説明

小便器洗浄装置

【課題】
高い精度の定在波、及びドップラ信号の検出機能を備えた小便器洗浄装置を提供することにある。
【解決手段】
小便器へ洗浄水を供給する給水部と、小便器周辺の対象物を検出するドップラセンサと、ドップラセンサのセンサ出力に応じて給水部を制御する制御部と、制御部は対象物の大きさや対象物との距離を検出するためにセンサ出力に含まれる定在波出力を検出する第1検出手段と、対象物の動きを検出するためにセンサ出力に含まれるドップラ出力を検出する第2検出手段と、を備えた小便器洗浄装置において、第1検出手段の定在波出力レベルを定在波オフセット値として設定するとともに、定在波オフセット値の直流成分が所定値より大きい場合、第2検出手段はセンサ出力より前記定在波オフセット値を減算してドップラ出力を行い、ドップラ出力に応じて給水バルブを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を用いて人体の存在状況を検出するマイクロ波ドップラセンサを備えた、小便器洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用足し後の小便器本体の洗浄を自動化する為に、便器に赤外線センサ等の人体検出センサを設置し、一定時間以上人体を検出した場合には小用前の水膜形成のための前洗浄を実施したり(以下、前洗浄)、その後に人体が離れたことを検出し、一定量の洗浄水を流すようにしたもの(以下、本洗浄)がある。このような小便器洗浄装置は、通常の使用において人体は小便器洗浄の為の操作をする必要がないので便利である。
【0003】
一方、便器洗浄装置において、人体を検出するセンサとしてマイクロ波センサを用いることが提案されている。(例えば、特許文献1)マイクロ波は陶器や磁器を透過するので、マイクロ波センサを陶器製の便器の内部やタイルの裏側に設置することが可能であり、センサ自体の保護、防水等を考慮する必要が無いという点で優れている。また、センサを隠蔽できるので、悪戯の恐れが無く、デザインの自由度が向上する。
【0004】
また、電波(特にマイクロ、ミリ波)によるマイクロ波ドップラセンサは、ドップラ効果を利用して以下の原理で物体(動き)検出に用いられている。
基本式:ΔF=FS―Fb=2×FS×ν/c
ΔF:ドップラ周波数
S:送信周波数
b:反射周波数
ν:物体の移動速度
c:光速(300×106 m/s)
アンテナから送信されたFSは、物体に反射し、相対運動νによるドップラ周波数シフトを受けFbとなる。この時、送信波と反射波の周波数差ΔFが検出信号として取り出せる。
【0005】
このマイクロ波ドップラセンサは物体(動き)を検出するので、これを小便器に採用して、人体の接近や(例えば、特許文献2)人の尿流を(例えば、特許文献3)検出することができるように検討されている。これら技術によれば、人体の接近と人の尿流とは検出されるドップラ周波数の違いに基づいて検出させている。
【0006】
また、このマイクロ波ドップラセンサの出力には、後述する定在波信号とドップラ信号とが含まれており、この定在波とドップラ信号を用いて対象物の検出を実施することができる例えば、特許文献4)。定在波信号は対象物との距離(対象物の位置)を表すものであり、ドップラ信号は対象物の動きを表すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭62−132484
【特許文献2】特開平9−80150
【特許文献3】特開2002−266407
【特許文献4】特開2008−31825
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
値の大きな定在波が発生した時、定在波の検出は当然可能であるが、マイクロ波ドップラセンサの出力が飽和してしまい、本来マイクロ波ドップラセンサが捕らえたはずのドップラ信号を検出できなくなる恐れがある。
【0009】
また逆に、ドップラ信号を検出するために定在波が0になるように調整しようとすると、定在波の検出が困難になってしまうという問題があり、ドップラ信号と定在波の検出はトレードオフと言える。
【0010】
