説明

導電粒子及び金属ペースト並びに電極

【課題】低抵抗で耐久性に優れた電極膜を製造可能であり、且つ、基板への密着性・追従性に優れた金属ペーストを構成する導電粒子を提供する。
【解決手段】本発明は、電極形成用の導電粒子であって、Pt又はPt合金からなる平均粒径50〜150nmの貴金属粒子と、前記貴金属粒子中に分散するAl又はZrOからなる平均粒径5〜50nmの第1のセラミック粒子と、前記貴金属粒子の外周に結合するAl又はZrOからなる平均粒径5〜50nmの第2のセラミック粒子と、からなる電極形成用の導電粒子である。ここで、第1のセラミック粒子の容積と、第2のセラミック粒子の容積との合計は、導電粒子全体基準で2〜40容積%の割合とするのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー電極、ヒーター電極、リード線電極等の各種の電極を形成するための導電粒子に関し、更に、これを用いた電極形成用の金属ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
酸素センサー、NOxセンサー、排気温度センサー等の各種のガスセンサーのセンサー電極やヒーター電極等の製造においては、基板に導電金属粉末を含む金属ペーストをスクリーン印刷等の各種方法で塗布して焼成して製造するのが一般的である。金属ペーストの形態が多用されるのは、複雑な電極パターンにも対応できることの他、セラミック基板を形成するグリーンシート上に金属ペーストを塗布し焼成することで、基板と電極を同時に製造することができ製造効率の観点からも好ましいからである。
【0003】
電極形成用の金属ペーストとしては、溶剤に、貴金属等の導電粒子とAl、ZrO等のセラミック粉末を混合したものが従来から用いられている。金属ペーストにセラミック粉末を混合するのは、上記のようにグリーンシートに金属ペーストを塗布して焼成して基板と電極を製造する際に、金属ペーストとグリーンシートとの収縮率の差を修正し、収縮率差による基板の反りや変形の問題を解消して、電極の密着性を向上させるためである。また、金属ペーストにセラミック粉末を混合することで、焼成時の導電粒子の過焼結を防止することができるという利点もある。
【0004】
しかし、セラミック粉末は、上記のような電極膜の成形性を確保する一方、製造される電極膜の抵抗値を上昇させ、バルク金属の電極よりもかなり高くする傾向がある。よって、セラミック粉末の使用は、電極の前駆材料としての特性の観点から好ましいものではないが、かといってセラミックを混合しない、或いは、混合量が少なすぎると、電極の形成自体が不可能になるため、やむなくセラミックを混合するというのが実情であった。
【0005】
また、電極形成用の金属ペーストにセラミック粉末を混合する意義としては、電極膜の耐久性確保という側面もある。電極の耐久性は、例えば、ヒーター電極等の高温に晒される電極膜において要求される特性であるが、耐久性に乏しい電極膜は比較的短時間で断線が生じるおそれがある。そして、電極膜の耐久性は、セラミック粉末の混合量を増大することで向上させることができるが、上記の通り、抵抗値低減の観点からはセラミック粉末の混合量を減らしたいという要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3510050号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情を考慮したものであり、低抵抗で耐久性に優れた電極膜を製造可能であり、且つ、基板への密着性・追従性に優れた金属ペーストを構成する導電粒子を提供する。また、かかる導電粒子を利用した金属ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、まず、従来の金属ペーストを電極膜とする際の焼成プロセスを検討した。従来の金属ペーストにあっては、溶剤中で導電粒子とセラミック粒子が個々に分散した状態にあり、これを焼成し導電粒子を焼結・結合させて電極として導通が取れるようにするものであるが、金属ペーストの焼成時には、セラミック粉末の焼結も生じている。ここで、導電粒子(金属)の焼結温度とセラミック粉末の焼結温度との間には温度差があり、導電粒子の焼結温度の方が低いため、焼成過程では導電粒子の焼結が優先的に生じる。そのため、導電粒子近辺の未焼結のセラミック粒子は、先に焼結を開始する導電粒子から押し出されるように集合する。即ち、従来の金属ペーストでは、焼成の過程で導電粒子とセラミック粒子とが不均一に分散した状態が生じる。そして、かかる不均一な分散状態でセラミックの焼結が進行すると、セラミック粒子の粗大化が生じることとなる。
【0009】
