説明

導電膜およびその製造方法、ならびに導電膜を用いたトランスデューサ、フレキシブル配線板、および電磁波シールド

【課題】 軟らかく伸縮可能であって、伸長時にも電気抵抗が増加しにくい導電膜およびその製造方法を提供する。また、柔軟で耐久性に優れたトランスデューサ、フレキシブル配線板、および電磁波シールドを提供する。
【解決手段】 導電膜は、エラストマーと、金属ファイバーと、を含む。金属ファイバーの長手方向長さは1μm以上、短手方向長さは600nm以下、アスペクト比は10以上であり、金属ファイバーの含有量は、導電膜の体積を100vol%とした場合の45vol%以下である。導電膜は、化学還元法により合成された金属ファイバーを、湿潤状態で、エラストマー成分のゴムポリマーを溶解可能な溶剤に分散させた金属ファイバー分散液と、ゴムポリマーを含むゴム組成物と、を混合した導電塗料から形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮可能な電極、配線等に好適な導電膜およびその製造方法、ならびに導電膜を用いたトランスデューサ、フレキシブル配線板、および電磁波シールドに関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体エラストマー等の高分子材料を利用して、柔軟性が高く、小型で軽量なトランスデューサの開発が進められている。トランスデューサとしては、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等が挙げられる。例えば、エラストマー製の誘電膜の表裏両面に一対の電極を配置して、アクチュエータを構成することができる。
【0003】
この種のアクチュエータでは、印加電圧の大小により誘電膜が伸縮する。したがって、電極には、誘電膜の伸長、収縮を妨げないように、誘電膜の変形に応じて伸縮可能であることが要求される。加えて、伸長された際に、電気抵抗の変化が小さいことも必要になる。
【0004】
このような観点から、例えば、特許文献1によると、カーボンブラック等の導電材に、オイルやエラストマーを混合したペーストから電極を形成している。また、特許文献2には、エラストマーと、形状の異なる二種類の金属フィラーと、を含む導電膜が開示されている。一方、特許文献3には、液晶ディスプレイやタッチパネルの透明電極として、基板と、金属ナノワイヤーを含む導電層と、を備える透明導電体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−124839号公報
【特許文献2】特開2010−153364号公報
【特許文献3】特表2009−505358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、エラストマーにカーボンブラックを充填した場合、カーボンブラックを高充填したとしても、当該エラストマーの比抵抗は、0.1〜1Ω・cm程度と比較的大きい。このため、カーボンブラックに、エラストマー等のバインダーを混合したペーストから電極や配線を形成すると、電気抵抗が大きくなってしまうという問題がある。電極や配線の電気抵抗が高いと、内部抵抗による発熱で、素子が劣化しやすくなる。また、電極や配線の電気抵抗が高いと、高周波領域におけるリアクタンス成分の発生により、アクチュエータや音響装置の応答性が低下するおそれがある。また、検出信号に対して内部抵抗が高すぎると、センサの分解能が低下するおそれがある。
【0007】
一方、市販の銀ペーストから形成された電極は、柔軟性に乏しい。銀ペーストは、バインダー樹脂に銀粉末が充填されてなる。バインダー自体の弾性率が高いことに加えて、銀粉末が高充填されているため、形成された電極の弾性率は高くなる。このため、大きく伸長されると、クラックが発生し、著しく電気抵抗が増加してしまう。また、銀ペーストからアクチュエータの電極を形成した場合には、電極が誘電膜の伸縮に追従できず、誘電膜の動きを阻害するおそれがある。また、音響装置においては、電極が誘電膜の伸縮に追従できないことに加え、伸長時に生じる応力により低周波領域の応答が低下する。
【0008】
また、回路基板の端子間を電気的に接続するために、導電性接着剤等が用いられる。従来の柔軟性に乏しい導電材料を導電性接着剤として用いた場合、伸長時に接着部分に歪みが加わり、導通が失われるおそれがある。よって、柔軟性に乏しい導電材料は、伸縮性を有する配線体の接続には適さない。同様に、柔軟性に乏しい導電材料は、伸縮性を有するデバイスの電磁波シールドにも適さない。
【0009】
また、上記特許文献3に開示された金属ナノワイヤーは、凝集しやすい。このため、マトリックス中に金属ナノワイヤーを充填した場合、充填量が少量では、所望の導電性を得ることができない。ここで、所望の導電性を実現するために、金属ナノワイヤーを多量に充填すると、導電層の弾性率が高くなる。つまり、導電層の柔軟性が低下する。したがって、伸長時にクラックが生じやすく、電気抵抗の増加を招く。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、軟らかく伸縮可能であって、伸長時にも電気抵抗が増加しにくい導電膜、およびその製造方法を提供することを課題とする。また、柔軟で耐久性に優れたトランスデューサ、フレキシブル配線板、および電磁波シールドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記課題を解決するため、本発明の導電膜は、エラストマーと、金属ファイバーと、を含む導電膜であって、該金属ファイバーの長手方向長さは1μm以上、短手方向長さは600nm以下、アスペクト比は10以上であり、該金属ファイバーの含有量は、導電膜の体積を100vol%とした場合の45vol%以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の導電膜は、ファイバー状の導電材(金属ファイバー)を含む。このため、球状、扁平状等の他の形状の導電材を用いた場合と比較して、導電材同士の接触点が多い。よって、導電膜が伸長されても、導電材の接触状態が維持されやすい。したがって、伸縮が繰り返された場合にも、導電性は低下しにくい。
【0013】
また、本発明の導電膜においては、金属ファイバーの大きさを規定することにより、金属ファイバーの含有量が比較的少量でも、所望の導電性を得ることができる。すなわち、金属ファイバーの長手方向長さは1μm以上、短手方向長さは600nm以下、アスペクト比は10以上である。本明細書において、金属ファイバーの短手方向長さは、金属ファイバーの長手方向に垂直な方向の最大長さを意味する。以下、長手方向長さを単に「長さ」と、短手方向長さを「太さ」と称する場合がある。また、アスペクト比は、金属ファイバーの短手方向長さに対する長手方向長さの比(長手方向長さ/短手方向長さ)である。
【0014】
金属ファイバーの長さが比較的長いため、金属ファイバー同士が互いに接触しやすい。つまり、導電経路が形成されやすい。また、金属ファイバーの太さが比較的細いため、導電膜の単位重量当たりの金属ファイバーの個数を、多くすることができる。加えて、アスペクト比が比較的大きいため、導電経路が形成されやすく、導電経路の数も多くなる。したがって、伸縮が繰り返された場合にも、導電性は低下しにくい。
【0015】
このように、本発明の導電膜には、比較的少量の金属ファイバーにより、導電経路が効率良く形成されている。したがって、本発明によると、柔軟で導電性が高く、伸長時にも電気抵抗が増加しにくい導電膜を実現することができる。
【0016】
(2)また、上記本発明の導電膜の製造方法は、金属化合物、および該金属化合物の還元能を有する還元剤を含む溶液中で、長手方向長さが1μm以上、短手方向長さが600nm以下、アスペクト比が10以上の金属ファイバーを合成する金属ファイバー合成工程と、合成された該金属ファイバーを、湿潤状態で、エラストマー成分のゴムポリマーを溶解可能な溶剤に分散させて金属ファイバー分散液を調製する金属ファイバー分散液調製工程と、該金属ファイバー分散液と、該ゴムポリマーを含むゴム組成物と、を混合して導電塗料を調製し、該導電塗料を塗布、乾燥させて導電膜を形成する導電膜形成工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の導電膜の製造方法においては、公知の化学還元法を利用して、所定の大きさの金属ファイバーを合成する。化学還元法の一例としては、Yugang Sun et al.,Chem.Mater.2002,14,4736−4745に記載された銀ナノワイヤーの合成方法が挙げられる。通常、化学還元法によると、合成した金属ファイバーを、溶液からろ別した後、乾燥して、粉体として得る。このため、導電塗料を調製する場合には、金属ファイバーを粉体の状態で、ゴム組成物に混合することになる。しかし、本発明の導電膜に用いる金属ファイバーの太さは、600nm以下と細い。このため、金属ファイバーが、凝集しやすい。よって、導電塗料中に、金属ファイバーを均一に分散させることは難しい。
