説明

導電糸及びその製造方法

【課題】工程数が少なくて生産性に優れ、糸が導電性に優れていて十分な帯電防止性能が得られると共に電圧を印加した状態下での耐久性試験後でも十分な帯電防止性能が維持され、且つ染色による色表現が可能な耐久性に優れた導電糸を製造する方法を提供する。
【解決手段】ドーパント、酸化剤、バインダー樹脂及び架橋剤を含有してなる水性処理液を、糸の少なくとも表面に付着せしめる付着工程と、前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されてなる導電糸を得る重合工程と、を含む製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止のために導電性高分子であるポリピロールを付与せしめてなる導電糸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、精密電子部品等を取り扱うクリーンルーム内においては、半導体等の精密電子部品に粉塵が付着するのを防止するためにワイピングクロスを用いて各種物品等を拭いて清浄に保つことが多く行われている。ワイピングクロスは、一般にポリエステル等の電気を通さない素材でできているために、拭き取りの際の摩擦によって静電気が蓄積される。この蓄積された静電気が僅かでも放電されると、半導体等の精密電子部品は破壊され易いことから、このような用途で使用されるワイピングクロスとしては帯電防止性に優れていることが強く求められている。
【0003】
そこで、ワイピングクロスとして、繊維シート(織物、編物、不織布等)に導電性高分子であるポリピロールを被覆してなる導電性繊維シートを用いることが提案されている(特許文献1、2参照)。この導電性繊維シートでは、繊維シートをポリピロールで被覆した後、バインダー樹脂で処理することによってポリピロールをバインダー樹脂で繊維シートに接着せしめ、このバインダー樹脂を用いた接着によってポリピロールの脱落を防止して低発塵性を確保している。
【0004】
一方、糸に対して低発塵性及び帯電防止性(導電性)を具備させる技術としては、ドーパント、酸化剤及びバインダー樹脂を含有してなる水性処理液を、糸の少なくとも表面に付着せしめた後、前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されてなる導電糸を得る製造方法が公知である(特許文献3参照)。この製造方法により十分な帯電防止性能を備えた導電糸が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−169823号公報
【特許文献2】特開2007−169824号公報
【特許文献3】特開2009−155765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献3に記載の製造方法で得られた導電糸は、低発塵性である上に高導電性で十分な帯電防止性能を備えている一方で、電圧が印加された状態下での耐久性試験においては必ずしも初期の優れた導電性がそのまま維持されるものではなかった。
【0007】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、工程数が少なくて生産性に優れ、糸が導電性に優れていて十分な帯電防止性能が得られると共に電圧を印加した状態下での耐久性試験後でも十分な帯電防止性能が維持され、且つ染色による色表現が可能な耐久性に優れた導電糸を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1]ドーパント、酸化剤、バインダー樹脂及び架橋剤を含有してなる水性処理液を、糸の少なくとも表面に付着せしめる付着工程と、
前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されてなる導電糸を得る重合工程と、を含むことを特徴とする導電糸の製造方法。
【0010】
[2]前記水性処理液における、ドーパントの含有率が0.1質量%〜50質量%、酸化剤の含有率が0.1質量%〜40質量%、バインダー樹脂の含有率が0.01質量%〜3.0質量%、架橋剤の含有率が0.1質量%〜10質量%である前項1に記載の導電糸の製造方法。
【0011】
[3]前記付着工程において、前記水性処理液をロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布することによって、糸100質量部に対して水性処理液の固形分を0.2質量部〜20質量部付着せしめる前項1または2に記載の導電糸の製造方法。
【0012】
[4]前記重合工程において、前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸100質量部に対してポリピロールを0.2質量部〜7質量部の割合で付着せしめる前項1〜3のいずれか1項に記載の導電糸の製造方法。
【0013】
[5]前記ドーパントとして芳香族スルホン酸を用い、前記酸化剤として過硫酸塩を用いることを特徴とする前項1〜4のいずれか1項に記載の導電糸の製造方法。
【0014】
[6]前記架橋剤としてメラミン樹脂を用いることを特徴とする前項1〜5のいずれか1項に記載の導電糸の製造方法。
