説明

小便器

【課題】節水性能は確保しつつも、排水横枝管内における尿石の発生を抑制することが可能な小便器を提供すること。
【解決手段】この小便器USは、主にトラップ部に溜まっている尿を洗浄水によって置換するための置換モードを実行した後(t3〜t4)、主にボウル部の洗浄を行うための洗浄モードを実行する(t4〜t5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレに設置され、器具排水管によって排水横枝管に接続される小便器に関する。
【背景技術】
【0002】
公共の男性用トイレでは、大便器とは別に小便器が設置されている。大便器とは独立させて小便器を設ける場所は公共の男性用トイレに限らず、住宅のトイレにおいてもそのような設置態様が採用されている。
【0003】
このような小便器の一例が下記特許文献1に開示されている。下記特許文献1の図1〜図5に示されているように、小便器は、ボウル部と、ボウル部の底部に配置された排水口と、この排水口に連通するトラップと、このトラップ末端から排水配管に連結される出口管と、を有している。ボウル部は、このボウル部を構成するボウル部壁面と、このボウル部壁面の周囲を取り囲む外側壁面と、ボウル部壁面の上端から前方にほぼ水平方向に延びる上部壁面と、を有している。
【0004】
排水口は、ボウル部の底部に開口しており、概ねU字型のトラップに続いている。小便器のトラップ内には所定量の溜水があり、結果として所定の高さまで封水が溜まっている。出口管は、トラップの後部に連通し、ほぼ水平方向且つ後方に延びている。小便器を設置する際には、出口管は、小便器を設置する壁面に設けられた排水配管(小便器と更に下流側の排水配管である排水横枝管とを繋ぐ排水管であって、以下器具排水管ともいう)に、パッキンを介して接続される。器具排水管は、更に下流側の排水配管(以下、排水横枝管ともいう)に接続されている。
【0005】
このような小便器は、特に公共のトイレにおいて複数並べて設置されることが多い。下記特許文献2に開示されているように、複数の小便器が並べて設置される場合、一つの排水横枝管の上流側から下流側に向かって順に小便器からの器具排水管が接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−290718号公報
【特許文献2】特開2007−321371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した小便器のトラップは、概ねU字型のトラップに所定量の水が溜められて溜水となっており、この溜水によって所定の高さまでの封水が確保されている。小便器を使用して排尿を行うと、トラップ内に尿が流れ込み、流れ込んだ尿によって溜水の一部が排出され、トラップ内は尿と水とが混在した状態となる。排尿後にボウル部に洗浄水を流すとその洗浄水がトラップ内に流れ込み、尿と水とが混在した状態の液体を排出させ置換することでトラップ内を洗浄する。
【0008】
このようにボウル部に洗浄水を流してトラップ内の尿を水に置換するにあたっては、置換後の状態すなわち洗浄後の状態において、トラップ内に残存する尿が可能な限り少なくなることが好ましいものである。しかしながら、置換率を上げてトラップ内の尿の略全量を水によって置換しようとすれば、トラップ内の溜水量に対して供給する洗浄水量を増やす必要がある。
【0009】
一方、近年の環境意識の高まりを受けて、節水志向も更に高まっており、洗浄水の量は極力少なくすることが求められている。この節水に対するニーズと上述した置換率の向上に対するニーズとを両立させるためには、溜水量を少なくすることが有効であると本発明者らは考えた。そこで本発明者らは、溜水量を少なくしたトラップを試作し、実際に小便器に取り付けた場合にどのような事象が発生するかを検証した。
【0010】
その検証の結果、ボウル部に流す洗浄水の水量を減少させてもトラップの置換率を向上させることができ、トラップ内に残存する尿を十分に減少させることに成功した。ところが、公共の男性用トイレを想定し、小便器を複数個連続して配置すると、排水横引管に尿石が形成されやすくなっていることを発見した。具体的には、節水しながらトラップの置換率を上げた小便器を連続して配置し、それら連続して配置した小便器から一つの排水横枝管に排水を流すように配置した。このように配置し、通常の使用状態のもとで実使用試験を行うと、排水横枝管において発生する尿石が従前に比較して増えていることが判明した。
