小分子の同時的な定量および同定のための質量タグ試薬
質量タグを分析物にコンジュゲートし、タンデムマススペクトロメトリーフラグメンテーション(MS−MSまたはMS2)後に、質量タグのシグナチャーイオンが分析物に付着したまま残る、分子の同定方法および定量方法を提供する。シグナチャーイオンを失うのではなく、構造物の質量バランス部分を、タンデムマススペクトロメトリーフラグメンテーションの下で、電荷中性基として失わせることができる。このシグナチャーイオンを定量に用いることができ、さらなるフラグメンテーションによって、分析物の特徴を示し、かつ分析物の同定に有用なイオンシグナルを提供することもできる。いくつかの実施形態では、3回目のマススペクトロメトリーフラグメンテーション(MS3)から生成されたイオンシグナルを、例えば、検索表、ライブラリー、またはデータベースからの既知のマススペクトルと比較して、分析物の一義的な同定を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2010年1月22日に出願された先願米国仮特許出願第61/297,507号明細書の利益を主張するものである。
【0002】
本教示は、マススペクトロメトリーならびに小分子の検出および定量の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
タグ化した分析物複合体は、マススペクトロメーターでフラグメント化されて、荷電シグナチャーイオンを生成させる。このシグナチャーイオンは、タグ化分析物を定量するために用いられる。残念なことに、フラグメンテーションプロセスにおいて、正の電荷は、主にこのシグナチャーイオンに移り、分析物を含む分子の残りの電荷中性部分は、検出されないか、または不十分にしか検出されないまま残る。分析物を含む電荷中性部分のフラグメンテーションについてのその後の分析からは、分析物の一義的な同定がもたらされない。小分子、例えば、代謝物の同時的な定量および同定のための方法に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本教示の様々な実施形態によって、分析物の定量と同定の両方を含む分析物の分析方法が提供される。本方法は、タグを分析物に共有結合させて、標識分析物を形成することを含むことができる。本方法は、標識分析物を、標識分析物を解離しない第1の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程に供することを含むことができる。いくつかの実施形態では、本方法は次に、標識分析物を、第1の条件とは異なる第2の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程(MS−MSまたはMS2)に供することを含むことができる。マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程は、マススペクトルを形成することができ、第2の条件は、標識分析物を、シグナチャーイオンを担持する分析物と、分離またはフラグメント化されたロス基(loss group)とに解離する条件を含む。いくつかの実施形態では、このロス基は中性であることができる。いくつかの実施形態では、このロス基は電荷を帯びたものであることができる。次に、分析物をマススペクトルに基づいて定量することができる。
【0005】
様々な実施形態によって、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程から得られたシグナチャーイオンを担持する分析物を、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程(MS3)に供することができる。第3の条件は、第1の条件とは異なり、かつ第2の条件とも異なることができ、また、シグナチャーイオンを担持する分析物を、複数の荷電フラグメントに解離する条件を含むことができる。マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程は、第2のマススペクトルを形成することができる。いくつかの実施形態では、分析物を第2のマススペクトルに基づいて同定することができる。
【0006】
様々な実施形態によって、分析物にコンジュゲートされた同定可能なシグナチャーイオンが、タンデムマススペクトロメトリーフラグメンテーション(MS2)後、分析物に付着したまま残る、分子の同定および定量方法が提供される。その代わりに、シグナチャーイオンを含む複合体の「質量バランス」部分だけが、タンデムマススペクトロメトリーフラグメンテーションの下で、電荷中性基として失われる。このシグナチャーイオンを定量に用いることができ、さらなるフラグメンテーションによって、分析物の特徴を示すイオンシグナルを提供することもできる。いくつかの実施形態では、3回目のマススペクトロメトリーフラグメンテーション(MS3)から生成されたイオンシグナルを、例えば、データベースからの既知のマススペクトルと比較して、分析物の一義的な同定を提供することができる。
【0007】
本教示は、本教示を限定するのではなく、例示することが意図される添付の図面を参照して、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本教示の様々な実施形態による分析物の同時的な定量および同定のための方法を示す流れ図である。
【図2】本教示の様々な実施形態によって用いて、小さい分析物の同時的な定量および同定をもたらすことができる5つの異なる質量タグ化試薬を示す。
【図3】本教示の様々な実施形態による、MS−MSモードでのシグナチャーイオン含有分析物の生成を示す反応スキームである。
【図4】本教示の様々な実施形態による、ステロイドのテストステロンを検出および定量するのに有用な2重試薬構成のための2重反応スキームである。
【図5】本教示の様々な実施形態による、シグナチャーイオン含有試薬のトリメチルアンモニウムエチレンヒドロキシルアミンHClの合成のための反応スキームを示す。
【図6】本教示の様々な実施形態による、2つの異なる分析物の明確な同定イオンシグナルを生成させるのに有用な反応スキームを示す。
【図7】本教示の様々な実施形態による、1回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図8】本教示の様々な実施形態による、2回のマススペクトロメトリーによる分離(MS−MS、またはタンデムマススペクトロメトリー)から生成された、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図9A】本教示の様々な実施形態による、3回のマススペクトロメトリーによる分離(MS3)から生成され、シグナチャーイオンを示す、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図9B】データ源(この場合は、Sigma−Aldrich,St.Louis,Missouriから入手される、メタノール溶液中のテストステロンステロイドの製品情報シートからの抜粋である)から得られた、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図10】本教示の様々な実施形態による、1回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図11】本教示の様々な実施形態による、2回のマススペクトロメトリーによる分離(MS−MS、またはタンデムマススペクトロメトリー)から生成された、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図12】本教示の様々な実施形態による、3回のマススペクトロメトリーによる分離(MS3)から生成され、シグナチャーイオンを示す、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本教示の様々な実施形態によって、分析物の定量と同定の両方を含む分析物の分析方法が提供される。