説明

小便器用排水トラップ

【課題】長期にわたり臭気の発散を防止することができる小便器用排水トラップを提供する。
【解決手段】小便器用排水トラップ10は、流入口11Aを有する蓋部11と、流出口12Cを有する本体部12と、筒状の隔壁部13とを備えている。本体部12内は、第1領域31と第2領域32とに区画され、第1領域31と第2領域32とは第3領域33により連通されている。第1領域31には、非溶水性であり、尿よりも比重が軽く、貯留された尿より上方にシール層Sを形成するシール液が注入される。流入口11Aは第1領域31に上方から尿が流入する位置に貫設されている。流出口12Cは、第2領域32であって、隔壁部13の下端より上方に開口している。シール層Sが形成される第1領域31に面する側壁部12Aの側面には凹凸40が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は小便器用排水トラップに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図1には、従来の小便器用排水トラップが開示されている。この小便器用排水トラップは、カートリッジ形態に形成され、蓋部と本体部と隔壁部とを備えている。蓋部は、平面視が円形状であり、小便器の鉢面の下端部に設けられた開口に嵌まり込む。この蓋部には、鉢面に沿って流下した尿が流入する流入口が中心部に設けられている。本体部は、蓋部の外周縁部から下方に延びて形成された円筒形状の側壁部と、側壁部の下端に連続して形成された底部と、貯留された尿が溢流する流出口とを有している。隔壁部は、蓋部の外周縁部より内側の下面から下方に延び、底部との間に間隔を設けて形成されている。隔壁部は下端が開口した円筒形状である。
【0003】
本体部内は、隔壁部により隔壁部の外側に形成された第1領域と内側に形成された第2領域とに区画されている。第1領域と第2領域とは隔壁部の下端より下方かつ底部より上方に形成された第3領域により連通されている。第1領域には、非溶水性であり、尿よりも比重が軽いシール液が注入され、貯留された尿より上方にシール層が形成されている。
【0004】
流入口は第1領域に上方から尿が流入する位置に貫設されている。流出口は第2領域内に本体部の底部から立ち上がり、隔壁部と同芯位置に配置された円筒形状の流出管の上端に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3515785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の小便器用排水トラップでは、流入口から流入した尿はシール層を突き抜けて第1領域から第3領域へ流入する際、シール層が攪拌され、シール液がシール層より下方に引き込まれる。シール層より下方に引き込まれたシール液の一部は、尿の流れに乗って、隔壁部の下端を経過し、第2領域に搬送されてしまうことがある。第2領域に搬送されたシール液は尿よりも比重が軽いため、その浮力により第2領域内を上昇してしまう。このように、第2領域まで搬送されたシール液は第1領域に戻ることができず、流出口から流出してしまう。このため、長期の使用により、シール液が徐々に流出口から流出することにより、シール液が減少し、シール層が薄くなる。シール層が薄くなると、貯留された尿の臭気が流入口から発散してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、長期にわたり臭気の発散を防止することができる小便器用排水トラップを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の小便器用排水トラップは、小便器の鉢面の下端部に設けられた開口に嵌まり込み、鉢面に沿って流下した尿が流入する流入口を有する蓋部と、
蓋部の外周縁部から下方に延びて形成された側壁部と、側壁部の下端に連続して形成された底部と、貯留された尿が溢流する流出口とを有する本体部と、
蓋部の外周縁部より内側に設けられ、下端が本体部の底部との間に間隔を設けて開口した筒状の隔壁部とを備え、
前記本体部内は、前記隔壁部により、隔壁部の外側に形成された第1領域と内側に形成された第2領域とに区画され、第1領域と第2領域とは前記隔壁部の下端より下方かつ前記底部より上方に形成された第3領域により連通されており、
前記第1領域又は前記第2領域の一方には、非溶水性であり、尿よりも比重が軽く、貯留された尿より上方にシール層を形成するシール液が注入される小便器用排水トラップであって、