【0015】
[7]前記糸として、構成繊維として少なくともセルロース系繊維を含む糸を用いることを特徴とする前項1〜6のいずれか1項に記載の導電糸の製造方法。
【0016】
[8]前記セルロース系繊維がレーヨン繊維である前項7に記載の導電糸の製造方法。
【0017】
[9]前項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法で製造された表面抵抗率が1×1010Ω/□未満である導電糸。
【0018】
[10]前項9に記載の導電糸を用いて製作された導電布帛。
【発明の効果】
【0019】
[1]の発明では、「糸へのドーパントと酸化剤の付着」及び「糸へのバインダー樹脂の付着」を同時に(即ち1つの工程で)行うので、工程数を低減できて生産性を向上させることができる。また、糸の表面の少なくとも一部をポリピロールで被覆していることで、良好な導電性が得られる。また、バインダー樹脂でもってポリピロールを糸に強く接着できるので、ポリピロールの脱落を十分に防止できて発塵の少ないものとなし得る。また、水性処理液は架橋剤を含有するので、得られる導電糸は、電圧を印加した状態下での耐久性試験においても初期の優れた導電性が低下することがなく維持され得るという効果を奏するものとなる。更に、本発明の製造方法で製造された導電糸は、後染め及び先染めのいずれの場合においても染色による色表現を実現できる。本発明の製造方法によれば、表面抵抗率が1010Ω/□未満である導電性に優れた導電糸を製造することが可能である。
【0020】
[2]の発明では、水性処理液における、ドーパントの含有率が0.1質量%〜50質量%、酸化剤の含有率が0.1質量%〜40質量%、バインダー樹脂の含有率が0.01質量%〜3.0質量%、架橋剤の含有率が0.1質量%〜10質量%であるから、ポリピロールの生成効率を高く維持しつつポリピロールを糸に十分に接着させることができると共に、得られる導電糸は電圧を印加した状態下での耐久性試験においても初期の優れた導電性が低下することなく十分に維持され得る。
【0021】
[3]の発明では、付着工程において、水性処理液をロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布することによって、糸100質量部に対して水性処理液の固形分を0.2質量部〜20質量部付着せしめるので、導電糸の柔らかさをより向上させることができる。
【0022】
[4]の発明では、重合工程において、水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって糸100質量部に対してポリピロールを0.2質量部〜7質量部の割合で付着せしめるので、十分な導電性を確保しつつ、糸の柔らかさをより向上させることができる。
【0023】
[5]の発明では、水性処理液においてドーパントとしての芳香族スルホン酸と酸化剤としての過硫酸塩の組み合わせは、酸性領域からアルカリ性領域までより広いpH範囲において液安定性が良好になるので、ポリピロールの被覆量がより均一な導電糸を製造できる。
【0024】
[6]の発明では、架橋剤としてメラミン樹脂を用いるので、得られる導電糸は、電圧を印加した状態下での耐久性試験においても初期の優れた導電性が低下することなく十分に維持され得るという効果を奏する。
【0025】
[7]の発明では、糸として、構成繊維として少なくともセルロース系繊維を含む糸を用いるから、電圧を印加した状態下での耐久性試験において初期の優れた導電性が低下することなくより十分に維持され得る。
【0026】
[8]の発明では、セルロース系繊維がレーヨン繊維であるから、電圧を印加した状態下での耐久性試験において初期の優れた導電性が低下することなく更に十分に維持され得る。
【0027】
[9]の発明では、表面抵抗率が1×1010Ω/□未満であるから、十分な帯電防止性能を備えた導電糸となる。また、この導電糸は、電圧を印加した状態下での耐久性試験を行っても十分な帯電防止性能が維持され得る。また、この導電糸は、染色による色表現を行うことができるので、例えば意匠性に優れた低発塵性導電布帛を提供できる。
【0028】
[10]の発明では、低発塵性であって十分な帯電防止性能及び帯電防止の十分な耐久性を備えると共に風合いに優れた布帛の提供が可能となる。また、染色による色表現を行うことが可能であるから、布帛としての意匠性を十分に向上できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】導電糸の1000V耐久性試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る導電糸の製造方法は、ドーパント、酸化剤、バインダー樹脂及び架橋剤を含有してなる水性処理液を、糸の少なくとも表面に付着せしめる付着工程と、前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されてなる導電糸を得る重合工程と、を含むことを特徴とする。
【0031】
