説明

導電膜の形成方法及びプリント配線板の製造方法

【課題】基材との密着性に優れ、エネルギーに光を使用する場合、高感度で密着性向上を達成しうる低温プロセス適性に優れた導電膜の形成方法、及び、該導電膜の形成方法を工程中に含むプリント配線板の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)有機樹脂基材上に、ラジカル重合性化合物と、70℃におけるゲル化時間が60分以下の熱硬化性樹脂とを含有する樹脂層(樹脂層A)を形成する工程、(b)無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂と、ラジカル発生剤と、ラジカル重合性化合物と、を含有し、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる樹脂組成物樹脂層(樹脂層B)を形成する工程、(c)無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる層(樹脂層B)に、無電解めっき触媒またはその前駆体を付与する工程、及び、(d)無電解めっきを行い、無電解めっき膜を形成する工程を含む導電膜の形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜の形成方法に関し、特に、半導体パッケージ基板、フレキシブルプリント配線板などのプリント配線板の製造方法に好適な導電膜の形成方法及び該形成鳳凰を利用したプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロニクスの分野等で、TFTなどの素子を低温プロセスでフィルム基板上に作製することが望まれている。またこのようなフィルムデバイス用の配線用途として低温プロセスで密着強度の高い導電膜や金属薄膜をフィルム上に作製する技術開発が望まれている。一例として例えば、フィルム上にスパッタ法で導電膜を作製する試みがなされている。しかしながら、高強度の導電膜を作製するには、基板を高温に加熱する必要があり、耐熱性の低いフィルムには使用できないという問題点がある。
また、フィルム上に導電膜を作製する方法として、いわゆるフレキシブルプリント配線板(FPC)分野では、キャスト法、ラミネート法、スパッタ法(めっきによるメタライジング法)が挙げられる。いずれの方法も密着強度を発現させるためにかなりの高温を要することが知られている。スパッタ法以外のめっき法による密着発現技術も最近知られるようになってきている(例えば、非特許文献1、非特許文献2、参照)。しかしながら、エポキシ樹脂の硬化やカップリング処理等のプロセスに120〜170℃の高温を有する。
一方、ガラス基板にめっき法により導電膜を高密着の導電膜を作製する方法も知られているが(例えば、非特許文献3、特許文献1、参照)、密着強度を発現させるために、250℃以上の非常に高いアニール温度が必要とされるため、低耐熱性基板にはこの技術は適用できず汎用性に乏しい。
このような状況を鑑み、低温具体的には100℃以下の温度で高密着性を有する導電膜、金属薄膜の形成方法が望まれている。この技術は低耐熱性のフィルム基板に適用でき、将来有機TFT等のデバイスに適用できる可能性があるからである。
【0003】
この問題を解決する為に、高温を必要としない方法として熱以外のエネルギーを用いる方法も知られている。例えば、基板表面にラジカル重合性化合物を電子線あるいは紫外光によりグラフト重合してめっきを行う方法が知られているが(例えば、特許文献2参照)、密着性はテープ剥離試験による定性結果は示されているものの、光感度が非常に低く従って、生産性に乏しいという問題点があり、生産性向上のために高感度化が望まれている。
【0004】
同様にエポキシ樹脂組成物にラジカル発生剤を添加した系も知られており(例えば、特許文献3参照。)、高い密着強度を発現するが、前記同様に光感度が低いという問題点がある。これらの感度が低い理由としては、ラジカル発生剤及びエネルギー付与により発生したラジカルが基材(基材表面)に固定化されており、ラジカルの拡散性が低いからであると考えられる。
逆に、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する樹脂層にラジカル発生剤を添加下系では、密着強度が低いことが指摘されている(例えば、特許文献4参照)。これは、ラジカルと基材が化学結合しない系であることが原因である。
【特許文献1】特開2006−152431公報
【特許文献2】特開昭58−196238号公報
【特許文献3】特開2007−146103公報
【特許文献4】特開2006−57059公報
【非特許文献1】第17回マイクロエレクトロニクスシンポジウム講演要旨集p247−250
【非特許文献2】第44回日本接着学会年次大会講演要旨集p181−184
【非特許文献3】第114回表面技術協会講演大会要旨集p98
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
本発明の第1の目的は、低温プロセスで基材との密着性に優れた導電膜を形成する方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、エネルギーに光を使用する場合、高密着性に加えて、高い光感度で生産性の高い導電膜形成方法を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、前記低温プロセス適性に優れた本発明の導電膜形成方法を工程中に含むプリント配線板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討の結果、以下の構成をとることで、上記問題点を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の導電膜の形成方法は、(a)有機樹脂基材上に、ラジカル重合性化合物と、熱硬化性樹脂とを含有し、70℃におけるゲル化時間が60分以下の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層(樹脂層A)を形成する工程、(b)無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂と、ラジカル発生剤と、ラジカル重合性化合物と、を含有し、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる樹脂層(樹脂層B)を形成する工程、(c)無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる樹脂層(樹脂層B)に、無電解めっき触媒またはその前駆体を付与する工程、及び、(d)無電解めっきを行い、無電解めっき膜を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の好ましい態様としては、以下、<2>〜<8>に示すものが挙げられる。
<2> 前記ラジカル重合性化合物と、70℃におけるゲル化時間が60分以下の熱硬化性樹脂とを含有する樹脂層(樹脂層A)に含まれる熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂である前記導電膜の形成方法。
<3> 前記ラジカル重合性化合物として、ラジカル重合性基を有するシランカップリング剤で表面修飾されたフィラーを含有することを特徴とする前記導電膜の形成方法。
<4> 前記無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する樹脂層(樹脂層B)が、基材上の無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂を含有する樹脂組成物層にエネルギーを付与して、該樹脂を基材に化学結合させることにより形成される樹脂層であることを特徴とする前記導電膜の形成方法。
【0008】
<5> 前記無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂組成物が、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する官能基とラジカル重合性基を分子内に含有するアクリル樹脂を含むことを特徴とする前記導電膜の形成方法。
<6> 前記無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する官能基がシアノ基、置換または無置換のアミノ基、含窒素複素環基であることを特徴とする前記導電膜の形成方法。
<7> 前期無電解めっき膜上に電解めっき膜を形成し、90°剥離試験で測定した際の導電膜の剥離強度が0.6kN/m以上であることを特徴とする前記導電膜の形成方法。
<8> 前記(a)〜(d)の全工程中、前記ラジカル重合性化合物と、熱硬化性樹脂とを含有し、70℃におけるゲル化時間が60分以下の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層(樹脂層A)及び無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂と、ラジカル発生剤と、ラジカル重合性化合物と、を含有し、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる樹脂組成物樹脂層(樹脂層B)の双方の温度が100℃以下であることを特徴とする前記導電膜の形成方法。
なお、前記本発明の導電膜の形成方法は、プリント配線板の製造に好適に用いることができる。
【0009】
前記の如く、本発明は、基材直上の樹脂層にラジカルと反応するラジカル重合性化合物を添加し、その隣接する層に開始系を含有させることにより、光感度と隣接する樹脂層間の高い密着強度とを両立しうるものである。本発明の方法によれば、高い密着強度の発現に、例えば、樹脂基板を用いた場合、影響を与えるような高温を要せず、前工程中、基板温度を100℃以上の高温とすることなく、このような密着性を発現させるという低温プロセス適性を有する。
【0010】
本発明の構成では、(a)工程にて形成される樹脂層(樹脂層A)にラジカル重合性化合物を含有することが高い密着強度発現、特に低温においても高い密着強度を発現するのに有用である。密着発現機構は、エネルギー付与時に(b)工程にて形成される樹脂層(樹脂層B)に含まれる無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する樹脂組成物中からラジカルが発生し、基材直上に存在し、樹脂層(B)と隣接する樹脂層(樹脂層A)に含有しているラジカル重合性化合物と反応することにより化学結合が形成されるため、高密着強度を発現できる。このような反応により化学結合を形成する機構を以下、「graft-to機構」と称する。なお、樹脂層Aにラジカル重合性化合物を含まない場合には、前記graft-to機構が機能しないために高い密着強度は発現しない。
樹脂層Aと樹脂層Bとの密着性向上のために付与されるエネルギーとしては、熱、光、及び、その双方の組合せを使用することができる。
【0011】
本発明においては、低温、具体的には100℃以下の温度、で高い密着強度を発現させる、或いは、光を使用する場合の感度を向上させる等の目的で、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する樹脂組成物中に、ラジカル発生剤やラジカル重合性化合物を含有する。
ラジカル発生剤としては、熱ラジカル発生剤(100℃以下の温度でラジカルを発生する熱ラジカル発生剤)や光ラジカル発生剤を添加することで、それらのラジカル発生剤からラジカルが発生し、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する樹脂組成物中のラジカル重合性化合物が連鎖的に光硬化すると共に、基材直上の樹脂層Aに含有しているラジカル重合性化合物と反応する(graft-to機構)ことにより化学結合が形成される。これにより、背景技術で説明したような高温熱処理を行うことなしに高い密着強度を発現させることが可能となる。また、エネルギーとして光エネルギーを使用する場合、露光時の光感度を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低温プロセスで基材との密着性に優れた導電膜を形成する方法を提供することができる。
また、本発明によれば、樹脂膜と導電膜との密着性を確保するために付与するエネルギーとして光を使用する場合、高密着性に加えて、高い光感度で生産性の高い導電膜形成方法を提供することがでる。
本発明の形成方法によれば、低温、より具体的には、全工程中、基板の温度を100℃以下に維持したまま、高密着性の導電膜を作製できる導電膜形成方法を提供することができる。
また、本発明の導電膜形成方法を導電層の形成に用いることで、低温プロセス適性に優れたプリント配線板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の導電膜形成方法における各工程について順次説明する。
<(a)有機樹脂基材上に、ラジカル重合性化合物と熱硬化性樹脂とを含有し、70℃におけるゲル化時間が60分以下の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層(樹脂層A)を形成する工程>
以下、本工程を、樹脂層A形成工程或いは(a)工程と称することがある。
まず、有機樹脂基材について説明する。本発明の導電膜形成方法に適用しうる有機樹脂基材については特に制限はないが、以下に挙げる如き各種基材に使用することができる。
例えば、エポキシ樹脂基材、ポリイミド基材、PET基材、PEN基材、或いは、三酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、液晶ポリマー、ベンゾシクロブテン樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、アラミド樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、シアネート樹脂などの樹脂から形成された基材を用いることができる。
基材としては、一般的には、平板状の基材(各種基板)が用いられるが、必ずしも平板状の基材に限定されず、円筒形などの任意の形状の基材を用いることもできる。
【0014】
本発明の方法は低温プロセス適性に優れるので、有機樹脂基材に適用してその効果が著しい。ここでいう有機樹脂基材とは、基材の一部に有機樹脂を用いたものを指し、例えば、ガラスなどの無機支持体上に有機樹脂層を有する基板も本発明における有機基材に包含される。
【0015】
本明細書においては、(a)工程で形成される、ラジカル重合性化合物と、熱硬化性樹脂とを含有し、70℃におけるゲル化時間が60分以下の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層を樹脂層Aと称する。樹脂層Aは、熱硬化性樹脂を含有し、樹脂組成物としては、70℃におけるゲル化時間が60分以下であるが、このような組成物に含有される熱硬化性樹脂としては、100℃以下の温度で硬化する特性を有する熱硬化性樹脂であることが好ましい。
本発明において樹脂層Aの形成に好適に用いられる熱硬化性樹脂の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されない。
例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等などを用いることができるが、汎用性、コスト等の観点からエポキシ樹脂が好ましく、エポキシ樹脂を単独で用いてもよく、エポキシ樹脂と他の樹脂とを併用してもよい。エポキシ樹脂は、その構造や分子量により硬化温度が20〜100℃の範囲にあるが、なかでも、硬化温度が50〜80℃のものを選択して用いることが好ましい。また、他の樹脂も硬化温度が100℃以下のものを用いることが好ましい。
以下、本発明において樹脂層Aを形成するのに好適な、エポキシ樹脂を含有する熱硬化性エポキシ樹脂組成物について説明する。
【0016】
(熱硬化性エポキシ樹脂組成物)
本発明の樹脂層A形成に用いられる熱硬化性エポキシ樹脂組成物としては、組成物中に含まれる全固形分中、エポキシ樹脂の含有量が20質量%以上であることが好ましい態様である。熱硬化性エポキシ樹脂組成物には、後述するように表面グラフト重合により、樹脂層表面にポリマーを結合させるのに有用なラジカル重合性化合物を含有することから、エポキシ樹脂の含有量の上限としては、80質量%であることが好ましい。樹脂層Aを形成するこの熱硬化性エポキシ樹脂組成物には、上記物性を満たす限りにおいてさらに他の樹脂成分を含有してもよいが、ここに含まれる樹脂の全量がエポキシ樹脂であってもよい。
【0017】
他の樹脂成分を添加する場合、該樹脂成分の添加効果とエポキシ樹脂の強度など、複数の樹脂それぞれの特性が発揮され、且つ、ポリマーの生成反応の進行性が良好であるとの観点から、エポキシ樹脂100質量部に対して他の樹脂が30〜300質量部の範囲、好ましくは50〜200質量部の範囲で添加される。
