【特許文献2】特開平8−151465号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明は、導電性が良好であり、かつ、導電性の経時的な低下幅が小さい(以下、耐候性という)、導電性高分子/ドーパントの有機溶媒分散体を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は種々検討した結果、導電性高分子/ドーパント分散体には、微量ではあるが金属イオン(Fe2+,Fe3+,Cu2+等)が含まれていることを見出した。こうした金属イオンは、導電性高分子を製造する際の酸化剤(塩化鉄、塩化第二鉄、塩化銅等)や、ドーパントたるアニオン性ポリマーの重合触媒、或いは、有機溶剤を工業的に製造する際に用いられた容器や配管等に由来すると考えられ、導電性高分子/ドーパント分散体における不可避物質といえる。本発明者は、かかる金属イオンに着目し、これを補足する目的で各種錯体形成剤を併用することにより、前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、導電性高分子(A)、ドーパント(B)および錯体形成剤(C)が有機溶剤中に分散してなる、導電性高分子/ドーパント分散体(1);当該導電性高分子/ドーパント分散体(1)、および活性エネルギー線ラジカル重合型化合物(2)を含有する導電性組成物;当該(1)成分、および活性エネルギー線カチオン重合型化合物(3)を含有する導電性組成物;当該導電性組成物を基材に塗工してなる導電性皮膜、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る導電性高分子/ドーパント分散体(1)は貯蔵安定性、導電性、耐候性が良好である。そのため、当該分散体は、プラスチックフィルムコーティング剤、導電性接着剤、帯電防止塗料、防食塗料等の帯電防止剤として、或いは、透明電極用の皮膜形成材等として好適である。
【0013】
また、本発明に係る導電性組成物によれば、導電性、耐候性、帯電防止性、耐溶剤性、硬度等に優れた皮膜が得られる。よって、該導電性組成物は、例えば帯電防止コーティング剤として各種導電性フィルム、電子部品キャリアテープ、磁気カード、磁気テープ、磁気ディスク、離形フィルムICトレイ等の用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の導電性高分子/ドーパント分散体(1)(以下、(1)成分という)は、導電性高分子(A)(以下、(A)成分という)およびドーパント(B)(以下、(B)成分という)、ならびに錯体形成剤(C)(以下、(C)成分という)が、有機溶剤中で分散してなるものである。
【0015】
(A)成分は、(1)成分に導電性を付与する物質であり、各種公知のπ共役系高分子化合物を使用できる。具体的には、例えば、複素環型π共役系高分子、非縮合芳香環型π共役系高分子、および縮合芳香環型π共役系高分子などが挙げられる。
【0016】
該複素環型π共役系高分子としてはポリ(チオフェン)類、ポリ(チオフェンビニレン)類、ポリ(ピロール)類、ポリ(フラン)類などが挙げられる。また、該非縮合芳香環型π共役系高分子としてはポリ(アニリン)類、ポリ(フェニレン)類、ポリ(フェニレンビニレン)類、ポリ(ナフチレンビニレン)類などが挙げられる。また、該縮合芳香環型π共役系高分子としてはポリ(アセン)類などが挙げられる。
【0017】
これらの中でも、(1)成分の貯蔵安定性等の観点より、特に複素環型π共役系高分子および/または非縮合芳香環型π共役系高分子が好ましい。また、該複素環型π共役系高分子としては、同様の観点よりポリ(チオフェン)類、ポリ(ピロール)類およびポリ(フラン)類からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、該非縮合芳香環型π共役系高分子としてはポリ(アニリン)類が好ましい。
【0018】
なお、(1)成分が有する複素環又は芳香環は、その水素原子が、アルキレンジオキシ基、アルコキシ基、アルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、フェニル基、およびシアノ基等からなる群より選ばれる基、若しくはハロゲン元素で置換されていてもよい。
【0019】
ポリ(チオフェン)類としては、ポリ(チオフェン)、アルキレンジオキシ基置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)等〕、アルコキシ基置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)等〕、アルキル基置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)等〕、カルボキシル基置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)等〕、ヒドロキシ基置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)等〕、フェニル基置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3−フェニルチオフェン)等〕、シアノ基置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3−シアノチオフェン)等〕、ハロゲン置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)等〕などが挙げられる。これらの中でも導電能、および(1)成分の貯蔵安定性等の観点より、前記アルキレンジオキシ基置換ポリチオフェン類が好ましく、特に、前記ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOTという)が好ましい。
【0020】
ポリ(チオフェンビニレン類)としては、ポリ(チオフェンビニレン)、アルキレンジオキシ基置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェンビニレン)等〕、アルコキシ基置換ポリ(チオフェンビニレン)類〔ポリ(3−メトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−エトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−ブトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェンビニレン)等〕、アルキル基置換ポリ(チオフェンビニレン)類〔ポリ(3−メチルチオフェンビニレン)、ポリ(3−エチルチオフェンビニレン)、ポリ(3−プロピルチオフェンビニレン)、ポリ(3−ブチルチオフェンビニレン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェンビニレン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェンビニレン)、ポリ(3−オクチルチオフェンビニレン)、ポリ(3−デシルチオフェンビニレン)、ポリ(3−ドデシルチオフェンビニレン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェンビニレン)等〕、カルボキシル基置換ポリ(チオフェンビニレン)類〔ポリ(3−カルボキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェンビニレン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェンビニレン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェンビニレン)等〕、ヒドロキシ基置換ポリ(チオフェンビニレン)類〔ポリ(3−ヒドロキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェンビニレン)等〕、フェニル基置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3−フェニルチオフェンビニレン)等〕、シアノ基置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3−シアノチオフェンビニレン)等〕、ハロゲン置換ポリ(チオフェン)類〔ポリ(3−ブロモチオフェンビニレン)、ポリ(3−クロロチオフェンビニレン)、ポリ(3−ヨードチオフェンビニレン)等〕などが挙げられる。
