説明

小分子チオフェン化合物の製造方法

【課題】ある種の有機半導体化合物を調製する新規方法に関し、より少ない反応工程でより高い全収率が得られる小分子チオフェン化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】反応媒体、カップリング剤、及び前駆体を含有する反応混合物を、カップリング温度に曝し、一工程合成で所望の小分子チオフェン化合物を優先的に形成することを含む方法であって、前駆体は:(i)任意の二価結合、及び第2の環位置及び第5の環位置のいずれか又は両方で結合されていれる複数のチオフェン単位からなる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
Beng S. Ongらは、番号不明の米国特許出願(代理人整理番号A3055-US-NP)である名称「小分子チオフェン化合物の装置(Device with Small Molecular Thiophene Compound)」を、本願明細書と同日に出願した。
Beng S. Ongらは、番号不明の米国特許出願(代理人整理番号A3247-US-NP)である名称「二価結合を伴う小分子チオフェン化合物の装置(Device with Small Molecular Thiophene Compound having Divalent Linkage)」を、本願明細書と同日に出願した。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
有機半導体化合物は、有機薄膜トランジスタ(TFT)を低コストで製造する上で重要である。しかし、多くの有機半導体化合物は、溶液中の加工処理の困難さ及び/又は周囲条件における不安定性のいずれかにより悩まされる。加えて、これらの有機半導体化合物を調製するためのある種の通常の合成方法は、全収率が比較的低い多工程反応経路に関連している。従って、溶液処理可能であり及び/又は周囲環境条件でよい安定性を示す有機半導体化合物を組込んでいる有機TFTについて、本発明の実施態様により対処される必要性がある。更に実施態様において本発明は、通常の方法と比較し、より少ない反応工程に関連し、及びより高い全収率を提供するある種の有機半導体化合物を調製する新規方法を提供する。
【0003】
文献において、用語「オリゴマー」は、2つの異なる定義を伝えることがある:ひとつは、1種又は複数種の化学実体の少数の反復単位から成る低分子量化合物の「混合物」を意味し、従って、ポリマーのサブセットである。この定義の下のオリゴマーは、数平均分子量及び質量平均分子量により一般に特徴づけられる。ポリマーは、1種又は複数種の化学実体の多数の反復単位から成る高分子量化合物の混合物を意味する。オリゴマー及びポリマーを識別する低分子量及び高分子量の相違は、明確に示されてはいない。もう一方の「オリゴマー」の定義は、1種又は複数種の化学実体の特定数の反復単位から成る低分子量「化合物」を意味し、従ってこれは特定の分子量によって特徴づけられる。この定義の下でオリゴマーのあらゆる分子は、すべての点で同一である。本発明者らは、混乱を避けるためにこの種のオリゴマーを説明するために、用語「小分子化合物」を使う。
【0004】
下記文献は、背景情報を提供する:
【0005】
【特許文献1】Marksら、国際公開公報第02/09201 A1号。
【特許文献2】Arataniら、米国特許第5,705,826号。
【特許文献3】Beng Ongら、2002年1月11日に出願された、米国特許出願第10/042,358号(代理人整理番号D/A1332号)。名称「ポリチオフェン及びその装置(Polythiophenes and Devices Thereof)」、米国特許出願公開第2003/0160230号として公開。
【特許文献4】Beng Ongら、2002年1月11日に出願された、米国特許出願第10/042,342号(代理人整理番号D/A1333号)。名称「ポリチオフェン及びその装置(Polythiophenes and Devices Thereof)」、米国特許出願公開第2003/0160234号として公開。
【特許文献5】Beng Ongら、2002年1月11日に出願された、米国特許出願第10/042,356号(代理人整理番号D/A1334号)。名称「ポリチオフェン及びその装置(Polythiophenes and Devices Thereof)」、米国特許第6,621,099号として発行。
【非特許文献1】Tsuyoshi Izumiら、"Synthesis and Spectroscopic Properties of a Series of Beta-Blocked Long Oligothiophenes up to the 96 mer: Revaluation of Effective Conjugation Length", J. Am. Chem. Soc.、125(18): 5286-5287, S1-S6 (2003年4月10日)。
【非特許文献2】Francis Garnierら、"Molecular Engineering of Organic Semiconductors: Design of Self-Assembly Properties in Conjugated Thiophene Oligomers"、J.Am.Chem.Soc.、115 (19): 8716-8721 (1993)。
【非特許文献3】Howard Katzら、"Synthesis, Solubility, and Field-Effect Mobility of Elongated and Oxa-Substituted alpha, omega-Dialkyl Thiophene Oligomers. Extension of 'Polar Intermediate' Synthetic Strategy and Solution Deposition on Transistor Substrates"、Chem.Mater.、10(2): 633-638 (1998)。
【非特許文献4】V.M. Niemiら、"Polymerization of 3-alkylthiophenes with FeCl3"、Polymer、33(7): 1559-1562 (1992)。
【非特許文献5】A. Afzaliら、"An efficient Synthesis of Symmetrical Oligothiophenes: Synthesis and Transport Properties of a Soluble Sexithiophene Derivative"、Chem.Mater.、14(4): 1742-1746 (2002年3月6日)。
【非特許文献6】X. Michael Hongら、"Thiophene-Phenylene and Thiophene-Thiazole Oligomeric Semiconductors with High Field-Effect Transistor On/Off Ratios"、Chem.Mater.、13(12): 4686-4691 (2001)。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
実施態様において、多くの電極と接触している半導体層を備える電子装置が提供され、ここで半導体層は、各チオフェン単位は構造(A)によって表される、複数のチオフェン単位から成る小分子チオフェン化合物を含有し:
【0007】
【化1】

【0008】
ここで各チオフェン単位は、第2の環位置及び第5の環位置のいずれか又は両方で結合され、
ここでmは、0、1又は2であり、
ここで各チオフェン単位は、置換基の数、置換基の同一性、及び置換基の位置に関して、互いに同じであるか又は異なり、
ここで各R1は:
(a)炭化水素基、
(b)ヘテロ原子を含む基、及び
(c)ハロゲンからなる群より独立して選択され、
ここでR1が、第3の環位置もしくは第4の環位置に、又は第3の環位置及び第4の環位置の両方に存在するような少なくとも1個のチオフェン単位が存在し、
ここで構造(A1)によって表されるような、いずれか2個の隣接したチオフェン単位について:
【0009】
【化2】

【0010】
一方のチオフェン単位の3-位及び他方のチオフェン単位の3'-位における同じ又は異なるR1の同時の存在は除外される。
【0011】
更なる実施態様において、各チオフェン単位は、構造(A)によって表される、複数のチオフェン単位からなる小分子チオフェン化合物を含有する組成物が提供され:
【0012】
【化3】

