説明

導電糸

【課題】糸長さ方向に高い導電性と環境適応性(導電特性の温・湿度依存性が小さい)を有するだけでなく、繊維に微細な捲縮を持たせることで長時間ランニングでの感光体上のトナー除去性の低下を抑制することができる導電糸を提供する。
【解決手段】主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステルにカーボンブラックを含有した導電層Bであって、該導電層が繊維表層の少なくとも一部に露出してなる繊維から構成されるマルチフィラメントであり、該マルチフィラメントに捲縮が付与されており、かつ糸長さ方向の平均抵抗率が10〜1012Ω/cmである導電糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電層が繊維表面の少なくとも一部を形成した繊維から構成されたマルチフィラメントであって、かつ該マルチフィラメントが捲縮を有している導電糸に関するものである。さらに詳しくは、該導電糸の微細な捲縮により、OA機器用の導電性ブラシに用いた場合には、優れた帯電性能やトナー清掃性を呈するとともに、布帛の一部に用いた場合には、従来品よりも優れた帯電防止性能を有する導電糸を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
OA機器用の導電性ブラシとして提案されている従来の導電繊維は、熱可塑性ポリマーにカーボンブラックを含有させたものを導電層としているが、カーボンブラックの含有量が多いほどポリマーの流動性が低下(変形し難くなる)するため、溶融紡糸での曳糸性も低下することが知られている。合成繊維として汎用的に用いられるポリエステル、例えば主たる繰り返し構造単位がエチレンテレフタレートから構成されるポリエステル成分にカーボンブラックを含有させた場合は、カーボンブラックを高濃度(20重量%以上)に含有させると曳糸性が極端に低下し、糸切れが多発して安定して引き取ることができない。そこで、曳糸性を補う目的で非導電層に繊維形成性ポリマーを配し、繊維表面の一部に導電層を露出させた複合繊維がいくつか提案されている。
【0003】
例えば、カーボンブラックを25重量%含有させたポリエチレンテレフタレートを鞘成分とし、カーボンブラックを含有しないポリエチレンテレフタレートを芯成分とする芯鞘複合繊維が提案されている(特許文献1)。また、カーボンブラックを25重量%含有したポリブチレンテレフタレートを鞘成分とし、固有粘度0.68〜0.85であるポリエチレンテレフタレートを芯成分とする芯鞘複合繊維が提案されている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の導電繊維は、導電層のみからなる繊維よりは曳糸性が改善されるものの、糸切れの頻度が高いもので、繊維長手方向の導電斑も大きく、画像形成装置の導電性ブラシに加工しても、印刷の鮮明性、トナー清掃性の劣るものであった。
【0005】
一方、ポリアミドはカーボンブラックを高濃度(20〜35重量%)に含有させても流動性の低下がポリエステルほど顕著ではなく、比較的良好な曳糸性を示すため、数多くの導電繊維に用いられている。例えば、カーボンブラックを35重量%含有したポリアミドを鞘成分とし、融点170℃以上の熱可塑性ポリマーを芯成分とする芯鞘複合繊維が提案されている(特許文献3)。
【0006】
しかしながら、特許文献3の導電繊維は導電層に吸湿性を有するポリアミドを用いているため、温湿度変化に伴う導電性の変化が大きいという問題を有している。そのため、OA機器(複写機、プリンター等)に搭載されている感光体を清掃するためのブラシに用いた場合、長時間のランニングにて徐々にトナー清掃性が低下し、記録画質が低下するといった問題があった。
【0007】
さらに、いずれの技術においても、導電性ブラシとして用いた際に、ブラシの軸方向で帯電斑に起因するスジ状汚れが出やすく、均一性の高い除電性能、すなわち優れたトナー清掃性を呈することが困難であった。
【特許文献1】WO2002/075030(実施例)
【特許文献2】特開2004−225214号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2002−235245号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、糸長さ方向に高い導電性と環境適応性(導電特性の温・湿度依存性が小さい)を有するだけでなく、繊維に微細な捲縮を持たせることで長時間ランニングでの感光体上のトナー除去性の低下を抑制することができる導電糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カーボンブラックを含有した、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートであるポリエステルからなる導電層が繊維表面の少なくとも一部を形成した繊維から構成されたマルチフィラメントであって、該マルチフィラメントは捲縮が付与されており、かつ糸長さ方向の平均抵抗率が10〜1012Ω/cmであることを特徴とする導電糸である。
【発明の効果】
【0010】
カーボンブラックを含有した、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートであるポリエステルからなる導電層を繊維表面に露出させることで、糸長さ方向に高い導電性と環境適応性(導電特性の温・湿度依存性が小さい)を有するだけでなく、さらに繊維に微細な捲縮を持たせることで長時間ランニングでの感光体上のトナー除去性の低下を抑制することができる導電糸を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の繊維は、カーボンブラックを含有した、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートであるポリエステルからなる導電層を有しており、該導電層が繊維表面の少なくとも一部を形成している。従来のポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートにカーボンブラックを高濃度に含有させた場合は、曳糸性が極めて悪かったが、本発明の導電層を用いることにより、曳糸性が飛躍的に向上することを本発明者らは見出したのである。これは、ポリエステルの中でも、ポリトリメチレンテレフタレートが特異的にカーボンブラックとの親和性が高いためである。このように高い親和性を示す原因は定かではないが、ポリトリメチレンテレフタレートの分子形態に起因したものであると考えている。すなわち、ポリトリメチレンテレフタレートはメチレン鎖が大きく屈曲し、分子鎖が螺旋を形成した構造を有していることが知られている。この螺旋構造によりベンゼン環同士のスタッキングが起きにくく、分子鎖間での拘束性が低いために、カーボンブラックが分子鎖間に入りやすいのではないかと考えられる。
【0012】
該導電層に用いられるポリエステル成分は、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレート(以下、「ポリトリメチレンテレフタレート」又は「PTT」と記載)から構成される。該ポリトリメチレンテレフタレートは、カルボン酸であるテレフタル酸とアルコールであるトリメチレングリコールのエステル化反応により形成されるポリマーであり、トリメチレンテレフタレート単位が50モル%以上である。カーボンブラックとの親和性を持たせるために、該トリメチレンテレフタレート単位は70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
【0013】
該ポリトリメチレンテレフタレートには、本発明の趣旨、すなわち高濃度でカーボンブラックを含有した場合の高い溶融紡糸性を損ねない範囲で他の成分が共重合されていても良く、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物として例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。また、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。また、共重合成分としては、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわち、ヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0014】