前記流入口は前記第1領域又は前記第2領域の一方の領域に上方から尿が流入する位置に貫設され、前記流出口は、前記第1領域又は前記第2領域の他方の領域内であって、前記隔壁部の下端より上方に開口しており、
前記シール層が形成される前記第1領域又は前記第2領域の一方の領域に面する前記本体部の前記側壁部及び/又は前記隔壁部の側面には凹凸が設けられていることを特徴とする。
【0009】
この小便器用排水トラップでは、シール層が形成される第1領域又は第2領域の一方の領域に面する本体部の側壁部及び/又は隔壁部の側面に凹凸が設けられている。このため、シール層が形成される第1領域又は第2領域において、シール層の縁部と本体部の側壁部及び/又は隔壁部の側面との接触面積を大きくすることができる。これにより、シール層内のシール液は、凹凸が抵抗となり、流入口から流入する尿によってシール層より下方に引き込まれ難くなる。よって、シール液は、シール層から下流に尿の流れによって搬送され難くなる。つまり、シール液が第3領域を経由して第2領域に搬送され、流出口から流出することを抑制することができる。このため、長期の使用によってもシール液の減少を抑えることができ、シール層が薄くなり難い。
【0010】
したがって、本発明の小便器用排水トラップは、長期にわたり臭気の発散を防止することができる。
【0011】
前記凹凸は、前記シール層が形成される高さにのみ形成され得る。この場合、シール層より下方の本体部の側壁部及び/又は隔壁部の側面にゲル状の尿石が付着することを抑制することができる。このため、ゲル状の尿石の堆積による詰まりを抑制することができる。
【0012】
前記小便器用排水トラップは、排水管が接続され、小便器の鉢面の下端部に上方に向けて開口した凹部に着脱自在に取り付けられるカートリッジ形態に形成され得る。この場合、シール液の減少やゲル状の尿石の堆積による詰まり等が生じた際にカートリッジごと交換することができる。このように、メンテナンスを容易に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の小便器用排水トラップを有する小便器を示す断面図である。
【図2】実施例1の小便器用排水トラップを示す断面図である。
【図3】実施例1の小便器用排水トラップを示す分解斜視図である。
【図4】実施例2の小便器用排水トラップを示す断面図である。
【図5】実施例3の小便器用排水トラップを示す断面図である。
【図6】実施例4の小便器用排水トラップを示す断面図である。
【図7】実施例5の小便器用排水トラップを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の小便器用排水トラップを具体化した実施例1〜5を図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1の小便器用排水トラップ10は、図1〜図3に示すように、カートリッジ形態に形成され、小便器1の鉢面2の下端部に上方に向けて開口した凹部3に着脱自在に取り付けられている。小便器1は、壁掛け式であり、トイレ室Rの壁面Wに係止され、固定されている。凹部3は、小便器1の鉢面2の下端部に取り付けられ、上端が開口し、底部を有する円筒形状の収納容器20により形成されている。
【0016】
収納容器20の上端部には係止部材21が連結されている。係止部材21は、収納容器20の上部内側面に連結され、上方に延びる円筒形状の円筒部21Aと、円筒部21Aの上端から外側に拡がるリング形状の鍔部21Bとを有している。また、収納容器20の内側面の中間部には係止凹部20Aが形成されている。係止凹部20Aには、後述する小便器用排水トラップ10の本体部12の側壁部12Aに設けられた係止凸部12Fが係止する。収納容器20内に挿入した小便器用排水トラップ10を軸周りに所定の角度回転させることにより、係止凸部12Fを係止凹部20Aに係止させることができる。このようにして、収納容器20内にカートリッジ形態の小便器用排水トラップ10を着脱可能に取り付けることができる。
【0017】
収納容器20は、係止部材21の外側面にパッキン22が外嵌され、小便器1の鉢面2の下端部に形成された開口2Aに上方から挿入されている。係止部材21の鍔部21Bが開口2Aの周縁部の上面に係止している。収納容器20の外側面の上部に形成されたねじ部には、収納容器20の下方から外嵌され、上面が開口2Aの周縁部の下面に係止するリング形状の締結部材23がねじ込まれている。このようにして、係止部材21の鍔部21Bと締結部材23とにより開口2Aの周縁部を挟持することにより、収納容器20は開口2Aに取り付けられている。収納容器20は下端隅部から延びた連結管24を有している。収納容器20は連結管21を介して壁面Wに引き出された排水管4に接続されている。