【0018】
この点、本発明の導電膜の製造方法によると、合成された金属ファイバーを、完全に乾燥させずに湿潤状態で溶剤に分散させて、予め金属ファイバー分散液を調製しておく。そして、金属ファイバー分散液をゴム組成物に混合して、導電塗料を調製する。こうすることにより、金属ファイバーの凝集を抑制し、導電塗料中に金属ファイバーを均一に分散させることができる。したがって、形成される導電膜においても、金属ファイバーを均一に分散させることができる。その結果、導電経路を効率良く形成することができる。このように、本発明の製造方法によると、上記本発明の導電膜を容易に製造することができる。
【0019】
(3)また、本発明のトランスデューサは、エラストマー製の誘電膜と、該誘電膜を介して配置されている複数の電極と、複数の該電極と各々接続されている配線と、を備え、該電極および該配線の少なくとも一方は、上記本発明の導電膜からなることを特徴とする。
【0020】
トランスデューサは、ある種類のエネルギーを他の種類のエネルギーに変換する装置である。上述したように、トランスデューサには、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等が含まれる。本発明のトランスデューサによると、電極および配線の少なくとも一方が、上記本発明の導電膜からなる。よって、電極や配線が形成されている部材が変形した場合には、電極や配線が当該変形に追従して伸縮する。このため、トランスデューサの動きが、電極や配線により妨げられにくい。また、本発明の導電膜から形成された電極、配線においては、伸長時の導電性の低下は少なく、繰り返し伸縮した場合でも、内部抵抗による発熱が少ない。よって、本発明のトランスデューサは耐久性に優れる。
【0021】
(4)また、本発明のフレキシブル配線板は、弾性部材と、該弾性部材の表面に配置されている配線と、を備え、該配線の少なくとも一部は、上記本発明の導電膜からなることを特徴とする。
【0022】
本発明のフレキシブル配線板によると、弾性部材の変形に追従して配線が伸縮する。配線が伸長しても、導電性の低下は少なく、伸縮を繰り返した場合でも、内部抵抗による発熱が少ない。よって、本発明のフレキシブル配線板は耐久性に優れる。
【0023】
(5)また、本発明の電磁波シールドは、上記本発明の導電膜からなることを特徴とする。
【0024】
本発明の導電膜は、ゴムポリマー等の原料を所定の溶剤に溶解した導電塗料から、製造することができる。したがって、本発明の導電膜を、電磁波を遮蔽したい様々な部位に形成して、電磁波シールドとして用いることができる。上述したように、本発明の導電膜においては、柔軟で導電性が高く、伸長時にも電気抵抗が増加しにくい。したがって、本発明の電磁波シールドは、伸縮性を有するデバイスに好適である。
【0025】
さらに、本発明の導電膜は、導電性接着剤としても好適である。上述したように、本発明の導電膜によると、金属ファイバーの含有量が比較的少量でも、所望の導電性が得られる。金属ファイバーの含有量が少ないため、エラストマーの粘着性を阻害しにくい。したがって、本発明の導電膜は、伸縮性を有するデバイスや、歪が加わる部位を電気的に接続するための導電性接着剤として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のトランスデューサの第一実施形態であるアクチュエータの断面模式図であって、(a)は電圧オフ状態、(b)は電圧オン状態を示す。
【図2】本発明のトランスデューサの第二実施形態である静電容量型センサの上面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】本発明のトランスデューサの第三実施形態である発電素子の断面模式図であって、(a)は伸長時、(b)は収縮時を示す。
【図5】本発明のトランスデューサの第四実施形態であるスピーカの斜視図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【図7】本発明のフレキシブル配線板の上面透過図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の導電膜、その製造方法、トランスデューサ、フレキシブル配線板、電磁波シールドの各実施形態について説明する。なお、本発明の導電膜、その製造方法、トランスデューサ、フレキシブル配線板、電磁波シールドは、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0028】
<導電膜>
本発明の導電膜は、エラストマーと金属ファイバーとを含む。エラストマーは、室温でゴム状弾性を有するものであればよい。例えば、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下のエラストマーは、柔軟なため好適である。また、Tgが低くなると、結晶性が低下するため、エラストマーの破断伸びが大きくなる。つまり、より伸長しやすくなる。加えて、エラストマーの粘性が高くなるため、導電膜に粘着性を付与することができる。導電膜が粘着性を有すると、基材との接着性が向上する。例えば、弾性部材の表面に形成された導電膜の接着性が充分でない場合、弾性部材の引張特性が低下するおそれがある。また、歪が繰り返し加わると、導電膜が弾性部材から剥離して、機械的信頼性、電気的信頼性が低下するおそれがある。また、弾性部材と導電膜との間にボイドが入るなどして、絶縁破壊を招くおそれがある。したがって、エラストマーのTgは、−20℃以下、さらには−35℃以下であることが望ましい。本明細書では、ガラス転移温度として、JIS K7121(1987)に準じて測定した中間点ガラス転移温度を採用する。
【0029】
また、エラストマーは、水素結合可能な官能基や構造を有するものが望ましい。例えば、水素結合可能な官能基は、金属ファイバーに対する親和性が高い。このため、エラストマーと金属ファイバーとの界面剥離が起こりにくい。したがって、伸長された場合でも、導電膜にクラックが発生しにくく、電気抵抗も増加しにくい。水素結合可能な官能基としては、例えば、エステル基、ウレタン結合、ウレア結合、ハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、エーテル結合等が挙げられる。なかでも、エステル基を有するものが望ましい。
【0030】
エラストマーとしては、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。例えば、アクリルゴム、ウレタンゴム、ヒドリンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレン−プロピレンゴム、フッ素ゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、熱可塑性エラストマー等が好適である。なかでも、アクリルゴムは、結晶性が低く分子間力が弱いため、他のゴムと比較してTgが低い。よって、柔軟で伸びがよく、アクチュエータの電極等に好適である。アクリルゴムとしては、炭素数4以上のアルキル基を有するアクリル酸エステルモノマー単位を50mol%以上含むものが望ましい。アルキル基が大きい(炭素数が多い)と、結晶性が低下するため、アクリルゴムの弾性率がより低くなる。
【0031】
本発明の導電膜は、可塑剤、加工助剤、架橋剤、架橋促進剤、架橋助剤、老化防止剤、腐食抑制剤、軟化剤、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。例えば、腐食抑制剤を添加すると、金属ファイバーの酸化や硫化等の腐食を抑制することができる。腐食抑制剤としては、例えば、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾテトラゾール、(2−ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、およびこれらの化合物の塩等を用いることができる。特に、短手方向長さが100nm以下の金属ファイバーは、酸化、硫化されやすい。よって、このような細い金属ファイバーを採用する場合には、腐食抑制剤を添加することが望ましい。また、可塑剤、軟化剤を添加すると、エラストマーの加工性が向上すると共に、柔軟性をより向上させることができる。可塑剤は、エラストマーとの相溶性に優れるものであればよい。例えば、公知のフタル酸ジエステル等の有機酸誘導体、リン酸トリクレジル等のリン酸誘導体、アジピン酸ジエステル、塩素化パラフィン、ポリエーテルエステル等を使用することができる。軟化剤としては、植物系軟化剤や、鉱物系軟化剤を使用すればよい。植物系軟化剤としては、ステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸、パルミチン酸、綿実油、大豆油、ひまし油、パーム油、パインタール油、トール油、ファクチス等が挙げられる。鉱物系軟化剤としては、パラフィン系、ナフテン系、アロマ系のオイルが挙げられる。