また、本発明の繊維においては、繊維がカーボンブラックを含有するポリトリメチレンテレフタレートのみからなる場合を除いて、該カーボンブラック含有PTT以外の層が配置されてなる場合、該カーボンブラック含有PTT以外の層は主たる成分として繊維形成能を有するポリマーからなる。該繊維形成能を有するポリマーとしては、例えば、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーやその他ビニル基の付加重合により合成される、例えばポリアクリロニトリル系ポリマーなどのビニル系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、シリコーン系ポリマー、芳香族あるいは脂肪族ケトン系ポリマー、天然ゴムや合成ゴムなどのエラストマー、その他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。より具体的には、例えば、ビニル基を有したモノマーが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの付加重合反応によりポリマーが生成する機構により合成されるポリオレフィン系ポリマーやその他のビニル系ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、などが挙げられるが、これらは例えばポリエチレンのみ、あるいはポリプロピレンのみのように単独重合によるポリマーであっても良いし、あるいは複数のモノマー共存下に重合反応を行うことで形成される共重合ポリマーであっても良く、例えばスチレンとメチルメタクリレート存在下での重合を行うとポリ(スチレン−メタクリレート)という共重合したポリマーが生成するが、発明の趣旨を損ねない範囲において、このような共重合体であるポリマーであっても良い。
【0015】
該導電層に用いられるカーボンブラックとして、例えば、ファーネス法により得られるファーネスブラック、ケッチェン法により得られるケッチェンブラック、アセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどがある。その他にはグラファイト、炭素繊維なども好適に用いられる。本発明の導電層には、導電性カーボンブラックであるファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックを用いることがより好ましい。該導電性カーボンブラックの中でも、カーボンブラックの導電性能の基本的性質である粒子径(比表面積)、ストラクチャー、表面性状(粒子表面の化学的性質)の制御範囲が広いファーネスブラックが特に好ましい。該導電性カーボンブラックの導電性能は、比抵抗値として低いほど好ましく、5.0×10Ω・cm以下のものであることがより好ましく、1.0×10−6〜5.0×10Ω・cmであることがさらに好ましい。また、本発明の繊維に含有させた場合に、繊維の力学特性を損ねることなく、導電回路としてのストラクチャーを形成させるために、該導電性カーボンブラックの一次粒子の平均粒径を1〜100nmの範囲とすることが好ましく、またストラクチャーのジブチルフタレート吸収量が30〜600cm/100gの範囲のものが好ましく、35〜400cm/100gのものがより好ましい。該ジブチルフタレート吸収量は、ストラクチャーが大きく発達するほど高くなり、600cm/100gを超えると導電性は向上するが、導電層の流動性が悪化して曳糸性が低下する。また、カーボンブラック表面の官能基はカーボンブラック製造過程での雰囲気に由来し、例えば水素量は製造時の温度と時間に関係する。本発明に用いるファーネスブラックの水素量は、0.1〜0.4%であることが好ましい。表面の官能基を同定あるいは定量するためには、揮発分組成や揮発分量、pHなどを調べることで可能である。
【0016】
また本発明の繊維は、繊維表面での導電性を高くするために、該導電層が繊維表面の少なくとも一部を形成している。繊維表面に導電層を露出させることで、繊維表面で導電パスが形成され、低電圧でも電子の受け渡しが速やかに行われる。また、接触効率をより向上させるために、繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率は、20%以上であることが好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明に用いる導電糸の導電性能は、平均抵抗率が10〜1012Ω/cmであることが必要である。平均抵抗率は小さければ小さいほど導電性が高く、電気を流しやすいため、用途によっては高い導電性(低平均抵抗率)が要求される。本発明においては、ポリトリメチレンテレフタレートに最大限含有させることが可能なカーボンブラックの量が40重量%であることから、平均抵抗率の下限としては10Ω/cmである。該平均抵抗率の範囲であることで、導電性ブラシとしての除電性能あるいは帯電防止が可能となる導電レベルを充分到達することができる。OA機器用の導電性ブラシに本発明の導電糸を用いる際には10〜1011Ω/cmの範囲の平均抵抗率であることが好ましく、装置の特性および導電ブラシの役割に応じて最適な平均抵抗率の導電繊維を用いればよい。
【0018】
平均抵抗率は、カーボンブラックの種類(主として導電特性)、カーボンブラックの濃度、単繊維繊度、繊維横断面における導電層の露出長の比率、導電層の厚さなどで制御することが可能である。平均抵抗率を得るためのカーボンブラック含有量は15重量%〜40重量%が好ましく、20重量%〜35重量%がより好ましい。15重量%以上とすることでカーボンストラクチャーの形成により導電性能が顕在化し、20重量%以上で急激に導電性能が向上し、35重量%を超えると導電性能が頭打ち傾向になる。また、カーボンブラックの含有量を40重量%以下とすることで良好な曳糸性が得られる。
【0019】
カーボンブラックによる導電性付与にあたっては、カーボンブラックの連鎖構造であるストラクチャーの形成が肝要である。高い導電性を得るためには、該ストラクチャーを破壊せずにポリマー中に分散させ、長い繋がりを保持しつつ高密度に存在させなくてはならない。この手段として、延伸又は仮撚加工工程において、未延伸糸の自然延伸比(以下、「NDR」と記載)近傍で延伸することで、ストラクチャーの破壊を抑制しつつ、繊維長手方向へストラクチャーを引き伸ばすことが可能となる。我々の検討においては、NDR×0.8〜NDR×1.2倍が好ましい。すなわち、NDRが2倍であれば1.6〜2.4倍、自然延伸比が3倍であれば2.4〜3.6倍で延伸すればよい。より好ましい延伸倍率は、NDR×0.9〜1.15倍、さらに好ましくはNDR×0.95〜1.1倍である。なお、NDRは定張力伸長域伸度から下式により求めることができる。
【0020】
NDR(倍)=1+(定張力伸長域伸度(%)/100)
また、熱処理温度を制御することによってもカーボンストラクチャーを制御することができる。熱処理温度を高くする、もしくは熱処理時間を長くすることにより、導電層におけるポリエステル成分の結晶化を促進させ、結晶部からのカーボンブラックの排除によりストラクチャーの局在化および高密度化が進み、導電性が向上する。熱処理方法は特に制限されるものではないが、延伸時のホットロールや熱板、仮撚での1stヒーター及び2ndヒーター、未延伸糸や延伸糸のパッケージを乾燥機にてエージングする方法、ブラシや布帛にしてから熱処理してもよい。
【0021】