【0013】
ここで各チオフェン単位は、第2の環位置及び第5の環位置のいずれか又は両方で結合され、
ここでmは、0、1又は2であり、
ここで各チオフェン単位は、置換基の数、置換基の同一性、及び置換基の位置に関して、互いに同じであるか又は異なり、
ここで各R1は:
(a)炭化水素基、
(b)ヘテロ原子を含む基、及び
(c)ハロゲンからなる群より独立して選択され、
ここでR1が、第3の環位置もしくは第4の環位置に、又は第3の環位置及び第4の環位置の両方に存在するような少なくとも1個のチオフェン単位が存在し、
ここで構造(A1)によって表されるような、いずれか2個の隣接したチオフェン単位について:
【0014】
【化4】

【0015】
一方のチオフェン単位の3-位及び他方のチオフェン単位の3'-位における同じ又は異なるR1の同時の存在は除外される。
【0016】
別の実施態様において、多くの電極と接触している半導体層を備える電子装置が提供され、ここで半導体層は:
少なくとも1個の二価結合;及び、
複数のチオフェン単位から成る小分子チオフェン化合物を含み:各チオフェン単位は構造(A)によって表され:
【0017】
【化5】

【0018】
ここで各チオフェン単位は、第2の環位置及び第5の環位置のいずれか又は両方で結合され、
ここでmは、0、1又は2であり、
ここで各チオフェン単位は、置換基の数、置換基の同一性、及び置換基の位置に関して、互いに同じであるか又は異なり、
ここで各R1は:
(a)炭化水素基、
(b)ヘテロ原子を含む基、及び
(c)ハロゲンからなる群より独立して選択され、
ここでR1が、第3の環位置もしくは第4の環位置に、又は第3の環位置及び第4の環位置の両方に存在するような少なくとも1個のチオフェン単位が存在し、
ここで構造(A1)によって表されるような、いずれか2個の隣接したチオフェン単位について:
【0019】
【化6】

【0020】
一方のチオフェン単位の3-位及び他方のチオフェン単位の3'-位における同じ又は異なるR1の同時の存在は除外され、並びに
ここでチオフェン単位の数は少なくとも6である。
【0021】
追加の実施態様において、
少なくとも1個の二価結合;及び、
複数のチオフェン単位からなる小分子チオフェン化合物からなる組成物が提供され、各チオフェン単位は、構造(A)によって表され:












【0022】
【化7】

【0023】
ここで各チオフェン単位は、第2の環位置及び第5の環位置のいずれか又は両方で結合され、
ここでmは、0、1又は2であり、
ここで各チオフェン単位は、置換基の数、置換基の同一性、及び置換基の位置に関して、互いに同じであるか又は異なり、
ここで各R1は:
(a)炭化水素基、
(b)ヘテロ原子を含む基、及び
(c)ハロゲンからなる群より独立して選択され、
ここでR1が、第3の環位置もしくは第4の環位置に、又は第3の環位置及び第4の環位置の両方に存在するような少なくとも1個のチオフェン単位が存在し、
ここで構造(A1)によって表されるような、いずれか2個の隣接したチオフェン単位について:
【0024】
【化8】

【0025】
一方のチオフェン単位の3-位及び他方のチオフェン単位の3'-位における同じ又は異なるR1の同時の存在は除外され、並びに
ここでチオフェン単位の数は少なくとも6である。
【0026】
更なる実施態様は、反応媒体、カップリング剤、及び前駆体を含有する反応混合物を、カップリング温度に曝し、一工程合成で所望の小分子チオフェン化合物を優先的に形成することを含む方法を含み、
ここで前駆体は:
(i)任意の(optional)二価結合、及び
(ii)各チオフェン単位は構造(A)によって表される、複数のチオフェン単位からなり、
【0027】
【化9】

【0028】
ここで各チオフェン単位は、第2の環位置及び第5の環位置のいずれか又は両方で結合され、
ここでmは、0、1又は2であり、
ここで各チオフェン単位は、置換基の数、置換基の同一性、及び置換基の位置に関して、互いに同じであるか又は異なり、
ここで各R1は:
(a)炭化水素基、
(b)ヘテロ原子を含む基、及び
(c)ハロゲンからなる群より独立して選択される。
【0029】
追加の実施態様において、反応媒体、カップリング剤、及び前駆体を含有する反応混合物を、カップリング温度に曝し、一工程合成で所望の小分子チオフェン化合物を優先的に形成することからなる方法を含み、ここで反応混合物中の沈殿は自然に生成し、及びこの沈殿は、所望の小分子チオフェン化合物を含有し:
ここで前駆体は:
(i)任意の二価結合、及び
(ii)各チオフェン単位は構造(A)によって表される、複数のチオフェン単位からなり、






【0030】
【化10】

【0031】
ここで、各チオフェン単位は、第2の環位置及び第5の環位置のいずれか又は両方で結合され、
ここでmは、0、1又は2であり、
ここで各チオフェン単位は、置換基の数、置換基の同一性、及び置換基の位置に関して、互いに同じであるか又は異なり、
ここで各R1は:
(a)炭化水素基、
(b)ヘテロ原子を含む基、及び
(c)ハロゲンからなる群より独立して選択される。
【0032】
本発明の他の局面は、前記の説明が進むにつれ、例証的実施態様を表している下記図面を参照し、明らかとなるであろう。
【0033】
特に記さない限りは、異なる図面中の同じ参照番号は、同じ又は類似した特徴に言及している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
詳細な説明
「小分子チオフェン化合物」の用語「分子」は、化合物が、特定数(平均値でない)のチオフェン単位を持つことを示す。実施態様において、小分子チオフェン化合物は、少なくとも約90質量%、又は少なくとも約98質量%の純度を有する。不純物(例えば異なる数のチオフェン単位を伴う反応副産物チオフェン化合物(複数))が存在することがあるが、この小分子チオフェン化合物は、平均数でない特定数のチオフェン単位を有する化合物のものであり続ける。実施態様において、小分子チオフェン化合物の純度は、例証のための用語が例えば「ACS試薬グレード」(例えば≧95質量%)、「HPLCグレード」(例えば≧99.9質量%)及び「半導体グレード」(例えば≧99.99質量%)であるような純度レベルを意味する用語により説明されることがある。実施態様において、小分子チオフェン化合物は、得られる最高純度を持つ。反応混合物から分離される前の小分子チオフェン化合物は、「所望の小分子チオフェン化合物」と称される。
【0035】
特に記さない限りは、「小分子チオフェン化合物」及び「所望の小分子チオフェン化合物」の両方共、本願明細書において「化合物」と称される。
「小分子チオフェン化合物」及び「所望の小分子チオフェン化合物」における用語「小」は、少数のチオフェン単位を示し、及び多くの反復単位を伴うポリマーのような多数の単位を有する構造から区別することが意図されている。実施態様において、この化合物は、約4〜約25個まで、又は約5〜約20個まで変動する構造(A)のチオフェン単位を特定数有する。この化合物のチオフェン単位の数が「小」の意味と一致する限りは、これらの範囲の外側の値は、本発明の化合物の実施態様により包含されている。
【0036】
本願明細書において説明された化合物は、チオフェン誘導体であって、並びに任意の二価の単独又は複数の結合、及び化合物内で互いに、又は任意の二価結合に、一価又は二価のいずれかで結合している特定数の構造(A)のチオフェン単位により構成されている。各チオフェン単位は、構造(A)であり:
【0037】
【化11】