エポキシ樹脂と併用可能な他の樹脂成分としては、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂などを挙げることができる。
【0018】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物としては、(a−1)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物と、(a−2)1分子中に2個以上のエポキシ基と反応する官能基を有する化合物(以下、適宜「硬化剤」と称する。)を必須成分とし、更に(a−3)光ラジカル発生剤を含有するものが好ましい。
【0019】
(a−1)1分子中にエポキシ基2個以上を有するエポキシ化合物(エポキシ樹脂と称されるものを含む)としては、エポキシ基を2個以上、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜20個を1分子中に有するエポキシ化合物(エポキシ樹脂と称されるものを含む)である。エポキシ基は、オキシラン環構造を有する構造であればよく、例えば、グリシジル基、オキシエチレン基、エポキシシクロヘキシル基等を示すことができる。このような多価エポキシ化合物は、例えば、新保正樹編「エポキシ樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社刊(昭和62年)等に広く開示されており、これらを用いることが可能である。
【0020】
具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、3官能型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA含核ポリオール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂などを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。多官能エポキシ、エポキシ当量の低いエポキシ、ナフタレン型エポキシ、ジシクロペンタジエン型エポキシなどの使用により、耐熱性等に優れたエポキシ樹脂となる。
【0021】
(a−2)硬化剤における官能基としては、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、チオール基などの官能基から選ばれる官能基が好ましく、これらの官能基を有する化合物を選択すればよい。
(a−2)硬化剤としては、テレフタル酸などの多官能カルボン酸化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、レゾルシノール誘導体、カテコール誘導体等の二官能フェノール化合物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のフェノール樹脂、アミノ樹脂、1,3,5―トリアミノトリアジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンなどの多官能アミノ化合物、1,3,5―トリメルカプトトリアジン等の多官能メルカプト化合物を挙げることができる。本発明においては、特に、高い貯蔵安定性(潜在性)を有しかつ低温硬化性を有する、低温硬化型潜在性硬化剤が好ましい。具体的には、70℃におけるゲル化時間が60分以下の低温硬化型潜在性硬化剤が好ましく、分子内に3級アミノ基を有するポリマーと分子内に水酸基を有するポリマーの付加物から成る硬化剤、フェノールとイミダゾールの付加体と、エポキシ樹脂の付加物から成る硬化剤等を挙げることができる。
低温硬化型潜在性硬化剤は、通常の手段により微粉砕して使用することも可能である。微粉砕した硬化剤の平均粒径は、40μm以下好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下である。粉砕には通常の粉砕装置、例えばポット・ミル、ジェット・ミルを使用することができる。
【0022】
低温硬化性に優れる硬化剤の具体例については、特開2002−88137、特開2002−338663、特開2004−83839、特開2004−231974、特開2004−256824、特表2005−501943、特開2007−23238、特開2007−56152、特開2007−70416、特開2007−191527に記載の硬化剤を挙げることができる。
【0023】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物における(a−2)硬化剤の添加量としては、(a−1)成分として含有されるエポキシ化合物中のエポキシ基に対して、(a−2)硬化剤の官能基の割合が0.1〜5.0であることが好ましく、0.3〜2.0であることがより好ましい。
【0024】
上記(a−2)硬化剤に加え、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン系化合物、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール系化合物等を硬化促進剤として添加してもよい。硬化促進剤を使用する場合、配合量は硬化剤の配合量を100重量%とした場合に、0.5〜2重量%の範囲で用いるのが好ましい。
【0025】
(ラジカル重合性化合物)
本発明における樹脂層Aはラジカル重合性化合物を含有することを特徴とする。ここで用いられるラジカル重合性化合物とは、光ラジカル重合性の二重結合を有する化合物であり、好ましい例として、アクリレート化合物、メタアクリレート化合物、ビニルベンジル化合物、ビニルベンジルエーエル化合物、ビスマレイミド化合物等が挙げられる。
本発明において樹脂層Aに用いうる(メタ)アクリレート化合物としては、分子内にエチレン性不飽和基である(メタ)アクリロイル基を有するものであれば特に制限はないが、硬化性、及び強度向上の観点から、多官能モノマーであることが好ましい。
【0026】
本発明に好適に用いうる多官能モノマーとしては、多価アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステルであることが好ましく、分子内に少なくとも2個のエチレン性不飽和基を含むものを指し、分子内に少なくとも3個のエチレン性不飽和基を含むことが好ましい。
多官能モノマーとしては、具体的には、分子内に3〜6個の(メタ)アクリル酸エステル基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーが挙げられるが、さらに、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートと称される分子内に数個の(メタ)アクリル酸エステル基を有する分子量が数百から数千のオリゴマーなども本発明の樹脂組成物の成分として好ましく使用することができる。
【0027】
分子内に3個以上のアクリル基を有する(メタ)アクリレートの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールポリ(メタ)アクリレート類、ポリイソシアネートとヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートの反応によって得られるウレタン(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
ラジカル重合性化合物の樹脂層A形成用組成物への添加量は、隣接する樹脂層とのgraft-to機構による高い密着強度発現の観点からは、5〜80質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。
【0028】
(フィラー)
上記樹脂層Aを形成するためのエポキシ樹脂組成物には、樹脂の機械強度、耐熱性、耐候性、難燃性、耐水性、電気特性などの特性を強化するために、フィラーを添加することができる。
フィラーとしては、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。中でも線膨張係数を低下させるなどの効果の点で特にシリカが好ましい。
【0029】
フィラーは平均粒径が5μm以下のものが好ましい。平均粒径が5μmを超える場合、導電膜を用いて微細パターン形成性する場合に微細パターンの形成を安定的に行うのが難しくなる。
フィラーを添加する場合は、エポキシ樹脂に対して、1〜200質量%の範囲で添加されることが好ましく、より好ましくは10〜80質量%の範囲で添加される。この添加量が、1質量%未満である場合は、上記の特性を強化する効果がなく、また、200質量%を超えると場合には、樹脂特有の強度などの特性が低下する。
【0030】
フィラーは樹脂の耐湿性を向上させるためにシランカップリング剤などの表面処理剤で表面処理を施してあることが好ましい。
なかでも、前述したようなgraft-to機構による高い密着強度発現のために、ラジカル重合性基を有するシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。ラジカル重合性基を有するシランカップリング剤としては、トリメトキシシリルプロピルアクリレート、トリエトキシシリルプロピルアクリレート、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、トリエトキシシリルプロピルメタクリレート等を挙げることができる。
このようなラジカル重合性基を有するシランカップリング剤で表面処理されているフィラーは、前述したラジカル重合性化合物としての機能を有する。このため、ラジカル重合性基を有するシランカップリング剤で表面処理されたフィラーを、このフィラーに含まれるラジカル重合性基の含有量が、graft-to機構による高い密着強度を発現させるに十分であれば、前記した如きラジカル重合性化合物の添加は必ずしも必要としない。
【0031】
本発明において樹脂層Aを形成するための熱硬化性樹脂組成物は、適宜、溶剤を含んでいてもよい。
有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のグリコール誘導体、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等を挙げることができる。
これらの有機溶剤は単独で使用してもよいし、2種以上の混合溶剤として使用してもよい。
【0032】
樹脂層Aを形成する方法としては、樹脂層A形成用の組成物、即ち、熱硬化性樹脂、ラジカル重合性化合物と、前述した所望により添加される各種の成分とを含有する樹脂組成物を塗布液として、前記した有機樹脂基材表面に、ナイフコーティング、ロールコーティング、カーテンコーティング、スピンコーティング、バーコーティング、ディップコーティング等を採用して均一に塗布し、乾燥硬化する方法が挙げられる。
乾燥時の加熱温度としては、20〜100℃が好ましく、より好ましくは50〜80℃である。加熱時間は、1秒〜50時間、より好ましくは100秒から3時間である。
重合性化合物を含有する樹脂層Aを形成する樹脂組成物は、70℃におけるゲル化時間が概ね20〜60分間である。70℃におけるゲル化時間は、樹脂や硬化剤が有する置換基などにより調整することが可能であり、70℃におけるゲル化時間を60分以下とするためには、低温硬化型潜在性硬化剤を使用するなどの手段とればよい。なお、70℃におけるゲル化時間は、JIS K 5909(熱板法)に準拠して測定することができる。
【0033】
本発明における樹脂層Aの厚みは、密着強度の点から、0.1〜10μmの範囲であることが好ましく、0.2〜5μmの範囲であることがより好ましい。
【0034】
<(b)無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂と、ラジカル発生剤と、ラジカル重合性化合物と、を含有し、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる樹脂組成物樹脂層を形成する工程>
(a)工程により形成された樹脂層Aの表面に、さらに、(b)無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂と、ラジカル発生剤と、ラジカル重合性化合物と、を含有し、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる樹脂組成物樹脂層を形成する。
以下、無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂と、ラジカル発生剤と、ラジカル重合性化合物と、を含有し、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる樹脂組成物樹脂層を樹脂層B、本工程を、樹脂層B形成工程或いは(b)工程と称することがある。
(無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂組成物)
樹脂層Bは、後述する無電解めっき工程において形成される導電層形成の基礎となるそうであり、無電解めっき触媒或いはその前駆体と相互作用を形成しうる官能基(以下、適宜、相互作用性基と称する)を有する樹脂を含有する。
そのような相互作用性基としては、カルボキシル基、水酸基、置換又は無置換のアミノ基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミド基などの親水性基若しくはそれらの塩、シアノ基、イミダゾール基やピリジン基などの置換基を有していてもよい含窒素複素環基、エーテル基などの官能基が挙げられ、樹脂層Bの形成には、このような相互作用性基を有する樹脂を使用することができる。具体的には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリロニトリル、ABSなどを挙げることができる。
【0035】
無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂組成物は、低温(具体的には100℃以下の温度)で高い密着強度を発現させる、或いは、密着性の発現に光を使用する場合に感度を高める、といった観点から、ラジカル発生剤、ラジカル重合性化合物を含有することを要する。
無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂と、ラジカル重合性化合物は同一分子が兼ねていてもよく、なかでも、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する官能基とラジカル重合性基を分子内に含有するアクリル樹脂であることがより好ましい。また、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する官能基とラジカル重合性基を分子内に含有するアクリル樹脂に、更に、樹脂層Aに含まれる如き一般的なラジカル重合性化合物を添加することができる。
【0036】
(無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する官能基とラジカル重合性基を分子内に含有するアクリル樹脂)
ラジカル重合性の二重結合を有するアクリル樹脂としては、特開2003−118043公報に記載のカルボン酸(カルボン酸塩)を含む化合物、本願出願人が先に提案した特願2007−146199明細書に記載のシアノ基を含む化合物などを使用することができる。
このような樹脂の樹脂層Bを形成する全組成物中における含有量は、1〜50質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。
【0037】
(ラジカル発生剤)
本発明において樹脂層Bに使用されるラジカル発生剤としては、熱ラジカル発生剤(熱重合開始剤)、または光ラジカル発生剤(光重合開始剤)のいずれであってもよい。
1.熱ラジカル発生剤
樹脂層Bに使用しうる熱ラジカル発生剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどのような過酸化物開始剤、およびアゾ系開始剤などを使用することができる。
【0038】
2.光ラジカル発生剤
光ラジカル発生剤としては、(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)活性エステル化合物、(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物、(k)ピリジウム類化合物等が挙げられる。以下に、上記(a)〜(k)の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(a)芳香族ケトン類
本発明において、光ラジカル発生剤として好ましい(a)芳香族ケトン類としては、「RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY」J.P.Fouassier,J.F.Rabek(1993),p77−117記載のベンゾフェノン骨格或いはチオキサントン骨格を有する化合物が挙げられる。例えば、下記化合物が挙げられる。
【0040】
【化1】