【0011】
尿石の増加の直接的な原因は、排水横枝管内に小便器から流し込まれた尿が、そのままの状態か高い尿濃度の液体の状態で残存し、その残存した尿成分に起因して尿石が発生することである。具体的には、尿中に含まれる尿素がバクテリアによって分解され、アンモニアが発生し、そのアンモニアによりpHが高まり、尿中や洗浄水に含まれるカルシウムイオンが結晶化したカルシウム化合物として配管の内部に付着して尿石が発生することであると考えられる。しかしながら、本発明者らは上述したようにトラップの溜水量を少なくし、その少なくした溜水量に見合った洗浄水を供給する小便器によって検証を行っている。従って、トラップ内に残存する尿を置換するのに十分な洗浄水を供給しているのであるから、その洗浄水と共に渾然一体となった尿が排水横枝管から流れていけば、排水横枝管に尿濃度の高い液体の状態(尿がそのままの状態を含む)で残存することは想定し難いものである。
【0012】
そこで本発明者らは、洗浄水と尿とが渾然一体となって排水横枝管に流れて行っていないのではないかと仮定して更なる検討を行った。溜水量を少なくしたトラップでは、排尿直後のトラップの尿濃度は従来のものに比較して高くなっている。一方で、小便器のボウル部に流す洗浄水の水量を従来に比較して少なくしたとしても、洗浄水をボウル部に広げて流す必要性から一定の水量は確保する必要がある。そのため、排尿後にボウル部に十分広がる程度の洗浄水を流すと、トラップ内の尿濃度の高い液体が洗浄水によって押し出され、排水横枝管に流れ込むことになる。小便器の設置態様を考慮すれば、排水横枝管の途中に小便器に繋がる器具排水管が繋がれていることから、最初に流れてくる液体の一部は上流側に一旦流れて、その後下流側に戻ってくるのではないかと本発明者らは考えた。
【0013】
上述したように溜水量を少なくしたトラップでは、最初に流れてくる液体は尿濃度の高い液体であるから、その後に洗浄水が流れてきたとしても、上流側に流れた尿濃度の高い液体が下流側に戻ってくる前に洗浄水は流れ去ってしまうのではないかと本発明者らは考えた。このような現象が起こっているのであれば、尿濃度の高い液体は尿濃度が高い状態で排水横枝管内に残存しやすくなり、尿石の発生に繋がっているものと思われる。このような排水横枝管内における尿濃度の高い液体の残存現象を回避するために、洗浄水量を増やすことも考えられる。しかしながら、そのように洗浄水量を増やすことは、そもそもの目的である節水性能に優れた小便器を提供することに反するため採用できるものではない。
【0014】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、節水性能は確保しつつも、排水横枝管内における尿石の発生を抑制することが可能な小便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明に係る小便器は、トイレに設置され、器具排水管によって排水横枝管に接続される小便器であって、尿流を受けるボウル部と、このボウル部の底部に開口した排水口と、この排水口に連通し封水を形成するトラップ部と、を有する小便器本体と、前記ボウル部に洗浄水を供給するための給水手段と、前記給水手段から前記ボウル部への給水を調整する調整手段と、前記調整手段を制御することで、前記給水手段から前記ボウル部への給水を実行させ、その給水の瞬間給水量を変更することが可能な制御手段と、を備える。前記制御手段は、主に前記トラップ部に溜まっている尿を洗浄水によって置換するための置換モードを実行した後、主に前記ボウル部の洗浄を行うための洗浄モードを実行する。
【0016】
本発明に係る小便器では、制御手段が、主にトラップ部に溜まっている尿を洗浄水によって置換するための置換モードを先に実行する。この置換モードの実行によって、尿の置換に適した給水が調整手段によってなされ、ボウル部を流れた後にトラップ部に流れ込み尿を置換する。置換モードによる給水は洗浄モードによる給水に先立って行われるものであるから、ボウル部の洗浄よりもトラップ部に溜まっている尿の置換により適合する給水であって、置換された尿を含む液体が排水横枝管に流れ込む際に上流側への逆流の抑制にもより適合する給水を先に行うことができる。
【0017】