また本発明の導電糸は、糸長さ方向の平均抵抗率Pとその抵抗率の標準偏差Qとの比ESR(ESR=Q/P)が、0.5以下であることが好ましい。ESRは糸長さ方向の導電性斑の指標であり、小さい値であるほど導電性斑が小さいため、高品質の導電糸であるといえる。特にOA機器(電子写真装置)用の導電性ブラシに用いた場合には、ESRと印刷斑との相関性が高いことがわかっており、より高品位の印刷特性を得るためにESRは0.2以下がより好ましく、0.08以下がさらに好ましい。ESRを小さくするためには、糸長さ方向の繊度斑を小さくすることが有効である。
【0022】
本発明の導電糸は、沸騰水収縮率が0〜15%であることが好ましい。導電性ブラシとして用いる際、ブラシ加工過程や使用時の環境によっては高温にさらされる場合があり、加工前・後での寸法変化を極力小さくする必要がある。また、導電糸に寸法変化があると、繊維内部のカーボンストラクチャーも変化して導電性能が変わることが判っている。環境変化に対して優れた安定性を有する導電糸を提供するために、沸騰水収縮率は0〜10%であることがより好ましく、0〜6%であることがさらに好ましい。収縮率を小さくするための手段としては、延伸や仮撚時の熱処理温度や延伸倍率、リラックス率等が挙げられる。
【0023】
本発明の導電糸は、捲縮を有するマルチフィラメントであることが必要である。従来、カーボンブラックを添加したポリエステル系導電糸は捲縮加工することが困難であった。また、捲縮糸にしても、その捲縮の品位に斑があったために、導電ブラシ等の製品にしても導電性能が安定したものが得られなかった。これは、従来のポリエステル系導電糸で用いられている導電層のマトリックスポリマーがポリエチレンテレフタレートであることに起因する。すなわち、従来のマトリックスポリマーでは、カーボンブラックとの親和性が低いためにカーボンブラックの分散性が悪く、カーボンブラックが高濃度に局在化した部分で変形不良となるために仮撚加工が安定せず(加工張力の変動が大きく、延伸斑や熱処理斑が大きい)、捲縮斑が生じるためである。
【0024】
それに対し、本発明のマトリックスポリマーを用いることで、前記した様にカーボンブラックとの親和性が高いために仮撚加工性が飛躍的に向上し、高品位の捲縮糸が得られるのである。
【0025】
本発明の導電糸は、高品位で微細な捲縮を有することで、糸同士の会合を抑制することができ、導電性ブラシとして用いた際に、優れたカバーリング性能により均一性の高い帯電性能やトナー清掃性を呈することが可能になる。さらに、捲縮糸にすることで見掛けの弾性率を下げることができるため、感光体を傷つけることがない。また、トナーを保持するトラップ・スポットが非捲縮糸よりも多く存在するため、長時間ランニングでの感光体上のトナー除去性の低下を抑制することができる。
【0026】
捲縮糸の特性はいろいろな指標により現すことが可能であるが、我々の検討では導電ブラシの印写特性との相関性において、CR値が最も好ましい指標であると判断した。本発明の導電糸は、糸が絡み合わない程度の捲縮を有することが重要であり、CR値は3%以上であることが好ましい。また、仮撚加工性が良好な上限値として、CR値は50%以下であることが好ましい。さらに、CR値が50%を越えると、クリンプ径が小さくなり過ぎて、トナーを保持するトラップ・スポットが小さくなり、清掃性が低下したり、導電性ブラシにする際の高次加工性が低下してしまう。したがって、CR値は3〜50%が好ましい。また、導電性能の均一性およびカバーリング性を両立するために、CR値は5〜40%であることがより好ましく、10〜30%であることがさらに好ましい。なお、CR値とは捲縮の伸長・回復特性を現す指標である。
【0027】
また、本発明では鞘部が導電層であり、芯部が非導電層である芯鞘複合構造を有する繊維にすることが好ましい。繊維表面全体に導電層を露出させることで、導電性ブラシとして用いた際に、印刷斑を抑制することが可能になる。本発明の導電層の主成分であるポリトリメチレンテレフタレートの融点が225〜230℃であることから、良好な曳糸性が得られる温度範囲、すなわちポリトリメチレンテレフタレートの融点に近い温度で溶融紡糸することが好ましい。そのため、芯部を形成する非導電成分は、融点が210〜240℃である繊維形成性ポリエステルであることが好ましく、220〜230℃であることがより好ましい。
【0028】
ここで繊維形成性ポリエステルとは、例えばジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができ、これらにかかるポリマーとしては、その主たる繰り返し構造単位がエチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、プロピレンナフタレート、テトラメチレンナフタレートあるいはシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、であるポリエステル、あるいは芳香族ヒドロキシカルボン酸を主成分とする溶融液晶性を有する液晶ポリエステル、などが挙げられる。
【0029】
そして、特に制限されるものではないものの、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるポリエステル系ポリマーには、本発明の趣旨を損ねない範囲で他の成分が共重合されていてもよく、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物として例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、ポリエステル系ポリマーの共重合成分としては、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
また、ポリエステル系ポリマーの共重合成分としては、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわち、ヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、ポリエステル系ポリマーとしては、芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基を両方有したヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とする重合体であっても良く、これらヒドロキシカルボン酸からなる重合体としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート)、3−ヒドロキシブチレート)、3−ヒドロキシブチレートバリレート)、といったヒドロキシカルボン酸を主たる繰り返し構造単位とするポリエステルを挙げることができ、その他にも、これらヒドロキシカルボン酸としては、本発明の趣旨を損ねない範囲で芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族ジオール成分が用いられていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されていても良い。
【0033】
本発明の導電層の主成分がポリトリメチレンテレフタレートであることから、該導電層との接着性を良好にするためには、非導電層となる芯部も繊維形成性ポリエステルであることが好ましい。その中でも、特に優れた接着性を有するポリエステルとして、ポリトリメチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルや、イソフタル酸(以下「IPA」と記載)や2・2ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン(以下「BPA−EO」と記載)を共重合したポリエステル(以下、「共重合PET」と記載)が好ましく用いられる。共重合PETとしては、特にBPA−EOを共重合することで導電層との接着性を高めることができ好ましい。共重合比率としては、1〜15モル%が好ましく、2〜10モル%がより好ましい。また、前記BPA−EOと併せ、IPAを共重合してもよい。
【0034】
芯鞘複合繊維の導電層の平均厚さは1μm以上であることが好ましい。導電層が1μm以上の厚さを有することで、高い導電性能を得ることが可能になる。さらに図1に示すように、該導電層が厚いほど、厚さ変化による平均抵抗率変化が小さくなる傾向があり、安定した導電性能を有する導電糸を提供することができる。したがって、該導電層の平均厚さは、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。