本発明者等は、上記のようなセラミック粒子の粗大化が電極膜の抵抗を上昇させる要因と考えた。このようなセラミック粒子の粗大化は、セラミック粉末の混合量を増大させるとより生じやすくなるといえる。もっとも、セラミック粉末は、電極の密着性確保のために必要なものであり、金属ペーストからこれを完全に除外することは好ましい対策とはいえない。そこで、本発明者等は、焼成後もセラミック粒子が微細な状態を有する金属ペーストを見出すべく検討を行った。
【0010】
この検討の結果、まず、金属ペーストの構成として、従来の金属ペーストのように、導電粒子とセラミック粉末とを別々に溶剤に分散させたものではなく、導電粒子にセラミックを結合した状態とし、これを溶剤に分散させることに想到した。そして、導電粒子へのセラミックの結合状態として、導電粒子中に微細なセラミック粒子を分散させることを見出した。
【0011】
上記課題を解決する本願発明は、電極形成用の導電粒子であって、Pt又はPt合金からなる平均粒径50〜150nmの貴金属粒子と、前記貴金属粒子中に分散するAl又はZrOからなる平均粒径5〜50nmの第1のセラミック粒子と、前記貴金属粒子の外周に結合するAl又はZrOからなる平均粒径5〜50nmの第2のセラミック粒子と、からなる電極形成用の導電粒子である。
【0012】
本願発明は、ペースト化の前段階の導電粒子を開示するものであり、貴金属粒子とセラミック粒子とを結合し、貴金属粒子をマトリックスとしてセラミック粒子を分散粒子として分散させたものである。本発明に係る貴金属粒子は、セラミック粒子全体をその内部に完全に閉じ込めた状態である。本発明を適用する金属ペーストにおいては、その焼成過程において、焼結温度の低い貴金属粒子の優先的な焼結が生じるものの、この段階でセラミック粒子の移動はなく、貴金属粒子の焼結の完了までそのままの状態を維持する。従って、貴金属粒子中のセラミック粒子は、電極膜中でも微細な状態となっており、抵抗値上昇の要因となることはない。更に、かかる微細なセラミック粒子は、電極膜の分散強化材としての機能を有し、その耐久性を上昇させることとなる。
【0013】
また、本発明に係る導電粒子は、貴金属粒子内部にセラミック粒子を分散させると共に、貴金属粒子の周囲にセラミック粒子を結合(担持)させたものである。この貴金属粒子の周囲にセラミック粒子を担持させる意義は、導電粒子内部のセラミック量の補完にある。本発明においても、貴金属粒子内部に分散するセラミック粒子は、従来技術と同様、基板との密着性の向上等の機能を有する。もっとも、微細な貴金属粒子の内部に上記作用を十分発揮させるだけのセラミック粒子を含有させるのは困難であり、そのままでは電極の形成が困難となる可能性がある。そこで、貴金属粒子の周囲にセラミック粒子を補完的に結合させることで成形性確保のために十分な量のセラミック粒子を確保することができる。この貴金属粒子の周囲にセラミック粒子は、貴金属粒子と結合状態にあることから、金属ペーストの焼成過程でも貴金属粒子と共に移動することができる。そのため、従来技術のような個別に分散するセラミック粒子が焼結して粗大化するおそれはない。本発明では、多少の焼結は生じるものの抵抗値を過度に上昇させるほどの粗大化は生じ難い。
【0014】
以上のように、本発明に係る導電粒子は、貴金属粒子内部にセラミック粒子を分散させることで、電極膜としたときのセラミック粒子の粗大化を防止し抵抗値を低減しつつ、微細なセラミック粒子の分散強化による耐久性の向上を図る。また、電極膜の成形性確保のために、抵抗値を上昇させない形態でセラミック粒子を補完すべく、貴金属粒子の周囲にセラミック粒子が結合させたものである。
【0015】
以下、本発明についてより詳細に説明する。本願に係る導電粒子において、貴金属粒子は、Pt又はPt合金からなる。これらの金属は導電性が良好であり、また、耐熱性も優れる。各種センサーの中には、自動車の排気センサーのように高温下で使用されるものもあることから、それらの電極材料として好適である。貴金属粒子としてPt、Pt合金のいずれを用いるかは、その用途及び要求される特性により選択できる。PtはPt合金に比して抵抗が低く、センサー電極、リード線電極等の低抵抗化が第1に求められる用途に好適である。一方、Pt合金は、Ptよりも抵抗は高めになるが、抵抗温度係数(TCR)が低くヒーター電極等の用途に好適である。ここで、Pt合金としてPtと合金化する金属としては、Pd、Au、Ag、Rhが好ましい。また、Pdを含むPt−Pd合金は、基板となるセラミックとの相性が良好であり、ペーストとしたときの濡れ性が良好である点からも好ましい。尚、Pt−Pd合金については、Pd含有量が30重量%以下とするのが好ましい。Pd含有量が過大となると、焼成過程でPd酸化物が析出しやすくなり、電極の信頼性を低下させることとなるからである。