【0032】
また、架橋反応に寄与する架橋剤、架橋促進剤、架橋助剤等については、エラストマーの種類等に応じて、適宜決定すればよい。架橋剤等として、硫黄や硫黄化合物、あるいは有機過酸化物を用いると、金属ファイバーが酸化されたり硫化されるおそれがある。これにより、金属ファイバーの表面の電気抵抗が増加して、導電性が低下するおそれがある。したがって、エラストマーの架橋には、硫黄、硫黄化合物、および有機過酸化物のいずれも使用しないことが望ましい。すなわち、本発明の導電膜は、硫黄、硫黄化合物、有機過酸化物のいずれも含まない態様が望ましい。この場合、エラストマーとしては、硫黄、硫黄化合物、および有機過酸化物のいずれも用いずに架橋された架橋ゴム、および熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を採用すればよい。
【0033】
金属ファイバーの材質は、特に限定されない。導電性がカーボンブラックより高く、腐食しにくいという観点から、例えば、銀、金、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、クロム、チタン、白金、鉄、錫、アルミニウム、およびこれらの合金等から適宜選択すればよい。なかでも銀は、電気抵抗が小さく、比較的安価なため好適である。金属ファイバーとしては、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
金属ファイバーの長手方向長さは1μm以上、短手方向長さは600nm以下、アスペクト比が10以上である。長手方向長さが1μm未満の場合には、金属ファイバー同士が接触しにくい。よって、導電経路が形成されにくい。また、金属ファイバーの長さが短いため、単位区間当たりの接触点が増加する。このため、接触抵抗が増加して、導電性の低下を招く。また、導電経路の数が少ないため、伸縮が繰り返された場合に、導通状態を維持することは難しい。一方、金属ファイバーの長さが長すぎると、金属ファイバー同士の絡み合いにより、導電膜中における分散性が低下する。このため、金属ファイバーの長さは、100μm以下であることが望ましい。
【0035】
金属ファイバーの短手方向長さが600nmを超えると、つまり、金属ファイバーの太さが太くなると、導電膜の単位重量当たりの金属ファイバーの個数が、少なくなる。よって、導電経路が形成されにくい。また、導電経路の数が少ないため、伸縮が繰り返された場合に、導通状態を維持することは難しい。なお、導電経路を確保するため、金属ファイバーの含有量を増加させると、その分、エラストマーの体積割合が低下する。これにより、導電膜の柔軟性が低下する。
【0036】
金属ファイバーのアスペクト比が10未満の場合には、金属ファイバー同士が重なり合う面積が小さくなる。よって、導電経路が形成されにくく、導電経路の数も少なくなる。このため、伸長時に電気抵抗が増加しやすい。
【0037】
本発明の導電膜における金属ファイバーの含有量は、導電膜の体積を100vol%とした場合の45vol%以下である。金属ファイバーの大きさを規定することにより、本発明の導電膜は、金属ファイバーの含有量が比較的少なくても、高い導電性を有する。導電膜の柔軟性をより向上させるという観点から、金属ファイバーの含有量を25vol%以下、さらには15vol%以下とすることが望ましい。
【0038】
本発明の導電膜の厚さは、用途に応じて適宜決定すればよい。導電経路を多く形成するという観点から、導電膜の厚さは、金属ファイバーの短手方向長さの5倍以上であるとよい。
【0039】
本発明の導電膜は、金属ファイバー分散液と、エラストマー成分のゴムポリマーを含むゴム組成物と、を混合した導電塗料を基材に塗布し、加熱により乾燥させて製造されることが望ましい。この場合、加熱時に、ゴムポリマーの架橋反応を進行させてもよい。ここで、金属ファイバー分散液は、化学還元法により合成された金属ファイバーを、完全に乾燥させずに湿潤状態で、ゴムポリマーを溶解可能な溶剤に分散させたものである。また、ゴム組成物は、ゴムポリマーおよび必要に応じて配合される添加剤を混練した混練物、あるいは、ゴムポリマーおよび必要に応じて配合される添加剤を溶剤に溶解した溶液である。
【0040】
金属ファイバーの合成方法としては、エラストマーにおける金属ファイバーの分散性を考慮して、湿式法が望ましい。ここで、金属化合物を還元する還元剤としては、アルコール、ポリオール、アルコールアミン、水素化ホウ素アルカリ金属、水素化ホウ素4級アンモニウム塩、クエン酸、ヒドラジン等が挙げられる。また、合成の際には、還元により生成した金属粒子の核を起点として、金属粒子をファイバー状に成長させる成長調整剤を用いることが、望ましい。本発明の導電膜の好適な製造方法については、後に詳しく説明する。
【0041】
また、本発明の導電膜は、用途に応じて、基材の表面に形成すればよい。基材としては、例えばポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等からなる屈曲性を有する樹脂フィルム等が挙げられる。また、本発明の導電膜を、エラストマー製の弾性部材の表面に形成した場合には、柔軟性が高く、伸長時にも電気抵抗が増加しにくいという効果を、より発揮させることができる。弾性部材には、トランスデューサにおける誘電膜や、フレキシブル配線板における基材等が含まれる。薄膜状の弾性部材は、例えば、弾性部材を形成するための塗料を、離型性を有する基材上に塗工した後、所望の形状に切り取って剥離することにより、製造することができる。
【0042】
弾性部材についても、導電膜と同様に、硫黄、硫黄化合物、および有機過酸化物のいずれも含まない態様が望ましい。したがって、弾性部材のエラストマーとしては、硫黄、硫黄化合物、および有機過酸化物のいずれも用いずに架橋された架橋ゴム、および熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を採用すればよい。弾性部材のエラストマーは、導電膜のエラストマーと同じでもよく、異なっていてもよい。
【0043】
<導電膜の製造方法>
本発明の導電膜の製造方法は、金属ファイバー合成工程と、金属ファイバー分散液調製工程と、導電膜形成工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0044】
(1)金属ファイバー合成工程
本工程は、金属化合物、および該金属化合物の還元能を有する還元剤を含む溶液中で、長手方向長さが1μm以上、短手方向長さが600nm以下、アスペクト比が10以上の金属ファイバーを合成する。
【0045】
本工程においては、公知の化学還元法を利用して、所定の大きさの金属ファイバーを合成する。金属化合物は、合成する金属ファイバーの種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、銀、金、ニッケル等の硝酸化物、炭酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸化物等が挙げられる。銀ファイバーを合成する場合、溶剤に溶解しやすく還元されやすいという観点から、硝酸銀が好適である。
【0046】
還元剤は、金属化合物の還元能を有すればよく、反応温度や金属化合物の種類等に応じて、適宜選択すればよい。例えば、アルコール、ポリオール、アルコールアミン、水素化ホウ素アルカリ金属、水素化ホウ素4級アンモニウム塩、クエン酸、ヒドラジン等が挙げられる。なかでも、アルコールやポリオールが好適である。アルコールやポリオールを用いると、金属ファイバーの太さや長さを制御しやすい。また、安全性も高い。さらに、アルコールやポリオールは、金属化合物を分散させる溶媒としての役割も果たす。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等が好適である。
【0047】