【0035】
芯鞘複合繊維の非導電層である芯部は、繊維横断面積の5〜85%を占有することが好ましい。該芯部は繊維の力学特性を高くするための補完的役割を担う。導電糸を用いて2次製品を製造する際の加工性を容易にし、生産性を高めるとともに、製品の耐久性を向上させるため、芯部の比率は少なくとも5%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。また、非導電層に剛直性の高いポリエチレンテレフタレートを用い、導電層と非導電層との比率を変えることで繊維の剛性を制御することも可能になる。一方、導電層である鞘部の比率は繊維の導電性能を担い、高い導電性を付与するために、鞘部の比率は少なくとも15%以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上である。
【0036】
本発明の繊維の外周形状は、丸断面、三角断面、マルチローバル断面、偏平断面、中空断面、その他公知の異形断面であってもよく、発明の趣旨を損ねない範囲であれば限定されるものではない。
【0037】
また本発明における繊維は、長繊維(フィラメント)であっても短繊維(ステープル)であっても良い。短繊維の場合は用途に応じて所望の長さにすればよいが、紡績工程あるいは電気植毛加工などに用いる場合には、長さ0.05〜150mmであることが好ましく、0.1〜120mmであることがより好ましい。
【0038】
また、本発明の繊維の太さ、すなわち、単繊維直径に関しては特に制限されるものではないが、後述するような様々な用途に採用が可能であるという点で単繊維直径は50μm以下であることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましい。特にOA機器用の導電性ブラシに用いられる場合には、清掃性能、あるいは帯電性能が優れるという点で繊維直径は5〜25μmであることが特に好ましい。衣服の裏地や防塵衣など、あるいはその他各種衣類に用いられる場合では、5〜30μmであることが好ましい。また衣料用途以外の、車両内装材、建造物の壁材などの内装材、カーペットや床材など敷物などの非衣料用途に用いられる場合には、10〜50μmであることが好ましい。
【0039】
ここで、本発明の導電糸の好ましい製造方法を下記する。
【0040】
上記した芯成分のベースとなるPTTとカーボンブラックを溶融混練するにあたり、カーボンブラックの分散性を高めるためにPTTを粒径0.01〜1mmの粉体とし、窒素雰囲気下でカーボンブラックの粉体と混ぜ合わる。該混合粉体を2軸エクストルーダで溶融混練してカーボンブラック含有PTTを得る。このとき、PTTの加水分解を抑制するために真空度5Torr以下でベントすることが好ましい。また、混練温度を250〜280℃で行うことでカーボンブラックの分散性を高めることができ、好ましい。混練したペレットおよび芯成分に用いるペレットは、紡糸での加水分解を抑制するために水分率を10〜100ppmになるように乾燥することが好ましい。乾燥温度としては、120〜180℃で真空下、または乾燥空気、乾燥窒素中で行えばよい。それぞれ芯部および鞘部を形成するペレットを図3に示す紡糸機に付属のA成分ホッパー1及びB成分ホッパー1’に仕込み押出混練機2及び2’の温度250〜280℃にて別々に溶融し、計量ポンプ3にて計量し、紡糸パック5に導き、紡糸ブロック4の温度250〜280℃で図4に示す構造を有する口金6を用いて芯鞘複合構造とする。このとき、吐出孔径は吐出孔内での線速度(ポリマーの流速)が2.5〜12.5m/分になるようにすることが好ましい。このとき、複合比は前記した芯/鞘の断面積比になるように調整する。吐出後の糸条8は冷却装置7によって0.1〜1m/秒の冷却風で冷却・固化され、給油ガイド9にて集束させながら油剤を付与し、必要に応じ糸の集束性が悪い場合は交絡装置10にて交絡を入れてもよい。引取速度(第1ゴデットローラー)は、仮撚加工を安定して行うために周速度2000〜5000m/分で行うことが好ましい。紡糸油剤は周知汎用のポリエステル用油剤を用いることができ、必要に応じ、制電剤、抗酸化剤、防錆剤を添加する。油剤の付着量は、純油分として0.3〜3重量%付着させる。得られた未延伸糸を図5に示す仮撚機を用い、巻取糸パッケージ14から解舒された糸条15を糸道ガイド16〜18を用いて供給ローラー19に通し、供給ローラー19と延伸ローラー24の間で延伸仮撚する。このときの加工倍率は、前記したように未延伸糸のNDRに対して0.8〜1.2倍になるようにする。延伸仮撚時の加工速度(延伸ローラー24の周速度)は100〜1000m/分の範囲で、前記ローラー間にて、第1ヒーター20の温度を120〜180℃、糸道ガイド21を通した後の冷却板22の温度を10〜50℃、ツイスターのD/Y比(ディスク周速度D/延伸ローラー周速度Y)を1.1〜1.8の範囲で行えばよい。該平均抵抗率の範囲においては、OA機器用の導電性ブラシのみならず、多様な用途、例えば帯電防止素材としてストッキング、タイツ、防塵衣などの衣料、または屋内外、車両内に敷くカーペットやマット、床材などの様々な製品において展開可能であり、所望の導電性が付与できる。
【0041】
本発明の導電糸からなる短繊維を少なくとも一部に用いてなる植毛体を、少なくとも一部に用いてなる繊維ブラシに形成して用いることができる。特に、棒状物体に直接植設された繊維ブラシローラーであることが好ましい。ここで用いられる短繊維は、棒状物体に植設される際に、気体により短繊維を吹き付けても良く、あるいは電気植毛加工を行っても良いが、棒状物体の表面に概ね直立したものが効率よく得られることから電気植毛加工により得られることが好ましい。 このとき短繊維は、その50%以上が棒状物体の表面において10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に接着される。ここで、発明の趣旨を損ねない範囲で、用いる短繊維には本発明の導電糸からなる短繊維以外に、本発明の導電糸ではない他の繊維からなる短繊維を混用して植設しても良い。また接着して植設する際の接着剤は特に制限されるものではなく、例えばアクリル系、ウレタン系、またはエステル系の接着剤が用途あるいは目的に応じて種々選択されて用いられ、ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いても良い。また本発明のポリエステル繊維からなる短繊維を少なくとも一部に用い、棒状物体に植設してなる前記ポリエステル繊維ブラシローラーの繊維ブラシローラー自体の比抵抗値は10〜1011Ω・cmであることが好ましい。
【0042】
前述の棒状物体の芯となる主たる材質は、用いられる用途あるいは目的に応じて適切なものを採用すれば良く、金属、合成樹脂、天然樹脂、木材、鉱物などから単独で、もしくは複数種を組み合わせて選ばれるが、後述する電子写真装置に組み込む部材として用いる場合には、主として金属からなることが好ましい。さらに該棒状物体が金属である場合には、該金属の少なくとも一部もしくは必要とする部分の全面を中間層が覆い、その上に前記織物および/または編物および/または不織布が接着されるか、あるいは短繊維が接着して植設されることが好ましい。この中間層として用いられる素材は主としてクッション性を棒状物体に付与する、あるいはブラシ状の繊維の弾性・剛性のみでは達成し得ない場合に補助的に弾性・剛性を担うものであり、後述される例えば清掃装置におけるトナー除去性能、あるいは現像装置におけるトナー付与性能を格段に向上せしめる。そして特に制限されるものではないものの、該中間層には例えばウレタン系素材、エラストマー素材、ゴム素材あるいはエチレン−ビニルアルコール系素材などが好適に用いられる。そして該中間層の厚さは0.05〜10mmであることが好ましく、さらに必要に応じて前述の導電性制御剤あるいは磁性制御剤が添加されていても良い。
【0043】