【0016】
そして、貴金属粒子の平均粒径は、50〜150nmとする。50nm未満の微細過ぎる粒子は、厚みのある電極膜を製造するのが困難となる。一方、150nmを超える場合、金属ペーストとしたときの分散性が落ちるため好ましくない。
【0017】
貴金属粒子中に分散するセラミック粒子(第1のセラミック粒子)は、Al又はZrOのセラミックからなる。セラミック基板への接合性を考慮したものである。このセラミック粒子は、平均粒径5〜50nmとする。5nm未満の場合、サイズ効果の影響で焼結温度が下がる懸念があるため好ましくなく、50nmを超えるセラミック粒子は貴金属粒子中の分散性が落ち、分散強化が期待できないため好ましくない。
【0018】
一方、貴金属粒子の外周に結合させるセラミック粒子(第2のセラミック粒子)は、貴金属粒子内部に分散するセラミック粒子と同様、Al又はZrOからなり、平均粒径5〜50nmとする。5nm未満では、上記と同様、焼結温度が下がる懸念があるため好ましくない。また、貴金属粒子外周に結合させるセラミック粒子は、分散強化を期待するものではないが、50nmを超えると、焼結による粗大化の影響が懸念されることから好ましくない。
【0019】
尚、いずれの場合も、Alは一般に流通する90重量%以上の純度のものが好ましく、ZrOについては純ジルコニアの他、イットリアやカルシア等の酸化物を数%添加した安定化ジルコニアが適用できる。尚、Al又はZrO以外にも、ハフニュウム、セリウム、チタニウム、タンタル、マグネシウム等の酸化物も本発明のセラミック粒子として作用し得る。但し、材料調達の容易さ、コスト等を考慮すると、Al又はZrOが好ましい。
【0020】
本願発明に係る導電粒子に含まれるセラミック粒子の総量、即ち、貴金属粒子中に分散するセラミック粒子の量と、貴金属粒子周囲に担持されたセラミック粒子の量との合計は、導電粒子全体基準で2〜40容積%となっていることが好ましい。2容積%未満ではセラミック粒子適用の理由である基板への密着性の確保等が困難となり、金属ペースト焼成の際に基板からの剥離や変形が生じ易くなるからである。また、40容積%を超える場合、本願発明のセラミック粒子粗大化抑制の効果を考慮しても、電極膜の抵抗が過大となり導電性が得られなくなるからである。尚、このセラミック粒子総量の好ましい範囲は、5.0〜35容積%である。
【0021】
尚、貴金属粒子中に分散するセラミック粒子の量は、導電粒子全体基準で0.5〜15容積%とするのが好ましい。0.5容積%未満では、焼成後の電極膜中の分散度合いが低く耐久性向上の効果が十分発揮できない。また、15容積%を超えると抵抗が高くなるからである。この貴金属粒子中に分散するセラミック粒子のより好ましい量は、1.0〜12容積%である。
【0022】
次に、本願に係る導電粒子の製造方法について説明する。本願に係る導電粒子は、貴金属をマトリックスとしてセラミック、即ち、金属酸化物が分散する構成を有する。このような酸化物が分散する金属材料の製造方法としては、内部酸化法が一般に知られているが、本発明のように貴金属の微粒子をマトリックスとして酸化物を分散させるには内部酸化法は適用できない。内部酸化法は、マトリックスとなる金属と、分散させる酸化物の金属源となる金属との合金を酸化雰囲気中で加熱する方法であるが、かかる手法を本発明のような微粒子に関した場合、酸化物が粉末表面に偏析・析出し、粉末内部に分散した状態を保持し難い。
【0023】
本発明者等は、貴金属粒子と、貴金属粒子の少なくとも一部を覆うシェル状セラミックとからなるコア/シェル構造を有する複合粒子を製造し、これを熱処理することで、複合粒子の貴金属粒子どうしの結合が生じ、同時にシェル状セラミックが貴金属粒子中に微細に侵入・分散することを見出した。そして、この現象を利用し本願に係る導電粒子の製造方法を見出した。即ち、本願に係る導電粒子の製造方法は、Pt又はPt合金からなる貴金属粒子と、前記貴金属粒子の少なくとも一部を覆うAl又はZrOを含むシェル状セラミックとからなるコア/シェル構造を有する複合粒子を製造した後、前記複合粒子を650〜1200℃に加熱する導電粒子の製造方法である。
【0024】
ここで、本願に係る導電粒子の前駆体であるコア/シェル構造を有する複合粒子は、その平均粒径が30〜100nmであるものが好ましい。分散粒子形成のための熱処理は、貴金属粒子の結合・造粒を生じさせるものであり、製造される導電粒子の粒径を適正範囲にするためである。また、複合粒子のシェル状セラミックの量は、複合粒子全体基準で2〜40容積%の割合で貴金属粒子を被覆するものが好ましい。これも、製造される導電粒子中のセラミック量を適正範囲にするためである。