本方法は、タグ、例えば、シグナチャーイオン複合体を分析物に共有結合させて、標識分析物、例えば、結合したシグナチャーイオン複合体を形成することを含むことができる。いくつかの実施形態では、標識分析物は、結合した分析物部分、シグナチャーイオン部分、および質量バランス基部分を含むことができる。本方法は、標識分析物を、標識分析物を解離しない第1の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程に供することを含むことができる。いくつかの実施形態では、本方法は次に、標識分析物を、第1の条件とは異なる第2の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程(MS−MSまたはMS2)に供することを含むことができる。マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程は、マススペクトルを形成することができ、第2の条件は、標識分析物を、シグナチャーイオンを担持する分析物と、分離またはフラグメント化されたロス基とに解離する条件を含む。次に、分析物をマススペクトルに基づいて定量することができる。
【0010】
様々な実施形態によって、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程から得られたシグナチャーイオンを担持する分析物を、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程(MS3)に供することができる。第3の条件は、第1の条件とは異なり、かつ第2の条件とも異なることができ、また、シグナチャーイオンを担持する分析物を、複数の荷電フラグメントに解離する条件を含むことができる。マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程は、第2のマススペクトルを形成することができる。いくつかの実施形態では、分析物を第2のマススペクトルに基づいて同定することができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、標識分析物を、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、クロマトグラフィー分離に供することができ、例えば、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、液体クロマトグラフィー分離に供することができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、本方法は、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、標識分析物に標準標識分析物をスパイクするを含むことができる。標準標識分析物は、試料標識分析物と同じ化学構造および同じ質量であることができるが、同位体分布は異なることができる。いくつかの実施形態では、シグナチャーイオン複合体は、少なくとも1つが同位体である、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、またはそれらの組合せから選択される少なくとも2つの原子含む。標準標識分析物中の標準シグナチャーイオン複合体は、少なくとも2つの原子について、同じ化学構造を有するが、異なる同位体分布を有することができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、定量は、第1のマススペクトルに基づくことができ、かつ本方法は、標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークを標準標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークと比較することを含むことができる。いくつかの実施形態では、同定は、第2のマススペクトルに基づくことができ、この第2のマススペクトルを、例えば、検索表から得られた、参照源から得られた、ライブラリーから得られた、および/またはデータベースから得られた既知のマススペクトル由来の既知のマススペクトルと比較することを含むことができる。
【0014】
本教示の様々な実施形態によって、シグナチャーイオン複合体を分析物にコンジュゲートし、タンデムマススペクトロメトリーフラグメンテーション(MS−MSまたはMS2)後に、複合体のシグナチャーイオンが分析物に付着したまま残る、分子の同定および定量方法が提供される。タンデムマススペクトロメトリーフラグメンテーションによって、シグナチャーイオン複合体の質量バランス部分は電荷中性基として失われるが、シグナチャーイオンは分析物に付着したまま残るように、シグナチャーイオン複合体を設計することができる。いくつかの実施形態では、シグナチャーイオンを、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程または第3段階(MS3)の後に、分析物からフラグメント化することができる。シグナチャーイオンを定量に用いることができ、かつさらなるフラグメンテーションによって、分析物に特徴的なイオンシグナルを提供することもできる。特徴的なイオンシグナルを様々な実施形態に従って用いて、分析物を同定することができる。いくつかの実施形態では、3回目のマススペクトロメトリーフラグメンテーション(MS3)から生成したイオンシグナルを、例えば、参照またはデータベースからの既知のマススペクトルと比較して、分析物の一義的な同定を提供することができる。
【0015】
図1は、本教示の様々な実施形態による、分析物を同時に定量および同定する方法を示す模式図である。模式図の左上に示すように、質量バランス基20を、反応性末端24を有する質量認識基22と結合させて、複合体26を形成する。以下で論じるように、質量認識基22は、同定可能なシグナチャーイオンを、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの3つの工程(MS3)の後にのみ形成するように構成されている。複合体26を、反応性末端24での反応を介して分析物30にコンジュゲートし、その結果物に標準複合体32をスパイクする。その後、得られた混合物を液体クロマトグラフィーに供して、様々な成分を分離し、分離された成分をマススペクトロメトリーの第1工程(MS)に供する。
【0016】
図1に示すように、シグナチャーイオンは、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程(MS2)の後、分析物30から離れない。その代わりに、分子の質量バランス部分だけが、例えば、電荷中性基として失われる。この残りのシグナチャーイオンは、定量に用いられることができ、かつさらなるフラグメンテーションによって、分析物30に特徴的なイオンシグナルを提供する。図1にさらに示されているように、検出されたイオンシグナルをデータベースと比較して、分析物30の一義的な同定を提供することができる。
【0017】
様々な実施形態によって、小分子の同時的な定量および同定を提供するために用いることができる質量タグ化試薬の例を図2A〜2Eに示す。図2Aに示す例示的な質量タグ化試薬の典型的なMS2フラグメンテーションパターンを図3に示す。図3に示すように、MS−MSフラグメンテーションを受けている質量タグ化試薬との反応によって、分析物を含むシグナチャーイオンが生成され、かつ中性の質量補償基が生成される。
【0018】