【0041】
中でも、特に好ましい(a)芳香族ケトン類の例を以下に列記する。
特公昭47−6416号に記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号に記載のベンゾインエーテル化合物、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0042】
【化2】

【0043】
特公昭47−22326号に記載のα−置換ベンゾイン化合物、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0044】
【化3】

【0045】
特公昭47−23664号に記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号に記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号に記載のジアルコキシベンゾフェノン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0046】
【化4】

【0047】
特公昭60−26403号、特開昭62−81345号に記載のベンゾインエーテル類、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0048】
【化5】

【0049】
特公平1−34242号、米国特許第4,318,791号、ヨーロッパ特許0284561A1号に記載のα−アミノベンゾフェノン類、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0050】
【化6】

【0051】
特開平2−211452号に記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0052】
【化7】

【0053】
特開昭61−194062号に記載のチオ置換芳香族ケトン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0054】
【化8】

【0055】
特公平2−9597号に記載のアシルホスフィンスルフィド、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0056】
【化9】

【0057】
特公平2−9596号に記載のアシルホスフィン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0058】
【化10】

【0059】
また、特公昭63−61950号に記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号に記載のクマリン類等を挙げることもできる。
【0060】
(b)オニウム塩化合物
本発明において、光ラジカル発生剤として好ましい(b)オニウム塩化合物としては、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物が挙げられる。
【0061】
【化11】

【0062】
一般式(1)中、Ar1とAr2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下のアリール基を示す。このアリール基が置換基を有する場合の好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、又は炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。(Z2-はハロゲンイオン、過塩素酸イオン、カルボキシレートイオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンからなる群より選択される対イオンを表し、好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0063】
一般式(2)中、Ar3は、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下のアリール基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、炭素原子数12個以下のアリールオキシ基、炭素原子数12個以下のアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のジアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のアリールアミノ基又は、炭素原子数12個以下のジアリールアミノ基が挙げられる。(Z3-は(Z2-と同義の対イオンを表す。
【0064】
一般式(3)中、R23、R24及びR25は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、又は炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。(Z4-は(Z2-と同義の対イオンを表す。
【0065】
本発明において、好適に用いることのできる(b)オニウム塩化合物の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0030]〜[0033]、特開2001−305734号公報の段落番号[0048]〜[0052]、及び、特開2001−343742公報の段落番号[0015]〜[0046]に記載されたものなどを挙げることができる。
【0066】
(c)有機過酸化物
本発明において、光重合開始能を有する構造として好ましい(c)有機過酸化物としては、分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれる。その例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシラウレート、ターシャリーブチルパーオキシカーボネート、3,3’,4,4’−テトラ−(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、カルボニルジ(t−ブチルパーオキシ二水素二フタレート)、カルボニルジ(t−ヘキシルパーオキシ二水素二フタレート)等が挙げられる。
【0067】
(d)チオ化合物
本発明において、光ラジカル発生剤として好ましい、(d)チオ化合物としては、下記一般式(4)で示される構造を有する化合物が挙げられる。
【0068】
【化12】