前記付着工程では、ドーパント、酸化剤、バインダー樹脂及び架橋剤を含有してなる水性処理液を、糸の少なくとも表面に付着せしめる。このように「糸へのドーパントと酸化剤の付着」及び「糸へのバインダー樹脂の付着」を同時に行うので、工程数を低減できて生産性を向上させることができる。
【0032】
前記糸(原料糸)の素材としては、特に限定されるものではないが、例えば、セルロース系繊維等の半合成繊維の他、綿等の天然繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維等の合成繊維等が挙げられ、勿論これらの複合糸を用いても良い。中でも、前記糸(原料糸)としては、構成繊維として少なくともセルロース系繊維を含む糸を用いるのが好ましい。前記セルロース系繊維としては、例えば、レーヨン繊維、キュプラ繊維等が挙げられる。また、前記糸としては、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸であっても良いし、紡績糸であっても良い。更に、前記糸としては、原着糸を用いることもできる。
【0033】
前記水性処理液としては、特に限定されるものではないが、ドーパント、酸化剤及び架橋剤が水に溶解し、バインダー樹脂(分散質)が分散媒である水とエマルジョンを形成してなる水性エマルジョン液が好ましく用いられる。
【0034】
前記ドーパントは、ポリピロールの導電性を向上させるための物質であり、特に限定されるものではないが、例えばパラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、スルホン化ポリスチレン等の芳香族スルホン酸などが挙げられる。
【0035】
前記酸化剤は、ピロールモノマーを酸化重合させるための物質であり、特に限定されるものではないが、例えば過硫酸アンモニウム、塩化鉄(3価)、硫酸鉄(3価)、過酸化水素、過ホウ酸アンモニウム、塩化銅(2価)等が挙げられる。また、ドーパントとして使用されるスルホン酸の第2鉄塩(例えばパラトルエンスルホン酸の第2鉄塩)も酸化剤として使用できる。
【0036】
前記バインダー樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビニル系樹脂(塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニリデン等)、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、或いはこれらの変性樹脂等が挙げられる。
【0037】
前記架橋剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、メラミン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤等が挙げられる。前記メラミン系架橋剤としては、例えば、メラミン、メラミン樹脂等が挙げられ、前記エポキシ系架橋剤としては、例えば、エポキシ、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0038】
前記エポキシ系架橋剤の市販品としては、例えば、ナガセ株式会社製「デナコールEX614B」を例示できる。前記カルボジイミド系架橋剤の市販品としては、例えば、日清紡株式会社製「カルボジライトE02」を例示できる。前記オキサゾリン系架橋剤の市販品としては、例えば、日本触媒株式会社製「エポクロスWS700」を例示できる。
【0039】
前記水性処理液において、ドーパントの含有率は0.1質量%〜50質量%、酸化剤の含有率は0.1質量%〜40質量%、バインダー樹脂の含有率は0.01質量%〜3.0質量%、架橋剤の含有率は0.1質量%〜10質量%に設定するのが好ましい。このような含有率範囲に設定することにより、後の重合工程において、ポリピロールの生成効率を高く維持し、且つポリピロールを糸に十分に接着させることができると共に、得られる導電糸は電圧を印加した状態下での耐久性試験においても初期の優れた導電性が低下することがなく十分な帯電防止性能が維持され得る。
【0040】
前記水性処理液を糸の少なくとも表面に付着せしめる手法としては、特に限定されるものではないが、例えばロールコーターによる塗布、スプレー塗布等が挙げられる。中でも、前記水性処理液をロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布することによって、糸100質量部に対して水性処理液の固形分(ドーパント、酸化剤、バインダー樹脂及び架橋剤)を0.2質量部〜20質量部付着せしめるのが好ましい。ロールコーターを用いることで、より少量の固形分を均一に且つ糸の表面領域に選択的に付着せしめることができるので、導電糸の柔らかさを十分に確保しつつ、十分な導電性を得ることができる。
【0041】
次に、前記付着工程で得られた、水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させる(重合工程)。これにより、気相状態のピロールモノマーが糸の表面の水性処理液と接触して重合するので、糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されてなる導電糸を得ることができる。例えば、前記水性処理液が付着した糸を反応室に入れた後、反応室内にピロールモノマーの蒸気(気体)を充満させ、この状態で所定時間(例えばピロールモノマーの全量がほぼ反応して重合反応が進行しなくなるまで)放置することによってピロールの気相重合を行い、糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されてなる導電糸を得る。