本発明は前述した課題に鑑みてなされたもので、本発明が目的とするところは、高い精度の定在波、及びドップラ信号の検出機能を備えた、小便器洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第1の発明は、小便器へ洗浄水を供給する給水部と、前記小便器周辺の対象物を検出するドップラセンサと、前記ドップラセンサのセンサ出力に応じて前記給水部を制御する制御部と、前記制御部は、前記対象物の大きさや前記対象物との距離を検出するために前記センサ出力に含まれる定在波出力を検出する第1検出手段と、前記対象物の動きを検出するために前記センサ出力に含まれるドップラ出力を検出する第2検出手段と、を備えた小便器洗浄装置において、前記第1検出手段の定在波出力レベルを定在波オフセット値として設定するとともに、前記定在波オフセット値の直流成分が所定値より大きい場合、前記第2検出手段は前記センサ出力より前記定在波オフセット値を減算してドップラ出力を行い、前記ドップラ出力に応じて前記給水バルブを制御することを特徴とする。
その結果、対象物が接近してきて、ドップラセンサのセンサ出力を定在波出力が大きくなる。そこで、これを定在波オフセット値として、ドップラ出力を検出する第2検出手段の出力より減算して、対象物の動きを検出する交流信号を取り出す。そして、その交流信号が歪むことなく検出でき対象物を判断できるので、便器洗浄が正確に行うことができる。
【0012】
上記目的を達成するために、第2の発明は、請求項1に記載の便器洗浄装置において、前記定在波オフセット値は、前記第2検出手段が有する増幅手段の最大直流出力レベルの半分であることを特徴とする。
この結果、最大直流出力の半分の値を、第2検出手段のオフセット値することで、両極性に対象に振れる交流成分を歪みなく高精度に検出することができる。
【0013】
上記目的を達成するために、第3の発明は、請求項1又は2に記載の小便器洗浄装置において、前記第1検出手段は前記定在波オフセット値と逆極性の直流成分レベルを検出したとき、前記第2検出手段は前記センサ出力より前記定在波オフセット値の減算を停止することを特徴とする。
この結果、逆極性の定在波オフセット値を検出するとき、前記定在波オフセット値の減算を止めたりすることで、対象物が接近、離反を繰り返しても高精度に定在波を検出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、小便器に設置されたマイクロ波ドップラセンサに対象物が近距離に接近しても、マイクロ波ドップラセンサの出力が飽和することがないようにマイクロ波ドップラセンサの出力を調整するのでドップラ信号を検出可能であり、尚且つその調整量により定在波の有無を検出するため、定在波の検出も可能とする小便器洗浄装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による便器洗浄装置を適用した小便器の構成を示す図である
【図2】マイクロ波ドップラセンサからの出力Sig1より定在波信号とドップラ信号を検出するための概略構成図である。
【図3】マイクロ波ドップラセンサ2からの出力Sig1の波形例図である。
【図4】制御部3にて処理される定在波とドップラ信号検出のためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施例について、図面をもとに以下に説明する。
【実施例】
【0017】
図1より、小便器1の内部には、マイクロ波ドップラセンサ2、制御部3が収められている。小便器1の上端は、蓋4となっており、マイクロ波ドップラセンサ2と制御部3が収められている空間のメンテナンス作業が容易にできるようになっている。小便器1の上方背面には小便器1のボール部内空間を洗浄する為の水を供給する為の給水部5が設けられている。ボール部内空間の上部には、洗浄水吐出口6が設けられている。ボール部内空間の下部には、封水を形成する為のトラップ部7と排水口8が設けられている。マイクロ波ドップラセンサの検出範囲9内に小便器1の人体10が接近し用を足すことにより、人体10の接近とその尿流11を検出することができる構成とされている。
【0018】
図2より、マイクロ波ドップラセンサ2は、10.525GHzのマイクロ波を送信する送信手段20と、反射波を受信する受信手段21と、送信手段20と受信手段21との周波数との差分を出力する差分検出手段22から構成されている。この点がドップラセンサの特徴である。
【0019】