【0018】
カートリッジ形態に形成された小便器用排水トラップ10は、蓋部11と本体部12と隔壁部13とを備えている。蓋部11の外形は円形状である。蓋部11は、収納容器20の係止部材21により形成された開口、すなわち、小便器1の鉢面2の下端部に設けられた開口に嵌まり込んでいる。蓋部11の外周端面に形成された環状凹部にはパッキンPが嵌め込まれている。このため、係止部材21により形成された開口の内側面と蓋部11の外側面とは水密的に接合されている。このため、小便器1の鉢面2に沿って流下した尿は蓋部11の上面に流れる。蓋部11には、小便器1の鉢面2に沿って流下した尿が流入する流入口11Aが貫設されている。
【0019】
本体部12は、側壁部12Aと底部12Bと流出口12Cとを有している。側壁部12Aは、円筒形状であり、蓋部11の外周縁部から下方に延びている。側壁部12Aには、内周面に歯を刻んだ内歯車形状の凹凸部材41が内嵌されている。凹凸部材41は、外周面が側壁部12Aの内周面に接着され、シール層Sが形成される高さに配置されている。このようにして、側壁部12Aの側面には、シール層Sが形成される高さのみに、側壁部12Aの周方向に等間隔で配列され、軸方向に延びた複数の凸条42により構成される凹凸40が設けられている。蓋部11の外周縁部と側壁部12Aの上端部とは隙間なく接着されている。
【0020】
側壁部12Aの外側面の中間部には複数の係止凸部12Fが形成されている。上述したように、係止凸部12Fが収納容器20の内側面に形成された係止凹部20Aに係止することにより、カートリッジ形態の小便器用排水トラップ10は収納容器20内に着脱可能に取り付けられている。底部12Bは側壁部12Aの下端に連続して形成されている。
【0021】
隔壁部13は円筒形状であり、蓋部11の外周端部より内側に設けられ、閉鎖された上端から下方に延び、下端が本体部12の底部12Bとの間に間隔を設けて開口している。隔壁部13は蓋部11と同軸上に設けられている。蓋部11には隔壁部13の外側面に沿って複数に分割された流入口11Aがリング状に配置されている。
【0022】
本体部12内は、隔壁部13により、隔壁部13の外側に形成された第1領域31と内側に形成された第2領域32とに区画されている。第1領域31と第2領域32とは隔壁部13の下端より下方かつ本体部12の底部12Bより上方に形成された第3領域33により連通されている。第1領域31には、非溶水性であり、尿よりも比重が軽く、貯留された尿より上方にシール層Sを形成するシール液が注入されている。
【0023】
隔壁部13の下端の外周縁部には第1領域31へ向けて横方向に延びたリング形状の連結部14が形成されている。連結部14の先端周縁部には隔壁部13の中間部の高さまで上方に延びた円筒形状の折返し部15が形成されている。折返し部15は隔壁部13と一定の間隔を有している。また、折返し部15は隔壁部13と側壁部12Aとの間の中央位置に設けられている。つまり、折返し部15、隔壁部13及び本体部12は同軸上に配置されている。また、折返し部15の上端は、第1領域31において、本体部12内に貯留された尿より上方に形成されたシール層Sの下面よりも低い位置まで上方に延びて形成されている。
【0024】
流出口12Cは、第2領域32内に本体部12の底部12Bから立ち上がった流出管12Dの上端に形成されている。また、流出口12Cは折返し部15の上端より上方に開口している。流出管12Dは半円筒形状に形成され、円弧形状の外側面が隔壁部13の内側面に接して配置されている。つまり、流出管12Dは平面視で隔壁部13内の一方に偏った位置に配置されている。
【0025】
流出管12Dの下部は、本体部12の底部12Bに沿って側壁部12A方向に屈曲している。流出管12Dの下流端における底部12Bには排出口12Eが貫設されている。この排出口12Eが収納容器20の連結管24の上流部に臨む位置にカートリッジ形態の小便器用排水トラップ10は収納容器20に取り付けられている。
【0026】
このような構成を有する小便器用排水トラップ10では、流入口11Aから流入した尿は、シール層Sを突き抜けて隔壁部13と折返し部15との間に上方から流入する。シール層Sは、外縁部において、側壁部12Aの内周面に凹凸部材41によって設けられた凹凸40により接触面積が大きくされている。このため、シール層S内のシール液は、凹凸40が抵抗となり、流入口11Aから流入した尿によってシール層Sより下方へ引き込まれ難くなっている。つまり、シール液は、尿の流れによって、シール層Sより下流に搬送され難い。