例えば、本工程を、金属化合物の還元能を有する還元剤、および金属粒子の核を生成する核生成剤を含む第一溶液と、該金属化合物、および生成された該核を起点として該金属粒子をファイバー状に成長させる成長調整剤を含む第二溶液と、を調製し、該第二溶液を該第一溶液に滴下して、上記金属ファイバーを合成するように構成することが望ましい。
【0048】
核生成剤は、還元された金属粒子の核を生成させる役割を果たす。核生成剤として、金属塩化物を用いると、金属ファイバーの長さや太さを制御しやすい。このため、目的の大きさの金属ファイバーを、容易に得ることができる。なかでも、溶液中に金属粒子の核を安定して生成することができるという観点から、塩化白金、塩化銅が好適である。
【0049】
成長調整剤は、生成された金属粒子の核を起点として、金属粒子をファイバー状に成長させる役割を果たす。例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等が挙げられる。成長調整剤の含有量、分子量等により、合成される金属ファイバーの大きさが変化する。例えば、成長調整剤としてポリビニルピロリドンを用いる場合には、ポリビニルピロリドンを、金属化合物に対して、モル比で2以上20以下配合することが望ましい。ポリビニルピロリドンの含有量が多過ぎると、過剰量のポリビニルピロリドンが、生成した核を覆ってしまう。このため、金属粒子の成長が等方的になり、ファイバー状になりにくい。一方、ポリビニルピロリドンの含有量が少な過ぎても、成長中の金属粒子を充分に覆うことができないため、金属粒子がファイバー状になりにくい。
【0050】
また、ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、10,000以上360,000以下であることが望ましい。ポリビニルピロリドンの重量平均分子量が小さいと、金属ファイバーの太さが太くなる。金属ファイバーが太くなると、導電膜の単位重量当たりの金属ファイバーの個数が、少なくなる。このため、伸長時に導電経路が減少しやすく、電気抵抗が増加しやすい。一方、ポリビニルピロリドンの重量平均分子量が大きいと、金属ファイバーの太さが細くなる。金属ファイバーが細くなると、導電膜の単位重量当たりの金属ファイバー個数が、多くなる。このため、伸長時に導電経路が減少しにくく、電気抵抗が増加しにくい。但し、金属ファイバーが細くなりすぎると、表面酸化による導電性の低下が大きくなったり、エラストマー中への分散が困難になる。
【0051】
第二溶液の溶媒には、金属化合物および成長調整剤を分散可能な溶剤を用いればよい。第一溶液の還元剤による還元作用を阻害しないという観点から、第二溶液の溶媒としては、金属化合物の還元能を有する溶剤を用いることが望ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。溶剤の種類は、第一溶液の溶媒と同じでも異なっていてもよい。第一溶液に対する第二溶液の滴下速度によっても、合成される金属ファイバーの大きさが変化する。したがって、所望の大きさの金属ファイバーが合成されるよう、第二溶液の滴下速度を、適宜調整することが望ましい。
【0052】
第一溶液は、予め加熱しておくことが望ましい。具体的には、金属化合物の還元反応が進行しやすいという観点から、第一溶液の温度を、60℃以上180℃以下にしておくとよい。また、第二溶液の滴下も、当該加熱温度を保持した状態で行うことが望ましい。そして、第二溶液を第一溶液に滴下した後は、その温度を保ったまま、溶液を所定時間攪拌して、金属ファイバーを成長させることが望ましい。攪拌時間が短いと、金属ファイバーの長さが短くなりやすい。
【0053】
(2)金属ファイバー分散液調製工程
本工程は、合成された金属ファイバーを、湿潤状態で、エラストマー成分のゴムポリマーを溶解可能な溶剤に分散させて金属ファイバー分散液を調製する工程である。
【0054】
本工程においては、まず、金属ファイバーの合成反応が終了した溶液をろ過して、溶液から金属ファイバーを取り出す。次に、取り出した金属ファイバーを、乾燥させずに湿潤状態で、溶剤に分散させる。溶剤は、導電膜の母材となるエラストマー成分のゴムポリマーを溶解可能なものであればよい。例えば、エラストマーとしてアクリルゴムを用いる場合、アクリルゴムポリマーを溶解可能な溶剤としては、ブトキシエチルアセテート、ブトキシエトキシエチルアセテート、メチルエチルケトン、トルエン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。このようにして、金属ファイバー分散液が調製される。
【0055】
(3)導電膜形成工程
本工程は、調製された金属ファイバー分散液と、ゴムポリマーを含むゴム組成物と、を混合して導電塗料を調製し、該導電塗料を塗布、乾燥させて導電膜を形成する工程である。
【0056】
ゴム組成物は、ゴムポリマーおよび必要に応じて配合される添加剤を混練した混練物でも、ゴムポリマーおよび必要に応じて配合される添加剤を溶剤に溶解した溶液でもよい。金属ファイバー分散液と混合しやすく、導電塗料中に金属ファイバーを均一に分散させやすいという理由から、ゴム組成物は、ゴムポリマー等が溶解された溶液であることが望ましい。添加剤としては、可塑剤、加工助剤、架橋剤、架橋促進剤、架橋助剤、老化防止剤、腐食抑制剤、軟化剤、着色剤等が挙げられる。添加剤は、必要に応じて配合すればよい。
【0057】
導電塗料の塗布方法は、公知の種々の方法を採用することができる。例えば、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、リソグラフィー等の印刷法の他、ディップ法、スプレー法、バーコート法等が挙げられる。例えば、印刷法を採用すると、塗布する部分と塗布しない部分との塗り分けを、容易に行うことができる。また、大きな面積、細線、複雑な形状の印刷も容易である。印刷法の中でも、高粘度の導電塗料が使用でき、塗膜厚さの調整が容易であるという理由から、スクリーン印刷法が好適である。
【0058】
本工程においては、導電塗料を基材に塗布した後、加熱により乾燥させて導電膜を形成する。加熱時に、ゴムポリマーの架橋反応を進行させてもよい。
【0059】
<トランスデューサ>
本発明のトランスデューサは、エラストマー製の誘電膜と、該誘電膜を介して配置されている複数の電極と、複数の該電極と各々接続されている配線と、を備える。誘電膜としては、比誘電率の高いエラストマーを用いることが望ましい。具体的には、常温における比誘電率(100Hz)が2以上、さらには5以上のエラストマーが望ましい。例えば、エステル基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アミド基、スルホン基、ウレタン基、ニトリル基等の極性官能基を有するエラストマー、あるいは、これらの極性官能基を有する極性低分子量化合物を添加したエラストマーを採用するとよい。好適なエラストマーとしては、シリコーンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン等が挙げられる。なお、「エラストマー製」とは、誘電膜のベース材料がエラストマーであることを意味する。よって、エラストマー成分の他に、添加剤等の他の成分を含んでいても構わない。
【0060】
誘電膜の厚さは、トランスデューサの用途等に応じて適宜決定すればよい。例えば、アクチュエータの場合、小型化、低電位駆動化、および変位量を大きくする等の観点から、誘電膜の厚さは薄い方が望ましい。この場合、絶縁破壊性等をも考慮して、誘電膜の厚さを、1μm以上1000μm(1mm)以下とすることが望ましい。5μm以上200μm以下とすると、より好適である。
【0061】
電極および配線の少なくとも一方は、上記本発明の導電膜からなる。本発明の導電膜の構成、および製造方法については、上述した通りである。よって、ここでは説明を割愛する。また、本発明のトランスデューサにおいても、上述した本発明の導電膜の好適な態様を採用することが望ましい。以下、本発明のトランスデューサの例として、アクチュエータ、静電容量型センサ、発電素子、およびスピーカの実施形態を説明する。
【0062】
[第一実施形態]
本発明のトランスデューサの第一例として、アクチュエータの実施形態を説明する。図1に、本実施形態のアクチュエータの断面模式図を示す。(a)は電圧オフ状態、(b)は電圧オン状態を各々示す。
【0063】
図1に示すように、アクチュエータ1は、誘電膜10と、電極11a、11bと、配線12a、12bと、を備えている。誘電膜10は、H−NBR製である。電極11aは、誘電膜10の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、電極11bは、誘電膜10の下面の略全体を覆うように、配置されている。電極11a、11bは、各々、配線12a、12bを介して電源13に接続されている。電極11a、11bは、いずれも本発明の導電膜からなる。