【0025】
コア/シェル構造を有する複合粒子の製造は、高温雰囲気内における気相反応を利用することができる。この方法は、貴金属粒子となる金属・合金の粉末と、シェルとなるセラミック粉末とを混合し、この混合粉末を両成分の沸点以上の高温雰囲気中に放出し、冷却して生成した微粉末を回収するものである。このとき、原料となる粉末を放出する高温雰囲気は、プラズマ雰囲気によるのが好ましい。また、セラミック量は、複合粒子製造の段階における混合粉末中の比率調整により設定可能である。
【0026】
複合粒子の熱処理温度として、650〜1200℃とするのは、650℃未満では、貴金属粒子の結合が生じ難く、結果として導電粒子を製造できないからである。また、1200℃を超えると導電粒子が粗大となるため好ましくないからである。尚、この熱処理は、加熱時間としては、0.5〜10.0時間にするのが好ましい。
【0027】
そして、本発明に係る導電粒子を適用した金属ペーストは、この導電粒子と溶剤とを混合してなるものである。本発明においては、従来の金属ペーストの構成として必須のセラミック粉末(フリット)の混合は必須ではない。本発明で金属ペースト製造に適用可能な溶剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、ケロシン、パラフィン、トルエン、シクロヘキサノン、γ―ブチロラクトン、メチルエチルケトン、N‐メチルピロリドン、N‐ジメチルホルムアミド、N‐メチルアセトアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、ブチルカルビトール、テレピン油、α―テルピネオール、タービネオール等の一般的なものが適用でき、特には、α―テルピネオールのようなものが好適である。
【0028】
導電粒子の混合量は、ペースト全体に対して4.0〜40容積%とするのが好ましい。4.0容積%未満では、電極膜が薄くなりすぎ、40容積%を超えるとペースト化が困難となるからである。
【0029】
また、金属ペーストに粘度やチクソトロピーを持たせるために通常使用されている樹脂を添加しても良い。この樹脂としては、天然樹脂、アミノ系樹脂、アルキド樹脂等が一般的である。特には、エチルセルロースのようなものが好適である。
【0030】
そして、この電極形成用ペーストにより電極を製造する場合、焼成温度は、1300〜1600℃とするのが好ましい。十分に焼結して抵抗値の低いものが得られるからである。このようにして形成される電極膜は、微細なセラミック粒子(Al粒子、ZrO粒子)が分散した状態となり、具体的には、半数以上のセラミック粒子が300nm以下のものとなっている。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明に係る導電粒子は、金属ペーストに適用し、これを焼成することで、微細なセラミック粒子が分散した低抵抗かつ耐久性に優れた電極膜を形成することができる。本願発明に係る金属ペーストは、厚膜・薄膜いずれの電極膜にも対応可能であり、また、低抵抗化により従来と同じ耐久性の電極膜についての薄膜化が可能となるため、Pt等の貴金属使用量の低減、電子機器のコストダウンにも繋がる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
第1実施形態:以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、Ptを貴金属粒子とし、セラミック粒子としてAlが分散・担持された導電粒子を製造し、これを金属ペーストとして焼成した電極の抵抗値を測定した。また、電極膜の耐久性も評価した。
【0033】
(A)導電粒子の製造
(i)複合粒子の製造
平均粒径10nmのPt粉末と、平均粒径10nmのAl粉末とを、V型混合機で混合して均一な混合粉末を用意した(混合粉末全体に対するセラミック量15容積%)。このときの混合比は、複合粒子粉末のAlシェルの添加量に相当する。そして、これを高周波誘導熱プラズマ装置にてアルゴン雰囲気でプラズマ雰囲気中に放出した。発生した微粉末をフィルターにて回収した。以上の工程により、Ptを貴金属粒子とし、Alをシェルとするコア/シェル構造の複合粒子粉末を得た。このとき複合粒子粉末について、TEM写真から粒子の寸法(最大寸法)を読み取ったところ、貴金属粒子の粒径は25nmであり、複合粒子全体の粒径は30nmであった。
【0034】
(ii)導電粒子の製造(熱処理)