更に本発明に係る小便器では、制御手段が、置換モードの実行後に、主にボウル部の洗浄を行うための洗浄モードを実行する。この洗浄モードの実行によって、調整手段によるボウル部の洗浄に適した給水がなされ、ボウル部を流れた後にトラップ部に流れ込む。洗浄モードによる給水は置換モードによる給水の後に行われるものであるから、ボウル部の洗浄対象領域に確実に広がるように調整された給水を行うことができる。置換モードの実行によって、トラップ部における尿は既に置換が完了されているか、排水横枝管の上流側に逆流したとしても高い尿濃度の液体が残存しない程度に置換されている。従って、洗浄モードによる給水をどのように設定したとしても、尿濃度の高い液体の残存による尿石発生のおそれを確実に低減することができる。
【0018】
このように、トラップ部に溜まっている尿を洗浄水によって置換するための置換モードを実行した後、ボウル部の洗浄を行うための洗浄モードを実行することで、節水性能は確保しつつも、排水横枝管内における尿石の発生を抑制することが可能な小便器を提供することができる。
【0019】
また本発明に係る小便器では、前記制御手段は、前記トラップ部の尿濃度が所定値以下になった後、前記置換モードから前記洗浄モードへと移行して前記調整手段を制御することも好ましい。
【0020】
この好ましい態様では、尿濃度が所定値を上回る間は置換モードを実行し、尿濃度が所定値以下になった後に洗浄モードを実行するように、置換モードから洗浄モードへと移行する。従って、尿濃度が所定値を上回る間は、トラップ部に溜まっている尿を洗浄水によって置換するための置換モードを実行することで、確実に尿濃度の高い液体が排水横枝管に残存しないような給水を行うことができる。一方で、尿濃度が所定値以下になった後に洗浄モードを実行することで、ボウル部の洗浄に適合する給水を行ったとしても、確実に尿濃度の高い液体が排水横枝管に残存しないようにすることが可能となる。
【0021】
また本発明に係る小便器では、前記制御手段は、前記置換モードにおける前記ボウル部への瞬間給水量と、前記洗浄モードにおける前記ボウル部への瞬間給水量とを異ならせることで、前記置換モードから前記洗浄モードへと移行することも好ましい。
【0022】
この好ましい態様では、置換モードにおけるボウル部への瞬間給水量と、洗浄モードにおけるボウル部への瞬間給水量とを異ならせている。そのため、置換モードにおいては、トラップ部の尿を置換するのに適した瞬間給水量の給水を行う一方で、洗浄モードにおいては、ボウル部の洗浄に適した瞬間給水量の給水を行うことができる。従って、置換モードにおけるボウル部への瞬間給水量と、洗浄モードにおけるボウル部への瞬間給水量とを異ならせるという簡易な手法で、置換モードから洗浄モードへと確実に移行させることができる。
【0023】
また本発明に係る小便器では、前記制御手段は、前記置換モードにおける前記ボウル部への瞬間給水量よりも、前記洗浄モードにおける瞬間給水量が多くなるように前記調整手段を制御することも好ましい。
【0024】
この好ましい態様では、置換モードにおけるボウル部への瞬間給水量よりも、洗浄モードにおける瞬間給水量が多くなるように制御している。そのため、置換モードにおいては、トラップ部の尿を置換するのに適した比較的少ない瞬間給水量の給水を行う一方で、洗浄モードにおいては、ボウル部の洗浄に適した比較的多い瞬間給水量の給水を行うことができる。従って、置換モードにおけるボウル部への瞬間給水量よりも、洗浄モードにおけるボウル部への瞬間給水量を多くするという簡易な手法で、置換モードから洗浄モードへと確実に移行させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、節水性能は確保しつつも、排水横枝管内における尿石の発生を抑制することが可能な小便器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態である小便器を示す断面図である。
【図2】図1に示す給水ユニットの機能的な構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示すトラップ部を示す概略図である。
【図4】図2に示す人感センサー及び制御部の挙動を示すタイミングチャートである。
【図5】図1に示す小便器に排尿した場合の、トラップ部の様子を示す概略図である。
【図6】図1に示す小便器に排尿した場合の、図1に示す小便器に繋がっている器具排水管及び排水横枝管の内部の様子を示す概略図である。
【図7】図5に示す状況から洗浄水を流した場合の、トラップ部の様子を示す概略図である。