【0021】
ポリピロール類としては、ポリ(ピロール)、アルコキシ基置換ポリ(ピロール)類〔ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)等〕、アルキル基置換ポリ(ピロール)類〔ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)等〕、カルボキシル基置換ポリ(ピロール)類〔ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)等〕、ヒドロキシ基置換ポリ(ピロール)類〔ポリ(3−ヒドロキシピロール)等〕などが挙げられる。入手が容易であること等を考慮すると、ポリ(ピロール)(以下、PPYという)が好ましい。
【0022】
ポリ(フラン)類としては、ポリ(フラン)、アルコキシ基置換ポリ(フラン)類〔ポリ(3−メトキシフラン)、ポリ(3−エトキシフラン)、ポリ(3−ブトキシフラン)、ポリ(3−ヘキシルオキシフラン)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシフラン)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシフラン)等〕、アルキル基置換ポリ(フラン)類〔ポリ(3−メチルフラン)、ポリ(3−エチルフラン)、ポリ(3−n−プロピルフラン)、ポリ(3−ブチルフラン)、ポリ(3−オクチルフラン)、ポリ(3−デシルフラン)、ポリ(3−ドデシルフラン)、ポリ(3,4−ジメチルフラン)、ポリ(3,4−ジブチルフラン)等〕、カルボキシル基置換ポリ(フラン)類〔ポリ(3−カルボキシフラン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシフラン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルフラン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルフラン)等〕、ヒドロキシ基置換ポリ(フラン)類〔ポリ(3−ヒドロキシフラン)等〕などが挙げられる。
【0023】
ポリ(アニリン)類としては、ポリ(アニリン)、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)などが挙げられる。入手が容易であること等を考慮すると、ポリ(アニリン)(以下、PANIという)が好ましい。
【0024】
(A)成分は、公知の化学的酸化重合法や電解重合法により得られる。前者の場合には、前駆体モノマー、ドーパントおよび酸化剤を含む溶液中で導電性高分子を合成する方法が挙げられ、後者の場合には、前駆体モノマーおよびドーパントを含む電解溶液中に支持電極を浸漬し、その上に導電性高分子を形成させる方法が挙げられる。
【0025】
該酸化剤としては、金属塩系酸化剤〔塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅、塩化アルミニウム等〕、非金属塩系酸化剤〔ぺルオキソ二硫酸アンモニウム、ぺルオキソ二硫酸ナトリウム、ぺルオキソ二硫酸カリウム、三フッ化ホウ素、オゾン、過酸化ベンゾイル、酸素等〕などが挙げられる。
【0026】
(B)成分は、(A)成分の導電性を向上させる目的で用いる物質であり、各種公知のカチオン性化合物(電子供与性ドーパント)や、アニオン性化合物(電子受容性ドーパント)、を用い得る。
【0027】
該カチオン性化合物としては、各種ルイス酸(PF、AsF、SbF等)や、プロトン酸(HF、HCl、HSO等)、各種アルカリ金属(Li、Na、K、Rb等)、アルカリ土類金属(Ca、Sr、Ba、Mg等)などが挙げられる。
【0028】
該アニオン性化合物は、更に、非ポリマータイプのものと、ポリマータイプ(アニオン性ポリマー)のものとに分けられる。該非ポリマータイプのアニオン性化合物としては、各種電解質アニオン(Cl、Br、スルホアニオン等)が挙げられる。また、該アニオン性ポリマーとしては、具体的には、分子内に、スルホ基、一置換スルホエステル基、リン酸基、一置換リン酸エステル基およびカルボキシル基に由来するアニオン性官能基を有するものが好ましい。なお、「一置換スルホエステル基」、「一置換リン酸エステル基」とは、スルホエステル基またはリン酸エステル基における水酸基上の水素をアルキル基又はアラルキル基(いずれも炭素数1〜20程度)で置換したものをいう。これらの中でも、ドーピング率および、ドーピング状態における安定性の観点より、アニオン性ポリマーが、特にスルホ基に由来するアニオン性官能基(スルホアニオン基)を有するアニオン性ポリマーが好ましい。
【0029】
アニオン性ポリマーは、アニオン性官能基を有する重合性モノマーと、アニオン性官能基を有さない重合性モノマーとを、各種公知の重合法(水溶液重合、有機溶液重合、塊状重合等)により共重合させることにより得られる。
【0030】
アニオン性官能基含有重合性モノマーとしては、例えば、スルホン酸系重合性モノマー〔ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、およびそれらの塩類等;スチレンスルホン酸系重合性モノマー〔スチレンスルホン酸、α−メチルスチレンスルホン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、およびそれらの塩類等〕、ブタジエンスルホン酸系重合性モノマー〔1,3−ブタジエン−1−スルホン酸、1−メチル−1,3−ブタジエン−2−スルホン酸、1−メチル−1,3−ブタジエン−4−スルホン酸、イソプレンスルホン酸、およびそれらの塩類等〕、(メタ)アクリレートスルホン酸系重合性モノマー〔(メタ)アクリル酸エチルスルホン酸(CH=C(CH3)−COO−(CH22−SO3H)、(メタ)アクリル酸プロピルスルホン酸(CH=C(CH3)−COO−(CH23−SO3H)、(メタ)アクリル酸−t−ブチルスルホン酸(CH=C(CH3)−COO−C(CH32CH−SO3H)、(メタ)アクリル酸−n−ブチルスルホン酸(CH=C(CH3)−COO−(CH2−SO3H)、(メタ)アクリル酸フェニレンスルホン酸(CH=C(CH3)−COO−C64−SO3H)、(メタ)アクリル酸ナフタレンスルホン酸(CH=C(CH3)−COO−C108−SO3H)、およびそれらの塩類等〕、アリルスルホン酸系重合性モノマー〔アリル酸エチルスルホン酸(CH=CHCH−COO−(CH22−SO3H)、アリル酸−t−ブチルスルホン酸(CH=CHCH−COO−C(CH32CH−SO3H)、およびそれらの塩類等〕、ペンテン酸スルホン酸系重合性モノマー〔4−ペンテン酸エチルスルホン酸(CH=CH(CH22−COO−(CH22−SO3H)、4−ペンテン酸プロピルスルホン酸(CH=CH(CH22−COO−(CH23−SO3H)、4−ペンテン酸−n−ブチルスルホン酸(CH=CH(CH22−COO−(CH2−SO3H)、4−ペンテン酸−t−ブチルスルホン酸(CH=CH(CH22−COO−C(CH32CH−SO3H)、4−ペンテン酸フェニレンスルホン酸(CH=CH(CH22−COO−C64−SO3H)、4−ペンテン酸ナフタレンスルホン酸(CH=CH(CH22−COO−C108−SO3H)、およびそれらの塩類〕、アクリルアミドスルホン酸系重合性モノマー〔アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびそれらの塩類等〕、シクロビニレンスルホン酸系重合性モノマー〔シクロブテン−3−スルホン酸、およびそれらの塩類〕、カルボキシル基含有(メタ)アクリレート〔アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フタル酸等〕などが挙げられる。