そして、制御部3を具体的に示す。マイクロ波ドップラセンサ2からの出力Sig1が第1検出手段12と第2検出手段13へ入力される。第1検出手段12ではマイクロ波ドップラセンサの出力が基準値(例えば2.5V)からどの程度の差分(以下、定在波オフセット値と記述)があるかを判断し、定在波オフセット値がマイクロ波ドップラセンサ出力調整手段14へ入力される。
【0020】
図3より、T0の期間は対象物が何も無い時の信号であり、この時の信号の値を基準値とする。T1の期間は信号が飽和していないためドップラ信号の検出が可能であり、各点でのオフセット値を演算すれば定在波の検出もできる。それに対してT2の期間は信号が飽和しているため、定在波オフセット値V1は求めることができるが、ドップラ信号の有無を検出することができない。
また、定在波オフセット値V1は、第2検出手段が有する増幅手段の出力の振幅幅(通常はグランドとVcc電圧の幅)の中間値(Vccが5Vであれば、半分である2.5V)であれば、極性が対象である波形でドップラー信号を歪みなく検出するのに都合がいい。
【0021】
そこでマイクロ波ドップラセンサ出力調整手段14は、ドップラ信号が検出可能程度に定在波オフセット値を小さくするためにマイクロ波ドップラセンサの出力を調整する(オフセット出力を調整する)。この調整量を検出判断統計手段16へ出力する。
【0022】
この時、常時マイクロ波ドップラセンサの出力調整を行うと定在波が微増して発生した時にどの程度オフセット調整を行ったのかが不明確になるため、オフセット調整は段階的に行った方が良い。そこで制御部3には調整閾値15を設ける。マイクロ波ドップラセンサ出力調整手段14は、第1検出手段12の出力であるオフセット値と調整閾値15とを比較し、定在波オフセット値が調整閾値15を上回っていれば、マイクロ波ドップラセンサの出力調整を行う。このような処理により安定した(一定量の)調整量を確保することができる。
【0023】
検出判断統計手段16では、マイクロ波ドップラセンサ出力調整手段14が出力した調整量を元に定在波の有無を判断する。つまり調整量の値が定在波有無を判断する閾値以上であれば定在波有り、定在波有無を判断する閾値未満であれば定在波無しと判断することができる。
【0024】
このように定在波オフセット値を小さくすることで、図3のT3期間のようにドップラ信号が現れる。この時、マイクロ波ドップラセンサ出力調整手段14が出力した調整量にて定在波の有無も確認することできるので、定在波を検出しつつドップラ信号も検出することができる。
【0025】
第2検出手段13ではドップラ信号を検出する。検出方法としては固有の周波数を抽出するためにデジタルフィルタ処理を施しその結果が、対象物検出の閾値以上であるか否かといった例があげられる。小便器1に近づいた人体10を検出したければ人体10の動作周波数である0〜40Hz程度のデジタルフィルタ処理、人体10の尿流11を検出したければ尿流11の動作周波数である80〜180Hz程度のデジタルフィルタ処理を施せば効果的な出力が得られる。
【0026】
また、マイクロ波ドップラセンサの出力の極値を検出し、各極値間の時間と振幅値を演算することで周波数と振幅が得られるため、デジタルフィルタ処理よりも簡易的にドップラ信号の有無を検出することができる。この時、マイクロ波ドップラセンサ出力調整手段14はドップラ信号が検出できる程度にオフセット値を調整しているので、マイクロ波ドップラセンサ出力が飽和しドップラ信号検出に悪影響を与えることが無い。
【0027】
第2検出手段13の判断結果は、検出判断統計手段16へ入力され、検出判断統計手段16では、定在波の有無とドップラ信号の有無を総合的に判断することができる。
【0028】
また、人体10が存在する時に定在波オフセット値が生じる。この時マイクロ波ドップラセンサ出力調整手段14により定在波オフセット値をを小さくすることで、ドップラ信号を検出することができるが、人体10の存在時に定在波オフセット値を小さくしたため、人体10が退去した時に図3のT4期間のように、T1期間のV1と逆向きのオフセットV2が生じてしまう。
【0029】
この時、信号が飽和したままではドップラ信号を検出できないため、図3のT5期間のように基準値へ戻すため、オフセット調整を行う。この時T2期間とT4期間では逆符号側に調整したことになり、対象物がマイクロ波ドップラセンサ検出範囲から退去した(定在波の値は0)と判断できる。この時単純に逆符号が発生したかの判断のみでは正確性に欠けるため、T2期間とT4期間での調整量の絶対値も判断材料に加えるとなお良い。(例えば、T2期間とT4期間での調整量の絶対値の差が大きい時は定在波有りと判断、絶対値の差が小さい時は定在波無しと判断。)