【0027】
隔壁部13、連結部14及び折返し部15に囲まれた領域(以下、対流域Tという)において、尿の流れが下降から上昇に転じ、対流が生じる。尿の流入により、シール層Sが攪拌され、シール層Sより下方に引き込まれたシール液の多くは、この対流に巻き込まれる。このため、シール液は対流域Tに留まる。尿の流入がなくなり、対流がなくなると、対流域Tに留まっていたシール液は、その浮力により浮上し、上方のシール層Sに合流する。
【0028】
また、対流域Tから折返し部15の上端を乗り越え、第3領域33に向かう下降流路Dにおける尿の勢いは、対流域Tに流入する際の尿の勢いに比べて減衰している。このため、尿の流れに乗って、対流域Tから折返し部15の上端を乗り越えたシール液は、下降流路Dの中間位置まで搬送されるに留まり、第3領域33まで搬送され難い。尿の流れがなくなると、この下降流路Dに滞留していたシール液は、その浮力により浮上し、上方のシール層Sに合流する。
【0029】
このように、シール層S内のシール液が、尿の流れにより第3領域33を経由して第2領域32に搬送され、流出口12Cから流出することを抑制することができる。このため、長期の使用によってもシール液の減少を抑えることができ、シール層Sが薄くなり難い。
【0030】
したがって、実施例1の小便器用排水トラップ10は、長期にわたり臭気の発散を防止することができる。
【0031】
また、凹凸40はシール層Sが形成される高さにのみ形成されているため、ゲル状の尿石がシール層Sより下方の側壁部12Aの内側面に付着することを抑制することができる。このため、ゲル状の尿石の堆積による詰まりを抑制することができる。
【0032】
また、小便器用排水トラップ10がカートリッジ形態に形成されているため、シール液の減少や尿石の堆積等による詰まりが生じた際にカートリッジごと交換することができる。このため、メンテナンスを容易に行なうことができる。また、この小便器用排水トラップは、ゲル状の尿石の堆積による詰まりが抑制されているため、カートリッジの交換頻度を少なくすることができる。
【実施例2】
【0033】
実施例2の小便器用排水トラップ110は、図4に示すように、本体部112が小便器1の鉢面2の下端部に直接取り付けられている。本体部112の上端部には係止部材21が連結されている。本体部112は、小便器1の鉢面2の下端部に形成された開口2Aの上方から挿入され、係止部材21の鍔部21Bが開口2Aの周縁部の上面に係止している。本体部112の外側面の上部にねじ部が形成されている。本体部112の下方から外嵌され、上面が開口2Aの周縁部の下面に係止するリング形状の締結部材23が本体部112の外側面に形成されたねじ部にねじ込まれている。このようにして、係止部材21の鍔部21Bと締結部材23とにより開口2Aの周縁部を挟持することにより、本体部112は開口2Aに取り付けられている。
【0034】
また、本体部112は下端隅部から延びた連結管124を有している。連結管124の上流端には、第2領域32内に立ち上がった流出管112Dが連結されている。流出管112Dの上端には流出口112Cが形成されている。流出口112Cは折返し部15の上端より上方に開口している。流出管112Dは半円筒形状に形成され、円弧形状の外側面が隔壁部13の内側面に接して配置されている。つまり、流出管112Dは平面視で隔壁部13内の一方に偏った位置に配置されている。連結管124の下端部は壁面Wに引き出された排水管4に接続されている。
【0035】
また、蓋部11は本体部112に対して着脱可能に取り付けられている。このため、本体部112内にゲル状の尿石が堆積する等によるつまりが生じた際には、蓋部11を取り外し、詰まりの原因を除去することができる。他の構成は、実施例1と同様であり、同一の構成については同一の符号を付し詳細な説明を省略する。
【0036】
このような構成を有する小便器用排水トラップ110でも、実施例1の小便器用排水トラップ10と同様に、シール層Sは、外縁部において、隔壁部13の内周面に凹凸部材41によって設けられた凹凸40により接触面積が大きくされている。このため、シール層S内のシール液は、凹凸40が抵抗となり、流入口11Aから流入した尿によってシール層Sより下方へ引き込まれ難くなっている。つまり、シール液はシール層Sより下流に尿の流れによって搬送され難い。よって、シール層S内のシール液が、尿の流れにより第3領域33を経由して第2領域32に搬送され、流出口12Cから流出することを抑制することができる。このため、長期の使用によってもシール液の減少を抑えることができ、シール層Sが薄くなり難い。