【0031】
該アニオン性官能基含有重合性モノマーの塩類をなす塩基性化合物(中和剤)としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素マグネシウム、アンモニアなどが挙げられる。
【0032】
アニオン性官能基を有しない重合性モノマーとしては、例えば、アルキルエステル基含有(メタ)アクリレート〔(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニルブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸エチルカルビトール、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル等〕、芳香族系モノマー〔スチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−ブチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、p−メトキシスチレン、α−メチルスチレン、ビニルフェノール、2−ビニルナフタレン、6−メチル−2−ビニルナフタレン等〕、非脂環式ジエン〔1,3−ブタジエン、1−メチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,4−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,2−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1−オクチル−1,3−ブタジエン、2−オクチル−1,3−ブタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1−ヒドロキシ−1,3−ブタジエン等〕、非脂環式モノエン〔2−ヒドロキシ−1,3−ブタジエン、エチレン、プロぺン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン等〕、脂環式モノエン〔シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、2−メチルシクロヘキセン等〕、イミダゾール系モノマー〔1−ビニルイミダゾール、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルイミダゾ−ル等〕、アクリルアミド類〔(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、Nビニルホルムアミド、3−アクリルアミドフェニルボロン酸等〕、アミン系モノマー〔アクリロイルモルホリン、ビニルアミン、N,N−ジメチルビニルアミン、N,N−ジエチルビニルアミン、N,N−ジブチルビニルアミン、N,N−ジ−t−ブチルビニルアミン、N,N−ジフェニルビニルアミン、N−ビニルカルバゾール等〕、その他のモノマー〔ビニルアセテート、アクロレイン、メタクロレイン、アクリロニトリル、ビニルアルコール、塩化ビニル、フッ化ビニル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等〕などが挙げられる。
【0033】
アニオン性ポリマーの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、およびポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸、ならびにそれらの塩類などが挙げられる。これらの中でも、ドーピング状態において安定であることを考慮して、ポリスチレンスルホン酸および/またはその塩(特にナトリウム塩)(以下、PSSとと総称することがある。)が好ましい。
【0034】
(B)成分により(A)成分をドープする方法は特に限定されず、例えば、(A)成分を製造した後に適当な(B)成分を外添する方法や、(A)成分の製造時(前駆体モノマーの重合時)に反応系に(B)成分を存在させておく方法などが挙げられる。
【0035】
(A)成分と(B)成分の組合せは、導電性高分子/ドーパント錯体としての化学的な安定性や、導電性、(1)成分を皮膜にした際の色相・透明性等の点より、適宜決定される。本発明では、特に、PEDOT/PSS、PPY/PSS、PANI/PSSからなる群から選ばれる組合せが好ましく、特にPEDOT/PSSが好ましい。これらは市販品、例えばPEDOT/PSSの場合には、「Baytron P」(商品名;H.C.シュタルク社製)、「Orgacon」(商品名;アグファ社)等が使用できる。
【0036】
(C)成分は、(1)成分の耐候性効果を達成するための必須成分であり、各種公知の錯体形成剤を用いることができる。ここに「錯体形成剤」とは、金属イオンと錯体を形成できる化合物をいい、配位子を少なくとも2つ(具体的には、2〜4つ程度)有する多座化合物、および配位子を1つ有する単座化合物が挙げられる。(C)成分は、(A)成分、(B)成分および後述の有機溶剤に由来する金属イオンの種類により最適なものを選択すればよい。
【0037】
前記多座化合物および単座化合物としては、具体的には、リン酸基、置換リン酸基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシ基およびフェノール性ヒドロキシ基からなる群より選ばれる1種の官能基を配位子として有するものが好ましい。また、これら官能基は前記中和剤(例えば水酸化ナトリウム)と中和塩を形成していてもよい。なお、「置換リン酸基」とは、リン酸基における水酸基上の水素をアルキル基又はアラルキル基(いずれも炭素数1〜20程度)で置換したものをいう。また、該多座化合物および単座化合物は、異なる種類の官能基を併有していても良く、例えば、カルボキシル基とヒドロキシ基の組合せが挙げられる。
【0038】
多座化合物としては、例えば、アミノポリホスホン酸系化合物〔トリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンペンタメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、プロピレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジプロピレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ニトリロトリス(ポリホスホン酸)、ならびにこれらの中和塩等〕、非アミノポリホスホン酸系化合物〔エチドロン酸、フィチン酸、およびこれらの中和塩等〕、アミノポリカルボン酸系化合物〔エチレンジアミン四酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸、およびグリコールエ−テルジアミン四酢酸、ならびにこれらの中和塩等〕、脂肪族ヒドロキシカルボン酸系化合物〔クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、メバロン酸、グリコール酸、グルコン酸、ニトリロ三酢酸モノ(2‐ヒドロキシエチル)、ニトリロ三酢酸ジ(2‐ヒドロキシエチル)、ならびにこれらの中和塩等〕、アミノヒドロキシカルボン酸系化合物〔ジヒドロキシエチルグリシン等〕、ポリアミン系化合物〔エチレンジアミン、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、ポルフォリン等〕、ポリフェノール系化合物〔カテコール、カテキン等〕、ポリビニルフェノール類〔ポリパラビニルフェノール、ポリパラビニルフェノール臭素化物等(いずれも、重量平均分子量1000〜15000程度、好ましくは1500〜5000程度)〕が挙げられる。