【0030】
このような判断をすることにより、T5期間はT0期間と同様基準値へ戻ったと判断し、再度オフセットが生じた時は、対象物が接近し定在波が発生したと判断することができる。
【0031】
図4はより制御部3内での定在波、並びにドップラ信号検出のための処理を順に説明する。まずS401にて定在波オフセット値と調整閾値15の比較を行う。定在波オフセット値が調整閾値15より小さければ何もしないが(S401でNO)、定在波オフセット値が調整閾値15以上であれば(S401でYES)、定在波オフセット値を小さくするためにオフセット出力を調整する(S402)。オフセット出力を調整したことで信号が飽和することがなくなるので後述ドップラ信号を検出できる。
【0032】
続いてS403にて現在定在波検出中か否かを判断する。まず定在波非検出の時(S403でYES)について説明する。定在波非検出中の時は、オフセット調整をしたことにより定在波検出中(S404)と判断し、その時S405にてオフセット調整した符号(基準値に対してどちら側から調整を行ったか)を記憶しておく。
【0033】
続いてS403でNOの処理である定在波検出の時について説明する。S409はS402でオフセット調整した符合がS405で記憶した符号と逆符号であるかを確認する。逆符号である時は(S409でYES)、対象物が退去したと判断して定在波の検出を解除する(S410)。逆符号で無い時は(S409でNO)、S406の処理へ移行する。
【0034】
続いてS406にて第2検出手段の出力を確認する。検出有りとの時は(S406で検出有り)ドップラ信号検出(S407)、検出無しの時は(S406で検出無し)、ドップラ信号非検出(S408)と判断する。以上の処理により定在波の検出状態とドップラ信号の検出状態を同時に判断することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…小便器
2…マイクロ波ドップラセンサ
3…コントローラ
4…蓋
5…給水部
6…洗浄水吐出口
7…トラップ部
8…排水口
9…マイクロ波ドップラセンサ検出範囲
10…人体
11…尿流
12…第1検出手段
13…第2検出手段
14…マイクロ波ドップラセンサ出力調整手段
15…調整閾値
16…検出判断統計手段
20…送信手段
21…受信手段
22…差分検出手段
50…バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小便器へ洗浄水を供給する給水部と、前記小便器周辺の対象物を検出するドップラセンサと、前記ドップラセンサのセンサ出力に応じて前記給水部を制御する制御部と、前記制御部は、前記対象物の大きさや前記対象物との距離を検出するために前記センサ出力に含まれる定在波出力を検出する第1検出手段と、前記対象物の動きを検出するために前記センサ出力に含まれるドップラ出力を検出する第2検出手段と、を備えた小便器洗浄装置において、前記第1検出手段の定在波出力レベルを定在波オフセット値として設定するとともに、前記定在波オフセット値の直流成分が所定値より大きい場合、前記第2検出手段は前記センサ出力より前記定在波オフセット値を減算してドップラ出力を行い、前記ドップラ出力に応じて前記給水バルブを制御することを特徴とする小便器洗浄装置。
【請求項2】
請求項1に記載の便器洗浄装置において、前記定在波オフセット値は、前記第2検出手段が有する増幅手段の最大直流出力レベルの半分であることを特徴とする小便器洗浄装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の小便器洗浄装置において、前記第1検出手段は前記定在波オフセット値と逆極性の直流成分レベルを検出したとき、前記第2検出手段は前記センサ出力より前記定在波オフセット値の減算を停止することを特徴とする小便器洗浄装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−203201(P2010−203201A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52809(P2009−52809)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】