説明

小便器用排水トラップ

【課題】尿中沈殿物の蓄積に起因して排水が阻害されるのを防止する。
【解決手段】小便器用排水トラップAは、小便器1の鉢面2の下端部に配置されて貯留空間12を有する本体部11と、貯留空間12内の尿を本体部11外へ排出させる排出口18と、下端のディップ17を貯留空間12の底部に連通させるとともに上端のウェア19を排出口18に連通させた封水部15と、排出部材30とを備える。排出部材30は、操作部33から下方へ延出した形態であって操作部33と一体に変位する軸部31(操作力伝達部)と、封水部15内において軸部31と一体に変位することでディップ17よりも下方に位置する尿中沈殿物を排出口18まで引き上げるスクリュー部34(排出機能部)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小便器用排水トラップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の小便器用排水トラップとして、小便器の鉢面の下端部に配置され、尿を貯留するための貯留空間を有する本体部と、貯留空間内の尿を本体部外へ排出させるための排出口と、下端のディップを貯留空間の底部に連通させるとともに上端のウェアを排出口に連通させた形態であって、貯留空間内の尿が排出されるときに尿の上昇流路となる封水部とを備えたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3515785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の小便器用排水トラップでは、貯留空間の底部に尿中沈殿物が沈殿することは避けられない。この沈殿した尿中沈殿物が、尿の排出時に排出口まで到達せずに貯留空間に残留し、その残留した尿中沈殿物の蓄積量が封水部のディップを上回る高さになると、封水部の上流端が尿中沈殿物によって閉塞され、排水ができなくなることが懸念される。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、尿中沈殿物の蓄積に起因して排水が阻害されるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、小便器の鉢面の下端部に配置され、尿を貯留するための貯留空間を有する本体部と、前記貯留空間内の尿を前記本体部外へ排出させるための排出口と、下端のディップを前記貯留空間の底部に連通させるとともに上端のウェアを前記排出口に連通させた形態であって、前記貯留空間内の尿が排出されるときに尿の上昇流路となる封水部とを備えた小便器用排水トラップであって、操作部と、前記封水部内に配された排出機能部と、前記操作部の動きを前記排出機能部に伝達する操作力伝達部とを備え、前記操作部を操作することで前記排出機能部が前記ディップよりも下方に位置する尿中沈殿物を前記排出口まで引き上げるようになっている排出部材が設けられているところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記操作力伝達部は、前記封水部内に挿通された軸状をなし、軸心回りの回転を可能に支持されており、前記排出機能部は、板状をなし、前記操作力伝達部を中心とする螺旋状に配されているところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載のものにおいて、前記封水部の内壁面と前記操作力伝達部の軸線が、鉛直方向に対して傾斜しているところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項2又は請求項3に記載のものにおいて、前記操作部は、前記操作力伝達部に対して着脱可能とされているところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のものにおいて、前記貯留空間内には、前記ディップに向かって下り勾配となる誘導斜面が形成されているところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のものにおいて、 前記排出部材のうち前記封水部から前記排出口に至る尿の流路よりも上方に突出した上端部を覆い隠す状態と、前記排出部材の上端部を露出させる状態との間での変位を可能とされた目皿を備えているところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のものにおいて、前記小便器の鉢面の下端部に上方に向けて開口した凹部に着脱自在に取り付けられるカートリッジ形態に形成されているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