【0038】
ここでR1は独立して、炭化水素基、ヘテロ原子を含む基、及びハロゲンから選択され、並びにmは0、1又は2である。
【0039】
小分子チオフェン化合物は、多くの構造(A)の共有結合されたチオフェン単位及び任意の二価の単独又は複数の結合により構成された、チオフェン前駆体の制御されたカップリング反応により調製され、特定数の構造(A)のチオフェン単位及び任意の二価の単独又は複数の結合により構成された小分子化合物を提供することができる。
【0040】
化合物のある実施態様において、その化合物の構造内のいずれかの2個の隣接したチオフェン単位について、3、3'位に置換基が同時存在することは除外され、すなわち、2個の隣接チオフェン単位の第3の環位置(3及び3')に同時に置換基は存在しない。実施態様において、この化合物の分子は、大規模なπ-共役を示すことがあるが、第3の環位置での置換基の同時存在は、共平面性からの2個の隣接チオフェン単位のねじれの偏差を引き起こすことがあり、その結果この分子のπ-共役を著しく破壊する。短いπ-共役長は短いπ-非局在化につながり、その結果貧弱な電荷(change)運搬能及び低い移動度にいたることがある。介在している二価結合を伴う2個のチオフェン単位は、隣接しているとみなされないことは理解される。2個の隣接したチオフェン単位の第3の環位置に同時置換を有さないことの意味を例証するために、各チオフェン単位の関連する環位置は、構造(A1)によって表される2個のチオフェンセグメントにおいて確定され:
【0041】
【化12】

【0042】
ここで、チオフェン単位の第3の環位置は、3及び3'と確定される。2個の隣接チオフェン単位の第3の環位置での同時置換は存在しないことは、2つのチオフェン単位セグメント内の各チオフェン単位について、R1は、チオフェン単位の第3の環位置及び第4の環位置の炭素原子に結合した環構造の一部を形成するような実施態様を除外するものではないことに関する考察が注目される。2個の隣接チオフェンの各々上の縮合環R1置換基は、互いに同じであるか又は異なることができる。実施態様において、第3の環位置での縮合環R1置換基の同時存在は、共平面性から2個の隣接チオフェン単位の著しいねじれの偏差を引き起こすようには思われず、従って依然これらの分子の実質的π-共役を維持することが可能である。構造A1において、語句「2個の隣接チオフェン単位」は、チオフェン単位の一方が「末端」チオフェン単位であるような実施態様も包含していることは理解される。
【0043】
任意に、この化合物は、その構造において、例えば下記構造により表されるもののような、1個又は複数個の二価結合を含むことができ:



















【0044】
【化13】

【0045】
ここで、nは、0、1、2、3又は4であり、及び置換基R4は、各二価結合内で及び異なる二価結合間で、互いに同じであるか又は異なる。R4は、炭化水素基、ヘテロ原子含有基、及びハロゲンであってよい。
存在する場合は、同じ又は異なる二価結合のいずれか適当な数が化合物内に存在することができ、例えばこの化合物については1〜約5である。
【0046】
この化合物の実施態様において、2個の「末端」チオフェン単位(すなわち、この化合物の各端に位置するチオフェン単位)がいかなるR1置換基を持つかどうかとは無関係に、第3の環位置もしくは第4の環位置に、又は第3の環位置及び第4の環位置の両方にR1が存在する少なくとも1個の「内部の」チオフェン単位(すなわち、「末端」チオフェン単位以外のそれらのチオフェン単位)が存在する。「内部」チオフェン単位(複数)におけるR1置換基の存在は、R1置換基の相互作用を通して分子間相互作用を誘導及び促進することを補助し、このことは、分子が適当な分子配列に自己-組織化することを可能にするであろう。適当な分子配列は、電荷担体運搬に対し導電性である。
【0047】
本発明の実施態様において、下記の局面の一方又は両方は、任意である:
(a)小分子チオフェン化合物に関して、R1が、第3の環位置もしくは第4の環位置に、又は第3の環位置及び第4の環位置に存在する少なくとも1種のチオフェン単位が存在すること;並びに
(b)小分子チオフェン化合物のいずれか2個の隣接チオフェン単位について、一方のチオフェン単位の第3の環位置及び他方のチオフェン単位の第3の環位置における同じ又は異なるR1の同時存在は、除外されること。
【0048】
二価結合を伴わない典型的化合物は、例えば下記のものである:































【0049】
【化14】

【0050】
(式中、y、R、及びR'は本願明細書において説明されている。)。
【0051】
具体的実施態様において、化合物は以下であることができる:













































【0052】
【化15】

【0053】
二価結合を伴う典型的な化合物は、例えば以下である:
【0054】
【化16】

【0055】
(式中、y、R、及びR'は本願明細書において説明されている。)。
【0056】
具体的実施態様において、二価結合を伴う化合物は、以下である:
【0057】
【化17】

【0058】
この化合物(任意の二価結合が存在してもよい)における構造(A)のチオフェン単位の総数は、偶数又は奇数であってよく、及び例えば:少なくとも4、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、6〜32、8〜32、6〜20、8〜20であることができる。実施態様において、小分子チオフェン化合物におけるチオフェン単位の数は、6、8、12及び16からなる群より選択される。実施態様において、比較的大きい数のチオフェン単位は、より長いπ-共役長は、電荷担体運搬にとってより好都合である延長されたπ-非局在化につながるので、好ましい。
【0059】
小分子チオフェン化合物は、いずれか適当な反応により合成することができる。実施態様において、小分子チオフェン化合物は、構造(A)の多くのチオフェン単位、及び任意の単数又は複数の二価結合で構成された前駆体化合物のカップリング反応によって合成することができる。二価結合を伴わない典型的前駆体は、例えば下記である:
【0060】
【化18】

【0061】
(式中、Rは本願明細書において説明されている。)。
【0062】
二価結合を伴う典型的な前駆体は、例えば下記である:




【0063】
【化19】

【0064】
(式中、Rは本願明細書において説明されている。)。
【0065】
前駆体における構造(A)のチオフェン単位の数(任意の二価結合が存在してもよい)は、例えば2〜8、3〜8、又は3〜6を変動することができる。
【0066】
本願明細書に列挙された構造(A)、(A2)から(A10)、及び(B1)から(B7)の全てに関する可能性のある置換基を、ここでより詳細に説明する。特に記さない限りは、可能性のある置換基は、各構造における全てのチオフェン単位にあてはまる。
【0067】
単位数y
実施態様において、yは、例えば約2〜約6、又は約2〜約4までを変動する単位数である。
置換基R
R及びR'は、互いに同じ又は異なることができ、ここでRは下記からなる群より選択される:
(a)炭化水素基、(b)ヘテロ原子を含む基、及び、(c)ハロゲン。
置換基R'
R'は、下記からなる群より選択される:
(a)炭化水素基、(b)ヘテロ原子を含む基、(c)ハロゲン、及び、(d)水素。
【0068】
R、R'、R1、R2、R3、R4に関する炭化水素基
炭化水素基は、例えば、1〜約25個の炭素原子、又は1〜約10個の炭素原子を含み、並びに例えば、直鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基であることができる。典型的な炭化水素基は、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びそれらの異性体を含む。
炭化水素基は任意に、例えばハロゲン(塩素、臭素、フッ素及びヨウ素)により1回又は複数回置換されている。
【0069】
R、R'、R1、R2、R3、R4に関するヘテロ原子を含む基
ヘテロ原子を含む基は、例えば、2〜約50個の原子、又は2〜約30個の原子を有し、並びに例えば窒素含有部分、アルコキシ基、ヘテロ環式システム、アルコキシアリール及びアリールアルコキシであることができる。典型的なヘテロ原子を含む基は、シアノ、ニトロ、メトキシル、エトキシル、及びプロポキシである。
【0070】
R1はチオフェン単位に縮合された環式置換基である
実施態様において、R1は、チオフェン単位に縮合した環式環構造の一部であり、ここで縮合環式環構造は、例えば4〜8員環、特に5〜6員環などの、いずれかのサイズであり、ここでR1は、チオフェン単位の第3の環位置及び第4の環位置で炭素原子に結合されている。この縮合環式環構造(R1を含む)は、本願明細書に開示された炭化水素基、又は本願明細書において開示されたヘテロ原子を含む基のいずれかであってよい。R1がチオフェン単位に縮合された環構造の一部である場合、例えこの状況でのR1がチオフェン単位の2個の位置に結合されているとしても、mは1である。R1が環置換基構造の一部であるチオフェン単位の例は以下である:








【0071】
【化20】

【0072】
(式中、R2及びR3は、互いに同じであるか又は異なり、(a)炭化水素基、(b)ヘテロ原子を含む基、(c)ハロゲン、及び(d)水素からなる群より選択される。)。
【0073】
R、R'、R1、R2、R3、R4に関するハロゲン
ハロゲンは、塩素、臭素、フッ素及びヨウ素であってよい。
この化合物は、対称又は非対称である。用語「対称」は、構成成分の規則的に繰り返されたパターンを示す構造を意味する。用語「左右対称」は、2つの構成成分を結合している直線セグメントが、軸、点又は中心により二分されているような、平面における化合物の2つの構成成分も意味する。他方で非対称化合物は、前述の対称性を欠いている化合物を意味する。対称化合物の例は、2個のR部分が同じであり及び2個のR'部分が同じである化合物(A2)の実施態様である。非対称化合物の例は、2個のR部分が異なるか又は2個のR'部分が異なる化合物(A2)の実施態様である。
【0074】
この化合物は、置換基に応じて、p型半導体化合物又はn型半導体化合物であってよい。一般に、アルキル基、アルキルオキシ基及びフェニレン基などの炭化水素のような電子-供与特性を伴う置換基は、電子が豊富な分子を作成し、従ってこの分子はp型となり;他方で、シアノ、ニトロ、フルオロ及びフッ素化されたアルキル基のような電子-吸引能を伴う置換基は、電子欠損したチオフェン分子を作成し、その結果この化合物はn型半導体となる。
【0075】
実施態様において、2種又はそれよりも多い異なる小分子チオフェン化合物で構成された組成物を、薄膜トランジスタの半導体層の加工のために使用することができる。この組成物において、小分子チオフェン化合物は、あらかじめ決められた割合で、一緒に物理的に添加され、その結果化合物の数及び組成物中のそれらの割合の両方を制御する。この組成物において、異なる小分子チオフェン化合物が、例えば約5質量%(第一の分子化合物):95質量%(第二の分子化合物)から、約95質量%(第一の分子化合物):5質量%(第二の分子化合物)まで変動するようないずれかの適量で存在することができる。組成物中の各小分子チオフェン化合物は、以下に説明されるように合成することができる。
【0076】
前駆体の酸化的カップリング反応による化合物の調製
この化合物を合成する1つの典型的技法は、反応媒体(単独の反応媒体又は2種もしくはそれよりも多い異なる反応媒体のいずれか適当な比の混合物)、カップリング剤(単独のカップリング剤又は2種もしくはそれよりも多い異なるカップリング剤のいずれか適当な比の混合物)、及び前駆体(単独の前駆体又は2種もしくはそれよりも多い異なる前駆体のいずれか適当な比の混合物)を含有する反応混合物を適当なカップリング温度(例えば加熱による高温又は室温)に曝すことを含む。反応混合物をカップリング温度に曝すことは、カップリング剤の影響による前駆体の自己カップリング化を引き起こし、化合物中に所望の数のチオフェン単位を伴う所望の小分子チオフェン化合物の優先的形成を生じる。語句「優先的形成」及び「優先して形成する」は、ある種の予め定められた反応時間の後、反応混合物中に、所望の小分子チオフェン化合物が、反応副産物チオフェン化合物(複数)のいずれか単独のものと比べ、質量で最高の濃度を有し、ここで所望の小分子チオフェン化合物は、反応混合物の質量を基に、約30質量%〜約90質量%、又は約40質量%〜約80質量%の範囲の量で存在することを示す(実施態様において、沈殿が生じる場合は、これらの割合は、沈殿の質量に基づく)。語句「反応副産物チオフェン化合物(複数)」は、反応していない前駆体のあらゆる分子及び所望の小分子チオフェン化合物と異なるあらゆるチオフェン化合物(複数)を包含している。
【0077】
実施態様において、反応混合物をカップリング温度に曝すことは、時間内で、所望の小分子チオフェン化合物及び任意にいずれかの反応副産物チオフェン化合物(複数)を含む沈殿(肉眼で観察されるような)の形成を「自然に」生じるであろう。用語「自然に」は、沈殿を促進する追加の手法(複数)を必要とせずに、予定通り沈殿が反応媒体から出現することを意味する。別の本発明の実施態様において、例えばその目的のために選ばれた様々な反応媒体を加えることによって反応媒体中の所望の小分子チオフェン化合物の溶解度を低下することによるような、1種又は複数種の追加の手法(複数)が、沈殿を早めるため、沈殿量を増加するため、又は反応混合物及び/もしくは沈殿中の所望の小分子チオフェン化合物の割合を増加するために任意に実行されてよい。例えこれらの任意の追加の手法を使用したとしても、本方法は、沈殿はこれらの追加の手法が無くとも生じるので、依然「自然に」沈殿形成を引き起こすと見なされる。別の実施態様においては、沈殿が形成されず、及び形成された所望の小分子チオフェン化合物は反応媒体に溶解される。
【0078】
実施態様において、反応媒体及びカップリング温度は、反応媒体中の所望の小分子チオフェン化合物の濃度が飽和点に到達した時点で、所望の小分子チオフェン化合物の「自然に」沈殿を生じるように選択される。所望の小分子チオフェン化合物を飽和点は、反応媒体中のその溶解度によって指定され、従って所望の小分子チオフェン化合物の性質、反応媒体及び反応媒体の温度によって変動する。反応混合物中の所望の小分子チオフェン化合物の全ての分子の全て又は一部、例えば約30質量%〜100質量%などが沈殿することができる。
【0079】
所望の小分子チオフェン化合物の形成は、一工程合成で生じる。語句「一工程合成」は、所望の小分子チオフェン化合物を合成するために2種又はそれよりも多い反応が関与している「多工程合成」とは対照的に、ひとつの反応の合成経路を意味する。「一工程合成」と「多工程合成」の間の区別は、当業者には理解されている。「一工程合成」の実施態様において、中間生成物が反応混合物中で形成され、そこでこの中間生成物は、反応混合物中で更なる反応を受け、所望の小分子チオフェン化合物を形成する。実施態様において、1種又は複数種の追加の任意の手法を、沈殿を早めるため、沈殿量を増加するため、又は反応混合物及び/もしくは沈殿中の所望の小分子チオフェン化合物の割合を増加するために行ってもよいが、しかしこれらの追加の手法は、合成反応とはみなされず、従って本方法は、例え任意にこれらの追加の手法を使用したとしても、依然「一工程合成」である。同様に所望の小分子チオフェン化合物を反応混合物又は沈殿から単離するために使用した手法も、合成反応ではなく、従って本方法は、例え単離手法を使用したとしても、依然「一工程合成」である。
【0080】
カップリング温度は、同じ温度で維持されるか、又は例えば反応混合物及び/もしくは沈殿において所望の小分子チオフェン化合物の割合を制御するために経時的に変動することができる。反応混合物は、例えば約10分〜約24時間、又は約1時間〜約5時間までの範囲の時間、カップリング温度に曝される。カップリング温度は、例えば、室温から約150℃、又は約23℃〜約150℃、又は約30℃〜約140℃、又は約50℃〜約80℃の範囲である。本願明細書において使用される室温は、例えば約23〜約25℃の範囲の温度を意味する。
【0081】
実施態様において、反応混合物の何らかの加熱に先立ち、室温で反応媒体に溶解した前駆体の量は、前駆体の質量を基に、例えば約0.001質量%〜約75質量%、又は約0.025質量%〜約50質量%の範囲であることができる。使用される前駆体(複数)は、構造(A)のチオフェン単位及び任意の二価結合で構成される本願明細書において説明されたものであることができる。この前駆体の典型的な濃度は、反応媒体及び前駆体の合計を基に、0.001質量%〜約50質量%であり、より詳細には0.025質量%〜約30質量%である。
【0082】
反応媒体は、例えばテトラヒドロフラン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、キシレン、ヘプタン、メシチレン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、シアノベンゼン又はそれらの混合物であってよい。実施態様において、反応媒体は、溶媒とみなされる。
【0083】
カップリング剤は、例えば、FeCl3、RuCl3、MoCl5、又はそれらの混合物であってよい。前駆体に対するカップリング剤のモル比は、例えば1:1〜10:1まで、特に2:1〜6:1である。実施態様において、カップリング剤は、酸化剤である。
所望の小分子チオフェン化合物を、カラムクロマトグラフィーのようないずれか適当な技術を用い、沈殿から分離することができる。
【0084】
実施態様において、所望の小分子チオフェン化合物は、反応混合物中でのその優先的形成の後、溶液中に存在し、及びカップリング温度では自然には沈殿しない。このような実施態様において、所望の小分子チオフェン化合物は、例えば全ての溶媒の蒸発、貧溶媒の反応混合物への添加による所望の小分子チオフェン化合物沈殿の発生、異なる溶媒による抽出、及びカラムクロマトグラフィーの直接の試行のような、いずれか適当な手段により、反応混合物から分離することができる。
【0085】
実施態様において、本発明は、電子装置において半導体層の必要性がある場合にはいつでも使用することができる。語句「電子装置」は、太陽電池装置のようなマクロな電子装置並びにミクロ-及びナノのサイズのトランジスタ及びダイオードのようなミクロ-及びナノ-電子装置を意味する。例証的トランジスタは、例えば薄膜トランジスタ、特に電界効果型トランジスタを含む。
【0086】
いずれか適当な技術を使用し、この化合物を含んでいる半導体層を形成することができる。このような方法のひとつは、基板及び粉末状の本化合物を保持する供給容器を備えるチャンバー内の約10-5〜10-7トリチェリの真空加圧での、真空蒸着による。化合物が基板上へ昇華するまで、容器を加熱する。この化合物を含んでいる薄膜の性能は、プロセス時の、加熱、最大供給温度及び/又は基板温度に依存する。実施態様において、本化合物を含んでいる薄膜を加工するために、液体蒸着法も使用することができる。語句「液体蒸着法」は、スピン・コーティング、ブレードコーティング、ロッド・コーティング、スクリーン印刷法、インク・ジェット印刷、スタンピングなどの、いずれかの液体蒸着法を意味する。具体的には本化合物は、例えばテトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロベンゼン、トルエン及びキシレンのような適当な液体中に、約0.1質量%〜10質量%、特に0.5質量%〜5質量%の濃度で溶解され、引き続き約5〜100秒間、特に約30〜60秒間、約500〜3000rpm、特に1000〜2000rpmの速度で、室温又は上昇温度で、スピン・コーティングがなされる。
【0087】
図1において、基板16で構成された、薄膜トランジスタ(TFT)配置10、それに接触した金属接合18(ゲート電極)及び絶縁層14の層、その表面に接触している2個の金属接合であるソース電極20及びドレイン電極22が配置されているものが、概略的に示されている。ここで図示されるように、金属接合20及び22の上及び間には、有機半導体層12がある。
図2は、基板36、ゲート電極38、ソース電極40及びドレイン電極42、絶縁層34、並びに有機半導体層32で構成される別のTFT配置30を概略的に示している。
【0088】
図3は、基板及びゲート電極の両方として作用する高濃度(heavily)でn-ドープされたシリコン・ウエハー56、熱で成長する酸化ケイ素の絶縁層54、及び有機半導体層52、その表面にソース電極60及びドレイン電極62が配置されたもので構成される更なるTFT配置50を概略的に示している。
図4は、基板76、ゲート電極78、ソース電極80、ドレイン電極82、有機半導体層72及び絶縁層74で構成される追加のTFT配置70を概略的に示している。
【0089】
半導体層の組成及び形成を本願明細書において説明している。
基板は、たとえばシリコン、ガラス板、プラスチック膜又はシートで構成することができる。構造的に柔軟な装置のためには、プラスチック基板、例えばポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドのシートなどが好ましいであろう。基板の厚さは、10μm〜約10mmを超えるまでであり、具体的厚さは特に柔軟なプラスチック基板については約50〜約100μm、及びガラス又はシリコンのような硬質基板については約1〜約10mmまでであることができる。
【0090】
ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の組成をここで論ずる。ゲート電極は、薄い金属フィルム、導電性ポリマーフィルム、導電性インキ又はペーストから作成される導電性フィルム又はそれらの基質自身、例えば高濃度でドープされたシリコンであることができる。ゲート電極材料の例は、アルミニウム、金、クロム、酸化インジウムスズ、ポリスチレンスルホン酸-ドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PSS-PEDOT)のような導電性ポリマー、ポリマー・バインダー中のカーボンブラック/グラファイト又はコロイド銀分散体で構成された導電性インキ/ペースト、例えばAcheson Colloids Companyから入手可能なELECTRODAG(商標)などを含むが、これらに限定されるものではない。ゲート電極層は、真空蒸着、金属又は導電性金属酸化物のスパッターリング、スピン・コーティング、流涎もしくは印刷によるポリマー溶液又は導電性インクのコーティングにより調製することができる。ゲート電極層の厚さは、例えば金属フィルムについて約10〜約200nm、及びポリマー導体について約1〜約10μmの範囲である。ソース電極層及びドレイン電極層は、半導体層に、低いオーム抵抗接触を提供する材料から加工することができる。ソース電極及びドレイン電極としての使用に適した典型的材料は、例えば金、ニッケル、アルミニウム、白金、導電性ポリマー及び導電性インキのような、ゲート電極材料のものを含む。ソース電極及びドレイン電極の典型的厚さは、例えば、約40nm〜約1μmであり、より詳細には厚さは約100〜約400nmである。
【0091】
一般に絶縁層は、無機材料フィルム又は有機ポリマーフィルムであることができる。絶縁層として適する無機材料の具体例は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムジルコニウムなどを含み;絶縁層のための有機ポリマーの具体例は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(ビニルフェノール)、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ(メタクリレート)類、ポリ(アクリレート)類、エポキシ樹脂などを含む。これらの絶縁層の厚さは、使用される誘電材料の比誘電率に応じて、例えば約10nm〜約500nmである。絶縁層の厚さの例は、約100nm〜約500nmである。絶縁層は、例えば約10-12S/cm未満の電気伝導率を有してもよい。
【0092】
実施態様において、絶縁層、ゲート電極、半導体層、ソース電極及びドレイン電極は、ゲート電極及び半導体層の両方が絶縁層に接触し、並びにソース電極及びドレイン電極が両方とも半導体層に接触するようないずれかの配列で形成される。語句「いずれかの配列」は、逐次及び同時形成を含む。例えば、ソース電極及びドレイン電極は、同時に又は順に形成することができる。電界効果型トランジスタの組成、加工及び操作は、Baoらの米国特許第6,107,117号に開示されており、その開示は全体が本願明細書に参照として組入れられている。
【0093】
半導体層は、例えば約10nm〜約1μmの範囲の厚さを有し、好ましい厚さは約20〜約200nmである。TFT装置は、幅W及び長さLである半導体チャネルを備える。例えば、半導体チャネル幅は、約1μmから約5mmであり、具体的チャネル幅は、約5μm〜1mmであることができる。半導体チャネル長さは、例えば、約1μm〜約1mmであり、より具体的なチャネル長さは、約5μm〜約100μmである。
【0094】
ソース電極は、接地され、並びに一般に約+20V〜-80Vの電圧がゲート電極に印加される場合に、半導体チャネルを横切って運搬される電荷担体を集めるために、一般に例えば約0V〜約-80Vのバイアス電圧が、ドレイン電極に印加される。
【0095】
電気性能特性に関して、本発明の電子装置の半導体層は、例えば約10-3 cm2/Vs(センチメートル2/ボルト-秒)より大きい担体移動度を有し、及び例えば約10-4S/cm(シーメンス/センチメートル)未満の電気伝導度を有する。本発明の方法により製造される薄膜トランジスタは、20℃で、例えば約103よりも大きいオン/オフ比を有する。語句「オン/オフ比」は、トランジスタがオフの場合のソース-ドレイン電流に対する、トランジスタがオンである場合のソース-ドレイン電流の比を意味する。
【0096】
本発明は、ここで特定の具体的実施態様に関して詳細に説明されるが、これらの実施例は単に例証することが意図されており、本発明はここに列挙された材料、条件又はプロセスパラメータに限定されないことが意図されていることは理解される。特に記さない限りは、全ての百分率及び部は、質量に対するものである。実施例において提供されるNMRスペクトルは、室温で、Bruker DPX 300のNMRスペクトロメーターを用いて記録された。
【実施例1】
【0097】
(i)小分子チオフェン化合物(I)の合成
前駆体5,5'-ビス(3-ドデシル-2-チエニル)-2,2'-ジチオフェン(10)の調製は、反応式1に示されている。
反応式1(式中、RはC12H25である):
【化21】