本発明の導電糸を少なくとも一部に用いてなる前述の織物、編物あるいは不織布は、基盤と接合して布帛複合体とすることができる。この場合、織物であればパイル織りあるいは処理により織物表面に起毛や糸端があるもの、また編物であればパイル状の繊維起毛があるものもしくは起毛処理してパイルあるいは糸端が編物表面にあるものが後述するポリエステル繊維ブラシローラーにおいてより機能が高められる場合があり好ましい。接合する際に接着して形成させる場合には例えばアクリル系、ウレタン系、またはエステル系の接着剤を用いて接着されることが好ましい。ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いても良い。
【0044】
また、接着される基盤としては特に制限されるものではなく、該布帛複合体を組み込む装置や用いる接着剤に応じて適宜採用すればよいが、合成樹脂、天然樹脂、合成繊維、天然繊維、木材、鉱物あるいは金属からなるフィルム、シート、紙、板、あるいは他の布帛などが好適に採用でき、あるいは各種用途の部材そのものである金属加工体、合成もしくは天然樹脂加工体もしくは成形体の基盤に直接接着しても良い。ここで特に前記接着剤との親和性を高めるために、親水化処理してなる合成もしくは天然樹脂あるいは金属からなるシートが好ましい。そして該基盤が前記フィルム、シート、紙、板、布帛など表裏を形成している素材であれば用途あるいは目的に応じてその表面および裏面の両面に前述の織物、編物あるいは不織布を接着して布帛複合体となすことができる。該布帛複合体は、その使用方法あるいは用途として、別の基盤に貼り付けて用いても良いし、あるいは例えば次に示す導電性を有するため導電性のポリエステル繊維ブラシとして用いることができる。
【0045】
本発明のポリエステル繊維からなる前記織物および/または編物および/または不織布は、少なくとも一部に用いられるかあるいは全部に用いて、ポリエステル繊維ブラシを形成できる。特に形態が安定している点では織物を用いることが好ましい。ここで用いられる織物および/または編物および/または不織布は、棒状物体に接合してポリエステル繊維ブラシローラーを形成する際に、棒状物体の機能的に必要とされる長さ(すなわち巻き幅)分だけカットしたものを一周で巻き付け接合しても良く、あるいは棒状物体の長さの数分の一〜数十分の一の長さの幅にスリット状にカットしたものを棒状物体にスパイラル状に巻き付けて接合しても良い。接合する際にはあらかじめ凹凸を棒状物質に付けるなどして嵌合しても良いが、確実に接合するという点では接着剤を用いて接着することが好適である。
【0046】
ここで用いられる接着剤は、用途あるいは目的に応じて適宜採用すれば良く、アクリル系、エステル系あるいはウレタン系など種々のものを採用でき、また必要に応じてカーボンブラックや金属などの導電性制御剤あるいは鉄、ニッケル、コバルト、モリブデンなどの金属あるいはこれら金属の酸化物あるいはこれらの混合物などの磁性制御剤などが添加されていても良い。ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いても良い。さらに織物および/または編物および/または不織布は接着される以前の段階で接着面に10〜1010Ω・cmの比抵抗値を有する導電処理剤もしくは導電性シートあるいは導電性膜などの素材を張り合わせてもよい。
【0047】
本発明の導電糸は、例えば、織物、編み物、不織布といった布帛とするほか、それらを用いた繊維ブラシ、衣料、敷物や、短繊維を用いた植毛体、あるいは電気を流すことが可能な配線物、などにおいて、少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維製品となすことができる。
【実施例】
【0048】
A.固有粘度
オルソクロロフェノール(以下「OCP」と記載)10ml中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により求め、IVを算出した。
【0049】
ηr=η/η=(t×d)/(t×d
IV=0.0242ηr+0.2634
ここで、η:ポリマー溶液の粘度、η:OCPの粘度、t:溶液の落下時間(秒)、d:溶液の密度(g/cm)、t:OCPの落下時間(秒)、d:OCPの密度(g/cm)。
B.溶融粘度
(株)東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下、バレル径9.55mm、ノズル長10mm,ノズル内径1mmで、ポリマー押出ピストン速度1mm/分(剪断速度12.16(1/秒))あるいは100mm/分(剪断速度1216(1/秒))で、サンプル充填直後から10分経過したのち測定した。5回測定した値の平均値を各剪断速度での溶融粘度とした。
C.融点
Perkin elmer社製DSC−7を用いて2nd runで結晶融解のピーク温度を融点として測定した。この時、試料重量を約10mg、昇温速度を10℃/分とした。
D.繊度および単繊維繊度
糸を長さ100m分カセ取りし、そのカセ取りした試料の重量(g)に100を掛けて求める。3回測定した値の平均値をその糸の繊度(dtex)とし、繊度を構成フィラメント数で割った値を単繊維繊度(dtex)とした。
E.強度、残留伸度、初期引張抵抗度
JIS L1013(1992年)「化学繊維フィラメント糸試験方法」に準じ、オリエンテック社製テンシロン引張試験機(TENSILON UCT−100)を用い、未延伸糸であれば初期試料長50mm、引張速度400mm/分で、捲縮糸であれば初期試料長200mm、引張速度200mm/分で荷重−伸長曲線(以下、「S−Sカーブ」と記載)を求めた。S−Sカーブの最大点張力を繊度で割り返した値を強度、最大点張力を示したときの伸びを初期試料長で割り返した値を残留伸度とし、5回測定した平均値を測定値とした。初期引張抵抗度は、初期試料長200mm、引張速度200mm/分、チャート速度100cm/分、応力フルレンジ500gとして記録し、引張初期曲線の最大の傾きから求めた。
F.定張力伸長域伸度
上記E項の未延伸糸の測定で得られるS−Sカーブより、図2に示すように原点(a点)からネッキングが形成され(b点)一定張力で伸長する領域が完結する点(c点)が求められる。このc点までの伸びを初期試料長で割り返した値を定張力伸長域伸度(%)とした。
G.平均抵抗率P、平均抵抗率Pと標準偏差Qとの比ESR(ESR=Q/P)
中温中湿度(25℃湿度65%)で少なくとも1時間保持した試料を、送糸ローラーと巻取ローラーからなる1対の鏡面ローラー間にて、東亜DKK製絶縁抵抗計SM−8220に接続された2本の棒端子からなるプローブと接するように走行させる。棒端子の太さφ2mm、測定距離2.0cm、印加電圧100V、送糸速度60cm/分、ローラー間の糸張力0.05〜0.1cN/dtexの範囲となるようにして、絶縁抵抗計でのサンプリングレート5Hzで120cmの長さ分を測定し、得られた値の平均抵抗値(Ω)を棒端子間で接する糸の距離(2.0cm)で割った値を平均抵抗率P(Ω/cm)とした。また同時に得られた全ての抵抗値の標準偏差Qを算出したのち、PとQとの比ESR(ESR=Q/P)を算出した。なお、収縮後の平均抵抗率は、沸騰水中で15分間処理した後に測定して求めた。
H.比抵抗値
前記中温中湿度で少なくとも1時間保持した試料を1000dtex分カセ取りして15cmの長さに切断する。厚さ100μmのテトロンフィルム上で、測定長5cm分を残して両端にドータイトを塗布し、試料とフィルムを接合する。この両端に電極を取り付け、印加電圧500Vで測定した。また測定試料が粉体状のものである場合は、長さ10cm、幅2cm、深さ1cmの、両端面に電極を有する絶縁体の箱形容器に、10MPaの圧力で充填して密封したのち測定して、単位体積当たりの比抵抗値(Ω・cm)に換算して求めた。ガット状のものである場合は、テスターを用いて2本の端子を10cmの間隔でガットに押しつけ、抵抗値R(Ω)を測定し、下式により比抵抗値を求めた。5本の異なるガットについて比抵抗値を測定し、その平均値をガットの比抵抗値とした。
【0050】
比抵抗値(Ω・cm)=R×(D/2)×π/10
I.沸騰水収縮率