【0069】
一般式(4)中、R26はアルキル基、アリール基又は置換アリール基を示し、R27は水素原子又はアルキル基を示す。また、R26とR27は、互いに結合して酸素、硫黄及び窒素原子から選ばれたヘテロ原子を含んでもよい5員ないし7員環を形成するのに必要な非金属原子群を示す。
一般式(4)で示されるチオ化合物の具体例としては、下記表1に示す官能基を有する化合物が挙げられる。
【0070】
【表1】

【0071】
(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物
本発明において、光ラジカル発生剤として好ましい(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物としては、特公昭45−37377号、特公昭44−86516号に記載のロフィンダイマー類、例えば、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2’−ビス(o,o’−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−メチルフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−トリフルオロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0072】
(f)ケトオキシムエステル化合物
本発明において、光ラジカル発生剤として好ましい、(f)ケトオキシムエステル化合物としては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0073】
(g)ボレート化合物
本発明において、光ラジカル発生剤として好ましい、(g)ボレート化合物の例としては、下記一般式(5)で表される化合物を挙げることができる。
【0074】
【化13】

【0075】
一般式(5)中、R28、R29、R30及びR31は、互いに同一でも異なっていてもよく、各々置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のアルキニル基、又は置換若しくは非置換の複素環基を示し、R28、R29、R30及びR31はその2個以上の基が結合して環状構造を形成してもよい。ただし、R28、R29、R30及びR31のうち、少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルキル基である。(Z5+はアルカリ金属カチオン又は第4級アンモニウムカチオンを示す。
【0076】
一般式(5)において、R28〜R31で表されるアルキル基としては、直鎖、分枝、環状のものが含まれ、炭素原子数1〜18のものが好ましい。具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ステアリル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが含まれる。また、置換アルキル基としては、上記のようなアルキル基に、ハロゲン原子(例えば、−Cl、−Brなど)、シアノ基、ニトロ基、アリール基(好ましくは、フェニル基)、ヒドロキシ基、−COOR32(ここで、R32は、水素原子、炭素数1〜14のアルキル基、又はアリール基を示す)、−OCOR33又は−OR34(ここで、R33、R34は、炭素数1〜14のアルキル基、又はアリール基を示す)、及び下記式で表されるものを置換基として有するものが含まれる。
【0077】
【化14】

【0078】
式中、R35及びR36は、各々独立に、水素原子、炭素数1〜14のアルキル基、又はアリール基を示す。
【0079】
一般式(5)で示される化合物例としては、具体的には、米国特許3,567,453号、同4,343,891号、ヨーロッパ特許109,772号、同109,773号に記載されている化合物、及び以下に示すものが挙げられる。
【0080】
【化15】

【0081】
(h)アジニウム化合物
本発明において、光ラジカル発生剤として好ましい、(h)アジニウム塩化合物としては、特開昭63−138345号、特開昭63−142345号、特開昭63−142346号、特開昭63−143537号、及び特公昭46−42363号に記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
【0082】
(i)活性エステル化合物
本発明において、光ラジカル発生剤として好ましい、(i)活性エステル化合物としては、特公昭62−6223号に記載のイミドスルホネート化合物、特公昭63−14340号、特開昭59−174831号に記載の活性スルホネート類を挙げることができる。
【0083】
(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物
本発明において、光ラジカル発生剤として好ましい、(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物としては、下記一般式(6)及び(7)に記載の化合物を挙げることができる。
【0084】
【化16】

【0085】
一般式(6)中、X2はハロゲン原子を表し、Y1は−C(X23、−NH2、−NHR38、−NR38、−OR38を表す。ここで、R38は、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、又は置換アリール基を表す。R37は、−C(X23、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、又は置換アルケニル基を表す。
【0086】
【化17】

【0087】
一般式(7)中、R39は、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アリール基、置換アリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、置換アルコキシル基、ニトロ基、又はシアノ基を表す。X3は、ハロゲン原子を表す。nは、1〜3の整数を表す。
【0088】
上記一般式(6)及び(7)で表される化合物として、具体的には、下記化合物を上げることができる。
【0089】
【化18】

【0090】
【化19】

【0091】
(k)ピリジウム類化合物
本発明において、光ラジカル発生剤として好ましい(k)ピリジウム類化合物の例としては、下記一般式(8)で表される化合物を挙げることができる。
【0092】
【化20】

【0093】
一般式(8)中、好ましくは、R5は水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、又は置換アルキニル基を表し、R6、R7、R8、R9、R10は同一であっても異なるものであってもよく、水素原子、ハロゲン原子又は一価の有機残基を表し、少なくとも一つは、下記一般式(9)で表される構造の基を有する。また、R5とR6、R5とR10、R6とR7、R7とR8、R8とR9、R9とR10が互いに結合して環を形成してもよい。更に、Xは対アニオンを表す。mは1〜4の整数を表す。
【0094】
【化21】

【0095】
一般式(9)中、R12、R13はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基又は置換アルキニル基を表し、R11は水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、ヒドロキシル基、置換オキシ基、メルカプト基、置換チオ基、アミノ基又は置換アミノ基を表す。また、R12とR13、R11とR12、R11とR13が互いに結合して環を形成してもよい。Lはヘテロ原子を含む2価の連結基を表す。
【0096】
これらの光ラジカル発生剤の中でも、耐熱性のある光重合開始剤が好ましく、具体的には芳香族ケトン類が好ましい。
この芳香族ケトン類の中でも下記構造の芳香族ケトン類がより好ましい。
【0097】
【化22】

【0098】
上記一般式(I)に示す光重合開始基が、ポリマー鎖に連結して高分子光重合開始剤を形成する場合、連結基は、フェニル環と連結していることが好ましい。あるいは、フェニル基とポリマー鎖が直接結合していても良い。
【0099】
【化23】

【0100】
上記一般式(II)及び一般式(III)に示される光重合開始基が、ポリマー鎖に連結して高分子開始剤を形成する場合、連結基はフェニル環またはOHと連結していることが好ましい。あるいは、フェニル基またはOHがポリマー鎖と直接結合していても良い。
【0101】
【化24】

【0102】
上記一般式(IV)に示す光重合開始基が、ポリマー鎖に連結して高分子開始剤を形成する場合、連結基はフェニル環と連結していることが好ましい。あるいは、フェニル基とポリマー鎖が直接結合していても良い。
【0103】
連結基としては、2価または3価の連結基が挙げられる。具体的には、―0―、―OCO―、―CO―、―OCONH―、―S―、―CONH―、―OCOO―、―N=等が挙げられる。これらのうち、―0―、―OCO―を用いる事が好ましい。
【0104】
上記光ラジカル発生剤としては、低分子であっても高分子であってもよい。
低分子の光ラジカル発生剤としては、具体的には、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーのケトン、ベンゾイルベンゾエート、ベンゾイン類、α−アシロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、トリクロロメチルトリアジンおよびチオキサントン等の公知のラジカル発生剤を使用することができる。また通常、光酸発生剤として用いられるスルホニウム塩やヨードニウム塩なども、光照射によりラジカル発生剤として作用するため、本発明ではこれらを用いてもよい。
【0105】
また、感度を高める目的で光ラジカル発生剤に加えて、増感剤を用いてもよい。増感剤としては、具体的には、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、およびチオキサントン誘導体等が含まれる。高分子光ラジカル発生剤としては、特開平9−77891号、特開平10−45927号に記載の活性カルボニル基を側鎖に有する高分子化合物を使用することができる。
【0106】
高分子の光ラジカル発生剤としては、例えば、下記化合物(a)〜(n)を挙げることができる。
【0107】
【化25】

【0108】
【化26】

【0109】
【化27】

【0110】
なお、光ラジカル発生剤としては、隣接する樹脂層や導電膜との密着性向上効果の観点から高分子型の光ラジカル発生剤を用いる事が好ましい。このような高分子型光ラジカル発生剤の分子量としては、10000以上が好ましく、30000以上100000以下がより好ましい。
【0111】
なお、上記光重合開始剤としては、下記一般式(O)に示すような、光重合開始基を有するモノマーと、その他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0112】
【化28】