様々な実施形態によって、本教示は、小分子の同定および定量に2重試薬構成を利用する方法を提供する。図4に示すように、2重試薬構成は、ステロイドのテストステロン用に提供される。図4に示すように、テストステロン含有試料を第1の質量タグ化試薬で標識し、テストステロン含有標準を異なる質量タグ化試薬で標識し、ここで、両方のタグ化試薬は、同じ精密質量、特に、121.12原子質量単位(amu)を有する。それぞれのタグ化の後、テストステロン含有試料およびテストステロン含有標準を混合し、LC−MSを行なった後、MS−MS(MS2)を行なう。MS3フラグメンテーションの後、イオンシグナルを参照またはデータベースと比較して、試料を同定することができる。様々な実施形態によって、質量タグ化試薬を合成する方法を提供し、図5に例示する。
【0019】
図5は、トリメチルアンモニウムエチレンヒドロキシルアミン塩酸塩の合成を示す。タグ化試薬を用いて、テストステロンおよびエストロンを誘導体化することができ、その後、これらを、様々な実施形態による、定量および同定に供することができる。同定後、図6に示すように、マススペクトロメトリーデータを収集することができる。図6は、2つの異なる分析物に対して異なる同定イオンシグナルが提供される実施形態を示す。
【0020】
図6は、2つの異なる分析物に対する異なる同定イオンシグナルを示す。例示的な実施形態では、インソース(in−source)フラグメンテーションが、シグナチャーイオンを生成させるのに十分であるように「高く」設定されたAPI 3200 DP値を用いて、シグナチャーイオンをフラグメント化する本方法のMS−MS工程を実施した。
【0021】
本教示のさらに他の実施形態によって、本明細書に記載したようなシグナチャーイオン複合体の形態の少なくとも1つのタグ、および本明細書に記載したような方法を実施するための1セットの指示書を含むキットが提供される。キットは、標準標識分析物または標準シグナチャーイオン複合体も含むことができ、ここで、標準シグナチャーイオン複合体は、シグナチャーイオン複合体と同じ化学構造および同じ質量であるが、シグナチャーイオン複合体と同位体分布が異なる。指示書は、結合したシグナチャーイオン複合体に帰属可能なマススペクトルピークを、標準標識分析物または結合したシグナチャーイオン複合体に帰属可能なマススペクトルピークと比較することによって分析物を定量するための指示書を含むことができる。指示書は、マススペクトルを、例えば、検索表から、参照源から、ライブラリーから、データベースから、および/またはデータベースへのリンクから得られた既知のマススペクトルから得られたマススペクトルと比較することによって分析物を同定するための指示書を含むことができる。いくつかの実施形態では、キットはさらに、複数の異なる標準シグナチャーイオン複合体を含むことができ、ここで、各々の標準シグナチャーイオン複合体は、シグナチャーイオン複合体と同じ化学構造および同じ質量であるが、同位体分布が異なる。
【0022】
いくつかの実施形態では、キットは、緩衝液および酵素、他の緩衝液、ならびに任意で他の試薬および/または成分を含む、酵素消化成分を含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、例えば、使用者が試料を添加する必要しかないようなホモジニアスアッセイを含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、較正または正規化用の試薬または標準を含むことができる。アッセイを実施するために用いることができるか、またはアッセイを実施するために用いるべき機器の設定に関する情報も、キットに含めることができる。試料調製、操作条件、容量、温度設定などに関する情報をキットに含めることができる。キットは、試料と1つ以上の対照試薬の比較測定を行なうのに有用な、異なるトランジション値および/または推奨設定を含むことができる。キットは、特定のトランジション値のペア、例えば、Q1/Q3トランジションペア、または1つ以上の異なるトランジションペアの値を測定するための指示書を含むことができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、キットは、1つ以上の試薬容器および適切な指示書を含む密閉容器に包装することができる。1つ以上のアッセイ、測定値、トランジションペア、操作指示書、操作を実行するためのソフトウェア、それらの組合せなどに関する電子情報をその上に保存した、電子媒体をキットに含めることができる。いくつかの実施形態では、キットは、情報、例えば、マススペクトルまたはマススペクトルデータをどこで見つけることができるかを示すポインタを含むことができる。ポインタは、例えば、ウェブアドレス、ユーザー名、パスワード、それらの組合せなどを含むことができる。
【0024】
これから、以下の実施例を参照しながら本教示を示す。テストステロンおよびエストロンが分析物として例示されているが、例えば、他のステロイド、アルデヒド、ケトン、それらの組合せなどをはじめとする、種々の分析物のいずれかを本教示に従って定量および同定することができることが理解されるべきである。
【実施例】
【0025】
2つの例示的実施形態において、シグナチャーイオン複合体1(図5)を図5に示す反応スキームに従って合成した。次に、テストステロンとエストロンを、各々、シグナチャーイオン複合体1で誘導体化した。図6は、本方法における次の工程を示す。この工程では、誘導体化されたテストステロンとエストロンを、液体クロマトグラフィー分離に供した後、マススペクトロメトリーによるフラグメンテーションに供し、そこからマススペクトロスコピーデータを収集した。図6に見ることができるように、2つの異なる明確なIDイオンシグナルのセットが、2つのそれぞれ異なる分析物について生成された。いくつかの実施形態、例えば、Applied Biosystems,Foster City,CaliforniaのAPI 3200などの完全一体型の三連四重極マススペクトロメーターを用いる実施形態では、インソースフラグメンテーションによってシグナチャーイオンが発生し、シグナチャーイオンのMS−MS(MS2)が可能となるように、DP値を高く設定した。この方法から生成されたデータを図7〜9Aおよび図10〜12に示す。
【0026】
図7は、1回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。図8は、MS2(MS−MS、またはタンデムマススペクトロメトリー)を用いる2回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。図9Aは、マススペクトロメトリーによる分離の第3工程(MS3)から生成され、シグナチャーイオンに対応するピークを示す、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【0027】
様々な実施形態に従って、シグナチャーイオンを既知の質量スペクトルから入手可能なデータと比較した。例えば、図9Aに示す、本教示によるMS3からのテストステロンシグナチャーイオンを、テストステロンステロイドのマススペクトルから入手可能な標準データと比較した。データベースを用いることができるが、生成された、図9Aに示すデータを、マススペクトルと比較し、図9Bに示すSigma−Aldrich,St.Louis,Missouriから得た。図9Bのマススペクトルは、製品番号T 5411(テストステロンステロイド)のSigma−Aldrich製品情報シートから取られた抜粋である。図9Bは、メタノール溶液中の試料からのテストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【0028】
図10は、1回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムであり、図11は、2回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムであり、図12は、3回目のマススペクトロメトリーによる分離(MS3)から生成された、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。図12は、シグナチャーイオンを示し、マススペクトルをデータベースから得られたマススペクトルと比較した。