【0037】
したがって、実施例2の小便器用排水トラップ110も長期にわたり臭気の発散を防止することができる。
【実施例3】
【0038】
実施例3の小便器用排水トラップ210は、図5に示すように、流出管212Dが円筒形状であり、本体部212の側壁部212Aと同軸上に形成されている。また、流出管212Dは隔壁部13とも同軸上に位置している。このため、流出管212Dの周囲に隔壁部13との間で上昇流路が形成されている。本体部112の底部112Bには、収納容器20の連結管24の上流部に臨む排出口212Eが中心部に形成されている。他の構成は、実施例1と同様であり、同一の構成については同一の符号を付し詳細な説明を省略する。
【0039】
このような構成を有する小便器用排水トラップ210でも、実施例1の小便器用排水トラップ10と同様に、シール層Sは、外縁部において、隔壁部13の内周面に凹凸部材41によって設けられた凹凸40により接触面積が大きくされている。このため、シール層S内のシール液は、凹凸40が抵抗となり、流入口11Aから流入した尿によってシール層Sより下方へ引き込まれ難くなっている。つまり、シール液はシール層Sより下流に尿の流れによって搬送され難い。よって、シール層S内のシール液が、尿の流れにより第3領域33を経由して第2領域32に搬送され、流出口12Cから流出することを抑制することができる。このため、長期の使用によってもシール液の減少を抑えることができ、シール層Sが薄くなり難い。
【0040】
したがって、実施例3の小便器用排水トラップ210も長期にわたり臭気の発散を防止することができる。
【実施例4】
【0041】
実施例4の小便器用排水トラップ310は、図6に示すように、蓋部311と本体部312と隔壁部313とを備えている。本体部312は、側壁部312Aと底部312Bと流出口312Cとを有している。側壁部312Aは円筒形状であり、外側面の中間部には帯状の凸部312Dが形成されている。本体部312は、係止部材321により、小便器1の鉢面2の下端部に直接取り付けられる。係止部材321は、本体部312の上部を包囲する円筒形状の円筒部321Aと、円筒部321Aの上端に連続し、外側に拡がるリング形状の鍔部321Bと、円筒部321Aの下端に連続し、凸部312Dに係合する環状凹部321Cとを有している。また、係止部材321は、鍔部321Bとの間で小便器1の鉢面2の下端部に形成された開口2Aの周縁部を挟持する半円弧形状の係止部321Dを有している。係止部321Dは弾性移動可能であり、内側に弾性移動して開口2Aを上方から通過し、通過後に外側へ移動する。このようにして、係止部321Dは、開口2Aの周縁部の下面に係止する。鍔部321Bと係止部321Dとの間には、パッキン22が外嵌されている。
【0042】
側壁部312Aには後述する折返し部315の上端より上方に開口する流出口312Cが設けられている。本体部312には流出口312Cから横方向に延びる連結管324が設けられている。小便器用排水トラップ310は、上部から横方向に延びた連結管324により壁面Wに引き出された配水管4に接続される。
【0043】
蓋部311の外形は円形状である。蓋部311は本体部312を小便器1の鉢面2の下端部に取り付ける係止部材321により形成された開口、すなわち、小便器1の鉢面2の下端部に設けられた開口に嵌まり込んでいる。蓋部311の外周端面に形成された環状凹部にはパッキンPが嵌め込まれている。このため、係止部材321により形成された開口の内側面と蓋部311の外側面とは水密的に接合されている。このため、小便器1の鉢面2に沿って流下した尿は蓋部311の上面に流れる。蓋部311には、小便器1の鉢面2に沿って流下した尿が流入する流入口311Aが間接されている。
【0044】
隔壁部313は円筒形状であり、蓋部311の外周端部より内側に設けられ、下端が本体部312の底部312Bとの間に間隔を設けて開口している。隔壁部313は蓋部311と同軸上に設けられている。蓋部311には隔壁部313の内側面に沿って複数に分割された流入口311Aがリング形状に配置されている。
【0045】
本体部312内は、隔壁部313により、隔壁部313の外側に形成された第1領域331と内側に形成された第2領域332とに区画されている。第1領域331と第2領域332とは隔壁部313の下端より下方かつ本体部312の底部312Bより上方に形成された第3領域333により連通されている。第2領域332には、非溶水性であり、尿よりも比重が軽く、貯留された尿より上方にシール層Sを形成するシール液が注入されている。