<請求項1の発明>
操作部を操作して排出機能部を変位させると、ディップよりも下方で沈殿している尿中沈殿物が、排出機能部により引き上げられて排出口から本体部外へ排出される。これにより、尿中沈殿物の蓄積に起因して排水が阻害されることを防止できる。
【0014】
<請求項2の発明>
尿中沈殿物を排出する際には、螺旋状の排出機能部が回転することによって排出部材がスクリューフィーダーとして機能し、尿中沈殿物が排出口まで引き上げられる。また、排出機能部を螺旋板としたことにより、封水部内における尿の流路が狭められて尿の流速が速められるので、封水部内では尿中沈殿物が沈降し難くなり、尿中沈殿物を確実に排出することができる。
【0015】
<請求項3の発明>
封水部の内壁面と操作力伝達部の軸線が鉛直方向に対して傾斜しているので、排出される尿中沈殿物は、封水部の内壁面上を排出機能部で堰き止められた状態で移動していくことになり、排出効率が高い。
【0016】
<請求項4の発明>
操作部が必要とされるのは、尿中沈殿物を排出するときだけである、という点に着目し、操作部を操作力伝達部に対して着脱可能とした。これにより、複数の小便器用排水トラップに対して1つの操作部を共用することができるので、部品点数の削減が可能となる。
【0017】
<請求項5の発明>
貯留空間内で沈降した尿中沈殿物は、誘導斜面上に落ちるのであるが、誘導斜面はディップに向かって下り勾配となるように傾斜しているので、尿中沈殿物は誘導斜面の傾斜によりディップの近傍に集まる。これにより、貯留空間の底面上において排出されずに残留したままになる尿中沈殿物の量を低減できる。
【0018】
<請求項6の発明>
尿中沈殿物を排出する際には、目皿を変位させて排出部材の上端部を露出させればよい。常には、排出部材の上端部を目皿で覆い隠すようにしているので、排出部材の上端部が、異物の干渉等によって破損したり、尿で汚されたり、尿中沈殿物等に付着により排出部材の変位動作に支障を来したりするといった不具合を回避できる。
【0019】
<請求項7の発明>
シール液の減少やゲル状の尿石の堆積による詰まり等が生じた際にカートリッジごと交換することができるので、メンテナンスが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態1の通常の使用状態をあらわす断面図
【図2】尿中沈殿物を排出可能な状態をあらわす断面図
【図3】実施形態2の通常の使用状態をあらわす断面図
【図4】尿中沈殿物を排出可能な状態をあらわす断面図
【図5】実施形態3の通常の使用状態をあらわす断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1及び図2を参照して説明する。本実施形態1の小便器用排水トラップAは、カートリッジ形態に形成され、トイレ室(図示省略)の壁面に固定された壁掛け式の小便器1に対して着脱可能となっている。小便器1の鉢面2の下端部には収納容器3が設けられ、収納容器3には、上方に向けて開口した凹部7が形成され、小便器用排水トラップAはこの凹部7に嵌め込まれるようになっている。小便器用排水トラップAには、小便器1に向けて放出された尿(図示省略)が所定量だけ一時的に貯留されるようになっており、小便器1に排尿される度に、貯留されている尿の少なくとも一部が排出されるようになっている。
【0022】
収納容器3は、軸線を上下方向に向けた円筒部4と、円筒部4の上端縁に形成した鍔部5と、円筒部4の下端に連なって略水平方向に延出する連結管6とから構成されている。収納容器3は、鉢面2の下端部に形成した開口部に対し、上から落とし込むようにして液密状に嵌合することで取り付けられている。取り付けられた収納容器3は、鍔部5が開口部の開口縁に係止することにより、所定の高さに保持されるとともに、水平方向への変位を規制された状態で位置決めされている。収納容器3を取り付けた状態では、円筒部4の内部空間が、小便器用排水トラップAを収納するための凹部7となる。また、連結管6の延出端部は、壁面に引き出された排水管(図示省略)に接続されている。
【0023】