【0098】
無水テトラヒドロフラン(THF)40mL中の2-ブロモ-3-ドデシルチオフェン(15.36g、46.36mmol)の溶液を、不活発アルゴン大気下で、250mLの丸底フラスコ中の、無水THF 5mL中のマグネシウム屑(1.69g、69.50mmol)の機械的に攪拌されている懸濁液に、20分間かけてゆっくり添加した。反応開始時に、反応混合物は、60℃で3時間攪拌し、その後室温まで冷却した。次に得られた混合物を、カニューレを使い、アルゴン大気下で、250mLの丸底フラスコ中の、無水THF 80mL中の5,5'-ジブロモ-2,2'-ジチオフェン(6.01g, 18.54mmol)及び[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロニッケル(II)((dppe)NiCl2の0.37g, 0.70mmol)の混合液に添加し、その後48時間還流した。引き続き反応混合液を室温に冷却し、水で洗浄した。粗生成物を、酢酸エチルで抽出し、及び無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。溶媒の蒸発後、暗褐色シロップが得られ、これをシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーにより精製し、粗5,5'-ビス(3-ドデシル-2-チエニル)-2,2'-ジチオフェン(10)を得、これはジクロロメタン(10ml)、イソプロパノール(250ml)及びメタノール(100ml)の混合液から再結晶し、黄色結晶性生成物を、収率66%で得た。融点58.9℃。
【0099】
前述のように得られた化合物のNMRスペクトルは、Bruker DPX 300のNMRスペクトロメーターを使い室温で記録した:
1H NMR(CDCl3):δ 7.18(d, J=5.4Hz, 2H)、7.13(d, J=3.6Hz, 2H)、7.02(d, J=3.6Hz, 2H)、6.94(d, J=5.4Hz, 2H)、2.78(t, 4H)、1.65(q, 1.65, 4H)、1.28(bs, 36H)、0.88(m, 6H)。13C NMR(CDCl3(ppm)):δ 139.78、136.73、135.26、130.26、129.99、126.43、123.75、123.71、31.86、30.59、29.62、29.61、29.54、29.46、29.40、29.30、29.20、22.63、14.05。
【0100】
化合物(I)を生じる前駆体(10)の酸化的カップリング反応は、下記のように行った:クロロベンゼン5mlを溶媒とする前駆体(10)の溶液を、50mLの反応フラスコ中の、FeCl3 0.4g及びクロロホルム2mlの混合液にゆっくり添加した。得られた混合液を、40℃で1時間、その後室温で16時間、最後に50℃で7時間攪拌した。反応混合液を室温に冷却した後、これをジクロロメタン50mlに注ぎ、水で洗浄した。有機相を分離し、7.5%アンモニア水溶液200mlと共に30分間攪拌した。有機相を、水で再度洗浄し、その後攪拌しているメタノールに注いだ。沈殿した生成物を、濾過により収集し、真空下で一晩、室温で乾燥した。化合物(I)は、ヘキサン:塩化メタンの容積比95:5からなる溶離溶媒システムを用い、シリカゲル上のカラムクロマトグラフィーにより、粗生成物を単離し、イソプロパノールから再結晶し、赤色結晶を収率52%で得、これは融点78.7℃であった。
【0101】
1H-NMR(CDCl3, ppm):δ7.21-6.95(m, 14H) δ2.83-2.76(m, 8H), δ 1.77-1.60 (m, 8H)、1.50-1.14(bs, 72H)、0.97-0.85(m, 12H)。13C NMR(CDCl3, ppm):δ 140.98, 140.32, 137.23, 137.09, 135.84, 135.36, 135.27, 130.53, 129.89, 127.02, 126.94, 126.74, 124.28, 32.33, 31.07, 30.86, 30.10, 30.08, 30.01, 29.93, 29.87, 29.77, 29.68, 23.10, 14.53。
【0102】
(ii)装置製作及び評価
図1に概略的に図示したボトム-コンタクト型薄膜トランジスタ構造を、試験装置配置として使用した。試験装置は、ガラス基板の上に、一連の光リソグラフィー法により予め型押しされたトランジスタ誘電体層並びに指定されたチャネル幅及び長さを伴う電極で構成された。ゲート電極は、厚さ約80nmのクロムで構成された。絶縁層は、約22nF/cm2(ナノファラッド/平方センチメートル)の静電容量を持っている厚さ300nmの窒化ケイ素であった。該絶縁層の表面には、厚さ約100nmの金で構成されたソース接合及びドレイン接合が、真空蒸着によって被覆されていた。次に厚さ約50nm〜100nmの半導体層が、化合物(I)の1質量%クロロホルム溶液のスピン・コーティングにより沈着された。スピン・コーティングは、1,000rpmのスピニング速度で約35秒間かけて達成した。得られた被覆された装置は、真空中、60℃で20時間乾燥し、その後直ぐに評価した。
【0103】
トランジスタ性能の評価は、Keithley 4200 SCS半導体特徴決定システムを使用し、周囲条件下で、ブラックボックス内で行った。担体移動度(μ)は、式(1)に従い、飽和様式(saturated regimen)(ゲート電圧(VG)<ソース電圧-ドレイン電圧(VSD))において、データから算出した。
ISD=Ciμ(W/2L)(VG-VT)2 (1)
ここで、ISDは、飽和様式でのドレイン電流であり、W及びLは、各々、半導体チャネルの幅及び長さであり、Ciは絶縁層の単位面積あたりの静電容量であり、並びにVG及びVTは、各々、ゲート電圧及び閾値電圧である。装置のVTは、ISD=0まで測定データを外挿することにより、飽和様式でのISDの平方根と装置のVGの間の相関関係から決定した。
【0104】
薄膜トランジスタの重要な性質は、蓄積様式のソース-ドレイン電流の空乏様式のソース-ドレイン電流に対する比である、その電流オン/オフ比である。
【0105】
寸法W=1,000μm及びL=5μmの、少なくとも5個の薄膜トランジスタを、作製した。下記特性が得られた:
移動度:1.0-4.5×10-3 cm2/V.s
電流オン/オフ比:102-104
【実施例2】
【0106】
(i)小分子チオフェン化合物(II)の合成
クロロホルム15mlを溶媒とする実施例1において調製したような前駆体(10)0.5g溶液を、100mLの反応フラスコ中の、FeCl3 0.5g及びクロロホルム5mlの混合液に添加した。反応混合液は、40℃で6時間攪拌し、この間に反応生成物の沈殿のために、反応混合液の粘度は上昇したことが認められた。引き続き反応混合液を、室温で42時間攪拌し、その後ジクロロメタン100mlで希釈し、水で洗浄した。有機相を分離し、7.5%アンモニア水溶液150mlと共に30分間攪拌した。その後この混合液を、水で洗浄し、その後攪拌しているメタノール500mlに注いだ。沈殿した生成物を、塩化メチレンにより、ソックスレー抽出器を用い精製し、その後メタノールから沈殿し、濾過により分離し、真空下で一晩、室温で乾燥した。化合物(II)は、ヘキサン:塩化メチレンの容積比95:5からなる溶離溶媒システムを用い、シリカゲル上のカラムクロマトグラフィーにより、粗生成物から分離し、イソプロパノールからの再結晶により更に精製し、紫赤色結晶を収率40%で得、これは融点67.2℃であった。
【0107】
1H-NMR(CDCl3, ppm):δ 7.21-6.96(m, 20),δ2.83-2.77(m, 12H), δ1.80-1.60(m, 12H), 1.50-1.20(bs, 108H), 0.92-0.85(t, 18H)。13C NMR(CDCl3, ppm):δ141.00, 140.31, 137.23, 137.09, 135.84, 135.48, 135.36, 135.30, 135.26, 130.70, 130.52, 129.91, 129.88, 127.03, 126.94, 126.73, 124.37, 124.30, 124.28, 32.34, 31.07, 30.86, 30.09, 30.02, 29.96, 29.94, 29.88, 29.78, 29.69, 23.11, 14.54。
【0108】
(ii)装置製作及び評価
図3に概略的に図示した表面-接触型薄膜トランジスタ構造を、試験装置配置として使用した。この装置は、その上に厚さ約110nmの熱により成長する酸化ケイ素層を伴う、n-ドープされたシリコン・ウエハーで構成された。このウエハーはゲート電極として作用する一方で、酸化ケイ素層はゲート誘電体として作用し、並びに約32nF/cm2(ナノファラッド/平方センチメートル)の静電容量を有した。このシリコン・ウエハーは最初に、アルゴンプラズマ、メタノールで洗浄し、風乾し、その後トルエンを溶媒とする0.1M 1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン溶液中に、室温で約10分間浸漬した。引き続き、このウエハーをトルエン、メタノールで洗浄し、風乾した。厚さ約30nm〜約100nmの試験半導体層が、化合物(II)の2質量%クロロホルム溶液の、約35秒の間の速度1,000rpmでのスピン・コーティングにより、酸化ケイ素誘電体層の表面に沈着され、その後真空中、60℃で20時間乾燥した。
【0109】
この装置を、実施例1の手法に従い評価した。寸法W=5,000μm及びL=90μmの、少なくとも5個の薄膜トランジスタを、作製した。下記特性が得られた:
移動度:0.9-3.2×10-3 cm2/V.s
電流オン/オフ比:103-104
【実施例3】
【0110】
(i)小分子チオフェン化合物(V)の合成
化合物(V)は、反応式2で表される合成経路に沿って調製した:
【化22】