【0039】
単座化合物としては、例えば、リン酸アルキルエステル系化合物〔アクリル酸2−(ホスホノオキシ)エチル、メタクリル酸2−(ホスホノオキシ)エチル、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル等〕、アミン系化合物〔ピリジン、アニリン等〕などが挙げられる。
【0040】
(C)成分としては、耐候性や有機溶剤等への溶解性等の点より、多座化合物としては前記アミノポリホスホン酸系化合物、脂肪族ヒドロキシカルボン酸系化合物、およびポリビニルフェノール類からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。また、同様の点より、単座化合物としては前記リン酸アルキルエステル系化合物が好ましい。
【0041】
本発明では、(1)成分の貯蔵安定性を向上させる目的で、アミン系界面活性剤(D)(以下、(D)成分という)を併用できる。
【0042】
(D)成分としては、具体的には、下記一般式(I)で表されるものが好ましい。
【0043】
【化1】

【0044】
(式(I)中、X、Y及びZは、それぞれ−(A)H、−(A)R、−R、Hのいずれかを表す(但し、X、Y及びZが全てHの場合を除く)。Aはエチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、およびエチレンオキシド−プロピレンオキシド基のいずれかを表す。Rは、アルキル基、アルケニル基およびアラルキル基(いずれも炭素数3〜40程度)、シクロアルキル基(炭素数5〜12程度)、フェニル基、およびベンジル基のいずれかを表す。mは1〜20の整数を表す。)
【0045】
また、前記一般式(I)で表されるアミン系活性剤のうち、特に下記一般式(II)で表されるものは、(1)成分の貯蔵安定性の観点より特に好ましい。
【0046】
【化2】

【0047】
(式(II)中、R’は炭素数3〜40程度のアルキル基、アルケニル基、またはアラルキル基を表す。Aはエチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、およびエチレンオキシド−プロピレンオキシド基のいずれかを表す。mは1〜20の整数を表す。)
【0048】
(D)成分としては、特に、アミン系界面活性剤(D)が、分子内にポリアルキレンオキシド基構造および/またはアルキル基構造を有するものが、(1)成分の貯蔵安定性等の点より好ましい。
【0049】
前記一般式(I)で表され、かつ、前記一般式(II)では表されないものとしては、例えば、第1級アルキルアミン類〔メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン等〕、第2級アルキルアミン類〔ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等〕、第3級アルキルアミン類〔トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリシクロヘキシルアミン等〕、第1級芳香族アミン類〔アニリン、ベンジルアミン等〕、第2級ポリオキアルキレンアミン類〔ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミン等〕などが挙げられる。
【0050】
また、(D)成分のうち、前記一般式(II)のみによって表されるものとしては、例えばN,N−ポリ(オキシアルキレン)−アルキルアミン類が挙げられる。具体的には、N,N−ポリ(オキシエチレン)−ヘキシルアミン、N,N−ポリ(オキシプロピレン)−ヘキシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)−ヘキシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン)−デシルアミン、N,N−ポリ(オキシプロピレン)−デシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)−デシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン)−デシルアミン、N,N−ポリ(オキシプロピレン)−デシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)−デシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン)−ペンタデシルアミン、N,N−ポリ(オキシプロピレン)−ペンタデシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)−ペンタデシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン)−イコシルアミン、N,N−ポリ(オキシプロピレン)−イコシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)−イコシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン)−ヘキサコシルアミン、N,N−ポリ(オキシプロピレン)−ヘキサコシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)−ヘキサコシルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン)−トリアコンチルアミン、N,N−ポリ(オキシプロピレン)−トリアコンチルアミン、N,N−ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)−トリアコンチルアミンなどが挙げられる。
【0051】
なお、必要に応じて、非アミン系のノニオン性界面活性剤〔ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等〕や、他の界面活性剤を併用できる。
【0052】
(1)成分は、(A)成分〜(C)成分、および必要に応じて用いる(D)成分が、有機溶剤中に分散してなるものである。
【0053】
有機溶剤としては、例えば、アルコール類〔メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等〕、ケトン類〔アセトン、メチルエチルケトン等〕、芳香族炭化水素類〔ベンゼン、トルエン、キシレン等〕、脂環族炭化水素類〔シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等〕、エステル類〔ギ酸エチル、酢酸エチル等〕、エーテル類〔ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等〕、含窒素化合物系溶剤〔N−メチル−2−ピロリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等〕、含硫黄化合物〔ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド等〕、ニトリル類〔アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等〕などが挙げられる。これらの中でも、(1)成分の貯蔵安定性等の点より前記アルコール類が好ましく、特にメタノール、エタノールおよびイソプロピルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0054】
(1)成分の製造方法は特に限定されないが、例えば、(A)成分および(B)成分が有機溶剤の溶液として利用できる場合には、(A)成分、(B)成分および(C)成分を有機溶剤中に分散させた後、必要に応じて(D)成分を加えることにより、分散体(1)が得られる。
【0055】