【0029】
本教示の他の実施形態は、本明細書の検討および本明細書に開示された本教示の実施から当業者に明らかになるであろう。本明細書および実施例は単に例示的なものと考えられることが意図される。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2010年1月22日に出願された先願米国仮特許出願第61/297,507号明細書の利益を主張するものである。
【0002】
本教示は、マススペクトロメトリーならびに小分子の検出および定量の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
タグ化した分析物複合体は、マススペクトロメーターでフラグメント化されて、荷電シグナチャーイオンを生成させる。このシグナチャーイオンは、タグ化分析物を定量するために用いられる。残念なことに、フラグメンテーションプロセスにおいて、正の電荷は、主にこのシグナチャーイオンに移り、分析物を含む分子の残りの電荷中性部分は、検出されないか、または不十分にしか検出されないまま残る。分析物を含む電荷中性部分のフラグメンテーションについてのその後の分析からは、分析物の一義的な同定がもたらされない。小分子、例えば、代謝物の同時的な定量および同定のための方法に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本教示の様々な実施形態によって、分析物の定量と同定の両方を含む分析物の分析方法が提供される。本方法は、タグを分析物に共有結合させて、標識分析物を形成することを含むことができる。本方法は、標識分析物を、標識分析物を解離しない第1の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程に供することを含むことができる。いくつかの実施形態では、本方法は次に、標識分析物を、第1の条件とは異なる第2の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程(MS−MSまたはMS2)に供することを含むことができる。マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程は、マススペクトルを形成することができ、第2の条件は、標識分析物を、シグナチャーイオンを担持する分析物と、分離またはフラグメント化されたロス基(loss group)とに解離する条件を含む。いくつかの実施形態では、このロス基は中性であることができる。いくつかの実施形態では、このロス基は電荷を帯びたものであることができる。次に、分析物をマススペクトルに基づいて定量することができる。
【0005】
様々な実施形態によって、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程から得られたシグナチャーイオンを担持する分析物を、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程(MS3)に供することができる。第3の条件は、第1の条件とは異なり、かつ第2の条件とも異なることができ、また、シグナチャーイオンを担持する分析物を、複数の荷電フラグメントに解離する条件を含むことができる。マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程は、第2のマススペクトルを形成することができる。いくつかの実施形態では、分析物を第2のマススペクトルに基づいて同定することができる。
【0006】
様々な実施形態によって、分析物にコンジュゲートされた同定可能なシグナチャーイオンが、タンデムマススペクトロメトリーフラグメンテーション(MS2)後、分析物に付着したまま残る、分子の同定および定量方法が提供される。その代わりに、シグナチャーイオンを含む複合体の「質量バランス」部分だけが、タンデムマススペクトロメトリーフラグメンテーションの下で、電荷中性基として失われる。このシグナチャーイオンを定量に用いることができ、さらなるフラグメンテーションによって、分析物の特徴を示すイオンシグナルを提供することもできる。いくつかの実施形態では、3回目のマススペクトロメトリーフラグメンテーション(MS3)から生成されたイオンシグナルを、例えば、データベースからの既知のマススペクトルと比較して、分析物の一義的な同定を提供することができる。
【0007】
本教示は、本教示を限定するのではなく、例示することが意図される添付の図面を参照して、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本教示の様々な実施形態による分析物の同時的な定量および同定のための方法を示す流れ図である。
【図2】本教示の様々な実施形態によって用いて、小さい分析物の同時的な定量および同定をもたらすことができる5つの異なる質量タグ化試薬を示す。
【図3】本教示の様々な実施形態による、MS−MSモードでのシグナチャーイオン含有分析物の生成を示す反応スキームである。
【図4】本教示の様々な実施形態による、ステロイドのテストステロンを検出および定量するのに有用な2重試薬構成のための2重反応スキームである。
【図5】本教示の様々な実施形態による、シグナチャーイオン含有試薬のトリメチルアンモニウムエチレンヒドロキシルアミンHClの合成のための反応スキームを示す。
【図6】本教示の様々な実施形態による、2つの異なる分析物の明確な同定イオンシグナルを生成させるのに有用な反応スキームを示す。
【図7】本教示の様々な実施形態による、1回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図8】本教示の様々な実施形態による、2回のマススペクトロメトリーによる分離(MS−MS、またはタンデムマススペクトロメトリー)から生成された、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図9A】本教示の様々な実施形態による、3回のマススペクトロメトリーによる分離(MS3)から生成され、シグナチャーイオンを示す、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図9B】データ源(この場合は、Sigma−Aldrich,St.Louis,Missouriから入手される、メタノール溶液中のテストステロンステロイドの製品情報シートからの抜粋である)から得られた、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図10】本教示の様々な実施形態による、1回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図11】本教示の様々な実施形態による、2回のマススペクトロメトリーによる分離(MS−MS、またはタンデムマススペクトロメトリー)から生成された、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【図12】本教示の様々な実施形態による、3回のマススペクトロメトリーによる分離(MS3)から生成され、シグナチャーイオンを示す、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本教示の様々な実施形態によって、分析物の定量と同定の両方を含む分析物の分析方法が提供される。本方法は、タグ、例えば、シグナチャーイオン複合体を分析物に共有結合させて、標識分析物、例えば、結合したシグナチャーイオン複合体を形成することを含むことができる。いくつかの実施形態では、標識分析物は、結合した分析物部分、シグナチャーイオン部分、および質量バランス基部分を含むことができる。本方法は、標識分析物を、標識分析物を解離しない第1の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程に供することを含むことができる。いくつかの実施形態では、本方法は次に、標識分析物を、第1の条件とは異なる第2の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程(MS−MSまたはMS2)に供することを含むことができる。マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程は、マススペクトルを形成することができ、第2の条件は、標識分析物を、シグナチャーイオンを担持する分析物と、分離またはフラグメント化されたロス基とに解離する条件を含む。次に、分析物をマススペクトルに基づいて定量することができる。