小便器用排水トラップAは、トラップ本体10と、蓋22と、受け部材24と、排出部材30と、目皿41とを備えて構成されている。トラップ本体10は、尿を貯留するための貯留空間12を有する本体部11と、貯留空間12内の尿を本体部11(トラップ本体10)の外へ排出させるための排出口18と、下端のディップ17を貯留空間12の底部に連通させるとともに上端のウェア19を排出口18に連通させた形態であって、貯留空間12内の尿が排出されるときに尿の上昇流路16となる封水部15とを備えて構成されている。
【0024】
本体部11は、上面が開放された容器状をなしており、本体部11の内部は、尿とシール液(図示省略)を貯留するための貯留空間12となっている。貯留空間12のうち上端部を除いた部分は、下方に向かって狭まるように、即ち、水平に切断したときの断面積が下方に向かって次第に小さくなるような擂り鉢状をなしている。貯留空間12の内壁面のうち擂り鉢状をなす部分は、後述するディップ17に向かって下り勾配となるように傾斜した誘導斜面13となっている。誘導斜面13は、全周に亘って形成されている。本体部11には、誘導斜面13の周方向における一部分を切欠することにより、貯留空間12の下端部(底部)に連通する流出口14が形成されている。
【0025】
封水部15は、誘導斜面13に沿うように本体部11と一体に形成され、封水部15の内部空間は上下方向に貫通する上昇流路16となっている。上昇流路16の貫通方向と直交する断面形状は真円形をなしている。封水部15の下端、即ち上昇流路16の上流端であるディップ17は、貯留空間12の底部に連通している。封水部15の上昇流路16は、誘導斜面13と平行な方向、即ち鉛直方向に対して傾斜した方向を向いている。
【0026】
排出口18は、本体部11の上端部において、封水部15の上端、即ち上昇流路16の下流端であるウェア19に対してその近傍で連通するように形成されている。つまり、排出口18の開口領域における下端が、ウェア19となっている。また、本体部11には、排出口18に連なる排出路20が形成されている。排出路20は、排出口18から鉛直方向下向きに延出した形態であり、排出路20の内部は、全長に亘って全周を周壁部で囲まれた落下空間21となっている。排出路20(落下空間21)の上端(上流端)は排出口18に臨み、排出路20(落下空間21)の下端(下流端)の開口は連結管6の上流端に臨んでいる。
【0027】
蓋22は、本体部11に対し、その上面の開口を塞ぐように組み付けられている。小便器用排水トラップAを収納容器3に収容した状態では、蓋22は収納容器3の円筒部4の上面に開口を塞ぐ状態となり、蓋22の外周縁は、円筒部4の上端部内周に対して液密状に嵌合される。
【0028】
蓋22には貫通孔23が形成され、貫通孔23には受け部材24が組み付けられている。受け部材24は上面が開放された容器状をなし、受け部材24の上端部が貫通孔23に嵌合されている。受け部材24の上面の開口部は、尿を貯留空間12内に流入させるための流入口25となっている。また、受け部材24の周壁には、底壁部よりも上方の領域を部分的に開口させた形態の連通孔26が形成されている。
【0029】
上記封水部15には、排出部材30が設けられている。排出部材30は、上昇流路16と同心の軸部31(本発明の構成要件である操作力伝達部)と、軸部31の上端に近い位置に同心円板状に且つ一体に形成されたフランジ部32と、軸部31の上端部、即ち軸部31におけるフランジ部32よりも上方の位置に設けられた操作部33と、軸部31の外周に螺旋状をなし且つ軸部31と一体に回転するように形成された板状をなすスクリュー部34(本発明の構成要件である排出機能部)とを有する。
【0030】
操作部33は、軸部31のうちフランジ部32よりも上方に形成された角柱状の連結部35と、連結部35に対しアダプタ37を介して一大回転し得るように嵌合可能なハンドル36とを備えて構成されている。また、連結部35には、上からシール部材38が嵌合し得るようになっている。シール部材38とハンドル36は、連結部35に対して着脱可能であり、連結部35には、シール部材38とハンドル36のいずれか一方が選択的に嵌合される。
【0031】
かかる排出部材30は、軸受部材39と軸受孔40とによって回転可能に支持されている。軸受部材39は、蓋22に対し、上昇流路16と同軸状に貫通するように取り付けられている。軸受孔40は、貯留空間12の底面を上昇流路16と同軸状に切欠することによって形成されている。軸受部材39には、フランジ部32の外周面が摺接し得るように嵌合されているとともに、フランジ部32の上面における外周縁が摺接し得るように当接されている。軸受孔40には、軸部31の下端部が回転可能に嵌入され、軸部31の下端面が軸受孔40の底面(下端面)に摺接し得るように当接されている。