【0113】
なお、本発明において樹脂層Bの形成に用いられる樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂)が、光ラジカル発生剤における「光重合開始能を有する構造」を分子内に有するものであってもよい。このように、エポキシ樹脂自体が光重合開始能を有する場合には、ラジカル発生剤と同様の機能をエポキシ樹脂が有するため、樹脂層Bを形成する組成物中に、さらに別のラジカル発生剤を含まなくてもよい。
【0114】
このような光重合開始能を有するエポキシ樹脂は、例えば、エポキシ基を有するモノマーと光重合開始基を有するモノマーとを共重合させることで容易に得ることができる。
以下に、エポキシ樹脂組成物が、エポキシ基を有するモノマーと、光重合開始基を有するモノマーとの共重合体として構成される場合の具体的例を示すが、本発明で用いられるエポキシ樹脂組成物はこれらに限定されるものではない。
なお、下記共重合体を示す一般式(C)〜(N)中、x、yは、モル分率を表し、x+y=100(x≠0、y≠0)である。
【0115】
【化29】

【0116】
【化30】

【0117】
【化31】

【0118】
なお、これらの上記共重合体の内、モル分率x、yは、膜強度やグラフト重合性の観点から、x=5〜70、y=30〜95であることが好ましく、x=5〜50、y=50〜95であることが更に好ましく、x=10〜30、y=70〜90であることが特に好ましい。
【0119】
樹脂層B形成用の組成物に含有させるラジカル発生剤の量は、目的に応じて選択されるが、一般的には、樹脂層B形成用組成物中含まれる全固形分に対して0.1〜50質量%程度であることが好ましく、1.0〜30.0質量%程度であることがより好ましい。
【0120】
(樹脂層Bの形成)
樹脂層Bを形成する方法としては、樹脂層Aが形成された基材ごと、重合性化合物等を含有する液状の組成物中に浸漬することで行ってもよいが、取り扱い性や製造効率等を考慮すれば、液状組成物を塗布することで形成されることが好ましい。
樹脂層Bを形成する組成物に使用する溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールモノメチルエーテルの如きアルコール系溶剤、酢酸の如き酸、アセトン、シクロヘキサノンの如きケトン系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドの如きアミド系溶剤、アセトニトリルなどが挙げられる。
必要に応じて溶剤に添加することのできる界面活性剤としては、溶剤に溶解するものであればよく、そのような界面活性剤としては、例えば、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの如きアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの如きカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品としては、例えば、エマルゲン910、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルの如き非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
なお、塗布法で形成する場合、その塗布量は、固形分換算で0.1〜10g/mが好ましく、特に0.5〜5g/mが好ましい。
また、形成された樹脂層Bの膜厚は、めっきの付きまわりの観点から、0.1μm〜10μmの範囲であることが好ましく、0.5μm〜5μmであることがより好ましい。
【0121】
(エネルギー付与)
樹脂層Bの形成後に、エネルギーを付与することで、樹脂層Bに含まれるラジカル発生剤が分解してラジカルを発生し、これを基点として樹脂層Bが硬化するのみならず、該ラジカルの作用により、樹脂層A中に含まれるラジカル重合性化合物とも反応して、樹脂層Bが樹脂層Aと高強度で密着し、その結果、樹脂層Bは樹脂層Aを介して有機樹脂基板と強固に接着することになる。
密着を向上させるためのエネルギー付与方法としては、加熱や活性光線の露光などが挙げられる。
加熱は、有機樹脂基板、樹脂層A及び樹脂層Bの積層体を、接触、非接触の熱源により加熱する方法、加熱ゾーン中を搬送するか或いは配置する方法などが挙げられる。
接触加熱は、ヒータを内蔵した加熱ロールと接触させる方法などが挙げられ、非接触加熱としては、赤外線ヒータによる加熱、温風の吹き付け、高温雰囲気下への配置などが挙げられる。
加熱条件としては、50〜100℃で5〜60分間程度であることが好ましい。また、密着性向上感度、及び、有機樹脂基板の熱安定性の観点からは、加熱は樹脂層B表面側から行われることが好ましい。
【0122】
また、エネルギー付与を活性光線の露光により行う場合には、一般的に用いられる水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯等を用いてもよいし、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ、蛍光灯等の光源を用いてもよい。また、熱陰極管、冷陰極管、電子線、X線等の光源、電磁波等を用いることができる。
本発明では、水銀灯、LED、半導体レーザを光源として用いることが好ましい。LED又は半導体レーザは小型であることが特徴である。特にLEDは長寿命であり、発熱量が少なく、消費電力が小さい上、オゾンが発生しない、電源を入れると即時使用可能であるという長所を有する。
光ビーム走査露光、マスクを用いたパターン露光によりパターンを形成することもできる。
【0123】
本発明の方法によれば、エネルギー付与はラジカル発生剤を含有する樹脂層B側より実施されるため、特に光エネルギーを付与する場合、露光面近傍に開始種を発生しうる化合物が高密度で存在することから一層の高感度化が達成されるものと考えられる。
また、エネルギー付与は有機樹脂基板上に樹脂層Aを介して積層される樹脂層Bに行われるため、ラジカル発生に十分なエネルギーを付与しても、有機樹脂基板の温度が大きく上昇することはない。このため、密着性向上工程においても、有機樹脂基板の温度は100℃以下に維持され、基板を構成する有機樹脂に悪影響を及ぼす懸念がないことも大きな特徴である。
樹脂層Aを介して、樹脂層Bと有機樹脂基板との密着性向上に要するエネルギーは目的に応じて適宜選択されるが、本発明の態様では高感度の反応が可能となるため、通常は、樹脂層Bの表面において200〜500mJ/cm程度であれば密着性向上が達成しうる。
【0124】
エネルギー付与終了後には、樹脂層B中に残存する未反応の低分子量重合性化合物を除去する目的で、溶媒による洗浄、例えば水による洗浄が行われることが好ましい。
【0125】
<(c)無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる層(樹脂層B)に、無電解めっき触媒またはその前駆体を付与する工程>
このように形成された樹脂層Bに対し、無電解めっき触媒またはその前駆体を付与し、その後、無電解めっきを行い、導電膜を形成する。樹脂層Bの形成後に、無電解めっき触媒またはその前駆体を接触させることにより、樹脂層Bに存在する相互作用性基に無電解めっき触媒またはその前駆体が相互作用により吸着する。
(無電解めっき触媒)
本工程〔(c)工程〕において用いられる無電解めっき触媒とは、主に0価金属であり、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられる。本発明においては、特に、Pd、Agがその取り扱い性の良さ、触媒能の高さから好ましい。0価金属を前記グラフトパターン上(相互作用性領域)に固定する手法としては、例えば、グラフトパターン上のこれら無電解めっき触媒(前駆体)と相互作用する官能基(相互作用性基)と、相互作用するように荷電を調節した金属コロイドを、相互作用性領域に適用する手法が用いられる。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの電荷は、ここで使用される界面活性剤又は保護剤により調節することができ、このように電荷を調節した金属コロイドを、グラフトパターンが有する相互作用性基と相互作用させることで、グラフトパターン上に選択的に金属コロイド(無電解めっき触媒)を吸着させることができる。
【0126】
(無電解めっき触媒前駆体)
(c)工程において用いられる無電解めっき触媒前駆体とは、化学反応により無電解めっき触媒となりうるものであれば、特に制限なく使用することができる。主には上記無電解めっき触媒で用いた0価金属の金属イオンが用いられる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、還元反応により無電解めっき触媒である0価金属になる。無電解めっき触媒である金属イオンは、基材へ付与した後、無電解めっき浴への浸漬前に、別途還元反応により0価金属に変化させて無電解めっき触媒としてよいし、無電解めっき触媒前駆体のまま無電解めっき浴に浸漬し、無電解めっき浴中の還元剤により金属(無電解めっき触媒)に変化させてもよい。
【0127】
実際、無電解めっき前駆体である金属イオンは、金属塩の状態でグラフトパターンに付与して相互作用させる。使用される金属塩としては、適切な溶媒に溶解して、金属イオンと塩基(陰イオン)とに解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO3n、MCln、M2/n(SO4)、M3/n(PO4)(Mは、n価の金属原子を表す)などが挙げられる。金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。具体例としては、例えば、Agイオン、Cuイオン、Alイオン、Niイオン、Coイオン、Feイオン、Pdイオンが挙げられ、Agイオン、Pdイオンが触媒能の点で好ましい。
【0128】