【0064】
オフ状態からオン状態に切り替える際は、一対の電極11a、11b間に電圧を印加する。電圧の印加により、誘電膜10の厚さは薄くなり、その分だけ、図1(b)中白抜き矢印で示すように、電極11a、11b面に対して平行方向に伸長する。これにより、アクチュエータ1は、図中上下方向および左右方向の駆動力を出力する。
【0065】
本実施形態によると、電極11a、11bは、柔軟で伸縮可能である。このため、電極11a、11bは、誘電膜10の変形に追従して伸縮することができる。すなわち、誘電膜10の動きが、電極11a、11bにより妨げられにくい。よって、アクチュエータ1によると、より大きな力および変位量を得ることができる。また、電極11a、11bにおいては、伸長されても電気抵抗が増加しにくい。よって、内部抵抗による発熱が少なく、電極11a、11bは、劣化しにくい。したがって、アクチュエータ1は、耐久性に優れる。また、アクチュエータ1の応答性も、良好である。
【0066】
[第二実施形態]
本発明のトランスデューサの第二例として、静電容量型センサの実施形態を説明する。まず、本実施形態の静電容量型センサの構成について説明する。図2に、静電容量型センサの上面図を示す。図3に、図2のIII−III断面図を示す。図2、図3に示すように、静電容量型センサ2は、誘電膜20と、一対の電極21a、21bと、配線22a、22bと、カバーフィルム23a、23bと、を備えている。
【0067】
誘電膜20は、H−NBR製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。誘電膜20の厚さは、約300μmである。
【0068】
電極21aは、長方形状を呈している。電極21aは、誘電膜20の上面に、スクリーン印刷により三つ形成されている。同様に、電極21bは、長方形状を呈している。電極21bは、誘電膜20を挟んで電極21aと対向するように、誘電膜20の下面に三つ形成されている。電極21bは、誘電膜20の下面に、スクリーン印刷されている。このように、誘電膜20を挟んで、電極21a、21bが三対配置されている。電極21a、21bは、本発明の導電膜からなる。
【0069】
配線22aは、誘電膜20の上面に形成された電極21aの一つ一つに、それぞれ接続されている。配線22aにより、電極21aとコネクタ24とが結線されている。配線22aは、誘電膜20の上面に、スクリーン印刷により形成されている。同様に、配線22bは、誘電膜20の下面に形成された電極21bの一つ一つに、それぞれ接続されている(図2中、点線で示す)。配線22bにより、電極21bとコネクタ(図略)とが結線されている。配線22bは、誘電膜20の下面に、スクリーン印刷により形成されている。配線22a、22bは、本発明の導電膜からなる。
【0070】
カバーフィルム23aは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23aは、誘電膜20、電極21a、配線22aの上面を覆っている。同様に、カバーフィルム23bは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23bは、誘電膜20、電極21b、配線22bの下面を覆っている。
【0071】
次に、静電容量型センサ2の動きについて説明する。例えば、静電容量型センサ2が上方から押圧されると、誘電膜20、電極21a、カバーフィルム23aは一体となって、下方に湾曲する。圧縮により、誘電膜20の厚さは小さくなる。その結果、電極21a、21b間のキャパシタンスは大きくなる。このキャパシタンス変化により、圧縮による変形が検出される。
【0072】
次に、本実施形態の静電容量型センサ2の作用効果について説明する。本実施形態によると、誘電膜20、電極21a、21b、配線22a、22b、カバーフィルム23a、23bは、いずれもエラストマー材料からなる。このため、静電容量型センサ2の全体が柔軟であり、伸縮可能である。また、電極21a、21bおよび配線22a、22bは、誘電膜20の変形に追従して変形することができる。さらに、電極21a、21bおよび配線22a、22bについては、導電性が高く、伸長されても電気抵抗が増加しにくい。したがって、静電容量型センサ2の応答性は良好である。なお、本実施形態の静電容量型センサ2には、誘電膜20を狭んで対向する電極21a、21bが、三対形成されている。しかし、電極の数、大きさ、配置等は、用途に応じて、適宜決定すればよい。
【0073】
[第三実施形態]
本発明のトランスデューサの第三例として、発電素子の実施形態を説明する。図4に、本実施形態における発電素子の断面模式図を示す。(a)は伸長時、(b)は収縮時を各々示す。
【0074】
図4に示すように、発電素子3は、誘電膜30と、電極31a、31bと、配線32a〜32cと、を備えている。誘電膜30は、H−NBR製である。電極31aは、誘電膜30の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、電極31bは、誘電膜30の下面の略全体を覆うように、配置されている。電極31aには、配線32a、32bが接続されている。すなわち、電極31aは、配線32aを介して、外部負荷(図略)に接続されている。また、電極31aは、配線32bを介して、電源(図略)に接続されている。電極31bは、配線32cにより接地されている。電極31a、31bは、いずれも本発明の導電膜からなる。
【0075】
図4(a)中白抜き矢印で示すように、発電素子3を圧縮し、誘電膜30を電極31a、31b面に対して平行方向に伸長すると、誘電膜30の膜厚は薄くなり、電極31a、31b間に電荷が蓄えられる。その後、圧縮力を除去すると、図4(b)に示すように、誘電膜30の弾性復元力により誘電膜30は収縮し、膜厚が厚くなる。その際、蓄えられた電荷が配線32aを通して放出される。
【0076】
本実施形態によると、電極31a、31bは、柔軟で伸縮可能である。このため、電極31a、31bは、誘電膜30の変形に追従して伸縮することができる。すなわち、誘電膜30の動きが、電極31a、31bにより妨げられにくい。また、電極31a、31bについては、伸長されても電気抵抗が増加しにくい。このため、繰り返し変形した場合でも、内部抵抗による発熱が少ない。したがって、発電素子3は耐久性に優れる。
【0077】
[第四実施形態]
本発明のトランスデューサの第四例として、スピーカの実施形態を説明する。まず、本実施形態のスピーカの構成について説明する。図5に、本実施形態のスピーカの斜視図を示す。図6に、図5のVI−VI断面図を示す。図5、図6に示すように、スピーカ4は、第一アウタフレーム40aと、第一インナフレーム41aと、第一誘電膜42aと、第一アウタ電極43aと、第一インナ電極44aと、第一振動板45aと、第二アウタフレーム40bと、第二インナフレーム41bと、第二誘電膜42bと、第二アウタ電極43bと、第二インナ電極44bと、第二振動板45bと、八つのボルト460と、八つのナット461と、八つのスペーサ462と、を備えている。
【0078】
第一アウタフレーム40a、第一インナフレーム41aは、各々、樹脂製であって、リング状を呈している。第一誘電膜42aは、H−NBR製であり、円形の薄膜状を呈している。第一誘電膜42aは、第一アウタフレーム40aと第一インナフレーム41aとの間に張設されている。すなわち、第一誘電膜42aは、表側の第一アウタフレーム40aと裏側の第一インナフレーム41aとにより、所定の張力を確保した状態で、挟持、固定されている。第一振動板45aは、樹脂製であって、円板状を呈している。第一振動板45aは、第一誘電膜42aよりも小径である。第一振動板45aは、第一誘電膜42aの表面の略中央に配置されている。
【0079】
第一アウタ電極43aは、リング状を呈している。第一アウタ電極43aは、第一誘電膜42aの表面に貼着されている。第一インナ電極44aも、リング状を呈している。第一インナ電極44aは、第一誘電膜42aの裏面に貼着されている。第一アウタ電極43aと第一インナ電極44aとは、第一誘電膜42aを挟んで、表裏方向に背向している。第一アウタ電極43aと第一インナ電極44aとは、いずれも、本発明の導電膜からなる。また、図6に示すように、第一アウタ電極43aは、端子430aを備えている。第一インナ電極44aは、端子440aを備えている。端子430a、440aには、外部から電圧が印加される。