【0010】
様々な実施形態によって、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程から得られたシグナチャーイオンを担持する分析物を、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程(MS3)に供することができる。第3の条件は、第1の条件とは異なり、かつ第2の条件とも異なることができ、また、シグナチャーイオンを担持する分析物を、複数の荷電フラグメントに解離する条件を含むことができる。マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程は、第2のマススペクトルを形成することができる。いくつかの実施形態では、分析物を第2のマススペクトルに基づいて同定することができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、標識分析物を、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、クロマトグラフィー分離に供することができ、例えば、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、液体クロマトグラフィー分離に供することができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、本方法は、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、標識分析物に標準標識分析物をスパイクするを含むことができる。標準標識分析物は、試料標識分析物と同じ化学構造および同じ質量であることができるが、同位体分布は異なることができる。いくつかの実施形態では、シグナチャーイオン複合体は、少なくとも1つが同位体である、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、またはそれらの組合せから選択される少なくとも2つの原子含む。標準標識分析物中の標準シグナチャーイオン複合体は、少なくとも2つの原子について、同じ化学構造を有するが、異なる同位体分布を有することができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、定量は、第1のマススペクトルに基づくことができ、かつ本方法は、標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークを標準標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークと比較することを含むことができる。いくつかの実施形態では、同定は、第2のマススペクトルに基づくことができ、この第2のマススペクトルを、例えば、検索表から得られた、参照源から得られた、ライブラリーから得られた、および/またはデータベースから得られた既知のマススペクトル由来の既知のマススペクトルと比較することを含むことができる。
【0014】
本教示の様々な実施形態によって、シグナチャーイオン複合体を分析物にコンジュゲートし、タンデムマススペクトロメトリーフラグメンテーション(MS−MSまたはMS2)後に、複合体のシグナチャーイオンが分析物に付着したまま残る、分子の同定および定量方法が提供される。タンデムマススペクトロメトリーフラグメンテーションによって、シグナチャーイオン複合体の質量バランス部分は電荷中性基として失われるが、シグナチャーイオンは分析物に付着したまま残るように、シグナチャーイオン複合体を設計することができる。いくつかの実施形態では、シグナチャーイオンを、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程または第3段階(MS3)の後に、分析物からフラグメント化することができる。シグナチャーイオンを定量に用いることができ、かつさらなるフラグメンテーションによって、分析物に特徴的なイオンシグナルを提供することもできる。特徴的なイオンシグナルを様々な実施形態に従って用いて、分析物を同定することができる。いくつかの実施形態では、3回目のマススペクトロメトリーフラグメンテーション(MS3)から生成したイオンシグナルを、例えば、参照またはデータベースからの既知のマススペクトルと比較して、分析物の一義的な同定を提供することができる。
【0015】
図1は、本教示の様々な実施形態による、分析物を同時に定量および同定する方法を示す模式図である。模式図の左上に示すように、質量バランス基20を、反応性末端24を有する質量認識基22と結合させて、複合体26を形成する。以下で論じるように、質量認識基22は、同定可能なシグナチャーイオンを、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの3つの工程(MS3)の後にのみ形成するように構成されている。複合体26を、反応性末端24での反応を介して分析物30にコンジュゲートし、その結果物に標準複合体32をスパイクする。その後、得られた混合物を液体クロマトグラフィーに供して、様々な成分を分離し、分離された成分をマススペクトロメトリーの第1工程(MS)に供する。
【0016】
図1に示すように、シグナチャーイオンは、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程(MS2)の後、分析物30から離れない。その代わりに、分子の質量バランス部分だけが、例えば、電荷中性基として失われる。この残りのシグナチャーイオンは、定量に用いられることができ、かつさらなるフラグメンテーションによって、分析物30に特徴的なイオンシグナルを提供する。図1にさらに示されているように、検出されたイオンシグナルをデータベースと比較して、分析物30の一義的な同定を提供することができる。
【0017】
様々な実施形態によって、小分子の同時的な定量および同定を提供するために用いることができる質量タグ化試薬の例を図2A〜2Eに示す。図2Aに示す例示的な質量タグ化試薬の典型的なMS2フラグメンテーションパターンを図3に示す。図3に示すように、MS−MSフラグメンテーションを受けている質量タグ化試薬との反応によって、分析物を含むシグナチャーイオンが生成され、かつ中性の質量補償基が生成される。
【0018】
様々な実施形態によって、本教示は、小分子の同定および定量に2重試薬構成を利用する方法を提供する。図4に示すように、2重試薬構成は、ステロイドのテストステロン用に提供される。図4に示すように、テストステロン含有試料を第1の質量タグ化試薬で標識し、テストステロン含有標準を異なる質量タグ化試薬で標識し、ここで、両方のタグ化試薬は、同じ精密質量、特に、121.12原子質量単位(amu)を有する。それぞれのタグ化の後、テストステロン含有試料およびテストステロン含有標準を混合し、LC−MSを行なった後、MS−MS(MS2)を行なう。MS3フラグメンテーションの後、イオンシグナルを参照またはデータベースと比較して、試料を同定することができる。様々な実施形態によって、質量タグ化試薬を合成する方法を提供し、図5に例示する。