無電解めっき触媒である金属コロイド、或いは、無電解めっき前駆体である金属塩をグラフトパターン上に付与する方法としては、金属コロイドを適当な分散媒に分散、或いは、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を調製し、その溶液をグラフトパターンが存在する基板表面に塗布するか、或いは、その溶液中にグラフトパターンを有する基板を浸漬すればよい。金属イオンを含有する溶液を接触させることで、前記グラフトパターン形成領域の相互作用性基に、イオン−イオン相互作用、または、双極性−イオン相互作用を利用して金属イオンを吸着させること、或いは、相互作用性領域に金属イオンを含浸させることができる。これら吸着或いは含浸を十分に行なわせるという観点からは、接触させる溶液の金属イオン濃度、或いは金属塩濃度は1〜50質量%の範囲であることが好ましく、10〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、1分〜24時間程度であることが好ましく、5分〜1時間程度であることがより好ましい。
このようにして(c)工程で樹脂層Bに無電解めっき触媒またはその前駆体が吸着する。
【0129】
<(d)無電解めっきを行い、無電解めっき膜を形成する工程>
樹脂層Bに無電解めっき触媒(前駆体)が吸着された後、無電解めっきを行うことで、前(b)工程により得られた樹脂層B上に高密度の金属膜が形成され、導電膜が得られる。その結果、形成された導電膜は、優れた導電性を有し、且つ、樹脂層Bとの高い密着性を有するものとなる。
【0130】
(無電解めっき)
無電解めっきとは、めっきとして析出させたい金属イオンを溶かした溶液を用いて、化学反応によって金属を析出させる操作のことをいう。
本工程における無電解めっきは、例えば、前記無電解めっき触媒がパターン状に付与された基板を水洗して余分な無電解めっき触媒(金属)を除去した後、無電解めっき浴に浸漬して行なう。使用される無電解めっき浴としては一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
【0131】
また、無電解めっき触媒がパターン状に付与された基板を、無電解めっき触媒前駆体がグラフトパターンに吸着又は含浸した状態で無電解めっき浴に浸漬する場合には、基板を水洗して余分な無電解めっき触媒前駆体(金属塩など)を除去した後、無電解めっき浴に浸漬する。この場合には、無電解めっき浴中において前駆体の還元と、それに引き続いて無電解めっきが行われる。この態様に用いられる無電解めっき浴としても、上記同様、一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
【0132】
一般的な無電解めっき浴の組成としては、1.めっき用の金属イオン、2.還元剤、3.金属イオンの安定性を向上させる添加剤(安定剤)が主に含まれている。このめっき浴には、これらに加えて、めっき浴の安定剤など公知の添加物が含まれていてもよい。
無電解めっき浴に用いられる金属の種類としては、銅、すず、鉛、ニッケル、金、パラジウム、ロジウムが知られており、中でも、導電性の観点からは、銅、金が特に好ましい。
また、上記金属に合わせて最適な還元剤、添加物がある。例えば、銅の無電解めっきの浴は、銅塩としてCu(SO42、還元剤としてHCOH、添加剤として銅イオンの安定剤であるEDTAやロッシェル塩などのキレート剤が含まれている。また、CoNiPの無電解めっきに使用されるめっき浴には、その金属塩として硫酸コバルト、硫酸ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてマロン酸ナトリウム、りんご酸ナトリウム、こはく酸ナトリウムが含まれている。また、パラジウムの無電解めっき浴は、金属イオンとして(Pd(NH34)Cl2、還元剤としてNH3、H2NNH2、安定化剤としてEDTAが含まれている。これらのめっき浴には、上記成分以外の成分が入っていてもよい。
【0133】
このようにして形成される金属膜の膜厚は、めっき浴の金属塩または金属イオン濃度、めっき浴への浸漬時間、或いは、めっき浴の温度などにより制御することができるが、導電性の観点からは、0.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
また、めっき浴への浸漬時間としては、1分〜3時間程度であることが好ましく、1分〜1時間程度であることがより好ましい。
このようにして、(d)工程において無電解めっきにより導電膜が形成される。この導電膜は導電膜を生成する種となる無電解めっき触媒またはその前駆体が樹脂層Bを構成する樹脂中の相互作用性基と強固に吸着し、且つ、樹脂層Bは隣接する樹脂層Aを介して有機樹脂基板と化学的に結合しているため、形成された導電膜は有機樹脂基板との密着性に優れるものとなる。
【0134】
(電気めっき)
本発明の導電膜の形成方法においては、(d)工程である無電解めっき工程の実施後に、さらに所望により電気めっき処理を行うことができる。
即ち、無電解めっき処理を用いて導電膜を形成した場合、形成された金属膜を電極として、さらに電気めっきを行うことができる。これにより基板との密着性に優れた金属膜パターンをベースとして、そこに新たに任意の厚みをもつ金属膜を容易に形成することができる。この工程を付加することにより、導電膜(金属膜)を目的に応じた厚みに形成しうるため、所望の特性を有する導電性パターンを形成することが可能となる。
本発明における電気めっきの方法としては、従来公知の方法を用いることができる。なお、本工程の電気めっきに用いられる金属としては、銅、クロム、鉛、ニッケル、金、銀、すず、亜鉛などが挙げられ、導電性の観点から、銅、金、銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0135】
電気めっきにより得られる金属膜の膜厚については、用途に応じて異なるものであり、めっき浴中に含まれる金属濃度、浸漬時間、或いは、電流密度などを調整することでコントロールすることができる。なお、一般的な電気配線などに用いる場合の膜厚は、導電性の観点から、0.3μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
本発明の導電膜の形成方法によれば、有機樹脂基板上の全面に、基板との密着性に優れた導電膜が樹脂層B及び樹脂層Aを介して化学的に結合される。このため、導電膜の密着強度は、仮に絶縁基板の平滑性が高い場合であっても実用上十分な値を示す。
【0136】
<プリント配線板の製造方法>
上述のように、本発明の導電膜の形成方法により得られた導電膜を公知の方法でパターニングすることで、プリント配線板の配線を容易に形成することができる。本発明のプリント配線板の製造方法により得られた配線は、平滑な有機樹脂基板との密着性に優れるという利点をも有するものである。
以下、プリント配線板の配線を形成する際のパターニング法について説明する。
【0137】
(エッチング工程)
本工程は、本発明の導電膜の形成方法により形成された導電膜(めっき膜)をパターン状にエッチングする工程である。
本発明のプリント配線板の製造方法において、前記導電膜の形成方法により基材表面の全面に導電膜が形成されている場合、前記「無電解めっき触媒等付与工程:(c)工程」、「無電解めっき工程:(d)工程」、及び所望により実施される「電気めっき工程」をこの順に行った後、本工程を行い、めっき膜の不要部分をエッチングで取り除くことで、プリント配線板の金属配線部となる導電層を形成することができる。
このエッチング工程には、如何なる手法も使用することができ、具体的には一般的に知られているサブトラクティブ法、セミアディティブ法が用いられる。
【0138】
サブトラクティブ法とは、形成されためっき膜上にドライフィルムレジスト層を設けパターン露光、現像により金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジストパターンをマスクとしてエッチング液でめっき膜を除去し、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジストとしては如何なる材料も使用でき、ネガ型、ポジ型、液状、フィルム状のものが使用できる。また、エッチング方法としては、プリント配線基板の製造時に使用されている方法が何れも使用可能であり、湿式エッチング、ドライエッチング等が使用可能であり、任意に選択すればよい。作業の操作上、湿式エッチング装置などが簡便で好ましい。エッチング液として、例えば、塩化第二銅、塩化第二鉄等の水溶液を使用することができる。
【0139】
また、セミアディティブ法とは、形成されためっき膜上にドライフィルムレジスト層を設け、パターン露光、現像により非金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジソトパターンをマスクとして電気メッキを行い、ドライフィルムレジソトパターンを除去した後にクイックエッチングを実施し、めっき膜をパターン状に除去することで、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジソト、エッチング液等はサブトラクティブ法と同様な材料が使用できる。また、電気メッキ手法としては前記記載の手法が使用できる。
【0140】
<プリント配線板>
以上の工程を経ることで、プリント配線板が得られる。
以上のように、本発明の製造方法により得られたプリント配線板は、めっき工程により、所望の膜厚のめっき膜が形成されることから、プリント配線用の有機樹脂基板や有機樹脂からなる層間絶縁膜(中間層)に対する密着性と導電性に優れた配線を有し、熱信頼性及び電気特性に優れることになる。
特に、後述するように、表面凹凸が小さく、平滑性の高い中間層を用いることで、更に、高周波送電時の電気損失を少なくすることができる。
【0141】
本発明の製造方法により得られるプリント配線板は、表面凹凸(Rz)が500nm以下(より好ましくは100nm以下)の有機樹脂基板上に、樹脂層A及び樹脂層Bを介してめっき膜が設けられたものであり、前述のように、密着性に優れることを特徴とするものであり、密着性は0.6kN/m以上であることが好ましい。
【0142】
なお、有機樹脂基板表面の凹凸は、基板を基板表面に対して垂直に切断し、その断面をSEMにより観察することにより測定することができる。
本発明のプリント配線板の製造方法によれば、有機樹脂層からなる、或いは有機樹脂層を含む基板や絶縁層の上に形成された電気回路基板とのビルドアップにより、多層プリント配線板とすることもできる。
【実施例】
【0143】
以下、実施例及び比較例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0144】
〔合成例1:低温硬化型潜在性硬化剤Aの製造〕
ノニルフェノール1.0molに対し、ホルマリン2.0mol及び2−メチルイミダゾール2.0molを、180℃で3時間反応させて下記構造の化合物(I−1)を得た。
【0145】
【化32】

