説明

導電用アルミニウム導体材料、アルミニウム電線、および、アルミニウム電線用導体の製造方法

【課題】特に自動車用の信号線などの細線径電線に適した、導電率が30%IACS以上で、かつ、引張強度が350Pa以上のアルミニウム電線用芯線、および、このようなアルミニウム電線用導体を提供する。
【解決手段】銅0.2質量%以上3質量%以下、マグネシウム0.5質量%以上3.5質量%以下、および、亜鉛5質量%以上7.5質量%以下を含み、かつ、残部がアルミニウムと不可避不純物とから構成されている導電用アルミニウム導体材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の信号線などに用いることができるアルミニウム電線用芯線、そのような芯線を可能とする導電用アルミニウム導体材料、および、アルミニウム電線用芯線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の軽量化に貢献し、燃費向上による環境負荷低減が実現可能となるとして、現在、主として銅合金からなる芯線が用いられている細線径の電線、例えば断面積が0.13mm2や0.35mm2の電線分野に応用できる導体が求められている。
【0003】
ここで、アルミニウムは低導電率であるために銅と同じ電流を流すためには導体のサイズ(断面積)を1.6倍にする必要があるが、比重が銅の約1/3であるために、このような太い芯線を用いた場合でも従来の銅電線よりも軽くなるために、現在注目を浴びている。ここで例えば、自動車のワイヤーハーネス中の銅導体全て、一例を挙げると約25kgをアルミニウム導体に置換した場合、約13kgと50%程度の劇的な軽量化効果が得られる。
【0004】
しかしながら、上記のような細線径レベルの銅電線の置換を想定すると、自動車用電線のうちの信号線などに用いられる細線径電線用途において、導電率が30%IACS以上で、かつ、引張強度が350Pa以上の導体を用いることが必要となる。
【0005】
しかし、特開2005−336549公報(特許文献1)などで提案されている方法では、この様な条件が達成されておらず懸案となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−336549公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、特に自動車用の信号線などの細線径電線に適した、導電率が30%IACS以上で、かつ、引張強度が350Pa以上のアルミニウム電線用芯線、および、このようなアルミニウム電線用導体を実現させるための導電用アルミニウム導体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の導電用アルミニウム導体材料は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、銅0.2質量%以上3質量%以下、マグネシウム0.5質量%以上3.5質量%以下、および、亜鉛5質量%以上7.5質量%以下を含み、かつ、残部がアルミニウムと不可避不純物とから構成されて導電用アルミニウム導体材料である。
【0009】
本発明のアルミニウム電線用導体の製造方法は請求項2に記載の通り、請求項1に記載の導電用アルミニウム導体材料からなる荒引線を鋳造する鋳造工程、450℃以上500℃以下の温度で5時間以上10時間以下溶体化処理する溶体化処理工程、5℃/秒以上の冷却速度で冷却する冷却工程、所望の太さまで伸線する伸線工程、および、100℃以上300℃以下で1時間以上50時間以上時効処理を行う時効処理工程をこの順で備えたことを特徴とするアルミニウム電線用導体の製造方法である。
【0010】
本発明のアルミニウム電線は、請求項3に記載の通り、請求項2に記載のアルミニウム電線用導体の製造方法により製造されたアルミニウム電線用導体から構成されていることを特徴とするアルミニウム電線である。
【0011】
また、本発明のアルミニウム電線は請求項4に記載の通り、請求項3に記載のアルミニウム電線において、導体の断面積が、0.05mm2以上2mm2以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の導電用アルミニウム導体材料およびアルミニウム電線用導体の製造方法によれば、導電率が30%IACS以上で、かつ、引張強度が350Pa以上の引張強度を有するアルミニウム電線用導体が実現でき、自動車用電線のうち、特に信号線用途などに好適な軽量な電線が実現可能となり、このとき、10%以上の伸びが可能となり、ワイヤーハーネスに用いられる電線として充分な伸線加工性や取り扱い性が得られる。
【0013】
本発明のアルミニウム電線は、導電率が30%IACS以上で、かつ、引張強度が350Pa以上のアルミニウム電線用導体を用いるのでので、自動車用電線、特に信号線用途などの細線径電線に特に好適なアルミニウム電線用導体である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は実施例で製造された本発明に係るアルミニウム電線用導体の断面を示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の導電用アルミニウム導体材料において、銅0.2質量%以上3質量%以下、マグネシウム0.5質量%以上3.5質量%以下、および、亜鉛5質量%以上7.5質量%以下を含み、かつ、残部がアルミニウムと不可避不純物とから構成されていることが必要であり、これら成分範囲を満足しない場合には、電線芯線としたときに充分な引張強度が得られない。
【0016】
不可避不純物の含有量としては、ケイ素:0.4質量%以下、鉄:0.5質量%以下、マンガン:0.3質量%以下、クロム:0.18質量%〜0.28質量%、チタン:0.2質量%以下、ジルコンとチタンの和が0.25質量%以下、および、その他の成分:0.15質量%以下、とすることが必要である。