【図8】図5に示す状況から洗浄水を流した場合の、器具排水管及び排水横枝管の内部の様子を示す概略図である。
【図9】図7に示す状況から洗浄水を流した場合の、トラップ部の様子を示す概略図である。
【図10】図7に示す状況から洗浄水を流した場合の、器具排水管及び排水横枝管の内部の様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0028】
本発明の実施形態である小便器について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態である小便器USを示す断面図である。図1に示されるように、小便器USは、給水ユニット10(調整手段、制御手段)と、小便器本体20と、給水管30,31(給水手段)と、スプレッダー35と、トラップ部TPとを備えている。小便器本体20及び給水ユニット10は、建築躯体の壁面WLに取り付けられている。
【0029】
小便器本体20は、ボウル部201を備えている。ボウル部201は、小便器本体20の使用者からの尿流を受け止める部分である。使用者から放たれた尿流は、ボウル部201後方のボウル壁面202に当たって下方に流れる。下方に流れた尿流は、ボウル部201の底部に開口した排水口203からトラップ部TPへと流れる。排水口203には目皿204が配置されている。
【0030】
ボウル部201の後方であって壁面WL側のボウル壁面202上部には、スプレッダー35が取り付けられている。スプレッダー35には給水管31が繋がれていて、給水管31から供給される洗浄水を放出するように構成されている。スプレッダー35が放出する洗浄水は、ボウル壁面202に沿って幅方向(図1の紙面を貫く方向)に広がってボウル壁面202を洗浄する。ボウル壁面202を洗浄した洗浄水は、ボウル部201の底部に開口した排水口203からトラップ部TPへと流れる。
【0031】
給水管31は、小便器本体20内に配置されている給水管である。給水管31の上流側には給水管30が繋がれている。給水管30は、小便器本体20と給水ユニット10とを繋ぐ給水管である。給水ユニット10は、建築側給水管40に繋がれている。建築側給水管40は、壁面WLの裏面側に配置されており、給水源から水を供給し給水ユニット10に送り出している。給水ユニット10の構成については後述する。
【0032】
小便器本体20の排水口203に連通して封水を形成するように、トラップ部TPが配置されている。トラップ部TPは封水を形成すると共に、排水口203から流れ込む尿や洗浄水を排水として器具排水管50側に送り出している。器具排水管50は、壁面WLの裏面側に配置されており、尿や洗浄水を含む排水を更に下流側へと搬送している。トラップ部TPの構成については後述する。
【0033】
続いて、図2を参照しながら給水ユニット10について説明する。図2は、給水ユニット10の機能的な構成を示すブロック図である。図2に示されるように、給水ユニット10は、人感センサー101と、制御部102(制御手段)と、電磁弁103(調整手段)とを備えている。
【0034】
人感センサー101は、小便器USを使用する使用者が、小便器本体20の前に立ったことを検知するためのセンサーである。人感センサー101としては、赤外線センサーやドップラーセンサーといったセンサーが適宜用いられる。人感センサー101は、使用者の検知結果を制御部102に出力する。
【0035】
制御部102は、人感センサー101の検知結果に基づいて、使用者の排尿を洗浄するように所定のタイミングで、電磁弁103を所定の開度に開いたり閉じたりするための制御信号を出力する。制御部102が出力する制御信号の具体例については後述する。
【0036】
電磁弁103は、建築側給水管40と給水管30との間に設けられている。電磁弁103が閉じられていると、建築側給水管40から供給される水は給水管30に流れないように止水される。電磁弁103が開いていると、建築側給水管40から供給される水は、電磁弁103の開度に応じた瞬間流量(電磁弁103近傍の管路を通過する際の瞬間流量(m3/s))で給水管30に流れる。
【0037】
続いて、図3を参照しながらトラップ部TPについて説明する。図3は、トラップ部TPを示す概略図である。図3に示されるように、トラップ部TPは上流側から順に、上流接続部TPaと、上流封水部TPbと、底部TPcと、下流封水部TPdと、下流あふれ部TPeとを備えている。
【0038】