【0111】
アルゴン大気下でトルエン(20ml)を溶媒とする1,4-ベンゼンビス(ピナコールボロネート) (11)(0.1092g, 0.331mmol)及びモノブロモ-5,5'-ビス(3-ドデシル-2-チエニル)-2,2'-ジチオフェン(12)(0.5160, 0.692mmol)の混合液に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)-パラジウム(0.020g, 0.017mmol)、Aliquat336(5mlトルエン中0.2g)及び2M炭酸ナトリウム水溶液(2ml, 4mmol)を添加した。その後この混合液を、100℃で24時間攪拌した。反応後、混合液を、トルエン(100ml)で希釈し、水で洗浄し、MgSO4で乾燥した。溶媒を除去し、粗生成物(V)を、ヘキサン:塩化メチレンの容積比80:20からなる溶離液溶媒システムを使い、シリカゲルの上でのカラムクロマトグラフィーによって単離し、更にヘキサン及びジクロロメタン(容積比50:50)から結晶化により精製し、橙色結晶を、収率71%で得、これは融点90.8℃であった。
【0112】
1H-NMR(CDCl3, ppm):δ 7.25-6.90(m, 14H)、δ 2.83-2.76(m, 8H)、δ 1.75-1.60(m, 8H)、1.41-1.20(bs, 72H)、0.89-0.81(t, 12H)。13C NMR(CDCl3, ppm):δ141.79, 141.27, 140.31, 137.19, 137.14, 135.81, 135.62, 135.50, 133.50, 130.70, 130.50, 126.94, 126.74, 126.61, 126.62, 124.30, 124.27, 32.34, 31.07, 30.97, 30.08, 30.02, 29.94, 29.88, 29.88, 29.78, 29.68, 23.11, 14.53。
【0113】
(ii)装置製作及び評価
化合物(I)の代わりに化合物(V)を使用した以外は、実施例1に示したようなボトム-コンタクト型薄膜トランジスタ構造を用いた。この装置は、最初に真空炉において60℃で20時間乾燥し、その後評価した。寸法W=1,000μm及びL=5μmの、少なくとも5個の薄膜トランジスタを、作製した。下記特性が得られた:
移動度:0.7-1.6×10-3 cm2/V.s
電流オン/オフ比:102-103
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は、薄膜トランジスタの形における本発明の第1の実施態様を表す。
【図2】図2は、薄膜トランジスタの形における本発明の第2の実施態様を表す。
【図3】図3は、薄膜トランジスタの形における本発明の第3の実施態様を表す。
【図4】図4は、薄膜トランジスタの形における本発明の第4の実施態様を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応媒体、カップリング剤、及び前駆体を含有する反応混合物を、カップリング温度に曝し、一工程合成で所望の小分子チオフェン化合物を優先的に形成することを含む方法であって、
前記前駆体は:
(i)任意の二価結合、及び
(ii)各チオフェン単位が構造(A):
【化1】