【0017】
本発明のアルミニウム電線用導体の製造方法では、まず、上記のような組成となる荒引線を鋳造する(鋳造工程)。鋳造は連続鋳造で行うことができ、熱間延伸により荒引線とする。荒引線の太さは、自由に選択できるが、細線径電線とした場合、直径が0.1mm以上1mm以下とすることが特に好ましい。
【0018】
このような鋳造工程で鋳造された荒引線を450℃以上500℃以下の温度で5時間以上10時間以下溶体化処理(溶体化処理工程)する。具体的には巻き取ったコイル状の荒引線を加熱炉(大気中)内で溶体化処理を行う。
【0019】
このとき、450℃未満の温度であると充分な強度が得られず、また、500℃超の温度であると同様に充分な強度が得られない。また、溶体化処理工程の処理時間が10時間未満であるとやはり充分な強度が得られず、本発明の効果が得られない。
【0020】
ここで溶体化処理の処理時間が10時間以上であれば本発明の効果が得られるが、それを越えてさらに長時間の溶体化処理を行っても長時間の処理に見合った効果は得られないので、通常、8時間程度以下の処理時間とする。
【0021】
上記の溶体化処理工程の後に、5℃/秒以上の冷却速度で冷却する(冷却工程)。このような冷却工程は空気中で放冷することで実現できる。
【0022】
冷却工程後の荒引線を、銅電線と同様に伸線ダイスなどを用いて所望の太さまで伸線する(伸線工程)。次いで、延伸された線材を加熱炉などを用いて100℃以上300℃以下で1時間以上50時間以上、時効処理を行う(時効処理工程)。
【0023】
時効処理の温度が100℃未満、あるいは300℃超であると、充分な強度が得られない。また処理時間が1時間未満、あるいは、50時間を越えて時効処理を行うと充分な強度が得られない。この時効処理工程では、コイル状に巻き取った連続処理、あるいは、バッチ処理が可能である。
【0024】
このような一連の工程を実施することにより、導電率が30%IACS以上で、かつ、引張強度が350Pa以上の引張強度を有するアルミニウム電線用芯線が得られ、必要に応じて数本より合わせて、導体として、オレフィン系樹脂、あるいは、塩化ビニル樹脂などにより絶縁層を、押出し成形などによって形成して絶縁電線とする。
【0025】
本発明に係るアルミニウム電線は、自動車用途、特に、細線径電線用途、特に信号線に好適に用い得る。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の導電用アルミニウム導体材料、および、アルミニウム電線用導体の製造方法の実施例について具体的に説明する。
【0027】
銅、マグネシウム、亜鉛を表1〜表3に示す配合量(質量%)となるようにそれぞれアルミニウムと配合し、連続鋳造し、直径が0.375mmの荒引線を得た。なお、アルミニウム中の不可避不純物とその存在量はケイ素が0.01〜0.05質量%、その他、微量のチタン、ニッケル、マンガン、亜鉛が発光分光分析法によって検出された。
【0028】
この22種類の荒引線を加熱炉により、空気中で475℃で8時間保ち溶体化処理を行った。次いで、空気中で放冷することで5℃/秒の冷却速度で室温まで冷却した(ただし、合金番号17の実施例では水中で20℃/秒の冷却速度で室温まで冷却した)。その後伸線ダイスを用いて直径が0.375mmとなるように伸線し、ボビンにコイル状に巻き取り、加熱炉により空気中で200℃で30時間保つ時効処理をそれぞれ行って芯線を得て、次いでこの芯線を7本撚り合わせて、断面(図1参照)が1.5mm2のアルミニウム電線用導体とした。
【0029】
このようにして得られた26種類のアルミニウム電線用導体をJIS C3002に準拠して導電率(%IACS)、および、引張強度を測定した。結果を併せて表1〜表3に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
表1〜表3により、本発明に係るアルミニウム電線用導体は、導電率が30%IACS以上で、かつ、引張強度が350Pa以上を満足していることが判る。
【符号の説明】
【0034】
1 アルミニウム電線用導体
1a アルミニウム電線用芯線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅0.2質量%以上3質量%以下、マグネシウム0.5質量%以上3.5質量%以下、および、亜鉛5質量%以上7.5質量%以下を含み、かつ、残部がアルミニウムと不可避不純物とから構成されていることを特徴とする導電用アルミニウム導体材料。
【請求項2】
請求項1に記載の導電用アルミニウム導体材料からなる荒引線を鋳造する鋳造工程、450℃以上500℃以下の温度で5時間以上10時間以下溶体化処理する溶体化処理工程、5℃/秒以上の冷却速度で冷却する冷却工程、所望の太さまで伸線する伸線工程、および、100℃以上300℃以下で1時間以上50時間以上時効処理を行う時効処理工程をこの順で備えたことを特徴とするアルミニウム電線用導体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のアルミニウム電線用導体の製造方法により製造されたアルミニウム電線用導体から構成されていることを特徴とするアルミニウム電線。
【請求項4】
前記アルミニウム電線用の断面積が、0.05mm2以上2mm2以下であることを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム電線。

【図1】
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【公開番号】特開2012−132073(P2012−132073A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285702(P2010−285702)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】