上流接続部TPaは、ボウル部201の排水口203に繋がる部分である。矢印Aの上流側に排水口203が繋がっており、ボウル部201から排水口203に流れ込んだ尿や洗浄水は矢印Aに沿って上流接続部TPaに流れ込む。
【0039】
上流封水部TPb、底部TPc、及び下流封水部TPdは、水が溜まるようにU字状を成すように形成されている。上流接続部TPaから流れ込んだ水は、下流あふれ部TPeの下側内壁面であるウェアWよりも下側に溜まるように構成されている。封水深Wdは、ウェアWと、底部TPcの上側内壁面であるディップDとの間の鉛直方向の長さである。従って、上流封水部TPbに溜まる上流封水WS1と、下流封水部TPdに溜まる下流封水WS3とによって封水が形成されている。
【0040】
本明細書では、底部TPcに溜まる底溜水WS2と、上流封水WS1及び下流封水WS3とを合わせて、トラップ部TPの溜水Wsとしている。本実施形態において、溜水Wsの水量は、約100mLとなるように形成されており、0.5L程度の少水量でも洗浄が可能となっている。尚、節水型ではない通常のタイプのトラップでは、溜水量が約400〜600mLであり、洗浄水量は約1.4Lであるので、本実施形態のトラップ部TPは極めて節水性が向上したものとなっている。尚、本実施形態ではU字型のトラップをトラップ部TPとして採用したけれども、上述した機能を果たす限りその他の形態のトラップを採用することも好ましいものである。
【0041】
続いて、図4を参照しながら、制御部102が出力する制御信号の具体例について説明する。図4は、人感センサー101及び制御部102の挙動を示すタイミングチャートである。図4の(A)は、人感センサー101から制御部102に出力される検知信号を示し、図4の(B)は、制御部102から電磁弁103に出力される制御信号を示している。
【0042】
図4の(A)に示されているように、人感センサー101からは、時刻t1から時刻t2にかけて使用者が小便器本体20の前に立っていることを示す検知信号が出力されている。時刻t2を過ぎると検知信号が出力されなくなるので、制御部102は排尿が終わって使用者が立ち去ったと判断する。
【0043】
図4の(B)に示されているように、制御部102は、時刻t3から時刻t4にかけて電磁弁103を全開に対して70%開くための制御信号「0.7」を出力する。続いて制御部102は、時刻t4から時刻t5にかけて電磁弁103を全開するための制御信号「1」を出力する。
【0044】
このような制御を行うと、時刻t3から時刻t4において電磁弁103が70%開くことによって供給される洗浄水Wfの瞬間流量(電磁弁103近傍の管路を通過する際の瞬間流量(m3/s))は相対的に低下するので、尿Urの上流側Fへの逆流は抑制される。そして、時刻t4から時刻t5において電磁弁103が全開することによって供給される洗浄水Wfの瞬間流量は相対的に上昇する。
【0045】
尚、図4に示す制御信号の例では、パルス振幅を異ならせることで互いに異なる制御信号であることを認識させる例を示したが、制御信号の例はこれに限られるものではない。例えば、パルス幅変調方式の制御を行うことも好ましい態様である。また例えば、電磁弁103の開度を示す異なる種類の制御信号を併用することも好ましい態様である。具体的には、時刻t3から時刻t4までは、電磁弁103の開度を全開に対して70%とする信号を第1チャネルを通じて出力し、時刻t4から時刻t5までは、電磁弁103の開度を全開にする信号を第2チャネルを通じて出力することも好ましいものである。
【0046】
このような制御を行った場合、トラップ部TPやその下流の配管内がどのようになっているかについて、図5〜図10を参照しながら説明する。図5は、小便器USに排尿した場合の、トラップ部TPの様子を示す概略図である。図6は、小便器USに排尿した場合の、小便器USに繋がっている器具排水管50及び排水横枝管51の内部の様子を示す概略図である。図7は、図5に示す状況から洗浄水を流した場合の、トラップ部TPの様子を示す概略図である。図8は、図5に示す状況から洗浄水を流した場合の、器具排水管50及び排水横枝管51の内部の様子を示す概略図である。図9は、図7に示す状況から更に洗浄水を流した場合の、トラップ部TPの様子を示す概略図である。図10は、図7に示す状況から更に洗浄水を流した場合の、器具排水管50及び排水横枝管51の内部の様子を示す概略図である。
【0047】