【0046】
隔壁部313には、内周面に歯を刻んだ内歯車形状の凹凸部材が内嵌されている。凹凸部材は、外周面が隔壁部313の内周面に接着され、シール層Sが形成される高さに配置されている。このようにして、隔壁部313の側面には、シール層Sが形成される高さのみに凹凸340が設けられている。
【0047】
隔壁部313の下端の内周縁部には第2領域332へ向けて横方向に延びたリング形状の連結部314が形成されている。連結部314の先端周縁部には隔壁部313の中間部の高さまで上方に延びた円筒形状の折返し部315が形成されている。折返し部315は隔壁部313と一定の間隔を有している。つまり、折返し部315と隔壁部313とは同軸上に配置されている。また、折返し部315の上端は、第2領域332において、本体部312内に貯留された尿より上方に形成されたシール層Sの下面よりも低い位置まで上方に延びて形成されている。
【0048】
このような構成を有する小便器用排水トラップ310では、流入口311Aから流入した尿は、シール層Sを突き抜けて隔壁部313と折返し部315との間に上方から流入する。シール層Sは、外縁部において、隔壁部313の内周面に凹凸部材によって設けられた凹凸340により接触面積が大きくされている。このため、シール層S内のシール液は、凹凸340が抵抗となり、流入口311Aから流入した尿によってシール層Sより下方へ引き込まれ難くなっている。つまり、シール液は、尿の流れによって、シール層Sより下流に搬送され難い。
【0049】
隔壁部313、連結部314及び折返し部315に囲まれた領域である対流域Tにおいて、尿の流れが下降から上昇に転じ、対流が生じる。尿の流入により、シール層Sが攪拌され、シール層Sより下方に引き込まれたシール液の多くは、この対流に巻き込まれる。このため、シール液は対流域Tに留まる。尿の流入がなくなり、対流がなくなると、対流域Tに留まっていたシール液は、その浮力により浮上し、上方のシール層Sに合流する。
【0050】
また、対流域Tから折返し部315の上端を乗り越え、第3領域333に向かう下降流路Dにおける尿の勢いは、対流域Tに流入する際の尿の勢いに比べて減衰している。このため、尿の流れに乗って、対流域Tから折返し部315の上端を乗り越えたシール液は、下降流路Dの中間位置まで搬送されるに留まり、第3領域33まで搬送され難い。尿の流れがなくなると、この下降流路Dに対流していたシール液は、その浮力により浮上し、上方のシール層Sに合流する。
【0051】
このように、シール層S内のシール液が、尿の流れにより第3領域333を経由して第2領域332に搬送され、流出口312Cから流出することを抑制することができる。このため、長期の使用によってもシール液の減少を抑えることができ、シール層Sが薄くなり難い。
【0052】
したがって、実施例4の小便器用排水トラップ310も長期にわたり臭気の発散を防止することができる。
【0053】
また、凹凸340はシール層Sが形成される高さにのみ形成されているため、ゲル状の尿石がシール層Sより下方の隔壁部313の内側面に付着することを抑制することができる。このため、ゲル状の尿石の堆積による詰まりを抑制することができる。
【実施例5】
【0054】
実施例5の小便器用排水トラップ410は、図7に示すように、実施例1の小便器用排水トラップ10に比べ、隔壁部13の下端部に連結部及び折返し部が形成されていない。また、本体部412が側壁部412Aと底部412Bとを有している。底部412Bには、第2領域32内に垂直上方に立ち上がる流出管412Dが形成されている。流出管412Dの上端に流出口412Cが形成されている。流出管412Dは半円筒形状に形成され、円弧形状の外側面が隔壁部13の内側面に接して配置されている。つまり、流出管412Dは平面視で隔壁部13内の一方に偏った位置に配置されている。他の構成は、実施例1と同様であり、同一の構成については同一の符号を付し詳細な説明を省略する。
【0055】
このような構成を有する小便器用排水トラップ410でも、実施例1の小便器用排水トラップ10と同様に、シール層Sは、外縁部において、隔壁部13の内周面に凹凸部材41によって設けられた凹凸40により接触面積が大きくされている。このため、シール層S内のシール液は、凹凸40が抵抗となり、流入口11Aから流入した尿によってシール層Sより下方へ引き込まれ難くなっている。つまり、シール液はシール層Sより下流に尿の流れによって搬送され難い。よって、シール層S内のシール液が、尿の流れにより第3領域33を経由して第2領域32に搬送され、流出口412Cから流出することを抑制することができる。このため、長期の使用によってもシール液の減少を抑えることができ、シール層Sが薄くなり難い。