【0019】
図5は、トリメチルアンモニウムエチレンヒドロキシルアミン塩酸塩の合成を示す。タグ化試薬を用いて、テストステロンおよびエストロンを誘導体化することができ、その後、これらを、様々な実施形態による、定量および同定に供することができる。同定後、図6に示すように、マススペクトロメトリーデータを収集することができる。図6は、2つの異なる分析物に対して異なる同定イオンシグナルが提供される実施形態を示す。
【0020】
図6は、2つの異なる分析物に対する異なる同定イオンシグナルを示す。例示的な実施形態では、インソース(in−source)フラグメンテーションが、シグナチャーイオンを生成させるのに十分であるように「高く」設定されたAPI 3200 DP値を用いて、シグナチャーイオンをフラグメント化する本方法のMS−MS工程を実施した。
【0021】
本教示のさらに他の実施形態によって、本明細書に記載したようなシグナチャーイオン複合体の形態の少なくとも1つのタグ、および本明細書に記載したような方法を実施するための1セットの指示書を含むキットが提供される。キットは、標準標識分析物または標準シグナチャーイオン複合体も含むことができ、ここで、標準シグナチャーイオン複合体は、シグナチャーイオン複合体と同じ化学構造および同じ質量であるが、シグナチャーイオン複合体と同位体分布が異なる。指示書は、結合したシグナチャーイオン複合体に帰属可能なマススペクトルピークを、標準標識分析物または結合したシグナチャーイオン複合体に帰属可能なマススペクトルピークと比較することによって分析物を定量するための指示書を含むことができる。指示書は、マススペクトルを、例えば、検索表から、参照源から、ライブラリーから、データベースから、および/またはデータベースへのリンクから得られた既知のマススペクトルから得られたマススペクトルと比較することによって分析物を同定するための指示書を含むことができる。いくつかの実施形態では、キットはさらに、複数の異なる標準シグナチャーイオン複合体を含むことができ、ここで、各々の標準シグナチャーイオン複合体は、シグナチャーイオン複合体と同じ化学構造および同じ質量であるが、同位体分布が異なる。
【0022】
いくつかの実施形態では、キットは、緩衝液および酵素、他の緩衝液、ならびに任意で他の試薬および/または成分を含む、酵素消化成分を含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、例えば、使用者が試料を添加する必要しかないようなホモジニアスアッセイを含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、較正または正規化用の試薬または標準を含むことができる。アッセイを実施するために用いることができるか、またはアッセイを実施するために用いるべき機器の設定に関する情報も、キットに含めることができる。試料調製、操作条件、容量、温度設定などに関する情報をキットに含めることができる。キットは、試料と1つ以上の対照試薬の比較測定を行なうのに有用な、異なるトランジション値および/または推奨設定を含むことができる。キットは、特定のトランジション値のペア、例えば、Q1/Q3トランジションペア、または1つ以上の異なるトランジションペアの値を測定するための指示書を含むことができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、キットは、1つ以上の試薬容器および適切な指示書を含む密閉容器に包装することができる。1つ以上のアッセイ、測定値、トランジションペア、操作指示書、操作を実行するためのソフトウェア、それらの組合せなどに関する電子情報をその上に保存した、電子媒体をキットに含めることができる。いくつかの実施形態では、キットは、情報、例えば、マススペクトルまたはマススペクトルデータをどこで見つけることができるかを示すポインタを含むことができる。ポインタは、例えば、ウェブアドレス、ユーザー名、パスワード、それらの組合せなどを含むことができる。
【0024】
これから、以下の実施例を参照しながら本教示を示す。テストステロンおよびエストロンが分析物として例示されているが、例えば、他のステロイド、アルデヒド、ケトン、それらの組合せなどをはじめとする、種々の分析物のいずれかを本教示に従って定量および同定することができることが理解されるべきである。
【実施例】
【0025】
2つの例示的実施形態において、シグナチャーイオン複合体1(図5)を図5に示す反応スキームに従って合成した。次に、テストステロンとエストロンを、各々、シグナチャーイオン複合体1で誘導体化した。図6は、本方法における次の工程を示す。この工程では、誘導体化されたテストステロンとエストロンを、液体クロマトグラフィー分離に供した後、マススペクトロメトリーによるフラグメンテーションに供し、そこからマススペクトロスコピーデータを収集した。図6に見ることができるように、2つの異なる明確なIDイオンシグナルのセットが、2つのそれぞれ異なる分析物について生成された。いくつかの実施形態、例えば、Applied Biosystems,Foster City,CaliforniaのAPI 3200などの完全一体型の三連四重極マススペクトロメーターを用いる実施形態では、インソースフラグメンテーションによってシグナチャーイオンが発生し、シグナチャーイオンのMS−MS(MS2)が可能となるように、DP値を高く設定した。この方法から生成されたデータを図7〜9Aおよび図10〜12に示す。
【0026】
図7は、1回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。図8は、MS2(MS−MS、またはタンデムマススペクトロメトリー)を用いる2回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。図9Aは、マススペクトロメトリーによる分離の第3工程(MS3)から生成され、シグナチャーイオンに対応するピークを示す、テストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【0027】
様々な実施形態に従って、シグナチャーイオンを既知の質量スペクトルから入手可能なデータと比較した。例えば、図9Aに示す、本教示によるMS3からのテストステロンシグナチャーイオンを、テストステロンステロイドのマススペクトルから入手可能な標準データと比較した。データベースを用いることができるが、生成された、図9Aに示すデータを、マススペクトルと比較し、図9Bに示すSigma−Aldrich,St.Louis,Missouriから得た。図9Bのマススペクトルは、製品番号T 5411(テストステロンステロイド)のSigma−Aldrich製品情報シートから取られた抜粋である。図9Bは、メタノール溶液中の試料からのテストステロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。
【0028】
図10は、1回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムであり、図11は、2回目のマススペクトロメトリーによる分離から生成された、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムであり、図12は、3回目のマススペクトロメトリーによる分離(MS3)から生成された、エストロンの様々なフラグメントのマススペクトログラムである。図12は、シグナチャーイオンを示し、マススペクトルをデータベースから得られたマススペクトルと比較した。
【0029】