小便器USに排尿すると、ボウル部201のボウル壁面202に尿流が当たり、ボウル壁面202を伝って尿が排水口203から下流に流れる。図5の(A)に示されるように、排水口203に入った尿Urは矢印Aに沿ってトラップ部TPに流れ込む。続いて、図5の(B)に示されるように、尿Urの流入によって溜水Wsが下流あふれ部TPeへと押し流される。
【0048】
続いて、図5の(C)に示されるように、溜水Wsは完全に押し流されて、トラップ部TP内は尿Urによって満たされる。排尿が終了すると、図5の(D)に示されるように、上流封水部TPb、底部TPc、及び下流封水部TPdに尿Urが残存する。図5の(A)から(D)に示した状況は、図4の時刻t1から時刻t2に相当する。
【0049】
図5の(B)に示したように溜水Wsが矢印B方向に押し流されると、図6の(A)に示されるように、器具排水管50に流れ込む。器具排水管50は排水横枝管51に繋がっているので、溜水Wsは排水横枝管51に流れ込む。図5の(B)では、排尿によって流れ込む尿Urに押し出されて溜水Wsが下流側に流出しているので、その流れる速度は比較的緩やかなものであって、瞬間流量は少ないものである。従って、溜水Wsは排水横枝管51に流れ込んでも、ほとんどの部分が上流側Fに流れることはなく、下流側Eに流れていく。
【0050】
図6の(B)に示されるように、溜水Wsに続いて尿Urが流れ込んでも、やはりその流れる速度は比較的緩やかなものであって、瞬間流量は少ないものである。従って、尿Urは排水横枝管51に流れ込んでも、ほとんどの部分が上流側Fに流れることはなく、下流側Eに流れていく。
【0051】
続いて、図4の時刻t3から時刻t4に示すように、制御部102から電磁弁103を全開に対して70%開くための制御信号「0.7」が出力されると、電磁弁103が70%開かれ洗浄水がスプレッダー35からボウル部201のボウル壁面202に沿って流れる。ボウル壁面202を伝って洗浄水が排水口203から下流に流れる。図7の(A)に示されるように、排水口203に入った洗浄水Wfは矢印Aに沿ってトラップ部TPに流れ込む。続いて、図7の(B)に示されるように、洗浄水Wfの流入によって尿Urが下流あふれ部TPeへと押し流される。
【0052】
続いて、図7の(C)に示されるように、尿Urは完全に押し流されて、トラップ部TP内は洗浄水Wfによって一部が満たされ、残部には空気が残る部分もある。
【0053】
図7の(B)に示したように尿Urが矢印B方向に押し流されると、図8の(A)に示されるように、器具排水管50に流れ込む。器具排水管50は排水横枝管51に繋がっているので、尿Urは排水横枝管51に流れ込む。図7の(B)では、洗浄水Wfに押し出されて尿Urが下流側に流出しているけれども、洗浄水Wfの給水流量(供給される水の瞬間流量)が全開に対して70%であるから、その流れる速度は比較的緩やかなものであって、瞬間流量は少ないものである。従って、尿Urは排水横枝管51に流れ込むと、ほとんどの部分が上流側Fには逆流せずに下流側Eに流れる。
【0054】
更にトラップ部TPに洗浄水Wfが流入すると、その下流側である器具排水管50から排水横枝管51にも、洗浄水Wfが流れ込む。図8の(B)に示されるように、比較的瞬間流量の比較的少ない洗浄水Wfが流れ込むと、尿Urを下流側Eに押し流すように下流側Eに流れる。
【0055】
続いて、図4の時刻t4から時刻t5に示すように、制御部102から電磁弁103を全開する制御信号「1」が出力されると、電磁弁103が全開され洗浄水がスプレッダー35からボウル部201のボウル壁面202に沿って流れる。ボウル壁面202を伝って洗浄水が排水口203から下流に流れる。図9の(A)に示されるように、排水口203に入った洗浄水Wfは矢印Aに沿ってトラップ部TPに流れ込む。同図に示すように、トラップ部TP内は洗浄水Wfによって満たされる。この洗浄が終了すると、図9の(B)に示されるように、上流封水部TPb、底部TPc、及び下流封水部TPdに洗浄水Wfが溜水Wsとして残存する。
【0056】
図9の(A)に示したように洗浄水Wfが矢印B方向に押し流されると、図10の(A)に示されるように、器具排水管50に流れ込む。器具排水管50は排水横枝管51に繋がっているので、洗浄水Wfは排水横枝管51に流れ込む。図9の(A)では、電磁弁103が全開されることで供給される洗浄水Wfが下流側に流出しているので、その流れる速度は比較的速いものであって、瞬間流量は多いものである。従って、洗浄水Wfは排水横枝管51に流れ込むと、上流側Fと下流側Eとに分かれる。