【0080】
第二アウタフレーム40b、第二インナフレーム41b、第二誘電膜42b、第二アウタ電極43b、第二インナ電極44b、第二振動板45b(以下、「第二部材」と総称する。)の構成、材質、形状は、上記第一アウタフレーム40a、第一インナフレーム41a、第一誘電膜42a、第一アウタ電極43a、第一インナ電極44a、第一振動板45a(以下、「第一部材」と総称する。)の構成、材質、形状と、同様である。また、第二部材の配置は、上記第一部材の配置と、表裏方向に対称である。簡単に説明すると、第二誘電膜42bは、H−NBR製であり、第二アウタフレーム40bと第二インナフレーム41bとの間に張設されている。第二振動板45bは、第二誘電膜42bの表面の略中央に配置されている。第二アウタ電極43bは、第二誘電膜42bの表面に印刷されている。第二インナ電極44bは、第二誘電膜42bの裏面に印刷されている。第二アウタ電極43bと第二インナ電極44bとは、いずれも、本発明の導電膜からなる。第二アウタ電極43bの端子430b、第二インナ電極44bの端子440bには、外部から電圧が印加される。
【0081】
第一部材と第二部材とは、八つのボルト460、八つのナット461により、八つのスペーサ462を介して、固定されている。「ボルト460−ナット461−スペーサ462」のセットは、スピーカ4の周方向に所定間隔ずつ離間して配置されている。ボルト460は、第一アウタフレーム40a表面から第二アウタフレーム40b表面までを貫通している。ナット461は、ボルト460の貫通端に螺着されている。スペーサ462は、樹脂製であって、ボルト460の軸部に環装されている。スペーサ462は、第一インナフレーム41aと第二インナフレーム41bとの間に、所定の間隔を確保している。第一誘電膜42aの中央部裏面(第一振動板45aが配置されている部分の裏側)と、第二誘電膜42bの中央部裏面(第二振動板45bが配置されている部分の裏側)と、は接合されている。このため、第一誘電膜42aには、図6に白抜き矢印Y1aで示す方向に、付勢力が蓄積されている。また、第二誘電膜42bには、図6に白抜き矢印Y1bで示す方向に、付勢力が蓄積されている。
【0082】
次に、本実施形態のスピーカの動きについて説明する。端子430a、440aと端子430b、440bとを介して、第一アウタ電極43aおよび第一インナ電極44aと、第二アウタ電極43bおよび第二インナ電極44bと、には、初期状態(オフセット状態)において、所定の電圧(オフセット電圧)が印加されている。スピーカ4の動作時には、端子430a、440aと端子430b、440bとに、逆位相の電圧が印加される。 例えば、端子430a、440aに、オフセット電圧+1Vが印加されると、第一誘電膜42aのうち、第一アウタ電極43aと第一インナ電極44aとの間に配置されている部分の膜厚が薄くなる。並びに、当該部分が径方向に伸長する。これと同時に、端子430b、440bに逆位相の電圧(オフセット電圧−1V)が印加される。すると、第二誘電膜42bのうち、第二アウタ電極43bと第二インナ電極44bとの間に配置されている部分の膜厚が厚くなる。並びに当該部分が径方向に収縮する。これにより、第二誘電膜42bは、第一誘電膜42aを引っ張りながら、図6に白抜き矢印Y1bで示す方向に、自身の付勢力により弾性変形する。反対に、端子430b、440bにオフセット電圧+1Vが印加され、端子430a、440aに逆位相の電圧(オフセット電圧−1V)が印加されると、第一誘電膜42aは、第二誘電膜42bを引っ張りながら、図6に白抜き矢印Y1aで示す方向に、自身の付勢力により弾性変形する。このようにして、第一振動板45a、第二振動板45bを振動させることにより空気を振動させ、音声を発生させる。
【0083】
次に、本実施形態のスピーカ4の作用効果について説明する。本実施形態によると、第一アウタ電極43a、第一インナ電極44a、第二アウタ電極43b、および第二インナ電極44b(以下適宜、「電極43a、44a、43b、44b」と称す)は、柔軟で伸縮可能である。このため、第一アウタ電極43a、第一インナ電極44aは、第一誘電膜42aの変形に追従して伸縮することができる。同様に、第二アウタ電極43b、および第二インナ電極44bは、第二誘電膜42bの変形に追従して伸縮することができる。すなわち、第一誘電膜42a、第二誘電膜42bの動きが、電極43a、44a、43b、44bにより妨げられにくい。よって、スピーカ4の応答性は、低周波領域においても良好である。また、電極43a、44a、43b、44bについては、伸長されても電気抵抗が増加しにくい。このため、繰り返し変形した場合でも、内部抵抗による発熱が少ない。したがって、スピーカ4は、耐久性に優れる。
【0084】
<フレキシブル配線板>
本発明のフレキシブル配線板は、弾性部材と、該弾性部材の表面に配置されている配線と、を備える。弾性部材の材質は、特に限定されない。例えば、伸縮性を有する材料として、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、イソブチレンイソプレンゴム、各種の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0085】
配線の少なくとも一部は、本発明の導電膜からなる。本発明の導電膜の構成、および製造方法については、上述した通りである。よって、ここでは説明を割愛する。また、本発明のフレキシブル配線板においても、上述した本発明の導電膜の好適な態様を採用することが望ましい。以下、本発明のフレキシブル配線板の実施形態を説明する。
【0086】
まず、本実施形態のフレキシブル配線板の構成について説明する。図7に、本実施形態のフレキシブル配線板の上面透過図を示す。なお、図7中、裏側の電極、配線については細線で示す。図7に示すように、フレキシブル配線板6は、弾性部材60と、表側電極01X〜16Xと、裏側電極01Y〜16Yと、表側配線01x〜16xと、裏側配線01y〜16yと、表側配線用コネクタ61と、裏側配線用コネクタ62と、を備えている。
【0087】
弾性部材60は、ウレタンゴム製であって、シート状を呈している。表側電極01X〜16Xは、弾性部材60の上面に、合計16本配置されている。表側電極01X〜16Xは、各々、帯状を呈している。表側電極01X〜16Xは、各々、X方向(左右方向)に延在している。表側電極01X〜16Xは、Y方向(前後方向)に、所定間隔ごとに離間して、互いに略平行になるように、配置されている。同様に、裏側電極01Y〜16Yは、弾性部材60の下面に、合計16本配置されている。裏側電極01Y〜16Yは、各々、帯状を呈している。裏側電極01Y〜16Yは、各々、Y方向に延在している。裏側電極01Y〜16Yは、X方向に、所定間隔ごとに離間して、互いに略平行になるように、配置されている。図7にハッチングで示すように、弾性部材60を挟んで、表側電極01X〜16Xと裏側電極01Y〜16Yとが交差する部分(重複する部分)により、荷重等を検出する検出部が形成されている。
【0088】
表側配線01x〜16xは、弾性部材60の上面に、合計16本配置されている。表側配線01x〜16xは、各々、線状を呈している。表側配線01x〜16xは、本発明の導電膜からなる。表側配線用コネクタ61は、弾性部材60の左後隅に配置されている。表側配線01x〜16xは、各々、表側電極01X〜16Xの左端と、表側配線用コネクタ61と、を接続している。また、弾性部材60の上面、表側電極01X〜16X、表側配線01x〜16xは、上方から、表側カバーフィルム(図略)により覆われている。
【0089】
裏側配線01y〜16yは、弾性部材60の下面に、合計16本配置されている。裏側配線01y〜16yは、各々、線状を呈している。裏側配線01y〜16yは、本発明の導電膜からなる。裏側配線用コネクタ62は、弾性部材60の左前隅に配置されている。裏側配線01y〜16yは、各々、裏側電極01Y〜16Yの前端と、裏側配線用コネクタ62と、を接続している。また、弾性部材60の下面、裏側電極01Y〜16Y、裏側配線01y〜16yは、下方から、裏側カバーフィルム(図略)により覆われている。
【0090】
表側配線用コネクタ61、裏側配線用コネクタ62には、各々、演算部(図略)が電気的に接続されている。演算部には、表側配線01x〜16xおよび裏側配線01y〜16yから、検出部におけるインピーダンスが入力される。これに基づいて、面圧分布が測定される。
【0091】