【0042】
ピロールモノマーの大気圧における沸点は130℃であるが、130℃以下の温度においても飽和蒸気圧に達するまで空気中で気化する。そのため、例えば反応室内に液体ピロールのエバポレータを設置し、気化したピロールと液体ピロールとを平衡状態に維持し、この平衡状態の雰囲気に前記水性処理液が付着した糸を配置する。或いは、液体ピロールを収容したエバポレータを室外に設置し、窒素等の不活性キャリアーガスでバブリングを行うことによって、気化したピロールを不活性キャリアーガスと共に反応室内へ供給するようにしても良い。エバポレータを反応室の内外のいずれに設置する場合でも、エバポレータの液体ピロールの温度は通常5〜100℃に設定するのが良く、中でも20〜50℃に設定するのが好ましい。この重合工程において、ピロールの気相重合反応は、前記水性処理液が付着した糸において酸化剤が消費されるのに伴って、自然に停止する。
【0043】
前記重合工程では、前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって糸100質量部に対してポリピロールを0.2質量部〜7質量部の割合で付着せしめるのが好ましい。0.2質量部以上とすることで表面抵抗率が1010Ω/□未満である導電性に優れた導電糸を得ることができると共に、7質量部以下とすることで糸の柔らかさを十分に確保できる。中でも、糸100質量部に対してポリピロールを0.5質量部〜3質量部の割合で付着せしめるのが特に好ましい。
【0044】
前記ピロールモノマーとしては、特に限定されるものではないが、例えばピロールを単独で用いても良いし、或いはピロール及び該ピロールと共重合可能なピロール誘導体(N−メチルピロール、3−メチルピロール、3,5−ジメチルピロール、2,2’−ビピロール等の1種又は2種以上)の混合モノマーを用いても良い。即ち、ポリピロールとしては、ピロールのホモポリマーであっても良いし、或いはピロールとピロール誘導体との共重合体であっても良い。
【0045】
次に、前記重合工程を経て得られた導電糸を乾燥し、水等で洗浄することによって、残存しているフリーのドーパント等を除去し、次いで乾燥処理することによって、導電糸を得る。
【0046】
本発明の製造方法によれば、糸の表面の少なくとも一部をポリピロールで被覆するので、得られた糸において良好な導電性が確保される。また、水性処理液は架橋剤を含有するので、得られる導電糸は、電圧を印加した状態下での耐久性試験においても初期の優れた導電性が低下することなく維持され得るという効果を奏する。また、バインダー樹脂によりポリピロールを糸に強く接着できるので、ポリピロールの脱落を十分に防止できて発塵の少ない導電糸を製造できる。また、糸として十分な柔らかさを確保できる。このように十分な柔らかさを確保できる理由としては、繊維表面にポリピロールが網目状に薄く均一に形成されているためと推定される。更に、本発明の製造方法で製造された導電糸は、後染め及び先染めのいずれの場合においても染色による色表現を実現できる。このように色表現が可能になったのは、繊維表面にポリピロールが網目状に均一に形成されるので、繊維表面に染料の染着部分が十分に存在するためと推定される。また、本製造方法によれば、表面抵抗率が1×1010Ω/□未満である導電性に優れた導電糸を製造することが十分に可能となる。
【0047】
しかして、本発明の製造方法で製造された導電糸を用いて製作された布帛は、低発塵性であって、十分な帯電防止性能を備え、電圧印加条件下でも帯電防止の十分な耐久性能を備えていると共に、風合いに優れ、染色による色表現を行うことができるから、例えば精密電子部品等を取り扱うクリーンルームにおいて使用されるワイピングクロスとして好適であるが、特にこのような用途に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
360デシテックスのレーヨン繊維製の糸(先染め処理されたもの)の表面に水性処理液をロールコーターを用いて塗布した。前記水性処理液としては、過硫酸アンモニウム(酸化剤)を1質量%、パラトルエンスルホン酸(ドーパント)を1質量%、ポリエステル樹脂(バインダー樹脂)を1質量%、メラミン樹脂(架橋剤、住友化学社製「スミマールM−100」)を3質量%含有した水系エマルジョン液を用いた。なお、この水性処理液では、過硫酸アンモニウム、パラトルエンスルホン酸及びメラミン樹脂は水に溶解する一方、ポリエステル樹脂は、分散質であり、分散媒である水とエマルジョンを形成している。前記ロールコーターによる塗布でレーヨン糸100質量部当たり水性処理液を10質量部付着せしめたので、ポリエステル糸100質量部当たりの水性処理液固形分(過硫酸アンモニウム、パラトルエンスルホン酸、メラミン樹脂及びポリエステル樹脂)の付着量は0.6質量部であった。
【0050】