【0057】
図10の(A)に示されるように、洗浄水Wfは残存している尿Urと共に下流側Eへと流れていく。従って、図10の(B)に示されるように、残留した尿Urは洗浄水Wfと共に下流側に流れ去り、排水横枝管51の内側管壁に付着して残存していた尿Urが洗浄される。
【0058】
上述したように本実施形態に係る小便器USは、トイレに設置され、器具排水管50によって排水横枝管51に接続される小便器である。小便器USは、(1)尿流を受けるボウル部201と、このボウル部201の底部に開口した排水口203と、この排水口203に連通し封水を形成するトラップ部TPと、を有する小便器本体20と、(2)ボウル部201に洗浄水を供給するための給水手段としての給水管30,31と、(3)給水管30,31からボウル部201への給水を調整する調整手段としての電磁弁103と、(4)電磁弁103を制御することで、給水管30,31からボウル部201への給水を実行させ、その給水の瞬間給水量を変更することが可能な制御部102と、を備える。
【0059】
制御部102は、主にトラップ部TPに溜まっている尿を洗浄水Wfによって置換するための置換モード(図4に示す時刻t3から時刻t4までの制御)を実行した後、主にボウル部201の洗浄を行うための洗浄モード(図4に示す時刻t4から時刻t5までの制御9を実行する。
【0060】
本実施形態に係る小便器USでは、制御部102が、主にトラップ部TPに溜まっている尿Urを洗浄水Wfによって置換するための置換モードを先に実行する。この置換モードの実行によって、尿Urの置換に適した給水が電磁弁103によってなされ、ボウル部201を流れた後にトラップ部TPに流れ込み尿Urを置換する。置換モードによる給水は洗浄モードによる給水に先立って行われるものであるから、ボウル部201の洗浄よりもトラップ部TPに溜まっている尿Urの置換により適合する給水であって、置換された尿Urを含む液体が排水横枝管51に流れ込む際に上流側Fへの逆流の抑制にもより適合する給水を先に行うことができる(図7及び図8参照)。
【0061】
更に本実施形態に係る小便器USでは、制御部102が、置換モードの実行後に、主にボウル部201の洗浄を行うための洗浄モードを実行する。この洗浄モードの実行によって、電磁弁103によるボウル部201の洗浄に適した給水がなされ、ボウル部201を流れた後にトラップ部TPに流れ込む。洗浄モードによる給水は置換モードによる給水の後に行われるものであるから、ボウル部201の洗浄対象領域(主にボウル壁面202)に確実に広がるように調整された給水を行うことができる。置換モードの実行によって、トラップ部TPにおける尿Urは既に置換が完了されているか、排水横枝管51の上流側Fに逆流したとしても高い尿濃度の液体が残存しない程度に置換されている。従って、洗浄モードによる給水をどのように設定したとしても、尿Urが高濃度で残存することによる尿石発生のおそれを確実に低減することができる。
【0062】
このように、トラップ部TPに溜まっている尿Urを洗浄水によって置換するための置換モードを実行した後、ボウル部201の洗浄を行うための洗浄モードを実行することで、節水性能は確保しつつも、排水横枝管51内における尿石の発生を抑制することが可能な小便器USを提供することができる。
【0063】
また本実施形態に係る小便器USでは、制御部102が、トラップ部TPの尿濃度が所定値以下になった後、置換モードから洗浄モードへと移行して電磁弁103を制御するように設定されている。具体的には、図7の(A)から(C)に示したように、トラップ部TP内から尿Urが押し出されて、トラップ部TP内が洗浄水Wfで満たされた後に、図9の(A)から(B)に示したように大流量の給水を行うものとしている。
【0064】
このように、尿濃度が所定値を上回る間は置換モードを実行し、尿濃度が所定値以下になった後に洗浄モードを実行するように、置換モードから洗浄モードへと移行する。従って、尿濃度が所定値を上回る間は、トラップ部TPに溜まっている尿Urを洗浄水Wfによって置換するための置換モードを実行することで、確実に尿濃度の高い液体が排水横枝管51に残存しないような給水を行うことができる(図8参照)。一方で、尿濃度が所定値以下になった後に洗浄モードを実行することで、ボウル部201の洗浄に適合する給水を行ったとしても、確実に尿濃度の高い液体が排水横枝管51に残存しないようにすることが可能となる(図10参照)。