上記で製造したコア/シェル構造の複合粒子粉末を熱処理して導電粒子を製造した。熱処理温度を950℃とし、熱処理時間を1時間とした。この熱処理により、Pt粒子中にAl粒子が分散すると共に、Pt粒子外周にAl粒子が担持された導電粒子が製造された。この導電粒子について、SEMにより断面観察を行ったところ、Pt粒子の平均粒径としては100nm、Pt粒子外周のAl粒子の平均粒径として25nm、Pt粒子内部に分散するAl粒子の平均粒径として15nmと算出された。また、断面の面積換算からPt粒子中に分散するAl粒子の含有量は、1.5容積%と算出された。
【0035】
(B)電極形成用ペーストの作製
上記で製造した導電粒子を、有機溶剤であるエステルアルコールに投入し、更に、ジアミン系界面活性剤及びエチルセルロースを混合して、3本ロールミルにて混合・混練してペースト化した。導電粒子の混合量は、25容積%とした。
【0036】
(C)電極の作製
上記で製造した金属ペーストを、99重量%アルミナグリーンシート上にスクリーン印刷にて塗布形成した。その後80℃で20分乾燥し、1500℃で1時間焼成処理し、電極膜を作製した(膜厚15μm)。
【0037】
また、上記に加えて、セラミック量を変更して導電粒子を製造して電極膜を製造した。導電粒子の製造方法としては、基本的に上記と同様であり、Pt粉末と共に混合するAl粉末の量を変更して気相反応法にて複合粒子粉末を得た。そして、この複合粒子粉末を熱処理して導電粒子を製造した。そして、上記と同様にして金属ペーストを製造し、電極を作製した。
【0038】
更に、従来の金属ペーストとして、Pt粉末とセラミック粉末とを別々に混合したものを製造した(従来例1〜3)。Pt粉末として粒径0.7μmのPt粉末と、セラミック粉末として粒径0.3μmのAl粉末を用い、その他の溶剤等は上記と同様にしてセラミック混合を変更しつつ金属ペーストを製造し、電極を作製した。
【0039】
以上の工程で製造した電極膜について、その抵抗値をデジタルマルチメーターを用い4端子法にて測定した。また、電極の耐久性を評価するための耐久試験を行った。耐久試験は基板上の電極に通電して基板を1200℃まで発熱させ、断線が生じるまでの時間を計測することで行った。これらの試験結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表から、各実施例に係る導電粒子を適用した金属ペーストにより作製される電極膜は、従来の金属ペーストから製造されるものに対し、セラミック量を同じくした場合、高温耐久性の著しい改善がみられ、従来技術に対し数倍の耐久時間を示すことがわかる。このことは、耐久性を基準にセラミック量を規定する場合、例えば、従来は40容積%のセラミックが必要であったもの(従来例3)を、セラミック量を5容積%に低減したもの(実施例1)に替えても、十分な耐久性を示し、さらに抵抗値も低くなることを意味する。
【0042】
第2実施形態:ここでは、貴金属粒子としてPt−Pd合金(Pd25重量%)を適用する導電粒子を製造した。製造方法としては、基本的に第1実施形態と同様であり、原料粉末としてPt粉末をPt−Pd合金粉末(平均粒径10nm)に変えて、その他は第1実施形態と同様にして気相反応法にて、Pt−Pd合金を貴金属粒子とし、Alをシェルとするコア/シェル構造の複合粒子粉末を得た。そして、この複合粒子粉末を熱処理して導電粒子を製造した(熱処理温度を950℃、熱処理時間を1時間)。この熱処理により、Pt−Pd粒子を貴金属粒子とし、その内部及び外周にAl粒子が分散・担持された導電粒子を製造した。そして、これらの導電粒子を用いて、第1実施形態と同様にして金属ペーストを製造し、電極を作製した(電極膜の膜厚:15μm)。また、これらと対比するため、従来の金属ペーストとしてPt−Pd合金粉末とセラミック粉末とを別々に混合したものを製造した(従来例4)。そして、各電極膜についての抵抗値測定、耐久試験を行った。この試験結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2から、貴金属粒子をPt−Pd合金としても、抵抗値低減と耐久性向上の効果について第1実施形態と同様の傾向があることがわかる。
【0045】
第3実施形態:ここでは、第1実施形態の導電粒子について、セラミック粒子としてZrO(YSZ)を適用したものを製造した。この製造方法は、基本的に第1実施形態と同様の条件を適用し、Pt粉末とZrO(YSZ)粉末との混合粉末をプラズマ気相中に放出してコア/シェル構造の複合粒子粉末を製造した。そして、第1実施形態と同様の熱処理を施し、導電粒子を製造した。そして、金属ペーストを製造して、ジルコニアグリーンシートに塗布・焼成して電極膜とし、その抵抗値測定を行った。また、比較として、Pt粉末とZrO(YSZ)粉末とを別々に混合した金属ペーストの電極膜の特性も評価した(従来例5、6)。その結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