【0056】
したがって、実施例5の小便器用排水トラップ410も長期にわたり臭気の発散を防止することができる。
【0057】
本発明は、上記記載及び図面によって説明した実施例1〜5に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1〜5では、小便器用排水トラップの外形が円筒形状であったが、円筒形状でなくてもよい。この場合、隔壁部、折返し部も円筒形状でなく、本体部の側壁部に沿った筒形状であればよい。
(2)実施例1〜5では、凹凸はシール層が形成される高さにのみ形成されていたが、シール層より下方の側面に凹凸を形成してもよい。
(3)実施例1〜5では、内歯車形状の凹凸部材により凹凸が形成されていたが、側壁部又は隔壁部に直接凹凸を形成してもよい。
(4)実施例1〜5では、側壁部又は隔壁部の側面において、周方向に等間隔で配列され、軸方向に延びた複数の凸条により構成される凹凸が設けられていたが、縦方向に等間隔で配列され、周方向に延びた複数の凸条により構成される凹凸を設けてもよい。また、凹凸はディンプル形状などでもよい。
(5)実施例1〜5では、シール層の外縁部側に凹凸を設けたが、内縁部側に凹凸を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は洗浄水を利用しない小便器に利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…小便器
2…鉢面
10、110、210、310、410…小便器用排水トラップ
11、311…蓋部
11A、311A…流入口
12、112、212、312、412…本体部
12A、112A、212A、312A、412A…側壁部
12B、112B、212B、312B、412B…底部
12C、112C、212C、312C、412C…流出口
13、313…隔壁部
31、331…第1領域
32、332…第2領域
33、333…第3領域
40、340…凹凸
S…シール層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小便器の鉢面の下端部に設けられた開口に嵌まり込み、鉢面に沿って流下した尿が流入する流入口を有する蓋部と、
蓋部の外周縁部から下方に延びて形成された側壁部と、側壁部の下端に連続して形成された底部と、貯留された尿が溢流する流出口とを有する本体部と、
蓋部の外周縁部より内側に設けられ、下端が本体部の底部との間に間隔を設けて開口した筒状の隔壁部とを備え、
前記本体部内は、前記隔壁部により、隔壁部の外側に形成された第1領域と内側に形成された第2領域とに区画され、第1領域と第2領域とは前記隔壁部の下端より下方かつ前記底部より上方に形成された第3領域により連通されており、
前記第1領域又は前記第2領域の一方には、非溶水性であり、尿よりも比重が軽く、貯留された尿より上方にシール層を形成するシール液が注入される小便器用排水トラップであって、
前記流入口は前記第1領域又は前記第2領域の一方の領域に上方から尿が流入する位置に貫設され、前記流出口は、前記第1領域又は前記第2領域の他方の領域内であって、前記隔壁部の下端より上方に開口しており、
前記シール層が形成される前記第1領域又は前記第2領域の一方の領域に面する前記本体部の前記側壁部及び/又は前記隔壁部の側面には凹凸が設けられていることを特徴とする小便器用排水トラップ。
【請求項2】
前記凹凸は、前記シール層が形成される高さにのみ形成されていることを特徴とする請求項1記載の小便器用排水トラップ。
【請求項3】
排水管が接続され、小便器の鉢面の下端部に上方に向けて開口した凹部に着脱自在に取り付けられるカートリッジ形態に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の小便器用排水トラップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−74611(P2011−74611A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224817(P2009−224817)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】