【0065】
また本実施形態に係る小便器USでは、制御部102は、置換モードにおけるボウル部201への瞬間給水量(給水の瞬間流量)と、洗浄モードにおけるボウル部201への瞬間給水量(給水の瞬間流量)とを異ならせることで、置換モードから前記洗浄モードへと移行している。
【0066】
このように、置換モードにおいては、トラップ部TPの尿Urを置換するのに適した瞬間給水量の給水を行う一方で、洗浄モードにおいては、ボウル部201の洗浄に適した瞬間給水量の給水を行うことができる。従って、置換モードにおけるボウル部201への瞬間給水量と、洗浄モードにおけるボウル部201への瞬間給水量とを異ならせるという簡易な手法で、置換モードから洗浄モードへと確実に移行させることができる。
【0067】
また本実施形態に係る小便器USでは、制御部102は、置換モードにおけるボウル部201への瞬間給水量(給水の瞬間流量)よりも、洗浄モードにおける瞬間給水量(給水の瞬間流量)が多くなるように電磁弁103を制御している。
【0068】
このように、置換モードにおいては、トラップ部TPの尿Urを置換するのに適した比較的少ない瞬間給水量の給水を行う一方で、洗浄モードにおいては、ボウル部201の洗浄に適した比較的多い瞬間給水量の給水を行うことができる。従って、置換モードにおけるボウル部201への瞬間給水量よりも、洗浄モードにおけるボウル部201への瞬間給水量を多くするという簡易な手法で、置換モードから洗浄モードへと確実に移行させることができる。
【0069】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0070】
US:小便器
WL:壁面
10:給水ユニット
101:人感センサー
102:制御部
103:電磁弁
20:小便器本体
201:ボウル部
202:ボウル壁面
203:排水口
204:目皿
30:給水管
31:給水管
35:スプレッダー
40:建築側給水管
50:器具排水管
51:排水横枝管
TP:トラップ部
TPa:上流接続部
TPb:上流封水部
TPc:底部
TPd:下流封水部
TPe:下流あふれ部
W:ウェア
D:ディップ
Wd:封水深
WS1:上流封水
WS2:底溜水
WS3:下流封水
Ur:尿
Ws:溜水
Wf:洗浄水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレに設置され、器具排水管によって排水横枝管に接続される小便器であって、
尿流を受けるボウル部と、このボウル部の底部に開口した排水口と、この排水口に連通し封水を形成するトラップ部と、を有する小便器本体と、
前記ボウル部に洗浄水を供給するための給水手段と、
前記給水手段から前記ボウル部への給水を調整する調整手段と、
前記調整手段を制御することで、前記給水手段から前記ボウル部への給水を実行させ、その給水の瞬間給水量を変更することが可能な制御手段と、を備え、
前記制御手段は、主に前記トラップ部に溜まっている尿を洗浄水によって置換するための置換モードを実行した後、主に前記ボウル部の洗浄を行うための洗浄モードを実行することを特徴とする小便器。
【請求項2】
前記制御手段は、前記トラップ部の尿濃度が所定値以下になった後、前記置換モードから前記洗浄モードへと移行して前記調整手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の小便器。
【請求項3】
前記制御手段は、前記置換モードにおける前記ボウル部への瞬間給水量と、前記洗浄モードにおける前記ボウル部への瞬間給水量とを異ならせることで、前記置換モードから前記洗浄モードへと移行することを特徴とする請求項2に記載の小便器。
【請求項4】
前記制御手段は、前記置換モードにおける前記ボウル部への瞬間給水量よりも、前記洗浄モードにおける瞬間給水量が多くなるように前記調整手段を制御することを特徴とする請求項3に記載の小便器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−252344(P2011−252344A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128036(P2010−128036)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】