次に、前記水性処理液が付着したレーヨン糸を反応室に入れた後、反応室内にピロールの蒸気(気体)を充満させ、この状態で10分間放置してピロールの気相重合を行い、レーヨン糸の表面の少なくとも一部にポリピロールを被覆せしめた。しかる後、レーヨン糸を反応室から取り出し、120℃の乾燥機に5分間入れて乾燥を行った後、水洗し、さらに120℃の乾燥機に5分間入れて乾燥させることによって、導電糸を得た。
【0051】
<実施例2>
ロールコーターによる塗布でレーヨン糸100質量部当たり水性処理液を50質量部付着せしめた以外は、実施例1と同様にして導電糸を得た。
【0052】
<実施例3>
ロールコーターによる塗布でレーヨン糸100質量部当たり水性処理液を100質量部付着せしめた以外は、実施例1と同様にして導電糸を得た。
【0053】
<実施例4>
ロールコーターによる塗布でレーヨン糸100質量部当たり水性処理液を5質量部付着せしめた以外は、実施例1と同様にして導電糸を得た。
【0054】
<実施例5>
ロールコーターによる塗布でレーヨン糸100質量部当たり水性処理液を150質量部付着せしめた以外は、実施例1と同様にして導電糸を得た。
【0055】
<実施例6>
水性処理液中のメラミン樹脂(架橋剤)の濃度を1質量%に設定した以外は、実施例2と同様にして導電糸を得た。
【0056】
<実施例7>
水性処理液中のメラミン樹脂(架橋剤)の濃度を8質量%に設定した以外は、実施例2と同様にして導電糸を得た。
【0057】
<実施例8>
架橋剤として、メラミン樹脂に代えてエポキシ樹脂(架橋剤、ナガセケミテックス社製「デナコールEX−811」)を用いた以外は、実施例2と同様にして導電糸を得た。
【0058】
<実施例9>
レーヨン糸(先染め処理されたもの)に代えて、231デシテックス/24fナイロンマルチフィラメント糸(先染め処理されたもの)を用いた以外は、実施例2と同様にして導電糸を得た。
【0059】
<実施例10>
バインダー樹脂として、ポリエステル樹脂に代えて、ウレタン樹脂を用いた以外は、実施例2と同様にして導電糸を得た。
【0060】
<実施例11>
360デシテックスのレーヨン繊維製の糸(先染め処理されたもの)に代えて、360デシテックスのレーヨン繊維製の糸(先染め処理されていないもの)を用いた以外は、実施例2と同様にして導電糸を得た。即ち、この実施例11については、染色による色表現の実現度の評価(後述)は、後染めで行った。
【0061】
<比較例1>
水性処理液として、過硫酸アンモニウム(酸化剤)を1質量%、パラトルエンスルホン酸(ドーパント)を1質量%、ポリエステル樹脂(バインダー樹脂)を1質量%含有した水系エマルジョン液(メラミン樹脂を含有しない)を用いた以外は、実施例2と同様にして導電糸を得た。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
上記のようにして得られた各導電糸について下記評価法に基づいて糸の性能の評価を行った。
【0065】
<表面抵抗率のレベルの評価法>
表面抵抗測定器(四探針法;JIS K7194に準拠)を用いて導電糸の表面抵抗率のレベルを評価した。評価結果の各数値の意味は下記のとおりである。また、導電糸の1000V耐久性試験を行った。即ち、図1に示すように、ポリブチレンテレフタレート(PBT)絶縁板10に立設された2本の金属ネジ11、11間に導電糸1を10回(10往復)巻き付けた状態で金属ネジ11、11間に1000Vの電圧を100時間印加した後に、該電圧印加を解除して前記同様にして導電糸の表面抵抗率のレベルを評価した。
「10以上」…1.0×1010Ω/□以上
「9」…1.0×109Ω/□以上1.0×1010Ω/□未満
「8」…1.0×108Ω/□以上1.0×109Ω/□未満
「7」…1.0×107Ω/□以上1.0×108Ω/□未満
「6」…1.0×106Ω/□以上1.0×107Ω/□未満
「5」…1.0×105Ω/□以上1.0×106Ω/□未満
「4」…1.0×104Ω/□以上1.0×105Ω/□未満
「3」…1.0×103Ω/□以上1.0×104Ω/□未満
「2」…1.0×102Ω/□以上1.0×103Ω/□未満
「1」…1.0×10Ω/□以上1.0×102Ω/□未満。
【0066】
<染色による色表現の実現度の評価法>
住友化学株式会社製の赤色の分散染料「レッドGE(商品名)」を0.5質量%、日本化薬株式会社製「カヤクバッファTRA100(商品名)」(アルカリ剤)を2.0質量%、日華化学株式会社製「ニッカサンソルトKM−1(商品名)」(分散剤)を1.5質量%含有してなる染色液(水溶液)を用いて吸尽法で糸の染色を行った。反応条件は、常温から1℃/分で温度上昇させていき、130℃に達してからこの温度で20分間保持することによって反応を終了させ、しかる後80℃で還元洗浄(RC)を行い、次いで50℃の湯で洗浄を行い、さらに水洗を2回行った後、乾燥させて、染色を完了させた。
【0067】
なお、上記染色は、実施例1〜10と比較例1では先染めで行う(即ち水性処理液で処理する前に染色する)一方、実施例11では後染めで行った(即ちポリピロールを付着せしめた後に染色した)。しかして、染色による色表現の実現度を下記2段階で評価した。