また、(A)成分および(B)成分が水溶液である場合には、先ず、両成分を有機溶剤中に分散させ、得られた分散液中に酸(硫酸、塩酸、硝酸等)を添加して(A)成分および(B)成分を沈殿させる。次いで、得られた沈殿物を適当な手段で濾別して、減圧下(0.2〜0.8MPa程度)に乾燥させることによって、湿潤状態の固体を得る。次いで、この固体を有機溶剤中に分散させた後、(C)成分および(D)成分を順次または同時に加えることにより、分散体(1)が得られる。(日本国特開2008−45116号公報等参照。)
【0056】
分散手段は特に限定されず、例えば、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、振とう機等の装置を利用できる。また、分散に際して、ビーズミルなどのメディアを利用してもよい。
【0057】
(1)成分における(A)成分および(B)成分の含有量は、通常、(A)成分100重量部(固形分換算)に対して(B)成分が200〜3,000重量部(固形分換算)程度、好ましくは200〜400重量部となる範囲である。かかる範囲であることにより、特に(1)成分の貯蔵安定性や、耐候性が良好になる。
【0058】
(C)成分の含有量は、(A)成分および(B)成分の合計100重量部(固形分換算)に対して通常5〜100重量部程度、好ましくは25〜80重量部程度、いっそう好ましくは50〜70重量部の範囲である。かかる範囲であることにより、特に(1)成分の耐候性が良好となる。
【0059】
また、(D)成分の含有量は、通常、(A)成分および(B)成分の合計100重量部(固形分換算)に対して5〜300重量部程度、好ましくは80〜250重量部である。かかる範囲であることにより、特に(1)成分の貯蔵安定性が良好になる。
【0060】
(1)成分の固形分濃度は用途に応じて適宜決定すればよいが、通常は、0.5〜10重量%程度、好ましくは3〜8重量%である。
【0061】
(1)成分には、水が通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の範囲で含まれていてもよい。(1)成分における水の含有量を20重量%とすることにより、(1)成分を後述の(2)成分または(3)成分に配合した際の凝集物の発生が低減する。
【0062】
(1)成分には、通常、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Mn2+等の遷移金属イオンが含まれる。その含有量は通常、数〜数十ppm、具体的には、0.01〜30ppm程度である。
【0063】
(1)成分の平均一次粒子径は通常10〜500nm程度であり、分散安定性等を考慮すると、好ましくは10〜50nm程度である。
【0064】
本発明の第一の導電性組成物(以下、導電性組成物(イ)という)は、(1)成分および活性エネルギー線ラジカル重合型化合物(2)(以下、(2)成分という)を含有するものである。
【0065】
(2)成分としては各種公知のものを特に制限なく用い得る。具体的には、例えば、2官能〜6官能の(メタ)アクリレート化合物(2−1)(以下、(2−1)成分という)、および/または、分子内に(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体(2−2)(以下、(2−2)成分という)が挙げられる。また、前記したアニオン性官能基含有重合性モノマーや、アニオン性官能基を有しない重合性モノマーも併用できる。
【0066】
(2−1)成分としては、2官能(メタ)アクリレート化合物〔ヘキサメチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4ーブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエチレングリコールジアクリレート等〕、3官能(メタ)アクリレート化合物〔トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性グリセロールトリアクリレート、プロピレンオキシド変性グリセロールトリアクリレート、εカプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等〕、4官能(メタ)アクリレート化合物〔ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート〕、5官能以上の(メタ)アクリレート化合物〔ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
(2−2)成分としては、各種公知のものを用いうる。具体的には、分子内にアルキルエステル基およびエポキシ基を有する(メタ)アクリル系共重合体(以下、(α)成分という)と、カルボキシル基含有(メタ)アクリル化合物(以下、(β)成分という)との付加反応物である。
【0068】
(α)成分は、具体的には、前記アルキルエステル基含有(メタ)アクリレートと、エポキシ基含有モノ(メタ)アクリレート類との共重合物である。該アルキルエステル基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル等が挙げられる。また、該エポキシ基含有モノ(メタ)アクリレート類としては、グリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルアクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0069】
当該共重合物は、通常、各種のラジカル重合開始剤および連鎖移動剤、ならびに前記有機溶剤の存在下、前記前記アルキルエステル基含有(メタ)アクリレート及びエポキシ基含有モノ(メタ)アクリレート類を、通常、40〜150℃程度の温度で、2〜12時間程度、共重合反応させることにより得られる。
【0070】
ラジカル重合開始剤としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等が挙げられ、その使用量は通常、(α)成分の固形分重量に対して0.01〜8重量%程度の範囲である。
【0071】
連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾチアゾール、ブロムトリクロルメタン等が挙げられ、その使用量は通常、(α)成分の固形分重量に対して0.01〜5重量%程度である。
【0072】
こうして得られる(α)成分の物性は特に限定されないが、通常、重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値をいう。以下、同様。)が5,000〜50,000程度、エポキシ当量(JIS K 7236)が通常140〜290g/eq程度である。
【0073】
(β)成分としては、前記カルボキシル基含有(メタ)アクリレートが挙げられ、特に、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、(メタ)アクリル酸ダイマー等が好ましい。その使用量は通常、前記(α)成分に含まれるエポキシ基に対して等1.0〜1.1モル倍となる量となる範囲である。
【0074】
(α)成分と(β)成分の付加反応(エポキシ開環反応)は、通常、両成分と反応しない有機溶剤の存在下、通常80〜120℃程度において実施すればよい。なお、付加反応時には、メトキノン、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、N‐ニトロソフェニルヒドロキシルアミン等の重合禁止剤を用いたり、反応系を空気でバブリングしたりできる。
【0075】
こうして得られる(2−2)成分の物性は特に限定されないが、通常は、水酸基価が130〜170mgKOH/g程度、重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値)が8,000〜50,000程度である。
【0076】
なお、(2)成分とともに、前記したアニオン性官能基含有重合性モノマーや、アニオン性官能基を有しない重合性モノマーを併用できる。
【0077】