【0032】
軸受部材39と軸受孔40によって回転可能に支持された排出部材30は、トラップ本体10に対して軸線方向への相対変位を規制された状態となっている。また、軸部31は封水部15内を貫通し、スクリュー部34は、封水部15の上昇流路16内に位置する。また、スクリュー部34の外周縁と上昇流路16の内周面との間には、排出部材30の円滑に回転動作を保証するために必要最小のクリアランスが確保されている。スクリュー部34の下端は、ディップ17よりも下方の高さであって、貯留空間12の底部内に位置するように配されている。また、スクリュー部34の上端は、ウェア19よりも少し上方の位置、即ち排出口18の開口領域の少なくとも一部と対応する高さに配されている。
【0033】
蓋22の上方には着脱可能な目皿41が設けられている。目皿41は、蓋22とほぼ同じ大きさの円盤状をなす覆い部42と、覆い部42の下面のうち外周縁に近い位置から下方へ延出する複数の脚部43とを有する。通常、目皿41は、脚部43を蓋22の上面に載せるようにして取り付けられる。目皿41を取り付ける際には、連結部35にシール部材38を取り付けておく。目皿41を取り付けた状態では、図1に示すように、目皿41が、排出部材30のうち封水部15から排出口18に至る尿の流路よりも上方に突出した上端部(連結部35及びシール部材38)と、軸受部材39と、流入口25を覆い隠す。また、目皿41の外周縁の下面と蓋22の上面との間には、尿を流動させるための隙間が全周に亘って空けられている。
【0034】
目皿41を外すと、図2に示すように、排出部材30の上端部(連結部35及びハンドル36)が露出した状態となる。したがって、目皿41を外すことにより、シール部材38を連結部35から外し、ハンドル36を連結部35に付け替える作業と、ハンドル36を回転操作する作業と、ハンドル36を連結部35から外して、シール部材38を連結部35に付け替える作業を行うことができるようになる。
【0035】
通常、貯留空間12内及び封水部15(上昇流路16)内には、所定量の尿が貯留されている。このときの、上昇流路16における尿の液面はウェア19と同じ高さであり、上昇流路16中に尿が満たされることにより、排水管からの異臭が小便器1側へ放出されることを防止する封水状態が保たれる。また、貯留空間12内においては、尿の液面が、尿よりも比重の小さい非水溶性のシール液で覆われている。このシール液により、貯留空間12内に貯留されている尿が大気中に直接触れるのを防止しているので、尿から発せられる異臭が大気中に放散されることはない。貯留空間12内におけるシール液の液面高さは、上昇流路16内の尿の液面よりも僅かに上方の高さである。
【0036】
小便器1に向けて排尿が行われると、尿は、鉢面2を流れて目皿41と蓋22との隙間を通る経路、又は、目皿41の上面を流れて目皿41と蓋22との隙間を通る経路を経た後、蓋22の上面を伝い、流入口25から貯留空間12内に流入する。貯留空間12内に流入した尿は、シール液を突き抜けて一旦受け部材24内に進入した後、連通孔26を通過して貯留空間12内の尿と混ざり合う。貯留空間12内の尿は、流出口17を通って封水部15の上昇流路16内を流れ、排出口18から排出路20を通って連結管6の上流端部に落下し、配水管へ排出される。尚、上昇流路16内には排出部材30のスクリュー部34が存在するが、スクリュー部34は一枚の板を螺旋状に成形した形態なので、上昇流路16の内部空間がスクリュー部34によって遮断されることはなく、尿は支障なく上昇流路16内を上昇することができる。
【0037】
また、尿の流入により、シール液の一部が受け部材24内に引き込まれるのであるが、引き込まれたシール液は、受け部材24の底壁部に跳ね返されるので、受け部材24内から貯留空間12内に流出しても、貯留空間12の底部にまで到達する虞はない。また、シール液は、尿よりも比重が小さいので、尿の流入の勢いが弱まると、浮力により上昇し、尿の液面を覆っているシール液と合流する。したがって、多量のシール液が排出口18から排出される虞がなく、使用期間が長期に亘ってもシール液の減少を抑えることができる。
【0038】