本教示の他の実施形態は、本明細書の検討および本明細書に開示された本教示の実施から当業者に明らかになるであろう。本明細書および実施例は単に例示的なものと考えられることが意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析物の分析方法であって、
質量タグを分析物に共有結合させて、標識分析物を形成すること;
前記標識分析物を、前記標識分析物を解離しない第1の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程に供すること;
前記標識分析物を、前記第1の条件とは異なる第2の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程に供することであって、前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程は、マススペクトルを形成し、前記第2の条件は、前記標識分析物を、シグナチャーイオンを担持する荷電分析物と、分離されたニュートラルロス基とに解離する条件を含む、こと;
前記分析物を前記マススペクトルに基づいて定量すること;
前記シグナチャーイオンを担持する荷電分析物を、前記第1の条件とは異なり、かつ前記第2の条件とも異なる第3の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程に供することであって、前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程は、第2のマススペクトル形成し、前記第3の条件は、前記シグナチャーイオンを担持する荷電分析物を、複数の荷電フラグメントに解離する条件を含む、こと;並びに
前記分析物を前記第2のマススペクトルに基づいて同定すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、前記標識分析物をクロマトグラフィー分離に供することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、前記標識分析物を液体クロマトグラフィー分離に供することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、前記標識分析物に標準標識分析物をスパイクすることをさらに含み、ここで、前記標準標識分析物は、前記標識分析物と同じ化学構造および質量であるが、同位体分布が異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記標識分析物が、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、またはそれらの組合せから選択される少なくとも2つの原子を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記マススペクトルに基づいて前記分析物を定量することが、前記標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークを、前記標準標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークと比較することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記第2のマススペクトルに基づいて前記分析物を同定することが、前記第2のマススペクトルを既知のマススペクトルと比較することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2のマススペクトルを既知のマススペクトルと比較することが、データベースから既知のマススペクトルを検索することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記質量タグが、図2Aの複合体、図2Bの複合体、図2Cの複合体、図2Dの複合体、図2Eの複合体からなる群から選択される複合体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記質量タグが、トリメチルアンモニウムエチレンヒドロキシルアミンHClを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記分析物がテストステロンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記分析物がエストロンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記分析物が、アルデヒド、ケトン、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
質量タグと、方法を実施するための1セットの指示書とを含むキットであって、前記方法が、
前記質量タグを分析物に共有結合させて、標識分析物を形成すること;
前記標識分析物を、前記標識分析物を解離しない第1の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程に供すること;
前記標識分析物を、前記第1の条件とは異なる第2の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程に供することであって、前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程は、マススペクトルを形成し、前記第2の条件は、前記標識分析物を、シグナチャーイオンを担持する荷電分析物と、分離されたニュートラルロス基とに解離する条件を含む、こと;
前記分析物を前記マススペクトルに基づいて定量すること;
前記シグナチャーイオンを担持する荷電分析物を、前記第1の条件とは異なり、かつ前記第2の条件とも異なる第3の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程に供すること、前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程は、第2のマススペクトル形成し、前記第3の条件は、前記シグナチャーイオンを担持する荷電分析物を、複数の荷電フラグメントに分離する条件を含む;並びに
前記分析物を前記第2のマススペクトルに基づいて同定すること
を含む、キット。
【請求項15】
標準質量タグをさらに含み、ここで、前記標準質量タグは、前記質量タグと同じ化学構造および質量であるが、同位体分布が異なる、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記質量タグが、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、またはそれらの組合せから選択される少なくとも2つの原子を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記指示書が、標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークを標準標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークと比較することによって前記分析物を定量するための指示書を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
複数の異なる標準質量タグをさらに含み、ここで、各々の標準質量タグは、前記質量タグと同じ化学構造および質量であるが、同位体分布が異なる、請求項14に記載のキット。
【請求項1】
分析物の分析方法であって、
質量タグを分析物に共有結合させて、標識分析物を形成すること;
前記標識分析物を、前記標識分析物を解離しない第1の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程に供すること;