次に、本実施形態のフレキシブル配線板6の作用効果について説明する。本実施形態によると、表側配線01x〜16xおよび裏側配線01y〜16yは、各々、柔軟で伸縮可能である。このため、表側配線01x〜16xおよび裏側配線01y〜16yは、弾性部材60の変形に追従して変形することができる。また、表側配線01x〜16xおよび裏側配線01y〜16yについては、伸長されても電気抵抗が増加しにくい。このため、繰り返し変形した場合でも、内部抵抗による発熱が少ない。したがって、フレキシブル配線板6は耐久性に優れる。
【0092】
<電磁波シールド>
本発明の電磁波シールドは、本発明の導電膜からなる。電磁波シールドは、電子機器の内部で発生した電磁波が外部に漏れるのを抑制したり、外部からの電磁波を内部へ侵入させにくくする役割を果たす。例えば、電子機器の筐体の内周面に、電磁波シールドを配置する場合には、本発明の導電膜を形成するための導電塗料を、電子機器の筐体の内周面に塗布し、乾燥させればよい。また、上記トランスデューサの第二実施形態として示した静電容量型センサに、電磁波シールドを配置することもできる。例えば、カバーフィルム23aの上面と、カバーフィルム23bの下面と、を各々覆うように、電磁波シールドを配置すればよい(前出図2、図3参照)。この場合、本発明の導電膜を形成するための導電塗料を、カバーフィルム23aの上面およびカバーフィルム23bの下面に塗布し、乾燥させればよい。さらに、電子機器の隙間にガスケットとして配置する場合には、本発明の導電膜を、所望の形状に成形して用いればよい。
【実施例】
【0093】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0094】
<銀ファイバーの合成>
[銀ファイバーA]
まず、エチレングリコール350mlを150℃に加熱し、攪拌下で塩化白金7.5mgを加え、1時間攪拌して第一溶液を調製した。次に、ポリビニルピロリドン(重量平均分子量24,500)12gと、硝酸銀9gと、をエチレングリコール450mlに溶解して、第二溶液を調製した。続いて、第一溶液を150℃下で攪拌しながら、第一溶液に第二溶液を7.5ml/分の割合で滴下した。滴下終了後、150℃下でさらに2時間攪拌を続けた。それから、溶液をろ過して、合成された銀ファイバーを分離した(得られた銀ファイバーを、銀ファイバーAと称す)。そして、銀ファイバーAを、乾燥させずに湿潤状態でブトキシエチルアセテートに分散し、銀ファイバーA/ブトキシエチルアセテート分散液を調製した。なお、銀ファイバーAを、別途、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、長さは約15μm、太さは約300nmであった。よって、銀ファイバーAのアスペクト比は、50である。
【0095】
[銀ファイバーB]
第二溶液を滴下した後の攪拌時間を0.5時間に変更した以外は、上記銀ファイバーAの合成と同様にして、銀ファイバーBを合成し、銀ファイバーB/ブトキシエチルアセテート分散液を調製した。銀ファイバーBを、SEMにより観察したところ、長さは約3μm、太さは約300nmであった。よって、銀ファイバーBのアスペクト比は、10である。
【0096】
[銀ファイバーC]
第二溶液中のポリビニルピロリドン(成長調整剤)を、重量平均分子量が10,000のものに変更した以外は、上記銀ファイバーAの合成と同様にして、銀ファイバーCを合成し、銀ファイバーC/ブトキシエチルアセテート分散液を調製した。銀ファイバーCを、SEMにより観察したところ、長さは約15μm、太さは約600nmであった。よって、銀ファイバーCのアスペクト比は、25である。
【0097】
[銀ファイバーD]
第二溶液中のポリビニルピロリドン(成長調整剤)を、重量平均分子量が360,000のものに変更した以外は、上記銀ファイバーAの合成と同様にして、銀ファイバーDを合成し、銀ファイバーD/ブトキシエチルアセテート分散液を調製した。銀ファイバーDを、SEMにより観察したところ、長さは約12μm、太さは約40nmであった。よって、銀ファイバーDのアスペクト比は、300である。
【0098】
[銀ファイバーE]
第二溶液中のポリビニルピロリドン(成長調整剤)を、重量平均分子量が3,500のものに変更した以外は、上記銀ファイバーAの合成と同様にして、銀ファイバーEを合成し、銀ファイバーE/ブトキシエチルアセテート分散液を調製した。銀ファイバーEを、SEMにより観察したところ、長さは約6μm、太さは約1100nmであった。よって、銀ファイバーEのアスペクト比は、約5.5である。
【0099】
<ゴム組成物の調製>
まず、二種類のモノマーを懸濁重合して、アクリルゴムポリマーを製造した。モノマーとしては、n−ブチルアクリレート(BA)と、アリルグリシジルエーテル(AGE)と、を用いた。モノマーの配合割合は、BAを98質量%、AGEを2質量%とした。得られたアクリルゴムポリマーの重量平均分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したところ、約90万であった。また、アクリルゴムポリマーのTgは、−46℃であった。
【0100】
次に、製造したアクリルゴムポリマー100質量部と、加工助剤のステアリン酸(花王(株)製「ルナック(登録商標)S30」)1質量部と、架橋剤の安息香酸ナトリウム(大内新興化学工業(株)製「バルノック(登録商標)AB−S」)1質量部と、をロール練り機にて混合した。得られた混練物を、溶剤のブトキシエチルアセテートに溶解させて、アクリルゴム溶液(ゴム組成物)を調製した。
【0101】
また、ゴム組成物として、熱可塑性ウレタンエラストマー(日本ポリウレタン工業(株)製「熱可塑性ウレタンN5193」を準備した。
【0102】
<導電膜の製造>
[実施例1〜8、比較例3〜4、6]
まず、アクリルゴム溶液に、上記銀ファイバーA〜E/ブトキシエチルアセテート分散液のいずれかを所定量添加し、三本ロールにて混練りして導電塗料を調製した。次に、導電塗料を、アクリル樹脂製の基材表面にバーコート法により塗布した。その後、塗膜が形成された基材を、約150℃の乾燥炉内に約30分間静置して、塗膜を乾燥させると共に、架橋反応を進行させて、導電膜を得た。得られた導電膜の厚さは、約20μmであった。
【0103】
[実施例9]
まず、熱可塑性ウレタンエラストマーに、上記銀ファイバーD/ブトキシエチルアセテート分散液を所定量添加し、三本ロールにて混練りして導電塗料を調製した。次に、導電塗料を、アクリル樹脂製の基材表面にバーコート法により塗布した。その後、塗膜が形成された基材を、約150℃の乾燥炉内に約30分間静置して、塗膜を乾燥させて、導電膜を得た。得られた導電膜の厚さは、約20μmであった。
【0104】
[比較例1]
市販の銀ペースト(藤倉化成(株)製「ドータイト(登録商標)FA−353N」)から、厚さ約20μmの導電膜を形成した。
【0105】
[比較例2]
市販の銀ペースト(東洋紡績(株)製「DW−250H−5」)から、厚さ約20μmの導電膜を形成した。
【0106】
[比較例5]
上記銀ファイバーAの合成において、ろ過により溶液から分離した銀ファイバーAを、完全に乾燥させた。乾燥後、得られた銀ファイバーA粉末を、アクリルゴム溶液に直接添加して、三本ロールにて混練りして導電塗料を調製した。その後は、実施例1〜8と同様にして、導電膜を製造した。
【0107】
表1に、実施例1〜9の導電膜における、アクリルゴムポリマーに対する銀ファイバーの配合量、および銀ファイバーの含有量を示す。表2に、比較例3〜6の導電膜における、アクリルゴムポリマーに対する銀ファイバーの配合量、および銀ファイバーの含有量を示す。
【表1】


【表2】

【0108】
<評価方法>
実施例および比較例の導電膜について、柔軟性および導電性を評価した。以下、各々の評価方法について説明する。
【0109】
[柔軟性]
導電膜について、JIS K7127(1999)に準じた引張試験を行った。試験片の形状は、試験片タイプ2とした。得られた応力−伸び曲線から、導電膜の弾性率を算出した。また、導電膜の切断時伸び(Eb)を、JIS K 6251(2004)に準じて測定した。試験片の形状は、ダンベル状5号形とした。
【0110】
[導電性]
導電膜の体積抵抗率を、JIS K6271(2008)の平行端子電極法に準じて測定した。体積抵抗率の測定は、導電膜(試験片)を支持する絶縁樹脂製支持具を用いずに、導電膜のみで行った。体積抵抗率の測定は、伸長の有無により二回行った。すなわち、一回は、自然状態(伸長なし)で測定し、もう一回は、伸長率100%で伸長した状態で測定した。ここで、伸長率は、次式(I)により算出した値である。
伸長率(%)=(ΔL/L)×100・・・(I)
[L:試験片の標線間距離、ΔL:試験片の標線間距離の伸長による増加分]
<評価結果>