尿の流入が行われていない間、尿中沈殿物(図示省略)が沈降して誘導斜面13及び貯留空間12の底面に落下する。ここで、誘導斜面13は、水平面に対しディップ17(流出口14)に向かって下り勾配となるように傾斜しているので、誘導斜面13上に落下した尿中沈殿物は、誘導斜面13の傾斜にしたがって転がり落ち、貯留空間12の底部、即ちディップ17のほぼ真下の近傍位置に至る。このように、尿中沈殿物の大部分は、ディップ17の近傍に集まるようになっている。
【0039】
この貯留空間12の底部に集まった尿中沈殿物の多くは、尿が、貯留空間12から上昇流路16内へ流れる際に、その尿の流れに乗じて巻き上げられ、上昇流路16を上昇して排出口18から排出されるのであるが、尿中沈殿物の一部が、排出されずに貯留空間12の底部に残留したままになることは避けられない。残留した尿中沈殿物は、蓄積されてプリン状を呈するのであるが、この残留した尿中沈殿物がディップ17よりも高くなるまで蓄積した場合、貯留空間12から上昇流路16への尿の流出が阻害されることが懸念される。
【0040】
これを回避するためには、残留している尿中沈殿物を強制的に排出させる必要がある。この作業は、次のようにして行われる。まず、目皿41を外し、次にシール部材38を連結部35から外し、その後、連結部35にハンドル36を取り付け、このハンドル36を回転操作する。すると、ハンドル36の回転力が軸部31を介してスクリュー部34に伝達され、スクリュー部34は、上昇流路16内及び貯留空間12の底部空間内で回転する。このとき、スクリュー部34の下端部は、残留している尿中沈殿物の内部に浸漬した状態となっているので、尿中沈殿物は、スクリュー部34の回転に伴い、スクリュー部34の上面で引き上げられる。
【0041】
また、スクリュー部34の回転軸(軸部31)と上昇流路16の内壁面が鉛直方向に対して傾斜し、スクリュー部34の外周縁が上昇流路16の内壁面に接近しているので、上昇流路16の内壁面のうち上方に臨む略下半分の半円領域と、スクリュー部34の上面のうち軸部31よりも下方の略半円領域との間には、上方に開放された収容空間が形成され、この収容空間内に、尿中沈殿物が収容された状態に保持される。つまり、スクリュー部34は、上昇流路16の内壁面上の尿中沈殿物を堰き止めるようにして下支えする。これにより、貯留空間12の底部に残留・蓄積されていた尿中沈殿物は、確実に引き上げられ、排出口18から排出されて、排出路20内を通って連結管6内に落下する。また、排出機能部としてのスクリュー部34を螺旋板としたことにより、封水部15(上昇流路16)内における尿の流路が狭められて尿の流速が速められるので、封水部15内では尿中沈殿物が沈降し難くなる。したがって、尿中沈殿物を確実に排出することができる。
【0042】
本実施形態1の小便器用排水トラップAは、操作部33と、封水部15内に配された排出機能部としてのスクリュー部34と、操作部33の動きをスクリュー部34に伝達する操作力伝達部としての軸部31とを備えた排出部材30を有している。そして、操作部33を操作してスクリュー部34を回転させると、ディップ17よりも下方で沈殿している尿中沈殿物が、スクリュー部34により引き上げられて排出口18から本体部11外へ排出されるようになっている。したがって、本実施形態1の小便器用排水トラップAによれば、尿中沈殿物の蓄積に起因して排水が阻害されることを防止できる。
【0043】
また、本実施形態1では、操作部33が必要とされるのは、尿中沈殿物を排出するときだけである、という点に着目し、操作部33として、軸部31に対して着脱可能なハンドル36を設けた。これにより、複数の小便器用排水トラップAに対して1つのハンドル36(操作部33)を共用することができるので、部品点数の削減が可能となる。
【0044】
また、貯留空間12内で沈降した尿中沈殿物が、誘導斜面13上に落ちるようにした。この誘導斜面13は、ディップ17に向かって下り勾配となるように傾斜しているので、尿中沈殿物は誘導斜面13の傾斜によりディップ17の近傍に集まる。これにより、貯留空間12の底面上において排出されずに残留したままになる尿中沈殿物の量を低減できる。
【0045】
また、排出部材30のうち封水部15から排出口18に至る尿の流路よりも上方に突出した上端部を覆い隠す状態と、排出部材30の上端部を露出させる状態との間での変位を可能とされた目皿41を設けた。常には、排出部材30の上端部を目皿41で覆い隠すことができるので、排出部材30の上端部が、異物の干渉等によって破損したり、尿で汚されたり、尿中沈殿物等に付着により排出部材30の変位動作に支障を来したりするといった不具合を回避できる。
【0046】