【0146】
上記化合物に(I−1)ついてGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)(昭和電工(株)Shodex GPC RI−71)により平均分子量を測定したところ、Mw=402を示した。これは、反応物の理論上の分子量とほぼ一致した。
得られた化合物(I−1)1molをキシレン/DMF溶液(2:1)363mlに溶解した。溶液中の化合物(I−1)の濃度は50質量%である。その後、該溶液中に液状のエポキシ樹脂(I−2)(Epikote828、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量380)0.6molを添加し、化合物(I−1)と70℃で反応させ、その後キシレン/DMF溶液を減圧留去してエポキシ樹脂付加物(I)を含む「低温硬化型潜在性硬化剤A」を得た。このときの化合物(I−1)とエポキシ樹脂(I−2)とのモル比は、1:0.6である。
この低温硬化型潜在性硬化剤A及び後述する合成例2で得られる低温硬化型潜在性硬化剤Bは、いずれも、エポキシ樹脂を低温で硬化させる際の硬化剤として有用である。
得られた低温硬化型潜在性硬化剤A中の化合物(I−1):エポキシ樹脂付加物(I)のモル比は0.4:0.6であると推定した。
【0147】
〔合成例2:低温硬化型潜在性硬化剤Bの製造〕
還流冷却器および撹拌装置を備えた1000mlの3つ口フラスコに、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド(商品名DMAPAA、株式会社興人製)110gとイソプロピルアルコール220mlを秤り取り60℃に加温した。撹拌しながら温度を60℃に保ち、6mlのイソプロピルアルコールで希釈したt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(商品名:パーブチルO、日本油脂株式会社製)3.0gを加えた。
徐々に加温して、2時間加熱還流させて反応を完結させた後、減圧下イソプロパノールを留去して25℃で半固形の3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミドポリマーを得た。
H−NMRにより、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミドモノマーは残存していないことを確認した。
【0148】
得られた3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミドポリマー40gと、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エピコート828、エポキシ当量190、ジャパンエポキシレジン)100g、およびN−(2−アミノエチル)ピペラジン40gを室温で素早く混合した。反応による発熱をコントロールしながら60℃で1時間反応させ、続いて120℃でさらに1時間反応させて室温で固形の固溶体を得た。これを微粉砕して、平均粒径10ミクロンの粉体である低温硬化型潜在性硬化剤Bを得た。
【0149】
[実施例1]
〔ラジカル重合性化合物を含有するエポキシ樹脂層(樹脂層A)の形成:(a)工程〕
有機樹脂基板としてポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製、カプトン500H、厚さ128μm)を用いた。該基板上に、下記の組成のエポキシ樹脂組成物(ゲル化時間70℃/30分)を、コーティングバーを用いて塗布し、その後、70℃の温度条件下において2時間硬化して、厚さが5μmのエポキシ樹脂層〔樹脂層A〕を形成した。
樹脂層Aを構成する樹脂組成物のゲル化時間の測定は、JIS K5909(熱板法)に準拠して行った。なお、エポキシ樹脂組成物の保存安定性(潜在性)は、25℃の恒温で保存し、E型粘度計で測定した粘度が初期粘度の2倍になるまでの日数で測定したところ、120日以上であり、高い貯蔵安定性を示した。
【0150】
(樹脂層A形成用エポキシ樹脂組成物)
(A)エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、エピコート828):10質量部
(B)低温硬化型潜在性硬化剤A:合成例1で得た化合物 : 2質量部
(C)トリメチロールプロパントリメタクリレート(和光純薬工業製): 3質量部
【0151】
〔アクリル樹脂組成物層(樹脂層B)の塗布〕
前記のようにして得られたエポキシ樹脂層(樹脂層A)表面に、下記組成のアクリル樹脂組成物をスピンコーターで塗布し、50℃5分乾燥することで1μm厚の樹脂層(無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する官能基とラジカル重合性基を分子内に含有するアクリル樹脂層)を塗設した。
【0152】
<アクリル樹脂組成物>
・側鎖に重合性基を持つアクリル樹脂(C)(下記構造) :10質量部
・2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(和光純薬工業製) :0.2質量部
・アセトニトリル(和光純薬工業製) :90質量部
【0153】
【化33】


アクリル樹脂C
【0154】
〔エネルギーの付与(樹脂層Bの形成及び樹脂層Aと樹脂層Bの結合形成)〕
このようにして得られた有機樹脂基板と樹脂層Aと樹脂層Bとの積層体における樹脂層B表面を95℃で20分加熱した。その後、基材をアセトニトリル溶液に25℃で5分浸漬し、硬化が不十分な樹脂や未反応成分を除去した。
【0155】
〔無電解めっき触媒の付与:(c)工程〕
得られた積層体を、硝酸パラジウム(和光純薬工業製)1質量%の水溶液に1分浸漬した後、蒸留水で洗浄した。
〔無電解めっき触媒の付与:(d)工程〕
その後、無電解めっき触媒が吸着した積層体を、下記組成の無電解めっき浴にて、40℃で50分間無電解めっきを行った。その後90℃で60分間のアフターベークを行って、実施例1の導体膜を有する積層体を得た。
【0156】
(無電解めっき浴の組成)
・蒸留水 :86mL
・ATSアドカッパーIW−A :5ml
・ATSアドカッパーIW−M :8ml
・ATSアドカッパーIW−C :1ml
・NaOH :0.22g
・2,2’−ビピリジル :0.2mg
無電解めっき浴のpH:12.67
【0157】
(電解めっき)
引き続き剥離強度を測定するために、下記組成の電解めっき浴にて、3A/dmの電流密度で20分間電解めっきを行い、厚さ8μmの電解銅めっき層を形成し、90℃で60分間のアフターベークを行った。
<電解めっき浴の組成>
・蒸留水 1300mL
・硫酸銅・5水塩 133g
・濃硫酸 340g
・塩酸 0.25mL
・カッパ−グリームPCM(メルテックス(株)製) 9mL
【0158】
〔性能評価:剥離強度〕
剥離強度はテンシロン(型番RTM−100、株式会社オリエンテック製)により、JIS C 6481に準拠して、導体の剥離強度を10サンプル測定し、最大値と最小値の平均値を、導電膜の剥離強度とした。結果を下記表2に示す。
【0159】
[実施例2]
実施例1で使用した樹脂層A形成用エポキシ樹脂組成物において、重合性化合物であるトリメチロールプロパントリメタクリレートに代えてエポキシアクリレート(日本化薬製エポキシ樹脂EPPN−201にアクリル酸を付加させて得たエポキシアクリレートD)を使用し、低温硬化型潜在性硬化剤Aに代えて、合成例2で得られた低温硬化型潜在性硬化剤Bをそれぞれ等量使用した以外は実施例1と同様にして、有機樹脂基板上に樹脂層A及び樹脂層Bを形成し、同様にして実施例2の導体膜を有する積層体を形成した。
この導体膜積層体において樹脂層Aの形成に用いたエポキシ樹脂組成物のゲル化時間は70℃/25分、保存安定性(潜在性)は、120日以上であり、高い貯蔵安定性を示した。
【0160】
【化34】