検尺機を用いて初荷重:(0.088×繊度(dtex))cNで、カセ長50cm、巻き数10回のカセを作り、規定の荷重を掛けた状態で試料長L1を測る。これを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中15分間処理し、1昼夜風乾した後、束の長さL2を測定して下式により沸騰水収縮率を算出した。なお、荷重は下式により求めたものを使用した。
【0051】
沸騰水収縮率(%)=((L1−L2)/L1)×100
荷重(cN)=(繊度(dtex)/1.111)×0.1×0.9807×巻取回数×2
J.CR値
捲縮糸をカセ長50cm、巻き数10回でカセ取りし、実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、24時間風乾した。このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L3を測定した。次に、水中で0.088cN/dtex相当のカセを除き0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L4を測定した。そして下式によりCR値を計算した。
【0052】
CR(%)=[(L3−L4)/L3]×100(%)
K.カーボンブラックの平均粒径
繊維または樹脂をエポキシ樹脂中に包埋したブロックに、酸化ルテニウム溶液を用いて染色し、ウルトラミクロトームにて切削して60nm〜100nmの厚さの超薄切片を作製する。この試料を透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所製H−7100FA型)にて、加速電圧75kV、倍率2万〜10万倍の任意の倍率で観察し、得られた写真を白黒にデジタル化した。コンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)において、黒で見えるカーボンブラックを画像解析することによって平均粒径を確認した。平均粒径は写真上に存在する全てのカーボンブラックの面積を計算し、該面積値から略円形と判断して計算したカーボンブラックの直径の平均値によって算出した。
L.ジブチルフタレート吸収量の測定
JIS K6217−4:2001の「DBP吸収量の求め方」に準じ、アブソープトメータを用いて測定した。
M.導電層の平均厚さ、芯鞘複合比率、繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率
繊維をエポキシ樹脂中に包埋したブロックを作製し、ミクロトームにて繊維軸方向に垂直な繊維横断面方向に切削して薄切片をつくる。これを光学顕微鏡200倍で透過光にて観察・撮影し、得られた繊維横断面写真を、前述の三谷商事株式会社製WinROOFにて画像解析することで、導電層の厚さを求めた。なお、導電層の平均厚さは任意の5点について計測し、その平均値を求めた。また、芯鞘複合比率は導電層と非導電層の面積から比率を算出した。繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率は、繊維横断面における周長と導電層の露出長を計測して比率を算出した。
N.単繊維直径の測定
FEI Company社製 走査型電子顕微鏡(SEM) STRATA DB235を用いて、加速電圧2kVで、白金−パラジウム蒸着(蒸着膜圧:25〜50オングストローム)処理を行った後、繊維外径が全て視野に入る倍率(単繊維直径が25μm〜50μmであれば5千倍、15μm〜25μmであれば1万倍、5μm〜15μmであれば2万倍)で確認した。なおこの際、単繊維直径は少なくとも該測定を同一繊維において3cm以上の間隔をおいた任意の5点について観察、測定して得た平均値を単繊維直径とする。
O.紡糸性
総巻取量40kgにおいての紡糸性を、以下に示す基準で評価した。
【0053】
○:1回以下
△:2〜4回
×:5回以上
P.画像評価方法
導電糸をブラシ加工し、清掃装置に組み込んで配設したモノクロレーザープリンターにて、長時間連続印刷を行った。初期および2万枚印刷後の画像評価を以下に示す基準で評価した。
(1)初期性能評価
◎:鮮明均一な画像が得られる。
【0054】
○:異常放電跡は認められないが、画像がやや不鮮明である。
【0055】
△:異常放電跡が若干認められる。
【0056】
×:画像が不鮮明であり、スジ斑が目立つ。
(2)繰り返し(2万枚)画像評価
◎:初期と同様な鮮明均一な画像が得られる。
【0057】
○:異常放電跡は認められないが、画像がやや不鮮明である。
【0058】
△:異常放電跡が若干認められる。
【0059】
×:画像が不鮮明であり、スジ斑が目立つ。
【0060】
実施例1
固有粘度(IV)1.50、溶融粘度800(Pa・秒)(測定温度260℃、12.16(1/秒))、融点(Tm)229℃のポリトリメチレンテレフタレート(表中、「PTT」と記載)ペレットを150℃10時間真空乾燥した後、窒素雰囲気下で粉粒体とし、カーボンブラックとしてキャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク社製ファーネスブラック(タイプVULCAN XC72、比抵抗値0.45(Ω・cm)、平均粒径31nm、ジブチルフタレート吸収量177cm/100g、以下「FCB」と記載)を窒素雰囲気下で粉体同士混ぜ合わせた。続いて東芝機械(株)製2軸エクストルーダTEM35B(軸長L:1440mm、軸径D:37mm、L/D:38.9)にて軸回転数:300rpm、混練温度C1〜C4およびH:250℃、吐出量:15kg/hr、ベント:約5Torrにて溶融混練した。ここで、FCBの濃度は混練終了後に得られるPTT/FCB混練物に対して25重量%となるように調製した。混練した後、吐出されたガット状の樹脂組成物を15℃の水道水で冷却したのちカッターで切断して導電層用のペレット(以下、「PTT−CB」と記載)を得た。該ペレットの溶融粘度を測定したところ、2010(Pa・秒)(測定温度260℃、12.16(1/秒))であった。ペレタイズ前のガットの比抵抗値を測定したところ101.4(Ω・cm)であった。
【0061】
上記PTT−CB(融点228℃)を鞘部(B成分)とし、IPAを7モル%、BPA−EOを4モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(表中、「共重合PET」と記載)(融点228℃)を芯部(A成分)として、それぞれ図3に示す紡糸機に付属のA成分ホッパー1及びB成分ホッパー1’に仕込み押出混練機2及び2’にて別々に溶融し、計量ポンプ3にて計量し、紡糸パック5に導き、紡糸ブロック4の温度260℃で図4に示す構造を有する口金6(吐出孔直径0.5mm/孔深度1.0mm)を用い、芯鞘複合比(重量%)50:50で吐出した。吐出後の糸条8は冷却装置7によって0.4m/秒の冷却風で冷却・固化され、口金下2mの位置で給油ガイド9にて集束させながら油剤を付与し、交絡装置10にて作動圧空0.1MPaで交絡を施し、周速度2500m/分の第1ゴデットローラー11および12にて引き取り、巻取機13にて285dtex、54フィラメントの芯鞘複合構造の未延伸糸を2kg巻いた巻取糸パッケージ14とした。なお、巻取機13の周速度は2470m/分とした。巻き取り時の面圧は10kg/mとし、綾角は5°とした。また、紡糸油剤には平滑剤として重量平均分子量2000のポリエーテルを70重量%、重量平均分子量6000のポリエーテルを8重量%、エーテルエステルを12重量%、その他添加剤(制電剤、抗酸化剤、防錆剤)を10重量%調整し、さらにこの油剤を濃度10重量%になるように水エマルジョンとして調整し、純油分として繊維に約1.5重量%付着させた。紡糸性は良好であり、未延伸糸40kgのサンプリングで糸切れは発生しなかった。得られた未延伸糸の断面は図6(a)に示すとおりであった。
【0062】