導電性組成物(イ)には、更に光重合開始剤を含有させることができる。具体的には、例えば、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、4−メチルベンゾフェノン等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
導電性組成物(イ)における各成分の含有量(固形分換算)は、通常、(2)成分100重量部に対し、(1)成分が0.1〜5重量%程度(好ましくは0.1〜1重量部)、光重合開始剤が0〜10重量%程度(好ましくは0.1〜7重量部)である。
【0079】
本発明に係る第二の導電性組成物(以下、導電性組成物(ロ)という)は、(1)成分および活性エネルギー線カチオン重合型化合物(3)(以下、(3)成分という)を含有するものである。
【0080】
(3)成分としては、例えば、非脂環式エポキシ化合物〔ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラック型エポキシ樹脂類、トリスフェノールメタントリグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル化合物等〕、脂環式エポキシ化合物〔、2,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4− エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5− スピロ−3,4− エポキシ)シクロヘキサノン−メタ−ジオキサン、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル等〕、オキセタン化合物〔2−エチルヘキシルオキセタン、1,4−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、1,3−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕プロパン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でもオキセタン化合物が好ましい。
【0081】
当該導電性組成物(ロ)には、更にカチオン重合触媒を含有させることができる。具体的には、例えば、ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、四フッ化ホウ素フェニルジアゾニウム塩、六フッ化ヒ素トリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、四フッ化アンチモントリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、六フッ化リンのジフェニルヨウドニウム塩、六フッ化アンチモンジフェニルヨウドニウム塩などが挙げられる。
【0082】
導電性組成物(ロ)における各成分の含有量(固形分換算)は、通常、(3)成分100重量部に対し、(1)成分が0.1〜5重量%程度(好ましくは0.1〜1重量部)、カチオン重合触媒が0〜10重量%程度(好ましくは0.1〜7重量部)である。
【0083】
なお、両導電性組成物には、各種顔料、着色剤、光増感剤、酸化防止剤、光安定剤、レベリング剤等の添加剤を含有させることもできる。また、希釈溶剤として前記有機溶剤(好ましくはケトン系溶剤、アルコール系溶剤)を用いることもできる。また、活性エネルギー線で重合しないイナート樹脂(アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等)を併用できる。
【0084】
活性エネルギー線としては紫外線や電子線が上げられ、線源としては、キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプを有する紫外線照射装置、電子線加速装置などが挙げられる。光量や光源配置、搬送速度などは必要に応じて調整すればよい。
【0085】
本発明の導電性皮膜は、前記導電性組成物を各種基材に塗工してなるものである。基材の素材は特に限定されないが、例えば、トリアセチルセルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂などが挙げられる。また、基材の形態も特に限定されず、構造体状或いはフィルム状であってよい。フィルムとしては、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリスチレンフィルム、エポキシフィルム、メラミンフィルム、ABSフィルム、ASフィルム、ノルボルネン樹脂系フィルムなどが挙げられるが、本発明においては光学的特性の観点よりトリアセチルセルロースフィルムが好ましい。また、当該導電性フィルムは、導電性皮膜とプラスチックフィルムの間にプライマー層が設けられていてもよい。
【0086】
塗工方法は特に限定されないが、例えば、バーコーター塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷法などが挙げられる。また、塗工量は特に限定されないが、通常は、乾燥後の重量が0.1〜30g/m程度、好ましくは1〜20g/m程度となる程度である。
【実施例】
【0087】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。また、部は重量基準であること意味する。
【0088】
「固形分」は、その固形物を加熱した際に減少した重量から算出した値を意味する。「平均一次粒子径」はナノトラック粒度分布測定装置(日機装(株)製)による測定値を意味する。鉄イオンの同定および定量は波長分散型X線装置(商品名「ZSX100e」、理学電機工業(株)製)による。「水含有量」は、各原料の仕込み重量から計算した値を意味する。
【0089】
調製例1
フラスコに、PEDOT/PSS水分散体(製品名「Orgacon」、アグファ社製)を100部(固形分1.2%)、エタノールを100部入れ、撹拌下に10%塩酸を0.5ml添加した後、30分間さらに撹拌し、その後1時間放置した。次いで、得られた分散液をグラスフィルターにより減圧ろ過した。次いで、エタノール200部を添加した後に減圧ろ過を行なう操作を8回繰り返し、湿潤状の青色固体(固形分7.8%)を得た。
【0090】
次に、ビーカーに、該青色固体を12部、エタノールを40部入れ、乳化分散機(商品名「TKホモディスパー」、プライミクス(株)製)を用いて分散処理(回転数7000rpm、30分間)することにより、PEDOT/PSSのエタノール分散体を得た。以下、各実施例におけるアルコール分散体は、同様の方法で都度調製した。
【0091】
調製例2
ビーカーに、前記青色固体を1.2部、エタノールを98.8部、N,N−ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)アルキルアミン(商品名「エソプロポミンC18/18」、ライオン・アクゾ(株)製)を1.8部加え、TKホモディスパーを用いて、同条件で分散処理することにより、PEDOT/PSSのエタノール分散体を得た。以下、各実施例におけるエタノール分散体は、同様の方法で都度調製した。
【0092】
<(1)成分の調製>
実施例1
調製例1のPEDOT/PSSのエタノール分散体に、メタクリル酸2−(ホスホノオキシ)エチル(商品名「ライトエステルP−1M」、共栄社化学(株)製)を、PEDOT/PSSの固形分重量に対して30重量%となる量で添加し、よく撹拌することにより分散体を得た。また、該分散体の固形分濃度は3.9重量%、粒子の平均一次径は25nm、鉄イオンの含有量は8.0ppm、水の含有量は1.5重量%であった。該分散体においては、3日後に不溶物が若干発生した(表1で△とした。)
【0093】
実施例2
調製例2の分散体に、ライトエステルP−1Mを、PEDOT/PSSの固形分重量に対して60重量%となる量で添加し、よく撹拌することにより、本発明に係る分散体を得た。また、該分散体の固形分濃度は4.3重量%、粒子の平均一次径は28nm、鉄イオンの含有量は8.0ppm、水の含有量は約1.8重量%であった。該分散体は30日経過後も不溶物の発生がなく、安定であった(表1で○とした。以下、○とするときは同様の意味である。)