また、本実施形態1の小便器用排水トラップAは、小便器1の鉢面2の下端部に上方に向けて開口した凹部7に着脱自在に取り付けられるカートリッジ形態に形成されている。この構成によれば、シール液の減少やゲル状の尿石の堆積による詰まり等が生じた際にカートリッジごと交換することができるので、メンテナンスが容易である。
【0047】
<実施形態2>
次に、本発明を具体化した実施形態2を図3及び図4を参照して説明する。本実施形態2の小便器用排水トラップBは、排出路50を上記実施形態1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施形態1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0048】
上記実施形態1では、排出路20が、全周を周壁部で囲まれた落下空間21を有する形態であったが、本実施形態2の排出路50は、本体部11(トラップ本体10)の外面を上下方向に延びる溝状に凹ませた形態となっている。この排出路50の上端は、排出口18に連通しているとともに、ウェア19に臨んでいる。また、排出路50の下端は、連結管6に臨んでいる。
【0049】
<実施形態3>
次に、本発明を具体化した実施形態3を図5を参照して説明する。本実施形態3の小便器用排水トラップCは、排出部材60を上記実施形態1及び実施形態2とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施形態1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0050】
本実施形態3の排出部材60は、軸部61(本発明の構成要件である操作力伝達部)の下端部に、板部62(本発明の構成要件である排出機能部)を一体に変位し得るように設け、軸部61の上端部に、摘み部63(本発明の構成要件である操作部)を一体に変位し得るように取り付けた形態である。軸部61は、蓋22に設けた軸受部材64に軸線方向の相対変位を可能に貫通されており、この軸受部材64により、排出部材60は、板部62を貯留空間12の底面にほぼ密着させた最下端の待機位置(図5を参照)と、板部62がウエア19よりも高くなる排出位置(図示省略)との間で上下方向(軸部61の軸線に沿った方向)に移動し得るようになっている。
【0051】
板部62は、上昇流路16と同心の円形をなし、板部62の外周縁は上昇流路16の内壁面に対し排出部材60の円滑な移動を許容するために必要最小のクリアランスを空けて対向している。また、軸部61の上端部は、軸受部材64を貫通してその上方に突出しており、この突出部分に摘み部63が固着されている。したがって、摘み部63は、排出部材60が待機位置と排出位置との間のいずれの位置にあっても、蓋22の上方に露出した状態となる。
【0052】
通常、排出部材60は、待機位置に保持され、板部62が貯留空間12の底面にほぼ密着した状態、即ち貯留空間12の底部に蓄積している尿中沈殿物の内部に浸漬された状態となっている。また、このとき、板部62は、貯留空間12と上昇流路16とを連通させる流出口17の開口領域における下端に位置しているので、貯留空間12から上昇流路16への尿の流動を阻害することはない。
【0053】
貯留空間12の底部に蓄積している尿中沈殿物を排出する際には、摘み部63を摘んで排出部材60を持ち上げるようにする。すると、尿中沈殿物が、板部62の上面に載置された状態で引き上げられる。そして、排出部材60が排出位置まで上昇すると、板部62に載っている尿中沈殿物は、軸受部材64の下面に押し付けられることによって、側方へ押され、排出口18から排出される。
【0054】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態1〜3では、排出機能部(スクリュー部又は板部)を、孔や隙間の無い板状とすることによって尿中沈殿物を下支えするようにしたが、排出機能部は網目状のものであってもよい。このようにすれば、尿が封水部を通って排出されるときの抵抗を小さく抑えることが可能である。
(2)上記実施形態1〜3では、封水部の内壁面と軸部(操作力伝達部)の軸線を鉛直方向に対して斜め方向としたが、封水部の内壁面と軸部の軸線は鉛直方向であってもよい。
(3)上記実施形態1及び2では、操作部として軸部(操作力伝達部)に対して着脱可能なハンドルを用いたが、操作部は、軸部から外せない形態としてもよい。