さらに該未延伸糸を図5に示す仮撚機を用い、巻取糸パッケージ14から解舒された糸条15を糸道ガイド16〜18を用いて供給ローラー19に通し、供給ローラー19と延伸ローラー24の間で加工倍率1.3倍(NDR×1.0)で延伸した。なお、加工速度(延伸ローラー24の周速度)は500m/分とした。また、前記ローラー間にて、第1ヒーター20の温度150℃、糸道ガイド21を通した後の冷却板22の温度約30℃、3軸ツイスター23(11枚構成、糸の供給方向から数えて第1、第2、第11番目をセラミックディスク、その他をウレタンディスクで構成)にて延伸仮撚した。このときのD/Y比(ディスク周速度D/延伸ローラー周速度Y)は1.3とした。仮撚された糸を糸道ガイド25を通して巻き取り、繊度220dtex、54フィラメントの捲縮糸パッケージ26を得た。糸掛け性、工程通過性は良好であり、糸切れは発生しなかった。また得られた糸の捲縮特性を示す伸縮復元率(CR値)は21%であり、力学特性、捲縮特性ともに良好な仮撚加工糸が得られた。
【0063】
また、実施例1で得られた捲縮糸の強度は2.4cN/dtexであり、残留伸度35%、初期引張抵抗度55cN/dtex、沸騰水収縮率5%、平均抵抗率10Ω/cmであった。
【0064】
該捲縮糸を用いてパイル織物を作製して、パイルを起毛させて、更に1cm幅のスリット状にしたものをSUS304からなる金属棒状物体に巻き付けて、ブラシローラーを得た。得られたブラシローラーを清掃装置に組み込んで配設したモノクロレーザープリンターにて、長時間連続印刷(1分間あたり10枚印刷・排出)を行い、プリンター中の湿度変化と共に印刷性を確認したところ、印刷開始1000枚程度でプリンター中の湿度は初期の65%から33%まで低下し、さらに1万枚程度印刷した時点では27%まで低下した。実施例1のブラシは、前記の湿度環境の変化の中でも、印刷初期から2万枚まで印刷の鮮明性、トナー清掃性は変わらず優れていた。
【0065】
実施例2および実施例3
カーボンブラックの含有量を15重量%および38重量%にした以外は、実施例1と同様の方法で評価し、実施例2および実施例3の捲縮糸を得た。実施例2の平均抵抗率は1011Ω/cmであり、実施例1に比べて除電性能がやや劣るものであったが、実用上問題ないレベルであった。実施例3の平均抵抗率は10Ω/cmであり、高い導電性能を示し、実施例1よりも初期の画像評価は高いものであった。ただし、捲縮糸の強度が0.9cN/dtexと低く、実施例1に比べて耐久性が低下し、印刷回数とともにトナー清掃性がやや低下した。
【0066】
比較例1および比較例2
カーボンブラックの含有量を10重量%および45重量%にした以外は、実施例1と同様の方法で評価し、比較例1および比較例2の捲縮糸を得た。比較例1の平均抵抗率は1013Ω/cmであり、平均抵抗率が高すぎて、除電性能を得ることができなかった。また比較例2は、カーボンブラックの含有量が多いために曳糸性が悪く、紡糸の際に糸切れが多発して引き取ることができなかった。
【0067】
実施例4
非導電層としてポリエチレンテレフタレート(表中、「PET」と記載)(融点255℃)を用いて、紡糸温度を285℃にした以外は、実施例1と同様の方法で評価した。ポリトリメチレンテレフタレートの融点228℃に比べて、約60℃高い温度で紡糸したため、曳糸性が低下して糸切れが実施例1に比べてやや多いものであった。得られた導電糸のESR値は0.35であり、異常放電跡が若干認められた。
【0068】
比較例3
導電層のマトリックスポリマーとして共重合ポリエチレンテレフタレート(融点255℃)、非導電層としてポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を用いて、紡糸温度を285℃にした以外は、実施例1と同様の方法で評価した。導電層での共重合ポリエチレンテレフタレートとカーボンブラックの親和性が悪いため、曳糸性が低下し、紡糸の際に糸切れが多発した。導電性のばらつきを示すESR値は0.60であり、これに伴い、画像が不鮮明であり、スジ斑が目立った。
【0069】
比較例4
導電層のマトリックスポリマーとしてポリブチレンテレフタレート(表中、「PBT」と記載)(融点225℃)、非導電層としてポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を用いて、紡糸温度を295℃にした以外は、実施例1と同様の方法で評価した。比較例4は、曳糸性が低く糸切れが多発した。得られた捲縮糸のESR値は0.52であり、これに伴い、画像が不鮮明であり、スジ斑が目立った。
【0070】
比較例5
実施例1と同様の方法で得た未延伸糸を供給ローラー−第1ホットローラー−第2ホットローラー−ドローローラーの4ローラー延伸機を用いて、延伸速度500m/分、第1ホットローラー80℃、第2ホットローラー140℃、第1ホットローラー−第2ホットローラー間での延伸倍率1.4倍(NDR×1.05)、第2ホットローラー−ドローローラー間でのリラックス率2%で弛緩処理して延伸し、延伸糸を得た。該延伸糸のCR値は2%であった。実施例1と同様にブラシ加工して評価したところ、糸同士の会合が見られた。初期画像は比較的鮮明であったが、2万枚印刷後、画像が不鮮明になり、スジ斑が目立つようになった。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例5
芯鞘複合比率を15/85にした以外は、実施例1と同様の方法で評価した。得られた捲縮糸の平均抵抗率は10Ω/cm、強度は1.6cN/dtexであった。実施例1と同様、印刷初期から2万枚まで印刷の鮮明性、トナー清掃性は変わらず優れていた。
【0073】
実施例6
非導電層を含まずに、導電層のみから構成される単独糸とし、単独紡糸に適した口金と紡糸機を用いて紡糸した以外は、実施例1と同様の方法で評価した。平均抵抗率は10Ω/cm、強度は1.4cN/dtex、ESR値は0.40であった。これに伴い、異常放電跡は見られないが、画像がやや不鮮明であった。実施例1に比べて強度が若干低く、耐久性が低下し、印刷回数とともにトナー清掃性がやや低下した。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例7〜9
仮撚加工での第1ヒーター20温度を110℃、95℃、90℃にした以外は実施例1と同様の方法で評価し、実施例7〜9の捲縮糸を得た。実施例7の沸騰水収縮率は10%、CR値は13%であった。初期画像は鮮明均一であったが、2万枚印刷後、異常放電跡は認められないが、画像がやや不鮮明であった。実施例8の沸騰水収縮率は15%、CR値は9.5%であった。実施例1に比べて、収縮後の平均抵抗率が低下することから、2万枚印刷後、異常放電跡は認められないが、画像がやや不鮮明であった。実施例9の沸騰水収縮率は17%、CR値は8.0%であった。得られた捲縮糸をブラシ加工して評価したところ、比較例5ほどではないが、糸同士の会合が若干見られた。さらに収縮後の平均抵抗率が大幅に低下することから、初期画像は比較的鮮明であったが、2万枚印刷後、異常放電跡が若干認められた。
【0076】
実施例10
実施例1と同様の方法で得た未延伸糸を、加工倍率(延伸ローラー24と供給ローラー19の周速度比)1.4倍(NDR×1.05)、D/Y比1.4にした以外は実施例1と同様の方法で評価し、CR値38%の捲縮糸を得た。実施例1と同様、印刷初期から2万枚まで印刷の鮮明性、トナー清掃性は変わらず優れていた。
【0077】
実施例11
仮撚加工での第1ヒーター20温度を110℃、加工倍率(延伸ローラー24と供給ローラー19の周速度比)1.1倍(NDR×0.85)、D/Y比1.1にした以外は実施例1と同様の方法で評価し、実施例11の捲縮糸を得た。実施例11のCR値は3.0%であった。得られた捲縮糸をブラシ加工して評価したところ、実施例9よりも糸同士の会合が若干見られた。実施例1に比べて捲縮特性の低い導電糸であったため、初期画像は比較的鮮明であったが、2万枚印刷後、異常放電跡が若干認められた。
【0078】
実施例12
仮撚加工での第1ヒーター20温度を120℃、加工倍率(延伸ローラー24と供給ローラー19の周速度比)1.1倍(NDR×0.85)、D/Y比1.1にした以外は実施例1と同様の方法で評価し、実施例12の捲縮糸を得た。実施例12のCR値は5.0%であった。得られた捲縮糸をブラシ加工して評価したところ、実施例1に比べて捲縮特性の低い導電糸であったため、初期画像は比較的鮮明であったが、2万枚印刷後、異常放電跡が若干認められた。