(式中、各チオフェン単位は、第2の環位置及び第5の環位置のいずれか又は両方で結合され、
ここでmは、0、1又は2であり、
ここで各チオフェン単位は、置換基の数、置換基の同一性、及び置換基の位置に関して、互いに同じであるか又は異なり、
ここで各R1は:
(a)炭化水素基、
(b)ヘテロ原子を含む基、及び
(c)ハロゲン、
からなる群から独立して選択される。)
によって表される、複数のチオフェン単位、
からなる、前記方法。
【請求項2】
前記前駆体が、
【化2】

【化3】

(式中、各Rは、炭化水素基、ヘテロ原子を含む基、及びハロゲンから独立して選択される。)
又はこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
反応媒体、カップリング剤、及び前駆体を含有する反応混合物を、カップリング温度に曝し、一工程合成で所望の小分子チオフェン化合物を優先的に形成することを含む方法であって、前記反応混合物中に沈殿が自然に生成し、該沈殿は、所望の小分子チオフェン化合物を含有し、
前記前駆体は:
(i)任意の二価結合、及び
(ii)各チオフェン単位が構造(A):
【化4】

(式中、各チオフェン単位は、第2の環位置及び第5の環位置のいずれか又は両方で結合され、
ここでmは、0、1又は2であり、
ここで各チオフェン単位は、置換基の数、置換基の同一性、及び置換基の位置に関して、互いに同じであるか又は異なり、
ここで各R1は:
(a)炭化水素基、
(b)ヘテロ原子を含む基、及び
(c)ハロゲン、
からなる群から独立して選択される。)
によって表される、複数のチオフェン単位、
からなる、前記方法。
【請求項4】
前記前駆体が、
【化5】

【化6】

(式中、各Rは、炭化水素基、ヘテロ原子を含む基、及びハロゲンから独立して選択される。)
又はこれらの混合物からなる群から選択される、請求項3記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−8679(P2006−8679A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163733(P2005−163733)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】