前記標識分析物を、前記第1の条件とは異なる第2の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程に供することであって、前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程は、マススペクトルを形成し、前記第2の条件は、前記標識分析物を、シグナチャーイオンを担持する荷電分析物と、分離されたニュートラルロス基とに解離する条件を含む、こと;
前記分析物を前記マススペクトルに基づいて定量すること;
前記シグナチャーイオンを担持する荷電分析物を、前記第1の条件とは異なり、かつ前記第2の条件とも異なる第3の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程に供することであって、前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程は、第2のマススペクトル形成し、前記第3の条件は、前記シグナチャーイオンを担持する荷電分析物を、複数の荷電フラグメントに解離する条件を含む、こと;並びに
前記分析物を前記第2のマススペクトルに基づいて同定すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、前記標識分析物をクロマトグラフィー分離に供することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、前記標識分析物を液体クロマトグラフィー分離に供することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程の前に、前記標識分析物に標準標識分析物をスパイクすることをさらに含み、ここで、前記標準標識分析物は、前記標識分析物と同じ化学構造および質量であるが、同位体分布が異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記標識分析物が、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、またはそれらの組合せから選択される少なくとも2つの原子を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記マススペクトルに基づいて前記分析物を定量することが、前記標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークを、前記標準標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークと比較することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記第2のマススペクトルに基づいて前記分析物を同定することが、前記第2のマススペクトルを既知のマススペクトルと比較することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2のマススペクトルを既知のマススペクトルと比較することが、データベースから既知のマススペクトルを検索することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記質量タグが、図2Aの複合体、図2Bの複合体、図2Cの複合体、図2Dの複合体、図2Eの複合体からなる群から選択される複合体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記質量タグが、トリメチルアンモニウムエチレンヒドロキシルアミンHClを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記分析物がテストステロンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記分析物がエストロンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記分析物が、アルデヒド、ケトン、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
質量タグと、方法を実施するための1セットの指示書とを含むキットであって、前記方法が、
前記質量タグを分析物に共有結合させて、標識分析物を形成すること;
前記標識分析物を、前記標識分析物を解離しない第1の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第1工程に供すること;
前記標識分析物を、前記第1の条件とは異なる第2の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程に供することであって、前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第2工程は、マススペクトルを形成し、前記第2の条件は、前記標識分析物を、シグナチャーイオンを担持する荷電分析物と、分離されたニュートラルロス基とに解離する条件を含む、こと;
前記分析物を前記マススペクトルに基づいて定量すること;
前記シグナチャーイオンを担持する荷電分析物を、前記第1の条件とは異なり、かつ前記第2の条件とも異なる第3の条件下で、マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程に供すること、前記マススペクトロメトリーフラグメンテーションの第3工程は、第2のマススペクトル形成し、前記第3の条件は、前記シグナチャーイオンを担持する荷電分析物を、複数の荷電フラグメントに分離する条件を含む;並びに
前記分析物を前記第2のマススペクトルに基づいて同定すること
を含む、キット。
【請求項15】
標準質量タグをさらに含み、ここで、前記標準質量タグは、前記質量タグと同じ化学構造および質量であるが、同位体分布が異なる、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記質量タグが、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、またはそれらの組合せから選択される少なくとも2つの原子を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記指示書が、標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークを標準標識分析物に帰属可能なマススペクトルピークと比較することによって前記分析物を定量するための指示書を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
複数の異なる標準質量タグをさらに含み、ここで、各々の標準質量タグは、前記質量タグと同じ化学構造および質量であるが、同位体分布が異なる、請求項14に記載のキット。
【図5】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2013−518254(P2013−518254A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550184(P2012−550184)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【国際出願番号】PCT/US2011/022183
【国際公開番号】WO2011/091338
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【国際出願番号】PCT/US2011/022183
【国際公開番号】WO2011/091338
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】
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