【0079】
実施例13
仮撚加工での第1ヒーター20温度を120℃にした以外は実施例1と同様の方法で評価し、実施例13の捲縮糸を得た。実施例13のCR値は17%であった。得られた捲縮糸をブラシ加工して評価したところ、実施例1と同様、印刷初期から2万枚まで印刷の鮮明性、トナー清掃性は変わらず優れていた。
【0080】
実施例14
仮撚加工での第1ヒーター20温度を170℃にした以外は実施例1と同様の方法で評価し、実施例14の捲縮糸を得た。実施例14のCR値は29%であった。得られた捲縮糸をブラシ加工して評価したところ、実施例1と同様、印刷初期から2万枚まで印刷の鮮明性、トナー清掃性は変わらず優れていた。
【0081】
実施例15
仮撚加工での第1ヒーター20温度を180℃、加工倍率(延伸ローラー24と供給ローラー19の周速度比)1.4倍(NDR×1.05)、D/Y比1.4にした以外は実施例1と同様の方法で評価し、実施例15の捲縮糸を得た。実施例15のCR値は44%であった。実施例15はブラシ加工は可能であったが、ブラシの品位が悪かった。また、印刷初期から2万枚まで印刷の鮮明性、トナー清掃性はやや劣っていたものの実用上問題のないレベルであった。
【0082】
実施例16
仮撚加工での第1ヒーター20温度を180℃、加工倍率(延伸ローラー24と供給ローラー19の周速度比)1.5倍(NDR×1.15)、D/Y比1.5にした以外は実施例1と同様の方法で評価し、実施例16の捲縮糸を得た。実施例16はブラシ加工は可能であったが、実施例15よりもブラシの品位が悪かった。また、印刷初期から2万枚まで印刷の鮮明性、トナー清掃性は若干劣っていたものの実用上問題のないレベルであった。
【0083】
【表3】

【0084】
実施例17
繊維横断面における導電層の露出長の比率を20%として、これに適した口金を用いて紡糸した以外は、実施例1と同様の方法で評価した。得られた捲縮糸の断面は図6(c)に示すとおりであった。平均抵抗率は1011Ω/cmであり、実施例1に比べて除電性能がやや劣るものであったが、実用上問題ないレベルであった。
【0085】
実施例18
繊維横断面における導電層の露出長の比率を50%として、これに適した口金を用いて紡糸した以外は、実施例1と同様の方法で評価した。得られた捲縮糸の断面は図6(d)に示すとおりであった。平均抵抗率は10Ω/cmであり、印刷初期から2万枚まで印刷の鮮明性は、比較的良好であった。
【0086】
【表4】

【0087】
実施例19〜21
芯鞘複合比率を30/70、70/30、90/10にした以外は、実施例1と同様の方法で評価し、実施例19〜21の捲縮糸を得た。実施例19は、導電層の平均厚さが4μm、平均抵抗率10Ω/cm、強度2.2cN/dtexであった。実施例1と同様、優れた除電性能を有し、印刷初期から2万枚まで印刷の鮮明性、トナー清掃性は変わらず優れていた。実施例20は、導電層の平均厚さが1.5μm、平均抵抗率10Ω/cmであった。実施例1に比べて除電性能がやや劣るものであったが、実用上問題ないレベルであった。実施例21は、導電層の平均厚さが0.5μm、平均抵抗率10Ω/cmであり、実施例1に比べて除電性能がやや劣るものであったが、実用上問題ないレベルであった。実施例1および19〜21の導電糸において、導電層の厚さと平均抵抗率との関係を図1に示す。導電層が厚いほど、厚さの変化による平均抵抗率変化が小さくなる傾向があった。
【0088】
実施例22
導電層に用いるカーボンブラックとして、電気化学工業(株)製アセチレンブラック、比抵抗値0.2(Ω・cm)、平均粒径40nm、ジブチルフタレート吸収量180cm/100g)にした以外、実施例1と同様の方法で評価した。得られた捲縮糸の平均抵抗率は10Ω/cm、であり、実施例1と同様、印刷初期から2万枚まで印刷の鮮明性、トナー清掃性は変わらず優れていた。
【0089】
実施例23
導電層に用いるカーボンブラックとして、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックEC、比抵抗値0.2(Ω・cm)、平均粒径38nm、ジブチルフタレート吸収量405cm/100g)にした以外、実施例1と同様の方法で評価した。実施例23は曳糸性が低下して、糸切れが実施例1に比べてやや多いものであった。得られた捲縮糸の平均抵抗率は10Ω/cm、ESR値は0.40であり、異常放電跡は認められないが、画像がやや不鮮明であった。
【0090】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明で得られた捲縮糸の導電層の平均厚さと平均抵抗率との関係を示す図である。
【図2】実施例F項で記載の定張力伸長域伸度を説明するための図である。
【図3】本発明で好ましく用いられる紡糸装置の概略図である。
【図4】本発明の複合糸を製造するために好ましく用いられる口金の縦断面図、及び口金合わ せ面の横断面図である。
【図5】本発明で好ましく用いられる仮撚加工装置の概略図である。
【図6】本発明の好ましい断面形状の態様を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1:A成分ホッパー
1’:B成分ホッパー
2:A成分押出混練機(エクストルーダー)
2’:B成分押出混練機(エクストルーダー)
3:計量ポンプ
4:紡糸ブロック
5:紡糸パック
6:口金
7:冷却装置
8:糸条
9:給油ガイド
10:交絡装置
11:第1ゴデットローラー
12:第2ゴデットローラー
13:巻取機
14:巻取糸パッケージ
15:糸条
16〜18:糸道ガイド
19:供給ローラー
20:第1ヒーター
21:糸道ガイド
22:冷却板
23:施撚体
24:延伸ローラー
25:糸道ガイド
26:捲縮糸パッケージ
A:非導電層
B:導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックを含有した、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートであるポリエステルからなる導電層が繊維表面の少なくとも一部を形成した繊維から構成されたマルチフィラメントであって、該マルチフィラメントは捲縮が付与されており、かつ糸長さ方向の平均抵抗率Pが10〜1012Ω/cmであることを特徴とする導電糸。
【請求項2】
糸長さ方向の平均抵抗率Pと、その抵抗率の標準偏差Qとの比ESR(ESR=Q/P)が、0.5以下であることを特徴とする請求項1記載の導電糸。
【請求項3】
沸騰水収縮率が0〜15%であることを特徴とする請求項1または2記載の導電糸。
【請求項4】
CR値が3〜50%であることを特徴とする請求項3記載の導電糸。
【請求項5】
繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率が80%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の導電糸。
【請求項6】
鞘部が導電層であり、芯部が非導電層である芯鞘複合構造を有する繊維であって、非導電層が繊維形成性ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の導電糸。
【請求項7】
導電層の平均厚さが1μm以上であることを特徴とする請求項6記載の導電糸。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の導電糸を少なくとも一部に用いたブラシ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項記載の導電糸を少なくとも一部に用いた布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−106414(P2008−106414A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228978(P2007−228978)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】