(4)上記実施形態1〜3では、貯留空間内に、ディップに向かって下り勾配となる誘導斜面を形成したが、このような誘導斜面を形成せず、貯留空間の内壁面が鉛直方向に切り立った形態とされ、貯留空間の底面が全領域に亘って水平な形態であってもよい。
(5)上記実施形態1〜3では、排出部材のうち封水部から排出口に至る尿の流路よりも上方に突出した上端部を覆い隠す目皿を着脱可能に設けたが、このような目皿を設けず、常に、排出部材の上端部が蓋の上面側に露出されるようにしてもよい。
(6)上記実施形態1〜3では、目皿が、蓋と別体として蓋から離脱できるようにしたが、目皿は、蓋やトラップ本体に対してヒンジにより連結されていてもよい。この場合も、ヒンジを支点に目皿を開閉させることにより、排出部材の上端部を露出又は覆い隠すことが可能である。
(7)上記実施形態1〜3では、小便器用排水トラップが、小便器の鉢面の下端部に上方に向けて開口した凹部に着脱自在に取り付けられるカートリッジ形態としたが、小便器用排水トラップは、小便器の鉢面の下端部に固定して取り付けられたものであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
A…小便器用排水トラップ
1…小便器
2…鉢面
7…凹部
11…本体部
12…貯留空間
13…誘導斜面
15…封水部
17…ディップ
18…排出口
19…ウェア
30…排出部材
31…軸部(操作力伝達部)
33…操作部
34…スクリュー部(排出機能部)
41…目皿
B,C…小便器用排水トラップ
60…排出部材
61…軸部(操作力伝達部)
62…板部(排出機能部)
63…摘み部(操作部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小便器の鉢面の下端部に配置され、尿を貯留するための貯留空間を有する本体部と、
前記貯留空間内の尿を前記本体部外へ排出させるための排出口と、
下端のディップを前記貯留空間の底部に連通させるとともに上端のウェアを前記排出口に連通させた形態であって、前記貯留空間内の尿が排出されるときに尿の上昇流路となる封水部とを備えた小便器用排水トラップであって、
操作部と、前記封水部内に配された排出機能部と、前記操作部の動きを前記排出機能部に伝達する操作力伝達部とを備え、前記操作部を操作することで前記排出機能部が前記ディップよりも下方に位置する尿中沈殿物を前記排出口まで引き上げるようになっている排出部材が設けられていることを特徴とする小便器用排水トラップ。
【請求項2】
前記操作力伝達部は、前記封水部内に挿通された軸状をなし、軸心回りの回転を可能に支持されており、
前記排出機能部は、板状をなし、前記操作力伝達部を中心とする螺旋状に配されていることを特徴とする請求項1記載の小便器用排水トラップ。
【請求項3】
前記封水部の内壁面と前記操作力伝達部の軸線が、鉛直方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項2記載の小便器用排水トラップ。
【請求項4】
前記操作部は、前記操作力伝達部に対して着脱可能とされていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の小便器用排水トラップ。
【請求項5】
前記貯留空間内には、前記ディップに向かって下り勾配となる誘導斜面が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の小便器用排水トラップ。
【請求項6】
前記排出部材のうち前記封水部から前記排出口に至る尿の流路よりも上方に突出した上端部を覆い隠す状態と、前記排出部材の上端部を露出させる状態との間での変位を可能とされた目皿を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の小便器用排水トラップ。
【請求項7】
前記小便器の鉢面の下端部に上方に向けて開口した凹部に着脱自在に取り付けられるカートリッジ形態に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の小便器用排水トラップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−246995(P2011−246995A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121948(P2010−121948)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】