表からわかるように、セラミック粒子をZrO(YSZ)とした導電粒子についても、従来例の金属ペーストに対して耐久性の向上が認められた。
【0048】
第4実施形態:ここでは、導電粒子のセラミック量(総量)について、その下限値を明確にする検討を行った。導電粒子の製造は、第1実施形態と同様であり、セラミック量は、混合粉末中のAl粉末の量を調整することにより行なった。そして、第1実施形態と同様に導電粒子、金属ペーストを製造して、アルミナシートに、0.5×20mm(1mm間隔で3本)、0.1×5.0mm(0.1から0.5mm間隔で11本)、5×5mmの3種のパターンで塗布・焼成した。焼成後、電極膜の剥がれ、反りの有無を目視にて確認した。この結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
表4から、セラミック量が少ない場合、焼成後に剥がれや変形が生じやすくなることがわかる。そして、実用上で許容されるセラミック量としては、2容積%が下限であることが確認できる。尚、上記結果は、セラミックとしてAlを適用したものであるが、ZrOを用いた場合においても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、低抵抗の電極を形成可能な電極形成用ペーストを提供することができる。また、本発明により製造される電極は、耐久性にも優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極形成用の導電粒子であって、
Pt又はPt合金からなる平均粒径50〜150nmの貴金属粒子と、
前記貴金属粒子中に分散するAl又はZrOからなる平均粒径5〜50nmの第1のセラミック粒子と、
前記貴金属粒子の外周に結合するAl又はZrOからなる平均粒径5〜50nmの第2のセラミック粒子と、からなる電極形成用の導電粒子。
【請求項2】
第1のセラミック粒子の容積と、第2のセラミック粒子の容積との合計が、導電粒子全体基準で2〜40容積%の割合である請求項1記載の電極形成用の導電粒子。
【請求項3】
第1のセラミック粒子は、導電粒子全体基準で0.5〜15容積%の割合で貴金属粒子中に分散する請求項1又は請求項2記載の電極形成用の導電粒子。
【請求項4】
貴金属粒子は、Ptである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電極形成用の導電粒子。
【請求項5】
貴金属粒子は、30重量%以下のPdを含むPt−Pd合金である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電極形成用の導電粒子。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電極形成用の導電粒子の製造方法であって、
Pt又はPt合金からなる貴金属粒子と、前記貴金属粒子の少なくとも一部を覆うAl又はZrOからなるシェル状セラミックと、からなるコア/シェル構造を有する複合粒子を製造し、
前記複合粒子を650〜1200℃に加熱する、導電粒子の製造方法。
【請求項7】
複合粒子の平均粒径は、30〜100nmである請求項6記載の導電粒子の製造方法。
【請求項8】
シェル状セラミックは、複合粒子全体基準で2〜40容積%の割合で貴金属粒子を被覆するものである請求項6又は請求項7に記載の電極形成用の導電粒子の製造方法。
【請求項9】
電極形成用の金属ペーストにおいて、
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電極形成用の導電粒子と溶剤とからなることを特徴とする金属ペースト。
【請求項10】
導電粒子の混合量は、ペースト全体に対して4〜40容積%である請求項9記載の電極形成用ペースト。
【請求項11】
請求項9又は請求項10記載の電極形成用ペーストを焼成してなる電極。

【公開番号】特開2013−73713(P2013−73713A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210381(P2011−210381)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【特許番号】特許第5140187号(P5140187)
【特許公報発行日】平成25年2月6日(2013.2.6)
【出願人】(509352945)田中貴金属工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】