【0094】
実施例3〜13、比較例1
表1に示す原料種及び使用量に変更した他は実施例2と同様にして、分散体を調製した。
【0095】
実施例14
ドーパントであるポリスチレンスルホン酸ナトリウム(シグマ−アルドリッチ社製)0.5部の存在下、アニリン(和光純薬(株)製)0.1部をフラスコに取り、10mlの酢酸エチルに溶解させた。次いで、10mlの水に溶解させた重合触媒の過硫酸アンモニウム(APS、和光純薬(株)製)を0.195部、0.1N塩酸を1ml添加した。室温で12時間静置した後、緑色ゲル状物を得た。このゲル状物を、グラスフィルターを用いて減圧下に濾過し、その後エタノール200部を添加し、再度減圧ろ過するという操作を8回繰り返し、固形分が8.1%の湿潤緑色固体15部を得た。次いで、ビーカーにエタノールを45.8部、エソプロポミンC18/18を0.4部添加した後、この湿潤緑色固体15部を加えて、TKホモディスパーで処理し(回転数4000rpm、10分処理)、ポリ(アニリン)/エタノール分散体を得た。また、該分散体の固形分濃度は4.3重量%、粒子の平均一次径は35nm、鉄イオンの含有量は15ppm、水含量は2.0重量%であった。
【0096】
実施例15
市販のポリ(ピロール)水分散体(製品名「PPY−12」、丸菱油化工業(株)製、固形分濃度8%)100部をフラスコにとり、エタノール100部を添加し、撹拌しながら、10%塩酸を0.5ml添加した。30分撹拌した後、1時間放置した。得られたゲル状物を、グラスフィルターを用いて減圧下にろ過し、エタノール200部を添加し、再度減圧下にろ過するという操作を8回繰り返すことで、固形分7.8%の湿潤黒色固体15部を得た。次いで、ビーカーにエタノールを45部、エソプロポミンC18/18を0.4部添加し、湿潤黒色固体15部を加えて、TKホモディスパーで処理し(回転数4000rpm、10分処理)、ポリ(ピロール)のエタノール分散体を得た。また、該分散体の固形分濃度は4.3重量%、粒子の平均一次径は45nm、鉄イオンの含有量は22ppm、水含量は2.1重量%であった。
【0097】
実施例16〜18
表1で示す原料種及び使用量に変更した他は実施例2と同様にして、分散体を調製した。
【0098】
比較例1
表1で示す原料種及び使用量に変更した他は実施例2と同様にして、分散体を調製した。但し、(C)成分は使用しなかった。
【0099】
比較例2
表1で示す原料種及び使用量に変更した他は実施例14と同様にして、分散体を調製した。但し、(C)成分は使用しなかった。
【0100】
比較例3
表1で示す原料種及び使用量に変更した他は実施例15と同様にして、分散体を調製した。但し、(C)成分は使用しなかった。
【0101】
【表1】

【0102】
表1中の記号は以下の通りである。
PEDOT:ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)
PSS:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩
PANI:ポリアニリン
PPY:ポリピロール
P−1M:メタクリル酸2−(ホスホノオキシ)エチル(共栄社化学(株)製)
EDTA−4Na:エチレンジアミン四酢酸飽和ナトリウム塩(キレスト(株)製)
HEDNTA:ヒドロキシエチルエチレンジニトリロ三酢酸(キレスト(株)製)
DHEG:ジヒドロキシエチルグリシン(キレスト(株)製)
AP−1:リン酸メチル(大八化学工業(株)製)
MP−4:リン酸モノブチル(大八化学工業(株)製)
MS−1:ポリp−ビニルフェノール(製品名「マルカリンカーMS−1」、丸善石油化学(株)製)
PH−320:ホスホン酸(製品名「キレストPH−320」、キレスト(株)製)
EPAM:N,N−ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)アルキルアミン(商品名「エソプロポミンC18/18」、ライオン・アクゾ(株)製)
EtOH:エタノール
IPA:イソプロパノール
【0103】
<導電性組成物の調製>
実施例19
(1)成分として実施例1の分散体を20部、(2−2)成分としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(製品名「ビームセット740」、荒川化学工業(株)製)を100部、光重合開始剤(製品名「イルガキュアー184」、チバジャパン(株)製)を5部、エタノールを43.3部、メチルエチルケトンを43.3部、ビーカーに入れ、撹拌することによって、導電性組成物(固形分1重量%)を得た。他の実施例および比較例の分散体についても同様にして導電性組成物(固形分50重量%)を調製した。
【0104】
実施例20〜36
用いる(1)成分を表1に示すものに変えた他は実施例19と同様にして、導電性組成物(固形分50重量%)を調製した。
【0105】
実施例37
(1)成分として実施例2の分散体を20部、(3)成分として2−エチルヘキシルオキセタン(製品名「OXT−212」、東亞合成(株)製)を100部、カチオン重合触媒としてヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(製品名「ロードシル2074」、ローディア社製)を5部、エタノールを43.3部、メチルエチルケトンを43.3部、ビーカーに入れ、撹拌することによって、導電性組成物(固形分50重量%)を得た。
【0106】
比較例4〜6
用いる(1)成分を表1に示すものに変えた他は実施例20と同様にして、導電性組成物(固形分50重量%)を調製した。
【0107】
<導電性皮膜の作製>
実施例20に係る導電性組成物を、トリアセチルセルロースフィルム上に、#12バーコーターを用いて塗布し(計算値:膜厚4.8μm)、80℃で2分乾燥させた。次いで、これを紫外線照射装置(アイグラフィックス(株)製、光量120mJ/cm、皮膜から光源までの距離10cm、パス速度10m/min)に通し、導電性皮膜を作製した。実施例21〜38、および比較例4〜6に係る導電性組成物についても同様にした。
【0108】
(導電性の評価)
導電性皮膜を作製した直後の表面抵抗値と、超促進耐候性試験機(製品名「スーパーUVテスター」、岩崎電気(株)製)で試験(55mW/cm×4時間)した後の表面抵抗値(Ω/□)とを、いずれも大気中(25℃)で測定した。表2に各測定値および変化率(=試験後表面抵抗値/直後表面抵抗値)を示した。
【0109】
【表2】

【0110】
<(2−1)成分の合成>
合成例1
撹拌装置、冷却管、滴下ロート及び窒素導入管を備えた反応装置に、グリシジルメタアクリレート175部、メタクリル酸メチル75部、ラウリルメルカプタン1.3部、メチルイソブチルケトン1000部及び2,2´−アゾビスイソブチロニトリル7.5部を仕込んだ後、窒素気流下に約1時間かけて系内温度が約85℃になるまで昇温し、1時間保温した。次いで、グリシジルメタアクリレート525部、メタクリル酸メチル225部、ラウリルメルカプタン3.7部及び2,2´−アゾビスイソブチロニトリル22.5部からなる混合液をあらかじめ仕込んだ滴下ロートより、当該混合液を窒素気流下に約2時間を要して系内に滴下し、3時間同温度に保温した後、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル10部を仕込み、1時間保温した。その後、130℃に昇温し、2時間保温した。次いで、反応系を60℃に冷却した後、窒素導入管を空気導入管につけ替え、アクリル酸355部、メトキノン1.8部及びトリフェニルフォスフィン4.8部を仕込み混合した後、空気バブリング下にて、110℃まで昇温した。同温度にて8時間保温後、メトキノン1.3部を仕込み、冷却して、固形分が60%となるようメチルイソブチルケトンを加え、ポリマーの溶液を得た。当該共重合体は、水酸基価が162mgKOH/g、重量平均分子量(GPCによるスチレン換算による)が17,600であった。