実施例および比較例の導電膜の評価結果を、上記表1、表2にまとめて示す。表1に示すように、実施例の導電膜は、いずれも柔軟であり、良好な伸びを示した。特に、熱可塑性ウレタンエラストマーを用いた実施例9の導電膜については、切断時伸びが大きかった。また、実施例の導電膜は、いずれも自然状態において高い導電性を有する。そして、実施例の導電膜を伸長しても、電気抵抗の増加は小さかった。また、伸長率100%で伸長した状態の導電膜の体積抵抗率が、1×10−1Ω・cm以下か否かを基準にして、フレキシブル配線板への適用性を評価した場合、実施例の導電膜は、いずれもフレキシブル配線板に好適であるといえる。
【0111】
例えば、実施例1〜3の導電膜を比較すると、銀ファイバーの含有量が少なくなるほど、弾性率は低下し、切断時伸びは大きくなった。また、実施例3の導電膜においては、銀ファイバーの含有量が11.6vol%と少なくても、良好な導電性が維持されていた。実施例4〜6の導電膜についても、同様の結果であった。また、アクリルゴムを用いた実施例において、他の実施例よりも銀ファイバーの太さが細い実施例8の導電膜については、伸長時の電気抵抗の増加が、最も小さかった。
【0112】
また、銀ファイバーの含有量が同じで、太さが異なる実施例2の導電膜と実施例7の導電膜とを比較すると、銀ファイバーの太さが太い実施例7の導電膜において、導電性が低下した。この理由は、銀ファイバーの太さが太くなると、導電膜の単位重量当たりの銀ファイバーの個数が少なくなり、導電経路の数が減少するためと考えられる。
【0113】
一方、表2中、比較例5の導電膜においては、銀ファイバーの含有量が同じ実施例2、5、7の導電膜と比較して、伸長時の電気抵抗が大幅に増加した。比較例5の導電膜は、乾燥した銀ファイバーを用いて製造されている。このため、導電塗料中で銀ファイバーが凝集し、エラストマーにおける銀ファイバーの分散性が悪化したと考えられる。
【0114】
また、銀ペーストから形成した比較例1、2の導電膜については、弾性率が非常に高く、柔軟性に乏しい。したがって、自然状態の導電性は高いものの、伸長時に体積抵抗率が著しく増加した。また、比較例3、4の導電膜については、銀ファイバーの含有量が45vol%を超えている。したがって、柔軟性に乏しく、伸長時に体積抵抗率が著しく増加した。また、比較例6の導電膜についても、銀ファイバーの含有量が同じ実施例1、4の導電膜と比較して、伸長時に体積抵抗率が大幅に増加した。比較例6の導電膜における銀ファイバーの太さは、600nmを超えている。このため、導電膜の単位重量当たりの銀ファイバーの個数が少なく、導電経路が充分に形成されていないと考えられる。
【0115】
以上説明したように、所定の大きさの金属ファイバーをエラストマー中に均一に分散させることにより、金属ファイバーの含有量が少なくても、導電性に優れ、伸長時に電気抵抗が増加しにくい導電膜を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の導電膜は、エラストマーを利用した柔軟なトランスデューサの電極、配線に好適である。また、ロボットや産業用機械の可動部の制御、ウェアラブルデバイス、屈曲可能なディスプレイ等に使用されるフレキシブル配線板の配線に好適である。さらに、電磁波シールド、導電性接着剤としても好適である。
【0117】
本発明の導電膜は、柔軟性および導電性に優れる。このため、電気的な制御と柔軟な接触とが必要な部材に用いることができる。例えば、レーザービームプリンター等のOA(Ofice Automation)機器に用いられる現像ロール、帯電ロール、転写ロール、給紙ロール、トナー層形成部材、クリーニングブレード、帯電ブレード等における電極層、表層に好適である。
【符号の説明】
【0118】
1:アクチュエータ(トランスデューサ) 10:誘電膜 11a、11b:電極
12a、12b:配線 13:電源
2:静電容量型センサ(トランスデューサ) 20:誘電膜 21a、21b:電極
22a、22b:配線 23a、23b:カバーフィルム 24:コネクタ
3:発電素子(トランスデューサ) 30:誘電膜 31a、31b:電極
32a〜32c:配線
4:スピーカ(トランスデューサ)
40a:第一アウタフレーム 40b:第二アウタフレーム
41a:第一インナフレーム 41b:第二インナフレーム
42a:第一誘電膜 42b:第二誘電膜
43a:第一アウタ電極 43b:第二アウタ電極
44a:第一インナ電極 44b:第二インナ電極
45a:第一振動板 45b:第二振動板
430a、430b、440a、440b:端子 460:ボルト 461:ナット
462:スペーサ
6:フレキシブル配線板
60:弾性部材 61:表側配線用コネクタ 62:裏側配線用コネクタ
01X〜16X:表側電極 01Y〜16Y:裏側電極 01x〜16x:表側配線
01y〜16y:裏側配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと、金属ファイバーと、を含む導電膜であって、
該金属ファイバーの長手方向長さは1μm以上、短手方向長さは600nm以下、アスペクト比は10以上であり、
該金属ファイバーの含有量は、導電膜の体積を100vol%とした場合の45vol%以下であることを特徴とする導電膜。
【請求項2】
化学還元法により合成された前記金属ファイバーを、湿潤状態で、前記エラストマー成分のゴムポリマーを溶解可能な溶剤に分散させた金属ファイバー分散液と、該ゴムポリマーを含むゴム組成物と、を混合した導電塗料から形成される請求項1に記載の導電膜。
【請求項3】
前記金属ファイバーは、銀を含む請求項1または請求項2に記載の導電膜。
【請求項4】
前記エラストマーは、硫黄、硫黄化合物、および有機過酸化物のいずれも用いずに架橋された架橋ゴム、および熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の導電膜。
【請求項5】
さらに、前記金属ファイバーの腐食を抑制する腐食抑制剤を含む請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の導電膜。
【請求項6】
弾性部材の表面に形成されている請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の導電膜。
【請求項7】
前記弾性部材は、エラストマー製であり、
該エラストマーは、硫黄、硫黄化合物、および有機過酸化物のいずれも用いずに架橋された架橋ゴム、および熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上である請求項6に記載の導電膜。
【請求項8】
請求項1に記載の導電膜の製造方法であって、
金属化合物、および該金属化合物の還元能を有する還元剤を含む溶液中で、長手方向長さが1μm以上、短手方向長さが600nm以下、アスペクト比が10以上の金属ファイバーを合成する金属ファイバー合成工程と、
合成された該金属ファイバーを、湿潤状態で、エラストマー成分のゴムポリマーを溶解可能な溶剤に分散させて金属ファイバー分散液を調製する金属ファイバー分散液調製工程と、
該金属ファイバー分散液と、該ゴムポリマーを含むゴム組成物と、を混合して導電塗料を調製し、該導電塗料を塗布、乾燥させて導電膜を形成する導電膜形成工程と、
を有することを特徴とする導電膜の製造方法。
【請求項9】
エラストマー製の誘電膜と、該誘電膜を介して配置されている複数の電極と、複数の該電極と各々接続されている配線と、を備え、
該電極および該配線の少なくとも一方は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の導電膜からなることを特徴とするトランスデューサ。
【請求項10】
弾性部材と、該弾性部材の表面に配置されている配線と、を備え、
該配線の少なくとも一部は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の導電膜からなることを特徴とするフレキシブル配線板。
【請求項11】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の導電膜からなることを特徴とする電磁波シールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−138260(P2012−138260A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289842(P2010−289842)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】