エポキシアクリレートD
n≒5
【0161】
[実施例3]
実施例2で使用した樹脂層A形成用エポキシ樹脂組成物において、重合性化合物であるエポキシアクリレート(エポキシアクリレートD)に代えて、トリメトキシシリルプロピルメタクリレートで表面処理した球形シリカ(平均粒径:1μm)10質量部を使用した。それ以外は実施例2と同様にして実施例3の導体膜を有する積層体を得た。
実施例3において樹脂層Aの形成に用いたエポキシ樹脂組成物のゲル化時間は70℃/30分、保存安定性(潜在性)は、120日以上であり、高い貯蔵安定性を示した。
【0162】
[実施例4]
実施例1で使用した有機樹脂基板であるポリイミドフィルムに代えてPETフィルム(「東洋紡エステル」フイルム、品名:A4100、厚さ:188μm、製造番号:145102071−3)を用い、樹脂層B形成用アクリル樹脂組成物において、ラジカル発生剤である2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)に代えて、光ラジカル発生剤として、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184)を等量使用して、有機樹脂基板表面に樹脂層A及び樹脂層Bを有する積層体を得た。エネルギー付与は、アルゴン雰囲気下で、1500W高圧水銀灯(UVX−02516S1LP01,ウシオ電気(株)製,254nmにおける光強度38mW/cm)を使用し、積層体の樹脂層B形成側より全面に照射することにより実施した。光照射後、基材をアセトニトリル溶液に25℃で5分浸漬し、硬化が不十分な樹脂を除去した。それ以外は実施例1と同様にして、実施例4の導電膜を有する積層体を得た。
【0163】
[実施例5]
実施例2で使用した有機樹脂基板であるポリイミドフィルムに代えてPETフィルム(「東洋紡エステル」フイルム、品名:A4100、厚さ:188μm、製造番号:145102071−3)を用い、樹脂層B形成用アクリル樹脂組成物において、ラジカル発生剤である2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)に代えて、光ラジカル発生剤として、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184)を等量使用して、有機樹脂基板表面に樹脂層A及び樹脂層Bを有する積層体を得た。エネルギー付与は、アルゴン雰囲気下で、1500W高圧水銀灯(UVX−02516S1LP01,ウシオ電気(株)製,254nmにおける光強度38mW/cm)を使用し、積層体の樹脂層B形成側より全面に照射することにより実施した。光照射後、基材をアセトニトリル溶液に25℃で5分浸漬し、硬化が不十分な樹脂を除去した。それ以外は実施例2と同様にして、実施例5の導電膜を有する積層体を得た。
【0164】
[実施例6]
実施例3で使用した有機樹脂基板であるポリイミドフィルムに代えてPETフィルム(「東洋紡エステル」フイルム、品名:A4100、厚さ:188μm、製造番号:145102071−3)を用い、樹脂層B形成用アクリル樹脂組成物において、ラジカル発生剤である2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)に代えて、光ラジカル発生剤として、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184)を等量使用して、有機樹脂基板表面に樹脂層A及び樹脂層Bを有する積層体を得た。エネルギー付与は、アルゴン雰囲気下で、1500W高圧水銀灯(UVX−02516S1LP01,ウシオ電気(株)製,254nmにおける光強度光強度38mW/cm)を使用し、積層体の樹脂層B形成側より全面に照射することにより実施した。光照射後、基材をアセトニトリル溶液に25℃で5分浸漬し、硬化が不十分な樹脂を除去した。それ以外は実施例3と同様にして、実施例6の導電膜を有する積層体を得た。
【0165】
[実施例7]
実施例4で使用した有機樹脂基板であるPETフィルム(「東洋紡エステル」フイルム、品名:A4100、厚さ:188μm、製造番号:145102071−3)に代えてPEN(ポリエチレンナフタレート:帝人社製テオネックスQ65FA)を用い、実施例4で使用した樹脂層B形成用アクリル樹脂組成物中に、トリメチロールプロパントリメタクリレート(和光純薬工業製)3.3質量部を追加し、それ以外は実施例4と同様にして、実施例7の導電膜を有する積層体を得た。
【0166】
[実施例8]
実施例5で使用した有機樹脂基板であるPETフィルム(「東洋紡エステル」フイルム、品名:A4100、厚さ:188μm、製造番号:145102071−3)に代えてPEN(ポリエチレンナフタレート:帝人社製テオネックスQ65FA)を用い、実施例5で使用した樹脂層B形成用アクリル樹脂組成物中に、トリメチロールプロパントリメタクリレート(和光純薬工業製)3.3質量部を追加し、基材をPETからPEN(ポリエチレンナフタレート:帝人社製テオネックスQ65FA)に変更し、それ以外は実施例5と同様にして、実施例8の導電膜を有する積層体を得た。
【0167】
[実施例9]
実施例6で使用した有機樹脂基板であるPETフィルム(「東洋紡エステル」フイルム、品名:A4100、厚さ:188μm、製造番号:145102071−3)に代えてPEN(ポリエチレンナフタレート:帝人社製テオネックスQ65FA)を用い、実施例5で使用した樹脂層B形成用アクリル樹脂組成物中に、トリメチロールプロパントリメタクリレート(和光純薬工業製)3.3質量部を追加し、それ以外は、実施例6と同様にして、実施例9の導電膜を有する積層体を得た。
【0168】
[実施例10]
実施例7で使用した樹脂層B形成用アクリル樹脂組成物に代えて、下記組成のアクリル樹脂組成物を使用し、それ以外は、実施例7と同様にして、実施例10の導電膜を有する積層体を得た。
<アクリル樹脂組成物>
・ポリアクリル酸(和光純薬工業製、平均分子量25000) :10質量部
・イルガキュア2959(チバスペシャルティケミカルズ) :0.2質量部
・N,N’―メチレンビス(アクリルアミド)(和光純薬工業製) :3.3質量部
・水 :90質量部
【0169】
【化35】



イルガキュア2959
【0170】
[実施例11]
実施例8で使用した樹脂層B形成用アクリル樹脂組成物に代えて、実施例10で使用したアクリル樹脂組成物を使用し、それ以外は、実施例8と同様にして、実施例11の導電膜を有する積層体を得た。
[実施例12]
実施例9で使用した樹脂層B形成用アクリル樹脂組成物に代えて、実施例10で使用したアクリル樹脂組成物を使用し、それ以外は、実施例9と同様にして、実施例12の導電膜を有する積層体を得た。
【0171】
[比較例1]
実施例1で樹脂層Aの形成に使用したエポキシ樹脂組成物から、重合性化合物であるトリメチロールプロパントリメタクリレートを除いたエポキシ樹脂組成物を用いて樹脂層Aを形成し、それ以外は実施例1と同様にして比較例1の導電膜を有する積層体を得た。
[比較例2]
実施例5で樹脂層Aの形成に使用したエポキシ樹脂組成物から、重合性化合物であるエポキシアクリレートDを除いたエポキシ樹脂組成物を用いて樹脂層Aを形成し、それ以外は実施例5と同様にして比較例2の導電膜を有する積層体を得た。
【0172】
[比較例3]
実施例9で樹脂層Aの形成に使用したエポキシ樹脂組成物から、重合性化合物であるトリメトキシシリルプロピルメタクリレートで表面処理した球形シリカ(平均粒径:1μm)に代えて、1−トリメトキシシリルオクタンで表面処理した球形シリカ(平均粒径:1μm)を用いたエポキシ樹脂組成物を用いて樹脂層Aを形成し、樹脂層Bの形成に用いたアクリル樹脂組成物から光ラジカル発生剤を除いた。それ以外は実施例9と同様にして比較例3の導電膜を有する積層体を得た。
【0173】
実施例1〜実施例12、比較例1〜比較例3について、剥離強度を実施例1と同様にして行った。また、露光により密着性向上を図った実施例4〜12、及び、比較例2、3については、光感度を以下の方法により測定した。これらの結果を表2に示す。
【0174】
(光感度測定方法)
有機樹脂基板表面に樹脂層A及び樹脂層Bを有する積層体に、樹脂層B側から順々に照射エネルギーが変わるようにステップウエッジ状の画像形状に露光し、その後現像した。
各々のステップでの画像の膜厚を測定し、その関係をプロットしたグラフを用いて感度を測定する。即ち、図1に示すように、プロットしたグラフにおいて、露光エネルギーの増加に従って膜厚が増加する領域において破線で示すように接線を引き、露光エネルギーが増加しても膜厚の増加が認められなくなった領域の膜厚と、該接線との交点を感度として評価した。この感度を示す露光エネルギーが低いほど、低エネルギーで所定の膜厚を形成することができ、光感度が良好であると評価する。膜厚は、セイコーインスツルメンツ株式会社製 Nanopics 1000で測定した。

【0175】
【表2】

【0176】
上記表2より、本発明の形成方法によれば、100℃以下のプロセス温度で高い密着強度を発現する導電膜を形成しうることがわかる。また、この方法において、樹脂層Aと樹脂層Bとの密着性向上のためのエネルギーとして光エネルギーを用いた場合には、高い光感度を有することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】露光エネルギーと膜厚との関連をプロットしたグラフから感度を決定する方法を示すモデル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)有機樹脂基材上に、ラジカル重合性化合物と、熱硬化性樹脂とを含有し、70℃におけるゲル化時間が60分以下の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層(樹脂層A)を形成する工程、(b)無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂と、ラジカル発生剤と、ラジカル重合性化合物と、を含有し、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる樹脂層(樹脂層B)を形成する工程、(c)無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる層(樹脂層B)に、無電解めっき触媒またはその前駆体を付与する工程、及び、(d)無電解めっきを行い、無電解めっき膜を形成する工程、を含む導電膜の形成方法。
【請求項2】
前記ラジカル重合性化合物と、熱硬化性樹脂とを含有し、70℃におけるゲル化時間が60分以下の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層(樹脂層A)に含まれる熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の導電膜の形成方法。
【請求項3】
前記ラジカル重合性化合物として、ラジカル重合性基を有するシランカップリング剤で表面修飾されたフィラーを含有することを特徴とする請求項2に記載の導電膜の形成方法。
【請求項4】
前記無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる樹脂層(樹脂層B)が、有機樹脂基材上に形成された無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂を含有する樹脂組成物層にエネルギーを付与して、該樹脂組成物層を隣接する樹脂層Aと化学結合させることにより形成される樹脂層であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の導電膜の形成方法。
【請求項5】
前記無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂組成物が、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する官能基とラジカル重合性基を分子内に含有するアクリル樹脂を含むことを特徴とする請求項4に記載の導電膜の形成方法。
【請求項6】
前記無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着する官能基がシアノ基、置換または無置換のアミノ基、置換または無置換の含窒素複素環基であることを特徴とする請求項5に記載の導電膜の形成方法。
【請求項7】
前期無電解めっき膜上に電解めっき膜を形成し、90°剥離試験で測定した際の導電膜の剥離強度が0.6kN/m以上であることを特徴とする請求項1から請求項6に記載の導電膜の形成方法。
【請求項8】
前記(a)〜(d)の全工程中、前記ラジカル重合性化合物と、熱硬化性樹脂とを含有し、70℃におけるゲル化時間が60分以下の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層(樹脂層A)及び無電解めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有する樹脂と、ラジカル発生剤と、ラジカル重合性化合物と、を含有し、無電解めっき触媒またはその前駆体を吸着しうる樹脂層(樹脂層B)の双方の温度が100℃以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の導電膜の形成方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の導電膜の形成方法を含むことを特徴とするプリント配線板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−218509(P2009−218509A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63193(P2008−63193)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】