「○」…得られた導電糸に色が表現されていた
「×」…得られた導電糸は黒色で色表現をなし得なかった。
【0068】
<糸の柔らかさ(風合い)評価法>
導電糸に手で触れた際の感触で下記3段階で評価した。
「○」…柔らかさが感じられた
「△」…やや硬さ感があった
「×」…硬さ感があって感触が良くなかった。
【0069】
<摩擦堅牢度評価法>
JIS L0949−2004のII型(グレースケール判定)に準拠して導電糸の摩擦堅牢度を評価した。摩擦堅牢度の「級」の数値が大きい程、耐摩擦性に優れていることを示す。
【0070】
表から明らかなように、本発明の製造方法で製造された実施例1〜11の導電糸は、表面抵抗率が小さくて導電性に優れていると共に、柔らかさがあって風合いが良く、また染色による色表現を実現することができた。また、電圧を印加した状態下での耐久性試験においても初期の優れた導電性が低下することなく維持されていた。更に、摩擦堅牢度も良好であり十分な耐久性も具備していた。
【0071】
また、本発明の製造方法によれば、先染め(実施例1〜10)及び後染め(実施例11)のいずれの場合においても、染色による色表現を実現することができた。
【0072】
これに対し、比較例1の導電糸は、電圧を印加した状態下での耐久性試験後において導電性が低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製造方法で製造された導電糸は、低発塵性であって十分な帯電防止性能及び帯電防止の十分な耐久性を備えていると共に、柔らかさを有し、かつ染色による色表現を行うことができるので、例えば、
1)精密電子部品等を取り扱うクリーンルームにおいて使用するワイピングクロスの構成糸
2)レーザープリンター、コピー機等用の帯電ブラシ
3)レーザープリンター、コピー機等用の転写ブラシ
4)レーザープリンター、コピー機等用の除電ブラシ
5)レーザープリンター、コピー機等用のロールブラシ
6)レーザープリンター、コピー機等用の塗布ブラシ
として好適に用いられるが、特にこのような用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0074】
1…導電糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパント、酸化剤、バインダー樹脂及び架橋剤を含有してなる水性処理液を、糸の少なくとも表面に付着せしめる付着工程と、
前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されてなる導電糸を得る重合工程と、を含むことを特徴とする導電糸の製造方法。
【請求項2】
前記水性処理液における、ドーパントの含有率が0.1質量%〜50質量%、酸化剤の含有率が0.1質量%〜40質量%、バインダー樹脂の含有率が0.01質量%〜3.0質量%、架橋剤の含有率が0.1質量%〜10質量%である請求項1に記載の導電糸の製造方法。
【請求項3】
前記付着工程において、前記水性処理液をロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布することによって、糸100質量部に対して水性処理液の固形分を0.2質量部〜20質量部付着せしめる請求項1または2に記載の導電糸の製造方法。
【請求項4】
前記重合工程において、前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸100質量部に対してポリピロールを0.2質量部〜7質量部の割合で付着せしめる請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電糸の製造方法。
【請求項5】
前記ドーパントとして芳香族スルホン酸を用い、前記酸化剤として過硫酸塩を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電糸の製造方法。
【請求項6】
前記架橋剤としてメラミン樹脂を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電糸の製造方法。
【請求項7】
前記糸として、構成繊維として少なくともセルロース系繊維を含む糸を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電糸の製造方法。
【請求項8】
前記セルロース系繊維がレーヨン繊維である請求項7に記載の導電糸の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法で製造された表面抵抗率が1×1010Ω/□未満である導電糸。
【請求項10】
請求項9に記載の導電糸を用いて製作された導電布帛。

【図1】
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【公開番号】特開2012−62603(P2012−62603A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207961(P2010−207961)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】