【0111】
<導電性組成物の調製>
実施例38
(1)成分として実施例1の分散体を20部、(2−1)成分として合成例1で得たポリマーの溶液を17部、(2−2)成分としてBS740を90部、イルガキュアー184を5部、エタノールを40部、およびメチルエチルケトンを40部、ビーカーに入れ、撹拌することによって活性エネルギー線硬化型導電性組成物(固形分50重量%)を得た。また、他の実施例及び比較例の導電性組成物についても、表3の組成に従い、同様にして導電性組成物(固形分50重量%)を得た。
【0112】
実施例39〜42、比較例7
用いる(1)成分を表3に示すものに変えた他は実施例39と同様にして、導電性組成物(固形分50重量%)を得た。
【0113】
<導電性皮膜の作製>
実施例38に係る導電性組成物を、前記トリアセチルセルロースフィルム上に、#12バーコーターを用いて塗布し(計算値:膜厚4.8μm)、80℃で2分乾燥させた。次いで、前記紫外線照射装置を用い、同じ条件にて導電性皮膜を作製した。実施例39〜42および比較例7についても同様にした。
【0114】
(導電性の評価)
次いで、前記同様に作製直後の皮膜の表面抵抗値と、超促進耐候性試験気機で試験(55mW/cm×4時間)した後の表面抵抗値(Ω/□)とを、いずれも大気中(25℃)で測定した。表3に各測定値および変化率(=試験後表面抵抗値/直後表面抵抗値)を示した。
【0115】
【表3】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子(A)、ドーパント(B)および錯体形成剤(C)が有機溶剤中に分散してなる、導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項2】
導電性高分子(A)が複素環型π共役系高分子および/または非縮合芳香環型π共役系高分子である、請求項1の導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項3】
複素環型π共役系高分子がポリ(チオフェン)類、ポリ(ピロール)類およびポリ(フラン)類からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2の導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項4】
非縮合芳香環型π共役系高分子がポリ(アニリン)類である、請求項2または3の導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項5】
ドーパント(B)がアニオン性ポリマーである、請求項1〜4の導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項6】
アニオン性ポリマーがポリスチレンスルホン酸および/またはその塩である、請求項5の導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項7】
錯体形成剤(C)が、分子内にリン酸基、置換リン酸基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシ基およびフェノール性ヒドロキシ基からなる群より選ばれる官能基を有する多座化合物および/または単座化合物である、請求項1〜6のいずれかの導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項8】
多座化合物が、アミノポリホスホン酸系化合物、脂肪族ヒドロキシカルボン酸系化合物、およびポリビニルフェノール類からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7の導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項9】
単座化合物がリン酸アルキルエステル系化合物である、請求項6の導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項10】
更にアミン系界面活性剤(D)を含有する、請求項1〜9のいずれかの導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項11】
アミン系界面活性剤(D)が、分子内にポリアルキレンオキシド基構造および/またはアルキル基構造を有するものである、請求項10の導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項12】
有機溶剤がアルコール類である、請求項1〜11のいずれかの導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項13】
アルコール類がメタノール、エタノールおよびイソプロピルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項12の導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項14】
導電性高分子(A)およびドーパント(B)を、導電性高分子(A)100重量部(固形分換算)に対してドーパント(B)が200〜3,000重量部(固形分換算)となる範囲で含有する、請求項1〜13のいずれかの導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項15】
錯体形成剤(C)を、導電性高分子(A)およびドーパント(B)の合計100重量部(固形分換算)に対して5〜100重量部の範囲で含有する、請求項1〜14のいずれかの導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項16】
アミン系界面活性剤(D)を、導電性高分子(A)およびドーパント(B)の合計100重量部(固形分換算)に対して5〜300重量部の範囲で含有する、請求項11〜15のいずれかの導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項17】
水を20重量%以下の範囲で含有する、請求項1〜16のいずれかの導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項18】
遷移金属イオンを0.01〜30ppm含有する、請求項17の導電性高分子/ドーパント分散体(1)。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかの導電性高分子/ドーパント分散体(1)、および活性エネルギー線ラジカル重合型化合物(2)を含有する導電性組成物。
【請求項20】
活性エネルギー線ラジカル重合型化合物(2)が、2官能〜6官能の(メタ)アクリレート化合物(2−1)、および/または、分子内に(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体(2−2)である、請求項19の導電性組成物。
【請求項21】
更に光重合開始剤を含有する、請求項19または20の導電性組成物。
【請求項22】
請求項1〜18のいずれかの導電性高分子/ドーパント分散体(1)、および活性エネルギー線カチオン重合型化合物(3)を含有する導電性組成物。
【請求項23】
活性エネルギー線カチオン重合型化合物(3)がオキセタン化合物である、請求項22の導電性組成物。
【請求項24】
さらにカチオン重合触媒を含有する、請求項22または23の導電性組成物。
【請求項25】
請求項19〜24のいずれかの導電性組成物を基材に塗工し、活性エネルギー線で硬化させてなる導電性皮膜。

【公開番号】特開2011−208016(P2011−208016A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77272(P2010−77272)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】